説明

新規糖鎖プライマーとその利用

【課題】CS型およびHS型のGAGを伸張させる新規糖鎖プライマーの提供。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物を、糖鎖プライマーとする。式(I);Xyl−Am−L−R−X(式中、Amは、ヒドロキシル基を有するアミノ酸、または、前記アミノ酸中のカルボキシル基が、カルバミル基で置換されているアミノ酸誘導体であり;Lは、−C(O)−、または、−NH−であり;Rは、炭素主鎖の炭素数が6から20であるアルキル基、または、前記アルキル基中の一部の−CH2-CH2−が、−S-S−、−NHCO−、または、−CH=CH−で置換されているアルキル基誘導体であり;Xは、−H、−N3、−NH2、−OH、−SH、−CO2H、−OC(O)CH=CH2、および、−CH=CH2からなる群から選択される基であって;Xyl−Am結合は、アセタール結合、または、エーテル結合を形成する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規糖鎖プライマー、および、新規糖鎖プライマーの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖プライマー法を用いて動物細胞で糖鎖を合成するには、糖鎖伸長の前駆体の構造を模倣した糖鎖プライマーが必要である。これまでに、Lac-C12(例えば、非特許文献1を参照)、GlcNAc-C12(例えば、非特許文献2を参照)、GalNAc-Thr-C12(例えば、特許文献1を参照)という3種類の糖鎖プライマーが用いられており、それぞれが異なる糖鎖を得る目的で設計されている。Lac-C12を用いた場合には、多種類の糖脂質型糖鎖が伸長する。同様に、GlcNAc-C12を用いた場合には、ラクト/ネオラクト系列の糖鎖が伸長し、GalNAc-Thr-C12を用いた場合には、糖タンパク質のO-結合型糖鎖が伸長する。
【0003】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−117918号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y.Miura and T. Yamagata, Biochem. Biophys. Res. Commun. 241, 698-703 (1997)
【非特許文献2】T. Sato, M. Takashiba, R. Hayashi, X. Zhu, T. Yamagata, Carbohydr. Res. 343, 831-838 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生体において広く存在しており、その機能が注目されているコンドロイチン硫酸(CS)型のグリコサミノグリカン鎖(GAG、−{4GlcAβ1−3GalNAc(6S)β1}n−)や、へパラン硫酸(HS)型の(GAG、−{3GlcAβ1−4 GlcNAc(6S)α1}n−)を得るためには、新たな糖鎖プライマーが必要である。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、多種類の、CS型および/またはHS型のGAGを伸張させる新規糖鎖プライマーと、この新規糖鎖プライマーの使用方法とを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者等は、新規糖鎖プライマーとして下記一般式(I)で表される化合物を見出し、この新規糖鎖プライマーを糖鎖合成細胞に投与することによって、多種類の、CS型および/またはHS型のGAGを合成できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、下記一般式(I)で表される化合物である。
式(I);Xyl−Am−L−R−X
(式中、Amは、ヒドロキシル基を有するアミノ酸、または、前記アミノ酸中のカルボキシル基が、カルバミル基で置換されているアミノ酸誘導体であり;
Lは、−C(O)−、または、−NH−であり;
Rは、炭素主鎖の炭素数が6から20であるアルキル基、または、前記アルキル基中の一部の−CH2-CH2−が、−S-S−、−NHCO−、または、−CH=CH−で置換されているアルキル基誘導体であり;
Xは、−H、−N3、−NH2、−OH、−SH、−CO2H、−OC(O)CH=CH2、および、−CH=CH2からなる群から選択される基であって;
Xyl−Am結合は、Xylのヒドロキシル基とAmのヒドロキシル基との間で、アセタール結合、または、エーテル結合を形成し;
Am−L結合は、Amのカルボキシル基とLの−NH−との間で、または、Amのアミノ基またはカルバミル基とLの−C(O)−との間で、アミド結合を形成する。)
【0009】
前記ヒドロキシル基を有するアミノ酸が、SerまたはThrであることが好ましい。
【0010】
Xyl−Am結合は、Xylの1位のヒドロキシル基とAmのヒドロキシル基との間で、アセタール結合を形成していることが好ましい。
【0011】
また、前記一般式(I)で表される化合物は、下記化学式(II)〜(V)から選択される化合物であっても良い。
【化2】

【0012】
上述したこれらの化合物は、細胞内で糖鎖を合成するための糖鎖プライマーとして用いることができる。
【0013】
これらの糖鎖プライマーを糖鎖合成細胞に投与することによって、糖鎖を合成することができる。なお、本明細書において「糖鎖合成細胞」とは、糖鎖生合成経路を有している細胞のことをいい、その細胞の種類は特に限定されない。
【0014】
前記糖鎖合成細胞が、CHO細胞であっても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、新規糖鎖プライマーと、この新規糖鎖プライマーの使用方法とを、提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施例における、Xyl-Ser-C12のMALDI TOF/MS測定結果を示す。
【図2】一比較例における、Xyl-C12のMALDI TOF/MS測定結果を示す。
【図3】一比較例における、Fucα-Thr-C11のMALDI TOF/MS測定結果を示す。
【図4】一実施例における、CHO細胞にXyl-Ser-C12を投与して得られた中性糖のEIC及びMS測定結果を示す。
【図5】一実施例における、CHO細胞にXyl-Ser-C12を投与して得られた酸性糖のEIC及びMS測定結果を示す。
【図6】一比較例における、CHO細胞にXyl-C12を投与して得られた酸性糖のEIC及びMS測定結果を示す。
【図7】一比較例における、CHO細胞にXyl-pNPを投与して得られた中性糖のEIC及びMS測定結果を示す。
【図8】一比較例における、CHO細胞にXyl-pNPを投与して得られた酸性糖のEIC及びMS測定結果を示す。
【図9】一実施例における、β-ガラクトシダーゼによる酵素処理の、HPTLCの結果を示す。
【図10】一実施例における、β-ガラクトシダーゼによる酵素処理の、LC-MS/MSの結果を示す。
【図11】一実施例における、各種糖鎖プライマーを投与した場合の、細胞増殖の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾した方法や改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾した方法や改変した方法に加えて、それらに添付のプロトコールを用いる。
なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0018】
==糖鎖プライマーとなる化合物==
本発明に係る糖鎖プライマーは、下記一般式(I)で表される化合物である。
式(I);Xyl−Am−L−R−X
(式中、Amは、ヒドロキシル基を有するアミノ酸、または、前記アミノ酸中のカルボキシル基が、カルバミル基で置換されているアミノ酸誘導体であり;
Lは、−C(O)−、または、−NH−であり;
Rは、炭素主鎖の炭素数が6から20であるアルキル基、または、前記アルキル基中の一部の−CH2-CH2−が、−S-S−、−NHCO−、または、−CH=CH−で置換されているアルキル基誘導体であり;
Xは、−H、−N3、−NH2、−OH、−SH、−CO2H、−OC(O)CH=CH2、および、−CH=CH2からなる群から選択される基であって;
Xyl−Am結合は、Xylのヒドロキシル基とAmのヒドロキシル基との間で、アセタール結合(−O−C−O−)、または、エーテル結合(−O−)を形成し;
Am−L結合は、Amのカルボキシル基とLの−NH−との間で、または、Amのアミノ基またはカルバミル基とLの−C(O)−との間で、アミド結合(−NHCO−)を形成する。)
【0019】
Xylは、D−キシロースである。
【0020】
【化3】

