説明

方位のわかるコアを採取する方法およびその装置

【課題】地盤調査ボーリングにおいて地盤を乱すことのない連続的なコアの採取と同時に方位のわかるコアを採取する。
【解決手段】回転切削を行うビット5を先端に有した外管4と該外管4の内側に同軸的に位置しコア収納を担う内管6とを備え、外管4は、上方のボーリングロッド2に連結され、ボーリングロッド2とともに回転するようにしており、内管6は、固定軸3に連結されたものであり、固定軸3は、ボーリングロッド2の内側において上方に延びて外部より固定され、かつ、上下方向に連結された複数の構成部分からなるものであって、各構成部分の連結箇所には、上の構成部分と下の構成部分が互いに回動不可能に結合するようにした連結手段を設けており、ボーリングロッド2の回転にともなって内菅6が回転しないようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地層の層理面などの面構造の走向傾斜を知るための方位のわかるコアを採取する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野での構造物構築のための事前調査や鉱業における採掘計画立案また学術的地盤研究などの課題を解決するために地盤調査ボーリングが実施される。地下地盤を最も正しく知る手法は、地下トンネルを開削しその壁面において地盤を直接確認する調査トンネル開削法である。これには長い工事期間と多額の費用を伴うため、地盤調査ボーリングは安価でかつ効果的な地質調査手法であるとされる。地盤を乱すことなくかつ連続的に採取されたコアにおいて該地盤の構成が確認される。併せて、方位のわかるコアにおいて地層の層理面や亀裂・鉱脈などの該地盤の面構造の走向傾斜が確認され、ボーリング孔周辺の地下地盤はこの両成果において確定され得ることとなる。以降、地盤を乱すことなくかつ連続的に採取されたコアを、良質なコア、と称し、方位のわかるコアを、方位コア、と称する。
【0003】
図6は、良質なコアの採取を行う場合に使用される公知の二重管式サンプラーの先端部(例えば、非特許文献1、2、3参照)でのコア採取の概念説明図である。ビット(5)を取り付けた外管(4)の回転と推力により先端地盤を円周切削し、この円周内側に円筒形に起立した地盤が採取コア(71)となる。コア採取時の掘進速度は0.5〜2cm/min程とゆっくりしており、掘進の進行に伴って採取コアは内管(6)内側に装填された袋状または円筒状のポリエチレンチュ−ブ(72)に密着して被覆されながら連続的に内管内に収納される。所定のコア採取(通常1m)が終了するとサンプラーは地上に揚管回収されることとなり、この揚管においてコアリフタ(73)が掴縮され、コア先端は地盤より引っ張り破断される。また、掘進水が地上よりポンプ圧送されることにより、外管と内管の隙間を通じビット等の先端部各部材の冷却と潤滑が行われまた外管と孔壁との隙間を通じ切削屑の排出が行われる。
【0004】
図6において、A−B−Cを地層の層理面、a−b−cを亀裂や鉱脈などの面構造とすると、これらを保持した良質なコアを採取することとその採取されたコアの方位を知ることの両成果においてボーリング孔周辺の地下地盤は確定され得ることになる。内管が回転すると採取したコアの方位=面構造の走向傾斜がわからない。
【0005】
図5は、掘進長で凡そ200m以浅の地盤調査において汎用的に採用されるロータリ−式ボーリングマシンによる普通工法において良質なコアを採取する場合に使用される公知の二重管式サンプラーによるコア採取法。以降、従来のコア採取法と称する、の実施説明図である。この二重管式サンプラー(破断正面図)は、先端に、ビット(5)を有した外管(4)とコア収納を担う内管(6)とスイベルヘッド(60)との主要三部材により構成される。当該深度においてコアを採取するため、複数のボーリングロッド(2)連結によりサンプラーが孔底まで下降され、地上のボーリングマシン(1)の回転と推力がボーリングロッドおよびスイベルヘッド(60)を介し外管(4)へ伝達されることにより切削掘進が行われる。内管はスイベルヘッド部内においてベアリング支持により垂設した自在回転構造となっており、ボーリングロッドおよび外管と内管は作業上脱着可能に分離させる必要があるためスイベルヘッド部において各々螺合されている。また内管先端部においては、コアの収納を円滑に行うために幾つかの小物ツールス(図示せず)が装着されている。(非特許文献1、2、3参照)
