昇温脱離分析装置
【課題】装置構成材料からの脱ガスを抑えつつ、赤外線を透過する試料や反射する試料を効率的に加熱する、昇温脱離分析装置を提供する。
【解決手段】この昇温脱離分析装置は、試料7を搭載する試料台8と、試料7に照射される赤外線を放射する赤外線光源9と、赤外線光源9から放射された赤外線を試料7へ集光する赤外線反射鏡5,6とを備える。試料台8は、赤外線透過材料で形成されている。赤外線光源9から試料へ光を導く赤外線反射鏡6の反射面6aの回転楕円面の焦点位置に、試料7が配置される。
【解決手段】この昇温脱離分析装置は、試料7を搭載する試料台8と、試料7に照射される赤外線を放射する赤外線光源9と、赤外線光源9から放射された赤外線を試料7へ集光する赤外線反射鏡5,6とを備える。試料台8は、赤外線透過材料で形成されている。赤外線光源9から試料へ光を導く赤外線反射鏡6の反射面6aの回転楕円面の焦点位置に、試料7が配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇温脱離分析装置に関し、特に、赤外線の吸収率が低い試料を効率よく均一に昇温加熱するための昇温脱離分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昇温脱離分析法は固体試料を一定温度で昇温させたときに試料から脱離するガス成分を質量分析装置で測定する手段であり、TDS(Thermal Desorption Spectroscopy)と称されている。その測定装置としては、試料を配置する試料室と、試料室内の試料を加熱する赤外線加熱炉と、脱離ガスを検出する質量分析計と、試料室の高真空雰囲気を形成するための真空ポンプと、試料取り出しの際試料室の高真空を保つために設けられた予備排気室とを備えている。
【0003】
昇温脱離分析装置において、試料の加熱は赤外線で行なう。赤外線吸収率の高い試料は効率よく加熱されるが、ガラス基板など赤外線透過率が高い試料や、金属など赤外線反射率が高い試料は、赤外線を吸収しないため試料の昇温加熱が困難となる。試料が十分に加熱されなければ、昇温脱離分析法によりガス成分を分析するためのスペクトルを得ることができない。このような問題を解決するため、試料の周囲を赤外線吸収媒体で作製した均熱フードを設け、二次輻射で試料を加熱する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−42980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で提案されている従来の昇温脱離分析装置では、均熱フードを形成する材料として脱ガス量が少ない材料を選んだとしても、温度上昇に伴い均熱フードから脱ガスが発生する。発生したガス成分がバックグラウンドを上昇させると、昇温脱離分析装置の検出感度が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、装置構成材料からの脱ガスを抑えつつ、赤外線を透過する試料や反射する試料を、効率的にかつ温度分布がないように加熱する、昇温脱離分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る昇温脱離分析装置は、試料を搭載する試料台と、試料に照射される赤外線を放射する赤外線光源と、赤外線光源から放射された赤外線を試料へ集光する集光素子を含む光学系とを備える。試料台は、赤外線透過材料で形成されている。赤外線光源から試料へ光を導く光学系の焦点位置に、試料が配置される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の昇温脱離分析装置によると、赤外線光源から放射された赤外線は、光学系によって試料へ集光する。そのため、試料に照射される赤外線の光量が増加して、試料の赤外線吸収効率が上がる。したがって、赤外線を透過または反射する材料からなる試料を加熱できるので、赤外線光源に高負荷をかけることなく、赤外線吸収率が低い試料の効率的な加熱を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0009】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による昇温脱離分析装置の部分断面斜視図である。図2は、本発明の実施の形態1による昇温脱離分析装置の断面模式図である。図1および図2に示すように、昇温脱離分析装置は、試料7を搭載する試料台8と、試料7に照射される赤外線を放射する赤外線光源9とを備える。試料台8は、赤外線透過材料で形成されている。試料台8はたとえば、赤外線の吸収が少ない石英ガラスなどで作製することができる。
【0010】
昇温脱離分析装置はまた、試料台8を収容する測定室1を備える。測定室1には、測定室1内のガスを真空排気するターボ分子ポンプ2と、試料7から放出されるガスを検出する質量分析計3とが接続されている。測定室1は、赤外線透過窓4を有する。測定室1の壁面に、赤外線透過窓4が設けられている。赤外線光源9は、測定室1の外部に設置されている。赤外線光源9は、測定室1とは異なる空間を形成する、光源収容室の内部に設置されている。赤外線透過窓4は、測定室1と上記光源収容室との間に配置されており、赤外線光源9と試料7との間に配置されている。赤外線光源9から放射された赤外線は、赤外線透過窓4を透過して、測定室1の内部へ入射する。赤外線が赤外線透過窓4を通じて測定室1に導入されるように、赤外線光源9および赤外線透過窓4は配置されている。
【0011】
昇温脱離分析装置は、鏡面が凹面の反射鏡である凹面鏡としての、赤外線反射鏡5,6をさらに備える。赤外線反射鏡5,6は、それぞれ反射面5a,6aを有する。反射面5a,6aは、楕円を長軸回りに回転した回転楕円面31の一部を含む凹形状に形成されている。第一の赤外線反射鏡5の反射面5aは、楕円の長径を回転軸とした回転楕円面31の第一焦点F1側の、回転楕円面31の頂点を含む一部の形状を有する。第二の赤外線反射鏡6の反射面6aは、回転楕円面31の第二焦点F2側の、回転楕円面31の頂点を含む一部の形状を有する。ここで回転楕円面31の頂点とは、回転楕円面31上において曲率が最大となる点であって、長軸回りに回転して回転楕円面31を形成する楕円と当該楕円の長軸との交点をいう。
【0012】
赤外線反射鏡5は、測定室1の外部に配置されている。赤外線反射鏡6は、測定室1の内部に配置されている。赤外線透過窓4は、赤外線反射鏡5の反射面5aを構成する回転楕円面31の短径に沿う断面に対して、平行になるように配置されている。赤外線反射鏡6には、測定室1内で赤外線反射鏡6の上下動を可能とするための、反射鏡上下機構14が取り付けられている。
【0013】
赤外線光源9は、赤外線反射鏡5側にある回転楕円面31の第一焦点F1の位置に配置されている。また、測定室1内の赤外線反射鏡6側にある回転楕円面31の第二焦点F2に、試料7が位置するように、試料台8は設置されている。つまり、赤外線反射鏡5,6の反射面5a,6aは回転楕円面31の一部の形状に形成されており、赤外線光源9および試料7は回転楕円面31の焦点に配置されている。
【0014】
試料台8には、試料7と接触するように、熱電対15が取り付けられている。熱電対15で測定した温度は温度コントローラー16に入力され、この温度測定データをフィードバックして赤外線光源9の出力を制御する。
【0015】
以下、昇温脱離分析装置への試料7の取り付け方法について説明する。まず、試料7を予備排気室10の試料挿入機構11に搭載した後、ターボ分子ポンプ12で予備排気室10内の予備排気を行なう。続いてゲートバルブ13を開閉して、試料7を試料台8に搭載する。試料7を測定室1に挿入する際には、反射鏡上下機構14によって赤外線反射鏡6を上げて測定室1内の上部へ移動させる。そのため、試料7を試料台8へ移動させる際に赤外線反射鏡6が障害物となることはない。
【0016】
試料7を試料台8に搭載した後、赤外線反射鏡6の反射面6aが回転楕円面31を構成する位置にくるように、反射鏡上下機構14によって第二の赤外線反射鏡6を下げる。このようにして、試料7は、昇温脱離分析装置の測定室1内に取り付けられる。
【0017】
次に、実施の形態1の昇温脱離分析装置による、試料7の加熱について説明する。図3は、実施の形態1の、赤外線光源から放射された赤外線の光路と、試料および赤外線反射鏡との関係を示した模式図である。前述の通り、回転楕円面31の第一焦点F1の位置に赤外線光源9が配置され、回転楕円面31の第二焦点F2に試料7が配置されている。この構成により、第一焦点F1にある赤外線光源9から放射された赤外線は、直接、または赤外線反射鏡5,6で反射されて、第二焦点F2にある試料7に集まる。
【0018】
具体的には、図3に示すように、赤外線光源9から出射された第一の赤外線18は、一部が試料7に直接照射されて試料7に吸収される。試料7を透過した赤外線18の一部は、赤外線反射鏡6に反射されて、試料7に再照射される。さらに試料7を透過した赤外線18の一部は、赤外線光源9に戻ってくる。
【0019】
赤外線光源9から出射された第二の赤外線19は、赤外線反射鏡6で反射され試料7に照射される。試料7を透過した赤外線19の一部は赤外線反射鏡6で反射され、赤外線光源9に戻ってくる。