【0021】
前記ヒドロキシル基を有するアミノ酸の種類は特に限定されないが、入手が容易であることからαアミノ酸であることが好ましく、さらに、生体のタンパク質を構成するアミノ酸である、セリン(Ser)またはスレオニン(Thr)であることがより好ましい。
ヒドロキシル基を有するアミノ酸の立体構造は特に限定されず、L体であっても、D体であっても、また、これらエナンチオマーの混合物であっても良いが、L体であることが好ましい。複数の不斉点を持つ、ヒドロキシル基を有するアミノ酸にあっては、L体であっても、D体であっても、ジアステレオマーであっても良く、また、これらエナンチオマーの混合物、ジアステレオマーの混合物、または、エナンチオマーとジアステレオマーとの混合物であっても良いが、L体であることが好ましい。
例えば、Serの場合には、L−Serであっても、D−Serであっても、また、L−SerとD−Serとの混合物(例えば、ラセミ体のSer)であっても良いが、L−Serであることが好ましい。Thrの場合には、L−Thr((2S,3R)-Thr)であっても、D−Thr((2R,3S)-Thr)であっても、(2S,3S)-Thrであっても、(2R,3R)-Thrであっても良く、また、L−ThrとD−Thrとの混合物(例えば、ラセミ体のThr)であっても、(2S,3S)-Thrと(2R,3R)-Thrとの混合物であっても、L−Thrおよび/またはD−Thrと(2S,3S)-Thrおよび/または(2R,3R)-Thrとの混合物であっても良いが、L−Thrであることが好ましい。
【0022】
前記炭素主鎖の炭素数が6から20であるアルキル基は特に限定されず、直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であっても良い。また、前記炭素数は、6から20であれば特に限定されないが、8から16であることが好ましく、10から14であることが特に好ましい。
【0023】
Xyl−Am結合は、Xylのいずれのヒドロキシル基とAmのヒドロキシル基との間で、アセタール結合、または、エーテル結合を形成しても良いが、Xylの1位のヒドロキシル基とAmのヒドロキシル基との間でアセタール結合を形成していることが好ましい。
【0024】
一般式(I)で表される化合物は、下記化学式(II)〜(V)から選択される化合物であっても良い。なお、化学式(II)で表わされる化合物を、以下、Xyl-Ser-C12とも称する。
【0025】
【化4】

【0026】
これらの化合物の使用方法は、特に限定されないが、例えば、糖鎖プライマーとして用いることが好ましい。
【0027】
==糖鎖プライマーとなる化合物の製造方法==
上述の化合物は、当業者に公知の技術を用いて合成することができる。
例えば、Nα−ラウリル−O−(β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミド(以下、Xyl-Ser-C12と称する)は、D−キシロースから次の方法で合成することができる。
【0028】
まず、D−キシロースに、無水酢酸と酢酸ナトリウムとを作用させることによって、テトラアセチル体へと変換する。テトラアセチル体に、ピペリジンと酢酸とを作用させることによって、1位の水酸基を選択的に遊離の状態にする。
このようにして調製した2,3,4−トリ−O−アセチル−D−キシロピラノースにおける遊離の1位の水酸基に、トリクロロアセトニトリルを作用させることによって、トリクロロアセトイミデートへと変換する。トリクロロアセトイミデートに、CbZ-L-Ser-NH2とBF3・Et2Oとを作用させた後、引続き、TMSOTfで処理することによって、Nα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミドが調製できる。なお、例えば、CbZ-L-Ser-NH2の代わりに、構造または立体構造が異なる、ヒドロキシル基を有するアミノ酸またはヒドロキシル基を有するアミノ酸誘導体を用いることによって、Nα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−アミノ酸、または、Nα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−アミノ酸−アミドを調製できる。
【0029】
得られたNα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミドのCbz基を、水素添加によって脱保護した後に、遊離の状態となったアミノ基に、TEA、EDCおよびHOBtの存在下でラウリン酸を作用させる。最後に、ナトリウムメトキシドを作用させ、アセチル基を脱保護することによって、Xyl-Ser-C12を合成することができる。なお、例えば、ラウリン酸の代わりに、炭素数が異なる飽和脂肪酸や、飽和脂肪酸の一部の−CH2-CH2−が、−S-S−、−NHCO−、または、−CH=CH−で置換されている飽和脂肪酸誘導体、または、これら飽和脂肪酸または飽和脂肪酸誘導体の、カルボキシル基とは反対側の末端の−Hが、−N3、−NH2、−OH、−SH、−CO2H、−OC(O)CH=CH2、および、−CH=CH2からなる群から選択される基で置換されている誘導体を作用させることによって、Xyl-Ser-飽和脂肪酸、Xyl-Ser-飽和脂肪酸誘導体、または、Xyl-Ser-飽和脂肪酸または飽和脂肪酸誘導体の上記誘導体、を合成することができる。
【0030】
==糖鎖の合成方法==
本発明に係る糖鎖プライマーとなる化合物を、糖鎖合成細胞に投与することによって、多種類のCS型および/またはHS型のGAG糖鎖を効率よく合成することができる。
【0031】
糖鎖合成細胞は、特に限定されないが、例えば、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、および、酵母等の糖鎖合成系を有する真核細胞であっても良いが、培養細胞であることが好ましい。
培養細胞は、初代培養細胞であっても、株化された培養細胞であってもよく、培養条件下で培養された細胞であればあらゆる細胞が含まれ、培養回数・培養時間・トランスファー回数などによって限定されることはない。株化された培養細胞としては、例えば、サル腎臓細胞COS7、ヒト白血病由来細胞HL60、イヌ腎臓細胞MDCK、および、チャイニーズハムスター卵巣細胞株CHOなどが挙げられるが、CHO細胞であることが好ましい。なお、ここで「CHO細胞」とは、チャイニーズハムスターの卵巣組織から分離された細胞株(ATCC番号CCL-61)、または、この細胞株に遺伝子操作を施すことによって得られた細胞株のことをいう。
【0032】
糖鎖プライマーとなる化合物を糖鎖合成細胞に投与する方法は、特に限定されないが、例えば、少量のDMSOなどの溶媒に溶解させた糖鎖プライマーとなる化合物を、糖鎖合成細胞を培養するための培地中に添加することによって、投与しても良い。
このようにして添加した糖鎖プライマーは、糖鎖合成細胞を培養している間に、糖鎖合成細胞に取り込まれる。そして、取り込まれた糖鎖プライマーに糖が付加されることによって、多種類の、CS型および/またはHS型のGAGが培養液中に産生される。この結果、多種類のCS型および/またはHS型のGAG糖鎖を効率よく合成することができる。
培養液中に産生されたGAG糖鎖は、例えば、レクチンカラムや市販の糖鎖精製キットなど、当業者に公知の方法を用いることによって、容易に精製することができる。
【0033】
なお、合成する糖鎖の種類を増やしたい場合には、用いる糖鎖プライマーの種類や糖鎖合成細胞を増やすことで、糖鎖プライマーと糖鎖合成細胞との組合せを増やせば良い。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0035】
[実施例1]Xyl-Ser-C12の合成
本発明に係る糖鎖プライマーとして、Xyl-Ser-C12を、Scheme1に示す方法で合成した。
【0036】
【化5】

各工程の具体的な方法は、以下の通りである。
【0037】
[実施例1−1]1,2,3,4-tetra-O-acetyl-β-D-xylopyranose(1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−キシロピラノース)の合成
【0038】
【化6】

【0039】
酢酸ナトリウム6.56 g(1.2 eq, Wako)と無水酢酸94 mL(Wako)を2口ナスフラスコに加えた。この2口ナスフラスコを油浴に入れ、150℃で加熱還流を開始した。酢酸ナトリウムが溶解したことを確認した後、D−キシロース 10.0 g(1 eq, Aldrich)を少しずつ加え、D−キシロースのアセチル化反応を開始した。
D−キシロースを加えてから20分後に、TLC分析で反応の終了を確認し、2口ナスフラスコ内の反応物を、砕いた氷を入れたビーカーに移して一晩氷冷した。翌日、析出した結晶を吸引濾過によって回収し、まず冷水で結晶を洗った後、引続き冷エタノールとジエチルエーテルとによる有機溶媒置換を行い、さらにデシケータ内で乾燥させた。2日後、結晶をナスフラスコに取り、最小限のエタノールを加えて、100℃で加熱還流しながら溶解させた。結晶が溶解した後に加熱を止め、室温で徐々に冷却することによって沈殿を生じさせた(再結晶法)。濾過により沈殿物を回収し、目的物である1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−キシロピラノースを得た。さらに、濾過の際に生じた濾液について、定法に従って再結晶を2回繰り返すことによって、1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−キシロピラノースを回収した(総収量:8.48 g、総収率:40.0%)。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0040】
1H-NMR(CDCl3
δ5.72(d、J1,2=6.9、1H、H-1)、5.20(dd、J3,4=8.2、J2,3=8.3、1H、H-3)、5.04(dd、J1,2=6.9、J2,3=8.3、1H、H-2)、4.98(ddd、J3,4=6.9、J4,5a=5.5、J4,5b=8.3、1H、H-4)、4.15(dd、J4,5a=5.5、J5a,5b=12.3、1H、H-5a)、3.53(dd、J4,5b=8.3、J5a,5b=12.3)、2.11(s、3H、Acetyl)、2.06(s、9H、Acetyl)
【0041】
[実施例1−2]2,3,4-tri-O-acetyl-D-xylopyranose(2,3,4−トリ−O−アセチル−D−キシロピラノース)の合成
【0042】
【化7】

