説明

曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板及びその製造方法

【課題】各種種電子部品のリレー可動片やソケット端子等の素材として所定形状に曲げ加工後に、長時間に亘り高温及び高振動環境下で使用されても優れた耐疲労特性及びばね特性を有する。
【解決手段】1.0〜3.0質量%のNi、Niに対し1/6〜1/4の濃度のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、EBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、測定面積の45〜55%、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8〜1.6°、粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2〜0.7個/μm、結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1〜0.4質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板及びその製造方法に関し、特に詳しくは、各種電子部品の素材として所定形状に曲げ加工後に長時間に亘り高温及び高振動環境下で使用されても優れた耐疲労特性及びばね特性を有するCu−Ni−Si系銅合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の軽薄短小化に伴い、リレー、端子、コネクタ等も小型化及び薄肉化が進行しており、それに使用される銅合金材料には、高強度と曲げ加工性が要求されている。
それに伴い、従来の燐青銅や黄銅といった固溶強化型銅合金に替わり、コルソン(Cu−Ni−Si系)合金、ベリリウム銅、チタン銅といった析出強化型銅合金の需要が増加している。
なかでも、コルソン合金は、ケイ化ニッケル化合物の銅に対する固溶限が温度によって著しく変化する合金で、焼き入れ・焼き戻しによって硬化する析出硬化型合金の一種であり、比較的安価で耐熱性や高温強度も良好で、強度と導電率のバランスにも優れ、導電用各種ばねや高抗張力用電線などに広く使用されており、最近では、リレー、端子、コネクタ等の電子部品に使用される頻度が高まっている。
一般に強度と曲げ加工性は相反する性質であり、コルソン合金においても、高い強度を維持しつつ、曲げ加工性を改善することが従来から研究されており、製造工程を調整し、結晶粒径、析出物の個数及び形状、集合組織を個々にあるいは相互に制御することで曲げ加工性を改善しようという取り組みが広く行われてきた。
最近では、コルソン合金を各種電子部品の素材として所定形状に曲げ加工後に長時間に亘り高温及び高振動環境下で使用されても優れた耐疲労特性及びばね特性を有するCu−Ni−Si系銅合金が求められている。
【0003】
特許文献1には、コネクタ等の電子材料に利用される高強度銅合金であるCu−Ni− Si系合金の疲労特性の改良を目的として、質量百分率(%)に基づいて、Ni:1.0〜4.5%、Si:0.2〜1.2 %を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物から成る銅合金であって、表面に20〜200MPaの圧縮残留応力が存在することを特徴とするCu−Ni −Si系合金が開示されている。
特許文献2には、導電性、強度を高く維持しながら、曲げ加工性および疲労特性を顕著に改善した電気・電子部品に好適な銅合金板材として、析出強化型銅合金の冷間圧延材にテンションレベラーで繰り返し曲げ加工を施すことにより、板厚方向1/8位置における平均硬さHs(HV)と板厚方向1/2位置における平均硬さHc(HV)が、(Hs−Hc)/Hc×100≦−5を満たすように、両表層部を中央部より軟質にした銅合金板材が開示されており、合金組成として、例えば質量%でNi:0 .4〜4 .8%、Si:0 .1〜1 .2% 、必要に応じてMg:0 .3%以下またはZn:15 % 以下を含み、さらに必要に応じてSn、Co、Cr、P、B、Al、Fe、Zr、Ti 、Mnの1 種以上を合計3%以下の範囲で含み、残部実質的にC u の組成が挙げられている。
特許文献3には、耐力が700N/mm以上、導電率が35%IACS以上、かつ曲げ加工性にも優れたコルソン(Cu−N−Si系)銅合金板が開示される。この銅合金板は、Ni:2.5%(質量%、以下同じ)以上6.0%未満、及びSi:0.5%以上1.5%未満を、NiとSiの質量比Ni/Siが4〜5の範囲となるように含み、さらにSn:0.01% 以上4% 未満を含み、残部がCu及び不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が10μm以下、SEM−EBSP法による測定結果でCube方位{001}〈100〉の割合が50%以上である集合組織を有し、連続焼鈍により溶体化再結晶組織を得た後、加工率20%以下の冷間圧延及び400〜600℃×1〜8時間の時効処理を行い、続いて加工率1〜20%の最終冷間圧延後、400〜550℃×30秒以下の短時間焼鈍を行って製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−48262号公報
【特許文献2】特開2007−100145号公報
【特許文献3】特開2006−283059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のCu−Ni−Si系のコルソン合金では、曲げ加工性、耐疲労特性、ばね特性等の改良はなされているが、各種電子部品のリレー可動片やソケット端子等の素材として所定形状に曲げ加工後、長時間に亘り高温及び高振動環境下で使用された際の、耐疲労特性及びばね特性が不十分であり、素材として信頼性に欠けるという欠点が見られた。