【0020】
赤外線光源9から出射された第三の赤外線20は、赤外線反射鏡5で反射され、試料7に照射される。試料7を透過した赤外線20の一部は赤外線反射鏡6で反射されて赤外線光源9に戻ってくる。試料7に吸収されず赤外線光源9に戻ってきた赤外線18〜20の一部は、新たな熱源として再利用される。
【0021】
つまり、実施の形態1の昇温脱離分析装置は、赤外線光源9から試料7へ光を導く、光学系を備える。試料7は、光学系の焦点位置に配置されている。この光学系は、赤外線反射鏡5,6を含む。赤外線反射鏡5,6は、赤外線光源9から放射された赤外線を試料7へ集光する、集光素子として機能する。これにより、赤外線光源9から放射された赤外線が試料7に照射される回数が増加する。そのため、試料7への赤外線の吸収効率が上がる。したがって、実施の形態1の昇温脱離分析装置によると、赤外線を透過または反射する試料7も加熱することができ、赤外線光源9に高負荷をかけることなく、赤外線吸収率の低い試料7の効率的な加熱を実現することができる。
【0022】
なお、焦点とは一般に、光学系の光軸に平行な光線が反射あるいは屈折して集まる一点をいうが、本発明の試料が配置されるべき光学系の焦点位置は、赤外線などの光が、光学系により反射または屈折して、集光されるような点であればよい。
【0023】
試料7に吸収されなかった赤外線は直接、または赤外線反射鏡5,6で反射されて第一焦点F1にある赤外線光源9に集光される。そのため赤外線光源9も加熱される。しかし、赤外線光源9は測定室1の外部に設置されているために、赤外線光源9が加熱されて発生したガスが質量分析計3によって検出されることはない。つまり、赤外線光源9から発生したガスにより分析精度が低下することを防止することができる。
【0024】
なお、赤外線反射鏡5,6の内部の反射面5a,6aを金(Au)でコーティングした場合、Auの赤外線反射率は98.2%であるため、1.8%の赤外線は赤外線反射鏡5,6に吸収される。そのため、赤外線反射鏡5,6の温度が上昇することが考えられる。赤外線反射鏡5,6の温度上昇に伴う、赤外線反射鏡5,6からのガス放出や赤外線反射鏡5,6の劣化を防止するために、赤外線反射鏡5,6の周囲に冷却装置17(図2参照)を取り付けてもよい。このとき、赤外線反射鏡6に取り付ける冷却装置17は、測定室1内の真空度を低下させない構造をとる必要がある。
【0025】
また、図2においては赤外線反射鏡6を測定室1の内部に配置した例を示しているが、赤外線反射鏡6が測定室1の内壁の一部を構成する構造としてもよい。また、赤外線反射鏡5,6で構成する回転楕円面31は、厳密な回転楕円面形状に限られず、おおよそ回転楕円面形状であれば、赤外線を試料7へ集光する効果を得ることができる。
【0026】
また、昇温脱離分析装置の構造上、回転楕円面31において赤外線反射鏡5,6で覆われていない部分がある。この部分に照射された赤外線は試料7へ集光されず、損失される。そこで、副反射鏡32を回転楕円面31に設置してもよく、このようにすれば赤外線光源9から放射された赤外線の損失を抑制することができる。
【0027】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態2の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡6が図4に示す形状となっている点で、実施の形態1とは異なっている。
【0028】
具体的には、赤外線反射鏡6の一部の、ゲートバルブ13を介在させて予備排気室10と対向する位置にある部分には、貫通孔21が形成されている。この構成によれば、試料7を試料台8に搭載するために試料挿入機構11を測定室1に挿入する際に、試料挿入機構11は、貫通孔21を経由して試料台8が設置されている位置まで到達する。
【0029】
つまり、赤外線反射鏡6が試料7の挿入を妨げることなく、試料7を試料台8に搭載することができる。したがって、図1に示す反射鏡上下機構14が不要となり、装置構成を簡略化できるので、装置のコストを低減させることができる。また、反射鏡上下機構14の上下動する動きがなくなり、反射鏡上下機構14の動作不良による装置の異常発生をなくすことができるので、装置の信頼性を向上させることができる。さらに、試料7を測定室1に挿入する際に反射鏡上下機構14を上下させる操作が不要となるため、試料7の挿入作業が簡単となり、装置の操作性を向上させることができる。
【0030】
(実施の形態3)
図5は、実施の形態3による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態3の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡6が図5に示すように配置されている点で、実施の形態1とは異なっている。
【0031】
具体的には、実施の形態3の赤外線反射鏡6は、測定室1の外部に設けられている。また、測定室1と赤外線反射鏡6との間には、赤外線透過窓33が設けられている。赤外線光源9から放射された赤外線は、直接、または試料7を透過した後に、赤外線反射鏡6によって反射される。
【0032】
この構成によれば、赤外線反射鏡6が測定室1の外に設けられる。そのため、赤外線反射鏡6に吸収される赤外線(たとえば反射面6aにAuをコーティングした場合、1回の反射につき1.8%)によって赤外線反射鏡6が加熱された場合でも、赤外線反射鏡6から放出されるガスが質量分析計3によって検出されることはない。つまり、赤外線反射鏡6から放出されるガスによる感度の低下を防止することができるので、より計測精度を向上させた昇温脱離分析装置を提供することができる。
【0033】
(実施の形態4)
図6は、実施の形態4による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態4の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡5,6が図6に示す形状に形成されている点で、実施の形態1とは異なっている。
【0034】
具体的には、実施の形態4の昇温脱離分析装置において、凹面鏡は、第一凹面鏡としての赤外線反射鏡22と、第二凹面鏡としての赤外線反射鏡23とを含む。赤外線反射鏡22,23は、それぞれ反射面22a,23aを有する。反射面22a,23aは、放物線をその軸回りに回転して得られる、回転放物面の一部を含む形状に形成されている。反射面22aと反射面23aとが互いに対向するように、赤外線反射鏡22,23は配置されている。
【0035】
赤外線光源9は、赤外線反射鏡22の反射面22aが形成する回転放物面の焦点F3の位置に配置されている。また、赤外線反射鏡23の反射面23aが形成する回転放物面の焦点F4に、試料7が位置するように、試料台8は設置されている。つまり、赤外線反射鏡22,23の反射面22a,23aは回転放物面の一部の形状に形成されており、赤外線光源9および試料7は回転放物面の焦点に配置されている。
【0036】
赤外線反射鏡22,23の反射面22a,23aの形状を放物面にする場合、赤外線反射鏡22と赤外線反射鏡23との間の距離は、特に規定しなくてよい。ただし、放物面の焦点に位置する光源から放射され放物面で反射された光は、放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線に対し平行な光路を経る。そのため、赤外線光源9から放射され赤外線反射鏡22で反射された光と、赤外線反射鏡23により反射されて試料7へ集光する光とが、平行な光線となるように、赤外線反射鏡22,23を設置する必要がある。つまり、反射面22aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線、および、反射面23aの放物面の頂点とを結ぶ直線は、互いに平行である必要がある。
【0037】
赤外線透過窓4は、赤外線反射鏡22の反射面22aを構成する回転放物面の軸方向と直交する面に対して、平行になるように配置されている。そのため、反射面22aで反射され測定室1へ入射する赤外線が、赤外線透過窓4によって屈折や散乱することを抑制し、より多くの光量の赤外線を測定室1へ導入できる構造となっている。
【0038】
好ましくは、反射面22aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線および反射面23aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線が同一の直線となるように、換言すると、反射面22aの放物面の頂点、当該放物面の焦点、反射面23aの放物面の頂点および当該放物面の焦点が同一直線上にあるように、赤外線反射鏡22,23を配置することができる。このようにすれば、赤外線光源9から放射される赤外線のうち、試料7へ集光される赤外線の光量を、一層増大させることができるので、一層効率よく試料7を加熱することができる。
【0039】
