説明

易重合性化合物の製造方法及び重合防止方法

【課題】易重合性化合物を含有する組成物の蒸留において、精留塔の塔底部に近接する回収部の下部で重合禁止剤がより強く作用する方法を提供する。
【解決手段】易重合性化合物を含有する組成物を重合禁止剤の存在下で蒸留する工程を含む易重合性化合物の製造方法の蒸留工程において、前記蒸留工程で精留塔内を降下する液体を中間濃縮装置によって濃縮し、精留塔において中間濃縮装置よりも下方の理論段を降下する液中の重合禁止剤の濃度を高めることで、精留塔においてより高い重合防止作用を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は易重合性化合物の製造方法及び重合防止方法に関し、特に、易重合性化合物を含有する組成物を蒸留する工程を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
易重合性化合物は、合成樹脂の原料として工業的に広範に利用されている有機化合物(モノマー)であり、このような易重合性化合物としては、(メタ)アクリル酸、そのエステル、スチレン系化合物、アクリロニトリル等の多種の化合物が知られている。例えば(メタ)アクリル酸及びそのエステルは、高吸収性樹脂、透明性樹脂、ABS樹脂等の原料モノマーとして有用である。
【0003】
(メタ)アクリル酸及びそのエステルを製造する方法としては、例えば(メタ)アクリル酸又はそのエステルを含有する組成物(以下、「原料液」とも言う)を重合禁止剤の存在下で蒸留し、前記組成物中の(メタ)アクリル酸又はそのエステルとその他の成分とに分離する工程を含む方法が知られている。前記蒸留工程は、(メタ)アクリル酸又はそのエステルの重合を抑制する観点から、通常は減圧下で、標準状態における沸点よりも低い温度で行われる。
【0004】
前記蒸留工程としては、例えば、前記組成物及び重合禁止剤を精留塔に供給し、精留塔の塔底液をリボイラで加熱、蒸気化し、精留塔の塔頂から排出された蒸気が凝縮した凝縮液の一部を精留塔の塔頂部から精留塔に供給する工程が知られている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
前記蒸留工程では、精留塔の塔底部は、一般に精留塔の塔頂部よりも温度及び圧力が高くなるので、塔底部では易重合性化合物の重合が発生しやすい。加えて、重合禁止剤を精留塔の塔頂部から供給した場合には、重合禁止剤は、精留塔内の前記組成物の供給位置(「原料流入口」とも言う)において、精留塔内へ供給される前記組成物によって希釈される。したがって、前記蒸留工程では、精留塔における原料流入口より下方の精留塔内部、すなわち精留塔の回収部における液中の重合禁止剤の濃度は、精留塔における原料流入口より上方の精留塔内部、すなわち精留塔の濃縮部における液中の重合禁止剤の濃度よりも低くなる。
【0006】
したがって、前記蒸留工程において、精留塔の回収部、特に、精留塔の回収部においてリボイラから精留塔への蒸気の排出口の上方に近接する部分(「回収部の下部」とも言う)においては液温の上昇及び重合禁止剤の濃度の低下のために、精留塔の濃縮部等の他の部分よりも易重合性化合物の重合が発生しやすい。精留塔への塔頂からの重合禁止剤の供給量を増加したり、精留塔の途中、例えば回収部に重合禁止剤をさらに供給したりすることにより、精留塔の回収部の重合禁止剤の濃度を高くして重合を抑制することはある程度可能であるが、重合禁止剤の使用量が増加するため経済性に問題がある。このため、前記蒸留工程では、精留塔の回収部、特に塔底部において重合禁止剤がより有効に作用して易重合性化合物の重合を抑制する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−336141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、易重合性化合物を含有する組成物の蒸留において、精留塔の塔底部に近接する回収部の下部で重合禁止剤がより有効に作用する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、蒸留工程を含む易重合性化合物の製造方法において、前記蒸留工程で精留塔内を降下する液を濃縮し、例えばサイドリボイラを有する蒸留装置を用いて前記蒸留工程を行い、サイドリボイラよりも下方における精留塔内の液を濃縮し、重合禁止剤の濃度が高められた液が精留塔の塔底部に供給される方法を提供する。
【0010】
すなわち本発明は、易重合性化合物を含有する組成物を重合禁止剤の存在下で蒸留する工程を含み、前記組成物から易重合性化合物を得る易重合性化合物の製造方法において、前記蒸留工程では、(a)前記組成物及び重合禁止剤を精留塔に供給し、精留塔の塔底液をリボイラで加熱、蒸気化し、(b)精留塔の塔頂から排出された蒸気が凝縮した凝縮液の一部を精留塔の塔頂部から精留塔に供給し、(c)精留塔内を降下する液を中間濃縮装置で濃縮し、得られた蒸気及び濃縮液を前記精留塔内に供給する易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0011】
また本発明は、前記中間濃縮装置で得られた蒸気を精留塔の濃縮部に供給し、前記濃縮液を精留塔の回収部に供給する前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0012】
また本発明は、前記中間濃縮装置が、前記精留塔における中間段に設けられるサイドリボイラである前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0013】
また本発明は、前記中間濃縮装置が蒸留塔を含む濃縮用蒸留装置を含み、前記蒸留塔の塔頂から排出される蒸気及び前記蒸留塔の塔底から排出される濃縮液が前記精留塔に供給される前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0014】
また本発明は、前記蒸留塔が、理論段数が1であるフラッシュドラム、又は理論段数が1を超える蒸留塔である前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0015】
また本発明は、前記中間濃縮装置から前記精留塔に蒸気を供給する配管の温度を前記蒸気の前記配管での凝縮が5%以下となるように調整して前記蒸気を前記精留塔に戻す、前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0016】
また本発明は、前記精留塔が、精留塔から前記中間濃縮装置へ精留塔を降下する液を供給するための降下液供給口と、前記中間濃縮装置から前記精留塔内へ前記蒸気及び濃縮液又は前記濃縮液を排出する濃縮液排出口とをさらに有し、前記降下液供給口と濃縮液排出口のうち、より下方にある開口よりも下方の精留塔内を降下する液の重合禁止剤の濃度が、より上方にある開口よりも上方の精留塔内を降下する液の重合禁止剤の濃度の1.5倍以上である前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0017】
また本発明は、精留塔の塔底部の温度が80℃以上である前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0018】
また本発明は、精留塔の塔頂部から重合禁止剤を精留塔内に供給する前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0019】
また本発明は、前記易重合性化合物が(メタ)アクリル酸又はそのエステルである前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0020】
