説明

既設橋梁における橋台の補強方法

【課題】橋台と橋桁とがラーメン構造により連結されている既設橋梁において、橋台に作用する橋桁の変形荷重を分散する補強手段により橋台を補強することにより、温度変化や地震等により生じる橋桁の変形により、橋桁を介して橋台に過大な曲げ引張り荷重が作用して、橋台が損傷することを確実に防止することができる、既設橋梁における橋台の補強方法を提供する。
【解決手段】橋台1と橋桁2とがラーメン構造により連結されている、既設橋梁における橋台1の補強方法において、橋台1の外側の地盤上に、補強手段としての門形柱3を構築し、門形柱3に橋桁2の端部を固定して、橋台1に作用する橋桁2の変形荷重を既設の橋台1と門形柱3とに分散して作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設橋梁における橋台の補強方法、特に、橋台と橋桁とがラーメン構造により連結されている、既設橋梁における橋台の補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
営業線として使用されている橋梁が老朽化して使用が困難になった場合の1つの対策として、新たに橋梁を構築することが考えられるが、これには、先ず、仮線を構築して線路を移設し、老朽化した既設橋梁を撤去後、新橋梁を構築し、線路を新橋梁に敷設後、仮線を撤去するといった数多くの工程を経る必要があるので、莫大な時間と費用が必要となり、簡単には実施できないといった問題がある。
【0003】
そこで、上記問題を解決するための方法が、特許文献1(特開2009−256938号公報)に既設橋梁の改築方法として開示されている。以下、この改築方法を従来改築方法といい、図面を参照しながら説明する。
【0004】
図4は、既設橋梁を示す概略断面図、図5は、従来改築方法により補強された既設橋梁を示す概略断面図である。
【0005】
図4に示すように、既設橋梁は、基礎7上に構築された一対の橋台8と、橋台8の桁座9に設置された支承10を介して橋台8間に渡された橋桁11とから構成され、橋台11は、その背面盛土12の土圧を片持ち梁として支え、橋桁11は、支承10によって支持された単純梁として列車等の荷重を支える構造になっている。
【0006】
従来改築方法は、このような既設橋梁が老朽化した場合の橋梁の補強方法であり、図5に示すように、老朽化が進んだ橋桁11の支承10の周辺Aに対して、ケレン作業(古い塗膜や錆を除去し、鉄地肌を露出させる作業)を施した後、橋台8と橋桁11との隅角部(接続部分)を頬杖補強材13により補強してラーメン構造とし、これにより橋台8と橋桁11とを一体化するものである。
【0007】
この他、特許文献1には、図示しないが、橋台8と橋桁11との隅角部だけでなく、隅角部周辺に型枠を設置し、型枠内にコンクリートを打設することによって、橋台8と橋桁11との隅角部およびその周辺をコンクリートを介して一体化することが開示されている。
【0008】
さらに、特許文献1には、図5に示すように、背面盛土12内に地山補強材14を打ち込んで背面盛土12を補強し、地山補強材14と橋台8とを連結することが開示されている。
【0009】
図6に、橋台と橋桁とに作用する曲げモーメントの変化を示す。図6(a)は、橋台と橋桁との隅角部の補強および地山補強材による背面盛土の補強を行っていない場合で、常時の橋台と橋桁とに作用する曲げモーメントを示す図であり、図6(b)は、従来改築方法により、橋台と橋桁との隅角部の補強および地山補強材による背面盛土の補強を行った場合で、常時の橋台と橋桁とに作用する曲げモーメントを示す図であり、図6(c)は、橋台と橋桁との隅角部の補強および地山補強材による背面盛土の補強を行っていない場合で、地震時の橋台と橋桁とに作用する曲げモーメントを示す図であり、図6(d)は、従来改築方法により、橋台と橋桁との隅角部の補強および地山補強材による背面盛土の補強を行った場合で、地震時の橋台と橋桁とに作用する曲げモーメントを示す図である。
【0010】
図6から以下のことが明らかである。
【0011】
図6(a)に示すように、常時で、橋台8と橋桁11との隅角部の補強および地山補強材14による背面盛土12の補強を行っていない場合には、橋桁11の中央部に最大の曲げモーメントが作用するが、図6(b)に示すように、従来改築方法により、橋台8と橋桁11との頬杖補強材13による隅角部の補強および地山補強材14による背面盛土12の補強を行った場合には、橋桁11の端部に上側引張りモーメントが作用する結果、橋桁11に作用する曲げモーメントは減少する。
【0012】
