説明

暖房便座

【課題】 便座を暖房するための発熱量を十分に確保し、便座を短時間で所望する温度に加熱することができ、高周波磁界の漏洩がなく、かつ便座の軽量化も実現できる暖房便座を提供する。
【解決手段】 セラミック磁性体からなる発熱体7をドーナツ状に樹脂成形された便座1の裏面に塗布するとともに、発熱体7を加熱する高周波磁界を有心コイル11による電磁誘導作用によって発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省電力かつ即暖性を実現することのできる暖房便座に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、暖房便座としては、磁性ステンレス等の金属板を便座内部に配置して、これを誘導加熱することにより、便座を暖めるものが提案されている(特開平8−71019)。
【0003】
当該暖房便座の提案によれば、図5に示すように、高周波電流発生手段101から高周波電流が便器102の上面内部に設けている加熱コイル103に供給される。加熱コイル103は、この高周波電流を受けて高周波磁界を発生し、この高周波磁界は、便座104内に設けている金属板105を誘導加熱する。
【0004】
金属板105が誘導加熱されることにより、これを内部に収納する便座104は短時間で加熱され、利用者は当該便座104を快適に使用することができる。つまり、図5に示す暖房便座は、使用時に通電するだけで、充分快適に使用することのできる即暖性の高い暖房便座を提供することができる。
【0005】
しかし、上記構成の暖房便座においては、便座104の内部に磁性ステンレス等の金属板105を配置する構成であるので、便座104の樹脂成形時に金属板105を一体に成形することが難しいばかりか、重量が重くなるといった問題点があった。
【0006】
また、上記構成の暖房便座においては、加熱コイル103が空芯コイルであるので発生する高周波磁界の磁路は閉回路となっておらず、当該暖房便座の周囲に磁束が漏洩し、WHO(世界保健機構)の定める人の健康を害しない最低磁界を越える恐れがある。
【0007】
一体成形と重量の問題を解消する技術として、下記文献1に示す発明が提案されている。つまり、図6に示すように、便座111の内部に電磁誘導による加熱用励磁コイル112が配設されており、加熱用励磁コイル112はインバータ電源113に接続されている。
【0008】
114は加熱用励磁コイル112による電磁誘導によって加熱される電磁誘導発熱体であり、当該発熱体114は、ポリプロピレンに導電性を有する磁性体物質である金属、例えば、鉄粉や磁性ステンレスを混合して形成されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−184994号公報
【0009】
当該発明によれば、電磁誘導発熱体114を磁性ステンレスなどの金属板を使用する方法に比べて、暖房便座の製造時に便座111の成形がしやすく、また、便座111を軽量化することが可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
然るに、上記構成の暖房便座は、ポリプロピレンに鉄粉または磁性ステンレスを混合して発熱体114を形成するものであるため、当該材料の電気抵抗は非常に大きく、発生する渦電流は非常に少なくなり、便座111の発熱量が少なくなってしまう問題点があった。
【0011】
これは、前記発熱体114が渦電流損発熱ではなくヒステリシス損発熱であると考えられ、ヒステリシス損発熱は一般に渦電流損よりも小さくなることに起因するものである。
【0012】
また、ヒステリシス損発熱の発熱量は発熱体の体積に比例するが、発熱体となる鉄粉または磁性ステンレスの体積が当該暖房便座の体積に比して少ないことも発熱量が少なくなる原因である。
【0013】
さらに、粉末磁性体の個々の磁性粒子はほとんど孤立しているので、加熱コイルの高周波磁界と反対方向に、磁性粒子の表面磁極による反磁界が発生し、個々の磁性粒子にかかる磁界を減ずるという負の効果がある。
【0014】
したがって、上記発明によれば、便座を瞬時に所望する温度まで加熱することが難しく、便座の利用者の便宜上、好ましいものであるとは言い難かった。
【0015】
また、当該文献1の発明も、加熱用励磁コイル112が空芯であるために、漏洩高周波磁界の人体への有害性を回避できないという問題がある。
【0016】
