説明

既設コンクリート橋脚の耐震補強工法

【課題】橋脚周囲土壌を深くまで掘削することなく、止水壁を形成する必要がない、施工期間を短縮でき、施工費用が低コストとなる既設コンクリート橋脚の耐震補強工法を提供することを目的とする。
【解決手段】既設コンクリート橋脚の耐震補強工法において、既設コンクリート橋脚の地上部近傍又は水上部の外周部から斜め下方に安定地盤に達する孔を形成し、前記孔の中に鋼材からなる補強部材及び固化材を充填して固化させ、補強部材の他端を橋脚躯体の地上部近傍又は水上部の外周に固定し一体化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のコンクリート橋脚の耐震補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大地震により高架橋等のコンクリート橋脚が甚大な被害を受ける事案が多数発生し、既設のコンクリート橋脚の耐震性能の向上の必要性が求められている。従来の既設のコンクリート橋脚の耐震補強工法として、特開平9−71908号には、既設のコンクリート橋脚の周囲土壌をフーチングまで掘削し、橋脚躯体の周壁を鋼板からなる補強筒体で囲繞し、橋脚躯体の周壁と補強筒体との間の環状空間に複合ポリマーエマルジョンを主剤とする接着剤を充填し、橋脚躯体と補強筒体を一体化する既設コンクリート橋脚の耐震補強工法が開示されている。
【0003】
また、特開2001−107319号公報には、既設のコンクリート橋脚の周囲土壌をフーチングまで掘削し、橋脚躯体の外周に鉄筋コンクリートからなる耐震補強部を巻き立て、耐震補強部と橋脚躯体とを複数のアンカーボルトで連結して一体化する既設コンクリート橋脚の耐震補強工法が開示されている。
【特許文献1】特開平9−71908号公報
【特許文献2】特開2001−107319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法は、橋脚躯体の周囲土壌をフーチングまで深く掘削しなければならず、掘削の為、重機が必要であり、さらに、掘削された環状空間の保持のためや、橋脚が水中から伸びている場合は、橋脚の耐震補強箇所をドライな環境にするため、鋼矢板を連結した止水壁を形成する必要があり、施工期間が長期化し施工コストが高価になるという問題がある。特に、コンクリート橋脚が河川の堤防に構築されている場合、堤防を掘削するためには、工事期間中の河川の洪水対策として既存の堤防の外側に仮堤防を構築しなければならず、施工期間の長期化と莫大な施工費が必要となる。
【0005】
本発明は、前記課題を解決する、橋脚周囲土壌を深くまで掘削することなく、止水壁を形成する必要がない、施工期間の短縮化と、施工コストの低減化を実現可能な既設コンクリート橋脚の耐震補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本第1発明は、前記課題を解決するために、既設コンクリート橋脚の耐震補強工法において、既設コンクリート橋脚の地上部近傍又は水上部の外周部から斜め下方に安定地盤に達する孔を形成し、前記孔の中に鋼材からなる補強部材及び固化材を充填して固化させ、補強部材の他端を橋脚躯体の地上部近傍又は水上部の外周に固定し一体化することを特徴とする。なお、地上部近傍とは、地上部の周囲地盤を浅く根切りしてその外周面から孔を形成することも含むことを意味する。
【0007】
本第2発明は、本第1発明の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法において、前記補強部材の先端にアンカー部を備えることを特徴とする。
【0008】
本第3発明は、本第1又は第2発明の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法において、前記孔が橋脚躯体を斜め方向に貫通し延伸し、前記橋脚躯体の貫通孔に挿入される補強部材を橋脚躯体に固定し一体化することを特徴とする。
【0009】
本第4発明は、本第1又は第2発明の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法において、前記孔が橋脚躯体の外周に沿って斜め方向に延伸し、前記孔の中に挿入される補強部材の端部を橋脚躯体の地上部近傍又は水上部に固定されたブラケットに固定し一体化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
既設コンクリート橋脚の耐震補強工法において、既設コンクリート橋脚の地上部近傍又は水上部の外周部から斜め下方に安定地盤に達する孔を形成し、前記孔の中に鋼材からなる補強部材及び固化材を充填して固化させ、補強部材の他端を橋脚躯体の地上部近傍又は水上部の外周に固定し一体化する構成により、橋脚周囲の土壌の深くまでの掘削や止水壁の構築の必要がなく、既設コンクリート橋脚の地震時にかかる応力を、補強部材を通して支持地盤に負担させることにより大幅に耐震性能を向上することができ、施工期間が短く、施工コストの安価な既設コンクリート橋脚の耐震補強工法を提供することができる。
