説明

既設杭撤去方法及びその装置

【課題】地中に埋設された長さ・重量が大きい既設杭を容易に撤去することが可能な既設杭撤去方法を提供する。
【解決手段】地中G1 に埋設された既設杭30の周囲を掘るための掘削刃1を有するケーシング2を、ケーシング回転昇降装置6にて、回転させつつ下降させて、所定の深度まで掘削し、ケーシング2の下端部2aに設けられた既設杭切断刃3を、下端部2aの内面から突出させて既設杭30を切断し、既設杭切断刃3によって切断された既設杭30のうち切断部より上方の部分を、クレーンから吊下げられて開閉するグラブ78を有する掴持装置77のこのグラブ78にて掴持して、ケーシング2の上方開口部80から取出し、その後、ケーシング2を回転しつつ下降させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設杭撤去方法及びその装置に係り、特に、地中に埋設された不要の杭を撤去するための既設杭撤去方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の立て替え等を行う場合、古い建築構造物を解体撤去するだけでなく、地中に埋設されている不要となった既設杭の撤去を行う必要がある。地中に打ち込まれた既設杭は、長年の間に地盤に固着安定され、その引抜きには巨大な引抜力が必要となる。従来では、このような既設杭を引抜き撤去する場合、杭引抜機のリーダに沿って昇降するオーガマシンにより回転駆動されるケーシングによって、既設杭の周囲をその先端近くまで掘削した後、その既設杭の上端部にワイヤーを縛り付けて、クレーンにより引抜くようにしていた。
【0003】
しかしながら、上記方法では、既設杭の長さ・重量が大きなものになると、クレーンが既設杭の重量に耐えられなくなるという問題点があった。また、杭引抜機及び杭引抜機に取付けるケーシングをより大きなものにする必要があり、既設杭の引抜き撤去作業に必要なコストが増大するという問題点があった。
そこで、従来、このような長さ・重量が大きい既設杭の引抜き撤去を可能とするため、種々の既設杭撤去装置及びその方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、ケーシングにより既設杭の周囲を掘削した後、既設杭とケーシングとの間に形成された空間にワイヤーソー装置を挿入し、そのワイヤーソー装置で既設杭を上部より所定の長さに分割して引抜き撤去する既設杭撤去方法及びその装置が開示されている。
【特許文献1】特開2001−262570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された既設杭撤去方法及びその装置では、ワイヤーソー装置が既設杭を所定の長さに分割する機能を有するのみであるという不都合があった。これにより、分割された既設杭を地中から引抜き撤去するには、従来と同様、既設杭の上端部にワイヤーを縛り付けて、クレーンにより引抜く必要があるという問題点があった。その結果、既設杭を分割せずそのまま地中から引抜く場合と比較して作業工数が大幅に増大するという問題点があった。また、ワイヤーソー装置を既設杭とケーシングとの間に形成された空間に挿入する作業も、既設杭を分割せずそのまま地中から引抜く場合と比較して作業工数が増大する要因となる。
そこで、本発明は、地中に埋設された長さ・重量が大きい既設杭を容易に撤去することが可能な既設杭撤去方法及びその装置を提供することを目的とする。さらに、既設杭の撤去作業能率を改善することを、他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明に係る既設杭撤去方法は、地中に埋設された既設杭の周囲を掘るための掘削刃を有するケーシングを、該ケーシングを把持した状態と開放した状態とに切換え自在なケーシング回転昇降装置にて、回転させつつ下降させて、所定の深度まで掘削し、該ケーシングの下端部の内面から出没自在となるように該下端部に設けられた既設杭切断刃を、該下端部の内面から突出させて上記既設杭を切断し、次に、上記ケーシングの上端開口部を開放して、該上端開口部からグラブを有する掴持装置を、クレーンにて吊下げつつ挿入して、上記既設杭切断刃によって切断された該既設杭のうち切断部より上方の部分を、上記掴持装置のグラブにて掴持して、上記クレーンの作動によって引き上げて上記上端開口部から取り出し、その後、上記ケーシング回転昇降装置にて、上記ケーシングを回転させつつ上記所定の深度からさらに深く下降させて順次切断と取り出しを繰り返してゆく方法である。
