説明

昇降式波浪防護構造物

【課題】大掛かりな設備を用いることなく昇降させることができ、且つ昇降の制御を容易に行うことができる昇降式波浪防護構造物を提供することを目的とする。
【解決手段】地中に鉛直に設けられた複数の収納孔2の中に柱状体3が昇降可能にそれぞれ挿装された構成からなり、柱状体3を昇降手段4により昇降させることで、柱状体3の上部が収納孔2の上端から突出され、或いは、収納孔2の中に収納される昇降式波浪防護構造物1において、昇降手段4には、収納孔2の底部と柱状体3の下端部との間に設けられた鉛直方向に膨縮可能な袋体10と、袋体10の中に流体を圧入して袋体10を鉛直方向に膨張させ、また、袋体10の中の流体を排出して袋体10を鉛直方向に収縮させる膨縮手段11と、が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降式の波浪防護構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、津波対策を目的とした直立浮上式防波堤が提案されている。この防波堤は、複数の外鋼管を海底地盤内にそれぞれ鉛直に埋設して港の内外を仕切る位置に一列に並設させ、これらの外鋼管の中に上端面が閉塞された内鋼管をそれぞれ挿通させ、この内鋼管の中に空気を注入する構成からなる。上記した構成からなる防波堤は、内鋼管の中に空気を注入することで内鋼管が浮力によって浮上し、反対に内鋼管の中の空気を抜くことで内鋼管が沈降する。このような防波堤によれば、平穏時には、内鋼管を外鋼管内に収納させておくことで、防波堤が船舶の運航の邪魔にならない。一方、荒天時には、内鋼管の中に空気を注入して内鋼管を浮上させ、防波堤を海面上にせり上げ、津波を防止することができる(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
また、津波対策を目的としたスライドアーチ型防潮水門が提案されている。この防潮水門は、2つに分割されて開けられる平面視アーチ状の扉体と、防潮水門の両岸に設けられ、扉体が開けられたときに分割された扉体を収納する扉体格納庫と、扉体を動かして開閉させる駆動機構とを備えた構成からなる。上記した駆動機構は、両岸にそれぞれ設けられたスライド溝と、このスライド溝に沿って移動するスライド台と、スライド台をスライド溝に沿って移動させるウインチと、一端がスライド台に回転可能に固定されて他端が扉体に回転可能に固定された支持トラスとからなる。上記した構成からなる防潮水門によれば、駆動機構によって扉体を水平方向に移動させることで、扉体を開閉させることができる(特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開2005−290965号公報
【特許文献2】特開2006−37415号公報
【特許文献3】特開2006−46027号公報
【特許文献4】特開2003−253654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した直立浮上式防波堤の技術では、内鋼管の中の空気を出し入れして内鋼管に作用する浮力を調整することで、内鋼管を浮上・沈降させているため、内鋼管の浮上・沈降を制御することが非常に難しいという問題がある。したがって、非常時に、上記した直立浮上式防波堤を安全、確実、柔軟に作動させることが難しく、非常時に内鋼管が浮上しない可能性もあり、また、内鋼管が急激に浮き上がる可能性もある。
また、上記したスライドアーチ型防潮水門の技術では、駆動機構が大掛かりになり、維持管理が煩雑であるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、大掛かりな設備を用いることなく昇降させることができる波浪防護構造物であって、昇降の制御を容易に行うことができる昇降式波浪防護構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る昇降式波浪防護構造物は、地中に鉛直に設けられた複数の収納孔の中に柱状体が昇降可能にそれぞれ挿装された構成からなり、前記柱状体を昇降手段により昇降させることで、該柱状体の上部が前記収納孔の上端から突出され、或いは、前記収納孔の中に収納される昇降式波浪防護構造物において、前記昇降手段には、前記収納孔の底部と前記柱状体の下端部との間に設けられた鉛直方向に膨縮可能な袋体と、該袋体の中に流体を圧入して前記袋体を鉛直方向に膨張させ、また、前記袋体の中の流体を排出して前記袋体を鉛直方向に収縮させる膨縮手段と、が備えられていることを特徴としている。
