説明

方向制御削孔方法、方向制御削孔システム及び削孔システム

【課題】削孔誤差が生じるおそれのない方向制御削孔方法とする。
【解決手段】削孔管5に固定式計測装置Dnが設けられた削孔手段によって所定区間Lnの削孔を行う。次いで、削孔管5を後退及び推進させ、固定式計測装置Dnによって方位角変化量及び傾斜角を求め、これらの値に基づいて所定区間Lnの後端部に対する先端部の相対位置ΔPn-1を求め、更に孔先端部の現在位置を求める。ここで固定式計測装置は、孔先端部に一の固定式計測装置Dnが位置するときに他の所定区間先端部にそれぞれ他の固定式計測装置が位置するように、複数設けられている。そこで、一の固定式計測装置Dnによって得られた相対位置ΔPn-1とこの相対位置ΔPn-1を得る際に他の固定式計測装置によって得られた相対位置とを合算して孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間Ln+1の削孔を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適宜方向を変化させながら削孔を行う方向制御削孔方法及び方向制御削孔システム、並びに削孔システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、適宜方向を変化させながら削孔を行う方向制御削孔方法・システムが開発され、注目されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。この方法・システムを利用すると、例えば、地盤表面から既設構造物等の下方に各種管体を建て込むことができ、既設構造物等の使用を中断することなく、施工を行うことができる。そして、この方向制御削孔方法においては、曲がり可能な削孔管と、この削孔管を軸心回りに回転させる回転手段と、削孔管の先端に取り付けられたテーパービットと、を有する削孔手段によって削孔が行われる。
【0003】
削孔管の先端に取り付けられたテーパービットには、削孔管の軸心方向に対して傾斜した平坦面(受圧面)が形成されており、削孔管を推進させた際に当該受圧面が地盤から圧力を受ける。したがって、削孔管に推進力のみを与えると、受圧面が受ける圧力によって削孔管の推進方向が変化し、曲線的な削孔が行われる。他方、削孔管に推進力と伴に回転力を与えると、受圧面が受ける径方向(軸心方向に直交する方向)の圧力が相殺されるため、直線的な削孔が行われる。
【0004】
もっとも、従来の方向制御削孔方法・システムにおいては、地盤中における削孔管先端部の位置や孔の形状等を正確に把握することができなかった。そこで、本出願人は、削孔管の先端部に水平方向の角速度を検出する角速度検出手段及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出手段が備わる固定式計測装置を設けてなる方向制御削孔システムや、このシステムを利用して削孔する方向制御削孔方法を提案した(例えば、特許文献3及び特許文献4参照。)。この方向制御削孔システムを利用して削孔するにあたっては、所定区間の削孔を行った後、削孔管の回転を止めた状態で当該所定区間の分だけ削孔管を後退させ、更に当該削孔管を推進させて元の位置に戻した。また、削孔管の推進に際しては角速度検出手段によって角速度を検出し、検出した角速度を積分して方位角変化量を求め、他方で、削孔管の先端部が所定区間の先端部に位置する状態で傾斜角検出手段によって傾斜角を検出した。そして、このようにして得た方位角変化量及び傾斜角を利用して所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求め、更にこの相対位置に基づいて孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行った。この方法によると、削孔管先端部の位置や孔の形状等を把握することができるうえに、孔先端部の位置を確認しながら削孔を進めることになるため、方向制御削孔に極めて適する。
【0005】
しかしながら、この従来の方向制御削孔方法・システムによると、各所定区間において後端部に対する先端部の相対位置を求め、この相対位置を保存しておき、この保存位置を順次合算することによって現在位置を求めることになる。したがって、削孔の途中において、例えば軟弱地盤である等を原因として削孔管が動いて(ずれて)しまった場合に、計測誤差・削孔誤差が生じるおそれがある。
【0006】
