説明

昇華転写用インクジェットインク、それを用いる染色方法及び染色物

【課題】
乾燥再分散性、ロングランでの吐出安定性、復帰吐出性に優れ、且つ昇華転写染色時に煙を発生しない、昇華転写用インクジェットインクの提供を目的とする。
【解決手段】
分散染料及び油溶性染料から選ばれる少なくとも1種の昇華性染料、少なくとも2種類の分散剤、少なくとも1種類の下記式(1)で表される化合物、及び、少なくとも1種類のポリオール化合物を含有する昇華転写用の水性インクジェットインク、
【化1】


(式中、nは2〜12の整数である)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昇華転写用インクジェットインク、該インクを用いたインクジェット染色方法、及びその染色方法により得られた染色物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維を代表とする疎水性繊維へのインクジェット記録(染色)方法は、大きく分けると以下2つの方法に大別される。
すなわち、繊維へ直接インクを付与した後、高温スチーミング等の熱処理によりインク中の染料を繊維に染着させるダイレクト染色方法と、中間記録媒体(専用の転写紙等)にインクを付与した後、中間記録媒体のインク付与面と疎水性繊維を重ね合わせた後、熱により染料を中間記録媒体から繊維側へ転写させる昇華転写染色(又は染色)方法である。
【0003】
これら2つの方法うち昇華転写染色は、通常のぼり旗等の染色加工に主に用いられ、インク中には熱処理によるポリエステルへの転写適性に優れた易昇華型の染料が用いられる。昇華転写染色では、一般に、
(1)プリント工程:
インクジェットプリンタによりインク中の染料を中間記録媒体に付与する工程、
(2)転写工程:
熱処理により中間記録媒体に付与された染料を、該媒体から繊維に転写染色する工程、
の2工程が必要である。
ダイレクト染色では、繊維に直接インクを付与することから、染料の滲み等を防止する目的で、インクを付与する前の繊維に対して前処理を行うことが一般的に行われている。また染色後の繊維から、前処理工程によって付与された糊剤や染料以外のインク成分等を除去する目的で、染色後の繊維を洗浄することも不可欠である。
しかしながら、昇華転写染色においては、中間記録媒体に記録を行った後、これを繊維に転写するため、繊維の前処理工程や洗浄工程を必要としない。また、転写染色時には、加熱により中間記録媒体に付与した染料を繊維に昇華転写させるため、ダイレクト染色のように繊維に付与された糊剤や染料以外のインク成分等を除去する洗浄工程を必要としないこと;中間記録媒体としては市販の転写紙が広く使用できること;等の利点がある。
【0004】
ダイレクト及び昇華転写染色用のインクジェットインクは、従来から様々なものが開発されてきている。このうち水に不溶又は難溶性の染料である、分散染料及び油溶性染料を含有する水性の分散インクに求められる性能としては、インクの乾燥時における再分散性;インクジェット記録時における吐出安定性、及び復帰吐出性;長期保存した場合や、夏季の室内等の高温環境で使用する場合であっても、分散させた染料の凝集・沈殿や、インクの粘度上昇・分離等を生じない保存安定性;等が挙げられる。
【0005】
インクジェット記録時における吐出性の不良は、ノズルプレート近傍でインク中の水分が蒸発することによって引き起こされることが多い。吐出性が不良になると、インクの飛行曲がり等を生じることにより、インクジェット記録画像の品質が劣化する等の問題が生じる。このため、インクジェット記録時における吐出安定性の確保は重要な課題の1つである。
【0006】
一方、インク中の水分の蒸発により、その成分がノズル等に付着して目詰まりを起こすこと等を原因として吐出不良が生じるのであれば、これをインクジェットプリンタの付属機能であるワイピング等のクリーニング動作で除去すれば良いとの考え方もある。
しかしながら、クリーニング動作を行うことにより、インクジェット記録を中断しなければならないこと;クリーニングを頻繁に繰り返すとプリンタのメンテナンス系統に負担がかかること;結晶化・固化する成分、及び/又は、低水分状態になると著しく増粘する成分等をインク中に含有すると、ワイピング等を行っても容易にはノズル等の目詰まり等が解消しないこと、特に前者の結晶化・固化する成分を含む場合には、クリーニング動作により、固体の成分自体がノズル/ノズルプレートを破損する懸念があること;等の問題も指摘されている。このため、乾燥したインクの再分散性(乾燥したインクがクリーニングされ易いか否かの指標、乾燥再分散性ともいう)は重要な課題の1つである。
また、作業現場の休日等により、インクを充填したままインクジェットプリンタが一定期間稼動せず放置されるような場合等にも、クリーニング及びそれに伴う前記の問題が生じる懸念があるため、このような放置後の吐出安定性(復帰吐出性ともいう)に優れることもインクに求められる重要な性能の1つである。
【0007】
これらの性能に加えて、転写染色時に煙を発生しないという性能が、昇華転写用のインクには特徴的に求められている。
昇華転写方式における繊維の染色方法では、インクジェットプリンタにて昇華転写インクを中間記録媒体(専用の転写紙等)に付与(記録)し、中間記録媒体のインク付与(記録)面と、繊維(例えば、ポリエステル繊維等の疎水性繊維)とを重ね合わせ、これを熱圧着ローラーや熱プレス機等による熱圧着方式によって昇華性染料を繊維に転写染色する。中間記録媒体に付与されたインクは、通常乾燥等の操作を行うことなく繊維への転写染色に使用されるため、熱圧着時にインク中に含まれる水や水溶性有機溶剤等の成分が揮発して大気中に放出される。
該揮発して放出された成分は、通常熱圧着時の温度より低い外気温によって冷却され、気体から液体に状態変化し、これがミスト、さらには煙となって現れる。この煙が、作業環境の視界を悪くすること;また排気ダクト内に設けられたフィルターに付着してフィルターの目詰まりが生じること;等の原因となるため、大きな問題となっている。このため、揮発成分を含まない、又は揮発成分を含むとしても煙を発生せず、前記の問題を生じないインクの開発が強く要望されている。
