時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法、その製造方法によって得られる微小突起物、その微小突起物を備える触媒用担体および接触搬送装置
【課題】簡単な方法で微小突起物を形成することが可能な時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法、その製造方法によって得られる微小突起物、その微小突起物を備える触媒用担体および接触搬送装置を提供する。
【解決手段】時効性金属材料を固溶化熱処理し、析出成分を素地中に溶解させる工程と、素地中に析出成分を含む化合物が析出しないように該金属材料を冷却しながら該金属材料の表面をスパッタエッチングし、該金属材料の該スパッタエッチング面上に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成する工程とを含み、該スパッタエッチングはスパッタエッチングする該金属材料の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、該スパッタエッチング速度が該金属材料の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングする。
【解決手段】時効性金属材料を固溶化熱処理し、析出成分を素地中に溶解させる工程と、素地中に析出成分を含む化合物が析出しないように該金属材料を冷却しながら該金属材料の表面をスパッタエッチングし、該金属材料の該スパッタエッチング面上に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成する工程とを含み、該スパッタエッチングはスパッタエッチングする該金属材料の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、該スパッタエッチング速度が該金属材料の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法、その製造方法によって得られる微小突起物、その微小突起物を備える触媒用担体および接触搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように織布、繊維製品、紙などの搬送には、非接触搬送手段として空気または水などの流体が、接触搬送手段としては各種トラクションローラが用いられている。搬送用のローラでは表面の摩擦力が重要であり、通常摩擦力の大きいゴムが用いられることが多い。しかしゴムローラでは、摩擦、変形による性能劣化が見られることや、液中では摩擦係数が小さいなどの問題がある。
【0003】
これを解決する方法として、金属材料からなる円筒体の外周面に腐蝕溶液を用いたエッチングにより微細な突起を多数形成するグリップローラが提案されている(例えば特許文献1参照)。また金属材料にニッケル、銅などを用いて電鋳法により突起物を有する電鋳膜を形成し、この電鋳膜を回転部材に被せ着ける方法によりグリップローラを得る方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
また、微小な突起物はこれら接触搬送の手段としての利用以外にも、表面積が大きい特性を活かしたとえば触媒の担体として使用することも可能である。
【特許文献1】特開平6−127732号公報
【特許文献2】特開平11−35189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される技術は、金属材料の表面を腐蝕溶液でエッチングすることで微細な突起を形成させるものであるので、突起物自身は金属であり、長時間使用することで磨耗する。また特許文献2の技術は、突起物を有する電鋳膜を用いたグリップローラであるが、この電鋳膜上に形成された突起物自身も金属材料であり、特許文献1と同様、長時間の使用により磨耗することが懸念される。
【0006】
また特許文献1の技術は、レジストを形成させた後、腐蝕溶液を用いてエッチングを行い、最後にレジストを剥離するなどの手順で突起物を形成させるため、突起物の形成に多くの工程を必要とする。同様に、特許文献2の技術は電鋳法により突起物を製作するため、金型の表面にポンチなどを用いて突起に対応した凹部を形成する工程、電鋳工程、分離工程などが必要となるなど、突起物の形成に多くの工程を必要とする。また特許文献2の技術では、突起物の大きさは金属表面に設ける凹部の大きさに依存するため、大きさの異なる突起物を得るためには多くの金型が必要となる。
【0007】
以上のようにグリップローラを含め搬送ローラには、長時間の使用においても磨耗が少ない耐磨耗性を備えるローラが求められている。またその突起物の製造工程が簡単で、また突起物の大きさを制御可能な突起物の製造方法も求められている。ステンレス鋼の鋭敏化処理に際して析出するクロム炭化物は、粒界腐食の原因となるが、クロム炭化物自体は硬くてしかも耐磨耗性に優れている。窒化物を含む金属間化合物も同様である。これら炭化物などからなる微細な突起物を金属材料表面に形成させることができれば、耐磨耗性に優れた搬送ローラまたはマイクロマシンを含む多くの精密機械部品を製造することも可能である。またこれら突起物を備える金属材料は表面積が大きいことから、触媒用坦体としての使用が期待される。
【0008】
本発明の目的は、簡単な方法で微小突起物を形成することが可能な時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法、その製造方法によって得られる微小突起物、その微小突起物を備える触媒用担体および接触搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、時効性金属材料を固溶化熱処理し、析出成分を素地中に溶解させる工程と、
素地中に析出成分を含む化合物が析出しないように該金属材料を冷却しながら該金属材料の表面をスパッタエッチングし、該金属材料の該スパッタエッチング面上に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成する工程とを含み、
該スパッタエッチングはスパッタエッチングする該金属材料の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、該スパッタエッチング速度が該金属材料の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングすることを特徴とする時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0010】
また本発明で、前記析出成分を含む化合物は、炭化物または金属間化合物であることを特徴とする請求項1に記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0011】
また本発明は、前記微小突起物の形状が略円錐の形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0012】
また本発明は、使用する時効性金属材料の材質、スパッタエッチング時の時効性金属材料の冷却温度、スパッタエッチング時間、スパッタエッチングの出力のうち少なくともいずれか1つを制御することにより、微小突起物の大きさ、形状または分布密度を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0013】
また本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法により前記時効性金属材料の表面に前記微小突起物を形成した後、
前記微小突起物より硬い硬質体と前記微小突起物の突起の先端とを衝突させ、前記微小突起物の突起の先端部分を平坦にする工程をさらに含むことを特徴とする前記時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0014】
また本発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法により得られる微小突起物である。
【0015】
また本発明は、請求項6に記載の微小突起物を備えることを特徴とする触媒用担体である。
【0016】
また本発明は、請求項6に記載の微小突起物を備えることを特徴とする接触搬送装置である。
【0017】
また本発明で、前記接触搬送装置は、マイクロマシン用歯車であることを特徴とする請求項8に記載の接触搬送装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、時効性金属材料を固溶化熱処理し、析出成分を素地中に溶解させる工程と、素地中に析出成分を含む化合物が析出しないように金属材料を冷却しながら金属材料の表面をスパッタエッチングし、金属材料のスパッタエッチング面上に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成させるので、複雑な工程を経ることなく微小突起物を形成させることができる。また、スパッタエッチングはスパッタエッチングする金属材料の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、スパッタエッチング速度が金属材料の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングするので、微小突起物は素地と一体化しており、素地から容易に剥離することはない。
【0019】
また本発明によれば、析出成分を含む化合物は、炭化物または金属間化合物であるので、硬度が高く耐磨耗性がある。また硬度が高い炭化物または金属間化合物を材料表面に形成させることができるので、材料表面を硬質化させることができる。
【0020】
また本発明によれば、微小突起物の形状が略円錐の形状であるので微小突起物を利用して接触搬送装置を製造することができる。また突起物は微小なので、接触搬送装置としてマイクロマシン用歯車に利用することが可能である。
【0021】
また本発明によれば、使用する時効性金属材料の材質、スパッタエッチング時の時効性金属材料の冷却温度、スパッタエッチング時間、スパッタエッチングの出力のうち少なくもいずれか1つを制御することにより、微小突起物の大きさ、形状または分布密度を制御することが可能なので、所望の大きさ、所望の形状または所望の分布密度を有する微小突起物を得ることができる。
【0022】
また本発明によれば、時効性金属材料の表面に前記微小突起物を形成した後、微小突起物より硬い硬質体と微小突起物の突起の先端とを衝突させ、微小突起物の突起の先端部分を平坦にすることも可能なので、突起物の先端が平坦な突起物を得ることができる。
【0023】
また本発明によれば、金属表面に微小突起物を備えるので金属材料の表面積が広くなる。よってこの突起物を含む金属材料を触媒用担体として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の一形態としての時効性金属材料表面への微小突起物の製造手順を示すフローチャートである。
