説明

既設管補修方法

【課題】老朽化して変形の生じた既設管を適切な形状に回復する工程を含む既設管補修方法を提供すること。
【解決手段】既設管100の劣化や変形の状態を前記既設管の内側から調査して、少なくとも内径及び変形を調査する調査工程、前記調査工程により得られた内径データ及び変形の度合いに基づいて、(a)前記既設管の内壁を内壁切削機により断面円形に切削する切削処理、(b)前記既設管について適正な断面円形を形成するために既設管内面を内側から外方に押圧し、断面円形状に修正する押圧処理、のうち少なくとも一方の処理を選定し、該選定した処理を行うことにより、その処理領域を含む前記管路全体において連続的な軸線の断面円形領域を確保する円形回復工程、を含む既設管補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道管等の既設管を補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道管は長年の使用により劣化し、その耐用年数は一般に約50年とされているため、耐用年数を超えた下水道管は年々増加している。そのため、老朽化に対する補修管理が重要な作業課題となっている。
【0003】
一般に下水管渠などの地中に埋設される管については、設置からの年数の経過による様々な変形例えば、ズレによる段差の発生や径の変化などが生じることは不可避である。また、特に変形が生じなくても老朽化に伴って補修や改築、あるいは交換が必要になり、この様な種々の事情から、既設管は所定の時期に何らかの補修が必要となるのが現状である。
【0004】
下水道管等の既設管の補修方法として、例えば、熱可塑性樹脂製や光硬化性樹脂製のライニング材を使用した補修方法が知られている(特許文献1及び2)。これらの補修方法では、折り畳まれたライニング材を既設管に引き込んで導入し、次いで導入した管状ライニング材の内部に空気等の加圧流体を送り込んで既設管の内面に密着させた状態で硬化させることにより内層管が形成される。
【0005】
このような内層管による補修によれば、不透水性の内層管によって既設管内面が被装されることから、クラックが発生した既設管や既設管を構成する複数の管単位体の継目部に多少の隙間が生じた場合も既設管内への地下水の浸入や既設管内からの漏水が防止され、かつ既設管の強度向上が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−232684号公報
【特許文献2】特開平5−212792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、土圧や地盤変位等に起因して、図21に示すように、既設管100を構成する管単位体の継目部がずれて段差(a)や折曲(b)が生じた場合には、形成される内層管もその段差や変形に応じた形状となるため、補修後の管路の形状を元の正常な断面円形状とするような回復を図ることはできない。また、図21(c)に示すように、管単位間に離間が生じている場合には、内層管形成時にライニング材がその隙間から外方に膨出するため、その膨出した部分はそれだけ強度が低い状態となる。
【0008】
このように段差、折曲あるいは離間等の変形が残ったまま内層管を形成した場合には、その補修領域を適切な断面円形状の管路とすることは困難であり、下水の流下機能や強度が十分に確保できず、管路機能を完全には正常化することができないという事情がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、老朽化して変形の生じた既設管を適切な形状に回復する工程を含む既設管補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の既設管補修方法は、
既設管の劣化状態を前記既設管の内側から調査して、少なくとも内径及び変形を調査する調査工程、
前記調査工程により得られた内径データ及び変形の度合いに基づいて、
(a)前記既設管の内壁を内壁切削機により断面円形に切削する切削処理、
(b)前記既設管について適正な断面円形を形成するために既設管内面を内側から外方に押圧し、断面円形状に修正する押圧処理、
のうち少なくとも一方の処理を選定し、該選定した処理を行うことにより、連続的な軸線の断面円形領域を確保する円形回復工程、
を含むことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、予め既設管を内部から調査することにより、その劣化(内径の縮小や拡大、段差、亀裂、扁平等の変形)の度合いに応じて、断面円形を回復するのに適切な処理(切削処理及び/又は押圧処理)を選定するので、その選定した処理を行うことにより既設管の補修対象においてその全範囲にわたり断面円形を回復することができる。しかも、切削処理又は押圧処理によれば、補修領域全域に亘り連続的な軸線の断面円形領域を形成することができる。すなわち、既設管の補修領域において軸方向に連続的な円筒状空間領域が形成されるので、内面に段差等の生じていない良好な状態の管路に回復することができる。したがって、既設管の断面形状が変形前の状態に回復され、管路としての流下能力を確保することが可能となる。
【0012】
また、後述するように、必要に応じて既設管内面に止水管や補強管又は円筒状の部分被覆体を被装する場合には、円形回復工程によってその被装対象となる管路基盤が構築されるので、止水管や補強管又は部分被覆体により更に確実な強度の確保を図ることも可能となる。
【0013】
請求押2に記載の既設管補修方法は、前記円形回復工程の後、前記調査工程における調査データ及び前記円形回復工程における処理効果を勘案して、
(c)前記既設管の内面の一部に筒状の部分被覆体を被装する部分補修処理、
(d)前記既設管の内面に止水性を有する止水管を被装する止水処理、
(e)前記既設管の内面に補強管を被装する補強処理、