【0008】
特許文献2及び3には、4個以上のOH基を有する、常温で結晶となる糖アルコールを保湿剤として用いる昇華転写用インクジェット記録用インクが開示されている。
【0009】
特許文献1には、実質的にグリセリンを含有するダイレクトプリント、及び昇華転写用のインクジェット用のインク組成物が開示されている。
特許文献4及び6には、本発明のインクと同様に、式(1)で表される化合物を含有するインク、及び/又はこれを用いたインクジェット染色方法(ダイレクトプリント法)が開示されている。
特許文献5には、紙用のインクジェット記録用水性顔料インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2005/121263号パンフレット
【特許文献2】特許第3515779号公報
【特許文献3】特許第3573156号公報
【特許文献4】特開2007−238687号公報
【特許文献5】特開2004−107631号公報
【特許文献6】国際公開第2007/102455号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記昇華転写用インクジェットインクの問題点を解決し、乾燥再分散性、ロングランでの吐出安定性、復帰吐出性に優れ、且つ昇華転写染色時に煙を発生しない、昇華転写用インクジェットインクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、それぞれ特定の染料、分散剤、下記式(1)で表される化合物、及びポリオール化合物を含有する水性インクが、前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は
1)
分散染料及び油溶性染料から選ばれる少なくとも1種の昇華性染料、少なくとも2種類の分散剤、少なくとも1種類の下記式(1)で表される化合物、及び、少なくとも1種類のポリオール化合物を含有する昇華転写用の水性インクジェットインク、
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、nは平均重合度を表し、2〜12である)、
【0016】
2)
ポリオール化合物が、総炭素数2乃至6であり、且つ1分子中にエーテル結合を1つ有しても良いジオール化合物である上記1)に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク、
3)
分散剤として、アニオン分散剤を少なくとも1種類、及びノニオン分散剤を少なくとも1種類の両者を含有する上記1)又は2)に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク、
4)
アニオン分散剤が、β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物;アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物;及び、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物;よりなる群から選択される分散剤である上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク、
5)
ノニオン分散剤が、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、及びコレスタノールのエチレンオキサイド付加物から選択される分散剤である上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
6)
アニオン分散剤が、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物であり、
ノニオン分散剤が、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、及びコレスタノールのエチレンオキサイド付加物から選択される分散剤であり、
ポリオール化合物が、総炭素数2乃至6であり、且つ1分子中にエーテル結合を1つ有しても良いジオール化合物である、上記1)に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク、
7)
インクの総質量に対して、いずれも質量基準で、
昇華性染料を0.1〜15%、
アニオン分散剤を0.005〜30%、
ノニオン分散剤を0.00015〜14%、
式(1)で表される化合物を5〜50%、
ポリオール化合物を1〜30%、それぞれ含有し、残部が水である上記1)に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク、
8)
少なくとも1種類のポリシロキサン化合物をさらに含有する上記1)に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク、
9)
昇華性染料が、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111;よりなる群から選択される染料である、上記1)に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク、
10)
上記1)乃至9)のいずれか一項に記載の昇華転写用の水性インクジェットインクを用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて中間記録媒体に付与し、該中間記録媒体へ記録を行うインクジェット記録方法、
11)
上記10)に記載のインクジェット記録方法により記録された中間記録媒体、
12)
上記11)に記載の記録された中間記録媒体と疎水性材料とを重ねて加熱し、該媒体に付与された染料を疎水性材料に転写することにより該疎水性材料の染色を行う昇華転写染色方法、
13)