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであり、各種電子部品のリレー可動片やソケット端子等の素材として所定形状に曲げ加工後に長時間に亘り高温及び高振動環境下で使用されても、優れた耐疲労特性及びばね特性を有するCu−Ni−Si系銅合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題を解くべく鋭意検討の結果、1.0〜3.0質量%のNiを含有し、Niの質量%濃度に対し1/6〜1/4の濃度のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu−Ni−Si系銅合金板において、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、測定面積の45〜55%であり、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8〜1.6°であり、電解放射型電子顕微鏡にて測定した粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2〜0.7個/μmであり、透過型電子顕微鏡にて測定した結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1〜0.4質量%であると、曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れた特性を発揮することを見出した。
また、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAM、及び、透過型電子顕微鏡にて測定した結晶粒内に固溶しているSiの濃度は、曲げ加工後の耐疲労特性に大きく関与しており、双方が最適範囲内であることにより、優れた曲げ加工後の耐疲労特性を発揮できることを見出した。
また、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定した、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合、及び、電解放射型電子顕微鏡にて測定した結晶粒の粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数は、曲げ加工後のばね特性に大きく関与しており、双方が最適範囲内であることにより、優れた曲げ加工後のばね特性を発揮できることを見出した。
【0007】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金板を、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、最終冷間圧延、テンションレベリング、歪み取り焼鈍をこの順序で含む工程で銅合金板を製造するに際して、上述の測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMは、基本的に歪み取り焼鈍工程の温度及び時間により影響され、上述の結晶粒内に固溶しているSiの濃度は、基本的に溶体化処理工程の温度及び時間により影響され、上述の結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合は、テンションレベリング工程の張力により影響され、上述の結晶粒の粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数は、時効処理工程の温度及び時間により影響されることを見出した。
【0008】
これらの知見より、本発明の曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板は、1.0〜3.0質量%のNiを含有し、Niの質量%濃度に対し1/6〜1/4の濃度のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、前記測定面積の45〜55%であり、前記測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8〜1.6°であり、電解放射型電子顕微鏡にて測定した粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2〜0.7個/μmであり、透過型電子顕微鏡にて測定した結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1〜0.4質量%であることを特徴とする。
【0009】
Ni及びSiは、適切な熱処理を行うことにより、NiSiを主とする金属間化合物の微細な粒子を形成する。その結果、合金の強度が著しく増加し、同時に電気伝導性も上昇する。
Niは1.0〜3.0質量%、好ましくは、1.5〜2.5質量%の範囲で添加する。Niが1.0質量%未満であると充分な強度が得られない。Niが3.0質量%を超えると熱間割れが発生する。Siの添加濃度(質量%)は、Niの添加濃度(質量%)の1/6〜1/4とする。Si添加濃度がNi添加濃度の1/6より少ないと強度が低下し、Ni添加濃度の1/4より多いと強度に寄与しないばかりでなく、過剰なSiによって導電性が低下する。
結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が45%未満、或いは、55%を超えると十分なばね特性効果が得られない。
