説明

暖房便座

【課題】 複雑な三次元曲面形状の便座躯体への貼り付けが可能な面状ヒータを備え、全面が温かい暖房便座を提供する。
【解決手段】 暖房便座10は、便座躯体20と、便座躯体20に貼り付けされ便座躯体20を温める面状ヒータ30と、を備え、面状ヒータ30は、絶縁シート32と、絶縁シート32に抵抗体塗料が放射状に印刷されて形成される複数の帯状発熱体33と、帯状発熱体33の上に絶縁塗料が印刷されて形成される絶縁塗料層34と、絶縁塗料層34の上に帯状発熱体33に沿って導電塗料が放射状に印刷されて形成され帯状発熱体33の端部と接合される複数の放射状給電線35と、複数の放射状給電線35を接続するように導電塗料が印刷されて形成される接続線36と、帯状発熱体33、放射状給電線35及び接続線36を避けて放射状に形成される複数の切り込み31と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房便座に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の暖房便座は、熱可塑性樹脂材料を真空成形して得られた便座外殻と、便座外殻の内面に塗布された導電性塗料層と、導電性塗料層を被覆する熱可塑性樹脂材料の射出成形による裏打ち層とを有する。まず、熱可塑性樹脂材料よりなるシートに導電性塗料を塗布し、導電性塗料層を便座外殻の内側に向けて真空成形し、便座外殻に形成する。真空成形に際し、外部から電流を供給するため、導電性の通電部材を付設する。次いで、導電性塗料層の全域を被覆するように熱可塑性樹脂材料を射出成形して便座裏打ち層を形成する。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、従来の暖房便座は、便座の内部に大きな正の抵抗温度係数を有する面状ヒータを設けてなる。面状ヒータはカーボンヒータよりなり、便座の上面に密着して取り付けられる(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】実開昭55−133900号公報
【特許文献2】特開昭59−218131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の暖房便座では、導電性塗料を塗布された熱可塑性樹脂材料のシートを複雑な三次元曲面形状の便座躯体へ貼り付けることが難しい。シートを複雑な形状の便座躯体へ貼り付けるためには、シートに切り込みを入れる必要があるが、導電性塗料の層に切り込みを入れると、導電性塗料の層が露出するため、漏電する恐れがある。また、切り込みを入れると導電性塗料の層が露出するため、水分の付着や空気酸化により、導電性塗料の層に腐食を生じる恐れがある。
【0005】
また、特許文献2の暖房便座では、大きな正の抵抗温度係数を有する面状ヒータを複雑な三次元曲面形状の便座躯体へ貼り付けることが難しい。面状ヒータを複雑な形状の便座躯体へ貼り付けるためには、面状ヒータに切り込みを入れる必要があるが、面状ヒータに切り込みを入れると、導電性のある部分が露出するため、漏電する恐れがある。また、切り込みを入れると、水分の付着や空気酸化により、腐食を生じる恐れがある。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、複雑な三次元曲面形状の便座躯体への貼り付けが可能な面状ヒータを備え、全面が温かい暖房便座を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、便座躯体と、前記便座躯体に貼り付けされ前記便座躯体を温める面状ヒータと、を備えた暖房便座であって、前記面状ヒータは、絶縁シートと、前記絶縁シートに抵抗体塗料が放射状に印刷されて形成される複数の帯状発熱体と、前記帯状発熱体の上に絶縁塗料が印刷されて形成される絶縁塗料層と、前記絶縁塗料層の上に前記帯状発熱体に沿って導電塗料が放射状に印刷されて形成され前記帯状発熱体の端部と接合される複数の放射状給電線と、前記複数の放射状給電線を接続するように前記導電塗料が印刷されて形成される接続線とを有するとともに、
前記帯状発熱体、前記放射状給電線及び前記接続線の通電が保持される所定距離まで放射状に形成される複数の切り込みを備えることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記帯状発熱体は、絶縁性を有する樹脂と導電性を有するカーボン粒子が含有され、正の抵抗温度特性を有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、前記複数の帯状発熱体は前記放射状給電線及び前記接続線により並列に接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明では、面状ヒータは放射状に形成される複数の切り込みを備えるので、複雑な三次元曲面の便座躯体でも略全面にしわ、つっぱりなく貼り付けすることが出来る。また、放射状に複数の帯状発熱体を隅々まで配置することが可能なので、暖房便座への着座時に人が接触する部分の全面を温かくすることが出来る。また、面状ヒータは帯状発熱体が印刷される絶縁シートや、帯状発熱体の上に印刷される絶縁塗料層により、耐食性・絶縁性が向上されている。また、これら絶縁シートや絶縁塗料層により、組み付け時等の帯状発熱体、放射状給電線、接続線への傷つき防止が出来る。また、面状ヒータは、抵抗体塗料、絶縁塗料、導電塗料の一連の印刷工程により低価格で生産出来る。