図6(c)に示すように、地震時で、橋台8と橋桁11との隅角部の補強および地山補強材14による背面盛土12の補強を行っていない場合には、橋桁11の中央部に作用する最大曲げモーメントは、慣性力により大幅に増大するが、図6(d)に示すように、従来改築方法により、橋台8と橋桁11との頬杖補強材13による隅角部の補強および地山補強材14による背面盛土12の補強を行った場合には、橋桁11の端部に上側引張りモーメントが作用する結果、橋桁11に作用する曲げモーメントは減少する。
【0013】
しかし、図6(d)から明らかなように、地震時には、慣性力により橋台8に内側に作用する曲げモーメントが作用するので、この曲げモーメントを減少させることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−256938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、従来改築方法によれば、橋台8と橋桁11とをラーメン構造により一体化することにより、老朽化した既設橋梁を強固に補強することができるので、橋梁を最初から構築し直す場合に比べて、橋梁の構築に要する時間や費用を格段に削減することができるといった効果がもたらされる。
【0016】
しかし、温度変化あるいは地震等による橋桁11の変形により、補強強度を超える曲げ引張り荷重が橋桁11を介して橋台8に作用した場合には、橋台8が損傷する恐れがあった。
【0017】
また、特許文献1には、上述したように、背面盛土12内に地山補強材14を打ち込んで背面盛土12を補強し、地山補強材14と橋台8とを連結することが開示されているが、このようにして、橋台8を補強しても、温度変化あるいは地震等による橋桁11の変形により、補強強度を超える曲げ引張り荷重が橋桁11を介して橋台8に作用した場合には、橋台8が損傷する恐れがあった。
【0018】
従って、この発明の目的は、橋台と橋桁とがラーメン構造により連結されている既設橋梁において、橋台に作用する橋桁の変形荷重を分散する補強手段により橋台を補強することにより、温度変化や地震等により生じる橋桁の変形により、橋桁を介して橋台に過大な曲げ引張り荷重が作用して、橋台が損傷することを確実に防止することができる、既設橋梁における橋台の補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明は、上記知見に基づきなされたものであり、下記を特徴とするものである。
【0020】
請求項1に記載の発明は、橋台と橋桁とがラーメン構造により連結されている、既設橋梁における橋台の補強方法において、前記橋台に作用する前記橋桁の変形荷重を分散する補強手段により前記橋台を補強することに特徴を有するものである。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、既設橋梁における橋台の補強方法において、前記補強手段は、前記橋台の外側の地盤上に設置された門形柱を備え、前記門形柱上に前記橋桁の端部が固定されていることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の、既設橋梁における橋台の補強方法において、前記橋台の背面側に背面盛土が盛られていることに特徴を有するものである。
【0023】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の、既設橋梁における橋台の補強方法において、前記背面盛土内に地山補強材が打ち込まれ、前記地山補強材と前記橋台とが連結されてることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、橋台と橋桁とがラーメン構造により連結されている既設橋梁において、橋台に作用する橋桁の変形荷重を分散する補強手段により橋台を補強することにより、温度変化や地震等により生じる橋桁の変形により、橋桁を介して橋台に過大な曲げ引張り荷重が作用して、橋台が損傷することを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の、既設橋梁における橋台の補強方法により補強された橋台と橋桁の一部を示す概略斜視図である。
【図2】この発明の、既設橋梁における橋台の補強方法により補強された橋台と橋桁の一部を示す概略平面図である。
【図3】この発明の、既設橋梁における橋台の補強方法により補強された橋台と橋桁一部を示す概略側面図である。
【図4】既設橋梁を示す概略断面図である。
【図5】従来改築方法により補強された既設橋梁を示す概略断面図である。