上記12)に記載の染色方法により染色された染色物、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインクは、乾燥再分散性、ロングラン吐出性、及び復帰吐出性に優れ、さらに昇華転写染色時の煙の発生が無いため、昇華転写用のインクジェットインクとして極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のインクは、分散染料及び油溶性染料から選ばれる少なくとも1種の昇華性染料、分散剤(好ましくは少なくとも1種類のアニオン分散剤、及び少なくとも1種類のノニオン分散剤の両者)、少なくとも1種類の上記式(1)で表される化合物、及び、少なくとも1種類のポリオール化合物を含有し、残部が水である昇華転写用の水性インクジェットインクである。
【0019】
本発明のインクに含有する染料としては、公知の分散染料及び油溶性染料の中から昇華転写適性のある染料を選んで用いるのが良い。昇華転写適性のある染料についてはJIS L 0879 乾式処理に対する染色堅ろう度試験方法における、乾熱処理試験(C法)汚染(ポリエステル)の試験結果が、好ましくは3−4級以下、より好ましくは3級以下の染料である。そのような染料の具体例としては、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111;等が挙げられる。これらは、単独でも2種類以上併用して用いても良い。
前記のうち、本発明のインクの保存安定性の観点からは、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ20、25、25:1、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、53、55、55:1、59、60、65、70、75、146、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー26、26:1、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111;がより好ましい。
【0020】
前記の昇華性染料は、粉末状又は塊状でも良く、また乾燥、ウエットケーキ、及びスラリーの何れの状態でも良く、さらに、染料の合成中や合成後に染料粒子の凝集を抑える目的で分散剤が少量含有されたものであっても良い。また分散安定性及びインクの吐出精度への悪影響を抑える目的で、できるだけ不純物として含有する金属陽イオンの塩化物、例えば塩化ナトリウム;硫酸塩、例えば硫酸ナトリウム;等の無機不純物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。この場合、例えば塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムの総含有量は、染料の総質量に対して1質量%以下程度であり、下限値は0質量%、すなわち検出機器の検出限界以下で良い。無機不純物の少ない化合物を製造するに方法としては、例えばそれ自体公知の逆浸透膜による方法;又は、使用する染料の乾燥品あるいはウエットケーキ等を、例えばアセトン、メタノール等のC1−C4アルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等)等の水溶性有機溶剤、又は含水水溶性有機溶剤中に加え、懸濁精製又は晶析する方法;等の方法が挙げられ、これらの方法により脱塩処理等をすれば良い。
【0021】
前記の染料は配合しても良く、例えばブラックインクの調製においては、ブルー染料を主体にオレンジ染料、及びレッド染料を適宜配合してブラック色に調色し、これをブラック染料として用いることができる。また、例えばブルー、オレンジ、レッド、バイオレット、又はブラック等の色調を、より好みの色調に微調製する目的で複数の染料を配合しても良い。
【0022】
本発明のインクに含有する分散剤としては、アニオン分散剤を少なくとも1種類、及びノニオン分散剤を少なくとも1種類、それぞれ含有するのが好ましい。アニオン分散剤及びノニオン分散剤の両者を含有することにより、良好な分散安定性が得られる。
【0023】
前記のアニオン分散剤としては、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物が好ましく挙げられる。
【0024】
前記のアニオン分散剤中、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物における「芳香族スルホン酸」としては、例えばクレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β−ナフトールスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルナフタレンスルホン酸、β−ナフタレンスルホン酸とβ−ナフトールスルホン酸の混合物、及びクレゾールスルホン酸と2−ナフトール−6−スルホン酸の混合物、リグニンスルホン酸等が挙げられる。
前記芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物は、市販品として入手する事もできる。市販品としては、例えばいずれも花王株式会社製の商品名で、デモールRTMN(β−ナフタレンスルホン酸)、デモールRTMSN−B(ブチルナフタレンスルホン酸);いずれも第一工業製薬株式会社製の商品名で、ラベリンRTMW−40(クレオソート油スルホン酸)、ラベリンRTMAN−40(メチルナフタレンスルホン酸);等が挙げられる。各商品名の後ろに付けた括弧書きは、前記「芳香族スルホン酸」の部分を表し、いずれもホルマリン縮合物である。
なお、本明細書において上付きの「RTM」は、登録商標を表す。
【0025】
前記アニオン分散剤としては、β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、及びクレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物が好ましい。
【0026】
本発明のインクに含有するノニオン分散剤としては、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、及びコレスタノールのエチレンオキサイド付加物から選択されるものが挙げられる。