【0007】
このような特徴により、膨縮手段により袋体の中に流体が圧入されることで、袋体が鉛直方向に膨張し、袋体の上方にある柱状体は上方に押し上げられるように上昇し、柱状体の上部が収納孔の上端から突出される。これにより、突出された柱状体によって津波等の波浪の威力を低減させることができ、被害を大幅に軽減させることができる。一方、膨縮手段により袋体の中の流体が排出されることで、袋体が鉛直方向に収縮し、膨張した袋体に支持された柱状体は下降し、柱状体の上部は収納孔の中に収納される。これにより、波の状態が平穏であって、柱状体により波浪を防ぐ必要がない場合には、柱状体を地中(収納孔内)に収納させておくことができる。このように、波浪を防ぐ必要が無い平穏時には、柱状体が地中の中にあり、津波が来た場合等、波浪を防ぐ必要がある非常時にだけ、柱状体が上昇して波浪を防ぐことができる。
【0008】
また、本発明に係る昇降式波浪防護構造物は、前記柱状体に、波浪を防ぐための壁体が支持された構成にすることが好ましい。
これにより、津波等が発生したとき、柱状体を上昇させることで壁体によって津波等の波浪の衝撃を受けることができる。
【0009】
また、本発明に係る昇降式波浪防護構造物は、前記壁体が、該壁体を構成する複数の板材が鉛直回転自在に連結された構成からなり、鉛直方向に蛇腹状に伸縮可能であり、前記壁体の上部が、前記柱状体に取り付けられており、前記壁体が、前記柱状体が下降するのに伴って、該複数の板材が折り重なって畳まれ、前記柱状体が上昇するのに伴って、折り重なった前記複数の板材が上方に繰り出されて広げられる構成にすることが好ましい。
これにより、柱状体の昇降によって壁体が広げられたり畳まれたりし、柱状体が突出された時だけ広げられて波浪を防ぎ、柱状体が収納孔の中に収納された時には折り畳まれる。
【0010】
また、本発明に係る昇降式波浪防護構造物は、前記柱状体の上部に防衝材が被覆されている構成とすることができる。
これにより、津波等とともに来襲する浮遊漂流物の衝撃が防衝材によって吸収される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る昇降式波浪防護構造物によれば、袋体を膨縮させることで柱状体を昇降させるため、大掛かりな駆動装置等の設備を用いることなく、シンプルな設備で柱状体を昇降させることができる。したがって、故障が少なく、維持管理も容易となる。また、本発明に係る昇降式波浪防護構造物によれば、袋体を膨縮させて柱状体を昇降させるため、柱状体の昇降制御を容易に行うことができる。これにより、柱状体を安全、確実、柔軟に昇降させることができ、柱状体の急上昇や急下降を防止することができ、また、非常時に柱状体を確実に上昇させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る昇降式波浪防護構造物の第1、第2の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0013】
[第1の実施の形態]
まず、本発明に係る昇降式波浪防護構造物の第1の実施の形態について説明する。
図1は第1の実施の形態の昇降式波浪防護構造物1の断面図であり、図2は第1の実施の形態の昇降式波浪防護構造物1の正面側(湾外側)からみた立面図である。なお、図1における左側が湾外側であり、図1における右側が湾内側である。
【0014】
図1、図2に示すように、第1の実施の形態における昇降式波浪防護構造物1は、津波(高潮)を防止するために湾口等に構築される防波堤である。この昇降式波浪防護構造物1には、主に、海底地盤G内に鉛直に設けられた複数の収納孔2…と、各収納孔2…の中にそれぞれ挿装された柱状体3…と、柱状体3…を昇降させる昇降手段4と、柱状体3…に支持された壁体5…と、から構成されている。
【0015】
収納孔2は、海底地盤G内に形成される縦孔であり、例えば、鋼管や筒状のプレキャストコンクリート部材等の中空部材を海底地盤G内に埋設させることで形成される。収納孔2の上端は、海底地盤Gの表面(海底面)で開放されており、収納孔2の下端は、底部材6で閉塞されている。複数の収納孔2…は、平面的にみて、所定の間隔を置いて一列に並べて形成されている。また、収納孔2の上端周囲の海底地盤G表面には、コンクリートや割石等からなる固定層7が形成されている。この固定層7は、上昇させた柱状体3…の根固めとなる。なお、収納孔2は、海底地盤Gをケーソン工法等で掘削することで形成してもよい。
【0016】
