説明

更生管及びその形成方法

【課題】管厚の増大を抑制しつつ十分な強度の更生管及びその形成方法を提供すること。
【解決手段】既設管100の内周面に被装される更生管20であって、熱可塑性樹脂から構成された外側層24と、該外側層24の内側に設けられた、強化繊維入り熱可塑性樹脂から構成され且つ前記外側層24よりも薄く形成した内側強化層22と、を有し、前記内側強化層22は、前記既設管100内で熱可塑性樹脂を加熱溶融した後冷却することにより該熱可塑性樹脂中に強化繊維を混入させることにより形成され、前記外側層24と前記内側強化層22とが一体化していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道管等の既設管を補修するためにその内周面に被装される更生管、及びこの更生管の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道管は長年の使用により劣化するため、老朽化に対する補修管理が重要な作業課題となっている。下水管の耐用年数は一般に約50年とされており、耐用年数を超えた下水道管は年々増加している。
【0003】
一般に下水管渠などの地中に埋設される管については、設置からの年数の経過による様々な変形例えば、ズレによる段差の発生や径の変化などが生じることは不可避である。また、特に変形が生じなくても老朽化に伴って補修や改築、あるいは交換が必要になり、この様な種々の事情から、既設管は所定の時期に何らかの補修が必要となるのが現状である。
【0004】
既設管の補修方法として、例えば、熱可塑性樹脂製のライニング材を使用した補修方法が知られている(特許文献1)。この補修方法では、オメガ字状等に折り畳まれたポリ塩化ビニル製のライニング材を既設管に引き込んで導入し、次いで導入した管状ライニング材の両端にその内部の圧力を調整可能とする管端栓をしてから蒸気等の加熱流体を内部に送り込み、折り畳まれた状態から管状へと復元させた後、更に、内側から加圧して既設管の内表面にライニング材を密着させつつ冷却硬化させることにより更生管が形成される。
【0005】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂繊維及び補強繊維を管状に織るなどして形成されたライニング材を、既設管に引き込んで導入した後、内側から熱及び圧力を加えて、熱可塑性樹脂繊維を溶融するととともに既設管の内周面に密着させつつ、冷却硬化させることにより既設管の内周面に更生管を形成する補修方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−232684号公報
【特許文献2】特表2001−507639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法により形成された更生管は、機械的強度が比較的低いポリ塩化ビニルやポリエチレン等の熱可塑性樹脂のみからなる更生管であるため、十分な強度を得るためには一定の厚みが必要となる。更生管の管厚を厚くしようとすると、材料自体の重量が重くなり施工が困難となるばかりでなく、更生管自体の内径が小さくなり、十分な流下機能を確保することができないという問題が生じる。
【0008】
また、特許文献2の方法に用いるライニング材は、補強繊維により強度が増大して完成後の材質の強度が向上するが、繊維間に空隙の存在する見かけ密度の低い織物状のライニング材であり、加熱により熱可塑性樹脂繊維が溶融してその空隙が埋められて無くなるため、加熱冷却後の更生管は加熱冷却前の状態と比較して厚さが極めて薄いものとなる。
【0009】
そのため、管路としての十分な強度を確保できる厚さを得ようとすると、加熱冷却前の厚さはその数倍の厚さとしなければならず、この場合、ライニング材全体を熱可塑性樹脂繊維の融点以上とする高温加熱を行うに当たり、ライニング材全体に熱が十分に行き渡らず、熱可塑性樹脂繊維の溶け残りが生じる場合がある。溶け残りが生じると、気泡や隙間が残存したり、既設管内周面への密着性が低下するため、漏水や強度低下の原因となり、良質な更生管を確保することが困難となる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、管厚の増大を抑制しつつ十分な強度の更生管及びその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の更生管は、既設管の内周面に被装される更生管であって、熱可塑性樹脂から構成された外側層と、該外側層の内側に設けられた、強化繊維入り熱可塑性樹脂から構成され且つ前記外側層よりも薄く形成した内側強化層と、を有し、前記内側強化層は、前記既設管内で熱可塑性樹脂を加熱溶融した後冷却することにより該熱可塑性樹脂中に強化繊維が混入した状態とすることにより形成され、前記外側層と前記内側強化層とが一体化していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、外側層の内側に在る強化繊維を含む内側強化層の存在により、熱可塑性樹脂単独でその厚みを厚くして強度を増す場合よりも更生管自体の管厚を薄くすることができる。