【0006】
また、本発明に係る既設杭撤去装置は、地面上に設置されるケーシング回転昇降装置と、地中に埋設された既設杭の周囲を掘るための掘削刃を有すると共にケーシング回転昇降装置にて把持された状態と開放された状態とに切換え自在とされるケーシングと、該ケーシングの下端部の内面から出没自在となるように該下端部に設けられて上記既設杭を切断可能な既設杭切断刃と、該既設杭切断刃を出没させる刃駆動機構と、グラブを有する掴持装置を吊下げて該掴持装置を上記ケーシングの上端開口部から挿入すると共に切断された上記既設杭のうち切断部より上方の部分を上記グラブにて掴持させた状態で引き上げるクレーンと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の既設杭撤去方法及び装置によれば、既設杭切断刃にて、既設杭を所定の長さに分割する作業と、引抜く作業とを、比較的連続的に行うことができる。これにより、作業工数を増大させることなく、長さ・重量が大きい種々の既設杭を容易に撤去することができる。
また、ケーシングにて既設杭の周囲を掘削する工程と、既設杭切断刃にて既設杭を切断する工程と、グラブにて掴持して引き上げる工程を、比較的連続して行うことができる。これにより、ワイヤーソー装置を使用する場合と比較して、既設杭の切断装置を既設杭とケーシングとの間に形成された空間に挿入する作業を必要としないので、その分、作業工数を削減することができる。特に、ケーシングの上昇下降を繰り返す手間も生じず、かつ、複数本のケーシングを連結するボルトの取出しと再取付けを繰り返す必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施の形態を示す図面に基づき、本発明を詳説する。
まず、本発明に係る既設杭撤去装置の構造について説明する。
図1〜図4及び図7に於て、本発明に係る既設杭撤去装置は、建築構造物の立て替え等のため、地中G1 に埋設されている既設杭30の撤去を行う際に使用される装置である。
本発明に係る既設杭撤去装置は、地中G1 に埋設された既設杭30の周囲を掘るための掘削刃1を有するケーシング2と、ケーシング2の下端部2aの内面から出没自在となるように下端部2aに設けられて既設杭30を切断可能な既設杭切断刃3…と、既設杭切断刃3…を出没させる刃駆動機構8…と、ケーシング2の下端部2aに水を供給したり刃駆動機構8…に作動油を供給するためのスイベルジョイント部26を有するタワー部27と、地面G0 上に設置されるケーシング回転昇降装置6とクレーン70(図7参照)とを、具備する。
【0009】
ケーシング2は、ケーシング回転昇降装置6にて把持された状態と開放された状態とに切換え自在とされる。ケーシング2は、筒状であり、着脱自在のボルト・ナット等の固着具にて相互に連結された、基礎ケーシング19と継足ケーシング20でもって、構成されている。基礎ケーシング19は、ケーシング2の下端部2aに位置し、既設杭切断刃3…と刃駆動機構8…が設けられた部分である。また、継足ケーシング20は、連結数を増減させることにより、ケーシング2全体の長さを調節できる。
次に、ケーシング2を回転させ、昇降させるケーシング回転昇降装置6は、ケーシング2を把持するチャック部24と、ケーシング2を回転させる図示省略の回転機構部と、ケーシング2を昇降させる複数の昇降シリンダ33…と、を有している。
ケーシング回転昇降装置6は、地面G0 に設置される架台18を備え、この架台18は、ベース部34と、載置部17と、ベース部34に立設されると共に載置部17に取り付けられた複数の脚部16…と、を有している。
脚部16は、載置部17の4隅に配設されている。脚部16は、内部に昇降シリンダ37を有して、上下に伸縮自在となっている。脚部16…が伸縮することによって載置部17は昇降され、載置部17とベース部34とは接近離間するようになっている。つまり、昇降シリンダ37にて脚部16を伸縮させることによって、載置部17上のチャック部24にて把持されたケーシング2を、昇降させることが可能となっている。
【0010】