【0006】
そもそも地盤は、塑性から脆性にわたる様々な物性により構成されており、これら地盤において良質なコアを採取する目的のため、これまでに特許物件も含め数多くの手法が考案されておりまた実用されている。
【0007】
地盤調査ボーリングにおいては、前述の理由により良質なコアと方位コアとを同時に採取する手法が当然ながら希求される。ボーリングロッドと外管は螺合しかつ掘進のために両者は回転し、また内管はベアリング支持による自在回転構造であるため内管も都度回転する。このため、従来のコア採取法そのままでは方位コアの採取は出来ない。また、方位コアを採取する手法を考案しようとする際、サンプラーは数cmから10cm程の小径の円筒形形状であることやサンプラーの構成部材は鉄製であるため磁気コンパスを安易に利用できないなどの機構や機能的な制約もある。これらのことにより、方位コアの採取に関しては、この二十数年間で数件程度の先行技術が考案されている程度である。(特許文献1〜8、参照)
【0008】
これら先行技術はすべて、内管が回転する前提のもとに、何らかの手法により内管または採取コアの原位置(孔底)での方位の特定と捻じれの検知を図ろうとするものであり、諸手法は普及に至っているとは言え得ず実際的でない。
【0009】
しかし、地盤の面構造の走向傾斜がわからないと地盤が確定され得ないことから、現在では、コア採取後のボーリング孔壁を利用した映像解析手法(特許2724833など)により地盤の面構造の走向傾斜を知る手法が主流となっており、地質調査計画に組み込まれまた積算されている。しかし、この映像解析法は孔内水の濁りや孔壁崩壊の発生により、観測不能となったり正確な測定ができない問題があるため、良質なコアと方位コアを同時に採取する手法には実現は難しいとされ乍らも強いが希求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭和54-2909号公報
【特許文献2】特開昭和57-40087号公報
【特許文献3】特開昭和58-168791号公報
【特許文献4】特開昭和64-2758号公報
【特許文献5】特開平3-81492号公報
【特許文献6】特開平9-242458号公報
【特許文献7】特開平10--61365号公報
【特許文献8】特開2000--104480号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ボーリングハンドブック(財)全国地質調査業協会 p95
【非特許文献2】(株)クリステンセンマイカイ GWSシリ−ズカタログ
【非特許文献3】(有)アイジイ工業 製品カタログ N66−50組立図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
コアの向きを知ろうとする前述の先行技術はすべて、内管が回転する前提のもとに、採取コアの方位と捻じれを測定する手法を課題としている。また採取コアの捻じれは元々内管の回転に由来するものである。従って、コアの向きを知ろうとする手法においての根本課題は、コア採取時において内管が回転することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、コア採取時において外管が掘進回転することに対して内管が一時たりとも回転することのないよう、内管の回転を制止しかつ制止する方位を定めることにより、方位のわかるコアを採取する方法及び装置を提供するものであり、次のような構成を有するものとしている。
【0014】
(コア採取装置)
回転切削を行うビットを先端に有した外管と該外管の内側に同軸的に位置しコア収納を担う内管とを備え、外管は、上方のボーリングロッドに連結され、ボーリングロッドとともに回転するようにしており、