測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8°未満では、十分な疲労特性効果が得られず、また引張強度の低下を来たす。1.6°を超えると、疲労特性効果の低下を来たす。
粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2個/μm未満であると、ばね特性効果の低下と共に引張強度の低下を来たし、0.7個/μmを超えると、十分なばね特性効果が得られない。
結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1質量%未満では、疲労特性効果の低下と共に引張強度の低下を来たし、0.4質量%を超えると、疲労特性効果の低下と共に亀裂が生じ易くなる。
【0010】
また、本発明のCu−Ni−Si系銅合金は、更にSnを0.2〜0.8質量%、Znを0.3〜1.5質量%含有してもよい。
Sn及びZnには、強度及び耐熱性を改善する作用があり、更にSnには耐応力緩和特性の改善作用が、Znには、はんだ接合の耐熱性を改善する作用がある。Snは0.2〜0.8質量%、Znは0.3〜1.5質量%の範囲で添加する。前述の範囲を下回ると所望の効果が得られず、上回ると導電性が低下する。
【0011】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金は、更にMgを0.001〜0.2質量%含有してもよい。
Mgには応力緩和特性及び熱間加工性を改善する効果があるが、0.2質量%を超えると鋳造性(鋳肌品質の低下)、熱間加工性及びめっき耐熱剥離性が低下する。
【0012】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金は、更にFe:0.007〜0.25質量%、P:0.001〜0.2質量%、C:0.0001〜0.001質量%、Cr:0.001〜0.3質量%、Zr:0.001〜0.3質量%を1種又は2種以上を含有してもよい。
Feには、熱間圧延性を向上させる効果(表面割れや耳割れの発生を抑制する効果)およびNiとSiの化合物析出を微細化し、よってメッキ加熱密着性を向上させる効果等を通じて、コネクタの信頼性を高める作用があるが、その含有量が0.007%未満では上記作用に所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.25%を越えると熱間圧延性効果が飽和し、むしろ低下傾向が現われるようになると共に、導電性にも悪影響を及ぼすようになることから、その含有量を0.007〜0.25%と定めた。
Pには、曲げ加工によって起るばね性の低下を抑制し、よって成型加工して得たコネクタの挿抜特性を向上させる作用および耐マイグレーション特性を向上させる作用があるが、その含有量が0.001%未満では所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.2%を越えると、はんだ耐熱剥離性を著しく損なうようになることから、その含有量を0.001〜0.2%と定めた。
Cには、打抜き加工性を向上させる作用があり、さらにNiとSiの化合物を微細化させることにより合金の強度を向上させる作用があるが、その含有量が0.0001%未満では所望の効果が得られず、一方、0.001%を越えて含有すると熱間加工性に悪い影響を与えるので好ましくない。したがって、C含有量は0.0001〜0.001%に定めた。
CrおよびZrには、Cとの親和力が強くCu合金中にCを含有させ易くするほか、NiおよびSiの化合物を一層微細化して合金の強度を向上させる作用およびそれ自身の析出によって強度を一層向上させる作用を有するが、CrおよびZrのうちの1種または2種の含有量が0.001%未満含有されていても合金の強度向上効果が得られず、一方、0.3%を越えて含有するとCrおよび/またはZrの大きな析出物が生成し、そのためにめっき性が悪くなり、打抜き加工性も悪くなるとともにさらに熱間加工性が損われるようになるので好ましくない。したがって、CrおよびZrのうちの1種または2種の含有量は0.001〜0.3%に定めた。
【0013】
更に、本発明の曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板の製造方法は、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、最終冷間圧延、テンションレベリング、歪み取り焼鈍をこの順序で含む工程で銅合金板を製造するに際して、溶体化処理を700〜900℃で60〜120秒間にて実施し、時効処理を400〜500℃で7〜14時間にて実施し、テンションレベリングを49〜147N/mmの張力にて実施し、歪み取り焼鈍を450〜550℃で10〜60秒にて実施することを特徴とする。
歪み取り焼鈍を450〜550℃で10〜60秒にて実施することにより、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8〜1.6°の範囲内となり、溶体化処理を700〜900℃で60〜120秒間にて実施することにより、結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1〜0.4質量%の範囲内となり、曲げ加工後の優れた耐疲労特性が発揮されることになる。
【0014】
歪み取り焼鈍の温度が450℃未満、或いは、時間が10秒未満では、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが1.6°を超え、温度が550℃を超える、或いは、時間が60秒を超えると、結晶粒の面積平均GAMが0.8°未満となる。