ベース部34には、ケーシング回転昇降装置6の地面G0 に対する傾きを調整するレベル調整部35…と、補助チャックシリンダ36…とが設けられている。補助チャックシリンダ36…は、脚部16…が最も縮んだ状態までケーシング2を下降させた際に、ケーシング2の深さ位置はそのままにして脚部16…を伸ばした状態にできるようにするために設けられている。具体的には、この補助チャックシリンダ36…は、脚部16…が最も縮んだ状態において、ケーシング2を把持するようになっている。そして、この補助チャックシリンダ36…でケーシング2を把持した状態で、ケーシング回転昇降装置6のチャック部24を開放状態にするようになっている。こうすることで、ケーシング2の深さ位置はそのままにして脚部16…を容易に伸ばすことができ、脚部16…のストロークに関係なく、ケーシング2の下端部2aを所望の深さ位置まで下降できるようになっている。また、逆に、ケーシング2の下端部2aを所望の深さ位置へ上昇させ得るようになっている。
【0011】
また、ベース部34には、ケーシング2のうち基礎ケーシング19を架台18に接近離間自在に水平移動させるケーシング移動手段22が付設されている。
ケーシング移動手段22は、基礎ケーシング19を載置した状態でベース部34から出し入れ自在なケーシング出し入れ部38と、ケーシング出し入れ部38を動かすための出し入れシリンダ39と、を有している。これにより、架台18の脚部16…が最も伸びた状態において、複数の脚部16…の間から載置部17の下側(載置部17とベース部34と複数の脚部16…との間に形成された空間)へ基礎ケーシング19を挿入できるようになっている。
なお、本発明に於て、ケーシング回転昇降装置6を地面G0 上に設置するとは、直接的に地面G0 上に設ける以外に、鉄板を介して、又は、別の基台を介して、地面G0 に設ける場合をも含んでいる。
【0012】
次に、タワー部27は、地面G0 に載置された固定架台53と、固定架台53に立設されると共に上下方向のレール部59が付設された柱部56と、レール部59に係合するローラ58…を有すると共にレール部59に沿って昇降する昇降部57と、昇降部57に取り付けられたワイヤーを巻くウインチ54と、柱部56を旋回させる旋回用シリンダ55と、を有している。昇降部57の先端部には、上記スイベルジョイント部26が付設されている。昇降部57は、ウインチ54の作動によって昇降し、ケーシング2を回転させる間、スイベルジョイント部26をケーシング2の上端に接続させた状態に維持するようになっている。言い換えれば、昇降部57は、ケーシング2の昇降に追従して昇降するようになっている。また、旋回用シリンダ55にて柱部56を旋回させる際には、スイベルジョイント部26とケーシング2との接続を解除させるようになっている。
なお、スイベルジョイント部26には、ケーシング2の下端部2aへ供給する、水や刃駆動機構8等の作動油が、外部の機器(図示省略)からケーブルを通じて供給されている。 旋回用シリンダ55は、柱部56を旋回させて、スイベルジョイント部26の位置をケーシング2の真上から移動させるために設けられている。旋回用シリンダ55は、基礎ケーシング19と継足ケーシング20とを連結してケーシング2を構成したり、既設杭切断刃3…で切断された既設杭30を地上へ引き上げたりする際に、柱部56を、90°〜 180°程度旋回させるようになっている。そして、スイベルジョイント部26を作業の邪魔にならない位置に移動させるようにしている。なお、図7では、タワー部27等を図示省略している。
【0013】
次に、ケーシング2について詳しく述べる。
ケーシング2(より詳しくは基礎ケーシング19)には、下端部2aの外周面に、外鍔状に切断刃収納部28が形成されている。このケーシング2の下端部2aに形成された切断刃収納部28の下面側には、掘削刃1…が設けられている。また、切断刃収納部28には、4つの既設杭切断刃3…が、上下方向の枢結軸9廻りに揺動自在に枢着されている。そして、これら4つの既設杭切断刃3…が、ケーシング2の下端部の内面から出没自在となるように設けられている。
既設杭切断刃3…は、所定の深度にてケーシング2の下端部の内面から突出させ、その状態でケーシング2を図4中の矢印A方向に回転させることによって、既設杭30を周面から切断可能となっている。
【0014】
既設杭切断刃3…は、図4に示す如く、既設杭30の鉄筋30a…(図11参照)を切断するための一対の鉄筋切断刃4, 4と、既設杭30のコンクリート30b(図10参照)を切断するための一対のコンクリート切断刃5, 5と、を有している。これら一対の鉄筋切断刃4, 4及び一対のコンクリート切断刃5, 5は、同種類のものが底面視でケーシング2の中心に対して点対称となるように配置されている。この配置によって、既設杭30をバランスよく切断することができるようになっている。