【0043】
実施例1−1で合成した1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−キシロピラノース636.6 mg(1 eq)をTHF14 mLに溶解した後、酢酸482μL(4.2eq、Wako)を加えた。しばらく撹拌して均一にした後、ピペリジン790μL(4 eq、Applied Biosystems)を加えることによって、室温で反応を開始した。反応開始後に、THF14 mLを追加して、懸濁状態で一晩撹拌した。
翌日、反応液に沈殿物はなくなっており、TLC分析で反応の終了を確認した。酢酸エチルを用いて、反応液を分液ロートに移し、H2Oで1回、1N HClで1回、飽和NaHCO3で1回分液操作を行い、有機層を回収した。また、1N HClで分液操作をした際の水層をTLCにチャージして展開したところ、生成物のスポットが確認されたため、この水層に酢酸エチルを加えて洗い込みを3回行い、有機層を回収した。以上の分液操作で得られた有機層を全てまとめ、MgSO4(Wako)で脱水した。吸引濾過によりMgSO4を除き、溶媒を減圧留去した。得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Silica Gel 60N、国産; 37565-84、2.5 cmφ×15 cm、Hexane/AcOEt=1/1)で行った。この結果、目的物である2,3,4−トリ−O−アセチル−D−キシロピラノース(収量:400 mg、収率:72.4%)を、α体とβ体との混合物として得た。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0044】
1H-NMR(CDCl3
α体:δ5.53-5.50(dd、J2,3=9.62、J3,4=8.94、1H、H-3)、5.40-5.39(dd、J1,2=3.43、1H、H-1)、5.01-4.95(dd、m、1H、H-4)、4.87-4.84(dd、J1,2=3.43、J2,3=9.62、1H、H-2)、3.90-3.87(dd、J4,5a=10.31、Jgem=11.00、1H、H-5a)、3.84-3.81(dd、J4,5e=5.50、Jgem=11.00、1H、H-5e)、2.90(m、1H、OH)、2.10-2.05(s、9H、acetyl)
β体:δ5.26-5.23(dd、J2,3=9.62、J3,4=8.94、1H、H-3)、5.01-4.95(m、1H、H-4)、 4.84-4.81(dd、J1,2=7.56、J2,3=9.62、1H、H-2)、4.70-4.67(dd、J1,2=7.56、1H、H-1)、4.16-4.13(dd、J4,5e=5.50、Jgem=11.69、1H、H-5e)、3.47-3.46(m、1H、-OH)、3.40-3.36(dd、J4,5a=10.31、Jgem=11.69、1H、H-5a)、2.10-2.05(s、9H、acetyl)
【0045】
[実施例1−3]2,3,4-tri-O-acetyl-D-xylopyranosyl-trichloroacetoimidate(2,3,4−トリ−O−アセチル−D−キシロピラノシル−トリクロロアセトイミデート)の合成
【0046】
【化8】

【0047】
この合成は、Guofeng Gu, Yuguo Du, and Robert J. Linhardt.: J.Org. Chem. 2004, 69, 5497-5500を参考にして行った。
実施例1−2で合成した2,3,4−トリ−O−アセチル−D−キシロピラノース300 mg(1 eq)を2口フラスコに入れてアルゴン置換した後、脱水ジクロロメタン4.2 mLとトリクロロアセトニトリル871μL(8 eq、東京化成)とを加え、氷浴で冷却した。冷却後、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン)162μL(1 eq、Wako)を加えることによって、反応を開始した。反応を開始してから1時間後に、TLC分析で原料がほぼ消失したのを確認した。完全に反応を進行させるために、反応系を室温に戻した。反応系を室温に戻してから3時間後の反応溶液をTLC分析により確認した後、溶媒を減圧留去して反応を終了した。
得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2.5 cmφ×15 cm、0.1%TEA含有Hexane/AcOEt=2/1溶液)で行った。この結果、目的物である2,3,4−トリ−O−アセチル−D−キシロピラノシル−トリクロロアセトイミデート(収量:363 mg、収率:79.5%)を、α体とβ体との10:1混合物として得た。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0048】
1H-NMR(CDCl3)(α体)
δ8.72-8.66(s、1H、C=NH)、6.49-6.48(d、J1,2=3.44、1H、H-1)、5.59-5.56(dd、J2,3=10.31、J3,4=9.62、1H、H-3)、5.10-5.08(dt、J3,4=9.62、J4,5a=11.00、J4,5e=5.50、1H、H-4)、5.07-5.06(dd、J1,2=3.44、J2,3=10.31、1H、H-2)、4.00-3.97(dd、J4,5e=5.50、Jgem=11.00、1H、H-5e)、3.83-3.80(dd、J4,5a=11.00、Jgem=11.00、1H、H-5a)、2.14-2.02(s、9H、acetyl)
【0049】
[実施例1−4]Nα-Benzyloxycarbonyl-O-(2,3,4-tri-O-acetyl-β-D-xylopyranosyl)-L-serine-amido(Nα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミド)の合成
【0050】
【化9】

