説明

昇華染色装置用レンズ保持具

【課題】眼鏡レンズを変形することがないように保持でき、しかも両面昇華染色を行う際、タイムロスや色むらが少なくなるように眼鏡レンズを保持できる昇華染色装置用レンズ保持具を提供する。
【解決手段】眼鏡レンズ3を挿入可能な円環状に形成されて昇華染色装置に着脱自在に取付られる保持具本体11を備える。眼鏡レンズ3の外周部を表裏両面側から挟む一対の爪片21,22を有する支持部材12を備える。支持部材12は、爪片21,22が保持具本体11の中空部内に位置するように保持具本体11に着脱可能に取付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華染色装置で眼鏡レンズを染色する際に使用する昇華染色装置用レンズ保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡レンズの染色方法の一つとして、昇華染色法がある。この方法を実現する昇華染色装置は、たとえば特許文献1に記載されているように、眼鏡レンズの染色面と対向する位置に配置された昇華性染料と、この昇華性染料を加熱する加熱器とを備えている。
眼鏡レンズは、リング状のレンズ保持具の上に載置させられた状態で前記昇華性染料の上方に位置付けられている。前記加熱器は、前記昇華性染料を下方から加熱するように構成されている。この昇華染色装置は、眼鏡レンズおよびレンズ周囲を上方からカバーで覆った状態で昇華染色を行うように構成されている。
【0003】
この特許文献1に記載されている昇華染色装置を用いて眼鏡レンズの両面を染色するときは、先ず、眼鏡レンズの一方のレンズ面が染色される。その後、前記カバーが外された状態で作業者によって眼鏡レンズが裏返される。そして、再度加熱を行って他方のレンズ面が染色される。
【0004】
ところで、眼鏡レンズを保持する従来のレンズ保持具としては、たとえば特許文献2に記載されているものがある。この特許文献2に開示されたレンズ保持具は、眼鏡レンズの外周部を複数の支持部材で径方向に挟んで支持するものである。前記支持部材は、眼鏡レンズの軸線方向に延びる円柱状に形成されており、眼鏡レンズの外周部の3箇所と対向する位置に配置されている。また、この支持部材は、駆動装置に接続されており、この駆動装置による駆動によって、眼鏡レンズの外周面を径方向の内側に向けて押す保持位置と、前記外周面から離間する開放位置との間で移動させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−52160号公報
【特許文献2】特開2009−294399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示した昇華染色装置においては、眼鏡レンズがリング状のレンズ保持具の上に載せられた状態で染色が行われる。このため、染色時には、昇華した染料がレンズ保持具の中空部を通ってレンズ面に達することになるから、レンズ面の外周部は染色されることがない。
【0007】
このような不具合は、特許文献2に記載されたレンズ保持具を使用することによって解消することができる。この理由は、特許文献2に示すレンズ保持具は、眼鏡レンズの外周面に接触し、レンズ面の全域を露出させることができるものだからである。
しかし、昇華染色時の眼鏡レンズは、所定の温度に上昇させられて硬度が低下し易いから、特許文献2に示すレンズ保持具で径方向の内側に押圧されると、眼鏡レンズとの接触部分が多い分変形してしまうおそれがある。
【0008】
一方、特許文献1に開示された昇華染色装置では、次の二つの問題もあった。第1の問題は、眼鏡レンズの表裏両面に染色を行う場合にタクトタイムが長くなるという問題である。第2の問題は、眼鏡レンズの両面を同じように染色することが難しく、また、色むらが生じることがあるという問題である。
【0009】
前記第1の問題の原因は、一方のレンズ面の染色が終了した後、作業者がレンズ面に触れることがないように眼鏡レンズを慎重に手で把持して裏返さなければならないからである。すなわち、眼鏡レンズを裏返す作業でタイムロスが生じるから、上述したようにタクトタイムが長くなる。
【0010】
