説明

有価金属の浸出方法及びこの浸出方法を用いた有価金属の回収方法

【課題】リチウムイオン電池の正極材から有価金属を浸出し、回収する。
【解決手段】酸性溶液に正極材を浸漬させ、正極活物質及びこの正極活物質が固着した正極基板を溶解させて、正極基板を還元剤として用い、正極活物質から有価金属を浸出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の正極から有価金属を効率よく、またコスト削減が図られた方法により有価金属を浸出させる有価金属の浸出方法及びこの浸出方法を用いた有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の地球温暖化傾向に対し、電力の有効利用が求められている。その一つの手段として電力貯蔵用2次電池が期待され、また大気汚染防止の立場から自動車用電源として、大型2次電池の早期実用化が期待されている。また、小型2次電池も、コンピュータ等のバックアップ用電源や小型家電機器の電源として、特にデジタルカメラや携帯電話等の電気機器の普及と性能アップに伴って、需要は年々増大の一途を辿る状況にある。
【0003】
これら2次電池としては、使用する機器に対応した性能の2次電池が要求されるが、一般にリチウムイオン電池が主に使用されている。
【0004】
このリチウムイオン電池は、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極基板に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔等からなる正極基板にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質が固着させた正極材、アルミニウムや銅からなる集電体、ポリプロピレンの多孔質フィルム等の樹脂フィルム製セパレータ、及び電解液や電解質等が封入されている。
【0005】
ところで、リチウムイオン電池の拡大する需要に対して、使用済みのリチウムイオン電池による環境汚染対策の確立が強く要望され、有価金属を回収して有効利用することが検討されている。
【0006】
上述した構造を備えたリチウムイオン電池から有価金属を回収する方法としては、例えば特許文献1及び2に記載されるような乾式処理又は焼却処理が利用されている。この場合、有価金属のニッケル、コバルト等は多くが磁石等に再利用されている。
【0007】
しかしながら、乾式処理又は焼却処理の方法は、熱エネルギーの消費が大きいうえ、リチウム(Li)やアルミニウム(Al)を回収できない等の欠点があった。回収金属の純度の問題もあり、リチウムイオン電池への再利用は困難である。また、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)が含有されている場合には、炉材の消耗が著しい等の問題もあった。
【0008】
このような乾式処理又は焼却処理の問題に対して、特許文献3及び4に記載されているように、湿式処理によって有価金属を回収する方法が提案されている。正極活物質を湿式処理により溶解し、精製することにより、正極活物質を金属Ni、Co、化合物、又は電池材料に再生することができる。この湿式処理による方法においては、酸性溶液等を用いて、リチウムイオン電池の解体物を全て溶解して有価金属を回収する全溶解法が提案されている。しかしながら、この全溶解法の場合、大過剰に存在するアルミニウム、銅(Cu)、鉄(Fe)等の元素に薬品が消費されてしまい、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、リチウム等の有価金属を効果的に回収するには経済的ではなかった。
【0009】
リチウムイオン電池から正極材を選択的に剥離して、その正極材から有価金属を効率的に回収する選択剥離法による湿式処理が提案されている。この正極材の選択剥離法においては、先ず、有価金属が含まれる正極活物質を正極基板(正極箔)(Al等)から剥離するのが最初の化学処理とすることが一般的である。正極基板を剥離する処理は、酸性又はアルカリ性の溶液を使用して、正極基板から正極活物質を剥離する。剥離された正極活物質は、3価のNi,Coを含んでいる。正極活物質中のNi、Coの有価金属を浸出させるためには、酸性溶液中にて、正極活物質を固体の状態から液体の状態、即ち金属イオン状態にすることで、有価金属を浸出させることができる。
【0010】