の少なくとも1つの処理を選定し、該選定した処理を更に行うことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、円形回復工程を行った後、既設管の強度が部分的又は全体的に十分でない場合、あるいは強度が十分あっても亀裂等が生じていて止水性が不十分の場合には、部分被覆体、止水管又は補強管を既設管内面に被装することにより十分な強度及び止水性を付与することが可能となる。また、各処理を適切に選定することにより補修費用の低減が図られ、経済的にも有利となる。
【0015】
請求項3に記載の既設管補修方法は、前記内壁切削機は、前記既設管の内壁を切削するカッタユニットと、該カッタユニットの自転を防止する自転防止ユニットと、を備え、前記カッタユニットは、シャフトが走行方向と平行になるように配置されたモータと、前記シャフトから半径方向外側に延びたアームと、該アームに取り付けられた切削刃とを有し、前記切削刃は、前記シャフトの軸を中心として前記既設管の周方向に回転しながら前記既設管の軸方向に移動することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、走行方向と平行(既設管の軸方向)に配置されたシャフトを中心として切削刃が周方向に回転することにより、その中心を軸とする的確な断面円形状に既設管内壁を切削することができる。また、既設管に段差、折曲が生じている場合であってもその部分を連続的に切削することができるので、変形前の管路の設計内径に近い円形回復を行うことが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の既設管補修方法は、前記自転防止ユニットは前記カッタユニットの走行方向後方に連結され、前記既設管の内壁に接触して押し付けられる押付部材を有し、前記切削刃の外側端部から前記押付部材の後方端部までの走行方向の長さが、前記切削刃が回転する際の回転円の直径よりも長いことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、既設管の段差や折曲等の変形部を切削するに当たり、切削刃による切削をより緩やかな角度で行うことができるので、切削後においてその変形部が生じていた箇所の既設管内面を緩やかな斜面とすることができ、下水流下機能の高い円形形状を回復することが可能となる。
【0019】
請求項5に記載の既設管補修方法は、前記押圧処理は、前記既設管の内方への変形部分を外方へ押圧することにより押し戻す押し戻し機構と、該押し戻し機構を前記既設管内で移動可能とする移動機構と、を有する押し戻し装置により行うことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、既設管内方への大きな挫屈や撓みなどの変形が生じている場合に、直接その部分を押し戻し機構により押圧して押し戻すことができるので、変形部分の状態を正規の円形形状に戻すことが可能となる。そのため、特に管路に局所的に大きな変形が生じた場合に有効に円形回復を図ることが可能となる。
【0021】
請求項6に記載の既設管補修方法は、前記押圧処理は、既設管の径方向に拡径する拡径部を有する全周拡径機の該拡径部を拡径することにより行うことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、上記調査工程において、既設管の内方への変形が非常に大きい場合や亀裂が多数生じて強度が著しく低下していると判断された場合に、既設管を所望とする管径となるように拡径することにより断面円形状の管路を確保することが可能となる。
【0023】
請求項7に記載の既設管補修方法は、前記既設管の壁部を残して切削による円形回復が可能な場合に前記切削処理を選定することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、内面切削機による切削厚さや既設管の段差の高さ等を勘案して、内面切削機による切削が可能かどうか適切に判断することにより、円形回復工程を円滑に行うことが可能となる。
【0025】
請求項8に記載の既設管補修方法は、前記円形回復工程の前に、前記円形回復工程の処理を行うと前記連続的な軸線の断面円形領域の円形断面よりも大きくなる部分が生じると予想される場合に、当該部分に隙間埋め剤を施して該隙間埋め剤を硬化する工程を更に含むことを特徴とする。
【0026】
既設管に隙間や亀裂等の変形部があった場合には、切削処理又は押圧処理を行ってもその部分のみ適切な断面円形状態を回復することができず、局所的に断面が大きい部分が生じる恐れがあるが、事前に隙間埋め剤を施して硬化してその隙間や亀裂等を埋めることにより、切削処理又は押圧処理後において、上記隙間や亀裂等の変形部を他の部分と同径の断面円形状とすることが可能となる。したがって、必要に応じて被装される止水管や補強管を硬化不良や変形なく良質な管として形成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、予め既設管を内部から調査し、その内径及び変形の度合いに応じて、適切な断面円形を回復するのに適切な処理(切削処理及び/又は押圧処理)を行うので、既設管の補修対象の全範囲にわたり断面円形を回復することができる。切削処理及び/又は押圧処理によれば、連続的な軸線の断面円形領域を形成できるので、既設管内面形状を変形前の状態に回復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】調査工程の一例を示す説明図である。
【図2】隙間埋め剤を施した例を示す説明図である。
【図3】内面切削機による内面切削の例を示す説明図である。
【図4】段差が生じた場合の切削例を示す詳細説明図である。
【図5】折曲が生じた場合の切削例を示す詳細説明図である。
【図6】離間が生じた場合の切削例を示す詳細説明図である。
【図7】扁平が生じた場合の切削例を示す詳細説明図である。
【図8】押圧処理を選定することが好ましい既設管の変形状況を示す概略図である。