第2の問題の原因は、一方のレンズ面の染色が終了した後に眼鏡レンズを裏返して他方のレンズ面の染色を開始するときの眼鏡レンズの温度にばらつきがあるからであると考えられる。染色時の眼鏡レンズの温度が相対的に低い場合は、染色が充分に行われないことがあり、一方、前記温度が過度に高い場合には、レンズ面上で再昇華が起こり、染料の量が少なくなるおそれがある。このため、染色開始時の眼鏡レンズの温度は、ばらつきが少ないことが望ましい。
【0011】
眼鏡レンズの温度は、一方のレンズ面の染色が終了してから徐々に低下する。一方のレンズ面の染色が終了した後に眼鏡レンズを裏返す作業の作業時間は、作業者毎に異なる。すなわち、眼鏡レンズを裏返す作業に要する時間にばらつきがあるから、上述したように2回目の染色を開始するときの眼鏡レンズの温度にばらつきが生じることになる。
【0012】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、眼鏡レンズを変形することがなく、かつ180°反転させたとしても(裏返したとしても)落下することがないように保持でき、しかも、タイムロスや色むらが少なくなるように眼鏡レンズを保持できる昇華染色装置用レンズ保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明に係る昇華染色装置用レンズ保持具は、眼鏡レンズを挿入可能な円環状に形成されかつ軸線が染料昇華部を指向する状態で昇華染色装置に着脱自在に取付られる保持具本体と、眼鏡レンズの外周部を表裏両面側から挟む一対の爪片を有するとともに前記爪片が前記保持具本体の中空部内に位置するように前記保持具本体に着脱可能に取付けられた複数の支持部材とを備えたものである。
【0014】
本発明は、前記発明において、前記支持部材は、前記保持具本体に取付けられる基部を有しかつ前記一対の爪片のうち一方の爪片が先端部に形成された第1の支持板と、前記一対の爪片のうち他方の爪片が先端部に形成されかつ前記第1の支持板に重ねて固定された第2の支持板とによって構成され、前記第1の支持板と第2の支持板とのうち少なくともいずれか一方は、ばね材料によって形成されているものである。
【0015】
本発明は、前記発明において、前記支持部材の一対の爪片は、眼鏡レンズが前記保持具本体の軸線方向の中央部で保持されるように形成されているものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、眼鏡レンズの外周部が表裏両面側から一対の爪片で挟まれるから、昇華染色時の熱で眼鏡レンズの硬度が低くなったとしても眼鏡レンズが変形することはない。
また、眼鏡レンズを支持部材によって保持具本体に保持させた状態においては、保持具本体を裏返しても眼鏡レンズが保持された状態に保たれる。一対の爪片は、眼鏡レンズの重量を支えることができる最小の大きさに形成することができるから、未染色部分を可及的小さくすることができる。
【0017】
このため、眼鏡レンズの一方のレンズ面の染色が終了した後にレンズ保持具を裏返すだけで眼鏡レンズの他方のレンズ面が染色可能になる。この作業は、単純作業であり、しかも、眼鏡レンズのレンズ面から離間した保持具本体を把持して行うことができるから、眼鏡レンズを直接把持する場合に較べて短時間で行うことができる。すなわち、一方のレンズ面を染色してから他方のレンズ面の染色を開始するまでのタイムロスが少なくなる。
【0018】
また、この作業は、単純であるために、この作業に不慣れな作業者であっても熟練者と同等の作業速度で行うことができる。この結果、眼鏡レンズの一方のレンズ面の染色が終了して他方のレンズ面の染色を開始するときの眼鏡レンズの温度が略一定になる。
したがって、本発明によれば、眼鏡レンズを変形することがなく、かつ180°反転させたとしても落下することがないように保持でき、しかも、タイムロスや色むらが少なくなるように眼鏡レンズを保持可能な昇華染色装置用レンズ保持具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るレンズ保持具を昇華染色装置に装填した状態を示す断面図である。
【図2】レンズ保持具の平面図である。
【図3】図2におけるIII−III線断面図である。
【図4】保持具本体の平面図である。