内管は、固定軸に連結されたものであり、固定軸は、ボーリングロッドの内側において上方に延びて外部より固定され、かつ、上下方向に連結された複数の構成部分からなるものであって、各構成部分の連結箇所には、上の構成部分と下の構成部分が互いに回動不可能に結合するようにした連結手段を設けており、ボーリングロッドの回転にともなって内菅が回転しないようにしている。
【0015】
前記固定軸の構成部分の連結箇所において、上下のいずれか一方の構成部分の周面に突起を設け、他方の構成部分に前記一方の構成部分の端部を外嵌する継ぎ手を設け、さらに、前記継ぎ手に前記突起が進入する溝を形成したものとすることができる。
また、固定軸の構成部分の連結箇所において、上下のいずれか一方の構成部分の端部の横断面形状を非円形にし、他方の構成部分に前記一方の構成部分の端部を外嵌する継ぎ手を設けたものとすることができる。
【0016】
(方位のわかるコアを採取する方法)
前記コア採取装置により、コア収納を担う内管の回転は制止されかつ内管の向きは任意の方位を維持したままの状態となり、この状態において切削掘進に係る構成により切削掘進を行うようにしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ロータリ−式ボーリングマシンによる普通工法において、これまで難しいとされている方位のわかるコアの採取を可能とする。汎用的に行われている良質なコア採取の手法において同時にそのコアの方位がわかるため、他手法によらなくても単独でボーリング孔周辺の地盤が確定でき得ることとなり、安価でより有益な地盤情報が提供されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】方位のわかるコアを採取する装置の説明図
【図2】二重管式固定軸ボーリングロッドの構造説明図
【図3】サンプラーヘッド部の構造説明図
【図4】固定軸方位固定部の構造説明図
【図5】従来のコア採取法の実施説明図
【図6】コア採取の概念説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以降の記載において使用する言葉の定義をここで行う。
a)、固定軸とは、サンプラー、ボーリングロッド、ウォータスイベルなどの孔底から地上まで連結される装置内部に同軸的に配置されかつ装置連結部において分離・連結される中空または中実の丸棒または丸棒を加工した棒状部材をいう。
b)、同一方向とは、円筒表面上の二点の位置関係について、共に円筒の軸芯に対して同じ回転位相を保たれている位置関係であること、若しくは共に円筒の軸芯方向でかつ軸芯に直立する片平面上となる位置関係であることをいう。
c)、方位連結とは、同軸的に長尺連結する二つの管または丸棒の連結の軸回転方向の向きにおいて、同一方向となる連結をいう。例えば方位連結を行なおうとする各部材の上下端付近に軸回転方向の向きにおいて同一方向となる目印を付し、この目印を合わせることで連結された両部材は方位連結となる。
【0020】
図1は、本発明の、方位のわかるコアを採取する方法の実施に使用するコア採取装置の説明図(一部破断正面図)である。回転切削を行うビット(5)を先端に有した外管(4)と該外管の内側に同軸的に位置しコア収納を担う内管(6)とを備え、外管と内管とが互いに自在回転する機構を有し、外管は上方のボーリングロッドに長尺に螺合連結されることと内管は上方の固定軸に長尺に方位連結されることとの機構を有した、二重管式サンプラー(ア)と称する装置をコア採取しようとする地盤内に配する。
【0021】
ボーリングロッド(2)と該ロッド内側に同軸的に位置し該ロッドと同じ連結長さを有する固定軸(3)とを備え、ボーリングロッド(2)と固定軸(3)とが互いに自在回転する機構を有し、ボーリングロッドは上下方に長尺に螺合連結されることと固定軸の複数の構成部分が上下方に長尺に方位連結されることとの機構を有した、二重管式固定軸ボーリングロッド(イ)と称する装置を配する。
【0022】
また、地上において、ボーリングロッド上端に装着したウォータスイベル(9)より突出させた固定軸(3)上端部において固定軸の回転を制止させることと固定軸の向きを任意の方位に固定することとの構造機構を有した、固定軸方位固定部(ウ)と称する固定部体を配する。
【0023】
