説明

最高温度到達抑制効果を有する組成物

【課題】 最高温度到達抑制効果を有する組成物を提供する。
【解決手段】 ドアトリム、ダッシュボード、家電・OA機器ケース、感熱ドラムの収納ケース、熱源に接するか、近接する部位で用いられる部品、断熱フォーム、金属と積層した成形品、金属を被覆した成形品のいずれかに用いられる、30℃未満で結晶化し、30℃〜80℃で完全に液体になるポリマー又はオリゴマーを含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアトリム、ダッシュボード、家電・OA機器ケース、感熱ドラムの収納ケース、熱源に接するか、近接する部位で用いられる部品、断熱フォーム、金属と積層した成形品、金属を被覆した成形品のいずれかに用いられる、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、特定の蓄熱材を体の周囲、例えば、衣服に含ませると、該蓄熱材が相転移する時の潜熱を利用して、外気温度の変化より、身体周囲の温度変化幅を小さくできることが開示されている。用途として、スポーツ衣料、シャツ、背広等の一般衣料、中綿等の寝具、家具用、自動車用レザーが開示されている。例えば、家具用、自動車用レザーに用いる場合、体と接する部位で、体温による、レザーの温度上昇を緩和でき、夏場に快適な素材となる。しかし、この文献には、最高到達温度を抑制する知見の開示はない。
【0003】
また、特許文献2−4には、シェル内に潜熱蓄熱材を内包したマイクロカプセル(蓄熱性粒子)を含むポリウレタンを開示し、これを、枕、敷布団、座布団等の寝具類用途や精密OA機器等の吸音材、制振材、衝撃吸収用梱包材として用いることを開示する。しかし、これらの文献も、特許文献1と同様に、最高到達温度を抑制する知見の開示はない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−268358号公報
【特許文献2】特開2001−288240号公報
【特許文献3】特開2001−294640号公報
【特許文献4】特開2001−302841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の蓄熱材に関する文献において、「最高到達温度を抑制する知見の開示がない」ことは、当業者の常識に合致したものであった。蓄熱材を含む素材と、蓄熱材を含まないブランクを恒温槽内に置いておくと、温度上昇速度は、蓄熱材を含む素材が遅いものの、最終的にはブランクと同じになる。このような知見から、例えば、蓄熱材を含む素材をハンドル表皮材に用いた車と、ブランク素材をハンドル表皮材に用いた車と、真夏の炎天下に2時間以上放置しておくと、どちらの車でも、ハンドル表面温度は同程度になると考えられていた。
【0006】
しかし、実際に、蓄熱材を含む素材をハンドル表皮材に用いた車と、ブランク素材をハンドル表皮材に用いた車を、真夏の炎天下に2時間以上放置しておいて、両ハンドル表面温度を測定したところ、最高到達温度についても、蓄熱材を含む素材をハンドル表皮材に用いた車の方が低かった。本発明者らは、この意外な事実を見出すことにより、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、最高温度到達抑制効果を有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の組成物が提供される。
1.ドアトリム、ダッシュボード、家電・OA機器ケース、感熱ドラムの収納ケース、熱源に接するか、近接する部位で用いられる部品、断熱フォーム、金属と積層した成形品、金属を被覆した成形品のいずれかに用いられる、30℃未満で結晶化し、30℃〜80℃で完全に液体になるポリマー又はオリゴマーを含む組成物。
2.前記ポリマー又はオリゴマーが、潜熱が30J/g以上のポリマー又はオリゴマーである1記載の組成物。
3.前記ポリマー又はオリゴマーの潜熱が、50J/g以上である1又は2記載の組成物。
4.前記ポリマー又はオリゴマーの重量平均分子量が、15万以下である1〜3のいずれかに記載の組成物。
5.前記ポリマー又はオリゴマーが、側鎖結晶型である1〜4のいずれかに記載の組成物。