【0011】
また、請求項2に記載の発明では、帯状発熱体は正の抵抗温度特性を有するため、温度安全性が高く、又、制御回路を簡略化出来る。
【0012】
また、請求項3に記載の発明では、複数の帯状発熱体は複数の放射状給電線及び接続線により並列に接続されるので、仮に一つの放射状給電線が断線して接続された帯状発熱体への通電がされなくなっても、他の放射状給電線に接続された帯状発熱体への通電は継続される。よって、引き続き暖房便座として機能を発揮することが可能であり、直列配線のヒータよりも断線への耐性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の暖房便座10を備えたトイレ1を示す全体斜視図である。暖房便座10は便器70の上に回動可能に設けられ、便器70の上側に配置してその上に座っての使用や、上方に回動させた状態を保っての使用をすることが出来る。便器70はさらに、暖房便座10の上側を覆う上蓋80を備えるがそれに限られず、上蓋80を備えていなくても良い。便器70の背面には、便器70に流す水を溜めるタンク90を備える。
【0014】
図2は、本発明の暖房便座10を上方から見た斜視図である。暖房便座10は略リング形状や馬蹄形状をしている。暖房便座10の奥側の外周は直線形状、手前側の外周は曲線形状をしており、全体的に略D字形状をしている。暖房便座10の内周は、奥側と手前側で曲率の異なる曲線形状をしている。
【0015】
図3は、本発明の暖房便座10を示す図2のA−A断面図である。暖房便座10は、A−A断面において外周から略垂直に下向きに延びる外周壁部21、外周から水平方向内側へ延びる水平部22、水平部の内側から内周へ延びる傾斜部23、内周から略垂直に延びる内周壁部24を備えた便座躯体20と、便座躯体20の裏側に、外周壁部21、水平部22、傾斜部23、内周壁部24に沿って貼り付けされた面状ヒータ30を備える。便座躯体20の下側には、水はねや結露などによる水分の防止のため、パッキン50を介して便座裏蓋60が取り付けられている。このように、面状ヒータ30が貼り付けされる便座躯体20は、複雑な三次元曲面形状となっている。
【0016】
図4は、面状ヒータ30が貼り付けされた便座躯体20を面状ヒータ30側から見た平面図である。図4のように、面状ヒータ30はその外周部と内周部に、複数の放射状切り込み31を備える。この切り込み31により、面状ヒータ30の、複雑な三次元曲面形状の便座躯体20への貼り付けを、しわやつっぱりを形成させずに行うことが出来る。
【0017】
図5は、便座躯体20へ貼り付ける前の面状ヒータ30の平面状態を示す説明図である。面状ヒータ30は、絶縁シート32と、絶縁シート32に放射状に印刷された複数の帯状発熱体33と、帯状発熱体33の一部を除いて覆うように絶縁塗料が印刷された絶縁塗料層34と、絶縁塗料層34上に帯状発熱体33に沿って印刷され、帯状発熱体33の一部と接合される複数の放射状給電線35と、複数の放射状給電線35を接続するように導電塗料が印刷された接続線36と、外部から接続線36、放射状給電線35を介して帯状発熱体33に電気を供給する給電線37と、帯状発熱体33、放射状給電線35及び接続線36を避けて放射状に形成される切り込み31と、を備える。図5で、放射状給電線35及び接続線36は絶縁シート32及び絶縁シート40に挟まれているが、形状の説明のため実線で描かれている。
【0018】
図6は面状ヒータ30を示す図5のB−B断面図、図7は面状ヒータ30を示す図5のC−C断面図、図8は面状ヒータ30を示す図5のD−D断面図である。図5から図8を参照して、面状ヒータ30の作成方法を説明する。まず、正の抵抗温度特性を有する樹脂等にカーボン粉末を混入させて作成した抵抗体塗料を、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製の絶縁シート32に、図5に帯状発熱体33として示す形状(放射状に配置された複数の帯状)で印刷して、帯状発熱体33を形成する。次に、帯状発熱体33の、後の工程で放射状給電線35との接合部38になる部分を残し、それ以外が覆われるように絶縁塗料を印刷し、絶縁塗料層34を形成する。次に、導電塗料を図5に放射状給電線35及び接続線36として示す形状(複数の放射状の線及び放射状の線同士を接続する線)で印刷して、放射状給電線35及び接続線36を形成する。この時、帯状発熱体33の絶縁塗料が印刷されていない部分には、放射状給電線35を形成する導電塗料が直接印刷され、帯状発熱体33と放射状給電線35との接合部38が形成される。接続線36の端部には、給電線37が配される。次に、粘着剤を塗布して粘着剤層39とし、絶縁シート40を貼り付ける。絶縁シート32の裏側に粘着剤を塗布して粘着剤層41とし、剥離紙42で粘着剤層41を覆う。最後に、外周部及び内周部の、帯状発熱体33、放射状給電線35、接続線36、給電線37を切断しない位置に、複数の放射状切り込み31を入れ、便座躯体20への貼り付け前の面状ヒータ30が出来上がる。なお、絶縁シート32、40はポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製に限られず、ポリエチレンナフタレート(PEN)又はポリイミド(PI)等の樹脂製の絶縁シートでも良い。