しかしながら、ニッケルやコバルト等の3価の有価金属は酸に容易に溶解しないため、容易に金属イオン状態にすることができない。
【0011】
そこで、有価金属を浸出させる方法としては、例えば特許文献5に記載されているように、酸性溶液に亜硫酸塩等の還元剤を添加し、還元剤の還元力を利用する方法がある。この方法は、正極活物質のLiCoOやLiNiO等の化合物を効果的かつ迅速に金属イオンに分解することができ、正極活物質中のニッケル、コバルト等の有価金属を浸出させることができる。
【0012】
このような湿式処理による有価金属の浸出方法では、有価金属を浸出させる前に、正極活物質からアルミニウム等の正極基板を剥離する必要があり、この剥離は正極基板を溶解させるために多くのアルカリ溶液が必要となる。また、有価金属を浸出させる際の正極活物質の溶解に必要な還元剤は、Ni、Coと等モルの電子を必要とするため、添加量が多くなる。したがって、このような湿式処理による有価金属の浸出方法では、アルカリ溶液や還元剤の使用量が多くなり、有価金属を浸出させるための費用が嵩み、経済性が損なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平07−207349号公報
【特許文献2】特開平10−330855号公報
【特許文献3】特開平08−22846号公報
【特許文献4】特開2003−157913号公報
【特許文献5】特開平11−293357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、有価金属の浸出を効率良く行うことができ、還元剤の使用量を低減でき、コスト削減を図ることができる有価金属の浸出方法及び有価金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成する本発明に係る有価金属の浸出方法は、リチウムイオン電池の正極材に含まれる有価金属を浸出させる有価金属の浸出方法であって、酸性溶液に正極材を浸漬させ、正極活物質及びこの正極活物質が固着した正極基板を溶解させて、正極活物質から有価金属を浸出させることを特徴とする。
【0016】
また、上述した目的を達成する本発明に係る有価金属の回収方法は、リチウムイオン電池の正極材に含まれる有価金属を回収する有価金属の回収方法であって、酸性溶液に正極材を浸漬させ、正極活物質及びこの正極活物質が固着した正極基板を溶解させて、正極活物質から有価金属を浸出させる浸出工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リチウムイオン電池を構成する正極材から有価金属を浸出するにあたり、有価金属の浸出を効率良く行うことができ、コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る有価金属の浸出方法及びこの浸出方法を利用し、リチウムイオン電池から有価金属を回収する有価金属の回収方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
本発明は、リチウムイオン電池を構成する正極材の正極活物質から有価金属を湿式処理により浸出させる際に、還元剤を添加せず又は少量の還元剤で有価金属を酸性溶液中に溶解させることができるため、薬品の使用量を低減でき、コストを削減でき、効率よく有価金属を回収することができるものである。
【0021】
本発明では、湿式処理において、リチウム、ニッケル及びコバルトを含む正極活物質及びアルミニウム箔等により形成された正極基板を酸性溶液中で一緒に溶解させることによって、正極基板を還元剤として使用することができるため、正極基板の還元力により正極活物質を還元することができる。これにより、本発明では、別途還元剤を添加することなく又は別途添加する還元剤の添加量を従来よりも非常に少なくしても、有価金属を金属イオンとすることができる。
【0022】
具体的に、有価金属の回収方法は、酸性溶液にリチウムイオン電池の正極材を浸漬させ、正極活物質及びこの正極活物質が固着した正極基板を一緒に溶解させ、正極活物質から有価金属を浸出させる浸出工程を有する。
【0023】
ここで、正極活物質は、例えば、LiCoOやLiNiO等であり、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の有価金属が含まれている。正極基板としては、アルミニウム箔等である。なお、有価金属の原料となる正極材としては、リチウムイオン電池の製造工程の中間品や、回収スクラップ品等を用いることが好ましい。また、篩選別等の前処理で、正極材をクリーンな原料にすることが可能であればより好ましい。