鉄筋切断刃4, 4及びコンクリート切断刃5, 5は、底面視略鎌状に形成されている。このうち、コンクリート切断刃5, 5は、ケーシング2の内面から下端部を最も突出させた時に、その下端部がケーシング2の中心近傍に位置するような大きさに形成されている。
【0015】
鉄筋切断刃4, 4は、コンクリート切断刃5, 5よりも小さく形成されている。このように、既設杭切断刃3…が、既設杭30の鉄筋30a…を切断するための鉄筋切断刃4, 4と、既設杭30のコンクリート30bを切断するためのコンクリート切断刃5, 5と、を有するように構成することによって、既設杭切断刃3…は、鉄筋30a…とコンクリート30bとのどちらを切断するにも最適な形状となっている。つまり、既設杭切断刃3…の種類が単一である場合と比較して、既設杭30を切断する際の作業時間を短縮することができる構成となっている。
【0016】
また、鉄筋切断刃4, 4及びコンクリート切断刃5, 5の各々には、水又はセメントミルクを噴出させるための流体噴出孔29が設けられている。
各流体噴出孔29には、タワー部27のスイベルジョイント部26から、水圧ライン32を通じて水が供給されるようになっている。このように、流体噴出孔29を既設杭切断刃3に設けることによって、既設杭30の切断時に、水又はセメントミルクにて既設杭切断刃3…と既設杭30との間の掘削屑を切断部の外へ排出させることができる。また、水又はセメントミルクを、既設杭切断刃3…を冷却するための冷却液として働かせることができる。
なお、柱部56を旋回させるためにスイベルジョイント部26とケーシング2との接続を解除する際、水圧ライン32のうちスイベルジョイント部26とケーシング2との接続部に配設されたカプラーの接続を、解除するようになっている。
【0017】
次に、刃駆動機構8…は、鉄筋切断刃4, 4及びコンクリート切断刃5, 5から成る既設杭切断刃3…をケーシング2の内面から出没させる機能を有するものである。図5及び図6に於て、刃駆動機構8は、上下移動自在のロッド10を有するアクチュエータ11と、ロッド10の先端に設けられる円筒状の動方向変換雌部13と、枢結軸9と連動する動方向変換雄部15と、を有している。
アクチュエータ11は、油圧シリンダであり、各既設杭切断刃3に一つが対応して設けられている。アクチュエータ11は、ケーシング2の周面に沿って上下方向に配設されている。このアクチュエータ11は、切断刃収納部28の上面側に設けられた刃駆動機構収納部40に収納されている。また、アクチュエータ11には、タワー部27のスイベルジョイント部26から、油圧ライン52を通じて作動油が供給されるようになっている。
なお、柱部56を旋回させるためにスイベルジョイント部26とケーシング2との接続を解除する際、油圧ライン52のうちスイベルジョイント部26とケーシング2との接続部に配設されたカプラーの接続を、解除するようになっている。
【0018】
動方向変換雄部15は、既設杭切断刃3の枢結軸9と連結されると共に刃駆動機構収納部40内に配設された伝達軸41の上端に設けられている。この動方向変換雄部15は、円柱状の本体部の外周壁に螺旋状の多数本(図例では4本)の突条部14…が形成された形状をしている。動方向変換雄部15を横断面視すると、各突条部14は、中心角度等ピッチ(90°)間隔で配設されている。形成された形状をしている。動方向変換雄部15を横断面視すると、各突条部14は、中心角度等ピッチ(90°)間隔で配設されている。
【0019】
動方向変換雌部13は、その軸心方向(長手方向)の長さが、動方向変換雄部15の軸心方向の長さよりも長く形成されている。動方向変換雌部13は、閉塞された上側がアクチュエータ11のロッド10の先端に枢着され、下側が開口端部46となるように、刃駆動機構収納部40内に配設されている。
動方向変換雌部13の内周壁には、動方向変換雄部15の多数本の突条部14…に対応して、多数本(図例では4本)の螺旋状の溝部12…が形成されている。そして、動方向変換雌部13は、突条部14が溝部12に嵌め込まれるようにして、動方向変換雄部15に上下移動自在に外嵌されている。動方向変換雌部13の動方向変換雄部15の多数本の螺旋状の突条部14…及び溝部12…によって、動方向変換雌部13の上下移動は、動方向変換雄部15の回動に変換される。そして、動方向変換雄部15の回動により、既設杭切断刃3が揺動するようになっている。