【0025】
まず時効性金属材料である供試体を固溶化熱処理する(ステップS1)。固溶化熱処理を行うことにより、析出成分を素地中に細かく分散させる。時効性金属材料とは合金であって、合金を一度高温に保持してすべての合金元素を均一に分散させ急冷したのち、ある温度に加熱すると、一部の原子が集まって、別の相を形成する金属を言う。ここで言う別の相とは、炭化物、金属間化合物などもとの結晶構造と異なる結晶構造をもつものを言う。時効性金属材料としては、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金などが該当する。固溶化熱処理は、鋼においては焼き入れとも呼ばれ、合金を一度高温に保持してすべての合金元素を均一に分布させ後、水中に投入するなどして急冷する操作を言う。
【0026】
固溶化熱処理を行った後、供試体である試験片の表面を研磨、脱脂洗浄する(ステップS2)。試験片の表面には一般的に酸化物、さびまたは凹凸が存在するため、これを除去する目的で試験片の研磨を行う。試験片表面に酸化物、凹凸などが存在すると、スパッタエッチングの量が不均一となりやすいが、試験片表面を研磨することで金属材料表面へのスパッタエッチング量を均一にすることができる。また試験片表面に油分などが存在すると、これら油分等がスパッタエッチングより飛散し、試験片、装置等を汚染する場合がある。以上のことから、試験片表面を研磨および洗浄することが望ましい。
【0027】
試験片の研磨は、金属表面の研磨に通常使用される研磨方法を用いて行えばよく、具体的には布などでできた柔らかいバフに、酸化クロム、アルミナなどの砥粒を付着させて研磨するバフ研磨、サンドペーパによる研磨などがある。脱脂洗浄は試験片表面に付着した油分などを除去するもので、洗浄剤には油分を溶解するアセトン、テトラヒドロフランなどの有機溶剤がある。
【0028】
次に研磨の終了した試験片をホルダーに載せスパッタ装置に設置する(ステップS3)。スパッタ装置に設置した試験片はスパッタエッチングを行うにあたり、底面を強制冷却する(ステップS4)。試験片の冷却は試験片を載置したホルダーを、水冷試験台に密接させることで行うことができる。ホルダーを通じて試験片の底面を冷却するので、ホルダーは熱伝達性が高く、厚さも薄い方が望ましい。
【0029】
試験片をスパッタ装置に設置した後、試験片の底面を強制的に冷却しながら冷却面と相対する試験片の表面をスパッタエッチングする(ステップS5)。後述の実施例1(図7参照)のように、試験片の冷却が十分である場合には、スパッタエッチング表面から内部に向かう温度勾配は大きいので、表面近傍でのみ炭化物が析出する。一方、比較例1(図8参照)のように、ホルダーと試料台とが離れている場合には、温度勾配が小さいため、スパッタエッチング表面のみならず素地中に炭化物が析出し、表面近傍に形成された炭化物が内部に向かって安定に成長しにくい。このため、エッチング時間の増加とともに、素地が優先的にエッチングされると、炭化物が脱落する。
【0030】
またスパッタエッチングはスパッタエッチングする試験片の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、スパッタエッチング速度が試験片の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングを行う必要がある。これにより試験片表面に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成することができる。
【0031】
スパッタエッチング装置は、スパッタエッチングする試験片の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、スパッタエッチング速度が試験片の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチング可能な装置であれば、装置の形式は特に限定されない。具体的にはマグネトロンスパッタ装置を用いることができる。またスパッタに用いる気体としては、通常スパッタエッチングで使用されるアルゴンガスを、またスパッタ圧力もスパッタエッチングで通常使用される圧力でよい。以上のように比較的簡単な手順、操作で金属材料表面に微小突起物を形成させることができる。
【0032】
試験片表面に形成された微小突起物の一例を図2(a)〜図2(d)に示す。図2(a)〜図2(d)は図1に示した手順で各種金属材料を所定の時間スパッタエッチングした後の金属表面の走査型イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope(SIM))写真である。
使用した試験片は、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、フェライト系ステンレス鋼SUS430、合金工具鋼SKD5および低合金Cr−Mo鋼SCM435の4種類である。図2(a)〜図2(d)から分かるように金属材料表面に微小突起物が形成されている。微小突起物は、金属の種類によらず、突起の先端が細く素地に向かって太い円錐状の形状を有する。微小突起物の大きさに分布はあるものの、形状はどの突起物もほぼ円錐状である。
【0033】
図3(a)および(b)は図1に示した手順でステンレス鋼SUS304鋼板上に形成させた微小突起物の周辺を集束イオンビーム(Ga+)によって加工した後の表面写真であり、図3(c)は一つの突起物をGa+イオンビームによって切断し溝を付けて観察した断面形態である。同様に図4(a)〜図4(c)は、図1に示した手順でステンレス鋼SUS430鋼板上に形成させた微小突起物の周辺を集束イオンビーム(Ga+)によって加工した後の表面写真である。図3(a)から金属表面に形成させた微小突起物は、加工時間が長い場合(t=2.04ks)であっても、素地と一体的に形成されていることがわかる。ステンレス鋼SUS430鋼板でも加工時間t=0.748ksで、微小突起物は素地と一体化していることがわかる(図4(a))。以上のように微小突起物は、素地から容易に脱落しない構造を有していることが分かる。
【0034】
また金属表面に形成される微小突起物は析出成分を含む金属間化合物である。具体的にはTiC、CrxCyなどの炭化物、TiNxなどの窒化物、Ni−Al金属間化合物、Ni―Tiなどの金属間化合物が該当する。後述の実証データ(図13)に示すように炭素を含む鋼の場合は、炭化物が析出する。また炭化物を利用しない析出硬化型の鋼、たとえば析出硬化型ステンレス鋼ではNi−Al金属間化合物、マルエージング鋼では、Ni−Ti,Ni−Alなどの微細な金属間化合物も析出する。他の析出硬化型の合金たとえばアルミニウム合金などでも、MgZn2が析出する。
【0035】
時効性金属材料表面への微小突起物の形成メカニズムは次のように考えられる。図5(a)〜図5(d)は、時効性金属材料表面への微小突起物の形成メカニズムを説明するための図である。ステンレス鋼を823〜1023K(鋭敏化温度域)に加熱すると、固溶炭素が粒内の欠陥や粒界へ拡散し、そこでクロムと結合してクロム炭化物を形成することはよく知られている。ステンレス鋼板をスパッタエッチングすると、スパッタエッチングによる表面温度の上昇と空孔の導入によって、図5(a)に示すように、表面1または粒界への炭素2の拡散が促進され、クロム炭化物3が表面近傍に析出する。
【0036】
Ar+によるスパッタ率は硬い炭化物3より素地4の方が高いため、素地4の表面原子が優先的に削られ、図5(b)のように、球状の炭化物3が表面1に現れる。この炭化物3の表面原子もある速度でスパッタされるが、スパッタ率は、炭化物表面に対するスパッタ粒子の入射角(入射方向と表面法線とのなす角)に依存し、ある角度で極大値をとる。たとえば、SiおよびGeのスパッタ率は、Ar+(500eV)の入射角の増加につれて増加し、70−80°で最大となり、さらに入射角が増加すると、スパッタ率が急激に減少する(日本表面科学会編:薄膜技術,培風館,1999,P39−40)。したがって球状炭化物3の表面のうち、スパッタ効率が最大となる入射角で優先的にスパッタが生じ、図5(c)のように円錐状になるものと考えられる。
【0037】
一方、スパッタ時間の増加に伴って、図5(d)のように素地表面1は優先的にスパッタされるが、素地4から表面炭化物3に炭素2が供給され続けて、炭化物3は表面に平行な方向(水平)方向にも、厚さ方向にも成長する。もし、素地4のスパッタ速度が炭化物3の深さ方向の成長速度を超えないならば、炭化物3が表面から脱落することはない。
【0038】
次に微小突起物の用途について説明する。
【0039】
上記のように微小突起物は突起物の先端が鋭利な円錐体であり、また炭化物など析出成分を含む金属間化合物であることから硬く耐磨耗性を有する。炭化物のビッカース硬さは10〜30GPa程度であり素地の数倍の値である。これら特性を活かし、微小突起物を耐磨耗性に優れた接触搬送手段として利用することができる。たとえば従来から使用されているようなグリップローラに使用できる。また突起物は後述の実証データ(図12、16、19、22、25)で示すように数ミクロンの大きさであるので、突起物をマイクロマシン用の歯車に利用することも可能である。
【0040】
また金属材料表面に形成される突起物は円錐の形状を有しているので、金属材料表面に微小突起物が形成させることで、金属表面の表面積は表面が平坦な金属材料に比較して非常に大きくなる。たとえば、直径1μmで、高さが4μmの円錐体の幾何学的表面積(底面の面積を除く)は、直径1μmの円と比較して計算上4倍以上の表面積を有する。この表面積が大きいことを活かし、微小突起物を有する金属材料を触媒の担体として使用することができる。
【0041】
次に微小突起物の形状を変更させる方法について説明する。
【0042】
微小突起物は炭化物など金属間化合物であり、硬さが高い点に特徴があるが、形状を変化させることは可能である。実証データ(図28(a)、図28(b))に示すように、金属材料の表面に形成させた微小突起物の先端をガラス板に繰り返し衝突させることで、先端部を平坦化することができる。以上のような操作により、必要に応じて突起物の先端が平坦な突起物を得ることができる。
【0043】
次に微小突起物の大きさ、分布密度の制御方法について説明する。
【0044】
微小突起物は、使用する金属材料の材質、またはスパッタエッチングの操作条件を制御することで、微小突起物の大きさ、形状または分布密度を制御することが可能である。スパッタエッチングの操作条件にはスパッタエッチングのエッチング時間、エッチングの出力、スパッタエッチング時の金属材料の冷却速度などがある。
【0045】