図6に示すように、実施の形態4の昇温脱離分析装置は、実施の形態1と同様に、反射鏡上下機構14を備える。試料7の交換時には赤外線反射鏡23を反射鏡上下機構14によって上げ、赤外線反射鏡23の反射面23aの焦点F4に試料7が位置するように配置された試料台8へ、試料7を搭載する。測定時には、反射鏡上下機構14によって赤外線反射鏡23を下げる。
【0040】
以下、実施の形態4の昇温脱離分析装置による、試料7の加熱について説明する。図7は、実施の形態4の、赤外線光源から放射された赤外線の光路と、試料および赤外線反射鏡との関係を示した模式図である。前述の通り、反射面22aの回転放物面の焦点F3の位置に赤外線光源9が配置され、反射面23aの回転放物面の焦点F4に試料7が配置されている。この構成により、焦点F3にある赤外線光源9から放射された赤外線は、直接、または赤外線反射鏡22,23で反射されて、焦点F4にある試料7に集まる。
【0041】
具体的には、図7に示すように、赤外線光源9から出射された第一の赤外線24は、一部が試料7に直接照射されて試料7に吸収される。試料7を透過した赤外線24の一部は、赤外線反射鏡23に反射されて、試料7に再照射される。さらに試料7を透過した赤外線24の一部は、赤外線光源9に戻ってくる。
【0042】
赤外線光源9から出射された第二の赤外線25は、赤外線反射鏡23で反射され試料7に照射される。試料7を透過した赤外線25の一部は赤外線反射鏡23,22で順次反射され、赤外線光源9に戻ってくる。
【0043】
赤外線光源9から出射された第三の赤外線26は、赤外線反射鏡22で反射された後赤外線反射鏡23で反射され、試料7に照射される。試料7を透過した赤外線26の一部は赤外線反射鏡23,22で順次反射されて赤外線光源9に戻ってくる。試料7に吸収されず赤外線光源9に戻ってきた赤外線24〜26の一部は、新たな熱源として再利用される。
【0044】
つまり、実施の形態4の昇温脱離分析装置は、赤外線光源9から試料7へ光を導く、光学系を備える。試料7は、光学系の焦点位置に配置されている。この光学系は、赤外線反射鏡22,23を含む。赤外線反射鏡22,23は、赤外線光源9から放射された赤外線を試料7へ集光する、集光素子として機能する。これにより、赤外線光源9から照射された赤外線が試料7に照射される回数が増加する。そのため、試料7への赤外線の吸収効率が上がる。したがって、実施の形態4の昇温脱離分析装置によると、赤外線を透過または反射する試料7も加熱することができ、赤外線光源9に高負荷をかけることなく、赤外線吸収率の低い試料7の効率的な加熱を実現することができる。
【0045】
なお、図6においては赤外線反射鏡23を測定室1の内部に配置した例を示しているが、赤外線反射鏡23が測定室1の一部を構成する構造としてもよい。また、赤外線反射鏡22,23の反射面22a,23aが構成する回転放物面は、厳密な回転放物面形状に限られず、おおよそ回転放物面形状であれば、赤外線を試料7へ集光する効果を得ることができる。反射面22aおよび反射面23aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線についても、互いに厳密に平行でなく、たとえば±2°以下の角度を形成するように傾斜していても、赤外線を試料7へ集光する効果を得ることができる。
【0046】
昇温脱離分析装置の構造上、測定室1内には、赤外線反射鏡22,23で覆われていない部分がある。前述の通り、赤外線反射鏡22によって反射され赤外線反射鏡23へ至る赤外線の光路は、放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線に平行となる。たとえば赤外線反射鏡22,23を同一の形状および寸法に成形し、反射面22a,23aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線が同一の直線となるように赤外線反射鏡22,23を配置することができる。このようにすれば、赤外線反射鏡22と赤外線反射鏡23との間の隙間から赤外線が漏れて損失されることを抑制できる。つまり、図2に示す副反射鏡32を設けることなく、赤外線光源9から放射された赤外線の損失を抑制することができる。そのため、装置をより簡単な構造とすることができ、装置コストを低減することができる。
【0047】
(実施の形態5)
図8は、実施の形態5による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態5の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡23が図8に示す形状となっている点で、実施の形態4とは異なっている。具体的には、赤外線反射鏡23の一部の、ゲートバルブ13を介在させて予備排気室10と対向する位置にある部分には、貫通孔27が形成されている。
【0048】
この構成によれば、実施の形態2と同様に、試料7を試料台8に設置するために試料挿入機構11を測定室1に挿入する際に、試料挿入機構11は、貫通孔27を経由して試料台8が設置されている位置まで到達する。つまり、赤外線反射鏡23が試料7の挿入を妨げることなく、試料7を試料台8に搭載することができる。したがって、図6に示す反射鏡上下機構14が不要となり装置のコストを低減できるほか、試料7の測定室1内への挿入作業が簡単となり、装置の信頼性および操作性を向上させることができる。
【0049】
(実施の形態6)
図9は、実施の形態6による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態6の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡23が図9に示すように配置されている点で、実施の形態4とは異なっている。具体的には、実施の形態6の赤外線反射鏡23は、測定室1の外部に設けられている。また、測定室1と赤外線反射鏡23との間には、赤外線透過窓33が設けられている。
【0050】
この構成によれば、実施の形態3と同様に、赤外線反射鏡23が加熱された場合でも、赤外線反射鏡23から放出されるガスが質量分析計3によって検出されることはない。つまり、赤外線反射鏡23から放出されるガスによる感度の低下を防止することができるので、より計測精度を向上させた昇温脱離分析装置を提供することができる。
【0051】
(実施の形態7)
図10は、実施の形態7における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。図10に示すように、昇温脱離分析装置は、試料7を搭載する試料台と、試料7に照射される赤外線を放射する赤外線光源9とを備える。試料台は、赤外線透過材料で形成されている。試料台はたとえば、赤外線の吸収が少ない石英ガラスなどで作製することができる。赤外線光源9と試料7との間には、赤外線透過窓4が配置されている。
【0052】
昇温脱離分析装置は、凹面鏡としての赤外線反射鏡5,6を備える。赤外線反射鏡5,6の反射面は、楕円を長軸回りに回転した回転楕円面の一部を含む形状に形成されている。赤外線光源9は、赤外線反射鏡5側にある回転楕円面の第一焦点の位置に配置されている。また、赤外線反射鏡6側にある回転楕円面の第二焦点に試料7が位置するように、試料台が設置されている。
【0053】
実施の形態7の昇温脱離分析装置はさらに、赤外線光源9の周りに、赤外線光源9を被覆するように設置された、黒体28を備える。黒体28は、試料7と赤外線光源9との間に配置されている。黒体28において試料7と対向する側の表面の面積が、赤外線光源9において試料7と対向する側の表面の面積よりも大きくなるように、黒体28は成形されている。黒体28は、試料7の最大外径(長辺)よりも大きな径を有し、赤外線光源9を被覆している。黒体28の材質は赤外線吸収率が高ければどのようなものでもよく、たとえば黒鉛などを用いることができる。
【0054】
赤外線光源9から発せられる赤外線は、黒体28に吸収される。黒体28は、赤外線が照射されるため加熱される。加熱された黒体28は、熱を電磁波として放出する。すなわち、黒体28は、赤外線光源9から受け取ったエネルギーを周りの空間に熱放射する。試料7と対向する側の黒体28の表面全体から、黒体28から試料7へ向かう方向に熱が放射される。この熱放射によって、試料7は加熱される。つまり黒体28は、試料7を加熱する加熱部材である。加熱部材は、外部から入射される熱をあらゆる波長に渡って吸収できる、黒体28によって形成されている。
【0055】
ここで、試料7と対向する側の黒体28の表面の面積は、試料7と対向する側の赤外線光源9の表面の面積よりも大きい。黒体28を介して赤外線が試料7へ照射されることにより、赤外線光源9から放射された赤外線が黒体28を介さずに試料7へ照射される場合に比べて、試料7の表面における赤外線の強度分布は相対的に小さくなっている。
【0056】
図10に示す構成では、黒体28の径が試料7の最大外径よりも大きいために、黒体28から熱放射される熱エネルギーは、径が試料7よりも大きい赤外線29として試料7に照射される。これにより、試料7に均一に赤外線を当てることができるので、試料7の加熱時に試料7内に発生する温度分布を抑制し、試料7を効率的に、かつ温度ムラなく加熱することができる。
【0057】
(実施の形態8)