【図9】押圧処理の一例を説明する概略図である。
【図10】円形回復工程後に必要に応じて設置する部分被覆体が被装された例を示す説明図である。
【図11】円形回復工程後に必要に応じて設置する止水管又は補強管が被装された例を示す概略図である。
【図12】内壁切削機の一例を示す側面図である。
【図13】押し戻し装置が既設管路内に設置されている状態の説明図である。
【図14】押し戻し装置の構造体の動作機構説明図である。
【図15】全周拡径機の縮径時の正面図(a)及び側面図(b)である。
【図16】全周拡径機の拡径時の正面図(a)及び側面図(b)である。
【図17】全周拡径機による押圧処理を示す説明図である。
【図18】全周拡径機による押圧処理を示す説明図である。
【図19】部分被覆体の一例を示す斜視図(a)及びベースの展開図(b)である。
【図20】部分被覆体の施工過程を示す説明図である。
【図21】既設管の劣化状態の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。なお、各図面上の各構成部分の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致するものではない。
【0030】
図1は既設管調査工程の一例を示す概略図である。本実施の形態においては、既設管100のマンホール200側端部からマンホール300側端部までを対象として補修する例を示す。
【0031】
まず、前準備として、管内洗浄車等によって既設管100の内面の高圧水を吹き付けて洗浄し、内面の汚れ、劣化したコンクリート、混入した木根等の異物を取り除く。次に、既設管100内における下水の流下を堰き止めるため堰き止め部材(図示せず)をマンホール200の上流側及びマンホール300の下流側にそれぞれ設置する。
【0032】
そして、既設管100内に既設管の劣化状態を調査する調査装置10を配置する。調査装置10はCCDカメラを備えており、これで撮像することにより既設管100内の内径や変形等の劣化状態を調査する。調査装置10は、既設管100内を自走して移動しながら既設管内の劣化状態を調査し、内径の縮小又は拡大、扁平、段差、亀裂、離間、堆積物等の変形の発生位置及びその度合いを調査する。本図では、既設管100に段差30、離間32及び堆積物34が生じた例を示している。調査装置10はケーブル22を介して地上に置かれた分析装置(図示せず)と接続されており、その分析装置において変形等が詳細に分析される。
【0033】
次に、上記調査により得られた内径データ及び変形の度合いに基づいて、既設管内壁を切削する切削処理を行うか又は既設管内壁を内部から外方へ押圧する押圧処理を行うか選定する。あるいは、既設管の補修対象の一部について切削処理を行い、他の部分について押圧処理を行うことで両方の処理を行ってもよい。しかしながら、施工作業容易化の点から、切削処理又は押圧処理の何れか一方を適切に選定することが好ましい。
【0034】
選定の基準は、例えば、切削処理による円形回復が可能である場合には切削処理を選定する。切削処理による円形回復が可能かどうかについては、例えば、扁平の程度、段差の程度等の状況に応じて判断する。例えば、上記調査において内径が測定された場合には、その変形前、すなわち設計段階における内径と比較して縮小又は拡大の程度を確認することで、切削を行っても既設管の壁部に所定の厚さを残すことができるか否かにより判断する。切削処理による円形回復が可能でないと判断した場合には、押圧処理を選定する。選定の具体的基準は、例えば、既設管の変形度がその管径の5%未満である場合には切削処理を選定し、5%以上である場合には押圧処理を選定する。
【0035】
また、切削処理又は押圧処理を行う前には、図2に示すように、切削処理又は押圧処理により確保される連続的な軸線の断面円形領域の円形断面よりも大きくなると予想される部分、すなわち段差、離間等の変形が生じている部分にモルタル等の隙間埋め剤24を注入や塗布、噴射等により施して硬化させる。これにより、後述する切削処理又は押圧処理により隙間や段差等の変形部を他の部分と同径の断面円形状とすることが可能となる。
【0036】
図3は、切削処理を選定した場合の切削処理過程を示す概略図である。切削処理機12(後に詳述する)は周方向に回転する切削刃を備えており、図示の例では、既設管100のマンホール200側端部からマンホール300方向に牽引索38により牽引されて移動しながら既設管100の内壁を切削している状態を示している。
【0037】
図4は、段差が生じた場合の内面切削機による切削前(a)と切削後(b)の詳細図を示している。図示のように、切削前(a)において既設管を構成する管単位体100a、100bの継ぎ目部分には段差が生じている。段差付近の下部表面には、切削後の断面が円形となるように隙間埋め剤24が施されており、破線は内面切削機で切削を行う切削面を示している。内面切削機12は切削刃118が既設管の周方向に回転しながら矢印500方向に移動する。これにより既設管内面が破線部まで切削されて、図4(b)に示すように連続的な軸線(一点鎖線)50を中心とする断面円形領域が形成される。
【0038】
図5は、折曲が生じた場合の内面切削機による切削前(a)と切削後(b)の詳細図を示している。図示のように、切削前(a)において管単位体100a、100bは完全に平行な状態で接続されておらず、若干の傾きが生じている。本図において、管単位体100a、100bの継ぎ目部周辺部の上側表面には隙間埋め剤24が吹き付け等して施してある。破線は内面切削機で切削を行う切削面を示しており、切削後では、その破線部まで切削されて、図5(b)に示すように連続的な軸線(一点鎖線)50を中心とする断面円形領域が形成される。
【0039】