また本発明は、前記重合禁止剤がハイドロキノン、メトキノン、フェノチアジン、及び銅塩からなる群から選ばれる一以上である前記の易重合性化合物の製造方法を提供する。
【0021】
また本発明は、(a)易重合性化合物を含有する組成物及び重合禁止剤を精留塔に供給し、精留塔の塔底液をリボイラで加熱、蒸気化し、(b)精留塔の塔頂から排出された蒸気が凝縮した凝縮液の一部を精留塔の塔頂部から精留塔に供給し、(c)精留塔内を降下する液を中間濃縮装置で濃縮し、得られた蒸気及び濃縮液を前記精留塔内に供給する、易重合性化合物の蒸留における易重合性化合物の重合防止方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、中間濃縮装置によって蒸留工程で精留塔内を降下する液を濃縮することにより、精留塔内を降下する液中の重合禁止剤の濃度が高められることから(例えば中間濃縮装置がサイドリボイラである場合ではサイドリボイラより下方の精留塔内の液における重合禁止剤の濃度が高められることから)、精留塔の塔底部における重合禁止剤の濃度をより一層高くすることができるので、精留塔の塔底部における易重合性化合物の重合をより一層抑制することができる。このように本発明では、易重合性化合物を含有する組成物の蒸留において、精留塔の塔底部で重合禁止剤をより有効に作用させることができる。
【0023】
また本発明では、精留塔における重合禁止剤の供給位置は任意であり、前記組成物の供給段、濃縮部、及び回収部等の公知の供給位置から重合禁止剤を供給することができるが、精留塔の塔頂部から重合禁止剤を精留塔内に供給することが、重合禁止剤の使用量を抑制する観点、及び、精留塔内全体における易重合性化合物の重合を抑制する観点からより一層効果的である。
【0024】
また本発明では、前記中間濃縮装置で得られた蒸気を精留塔の濃縮部に供給し、前記濃縮液を精留塔の回収部に供給することが、精留塔内を降下する液における重合禁止剤の濃度の一時的な低下を防止し、かつ効率のよい蒸留を行う観点からより一層効果的である。
【0025】
また本発明では、前記中間濃縮装置が精留塔の中間段に設けられるサイドリボイラであることが、中間濃縮装置の構成の簡素化の観点からより一層効果的である。
【0026】
また本発明では、前記中間濃縮装置が蒸留塔を含む濃縮用蒸留装置を含み、前記蒸留塔の塔頂から排出される蒸気及び前記蒸留塔の塔底から排出される濃縮液が前記精留塔に供給されることが、精留塔における蒸留の効率を高める観点、及び精留塔の回収部における濃縮された重合禁止剤による重合防止効果を高める観点からより効果的であり、前記蒸気を精留塔の濃縮部に供給し、前記濃縮液を精留塔の回収部に供給することが、より一層効果的である。
【0027】
また本発明では、前記蒸留塔がフラッシュドラムであることが、前記濃縮用蒸留装置の構成の簡素化の観点、及び重合禁止剤の所期の濃縮の達成の観点からより一層効果的であり、前記蒸留塔が、理論段数が1を超える蒸留塔であることが、精留塔における蒸留の効率を高める観点、及び重合禁止剤の所期の濃縮を達成する観点からより一層効果的である。
【0028】
また本発明では、前記中間濃縮装置から前記精留塔に蒸気を供給する配管の温度を前記蒸気の前記配管での凝縮が5%以下となるように調整して前記蒸気を前記精留塔に戻すことが、前記配管における重合物の生成とそれによる前記配管の閉塞を防止する観点からより一層効果的である。
【0029】
さらに本発明は、易重合性化合物の中でも重合性が高く、蒸留工程における重合の抑制が強く望まれていることから、前記易重合性化合物が(メタ)アクリル酸又はそのエステルであることが、蒸留の長期安定化による生産性の向上の観点からより一層効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に用いられる蒸留装置の一例の構成を概略的に示す図である。
【図2】第二のリボイラ(中間濃縮装置)の他の形態を概略的に示す図である。
【図3】実施例1の蒸留装置の構成を概略的に示す図である。
【図4】実施例1における精留塔内を降下する液の流量と精留塔内の温度を示す図である。
【図5】実施例1における精留塔内の重合禁止剤の濃度を示す図である。
【図6】比較例1の蒸留装置の構成を概略的に示す図である。
【図7】比較例1における精留塔内を降下する液の流量と精留塔内の温度を示す図である。
【図8】比較例1における精留塔内の重合禁止剤の濃度を示す図である。
【図9】比較例2の蒸留装置の構成を概略的に示す図である。
【図10】比較例2における精留塔内を降下する液の流量と精留塔内の温度を示す図である。
【図11】比較例2における精留塔内の重合禁止剤の濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の易重合性化合物の製造方法は、易重合性化合物を含有する組成物を重合禁止剤の存在下で蒸留する工程を含む。
【0032】
前記組成物は、易重合性化合物を含有し、易重合性化合物以外の成分を含有してもよい。前記組成物としては、例えば易重合性化合物と水性媒体とを含有する易重合性化合物の水溶液や、易重合性化合物と有機溶剤とを含有する易重合性化合物の溶液が挙げられる。
【0033】
易重合性化合物は、ラジカル化合物や酸触媒又は塩基触媒等の重合反応の触媒作用を有する化合物の存在下で容易に重合する化合物であり、水溶性の化合物であってもよいし、非水溶性の化合物であってもよい。易重合性化合物としては、具体的には(メタ)アクリル酸、そのエステル、アクリロニトリルのような電子吸引基と共役した炭素−炭素二重結合を有する化合物、スチレン及びα−メチルスチレンのようなスチレン系化合物、ブタジエン、イソプレンのような共役ジエン化合物挙げられる。これらの易重合性化合物は、一般に、高温でより重合し易くなるが、触媒や共雑する不純物の種類及び濃度により重合性が異なってくる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の一方又は両方を意味する。
【0034】
重合禁止剤は、易重合性化合物の重合を防止する作用を有し、蒸留工程において精留塔の原料流入口より上方(濃縮部)から精留塔内に供給したときに精留塔の塔底部まで降下する化合物を用いることができる。重合禁止剤は一種でも二種以上でもよい。例えば易重合性化合物が(メタ)アクリル酸又はそのエステルである場合では、重合禁止剤は、沸点が280℃以上の化合物であることが好ましい。このような重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、メトキノン等のフェノール類、ニトロソ化合物、銅塩、マンガン塩、フェノチアジン等が挙げられる。特にハイドロキノン、メトキノン、銅塩、及びフェノチアジンは、重合抑制効果、取り扱い易さの点で好ましい。
【0035】
なお、精留塔の塔底部において重合禁止剤を供給する技術は公知であり、本発明では、本発明の効果が得られる範囲で、このような公知の技術を併用することができる。このような追加してもよい重合禁止剤としては、例えば前述した重合禁止剤や、酸素含有ガス等の、精留塔で濃縮されない公知の重合防止成分が挙げられる。追加してもよい重合禁止剤は、精留塔の塔底部やリボイラにおいて適宜供給することができる。
【0036】
前記蒸留工程では、(a)前記組成物及び重合禁止剤を精留塔に供給し、精留塔の塔底液をリボイラで加熱、蒸気化し、(b)精留塔の塔頂から排出された蒸気が凝縮した凝縮液の一部(「還流液」とも言う)を精留塔の塔頂部から精留塔に供給し、(c)精留塔内を降下する液を中間濃縮装置で濃縮する。得られた蒸気及び濃縮液は精留塔に供給される。
【0037】