また、管状ライニング材を加熱冷却した後の状態の内側強化層、すなわち完成した更生管の内側強化層は、外側層の強度を補う補助的な役割を有し、必要以上に厚くすることを要しないので、加熱を十分且つ迅速に行うことができる厚さとして構成することができ、溶け残りの発生が防止された良質な更生管を得ることが可能となる。このような外側層と強化層と構成により、管路としての十分な強度が確保され、流下機能を十分に確保できる管厚の更生管を得ることができる。
【0013】
請求項2に記載の更生管は、請求項1に記載の更生管において、前記内側強化層の厚さが、2〜5mmであることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、更生管形成時に内側強化層に含まれる熱可塑性樹脂を短時間の加熱で溶融状態とすることができるため、気泡の残存が確実に抑えられ、均一且つ緻密な強化層を得ることができる。また、この範囲の厚さとすることで、加熱時に外側層の内側表面部の熱可塑性樹脂も加熱溶融することができ、外側層と内側強化層とが完全に密着一体化した更生管を得ることができる。
【0015】
請求項3に記載の更生管は、請求項1又は2に記載の更生管において、前記外側層の厚さが、5〜15mmであることを特徴とする。更生管の主体となる外側層をこの範囲の厚さとすることによりにより、管路としての強度が十分に維持されると共に、更生管の管厚の増大を抑制することができ、補修による流下機能の低下を的確に回避することが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の更生管の形成方法は、請求項1〜3の何れか1項に記載の更生管を形成する方法であって、
熱可塑性樹脂から構成された外側樹脂層と、該外側樹脂層の内側に設けられた熱可塑性樹脂及び強化繊維を含む繊維集合体から構成された強化複合層と、を有する管状ライニング材を既設管内に導入する工程と、前記管状ライニング材を加熱して、少なくとも前記強化複合層の熱可塑性樹脂を溶融させる加熱工程と、前記管状ライニング材を前記既設管の内周面に密着するように圧接する圧接工程と、前記圧接工程後に前記管状ライニング材を冷却する冷却工程、を含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、内側強化層と外側層とを有する更生管を一連の作業(導入、加熱、圧接及び冷却)で形成することができる。すなわち、管状ライニング材を加熱して、繊維集合体の繊維間の空隙(気泡)を除去しながら既設管の内表面に圧接し、その状態で冷却硬化するという一連の作業により、内側強化層と外側層とが一体化された更生管を簡易な施工法で得ることができる。
【0018】
請求項5に記載の更生管の形成方法は、請求項4に記載の方法において、前記強化複合層の繊維集合体は、熱可塑性樹脂がコーティングされた強化繊維の集合体として構成されたことを特徴とする。この構成によれば、加熱により溶融した熱可塑性樹脂が各強化繊維間に均一に分布するとともに、圧接工程により繊維集合体の繊維間の空隙(気泡)が除去され、隙間なく埋め尽くされた強化層を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る更生管によれば、その形成時において加熱が十分に行われて良好に形成された内側強化層と熱可塑性樹脂の外側層とにより、管厚の増大を抑制しつつ管路としての十分な強度を得ることができ、その流下機能も十分に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】管状ライニング材の一例を示す横断面図である。
【図2】強化複合層の加熱前(a)と加熱冷却後(b)を示す詳細断面図である。
【図3】強化複合層の一例を示す詳細図である。
【図4】本発明の更生管の一例を示す横断面図である。
【図5】管状ライニング材が折り畳まれた状態を示す横断面図である。
【図6】既設管に管状ライニング材を導入する工程を示す説明図である。
【図7】既設管に導入された状態を示す横断面図である。