図6は、離間及び堆積物が生じた場合の内面切削機による切削前(a)と切削後(b)の詳細図を示している。図示のように、切削前(a)において管単位体100a、100bは互いに離れた状態となっており隙間32が生じている。また、管単位体100bの表面には堆積物34が生じている。隙間32にはモルタル等の隙間埋め剤24を注入して硬化させた後に切削を行う。切削は、管単位体100a、100bの内面に沿うように行い、図6(b)に示すように切削後では、隙間埋め剤24の不要部が及び堆積物34が除去され、連続的な軸線(一点鎖線)50を中心とする断面円形領域が形成されている。
【0040】
図7は、扁平が生じた場合の切削前の横断面図(a−1)及び縦断面図(a−2)と、切削後の横断面図(b−1)及び縦断面図(b−2)を示している。(a−1)のように既設管100は土圧等に起因してその断面形状が横に広がるように扁平状に変形している。破線は内面切削機で切削を行う切削面を示しており、切削後では、その破線部まで切削されて、図7(b−1)及び(b−2)に示すように連続的な軸線(一点鎖線)50を中心とする断面円形領域が形成される。
【0041】
以上のようにして段差、折曲、離間、扁平等の変形が生じた場合に内面切削機による切削により円形回復が行われる。
【0042】
図8は、押圧処理が好ましく選定される既設管の状態を示す概略図である。図示のように既設管100に発生した段差30が大きい場合、あるいは既設管に亀裂が生じて既設管の強度が極めて低下した場合等、内面切削機による断面円形形状の確保が困難な場合に押圧処理が選定される。
【0043】
押圧処理に用いることができる装置としては、例えば、内方への変形部分を外方へ押圧することにより押し戻す押し戻し機構とその押し戻し機構を移動可能とする移動機構とを有する押し戻し装置や、既設管の径方向に拡径する拡径部を有する全周拡径機等を使用することができる。
【0044】
図9は、押し戻し装置による押圧過程の一例を示している。この押し戻し装置18は、第1の構造体26及び第2の構造体28を有し、既設管100内のマンホール200側からマンホール300方向に牽引体42によって引き込まれながら移動する。第1の構造体26を既設管の段差部分で停止させた後、これによって既設管内面を外方へ(矢印方向)へ押し戻す動作を行うことにより、管内壁が持ち上げられ、断面円形が復元される。第2の構造体28は旋回ジャッキ機構27を回転させ第1の構造体26を任意の角度回転させるものである。
【0045】
なお、押し戻し装置や全周拡径機等による押圧処理の後は、この動作によって既設管が破壊し得るため、図示のように、押し戻し装置18のすぐ後方に散乱防止剤注入機20を設けて、押圧処理が完了した後、モルタルや水ガラス等の散乱防止剤を注入して破砕した既設管の欠片が落下しないように固めている。散乱防止剤は、地上に配置された散乱防止剤供給機(図示せず)から供給管21を介して散乱防止剤注入機20に供給される。押し戻し装置及び全周拡径機の詳細は後述するが、そこで説明する例においても散乱防止剤注入機を設けてもよい。
【0046】
以上のようにして、押圧処理による既設管100の円形回復が行われる。
【0047】
また、これら切削処理及び/又は押圧処理による円形回復工程の後、調査工程における調査データ及び円形回復工程における処理効果を勘案して、既設管の内面の一部に筒状の部分被覆体を被装する部分補修処理、既設管の内面に止水性を有する止水管を被装する止水処理、既設管の内面に補強管を被装する補強処理、の少なくとも一つの処理を選定し、該選定した処理を更に行うこともできる。
【0048】
すなわち、断面円形形状が回復された場合でも、部分的に又は全体的に強度が不十分の場合や止水性が十分でないと判断された場合には、図10に示すように筒状の部分被覆体14を被装したり、図11に示すように既設管内面に止水管又は補強管16を被装することにより、機械的強度や止水性を十分に回復することが可能となる。特に、既設管を構成する複数の管単位体の継ぎ目部は強度が低下しやすいのでその部分には部分被覆体を設置することが有効である。また、既設管の補修対象の一部について部分被覆体による補修を行い、他の部分について止水管又は補強管による補修を行うことで両方の処理を行ってもよい。部分被覆体14及び止水管又は補強管16の詳細については後述する。なお、強度や止水性が十分か否かについては、上述した調査工程における調査データ及び円形回復工程の各処理の想定効果に基づいて判断可能である。
【0049】
以下、切削処理及び押圧処理並びに止水管、補強管及び部分被覆体についてそれぞれ詳細に説明する。
【0050】
[切削処理]
切削処理に使用することができる内壁切削機としては、例えば、以下に例示する内壁切削機が挙げられる。
【0051】
図12に示すように、内壁切削機Aは、カッタユニット110と、そのカッタユニット110の先端に連結された被牽引部120と、カッタユニット110の後端に連結された自転防止ユニット130とから構成されている。
【0052】
内壁切削機Aは、被牽引部120を先頭に下水管等を構成する既設管100の内部に挿入される。そして、被牽引部120を構成するアイボルト121にロープやワイヤ等の牽引索(図示せず)の一端を結び、その牽引索の他端をウインチ等で引っ張ることで、被牽引部120を先頭に図12における矢印方向に走行する。また、既設管100の内部を走行しながら、その既設管100の内壁101をカッタユニット110で切削する。
【0053】
カッタユニット110は、電動モータ111と、電動モータ111の駆動により回転するシャフト112と、電動モータ111とシャフト112とを連結する減速機113と、シャフト112に固設された円盤114と、円盤114の外周に配置された複数の切削刃部115とからなる。
【0054】
電動モータ111は、内壁切削機Aの走行方向と平行になるように、横に倒された姿勢で配置されている。また、電動モータ111のピニオンシャフトとシャフト112とは遊星歯車減速機113を介して接続され、電動モータ111の回転速度を落としてトルクを上げるようにしている。
【0055】