前記中間濃縮装置は、精留塔の塔底部のリボイラに精留塔を降下する液が到達する前に、前記液の一部を加熱、蒸気化し、前記液中の重合禁止剤の濃度を高めることができる装置である。このような装置としては、例えば、精留塔の内部に設けられ、精留塔を降下している液を精留塔内で加熱、蒸気化する直接濃縮装置、精留塔の中間段に設けられるサイドリボイラ、及び蒸留塔を含む濃縮用蒸留装置が挙げられる。なお、中間段に設けられるサイドリボイラとは、精留塔における任意の理論段において精留塔から降下液を採取し、蒸気及び濃縮液の一方又は両方を任意の理論段において精留塔へ供給するように設けられるリボイラである。
【0038】
前記濃縮用蒸留装置としては、蒸留塔と、前記降下液及び蒸留塔中の濃縮液の一方又は両方を加熱、蒸気化するリボイラ等の加熱装置とを有する蒸留装置が挙げられる。前記蒸留塔としては、理論段数が1であるフラッシュドラム、及び理論段数が1を超える蒸留塔(以下、「濃縮塔」とも言う)が挙げられる。を用いることができる。濃縮塔には、トレイや充填物を有する蒸留塔を用いることができる。濃縮塔は、精留塔における蒸留に応じて濃縮用蒸留装置における降下液の濃縮をある程度制御することができる観点から効果的である。このような観点から、前記濃縮塔の理論段数は1よりも大きく10以下であることが好ましく、1よりも大きく5以下であることがより好ましく、1よりも大きく3以下であることがさらに好ましい。
【0039】
前記サイドリボイラを用いる形態では、前記蒸留工程では、(a)前記組成物及び重合禁止剤を精留塔に供給し、精留塔の塔底液を第一のリボイラ(すなわち精留塔の塔底部のリボイラ)で加熱、蒸気化し、(b)精留塔の塔頂から排出された蒸気が凝縮した凝縮液の一部(「還流液」とも言う)を精留塔の塔頂部から精留塔に供給し、(c)精留塔内を降下する液の一部を第二のリボイラ(すなわちサイドリボイラ)で加熱、蒸気化する。
【0040】
前記組成物及び重合禁止剤の供給から還流液の供給まで(すなわち前記(a)及び(b))は、従来の易重合性化合物の蒸留と同様に行うことができる。重合禁止剤は、前記組成物と重合禁止剤の混合物として精留塔に供給してもよいし、前記組成物とは別に精留塔に供給してもよい。また重合禁止剤は、精留塔へ一箇所から供給されてもよいし、複数箇所から供給されてもよい。
【0041】
精留塔に供給される重合禁止剤の量は、精留塔の回収部の下部において易重合性化合物の重合を抑制することができる量であり、例えば易重合性化合物及び重合禁止剤の種類に応じて選ばれる。例えば、易重合性化合物が(メタ)アクリル酸又はそのエステルであり、重合禁止剤が前述した化合物である場合には、精留塔に供給される重合禁止剤の量は、原料流入口から精留塔に供給される易重合性化合物の量に対して総量で0.001〜5質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがより好ましく、0.05〜2質量%であることがさらに好ましい。
【0042】
さらに前記蒸留工程において、還流液以外の凝縮液(「留出液」とも言う)に対する還流液の量の比である還流比は、0.3〜3.0であることが好ましく、0.5〜2.0であることがより好ましく、0.8〜1.8であることがさらに好ましい。
【0043】
また前記蒸留工程において、第一のリボイラによって加熱、蒸気化される液の量は、精留塔においてサイドリボイラからの濃縮液の供給位置よりも下の、塔底へ降下する液の量の10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜70質量%であることがさらに好ましい。第一のリボイラによって加熱、蒸気化される液の量は、例えば第一のリボイラに供給するスチームの流量、温度又は圧力によって調整することができる。
【0044】
サイドリボイラによって加熱、蒸気化される液の量は、精留塔におけるサイドリボイラからの濃縮液の供給位置より下の液における重合禁止剤の濃度を高める観点から、精留塔内のサイドリボイラへの降下液の供給口より上を降下する液(ただし、精留塔において原料液が前記供給口と同位置に供給される場合は、原料液を含む)の10〜95質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがより好ましく、60〜90質量%であることがさらに好ましい。サイドリボイラによって加熱、蒸気化される液の量は、例えばサイドリボイラに供給するスチームの流量、温度又は圧力によって調整することができる。
【0045】
精留塔を降下する液は、精留塔内に開口する、サイドリボイラへの前記液の供給口を介してサイドリボイラに供給することができる。また、サイドリボイラで加熱、蒸気化された前記液は、精留塔内に開口する、サイドリボイラからの濃縮液及び蒸気の排出口から精留塔に供給することができる。前記供給口は、蒸留効率の観点から、前記排出口よりも下方に設けられることが好ましい。前記排出口は、濃縮液及び蒸気の両方を排出する開口であってもよいし、濃縮液を排出する開口と蒸気を排出する開口とのそれぞれであってもよい。
【0046】
またサイドリボイラによって加熱、蒸気化される液は、精留塔を降下する液が前記組成物によって希釈されることを防止する観点から、精留塔に供給された前記組成物の一部であることが好ましい。例えば、サイドリボイラに供給される液を収容する精留塔内の液溜め部に前記組成物を供給することが好ましい。このとき、生成した蒸気は、蒸留効率の観点から、精留塔の濃縮部に供給することが好ましい。
【0047】
前記蒸留工程は、いわゆるサイドリボイラを有する蒸留装置を用いて行うことができる。このような蒸留装置としては、例えば、精留塔と、蒸留される原料液を精留塔内に供給するための原料流入口と、精留塔に重合禁止剤を供給するための重合禁止剤供給装置と、精留塔の底部の液の一部又は全部を加熱して蒸気化する第一のリボイラと、精留塔の回収部の液の一部を加熱して蒸気化するサイドリボイラとを有する蒸留装置が挙げられる。
【0048】
精留塔には、易重合性化合物の減圧蒸留に用いられる精留塔を利用することができる。前記精留塔は、内部を降下する液の量に応じた内径を有するように形成することができ、またサイドリボイラのように中間濃縮装置が精留塔の外部に設けられる装置である場合に、この中間濃縮装置に精留塔内の液を供給するための構成を有する。このような構成としては、例えば、精留塔内の液を一時的に収容する液溜め部と、液溜め部に収容された液を中間濃縮装置に供給するポンプとが挙げられる。
【0049】
また精留塔には、通常の易重合性化合物の減圧蒸留と同様に、トレイ及び充填物のいずれか一方又は両方を収容することができる。精留塔に収容される充填物としては、例えば規則充填物及び不規則充填物が挙げられる。
【0050】
充填物の使用は、精留塔の高さを小さくする観点から好ましく、トレイの使用は、蒸留運転の長期安定性の観点から好ましい。例えば、精留塔の回収部のように易重合性化合物の重合が比較的発生しやすい位置には、トレイを収容することが好ましく、精留塔の濃縮部のように易重合性化合物の重合が比較的発生しにくい位置には、不規則充填物を収容することが好ましく、精留塔の塔頂部のように易重合性化合物の重合がさらに発生しにくい位置には、規則充填物を収容することが好ましい。
【0051】
精留塔に収容されるトレイとしては、例えば泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バルブトレイ、スーパーフラッシュトレイ、マックスフラクストレイ、及びデュアルフロートレイが挙げられる。また規則充填物としては、例えばスルザー・ブラザース(株)製のスルザーパック、住友重機械工業(株)製の住友スルザーパッキング、住友重機械工業(株)製のメラパック、グリッチ(株)製のジェムパック、モンツ(株)製のモンツパック、東京特殊金網(株)製のグッドロールパッキング、日本ガイシ(株)製のハニカムパック、ナガオカ(株)製のインパルスパッキング、及び三菱化学エンジニアリング(株)製のエムシーパックが挙げられる。不規則充填物としては、例えばノートン(株)製のインタロックスサドル、日鉄化工機(株)製のテラレット、BASF(株)製のポールリング、マストランスファー(株)製のカスケード・ミニ・リング、及び日揮(株)製のフレキシリングが挙げられる。