この点、削孔位置を計測する装置としては、現在、加速度センサを2軸又は3軸に組み合わせ、あるいはこれに水平方向の角速度を検出するジャイロ等を組み合わせた「挿入式計測装置」の提案もされている(例えば、特許文献5及び特許文献6参照。)。この挿入式計測装置は、全削孔区間の削孔が終了した後、当該全削孔区間の計測を連続的に行うものであり、固定式計測装置を使用した場合のような計測誤差の問題は生じない。しかしながら、挿入式計測装置は、固定式計測装置のように所定区間ごとに計測(リアルタイム計測)を行い、この計測値を基準に次の所定区間の削孔を行うものではなく、特に方向を制御しながら削孔する場合には適さないとの問題を有する。
【0007】
また、以上の固定式計測装置や挿入式計測装置を使用する場合は、孔の断面形状を把握することができないため、削孔管が動いて孔が楕円形状になってしまった場合に、問題が生じるおそれがある。孔が楕円形状になると、例えば、マンシェットチューブを用いて薬液注入を行う際に(例えば、特許文献7参照。)、スリーブが孔内壁に当接しない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−194990号公報
【特許文献2】特開平8−120661号公報
【特許文献3】特開2004−183374号公報
【特許文献4】特開2004−183375号公報
【特許文献5】特許3191888号公報
【特許文献6】特開2007−205956号公報
【特許文献7】特開平9−3868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする主たる課題は、削孔誤差が生じるおそれのない方向制御削孔方法及びシステムを提供することにある。また、孔の断面形状を把握することができる削孔システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決した本発明は、次の通りである。
〔請求項1記載の発明〕
地盤に曲線的に挿入可能な削孔管と、この削孔管を回転及び進退させる回転進退手段とを有し、水平方向の角速度を検出する角速度検出手段及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出手段が備わる固定式計測装置が前記削孔管に設けられた削孔手段によって所定区間の削孔を行った後、
前記削孔管を後退させて前記固定式計測装置を前記所定区間の先端部から後端部まで移動し、更に前記削孔管を推進させて当該固定式計測装置を前記所定区間の後端部から先端部まで移動し、前記後退又は前記推進に際して前記角速度検出手段によって角速度を検出し、この検出角速度を積分して方位角変化量を求め、他方で、前記固定式計測装置が前記所定区間の先端部に位置するときに前記傾斜角検出手段によって傾斜角を検出し、前記方位角変化量及び前記傾斜角に基づいて前記所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求め、
この相対位置に基づいて前記所定区間の先端部である孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う方向制御削孔方法であって、
前記孔先端部に一の固定式計測装置が位置するときに他の所定区間先端部にそれぞれ他の固定式計測装置が位置するように、前記固定式計測装置が複数設けられており、
前記一の固定式計測装置によって得られた相対位置とこの相対位置を得る際に他の固定式計測装置によって得られた相対位置とを合算して前記孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う、
ことを特徴とする方向制御削孔方法。
【0011】
〔請求項2記載の発明〕
地盤に曲線的に挿入可能な削孔管と、この削孔管を回転及び進退させる回転進退手段とを有し、水平方向の角速度を検出する角速度検出手段及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出手段が備わる固定式計測装置が前記削孔管に設けられた削孔手段が備えられ、
この削孔手段によって所定区間の削孔を行った後、前記削孔管を後退させて前記固定式計測装置を前記所定区間の先端部から後端部まで移動し、更に前記削孔管を推進させて当該固定式計測装置を前記所定区間の後端部から先端部まで移動し、前記後退又は前記推進に際して前記角速度検出手段によって角速度を検出し、この検出角速度を積分して方位角変化量を求め、他方で、前記固定式計測装置が前記所定区間の先端部に位置するときに前記傾斜角検出手段によって傾斜角を検出し、前記方位角変化量及び前記傾斜角に基づいて前記所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求め、