図11は、実施の形態8における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。実施の形態8では、試料7と赤外線光源9との間に配置され試料7を加熱する加熱部材は、黒体28に替えてスリガラス30によって形成されている点で、実施の形態7とは異なっている。
【0058】
赤外線光源9の周りは、図11に示すように、スリガラス30で覆われている。赤外線光源9から発せられる赤外線は、石英ガラスで形成したスリガラス30によって乱反射し、径が試料7よりも大きい赤外線29として試料7に照射される。これにより、実施の形態7と同様に、試料7に均一に赤外線を当てることができるので、試料7を加熱する際に試料7内に発生する温度分布を抑制することができる。
【0059】
(実施の形態9)
図12は、実施の形態9における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。実施の形態9の昇温脱離分析装置は、実施の形態1と基本的に同様の構成を備えている。しかし、実施の形態9では、試料7が図12に示すように配置されている点で実施の形態1とは異なっている。
【0060】
具体的には、図12に示す昇温脱離分析装置は、赤外線光源9から放射された赤外線を試料7へ導く、反射面を有する凹面鏡として、実施の形態1と同様の赤外線反射鏡5,6を有する。赤外線反射鏡5,6の反射面は、楕円を長軸回りに回転した回転楕円面の一部を含む形状に形成されている。赤外線光源9は、赤外線反射鏡5側にある回転楕円面の第一焦点の位置に配置されている。また、赤外線反射鏡6側にある回転楕円面の第二焦点F2から、回転楕円面の長軸方向にずれた位置に、試料7が位置するように、試料台8は設置されている。試料7は、回転楕円面の第二焦点F2の近傍の、第二焦点F2から少し離れた位置に配置されている。
【0061】
試料7を焦点F2に位置するように設置すると、焦点F2に相当する試料7の一部分に赤外線が集光して、焦点F2以外に位置する他の部分と比べて高温となる場合がある。そのような場合には、試料7を焦点F2から少しずらして配置することにより、赤外線が焦点F2にのみ集光することによって試料7に生じる、温度分布の発生を抑制することができる。
【0062】
一方、赤外線光源9から放射された赤外線は、直接または赤外線反射鏡5,6で反射され、焦点F2に集光される。そのため、試料7を焦点F2から僅かにずらした位置に配置して、試料7を焦点F2から外すことにより発生しうる、試料7の加熱効率が低下するという損失を、最低限に抑えることができる。
【0063】
試料7を焦点F2からずらす距離は、試料7の大きさや赤外線反射鏡5,6が構成する回転楕円面の楕円率や大きさによるので特に規定しないが、赤外線反射鏡5の両端と焦点F2を結んだ線に試料7の端が接するように、試料7を配置するのが望ましい。これにより、試料7に赤外線を効率よく、温度分布なく照射することができるので、加熱時における温度分布の発生を抑制できる。
【0064】
実施の形態9では試料7を回転楕円面の第二焦点F2からずらして配置する例を示したが、赤外線光源9を回転楕円面の第一焦点からたとえば長軸方向に少しずらしても、同様の効果が得られる。つまり、赤外線光源9および試料7の少なくとも一部が、赤外線反射鏡の反射面の焦点からずれた位置に配置されていればよい。
【0065】
これまでの説明においては、赤外線光源9から放射された赤外線を試料へ集光する集光素子は、反射面を有する凹面鏡を有する例について説明したが、本発明の範囲はこれに限られるものではない。集光素子は、たとえばプリズムや凹面を有するレンズなどの、試料に赤外線を集光させるための光学部材を含む構成であっても構わない。
【0066】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、各実施の形態の構成を適宜組合せてもよい。また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、半導体または集積回路の製造工程を評価するために、真空中に遊離する極めて微量のガスを分析する、昇温脱離分析装置に特に有利に適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態1による昇温脱離分析装置の部分断面斜視図である。
【図2】実施の形態1による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図3】実施の形態1の、赤外線光源から放射された赤外線の光路と、試料および赤外線反射鏡との関係を示した模式図である。
【図4】実施の形態2による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図5】実施の形態3による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図6】実施の形態4による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図7】実施の形態4の、赤外線光源から放射された赤外線の光路と、試料および赤外線反射鏡との関係を示した模式図である。
【図8】実施の形態5による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図9】実施の形態6による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図10】実施の形態7における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。
【図11】実施の形態8における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。
【図12】実施の形態9における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1 測定室、2 ターボ分子ポンプ、3 質量分析計、4 赤外線透過窓、5,6 赤外線反射鏡、5a,6a 反射面、7 試料、8 試料台、9 赤外線光源、10 予備排気室、11 試料挿入機構、12 ターボ分子ポンプ、13 ゲートバルブ、14 反射鏡上下機構、15 熱電対、16 温度コントローラー、17 冷却装置、18〜20 赤外線、21 貫通孔、22,23 赤外線反射鏡、22a,23a 反射面、24〜26 赤外線、27 貫通孔、28 黒体、29 赤外線、30 スリガラス、31 回転楕円面、32 副反射鏡、33 赤外線透過窓、F1〜F4 焦点。
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇温脱離分析装置に関し、特に、赤外線の吸収率が低い試料を効率よく均一に昇温加熱するための昇温脱離分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昇温脱離分析法は固体試料を一定温度で昇温させたときに試料から脱離するガス成分を質量分析装置で測定する手段であり、TDS(Thermal Desorption Spectroscopy)と称されている。その測定装置としては、試料を配置する試料室と、試料室内の試料を加熱する赤外線加熱炉と、脱離ガスを検出する質量分析計と、試料室の高真空雰囲気を形成するための真空ポンプと、試料取り出しの際試料室の高真空を保つために設けられた予備排気室とを備えている。
【0003】
昇温脱離分析装置において、試料の加熱は赤外線で行なう。赤外線吸収率の高い試料は効率よく加熱されるが、ガラス基板など赤外線透過率が高い試料や、金属など赤外線反射率が高い試料は、赤外線を吸収しないため試料の昇温加熱が困難となる。試料が十分に加熱されなければ、昇温脱離分析法によりガス成分を分析するためのスペクトルを得ることができない。このような問題を解決するため、試料の周囲を赤外線吸収媒体で作製した均熱フードを設け、二次輻射で試料を加熱する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−42980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で提案されている従来の昇温脱離分析装置では、均熱フードを形成する材料として脱ガス量が少ない材料を選んだとしても、温度上昇に伴い均熱フードから脱ガスが発生する。発生したガス成分がバックグラウンドを上昇させると、昇温脱離分析装置の検出感度が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、装置構成材料からの脱ガスを抑えつつ、赤外線を透過する試料や反射する試料を、効率的にかつ温度分布がないように加熱する、昇温脱離分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る昇温脱離分析装置は、試料を搭載する試料台と、試料に照射される赤外線を放射する赤外線光源と、赤外線光源から放射された赤外線を試料へ集光する集光素子を含む光学系とを備える。試料台は、赤外線透過材料で形成されている。赤外線光源から試料へ光を導く光学系の焦点位置に、試料が配置される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の昇温脱離分析装置によると、赤外線光源から放射された赤外線は、光学系によって試料へ集光する。そのため、試料に照射される赤外線の光量が増加して、試料の赤外線吸収効率が上がる。したがって、赤外線を透過または反射する材料からなる試料を加熱できるので、赤外線光源に高負荷をかけることなく、赤外線吸収率が低い試料の効率的な加熱を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0009】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による昇温脱離分析装置の部分断面斜視図である。図2は、本発明の実施の形態1による昇温脱離分析装置の断面模式図である。図1および図2に示すように、昇温脱離分析装置は、試料7を搭載する試料台8と、試料7に照射される赤外線を放射する赤外線光源9とを備える。試料台8は、赤外線透過材料で形成されている。試料台8はたとえば、赤外線の吸収が少ない石英ガラスなどで作製することができる。