本明細書において「フィトステロール」とは、フィトステロール及び水添フィトステロールの両者を含む意味である。例えば、フィトステロール類のエチレンオキサイド付加物としては、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、及び水素添加フィトステロールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
同様に、本明細書において「コレスタノール」とは、コレスタノール、及び水素添加コレスタノールの両者を含む意味である。例えばコレスタノールのエチレンオキサイド(EO)付加物としてはコレスタノールのエチレンオキサイド付加物、及び水素添加コレスタノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。前記のフィトステロール又はコレスタノール1モルあたりのエチレンオキサイド付加量は10〜50モル程度で、HLBが13〜20程度のものが好ましい。
フィトステロールエチレンオキサイド付加物は市販品として入手できるものがあり、例えば、いずれも日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOLRTMBPS−20、NIKKOLRTMBPS−30(フィトステロールのEO付加物)、NIKKOLRTMBPSH−25(水素添加フィトステロールのEO付加物)等として市場から入手する事が出来る。また、コレスタノール類のエチレンオキサイド付加物としては、例えば、日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOLRTMDHC−30(コレスタノールのEO付加物)等が挙げられる。
【0027】
前記のアニオン及びノニオン分散剤は、いずれも塩の形で用いても良い。塩としては、例えばアルカリ金属陽イオンとの塩が挙げられ、具体例としてはナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0028】
本発明のインクの保存安定性の観点からは、本発明のインクに含有する少なくとも2種類の分散剤の組合せとして、アニオン分散剤を少なくとも1種類、及びノニオン分散剤を少なくとも1種類の両者の組合せが好ましく、アニオン分散剤がβ−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物;アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物;及び、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物;よりなる群から選択され、ノニオン分散剤がフィトステロールのエチレンオキサイド付加物、及びコレスタノールのエチレンオキサイド付加物から選択される分散剤である組合せがより好ましく、中でもアニオン分散剤がクレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物であり、ノニオン分散剤がフィトステロールのエチレンオキサイド付加物、及びコレスタノールのエチレンオキサイド付加物から選択される分散剤である組合せが特に好ましい。
【0029】
本発明のインクに含有する前記式(1)で表される化合物中、nは平均重合度を表し、通常2〜12、好ましくは2〜10である。この平均重合度は、小数点以下1桁目を四捨五入した数値で記載する。式(1)で表される化合物の具体例としては、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ウンデカグリセリン、ドデカグリセリン、トリデカグリセリン、テトラデカグリセリン等の化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。トリデカグリセリン、及びテトラデカグリセリン等の重合度は、それぞれ13及び14であるが、これらを単独で使用せず、より小さい重合度のものとの混合物として使用するとき、その混合物の平均重合度が上記の範囲であれば、本発明のインクに該混合物を含有しても良い。また、例えばグリセリンが50%、トリグリセリンが50%の混合物であれば、平均重合度nは2となるが、グリセリンの含有量が大きいと、前記の通り昇華転写時に煙等が発生し、転写染色における作業環境の視野悪化等の問題が生じる。このため、式(1)で表される化合物中、不純物として含有するグリセリンの含有量は、ガスクロマトグラフ法基準(ピークの面積比)で通常10%以下、好ましくは8%以下であり、下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0%で良い。
式(1)で表される化合物の市販品としては例えば、いずれも阪本薬品工業株式会社製、商品名ジグリセリンS(平均重合度n=2)、商品名ポリグリセリン#310(平均重合度n=4)、商品名ポリグリセリン#750(平均重合度n=10)等が挙げられる。
【0030】
本発明のインクに含有するポリオール化合物としては、総炭素数が2乃至6であり、且つ1分子中にエーテル結合を1つ有しても良いポリオール化合物(好ましくはジオール化合物)が挙げられる。
具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
これらのうち、ノズルでの目詰まり防止として高い保湿性を有すること、及び昇華性染料に対する溶解性の点からは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールがより好ましい。これらは、単独でも2種類以上を併用して用いても良い。
【0031】
本発明のインクは、昇華性染料、分散剤、式(1)で表される化合物、ポリオール化合物、及び必要に応じて、本発明のインクにより得られる効果を阻害しない範囲で他の添加剤等を水に加えて分散することにより調製することができる。
【0032】
本発明のインクに含有しても良い添加剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0033】