この相対位置に基づいて前記所定区間の先端部である孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う構成とされた方向制御削孔システムであって、
前記孔先端部に一の固定式計測装置が位置するときに他の所定区間先端部にそれぞれ他の固定式計測装置が位置するように、前記固定式計測装置が複数設けられ、
前記一の固定式計測装置によって得られた相対位置とこの相対位置を得る際に他の固定式計測装置によって得られた相対位置とを合算して前記孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う構成とされた、
ことを特徴とする方向制御削孔システム。
【0012】
〔請求項3記載の発明〕
地盤に挿入可能な削孔管と、この削孔管を回転及び進退させる回転進退手段とを有し、水平方向の角速度を検出する角速度検出手段及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出手段が備わる固定式計測装置が前記削孔管に設けられた削孔手段が備えられ、
この削孔手段によって所定区間の削孔を行った後、前記削孔管を後退させて前記固定式計測装置を前記所定区間の先端部から後端部まで移動し、更に前記削孔管を推進させて当該固定式計測装置を前記所定区間の後端部から先端部まで移動し、前記後退又は前記推進に際して前記角速度検出手段によって角速度を検出し、この検出角速度を積分して方位角変化量を求め、他方で、前記固定式計測装置が前記所定区間の先端部に位置するときに前記傾斜角検出手段によって傾斜角を検出し、前記方位角変化量及び前記傾斜角に基づいて前記所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求め、
この相対位置に基づいて前記所定区間先端部の現在位置を求める構成とされた削孔システムであって、
一の所定区間先端部に一の固定式計測装置が位置するときに他の所定区間先端部にそれぞれ他の固定式計測装置が位置するように、前記固定式計測装置が複数設けられ、
前記一の固定式計測装置によって得られた相対位置とこの相対位置を得る際に他の固定式計測装置によって得られた相対位置とに基づいて前記一の所定区間先端部の現在位置を求め、この現在位置を保存し、
この保存位置と、次の所定区間の削孔を行った際に得られた前記一の所定区間先端部の現在位置とを比較可能な構成とされた、
ことを特徴とする削孔システム。
【0013】
(主な作用効果)
所定区間の削孔を行うごとに当該所定区間先端部(孔先端部)の現在位置を固定式計測装置によって求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う方法やシステムは、方向制御削孔に適する。しかしながら、従来の当該方法やシステムは、例えば、図6の(1)に示すように、所定区間L2の削孔を行った後、当該所定区間L2先端部(孔先端部)の現在位置B2を求め、この現在位置B2を保存しておき、図6の(2)に示すように、次の所定区間L3の削孔を行った後、当該所定区間L3先端部(孔先端部)の相対位置を求め、この相対位置を前記保存位置(保存した現在位置)B2に合算して孔先端部の現在位置を求めるものであった。したがって、削孔管5が動いてしまった場合は、保存位置B2と真の位置B2´との間にずれが生じるため、保存位置B2に相対位置を合算して得た算出位置B3と真の位置B3´との間に誤差(計測誤差)が生じることになる。
しかるに、図7の(1)に示すように、孔先端部(所定区間L2先端部)に一の固定式計測装置D4が位置するときに他の所定区間L1先端部に他の固定式計測装置D3が位置するように、固定式計測装置が複数設けられていると、当該計測誤差の問題が生じない。すなわち、この方法・システムにおいては、図7の(2)から明らかなように、次の所定区間L3先端部(孔先端部)の相対位置を求める際に、他の所定区間L1,L2先端部の相対位置もそれぞれ求めることができ、保存位置A2ではなく真の位置A2´に対して次の所定区間L3先端部の相対位置を合算することができる。したがって、孔先端部の真の位置A3´を正確に求めることができ、削孔誤差が生じるおそれがない。また、この方法・システムにおいては、保存位置A2と真の位置A2´とを比較することによって、孔Hの断面形状を把握することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、削孔誤差が生じるおそれのない方向制御削孔方法及びシステムとなる。また、孔の断面形状を把握することができる削孔システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】削孔状態の断面概要図である。