【0052】
原料流入口には、例えば精留塔の内外を連通するノズルが用いられる。
【0053】
重合禁止剤供給装置は、重合禁止剤を精留塔内に複数箇所供給する装置であってもよいが、精留塔全体における易重合性化合物の重合を効率よく抑制する観点から、精留塔の塔頂部から重合禁止剤を供給する装置であることが好ましく、さらに精留塔の内部の横断面に均一に重合禁止剤を供給する装置であることがより好ましい。また重合禁止剤供給装置は一つでもよいしそれ以上であってもよい。重合禁止剤供給装置としては、例えば、前記組成物に重合禁止剤を供給する装置、還流液に重合禁止剤を供給する装置、及び精留塔の内部の横断面全体に配置される孔空き管を有し、前記横断面に重合禁止剤を散布する散布装置が挙げられる。
【0054】
第一のリボイラ及びサイドリボイラには、易重合性化合物の減圧蒸留において精留塔の塔底液の再蒸発に用いられる通常のリボイラを用いることができる。
【0055】
サイドリボイラは、精留塔内の重合禁止剤の濃縮に用いられるため、精留塔の底部の液を蒸気化する第一のリボイラよりも理論段で1段以上上部に設けることが好ましい。またサイドリボイラに導入する液をストレーナ又はフィルタに通すことにより、サイドリボイラに導入する液中の重合物の除去を行うことも可能である。
【0056】
サイドリボイラより下の理論段の精留塔内の液における重合禁止剤の濃度は、サイドリボイラによる前記液の一部の加熱、蒸気化によって高められる。前記精留塔において、精留塔から前記サイドリボイラへ精留塔を降下する液を供給するための降下液供給口と、前記サイドリボイラから前記精留塔内へ前記蒸気及び濃縮液又は前記濃縮液を排出する濃縮液排出口とのうち、より下方にある開口よりも下方の精留塔を降下する液の重合禁止剤の濃度は、より上方にある開口よりも上方の精留塔内を降下する液の重合禁止剤の濃度の1.5倍以上であることが、精留塔の塔底側における易重合性化合物の重合を抑制する観点から好ましく、2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることがさらに好ましい。
【0057】
前記液の重合禁止剤の濃度は、例えばサンプリングによって測定することができ、精留塔を含む蒸留装置の運転条件によって調整することができる。
【0058】
前記精留塔は、さらなる構成要素を有していてもよい。このようなさらなる構成要素としては、精留塔が規則充填物を用いる充填塔等の、精留塔内の液分散が重要な塔である場合に、塔内に設けられる液分散装置が挙げられる。
【0059】
精留塔の塔底温度は、サイドリボイラによる精留塔回収部の重合禁止剤の濃縮効率を高める観点から80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。
【0060】
前記中間濃縮装置には、前記サイドリボイラに代えて、前記濃縮用蒸留装置を用いることができる。前記中間濃縮装置は、蒸発させた蒸気と液とを分離して分離効果を高めることができるので、高沸点成分がより濃縮された濃縮液を精留塔内に戻すことができるため、蒸留効率の向上の観点から好ましい。また、従来の精留塔におけるリボイラと違い、多量の液を塔との間で循環させる必要がないため、前記精留塔が塔として安定に運転しやすい、という実運転での利点も大きい。
【0061】
前記濃縮用蒸留装置を用いる形態では、精留塔の降下液は、前記濃縮塔に供給されてもよいし、前記加熱装置に供給されてもよい。この形態では、濃縮塔の上部から前記降下液を濃縮塔に供給すると、濃縮塔に供給された降下液は、濃縮塔内に設置されたトレイ又は充填物によって、前記加熱装置による、濃縮塔を上昇する蒸気と気液接触して蒸留され、易重合性化合物が液中に効率よく濃縮されることから、前記精留塔における分離効率の向上の観点から好ましい。濃縮塔の塔頂から排出される蒸気は、全量を精留塔に供給してもよいし、分縮によって蒸気及び凝縮液とし、上記は精留塔に供給し、凝縮液は濃縮塔に戻してもよい。
【0062】
また前記濃縮塔の塔頂の蒸気は前記精留塔(より好ましくは精留塔の濃縮部)に供給されることが、エネルギー効率の観点から好ましく、蒸気を凝縮させずに精留塔へ供給することにより、熱エネルギーのロスを削減することができる。さらに前記蒸留塔の塔底の缶出液を、前記精留塔において、前記蒸留塔に供給するために前記精留塔に設けた、精留塔からこの蒸留塔への液抜き出し口がある段よりも下方に供給することにより、蒸留効率をさらに上げることができる。
【0063】
前記濃縮用蒸留装置における蒸留塔にフラッシュドラムを用いる形態では、前記降下液を前記加熱装置で加熱、蒸気化し、得られた蒸気と濃縮液との混合物をフラッシュドラムに供給することが、飛沫同伴によってミストが前記濃縮液から除去されて、気液の分離効率を向上させる観点から好ましい。さらに、金網等のミストセパレータをフラッシュドラムの内部に設けることが、気液の分離効率を向上させる観点からさらに好ましい。
【0064】
前記濃縮用蒸留装置は前記液の濃縮に用いることができるものであれば特に限定されないが、前記濃縮用蒸留装置は、理論段数が一段の前記蒸留塔であるフラッシュドラムを含む装置(単蒸留装置)であることが、濃縮用蒸留装置の蒸留塔の構成を単純化することができる観点、及び実運転を容易にする観点から好ましく、また蒸留効率としては多段の蒸留塔と比べても差が小さいため、建設費の面でも有利である。
【0065】
前記中間濃縮装置から前記精留塔に蒸気を供給する配管の温度を前記蒸気の前記配管での凝縮が5%以下となるように調整して前記蒸気を前記精留塔に戻すことは、重合禁止剤を使用せずに配管での重合物の生成と配管の閉塞とを防止する観点から好ましい。配管での重合物の生成は、蒸気が凝縮することにより配管壁面にて起こるので、前記配管での凝縮率は少ない方が良く、該蒸気の該配管での凝縮率は、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
前記凝縮率は、濃縮用蒸留装置の蒸留塔で生成した蒸気の重量に対する、前記配管内で生成した凝縮液の重量の百分率である。前記凝縮率は、前記配管の温度によって調整することができる。前記凝縮率を上記の範囲に調整する観点から、前記配管の温度は、蒸気の温度にもよるが、例えば濃縮用蒸留装置の蒸留塔の塔頂温度が70〜100℃の場合では、濃縮用蒸留装置の蒸留塔の塔頂温度と前記配管の温度との温度差は1〜100℃であることが好ましく、5〜70℃であることがより好ましく、10〜50℃であることがさらに好ましい。配管の温度は、ガラスウール等の保温材による配管の外周面の被覆や、スチームによる配管の加熱等の公知の技術によって調整することができる。
【0067】
なお、本発明では、前記配管での重合と閉塞を防止する効果をより高める観点から、公知の重合禁止剤を配管の内壁に噴霧してもよい。重合禁止剤の噴霧は、配管の温度(前記凝縮率)の調整と併せて行ってもよいし、単独で行ってもよい。重合禁止剤は、配管の内壁面が濡れる程度に噴霧すればよい。重合禁止剤は連続して噴霧してもよいし、断続的に噴霧してもよい。
【0068】
前記蒸留装置としては、例えば図1に示す装置が挙げられる。図1の蒸留装置は、精留塔1と、易重合性化合物を含有する組成物である原料液を精留塔1内に供給するための原料流入口2と、精留塔1の塔頂部から精留塔内に重合禁止剤を供給するための重合禁止剤供給装置3と、精留塔1の塔底液の一部又は全部を加熱して蒸気化する第一のリボイラ4と、精留塔1の回収部の液の一部を加熱して蒸気化する第二のリボイラ(サイドリボイラ)5と、精留塔1の塔頂から排出された蒸気を凝縮する凝縮器6と、凝縮器6で生成した凝縮液を収容する受器7とを有する。
【0069】