【0010】
昇温脱離分析装置はまた、試料台8を収容する測定室1を備える。測定室1には、測定室1内のガスを真空排気するターボ分子ポンプ2と、試料7から放出されるガスを検出する質量分析計3とが接続されている。測定室1は、赤外線透過窓4を有する。測定室1の壁面に、赤外線透過窓4が設けられている。赤外線光源9は、測定室1の外部に設置されている。赤外線光源9は、測定室1とは異なる空間を形成する、光源収容室の内部に設置されている。赤外線透過窓4は、測定室1と上記光源収容室との間に配置されており、赤外線光源9と試料7との間に配置されている。赤外線光源9から放射された赤外線は、赤外線透過窓4を透過して、測定室1の内部へ入射する。赤外線が赤外線透過窓4を通じて測定室1に導入されるように、赤外線光源9および赤外線透過窓4は配置されている。
【0011】
昇温脱離分析装置は、鏡面が凹面の反射鏡である凹面鏡としての、赤外線反射鏡5,6をさらに備える。赤外線反射鏡5,6は、それぞれ反射面5a,6aを有する。反射面5a,6aは、楕円を長軸回りに回転した回転楕円面31の一部を含む凹形状に形成されている。第一の赤外線反射鏡5の反射面5aは、楕円の長径を回転軸とした回転楕円面31の第一焦点F1側の、回転楕円面31の頂点を含む一部の形状を有する。第二の赤外線反射鏡6の反射面6aは、回転楕円面31の第二焦点F2側の、回転楕円面31の頂点を含む一部の形状を有する。ここで回転楕円面31の頂点とは、回転楕円面31上において曲率が最大となる点であって、長軸回りに回転して回転楕円面31を形成する楕円と当該楕円の長軸との交点をいう。
【0012】
赤外線反射鏡5は、測定室1の外部に配置されている。赤外線反射鏡6は、測定室1の内部に配置されている。赤外線透過窓4は、赤外線反射鏡5の反射面5aを構成する回転楕円面31の短径に沿う断面に対して、平行になるように配置されている。赤外線反射鏡6には、測定室1内で赤外線反射鏡6の上下動を可能とするための、反射鏡上下機構14が取り付けられている。
【0013】
赤外線光源9は、赤外線反射鏡5側にある回転楕円面31の第一焦点F1の位置に配置されている。また、測定室1内の赤外線反射鏡6側にある回転楕円面31の第二焦点F2に、試料7が位置するように、試料台8は設置されている。つまり、赤外線反射鏡5,6の反射面5a,6aは回転楕円面31の一部の形状に形成されており、赤外線光源9および試料7は回転楕円面31の焦点に配置されている。
【0014】
試料台8には、試料7と接触するように、熱電対15が取り付けられている。熱電対15で測定した温度は温度コントローラー16に入力され、この温度測定データをフィードバックして赤外線光源9の出力を制御する。
【0015】
以下、昇温脱離分析装置への試料7の取り付け方法について説明する。まず、試料7を予備排気室10の試料挿入機構11に搭載した後、ターボ分子ポンプ12で予備排気室10内の予備排気を行なう。続いてゲートバルブ13を開閉して、試料7を試料台8に搭載する。試料7を測定室1に挿入する際には、反射鏡上下機構14によって赤外線反射鏡6を上げて測定室1内の上部へ移動させる。そのため、試料7を試料台8へ移動させる際に赤外線反射鏡6が障害物となることはない。
【0016】
試料7を試料台8に搭載した後、赤外線反射鏡6の反射面6aが回転楕円面31を構成する位置にくるように、反射鏡上下機構14によって第二の赤外線反射鏡6を下げる。このようにして、試料7は、昇温脱離分析装置の測定室1内に取り付けられる。
【0017】
次に、実施の形態1の昇温脱離分析装置による、試料7の加熱について説明する。図3は、実施の形態1の、赤外線光源から放射された赤外線の光路と、試料および赤外線反射鏡との関係を示した模式図である。前述の通り、回転楕円面31の第一焦点F1の位置に赤外線光源9が配置され、回転楕円面31の第二焦点F2に試料7が配置されている。この構成により、第一焦点F1にある赤外線光源9から放射された赤外線は、直接、または赤外線反射鏡5,6で反射されて、第二焦点F2にある試料7に集まる。
【0018】
具体的には、図3に示すように、赤外線光源9から出射された第一の赤外線18は、一部が試料7に直接照射されて試料7に吸収される。試料7を透過した赤外線18の一部は、赤外線反射鏡6に反射されて、試料7に再照射される。さらに試料7を透過した赤外線18の一部は、赤外線光源9に戻ってくる。
【0019】
赤外線光源9から出射された第二の赤外線19は、赤外線反射鏡6で反射され試料7に照射される。試料7を透過した赤外線19の一部は赤外線反射鏡6で反射され、赤外線光源9に戻ってくる。
【0020】
赤外線光源9から出射された第三の赤外線20は、赤外線反射鏡5で反射され、試料7に照射される。試料7を透過した赤外線20の一部は赤外線反射鏡6で反射されて赤外線光源9に戻ってくる。試料7に吸収されず赤外線光源9に戻ってきた赤外線18〜20の一部は、新たな熱源として再利用される。
【0021】
つまり、実施の形態1の昇温脱離分析装置は、赤外線光源9から試料7へ光を導く、光学系を備える。試料7は、光学系の焦点位置に配置されている。この光学系は、赤外線反射鏡5,6を含む。赤外線反射鏡5,6は、赤外線光源9から放射された赤外線を試料7へ集光する、集光素子として機能する。これにより、赤外線光源9から放射された赤外線が試料7に照射される回数が増加する。そのため、試料7への赤外線の吸収効率が上がる。したがって、実施の形態1の昇温脱離分析装置によると、赤外線を透過または反射する試料7も加熱することができ、赤外線光源9に高負荷をかけることなく、赤外線吸収率の低い試料7の効率的な加熱を実現することができる。
【0022】
なお、焦点とは一般に、光学系の光軸に平行な光線が反射あるいは屈折して集まる一点をいうが、本発明の試料が配置されるべき光学系の焦点位置は、赤外線などの光が、光学系により反射または屈折して、集光されるような点であればよい。
【0023】
試料7に吸収されなかった赤外線は直接、または赤外線反射鏡5,6で反射されて第一焦点F1にある赤外線光源9に集光される。そのため赤外線光源9も加熱される。しかし、赤外線光源9は測定室1の外部に設置されているために、赤外線光源9が加熱されて発生したガスが質量分析計3によって検出されることはない。つまり、赤外線光源9から発生したガスにより分析精度が低下することを防止することができる。
【0024】
なお、赤外線反射鏡5,6の内部の反射面5a,6aを金(Au)でコーティングした場合、Auの赤外線反射率は98.2%であるため、1.8%の赤外線は赤外線反射鏡5,6に吸収される。そのため、赤外線反射鏡5,6の温度が上昇することが考えられる。赤外線反射鏡5,6の温度上昇に伴う、赤外線反射鏡5,6からのガス放出や赤外線反射鏡5,6の劣化を防止するために、赤外線反射鏡5,6の周囲に冷却装置17(図2参照)を取り付けてもよい。このとき、赤外線反射鏡6に取り付ける冷却装置17は、測定室1内の真空度を低下させない構造をとる必要がある。
【0025】
また、図2においては赤外線反射鏡6を測定室1の内部に配置した例を示しているが、赤外線反射鏡6が測定室1の内壁の一部を構成する構造としてもよい。また、赤外線反射鏡5,6で構成する回転楕円面31は、厳密な回転楕円面形状に限られず、おおよそ回転楕円面形状であれば、赤外線を試料7へ集光する効果を得ることができる。
【0026】
また、昇温脱離分析装置の構造上、回転楕円面31において赤外線反射鏡5,6で覆われていない部分がある。この部分に照射された赤外線は試料7へ集光されず、損失される。そこで、副反射鏡32を回転楕円面31に設置してもよく、このようにすれば赤外線光源9から放射された赤外線の損失を抑制することができる。
【0027】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態2の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡6が図4に示す形状となっている点で、実施の形態1とは異なっている。
【0028】