溶体化処理の温度が700℃未満、或いは、時間が60秒未満では、結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1%未満となり、温度が900℃を超える、或いは、時間が120秒を超えると、Siの濃度が0.4%を超える。
テンションレベリングの張力を49〜147N/mm(5〜15kgf/mm)にて実施することにより、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が45〜55%の範囲内となり、時効処理を400〜500℃で7〜14時間にて実施することにより、測定面積内に存在する結晶粒の粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2〜0.7個/μmの範囲内となり、曲げ加工後の優れたばね特性が発揮されることになる。
テンションレベリングの張力が49N/mm(5kgf/mm)未満では、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が55%を超え、147N/mm(15kgf/mm)を超えると結晶粒の面積割合が45%未満となる。
時効処理の温度が400℃未満、或いは、時間が7時間未満では、測定面積内に存在する結晶粒の粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2個/μm未満となり、温度が500℃、或いは、時間が14時間を超えると、個数が0.7個/μmを超える。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、各種電子部品のリレー可動片やソケット端子等の素材として所定形状に曲げ加工後に、長時間に亘り高温及び高振動環境下で使用されても優れた耐疲労特性及びばね特性を有するCu−Ni−Si系銅合金板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
[銅合金条の成分組成]
本発明の銅合金条材は、質量%で、1.0〜3.0質量%のNiを含有し、Niの質量%濃度に対し1/6〜1/4の濃度のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物である組成を有する。
Ni及びSiは、適切な熱処理を行うことにより、NiSiを主とする金属間化合物の微細な粒子を形成する。その結果、合金の強度が著しく増加し、同時に電気伝導性も上昇する。
Niは1.0〜3.0質量%、好ましくは、1.5〜2.5質量%の範囲で添加する。Niが1.0質量%未満であると充分な強度が得られない。Niが3.0質量%を超えると熱間割れが発生する。Siの添加濃度(質量%)は、Niの添加濃度(質量%)の1/6〜1/4とする。Si添加濃度がNi添加濃度の1/6より少ないと強度が低下し、Ni添加濃度の1/4より多いと強度に寄与しないばかりでなく、過剰なSiによって導電性が低下する。
【0018】
また、この銅合金は、上記の基本組成に対して、更にSnを0.2〜0.8質量%、Znを0.3〜1.5質量%含有しても良い。
Sn及びZnには、強度及び耐熱性を改善する作用があり、更にSnには耐応力緩和特性の改善作用が、Znには、はんだ接合の耐熱性を改善する作用がある。Snは0.2〜0.8質量%、Znは0.3〜1.5質量%の範囲で添加する。前述の範囲を下回ると所望の効果が得られず、上回ると導電性が低下する。
【0019】
また、この銅合金は、上記の基本組成に対して、更にMgを0.001〜0.2質量%含有しても良い。Mgには、応力緩和特性及び熱間加工性を改善する効果があり、0.001〜0.2質量%の範囲で添加する。0.2質量%を超えると鋳造性(鋳肌品質の低下)、熱間加工性及びめっき耐熱剥離性が低下する。
【0020】
また、この銅合金は、上記の基本組成に対して、更にFe:0.007〜0.25質量%、P:0.001〜0.2質量%、C:0.0001〜0.001質量%、Cr:0.001〜0.3質量%、Zr:0.001〜0.3質量%を1種又は2種以上を含有しても良い。
Feには、熱間圧延性を向上させる効果(表面割れや耳割れの発生を抑制する効果)およびNiとSiの化合物析出を微細化し、よってメッキ加熱密着性を向上させる効果等を通じて、コネクタの信頼性を高める作用があるが、その含有量が0.007%未満では上記作用に所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.25%を越えると熱間圧延性効果が飽和し、むしろ低下傾向が現われるようになると共に、導電性にも悪影響を及ぼすようになることから、その含有量を0.007〜0.25%と定めた。
Pには、曲げ加工によって起るばね性の低下を抑制し、よって成型加工して得たコネクタの挿抜特性を向上させる作用および耐マイグレーション特性を向上させる作用があるが、その含有量が0.001%未満では所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.2%を越えると、はんだ耐熱剥離性を著しく損なうようになることから、その含有量を0.001〜0.2%と定めた。
Cには、打抜き加工性を向上させる作用があり、さらにNiとSiの化合物を微細化させることにより合金の強度を向上させる作用があるが、その含有量が0.0001%未満では所望の効果が得られず、一方、0.001%を越えて含有すると熱間加工性に悪い影響を与えるので好ましくない。したがって、C含有量は0.0001〜0.001%に定めた。