【0024】
この有価金属を回収する回収方法は、図1に示すように、破砕・解砕工程S1と、洗浄工程S2と、浸出工程S3と、硫化工程S4とを有する。なお、リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法については、これらの工程に限られるものではなく、適宜変更することができる。
【0025】
(1)破砕・解砕工程
破砕・解砕工程S1では、使用済みのリチウムイオン電池から有価金属を回収するために、電池を破砕・解砕することによって解体する。このとき、電池が充電された状態では危険であるため、解体に先立って、電池を放電させることにより無害化することが好ましい。
【0026】
この破砕・解砕工程S1では、無害化させた電池を、通常の破砕機や解砕機を用いて適度な大きさに解体する。また、外装缶を切断し、内部の正極材や負極材等を分離解体することもできるが、この場合は分離した各部分をさらに適度な大きさに切断することが好ましい。
【0027】
(2)洗浄工程
洗浄工程S2では、破砕・解砕工程S1を経て得られた電池解体物を、アルコール又は水で洗浄することにより、電解液及び電解質を除去する。リチウムイオン電池には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の有機溶剤や、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)のような電解質が含まれている。
【0028】
電池解体物の洗浄にはアルコール又は水を使用し、電池解体物を好ましくは10〜300g/lの割合で投入して、振盪又は撹拌して有機成分及び電解質を除去する。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、及びこれらの混合液が好ましい。電池材料を構成するカーボネート類は一般的に水に不溶であるが、炭酸エチレンは水に任意に溶け、その他の有機成分も水に多少の溶解度を有しているため、水でも洗浄可能である。また、アルコール又は水に対する電池解体物の量については、10g/lより少ないと経済的ではなく、また300g/lよりも多くなると電池解体物がかさばって洗浄が難くなる。
【0029】
電池解体物の洗浄は、複数回繰り返して行うことが好ましい。また、例えば最初にアルコールのみを用いて洗浄した後に水を用いて再度洗浄する等、洗浄液の成分を変えて繰り返し行ってもよい。この洗浄工程S2により、有機成分及び電解質に由来するリンやフッ素等を後工程に影響を及ぼさない程度にまで除去することができる。
【0030】
(3)浸出工程
浸出工程S3では、正極基板に正極活物質が固着したまま、即ち正極材を酸性溶液に浸漬させ、酸性溶液を用いて正極基板の溶解と正極活物質からニッケル、コバルト等の金属イオンの浸出を同時に行い、スラリーとする。浸出工程S3では、酸性溶液に、還元効果が高い正極基板のアルミニウム等が含まれているため、正極活物質のLiCoOやLiNiO等の化合物を効果的かつ迅速に金属イオンに分解させることができ、正極活物質中のニッケル、コバルト等の有価金属の浸出率を向上させることができる。
【0031】
酸性溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の鉱酸のほか、有機酸等を使用することができる。その中でも、コスト面、作業環境面、及び浸出液からニッケルやコバルト等を回収するという観点から、工業的には硫酸溶液を使用することが好ましい。
【0032】
浸出の条件としては、鉱酸や有機酸の濃度、温度、スラリー濃度、攪拌強度等に最適パラメータが存在し、処理に長時間必要となるような非合理的な状態を避けるパラメータを選定する必要がある。例えば、硫酸溶液の場合には、それぞれ、硫酸濃度が0.5〜10mol/l、酸性溶液のpHが0〜1、温度が40℃以上100℃未満、スラリー濃度が10〜300g/l、攪拌強度は容器内活物質がすべて対流している程度となるようにする。
【0033】
硫酸濃度は、0.5〜10mol/lであることが好ましく、濃度が高いほど正極活物質や正極基板の溶解反応が速くなり、4mol/lを超えると、硫酸ニッケル(NiSO)の結晶が生成されやすくなってしまう。したがって、硫酸の濃度は4mol/lとすることが最も好ましい。
【0034】