上記、二重管式サンプラー装置と二重管式固定軸ボーリングロッド装置複数本とを地上まで順次長尺に連結することにおいて、外管と地上に至るまでの長尺連結とされたボーリングロッドとの構成はボーリングマシン(1)の回転と推力が伝達される、切削掘進に係る構成となり、また、内管と地上の固定軸上端部に至るまでの長尺連結とされた固定軸との構成は、コア収納に係る構成となる。
【0024】
コア収納に係る構成は、切削掘進に係る構成の内側に同軸的に自在回転に貫挿することと、長尺に方位連結していること、との両機能機構を備えたことの特徴となる。このコア収納に係る構成の地上端である固定軸上端部の向きを固定軸方位固定部体において任意の方位に外部より係合固定することにより、コア収納を担う内管の回転は制止されかつ内管の向きは任意の方位を維持したままの状態となり、この状態において切削掘進に係る構成により切削掘進を行うことにおいて、方位のわかるコアを採取する方法が可能となる。
【0025】
また、本発明を実施する場合の作業性能において重要となる上記二重管式固定軸ボーリングロッド(イ)について述べる。ボーリングロッド(2)と該ロッド内側に同軸的に位置し該ロッドと同じ連結長さを有する固定軸(3)とを備える。固定軸(3)は、上下方向に連結された複数の構成部分からなるものとしている。
【0026】
また、ボーリングロッドと固定軸とが互いに自在回転する。ボーリングロッドは、ボーリングロッドと同じ径の固定軸継ぎ手(7)によって、上下方にその複数の構成部分が長尺に螺合連結される。この固定軸継ぎ手(7)は、固定軸(3)の構成部分の連結箇所における連結手段の1つでもあり、内側に固定軸継ぎ手内固定軸(31)を有しており、この固定軸継ぎ手内固定軸(31)の上下各端部が、その上下の固定軸(3)の各構成部分と、連結手段である差し込み継ぎ手(24)を介して連結されることにより、固定軸(3)の複数の構成部分が上下方に長尺に方位連結される。
【0027】
ボーリングロッドと固定軸と固定軸継ぎ手との三部材が一体物となった装置を二重管式固定軸ボーリングロッド(イ)と称し、これにより従来のコア採取法とほぼ同等の作業手順と作業性能が実現される。
【0028】
本発明の方位のわかるコアを採取する方法は、以下の通りに実施することができる。
ア)、下端ボーリングロッド(2)に連結したサンプラーヘッド(11)と、該ヘッドの下部外縁部に連結され下端に回転切削を行うビット(5)を有する断面円形の外管(4)と、該ヘッド内部においてベアリング支持により該ヘッドに同軸的な自在回転構造である固定軸(3)と、該外管の内部に通水可能な隙間をもって同軸的に位置し内管ヘッド(10)を介し固定軸と同軸的に方位連結しコア収納を担う断面円形の内管(6)と、の構成による二重管式サンプラー(ア)と称するサンプラー装置をコア採取しようとする地盤内に配する。
【0029】
イ)、外周部においてボーリングロッド(2)を上下方に長尺に連結させる機構を有し内側においてベアリング支持により該ロッドと同軸的な自在回転構造である固定軸(3)の構成部分を上下方に長尺に方位連結させる機構を有する固定軸継ぎ手(7)と称する継ぎ手部と、ボーリングロッド(2)と、該ロッドと同じ実連結長さを有する固定軸(3)と、の三部材を一体物とした二重管式固定軸ボーリングロッド(イ)と称する装置を上記サンプラーヘッド(11)上方に複数長尺に連結する。このことにより、二重管式サンプラーと連結した二重管式固定軸ボーリングロッドが地上まで繋がることの配置となる。
【0030】
ウ)、ボーリングロッド上端に装着したウォータスイベル(9)から突出させた固定軸(3)の地上端部において固定軸の回転を制止させることと固定軸の向きを任意の方位に固定するための機構を有した固定軸方位固定部(ウ)と称する固定軸の固定部体を地上に配置する。
【0031】
上記、二重管式サンプラー装置と二重管式固定軸ボーリングロッド装置複数本とを地上まで順次長尺に連結することにおいて、外管と地上に至るまでの長尺連結とされたボーリングロッドとの構成はボーリングマシンの回転と推力が伝達される、切削掘進に係る構成となり、また、内管と地上の固定軸上端部に至るまでの長尺連結とされた固定軸の構成は、コア収納に係る構成となる。コア収納に係る構成は、切削掘進に係る構成の内側に同軸的に自在回転に貫挿することと、長尺に方位連結していること、との両機能機構を備えたことの特徴となる。