具体的には、赤外線反射鏡6の一部の、ゲートバルブ13を介在させて予備排気室10と対向する位置にある部分には、貫通孔21が形成されている。この構成によれば、試料7を試料台8に搭載するために試料挿入機構11を測定室1に挿入する際に、試料挿入機構11は、貫通孔21を経由して試料台8が設置されている位置まで到達する。
【0029】
つまり、赤外線反射鏡6が試料7の挿入を妨げることなく、試料7を試料台8に搭載することができる。したがって、図1に示す反射鏡上下機構14が不要となり、装置構成を簡略化できるので、装置のコストを低減させることができる。また、反射鏡上下機構14の上下動する動きがなくなり、反射鏡上下機構14の動作不良による装置の異常発生をなくすことができるので、装置の信頼性を向上させることができる。さらに、試料7を測定室1に挿入する際に反射鏡上下機構14を上下させる操作が不要となるため、試料7の挿入作業が簡単となり、装置の操作性を向上させることができる。
【0030】
(実施の形態3)
図5は、実施の形態3による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態3の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡6が図5に示すように配置されている点で、実施の形態1とは異なっている。
【0031】
具体的には、実施の形態3の赤外線反射鏡6は、測定室1の外部に設けられている。また、測定室1と赤外線反射鏡6との間には、赤外線透過窓33が設けられている。赤外線光源9から放射された赤外線は、直接、または試料7を透過した後に、赤外線反射鏡6によって反射される。
【0032】
この構成によれば、赤外線反射鏡6が測定室1の外に設けられる。そのため、赤外線反射鏡6に吸収される赤外線(たとえば反射面6aにAuをコーティングした場合、1回の反射につき1.8%)によって赤外線反射鏡6が加熱された場合でも、赤外線反射鏡6から放出されるガスが質量分析計3によって検出されることはない。つまり、赤外線反射鏡6から放出されるガスによる感度の低下を防止することができるので、より計測精度を向上させた昇温脱離分析装置を提供することができる。
【0033】
(実施の形態4)
図6は、実施の形態4による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態4の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡5,6が図6に示す形状に形成されている点で、実施の形態1とは異なっている。
【0034】
具体的には、実施の形態4の昇温脱離分析装置において、凹面鏡は、第一凹面鏡としての赤外線反射鏡22と、第二凹面鏡としての赤外線反射鏡23とを含む。赤外線反射鏡22,23は、それぞれ反射面22a,23aを有する。反射面22a,23aは、放物線をその軸回りに回転して得られる、回転放物面の一部を含む形状に形成されている。反射面22aと反射面23aとが互いに対向するように、赤外線反射鏡22,23は配置されている。
【0035】
赤外線光源9は、赤外線反射鏡22の反射面22aが形成する回転放物面の焦点F3の位置に配置されている。また、赤外線反射鏡23の反射面23aが形成する回転放物面の焦点F4に、試料7が位置するように、試料台8は設置されている。つまり、赤外線反射鏡22,23の反射面22a,23aは回転放物面の一部の形状に形成されており、赤外線光源9および試料7は回転放物面の焦点に配置されている。
【0036】
赤外線反射鏡22,23の反射面22a,23aの形状を放物面にする場合、赤外線反射鏡22と赤外線反射鏡23との間の距離は、特に規定しなくてよい。ただし、放物面の焦点に位置する光源から放射され放物面で反射された光は、放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線に対し平行な光路を経る。そのため、赤外線光源9から放射され赤外線反射鏡22で反射された光と、赤外線反射鏡23により反射されて試料7へ集光する光とが、平行な光線となるように、赤外線反射鏡22,23を設置する必要がある。つまり、反射面22aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線、および、反射面23aの放物面の頂点とを結ぶ直線は、互いに平行である必要がある。
【0037】
赤外線透過窓4は、赤外線反射鏡22の反射面22aを構成する回転放物面の軸方向と直交する面に対して、平行になるように配置されている。そのため、反射面22aで反射され測定室1へ入射する赤外線が、赤外線透過窓4によって屈折や散乱することを抑制し、より多くの光量の赤外線を測定室1へ導入できる構造となっている。
【0038】
好ましくは、反射面22aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線および反射面23aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線が同一の直線となるように、換言すると、反射面22aの放物面の頂点、当該放物面の焦点、反射面23aの放物面の頂点および当該放物面の焦点が同一直線上にあるように、赤外線反射鏡22,23を配置することができる。このようにすれば、赤外線光源9から放射される赤外線のうち、試料7へ集光される赤外線の光量を、一層増大させることができるので、一層効率よく試料7を加熱することができる。
【0039】
図6に示すように、実施の形態4の昇温脱離分析装置は、実施の形態1と同様に、反射鏡上下機構14を備える。試料7の交換時には赤外線反射鏡23を反射鏡上下機構14によって上げ、赤外線反射鏡23の反射面23aの焦点F4に試料7が位置するように配置された試料台8へ、試料7を搭載する。測定時には、反射鏡上下機構14によって赤外線反射鏡23を下げる。
【0040】
以下、実施の形態4の昇温脱離分析装置による、試料7の加熱について説明する。図7は、実施の形態4の、赤外線光源から放射された赤外線の光路と、試料および赤外線反射鏡との関係を示した模式図である。前述の通り、反射面22aの回転放物面の焦点F3の位置に赤外線光源9が配置され、反射面23aの回転放物面の焦点F4に試料7が配置されている。この構成により、焦点F3にある赤外線光源9から放射された赤外線は、直接、または赤外線反射鏡22,23で反射されて、焦点F4にある試料7に集まる。
【0041】
具体的には、図7に示すように、赤外線光源9から出射された第一の赤外線24は、一部が試料7に直接照射されて試料7に吸収される。試料7を透過した赤外線24の一部は、赤外線反射鏡23に反射されて、試料7に再照射される。さらに試料7を透過した赤外線24の一部は、赤外線光源9に戻ってくる。
【0042】
赤外線光源9から出射された第二の赤外線25は、赤外線反射鏡23で反射され試料7に照射される。試料7を透過した赤外線25の一部は赤外線反射鏡23,22で順次反射され、赤外線光源9に戻ってくる。
【0043】
赤外線光源9から出射された第三の赤外線26は、赤外線反射鏡22で反射された後赤外線反射鏡23で反射され、試料7に照射される。試料7を透過した赤外線26の一部は赤外線反射鏡23,22で順次反射されて赤外線光源9に戻ってくる。試料7に吸収されず赤外線光源9に戻ってきた赤外線24〜26の一部は、新たな熱源として再利用される。
【0044】
つまり、実施の形態4の昇温脱離分析装置は、赤外線光源9から試料7へ光を導く、光学系を備える。試料7は、光学系の焦点位置に配置されている。この光学系は、赤外線反射鏡22,23を含む。赤外線反射鏡22,23は、赤外線光源9から放射された赤外線を試料7へ集光する、集光素子として機能する。これにより、赤外線光源9から照射された赤外線が試料7に照射される回数が増加する。そのため、試料7への赤外線の吸収効率が上がる。したがって、実施の形態4の昇温脱離分析装置によると、赤外線を透過または反射する試料7も加熱することができ、赤外線光源9に高負荷をかけることなく、赤外線吸収率の低い試料7の効率的な加熱を実現することができる。
【0045】
なお、図6においては赤外線反射鏡23を測定室1の内部に配置した例を示しているが、赤外線反射鏡23が測定室1の一部を構成する構造としてもよい。また、赤外線反射鏡22,23の反射面22a,23aが構成する回転放物面は、厳密な回転放物面形状に限られず、おおよそ回転放物面形状であれば、赤外線を試料7へ集光する効果を得ることができる。反射面22aおよび反射面23aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線についても、互いに厳密に平行でなく、たとえば±2°以下の角度を形成するように傾斜していても、赤外線を試料7へ集光する効果を得ることができる。
【0046】