【図2】方向制御の方法を説明するための図である。
【図3】相対位置から現在位置を求める方法を説明するための図である。
【図4】削孔要領を説明するための断面模式図である。
【図5】相対位置を求める方法を説明するための図である。
【図6】従来の方法・システムの説明図である。
【図7】本形態の方法・システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
本形態の方向制御削孔システムには、図1に示すように、地盤Gに曲線的に挿入可能な削孔管5及び図示しない回転進退手段を有する削孔手段が備えられている。回転進退手段は、削孔管5を軸心回り回転させ、また、推進及び後退(進退)させる装置である。削孔管5の例えば内空部には、水平方向の角速度を検出する角速度検出手段AD及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出手段BDが備わる固定式計測装置Dが内蔵されている。
【0017】
削孔管5は鋼管等の曲がる材料によって主に形成されているが、削孔管5の固定式計測装置Dが内蔵された部位は、当該固定式計測装置Dが破壊等されないよう曲がらない材料によって形成されているのが好ましい。ただし、このように材料を異なるものとせず、例えば管厚、管径等を異なるものとすることによって曲がる部位、曲がらない部位、曲がり易い部位、曲がり難い部位等を形成することもできる。また、削孔管5は、地盤Gに挿入(削孔)するに際して単位管を直列接続することによって構築することができ、曲がる単位管、曲がらない単位管、曲がり易い単位管、曲がり難い単位管等を適宜接続することによって曲がる部位、曲がらない部位、曲がり易い部位、曲がり難い部位等を形成することもできる。単位管としては、例えば、一端部に雌ネジが形成され、他端部に雄ネジが形成されており、相互に隣接する単位管を螺合することによって接続(連結)することができるものを使用することができる。削孔管5の内径や外径は特に限定されず、例えば外径5〜20cmとすることができる。また、曲がらない部位や曲がり難い部位の長さは、例えば軸方向に10〜50cmとすることができる。
【0018】
削孔管5の先端には、図2にも示すように、軸心方向に対して傾斜した平坦面(受圧面)60を有するテーパービット6が取り付けられている。テーパービット6は、円柱の頭部側が軸方向に対して斜め方向にカットされ、このカット面が受圧面60とされた形状とされている。テーパービット6は、例えば鋳造等によって製造することができる。
【0019】
本形態の方向制御削孔方法においては、テーパービット6を用いて削孔管5の削孔方向(推進方向)を制御することができる。具体的には、削孔管5を曲線推進させる場合は、図2の(a)に示すように、削孔管5の回転を止め、当該削孔管5に推進力のみを与える。この際、受圧面60は、その先端縁が削孔管5の軸心に対して推進させる側(曲げる側)に位置する状態としておく。この状態で削孔管5に推進力を与えると、受圧面60が地盤Gから受ける圧力を逃すために削孔管5が受圧面60の先端縁側に曲線推進する。この曲線推進は、三次元的に行うことができ、例えば削孔管5を鉛直面方向に曲げるだけではなく、水平面方向に曲げることもできる。
【0020】
一方、削孔管5を直線推進させる場合は、図2の(b)に示すように、削孔管5を軸心回りに回転させながら、当該削孔管5に推進力を与える。削孔管5を軸心回りに回転させることで受圧面60が地盤Gから受ける径方向の圧力が相殺され、軸心方向の圧力のみとなり、削孔管5が直線推進する。
【0021】
図1に示す例では、削孔管5を地盤Gの表面(地表面)から目標層まで曲線状に推進させ、その後、目標層内を水平方向に直線推進させた状態を示している。削孔管5は、この状態で削孔終了とすることや、更に地盤Gの表面に向かって曲線推進させたり、立坑内に向かって直線推進させたりすること等ができる。