【0032】
地上において固定軸の向きを任意の方位に固定する手段については、次の通りである。
固定軸方位固定部(ウ)内において固定軸の軸上に直立する軸方向の片平面上に突起した固定棒(55)をウォータスイベル(9)上方に突出させた固定軸上端部に方位連結させる。一方、固定溝(59)をもった固定枠(58)を掘進軸よりみて任意の方位に櫓支柱などから掘進軸に対して平行に外部より係合固定する。
【0033】
この固定溝(59)に固定棒(55)を貫挿することにより、固定棒は固定溝内を上下方に摺動可能となり、固定軸は回転することなく任意の方位を維持したままの状態となる。この状態においてボーリングマシンの回転と推力が伝達された外管(4)により切削掘進を行い、回転することなく任意の方位を維持したままの状態である内管(6)において方位のわかるコアを採取する方法が可能となる。因みに、掘進水はウォータスイベル(9)を経て、ボーリングロッドと固定軸の間の隙間および中空の固定軸継ぎ手内部を通じサンプラーに到達する。
【0034】
以降の記載において使用する言葉の定義をここで行う。
あ)、外管系とは、外管と地上に至るまでの長尺連結とされたボーリングロッドとをいい、ボーリングマシンの回転と推力が伝達され、掘進に係る構成をいう。
い)、内管系とは、内管と地上の固定軸方位固定部の固定軸上端に至るまでの長尺連結とされた固定軸とをいい、コア収納に係る構成をいう。
【0035】
コア採取中において、掘進水供給系統の不具合などによるサンプラー先端部の焼付けや砂礫質地盤での先端地盤面攪拌による内管コア詰まりなどの所謂サンプリング異常が生じることがありこれにより内管は外管と一体回転する。また、内管系を自在回転構造としているベアリング破損などの機構的な異常が生じた場合においても内管系は外管系と一体回転する。
【0036】
内管が外管と一体回転する状態でコア採取を続けると連続的なコアが取れていない状況=コア欠損となるため、これら外管系と内管系が一体回転する不用意な異常を早期に察知し作業を中断させる必要がある。このため、固定軸方位固定部(ウ)において固定軸の向きを固定する固定軸方位固定ナット(54)と固定棒(55)との間に、前述の不用意な異常を知らせる機能を有する回転異常検知部(57)を備える。
【0037】
方位コアを採取するためには内管が回転してはならない。一方、内管系はベアリング支持による自在回転構造であると雖も外管系の回転により内管系には若干の共回り力が生じ内管系は回転する。回転する内管系の固定軸上端において回転を制止させることにより地中より長尺に連結された固定軸には捻じれが発生する。基本的には中空または中実丸棒を使用する固定軸の捻じれ角は、加するトルクと鋼材の断面積と横弾性係数とによる関数として材料力学的に算出される。
【0038】
また、地上の平坦ヵ所において当該コア採取に使用する二重管式固定軸ボーリングロッドを水平方向に例えば50mに長尺連結し、当該固定軸におけるトルクと捻じれ角の関係を事前に把握することも可能である。
【0039】
一方、地質調査手法の一つである野外地表踏査において、地盤の面構造はその面上に添わしたクリノメ−タやクリノコンパス測定器の水平配置における磁気コンパス方位(走向)とこれに直交する傾斜角(傾斜)として計測されるが、その計測誤差は概ね3°程である。従って、本手法の適用可能深度などの実用範囲は、当該コア採取における固定軸の捻じれ角が概ね3°を超えることのない条件としての制約を受けることとなる。
【0040】
また、ボーリング孔には掘進方向計画に対して、同マシンの設置誤差や後述する理由により必ず孔曲りが発生する。このため、本手法においては孔曲りに対しても検討を加える必要がある。一般的には、掘進回転の反力方向にまた先端地盤面に硬軟がある場合には軟質側にボーリング孔先端は孔曲りする基本がある。掘進方向が水平または緩傾斜のボーリング孔の場合には切削屑が下方に集中するため上方に孔曲りし、また掘進回転と掘進荷重が大きいほど孔曲りは助長される。
【0041】