切削刃部115は、アーム116と、切削刃台117と、切削刃118と、アジャストボルト119とからなる。アーム116は、シャフト112に固設された円盤114の外周4ヶ所に穿設された孔にボルトで片持ち状に固設され、内壁切削機Aの走行方向に対して後傾している。このアーム116の上面に、長手方向に褶動可能なL字形の切削刃台117が取り付けられており、この切削刃台117上に切削刃118が取り付けられている。
【0056】
また、切削刃台117の突出部分に穿設したネジ孔にアジャストボルト119が螺合されており、アジャストボルト119の一端がアーム116の端部に当接している。そのため、アジャストボルト119を回転させることで、切削刃台117をアーム116に対して褶動させ、切削刃118の突出具合を調整できる。
【0057】
これにより、既設管100の内壁101における切削厚さを調整できる。また、切削継続により切削刃118が摩耗しても、アジャストボルト119を回転させて切削刃118を突出させることで、切削刃118の新たな部分により内壁101を切削できるので、切削厚さを一定に保つことができる。
【0058】
支持部材141、142に設けられたガイド輪144は、内壁切削機Aの走行方向に回転可能となっており、内壁切削機Aが牽引されるとガイド輪144が回転して、スムーズに既設管100内を走行できるようになっている。
【0059】
自転防止ユニット130は、内壁切削機Aの走行方向と平行に配置されたガイド軸131と、そのガイド軸131に褶動可能に嵌合された円板状の基部132と、エアシリンダ136の作動により開閉する一対の開閉部材134と、開閉部材134に取り付けられた押付部材137とを備える。
【0060】
自転防止ユニット130では、エアシリンダ136を伸長し開閉部材134を開状態にすることにより、押付部材137が内壁101に押し付けられ、押付部材137と内壁101との摩擦により、基部132が既設管100に対して固定される。また、基部132はガイド軸131に対して回転不可能とされているので、基部132を既設管100に対して固定することにより、ガイド軸131に連結されているカッタユニット110の自転を防止できる。
【0061】
次に、上記内壁切削機Aによる内壁101の切削方法について説明する。
【0062】
内壁切削機Aを既設管100内に導入した後、ガイド手段140のエアシリンダ143を伸長し、下支持部材141および上支持部材142に取り付けられたガイド輪144を内壁101に押し付けて、カッタユニット110を既設管100の軸と垂直な方向に対して固定する。
【0063】
つぎに、自転防止ユニット130のエアシリンダ136を伸長し押付部材137を内壁101に押し付けて、自転防止ユニット130を既設管100に対して固定する。
【0064】
つぎに、電動モータ111を駆動させ、切削刃118を電動モータ111の周りに回転させて内壁101を所定の厚みで切削して健全面を露出させる。あるいは、経年劣化により変形した既設管100を円形に修正する。同時に、アイボルト121に連結された牽引索をウインチ等で引っ張り、内壁切削機Aを走行させる。
【0065】
このとき、内壁切削機Aは、ガイド手段140により、シャフト112が既設管100と同心となっているため、内壁101の全周を均等な厚みで切削することができる。また、押付部材137が内壁101に押し付けられることにより、電動モータ111の自転を防止できる。また、ガイド軸131はジョイント150を介してカッタユニットと連結されているので、基部132がガイド軸131に対して褶動し、カッタユニット110の自転を防止しつつ、走行方向への移動が可能となる。なお、エアシリンダ136の空気圧を低下させ、押付部材137の内壁101への押す力を弱めても、前記と同じ効果が得られる。
【0066】
自転防止ユニット130の基部132は既設管100に対して固定されているので、内壁切削機Aの走行にともない、基部132は相対的にガイド軸131の後端に向かって褶動する。
【0067】
基部132がガイド軸131の後端に達した場合には、自転防止ユニット30のエアシリンダ136を収縮し押付部材137を内壁101から離間させる。そうすると、基部132はコイルバネ133の付勢によりガイド軸131の前端に移動する。そして、再びエアシリンダ136を伸長することで、基部132を既設管100に対して固定できる。このように、自転防止ユニット130の固定と解除を繰り返しながら、内壁切削機Aを走行させて、所定の領域の内壁101を切削する。
【0068】
なお、既設管100の継ぎ目が折れ曲がっていたり、隙間や段差ができたりしている場合に、その既設管100の内部に内壁切削機Aを走行させると、カッタユニット110が継ぎ目を通過したときにはジョイント150が屈曲する。そのため、既設管100の継ぎ目が折れ曲がったり、隙間や段差ができたりしても、内壁切削機Aはその継ぎ目に引っ掛からずに走行でき、内壁101を切削することができる。
【0069】
また、切削刃118が取り付けられたアーム116は走行方向に対して後傾しているので、既設管100の継ぎ目が折れ曲がったり、隙間や段差ができたりしても、切削刃18が既設管100の端面に引っ掛かることなく、内壁101の切削を継続できる。
【0070】
更に、切削刃118の外側端部118bから自動防止ユニット130の押付部材137の後端137bまでの走行方向の長さLは、切削刃118が回転する回転円の直径Dより長く構成されていることが好ましい。これにより、既設管100の段差や折曲等の変形部を切削するに当たり、切削刃118による切削をより緩やかな角度で行うことができるので、切削後において段差や折曲等が生じていた既設管内面が緩やかな斜面状に削られ、下水流下機能の高い円形形状を回復することができる。特に、上記長さLは上記直径Dの2倍以上であることが好ましい。
【0071】
以上説明したようにして、内壁切削機による既設管の内壁の切削処理が終了する。
【0072】
[押圧処理]
次に、円形回復工程における押圧処理に使用することができる押し戻し装置の一例について説明する。
