説明

有害元素低減材及び有害元素低減方法

【課題】処理対象物からヒ素を簡単、迅速、且つ、安価に除去すること。
【解決手段】本発明に係る有害元素低減方法は、製鋼スラグを85質量%以上含む有害元素低減材を処理対象物に接触させることによって、処理対象物のヒ素含有量を低減させる処理工程を含む。この処理工程を実行する前に、処理対象物に含まれる3価のヒ素を5価のヒ素に酸化させることが望ましい。製鋼スラグは、鉄の含有率が20質量%以上、カルシウムの含有率が20質量%以上、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下の製鋼スラグであるとよい。これにより、処理対象物からヒ素を簡単、迅速、且つ、安価に除去することができる。また、全く同様の処理により、ヒ素と同時に6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛を簡単、迅速、且つ、安価に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水、廃液、地下水などの水、土壌、廃棄物などの処理対象物からヒ素、6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛を除去するための有害元素低減材及び有害元素低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自然発生的要因及び/又は産業発生的要因によって発生した有害元素に起因する環境保全上の支障の除去の必要性が高まっている。このため、水質汚濁防止法では、排水中におけるヒ素(As)の濃度が0.1mg/L以下に定められ、土壌汚染対策法では、環境省告示13号及び46号試験法での溶出液中におけるヒ素の濃度(土壌環境基準値(平6環庁告25))が0.01mg/L以下(農用地においては15mg/L未満)に定められている。
【0003】
水、土壌、廃棄物などの処理対象物からヒ素を除去する方法としては種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1〜3には、鉄系化合物によるイオン交換反応や凝集沈殿分離を利用してヒ素を除去する方法が記載されている。特許文献4,5には、活性アルミナなどのアルミニウム化合物による化学吸着を利用してヒ素を除去する方法が記載されている。特許文献6には、第一鉄塩とCa(OH)とを排水に添加してヒ素を凝集分離する方法が記載されている。特許文献7〜11には、カルシウム源としてのカルシウムフェライトを提供する高炉徐冷スラグが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−108280号公報
【特許文献2】特開平9−85224号公報
【特許文献3】特開平10−34124号公報
【特許文献4】特開平10−128313号公報
【特許文献5】特開2001−252675号公報
【特許文献6】特開2002−192167号公報
【特許文献7】特開2000−86322号公報
【特許文献8】特許第4179604号公報
【特許文献9】特許第3960947号公報
【特許文献10】特許第3841770号公報
【特許文献11】特許第4264523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3記載の方法では、鉄系化合物として還元性鉄粉を用いているために、処理対象物からヒ素を除去するまでに多くの時間を要する。特許文献2,3記載の方法では、鉄系化合物として硫酸第一鉄を用いているために、系に硫黄系の化合物を添加する必要があり、環境負荷の弊害が新たに発生するおそれがある。また、水酸化物としての沈殿分離では、固液分離操作が煩雑であるのに加えて、pHなどの調整が必要であり、またpHの変動によってヒ素の補集率が大幅に変動することがある。
【0006】
特許文献4,5記載の方法では、アルミニウム化合物として用いられるハイドロタルサイトや酸化アルミニウムなどの材料が高価であるのに加えて、アルミニウム摂取とアルツハイマー病との関連が指摘されるなど、安全性が十分に検証されていない。特許文献6記載の方法では、固液分離操作が煩雑であるのに加えて、pHなどの調整が必要である。特許文献8記載の方法は、カルシウムフェライトと高炉水砕スラグとの混合物を用いてCr(6価),As,Seを固定化する方法であるが、これは特許文献7に記載された高炉水砕スラグによるCr(6価)固定化の方法を発展させた方法であり、5〜90%のカルシウムフェライトが必要であるため、高価である。
【0007】
特許文献9,10記載の方法は、S,Feを含有する高炉徐冷スラグをヒ素低減材として用いるものであるが、Sの混入は新たな環境負荷の要因となりうるため好ましくない。特許文献11記載の方法は、高炉徐冷スラグと製鋼スラグとからなるヒ素低減材であるが、Sを0.3%以上含有しているために、Sの混入が新たな環境負荷の要因となりうるため好ましくない。また、有害物質低減材を添加混合した際の水又は土壌のpHが7以下であることが規定されており、pHが7を超えるような処理対象物には適用できない、若しくは、pHを7以下に調整するための煩雑な処理が必要になる。特許文献8〜11記載の方法では、水質検液50mLに対して10gと非常に多くのヒ素低減材が必要な上に、非常に長い処理日数(実施例では28日)が必要になる。
【0008】
処理が求められる汚染土壌などには通常0.1μg/kg〜数1000mg/kgのヒ素が含まれている。このため、このような土壌に対して、同程度若しくは同程度以下の量のヒ素低減材を用いてpHを7以下に調整することなく、ヒ素を低減できる方法の提供が望まれている。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、処理対象物からヒ素を簡単、迅速、且つ、安価に除去可能な有害元素低減材及び有害元素低減方法を提供することにある。
【0009】