一方、良質なコアを採取するためには掘進回転と掘進荷重を出来るだけ抑える必要があるため孔曲りの程度は少なく通常は1°以内に収まる。しかし、当該調査条件により孔曲りが懸念される場合には公知の孔曲り計測を実施し、孔曲りが大きい場合には採取されたコアの方位には誤差を生じていることとなり、若しくは孔曲り計測結果が加味されたコア方位の評価となる。
【0042】
以上の形態において、固定軸の捻じれ角とボーリング孔の孔曲りの程度によって実用範囲は制約を受けることとなるものの、この実用範囲内においては、コア収納を担う内管の回転は制止されかつ内管の向きは任意の方位に固定されていることによる方位のわかるコアが良質なコアと同時に採取されることとなる。
【0043】
図2は、本発明を実施するための二重管式固定軸ボーリングロッドの構造説明図(一部破断正面図)の一例である。本発明を具現するため、固定軸には捻じれを抑制する大きな断面積の強固な部材を使用しかつ方位連結においては緩みのない構造であることが必須である。例えば、コアの採取方向=掘進方向が鉛直の場合にはこの固定軸の自重による坐屈によりまた掘進方向が水平の場合には固定軸の自重による撓みにより、固定軸の外側で回転するボーリングロッドと固定軸との間で接触事故の懸念がある。
【0044】
また掘進深度が深くなるとボーリングロッドと固定軸はコア採取開始前や終了後に頻繁に連結または分離されることとなりこの作業負担を軽減させるために、ボーリングロッドと固定軸は同じ長さと部位においてかつ同時に連結または分離され得る構造が要件となる。
【0045】
このため、ボーリングロッド連結部位において固定軸継ぎ手(7)を配し、固定軸を該ロッドに対し自在回転構造とし、かつ固定軸間の方位連結機能と固定軸の自重を分散させるための中間保持機能を併せ持たせる。通常長さ3mのボーリングロッド(2)は固定軸継ぎ手(7)胴体外縁において上下方に別々のボーリングロッドと螺合連結させる。
【0046】
通常のネジ加工による螺合連結では緩みや締め込みの程度により正確な方位連結ができないため、内管系は、例えば特殊な螺合機構や多角柱の凹凸形状の組み合わせによる差し込み機構など、固定軸を確実に方位連結させることができればどの様な構造でもよいが、今回の実証テストに使用した実施の一例の構造は以下のとおりである。
【0047】
即ち、固定軸継ぎ手(7)胴体内部においてベアリング支持し同軸的な自在回転構造とした固定軸継ぎ手内固定軸(31)を配し、上下方にボーリングロッドと同じ連結長さのボーリングロッド内固定軸(3)に方位連結させる。ボーリングロッド内固定軸(3)は両端に差し込み継ぎ手(24)を有し両者を螺合連結した後ネジ固定ピン(26)にて緩みを防止し、その後、同一方向を示すよう継ぎ手方位溝(25)を溝加工してある。
【0048】
固定軸継ぎ手内固定軸(31)は両端が差し込み継ぎ手(24)に差し込まれる径と長さを有し、かつ同一方向となるよう水平方向に延びる固定軸方位突起(32)を付加工している。また継ぎ手方位溝(25)は固定軸方位突起(32)の外径に緩みなく差し込まれる溝幅を有する。
【0049】
図2中のaとaを密着させるべく、両者が差し込まれかつボーリングロッドを螺合連結させることにより、ボーリングロッド(2)とボーリングロッド内固定軸(3)と固定軸継ぎ手(7)の三部材は、二重管式固定軸ボーリングロッドと称してコア採取作業において一体物の部材として扱われる。また、新たに別の二重管式固定軸ボーリングロッドを継ぎ足す(図2中のbとbを密着させる)ことにより同ロッドは長尺に延長される。これにより、孔底から地上までを長尺に繋がる二重管式固定軸ボーリングロッド内部の固定軸は方位連結され、かつ、従来のコア採取法とほぼ同等の作業手順と作業性能が実現される。
【0050】
図3は、本発明を実施するためのサンプラーヘッド部の構造説明図(一部破断正面図)の一例である。外管系はサンプラーヘッド(11)胴体外縁において下方に外管(4)、上方にボーリングロッド(2)に螺合連結する。内管系はサンプラーヘッド(11)胴体内においてベアリング支持により同軸的な自在回転構造としたサンプラーヘッド内固定軸(13)により、下方は内管方位固定ナット(14)と内管ヘッド(12)を介しコア収納を担う内管(6)に方位連結し、上方は、ボーリングロッド内固定軸(3)の下端である差し込み継ぎ手部(24)に二重管式固定軸ボーリングロッドと同じ構造にて方位連結する。