CrおよびZrには、Cとの親和力が強くCu合金中にCを含有させ易くするほか、NiおよびSiの化合物を一層微細化して合金の強度を向上させる作用およびそれ自身の析出によって強度を一層向上させる作用を有するが、CrおよびZrのうちの1種または2種の含有量が0.001%未満含有されていても合金の強度向上効果が得られず、一方、0.3%を越えて含有するとCrおよび/またはZrの大きな析出物が生成し、そのためにめっき性が悪くなり、打抜き加工性も悪くなるとともにさらに熱間加工性が損われるようになるので好ましくない。したがって、CrおよびZrのうちの1種または2種の含有量は0.001〜0.3%に定めた。
【0021】
[銅合金板の合金組織]
本発明のCu−Ni−Si系銅合金板は、合金組織中の後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて銅合金板の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、測定面積の45〜55%であり、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8〜1.6°であり、電解放射型電子顕微鏡にて測定した粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2〜0.7個/μmであり、透過型電子顕微鏡にて測定した結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1〜0.4質量%であり、曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れている。
【0022】
[結晶粒の面積割合、面積平均GAM、Ni−Si析出物粒子の個数、結晶粒内に固溶しているSiの濃度]
EBSD法によるステップサイズ0.5μmにて銅合金板の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合は、次の様に測定した。
前処理として、圧延材から採取した10mm×10mmの試料を10%硫酸に10分間浸漬した後、水洗、エアブローにより散水した後に、散水後の試料を日立ハイテクノロジーズ社製フラットミリング(イオンミリング)装置で、加速電圧5kV、入射角5°、照射時間1時間にて表面処理を施した。
次に、TSL社製EBSDシステム付きの日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡S−3400Nでその試料表面を観察した。観察条件は、加速電圧25kV、測定面積150μm×150μm(結晶粒を5000個以上含む)とした。
観察結果より、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の全測定面積に対する面積割合は次の条件にて求めた。
ステップサイズ0.5μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした。次に、結晶粒界で囲まれた個々の結晶粒について、結晶粒内の全ピクセル間の方位差の平均値(GOS:Grain Orientation Spread)を(1)式にて計算し、平均値が4°未満の結晶粒の面積を算出し、それを全測定面積で除して、全結晶粒に占める結晶粒内の平均方位差が4°未満の結晶粒の面積の割合を求めた。なお、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒とした。
【0023】
【数1】

【0024】
上式において、i、jは結晶粒内のピクセルの番号を示す。
nは結晶粒内のピクセル数を示す。
αijはピクセルiとjの方位差を示す。
【0025】
測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMは、次のようにして求めた。
前処理として、圧延材から採取した10mm×10mmの試料を10%硫酸に10分間浸漬した後、水洗、エアブローにより散水した後に、散水後の試料を日立ハイテクノロジーズ社製フラットミリング(イオンミリング)装置で、加速電圧5kV、入射角5°、照射時間1時間にて表面処理を施した。
次に、TSL社製EBSDシステム付きの日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡S−3400Nでその試料表面を観察した。観察条件は、加速電圧25kV、測定面積150μm×150μm(結晶粒を5000個以上含む)とした。
観察結果より、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMは、次の条件にて求めた。
ステップサイズ0.5μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした。
GAMは同一結晶粒内における隣接する測定点(ピクセル)間のミスオリエンテーションの平均値であり、隣接測定点の境界iにおける方位差を(2)式とすると、結晶粒内にピクセル間の境界がm個存在する場合、この結晶粒のGAM値は(3)式で表わされる。
【0026】
【数2】

【0027】
【数3】

【0028】
個々の結晶粒におけるGAMの値を(GAM)、各結晶粒の面積をSとすると、測定範囲内にM個の結晶粒が存在する場合、面積平均GAMは(4)式で表される。
【0029】
【数4】

【0030】
電解放射型電子顕微鏡による粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数、及び、結晶粒内に固溶しているSiの濃度は、次の様に測定した。
前処理として、10mm×10mmの試料を10%硫酸に10分間浸漬した後、水洗、エアブローにより散水した後に、散水後の試料を日立ハイテクノロジーズ社製フラットミリング(イオンミリング)装置で、加速電圧5kV、入射角5°、照射時間1時間にて表面処理を施した。