硫酸溶液のpHは、0〜1とすることが好ましい。硫酸溶液のpHを0〜1とすることによって、正極活物質及び正極基板の溶解反応が開始され、酸化還元電位(ORP)(参照電極:銀/塩化銀電極)が低下する。また、硫酸溶液は、正極活物質の溶解反応が進むにつれてpHが上昇するので、反応中にも硫酸を補加して、pHを0〜1程度に保持することが好ましい。また、硫酸溶液のpHが1よりも大きい場合には、正極基板が不働態化し、ORPが上昇する。
【0035】
硫酸溶液の温度は、高くなるほど溶解反応は速くなり、40℃以上、100℃未満とすることが好ましく、70℃〜80℃とすることが更に好ましい。硫酸溶液の温度が40℃より低い場合には、溶解速度が遅くなってしまう。
【0036】
スラリー濃度は、10〜300g/lとすることが好ましい。スラリー濃度が10g/lよりも低い場合には、処理すべき液量が増加して処理が非効率的となり、300g/lよりも高い場合には、沈降などにより均一なスラリーを得ることが難しくなり、スラリーの均一性が問題となってしまう。したがって、スラリー濃度を10〜300g/lとすることが好ましい。
【0037】
なお、浸出工程S3では、正極基板を全溶解させた後、有価金属を浸出するのに必要な還元力が足りない場合には別途還元剤を添加するようにしてもよい。別途還元剤を添加する場合でも、上述したように正極基板を還元剤として使用しているので、少量添加するだけで正極活物質から有価金属をほぼすべて浸出させることができる。別途添加する還元剤としては、正極基板と同じアルミニウム等が好ましく、従来から使用されている亜硫曹等であってもよい。
【0038】
このような浸出工程S3では、従来のようにアルカリ溶液を用いて正極基板を正極活物質から剥離する前処理を行う必要がなく、有価金属の浸出作業を合理化することができるため、作業効率を上げることができる。
【0039】
また、従来では、正極活物質から正極基板を剥離して、有価金属を浸出させる際に、使用する薬品として、苛性ソーダ、硫酸、亜硫酸ナトリウム(還元剤)等の多くの薬品を使用し、またアルミ含有廃液処理のコストがかかっていた。一方、この浸出工程S3では、酸性溶液中で正極基板を還元剤として用いて有価金属の浸出を行っているため、正極基板を剥離する際に必要な薬品は不要となり、有価金属を浸出させるために必要な薬品としては主に酸性溶液と必要に応じて添加する還元剤であり、使用する薬品が少なく、コストを大幅に削減することができる。
【0040】
特に、浸出工程S3では、正極基板を還元剤として用いることができるため、別途還元剤を添加することが不要であり、又は別途還元剤を添加する場合であっても従来よりも少量でアルミニウム等の安価の還元剤で有価金属を浸出させることができるため、最もコストインパクトの大きい還元剤を使用せず、又は使用量を大幅に削減することができるとともに、作業の合理化やアルカリ溶液等の他の薬品の使用量を低減することもできる。
【0041】
(4)硫化工程
硫化工程S4では、浸出工程S3を経て得られた浸出液を反応容器に導入し、硫化剤を添加することによって硫化反応を生じさせ、ニッケル・コバルト混合硫化物を生成することによって、リチウムイオン電池から有価金属であるニッケル、コバルトを回収する。硫化剤としては、硫化ナトリウムや水硫化ナトリウム等の硫化アルカリを用いることができる。
【0042】
なお、硫化工程S4を行う際に、浸出液に含有されている不純物、例えば溶解せずに残存している正極基板等を篩選別等の前処理により除去するようにしてもよい。
【0043】
具体的に、この硫化工程S4では、溶液中に含まれるニッケルイオン(又はコバルトイオン)が、下記(1)式、(2)式又は(3)式に従って、硫化アルカリによる硫化反応により、硫化物となる。
【0044】
Ni2++HS⇒NiS+2H (1)
Ni2++NaHS⇒NiS+H+Na (2)
Ni2++NaS⇒NiS+2Na (3)
【0045】
硫化工程S4における硫化剤の添加量としては、例えば、溶液中のニッケル及びコバルトの含有量に対して1.0当量以上とすることが好ましい。硫化剤の添加量を0.1当量以上とすることによって、溶液中のニッケル及びコバルトの濃度を0.001g/l以下とすることができる。
【0046】