【0051】
内管(6)はコアの取り出しや分解点検などの作業上、都度脱着可能に分離させる必要があるため内管ヘッド(12)において螺合連結されている。固定軸と内管を方位連結させるため、サンプラーヘッド内固定軸(13)下部のネジ部において、内管方位刻線(16)の付した内管と螺合した内管ヘッド(12)を固定軸と同一方向に回転調整した後内管方位固定ナット(14)によるダブルナット方式にて内管ヘッド(12)を螺着固定する構造としている。
【0052】
また内管先端部においては、コアの収納を円滑に行うために幾つかの小物ツールス(図示せず)が配され、これらは全て前述の継ぎ手方位溝と固定軸方位突起と同様な同一方向を示す緩みのない差し込み方式の構造としている。以上のことにより、内管と固定軸とにより構成される内管系はすべて方位連結されることとなる。
【0053】
固定軸(3)の構成部分の方位連結を実現する連結手段は、上の構成部分と下の構成部分が互いに回動不可能に結合するようにしたものであって、上記のように、下の構成部分の周面に設けられた固定軸方位突起(32)と、上の構成部分に設けられた前記上の構成部分の端部を外嵌する差し込み継ぎ手部(24)及び前記差し込み継ぎ手部(24)に形成された前記固定軸方位突起(32)が進入する継ぎ手方位溝(25)からなるものとすることができる。なお、前記連結手段の構成は、上下の構成部分を逆にして実施してもよい。
【0054】
また、図示しないが、前記連結手段は、上下のいずれか一方の固定軸(3)の構成部分に形成された横断面形状が非円形の端部と、他方の構成部分に形成された前記一方の構成部分の端部を外嵌する継ぎ手からなるものとすることができる。前記横断面形状が非円形の端部は、例えば四角形や六角形等の多角形や、一部に突出部分のある円形、楕円形等とすることができる。
【0055】
図4は、内管系の向きを固定する機能を有する一例の固定軸方位固定部の構造説明図である。二重管式固定軸ボーリングロッドにより地上まで方位連結した固定軸(43)は、ウォータスイベル上部体(41)のパッキンしめ込みを行うウォータスイベル上部ナット(42)上方に突き出ている。
【0056】
固定軸の軸上に直立する軸方向の片平面上に突起した突起部を有する固定軸方位固定ナット(54)の突起部を、孔底の内管と方位連結している固定軸上端部と同一方向となるよう回転調整しダブルナット(56)により上下方からの螺着固定する。この突起部に回転異常検知部(57)をまたその先端に固定棒(55)を連結する。これにより固定棒は内管の向きと同一方向に突き出た棒状突起体となる。
【0057】
一方、固定溝(59)をもった固定枠(58)を掘進軸よりみて内管方位を固定しようとする任意の方位に櫓支柱などから掘進軸に対して平行に外部固定する。この固定溝に固定棒を貫挿することにより、固定棒は固定溝内を摺動可能となり、内管の向きはコア採取中において常に任意の方位に固定されることとなる。
【0058】
固定軸方位固定ナット(54)と固定棒(55)との間に、前述のコア採取中の不用意な異常を早期に察知する目的のために回転異常検知部(57)を備える。この検知部は、例えば固定棒の回転方向に引張ロードセルを組み込む電気的な検知機構も可能であるが、不用意な内管の回転を察知できればどのような構造機構でもよい。
【0059】
実証テストにおいての一例は、前述のから回し運転において把握された共回り力より若干強い強度において破壊しかつ容易に修復できる薄肉プラスチックパイプを使用した。このプラスチックパイプの径また肉厚などを変更することで破壊強度を自在に調整できる。
【0060】
コア採取中に回転異常検知部に異常が生じることは前述の不用意な異常の発生を知らせるものでありコア欠損となるため作業は中断される。掘進水停止のあと二重管式固定軸ボーリングロッドを順次揚管分離することによりサンプラーを地上に回収する。サンプラーを分解しコア詰まりなど異常原因の確認と除去を行いかつ採取したコアを内管から取り出し、正常な状態にサンプラーを組立てた後、サンプラーを孔口より孔内に挿入し、次に二重管式固定軸ボーリングロッドを順次長尺に継ぎ足すことによりサンプラーは再度所定の孔底まで下降される。前述の共回りテストの後回転異常検知部をセットし、また掘進水の供給が十分となった時点でコア採取は再開される。この異常を早期に察知できる検知部の機能により良質なコアの採取が可能となる。