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、及び無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えばソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイドが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤としてデヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム;等が、さらにはアーチケミカル社製の商品名プロクセルRTMGXL(S)及びプロクセルRTMXL−2(S);等が、それぞれ挙げられる。
【0034】
pH調整剤は、インクの保存安定性を向上させる目的で、インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸;等が挙げられる。
【0035】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0036】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0037】
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物が挙げられ、又はベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤等も使用できる。
【0038】
消泡剤としては、高酸化油系、グリセリン脂肪酸エステル系、フッ素系、シリコーン系化合物、アセチレン系化合物等が挙げられる。
【0039】
表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0040】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0041】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0042】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0043】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学工業株式会社製の商品名サーフィノールRTM104、82、465、オルフィンRTMSTG;SIGMA−ALDRICH社製の商品名TergitolRTM15−S−7;等が挙げられる。
【0044】
添加剤の1つとして、ポリシロキサン化合物を本発明のインクに含有しても良く、インクジェット記録における吐出応答性を向上させる目的で、該化合物は含有する方が好ましい。ポリシロキサン化合物としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。これらは市販品として入手することも可能であり、例えばいずれもビックケミー・ジャパン株式会社製の商品名である、BYK−347(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)、BYK−348(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)等が挙げられる。
【0045】
前記の添加剤は、単独もしくは混合して用いられる。本発明のインクの総質量に対して、添加剤の含有量は、いずれも質量基準で0〜5%、好ましくは0〜3%程度である。
なお、本発明のインクの表面張力は通常20〜70mN/m、好ましくは20〜50mN/mに、また粘度は2〜20mPa・sに調整するのが吐出応答性等の観点から好ましい。詳細には使用するプリンタの吐出量、応答速度、インク液滴の飛行特性などを考慮して、適切な物性値に微調製するのが良い。粘度の調製は分散剤、式(1)で表される化合物、及びポリオール化合物の含有量で、表面張力は前記の界面活性剤等で、それぞれ調製すれば良い。
【0046】
本発明のインクの製造において、インクの調製に用いる水は、イオン交換水又は蒸留水等の不純物が少ない物が好ましい。また、インクの調製後に、メンブランフィルター等を用いて精密濾過を行って、インク組成物中の夾雑物を除いても良い。本発明のインクはインクジェット記録用のインクとして使用するため、精密濾過を行う方が好ましい。精密濾過に使用するフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは、0.8μm〜0.1μmである。
【0047】
本発明のインクの製造において、添加剤等の各薬剤を加える順序には特に制限はないが、昇華性染料、及び分散剤を水に加えて分散させて水性分散液を調製した後、この分散液に式(1)の化合物、ポリオール化合物、及び必要に応じて前記の添加剤等を加えてインクを調製するのが好ましい。
昇華性染料を分散する方法としては、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いる方法が挙げられ、これらの中でもサンドミル(ビーズミル)が好ましい。またサンドミル(ビーズミル)を用いた前記の水性分散液の調製は、径の小さいビーズ(おおよそ0.01mm〜1mm径)を使用し、ビーズの充填率を大きくした条件で行うことが好ましい。このような条件で分散を行うことにより、染料の粒子サイズを小さくすることができ、分散性の良好な分散液を得ることができる。また該分散液の調製後に、濾過及び/又は遠心分離等により、粒子サイズの大きい染料等の成分を除去することも好ましく行われる。また該分散液の調製時の泡立ち等を抑える目的で、前記のシリコーン系、アセチレン系等の消泡剤等を、極微量添加しても良い。
【0048】
前記の水性分散液の調製に用いる、分散処理を行う前のスラリーの総質量中における各成分の含有量は、おおよそ染料が10〜50%、アニオン分散剤が染料に対して5〜200%、ノニオン分散剤がアニオン分散剤に対して3〜45%であり、残部が水である。
前記のようにして調製された分散液は、さらに式(1)で表される化合物、ポリオール化合物、及び必要に応じて希釈用の水を加えて、インク中の染料の含有量を所望の量に調製できる。