【0022】
本形態の方向制御削孔方法やシステムは、例えば、集水管や排水管、下水管、水道管、ガス管、各種ケーブル等を通す地中管等を地盤G中に非開削で設置する場合等に適用することができるほか、地盤G中に薬液注入管を挿入する場合等にも適用することができる。
【0023】
固定式計測装置Dの角速度検出手段ADとしては、レートジャイロ等の各種ジャイロを用いた少なくとも1軸の装置を使用することができる。もっとも、角速度検出手段ADを内蔵した削孔管5が回転や捩れ等によってローリングしてしまうと、水平方向の方位角に計測誤差が生じる可能性がある。したがって、削孔管5のロール角を検出するジャイロ等を別途設け、この検出値に基づいて水平方向の方位角を補正するのが好ましい。なお、ロール角の検出によって、例えば受圧面60の向きも把握することができるようになる。
【0024】
一方、固定式計測装置Dの傾斜角検出手段BDとしては、例えば三軸静加速度センサ(相互に直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の重力加速度を検出するセンサ)を使用することができる。このセンサを使用した場合は、検出された各軸方向の重力加速度を次式に代入することによって傾斜角を算出することができる。
傾斜角=tan-1(((X軸重力加速度)2+(Z軸重力加速度)21/2/Y軸重力加速度)
【0025】
角速度検出手段AD及び傾斜角検出手段BDの基準軸は、演算を簡素化するために、削孔管5の軸心(回転中心軸)に一致させるのが好ましい。また、角速度検出手段ADや傾斜角検出手段BDは、信号送受信装置やスリップリング等を介して図示しない信号伝送用電線(信号線)に電気的に接続される。この信号線は、例えば、削孔管5内を通され、削孔管5の基端部(後端部)から削孔管5外に導出され、図示しない外部制御装置等に接続される。当該信号線は、角速度検出手段ADや傾斜角検出手段BDからの検出信号を伝送するために利用することができるとともに、角速度検出手段ADや傾斜角検出手段BDに電力を供給するためにも利用することができる。また、角速度検出手段ADや傾斜角検出手段BDからの検出信号は、無線方式で伝送することもできる。無線方式とする場合、角速度検出手段ADや傾斜角検出手段BDの電力は、充電池等を利用して供給することができる。
【0026】
本形態の固定式計測装置Dは、図1に示すように、削孔管5に対して軸方向に間隔をおいて複数設けられている。相互に隣接する固定式計測装置D間の距離は、同じであっても、異なっていてもよい。ただし、図3の(1)に示すように、孔先端部(所定区間Lnの先端部)5F(図1参照)に一の固定式計測装置Dnが位置するときに他の所定区間L1〜Ln-1の先端部にそれぞれ他の固定式計測装置D1〜Dn-1が位置する状態になるように少なくとも設けられる。
【0027】
このように固定式計測装置Dが複数設けられた削孔システムを利用して削孔を行うにあたっては、まず、所定区間L1の削孔を行い、この段階でいったん削孔管5の後退及び推進を行う。この後退及び推進に際しては、所定区間L1の後端部(削孔管5の挿入部)に対する先端部の相対位置を求め、この相対位置に基づいて所定区間L1先端部の現在位置を求める。
【0028】
より詳細には、まず、図4の(A)に示すように、削孔管5を地盤Gの表面に臨ませ、図4の(B)に示すように、必要により削孔管5を回転させながら所定区間L1の削孔を行う。次に、図4の(C)に示すように、回転を止めた状態で削孔管5を後退させて削孔管先端部5Fに内蔵された固定式計測装置Dを所定区間L1の先端部から後端部まで移動する。次に、図4の(D)に示すように、回転を止めた状態で削孔管5を推進させて固定計測装置Dを所定区間L1の後端部から先端部まで移動する。
【0029】
以上の削孔管5の後退(図4の(C))又は推進(図4の(D))に際しては、角速度検出手段ADによって角速度を検出する。検出された角速度は、積分して所定区間L1における水平方向の方位角変化量を求める。角速度の検出は、削孔管5の後退に際して行っても、削孔管5の推進に際して行ってもよいが、推進に際して行う方が好ましい。角速度の検出を削孔管5の後退に際して行うと、その後の削孔管5の推進に際して削孔管5が動いて(ずれて)しまった場合に、計測誤差が生じるおそれがある。
【0030】