【0019】
本発明の暖房便座10の面状ヒータ30は、外周部及び内周部に複数の放射状の切り込み31を備えるので、複雑な三次元曲面の便座躯体20の略全面にしわ、つっぱりなく貼り付けすることが出来る。また、本発明の暖房便座10の面状ヒータ30は、正の抵抗温度特性を持つ抵抗体塗料により作成された帯状発熱体33を備えるので、温度安全性が高く、又、制御回路を簡略化出来る。また、放射状に複数の帯状発熱体33を隅々まで配置することが可能なので、暖房便座10への着座時に人が接触する部分の全面を温かくすることが出来る。
【0020】
本発明の暖房便座10の面状ヒータ30は、帯状発熱体33が印刷される絶縁シート32や、帯状発熱体33の一部を除いて覆う絶縁塗料層34や、放射状給電線35、接続線36、及び給電線37等を覆う絶縁シート40により、耐食性・絶縁性が向上されている。また、これら絶縁シート32、40や絶縁塗料層34により、組み付け時等の帯状発熱体33、放射状給電線35、接続線36への傷つき防止が出来る。
【0021】
本発明の暖房便座10の面状ヒータ30は、絶縁塗料の印刷を、抵抗体塗料、導電塗料などの一連の印刷工程で行うことが出来る。よって、耐食性・絶縁性が向上した面状ヒータ30を低価格で生産出来る。
【0022】
本発明の暖房便座10は、耐食性・絶縁性能低下の原因となる水分の帯状発熱体33への付着を面状ヒータ30の絶縁シート32、40や絶縁塗料層34及び便座裏蓋60により二重に防御出来るので、耐食性・絶縁性能低下をより確実に防ぐことが出来る。
【0023】
他の実施例を、図9を参照して説明する。図9は、面状ヒータ100の他の実施例を示す図5のB−B断面図である。本実施例では、上記実施例と共通の部材には共通の符号を付し、その説明を省略する。上記実施例では、放射状給電線35及び接続線36が印刷され給電線37が配された後に粘着剤が塗布されたが、本実施例では、粘着剤を塗布する前に、図9のように絶縁塗料を印刷して絶縁塗料層101を形成し、帯状発熱体33、放射状給電線35、接続線36等を覆う。これにより、帯状発熱体33、放射状給電線35、接続線36等の耐食性・絶縁性をさらに向上することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の暖房便座を備えたトイレを示す全体斜視図である。
【図2】本発明の暖房便座を上方から見た斜視図である。
【図3】本発明の暖房便座を示す図2のA−A断面図である。
【図4】面状ヒータが貼り付けされた便座躯体を面状ヒータ側から見た平面図である。
【図5】便座躯体へ貼り付ける前の面状ヒータの平面状態を示す説明図である。
【図6】面状ヒータを示す図5のB−B断面図である。
【図7】面状ヒータを示す図5のC−C断面図である。
【図8】面状ヒータを示す図5のD−D断面図である。
【図9】面状ヒータの他の実施例を示す図5のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0025】
10 暖房便座
20 便座躯体
30 面状ヒータ
31 切り込み
32 絶縁シート
33 帯状発熱体
34 絶縁塗料層
35 放射状給電線
36 接続線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座躯体と、
前記便座躯体に貼り付けされ前記便座躯体を温める面状ヒータと、を備えた暖房便座であって、
前記面状ヒータは、
絶縁シートと、
前記絶縁シートに抵抗体塗料が放射状に印刷されて形成される複数の帯状発熱体と、
前記帯状発熱体の上に絶縁塗料が印刷されて形成される絶縁塗料層と、
前記絶縁塗料層の上に前記帯状発熱体に沿って導電塗料が放射状に印刷されて形成され前記帯状発熱体の端部と接合される複数の放射状給電線と、
前記複数の放射状給電線を接続するように前記導電塗料が印刷されて形成される接続線とを有するとともに、
前記帯状発熱体、前記放射状給電線及び前記接続線の通電が保持される所定距離まで放射状に形成される複数の切り込みを備えることを特徴とする暖房便座。
【請求項2】
前記帯状発熱体は、絶縁性を有する樹脂と導電性を有するカーボン粒子が含有され、正の抵抗温度特性を有することを特徴とする請求項1に記載の暖房便座。
【請求項3】
前記複数の帯状発熱体は前記放射状給電線及び前記接続線により並列に接続されることを特徴とする請求項1又は2に記載の暖房便座。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate