説明

曲面浮体設置護岸

【課題】浮体構造物によって越波を防止するものであり、構造物に付着する海生生物の除去を容易にできるようにすると共に、被災を受けたときの補修を容易にする。
【解決手段】護岸1の前壁面に沿ってH形鋼2を間隔をおいて設置した柱列10、11があり、水平材21で相互に連結され格子状枠体3としてある。格子状枠体3の部材の周囲は開かれており、海生生物が付着しても撤去作業がおこないやすい。この格子体3の内部に複数の浮体構造物4が収納される。浮体構造物4の海側壁面には凹部40が形成してあり、上部と下部が海側に張り出した張り出し部41、42が形成してある。上部張り出し部41によって浮体構造物4の壁面に衝突して壁面を遡上する波浪が越波するのを防止しており、浮体構造物4の海水面からの高さを低くしても越波を抑制することができる。浮体構造物が波浪によって破損しても交換補修が容易であるので短期間で修復することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
護岸や防波堤などの構造物は、その前面において水深が浅くなっているため、構造物に到達する波浪は構造物の前面で砕波して構造物へ作用する。このとき、波浪が構造物の前壁を遡上し越波するため、背後地が浸水し被害が拡大する場合がある。地球温暖化による海面上昇が懸念されている今日、越波量を低減して災害を減少させることが要求されている。
【背景技術】
【0002】
単純に護岸の天端を嵩上げしたり、護岸の前面に高潮を防ぐパネルを設置すると、景観や親水性を阻害することになる。また、嵩上げの規模が大きくなると、構造物の背後地占有面積が大きくなり、近接して設けてある歩道や道路にまで張り出し、歩道や道路の有効利用面積が減ってしまう問題がある。
護岸等の防災施設と居住域との間にあるこれら歩道や道路は、被災時のバッファーになっており、この領域が狭くなる、あるいは、消滅してしまうと、被害が直接居住域へ及ぶこととなる。
【0003】
図3(a)に示すように、景観の問題を解決するため、護岸1の前面に浮体構造物4を保持する溝を形成する構造物を設け、この溝の内部に水位に連動して上下動する浮体構造物4を設置し、越波・越流を防ぐことが提案されている。通常時は、浮体構造物は、護岸天端から突出せず、景観に悪影響を与えないので景観を害するという問題は解決されるが、護岸前面に強固な壁を構築する必要があり、海岸線の変更、海域の消失、生態系への影響の問題が生ずる。
図3(b)に示すように、護岸1の構造物自体を掘り込んで溝を形成し、その溝の内部に浮体構造物4を設置するタイプは、護岸1の前面に構造物を設置しないので海岸線の変化などの影響は小さいが、護岸構造物に対する工事が煩雑であり、老朽化して強度の低下した護岸や幅の狭い護岸には溝を形成する余裕がないので適用できない。
【0004】
また、浮体構造物を設置した溝に海生生物が付着して溝幅を狭め、浮体構造物が上下動するための浮体構造物への抵抗が増大して水位の変動に浮体構造物が応答しなくなるので、付着した生物の除去などの維持管理が必要となるが、狭い溝の内部に付着した海生生物を除去するのは面倒であり、維持費用がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−298952号公報
【特許文献2】特開2006−70536号公報
【特許文献3】特開2007−126945号公報
【特許文献4】特開2008−57311号公報
【特許文献5】特開2007−39921号公報
【特許文献6】米国特許第6338594号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の課題を解決するものであり、浮体構造物を使用することによって高潮による越波を抑止するものであって、浮体構造物やそのガイドとなる構造物に付着する海生生物の除去を容易にできるようにすると共に、被災を受けたときの補修を容易にして短期間で現状復帰を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
護岸の前面に格子状の枠体が設けてあり、この格子状枠体内に海水面の変動に応じて上下動することができる複数の浮体構造物が護岸に沿って設けてある護岸である。
また、浮体構造物の海側壁面には凹部が形成してあって上部及び下部が海側に向かって張り出している護岸である。
【発明の効果】
【0008】
浮体構造物が格子状枠体内に収納される構造であるため、浮体構造物を溝内に設置するタイプより、海生生物の付着が少なく、また、人手の届きにくい溝がないため、海生付着生物の除去などのメンテナンスが容易である。
浮体構造物の海側壁面に凹部が形成され上下に張り出し部があるため、壁面に衝突する波が沖側にはね返され、直立壁に比較して低い高さで越波を減少させることができる。