一方、固定式計測装置Dが所定区間L1の先端部に位置するときに傾斜角検出手段BDによって傾斜角を検出する。この傾斜角の検出は、削孔管5を後退する前(図4の(B)の状態)に行うこともできるが、削孔管5を後退及び推進した後に行う方が好ましい。削孔管5を後退する前に行うと、その後の削孔管5の後退及び推進に際して削孔管5が動いて(ずれて)しまった場合に、計測誤差が生じるおそれがある。なお、所定区間L1の後端部(削孔管5の挿入部)は、原点となるため、傾斜角検出手段BDによる傾斜角の検出は不要である。
【0031】
以上のようにして方位角変化量及び傾斜角を得たら、これらの値に基づいて所定区間L1の後端部に対する先端部の相対位置を求め、この相対位置に基づいて所定区間L1先端部の現在位置を求める。そして、この現在位置に基づいて、図4の(E)〜(G)に示すように、必要により削孔管(単位管)5に他の単位管5Aを継ぎ足し、次の所定区間L2について同様の作業を行う。以後、所定区間ごとに、同様の作業を繰り返す。この際、必要に応じて単位管を継ぎ足しながら作業を行う。なお、図4は直線的に削孔を行う場合を示しているが、曲線的に削孔を行う場合も同様である。
【0032】
ここで方位角変化量及び傾斜角に基づいて、各所定区間L1,L2…の後端部に対する先端部の相対位置を求める方法について説明する。
【0033】
例えば、図5に示すように、X軸、Y軸及びZ軸(鉛直方向)からなる三次元直交座標の原点位置から削孔を行い、i番目の所定区間Liの削孔並びに方位角変化量及び傾斜角の算出を終えたとする。この場合、所定区間Li先端部の位置座標は、接線法等の公知の坑跡計算方法を用いると次の通りとなる。
i=Xi-1−Sisin・VisinΣWn(n=1〜i)
i=Yi-1+Sisin・VicosΣWn(n=1〜i)
i=Zi-1+Sicos・Vi
ここで、Siは所定区間Liの距離であり、削孔管5の回転進退手段にストローク計を取り付ける等して計測することができる。また、Viは、所定区間Li先端部のZ軸方向に対する傾斜角(絶対的な傾斜角)であり、傾斜角検出手段BDによって検出される。さらに、Wiは、所定区間L1における水平方向の方位角変化量であり、角速度検出手段ADによって検出される角速度を積分することによって算出される。また、Xi,Yi,Ziは、それぞれ所定区間Li先端部のX座標,Y座標,Z座標であり、Xi-1,Yi-1,Zi-1は、それぞれ所定区間Li-1先端部のX座標,Y座標,Z座標である。したがって、相対位置(ΔXi-1,ΔYi-1,ΔZi-1)は、次の通りとなる。
ΔXi-1=Xi−Xi-1=−Sisin・VisinΣWn(n=1〜i)
ΔYi-1=Yi−Yi-1=Sisin・VicosΣWn(n=1〜i)
ΔZi-1=Zi−Zi-1=Sicos・Vi
【0034】
次に、このようにして算出した相対位置から現在位置を求める方法について説明する。
図3の(1)には、所定区間Lnの削孔が終了した状態を示している。この状態においては、所定区間Lnの先端部に固定式計測装置Dnが位置しており、所定区間Ln-1の先端部に固定式計測装置Dn-1が位置している。更に削孔管5の基端部(後端部)に向かって同様に各所定区間の先端部に固定式計測装置が位置しており、所定区間L2の先端部に固定式計測装置D2が、所定区間L1の先端部に固定式計測装置D1が、それぞれ位置している。
【0035】
この状態から、図3の(2)に示すように、削孔管5を後退させ、更に図3の(3)に示すように、削孔管5を推進させる。この後退又は推進に際しては、固定式計測装置Dnに備わる角速度検出手段ADによって角速度を検出し、この角速度を積分して所定区間Lnの方位角変化量(Wn)を求める。また、固定式計測装置Dnが所定区間Lnの先端部に位置するときに固定式計測装置Dnに備わる傾斜角検出手段BDによって傾斜角(Vn)を検出する。そして、上記した相対位置の算出方法を用いて、方位角変化量(Wn)及び傾斜角(Vn)から所定区間Lnの後端部に対する先端部の相対位置ΔPn-1(ΔXn-1,ΔYn-1,ΔZn-1)を算出する。
【0036】
また、以上の削孔管5の後退又は推進に際しては、固定式計測装置Dnー1によって所定区間Ln-1の後端部に対する先端部の相対位置ΔPn-2(ΔXn-2,ΔYn-2,ΔZn-2)を算出する。更に削孔管5の基端部(後端部)に向かって同様に各所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を算出し、固定式計測装置D2によって所定区間L2の後端部に対する先端部の相対位置ΔP1を算出し、固定式計測装置D1によって所定区間L1の後端部に対する先端部の相対位置ΔP0を算出する。