ただし、操業においては、浸出液中のニッケル及びコバルトの濃度を精確かつ迅速に分析することが困難な場合があることから、それ以上に硫化剤を添加しても反応溶液中のORPの変動がなくなる時点まで硫化剤を添加することがより好ましい。通常、反応は−200〜400mV(参照電極:銀/塩化銀電極)の範囲で完結するため、そのORP値に基づいて添加することが好ましい。これにより、溶液中に浸出されたニッケルやコバルトを確実に硫化させることができ、これら有価金属を高い回収率で回収することができる。
【0047】
硫化工程S4における硫化反応に用いる溶液のpHとしては、pH2〜4程度が好ましい。また、硫化工程S4における硫化反応の温度としては、特に限定されるものではないが、0〜90℃とすることが好ましく、25℃程度とすることがより好ましい。
【0048】
このような硫化工程S4では、硫化反応により、リチウムイオン電池の正極活物質に含まれていたニッケル、コバルトを、ニッケル・コバルト硫化物(硫化澱物)として回収することができる。この硫化工程S4では、ニッケル・コバルト硫化物が不純物とは分離して回収でき、不純物は廃液に含まれるようになる。
【0049】
以上のような有価金属の回収方法では、浸出工程S3と硫化工程S4との間に、浸出工程S3を経て得られた浸出液に含まれる正極に由来するアルミニウム、銅、鉄、クロム等の不純物を沈澱物として分離回収する中和工程を設けてもよい。
【0050】
中和剤としては、ソーダ灰や消石灰、水酸化ナトリウム等の一般的な薬剤を用いることができ、これらの薬剤は安価で取り扱いも容易である。
【0051】
溶液のpHとしては、上述した中和剤を添加することによって、pH3.0〜5.5に調整することが好ましい。pHが3.0より小さい場合ではアルミニウム、銅を澱物として分離回収することができない。一方で、pHが5.5より大きい場合には、ニッケルやコバルトが同時に沈澱してしまい、アルミニウム及び銅の澱物中に含有されてロスとなるため好ましくない。なお、その他の元素として溶液中に鉄が含有されている場合でも、アルミニウム及び銅と同時に澱物中に分離することができる。
【0052】
中和工程では、上述した浸出工程S3において酸性溶液に正極材を浸漬させているため、正極活物質に含まれていたアルミニウム、銅、鉄、クロム等が浸出液に含まれているが、後の有価金属を回収する硫化工程S4を行う前に除去することができる。この中和工程を行うことによって、有価金属を回収する際に、回収物に不純物が混入することをより防止することができる。
【0053】
上述した有価金属の回収方法では、正極活物質から有価金属を浸出させる浸出工程S3において、正極活物質とともに正極基板も酸性溶液中に浸漬させて一緒に溶解させることによって、正極基板のアルミニウム等が還元剤となり、LiCoOやLiNiO等の正極活物質から有価金属を浸出させることができる。このため、この有価金属の回収方法では、従来のように正極基板を正極活物質から剥離する前処理を行っておらず、有価金属の浸出作業を合理化することができるため、作業効率を上げることができる。
【0054】
また、この有価金属の回収工程では、正極基板を還元剤として用いることにより、別途還元剤を添加することが不要であり、又は別途還元剤を添加する場合には従来よりも少量の還元剤を添加するだけで有価金属を浸出させることができる。これにより、この有価金属の回収工程では、有価金属を浸出させるために必要な薬品としては主に酸性溶液と必要に応じて添加する還元剤であり、最もコストインパクトの大きい還元剤を使用せず、又は使用量を大幅に削減することができ、またアルカリ溶液等の他の薬品の使用量も低減することができるため、コストを削減することができる。
【0055】
なお、本実施の形態に係るリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法は、上述した各工程からなるものに限られるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて、適宜変更することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
実施例1では、リチウムイオン電池から有価金属のニッケル、コバルトを回収した。まず、原料としてニッケル、コバルトを含む正極活物質が付着したアルミニウム箔からなる正極基板のみ、即ち正極材を二軸破砕機により、1cm角程度の大きさに切断した。
【0058】
この正極材を4mol/l、80℃の硫酸溶液に浸漬し、攪拌によって正極基板(Al)の溶解と正極活物質の浸出を同時に行った。正極基板のAlは、正極材全体に対して10wt%程度であり、この切断した正極材30gを80℃で溶解し、最終的に350mlとした。