補強部材の先端にアンカー部を備える構成により、補強部材の引き抜き抵抗が増大し一層耐震性能が向上することができる。
孔が橋脚躯体を斜め方向に貫通し延伸し、前記橋脚躯体の貫通孔に挿入される補強部材を橋脚躯体に固定し一体化する構成により、橋脚躯体と補強部材との一体化を強固なものとすることができる。
孔が橋脚躯体の外周に沿って斜め方向に延伸し、前記削孔に挿入される補強部材の端部を橋脚躯体の地上部近傍又は水上部に固定されたブラケットに固定し一体化する構成により、コンクリートへの削孔作業がなく、地盤改良掘削機等の簡易な掘削装置を使用でき、より安価な耐震補強の施工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を図により説明する。図1(a)(b)(c)は、既設コンクリート橋脚の設置状態を示すものである。図において、1はコンクリート橋脚躯体、2は、上部桁、3はフーチングである。図1(a)は、コンクリート橋脚躯体1の上部まで地下に埋設された状態を示し、図1(b)は、コンクリート橋脚1が水中から立設している状態を示し、図1(c)は、コンクリート橋脚躯体1が河川等の堤防から立設している状態を示すものである。
【0012】
このような状態で立設している既設コンクリート橋脚の耐震補強工法として、従来、既設のコンクリート橋脚躯体の周囲土壌をフーチング3まで掘削し、コンクリート橋脚躯体の周壁を鋼板からなる補強筒体で囲繞し、コンクリート橋脚躯体の周壁と補強筒体との間の環状空間にモルタル等を充填し、コンクリート橋脚躯体と補強筒体を一体化するものや、既設のコンクリート橋脚躯体の周囲土壌をフーチング3まで掘削し、コンクリート橋脚躯体の外周に鉄筋コンクリートからなる耐震補強部を巻き立て、耐震補強部とコンクリート橋脚躯体とを複数のアンカーボルトで連結して一体化するものが知られている。従来工法では、図1(a)の状態では、コンクリート橋脚躯体1の下部のフーチング3まで掘削する必要があり、掘削のための重機が必要であり、施工期間が長期化し、施工コストが高価になる。図1(b)の状態では、コンクリート橋脚躯体1が水中から立設しているため、コンクリート橋脚躯体1の周囲を補強するためコンクリート橋脚躯体1の外周をドライな作業空間とする必要があり、コンクリート橋脚躯体1の外周に鋼矢板を連設した止水壁を構築しなければならず、施工期間が長期となり施工コストが高価になる。図1(c)の状態では、コンクリート橋脚躯体1が河川等の堤防に立設しているため、コンクリート橋脚躯体1の耐震補強のため堤防を掘削する必要があり、工事中の洪水を防止するために既存の堤防の外側に仮堤防を構築しなければならず、施工期間の長期化と莫大な施工費を必要とする。
【0013】
図2は、従来の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法のもつ課題を解決する本発明の第1実施形態の耐震補強工法の施工後の状態を示すものである。本発明の第1実施形態の耐震補強工法の特徴は、コンクリート橋脚躯体1の周囲の土壌の深くまでの掘削や止水壁の構築の必要のない既設コンクリート橋脚の耐震補強工法としたことである。
【0014】
そのため、コンクリート橋脚躯体1の地上部近傍又は水上部の外周部から、削孔装置により、斜め下方にコンクリート橋脚躯体1を貫通した貫通孔4と、コンクリート橋脚躯体1の周囲地盤から安定地盤まで伸びる孔5を形成する。貫通孔4は、コンクリート橋脚躯体1の地上部近傍又は水上部の外周部の位置から1本又は複数本形成する。貫通孔4及び削孔5の径、本数は、コンクリート橋脚躯体1の断面形状、断面積、フーチング3からの高さ等を考慮した耐震補強設計により決定する。
【0015】
コンクリート橋脚躯体1の貫通孔4の削孔装置としては、コンクリート橋脚躯体1の周囲の地盤の安定度や、傾斜や、作業空間の確保等の条件により決定する。コンクリート橋脚躯体1が水中から立設している場合や、周囲地盤が傾斜しているような場合や、作業空間が狭いような場合、コンクリート橋脚躯体1の周囲地盤を浅く掘削したり、コンクリート橋脚躯体1の周囲に足場を構築して削孔作業を実施する。
【0016】
コンクリート橋脚躯体1への貫通孔4の削孔作業が終了し、コンクリート橋脚躯体1の周囲地盤から安定地盤に伸びる孔5の削孔作業は、前記コンクリート橋脚躯体1への貫通孔4の削孔に用いた削孔装置を用いても良いが、前記貫通孔4をガイドとして地盤改良掘削機のような簡易な掘削機を用いても良い。安定地盤まで掘削後、必要に応じて安定地盤中に拡径部6を形成する。拡径部6を形成するために、拡径刃又は圧力流体を噴射するノズルを削孔装置又は地盤改良掘削機に備え、モルタル等の固化材7を供給しつつ周囲地盤の土壌と固化材7を拡径刃等で攪拌混合する。拡径部6への固化材7の注入攪拌が終了後、削孔装置又は地盤改良掘削機は、拡径刃を縮径又は圧力流体の噴射をストップし、固化材7を削孔5に充填しながら引き抜く。