浮体構造物及び格子状枠体を構成する部材のほとんどが工場生産であるため品質のばらつきが少なく、海上工事を短期間とすることができるので、工期を短縮でき、低コストで高潮対策をすることができる。
浮体構造物の越波低減効果は、既設護岸天端を嵩上げした場合の効果と同様である。
浮体構造物が被災して破損した場合でも、交換が容易であるので、短期間で補修することが可能であり、連続して来襲する台風に対しても対応が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例の側面図。
【図2】本発明の実施例の正面図。
【図3】従来の浮体を使用した護岸の側面図。
【符号の説明】
【0010】
1 護岸
10、11 柱列
2 H形鋼
3 格子状枠体
4 浮体構造物
40 凹部
41 上部張り出し部
42 下部張り出し部
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び図2に示すように、直立壁の護岸1の前壁面に沿ってH形鋼2を約5mの間隔で設置した柱列10が形成してある。この柱列10の1m程度海側にH形鋼2の柱列11が設けてある。柱列10、11には高さ方向に1〜2mの間隔で水平材21が設けてあって柱材のH形鋼2を相互に連結して補強してあり格子状枠体3としてある。
柱材はH形鋼に限定されるものでなく、円形断面の鋼管でもよく、材質は鋼材、ステンレス鋼でもよい。
柱材及び水平材は、海生生物の付着がしにくい成分を含有させた材質のものが好ましい。また、これらの部材の表面に海生生物付着防止膜を形成したものであってもよく、海生生物の付着によって部材に突出部分が形成されないようにしてある。また、格子体3としてあるので、部材の周囲は開かれており、海生生物が付着しても撤去作業が行い易く、浮体構造物の海水面の上下に連動した移動が円滑に行われる。
【0012】
柱材と水平材21からなる格子体3の内部に複数の浮体構造物4を護岸1に沿って設置する。浮体構造物4の大きさは、格子体3の内部に収納可能で、格子体3の部材に対して共に5〜10mm程度の余裕があるようにし、幅5〜10m、高さ4〜5mである。
浮体構造物4は、鋼製、鉄筋コンクリート製及び高強度繊維補強コンクリート製などであり、高潮や津波の衝撃に対して十分な強度を確保できるようにしてあり、必要に応じて内部に補強用のリブや隔壁を設ける。
浮体構造物4には内部に注水したり、重錘を付加することができるようにしておき、浮力の調整によって天端高を調整できるようにする。浮体構造物4を格子状枠体内に設置し、通常時は護岸1の天端と浮体構造物4の天端がほぼ一致するようにし、景観に悪影響を与えないようにする。
【0013】
浮体構造物4の海側壁面には凹部40が形成してあり、上部と下部が海側に張り出した張り出し部41、42が形成してある。このようにすることによって浮体構造物4の壁面に衝突して壁面を遡上する波浪が越波するのを防止している。
また、上方に反り返っているため、壁面に衝突した水塊を沖側へ返すことで、越波量がさらに低減する。波浪の上下動に追従して動くとともに、高潮などの平均水位上昇によっても、浮体構造物が上昇するため、水面から浮体構造物までの高さが一定に保たれており、飛沫越波も抑えることができる。
この上部張り出し部41の越波防止効果によって浮体構造物4が海水面より上に出ている部分を比較的小さくすることが可能である。
なお、浮体構造物に凹部を設けることなく箱状であってもよい。
【0014】
設計平均潮位は、既往の最高潮位などを考慮して決定しているが、地球温暖化の影響による海面上昇、台風規模の増大による高潮偏差の上昇によって、今後さらに大きくなるものと予想されるが、浮体構造物の海水面から天端までの高さ(hc)は一定であるとみなせるので越波流量は変わることがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
護岸の前面に格子状枠体が設けてあり、この格子状枠体内に海水面の変動に応じて上下動することができる複数の浮体構造物が護岸に沿って設けてある護岸。
【請求項2】
請求項1において、浮体構造物は、海側壁面には凹部が形成してあって上部及び下部が海側に向かって張り出している護岸。
【請求項3】
請求項1または2において、浮体構造物の浮力が調整可能である護岸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、格子状枠体及び浮体構造物には海生生物の付着防止処理が施してある護岸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−202343(P2011−202343A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67503(P2010−67503)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】