【0020】
また、動方向変換雌部13の外周壁には、動方向変換雌部13の長手方向の一対の被ガイド突条部42,42が形成されている。そして、各被ガイド突条部42は、刃駆動機構収納部40の内壁に形成された上下方向のガイド溝部43に係合するようになっている。これにより、動方向変換雌部13は、水平方向への動きが規制されつつ、上下方向にはスムーズに動くことが可能とされている。
また、動方向変換雄部15の開口端部46は、伝達軸41の挿通用の挿通孔44を有する蓋部45にて(パッキン等のシール部材を介して)蓋されている。挿通孔44と伝達軸41との間は、Oリング等のシール部材47にてシールされている。
このようにして、動方向変換雄部15は、動方向変換雌部13と蓋部45とで密閉されているが、この密閉された空間には、機械油等の潤滑剤が満たされている。この潤滑剤により、動方向変換雄部15の突条部14…と動方向変換雌部13の溝部12…の磨耗を防ぎ、スムーズな移動が可能とされている。
【0021】
なお、上述した動方向変換雌部13の上下移動に伴って動方向変換雄部15の突条部14…に過大な負荷がかからないように、かつ、動方向変換雄部15の回転がスムーズになるように、動方向変換雄部15の突条部14…のつるまき角θ(突条部14のつるまき線と、その上の1点を通ると共に動方向変換雄部15の中心軸に直角な平面とのなす角度、図5参照)は、55°〜65°の範囲に設定するのが好ましい。θが55°より小さいと突条部14…に過大な負荷がかかると共に、動方向変換雄部15の回動がぎこちなくなる虞れがある。また、θが65°を超えると、動方向変換雌部13の上下移動を動方向変換雄部15の回動に変換する際の変換効率が非常に悪くなる。
【0022】
次に、クレーン70について説明する。図7に於て、無限軌道71を有する車両72には、ブーム73が起伏可能に上方斜めに延設され、2個の巻取機74, 75が搭載されている。2個の巻取機74, 75の内の一方は吊下フック76を昇降させるためのものであり、他方は操作(コントロール)用である。77は掴持装置であり、吊下フック76に吊設されている。また、この掴持装置77は、2個の相互に開閉作動するグラブ78, 78を有し、上記巻上機74, 75の他方から繰出されたロープの操作(コントロール)によって、グラブ78, 78が開閉するが、図7に示すように、上方拡径テーパ状のガイド筒79を付設したケーシング2の上端開口部80から挿入して、前記切断刃3にて切断された既設杭30のうち切断部よりも上方の部分を、このグラブ78, 78にて掴持させ、その掴持した状態で引き上げる。(なお、図7では、グラブ78, 78の開閉操作用ロープを図示省略した。)即ち、図12の矢印Eに示すように、ケーシング2の上端開口部80から、グラブ78, 78が開いた状態(図示省略)の掴持装置77を挿入してゆき、切断刃3にて切断された切断部30Tよりも上方の切断短杭部30Sを、挿入降下したグラブ78, 78を相互に閉じて、掴持し、その掴持した状態から矢印Fのように引き上げて、図12から図13のように、ケーシング2から運び出すことができる。
【0023】
次に、図11に於て、掴持装置77の一例を示し、同図(A)は開状態の正面図、同図(B)はその側面図である。図11に於て、81は吊下げ用ロープ、82はグラブ開閉操作用ロープである。この掴持装置77は、固定フレーム83と可動フレーム84とから成る桟枠85を有し、グラブ78は固定フレーム83の下端に枢着軸86にて揺動開閉自在に枢着される。可動フレーム84の上下動に伴って、グラブ78, 78は揺動開閉するように、グラブ78と可動フレーム84とを、リンク87とピン88, 89にて枢結する。吊下げロープ81にて機枠85を吊持する。固定フレーム83及び可動フレーム84に各々複数個の回転シーブ90,95にわたって、前記ロープ82を懸架し、ロープ82の弛緩操作により、可動フレーム84の回転シーブ95が、固定フレーム83の回転シーブ95から分離移動し、グラブ78, 78が開放する。ロープ82の引張操作によって、可動フレーム84の回転シーブ95, 95が固定フレーム83の回転シーブ90, 90に近づくように可動フレーム84が移動して、グラブ78を閉じる。グラブ78, 78は二枚貝の貝殻状であって、図12のように、既設杭30と、ケーシング2内周面との間の円筒状(横断面円環型)空隙部91に、挿入及び引抜き(引き出し)可能な平面視形状・寸法に形成されている。