柱状体3は、収納孔2の中に昇降可能に挿装されている部材である。柱状体3は、その内部にバラスト調整を行うためのバラストタンクを有している。具体的には、柱状体3は、円筒形状の鋼管の上下端がそれぞれ閉塞された構成からなる中空部材であり、その内部空間がバラストタンクとなっている。この柱状体3は、バラストタンクによるバラスト調整によって海水よりもやや重い程度に比重調整されている。これにより、柱状体3をスムーズに昇降させることができる。また、柱状体3は、その全長が収納孔2の深さよりも短くなっており、収納孔2内に完全に収納できる構成となっている。また、柱状体3は、その外周断面形状が、収納孔2の内周断面形状に相当する形状であって収納孔2の内周断面形状よりも若干小さい形状となっている。
【0017】
昇降手段4は、柱状体3を昇降させて、柱状体3の上部を収納孔2の上端から突出させたり収納孔2の中に収納させたりするものである。昇降手段4は、各柱状体3…の下にそれぞれ配設された袋体10…と、これらの袋体10…を膨縮させる膨縮手段11と、から構成されている。
【0018】
袋体10は、例えばゴム膜等のような伸縮可能な材料からなり、鉛直方向に膨縮自在な部材である。袋体10は、その中に空気等の気体若しくは水等の液体(以下、流体と記す。)が圧入されると膨張して鉛直方向に伸長し、収納孔2の軸方向に沿って延在する長尺の筒形状となる。一方、袋体10は、その中の流体が排出されると収縮して鉛直方向に短縮し、蛇腹状に折り重なった状態となる。この袋体10は、収納孔2の底部と柱状体3の下端部との間に介装されており、袋体10の下端は収納孔2の底面に接合され、袋体10の上端は閉塞されて柱状体3の下端面に接合されている。
【0019】
膨縮手段11は、袋体10の中に流体を圧入して袋体10を鉛直方向に膨張させ、また、袋体10の中の流体を排出して袋体10を鉛直方向に収縮させるものである。具体的に説明すると、膨縮手段11は、ポンプ12と、ポンプ12と袋体10の下端との間に介装された接続管13とから構成されている。ポンプ12としては、流体を圧送したり排出したりすることができる公知のポンプを用いることができる。接続管13は、収納孔2の外側で収納孔2に沿って配置されており、底部材6の中を通って袋体10の下端に接続されている。
【0020】
壁体5は、波浪を防ぐためのフェンスであり、隣り合う柱状体3,3の間を塞ぐように架設されている。つまり、壁体5の両側端が柱状体3,3によってそれぞれ支持されている。この壁体5は、複数の板材15…を鉛直方向に並べて簾状に連結してなる部材であり、複数の板材15…が鉛直回転自在に連結され、鉛直方向に蛇腹状に伸縮可能な構成からなる。壁体5の上部(最上段の板材15A)は、柱状体3,3の上端部側面に鉛直回転自在に取り付けられている。上記した構成からなる壁体5は、柱状体3,3が下降するのに伴って、壁体5を構成する複数の板材15…が折り重なって畳まれ、柱状体3,3が上昇するのに伴って、折り重なった複数の板材15…が上方に繰り出されて広げられる。また、壁体5は、収納孔2…の上端部側方に設けられた壁体収納部8の中で折り重なって畳まれて収納される。この壁体収納部8は、一列に並べられた収納孔2…の並び方向に沿って延在する溝状の部分であり、例えば固定層7に埋設された断面L字形状のコンクリート部材等からなる。また、壁体収納部8の上部には、蓋体9が設けられている。この蓋体9は、収納孔2から離れている側(図1における左側)の長辺部分を支点にして鉛直方向に回転して開閉される蓋である。
【0021】
また、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1では、所定間隔を置いて設けられた複数(本実施の形態では2本)の収納孔2,2と、これらの収納孔2,2にそれぞれ挿通された複数(本実施の形態では2本)の柱状体3,3と、これら複数の柱状体3,3間に架設された壁体5とが一組となって1つのユニット20を形成している。このユニット20は、平面的にみて湾口を塞ぐように一列に複数連続的に並べられている。
【0022】
上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1は、波が通常の高さであって波浪を防ぐ必要がない平穏時には、図3(a)に示すように、各柱状体3が各々の収納孔2の中にそれぞれ完全に収納された状態となっている。即ち、各柱状体3の上端が、収納孔2の上端(海底面)から突出されていない状態、或いは収納孔2の上端(海底面)から僅かに突出されただけの状態になっている。このとき、袋体10の中には、流体が圧入されてなく、袋体10は収縮された状態になっている。また、壁体5は、折り畳まれて壁体収納部8の中に収納された状態になっている。