そこで、本発明は、斯かる問題点を解決するべく、便座を暖房するための発熱量を十分に確保し、便座を短時間で所望する温度に加熱することができ、高周波磁界の漏洩がなく、かつ便座の軽量化も実現することのできる暖房便座を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1記載の発明は、制御部内に誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに交流電力を供給するインバータと、前記誘導加熱コイルによって発生する磁束の磁路を形成するコアを収容し、前記コアから放射される磁束の磁界が鎖交する発熱体をセラミック磁性体として樹脂成形された便座裏面に塗布し、当該発熱体を交流磁界による誘導加熱によって短時間で暖めるように構成した。
【発明の効果】
【0018】
本件発明によれば、セラミック磁性体からなる発熱体を樹脂成形された便座の裏面に塗布することにより、当該発熱体を介して前記便座を加温する構成であるので、従来例のように、ポリプロピレンに鉄粉や磁性ステンレス等を混合した発熱体を利用する場合と比較しても便座の軽量化を実現できる。
【0019】
また、前記セラミック発熱体は電気抵抗が大きく、ヒステリシス損発熱であるが、磁束を鎖交させる誘導加熱コイルは、当該発熱体に交流磁界を鎖交させる構成であるため、磁束の変化量を大きくすることができる。
【0020】
また、セラミック磁性体はドーナツ状であるので、反磁界の発生はなく、誘導交流磁界は減ぜられない。
【0021】
このように、当該発熱体では、発熱量を増大させることが可能となり、結果、発熱効率を向上させることができる。
【0022】
さらに、誘導される高周波磁界の磁路は閉回路であるので、漏洩高周波磁界が著しく減ぜられ、人体に有害な磁界発生を避けることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図1ないし図4を用いて説明する。図1は本発明に係る暖房便座の構成を示す下面図であり、図1において、1は図示しない便器上に設置される便座を示している。
【0024】
該便座1は前方に切れ目を有しない所謂ドーナツ状をなし、その内外の周縁には、図2,3に示すように、利用者の臀部が接触する面(表面)から下向きに延出する周縁壁2を備え、その結果、裏面には所定の凹部3が形成されている。なお、図2は、図1に示す便座1を側方よりみた縦断面図であり、図3は図1に示す便座1を正面よりみた縦断面図である。
【0025】
4は前記便座1の後方に設置され、便座1のヒンジ5を支軸6によって枢着することにより、便座1を便器(図示せず)の上部において開閉自在に取り付けた制御部を示している。
【0026】
7は便座1の凹部3、つまり、便座1の裏面に配置される発熱体であり、例えば、セラミック磁性体を一旦液体状又は半液体状に溶解した後、前記便座1の凹部3に塗布されるものである。
【0027】
8は制御部4内に収納され、発熱体7を加熱する交流磁界発生部であり、例えば、C型に成形した鉄心(以下、コアという)9と、該コア9の継鉄部10に所定巻数巻回された誘導加熱コイル11、および、該誘導加熱コイル11に交流電力を供給するインバータ12によって構成されている。
【0028】
そして、前記コア9の両端開放部は、前記発熱体7に対向する状態で制御部4内に配置されており、当該両端開放部から放射される磁束が発熱体7に確実に鎖交する制御部4内の最適な位置に、揺動不能に取り付けられている。
【0029】
次に、本発明の実施例について説明する。例えば、利用者が便室に入室したことを図示しないセンサによって検知することにより、制御部4内に収容したインバータ12はその駆動を開始し、誘導加熱コイル11に交流電力を供給する。
【0030】
誘導加熱コイル11は、この交流電力を受けてコア9に磁束を発生させる。コア9に発生した磁束は、その両端開放部から制御部4の側壁(便座1と対向する側の面)を通過して、コア9の両端開放部と対向配置される便座1に塗布した発熱体7に交流磁界を発生させる。
【0031】
この交流磁界によって、前記発熱体7は誘導加熱され、利用者が快適と感じる温度まで暖められる。つまり、誘導加熱コイル11による電磁誘導作用によって発熱体7は加熱されるので、従来例(特開2000−184994号)の如く、空芯コイルの励起によって発熱体に磁束を鎖交させる場合と比較して、コア9の存在によってより多くの磁束が発生し、結果、磁束の変化量も増大する。
【0032】