【0024】
次に、図8〜図14を参照して、本発明に係る既設杭撤去方法について説明する。
まず、図8に示すように、ベース部34と載置部17と載置部17に取り付けられた複数の脚部16…とを有する架台18を、地面G0 に設置する。このようにして、ケーシング回転昇降装置6を地面G0 に設置し、また、この昇降装置6の架台18の横にタワー部27(図9参照)を設置する。
そして、架台18のベース部34に付設されたケーシング移動手段22のケーシング出し入れ部38を出した状態にして、その上に、(既設杭切断刃3と刃駆動機構8が設けられた部分である)基礎ケーシング19を載置する。また、架台18の脚部16…は、最も伸ばした状態にしておく。
【0025】
そして、ケーシング移動手段22のケーシング出し入れ部38にて、基礎ケーシング19を架台18の複数の脚部16の間から載置部17の下側へ差し込む。
さらに、クレーン70のフック76で継足ケーシング20を吊り上げ、継足ケーシング20をケーシング回転昇降装置6の上方から、ケーシング回転昇降装置6及び載置部17に上下貫通状とする。そして、継足ケーシング20と基礎ケーシング19とを、ボルト又はボルト・ナット結合によって、連結して、連結された基礎ケーシング19と継足ケーシング20にて、ケーシング2を構成する(図7,図9参照)。
【0026】
次に、図9に示すように、ケーシング回転昇降装置6のチャック部24にてケーシング2を把持し、ケーシング2の上端にスイベルジョイント部26を接続した状態にして、ケーシング回転昇降装置6の図示省略の回転機構部にて、ケーシング2を回転させつつ(図9の矢印D方向)、ケーシング回転昇降装置6の昇降シリンダ33…及び架台18の脚部16…を縮めて(図9の矢印B,C方向)、ケーシング2を下降させる。これにより、ケーシング2の下端部2aに形成された掘削刃1…が既設杭30の周囲を掘り、ケーシング2は下降していく。この際、タワー部27の昇降部57は、ケーシング2の動きに追従して下降していく。ケーシング回転昇降装置6の昇降シリンダ33…のみならず、架台18の脚部16…を縮めてケーシング2を下降させるので、下降ストロークが大きくでき、効率的な作業を行い得る。なお、脚部16…が最も縮んだ状態になれば、補助チャックシリンダ36…を使用して、ケーシング2の深さ位置はそのままにして脚部16…を伸ばした状態にする。また、深く掘り進むに従って、継足ケーシング20を継ぎ足していき、ケーシング2の長さを長くしていく。
【0027】
次に、図10に示すように、所定の深度Hまで掘削すると、ケーシング2を下降させるのを止める。そして、ケーシング2を回転させながら(図10の矢印D方向)、ケーシング2の下端部2aの内面から出没自在となるように下端部2aに設けられた既設杭切断刃3…のうち、図4に示した一対の鉄筋切断刃4, 4を下端部2aの内面から突出させて既設杭30の鉄筋30a…を周面側から切断する。
次に、図4に示した一対のコンクリート切断刃5, 5をケーシング2の下端部2aの内面から突出させて既設杭30のコンクリート30bを周面側から切断する。
【0028】
切断刃3(コンクリート切断刃5,5)によって、既設杭30を完全に切断完了すると、矢印D方向の回転を止め、スイベルジョイント部26等を、図中の矢印Jのように回転(旋回)して、ケーシング2の上端開口部80を開放する。例えば、図1では旋回用シリンダ55が記載されており、このシリンダ55の伸縮によって柱部56全体と共に、矢印J方向に旋回してスイベルジョイント部26等を、上端開口部80の上方位置から除去(退避)する。
【0029】
次に、図7と図11及び図12に示したように、グラブ78, 78を有する掴持装置77を、クレーン70(の吊下フック76又は吊下げ用ロープ81)にて吊下げつつ、かつ、(望ましくは、ガイド筒79を取着してから、)ケーシング2の上端開口部80から図12の矢印Eに示す方向に挿入し、既設杭30の上端部30dの外周面と、ケーシング2の内周面との間に形成された円筒状空隙部91に、2枚のグラブ78, 78の下半部を差込み、図11に示すグラブ開閉操作用ローブ82の操作にて、既設杭上端部30dを掴持(挾持)しつつ、図12の矢印F方向にロープ81を引き上げれば、切断部Tにて分離して、切断短杭部30Sは、(図12から図13に示す如く)ケーシング2から取出して、除去できる。図13の矢印Kのように降下させて、地面G0 上に短杭部30Sを横たえることができる。この際、図13に示したように地中G1 に侵入した基礎ケーシング19と継足ケーシング20は、そのままの状態で静止しており、一旦上昇させる必要は全くない。