6.前記ポリマー又はオリゴマーの示差走査熱量計チャートにおける高温側のピークの裾野終了時の温度が、60℃以下である1〜5のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、最高温度到達抑制効果を有する組成物を提供することができる。
本発明で使用する上記のポリマー又はオリゴマーを配合した組成物及び成形品は、非配合品に比べ熱放散性が高いので、高温の環境において、より熱を放散しやすくなり、基材の温度上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の組成物は、30℃未満で結晶化し、30℃〜80℃で完全に液体になるポリマー又はオリゴマーを含む。このようなポリマー又はオリゴマーを含む組成物は、人が熱いと感じる温度雰囲気中においても、組成物自身の温度上昇を抑制するという、今までに知られていない、意外な効果を奏する。そのため、そのような組成物を、ドアトリム、ダッシュボード、家電・OA機器ケース、感熱ドラムの収納ケース、熱源に接するか、近接する部位で用いられる部品、断熱フォーム、金属と積層された成形品、金属を被覆した成形品のいずれかに用いると、使用者がより快適と感じる。
【0011】
前記ポリマー又はオリゴマーが30℃以上でも結晶化を保つ場合は、人が熱いと感じる雰囲気温度中での、最高到達温度を抑制する効果が劣る。30℃〜80℃の温度で、ポリマー又はオリゴマーが完全に液体にならない場合も前述と同様である。好ましくは、融点が30℃〜80℃で、潜熱が30J/g以上である。より好ましくは、融点は35〜65℃で、潜熱は50J/g以上である。
【0012】
ここで融点とは、示差走査熱量計(DSC)チャートにおける、ピーク温度を意味し、ピークが複数ある場合は、最も高温側のピークを意味する。DSCの測定条件は、以下の(1)〜(7)の昇温降温条件で測定する。
(1)25℃から−50℃まで、10℃/分で降温する。
(2)−50℃で10分保持する。
(3)−50℃から80℃まで、10℃/分で昇温する。
(4)80で10分保持する。
(5)80から−50℃まで、10℃/分で降温する。
(6)−50℃で10分保持する。
(7)−50℃から80℃まで、10℃/分で昇温する。
【0013】
本発明で用いるポリマー又はオリゴマーについて、前記DSCで融点を測定した時のチャートで、高温側のピークの裾野終了時の温度が60℃以下であると、人が熱いと感じる雰囲気温度中での、最高到達温度を抑制する効果により優れる。
【0014】
本発明で用いるポリマー又はオリゴマーの重量平均分子量は、15万以下が好ましく、1000〜14万が特に好ましい。重量平均分子量が15万を超えると、結晶化温度が30℃未満、融点が30℃〜80℃、潜熱が30J/g以上であっても、30℃〜80℃の温度で、一部、液体にならない成分を含む恐れがある。重量平均分子量が1000未満の場合は、成形時に飛散する恐れがある。
【0015】
本発明で用いるポリマー又はオリゴマーとしては、以下に示す蓄熱材料や、αオレフィンを30〜50質量%含むエチレン・αオレフィン共重合体を過酸化物で分解して、重量平均分子量を2000〜5万にしたもの、ポリエチレングリコールの類似化合物等が挙げられる。
【0016】
蓄熱材料としては、例えば、従来公知の蓄熱材料を使用できる。蓄熱材料は、外気温度の変化に対応し、それ自身の融解熱、凝固熱により、蓄熱材料に熱を蓄え、その周囲の温度変化幅を、外気の温度変化幅より小さくできる材料である。ポリマー、オリゴマー(高分子化合物、低分子化合物)のいずれでも構わない。
蓄熱材料の例として、融点が80℃以下であって、潜熱が30J/g以上であるポリマー又はオリゴマーからなる材料が挙げられる。この材料は、好ましくは、側鎖結晶型で、潜熱が50J/g以上である。
具体的には、下記(A)〜(C)に示す材料が挙げられる。
(A)式(1)に示される主鎖部X、結合部Y及び側鎖Zから構成され、側鎖Zが結晶化し得る結晶性ユニットを、主構成成分とするポリマー又はオリゴマー
【化1】

(B)上記式(1)に示される主鎖部X、結合部Y及び側鎖Zから構成され、側鎖Zが結晶化し得る結晶性ユニットを、主構成成分とするポリマー又はオリゴマーの架橋体(架橋蓄熱材料)
(C)ポリエーテルである主鎖と、結晶化し得る側鎖とを有するユニットを、主構成成分とするポリマー又はオリゴマー(ポリエーテル蓄熱材料)
【0017】
これらの蓄熱材料は、所望の温度範囲において、材料(A)及び(B)にあっては、側鎖Zの非結晶化又は結晶化により相変化(融解、凝固)し、また、材料(C)にあっては、側鎖の凝集解離により相変化(融解、凝固)し、その際、大きな潜熱を放出又は吸収する。従って、これらの蓄熱材料は、外気温度が上昇すると熱を吸収して融解し、外気温度が低下すると熱を放出して凝固するので、外気温度の変動を和らげ、一定の温度が保たれやすく、蓄熱材料としての機能を発揮する。また、材料(A)及び(B)では、式(1)の主鎖Xが、上記の温度範囲では融解せず、さらに、材料(B)では、架橋によって三次元網目構造となるので、高分子全体が流出することなく形状は保持される。また、これらの蓄熱材料(A)、(B)及び(C)は、側鎖の長さを調節することにより、融点を容易に調節できる。
【0018】
まず、蓄熱材料(A)及び(B)について説明する。
蓄熱材料(A)及び(B)において、式(1)の主鎖部Xは、側鎖Zの結晶化を阻害する構造でなければ特に限定されないが、好ましくは、
【化2】

から選択される少なくとも一種類である。
結合部Yは、主鎖部Xと側鎖Zを結合する部であり、1原子ユニットを意味する。結合部Yは、好ましくは、−CO―、―O―、―CH−から選択される少なくとも一種類である。
側鎖Zは、結晶化できれば特に限定はされないが、好ましくは、炭素数9以上の炭化水素基から選択される少なくとも一種類であり、さらに好ましくは、炭素数9以上の直鎖アルキル基である。
【0019】
特に好ましい、主鎖部X、結合部Y及び側鎖Zからなる結晶性ユニットは、以下に示す、ポリメタクリレート系、ポリアクリレート系、ポリビニルエステル系、ポリビニルエーテル系又は炭化水素系である。


【化3】

【0020】
好ましい蓄熱材料(A)の例として、メタクリル酸又はアクリル酸の長鎖アルキル炭化水素エステル等の重合体が挙げられる。具体例としては、ポリドコシルメタクリレート、ポリヘンエイコシルメタクリレート、ポリエイコシルアクリレート、ポリノナデシルアクリレート、ポリヘプタデシルアクリレート、ポリパルミチルアクリレート、ポリペンタデシルアクリレート、ポリステアリルアクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリミリスチルアクリレート、ポリミリスチルメタクリレート、ポリペンタデシルメタクリレート、ポリパルミチルメタクリレート、ポリヘプタデシルメタクリレート、ポリノナデシルメタクリレート、ポリエイコシルメタクリレート、ポリステアリルメタクリレート、ポリ(パルミチル/ステアリル)メタクリレート、ポリビニルラウレート、ポリビニルミリステート、ポリビニルパルミテート、ポリビニルステアレート、ポリラウリルビニルエーテル、ポリミリスチルビニルエーテル、ポリパルミチルビニルエーテル、ポリステアリルビニルエーテル等が挙げられる。
特に好ましいのは、ポリドコシルメタクリレート、ポリヘンエイコシルメタクリレート、ポリエイコシルメタクリレート、ポリステアリルメタクリレート、ポリノナデシルメタクリレート、ポリヘプタデシルメタクリレート、ポリパルミチルメタクリレート、ポリペンタデシルメタクリレート、ポリミリスチルメタクリレートである。
【0021】
また、好ましい蓄熱材料(B)の例として、上記蓄熱材料(A)の具体例の架橋体が挙げられる。特に好ましいのは、上記蓄熱材料(A)の好適例の架橋体である。
【0022】
好ましくは、主鎖部X、結合部Y及び側鎖Zの重量は、以下の式を満たす。
Z/(X+Y+Z)≧0.75
即ち、側鎖Zの結晶性ユニットに占める割合は75重量%以上である。75重量%未満では、側鎖Zが結晶化できなくなり、本発明の最高到達温度抑制効果があまり発現しない場合がある。
【0023】
蓄熱材料(A)及び(B)は、その特性を損なわない範囲において、他のユニットを含むことにより、所望の機能を発揮させることもできる。
【0024】
例えば、蓄熱材料(A)及び(B)は、親水性ユニットを含むことができる。これらの蓄熱材料は、側鎖として長鎖炭化水素基を有するため疎水性が高いが、親水性ユニットを含ませることにより、親水性を高めることができる。
このような親水性ユニットを形成するモノマーは、特に限定されないが、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等があり、好ましくは、2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。
親水性ユニットの含有量は、好ましくは、50重量%以下であり、より好ましくは、30重量%以下である。50重量%を越えると、側鎖Zの結晶性が低下する場合がある。
【0025】
蓄熱材料(A)及び(B)の重量平均分子量Mwは、好ましくは1,000〜150,000、より好ましくは2,000〜140,000である。Mwが1,000未満では、製品強度が弱く、製品のベトツキ等の原因となる場合がある。一方、150,000を超えると、本発明の最高到達温度抑制効果があまり発現しない場合がある。
【0026】
側鎖Zが非結晶化する温度は、好ましくは−10〜100℃、より好ましくは0〜80℃、さらに好ましくは10〜50℃である。
このような蓄熱材料を含む本発明の組成物を、雰囲気温度が50〜100℃になる環境下で用いる部品に用いると、その部品の最高到達温度が、雰囲気温度より約10〜20℃低くなり、手で触っても、熱さを感じ難い、部品の熱劣化、部品が容器の場合は、内容物が熱で変形する等のメリットが期待できる。
【0027】
蓄熱材料(A)及び(B)の融点と凝固点の差は、好ましくは15℃以内である。蓄熱材料(A)及び(B)の潜熱は、好ましくは30J/g以上、より好ましくは50J/g以上、さらに好ましくは70J/g以上である。また、通常、200J/g以下である。
【0028】
蓄熱材料(A)及び(B)は、所定の温度範囲で、側鎖Zが大きな潜熱を伴って可逆的に結晶化、非結晶化の相転移をするが、主鎖Xはかかる相転移はしない。
【0029】
ここで、凝固点及び潜熱とは、それぞれ示差走査熱量測定(DSC)で測定し、凝固点は、結晶化ピークの頂点の温度を意味する(JIS K 7121)。
【0030】
蓄熱材料(A)及び(B)の製造方法は、特に限定されない(特願2002−329394号明細書参照)。
例えば、材料(A)は、結晶性ユニットを形成し得るモノマー、又は結晶性ユニット及び親水性ユニットを形成し得るモノマーを重合することにより製造できる。
【0031】
また、材料(B)は、結晶性ユニットを形成し得るモノマー、又は結晶性ユニット及び親水性ユニットを形成し得るモノマーを、架橋剤と共に重合することにより製造できる。
架橋を形成する架橋剤(モノマー)としては、ポリエチレングリコール(1000)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(1000)ジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等があり、好ましくは、ポリエチレングリコール(1000)ジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレートである。
架橋剤の量は、結晶性ユニット及び親水性ユニットを形成し得るモノマーに対し、好ましくは、0.1〜20重量%であり、より好ましくは、0.2〜3重量%である。0.1重量%未満では、架橋効果がほとんど表れない。一方、20重量%を越えてもほとんど効果に差がない。
【0032】
次に、蓄熱材料(C)について説明する
蓄熱材料(C)は、上述したように、ポリエーテルである主鎖と、結晶化し得る側鎖とを有するユニットを、主構成成分とするポリマー又はオリゴマーである。
蓄熱材料(C)において、側鎖は、結晶化できれば特に限定はされない。
具体的な蓄熱材料(C)としては、式(2)に示すユニットを有するポリグリセリン系、又は式(3)に示すユニットを有するポリアルキレングリコール系が挙げられる。
【0033】
【化4】

(式中、Rは、炭素数11以上の炭化水素基から選択される少なくとも一種類であり、Rは、炭素数14以上の炭化水素基から選択される少なくとも一種類である。)
【0034】
又はRは、好ましくは上記の炭素数を有する直鎖アルキル基である。具体例としては、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基、トリコシル基等が挙げられる。
特に好ましいのは、トリデシル基(C13)、ペンタデシル基(C15)、ヘプタデシル基(C17)、ヘンエイコシル基(C21)である。
【0035】
例えば、Rが炭素数13のトリデシル基、Rが炭素数14のテトラデシル基であるときは、本発明の蓄熱材料は、それぞれ式(4)又は式(5)に示すユニットを有する。
【0036】
【化5】

【0037】
上記のような構成において、所定の温度で、主鎖は結晶化しないが、長い側鎖同士が互いに結晶化し得る。
【0038】
ポリグリセリン系蓄熱材料の例としては、デカグリセリン−ラウリン酸(C12)反応物、デカグリセリン−ミリスチン酸(C14)反応物、デカグリセリン−パルミチン酸(C16)反応物、デカグリセリン−ステアリン酸(C18)反応物、デカグリセリン−ベヘン酸(C22)反応物等が挙げられる。このうち、好ましいのは、デカグリセリン−ミリスチン酸反応物、デカグリセリン−パルミチン酸反応物、デカグリセリン−ステアリン酸反応物、デカグリセリン−ベヘン酸反応物である。
【0039】
また、ポリアルキレングリコール系蓄熱材料の例としては、ドデシレンオキシド、テトラデシレンオキシド、ヘキサデシレンオキシド、オクタデシレンオキシド等のアルキレンオキシドの重合物等が挙げられる。このうち、好ましいのは、ヘキサデシレンオキシド、オクタデシレンオキシド等の重合物である。
【0040】
蓄熱材料(C)は、側鎖の官能基を変えることにより、所望の機能を発揮させることもできる。
例えば、蓄熱材料(C)は、側鎖として長鎖炭化水素基を有するため疎水性が高いが、アルコール等の親水性官能基を含ませることにより、親水性を高めることができる。
【0041】
蓄熱材料(C)の重量平均分子量Mw、融点、融点と凝固点の差及び潜熱は、蓄熱材料(A)及び(B)と同様である。
【0042】
蓄熱材料(C)も、所定の温度範囲で、側鎖が可逆的に結晶化、非結晶化の相転移をするが、主鎖はかかる相転移はしない。
【0043】
蓄熱材料(C)は、TG−DTA測定装置で測定した空気中での5%重量減少温度が、好ましくは200℃以上、より好ましくは240℃以上である。200℃未満では、加熱加工処理時に蒸発する場合がある。尚、5%重量減少温度とは、蓄熱材料(C)を加熱して、全体の5重量%が減少したときの温度である。
【0044】
蓄熱材料(C)の製造方法は、特に限定されない(特願2002−329394号明細書参照)。
例えば、ポリグリセリン系蓄熱材料は、ポリグリセリン(ポリエーテル主鎖)に存在する水酸基と、直鎖アルキル基を有するカルボン酸(側鎖)のカルボキシル基とを、公知のエステル化反応を用いて反応させることにより製造できる。
一方、ポリアルキレングリコール系蓄熱材料は、アルキレンオキシドを開環重合することにより製造できる。
【0045】
組成物に用いる合成樹脂としては、融点が100℃以上のものが好ましい。具体的には、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、PET)、ポリカーボネート樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、熱可塑性エラストマー樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。このうち、好ましくは、上述した樹脂である。これらは、一種単独で用いてもよく、また、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
蓄熱材料の配合量は、適宜設定できるが、合成樹脂に対して、好ましくは5〜90重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは15〜50重量%である。5重量%未満では、その効果が十分に発揮されない場合がある。一方、90重量%を超えると、基材が硬く、脆くなり易くなる場合がある。
【0047】
組成物には、相溶性改良材として、エポキシ基含有アクリル系ポリマーや、アリルエーテルコポリマー等を配合することができる。これにより、合成樹脂間の相溶性が向上し、蓄熱材料の配合量を増加することが可能となる。
また、組成物には、その特性を損なわない範囲で、種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、耐光剤、無機充填剤(炭酸カルシウム、タルク等)、発泡剤(化学発泡材等)、老化防止剤、抗菌剤、防カビ剤、着色剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤加工助剤、安定剤、可塑剤、架橋剤、反応促進剤等を配合することができる。
【0048】
本発明の組成物から製造する成形品は、例えば、射出成形品、中空成形品、スラッシュ成形品、カレンダー成形品、押出成形品、インフレーション成形品、発泡成形品、圧縮成形品等が挙げられる。これらの成形品は、公知の方法により成形することができる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1
(1)側鎖結晶型蓄熱材の製造
側鎖結晶型蓄熱材として、ポリステアリルメタクリレートを用いた。結晶化温度、融点はともに35℃、潜熱は80J/g、DSCチャートにおける高温側のピークの裾野終了時の温度(完全に液体になる温度と同じ)は40℃、重量平均分子量は80万であった。このポリステアリルメタクリレートは、以下の要領で製造した。
窒素導入管、攪拌装置及び還流装置を装着した、容積2Lのセパラブルフラスコ(4つ口)に、ステアリルメタクリレート(モノマー)400g及び溶媒としてテトラヒドロフラン(以下、THF)700mLを入れた。窒素をフラスコ内に供給しながら、フラスコを70℃に設定したウォーターバスで加熱しながら、ゆっくり攪拌してモノマーを溶媒させた。
モノマーが溶解した後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBN)を0.1g加え攪拌を続けた。この際、窒素の供給量はTHFが還流できる範囲にした。1時間後、フラスコ内の温度が70〜75℃になるようにウォーターバスの温度を調節し、その状態で7〜9時間反応させて反応溶液を得た。反応溶液を、メタノール4Lに、攪拌しながら少量ずつ注ぎ込み、白色固体を析出させ、ろ過した後、風乾、減圧乾燥して、最終的に白色結晶を得た。NMR分析の結果、ポリステアリルメタクリレートであることが確認された。
【0050】
(2)組成物の製造
ポリプロピレン(出光石油化学(株)製、J−762HP)に、(1)で得られたポリステアリルメタクリレートを、35質量%配合して組成物を製造した。
【0051】
評価例
(1)(2)で得られた組成物からシートを成形し、100mm(縦)×100mm(横)×6mm(厚み)のサンプルA(蓄熱材の融点が35℃)を作成した。蓄熱材を含まないポリプロピレン(出光石油化学(株)製、J−762HP)からも同様にブランクサンプルRを作成した。
図1は実施例で得られたサンプルの評価方法を示す図である。図1に示すように、恒温槽1内に、サンプルAをウレタン発泡材(断熱材)からなる台3に、設置した。台3は、金属メッシュ5の上にある。恒温槽1のスイッチは切って、恒温槽の外から中を熱源9で照射した。この評価方法は、真夏の昼間に駐車している車内を想定している。
【0052】
図2に示すように、サンプルAの裏面の温度、及び恒温槽内の温度を熱電対で経時的に測定した。結果を図3に示す。
さらに、サンプルAに代えて、サンプルRを用いて同様の測定をし、その結果も併せて図3に示す。
図3において、各カーブは以下の結果を示す。
1 サンプルRの温度
2 サンプルAの温度
3 恒温槽内の温度
槽内の温度が上昇するにつれ、サンプルA,Rの温度は共に上昇したが、サンプルAは、融点近傍で温度上昇が緩和された。60℃を過ぎても、サンプルAとサンプルRの温度差は変わらず、最高到達温度に差がでた。
【0053】
(2)次に、真夏の昼間に駐車している車内により近づけるために、以下の実験を行った。
金属環の周囲に熱可塑性材料が被覆されたハンドルから、その熱可塑性材料を、金属環が露出するまで剥ぎ取った。その剥ぎ取った空間を埋めるように、厚み3mmのシート状サンプルAに切れ目を入れて巻きつけた。さらに、その上に、厚み3mmのシート状サンプルAを前記同様に巻きつけ、計6mm厚のシート状サンプルAをハンドルに装着した。その状態で、シートの裏面と表面の温度変化を測定した。さらに、サンプルAに代えて、サンプルRを用いて同様の測定をした。
結果を図4に示す。
図4において、各カーブは以下の結果を示す。
1 サンプルRの表面温度
2 サンプルRの裏面温度
3 サンプルAの表面温度
4 サンプルAの裏面温度
5 庫内の温度
表面温度は、熱電対の先(センサー部)を、表面に近い表層に突き刺して測定した温度である。熱電対の先は、表面に露出させなかった(表面に、熱電対の先が露出すると、温度が安定しない)
【0054】
(3)参考として、外からの熱源9を用いないで、恒温槽1のスイッチを入れて、60℃に昇温した。測定した結果を図5に示す。
図5において、各カーブは以下の結果を示す。
1 サンプルRの表面温度
2 サンプルRの裏面温度
3 サンプルAの表面温度
4 サンプルAの裏面温度
5 恒温槽内の温度
図5に示すように、サンプルAは、融点近傍で、温度上昇が緩和されているが、最高到達温度は、恒温槽の設定温度(60℃)であり、サンプルA,Rに差はない。このような結果が従来予想されるものであり、図3,4のように最高到達温度に差が出ることは、予期できない効果といえる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の組成物は、ドアトリム、ダッシュボード、家電・OA機器ケース、感熱ドラムの収納ケース、熱源に接するか、近接する部位で用いられる部品、断熱フォーム、金属と積層した成形品、金属を被覆した成形品のいずれかに用いられる。
本発明の組成物は、熱源に接するか、近接する部位で用いると、最低到達温度効果が顕在化する。ここで、熱源は、熱を発生するものであれば制限は無く、CPU等も含む。また、近接するとは、約5cm以内である。特に好ましくは、使用、保管時の最高温度が、80℃以下の範囲になる部材、成形品に用いる。
熱源に接するか、近接する部位で用いられる部品の例として、CPUを冷却するファンカバー、半導体と、そのカバーをつなぐ接着部、モーターのカバー、光源を覆うカバー(反射カバー)等が挙げられる。
金属を被覆した成形品の例として、環状の金属芯を、熱可塑性材や人工皮革で巻いて形成されたハンドルが挙げられる。熱可塑性材や人工皮革が、本発明のポリマー又はオリゴマーを含む。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例で得られたサンプルの評価装置を示す図である。
【図2】図1の装置に設置するサンプルを示す図である。
【図3】実施例で得られたサンプルの第1の評価結果を示す図である。
【図4】実施例で得られたサンプルの第2の評価結果を示す図である。
【図5】参考結果を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 恒温槽
3 台
5 金属メッシュ
7 ガラス窓
9 熱源
A 実施例のサンプル
R ブランクサンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアトリム、ダッシュボード、家電・OA機器ケース、感熱ドラムの収納ケース、熱源に接するか、近接する部位で用いられる部品、断熱フォーム、金属と積層した成形品、金属を被覆した成形品のいずれかに用いられる、30℃未満で結晶化し、30℃〜80℃で完全に液体になるポリマー又はオリゴマーを含む組成物。
【請求項2】
前記ポリマー又はオリゴマーが、潜熱が30J/g以上のポリマー又はオリゴマーである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリマー又はオリゴマーの潜熱が、50J/g以上である請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリマー又はオリゴマーの重量平均分子量が、15万以下である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリマー又はオリゴマーが、側鎖結晶型である請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリマー又はオリゴマーの示差走査熱量計チャートにおける高温側のピークの裾野終了時の温度が、60℃以下である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−77192(P2006−77192A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264965(P2004−264965)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】