【図5】図4におけるV−V線断面図である。
【図6】支持部材を示す図で、同図(A)は平面図、同図(B)は側面図である。
【図7】第1の支持板を示す図で、同図(A)は平面図、同図(B)は側面図である。
【図8】第2の支持板を示す図で、同図(A)は平面図、同図(B)は側面図、同図(C)は正面図である。
【図9】爪片の先端部を拡大して示す斜視図で、同図(A)は図7に示した第1の支持板の爪片の先端部を示し、同図(B)は上方を指向する三角柱状の爪片の先端部を示し、同図(C)はレンズの中心に向けて凸になる蒲鉾状の爪片の先端部を示し、同図(D)は上方に向けて凸になる蒲鉾状の爪片の先端部を示し、同図(E)は立方体状の爪片の先端部を示し、同図(F)は上方を指向する円錐状の爪片の先端部を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る昇華染色装置用レンズ保持具の一実施例を図1〜図9によって詳細に説明する。
図1に示す昇華染色装置1は、レンズ保持具2に保持された眼鏡レンズ3のレンズ面3a,3bを昇華染色法によって染色するためのものである。レンズ保持具2は、昇華染色装置1の支持台4上に着脱自在に載置されている。
【0021】
前記支持台4は、昇華染色装置1の真空容器5内の上端部に位置付けられ、前記真空容器5に対して移動できないように固定されている。この支持台4には、後述するレンズ保持具2を取付けるために円形の穴4aが形成されている。
前記支持台4の下方には、染料基板6が加熱装置7に載置された状態で配置されている。
【0022】
染料基板6の上面には昇華性染料8が塗布されている。前記加熱装置7は、染料基板6を加熱するためのものである。前記昇華性染料8は、加熱装置7によって染料基板6が加熱されることにより昇華し、上方に位置する眼鏡レンズ3を染色する。この実施の形態においては、前記染料基板6と前記加熱装置7とによって、本発明でいう「染料昇華部」が構成されている。
【0023】
前記レンズ保持具2は、図2〜図5に示すように、円環状の保持具本体11と、この保持具本体11に取付けられた複数の支持部材12とによって構成されている。
前記保持具本体11は、円板状の眼鏡レンズ3を挿入可能な円環状に金属材料によって形成されている。この実施の形態による保持具本体11は、前記支持台4の穴4aに上方から嵌合可能な形状に形成された円筒部13と、この円筒部13の外周部分に突設されたフランジ部14とから構成されている。
【0024】
前記フランジ部14は、前記円筒部13の軸線方向の中央に位置付けられており、前記円筒部13が前記穴4aに嵌合した状態で支持台4の上面に支承されるものである。すなわち、保持具本体11は、前記支持台4に着脱自在に取付けられるように構成されている。前記円筒部13が前記穴4aに嵌合している状態においては、この円筒部13の軸線C(図3参照)が前記染料基板6と加熱装置7(染料昇華部)を指向するようになる。
【0025】
前記フランジ部14には、図4および図5に示すように、2つの貫通孔15,15が穿設されている。これらの貫通孔15は、前記支持台4に立設された2本の位置決めピン16(図3参照)が嵌合するように形成されている。この保持具本体11は、前記位置決めピン16が貫通孔15に嵌合することによって支持台4に対して位置決めされる。
【0026】
保持具本体11の軸線方向(図3においては上下方向)の一方の端部には、図4および図5に示すように、後述する支持部材12を取付けるための複数の凹溝17が形成されている。これらの凹溝17は、保持具本体11の周方向に等間隔おいて配設されており、保持具本体11の軸心を中心として放射状に延びるように形成されている。この実施の形態による保持具本体11は、周方向の6箇所に凹溝17が形成されている。これらの凹溝17は、前記円筒部13の内周面からフランジ部14の外周面まで延びるように形成されている。また、これらの凹溝17には、支持部材固定用ボルト18(図2,3参照)を締め付けるためのねじ孔19が形成されている。
【0027】
前記支持部材12は、眼鏡レンズ3の外周部を一方のレンズ面3a側と他方のレンズ面3b側から(表裏両面側から)挟む一対の爪片[第1の爪片21および第2の爪片22{図6(B)参照}]を備えている。また、支持部材12は、前記爪片21,22が前記保持具本体11の中空部内に位置するように、前記凹溝17内に挿入された状態で支持部材固定用ボルト18によって保持具本体11に着脱可能に取付けられている。