【0051】
この合成は、Katie J. Doores and Benjamin G. Davis.: Chem. Commun., 2005, 168-170を参考にして行った。
実施例1−3で合成した2,3,4−トリ−O−アセチル−D−キシロピラノシル−トリクロロアセトイミデート100 mg(0.238 mmol、1 eq)と、CbZ-L-Ser-NH268 mg(渡邊工業化学、1.2 eq)とを2口ナスフラスコに入れ、真空乾燥後にアルゴン置換した。脱水アセトニトリル7 mLを加えた後、−20℃に反応系を冷却した。BF3・Et2O2.9μLを滴下することによって、反応を開始した。
170分後、トリエチルアミンをパスツールピペットで1滴反応系に加え、反応を停止させた。反応混合物をセライト濾過し、得られた濾液に対して、NaHCO3で3回分液操作を行い、Na2SO4で一晩乾燥させた。翌日、綿栓ろ過によって、Na2SO4を除き、溶媒を減圧留去した。得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2.5 cmφ×15 cm、Hexane/AcOEt=2/5)で行った。この結果、中間体であるオルトエステル体を得た(収量:44 mg、収率:37.2%)。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0052】
1H-NMR(CD3OD)
δ7.36(m、5H、Cbz・C6H5)、5.54-5.55(d、J1,2=4.12、1H、H-1)、5.15-5.17(dd、J3,4=2.75、1H、H-3)、5.07-5.14(m、2H、Cbz・CH2)、4.76-4.78(dd、J3,4=2.75、J4,5a=4.81、J4,5e=6.87、1H、H-4)、4.29-4.31(dd、J6a,7=4.12、J6b,7=5.56、1H、H-7)、4.25(m、1H、H-2)、3.87-3.90(dd、J4,5a=4.81、Jgem=12.37、1H、H-5a)、3.79-3.81(dd、J6a,7=4.12、Jgem=9.62、1H、H-6a)、3.73-3.76(dd、J6b,7=4.12、Jgem=9.62、1H、H-6b)、3.65-3.68(dd、J4,5e=6.87、Jgem=12.37、1H、H-5e)、1.98-2.07(m、9H、-OAc)、1.66(s、3H、-Me)
【0053】
このようにして得られたオルトエステル体を用いて、引続き、TMSOTfによる異性化反応を行った。
オルトエステル体40 mg(0.081 mmol、1 eq)を2口ナスフラスコに加え、アルゴン置換した後に、ジクロロメタン2.0 mLを加えることによって均一な溶液とした。氷冷下で、TMSOTf22μL(0.4 eq)を加えることによって、反応を開始した。
翌日、反応混合物に対して、NaHCO3で3回分液操作を行い、Mg2SO4で乾燥した。吸引濾過によりMgSO4を除き、溶媒を減圧留去した。得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2.5 cmφ×15 cm、Hexane/AcOEt=1/3)で行った。この結果、目的物であるNα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミド(収量:12.6 mg、収率:31.5%)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0054】
1H-NMR(CDCl3
δ7.36(m、5H、Cbz・C6H5)、6.30(s、1H、NH2)、5.68-5.70(d、JCH,NH=6.19、1H、Ser・NH)、5.47(s、1H、NH2)、5.16-5.19(dd、J2,3=8.25、J3,4=8.94、1H、H-3)、5.12(m、2H、Cbz・CH2)、4.94-4.96(ddd、J3,4=8.94、J4,5a=6.19、J4,5e=10.31、1H、H-4)、4.90-4.93(dd、J1,2=6.19、J2,3=8.25、1H、H-2)、4.53-4.54(d、J1,2=6.19、1H、H-1)、4.41(m、J6a,7=3.44、1H、H-7)、4.17-4.20(dd、J6a,7=3.44、Jgem=10.31、1H、H-6a)、4.11-4.14(J4,5a=6.19、Jgem=10.31、1H、H-5a)、3.66-3.69(dd、Jgem=10.31、1H、H-6b)、3.36-3.40(dd、J4,5e=10.31、Jgem=10.31、1H、H-5e)、2.03-2.05(s、9H、-OAc)
【0055】
[実施例1−5]Nα-Lauryl-O-(2,3,4-tri-O-acetyl-β-D-xylopyranosyl)-L-serine-amido(Nα−ラウリル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミド)の合成
【0056】
【化10】

【0057】
実施例1−4で合成したNα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミド50 mg(0.100 mmol)をTHF10 mLとEtOH5 mLとの混合溶媒に溶解した後、Pd-C200 mg(Palladium 10wt% on activated carbon, Aldrich 205699-50G)を加えて撹拌した。Pd-Cは発火しないように、EtOHに懸濁しながら加えた。この溶液中に、水素発生装置(GL Sciences社製 HYDROGEN GENERATOR(HG-2500))を用いてH2をバブリングすることで、Cbz基の脱保護を行った。
バブリングを開始してから20分後にTLC分析で原料の消失を確認し、バブリングを止めて反応を終了した。遊離の状態になったアミノ基を塩酸塩の状態にするために、4M-Hydrogen chloride in 1,4-Dioxane(国産化学、E35227)28μLを加えた。反応混合物をセライトろ過してPd-Cを取り除き、濾液を減圧濃縮して白色の結晶を得た。得られた化合物は、クロロホルムや酢酸エチルなどの溶媒に溶けにくかったため、カラムクロマトグラフィーによる精製は行わず、続けて次の反応に用いることにした。
【0058】
得られた白色結晶71.6 mgとラウリン酸50 mgとを、2口ナスフラスコに加えた。アルゴン置換した後に、脱水DMFを加えることによって均一な溶液とした。塩酸塩になっているアミノ基を遊離の状態にするために、トリエチルアミン44μLを加えた後に、EDC(Dojindo)とHOBt(nova biochem, 01-62-0008)とをそれぞれ38 mg、55 mg加えることによって、氷浴下で反応を開始した。
翌日、TLC分析で原料の消失を確認した後に、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をクロロホルムに溶解し、H2Oで2回分液操作を行った。有機層をNa2SO4で脱水後、吸引濾過によりNa2SO4を取り除き、溶媒を減圧留去した。このようにして得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2.5 cmφ×15 cm、Hexane/AcOEt=1/20)で行った。この結果、目的物であるNα−ラウリル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミド(収量:35.4 mg、収率:41.1%)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0059】
1H-NMR(CDCl3
δ6.32-6.34(d、JCH,NH=6.78、2H、NH2、NH)、5.35(s、1H、NH2)、5.01-5.17(dd、J2,3=8.89、J3,4=9.16、1H、H-3)、4.87-4.93(ddd、J3,4=9.16、J4,5a=8.98、J4,5b=5.5、1H、H-4)、4.84-4.85(dd、J1,2=7.03、J2,3=8.86、1H、H-2)、4.53-4.61(m、1H、H-7)、4.51-4.53(d、J1,2=7.15、1H、H-1)、4.08-4.12(dd、J4,5b=5.87、Jgem=11.55、1H、H-5e)、4.03-4.08(dd、Jgem=11.00、1H、H-6a)、3.53-3.59(dd、Jgem=10.28、1H、H-6b)、3.31-3.38(dd、J4,5a=9.35、Jgem=11.73、1H、H-5a)、2.14-2.19(t、2H、-CO-CH2-)、1.93-2.00(m、9H、acetyl group)、1.47-1.62(m、2H、-CO-CH2-CH2-)、1.15-1.30(m、16H、dodecyl CH2)、0.78-0.88(t、3H、dodecyl CH3
【0060】
[実施例1−6]Nα-Lauryl-O-(β-D-xylopyranosyl)-L-serine-amido(Nα−ラウリル−O−(β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミド、Xyl-Ser-C12)の合成
【0061】
【化11】

【0062】
反応開始前に、アンバーライト119 mg(ORGANO, IR120B NA)をMilliQ水に浸し1時間撹拌して洗浄した。MilliQ水を捨てた後、今度はメタノール(nacalai)に浸して1時間撹拌し、アンバーライトの活性化を行った。
上記の操作の後、実施例1−5で合成したNα−ラウリル−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシル)−L−セリン−アミド530 mgにメタノール10 mLを加えて撹拌し、ナトリウムメトキシド/メタノール溶液をパスツールピペットで10滴加えることによって反応を開始した。
反応開始から45分後にTLC分析で原料の消失を確認し、事前に活性化しておいたアンバーライトを加えて反応系を中和した。反応混合物を綿栓濾過してアンバーライトを取り除き、溶媒を減圧留去した。得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(3.0 cmφ×25 cm、CHCl3/MeOH=6/1)で行った。この結果、目的物であるXyl-Ser-C12(化合物(II)、収量:249 mg、収率:収率:61.1%)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定、13C-NMR測定、および、MALDI TOF/MS測定によって行った。
1H-NMR測定および13C-NMR測定の結果を下記に、また、MALDI TOF/MS測定の結果を図1に示す。
【0063】
1H-NMR(CD3OD)
δ4.46-4.49(dd、JCH,CH2=4.77、1H、H-7)、4.11-4.14(d、J1,2=7.33、1H、H-1)、4.02-4.07(dd、JCH,CH2=4.77、Jgem=5.31、1H、H-6b)、3.73-3.79(dd、J5a,5b=11.36、1H、H-5b)、3.59-3.63(dd、JCH,CH2=4.76、Jgem=5.32、1H、H-6a)、3.33-3.44(m、2H、H-3、H-4)、3.06-3.13(m、J1,2=7.33、J5a,5b=11.37、2H、H-2、H-5a)、2.16-2.21(dd、2H、-CO-CH2-)、1.52(m、2H、-CO-CH2-CH2-)、1.20(m、16H、dodecyl CH2)、0.78-0.82(t、3H、dodecyl CH3
【0064】
13C-NMR(CD3OD)
δ105.35(C-1)、77.75(C-3)、77.74(C-2)、71.16(C-4)、70.61(Ser CH2)、67.06(C-5)、54.37(Ser CH)、36.93(-CO-CH2-)、33.12、30.79、30.69、30.55、30.52、30.41、23.77(dodecyl CH2)、26.81(-CO-CH2-CH2-)、14.48(dodecyl CH3
【0065】
以上の方法により、Xyl-Ser-C12を合成した。最後に、物性値としてXyl-Ser-C12の融点と旋光度とを測定した。融点の測定には、Barnstead International社製 melting-point apparatus (1201D)を、旋光度の測定には、JASCO社製 Polarimeter (P-1020)を用いた。
融点:151.9℃
旋光度:[α]D24.7=+41.2
(セル長:100 mm、温度:24.7℃、c=1.0(g/mL)、測定波長:589 nm)
【0066】
[比較例1]Xyl-C12の合成
糖鎖プライマーとしての機能をXyl-Ser-C12と比較するべく、比較例として、1−O−ドデシル−β−D−キシロピラノシド(以下、Xyl-C12と称する)をScheme2に示す方法で合成した。
【0067】
【化12】