【図6】橋台と橋桁とに作用する曲げモーメントの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の、橋台の補強方法の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、この発明の、既設橋梁における橋台の補強方法により補強された橋台と橋桁の一部を示す概略斜視図、図2は、この発明の、既設橋梁における橋台の補強方法により補強された橋台と橋桁の一部を示す概略平面図、図3は、この発明の、既設橋梁における橋台の補強方法により補強された橋台と橋桁一部を示す概略側面図である。
【0028】
図1から図3において、1は、既設橋梁の橋台、2は、橋台1上に固定された橋桁であり、橋台1と橋桁2の一端部とは、図5に示すように、頬杖補強材13等によりラーメン構造となるように補強されている。なお、図5に示すように、橋台2の背面側に背面盛土12が盛られ、この背面盛土内に地山補強材14が打ち込まれ、地山補強材と既設橋台1とが連結されていても良い。
【0029】
3は、橋台1の外側の地盤上に構築された補強手段としての門形柱であり、鋼製箱形のパイルベント等により後付けで構築されている。橋台1と門形柱3とは、一体化しても良い。橋桁2の端部は、上述のように橋台1に固定されているが、門形柱3の上部にも剛結治具4により固定されている。剛結治具4は、門形柱3の上部に固定された梁材5上に張り渡され、橋桁2の一端部を貫通した棒材6からなっている。なお、門形柱3をユニット化して予め製作しておけば、現場施工が簡略化される。
【0030】
このようにして、橋桁2の端部は、剛結治具4を介して門形柱3に固定されているので、橋桁2が温度変化等により伸縮した場合、その変形荷重は、橋台1と門形柱3とに分散して作用する。この結果、橋台1に作用する曲げ引張り荷重が軽減されるので、橋台2の損傷を確実に防止することができる。なお、橋台1に作用する変形荷重には、橋台1の前面側上部に作用する曲げ引張荷重や橋台1の背面側下部に作用する曲げ引張荷重等がある。
【0031】
なお、補強手段としての門形柱1は、橋桁2の変形応力を支えることができるものであれば、他の構造であっても良い。また、剛結治具4は、門形柱1と橋桁2の端部とを固定することができるものであれば、他の構造であっても良い。
【0032】
以上説明したように、この発明によれば、橋台1と橋桁2とがラーメン構造により連結されている既設橋梁において、橋台1に作用する橋桁2の変形荷重を分散する門形柱3等の補強手段により橋台1を補強することにより、温度変化や地震等により生じる橋桁2の変形により、橋桁2を介して橋台1に過大な曲げ引張り荷重が作用して、橋台1が損傷することを確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0033】
1:橋台
2:橋桁
3:門形柱
4:剛結治具
5:梁材
6:棒材
7:基礎
8:橋台
9:桁座
10:支承
11:橋桁
12:背面盛土
13:頬杖補強材
14:地山補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋台と橋桁とがラーメン構造により連結されている、既設橋梁における橋台の補強方法において、
前記橋台に作用する前記橋桁の変形荷重を分散する補強手段により前記橋台を補強することを特徴とする、既設橋台の補強方法。
【請求項2】
前記補強手段は、前記橋台の外側の地盤上に設置された門形柱を備え、前記門形柱上に前記橋桁の端部が固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の、既設橋梁における橋台の補強方法。
【請求項3】
前記橋台の背面側に背面盛土が盛られていることを特徴とする、請求項1または2に記載の、既設橋梁における橋台の補強方法。
【請求項4】
前記背面盛土内に地山補強材が打ち込まれ、前記地山補強材と前記橋台とが連結されてることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の、既設橋梁における橋台の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−247047(P2011−247047A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124012(P2010−124012)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(501232528)株式会社複合技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】