【0028】
この実施の形態による支持部材12は、図6に示すように、相対的に長くなるように形成された第1の支持板23と、この第1の支持板23に重ねられた第2の支持板24とによって構成されている。前記凹溝17の溝幅A(図4参照)は、第1の支持板23を挿入できるように形成されている。
これらの第1、第2の支持板23,24は、所定の形状に形成された薄帯状の金属板によって形成されている。前記第1の爪片21は、詳細は後述するが、第1の支持板23の先端部を曲げることによって形成され、前記第2の爪片22は、第2の支持板24の先端部を曲げることによって形成されている。
【0029】
第1、第2の支持板23,24を構成する金属板の材料は、たとえばステンレス綱を使用することができる。ステンレス綱は、ばね材料としても使うことができる材料である。この実施の形態による第2の支持板24は、第1の支持板23より薄い金属板を用いて形成されている。このため、このように相対的に薄く形成された第2の支持板24は、板ばねとしても機能するようになる。
【0030】
前記第1の支持板23は、図7に示すように、前記保持具本体11に取付けられる基部23aと、この基部23aの先端部に一体に形成された前記第1の爪片21とによって構成されている。前記基部23aは、平板状に形成されている。この基部23aには、前記支持部材固定用ボルト18を通すための長穴25が形成されている。
【0031】
第1の爪片21は、図7(B)に示すように、前記基部23aからこの基部23aの厚み方向(同図においては上下方向であって眼鏡レンズ3の厚み方向)の一方に延びるアーム21aと、このアーム21aの先端部に形成された爪21bとによって構成されている。前記アーム21aは、相対的に細い角柱状に形成されている。この第1の爪片21は、前記アーム21aと前記基部23aとの境界部分と、このアーム21aと前記爪21bとの境界部分とに曲げ加工を施すことによって、前記基部23aに上端部が接続された側面視略L字状に形成されている。この爪21bと前記アーム21aとは、図7(A)に示すように、前記基部23aの幅方向(同図において上下方向)の中央に位置付けられている。
【0032】
前記爪21bは、図7(A)に示すように、基部23a側から見て眼鏡レンズ3の軸線を指向する三角形状に形成されている。この爪21bは、上方を指向する三角形の面26{図9(A)参照}が眼鏡レンズ3の一方のレンズ面3a{図6(B)参照}に接触する状態で、第2の爪片22と協働して眼鏡レンズ3を保持する。
この爪21bの形状は、このように眼鏡レンズ3の軸線を指向する三角柱状に限定されることはなく、図9(B)〜(F)に示すように形成することができる。
【0033】
図9(B)に示す爪21bは、同図において上方を指向する三角柱状に形成されている。同図(C)に示す爪21bは、眼鏡レンズ3の軸線に向けて凸になる蒲鉾状に形成されている。同図(D)に示す爪21bは、同図において上方に向けて凸になる蒲鉾状に形成されている。同図(E)に示す爪21bは、立方体状に形成され、同図(F)に示す爪21bは、同図において上方を指向する円錐状に形成されている。
【0034】
これらの爪21bのうち、図において上方に向かうにしたがって(レンズ面3aに接近するにしたがって)幅が漸次狭く、または細くなるように形成された爪21bを用いることによって、レンズ面3aにおける爪21bが接触する部分である未染色部分の面積を可及的小さくすることができる。このように幅が漸次狭くまたは細くなるような爪21bを用いる場合は、昇華された染料が爪21bの側面に沿って流れてレンズ面3aに到達し易くなるから、前記未染色部分の周囲に染色むらが生じ難くなる。
【0035】
前記第2の支持板24は、図8に示すように、平板状の基部24aと、この基部24aの先端部を折り曲げることによって形成された前記第2の爪片22とによって構成されている。前記基部24aは、前記第1の支持板23の基部23aに重ねられてスポット溶接によって溶接されている。スポット溶接による溶接部27は、図6(A)に示すように、基部24aにおける第2の爪片22とは反対側の端部に位置付けられている。