昇温脱離分析装置の構造上、測定室1内には、赤外線反射鏡22,23で覆われていない部分がある。前述の通り、赤外線反射鏡22によって反射され赤外線反射鏡23へ至る赤外線の光路は、放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線に平行となる。たとえば赤外線反射鏡22,23を同一の形状および寸法に成形し、反射面22a,23aの放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線が同一の直線となるように赤外線反射鏡22,23を配置することができる。このようにすれば、赤外線反射鏡22と赤外線反射鏡23との間の隙間から赤外線が漏れて損失されることを抑制できる。つまり、図2に示す副反射鏡32を設けることなく、赤外線光源9から放射された赤外線の損失を抑制することができる。そのため、装置をより簡単な構造とすることができ、装置コストを低減することができる。
【0047】
(実施の形態5)
図8は、実施の形態5による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態5の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡23が図8に示す形状となっている点で、実施の形態4とは異なっている。具体的には、赤外線反射鏡23の一部の、ゲートバルブ13を介在させて予備排気室10と対向する位置にある部分には、貫通孔27が形成されている。
【0048】
この構成によれば、実施の形態2と同様に、試料7を試料台8に設置するために試料挿入機構11を測定室1に挿入する際に、試料挿入機構11は、貫通孔27を経由して試料台8が設置されている位置まで到達する。つまり、赤外線反射鏡23が試料7の挿入を妨げることなく、試料7を試料台8に搭載することができる。したがって、図6に示す反射鏡上下機構14が不要となり装置のコストを低減できるほか、試料7の測定室1内への挿入作業が簡単となり、装置の信頼性および操作性を向上させることができる。
【0049】
(実施の形態6)
図9は、実施の形態6による昇温脱離分析装置の断面模式図である。実施の形態6の昇温脱離分析装置は、赤外線反射鏡23が図9に示すように配置されている点で、実施の形態4とは異なっている。具体的には、実施の形態6の赤外線反射鏡23は、測定室1の外部に設けられている。また、測定室1と赤外線反射鏡23との間には、赤外線透過窓33が設けられている。
【0050】
この構成によれば、実施の形態3と同様に、赤外線反射鏡23が加熱された場合でも、赤外線反射鏡23から放出されるガスが質量分析計3によって検出されることはない。つまり、赤外線反射鏡23から放出されるガスによる感度の低下を防止することができるので、より計測精度を向上させた昇温脱離分析装置を提供することができる。
【0051】
(実施の形態7)
図10は、実施の形態7における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。図10に示すように、昇温脱離分析装置は、試料7を搭載する試料台と、試料7に照射される赤外線を放射する赤外線光源9とを備える。試料台は、赤外線透過材料で形成されている。試料台はたとえば、赤外線の吸収が少ない石英ガラスなどで作製することができる。赤外線光源9と試料7との間には、赤外線透過窓4が配置されている。
【0052】
昇温脱離分析装置は、凹面鏡としての赤外線反射鏡5,6を備える。赤外線反射鏡5,6の反射面は、楕円を長軸回りに回転した回転楕円面の一部を含む形状に形成されている。赤外線光源9は、赤外線反射鏡5側にある回転楕円面の第一焦点の位置に配置されている。また、赤外線反射鏡6側にある回転楕円面の第二焦点に試料7が位置するように、試料台が設置されている。
【0053】
実施の形態7の昇温脱離分析装置はさらに、赤外線光源9の周りに、赤外線光源9を被覆するように設置された、黒体28を備える。黒体28は、試料7と赤外線光源9との間に配置されている。黒体28において試料7と対向する側の表面の面積が、赤外線光源9において試料7と対向する側の表面の面積よりも大きくなるように、黒体28は成形されている。黒体28は、試料7の最大外径(長辺)よりも大きな径を有し、赤外線光源9を被覆している。黒体28の材質は赤外線吸収率が高ければどのようなものでもよく、たとえば黒鉛などを用いることができる。
【0054】
赤外線光源9から発せられる赤外線は、黒体28に吸収される。黒体28は、赤外線が照射されるため加熱される。加熱された黒体28は、熱を電磁波として放出する。すなわち、黒体28は、赤外線光源9から受け取ったエネルギーを周りの空間に熱放射する。試料7と対向する側の黒体28の表面全体から、黒体28から試料7へ向かう方向に熱が放射される。この熱放射によって、試料7は加熱される。つまり黒体28は、試料7を加熱する加熱部材である。加熱部材は、外部から入射される熱をあらゆる波長に渡って吸収できる、黒体28によって形成されている。
【0055】
ここで、試料7と対向する側の黒体28の表面の面積は、試料7と対向する側の赤外線光源9の表面の面積よりも大きい。黒体28を介して赤外線が試料7へ照射されることにより、赤外線光源9から放射された赤外線が黒体28を介さずに試料7へ照射される場合に比べて、試料7の表面における赤外線の強度分布は相対的に小さくなっている。
【0056】
図10に示す構成では、黒体28の径が試料7の最大外径よりも大きいために、黒体28から熱放射される熱エネルギーは、径が試料7よりも大きい赤外線29として試料7に照射される。これにより、試料7に均一に赤外線を当てることができるので、試料7の加熱時に試料7内に発生する温度分布を抑制し、試料7を効率的に、かつ温度ムラなく加熱することができる。
【0057】
(実施の形態8)
図11は、実施の形態8における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。実施の形態8では、試料7と赤外線光源9との間に配置され試料7を加熱する加熱部材は、黒体28に替えてスリガラス30によって形成されている点で、実施の形態7とは異なっている。
【0058】
赤外線光源9の周りは、図11に示すように、スリガラス30で覆われている。赤外線光源9から発せられる赤外線は、石英ガラスで形成したスリガラス30によって乱反射し、径が試料7よりも大きい赤外線29として試料7に照射される。これにより、実施の形態7と同様に、試料7に均一に赤外線を当てることができるので、試料7を加熱する際に試料7内に発生する温度分布を抑制することができる。
【0059】
(実施の形態9)
図12は、実施の形態9における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。実施の形態9の昇温脱離分析装置は、実施の形態1と基本的に同様の構成を備えている。しかし、実施の形態9では、試料7が図12に示すように配置されている点で実施の形態1とは異なっている。
【0060】
具体的には、図12に示す昇温脱離分析装置は、赤外線光源9から放射された赤外線を試料7へ導く、反射面を有する凹面鏡として、実施の形態1と同様の赤外線反射鏡5,6を有する。赤外線反射鏡5,6の反射面は、楕円を長軸回りに回転した回転楕円面の一部を含む形状に形成されている。赤外線光源9は、赤外線反射鏡5側にある回転楕円面の第一焦点の位置に配置されている。また、赤外線反射鏡6側にある回転楕円面の第二焦点F2から、回転楕円面の長軸方向にずれた位置に、試料7が位置するように、試料台8は設置されている。試料7は、回転楕円面の第二焦点F2の近傍の、第二焦点F2から少し離れた位置に配置されている。
【0061】
試料7を焦点F2に位置するように設置すると、焦点F2に相当する試料7の一部分に赤外線が集光して、焦点F2以外に位置する他の部分と比べて高温となる場合がある。そのような場合には、試料7を焦点F2から少しずらして配置することにより、赤外線が焦点F2にのみ集光することによって試料7に生じる、温度分布の発生を抑制することができる。
【0062】
一方、赤外線光源9から放射された赤外線は、直接または赤外線反射鏡5,6で反射され、焦点F2に集光される。そのため、試料7を焦点F2から僅かにずらした位置に配置して、試料7を焦点F2から外すことにより発生しうる、試料7の加熱効率が低下するという損失を、最低限に抑えることができる。
【0063】
試料7を焦点F2からずらす距離は、試料7の大きさや赤外線反射鏡5,6が構成する回転楕円面の楕円率や大きさによるので特に規定しないが、赤外線反射鏡5の両端と焦点F2を結んだ線に試料7の端が接するように、試料7を配置するのが望ましい。これにより、試料7に赤外線を効率よく、温度分布なく照射することができるので、加熱時における温度分布の発生を抑制できる。
【0064】
実施の形態9では試料7を回転楕円面の第二焦点F2からずらして配置する例を示したが、赤外線光源9を回転楕円面の第一焦点からたとえば長軸方向に少しずらしても、同様の効果が得られる。つまり、赤外線光源9および試料7の少なくとも一部が、赤外線反射鏡の反射面の焦点からずれた位置に配置されていればよい。
【0065】
これまでの説明においては、赤外線光源9から放射された赤外線を試料へ集光する集光素子は、反射面を有する凹面鏡を有する例について説明したが、本発明の範囲はこれに限られるものではない。集光素子は、たとえばプリズムや凹面を有するレンズなどの、試料に赤外線を集光させるための光学部材を含む構成であっても構わない。