微小突起物の大きさ、分布密度は、使用する金属材料の材質によって大きく異なる。図6は後述の実施例2〜5で得られた各金属材料の微小突起物の面分布密度を示す図である。使用した金属材料は、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、フェライト系ステンレス鋼SUS430、低合金Cr−Mo鋼SCM435および合金工具鋼SKD5の4種類である。なお予め固溶化熱処理をして使用したことは言うまでもない。
【0046】
微小突起物の面分布密度は金属材料によって大きく異なり、微小突起物の数は1平方メートル当たりステンレス鋼SUS304鋼板、ステンレス鋼SUS430鋼板では4〜5×1012個、合金工具鋼SKD5では25〜70×1012個であった。低合金Cr−Mo鋼SCM435では、微小突起物の数は3〜25×1012個であった。オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、フェライト系ステンレス鋼SUS430では、エッチング時間に対して面分布密度がほぼ一定であるのに対して、合金工具鋼SKD5ではエッチング時間とともに面分布密度が増加している。また低合金Cr−Mo鋼SCM435では、エッチング時間に対して面分布密度が増加した後減少している。
【0047】
また後述の実証データ(図17、20、23、26)で示すように金属材料の材質により微小突起物の大きさも異なった。スパッタエッチング時間28.8ksで、各金属材料表面に形成させた突起物の大きさを対比してみると、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304では、円錐体の底面の半径(以下半径と略す)が0.8〜1.2μmの大きさの突起物が50%以上であるのに対して、フェライト系ステンレス鋼SUS430では、歯半径0.4μm以下の大きさの突起物が約80%、低合金Cr−Mo鋼SCM435および合金工具鋼SKD5では、半径0.8〜1.2μmの大きさの突起物はほとんど見られない。以上のように使用する材料により面分布密度、大きさが大きく異なることから、金属材料を適切に選定することで、所望の分布密度または大きさを有する突起物を得ることができる。
【0048】
微小突起物はスパッタエッチングのエッチング時間によって、面分布密度または大きさが異なる。スパッタエッチング時間と面分布密度との関係は図6に示した通りである。スパッタエッチング時間と微小突起物の大きさとの関係は、使用する金属材料で挙動が異なる。後述の実証データ(図17、図20)で示すように、ステンレス鋼板の場合は、スパッタエッチング時間経過とともに、半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が減少し、半径1μm程度の大きい突起物の割合が増加している。
【0049】
これに対して実証データ(図23)で示す低合金Cr−Mo鋼SCM435、および実証データ(図26)に示す合金工具鋼SKD5では、半径が略0.4μm以下の円錐体が大部分を占め、スッパタエッチング時間を変化させてもその大きさにほとんど変化はみられない。以上のように金属材料にステンレス鋼を使用すると、スパッタエッチング時間によって微小突起物の大きさが変化することから、スパッタエッチング時間を制御することによって、所望の大きさまたは分布密度を有する微小突起物を得ることができる。
【0050】
微小突起物の大きさまたは分布密度は、上記のように金属材料の材質またはスッパタエッチングのエッチング時間によって異なるが、突起物の形状は円錐状でありこれら金属材料の材質またはスッパタエッチングのエッチング時間によらずほぼ一定である。実証データ(図16)にオーステナイト系ステンレス鋼SUS304の表面に形成した微小突起物の底面の半径と高さの関係を示す。スパッタエッチング時間によらず微小突起物はほぼ円錐の形状を有している。
【0051】
円錐体の半径によらず、高さと半径との比であるアスペクト比がほぼ一定であることから、突起物の水平方向の成長速度、入射角0°における突起物と素地のスパッタ速度がアスペクト比を決める因子であり、(素地のスパッタ速度)/(炭化物のスパッタ速度)(炭化物の水平方向成長速度)が大きいほど、円錐体のアスペクト比が大きくなると思われる。これは素地のスパッタ(削り)速度が大きいほど、また突起物のスパッタ速度が小さいほど、表面に露出される部分の高さhは高くなる。また、突起物は垂直方向のみならず水平方向にも成長するので、突起物の水平方向の半径rは、その方向での成長速度に比例することによるものである。以上のことからスパッタエッチングによる表面温度、温度勾配を制御することでも突起物の大きさなどを制御することが可能と思われる。
【0052】
金属材料の表面温度を制御する因子としては、スパッタエッチングの出力、使用する気体またはスパッタ圧力などがある。スパッタエッチングの出力によって、突起物の形状(アスペクト比)を変化させることが可能なことは、後述の実証データからも裏付けられている。突起物の形状アスペクト比は、スパッタエッチングの出力が大きいほど大きい値となる。スパッタエッチング出力250Wでアスペクト比2.8(実証データ図12)であるのに対して、スパッタエッチング出力600Wではアスペクト比が3.2〜3.7(実証データ図16、19、22、25)であった。
【実施例1】
【0053】
次に、本発明の実施例を示す。
【0054】
試験片には市販のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼板を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横10mm×厚さ1.5mmの大きさで予め溶体化処理済みである。鋼板の化学成分を表1に示す。
【0055】
【表1】
この試験片の表面をアルミナ粉末(平均粒子径0.06μm)でバフ研磨した後、アセトン溶液中で超音波脱脂洗浄した。試験片を厚さ1mmのアルミニウム製のホルダーに載せ、高周波マグネトロンスパッタ装置(最大高周波出力800W)に設置した。このとき、図7に示すように試験片10を載置したホルダー11は、水冷試料台12に直接接触させホルダー11の底面を強制的に冷却した。水冷試料台12は、冷却水13、14を通じることで行った。次に真空槽内の圧力を約0.006Paにした後、約6.7Paのアルゴンガス(純度99.999%)を導入しながらスパッタエッングを行った。
【0056】
スパッタエッチング後の試験片表面および断面形態を、走査型電子顕微鏡SEM(Scanning Electron Microscope)および集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam(FIB)system、seiko instruments inc.製 SMI9200D)の走査型イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope(SIM))を用いて観察した。また、FIBを用いて表面析出物に溝を付け、その断面をSIMで観察した。析出成分の成分分析には、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA、日本電子株式会社製 JXA―8900)を用いた波長分散型X線分光分析(Wave Dispersive X−ray Spectroscopy:WDS)を使用した。
【比較例1】
【0057】
比較例では、図8に示すように試験片10を載置したホルダー11は水冷試料台12に直接接触させることなく金属パッド15を介して載置した。水冷試料台12の冷却は、冷却水13、14を通じることで行った。よって本願発明の実施例1に比較して試験片10の底面16の温度は高い。冷却方法以外の手順、方法などは比較例1と実施例1とで同一である。
【0058】
(実施例1および比較例1の結果)図9(a)および(b)は、実施例1としてスパッタエッチング装置の出力を250W(プレート電流:約0.15A)に設定し、アルゴンイオンにより試験片表面を14.4ks間スパッタエッチングしたときの、試験片の表面をSEMで観察した写真である。最大直径約0.8μmの円形粒子が多数観察された。粒子は粒界に多く析出していた。この析出物はスパッタエッチングにより脱落している様子は見られなかった。一方比較例で示した実験条件、つまり試験片の底面の冷却が不十分な場合は、図10に示すように析出物の脱落によって生じた直径が1μm以下の穴が多く観察された。
【0059】
図11(a)〜図11(c)は、実施例1で得られた試験片の表面を走査型イオン顕微鏡で観察したときの写真である。図11(a)は、イオンビームと試料表面法線とのなす角(傾斜角)αを0°にして観察した画像であり、図11(b)はαを60°にして観察した画像である。図11(b)により多数の円錐状析出物が形成されていることがわかる。図11(c)は一つの円錐状析出物をGa+イオンビームによって切断して溝を付け、α=60°の傾斜角で観察した図である。円錐状析出物は素地と一体となっていることがわかる。
【0060】
図12は実施例1の析出物の半径(r)と高さ(h)の関係を示したものである。各析出物の高さ(h)は、図11(b)上の測定高さ(h‘)から、h=h’/sin60°により求めた。これによると円錐状析出物の最小寸法は、高さhが約0.27μm、半径rが0.08μmで、最大寸法は高さhが約2.3μm、半径rが0.8μmであった。その高さhと半径rとの比であるアスペクト比は、析出物の大小に関らず約2.8であった。多くの析出物の寸法を測定した結果、半径0.7μm以上のものが最も多かった。
【0061】
図13は、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて実施例1の析出物の線分析を行った結果を示す図である。析出物上では炭素およびクロムの量が多く、鉄、ニッケルの量が少なかった。図14(a)、図14(b)は、試験片の表面および析出物を含む断面の炭素の面分析結果を示す図である。図13および図14(a)、図14(b)から円錐状析出物はクロム炭化物であることがわかった。図14(b)により表面から炭化物が突出した部分のみならず、約0.5μmの深さにも炭素が集中していることがわかる。炭化物は素地から常に炭素の供給を受けながら成長していたことを示唆している。
【実施例2】
【0062】
試験片には市販のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼板を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横10mm×厚さ1.5mmの大きさで予め溶体化処理済みである。スパッタエッチングの出力は600Wで行った。その他の条件は実施例1と同一である。
【0063】