【0059】
硫酸は、反応を見ながら約1時間かけて徐々に供給し、所定量供給後、攪拌、反応の進行を維持し、トータル約2時間40分でAlの全溶解を確認した。このスラリー溶液の濃度は、100g/lである。Alが残っている間は、溶液のORPが0mV近傍を動くのであるが、Al量の減少ともに徐々に上がり始め、全量溶解の段階で1000mVを超える程度に達した。
【0060】
そして、浸出液中のNi、Coと浸出せずに固体として残渣中に残ったNi、Co量を分析したところ、正極活物質中のNi浸出率は85.8%、Coの浸出率は87.8%、Alは99.7%であった。還元剤を供給しなければほとんど浸出することのない正極活物質(有価金属)が、正極基板(Al)を還元剤として浸出することにより、85%の還元剤を削減することが可能になることが実施例1よりわかる。Niが約85%浸出、つまり約85%還元されていることから、少なくともその分の還元剤の添加は不要となるため、約85%還元剤を削減できているといえる。浸出率は、{浸出液中のNi、Co量}÷{(浸出液中のNi、Co量)+(残渣中に残ったNi、Co量)}より求めた。
【0061】
なお、上記処理により浸出させることができなかったニッケル及びコバルトは、少量の亜硫曹を添加することによって、すべて浸出させることができた。
【0062】
以上、実施例1から、アルミニウム箔の正極基板のみによって正極活物質中の約85%以上のニッケルやコバルトを浸出させることができ、残りのニッケルやコバルトを少量の亜硫曹で浸出させることによって、ニッケル及びコバルトの浸出率をほぼ100%とすることができる。
【0063】
(比較例1)
比較例1では、硫酸溶液の濃度を0.1mol/lに設定したこと以外は、実施例1と同じ条件で正極活物質(有価金属)の浸出を行った。2時間経過後でもほとんどのAlが残っており溶解しておらず、正極活物質(有価金属)の浸出も起こらなかった。
【0064】
以上より、有価金属を浸出する際に、実施例1における条件とすることによって、正極基板のAlが還元剤として働き、約85%以上の有価金属を浸出することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の正極材に含まれる有価金属を浸出させる有価金属の浸出方法であって、
酸性溶液に上記正極材を浸漬させ、正極活物質及びこの正極活物質が固着した正極基板を溶解させて、上記正極活物質から上記有価金属を浸出させることを特徴とする有価金属の浸出方法。
【請求項2】
上記正極基板は、アルミニウム箔であることを特徴とする請求項1記載の有価金属の浸出方法。
【請求項3】
上記有価金属は、ニッケル及びコバルトであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の有価金属の浸出方法。
【請求項4】
リチウムイオン電池の正極材に含まれる上記有価金属を回収する有価金属の回収方法であって、
酸性溶液に上記正極材を浸漬させ、正極活物質及びこの正極活物質が固着した正極基板を溶解させて、上記正極活物質から上記有価金属を浸出させる浸出工程を有することを特徴とする有価金属の回収方法。
【請求項5】
上記正極基板は、アルミニウム箔であることを特徴とする請求項4記載の有価金属の回収方法。
【請求項6】
上記有価金属は、ニッケル及びコバルトであることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の有価金属の回収方法。
【請求項7】
更に、上記浸出工程で得られた浸出液に硫化剤を添加して、上記有価金属の混合硫化物を形成する硫化工程を有することを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項記載の有価金属の回収方法。
【請求項8】
更に、上記硫化工程の前に、上記浸出工程で得られた浸出液を中和剤で中和し、上記浸出液に含まれている不純物の金属を沈澱物として分離回収する中和工程を有することを特徴とする請求項7記載の有価金属の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−153956(P2012−153956A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15404(P2011−15404)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】