【0049】
本発明のインク中における各成分の含有量は、本発明のインクの総質量に対して、いずれも質量基準で、
昇華性染料を通常0.1〜15%、好ましくは0.2〜12%、より好ましくは0.3〜10重量%、
アニオン分散剤を通常0.005〜30%、好ましくは0.01〜24%、より好ましくは0.015〜20%、
ノニオン分散剤を通常0.00015〜14%、好ましくは0.0003〜11%、より好ましくは0.00045〜9%、
式(1)で表される化合物を通常5〜50%、好ましくは10〜45%、より好ましくは10〜40%、
ポリオール化合物を通常1〜30%、好ましくは3〜25%、より好ましくは5〜20%、の範囲で含有するのが好ましい。
【0050】
本発明のインクジェット記録方法は、本発明の昇華転写用の水性インクジェットインクを用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて中間記録媒体に付与し、該中間記録媒体へ記録を行う記録方法である。
中間記録媒体としては、普通紙等を用いることもできるが、該媒体に付与したインクが乾燥する過程で、紙表面で染料が凝集せず、かつ次に行う転写時に染料の昇華を妨害しないものが良い。このような中間記録媒体としては、例えばシリカ等の無機微粒子でインク受容層が表面上に形成されている紙が好ましく、インクジェット用の専用紙等を用いるのが好ましい。
本発明は、前記本発明のインクジェット記録方法により記録された中間記録媒体(すなわち、本発明の中間記録媒体)を含むものである。
【0051】
本発明の昇華転写染色方法は、本発明の中間記録媒体と疎水性材料とを重ねて加熱し、該媒体に付与された染料を疎水性材料に転写することにより該疎水性材料の染色を行う染色方法である。
疎水性材料としては、疎水性繊維(好ましくはポリエステル繊維、及びポリエステルを含有する混紡繊維等)、疎水性樹脂からなるフィルム及びシート等、疎水性樹脂がコーティングされた布帛、ガラス、金属、陶磁器等が挙げられ、これらの中では疎水性繊維が好ましい。
染料を転写する際の加熱温度は、おおよそ190〜200℃程度が好ましい。
【0052】
本発明の染色物は、前記本発明の染色方法により染色された物質を意味し、該物質としては特に制限されない。該物質としては、前記の疎水性材料が好ましく、中でも疎水性繊維がより好ましい。
【0053】
本発明の昇華転写用の水性インクジェットインクを用いることにより、転写作業を行っている環境の汚染を防止することができる。また、プリントヘッドの目詰まりや吐出不良を生じさせること無く、固化したインクによってワイピングのメンテナンスによってヘッドに負担が掛かること無く、環境とプリンタに優しく且つ良好な昇華転写染色物を得る事が出来る事が出来る昇華転写用インクジェットインク組成物が得られる。
【実施例】
【0054】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。実施例において特に断りがない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。また実施例中で使用した前記式(1)で表される化合物が不純物としてグリセリンを含有する場合には、該式(1)で表される化合物を購入した際の試験成績表等に記載された、グリセリンの含有量(ガスクロマトグラフ法における面積%)を記載した。
【0055】
[実施例1]
昇華性染料としてカヤセットレッドB(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースレッド60)30部、アニオン分散剤としてラベリンRTMW−40(第一工業製薬株式会社製、クレオソート油スルホン酸塩のホルマリン縮合物の40%水溶液)45部、ノニオン分散剤としてNIKKOLRTMBPS−30(日光ケミカルズ株式会社製、フィトステロールのEO(エチレンオキサイド)30モル付加物)2部、イオン交換水23部からなる混合物を、0.2mm径ガラスビーズを用いてサンドミルにて、冷却下、約15時間分散化処理を行った。分散処理後、イオン交換水100部を加えて染料含有量が15%の水性分散液を調製した。次いで、該分散液をガラス繊維濾紙GC−50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径0.5μm)で濾過し、粒子サイズの大きい成分を除去した水性分散液を得た。
【0056】
得られた水性分散液30部に、nが2である式(1)で表される化合物としてジグリセリンS(阪本薬品工業株式会社製、グリセリン含有量0.5%)18部、ポリオール化合物としてプロピレングリコール8部、BYK−348(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)0.2部、さらにイオン交換水を加えて染料の含有量を4.5%に調整した本発明の昇華転写用のインクジェットインクを調製した。
【0057】
[実施例2]
ジグリセリンSの代わりに、nが4である式(1)で表される化合物としてポリグリセリン#310(阪本薬品工業株式会社製、グリセリン含有量7.1%)を18部使用した以外は実施例1と同様にして、本発明のインクを調製した。
【0058】
[実施例3]
ジグリセリンSの代わりに、nが10である式(1)で表される化合物としてポリグリセリン#750(阪本薬品工業株式会社製、グリセリン含有量0.1%)を18部使用した以外は実施例1と同様にして、本発明のインクを調製した。
【0059】
[実施例4]
プロピレングリコールの代わりに、ポリオール化合物としてエチレングリコールを8部使用した以外は実施例1と同様にして本発明のインクを調製した。
【0060】
[実施例5]
プロピレングリコールの代わりに、ポリオール化合物としてジエチレングリコールを8部使用した以外は実施例1と同様にして、本発明のインクを調製した。
【0061】
[実施例6]
プロピレングリコールの代わりに、ポリオール化合物として1,5−ペンタンジオールを8部使用した以外は実施例1と同様にして、本発明のインクを調製した。
【0062】
[実施例7]