【0023】
一方、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1は、津波が発生し、津波(波浪)を防ぐ必要がある非常時には、各柱状体3(及び壁体5)の上端を海上までそれぞれ上昇させて津波を防ぐことができる。具体的に説明すると、図3(b)に示すように、ポンプ12を駆動させて、接続管13を介して袋体10の中に流体を圧入し、袋体10を鉛直方向に膨張させる。袋体10が鉛直方向に膨張すると、収納孔2内に収納されていた柱状体3は袋体10によって押し上げられるようにして上昇する。このとき、1つのユニット20を構成する2つの柱状体3,3が同時に同程度だけ上昇するように、2つの柱状体3,3の下にある袋体10,10を膨張させる膨縮手段11を同期させる。柱状体3が上昇すると、柱状体3の上部に取り付けられた壁体5の上部(最上段の板材15A)が柱状体3と共に上昇し、折り畳まれた壁体5が上方に繰り出されて広げられる。このとき、壁体5を構成する複数の板材15…が蓋体9を押し上げながら、壁体5が上方に繰り出される。そして、図3(c)に示すように、柱状体3の上端が海面よりも上方に突出する位置まで柱状体3を上昇させ、柱状体3の上部を収納孔2の上端から突出させる。このとき、壁体5は広げられて柱状体3に沿って鉛直に立てられた状態になる。つまり、壁体5を構成する複数の板材15…が鉛直方向に並べられた状態となる。このように柱状体3を上昇させて壁体5を広げる作業を図2に示す各ユニット20に対してそれぞれ行う。
【0024】
その後、津波(波浪)を防ぐ必要がなくなった時は、立ち上げられた各柱状体3(及び壁体5)を下降させて地中に収納させる。具体的に説明すると、図3(b)に示すように、蓋体9を開けた後、ポンプ12を駆動させて、接続管13を介して袋体10の中の流体を排出し、袋体10を鉛直方向に収縮させる。袋体10が鉛直方向に収縮すると、収納孔2の上端から突出した柱状体3は自重により沈降(下降)する。このとき、1つのユニット20を構成する2つの柱状体3,3が同時に同程度だけ下降するように、2つの柱状体3,3の下にある袋体10,10を収縮させる膨縮手段11を同期させる。柱状体3が下降すると、柱状体3の上部に取り付けられた壁体5が柱状体3と共に下降して蛇腹状に折り畳まれ、壁体収納部8の中に折り重なった状態で畳まれる。そして、図3(a)に示すように、各柱状体3が収納孔2の中に完全に収納された状態にする。このように柱状体3を下降させて壁体5を畳む作業を図2に示す各ユニット20に対してそれぞれ行う。
【0025】
上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1によれば、膨縮手段11により袋体10の中に流体が圧入されることで、袋体10が鉛直方向に膨張し、袋体10の上方にある柱状体3は上方に押し上げられるように上昇し、柱状体3の上部が収納孔2の上端から突出される。これにより、突出された柱状体3によって津波等の波浪の威力を低減させることができ、被害を大幅に軽減させることができる。一方、膨縮手段11により袋体10の中の流体が排出されることで、袋体10が鉛直方向に収縮し、膨張した袋体10に支持された柱状体3は下降し、柱状体3の上部は収納孔の中に収納される。これにより、波の状態が平穏であって、柱状体3により波浪を防ぐ必要がない場合には、柱状体3を海底地盤G中(収納孔2内)に収納させておくことができる。このように、津波が来た場合等、波浪を防ぐ必要がある非常時にだけ、柱状体3が上昇して波浪を防ぐことができ、波浪を防ぐ必要が無い平穏時には、柱状体3が海底地盤Gの中にあるため、船舶等の運航の邪魔になることがない。したがって、湾口を完全に塞ぐように昇降式波浪防護構造物1を構築することができ、津波等の波浪による災害を効果的に防ぐことができる。
【0026】
また、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1によれば、袋体10を膨縮させることで柱状体3を昇降させるため、大掛かりな駆動装置等の設備を用いることなく、シンプルな設備(昇降手段4)で柱状体3を昇降させることができる。仮に、柱状体3を押し上げる機械的な昇降機構(シリンダやパンタグラフ等)を柱状体3の下に配設したとすると、昇降機構のメンテナンスが困難である。特に、本実施の形態のように昇降式波浪防護構造物1を水中に設ける場合には、収納孔2内に機械的な昇降機構を配設することは現実的に厳しい。また、仮に、柱状体3を上方から引き上げる昇降機構を設けたとしても、その昇降機構は大掛かりとなる。特に、本実施の形態のように昇降式波浪防護構造物1を水中に設ける場合には、水上に昇降機構を配設することになり、大規模な設備が必要となる。これに対し、したがって、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1によれば、上述したように、袋体10を膨縮させる昇降手段4で柱状体3を昇降させることができるため、シンプルな設備でよく、したがって、故障が少なく、維持管理も容易である。
【0027】
また、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1によれば、袋体10を膨縮させて柱状体3を昇降させるため、柱状体3の昇降制御を容易に行うことができる。これにより、柱状体3を安全、確実、柔軟に昇降させることができ、柱状体3の急上昇や急下降を防止することができ、また、非常時に柱状体3を確実に上昇させることができる。
【0028】
また、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1によれば、柱状体3に、波浪を防ぐための壁体5が支持された構成になっているため、津波等が発生したとき、柱状体3を上昇させることで、柱状体3,3間から抜ける波浪の衝撃を壁体5によって受けることができる。これによって、柱状体3(収納孔2)の間隔を広げることができ、柱状体3(収納孔2)の本数を減らすことができる。
【0029】
また、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物1によれば、壁体5が、複数の板材15…が鉛直回転自在に連結された構成からなり、鉛直方向に蛇腹状に伸縮可能であり、壁体5の上部が、柱状体3に取り付けられており、壁体5が、柱状体3が下降するのに伴って、複数の板材15…が折り重なって畳まれ、柱状体3が上昇するのに伴って、折り重なった複数の板材15…が上方に繰り出されて広げられる構成になっているため、非常時には、柱状体3が突出されるとともに壁体5が確実に広げられ、波浪を確実に防ぐことができる。また、壁体5は、必要がない平穏時には邪魔にならないように折り畳まれた状態になる。
【0030】
[第2の実施の形態]
続いて、本発明に係る昇降式波浪防護構造物の第2の実施の形態について説明する。なお、上述した第1の実施の形態と同様の構成については第1の実施の形態と同様の符号を付してその説明を省略する。
図4は第1の実施の形態の昇降式波浪防護構造物101の断面図であり、図5は第1の実施の形態の昇降式波浪防護構造物101の正面側(湾外側)からみた立面図である。なお、図4における左側が湾外側であり、図4における右側が湾内側である。
【0031】
図4、図5に示すように、第2の実施の形態における昇降式波浪防護構造物101は、主に、海底地盤G内に鉛直に設けられた複数の収納孔2…と、各収納孔2…の中にそれぞれ挿装された柱状体3…と、柱状体3…を昇降させる昇降手段4とから構成されている。第2の実施の形態における昇降式波浪防護構造物101では、複数の柱状体3(収納孔2)が、間隔を詰めて連続的に並べられており、第1の実施の形態にある壁体5が備えられていない構成となっている。
【0032】
柱状体3の上部には防衝材120が被覆されており、収納孔2の上端には防衝材120の下端に当接させるストッパー121が外装されている。柱状体3は、収納孔2内に完全に収納されず、防衝材120が被覆された上端部がストッパー121上に突出した状態で収納孔2内に収納される。防衝材120は、衝撃吸収ゴム等からなるものであり、例えば、ガラス片のチップを混入したゴム等からなる。また、収納孔2の下端部には基礎コンクリート106が充填されており、この基礎コンクリート106の上に袋体10が配設されている。また、膨縮手段11の接続管13は、基礎コンクリート106の上を通って袋体10の下端に接続されている。
【0033】
上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物101によれば、上述した第1の実施の形態と同様に、非常時には柱状体3によって津波等の波浪の威力を低減させて被害を大幅に軽減させることができ、平穏時には船舶等の運航の邪魔になることがない。また、大掛かりな駆動装置等の設備を用いることなくシンプルな設備で柱状体3を昇降させることができ、故障が少なく維持管理も容易である。さらに、柱状体3の昇降制御を容易に行うことができ、柱状体3を安全、確実、柔軟に昇降させることができ、柱状体3の急上昇や急下降を防止することができ、また、非常時に柱状体3を確実に上昇させることができる。
【0034】
また、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物101によれば、柱状体3の上部に防衝材120が被覆されているため、津波等とともに来襲する浮遊漂流物の衝撃が防衝材120によって吸収される。これにより、浮遊漂流物の衝突によって柱状体3が破損することが防止され、柱状体3の機能が確保され、浮遊漂流物による昇降式波浪防護構造物101への影響を低減させることができる。
【0035】
また、ガラス片のチップを混入したゴムを用いて防衝材120を形成することで、産業廃棄物であるガラス片を再利用することができ、産業廃棄物の有効活用を図ることができる。また、ガラス片のチップが混入されることで、ゴムの剛性が向上し、断裂破壊抑制効果を期待することができる。さらに、ガラス片のチップを混入した分だけゴム量を低減させることができるため、経済的となる。なお、防衝材120は、常時は水中に沈められた状態になっているため、紫外線等によるゴムの劣化は少ない。
【0036】
また、上記した構成からなる昇降式波浪防護構造物101によれば、複数の柱状体3(収納孔2)が、間隔を詰めて連続的に並べられているため、壁体5がなくても柱状体3だけで波浪の威力を十分に低減させることができる。
【0037】
以上、本発明に係る昇降式波浪防護構造物の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記した第1の実施の形態では、壁体5が備えられた構成になっており、上記した第2の実施の形態では、柱状体3の上部に防衝材120が被覆された構成になっているが、本発明は、壁体5が備えられてなく、そして、柱状体3の上部に防衝材120も備えられていない構成であってもよい。例えば、第2の実施の形態のように複数の柱状体3(収納孔2)が間隔を詰めて連続的に並べられ、そして、柱状体3自体の剛性が大きく浮遊漂流物の衝突にも耐え得る構造の柱状体3を使用する構成にしてもよい。
また、上記した第1、第2の実施の形態では、柱状体3(収納孔2)が一列に並べられた構成となっているが、本発明は、柱状体3(収納孔2)が2列以上に並べられた構成であってもよい。
【0038】
また、上記した第1の実施の形態では、壁体5が、複数の板材15…を連結した構成になっているが、本発明に係る壁体は上記した構成からなる壁体5に限定されない。例えば、上端が柱状体に鉛直回転自在に取り付けられた一枚の板材からなる壁体であってもよい。このような構成の場合、柱状体が収納孔内に収納されている時には、壁体は海底面に水平に置かれた状態になっている。そして、柱状体が上昇するとともに、壁体の一端(下端)を海底面上で引き摺りながら壁体の他端(上端)が引き上げられ、壁体は立ち上げられる。
【0039】
また、上記した第1の実施の形態では、壁体5が、隣り合う柱状体3,3間を塞ぐように架設されており、2本の柱状体3,3によって壁体5が支持されているが、本発明は、壁体が、2本の柱状体に支持されていなくてもよい。例えば、1枚の壁体の中央に柱状体が配設されており、1本の柱状体によって当該壁体が支持された構成であってもよい。これによって、1つのユニットを構成する複数の柱状体の昇降させる際、各袋体を膨縮させる膨縮手段を同期させる必要がない。また、本発明は、1枚の壁体が3本以上の柱状体によって支持されていてもよい。
【0040】
また、上記した第1、第2の実施の形態では、ゴム膜で形成された袋体10が備えられているが、本発明は、鉛直方向に膨縮する袋体であれば、それ以外の構成からなる袋体であってもよく、例えば、合成樹脂製の蛇腹ホースからなる袋体であってもよい。
【0041】
また、上記した第1、第2の実施の形態では、柱状体3が、円筒形状の鋼管の上下端がそれぞれ閉塞された構成からなる中空部材であるが、本発明に係る柱状体は、プレキャストコンクリートからなる構造体であってもよく、また、鋼管とコンクリートとを組み合わせてなる複合構造の構造体であってもよい。また、本発明に係る柱状体は、円筒形状のものに限定されず、断面矩形の柱状体であってもよく、また、中空でなく中が詰まった構成であってもよい。
【0042】
また、上記した第1、第2の実施の形態では、柱状体3の内部がバラストタンクになっており、この柱状体3は、バラストタンクによるバラスト調整によって海水よりもやや重い程度に比重調整されているが、柱状体の内部にバラストタンクが無く、バラスト調整しない柱状体であってもよい。例えば、予め所定の比重になるような柱状体を製作すればよい。
【0043】
また、上記した第1、第2の実施の形態では、昇降式波浪防護構造物1,101を湾口に設置する場合について説明しているが、本発明に係る昇降式波浪防護構造物は、湾口以外に設置されていてもよく、例えば、湾内に設置されていてもよく、或いは、海岸線に沿って海中に設置されていてもよい。また、本発明に係る昇降式波浪防護構造物は、海中に設置されるものに限定されず、河や湖の中に設置されていてもよい。さらに、本発明に係る昇降式波浪防護構造物は、水中に設置されているものに限定されず、例えば、海岸や湾岸、湖岸、河岸等の陸上に設置されているものであってもよい。なお、本発明でいう「波浪」とは、地震により発生する地震津波の他に、高潮(風津波、暴風津波)や山津波(土石流)、さらには河川の増水(洪水)も含むものであり、本発明に係る昇降式波浪防護構造物は、津波を防ぐための構造物に限定されず、上記した何れかの波浪を防ぐための構造物である。
【0044】
また、上記した第1、第2の実施の形態では、袋体10の中に圧入する流体として気体若しくは液体が用いられているが、本発明は、流体として粘性体が用いられてもよい。
【0045】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した第1、第2の実施の形態及び変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の形態を説明するための昇降式波浪防護構造物の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を説明するための昇降式波浪防護構造物の立面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態を説明するための柱状体の昇降状況を表した断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を説明するための昇降式波浪防護構造物の断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態を説明するための昇降式波浪防護構造物の立面図である。
【符号の説明】
【0047】
1,101 昇降式波浪防護構造物
2 収納孔
3 柱状体
4 昇降手段
5 壁体
10 袋体
11 膨縮手段
15 板材
120 防衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に鉛直に設けられた複数の収納孔の中に柱状体が昇降可能にそれぞれ挿装された構成からなり、
前記柱状体を昇降手段により昇降させることで、該柱状体の上部が前記収納孔の上端から突出され、或いは、前記収納孔の中に収納される昇降式波浪防護構造物において、
前記昇降手段には、
前記収納孔の底部と前記柱状体の下端部との間に設けられた鉛直方向に膨縮可能な袋体と、
該袋体の中に流体を圧入して前記袋体を鉛直方向に膨張させ、また、前記袋体の中の流体を排出して前記袋体を鉛直方向に収縮させる膨縮手段と、
が備えられていることを特徴とする昇降式波浪防護構造物。
【請求項2】
請求項1記載の昇降式波浪防護構造物において、
前記柱状体には、波浪を防ぐための壁体が支持されていることを特徴とする昇降式波浪防護構造物。
【請求項3】
請求項2記載の昇降式波浪防護構造物において、
前記壁体は、該壁体を構成する複数の板材が鉛直回転自在に連結された構成からなり、鉛直方向に蛇腹状に伸縮可能であり、
前記壁体の上部は、前記柱状体に取り付けられており、
前記壁体は、前記柱状体が下降するのに伴って、該複数の板材が折り重なって畳まれ、前記柱状体が上昇するのに伴って、折り重なった前記複数の板材が上方に繰り出されて広げられることを特徴とする昇降式波浪防護構造物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の昇降式波浪防護構造物において、
前記柱状体の上部に防衝材が被覆されていることを特徴とする昇降式波浪防護構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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