【0073】
図13は、押し戻し装置210が設置されている状態を示しており、既設管はその管単位体100aの部分の上部が下方へズレて管径が狭くなっている。
【0074】
本図において、押し戻し装置210はマンホール200から300方向に進行するものであり、この押し戻し装置210は、移動機構としての牽引機構によりマンホール300側に引かれるものである。牽引機構は図示のように、押し戻し装置210に結合されたチェーン212とこのチェーン212を巻き上げて牽引する地上に設置される牽引駆動装置(図示せず)とから構成されている。
【0075】
押し戻し装置210は、本実施の形態では、2つの主構造体で構成されている。すなわち、実際に既設管路内の挫屈や変形の生じている箇所の押圧修正を行う修正装置としての第1の構造体214とこの第1の構造体214とアーム部としての旋回ジャッキ機構216にて結合された第2の構造体218である。
【0076】
図14は、第1の構造体214の具体的な構造の例を示している。図示のように、第1の構造体214は、拡張・収縮機構を有しており、拡張・収縮機構は押し戻し装置210の管軸方向に直交する方向にその間隔が伸縮する上部押圧板220と底部押圧板222とを含む構成を有する。各押圧板220,222は表面形状が外側へ凸の円弧状に形成されており、好適には正常な形状の既設管の曲率に近い曲率の円弧状である。
【0077】
また、図示したように、本体部224には5本のピストン226を備えた油圧機構が設けられており、この油圧ピストン装置により自動的に上部押圧板220と底部押圧板222との間隔を拡張し、また収縮させるものである。
【0078】
図13に示すように、第2の構造体218は、第1の構造体214よりも進行方向前方に設置されている。そして、この第2の構造体218がチェーン212に結合されており、牽引機構によって牽引される。第2の構造体218には上述の旋回ジャッキ機構216が結合されており、第2の構造体218の主たる役割は、旋回ジャッキ機構216によって一端側に結合された第1の構造体214を回転させることである。
【0079】
この旋回ジャッキ機構216の回転、伸縮を行う駆動機構は図示していないが、一般的な電動モータや油圧機構が用いられる。また、第2の構造体218は上記第1の構造体214とほぼ同様の拡張・収縮機構(図14に示した構造)を有しており、上部押圧板228と底部押圧板230の伸長により既設管100の内壁を押圧し、この押圧による第2の構造体218の安定状態で、旋回ジャッキ機構216を回転させ第1の構造体214を任意の角度回転させるものである。
【0080】
なお、第1の構造体214にはその表面に管路内壁への密着性を高めるための弾性部材を装着することも好適である。例えば、ゴムやウレタン材を装着することなどである。この様な、弾性部材の装着を行った場合、管路内壁をより均等に押圧できるというだけでなく、図14に示したように上部押圧板220の表面から瞬間硬化材を地盤側へ注入する機構221を設置して、この機構221を用いる際に硬化材が漏れ出してくるのを有効に防止することができる。硬化材としては、例えば、即硬性セメントや水ガラスなどを用いる。この硬化材の注入は、既設管100が相当程度の破壊状態にあり、硬化材の注入が可能であり、押し戻しの動作だけではその形状が維持できないような状況の時に用いるのが好適である。
【0081】
この押し戻し装置で既設管を内部から外方へ押圧するには、第1の構造体214の位置が既設管の変形箇所となるように移動させた後、第2の構造体218の拡張・収縮機構により、上部押圧板228を上昇させて上部押圧板228と底部押圧板230とにより第2の構造体218を安定状態とした後、第1の構造体214の拡張・収縮機構により、上部押圧板220を上昇させ、没落している既設管部分を押し戻すことによって行われる。
【0082】
なお、この動作を繰り返して没落部分の押し戻し動作が完了した後、第1の構造体214、第2の構造体218は到達側のマンホール300から回収される。以上のようにして押し戻し装置による押圧処理が行われる。
【0083】
次に、本発明の押圧処理に使用することができる全周拡径機の一例について説明する。
【0084】
図15は全周拡径機の一例を示すものであって、(a)及び(b)はそれぞれ縮径状態の正面図及び側面図を示している。
【0085】
図15(b)に示すように、鋼鉄製の全周拡径機310は、拡径部としての複数の前方セグメント311及び複数の後方セグメンント312を有しており、前方セグメント311は周方向に配列されると共に推進頭部313の後部にヒンジ結合され、後方セグメンント312は周方向に配列されると共に後端部材314の前部にヒンジ結合されている。前方と後方のセグメント311、312は、前後に隣接する各1つのセグメント同士がヒンジ結合されている。環状に配列されるセグメント311、312の内側には油圧作動装置(図示せず)が設けてあり、この油圧作動装置によって、セグメント311、312は、図15(b)に示すように全周拡径機310を縮径させた位置と、図16(b)に示すように全周拡径機310を拡径させた位置との間を運動可能である。推進頭部313の先端には連結環315が設けてあり、この連結環315は後述のように牽引チェーン或いは牽引棒に連結される。
【0086】
また、拡径破砕機310の中央には複数の板状部材316が周方向に配列されて設置されている。板状部材316は、その後部が後方セグメント312上に接着固定されており、前部は前方セグメント311に接着固定されておらず、板状部材316は縮径時では前方に傾斜した状態とされている。そして、上記拡径動作により後方セグメント312の傾きが変わるにつれて、板状部材316は傾斜した状態からその傾きが小さくなるように動き、完全に拡径した状態では、図16(a)及び(b)に示すように、板状部材316の上面316aが既設管の軸方向と平行状態となる。
【0087】
次に、図17及び図18により、この全周拡径機310を用いて既設管を内部から外方に押圧し、拡径する例を説明する。図17に示すように既設管100はその一部に扁平60が生じている。
【0088】
先ず、発進側のマンホール200内に上記全周拡径機310が搬入され、この全周拡径機の連結環315がチェーン341に連結される。
【0089】
ついで、全周拡径機310はその推進頭部側から既設管100内に差し込まれる。全周拡径機310は、縮径時に少なくともセグメント311より前方の部分が既設管100の内径より小径になり、拡径時にはセグメント311、312の部分において所望とする直径(即ち、既設管の変形前状態の内径)になる。
【0090】
図17に示すように、縮径状態の破砕拡径機310はチェーン341によって引き込まれて既設管100の扁平60が生じた箇所に移動した後、全周拡径機310内の油圧作動装置に油圧が給送される。
【0091】
油圧の供給により全周拡径機310が拡径され、この拡径によって管単位体100aは板状部材116により強い力で押し広げられる。そして、図18に示すように管単位体は破砕され、破砕された箇所については変形前の管径が確保された状態となる。なお、押圧処理後の既設管は、破砕された状態であっても破片が既設管内部の鉄筋によって繋がれた状態となっている。
【0092】
ついで、前記油圧作動装置から油圧を排出することによって全周拡径機310は縮径される。なお、全周拡径機のすぐ後方に散乱防止剤注入機(図9の符号20で示したものと同様のもの)を設け、拡径破砕処理が完了した後モルタル等の散乱防止剤を注入して破砕した既設管の欠片が落下しないようにすることが好ましい。
【0093】
以上のようにして全周拡径機による押圧処理が行われる。押圧処理の後、以下に説明する部分被覆体、止水管又は補強管を必要に応じて被装する。
【0094】
[止水管及び補強管]
止水管及び補強管を既設管の内面に被装する方法は従来から公知の方法で行うことができる。例えば、熱可塑性樹脂製や光硬化性樹脂製の管状ライニング材を既設管内に引き込んで導入した後、既設管内面に密着させつつ硬化させる方法が挙げられる。
【0095】
熱可塑性樹脂製のライニング材を用いた止水管及び補強管の形成方法としては、オメガ字状等に折り畳まれたポリ塩化ビニル製のライニング材を既設管に引き込んで導入し、次いで導入した管状ライニング材の両端にその内部の圧力を調整可能とする管端栓をしてから蒸気等の加熱流体を内部に送り込み、折り畳まれた状態から管状へと復元させた後、更に、内側から加圧して既設管の内面にライニング材を密着させつつ冷却硬化させることにより止水管及び補強管を形成することができる。
【0096】
また、光硬化性樹脂製のライニング材を用いた止水管及び補強管の形成方法としては、光硬化性樹脂を含むライニング材を既設管内に導入し、両端を密閉部材で密閉してから圧縮流体を内部に吹き込むことにより、管状ライニング材を既設管内周面に密着させた状態とし、その状態で光照射装置により内部から紫外線等の光を照射して、硬化させることにより形成する方法を採用することができる。
【0097】
止水管は、上記円形回復工程後、既設管が強度的には十分であるが、亀裂等が生じて地下水が流入し得る場合に被装される。一方、補強管は、上記円形回復工程後、強度も止水性も不十分である場合に被装される。止水管と補強管は同じ材質、同じ方法で形成され、異なるのはその厚さだけである。止水管は少なくとも地下水の流入を防ぐことのできる薄厚のものでよい。
【0098】
[部分被覆体]
上述した筒状の部分被覆体は以下に例示する部分被覆体を使用することができる。
【0099】
この部分被覆体は、図19(a)に斜視図を示すように、スリーブ401及びベース410によって構成されている。スリーブ401は、ゴム等の高弾性材料により円筒状に形成されたスリーブ本体402と、スリーブ本体402の外周面上で母線方向両側部分に各々周方向に連続して延びる環状の止水体403によって構成されている。
【0100】
ベース410は、例えばステンレス鋼のような耐腐食性に優れる金属材料或いは合成樹脂製であって、一端部が他端部の内側となるように互いに重なる筒状、即ち渦巻状に変形された後、スリーブ401内に挿入される。
【0101】
ベース410は、図19(b)に展開斜視図を示すように、細長い矩形状のベース部411を有し、ベース部411の両側端に沿ってスリーブ401を収容するように外側に湾曲した縁部412を有し、この縁部412により既設管100(図20参照)内を流れる下水や管路内洗浄の際、スリーブ401を保護し、かつベース410の補剛を図ることにより既設管100の強度向上を図っている。
【0102】
また、ベース410の一方端部側には、所定寸法を隔てて複数の係止穴413が列設され、他端部側に所定寸法を隔てて係止穴413に係止可能な係止片414が切起し加工によりベース410の内方へ突出するように形成され、これら係止穴413と係止片414とによりベース410を拡径した状態に維持する係止部415(図19(a)を参照)を構成している。
【0103】
このように構成された部分被覆体400を用いて既設管100を補修する場合、まず、部分被覆体400を拡径させるための拡開機420に装着する。拡開機420は、図20に示すように、円筒状の本体421と、この本体421の外周に固定され、圧力流体、例えば圧縮空気を供給することにより風船状に膨張する膨張部422とを有しており、この膨張部422を収縮させた状態でベース410の内側に挿入することにより部分被覆体400が装着される。
【0104】
次いで、部分被覆体400及び拡開機420を予め管路内周面101が洗浄され、必要に応じて表面に付着したモルタルや侵入した木根等を取り除くための表面処理が施された既設管路100内の図示していないクラック発生部や継ぎ目等の補修箇所まで移動させる。
【0105】
そして、地上に配置された流体源からホース423を介して圧縮空気を供給して膨張部422を膨張させる。膨張部422の膨張により部分被覆体400のベース410が拡開され、いずれか一組の係止穴413に係止片414が係合可能になる程度に拡開される。その結果、ベース410の外周に配置されるスリーブ401は円筒状に拡げられ、既設管内面101に止水体403が圧接して弾性変形することにより既設管内面101とベース410との間を隙間なくシールする。
【0106】
次に膨張部422に供給された圧縮空気を排出して膨張部422を収縮させる。膨張部422が収縮すると、スリーブ本体402及び止水体403の復元力によってベース410を縮径させる力がベース410に作用し、係止片414がいずれか一組の係止穴413に係合する。これによりベース410は僅かに縮径されるが、この縮径分はスリーブ本体402及び止水体403が僅かに復元することにより吸収される。従って、スリーブ本体402及び止水体403は既設管内面101とベース410とによって圧縮付与された状態に保持され、部分被覆体400は既設管100内に設置される。そして、拡開機420は既設管100内から撤去される。
【0107】
このようにして上述した既設管の部分被覆体による部分補修が行われる。
【0108】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0109】
10 調査装置
12 内壁切削機
14 部分被覆体
16 止水管又は補強管
18 押し戻し装置
20 散乱防止剤注入機
21 散乱防止剤供給管
22 ケーブル
24 隙間埋め剤
26 第一の構造体
27 旋回ジャッキ機構
28 第二の構造体
30 段差
32 隙間
34 堆積物
42 牽引体
60 扁平
100 既設管
100a、100b 管単位体
101 既設管内面
110 カッタユニット
115 切削刃部
120 被牽引部
130 自転防止ユニット
137 押付部材
144 ガイド輪
210 押し戻し装置
214 第1の構造体
216 旋回ジャッキ機構
218 第2の構造体
220 上部押圧板
222 底部押圧板
228 上部押圧板
230 底部押圧板
310 全周拡径機
311 前方セグメント
312 後方セグメント
400 部分被覆体
401 スリーブ
402 スリーブ本体
403 止水体
410 ベース
413 係止穴
414 係止片
415 係止部
200、300 マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の劣化状態を前記既設管の内側から調査して、少なくとも内径及び変形を調査する調査工程、
前記調査工程により得られた内径データ及び変形の度合いに基づいて、
(a)前記既設管の内壁を内壁切削機により断面円形に切削する切削処理、
(b)前記既設管について適正な断面円形を形成するために既設管内面を内側から外方 に押圧し、断面円形状に修正する押圧処理、
のうち少なくとも一方の処理を選定し、該選定した処理を行うことにより、連続的な軸線の断面円形領域を確保する円形回復工程、
を含む既設管補修方法。
【請求項2】
前記円形回復工程の後、前記調査工程における調査データ及び前記円形回復工程における処理効果を勘案して、
(c)前記既設管の内面の一部に筒状の部分被覆体を被装する部分補修処理、
(d)前記既設管の内面に止水性を有する止水管を被装する止水処理、
(e)前記既設管の内面に補強管を被装する補強処理、
の少なくとも1つの処理を選定し、該選定した処理を更に行うことを特徴とする請求項1に記載の既設管補修方法。
【請求項3】
前記内壁切削機は、前記既設管の内壁を切削するカッタユニットと、該カッタユニットの自転を防止する自転防止ユニットと、を備え、
前記カッタユニットは、シャフトが走行方向と平行になるように配置されたモータと、前記シャフトから半径方向外側に延びたアームと、該アームに取り付けられた切削刃とを有し、
前記切削刃は、前記シャフトの軸を中心として前記既設管の周方向に回転しながら前記既設管の軸方向に移動することを特徴とする請求項1又は2に記載の既設管補修方法。
【請求項4】
前記自転防止ユニットは前記カッタユニットの走行方向後方に連結され、前記既設管の内壁に接触して押し付けられる押付部材を有し、
前記切削刃の外側端部から前記押付部材の後方端部までの走行方向の長さが、前記切削刃が回転する際の回転円の直径よりも長いことを特徴とする請求項3に記載の既設管補修方法。
【請求項5】
前記押圧処理は、前記既設管の内方への変形部分を外方へ押圧することにより押し戻す押し戻し機構と、該押し戻し機構を前記既設管内で移動可能とする移動機構と、を有する押し戻し装置により行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の既設管補修方法。
【請求項6】
前記押圧処理は、既設管の径方向に拡径する拡径部を有する全周拡径機の該拡径部を拡径することにより行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記既設管の壁部を残して切削による円形回復が可能な場合に前記切削処理を選定することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記円形回復工程の前に、前記円形回復工程の処理を行うと前記連続的な軸線の断面円形領域の円形断面よりも大きくなる部分が生じると予想される場合に、当該部分に隙間埋め剤を施して該隙間埋め剤を硬化する工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2013−108589(P2013−108589A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255257(P2011−255257)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(595053777)吉佳エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】