【図8】管状ライニング材に加熱装置を導入する工程を示す説明図である。
【図9】更生管形成時の既設管端部の詳細図である。
【図10】管状ライニング材の加熱及び圧接工程を示す説明図である。
【図11】加熱装置及びその加熱方法を示す詳細説明図である。
【図12】既設管に形成された更生管を示す説明図である。
【図13】既設管に形成された更生管を示す横断面図である。
【図14】加熱圧接工程の他の一例を示す説明図である。
【図15】加熱圧接工程の他の一例において圧縮気体を供給する工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。なお、各図面は、説明の理解の容易のために要部を強調して表示しており、図面上の各構成部分の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致するものではない。
【0022】
図1は本発明の更生管を得るために好適な管状ライニング材、すなわち、最終硬化前の管状ライニング材の一例を示す概略断面図である。この管状ライニング材10は、熱可塑性樹脂からなる管状の外側樹脂層14と、強化繊維及び熱可塑性樹脂を含む管状の強化複合層12とを有し、強化複合層12が内側、外側樹脂層14が外側となるように構成されている。
【0023】
強化複合層12は、熱可塑性樹脂及び強化繊維を含む繊維集合体から構成され、具体的には、熱可塑性樹脂繊維と強化繊維との繊維束(直径5mm程度)から形成される織物や編物、熱可塑性樹脂がコーティングされた強化繊維の繊維束から形成される織物や編物等を用いることができる。
【0024】
図2(a)は、熱可塑性樹脂繊維と強化繊維との繊維束の詳細断面図を示している。加熱冷却前において強化繊維30と熱可塑性樹脂繊維32からなる強化複合層12は、熱可塑性樹脂32の融点以上の温度に加熱すると、熱可塑性樹脂繊維32が溶融して各強化繊維30間の空隙が埋めつくされ、図2(b)に示すように熱可塑性樹脂(黒色部分)中に強化繊維30が混入した状態となり、強化プラスチック層である内側強化層22が得られる。
【0025】
図3は強化複合層12の一例を示す表面詳細図である。この図は、多数の繊維を集束してなる複数の繊維束が互いに織られた織物から強化複合層が形成されている例を示している。
【0026】
強化複合層12は、好ましくは熱可塑性樹脂がコーティングされた強化繊維の繊維束から形成される織物又は編物である。このような構成とすることより、加熱により溶融した熱可塑性樹脂が各強化繊維間の空隙に均一に分布して、後述する既設管内周面への圧接工程により繊維間の空隙や気泡が除去され、隙間なく埋め尽くされた層が形成され、強固な強化層が得られる。
【0027】
図1に示す外側樹脂層14は熱可塑性樹脂からなる管状材であり、完成品である更生管の主体となる層である。外側樹脂層14は、更生管の一部を構成するだけでなく、補修対象の既設管の亀裂から浸入した地下水が強化複合層12に接触することを阻止し、形成過程(加熱、溶融及び一体化等)の妨げとなることを防止する役割も有する。外側樹脂層14は必要により可塑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
加熱前(図1の状態)において、強化複合層12の厚さは、例えば6〜15mmであり、外側樹脂層14の厚さは、例えば5〜15mmである。そして、強化複合層12は、加熱冷却後、上述したように各繊維間の空隙が埋められることによってその厚さが薄くなり、得られる更生管20は、図4に示すように、内側強化層22の厚さが外側層24の厚さよりも薄いものとなる。加熱冷却後において、内側強化層22の厚さは好ましくは2〜5mmであり、外側層24の厚さは好ましくは5〜15mmである。得られる更生管20は、内側強化層22と外側層24との界面が密着して剥離せず、各層が一体化した状態である。加熱温度は、例えば強化複合層12の熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを使用した場合には約230℃である。
【0029】
また、更生管20の厚さの比(内側強化層22:外側層24)が1:1.5〜7となるように、管状ライニング材10の強化複合層12及び外側樹脂層14の厚さを調整することが好ましい。この範囲内であれば、強度が更に向上し、耐久性の高い更生管となる。
【0030】
図1に示す管状ライニング材10の強化複合層12と外側樹脂層14とは接着剤等で接着して仮密着状態としてもよいし、接着せずに別体としていてもよい。仮密着状態とすることにより、後述する更生管形成過程で行う仮拡径作業がスムーズに行われる。すなわち、熱可塑性樹脂から構成される外側樹脂層14は、蒸気等で加熱することにより、保存時や搬入時用の折り畳まれた状態から断面円形となるように徐々に拡径するが、繊維集合体である強化複合層12は、加熱するだけでは折り畳まれた状態から断面円形状とはならない。そこで、強化複合層12と外側樹脂層14とを仮密着状態としておくことにより、外側樹脂層14が仮拡径するのにつれて強化複合層12も同時に仮拡径させることが可能となる。
【0031】
また、外側樹脂層14の強化複合層12側の面(内表面)は、エンボス加工されていることが好ましい。エンボス加工をすることにより、強化複合層12の熱可塑性樹脂が溶融した後に外側樹脂層14と接する表面積が増えるため、密着度が向上し、形成される更生管20(図4に図示)の内側強化層22と外側層24との一体化が更に強固なものとなる。
【0032】
強化複合層12と外側樹脂層14に使用する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル等を使用することができる。これら熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。この中でも、融点が比較的低く加熱溶融が容易であり、環境汚染物質の原因となり得る塩素を含まないことから、ポリエチレン及びポリプロピレンが好ましく、特に硬化状態の強度が高い点でポリプロピレンが好ましい。
【0033】
また、強化複合層12と外側樹脂層14に使用する熱可塑性樹脂は同一樹脂を使用することが好ましい。これにより、強化複合層12と外側樹脂層14は加熱冷却後に分離することなく一体化するため、更生管の強度が更に向上する。
【0034】
強化複合層12に含まれる強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等を使用することができる。これら強化繊維は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。この中でも特に安価であり、生産性に優れることからガラス繊維が好ましい。
【0035】
また、強化複合層12に含まれる強化繊維の割合は、強化複合層12の質量に対して45〜75質量%であることが好ましく、熱可塑性樹脂の割合は、強化複合層12の質量に対して25〜55質量%であることが好ましい。この範囲であれば、加熱時に熱硬化性樹脂を効率的に溶融させて、強化繊維を芯材とする強度の高い強化層を形成することができる。
【0036】
強化複合層12と外側樹脂層14から構成される管状ライニング材10の外径は、後述する拡径時に補修の対象となる既設管の内径とほぼ同じとなるように構成されている。補修対象の既設管に導入して加熱及び圧接を行う前には、図5に示すように断面U字状等に折り畳まれた状態で保管及び搬送される。
【0037】
なお、本実施の形態の管状ライニング材10は、強化複合層12と外側樹脂層14のみからなるライニング材を示しているが、更に他の層を副次的に有していてもよい。他の層としては、加熱時に補修対象となる既設管への放熱を防ぐ断熱材層等が挙げられる。
【0038】
次に、既設管の内周面に本発明の更生管を形成する方法について説明する。図6は、既設管の補修作業における管状ライニング材10の導入工程の一例が示されている。
【0039】
前準備として、管内洗浄車等によって既設管100の内周面の高圧水を吹き付けて洗浄し、内周面の汚れ、劣化したコンクリート、混入した木根等の異物を取り除く。
【0040】
次に、既設管100内部での下水の流下を堰き止めるため堰き止め部材102をマンホール200の上流側及びマンホール300の下流側にそれぞれ設置する。管状ライニング材10は、未だ管形状に拡径した状態にはなく、断面U字状等のやや平らな形状で既設管100内に引き込まれている。この引き込み動作は、マンホール200側で収納部101にロール状に巻回された状態で収納されている管状ライニング材10をマンホール300側の地上部に設置された牽引手段(図示せず)の牽引動作によって既設管100内に引き込むものである。
【0041】
管状ライニング材10を引き込む際には、蒸気等によって、上述した外側樹脂層14の熱可塑性樹脂の軟化点以上融点未満の温度(一般に70℃程度)に予備加熱して軟化してから引き込み作業を行う。牽引手段には引き込み用ロープ等が装備されており管状ライニング材10の先端部に固定される。その牽引用ロープにより引っ張られて管状ライニング材10がマンホール200側からマンホール300側へ既設管100内に引き込まれていく。続いて、管状ライニング材10を補修対象の既設管100の全域に亘る長さに切断し、導入工程は終了する。
【0042】
図7は、既設管100内に導入された管状ライニング材10の状態の一例を示す横断面図である。図示のように導入された時の断面形状は、円形ではなく、内部空間が狭くなった状況にある。
【0043】
図8は、管状ライニング材10を加熱するための加熱装置を導入配置した状態の説明図である。既設管100内に導入された管状ライニング材10を、蒸気等を送り込むことにより仮拡径状態とした後、管状ライニング材10のマンホール300側端部から、加熱装置106を管状ライニング材10の内側に導入する。図中、マンホール200付近の地上に配置されている作業機108は、加熱装置106に電気及び空気等のガスを供給し、また加熱装置106を牽引してマンホール200側に移動させるためのものであり、管状ライニング材10内部に通されたケーブルやワイヤー、ホース等から構成される連結材110によって方向転換ロール104を介して加熱装置106の先端部と連結している。
【0044】
なお、既設管100のマンホール300側端部においては、その詳細図である図9に示すように、延長パイプ116が既設管100の端部に対向するように仮設置され、その延長パイプ116の外周に外側層22を回り込ませた状態でリング状バンド118で仮固定して開口状態とされ、作業の容易化が図られている。管状ライニング材10のマンホール200側端部も同様に開口状態としてもよい。
【0045】
図10は、加熱及び圧接工程の一例を説明する概略図である。加熱装置106を導入した後、内部に気体を送り込むことにより反転しながら膨張する反転バッグ112をマンホール300側地上から導入する。反転バッグ112の膨張方向(矢印方向)端部は、加熱装置106の進行方向後ろ側と接した状態とされている。このような反転バッグ112は通常、格納機114内に巻回されて収納されており、流体を供給するとともに巻回状態が解かれてマンホール300を経て既設管100内に導入されていく。
【0046】
加熱装置106は、連結材110で牽引することによりマンホール200方向に移動しながら管状ライニング材10の加熱を行う。この加熱装置としては、熱風やヒータ等によって加熱を行う装置を用いることができる。
【0047】
図中で例示されている加熱装置106は、その詳細図である図11に示すように、進行方向前部の外形がくびれ状とされた部分にヒータ106aが内蔵されており、ヒータ106aは、作業機108から連結材110のホース(図示せず)を介して供給される空気等のガスを加熱する。加熱ガスは、ヒータ106aから加熱装置106の外側に連通する連通管107を介して加熱装置106の外側に送出される。送出された加熱ガスは管状ライニング材10を加熱しながらマンホール200方向に流通する。
【0048】
加熱装置106の進行方向後部は金属やゴム等から形成され、その形状は円筒状とされており、加熱された管状ライニング材10を、その内部に含まれる気泡を外部に逃しながら断面円形状に拡径する。
【0049】
加熱は管状ライニング材10の強化複合層12に含まれる熱可塑性樹脂の融点以上の温度(通常170〜240℃)となるように行い、少なくともその強化複合層12の熱可塑性樹脂を溶融させる。これにより、溶融した強化複合層12の熱可塑性樹脂は各強化繊維間の空隙に流れ込み、熱可塑性樹脂中に強化繊維が混入した状態となる。なお、外側樹脂層14は、その樹脂が溶融するほどの加熱は必要ではなく、軟化する程度の温度(通常60〜100℃)となればよいが、外側樹脂層14の強化複合層12側の表面部も同時に溶融させることが好ましく、これにより、各層が接する界面において、強固な密着状態とすることができる。
【0050】
そして、加熱された状態の管状ライニング材10を、反転バッグ112により既設管100内周面に圧接し、この圧接状態で冷却することにより硬化させる。圧接しながら冷却することにより冷却硬化時の収縮を抑え、既設管100の内周面に完全に密着させることができる。冷却は自然冷却でもよいし、冷風等の冷却媒体を送風して硬化が早まるように冷却を促しても良い。
【0051】
導入した管状ライニング材10の全範囲に亘って加熱、圧接及び冷却処理を終えた後、加熱装置106を地上に取り出して撤去し、反転バッグ112を導入側から引き込んで撤去する。そして、両端の管口処理を行うことにより、図12に示すように、既設管100内周面に更生管20が形成され、補修が完了する。図13は、既設管内周面に形成された本発明の更生管20を示す断面図である。図示のように、既設管100の内周面に、内側強化層22の厚さが外側層24の厚さよりも薄く形成された更生管20が被装されている。
【0052】
このように、完成した更生管20は、内側強化層22が上記加熱工程において十分且つ迅速な加熱が行われて形成された強化プラスチック層とされており、管路としての十分な強度が確保され、流下機能を十分に確保できる管厚とされている。なお、内側強化層22は、その厚さが加熱冷却前の状態である強化複合層12(図1参照)の厚さの20〜30%程度となる。
【0053】
次に、管状ライニング材10を加熱、圧接及び冷却する他の方法を説明する。図14はその概略図である。まず、上述した図6において説明した手法と同様に導入された管状ライニング材10に、そのマンホール300側端部から加熱圧接装置120を導入する。この加熱圧接装置120は、加熱を行う前部120aと圧接を行うための後部120bから構成されている。後部120bは円筒状の形状を有しており、その外径は、得られる更生管の内径とほぼ同一となるように形成され、その材質には金属やゴム等が用いられる。後部120bは、気体や水等の流体を供給することにより膨張する膨張体であってもよい。
【0054】
加熱圧接装置120の前部120aにはヒータが内蔵されており、管状ライニング材10を加熱して、少なくとも強化複合層12の熱可塑性樹脂を溶融させる。加熱圧接装置120の進行方向先端部は、マンホール200付近の地上に配置された作業機108と連結材110によって連結されており、この作業機108によって上述した場合と同様に加熱圧接装置120への電気や気体等の供給及び加熱圧接装置120の移動が行われる。
【0055】
加熱圧接装置120は加熱を行いながら移動し、前部120aにより加熱された管状ライニング材10は筒状の後部120bによって断面円状に拡径されると共に、既設管100内周面に圧接される。
【0056】
加熱圧接装置120の後部120bは、冷却媒体供給機128からホース130を介して水等の冷却媒体を供給してその内部で循環させることにより、加熱された管状ライニング材10を冷却する冷却機能も有している。このような冷却機能によって冷却を早めることにより、圧接後の冷却不完全により引き起こされ得る更生管の変形を防止することができる。
【0057】
また、図15に示すように、加熱圧接装置120を所定距離移動させた後、管状ライニング材10のマンホール300側端部を密閉部材124で密閉し、密閉部材124と加熱圧接装置120との間の密閉空間126に圧縮気体を供給してもよい。圧縮気体を供給することにより、管状ライニング材10が既設管100内周面に十分に圧接され、完全に密着させることが可能となる。図中、マンホール300側地上に配置されているのは供給管134を介して圧縮気体を供給するコンプレッサー136である。
【0058】
加熱圧接装置120を既設管100のマンホール200側端部まで移動させ、導入された管状ライニング材全域の加熱、圧接及び冷却を行った後、両端を管口処理することにより既設管100内周面に被装された本発明の更生管20が完成する(図12及び13参照)。図14及び15で示した例では、図10で説明した反転バッグのような大掛かりな機器は必要とせず、施工がより簡易なものとなる。
【0059】
本発明の更生管を得るための施工方法は上記の例に限られず、外側層を形成するためのライニング材と、内側強化層を形成するためのライニング材を別々に導入し被装して更生管を形成する方法でもよい。
【0060】
この方法では、まず、外側層を形成するための熱可塑性樹脂から構成される第一管状ライニング材を導入した後、加熱冷却して既設管内周面に被装する外側層形成工程と、強化繊維及び熱可塑性樹脂を含む第二管状ライニング材を導入した後、加熱冷却して外側層の内周面に被装する内側強化層形成工程を有する。
【0061】
外側層形成工程では、まず、オメガ字状等に折り畳まれた状態で保管された熱可塑性樹脂から構成される第一管状ライニング材を必要により予備加熱して軟化してから既設管内に導入する。第一管状ライニング材は図1に示した外側樹脂層14に相当するものであり、上記で例に挙げた樹脂を使用することができる。次に、導入した第一ライニング材に、その内部に加圧気体を吹き込んで拡径するため、第一ライニング材の両端にバルブを取り付け、加圧気体を吹き込む。
【0062】
加圧気体の吹き込み手段としては、例えば、マンホール近傍の地上に設置され、蒸気を生成する部分と、生成した蒸気を加圧状態でホースを介して吹込み口へ送るポンプ等を備える加圧気体供給装置が用いられる。その後、第一ライニング材を冷却することにより、既設管の内周面に熱可塑性樹脂から構成される外側層が形成される。
【0063】
そして、内側強化層形成工程では、熱可塑性樹脂と強化繊維を含む第二管状ライニング材を、外側層形成工程で形成された外側層の内部に引き込んで導入する。第二管状ライニング材は図1に示した強化複合層12に相当するものであり、上記で例に挙げた織物等を使用することができる。
【0064】
そして、第二管状ライニング材を既設管に導入した後、加熱、圧接及び冷却を行う。加熱、圧接及び冷却は、上記で説明した図10や図14及び図15に示す方法で行えばよい。これにより、熱可塑性樹脂から構成される外側層の内側に強化繊維入り熱可塑性樹脂から構成された内側強化層を有する更生管が既設管内周面に被装され、既設管の補修が行われる。なお、第一管状ライニング材と第二管状ライニング材の厚さは、完成した更正管の内側強化層の厚さが外側層の厚さよりも薄くなるよう適宜調整する。
【0065】
また、外側層を形成するためのライニング材と内側強化層を形成するためのライニング材を別々に導入して行う他の更生管形成方法として、上記熱可塑性樹脂からなる第一ライニング材を導入し、少なくとも仮拡径した後(すなわち、上述のような既設管内周面への完全な密着は行わなくてもよい)、上記第二ライニング材を仮拡径状態の第一ライニング材の内側に導入し、次いで、上記で説明した方法(図10や図14、15の方法)と同様にして加熱、圧接及び冷却工程を行うことにより本発明の更生管を得ることも可能である。
【0066】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。上記実施の形態では、本発明の管状ライニング材を下水道本管に適用した例を示しているが、本発明の管状ライニング材は枡と下水道本管とを接続する取付管にも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 管状ライニング材
12 強化複合層
14 外側樹脂層
20 更生管
22 内側強化層
24 外側層
30 強化繊維
32 熱可塑性樹脂
100 既設管
102 堰き止め部材
104 方向転換ロール
106 加熱装置
107 連通管
108 作業機
110 連結材
112 反転バッグ
114 格納機
116 延長パイプ
118 バンド
120 加熱圧接装置
124 密閉部材
126 密閉空間
128 冷却媒体供給機
130 ホース
134 供給管
136 コンプレッサー
200、300 マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内周面に被装される更生管であって、
熱可塑性樹脂から構成された外側層と、
該外側層の内側に設けられた、強化繊維入り熱可塑性樹脂から構成され且つ前記外側層よりも薄く形成した内側強化層と、
を有し、
前記内側強化層は、前記既設管内で熱可塑性樹脂を加熱溶融した後冷却することにより該熱可塑性樹脂中に強化繊維が混入した状態とすることにより形成され、
前記外側層と前記内側強化層とが一体化していることを特徴とする更生管。
【請求項2】
前記内側強化層の厚さが、2〜5mmであることを特徴とする請求項1に記載の更生管。
【請求項3】
前記外側層の厚さが、5〜15mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の更生管。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の更生管を形成する方法であって、
熱可塑性樹脂から構成された外側樹脂層と、該外側樹脂層の内側に設けられた熱可塑性樹脂及び強化繊維を含む繊維集合体から構成された強化複合層と、を有する管状ライニング材を既設管内に導入する工程と、
前記管状ライニング材を加熱して、少なくとも前記強化複合層の熱可塑性樹脂を溶融させる加熱工程と、
前記管状ライニング材を前記既設管の内周面に密着するように圧接する圧接工程と、
前記圧接工程後に前記管状ライニング材を冷却する冷却工程、
を含むことを特徴とする更生管の形成方法。
【請求項5】
前記強化複合層の繊維集合体は、熱可塑性樹脂がコーティングされた強化繊維の集合体として構成されたことを特徴とする請求項4に記載の更生管の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−95103(P2013−95103A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241939(P2011−241939)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(595053777)吉佳エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】