次に、日立ハイテクノロジーズ社製電解放射型電子顕微鏡S−4800を使用し、2万倍にてその試料の圧延方向垂直断面の表面より深さ10μm、30μm、80μmの各地点を観察し、各々の100μm中の粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数をカウントして個数/μmに換算し、その平均値を求めた。
透過型電子顕微鏡による結晶粒内に固溶しているSiの濃度は、次のようにして求めた。
日本電子社製透過型電子顕微鏡JEM−2010Fを使用し、5万倍にてその試料の圧延方向垂直断面の表面より深さ10μm、30μm.80μmの各地点の結晶粒内に固溶している各々のSiの濃度を観察し、その平均値を求めた。
【0031】
[製造方法]
本発明のCu−Ni−Si系銅合金の製造方法は、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、最終冷間圧延、テンションレベリング、歪み取り焼鈍をこの順序で含む工程で銅合金板を製造するに際して、溶体化処理を700〜900℃で60〜120秒間にて実施し、時効処理を400〜500℃で7〜14時間にて実施し、テンションレベラーの張力を49〜147N/mm(5〜15kgf/mm)にて実施し、歪み取り焼鈍を450〜550℃で10〜60秒にて実施する。
歪み取り焼鈍を450〜550℃で10〜60秒にて実施することにより、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8〜1.6°の範囲内となり、溶体化処理を700〜900℃で60〜120秒間にて実施することにより、結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1〜0.4質量%の範囲内となり、曲げ加工後の優れた耐疲労特性が発揮されることになる。
歪み取り焼鈍の温度が450℃未満、或いは、時間が10秒未満では、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが1.6°を超え、温度が550℃を超える、或いは、時間が60秒を超えると、結晶粒の面積平均GAMが0.8°未満となる。
溶体化処理の温度が700℃未満、或いは、時間が60秒未満では、結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1%未満となり、温度が900℃を超える、或いは、時間が120秒を超えると、Siの濃度が0.4%を超える。
【0032】
テンションレベラーの張力を49〜147N/mm(5〜15kgf/mm)にて実施することにより、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が45〜55%の範囲内となり、時効処理を400〜500℃で7〜14時間にて実施することにより、測定面積内に存在する結晶粒の粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2〜0.7個/μmの範囲内となり、曲げ加工後の優れたばね特性が発揮されることになる。
テンションレベラーの張力が49N/mm(5kgf/mm)未満では、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が55%を超え、147N/mm(15kgf/mm)を超えると結晶粒の面積割合が45%未満となる。
時効処理の温度が400℃未満、或いは、時間が7時間未満では、測定面積内に存在する結晶粒の粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2個/μm未満となり、温度が500℃、或いは、時間が14時間を超えると、個数が0.7個/μmを超える。
【0033】
具体的な製造方法の一例としては、次の方法があげられる。
先ず、本発明のCu−Ni−Si系銅合金板の組成となる様に材料を調合し、還元性雰囲気の低周波溶解炉を用いて溶解鋳造を行い銅合金鋳塊を得る。次に、この銅合金鋳塊を900〜980℃に加熱した後、熱間圧延にて適度の厚みの熱延板とし、この熱延板を水冷した後に両面を適度に面削し、次に、圧延率60〜90%にて冷間圧延を施し、適度な厚みの冷延板を作製した後、700〜800℃にて7〜15秒間保持の条件で連続焼鈍を施し、更に、50〜60%の加工率にて冷間圧延を施して適度な厚みの冷延板を作製する。次に、この冷延板を700〜900℃で60〜120秒間保持した後に急冷して溶体化処理を施した後、400〜500℃で7〜14時間保持して時効化処理を施した後に、酸洗処理を施して、3〜20%の加工率にて最終冷間圧延を施した後に、テンションレベラーにて49〜147N/mm(5〜15kgf/mm)の張力にて板形状を矯正し、更に、450〜550℃で10〜60秒間保持にて歪み取り焼鈍を施して銅合金板を作製する。
【0034】
この様に製造された本発明の銅合金板は、1.0〜3.0質量%のNiを含有し、Niの質量%濃度に対し1/6〜1/4の濃度のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて銅合金板の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、測定面積の45〜55%であり、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8〜1.6°であり、電解放射型電子顕微鏡にて測定した粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2〜0.7個/μmであり、透過型電子顕微鏡にて測定した結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1〜0.4質量%であり、優れた曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性を有する。