【0036】
第2の爪片22は、図8(C)に示すように、眼鏡レンズ3の軸心側から見て眼鏡レンズ3の他方のレンズ面3bを指向する(同図において下方を指向する)三角形状に形成されている。この第2の爪片22は、図6(B)に示すように、眼鏡レンズ3の他方のレンズ面3bに第1の爪片21の爪21bとは反対方向から接触する。なお、第2の爪片22の先端は、必ずしも尖らせる必要はなく、平坦に形成したり、丸みを帯びるように形成することができる。
【0037】
この第2の爪片22と、前記第1の爪片21の爪21bとは、図3に示すように、眼鏡レンズ3が保持具本体11の軸線方向の略中央で保持されるように形成されている。すなわち、前記保持具本体11の凹溝17の深さと、前記第1の爪片21のアーム21aの長さおよび第2の爪片22の大きさは、上述したように眼鏡レンズ3が保持される位置が保持具本体11の軸線方向の略中央となるように形成されている。この実施の形態においては、眼鏡レンズ3の凹面(一方のレンズ面3a)が前記爪21bに接触するように両爪片21,22に眼鏡レンズ3を保持させることによって、図3に示すように、前記凹面(一方のレンズ面3a)の中央部分の高さと、凸面(他方のレンズ面3b)が下方を指向するように裏返した状態における凸面の中央部分の高さとが略一致するようになる。
【0038】
このように構成された昇華染色装置用レンズ保持具2は、複数の支持部材12を保持具本体11の複数の凹溝17に挿入し、支持部材固定用ボルト18で保持具本体11に固定することによって組立てられる。眼鏡レンズ3は、保持具本体11の中空部内に挿入された状態で支持部材12の一対の爪片21,22に挟まれて保持される。眼鏡レンズ3を両爪片21,22で挟むに当たっては、先ず、第1の爪片21に眼鏡レンズ3の一方のレンズ面3a側の外周部を載せ、この状態で第2の支持板24を弾性変形させて両爪21,22間の間隔を拡げ、他方のレンズ面3b側の外周部を第2の爪片22の内側に挿入することによって行う。
【0039】
眼鏡レンズ3は、このようにレンズ保持具2に保持された状態でレンズ保持具2を介して昇華染色装置1に装着される。レンズ保持具2は、昇華染色装置1の支持台4に円筒部13を嵌合させて載せられる。このとき、レンズ保持具2は、貫通孔15と位置決めピン16とによって支持台4に対して位置決めされる。
昇華染色装置1によって眼鏡レンズ3の一方のレンズ面3aが染色された後、作業者(図示せず)によって眼鏡レンズ3が裏返される。この作業は、たとえばレンズ保持具2の保持具本体11を作業者が把持して支持台4から持ち上げ、他方の手で持ち替えて裏返し、再び支持台4に載置させることによって行われる。
【0040】
したがって、この実施の形態によるレンズ保持具2においては、眼鏡レンズ3の外周部が表裏両面側から一対の爪片21,22で挟まれるから、昇華染色時の熱で眼鏡レンズ3の硬度が低くなったとしても眼鏡レンズ3が変形することはない。
また、眼鏡レンズ3を支持部材12によって保持具本体11に保持させた状態においては、保持具本体11を裏返しても眼鏡レンズ3が保持された状態に保たれる。一対の爪片21,22は、眼鏡レンズ3の重量を支えることができる最小の大きさに形成することができるから、未染色部分を可及的小さくすることができる。
【0041】
このため、眼鏡レンズ3の一方のレンズ面3aの染色が終了した後にレンズ保持具2を裏返すだけで眼鏡レンズ3の他方のレンズ面3bが染色可能になる。この作業は、単純作業であり、しかも、眼鏡レンズ3のレンズ面3a,3bから離間した保持具本体11を把持して行うことができるから、タイムロスが少なく、短時間で行うことができる。しかも、この作業は、単純であるから、この作業に不慣れな作業者であっても熟練者と同等の作業速度で行うことができる。
【0042】
この結果、眼鏡レンズ3の一方のレンズ面3aの染色が終了して他方のレンズ面3bの染色を開始するときの眼鏡レンズ3の温度が略一定になる。
したがって、この実施の形態によれば、眼鏡レンズ3を変形することがなく、かつ180°反転させたとしても落下することがないように保持でき、しかも、タイムロスや色むらが少なくなるように眼鏡レンズ3を保持可能な昇華染色装置用レンズ保持具2を提供することができる。