精留塔1は、精留塔1の塔底部を含む、主に回収部からなる第一の塔部1aと、第一の塔部1aの上に連続して形成され、精留塔1の塔頂部を含む、主に濃縮部からなる第二の塔部1bと、第二の塔部1bの底部に設けられ第二の塔部1bから第一の塔部1aに降下する液が一時的に収容される液溜め部1cとを有する。第二の塔部1bから第一の塔部1aに供給される液の量は、第二の塔部1bを降下した液の量から第二のリボイラ5に供給され蒸発する液の量を差し引いた量であることから、それぞれの塔部を流れる液の量に応じて、第一の塔部1aは、第一の塔部1aの内径が第二の塔部1bの内径に比べて小さくなるように形成されている。液溜め部1cには、液溜め部1cに収容された液を第二のリボイラ5に供給するための不図示の供給口が設けられている。また液溜め部1cより上方の第二の塔部1bの内側壁には、第二のリボイラ5で加熱、蒸気化された前記液及びその蒸気が排出される不図示の排出口が設けられている。
【0070】
第一の塔部1a及び第二の塔部1bには、それぞれトレイ及び充填物の一方又は両方が収容される。例えば第一の塔部1aにはデュアルフロートレイが収容され、第二の塔部1bには不規則充填物が収容される。液溜め部1cは、例えば中央部に開口部を有する環板と、環板の上面における開口部の周囲に周設される環状の堰板と、前記開口部より大きな径を有し、堰板の上方に堰板と離間して前記開口部を覆うように支持される円板とから構成される。
【0071】
原料流入口2は、例えば第二の塔部1bの内外を連通するノズルであり、その設置位置は特に限定されることはないが、原料の流路中における易重合性化合物を濃縮する部分での重合を防止する観点から、第二の塔部1bの底部に設けられることが好ましい。
【0072】
重合禁止剤供給装置3は、例えば第二の塔部1bの頂部、すなわち精留塔1の塔頂部から第二の塔部1bの充填層の上面に均一に重合禁止剤を散布する散布装置である。
【0073】
第一のリボイラ4は、例えば精留塔1の缶出液の一部を加熱して蒸気化する熱交換器型加熱装置である。第一のリボイラ4で生成した蒸気は、例えば第一の塔部1aの底部、すなわち精留塔1の塔底部に供給される。
【0074】
第二のリボイラ5は、例えば液溜め部1cに収容された液の一部を加熱して蒸気化する熱交換器型加熱装置である。第二のリボイラ5で生成した蒸気は、例えば第二の塔部1bにおける原料流入口2と充填層との間の位置に供給される。
【0075】
又は前記蒸留装置には、図2に示すように、第二のリボイラ5に代えて、蒸留塔50を含む濃縮用蒸留装置をさらに有する蒸留装置が挙げられる。前記濃縮用蒸留装置は、液溜め部1cに収容された液の一部が供給される蒸留塔50と、蒸留塔50に供給された液の一部を加熱、蒸気化するリボイラ51と、蒸留塔50の塔頂と精留塔1とを接続する蒸気排出管52と、蒸留塔50の塔底と精留塔1とを接続する濃縮液排出管53と、濃縮液排出管53の液を第一の塔部1aのトレイの上面に均一に散布する散布装置54を有する。
【0076】
図2に示すように、蒸留塔は、理論段数が一程度(例えば0.5〜1)であるフラッシュドラム(トレイ及び充填物が収容されていない蒸留塔)であることが好ましい。また図2に示すように、蒸留塔50の塔頂から排出される蒸気は液溜め部1cより上方の精留塔1へ、蒸留塔50の塔底から排出される液は液溜め部1cより下方の精留塔1へ、それぞれ供給されることが好ましい。
【0077】
凝縮器6は、精留塔1の塔頂から排出された蒸気を凝縮する装置であり、例えば熱交換器型冷却装置である。また、受器7は、凝縮器6で生成した凝縮液を収容する容器である。受器7に収容された凝縮液は、一部は還流液として精留塔1の塔頂部に供給され、一部は留出液として利用される。また受器7は、例えば不図示の凝縮器及び真空装置に接続される。
【0078】
精留塔1内の温度及び圧力は、易重合性化合物の種類及び蒸留の目的に応じて制御される。例えば(メタ)アクリル酸の水溶液から、トルエンを共沸溶剤として共沸蒸留して水を除去する場合では、精留塔の塔頂の温度は30〜60℃であり、精留塔内の圧力は10〜30kPa(Abs)である。なおAbsは絶対圧力を意味する。
【0079】
原料流入口2から易重合性化合物の溶液が、重合禁止剤供給装置3からは重合禁止剤の液体が、それぞれ所定の流量で精留塔1に供給される。原料流入口2から精留塔1に供給された液は、第二のリボイラ5によって加熱、蒸気化されて第二の塔部1bを上昇し、上昇した蒸気は精留塔1の塔頂から凝縮器6に供給される。凝縮器6に供給された蒸気は凝縮器6で冷却されて凝縮液となり、生成した凝縮液は受器7に収容される。受器7に収容された凝縮液は、一部は還流液として精留塔1に供給され、一部は留出液としてこの蒸留の系外に排出される。
【0080】
還流液は第二の塔部1bを降下する。第二の塔部1bを降下する液は、重合禁止剤供給装置3から供給される重合禁止剤の量と還流液の流量とに応じた所定の濃度で重合禁止剤を含有していることから、第二の塔部1b(濃縮部)における易重合性化合物の重合が防止される。
【0081】
第二の塔部1bを降下した液は液溜め部1cに収容され、少なくとも一部はリボイラ51に供給されてリボイラ51によって加熱、蒸気化される。このとき重合禁止剤は沸点が高く、蒸発しないことから、液溜め部1cに収容されている液は、第二の塔部1bを降下しているときに比べて、重合禁止剤の濃度が高められている。重合禁止剤の濃度が高められた液のうち、リボイラ51に供給されなかった残りは、液溜め部1cから第一の塔部1aにさらに降下する。
【0082】
第一の塔部1aに供給された液は、精留塔1の塔底から抜き出されて、一部が第一のリボイラ4に供給され、残りが缶出液としてこの蒸留の系から排出される。精留塔1の塔底部では、塔頂部に比べて温度及び圧力が高くなっており、易重合性化合物が重合しやすい環境が形成されているが、精留塔1の塔底液は、第二の塔部1bを降下する液に比べて高い濃度で重合禁止剤を含有しており、このため第一の塔部1aでは第二の塔部1bよりも重合禁止剤による重合防止作用がより強く発現され、第一の塔部1aにおける易重合性化合物の重合が防止される。
【0083】
前記蒸留装置は、前述した以外の他の構成要素をさらに有していてもよい。このような他の構成要素としては、例えば、第二のリボイラ又は前記濃縮用蒸留装置等の中間濃縮装置と同様に構成され、中間濃縮装置と第一のリボイラとの間の精留塔の液を加熱、蒸気化するさらなるリボイラを有していてもよい。このようなさらなるリボイラによれば、中間濃縮装置と同様に精留塔内の液の量をさらに減少させて液中の重合禁止剤の濃度をさらに高めることができる。
【0084】
前記蒸留装置の原料流入口に供給される易重合性化合物の組成物は特に限定されないことから、前記原料液には、易重合性化合物の種々の製造方法で得られる、易重合性化合物を含有する液状の組成物を用いることができる。
【0085】
前記蒸留工程を含み得る易重合性化合物の製造方法としては、例えば、プロパン、プロピレン又はアクロレインから接触気相酸化によりアクリル酸を生成する生成工程と、生成工程で得られたアクリル酸を含有するガスを水性媒体に接触させてアクリル酸を水性媒体に捕集する捕集工程と、得られたアクリル酸水溶液を共沸溶剤の存在下で蒸留してアクリル酸水溶液から水性媒体を分離する脱水工程と、脱水工程で得られたアクリル酸成分を蒸留して前記アクリル酸成分から酢酸を分離する酢酸分離工程とを含むアクリル酸の製造方法1が挙げられる。
【0086】
また前記蒸留工程を含み得る易重合性化合物の製造方法としては、例えば、前記生成工程と、前記捕集工程と、得られたアクリル酸水溶液と抽出溶剤とを接触させてアクリル酸を抽出する抽出工程と、得られた抽出液を蒸留してアクリル酸と抽出溶剤とを分離する溶剤分離工程とを含むアクリル酸の製造方法2が挙げられる。
【0087】