(実施例2の結果)図15(a)〜図15(c)は、試験片の表面をSIMで観察した写真である。実施例1と同様円錐形状の突起物が形成されていた。図16は微小突起物である円錐体の半径と高さとの関係を示す図である。実施例1と同様とスパッタエッチング時間によらず同一の形状であり、アスペクト比は3.2であった。突起物の最大半径は約1.5μmであった。図17はスパッタエチング時間をパラメータに突起物の半径とその割合を示すグラフである。スパッタエッチング時間経過とともに、半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が減少し、半径1μm程度の大きい突起物の割合が増加した。スパッタエッチング時間7.2ksでは、半径0.8μm以上の突起物は見られなかった。スパッタエッチング時間28.8ksでは、半径1.2μm以上の半径を有する突起物の個数割合が10%以上を占めた。
【実施例3】
【0064】
試験片には市販のフェライト系ステンレス鋼SUS430鋼板を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横10mm×厚さ1.5mmの大きさで予め溶体化処理済みである。スパッタエッチングの出力は600Wで行った。その他の条件は実施例1と同一である。
【0065】
(実施例3の結果)図18(a)〜図18(c)は、試験片の表面をSIMで観察した写真である。実施例1と同様円錐形状の突起物が形成されていた。図19は微小突起物である円錐体の半径と高さとの関係を示す図である。実施例1と同様とスパッタエッチング時間によらず同一の形状であり、アスペクト比は3.7であった。オーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼板と比較すると、突起物の大きさが全体的に小さい傾向が見られた。図20はスパッタエチング時間をパラメータに突起物の半径とその割合を示すグラフである。スパッタエッチング時間経過とともに、半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が減少し、半径1μm程度の大きい突起物の割合が増加した。ただしスパッタエッチング時間28.8ksにおいても、半径0.4μm以下の突起物の個数割合が80%以上を閉めており、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼板と比べ小さい突起物の割合が多い。
【実施例4】
【0066】
試験片には市販の低合金Cr−Mo鋼SCM435を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横5mm×厚さ2mmの大きさで予め溶体化処理済みである。スパッタエッチングの出力は600Wで行った。その他の条件は実施例1と同一である。
【0067】
(実施例4の結果)図21(a)〜図21(c)は、試験片の表面をSIMで観察した写真である。実施例1と同様円錐形状の突起物が形成されていた。図22は微小突起物である円錐体の半径と高さとの関係を示す図である。実施例1と同様とスパッタエッチング時間によらず同一の形状であり、アスペクト比は3.7であった。実施例2または実施例3のステンレス鋼板の表面に形成した突起物の大きさと比較すると、突起物の大きさが小さい。突起物の最大半径は約0.8μmと実施例2または実施例3のステンレス鋼板のほぼ半分の大きさであった。
【0068】
図23はスパッタエチング時間をパラメータに突起物の半径とその割合を示すグラフである。スパッタエッチング時間によらず半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が95%以上であった。スパッタエッチング時間が28.8ksにおいても、半径0.8μmを超える突起物は見られなかった。
【実施例5】
【0069】
試験片には市販の合金工具鋼SKD5を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横5mm×厚さ2mmの大きさで予め溶体化処理済みである。スパッタエッチングの出力は600Wで行った。その他の条件は実施例1と同一である。
【0070】
(実施例5の結果)図24(a)〜(c)は試験片の表面をSIMで観察した写真である。実施例1と同様円錐形状の突起物が形成されていた。図25は微小突起物である円錐体の半径と高さとの関係を示す図である。実施例1と同様とスパッタエッチング時間によらず同一の形状であり、アスペクト比は3.7であった。実施例2または実施例3のステンレス鋼板の表面に形成した突起物の大きさと比較すると、突起物の大きさは50%程度である。また、実施例4の低合金Cr−Mo鋼SCM435と比較しても、突起物の大きさは小さい傾向であった。
【0071】
図26はスパッタエチング時間をパラメータに突起物の半径とその割合を示すグラフである。スパッタエッチング時間によらず半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が約98%以上であった。スパッタエッチング時間が28.8ksにおいても、半径0.8μmを超える突起物は見られなかった。
【0072】
図27はスパッタエッチング前後のX線回折分析の結果を示す図である。スパッタエッチングした試験片は、スパッタエッチング前の試験片に比較して炭化物のピークが高くなっており、スパッタエッチングによって新たに表面で炭化物が生成することが伺える。スパッタエッチングにより紙片片の表面に生成した炭化物は、主にWC、(FeW)6Cおよび(FeW)3Cであることがわかる。
【実施例6】
【0073】
実施例2のステンレス鋼板の表面に形成させた突起物の先端を、次の操作を行い平坦化させた。
【0074】
イオン交換水を入れたガラス容器に、突起物の先端がガラス容器の底部と当接するように設定した。ガラス容器を超音波洗浄器内に設置し、試験片に10分間超音波を与えた。材料を取り出しドライヤーによって熱風乾燥させた。
【0075】
(実施例6の結果)図28(a)、図28(b)は、試験片の表面をSIMで観察した写真である。突起物の先端が平坦になっていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の一形態としての時効性金属材料表面への微小突起物の製造手順を示すフローチャートである。
【図2】図2(a)〜(d)は、本発明の図1の製造手順で各種金属材料をスパッタエッチングした後の金属表面のSIM観察写真である。
【図3】図3(a)および(b)は図1に示した手順でステンレス鋼SUS304鋼板上に形成させた微小突起物の周辺を集束イオンビーム(Ga+)によって加工した後のSIM観察写真であり、図3(c)は一つの突起物をGa+イオンビームによって切断し溝を付けて観察した断面形態を示す図である。
【図4】図4(a)〜(c)は、本発明の図1の製造手順でステンレス鋼SUS430鋼板上に形成させた微小突起物を観察したSIM観察写真である。
【図5】図5(a)〜(d)は、本発明の時効性金属材料表面への微小突起物の形成メカニズムを説明するための図である。
【図6】本発明の実施例2〜5で得られた各金属材料の微小突起物の面分布密度を示す図である。
【図7】本発明の実施例1の試験片の冷却方法を示す図である。
【図8】本発明の実施例1の比較例の試験片の冷却方法を示す図である。
【図9】本発明の実施例1の試験片の表面のSEM観察写真である。
【図10】本発明の実施例1の比較例の試験片の表面のSEM観察写真である。
【図11】図11(a)〜(c)は、本発明の実施例1で得られた試験片の表面のSIM観察写真である。
【図12】本発明の実施例1の突起物の半径と高さの関係を示す図である。
【図13】本発明の実施例1の突起物を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて線分析を行った結果を示す図である。
【図14】図14(a)、(b)は、本発明の実施例1の試験片表面および析出物を含む断面の炭素の面分析結果を示す図である。
【図15】図15(a)〜(c)は、本発明の実施例2の試験片の表面のSIM観察写真である。
【図16】本発明の実施例2の突起物の半径と高さとの関係を示す図である。
【図17】本発明の実施例2の突起物の半径とその割合を示すグラフである。
【図18】図18(a)〜(c)は、本発明の実施例3の試験片の表面のSIM観察写真である。
【図19】本発明の実施例3の突起物の半径と高さとの関係を示す図である。
【図20】本発明の実施例3の突起物の半径とその割合を示すグラフである。
【図21】図21(a)〜(c)は、本発明の実施例4の試験片の表面のSIM観察写真である。
【図22】本発明の実施例4の突起物の半径と高さとの関係を示す図である。
【図23】本発明の実施例4の突起物の半径とその割合を示すグラフである。
【図24】図24(a)〜(c)は、本発明の実施例5の試験片の表面のSIM観察写真である。
【図25】本発明の実施例5の突起物の半径と高さとの関係を示す図である。
【図26】本発明の実施例5の突起物の半径とその割合を示すグラフである。
【図27】本発明の実施例5のスパッタエッチング前後のX線回折分析の結果を示す図である。
【図28】図28(a)、(b)は、本発明の実施例6の試験片の表面のSIM観察写真である。
【符号の説明】
【0077】
1 金属表面
2 炭素
3 炭化物
4 素地
【技術分野】
【0001】
本発明は、時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法、その製造方法によって得られる微小突起物、その微小突起物を備える触媒用担体および接触搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように織布、繊維製品、紙などの搬送には、非接触搬送手段として空気または水などの流体が、接触搬送手段としては各種トラクションローラが用いられている。搬送用のローラでは表面の摩擦力が重要であり、通常摩擦力の大きいゴムが用いられることが多い。しかしゴムローラでは、摩擦、変形による性能劣化が見られることや、液中では摩擦係数が小さいなどの問題がある。
【0003】
これを解決する方法として、金属材料からなる円筒体の外周面に腐蝕溶液を用いたエッチングにより微細な突起を多数形成するグリップローラが提案されている(例えば特許文献1参照)。また金属材料にニッケル、銅などを用いて電鋳法により突起物を有する電鋳膜を形成し、この電鋳膜を回転部材に被せ着ける方法によりグリップローラを得る方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
また、微小な突起物はこれら接触搬送の手段としての利用以外にも、表面積が大きい特性を活かしたとえば触媒の担体として使用することも可能である。
【特許文献1】特開平6−127732号公報
【特許文献2】特開平11−35189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される技術は、金属材料の表面を腐蝕溶液でエッチングすることで微細な突起を形成させるものであるので、突起物自身は金属であり、長時間使用することで磨耗する。また特許文献2の技術は、突起物を有する電鋳膜を用いたグリップローラであるが、この電鋳膜上に形成された突起物自身も金属材料であり、特許文献1と同様、長時間の使用により磨耗することが懸念される。
【0006】
また特許文献1の技術は、レジストを形成させた後、腐蝕溶液を用いてエッチングを行い、最後にレジストを剥離するなどの手順で突起物を形成させるため、突起物の形成に多くの工程を必要とする。同様に、特許文献2の技術は電鋳法により突起物を製作するため、金型の表面にポンチなどを用いて突起に対応した凹部を形成する工程、電鋳工程、分離工程などが必要となるなど、突起物の形成に多くの工程を必要とする。また特許文献2の技術では、突起物の大きさは金属表面に設ける凹部の大きさに依存するため、大きさの異なる突起物を得るためには多くの金型が必要となる。
【0007】
以上のようにグリップローラを含め搬送ローラには、長時間の使用においても磨耗が少ない耐磨耗性を備えるローラが求められている。またその突起物の製造工程が簡単で、また突起物の大きさを制御可能な突起物の製造方法も求められている。ステンレス鋼の鋭敏化処理に際して析出するクロム炭化物は、粒界腐食の原因となるが、クロム炭化物自体は硬くてしかも耐磨耗性に優れている。窒化物を含む金属間化合物も同様である。これら炭化物などからなる微細な突起物を金属材料表面に形成させることができれば、耐磨耗性に優れた搬送ローラまたはマイクロマシンを含む多くの精密機械部品を製造することも可能である。またこれら突起物を備える金属材料は表面積が大きいことから、触媒用坦体としての使用が期待される。
【0008】
本発明の目的は、簡単な方法で微小突起物を形成することが可能な時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法、その製造方法によって得られる微小突起物、その微小突起物を備える触媒用担体および接触搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、時効性金属材料を固溶化熱処理し、析出成分を素地中に溶解させる工程と、
素地中に析出成分を含む化合物が析出しないように該金属材料を冷却しながら該金属材料の表面をスパッタエッチングし、該金属材料の該スパッタエッチング面上に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成する工程とを含み、
該スパッタエッチングはスパッタエッチングする該金属材料の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、該スパッタエッチング速度が該金属材料の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングすることを特徴とする時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0010】
また本発明で、前記析出成分を含む化合物は、炭化物または金属間化合物であることを特徴とする請求項1に記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0011】
また本発明は、前記微小突起物の形状が略円錐の形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0012】
また本発明は、使用する時効性金属材料の材質、スパッタエッチング時の時効性金属材料の冷却温度、スパッタエッチング時間、スパッタエッチングの出力のうち少なくともいずれか1つを制御することにより、微小突起物の大きさ、形状または分布密度を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0013】
また本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法により前記時効性金属材料の表面に前記微小突起物を形成した後、
前記微小突起物より硬い硬質体と前記微小突起物の突起の先端とを衝突させ、前記微小突起物の突起の先端部分を平坦にする工程をさらに含むことを特徴とする前記時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法である。
【0014】
また本発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法により得られる微小突起物である。
【0015】
また本発明は、請求項6に記載の微小突起物を備えることを特徴とする触媒用担体である。
【0016】
また本発明は、請求項6に記載の微小突起物を備えることを特徴とする接触搬送装置である。
【0017】
また本発明で、前記接触搬送装置は、マイクロマシン用歯車であることを特徴とする請求項8に記載の接触搬送装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、時効性金属材料を固溶化熱処理し、析出成分を素地中に溶解させる工程と、素地中に析出成分を含む化合物が析出しないように金属材料を冷却しながら金属材料の表面をスパッタエッチングし、金属材料のスパッタエッチング面上に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成させるので、複雑な工程を経ることなく微小突起物を形成させることができる。また、スパッタエッチングはスパッタエッチングする金属材料の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、スパッタエッチング速度が金属材料の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングするので、微小突起物は素地と一体化しており、素地から容易に剥離することはない。
【0019】
また本発明によれば、析出成分を含む化合物は、炭化物または金属間化合物であるので、硬度が高く耐磨耗性がある。また硬度が高い炭化物または金属間化合物を材料表面に形成させることができるので、材料表面を硬質化させることができる。
【0020】
また本発明によれば、微小突起物の形状が略円錐の形状であるので微小突起物を利用して接触搬送装置を製造することができる。また突起物は微小なので、接触搬送装置としてマイクロマシン用歯車に利用することが可能である。
【0021】
また本発明によれば、使用する時効性金属材料の材質、スパッタエッチング時の時効性金属材料の冷却温度、スパッタエッチング時間、スパッタエッチングの出力のうち少なくもいずれか1つを制御することにより、微小突起物の大きさ、形状または分布密度を制御することが可能なので、所望の大きさ、所望の形状または所望の分布密度を有する微小突起物を得ることができる。
【0022】
また本発明によれば、時効性金属材料の表面に前記微小突起物を形成した後、微小突起物より硬い硬質体と微小突起物の突起の先端とを衝突させ、微小突起物の突起の先端部分を平坦にすることも可能なので、突起物の先端が平坦な突起物を得ることができる。
【0023】
また本発明によれば、金属表面に微小突起物を備えるので金属材料の表面積が広くなる。よってこの突起物を含む金属材料を触媒用担体として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の一形態としての時効性金属材料表面への微小突起物の製造手順を示すフローチャートである。
【0025】
まず時効性金属材料である供試体を固溶化熱処理する(ステップS1)。固溶化熱処理を行うことにより、析出成分を素地中に細かく分散させる。時効性金属材料とは合金であって、合金を一度高温に保持してすべての合金元素を均一に分散させ急冷したのち、ある温度に加熱すると、一部の原子が集まって、別の相を形成する金属を言う。ここで言う別の相とは、炭化物、金属間化合物などもとの結晶構造と異なる結晶構造をもつものを言う。時効性金属材料としては、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金などが該当する。固溶化熱処理は、鋼においては焼き入れとも呼ばれ、合金を一度高温に保持してすべての合金元素を均一に分布させ後、水中に投入するなどして急冷する操作を言う。
【0026】
固溶化熱処理を行った後、供試体である試験片の表面を研磨、脱脂洗浄する(ステップS2)。試験片の表面には一般的に酸化物、さびまたは凹凸が存在するため、これを除去する目的で試験片の研磨を行う。試験片表面に酸化物、凹凸などが存在すると、スパッタエッチングの量が不均一となりやすいが、試験片表面を研磨することで金属材料表面へのスパッタエッチング量を均一にすることができる。また試験片表面に油分などが存在すると、これら油分等がスパッタエッチングより飛散し、試験片、装置等を汚染する場合がある。以上のことから、試験片表面を研磨および洗浄することが望ましい。
【0027】
試験片の研磨は、金属表面の研磨に通常使用される研磨方法を用いて行えばよく、具体的には布などでできた柔らかいバフに、酸化クロム、アルミナなどの砥粒を付着させて研磨するバフ研磨、サンドペーパによる研磨などがある。脱脂洗浄は試験片表面に付着した油分などを除去するもので、洗浄剤には油分を溶解するアセトン、テトラヒドロフランなどの有機溶剤がある。
【0028】
次に研磨の終了した試験片をホルダーに載せスパッタ装置に設置する(ステップS3)。スパッタ装置に設置した試験片はスパッタエッチングを行うにあたり、底面を強制冷却する(ステップS4)。試験片の冷却は試験片を載置したホルダーを、水冷試験台に密接させることで行うことができる。ホルダーを通じて試験片の底面を冷却するので、ホルダーは熱伝達性が高く、厚さも薄い方が望ましい。
【0029】
試験片をスパッタ装置に設置した後、試験片の底面を強制的に冷却しながら冷却面と相対する試験片の表面をスパッタエッチングする(ステップS5)。後述の実施例1(図7参照)のように、試験片の冷却が十分である場合には、スパッタエッチング表面から内部に向かう温度勾配は大きいので、表面近傍でのみ炭化物が析出する。一方、比較例1(図8参照)のように、ホルダーと試料台とが離れている場合には、温度勾配が小さいため、スパッタエッチング表面のみならず素地中に炭化物が析出し、表面近傍に形成された炭化物が内部に向かって安定に成長しにくい。このため、エッチング時間の増加とともに、素地が優先的にエッチングされると、炭化物が脱落する。
【0030】
またスパッタエッチングはスパッタエッチングする試験片の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、スパッタエッチング速度が試験片の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングを行う必要がある。これにより試験片表面に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成することができる。
【0031】
スパッタエッチング装置は、スパッタエッチングする試験片の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、スパッタエッチング速度が試験片の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチング可能な装置であれば、装置の形式は特に限定されない。具体的にはマグネトロンスパッタ装置を用いることができる。またスパッタに用いる気体としては、通常スパッタエッチングで使用されるアルゴンガスを、またスパッタ圧力もスパッタエッチングで通常使用される圧力でよい。以上のように比較的簡単な手順、操作で金属材料表面に微小突起物を形成させることができる。
【0032】
試験片表面に形成された微小突起物の一例を図2(a)〜図2(d)に示す。図2(a)〜図2(d)は図1に示した手順で各種金属材料を所定の時間スパッタエッチングした後の金属表面の走査型イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope(SIM))写真である。
使用した試験片は、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、フェライト系ステンレス鋼SUS430、合金工具鋼SKD5および低合金Cr−Mo鋼SCM435の4種類である。図2(a)〜図2(d)から分かるように金属材料表面に微小突起物が形成されている。微小突起物は、金属の種類によらず、突起の先端が細く素地に向かって太い円錐状の形状を有する。微小突起物の大きさに分布はあるものの、形状はどの突起物もほぼ円錐状である。
【0033】
図3(a)および(b)は図1に示した手順でステンレス鋼SUS304鋼板上に形成させた微小突起物の周辺を集束イオンビーム(Ga+)によって加工した後の表面写真であり、図3(c)は一つの突起物をGa+イオンビームによって切断し溝を付けて観察した断面形態である。同様に図4(a)〜図4(c)は、図1に示した手順でステンレス鋼SUS430鋼板上に形成させた微小突起物の周辺を集束イオンビーム(Ga+)によって加工した後の表面写真である。図3(a)から金属表面に形成させた微小突起物は、加工時間が長い場合(t=2.04ks)であっても、素地と一体的に形成されていることがわかる。ステンレス鋼SUS430鋼板でも加工時間t=0.748ksで、微小突起物は素地と一体化していることがわかる(図4(a))。以上のように微小突起物は、素地から容易に脱落しない構造を有していることが分かる。
【0034】
また金属表面に形成される微小突起物は析出成分を含む金属間化合物である。具体的にはTiC、CrxCyなどの炭化物、TiNxなどの窒化物、Ni−Al金属間化合物、Ni―Tiなどの金属間化合物が該当する。後述の実証データ(図13)に示すように炭素を含む鋼の場合は、炭化物が析出する。また炭化物を利用しない析出硬化型の鋼、たとえば析出硬化型ステンレス鋼ではNi−Al金属間化合物、マルエージング鋼では、Ni−Ti,Ni−Alなどの微細な金属間化合物も析出する。他の析出硬化型の合金たとえばアルミニウム合金などでも、MgZn2が析出する。
【0035】
時効性金属材料表面への微小突起物の形成メカニズムは次のように考えられる。図5(a)〜図5(d)は、時効性金属材料表面への微小突起物の形成メカニズムを説明するための図である。ステンレス鋼を823〜1023K(鋭敏化温度域)に加熱すると、固溶炭素が粒内の欠陥や粒界へ拡散し、そこでクロムと結合してクロム炭化物を形成することはよく知られている。ステンレス鋼板をスパッタエッチングすると、スパッタエッチングによる表面温度の上昇と空孔の導入によって、図5(a)に示すように、表面1または粒界への炭素2の拡散が促進され、クロム炭化物3が表面近傍に析出する。
【0036】
Ar+によるスパッタ率は硬い炭化物3より素地4の方が高いため、素地4の表面原子が優先的に削られ、図5(b)のように、球状の炭化物3が表面1に現れる。この炭化物3の表面原子もある速度でスパッタされるが、スパッタ率は、炭化物表面に対するスパッタ粒子の入射角(入射方向と表面法線とのなす角)に依存し、ある角度で極大値をとる。たとえば、SiおよびGeのスパッタ率は、Ar+(500eV)の入射角の増加につれて増加し、70−80°で最大となり、さらに入射角が増加すると、スパッタ率が急激に減少する(日本表面科学会編:薄膜技術,培風館,1999,P39−40)。したがって球状炭化物3の表面のうち、スパッタ効率が最大となる入射角で優先的にスパッタが生じ、図5(c)のように円錐状になるものと考えられる。
【0037】
一方、スパッタ時間の増加に伴って、図5(d)のように素地表面1は優先的にスパッタされるが、素地4から表面炭化物3に炭素2が供給され続けて、炭化物3は表面に平行な方向(水平)方向にも、厚さ方向にも成長する。もし、素地4のスパッタ速度が炭化物3の深さ方向の成長速度を超えないならば、炭化物3が表面から脱落することはない。
【0038】
次に微小突起物の用途について説明する。
【0039】
上記のように微小突起物は突起物の先端が鋭利な円錐体であり、また炭化物など析出成分を含む金属間化合物であることから硬く耐磨耗性を有する。炭化物のビッカース硬さは10〜30GPa程度であり素地の数倍の値である。これら特性を活かし、微小突起物を耐磨耗性に優れた接触搬送手段として利用することができる。たとえば従来から使用されているようなグリップローラに使用できる。また突起物は後述の実証データ(図12、16、19、22、25)で示すように数ミクロンの大きさであるので、突起物をマイクロマシン用の歯車に利用することも可能である。
【0040】
また金属材料表面に形成される突起物は円錐の形状を有しているので、金属材料表面に微小突起物が形成させることで、金属表面の表面積は表面が平坦な金属材料に比較して非常に大きくなる。たとえば、直径1μmで、高さが4μmの円錐体の幾何学的表面積(底面の面積を除く)は、直径1μmの円と比較して計算上4倍以上の表面積を有する。この表面積が大きいことを活かし、微小突起物を有する金属材料を触媒の担体として使用することができる。
【0041】
次に微小突起物の形状を変更させる方法について説明する。
【0042】
微小突起物は炭化物など金属間化合物であり、硬さが高い点に特徴があるが、形状を変化させることは可能である。実証データ(図28(a)、図28(b))に示すように、金属材料の表面に形成させた微小突起物の先端をガラス板に繰り返し衝突させることで、先端部を平坦化することができる。以上のような操作により、必要に応じて突起物の先端が平坦な突起物を得ることができる。
【0043】
次に微小突起物の大きさ、分布密度の制御方法について説明する。
【0044】
微小突起物は、使用する金属材料の材質、またはスパッタエッチングの操作条件を制御することで、微小突起物の大きさ、形状または分布密度を制御することが可能である。スパッタエッチングの操作条件にはスパッタエッチングのエッチング時間、エッチングの出力、スパッタエッチング時の金属材料の冷却速度などがある。
【0045】
微小突起物の大きさ、分布密度は、使用する金属材料の材質によって大きく異なる。図6は後述の実施例2〜5で得られた各金属材料の微小突起物の面分布密度を示す図である。使用した金属材料は、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、フェライト系ステンレス鋼SUS430、低合金Cr−Mo鋼SCM435および合金工具鋼SKD5の4種類である。なお予め固溶化熱処理をして使用したことは言うまでもない。
【0046】
微小突起物の面分布密度は金属材料によって大きく異なり、微小突起物の数は1平方メートル当たりステンレス鋼SUS304鋼板、ステンレス鋼SUS430鋼板では4〜5×1012個、合金工具鋼SKD5では25〜70×1012個であった。低合金Cr−Mo鋼SCM435では、微小突起物の数は3〜25×1012個であった。オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、フェライト系ステンレス鋼SUS430では、エッチング時間に対して面分布密度がほぼ一定であるのに対して、合金工具鋼SKD5ではエッチング時間とともに面分布密度が増加している。また低合金Cr−Mo鋼SCM435では、エッチング時間に対して面分布密度が増加した後減少している。
【0047】
また後述の実証データ(図17、20、23、26)で示すように金属材料の材質により微小突起物の大きさも異なった。スパッタエッチング時間28.8ksで、各金属材料表面に形成させた突起物の大きさを対比してみると、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304では、円錐体の底面の半径(以下半径と略す)が0.8〜1.2μmの大きさの突起物が50%以上であるのに対して、フェライト系ステンレス鋼SUS430では、歯半径0.4μm以下の大きさの突起物が約80%、低合金Cr−Mo鋼SCM435および合金工具鋼SKD5では、半径0.8〜1.2μmの大きさの突起物はほとんど見られない。以上のように使用する材料により面分布密度、大きさが大きく異なることから、金属材料を適切に選定することで、所望の分布密度または大きさを有する突起物を得ることができる。
【0048】
微小突起物はスパッタエッチングのエッチング時間によって、面分布密度または大きさが異なる。スパッタエッチング時間と面分布密度との関係は図6に示した通りである。スパッタエッチング時間と微小突起物の大きさとの関係は、使用する金属材料で挙動が異なる。後述の実証データ(図17、図20)で示すように、ステンレス鋼板の場合は、スパッタエッチング時間経過とともに、半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が減少し、半径1μm程度の大きい突起物の割合が増加している。
【0049】
これに対して実証データ(図23)で示す低合金Cr−Mo鋼SCM435、および実証データ(図26)に示す合金工具鋼SKD5では、半径が略0.4μm以下の円錐体が大部分を占め、スッパタエッチング時間を変化させてもその大きさにほとんど変化はみられない。以上のように金属材料にステンレス鋼を使用すると、スパッタエッチング時間によって微小突起物の大きさが変化することから、スパッタエッチング時間を制御することによって、所望の大きさまたは分布密度を有する微小突起物を得ることができる。
【0050】
微小突起物の大きさまたは分布密度は、上記のように金属材料の材質またはスッパタエッチングのエッチング時間によって異なるが、突起物の形状は円錐状でありこれら金属材料の材質またはスッパタエッチングのエッチング時間によらずほぼ一定である。実証データ(図16)にオーステナイト系ステンレス鋼SUS304の表面に形成した微小突起物の底面の半径と高さの関係を示す。スパッタエッチング時間によらず微小突起物はほぼ円錐の形状を有している。
【0051】