【0068】
[比較例1−1]1-O-Dodecyl-2,3,4-tri-O-acetyl-β-D-xylopyranoside(1−O−ドデシル−2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシド)の合成
【0069】
【化13】

【0070】
まず、実施例1−1〜実施例1−3の方法に従って、D−キシロースから2,3,4−トリ−O−アセチル−D−キシロピラノシル−トリクロロアセトイミデートを調製した。
このようにして調製したトリクロロアセトイミデート351 mgを、2口フラスコに加えた。アルゴン置換をした後、脱水ジクロロメタン3.4 mLとドデカノール280μL(東京化成)とを加えて撹拌した。基質が溶解していることを確認し、モレキュラーシーブス4Aを加えて、0℃に冷却した。TMSOTf(信越化学)11.8μをL滴下することによって、反応を開始した。
2時間後にTLC分析で反応系を確認したところ、まだ原料が残っていたため反応系を室温に戻した。反応系を室温に戻してから1時間後に、TLC分析で反応を確認した後、トリエチルアミン(Wako)をパスツールピペットで数滴加えて中和することによって、反応を停止させた。反応混合物をセライト濾過してモレキュラーシーブス4Aを取り除き、濾液に対して飽和NaHCO3で3回分液操作を行った。Na2SO4で一晩脱水した後、Na2SO4を除き、溶媒を減圧留去した。得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2.5 cmφ、Hexane/AcOEt=6/1)で行った。この結果、目的物である1−O−ドデシル−2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシド(収量:154.2 mg、収率:41.6 %)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0071】
1H-NMR(CDCl3
δ5.17-5.14(dd、J2,3=8.94、J3,4=8.24、1H、H-3)、4.97-4.93(ddd、J3,4=8.24、J4,5a=8.94、J4,5e=4.81、1H、H-4)、4.93-4.90(dd、J1,2=6.87 Hz、J2,3=8.94 Hz、1H、H-2)、4.47-4.46(d、J1,2=6.87、1H、H-1)、4.13-4.10(dd、J4,5e=4.81、Jgem=11.69、1H、H-5e)、3.83-3.79(dt、Jgem=9.62、Jvic=6.87、1H、-O-CH2-)、3.47-3.43(dt、Jgem=9.62、Jvic=6.87、1H、-O-CH2-)、3.37-3.34(dd、J4,5a=8.94、Jgem=11.69、1H、H-5a)、2.05-2.04(s、9H、acetyl)、1.56-1.25(m、20H、dodecyl CH2)、0.89-0.87(t、Jvic=6.87、3H、dodecyl CH3
【0072】
[比較例1−2]1-O-Dodecyl-β-D-xylopyranoside(1−O−ドデシル−β−D−キシロピラノシド、Xyl-C12)の合成
【0073】
【化14】

【0074】
比較例1−1で合成した1−O−ドデシル−2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−キシロピラノシドをメタノール10 mL(nacalai)に溶解した後、ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(Wako)をパスツールピペットで数滴加えることによって反応を開始した。
30分後、TLC分析で原料の消失を確認した。事前に活性化しておいたアンバーライトを加えて反応系を中和し、反応を停止させた。綿栓濾過でアンバーライトを除去した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を真空乾燥することによって、目的物であるXyl-C12(収量:83 mg、収率:97.4 %)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定、および、MALDI TOF/MS測定によって行った。
1H-NMR測定の結果を下記に、また、MALDI TOF/MS測定の結果を図2に示す。
【0075】
1H-NMR(CD3OD)
δ4.15-4.18(d、J1,2=6.93、1H、H-1)、3.42-3.84(m、4H、H-3 H-4 H-5a H-5e)、3.10-3.21(dd、J1,2=6.93、1H、H-2)、1.57-1.60(m、2H、-O-CH2-)、1.28(m、18H、dodecyl CH2)、0.87-0.94(t、Jvic=6.93、3H、dodecyl CH3
【0076】
[比較例2]Fucα-Thr-C11の合成
糖鎖プライマーとしての機能をXyl-Ser-C12と比較するべく、比較例1で合成したXyl-C12の他に、Nα−ウンデカノイル−O−(α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド(以下、Fucα-Thr-C11と称する)をScheme3に示す方法で合成した。
【0077】
【化15】

【0078】
[比較例2−1]Nα-Benzyloxycarbonyl-L-threonine-amido(Nα−ベンジルオキシカルボニル−L−スレオニン−アミド)の合成
【0079】
【化16】

【0080】
H-Thr-NH2・HCl 1.1%H20(国産化学、2511690)9.45 gを210 mL H2Oに溶解し、さらに、NaHCO313.4 g(2 eq)を加えて均一な溶液とした。Acetone180 mLを加えた後、Cbz-OSu (N-(Benzyloxycarbonyloxy)succinimide, Wako 325-34492)18.9 g(1 eq.)を加えることによって室温で反応を開始した。
2時間後、TLC分析により反応の進行を確認し、反応を停止させた。反応混合物にCHCl3を加えた後、0.5M HCl溶液、H2O、NaCl溶液で順次分液操作を行い、Na2SO4を加えて一晩撹拌しながら乾燥した。綿栓濾過によりNa2SO4を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(7 cmφ×23 cm、CHCl3/MeOH =9/1)で行った。この結果、目的物であるNα−ベンジルオキシカルボニル−L−スレオニン−アミド(収量:15.23 g、収率:75.5%)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0081】
1H-NMR(CDCl3
δ7.40-7.26(m、5H、-CH2C6H5)、6.52、5.41(s、s、1H、-NH2)、5.75-5.74(d、1H、α-NH)、5.17-5.14(t、2H、-CH2C6H5)、4.43-4.42(t、1H、Thr-α)、4.14-4.12(t、1H、Thr-β)、2.96(d、1H、-NH2)1.21-1.19(d、3H、Thr-γ)
【0082】
[比較例2−2]Nα-benzyloxycarbonyl-O-(2,3,4-tri-O-benzyl-α-L-fucopyranosyl)-L-threonine-amido(Nα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド)の合成
【0083】
【化17】

【0084】
2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコース765 mgをDMF 17 mLに溶解し、Ph3P(triphenylphosphine)1.38 g(3 eq、Wako)と、CBr4(四臭化炭素)1.75 g(3 eq、Wako)とを加えた後、塩化カルシウム管を接続して室温下で撹拌した。3時間後、比較例2−1で合成したCbZ-L-Thr-NH2887 mg(2 eq)を加えてさらに撹拌した。
反応の進行をTLC分析により確認し、20時間後に反応を停止させた。酢酸エチルを加え、NaHCO3溶液で3回、H2Oで3回、および、NaCl溶液で1回分液操作を行い、Na2SO4を加えて一晩乾燥させた。翌日、綿栓濾過によりNa2SO4を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(1回目:3.0 cmφ×15 cm、Hexane/AcOEt=2/3、2回目:2.5 cmφ×22.5 cm、Hexane/AcOEt=5/6)により行った。この結果、目的物であるNα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド(収量:685 mg、収率:58%)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0085】
1H-NMR(CDCl3
δ7.40-7.25(m、5H×4、-CH2C6H5)、6.84、5.14(s、s、2H、-NH2)、6.07-6.06(d、1H、α-NH)、5.13-5.07、4.99-4.57(m、m、8H、-CH2C6H5)、5.07-5.06(d、1H、J=3.4、H-1(α))、4.28-4.27(m、2H、Thr-α、β)、4.09-4.06(dd、1H、H-2)、3.92-3.89(dd、1H、H-5)、3.87-3.86(1H、H-3)、3.68(d、1H、H-4)、1.16-1.15(d、3H、H-6)、1.10(t、3H、Thr-γ)
【0086】
[比較例2−3]Nα-undecanoyl-O-(2,3,4-tri-O-benzyl-α-L-fucopyranosyl)-L-threonine-amido(Nα−ウンデカノイル−O−(2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド)の合成
【0087】
【化18】