【0030】
その次に、クレーン70にて吊持しつつ、別の継足ケーシング20を上方から矢印Lのように下方の継足ケーシング20の上端に降下接近させ、ボルト・ナット結合等にて接続し、さらに、タワー部27に於ては、スイベルジョイント27等を矢印Mのように上昇させて後、矢印J′のように旋回して、上方側の継ぎ足したばかりの継足ケーシング20の上端開口部にスイベルジョイント27等を施蓋状に取着する。
【0031】
その後、図14に示すように、ケーシング回転昇降装置6にて、(上述した通り)ケーシング2を矢印Dのように回転させつつ所定の前記深度Hから、さらに深く下降させる。その後は、図10〜図13にて既述したと同様の工程を繰り返して、次々と既設杭30を上方から下方へと所定長さに切断部30Tにて切断し、切断短杭部30Sをケーシング2から、取出してゆく。その際に、ケーシング2は下降と停止を繰り返すが、上昇させる必要が全くない。 既設杭30を全長にわたって(又は、所望の長さを)取出せば、最後に、ケーシング2をケーシング回転昇降装置6にて、引き上げ(引抜け)れば良い。
【0032】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。例えば、本実施形態では、既設杭切断刃3…は、コンクリート切断刃5, 5と鉄筋切断刃4, 4との2種類の形状の切断刃を有する場合を例示したが、本発明はこれに限らず、既設杭切断刃は、1種類の切断刃にて構成してもよい。
また、本実施形態では、基礎ケーシング19を載置した状態でベース部34から出し入れ自在なケーシング出し入れ部38を有するケーシング移動手段22を備える場合を例示したが、本発明はこれに限らず、ケーシング移動手段として、一般的なフォークリフトを使用してもよい。
【0033】
以上のように、本発明の既設杭撤去方法は、地中G1 に埋設された既設杭30の周囲を掘るための掘削刃1を有するケーシング2を、該ケーシング2を把持した状態と開放した状態とに切換え自在なケーシング回転昇降装置6にて、回転させつつ下降させて、所定の深度まで掘削し、該ケーシング2の下端部2aの内面から出没自在となるように該下端部2aに設けられた既設杭切断刃3を、該下端部2aの内面から突出させて上記既設杭30を切断し、次に、上記ケーシング2の上端開口部80を開放して、該上端開口部80からグラブ78を有する掴持装置77を、クレーン70にて吊下げつつ挿入して、上記既設杭切断刃3によって切断された該既設杭30のうち切断部より上方の部分を、上記掴持装置77のグラブ78にて掴持して、上記クレーン70の作動によって引き上げて上記上端開口部80から取り出し、その後、上記ケーシング回転昇降装置6にて、上記ケーシング2を回転させつつ上記所定の深度からさらに深く下降させて順次切断と取り出しを繰り返してゆく方法であるので、継足ケーシング20を一旦引き上げてゆき、その際に、多数本のボルト又はボルト・ナットを螺退(分離)して、その後、螺着するという面倒な作業が省略できる。このように、既設杭30を所定の長さに分割して地中G1 から順次取り出す作業を容易に行うことができ、作業工数を低減して、種々の既設杭30を容易に撤去することができる。特に、ケーシング2の下端部2aの切断刃3にて切断した短杭部30Sを、ケーシング2の継足ケーシング20と共に引抜く方法(本発明者が特願2006−042681にて既に提案した方法)に比較すれば、継足ケーシング20を相互に接続する多数のボルト(ボルト・ナット結合)の螺退・螺進等の手作業が省略できて、全体的に作業能率が飛躍的に改善できる。
【0034】