円錐体の半径によらず、高さと半径との比であるアスペクト比がほぼ一定であることから、突起物の水平方向の成長速度、入射角0°における突起物と素地のスパッタ速度がアスペクト比を決める因子であり、(素地のスパッタ速度)/(炭化物のスパッタ速度)(炭化物の水平方向成長速度)が大きいほど、円錐体のアスペクト比が大きくなると思われる。これは素地のスパッタ(削り)速度が大きいほど、また突起物のスパッタ速度が小さいほど、表面に露出される部分の高さhは高くなる。また、突起物は垂直方向のみならず水平方向にも成長するので、突起物の水平方向の半径rは、その方向での成長速度に比例することによるものである。以上のことからスパッタエッチングによる表面温度、温度勾配を制御することでも突起物の大きさなどを制御することが可能と思われる。
【0052】
金属材料の表面温度を制御する因子としては、スパッタエッチングの出力、使用する気体またはスパッタ圧力などがある。スパッタエッチングの出力によって、突起物の形状(アスペクト比)を変化させることが可能なことは、後述の実証データからも裏付けられている。突起物の形状アスペクト比は、スパッタエッチングの出力が大きいほど大きい値となる。スパッタエッチング出力250Wでアスペクト比2.8(実証データ図12)であるのに対して、スパッタエッチング出力600Wではアスペクト比が3.2〜3.7(実証データ図16、19、22、25)であった。
【実施例1】
【0053】
次に、本発明の実施例を示す。
【0054】
試験片には市販のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼板を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横10mm×厚さ1.5mmの大きさで予め溶体化処理済みである。鋼板の化学成分を表1に示す。
【0055】
【表1】
この試験片の表面をアルミナ粉末(平均粒子径0.06μm)でバフ研磨した後、アセトン溶液中で超音波脱脂洗浄した。試験片を厚さ1mmのアルミニウム製のホルダーに載せ、高周波マグネトロンスパッタ装置(最大高周波出力800W)に設置した。このとき、図7に示すように試験片10を載置したホルダー11は、水冷試料台12に直接接触させホルダー11の底面を強制的に冷却した。水冷試料台12は、冷却水13、14を通じることで行った。次に真空槽内の圧力を約0.006Paにした後、約6.7Paのアルゴンガス(純度99.999%)を導入しながらスパッタエッングを行った。
【0056】
スパッタエッチング後の試験片表面および断面形態を、走査型電子顕微鏡SEM(Scanning Electron Microscope)および集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam(FIB)system、seiko instruments inc.製 SMI9200D)の走査型イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope(SIM))を用いて観察した。また、FIBを用いて表面析出物に溝を付け、その断面をSIMで観察した。析出成分の成分分析には、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA、日本電子株式会社製 JXA―8900)を用いた波長分散型X線分光分析(Wave Dispersive X−ray Spectroscopy:WDS)を使用した。
【比較例1】
【0057】
比較例では、図8に示すように試験片10を載置したホルダー11は水冷試料台12に直接接触させることなく金属パッド15を介して載置した。水冷試料台12の冷却は、冷却水13、14を通じることで行った。よって本願発明の実施例1に比較して試験片10の底面16の温度は高い。冷却方法以外の手順、方法などは比較例1と実施例1とで同一である。
【0058】
(実施例1および比較例1の結果)図9(a)および(b)は、実施例1としてスパッタエッチング装置の出力を250W(プレート電流:約0.15A)に設定し、アルゴンイオンにより試験片表面を14.4ks間スパッタエッチングしたときの、試験片の表面をSEMで観察した写真である。最大直径約0.8μmの円形粒子が多数観察された。粒子は粒界に多く析出していた。この析出物はスパッタエッチングにより脱落している様子は見られなかった。一方比較例で示した実験条件、つまり試験片の底面の冷却が不十分な場合は、図10に示すように析出物の脱落によって生じた直径が1μm以下の穴が多く観察された。
【0059】
図11(a)〜図11(c)は、実施例1で得られた試験片の表面を走査型イオン顕微鏡で観察したときの写真である。図11(a)は、イオンビームと試料表面法線とのなす角(傾斜角)αを0°にして観察した画像であり、図11(b)はαを60°にして観察した画像である。図11(b)により多数の円錐状析出物が形成されていることがわかる。図11(c)は一つの円錐状析出物をGa+イオンビームによって切断して溝を付け、α=60°の傾斜角で観察した図である。円錐状析出物は素地と一体となっていることがわかる。
【0060】
図12は実施例1の析出物の半径(r)と高さ(h)の関係を示したものである。各析出物の高さ(h)は、図11(b)上の測定高さ(h‘)から、h=h’/sin60°により求めた。これによると円錐状析出物の最小寸法は、高さhが約0.27μm、半径rが0.08μmで、最大寸法は高さhが約2.3μm、半径rが0.8μmであった。その高さhと半径rとの比であるアスペクト比は、析出物の大小に関らず約2.8であった。多くの析出物の寸法を測定した結果、半径0.7μm以上のものが最も多かった。
【0061】
図13は、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて実施例1の析出物の線分析を行った結果を示す図である。析出物上では炭素およびクロムの量が多く、鉄、ニッケルの量が少なかった。図14(a)、図14(b)は、試験片の表面および析出物を含む断面の炭素の面分析結果を示す図である。図13および図14(a)、図14(b)から円錐状析出物はクロム炭化物であることがわかった。図14(b)により表面から炭化物が突出した部分のみならず、約0.5μmの深さにも炭素が集中していることがわかる。炭化物は素地から常に炭素の供給を受けながら成長していたことを示唆している。
【実施例2】
【0062】
試験片には市販のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼板を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横10mm×厚さ1.5mmの大きさで予め溶体化処理済みである。スパッタエッチングの出力は600Wで行った。その他の条件は実施例1と同一である。
【0063】
(実施例2の結果)図15(a)〜図15(c)は、試験片の表面をSIMで観察した写真である。実施例1と同様円錐形状の突起物が形成されていた。図16は微小突起物である円錐体の半径と高さとの関係を示す図である。実施例1と同様とスパッタエッチング時間によらず同一の形状であり、アスペクト比は3.2であった。突起物の最大半径は約1.5μmであった。図17はスパッタエチング時間をパラメータに突起物の半径とその割合を示すグラフである。スパッタエッチング時間経過とともに、半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が減少し、半径1μm程度の大きい突起物の割合が増加した。スパッタエッチング時間7.2ksでは、半径0.8μm以上の突起物は見られなかった。スパッタエッチング時間28.8ksでは、半径1.2μm以上の半径を有する突起物の個数割合が10%以上を占めた。
【実施例3】
【0064】
試験片には市販のフェライト系ステンレス鋼SUS430鋼板を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横10mm×厚さ1.5mmの大きさで予め溶体化処理済みである。スパッタエッチングの出力は600Wで行った。その他の条件は実施例1と同一である。
【0065】
(実施例3の結果)図18(a)〜図18(c)は、試験片の表面をSIMで観察した写真である。実施例1と同様円錐形状の突起物が形成されていた。図19は微小突起物である円錐体の半径と高さとの関係を示す図である。実施例1と同様とスパッタエッチング時間によらず同一の形状であり、アスペクト比は3.7であった。オーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼板と比較すると、突起物の大きさが全体的に小さい傾向が見られた。図20はスパッタエチング時間をパラメータに突起物の半径とその割合を示すグラフである。スパッタエッチング時間経過とともに、半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が減少し、半径1μm程度の大きい突起物の割合が増加した。ただしスパッタエッチング時間28.8ksにおいても、半径0.4μm以下の突起物の個数割合が80%以上を閉めており、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼板と比べ小さい突起物の割合が多い。
【実施例4】
【0066】
試験片には市販の低合金Cr−Mo鋼SCM435を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横5mm×厚さ2mmの大きさで予め溶体化処理済みである。スパッタエッチングの出力は600Wで行った。その他の条件は実施例1と同一である。
【0067】
(実施例4の結果)図21(a)〜図21(c)は、試験片の表面をSIMで観察した写真である。実施例1と同様円錐形状の突起物が形成されていた。図22は微小突起物である円錐体の半径と高さとの関係を示す図である。実施例1と同様とスパッタエッチング時間によらず同一の形状であり、アスペクト比は3.7であった。実施例2または実施例3のステンレス鋼板の表面に形成した突起物の大きさと比較すると、突起物の大きさが小さい。突起物の最大半径は約0.8μmと実施例2または実施例3のステンレス鋼板のほぼ半分の大きさであった。
【0068】
図23はスパッタエチング時間をパラメータに突起物の半径とその割合を示すグラフである。スパッタエッチング時間によらず半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が95%以上であった。スパッタエッチング時間が28.8ksにおいても、半径0.8μmを超える突起物は見られなかった。
【実施例5】
【0069】
試験片には市販の合金工具鋼SKD5を使用した。試験片の大きさは縦10mm×横5mm×厚さ2mmの大きさで予め溶体化処理済みである。スパッタエッチングの出力は600Wで行った。その他の条件は実施例1と同一である。
【0070】