【0037】
以上の算出値に基づくと、所定区間L1先端部の現在位置P0´を次の式で求めることができる。
0´=P0+ΔP0
ここで、P0は地盤Gに対する削孔管5の挿入位置を示す。
次に、当該現在位置P0´に基づくと次の所定区間L2先端部の現在位置P1´を次の式で求めることができる。
1´=P0´+ΔP1
同様にして、所定区間L3先端部の現在位置P2´、所定区間L4先端部の現在位置P3´等も求めることができる。この算出を繰り返すことにより、所定区間Ln先端部の現在位置Pn-1´は、次の式で求めることができる。
n-1´=P0+ΣΔPi(i=0〜n−1)
本方法において、相対位置ΔP0〜ΔPn-2は、一の固定式計測装置Dnを利用して相対位置ΔPn-1を求める際に、他の固定式計測装置D1〜Dn-1を利用して求められた値である。したがって、相対位置ΔP0〜ΔPn-2は、削孔管5が動いたとしても、動いた後の現況を示しており、相対位置ΔP0〜ΔPn-1を合算して得た現在位置Pn-1´は、孔先端部の位置を正確に示すことになる。結果、この現在位置を基準として次の削孔を行う本形態の削孔方法・削孔システムにおいては、削孔誤差が生じるおそれがない。
【0038】
以上のようにして算出した位置座標は、適宜図形化する等してディスプレイ装置や印刷装置等に出力することができる。この出力にあたっては、例えば、特開2003−85594号公報等を参照することができる。
【0039】
ところで、以上では、孔先端部の現在位置を正確に算出し、この算出値を基準に次の削孔を行う場合について説明したが、本形態の方法・システムは、他にも有益な用途がある。すなわち、上記した方法によると、孔先端部(所定区間Ln先端部)の現在位置を求めるのと同時に、他の所定区間L1〜Ln-1先端部の現在位置も正確に求められる。そこで、所定区間L1〜Ln先端部の現在位置を保存し、この保存位置と、例えば、次の所定区間Ln+1の削孔を行った際に得られた各所定区間L1〜Ln先端部の現在位置とを比較可能な構成としておけば、各地点における位置のずれを考察することによって孔Hの断面形状を把握することができる。例えば、図7の(2)中に拡大して示すように、現在位置が上方にずれたようであれば、孔Hが縦長楕円形状に変形していることが推定される。このような場合、例えば、マンシェットチューブを用いて薬液注入を行う際にスリーブが孔内壁に当接しないことが予想されるため、予め対策をとることが可能になる。なお、この孔Hの断面形状把握は、削孔管5が地盤Gに曲線的に挿入可能である場合にのみ適用されるものではなく、したがって方向制御削孔以外の削孔においても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、適宜方向を変化させながら削孔を行う方向制御削孔方法及び方向制御削孔システム、並びに削孔システムとして適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
5…削孔管、5F…孔先端部、6…テーパービット、60…受圧面、AD…角速度検出センサ、BD…傾斜角検出センサ、D…固定式計測装置、G…地盤、H…孔、L…所定区間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に曲線的に挿入可能な削孔管と、この削孔管を回転及び進退させる回転進退手段とを有し、水平方向の角速度を検出する角速度検出手段及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出手段が備わる固定式計測装置が前記削孔管に設けられた削孔手段によって所定区間の削孔を行った後、
前記削孔管を後退させて前記固定式計測装置を前記所定区間の先端部から後端部まで移動し、更に前記削孔管を推進させて当該固定式計測装置を前記所定区間の後端部から先端部まで移動し、前記後退又は前記推進に際して前記角速度検出手段によって角速度を検出し、この検出角速度を積分して方位角変化量を求め、他方で、前記固定式計測装置が前記所定区間の先端部に位置するときに前記傾斜角検出手段によって傾斜角を検出し、前記方位角変化量及び前記傾斜角に基づいて前記所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求め、
この相対位置に基づいて前記所定区間の先端部である孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う方向制御削孔方法であって、