【0061】
以上の実施例により、内管の回転は制止されたかつ内管の向きは任意の方位に固定されたことによる方位のわかるコアが良質なコアと同時に採取されることとなる。因みに採取コアに密着被覆したポリエチレンチュ−ブ(図6)(72)には内管方位刻線(図3)(16)と同一方向の直線マ−クが付されており、コアが内管から取り出された後はこのマ−クが固定された任意の方位を示す。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、固定軸の捻じれ角とボーリング孔の孔曲りの程度によって実用範囲は制約を受けるものの、実用範囲内においては、地盤中の面構造の走向傾斜を知るための方位のわかるコアが良質なコアと同時に採取されることとなる。汎用的なロータリ−式ボーリングマシンによる普通工法とほぼ同様な装置と手順においてボーリング孔周辺の地下地盤を確定し得るため、有益な地盤調査法となる。
【符号の説明】
【0063】
ア 二重管式サンプラー
イ 二重管式固定軸ボーリングロッド
ウ 固定軸方位固定部
1 ボーリングマシン
2 ボーリングロッド(破断正面図)
3 固定軸
4 外管(破断正面図)
5 ビット(破断正面図)
6 内管
7 固定軸継ぎ手(破断正面図)
9 ウォータスイベル
10 内管ヘッド
11 サンプラーヘッド(破断正面図)
14 内管方位固定ナット
54 固定軸方位固定ナット
55 固定棒
57 回転異常検知部
58 固定枠
59 固定溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転切削を行うビットを先端に有した外管と該外管の内側に同軸的に位置しコア収納を担う内管とを備え、外管は、上方のボーリングロッドに連結され、ボーリングロッドとともに回転するようにしており、
内管は、固定軸に連結されたものであり、固定軸は、ボーリングロッドの内側において上方に延びて外部より固定され、かつ、上下方向に連結された複数の構成部分からなるものであって、各構成部分の連結箇所には、上の構成部分と下の構成部分が互いに回動不可能に結合するようにした連結手段を設けており、ボーリングロッドの回転にともなって内菅が回転しないようにしていることを特徴とするコア採取装置。
【請求項2】
固定軸の構成部分の連結手段が、上下のいずれか一方の構成部分の周面に設けられた突起と、他方の構成部分に設けられた前記一方の構成部分の端部を外嵌する継ぎ手及び前記継ぎ手に形成された前記突起が進入する溝からなる請求項1記載のコア採取装置。
【請求項3】
固定軸の構成部分の連結手段が、上下のいずれか一方の構成部分に形成された横断面形状が非円形の端部と、他方の構成部分に形成された前記一方の構成部分の端部を外嵌する継ぎ手からなる請求項1又は2記載のコア採取装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のコア採取装置により、コア収納を担う内管の回転は制止されかつ内管の向きは任意の方位を維持したままの状態となり、この状態において切削掘進に係る構成により切削掘進を行うことを特徴とする方位のわかるコアを採取する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21462(P2011−21462A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8860(P2010−8860)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【特許番号】特許第4609783号(P4609783)
【特許公報発行日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(509191539)有限会社高知地質調査 (4)
【Fターム(参考)】