(実施例5の結果)図24(a)〜(c)は試験片の表面をSIMで観察した写真である。実施例1と同様円錐形状の突起物が形成されていた。図25は微小突起物である円錐体の半径と高さとの関係を示す図である。実施例1と同様とスパッタエッチング時間によらず同一の形状であり、アスペクト比は3.7であった。実施例2または実施例3のステンレス鋼板の表面に形成した突起物の大きさと比較すると、突起物の大きさは50%程度である。また、実施例4の低合金Cr−Mo鋼SCM435と比較しても、突起物の大きさは小さい傾向であった。
【0071】
図26はスパッタエチング時間をパラメータに突起物の半径とその割合を示すグラフである。スパッタエッチング時間によらず半径0.4μm以下の小さい突起物の割合が約98%以上であった。スパッタエッチング時間が28.8ksにおいても、半径0.8μmを超える突起物は見られなかった。
【0072】
図27はスパッタエッチング前後のX線回折分析の結果を示す図である。スパッタエッチングした試験片は、スパッタエッチング前の試験片に比較して炭化物のピークが高くなっており、スパッタエッチングによって新たに表面で炭化物が生成することが伺える。スパッタエッチングにより紙片片の表面に生成した炭化物は、主にWC、(FeW)6Cおよび(FeW)3Cであることがわかる。
【実施例6】
【0073】
実施例2のステンレス鋼板の表面に形成させた突起物の先端を、次の操作を行い平坦化させた。
【0074】
イオン交換水を入れたガラス容器に、突起物の先端がガラス容器の底部と当接するように設定した。ガラス容器を超音波洗浄器内に設置し、試験片に10分間超音波を与えた。材料を取り出しドライヤーによって熱風乾燥させた。
【0075】
(実施例6の結果)図28(a)、図28(b)は、試験片の表面をSIMで観察した写真である。突起物の先端が平坦になっていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の一形態としての時効性金属材料表面への微小突起物の製造手順を示すフローチャートである。
【図2】図2(a)〜(d)は、本発明の図1の製造手順で各種金属材料をスパッタエッチングした後の金属表面のSIM観察写真である。
【図3】図3(a)および(b)は図1に示した手順でステンレス鋼SUS304鋼板上に形成させた微小突起物の周辺を集束イオンビーム(Ga+)によって加工した後のSIM観察写真であり、図3(c)は一つの突起物をGa+イオンビームによって切断し溝を付けて観察した断面形態を示す図である。
【図4】図4(a)〜(c)は、本発明の図1の製造手順でステンレス鋼SUS430鋼板上に形成させた微小突起物を観察したSIM観察写真である。
【図5】図5(a)〜(d)は、本発明の時効性金属材料表面への微小突起物の形成メカニズムを説明するための図である。
【図6】本発明の実施例2〜5で得られた各金属材料の微小突起物の面分布密度を示す図である。
【図7】本発明の実施例1の試験片の冷却方法を示す図である。
【図8】本発明の実施例1の比較例の試験片の冷却方法を示す図である。
【図9】本発明の実施例1の試験片の表面のSEM観察写真である。
【図10】本発明の実施例1の比較例の試験片の表面のSEM観察写真である。
【図11】図11(a)〜(c)は、本発明の実施例1で得られた試験片の表面のSIM観察写真である。
【図12】本発明の実施例1の突起物の半径と高さの関係を示す図である。
【図13】本発明の実施例1の突起物を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて線分析を行った結果を示す図である。
【図14】図14(a)、(b)は、本発明の実施例1の試験片表面および析出物を含む断面の炭素の面分析結果を示す図である。
【図15】図15(a)〜(c)は、本発明の実施例2の試験片の表面のSIM観察写真である。
【図16】本発明の実施例2の突起物の半径と高さとの関係を示す図である。
【図17】本発明の実施例2の突起物の半径とその割合を示すグラフである。
【図18】図18(a)〜(c)は、本発明の実施例3の試験片の表面のSIM観察写真である。
【図19】本発明の実施例3の突起物の半径と高さとの関係を示す図である。
【図20】本発明の実施例3の突起物の半径とその割合を示すグラフである。
【図21】図21(a)〜(c)は、本発明の実施例4の試験片の表面のSIM観察写真である。
【図22】本発明の実施例4の突起物の半径と高さとの関係を示す図である。
【図23】本発明の実施例4の突起物の半径とその割合を示すグラフである。
【図24】図24(a)〜(c)は、本発明の実施例5の試験片の表面のSIM観察写真である。
【図25】本発明の実施例5の突起物の半径と高さとの関係を示す図である。
【図26】本発明の実施例5の突起物の半径とその割合を示すグラフである。
【図27】本発明の実施例5のスパッタエッチング前後のX線回折分析の結果を示す図である。
【図28】図28(a)、(b)は、本発明の実施例6の試験片の表面のSIM観察写真である。
【符号の説明】
【0077】
1 金属表面
2 炭素
3 炭化物
4 素地
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時効性金属材料を固溶化熱処理し、析出成分を素地中に溶解させる工程と、
素地中に析出成分を含む化合物が析出しないように該金属材料を冷却しながら該金属材料の表面をスパッタエッチングし、該金属材料の該スパッタエッチング面上に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成する工程とを含み、
該スパッタエッチングはスパッタエッチングする該金属材料の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、該スパッタエッチング速度が該金属材料の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングすることを特徴とする時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項2】
前記析出成分を含む化合物は、炭化物または金属間化合物であることを特徴とする請求項1に記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項3】
前記微小突起物の形状が略円錐の形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項4】
使用する時効性金属材料の材質、スパッタエッチング時の時効性金属材料の冷却温度、スパッタエッチング時間、スパッタエッチングの出力のうち少なくともいずれか1つを制御することにより、微小突起物の大きさ、形状または分布密度を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法により前記時効性金属材料の表面に前記微小突起物を形成した後、
前記微小突起物より硬い硬質体と前記微小突起物の突起の先端とを衝突させ、前記微小突起物の突起の先端部分を平坦にする工程をさらに含むことを特徴とする前記時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法によって得られる微小突起物。
【請求項7】
請求項6に記載の微小突起物を備えることを特徴とする触媒用担体。
【請求項8】
請求項6に記載の微小突起物を備えることを特徴とする接触搬送装置。
【請求項9】
前記接触搬送装置は、マイクロマシン用歯車であることを特徴とする請求項8に記載の接触搬送装置。
【請求項1】
時効性金属材料を固溶化熱処理し、析出成分を素地中に溶解させる工程と、
素地中に析出成分を含む化合物が析出しないように該金属材料を冷却しながら該金属材料の表面をスパッタエッチングし、該金属材料の該スパッタエッチング面上に析出成分を含む化合物の微小突起物を形成する工程とを含み、
該スパッタエッチングはスパッタエッチングする該金属材料の表面近傍の温度が析出成分を含む化合物の析出温度域となるようにエッチングするとともに、該スパッタエッチング速度が該金属材料の析出成分を含む化合物の深さ方法の成長速度を超えない範囲でエッチングすることを特徴とする時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項2】
前記析出成分を含む化合物は、炭化物または金属間化合物であることを特徴とする請求項1に記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項3】
前記微小突起物の形状が略円錐の形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項4】
使用する時効性金属材料の材質、スパッタエッチング時の時効性金属材料の冷却温度、スパッタエッチング時間、スパッタエッチングの出力のうち少なくともいずれか1つを制御することにより、微小突起物の大きさ、形状または分布密度を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法により前記時効性金属材料の表面に前記微小突起物を形成した後、
前記微小突起物より硬い硬質体と前記微小突起物の突起の先端とを衝突させ、前記微小突起物の突起の先端部分を平坦にする工程をさらに含むことを特徴とする前記時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の時効性金属材料表面への微小突起物の製造方法によって得られる微小突起物。
【請求項7】
請求項6に記載の微小突起物を備えることを特徴とする触媒用担体。
【請求項8】
請求項6に記載の微小突起物を備えることを特徴とする接触搬送装置。
【請求項9】
前記接触搬送装置は、マイクロマシン用歯車であることを特徴とする請求項8に記載の接触搬送装置。
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図18】
【図21】
【図24】
【図28】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図18】
【図21】
【図24】
【図28】
【公開番号】特開2006−63390(P2006−63390A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247363(P2004−247363)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月20日 社団法人日本金属学会発行の「日本金属学会誌 第68巻 第8号」に発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月20日 社団法人日本金属学会発行の「日本金属学会誌 第68巻 第8号」に発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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