【実施例】
【0035】
表1に示す成分となるように材料を調合し、還元性雰囲気の低周波溶解炉を用いて溶解鋳造を行い銅合金鋳塊を得る。次に、この銅合金鋳塊を900〜980℃に加熱した後、熱間圧延にて適度の厚みの熱延板とし、この熱延板を水冷した後に両面を適度に面削し、次に、圧延率60〜90%にて冷間圧延を施し、適度な厚みの冷延板を作製した後、700〜800℃にて7〜15秒間保持の条件で連続焼鈍を施し、更に、50〜60%の加工率にて冷間圧延を施して適度な厚みの冷延板を作製した。次に、表1に示す条件にて溶体化処理を施した後、表1に示す条件にて時効化処理を施した後に、酸洗処理を施して、3〜20%の加工率にて最終冷間圧延を施した後に、表1に示す張力でテンションレベラーにて銅板形状を矯正し、更に、表1に示す条件に歪み取り焼鈍を施して、実施例1〜10、比較例1〜9の銅合金薄板を作製した。
なお、表1中、テンションレベラー張力として、SI単位のN/mmによるものを表記し、kgf/mmによるものを括弧内に併記した。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例1〜10、比較例1〜9の銅合金板から得られた試料につき、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて銅合金板の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合、及び、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMを測定した。その結果を表2に示す。
隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合は、次の様に測定した。
前処理として、圧延材から採取した10mm×10mmの試料を10%硫酸に10分間浸漬した後、水洗、エアブローにより散水した後に、散水後の試料を日立ハイテクノロジーズ社製フラットミリング(イオンミリング)装置で、加速電圧5kV、入射角5°、照射時間1時間にて表面処理を施した。
次に、TSL社製EBSDシステム付きの日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡S−3400Nでその試料表面を観察した。観察条件は、加速電圧25kV、測定面積150μm×150μm(結晶粒を5000個以上含む)とした。
観察結果より、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の全測定面積に対する面積割合は次の条件にて求めた。
ステップサイズ0.5μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした。次に、結晶粒界で囲まれた個々の結晶粒について、結晶粒内の全ピクセル間の方位差の平均値(GOS:Grain Orientation Spread)を(1)式にて計算し、平均値が4°未満の結晶粒の面積を算出し、それを全測定面積で除して、全結晶粒に占める結晶粒内の平均方位差が4°未満の結晶粒の面積の割合を求めた。なお、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒とした。
【0038】
【数5】

【0039】
上式において、i、jは結晶粒内のピクセルの番号を示す。
nは結晶粒内のピクセル数を示す。
αijはピクセルiとjの方位差を示す。
【0040】
測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMは、次のようにして求めた。
前処理として、圧延材から採取した10mm×10mmの試料を10%硫酸に10分間浸漬した後、水洗、エアブローにより散水した後に、散水後の試料を日立ハイテクノロジーズ社製フラットミリング(イオンミリング)装置で、加速電圧5kV、入射角5°、照射時間1時間にて表面処理を施した。
次に、TSL社製EBSDシステム付きの日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡S−3400Nでその試料表面を観察した。観察条件は、加速電圧25kV、測定面積150μm×150μm(結晶粒を5000個以上含む)とした。
観察結果より、測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMは、次の条件にて求めた。
ステップサイズ0.5μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした。
GAMは同一結晶粒内における隣接する測定点(ピクセル)間のミスオリエンテーションの平均値であり、隣接測定点の境界iにおける方位差を(2)式とすると、結晶粒内にピクセル間の境界がm個存在する場合、この結晶粒のGAM値は(3)式で表わされる。
【0041】
【数6】

【0042】
【数7】

【0043】
個々の結晶粒におけるGAMの値を(GAM)、各結晶粒の面積をSとすると、測定範囲内にM個の結晶粒が存在する場合、面積平均GAMは(4)式で表される。
【0044】
【数8】

【0045】
また、実施例1〜10、比較例1〜9の銅合金板から得られた試料につき、結晶粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数、及び、結晶粒内に固溶しているSiの濃度(質量%)を測定した。その結果を表2に示す。