【0066】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、各実施の形態の構成を適宜組合せてもよい。また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、半導体または集積回路の製造工程を評価するために、真空中に遊離する極めて微量のガスを分析する、昇温脱離分析装置に特に有利に適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態1による昇温脱離分析装置の部分断面斜視図である。
【図2】実施の形態1による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図3】実施の形態1の、赤外線光源から放射された赤外線の光路と、試料および赤外線反射鏡との関係を示した模式図である。
【図4】実施の形態2による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図5】実施の形態3による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図6】実施の形態4による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図7】実施の形態4の、赤外線光源から放射された赤外線の光路と、試料および赤外線反射鏡との関係を示した模式図である。
【図8】実施の形態5による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図9】実施の形態6による昇温脱離分析装置の断面模式図である。
【図10】実施の形態7における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。
【図11】実施の形態8における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。
【図12】実施の形態9における昇温脱離分析装置の赤外線光源と赤外線光路との模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1 測定室、2 ターボ分子ポンプ、3 質量分析計、4 赤外線透過窓、5,6 赤外線反射鏡、5a,6a 反射面、7 試料、8 試料台、9 赤外線光源、10 予備排気室、11 試料挿入機構、12 ターボ分子ポンプ、13 ゲートバルブ、14 反射鏡上下機構、15 熱電対、16 温度コントローラー、17 冷却装置、18〜20 赤外線、21 貫通孔、22,23 赤外線反射鏡、22a,23a 反射面、24〜26 赤外線、27 貫通孔、28 黒体、29 赤外線、30 スリガラス、31 回転楕円面、32 副反射鏡、33 赤外線透過窓、F1〜F4 焦点。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を搭載する試料台と、
試料に照射される赤外線を放射する赤外線光源と、
前記赤外線光源から放射された赤外線を試料へ集光する集光素子を含む光学系と、を備え、
前記試料台は、赤外線透過材料で形成されており、
前記赤外線光源から試料へ光を導く前記光学系の焦点位置に、試料が配置される、昇温脱離分析装置。
【請求項2】
前記集光素子は、反射面を有する凹面鏡を有し、
前記赤外線光源および試料は、前記反射面の焦点に配置されている、請求項1に記載の昇温脱離分析装置。
【請求項3】
前記反射面は、楕円を長軸回りに回転した回転楕円面の少なくとも一部を含む形状に形成されており、
前記赤外線光源は前記凹面鏡の回転楕円面の第一焦点に配置され、試料は前記凹面鏡の回転楕円面の第二焦点に配置されている、請求項2に記載の昇温脱離分析装置。
【請求項4】
前記凹面鏡は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡および前記第二凹面鏡は、反射面が回転放物面の少なくとも一部を含む形状に形成され、反射面が互いに対向するように設置されており、
前記赤外線光源は前記第一凹面鏡の回転放物面の焦点に配置され、試料は前記第二凹面鏡の回転放物面の焦点に配置されており、
前記第一凹面鏡の回転放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線、および、前記第二凹面鏡の回転放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線は、互いに平行である、請求項2に記載の昇温脱離分析装置。
【請求項5】
試料を搭載する試料台と、
試料に照射される赤外線を放射する赤外線光源と、
前記赤外線光源から放射された赤外線を試料へ導く、反射面を有する凹面鏡とを備え、
前記試料台は、赤外線透過材料で形成されており、
前記赤外線光源および試料の少なくともいずれか一方は、前記反射面の焦点からずれた位置に配置されている、昇温脱離分析装置。
【請求項6】
前記試料台を収容する測定室を備え、
前記赤外線光源は、前記測定室の外部に設置されており、
前記測定室は赤外線透過窓を有し、
前記赤外線光源から放射された赤外線は、前記赤外線透過窓を透過して前記測定室の内部へ入射する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の昇温脱離分析装置。
【請求項7】
試料を搭載する試料台と、
試料に照射される赤外線を放射する赤外線光源と、
前記試料と前記赤外線光源との間に配置され、前記試料を加熱する加熱部材とを備え、
前記試料台は、赤外線透過材料で形成されており、
前記加熱部材において前記試料と対向する側の表面の面積が、前記赤外線光源において前記試料と対向する側の表面の面積よりも大きい、昇温脱離分析装置。
【請求項8】
前記加熱部材は、黒体またはスリガラスによって形成されている、請求項7に記載の昇温脱離分析装置。
【請求項1】
試料を搭載する試料台と、
試料に照射される赤外線を放射する赤外線光源と、
前記赤外線光源から放射された赤外線を試料へ集光する集光素子を含む光学系と、を備え、
前記試料台は、赤外線透過材料で形成されており、
前記赤外線光源から試料へ光を導く前記光学系の焦点位置に、試料が配置される、昇温脱離分析装置。
【請求項2】
前記集光素子は、反射面を有する凹面鏡を有し、
前記赤外線光源および試料は、前記反射面の焦点に配置されている、請求項1に記載の昇温脱離分析装置。
【請求項3】
前記反射面は、楕円を長軸回りに回転した回転楕円面の少なくとも一部を含む形状に形成されており、
前記赤外線光源は前記凹面鏡の回転楕円面の第一焦点に配置され、試料は前記凹面鏡の回転楕円面の第二焦点に配置されている、請求項2に記載の昇温脱離分析装置。
【請求項4】
前記凹面鏡は、第一凹面鏡と第二凹面鏡とを含み、
前記第一凹面鏡および前記第二凹面鏡は、反射面が回転放物面の少なくとも一部を含む形状に形成され、反射面が互いに対向するように設置されており、
前記赤外線光源は前記第一凹面鏡の回転放物面の焦点に配置され、試料は前記第二凹面鏡の回転放物面の焦点に配置されており、
前記第一凹面鏡の回転放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線、および、前記第二凹面鏡の回転放物面の頂点と焦点とを結ぶ直線は、互いに平行である、請求項2に記載の昇温脱離分析装置。
【請求項5】
試料を搭載する試料台と、
試料に照射される赤外線を放射する赤外線光源と、
前記赤外線光源から放射された赤外線を試料へ導く、反射面を有する凹面鏡とを備え、
前記試料台は、赤外線透過材料で形成されており、
前記赤外線光源および試料の少なくともいずれか一方は、前記反射面の焦点からずれた位置に配置されている、昇温脱離分析装置。
【請求項6】
前記試料台を収容する測定室を備え、
前記赤外線光源は、前記測定室の外部に設置されており、
前記測定室は赤外線透過窓を有し、
前記赤外線光源から放射された赤外線は、前記赤外線透過窓を透過して前記測定室の内部へ入射する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の昇温脱離分析装置。
【請求項7】
試料を搭載する試料台と、
試料に照射される赤外線を放射する赤外線光源と、
前記試料と前記赤外線光源との間に配置され、前記試料を加熱する加熱部材とを備え、
前記試料台は、赤外線透過材料で形成されており、
前記加熱部材において前記試料と対向する側の表面の面積が、前記赤外線光源において前記試料と対向する側の表面の面積よりも大きい、昇温脱離分析装置。
【請求項8】
前記加熱部材は、黒体またはスリガラスによって形成されている、請求項7に記載の昇温脱離分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−210459(P2009−210459A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54716(P2008−54716)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]