プロピレングリコールの代わりに、ポリオール化合物として1,6−ヘキサンジオールを8部使用した以外は実施例1と同様にして、本発明のインクを調製した。
【0063】
[実施例8]
昇華性染料として“カヤセットブルーA−2R”(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースブルー72)30部、アニオン分散剤としてラベリンAN−40(第一工業製薬株式会社製、メチルナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物の40%水溶液)45部、ノニオン分散剤としてNIKKOLRTMBPSH−25(日光ケミカルズ製、水添フィトステロールのEO25モル付加物)2部、イオン交換水23部からなる混合物を、0.2mmφガラスビーズを用いてサンドミルにて、冷却下、約15時間分散化処理を行った。分散処理後、イオン交換水100部を加えて染料含有量が15%の水性分散液を調製した。次いで、該分散液をガラス繊維濾紙GC−50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径0.5μm)で濾過し、粒子サイズの大きい成分を除去した水性分散液を得た。
【0064】
得られた水性分散液30部に、nが2である式(1)で表される化合物としてジグリセリンS(阪本薬品工業株式会社製、グリセリン含有量0.5%)18部、ポリオール化合物としてプロピレングリコール8部、BYK−348(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)0.2部、さらにイオン交換水を加えて染料の含有量を4.5%に調整した本発明の昇華転写用のインクジェットインクを調製した。
【0065】
[実施例9]
ノニオン分散剤としてNIKKOLRTMBPSH−30の代わりに、NIKKOLRTMDHC−30を2部使用した以外は実施例8と同様にして、本発明のインクを調製した。
【0066】
[比較例1]
式(1)で表される化合物としてジグリセリンSを使用する代わりに、nが1である式(1)で表される化合物であるグリセリンを18部使用した以外は実施例1と同様にして、比較用のインクを調製した。
なお、式(1)で表される化合物において、nは2〜12であるため、グリセリンは本発明のインクに含有する式(1)で表される化合物には含まれない。
【0067】
[比較例2]
式(1)で表される化合物としてジグリセリンSを18部、及びポリオール化合物としてプロピレングリコール8部を併用する代わりに、ジグリセリンSを26部使用した以外は実施例1と同様にして、比較用のインクを調製した。
【0068】
[比較例3]
式(1)で表される化合物としてジグリセリンSを18部、及びポリオール化合物としてプロピレングリコール8部を併用する代わりに、プロピレングリコールを26部使用した以外は実施例1と同様にして、比較用のインクを調製した。
【0069】
[比較例4]
ポリオール化合物であるプロピレングリコールの代わりに、トリプロピレングリコールを8部使用した以外は実施例1と同様にして、比較用のインクを調製した。
なお、トリプロピレングリコールは、総炭素数が9であるため、本発明のインクに含有するポリオール化合物には含まれない。
【0070】
上記実施例1〜9、及び比較例1〜4のインクについて、各成分の割合を下記表1に示す。
【0071】
また、上記実施例1〜9、及び比較例1〜4で調製したインクについて以下(1)乃至(4)の各試験を行った。試験結果を下記表2に示す。
【0072】
(1)乾燥再分散性試験
インク1gをシャーレ(90mmφ)に採取し、シャーレ内部にインクを塗り広げた後、40℃の恒温乾燥機内部にて6時間乾燥させた。6時間後シャーレを恒温乾燥機から取り出し、水分が蒸発したインクにイオン交換水5gを滴下し状態を確認した。

評価基準:
○:凝集せずに綺麗に再分散する。
△:一部微小の凝集物は認められるが、概ね再分散する。
×:全く再分散しない。
【0073】
(2)ロングラン吐出性試験
株式会社ミマキエンジニアリング製ワイドフォーマットインクジェットプリンタ、JV2−130にてロングランでの吐出安定性を評価した。印刷モードは、720dpi×720dpi、単方向、8PASS、単色100%印刷の条件で、横1m×縦10mのベタ印刷を行った後、ノズルの吐出不良部分をテストパターンにて確認した。

評価基準:
○:1ノズルも目詰まりを起していない。
△:1〜3ノズルの目詰まりが発生。
×:4ノズル以上の目詰まりが発生。
【0074】
(3)復帰吐出性
上記ロングラン印刷試験後、クリーニングを行い全ノズルの目詰まりを回復させた。そのまま24時間放置した後、テストパターンにてノズルの吐出不良部分を確認した。

評価基準:
○:1ノズルも目詰まりを起していない。
△:1〜3ノズルの目詰まりが発生。
×:4ノズル以上の目詰まりが発生。
【0075】
(4)昇華転写染色時の煙の発生
上記(2)ロングラン印刷試験で作成したベタ印刷物のインク付与面を所定の大きさに裁断し(35cm×40cm)、同サイズのポリエステル布(ポンジ)と重ね合わせた後、太陽精機株式会社製トランスファープレス機TP−600A2を用いて190℃×60秒の条件にて昇華転写を行った。転写作業始終において発生する蒸気の状況を確認した。

評価基準:
○:煙状の蒸気の発生は認められない。
△:少量の煙状の蒸気の発生が認められる。
×:大量の煙状の蒸気の発生が認められる。
【0076】
下記表1中の数字は「部数」であり、略号は、以下の通りである。
Rd B:カヤセットレッドB
Bl A−2R:カヤセットブルーA−2R
W−40:ラベリンRTMW−40(アニオン分散剤)
AN−40:ラベリンRTMAN−40(アニオン分散剤)
BPS−30:NIKKOLRTMBPS−30(ノニオン分散剤)
BPSH−25:NIKKOLRTMBPSH−25(ノニオン分散剤)
DHC−30:NIKKOLRTMDHC−30(ノニオン分散剤)
#310:ポリグリセリン#310
#750:ポリグリセリン#750
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