結晶粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数は、次の様に測定した。
前処理として、10mm×10mmの試料を10%硫酸に10分間浸漬した後、水洗、エアブローにより散水した後に、散水後の試料を日立ハイテクノロジーズ社製フラットミリング(イオンミリング)装置で、加速電圧5kV、入射角5°、照射時間1時間にて表面処理を施した。
次に、日立ハイテクノロジーズ社製電解放射型電子顕微鏡S−4800を使用し、2万倍にてその試料の圧延方向垂直断面の表面より深さ10μm、30μm、80μmの地点を観察し、各々の100μm中の粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数をカウントして個数/μmに換算し、その平均値を求めた。
結晶粒内に固溶しているSiの濃度は、次のようにして求めた。
日本電子社製透過型電子顕微鏡JEM−2010Fを使用し、5万倍にてその試料の圧延方向垂直断面の表面より深さ10μm、30μm、80μmの地点の結晶粒内に固溶している各々のSiの濃度を観察し、その平均値を求めた。
【0046】
また、実施例1〜10、比較例1〜9の銅合金板から得られた試料につき、曲げ加工後の耐疲労特性、及び、ばね限界値特性を測定した。その結果を表2に示す。
曲げ加工後の耐疲労特性は次のようにして求めた。
圧延方向に対し平行方向の幅10mmの短冊状の試験片に対し、圧延方向に対し直角方向(G.W.)の曲げ半径R=0.8mmの45°曲げを2ヵ所実施し、曲げ加工を施した試験片を作成し、JIS Z2273に従って行った。試験片の曲げ加工部分の1ヵ所が固定端の位置になるように固定具に固定し、他端をナイフエッジを介して正弦波振動を与え疲労寿命を求めた。試験片表面の最大付加応力(固定端での応力)が462MPaでの疲労寿命(試験片が破断に至るまでの繰り返し振動回数)を測定した。測定は同じ条件下で4回行い、4回の測定の平均値を疲労寿命とした。
【0047】
曲げ加工後のばね限界値特性は次のようにして求めた。
圧延方向に対し平行方向の幅10mmの短冊状の試験片に対し、圧延方向に対し直角方向(G.W.)の曲げ半径R=0.8mmの45°曲げを2ヵ所実施し、曲げ加工を施した試験片を作成し、JIS H3130に従って行った。試験片の曲げ加工部分の1ヵ所が固定端の位置になるように固定具に固定し、モーメント式試験により永久たわみ量を測定し、R.T.におけるKb0.1(永久たわみ量0.1mmに対応する固定端における表面最大応力値:ばね限界値)を算出した。
【0048】
【表2】

【0049】
表1及び表2の結果より、本発明のCu−Ni−Si系銅合金は、各種種電子部品のリレー可動片やソケット端子等の素材として所定形状に曲げ加工後に、長時間に亘り高温及び高振動環境下で使用されても優れた耐疲労特性及びばね特性を有することがわかる。
【0050】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0〜3.0質量%のNiを含有し、Niの質量%濃度に対し1/6〜1/4の濃度
のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、前記測定面積の45〜55%であり、前記測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが0.8〜1.6°であり、電解放射型電子顕微鏡にて測定した粒径が100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.2〜0.7個/μmであり、透過型電子顕微鏡にて測定した結晶粒内に固溶しているSiの濃度が0.1〜0.4質量%であることを特徴とする曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板。
【請求項2】
更にSnを0.2〜0.8質量%、Znを0.3〜1.5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板。
【請求項3】
更にMgを0.001〜0.2質量%含有することを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載の曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板。
【請求項4】
更にFe:0.007〜0.25質量%、P:0.001〜0.2質量%、C:0.0001〜0.001質量%、Cr:0.001〜0.3質量%、Zr:0.001〜0.3質量%を1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の銅合金板の製造方法であって、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、最終冷間圧延、テンションレベリング、歪み取り焼鈍をこの順序で含む工程で銅合金板を製造するに際して、溶体化処理を700〜900℃で60〜120秒間にて実施し、時効処理を400〜500℃で7〜14時間にて実施し、テンションレベリングを49〜147N/mmの張力にて実施し、歪み取り焼鈍を450〜550℃で10〜60秒にて実施することを特徴とする曲げ加工後の耐疲労特性及びばね特性に優れたCu−Ni−Si系銅合金板の製造方法。

【公開番号】特開2012−136726(P2012−136726A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288486(P2010−288486)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】