また前記蒸留工程を含み得る易重合性化合物の製造方法としては、例えば、前述のアクリル酸の製造方法1及び2において、前記生成工程における前記の原料に代えて、イソブチレン、t−ブチルアルコール又はメタクロレインを用いるメタクリル酸の製造方法が挙げられる。
【0088】
さらに前記蒸留工程を含み得る易重合性化合物の製造方法としては、例えば、有機酸及びカチオン性イオン交換樹脂等の酸触媒の存在下で(メタ)アクリル酸とアルコールとを反応させて(メタ)アクリル酸エステルを生成させるエステル生成工程と、得られた(メタ)アクリル酸エステル組成物を水性媒体によって抽出して(メタ)アクリル酸エステル組成物から未反応のアルコールを分離するアルコール分離工程と、アルコール分離工程で得られた(メタ)アクリル酸エステル成分を蒸留して前記(メタ)アクリル酸エステル成分から低沸物を分離する低沸物分離工程と、低沸物分離工程で得られた(メタ)アクリル酸エステル成分を蒸留して前記(メタ)アクリル酸エステルを精製するエステル精製工程とを含む(メタ)アクリル酸エステルの製造方法が挙げられる。
【0089】
前記アクリル酸の製造方法1、2及びメタクリル酸の製造方法は、酢酸分離工程又は溶剤分離工程で得られる(メタ)アクリル酸成分を蒸留して(メタ)アクリル酸を精製する精製工程、精製工程で得られる缶出液中の高沸物を分解して高沸物から(メタ)アクリル酸を回収する(メタ)アクリル酸回収工程、及び、酢酸分離工程、溶剤分離工程、又は精製工程で得られる缶出液から重合禁止剤を回収する重合禁止剤回収工程等のさらなる工程を含んでいてもよい。前記精製工程において、精製された(メタ)アクリル酸は、精製工程における留出液として得ることができ、又は、前記精留塔中を降下している液或いは上昇する蒸気を精留塔の側部で精留塔外に抜き出して得ることができる。
【0090】
前記アクリル酸の製造方法1、2及びメタクリル酸の製造方法において、前記生成工程は、触媒が収容されている原料ガス流路と、原料ガス流路に対して熱交換が可能な熱媒流路とを有する反応器を用いて行うことができる。このような反応器としては、例えば、特開2005−336085号公報に開示されているような、両端にガスの通気口を有すると共に胴部に熱媒の通液口を有するシェルと、シェル内を両端部と胴部に分割する管板と、シェル内の胴部を貫通してシェル内の両端部を連通すると共に両端が管板によって支持され、触媒が収容される複数の反応管と、シェルの胴部に熱媒を循環させる装置とを有する多管式反応器、及び、特開2004−202430号公報に開示されているような、楕円型の断面形状を有する複数の管が断面形状の端部で連結されて形成され、併設される複数の仕切りと、二つの仕切りの間に保持される触媒と、前記管を横断する方向に前記触媒へガスを通す装置と、前記管に熱媒を供給する装置とを有するプレート式反応器が挙げられる。
【0091】
また、前記生成工程に用いられる触媒としては、例えば、特開2005−336085号公報に開示されているような、下記一般式(I)で表されるMo−Bi系複合酸化物触媒、及び下記一般式(II)で表されるMo−V系複合酸化物触媒が挙げられる。
一般式(I) MoaWbBicFedAeBfCgDhEiOx
一般式(II) MoaVbWcCudXeYfOg
【0092】
前記一般式(I)中、Aはニッケル及びコバルトの一方又は両方の元素、Bはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる一以上の元素、Cはアルカリ土類金属から選ばれる一以上の元素、Dは、リン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、ヒ素、ホウ素及び亜鉛から選ばれる一以上の元素、Eは、シリコン、アルミニウム、チタニウム及びジルコニウムから選ばれる一以上の元素、Oは酸素を表す。また前記一般式(I)中、a、b、c、d、e、f、g、h、i及びxは、それぞれ、Mo、W、Bi、Fe、A、B、C、D、E及びOの原子比を表し、a=12の場合、0≦b≦10、0<c≦10(好ましくは0.1≦c≦10)、0<d≦10(好ましくは0.1≦d≦10)、2≦e≦15、0<f≦10(好ましくは0.001≦f≦10)、0≦g≦10、0≦h≦4、0≦i≦30であり、xは各元素の酸化状態によって決まる値である。
【0093】
前記一般式(II)中、XはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる一以上の元素、YはTi、Zr、Ce、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Nb、Sn、Sb、Pb及びBiから選ばれる一以上の元素、Oは酸素を表す。また前記一般式(II)中、a、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ、Mo、V、W、Cu、X、Y及びOの原子比を示し、a=12の場合、2≦b≦14、0≦c≦12、0<d≦6、0≦e≦3、0≦f≦3であり、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。
【0094】
前記水性媒体は、水を主成分とする液体である。前記水性媒体は、水溶性の有機溶剤を含んでいてもよい。水性媒体としては、例えば水、及び易重合性化合物の製造において排出される水成分が挙げられる。前記水成分としては、例えば前記(メタ)アクリル酸の製造方法1における抽出工程の抽残水、及び前記(メタ)アクリル酸の製造方法2における脱水工程の留出液が挙げられる。
【0095】
前記アクリル酸の製造方法1及びメタクリル酸の製造方法における前記共沸溶剤は、水と共沸する溶剤である。共沸溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、及びイソプロピルアセテートが挙げられる。
【0096】
前記抽出溶剤には、水溶性溶剤又は非水溶性溶剤のいずれかを用いることができる。水溶性溶剤は20℃における水の溶解度が1.5質量%より大きい溶剤であり、非水溶性溶剤は20℃における水の溶解度が1.5質量%以下の溶剤である。水溶性溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、t−ブタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びこれらの混合物が挙げられる。非水溶性溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族非水溶性化合物を主成分とし、n−ヘキサン、1−ヘキセン、シクロヘキサン、ヘキサジエン、ヘプタン、及びヘプテンを含有していてもよい溶剤が挙げられる。
【0097】
前記抽出溶剤が非水溶性溶剤である場合には、前記抽出工程には、特開2002−58903号公報に開示されているような、筒部と、筒部内に配置され筒部の軸方向に往復運動可能な駆動軸と、前記軸方向に並んで駆動軸に固定される複数の多孔板と、駆動軸を前記軸方向に往復運動させる駆動部とを有する往復動プレート式向流抽出装置を用いることが好ましい。
【0098】
前記(メタ)アクリル酸エステルの製造方法において、前記低沸物は、残留する原料アルコール、(メタ)アクロレイン、酢酸エステル等の、(メタ)アクリル酸エステルの沸点よりも低い沸点を有する化合物である。
【0099】
前記アクリル酸の製造方法1、2及びメタクリル酸の製造方法において、前記高沸物は、(メタ)アクリル酸の二量体や三量体等の、(メタ)アクリル酸の沸点よりも高い沸点を有する化合物である。
【0100】
本発明における蒸留工程は、易重合性化合物の製造方法における一の蒸留工程に適用することができる。本発明における蒸留工程を易重合性化合物の製造方法における一の蒸留工程に適用することにより、本発明における蒸留工程を適用する一の蒸留工程のさらなる規模の拡大が可能となる。
【0101】
また本発明における蒸留工程は、易重合性化合物の製造方法における連続する二の蒸留工程に適用することができる。例えば、図1の蒸留装置を用いて、第一の塔部1aと第二の塔部1bとのそれぞれにおいて、連続する二の蒸留工程のそれぞれを行う。本発明における蒸留工程を易重合性化合物の製造方法における二の蒸留工程に適用することにより、易重合性化合物の製造に用いられる二本の精留塔が一本の精留塔で足りることから、易重合性化合物の製造設備の建設費用を大幅に削減することが可能となる。同様に、さらなるリボイラ又はさらなる液溜め部を設ければ、本発明における蒸留工程を、易重合性化合物の製造方法における連続する三以上の蒸留工程に適用することも可能である。
【0102】
より具体的には、例えば本発明における蒸留工程は、前記の(メタ)アクリル酸の製造方法1において、脱水工程、酢酸分離工程、及び精製工程のいずれかの工程に適用することができ、又は、脱水工程及び酢酸分離工程、或いは酢酸分離工程及び精製工程に適用することができ、又は、脱水工程、酢酸分離工程、及び精製工程に適用することができる。また本発明における蒸留工程は、前記の(メタ)アクリル酸の製造方法2において、溶剤分離工程又は精製工程に適用することができ、又は溶剤分離工程及び精製工程に適用することができる。また本発明における蒸留工程は、前記の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法において、低沸物分離工程又はエステル精製工程に適用することができ、又は、低沸物分離工程及びエステル精製工程に適用することができる。
【0103】
また、本発明では、前記蒸留工程において、精留塔における濃縮部の降下液を濃縮することによって、精留塔における回収部の降下液の重合禁止剤の濃度を、回収部の下部での易重合性化合物の重合を防止するのに十分な濃度まで高めることができることから、前記蒸留工程における易重合性化合物の重合を効率よく防止することができる。
【実施例】
【0104】
[実施例1]
図3に示す、精留塔11、原料流入口12、重合禁止剤供給装置13、及び第一及び第二のリボイラ14、15を有する蒸留装置について、蒸留計算ソフト「ASPEN+」を用いて、以下の条件1で、減圧蒸留時における精留塔内の降下液の流量、温度、及び重合禁止剤の濃度を求めた。減圧蒸留時における精留塔内の降下液の流量と温度を図4に、減圧蒸留時における精留塔内の重合禁止剤の濃度を図5にそれぞれ示す。
<条件1>
精留塔の理論段数 13段
原料流入口の位置 8段(上から)
重合禁止剤の供給位置 1段(塔頂)
還流位置 1段(塔頂)
第二のリボイラの位置 8段(上から)
原料の流入量 60kg/h
原料の組成 アクリル酸 17質量%、トルエン 83質量%
重合禁止剤の供給量 0.05kg/h(ただし重合禁止剤は2.4質量%のフェノチアジンを含有するトルエン溶液である)
還流比 1.5
留出量(留出液の排出量) 50kg/h
缶出量(缶出液の排出量) 10kg/h
塔頂温度 56.7℃
塔頂圧力 15kPa(Abs)
第二のリボイラでの蒸発蒸気量 107kg/h
第一のリボイラでの蒸発蒸気量 16kg/h
【0105】
図4に示されるように、実施例1では、精留塔における塔内温度は、塔頂で56.7℃であり、塔底で93.3℃であり、塔頂から塔底にかけて上昇している。また、精留塔を降下する液の量は、濃縮部及び回収部のそれぞれにおいてほぼ一定であり、かつ回収部を降下する液の量は、濃縮部を降下する液の量のおよそ3分の1である。さらに、図5に示されるように、精留塔における重合禁止剤の濃度は、濃縮部及び回収部のそれぞれにおいてほぼ一定であり、かつ回収部における重合禁止剤の濃度は、濃縮部における重合禁止剤の濃度のおよそ3倍である。このように、実施例1では、塔内温度がより高く、易重合性化合物がより重合しやすい精留塔の回収部において、易重合性化合物の重合がより一層防止されている。
【0106】
[比較例1]
図6に示す、精留塔21、原料流入口22、重合禁止剤供給装置23、及び第一のリボイラ24を有し、第二のリボイラを有さない以外は実施例1の蒸留装置と同様の構成の蒸留装置について、第一のリボイラでの蒸発蒸気量を131kg/hrとした以外は前記条件1と同じ条件で、減圧蒸留時における精留塔内の降下液の流量、温度、及び重合禁止剤の濃度を求めた。減圧蒸留時における精留塔内の降下液の流量と温度を図7に、減圧蒸留時における精留塔内の重合禁止剤の濃度を図8にそれぞれ示す。
【0107】
図7に示されるように、比較例1では、精留塔における塔内温度は、塔頂で56.6℃であり、塔底で88.9℃であり、実施例1と同様に塔頂から塔底にかけて上昇している。また、精留塔を降下する液の量は、濃縮部及び回収部のそれぞれにおいてほぼ一定であるが、回収部を降下する液の量は、濃縮部を降下する液の量のおよそ2倍である。さらに、図8に示されるように、精留塔における重合禁止剤の濃度は、濃縮部及び回収部のそれぞれにおいてほぼ一定であるが、回収部における重合禁止剤の濃度は、濃縮部における重合禁止剤の濃度のおよそ半分であり、実施例1における回収部での重合禁止剤の濃度のおよそ五分の一である。このように、比較例1では、塔内温度がより高く、易重合性化合物がより重合しやすい回収部において、重合禁止剤による易重合性化合物の重合の防止作用がより小さくなっている。
【0108】
[比較例2]
図9に示す、精留塔31aと、精留塔31aに原料液を供給する原料流入口32と、精留塔31aの塔頂部から重合禁止剤を精留塔31aに供給する重合禁止剤供給装置33と、精留塔31aの塔底液の一部を加熱、蒸気化するリボイラ34aと、精留塔31aの塔底液の残りが供給される精留塔31bと、精留塔31bの塔底液を加熱、蒸気化するリボイラ34bとを有し、精留塔31bの塔頂から排出される蒸気が精留塔31aの塔底部に供給される蒸留装置について、以下の条件2で、減圧蒸留時における精留塔31a及び31b内の降下液の流量、温度、及び重合禁止剤の濃度を求めた。減圧蒸留時における精留塔31a及び31b内の降下液の流量と温度を図10に、減圧蒸留時における精留塔31a及び31b内の重合禁止剤の濃度を図11にそれぞれ示す。
<条件2>
精留塔31aの理論段数 8段
精留塔31aにおける原料流入口の位置 8段(上から)
精留塔31aにおける重合禁止剤の供給位置 1段(塔頂)
精留塔31aにおける還流位置 1段(塔頂)
精留塔31aにおける原料の流入量 60kg/h
精留塔31aにおける原料の組成 アクリル酸 17質量%、トルエン 83質量%
精留塔31aにおける重合禁止剤の供給量 0.05kg/h(ただし重合禁止剤は2.4質量%のフェノチアジンを含有するトルエン溶液である)
精留塔31aにおける還流比 1.5)
精留塔31aにおける塔頂温度 57℃
精留塔31aにおける塔頂圧力 16kPa(Abs)
リボイラ34aでの蒸発蒸気量 122kg/h
精留塔31bの理論段数 5段
精留塔31bにおける原料の供給位置 1段(塔頂)
精留塔31bにおける塔頂圧力 16kPa(Abs)
精留塔31bにおける還流比 0(留出液は全量、精留塔31aの塔底に供給した)
リボイラ34bでの蒸発蒸気量 16kg/h
【0109】
図10に示されるように、比較例2では、精留塔31aの塔頂温度は56.7℃であり、精留塔31bの塔底温度は91.0℃である。精留塔31a及び31bを降下する液の量は、それぞれにおいてほぼ一定であり、精留塔31bを降下する液の量は、精留塔31aを降下する液の量のおよそ3分の1である。さらに、図11に示されるように、精留塔31a及び31bにおける重合禁止剤の濃度は、それぞれにおいてほぼ一定であり、精留塔31bにおける重合禁止剤の濃度は、精留塔31aにおける重合禁止剤の濃度のおよそ3倍である。比較例2では、実施例1と同様に、塔内温度がより高く、易重合性化合物がより重合しやすい精留塔31bにおいて、易重合性化合物の重合がより一層防止されている。
【0110】
比較例2は、前述したように、塔内温度がより高く、易重合性化合物がより重合しやすい精留塔内における易重合性化合物の重合をより一層防止する観点で優れているものの、比較例2では二つの精留塔を含むことから、精留塔の建設コストは、実施例1及び比較例1に比べて高くなる。また比較例2において、精留塔31a及び精留31bは実際には併設されることから、精留塔31bの留出液が精留塔31aの塔底に送られ加熱される。したがって、比較例2において要する総スチーム量は、実施例1又は比較例1において要する総スチーム量に比べて多くなる。
【0111】
[参考例]
実施例1及び比較例1の精留塔の塔底部において、降下液中の重合禁止剤の濃度と重合防止作用との関係を確認するために、重合禁止剤の濃度以外は同じである、以下に示す条件3及び4の減圧蒸留を連続して行った。その結果、条件3における減圧蒸留の連続運転時間は3時間であり、条件4における減圧蒸留の連続運転時間は7時間であった。したがって、重合禁止剤の濃度を二倍にすることによって、減圧蒸留の連続運転時間が格段に増加した。以上より、塔底液における重合禁止剤の濃度が二倍に増加することが、塔底液における重合の発生の防止に大きく寄与していることが確認された。
<条件3>
精留塔の理論段数 13段
精留塔における原料の供給位置 8段(上から)
精留塔における原料の流入量 60g/h
原料の組成 アクリル酸 17.0質量部、トルエン 82.9質量部、フェノチアジン 0.1質量部
塔頂圧力 15kPa(Abs)
塔頂温度 57℃
塔底温度 89℃
還流比 1.5
缶出量 10g/h
<条件4>
原料の組成において、トルエンが82.8質量部、フェノチアジンが0.2質量部である以外は条件3と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明における蒸留工程では、従来において一又は二本の精留塔を用いる蒸留を一本の精留塔で行うことが可能であり、さらに従来の二本の精留塔を用いる場合と同等の重合防止作用が得られる。したがって本発明に用いられる精留塔の建設費用は従来の精留塔の建設費用に比べて格段に小さくなることから、易重合性化合物の製造における初期費用を格段に小さくすることができる。また、本発明における蒸留工程では、精留塔と第二のリボイラとの間の液及び蒸気の移送距離が小さく、これらの移送による除熱の影響がほとんどないことから、従来の二本の精留塔を用いる場合に比べてリボイラに要するスチームの総量を少なくすることができ、易重合性化合物の製造における運転費用を小さくすることができる。このように、本発明は、安価で高品質な易重合性化合物の製造に大きく貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0113】
1、11、21、31a、31b 精留塔
1a 第一の塔部
1b 第二の塔部
1c 液溜め部
2、12、22、32 原料流入口
3、13、23、33 重合禁止剤供給装置
4、14、24 第一のリボイラ
5、15 第二のリボイラ(サイドリボイラ)
6 凝縮器
7 受器
34a、34b、51 リボイラ
50 蒸留塔
52 蒸気排出管
53 濃縮液排出管
54 散布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易重合性化合物を含有する組成物を重合禁止剤の存在下で蒸留する工程を含み、前記組成物から易重合性化合物を得る易重合性化合物の製造方法において、
前記蒸留工程では、(a)前記組成物及び重合禁止剤を精留塔に供給し、精留塔の塔底液をリボイラで加熱、蒸気化し、(b)精留塔の塔頂から排出された蒸気が凝縮した凝縮液の一部を精留塔の塔頂部から精留塔に供給し、(c)精留塔内を降下する液を中間濃縮装置で濃縮し、得られた蒸気及び濃縮液を前記精留塔内に供給することを特徴とする易重合性化合物の製造方法。
【請求項2】
前記中間濃縮装置で得られた蒸気を精留塔の濃縮部に供給し、前記濃縮液を精留塔の回収部に供給することを特徴とする請求項1に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項3】
前記中間濃縮装置が、前記精留塔における中間段に設けられるサイドリボイラであることを特徴とする請求項1又は2に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項4】
前記中間濃縮装置が蒸留塔を含む濃縮用蒸留装置を含み、前記蒸留塔の塔頂から排出される蒸気及び前記蒸留塔の塔底から排出される濃縮液が前記精留塔に供給されることを特徴とする請求項1又は2に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項5】
前記蒸留塔が、理論段数が1であるフラッシュドラムであることを特徴とする請求項4に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項6】
前記蒸留塔が、理論段数が1を超える蒸留塔であることを特徴とする請求項4に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項7】
前記中間濃縮装置から前記精留塔に蒸気を供給する配管の温度を前記蒸気の前記配管での凝縮が5%以下となるように調整して前記蒸気を前記精留塔に戻すことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項8】
前記精留塔が、精留塔から前記中間濃縮装置へ精留塔を降下する液を供給するための降下液供給口と、前記中間濃縮装置から前記精留塔内へ前記蒸気及び濃縮液又は前記濃縮液を排出する濃縮液排出口とをさらに有し、前記降下液供給口と濃縮液排出口のうち、より下方にある開口よりも下方の精留塔内を降下する液の重合禁止剤の濃度が、より上方にある開口よりも上方の精留塔内を降下する液の重合禁止剤の濃度の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項9】
精留塔の塔底部の温度が80℃以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項10】
精留塔の塔頂部から重合禁止剤を精留塔内に供給することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項11】
前記易重合性化合物が(メタ)アクリル酸又はそのエステルであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項12】
前記重合禁止剤がハイドロキノン、メトキノン、フェノチアジン、及び銅塩からなる群から選ばれる一以上であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の易重合性化合物の製造方法。
【請求項13】
(a)易重合性化合物を含有する組成物及び重合禁止剤を精留塔に供給し、精留塔の塔底液をリボイラで加熱、蒸気化し、(b)精留塔の塔頂から排出された蒸気が凝縮した凝縮液の一部を精留塔の塔頂部から精留塔に供給し、(c)精留塔内を降下する液を中間濃縮装置で濃縮し、得られた蒸気及び濃縮液を前記精留塔内に供給することを特徴とする、易重合性化合物の蒸留における易重合性化合物の重合防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−263349(P2009−263349A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78802(P2009−78802)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】