1,5−PD:1,5−ペンタンジオール
1,6−HD:1,6−ヘキサンジオール
TPG:トリプロピレングリコール
【0077】
なお、下記表1中、括弧書きで示したグリセリン及びTPGは、いずれも本発明のインクの範囲には含まれないものである。また、BYK−348は、前記の通り、ビックケミー・ジャパン株式会社製のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンである。
また水溶液を使用したものについては固形物換算値を記載し、水の部分については「イオン交換水」中に加算した。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表2の結果より明らかなように、各実施例は全ての評価項目について最高の結果を示したが、比較例1は煙の発生、比較例2は復帰吐出性、比較例3はロングラン吐出性以外の3項目、比較例4は乾燥再分散性と復帰吐出性のそれぞれについて問題のあることが判明した。従って、本発明のインクは昇華転写用の水性インクジェットインクとして極めて有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の昇華転写用インクジェットインクは、インクジェットインクとして要求される印刷適性を満足させつつ、昇華転写時の水溶性有機溶剤を原因とする蒸気の発生が無いため、昇華転写作業環境をクリーンに保つ事が出来る昇華転写用インクジェットインクとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散染料及び油溶性染料から選ばれる少なくとも1種の昇華性染料、少なくとも2種類の分散剤、少なくとも1種類の下記式(1)で表される化合物、及び、少なくとも1種類のポリオール化合物を含有する昇華転写用の水性インクジェットインク、
【化1】

(式中、nは平均重合度を表し、2〜12である)。
【請求項2】
ポリオール化合物が、総炭素数2乃至6であり、且つ1分子中にエーテル結合を1つ有しても良いジオール化合物である請求項1に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
【請求項3】
分散剤として、アニオン分散剤を少なくとも1種類、及びノニオン分散剤を少なくとも1種類の両者を含有する請求項1又は2に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
【請求項4】
アニオン分散剤が、β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物;アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物;及び、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物;よりなる群から選択される分散剤である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
【請求項5】
ノニオン分散剤が、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、及びコレスタノールのエチレンオキサイド付加物から選択される分散剤である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
【請求項6】
アニオン分散剤が、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物であり、
ノニオン分散剤が、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、及びコレスタノールのエチレンオキサイド付加物から選択される分散剤であり、
ポリオール化合物が、総炭素数2乃至6であり、且つ1分子中にエーテル結合を1つ有しても良いジオール化合物である、請求項1に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
【請求項7】
インクの総質量に対して、いずれも質量基準で、
昇華性染料を0.1〜15%、
アニオン分散剤を0.005〜30%、
ノニオン分散剤を0.00015〜14%、
式(1)で表される化合物を5〜50%、
ポリオール化合物を1〜30%、それぞれ含有し、残部が水である請求項1に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
【請求項8】
少なくとも1種類のポリシロキサン化合物をさらに含有する請求項1に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
【請求項9】
昇華性染料が、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111;よりなる群から選択される染料である、請求項1に記載の昇華転写用の水性インクジェットインク。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の昇華転写用の水性インクジェットインクを用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて中間記録媒体に付与し、該中間記録媒体へ記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェット記録方法により記録された中間記録媒体。
【請求項12】
請求項11に記載の記録された中間記録媒体と疎水性材料とを重ねて加熱し、該媒体に付与された染料を疎水性材料に転写することにより該疎水性材料の染色を行う昇華転写染色方法。
【請求項13】
請求項12に記載の染色方法により染色された染色物。

【公開番号】特開2011−21133(P2011−21133A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168586(P2009−168586)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】