すなわち、本発明は、従来例(特開2000−184994号)と同様、発熱体7がヒステリシス損発熱をするものであるが、前述の如く、本発明の暖房便座は、磁束変化量が大きいので、効率的に発熱体7を加熱することができ、便座1を使用する時にのみインバータ12を駆動するだけで、瞬時に便座1を加温することができる。つまり、即暖性の高い暖房便座を提供することができるのである。
【0033】
また、本発明の暖房便座は、ドーナツ状の便座1の裏面に発熱体(セラミック磁性体)7を塗布する構成であるので、前記発熱体7に反磁界が発生することはなく、発熱体7の発熱効率を向上させることができ、便座1の即暖性をさらに向上させることができる。
【0034】
そのうえ、本発明の暖房便座は、誘導加熱コイル9を巻回するコア9とセラミック磁性体からなる発熱体7によって高周波磁界の磁路の閉回路が形成されるので、漏洩磁界の発生を著しく減少させることができ、利用者に健康被害が及ぶことを確実に防止することができる。
【0035】
しかも、前記発熱体7は、セラミック磁性体を樹脂製の便座1に塗布することによって構成されているので、便座1を非常に軽量に構成することができるとともに、発熱体7を備えた便座1の成形が容易に行い得る。
【0036】
次に、本発明の他の実施例について説明する。図4は本発明の他の実施例を示す暖房便座の下面図である。なお、図4において、図1と同一部材には同一符号を付して、その説明は割愛する。図4に示す暖房便座と図1に示す暖房便座の構成上の相違点としては、便座1と制御部4が一体に構成されている点である。
【0037】
つまり、制御部4を支えるヒンジ13は、図示しない便器の後方位置の上部において、上方へ向けて突出する格好で備えられ、当該ヒンジ13には、便座1と一体となった制御部4を枢支する支軸14が具備されて、制御部4を便座1とともに、図示しない便器の上部において、支軸14を中心に回転自在に枢着される。
【0038】
また、前記制御部4内に収容されるインバータ12への給電は、制御部4から支軸14およびヒンジ13内を通って外部に導出する電力線15によって実現されており、当該電力線15は、制御部4の回転動作によっても断線等の不具合が生じることのないよう一定の弛みを持たせた状態で外部に電源(図示せず)に接続されている。
【0039】
当該第2実施例においても、その技術的効果は、第1実施例と同様、便座1の軽量化、便座1の即暖性、および、漏洩磁界の減少による利用者の安全性確保を確実に実現することができる。
【0040】
以上説明したように、本発明の暖房便座は、即暖性に優れ、かつ、便座の軽量化を実現することができ、さらには、発熱体を備えた便座の成形を容易にした暖房便座の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の暖房便座の構成を示す下面図である。
【図2】前記暖房便座を側方よりみた縦断面図である。
【図3】前記暖房便座を正面よりみた縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施例における暖房便座の構成を示す下面図である。
【図5】従来の暖房便座の構成を示す正面図である。
【図6】従来の暖房便座の構成を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 便座
2 周縁壁
3 凹部
4 制御部
5,13 ヒンジ
6,14 支軸
7 発熱体
8 交流磁界発生部
9 鉄心(コア)
10 継鉄部
11 誘導加熱コイル
12 インバータ
15 電力線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部内に誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに交流電力を供給するインバータと、前記誘導加熱コイルによって発生する磁束の磁路を形成するコアを収容し、前記コアから放射される磁束の磁界が鎖交する発熱体をセラミック磁性体として、樹脂成形された便座裏面に塗布して構成することにより、当該発熱体を交流磁界による誘導加熱によって短時間で暖めるようにしたことを特徴とする暖房便座。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−125241(P2010−125241A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305800(P2008−305800)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000116666)愛知電機株式会社 (93)
【出願人】(391061576)
【Fターム(参考)】