また、本発明に係る既設杭撤去装置は、地面G0 上に設置されるケーシング回転昇降装置6と、地中G1 に埋設された既設杭30の周囲を掘るための掘削刃1を有すると共にケーシング回転昇降装置6にて把持された状態と開放された状態とに切換え自在とされるケーシング2と、該ケーシング2の下端部2aの内面から出没自在となるように該下端部2aに設けられて上記既設杭30を切断可能な既設杭切断刃3と、該既設杭切断刃3を出没させる刃駆動機構8と、グラブ78を有する掴持装置77を吊下げて該掴持装置77を上記ケーシング2の上端開口部80から挿入すると共に切断された上記既設杭30のうち切断部より上方の部分を上記グラブ78にて掴持させた状態で引き上げるクレーン70と、を備えるものであるので、既設杭30を所定の長さに分割して地中G1 から順次取り出す作業を容易にかつ能率良く行うことができる。しかも、長さ・重量が大きい種々の既設杭30を容易に撤去することができる。特に、ケーシング2の下端部2aにて切断した短杭部30Sを、ケーシング2の継足ケーシング20と共に引抜く方式の(本発明者が特願2006−042681にて既に提案したところの)装置に、比較すると、継足ケーシング20を相互に接続する多数のボルトやボルト・ナット結合の螺退・螺進等の手作業が省略できて、全体としての作業能率は著しく改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の一形態に係る既設杭撤去装置を示す正面図である。
【図2】要部側面図である。
【図3】タワー部の要部断面平面図である。
【図4】ケーシングの底面図である。
【図5】刃駆動機構周辺の要部断面側面図である。
【図6】刃駆動機構周辺の要部断面平面図である。
【図7】全体の構成を示した一部断面斜視説明図である。
【図8】既設杭の引抜き撤去工程説明用の断面側面図である。
【図9】既設杭の引抜き撤去工程説明用の断面側面図である。
【図10】既設杭の引抜き撤去工程説明用の断面側面図である。
【図11】掴持装置の一例を示す図であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図12】既設杭の引抜き撤去工程説明用の断面側面図である。
【図13】既設杭の引抜き撤去工程説明用の断面側面図である。
【図14】既設杭の引抜き撤去工程説明用の断面側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 掘削刃
2 ケーシング
2a 下端部
3 既設杭切断刃
6 ケーシング回転昇降装置
8 刃駆動機構
30 既設杭
30S 切断短杭部
30T 切断部
70 クレーン
77 掴持装置
78 グラブ
80 上端開口部
0 地面
1 地中

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中(G1 )に埋設された既設杭(30)の周囲を掘るための掘削刃(1)を有するケーシング(2)を、該ケーシング(2)を把持した状態と開放した状態とに切換え自在なケーシング回転昇降装置(6)にて、回転させつつ下降させて、所定の深度まで掘削し、該ケーシング(2)の下端部(2a)の内面から出没自在となるように該下端部(2a)に設けられた既設杭切断刃(3)を、該下端部(2a)の内面から突出させて上記既設杭(30)を切断し、次に、上記ケーシング(2)の上端開口部(80)を開放して、該上端開口部(80)からグラブ(78)を有する掴持装置(77)を、クレーン(70)にて吊下げつつ挿入して、上記既設杭切断刃(3)によって切断された該既設杭(30)のうち切断部より上方の部分を、上記掴持装置(77)のグラブ(78)にて掴持して、上記クレーン(70)の作動によって引き上げて上記上端開口部(80)から取り出し、その後、上記ケーシング回転昇降装置(6)にて、上記ケーシング(2)を回転させつつ上記所定の深度からさらに深く下降させて順次切断と取り出しを繰り返してゆくことを特徴とする既設杭撤去方法。
【請求項2】
地面(G0 )上に設置されるケーシング回転昇降装置(6)と、
地中(G1 )に埋設された既設杭(30)の周囲を掘るための掘削刃(1)を有すると共にケーシング回転昇降装置(6)にて把持された状態と開放された状態とに切換え自在とされるケーシング(2)と、該ケーシング(2)の下端部(2a)の内面から出没自在となるように該下端部(2a)に設けられて上記既設杭(30)を切断可能な既設杭切断刃(3)と、該既設杭切断刃(3)を出没させる刃駆動機構(8)と、グラブ(78)を有する掴持装置(77)を吊下げて該掴持装置(77)を上記ケーシング(2)の上端開口部(80)から挿入すると共に切断された上記既設杭(30)のうち切断部より上方の部分を上記グラブ(78)にて掴持させた状態で引き上げるクレーン(70)と、
を備えることを特徴とする既設杭撤去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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