【0088】
比較例2−2で合成したNα−ベンジルオキシカルボニル−O−(2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド358 mgを酢酸エチル20 mLに溶解した後、接触還元装置にセットし、H2のバブリングを開始した。Pd-C(Palladium 10wt% on activated carbon, Aldrich 205699-50G)を少量の酢酸エチルになじませて滴下し、室温下で撹拌することで、Cbz基の脱保護を行った。
反応の進行を15分または30分ごとにTLC分析で確認したところ、開始から105分後に原料が見られなくなったため、バブリングを止めて反応を終了した。遊離の状態になったアミノ基を塩酸塩の状態にするために、4M-Hydrogen chloride in 1,4-Dioxane(国産化学、E35227)140μL(1 eq)を加え、さらに15分間撹拌した。反応混合物をセライトろ過してPd-Cを取り除き、溶媒を減圧留去して中間体であるO−(2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド塩酸塩(収量:254 mg、収率:83%)を得た。得られた化合物は、これ以上の精製は行わずに次の反応に用いた。
【0089】
得られた塩酸塩254 mgにDMF15 mLを加えることによって均一な溶液とした。ウンデカン酸107 mg(1.3 eq、Wako)を加え、続いて、DIEA(N-ethyldiisopropylamine)310μL(3.9 eq、Wako)と、PyBop 326 mg(1.4 eq、nova biochem, 01-62-0016)とを加えた後、塩化カルシウム管を接続して室温で撹拌した。
翌日、反応の終了をTLC分析により確認した。酢酸エチルを加えた後、5%クエン酸水溶液で2回、H2Oで2回、NaHCO3溶液で2回、H2Oで2回、NaCl溶液で1回の順に分液操作を行った。有機層にNa2SO4を加えて一晩乾燥させた後、綿栓濾過によりNa2SO4を除去し、溶媒を減圧留去した。このようにして得られた残渣の精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(3.0 cmφ×15 cm、Hexane/AcOEt=1/2で2回)で行った。この結果、目的物であるNα−ウンデカノイル−O−(2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド(収量:171 mg、収率:55%)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定によって行った。
【0090】
1H-NMR(CDCl3
δ7.40-7.26(m、5H×3、-CH2C6H5)、6.95、4.99(s、s、2H、-NH2)、6.61-6.60(d、1H、α-NH)、5.11-5.10(d、1H、J=4.2、H-1(α))、4.97-4.57(m、2H×3、-CH2C6H5)、4.49-4.47(t、1H、Thr-α)、4.30-4.28(m、1H、Thr-β)、4.10-4.08(dd、1H、H-2)、3.99-3.96(dd、1H、H-5)、3.92-3.90(dd、1H、H-3)、3.70-3.71(d、1H、H-4)、2.22-2.19(t、2H、-CO-CH2-CH2-C8H17)、1.18-1.17(m、2H、-CO-CH2-CH2-C8H17)、1.27-1.l7(m、17H、-CO-CH2-CH2-C8H17)、1.07-1.06(d、3H、H-6)、0.89-0.86(t、3H、Thr-γ)
【0091】
[比較例2−4]Nα-undecanoyl-O-(α-L-fucopyranosyl)-L-threonine-amido(Nα−ウンデカノイル−O−(α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド、Fucα-Thr-C11)の合成
【0092】
【化19】

【0093】
比較例2−3で合成したNα−ウンデカノイル−O−(2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコピラノシル)−L−スレオニン−アミド45 mgを酢酸エチル4 mLに溶解した後、酢酸200μL(50 eq)を加えた。接触還元装置にセットし、H2のバブリングを開始した。少量の酢酸エチルになじませたPd-C 137 mgを滴下し、室温で撹拌した。
翌日、反応が終了したことをTLC分析により確認し、反応を停止した。反応混合物をセライトろ過してPd-Cを取り除き、溶媒を減圧留去した。酢酸はトルエン共沸により除去した。このようにして得られた残渣の精製は、HPLC(ODS, GL Sciences)によって行った。この結果、目的物であるFucα-Thr-C11(収量:28 mg、収率:quant.)を得た。生成物の確認は、1H-NMR測定、および、MALDI TOF/MS測定によって行った。
1H-NMR測定の結果を下記に、また、MALDI TOF/MS測定の結果を図3に示す。
【0094】
1H-NMR(CD3OD)
δ4.44-4.38(m、2H、Thr-αβ)、3.95-3.90(dd、1H、H-5)、3.79-3.75(dd、1H、H-3)、3.71-3.67(dd、1H、H-2)、3.60-3.59(d、1H、H-4)、2.37-2.33(m、2H、-CO-CH2-CH2-C8H17)、1.67-1.62(m、2H、-CO-CH2-CH2-C8H17)、1.34-1.16(m、(17+3)H、-CO-CH2-CH2-C8H17、H-6)、0.91-0.88(t、3H、Thr-γ)
【0095】
[実施例2]糖鎖プライマーを用いた糖鎖合成
実施例1で合成したXyl-Ser-C12、比較例1で合成したXyl-C12、比較例2で合成したFucα-Thr-C11、および、市販のXyl-pNP(生化学工業、130640)を、糖鎖プライマーとして、糖鎖合成細胞であるCHO細胞にそれぞれ投与することによって、糖鎖伸長反応を試みた。
【0096】
【化20】