前記孔先端部に一の固定式計測装置が位置するときに他の所定区間先端部にそれぞれ他の固定式計測装置が位置するように、前記固定式計測装置が複数設けられており、
前記一の固定式計測装置によって得られた相対位置とこの相対位置を得る際に他の固定式計測装置によって得られた相対位置とを合算して前記孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う、
ことを特徴とする方向制御削孔方法。
【請求項2】
地盤に曲線的に挿入可能な削孔管と、この削孔管を回転及び進退させる回転進退手段とを有し、水平方向の角速度を検出する角速度検出手段及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出手段が備わる固定式計測装置が前記削孔管に設けられた削孔手段が備えられ、
この削孔手段によって所定区間の削孔を行った後、前記削孔管を後退させて前記固定式計測装置を前記所定区間の先端部から後端部まで移動し、更に前記削孔管を推進させて当該固定式計測装置を前記所定区間の後端部から先端部まで移動し、前記後退又は前記推進に際して前記角速度検出手段によって角速度を検出し、この検出角速度を積分して方位角変化量を求め、他方で、前記固定式計測装置が前記所定区間の先端部に位置するときに前記傾斜角検出手段によって傾斜角を検出し、前記方位角変化量及び前記傾斜角に基づいて前記所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求め、
この相対位置に基づいて前記所定区間の先端部である孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う構成とされた方向制御削孔システムであって、
前記孔先端部に一の固定式計測装置が位置するときに他の所定区間先端部にそれぞれ他の固定式計測装置が位置するように、前記固定式計測装置が複数設けられ、
前記一の固定式計測装置によって得られた相対位置とこの相対位置を得る際に他の固定式計測装置によって得られた相対位置とを合算して前記孔先端部の現在位置を求め、この現在位置を基準に次の所定区間の削孔を行う構成とされた、
ことを特徴とする方向制御削孔システム。
【請求項3】
地盤に挿入可能な削孔管と、この削孔管を回転及び進退させる回転進退手段とを有し、水平方向の角速度を検出する角速度検出手段及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出手段が備わる固定式計測装置が前記削孔管に設けられた削孔手段が備えられ、
この削孔手段によって所定区間の削孔を行った後、前記削孔管を後退させて前記固定式計測装置を前記所定区間の先端部から後端部まで移動し、更に前記削孔管を推進させて当該固定式計測装置を前記所定区間の後端部から先端部まで移動し、前記後退又は前記推進に際して前記角速度検出手段によって角速度を検出し、この検出角速度を積分して方位角変化量を求め、他方で、前記固定式計測装置が前記所定区間の先端部に位置するときに前記傾斜角検出手段によって傾斜角を検出し、前記方位角変化量及び前記傾斜角に基づいて前記所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求め、
この相対位置に基づいて前記所定区間先端部の現在位置を求める構成とされた削孔システムであって、
一の所定区間先端部に一の固定式計測装置が位置するときに他の所定区間先端部にそれぞれ他の固定式計測装置が位置するように、前記固定式計測装置が複数設けられ、
前記一の固定式計測装置によって得られた相対位置とこの相対位置を得る際に他の固定式計測装置によって得られた相対位置とに基づいて前記一の所定区間先端部の現在位置を求め、この現在位置を保存し、
この保存位置と、次の所定区間の削孔を行った際に得られた前記一の所定区間先端部の現在位置とを比較可能な構成とされた、
ことを特徴とする削孔システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11074(P2013−11074A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143190(P2011−143190)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】