【0017】
前記拡径部6と孔5中の固化材7が固化する前に、コンクリート橋脚躯体1中の貫通孔4を通して補強部材8を拡径部6まで挿入する。孔5の拡径部6に位置する補強部材8の先端には、拡開式等のアンカー部9を備えると補強部材8の引き抜き抵抗が増大するので耐震補強の見地から望ましい。補強部材8としては、地震時のコンクリート橋脚躯体1にかかる応力を支持地盤に伝達し負担してもらう機能を果たすため所定の圧縮強度と張り強度とを備えた鉄筋等の鋼材とすることが望ましい。
【0018】
拡径部6、削孔5への補強部材8の固定が終了後、貫通孔4と補強部材8との環状空間に、モルタル、エポキシ樹脂等の樹脂系接着剤、モルタルと樹脂系接着剤との混合物等から選択される貫通孔固化材10を充填し固化させる。貫通孔固化材10の固化後、補強部材8のコンクリート橋脚躯体1の地上部近傍又は水上部の端部と定着材11を、溶接、接着剤等の固定手段により固定し一体化する。そうすることで、補強部材8の外周面からの露出による外見の悪さを解決すると共に、補強部材5の大気中への露出による腐食を防止できる。
【0019】
図3は、本発明の第2実施形態の耐震補強の施工後の状態を示すものである。第2実施形態では、コンクリート橋脚躯体1中への貫通孔4を形成することなく、コンクリート橋脚躯体1の地上部近傍又は水上部の外周部の位置から外周面に沿って、斜め下方に周囲地盤から安定地盤まで伸びる孔5を形成する。拡径部6の形成と固化材7の充填固化作業は、第1実施形態と同様である。第1実施形態と異なるのは、コンクリート橋脚躯体1の地上部又は水上部の外周部と補強部材8の端部との固定一体化の構成である。第2実施形態では、コンクリート橋脚躯体1の地上部近傍又は水上部の外周部にブラケット12を固定し、ブラケット12と補強部材8の端部とを溶接等の固定手段により固定する。第2実施形態においては、コンクリートへの削孔作業を必要とせず、地盤掘削のみなので、地盤改良掘削機等の簡易掘削機での施工が可能であるので、より安価な既設コンクリート橋脚の耐震補強工法を提供できる。
【0020】
上記のように、本発明の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法は、橋脚躯体1の周囲の地盤の深くまでの掘削や、橋脚躯体1周囲への止水壁の構築の必要がなく、既設コンクリート橋脚の地上部近傍又は水上部の外周部と斜め下方に安定地盤に伸びる補強部材により地震時にコンクリート橋脚躯体にかかる応力を、補強部材を通して安定地盤に負担させることにより、既設コンクリート橋脚の耐震性能が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)(b)(c)本発明の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1:コンクリート橋脚躯体
2:上部桁
3:フーチング
4:貫通孔
5:孔
6:拡径部
7: 固化材
8:補強部材
9:アンカー部
10:貫通孔固化材
11:定着材
12:ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート橋脚の地上部近傍又は水上部の外周部から斜め下方に安定地盤に達する孔を形成し、前記孔の中に鋼材からなる補強部材及び固化材を充填して固化させ、補強部材の他端を橋脚躯体の地上部近傍又は水上部の外周に固定し一体化することを特徴とする既設コンクリート橋脚の耐震補強工法。
【請求項2】
前記補強部材の先端にアンカー部を備えることを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法。
【請求項3】
前記孔が橋脚躯体を斜め方向に貫通し延伸し、前記橋脚躯体の貫通孔に挿入される補強部材を橋脚躯体に固定し一体化することを特徴とする請求項1又は2に記載の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法。
【請求項4】
前記孔が橋脚躯体の外周に沿って斜め方向に延伸し、前記孔に挿入される補強部材の端部を橋脚躯体の地上部近傍又は水上部の外周に固定されたブラケットに固定し一体化することを特徴とする請求項1又は2に記載の既設コンクリート橋脚の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−211408(P2007−211408A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29455(P2006−29455)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】