【0097】
まず、実施例1で合成したXyl-Ser-C12、比較例1で合成したXyl-C12、比較例2で合成したFucα-Thr-C11、および、市販のXyl-pNP(生化学工業、130640)を、それぞれ、100 mMになるようにDMSO(SIGMA、D2650)に溶解した。
CHO細胞(ATCC番号CCL-61)の培養液は、Ham F-12(日水製薬)を、NaHCO3 1.0 g/Lと1M HClとを用いてpH7.1-7.2に調整後、0.22μmフィルター(Millex GV, MILLIPORE)を用いて滅菌濾過し、ストレプトマイシン 0.4 g/LおよびペニシリンGカリウム10万unit/Lを含有させ、さらに、非働化したウシ胎児血清FBS(JRH, Lot No.3E0218)を10%加えることによって調製した。この培養液を使用して、CHO細胞を、37℃、5%CO2下で培養した。
全ての細胞内糖鎖伸長反応は、フェノールレッドを含まない無血清培地中で行った。無血清培地にはHam F12(11835-055, Invitrogen Corporation)を選択し、トランスフェリン(holo bovine, 和光純薬)5 mg/L、および、インシュリン(human, Sigma)5 mg/Lを加えて使用した。
【0098】
100 mmφディッシュに、2.0×106の細胞数になるようにCHO細胞を播種した。これを24時間培養して細胞を接着させた後、培地(FBS(-))で2回洗浄し、糖鎖プライマーを50μMになるように加えた。
【0099】
[実施例2−1]脂質成分の抽出−培地画分と細胞画分との分離
Xyl-Ser-C12、Xyl-C12、Fucα-Thr-C11、または、Xyl-pNPを投与した細胞を、48時間培養した後、氷上で反応を止めた。培地上清を回収した後、セルスクレイパーで細胞を剥離して遠心管に集め、1000 rpmで5分間遠心分離した。この上清を培地画分として回収した。沈澱した細胞は、PBS(-)500μLに懸濁し再度1000 rpmで5分間遠心分離することによって、得られた上清を培地画分、また、残った沈殿を細胞画分として回収した。
【0100】
[実施例2−2]脂質成分の抽出−培地画分からの脂質成分の抽出
回収した培地画分から、Sep-Pak C18(Waters)を用いて生成物の抽出を行った。Sep-Pak C18に培地画分を2度通して脂質成分を吸着させた後、MilliQ水10 mLを通してカラムを洗浄した。引続き、洗浄したカラムにメタノール5 mLを通すことによって、脂質成分をカラムから抽出して、抽出液を遠心エバポレーターで濃縮した。
【0101】
[実施例2−3]脂質成分の抽出−アミノプロピルカラムによる中性糖と酸性糖との分離
まず、クロロホルムを用いて、アミノプロピルカートリッジ(DSC-NH2 52635-U, SUPELCO)を活性化および平衡化した。
実施例2−2で濃縮したサンプルをクロロホルム/メタノール=9/1(v/v)1 mLに溶解し、この溶液をカートリッジに通して生成物を吸着させた。クロロホルムで洗浄した後、メタノールを用いて、中性糖を含む中性成分を溶出した。引続き、3%酢酸(00222-55, AcOH, nacalai tesque)、4%トリエチルアミン(34805-75, TEA, nacalai tesque)、メタノール溶液を用いて、酸性糖を含む酸性成分を溶出した。これら中性成分と酸性成分とを、LC-MS/MSのサンプルとした。
【0102】
[実施例2−4]液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)
実施例2−1〜2−3において培地画分から抽出した、中性成分と酸性成分とに含まれる糖鎖伸長生成物を、順相カラム(Imtakt UK-silica, 150 mm×2 mm)をつないだAgilent 1100 Series LC System(Agilent)のHPLCによって分離した。
オンラインの質量分析計として、Electrospray ionization (ESI) / ion trap (IT) type mass spectrometer (Esquire 3000+plus, Bruker Daltonics)を使用した。糖脂質および糖鎖伸長生成物を、negative ion modeで測定し、測定スキャン範囲は、m/z=150-2500とした。
測定後、対象のm/zの値でExtracted Ion Chromatogram(EIC)を作成し、ピーク面積をコンパウンドリストで算出した。
【0103】
[実施例3]LC-MS/MSによる糖鎖伸長生成物の構造解析
実施例2−4において行ったLC-MS/MSの結果は、以下の通りである。
【0104】
[実施例3−1]Xyl-Ser-C12を投与した場合
中性成分に含まれる中性糖
Xyl-Ser-C12をCHO細胞に投与し、その培地画分から抽出することによって得られた中性成分に含まれる、中性糖のEICおよび対応するMSを、図4に示す。また、これら中性糖の構造とMSデータとをまとめて、表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
図4および表1より、CHO細胞にXyl-Ser-C12を投与することによって、CSN1およびCSN2の2種類の中性糖が得られることが分かった。CSN1は、プライマーからヘキソース(Hex)が1分子、CSN2は、プライマーからHexが2分子、それぞれ伸長したものである。
また、CSN1およびCSN2は、GAGがコアタンパク質と結合するGAGタンパク質結合領域の糖鎖構造の一部(GlcA-Gal-Gal-Xyl)であると考えられることより、プライマーとして用いたXyl-Ser-C12は、GAG合成に必要な中性糖鎖伸長を受けていることが分かった。
【0107】
酸性成分に含まれる酸性糖
Xyl-Ser-C12をCHO細胞に投与し、その培地画分から抽出することによって得られた酸性成分に含まれる、酸性糖のEICおよび対応するMSを、図5に示す。また、これら酸性糖の構造とMSデータとをまとめて、表2に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
図5および表2より、CHO細胞にXyl-Ser-C12を投与することによって、CSA1〜CSA13の13種類の酸性糖が得られることが分かった。これらのうち、CSA1およびCSA2は、糖脂質型糖鎖、CSA3〜CSA13は、プロテオグリカン型糖鎖であった。
【0110】
CSA1は、GM3型の糖鎖構造を有していることより、Xyl-Ser-C12の一部が糖脂質の生合成経路に入った可能性が考えられる。CHO細胞において発現しているガングリオシドはGM3のみであることが報告されており(Loery O.H., Rosebrougf N.J., Farr A.L., Randall R.J., J.Biol.Chem.,193, 265-275)、このことは、その事実とも一致する。一方で、CSA2は、Gb3型糖鎖にシアル酸が伸長した構造と考えられるが、その生合成機構は不明である。
【0111】
CSA3〜CSA13の生成物は、GAGの生合成機構に則した糖鎖伸長を受けており、“HexNAc-GlcA”の繰り返しが最大4回まで確認された。
CSA3は、GAGタンパク結合領域特有の4糖構造(GlcA-Gal-Gal-Xyl)であると考えられる。また、CSA5、CSA8、および、CSA11は、分子内のHexNAcあるいはHexに硫酸基が転移した構造のGAGであった。実際のGAGの生合成においても、分子中のHexNAcとHexとは硫酸基転移を受けることが知られている(Pilar Maria Crespo et al., J.Biol.Chem., 277, 44731-44739)。
以上の結果により、プライマーとして用いたXyl-Ser-C12は、GAG生合成の基質となることが明らかになった。さらに、CSA3〜CSA13の繰り返し単位“HexNAc-GlcA”にGlcAが含まれていること、および、CSA5、CSA8、および、CSA11で硫酸基が検出されていることより、糖鎖プライマーとしてXyl-Ser-C12を投与することによって生成した糖鎖は、CS型および/またはHS型のGAGであると判断された。
【0112】
なお、CSA13よりも長い糖鎖伸長生成物が検出されなかった理由としては、化合物の極性が高いために、実施例2−2におけるSep-Pak C18を用いた抽出で回収できていないからであると推測される。
【0113】
[比較例3−2]Xyl-C12を投与した場合
中性成分に含まれる中性糖
Xyl-C12をCHO細胞に投与し、その培地画分から抽出することによって得られた中性成分においては、糖鎖伸長生成物である中性糖の存在を検出することはできなかった。
【0114】
酸性成分に含まれる酸性糖
Xyl-C12をCHO細胞に投与し、その培地画分から抽出することによって得られた酸性成分に含まれる、酸性糖のEICおよび対応するMSを、図6に示す。また、これら酸性糖の構造とMSデータとをまとめて、表3に示す。
【0115】
【表3】

【0116】
図6および表3より、CHO細胞にXyl-C12を投与することによって、CCA1〜CCA3の3種類の酸性糖が得られた。これらのうち、CCA1は、GM3型の糖脂質型糖鎖であり、CCA2およびCCA3は、プロテオグリカン型糖鎖であった。
しかし、Xyl-Ser-C12と比べると、糖鎖プライマーを用いた糖鎖合成反応の、生成物の種類も収量も非常に少ない結果となった。
【0117】
[比較例3−3]Fucα-Thr-C11を投与した場合
中性成分に含まれる中性糖、および、酸性成分に含まれる酸性糖
Fucα-Thr-C11をCHO細胞に投与し、その培地画分から抽出することによって得られた中性成分、および、酸性成分のいずれにおいても、糖鎖伸長生成物である中性糖および酸性糖の存在を検出することはできなかった。
【0118】
[比較例3−4]Xyl-pNPを投与した場合
中性成分に含まれる中性糖
Xyl-pNPをCHO細胞に投与し、その培地画分から抽出することによって得られた中性成分に含まれる、中性のEICおよび対応するMSを、図7に示す。また、これら中性糖の構造とMSデータとをまとめて、表4に示す。
【0119】
【表4】

【0120】
図7および表4より、CHO細胞にXyl-pNPを投与することによって、CPN1およびCPN2の2種類の中性糖が得られた。これらは、Xyl-Ser-C12に伸長した中性糖と同様に、GAGタンパク質結合領域に見られる構造である。
【0121】
酸性成分に含まれる酸性糖
Xyl-pNPをCHO細胞に投与し、その培地画分から抽出することによって得られた酸性成分に含まれる、酸性糖のEICおよび対応するMSを、図8に示す。また、これら酸性糖の構造とMSデータとをまとめて、表5に示す。
【0122】
【表5】