【0043】
この実施の形態による前記支持部材12は、前記保持具本体11に取付けられる基部23aを有しかつ第1の爪片21が先端部に形成された第1の支持板23と、第2の爪片22が先端部に形成されかつ前記第1の支持板23に重ねて固定された第2の支持板24とによって構成されている。前記第2の支持板24は、ばね材料によって形成されている。
【0044】
このため、この実施の形態によれば、第2の支持板24を弾性変形させることによって一対の爪片21,22の間隔を拡げることができるから、一対の爪片21,22の間に眼鏡レンズ3の外周部を挿入する作業を容易に行うことができる。また、第2の支持板24が弾性変形できるために厚みが異なる眼鏡レンズ3を保持することができるから、汎用性が高い昇華染色装置用レンズ保持具2を提供することができる。
【0045】
この実施の形態による前記支持部材12の一対の爪片21,22は、眼鏡レンズ3が前記保持具本体11の軸線方向の中央部で保持されるように形成されている。このため、眼鏡レンズ3の一方のレンズ面3aを染色するときと、レンズ保持具2を裏返して他方のレンズ面3bを染色するときとにおいて、レンズ面3a,3bが略等しい位置に位置付けられるようになる。したがって、眼鏡レンズ3の一方のレンズ面3aの染色と、他方のレンズ面3bの染色とを略同じ条件で行うことができ、眼鏡レンズ3の両面を略等しく染色することができる。
【0046】
上述した実施の形態においては、第2の支持板24が板ばねを構成する例を示したが、本発明はこのような限定にとらわれることはなく、第1の支持板23が板ばねとなるように構成することができるし、第1、第2の支持板24の両方が板ばねとなるように構成することもできる。
また、上述した実施の形態では眼鏡レンズ3を真空容器5内で水平に保持する例を示したが、本発明に係るレンズ保持具2は、眼鏡レンズ3を立てて保持する昇華染色装置にも使用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…昇華染色装置、2…レンズ保持具、3…眼鏡レンズ、3a,3b…レンズ面、4…支持台、6…染色基板、7…加熱装置、11…保持具本体、12…支持部材、17…凹溝、21…第1の爪片、21a…アーム、21b…爪、22…第2の爪片、23…第1の支持板、23a,24a…基部、24…第2の支持板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズを挿入可能な円環状に形成されかつ軸線が染料昇華部を指向する状態で昇華染色装置に着脱自在に取付られる保持具本体と、
眼鏡レンズの外周部を表裏両面側から挟む一対の爪片を有するとともに前記爪片が前記保持具本体の中空部内に位置するように前記保持具本体に着脱可能に取付けられた複数の支持部材とを備えたことを特徴とする昇華染色装置用レンズ保持具。
【請求項2】
請求項1記載の昇華染色装置用レンズ保持具において、前記支持部材は、前記保持具本体に取付けられる基部を有しかつ前記一対の爪片のうち一方の爪片が先端部に形成された第1の支持板と、
前記一対の爪片のうち他方の爪片が先端部に形成されかつ前記第1の支持板に重ねて固定された第2の支持板とによって構成され、
前記第1の支持板と第2の支持板とのうち少なくともいずれか一方は、ばね材料によって形成されていることを特徴とする昇華染色装置用レンズ保持具。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の昇華染色装置用レンズ保持具において、前記支持部材の一対の爪片は、眼鏡レンズが前記保持具本体の軸線方向の中央部で保持されるように形成されていることを特徴とする昇華染色装置用レンズ保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−108171(P2012−108171A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254604(P2010−254604)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】