【0123】
図8および表5より、CHO細胞にXyl-pNPを投与することによって、CPA1〜CPA3の3種類の酸性糖が得られた。これらのうち、CPA1は、GM3型の糖脂質型糖鎖であり、CPA2およびCPA3は、プロテオグリカン型糖鎖であった。
しかし、Xyl-C12を用いた場合と同様に、Xyl-Ser-C12と比べると、糖鎖プライマーを用いた糖鎖合成反応の、生成物の種類も収量も非常に少ない結果となった。
【0124】
[実施例4]酵素処理を用いた構造解析
実施例3において、Xyl-Ser-C12を糖鎖プライマーとして糖鎖合成細胞に投与することによって、多種類のGAG型糖鎖が伸長することがLC-MS/MS解析により示された。しかし、LC-MS/MS解析では、HexのGal/Glcの判別や糖のアノマーを判別することは難しい。そこで、糖の種類やアノマーに特異的に反応する、糖加水分解酵素を用いて、詳細な構造解析を行った。
【0125】
[実施例4−1]β-ガラクトシダーゼを用いるCSN1およびCSN2の加水分解
酵素の基質として、実施例3−1においてXyl-Ser-C12から得られた中性糖であるCSN1およびCSN2(Hexが1分子または2分子それぞれ伸長したもの)を用い、また、加水分解酵素として、β-ガラクトシダーゼ(Wako, 072-04141)を用いて、酵素処理を行った。β-ガラクトシダーゼは、糖鎖末端のβ結合をしているGalを特異的に加水分解することができる。
1dishのCHO細胞から得られたCSN1およびCSN2の混合物をメタノールに溶かし、半量ずつ2つのプラスチックチューブに分注した。ヒートブロックを用いてメタノールを除去し、それぞれを酵素処理用および未処理用とした。またそれぞれにつき表6の組成で溶液を混合し、酵素処理溶液とした。酵素処理溶液を加えた未処理用のものを、酵素処理前サンプルとした。
【0126】
【表6】

【0127】
酵素反応は、55℃で24時間行った。酵素反応後、反応溶液にPBS(-)9 mLを加え、Sep-Pak C18で脂質成分を回収し、遠心エバポレーターで溶媒を減圧留去することによって、酵素処理後サンプルとした。
【0128】
[実施例4−2]HPTLCによる結果解析
実施例4−1で得られた酵素処理後サンプルをメタノールに溶解し、この1/10量(1/10dish分)をHPTLC plate(Silica gel 60, Merck)に展開した。併せて、酵素処理前サンプルの1/10量(1/10dish分)を展開した。展開溶媒には、クロロホルム/メタノール/0.2% CaCl2水溶液=9/9/2(v/v/v)を用いた。
展開後、溶媒を十分に乾かした後、HPTLC plateをオルシノール硫酸試薬で染色することによって中性糖脂質の検出を行った。さらに、染色したバンドを、デンシトメーター(島津製作所、CS-9300)の波長540 nmで解析することによって、定量した。オルシノール硫酸試薬による染色の結果と、デンシトメーターによる定量の結果とを、まとめて図9に示す。
【0129】
オルシノール硫酸試薬による染色の結果、酵素処理後サンプル(enzyme+)は、酵素処理前サンプル(enzyme−)と比較して、CSN1およびCSN2のいずれにおいてもバンドの色が薄くなっていた。また、これら4つのバンドをデンシトメーターで測定した結果からも、酵素処理後のバンドが薄くなっていることが分かる。
これらの結果から、CHO細胞から得られる中性糖CSN1およびCSN2のHexはGalであり、さらに、β結合をしていること、即ち、天然のGAGの構造と同じであることが示された。
【0130】
[実施例4−3]LC-MS/MSによる結果解析
実施例4−1で得られた酵素処理前サンプルと、実施例4−1で得られた酵素処理後サンプルをメタノールに溶解した溶液とを、LC-MS/MSにインジェクションし、CSN1のピーク面積とCSN2のピーク面積とをコンパウンドリストにより計算することによって、両者の値を比較した。1回にインジェクションする量は1/10dish分とし、各サンプルにつき3回ずつ測定して、平均と標準誤差を計算した。
結果を、図10に示す。
【0131】
LC-MS/MSによる定量においても、実施例4−2のPTLCによる解析の結果と同様に、酵素処理後サンプル中のCSN1およびCSN2は、酵素処理前サンプル中のCSN1およびCSN2に比べて、優位に減少した。
よって、LC-MS/MSによる解析結果からも、CHO細胞から得られる中性糖CSN1およびCSN2のHexはGalであり、さらに、β結合をしていること、即ち、天然のGAGの構造と同じであることが示された。
従って、実施例4−2および4−3の結果より、Xyl-Ser-C12は、細胞のGAG生合成経路により糖鎖伸長を受けていることが明らかになった。
【0132】
[実施例5]細胞増殖におけるプライマーの影響
実施例2において、Xyl-Ser-C12が、多種類のCS型および/またはHS型のGAGを合成できることが示された。そこで、このように糖鎖プライマーとして有用なXyl-Ser-C12が、細胞増殖に与える影響を調べることとした。比較例として、Xyl-C12およびXyl-pNPについても、細胞増殖に与える影響を調べた。
【0133】
WST-1を用いて、細胞増殖活性を調べた。実験は、Xyl-Ser-C12、Xyl-C12、または、Xyl-pNPの3種それぞれのプライマー投与につきN=5で行い、細胞数の最大値と最小値とを除いた3つの平均値を結果とした。さらに、この実験を3回繰り返し、平均と標準誤差を計算した。
結果を、図11に示す。
【0134】
DMSOのみを投与したcontrol、Xyl-Ser-C12、および、Xyl-pNPを投与した細胞は、インキュベート時間が長くなるにつれて細胞数は指数関数的に増加し、72時間後には播種した数の6倍近くになった。これに対して、Xyl-C12を投与した細胞では、投与後24時間で細胞数が半分程度になっており、72時間後にはほぼ死滅した。
この結果より、Xyl-Ser-C12の細胞毒性は極めて低く、多種類のCS型および/またはHS型のGAGを合成できるという観点のみならず、低細胞毒性という観点からも、非常に有用であることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
式(I);Xyl−Am−L−R−X
(式中、Amは、ヒドロキシル基を有するアミノ酸、または、前記アミノ酸中のカルボキシル基が、カルバミル基で置換されているアミノ酸誘導体であり;
Lは、−C(O)−、または、−NH−であり;
Rは、炭素主鎖の炭素数が6から20であるアルキル基、または、前記アルキル基中の一部の−CH2-CH2−が、−S-S−、−NHCO−、または、−CH=CH−で置換されているアルキル基誘導体であり;
Xは、−H、−N3、−NH2、−OH、−SH、−CO2H、−OC(O)CH=CH2、および、−CH=CH2からなる群から選択される基であって;
Xyl−Am結合は、Xylのヒドロキシル基とAmのヒドロキシル基との間で、アセタール結合、または、エーテル結合を形成し;
Am−L結合は、Amのカルボキシル基とLの−NH−との間で、または、Amのアミノ基またはカルバミル基とLの−C(O)−との間で、アミド結合を形成する。)
【請求項2】
前記ヒドロキシル基を有するアミノ酸が、SerまたはThrであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Xyl−Am結合は、Xylの1位のヒドロキシル基とAmのヒドロキシル基との間で、アセタール結合を形成していることを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物は、下記化学式(II)〜(V)から選択される化合物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【化1】

【請求項5】
細胞内で糖鎖を合成するための糖鎖プライマーであって、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物である糖鎖プライマー。
【請求項6】
糖鎖を合成する方法であって、
糖鎖合成細胞に請求項5に記載の糖鎖プライマーを投与する工程、
を含む合成方法。
【請求項7】
前記糖鎖合成細胞が、CHO細胞であることを特徴とする、請求項6に記載の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−209048(P2010−209048A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60107(P2009−60107)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】