また、ヒ素以外の環境規制物質である6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛は、ヒ素と同一の処理で除去することが困難な成分であるが、これらをヒ素と同時に低減できれば、処理はより簡単、迅速、且つ、安価になりうる。そこで、本発明の他の目的は、全く同一の処理により、処理対象物からヒ素と同時に6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛を簡単、迅速、且つ、安価に除去可能な有害元素低減材及び有害元素低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る有害元素低減材は、製鋼スラグを85質量%以上含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る有害元素低減材は、上記発明において、製鋼スラグは、鉄の含有率が20質量%以上であり、カルシウムの含有率が20質量%以上であり、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下である製鋼スラグであることを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る有害元素低減方法は、鉄の含有率が20質量%以上であり、カルシウムの含有率が20質量%以上であり、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下である製鋼スラグを85質量%以上含む有害元素低減材を処理対象物に接触させることによって、該処理対象物のヒ素含有量を低減させる処理工程を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る有害元素低減方法は、上記発明において、前記処理工程の前に、前記処理対象物に含まれる3価のヒ素を5価のヒ素に酸化させる工程を含むことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る有害元素低減方法は、鉄の含有率が20質量%以上であり、カルシウムの含有率が20質量%以上であり、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下である製鋼スラグを85質量%以上含む有害元素低減材を処理対象物に接触させることによって、該処理対象物のヒ素、6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛のうちの少なくとも一つの元素の含有量を低減させる処理工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る有害元素低減材及び有害元素低減方法によれば、処理対象物からヒ素を簡単、迅速、且つ、安価に除去することができる。また、本発明に係る有害元素低減材及び有害元素低減方法によれば、全く同一の処理により、処理対象物からヒ素と同時に6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛を簡単、迅速、且つ、安価に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、攪拌時間の変化に伴う3価のヒ素の残存率の変化を示す図である。
【図2】図2は、攪拌時間の変化に伴う5価のヒ素の残存率の変化を示す図である。
【図3】図3は、転炉スラグ及び脱硫スラグに捕集されなかったヒ素、6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛の残存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の発明者らは、鋭意研究を重ねてきた結果、製鋼スラグが、Feによるイオン交換作用及び吸着作用、Fe水酸化物による凝集作用、及びCaOによるpH調整作用を複合的に発揮することによって、pHがアルカリ側で水中のヒ素及び固体から溶出するヒ素を捕集する高い能力を有することを知見した。pHが酸性でもヒ素捕集効果は高くなるが、製鋼スラグそのものが処理液に溶解するため好ましくない。一方、pHがアルカリ側になるほどヒ素捕集効果は高くなり、実質的にpH9以上で充分な効果を発揮する。ここで、製鋼スラグとは、溶銑やスクラップなどを精錬して鋼を製造する際に同時に製造される転炉スラグ、電気炉スラグ、及びそのほか製鋼工程で製造される溶銑予備処理スラグ(溶銑を転炉に装入する前に溶銑の脱硫、脱珪などの処理をする際に生成されるスラグ。予備処理の内容に応じて生成されるスラグを脱硫スラグ、脱珪スラグなどと称する)、二次精錬スラグ(転炉などから出鋼した溶鋼に脱硫、脱ガスなどの処理をする際に生成されるスラグ)、スロッピングスラグ(転炉吹錬中に炉内から飛び出し、炉下に落下したスラグ)、鋳造スラグ(溶鋼を鋳型又は連続鋳造機に注入した後、溶鋼鍋に残留したスラグ)、及び混銑炉スラグ(混銑炉から排出されたスラグ)を意味する。より具体的には、製鋼スラグは、鉄鋼製造プロセスにおいて生成されるものであり、CaO,SiO,FeO,Fe,MgO,MnO,Pを主成分、Al,Sなどを副成分として含有するものである。代表的な鉱物相としては、ダイカルシウムシリケート(β−Ca(SiO,PO))、トリカルシウムシリケート((Mg,Ca,Mn,Fe)SiO)、ウスタイト(FeO)、マグネタイト(Mn,Fe))、ライム(CaO)、ダイカルシウムフェライトチタネート(Ca(Al,Fe)−Ca(Si,Ti)O)などが存在する。
【0018】
製鋼スラグとしては、鉄含有率が20質量%以上、カルシウムの含有率が20質量%以上、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下、好ましくは5質量%以下の転炉スラグ、脱硫スラグなどの製鋼スラグを使用するとよい。製鋼スラグによるヒ素の除去効果は、製鋼スラグに含まれるFeのイオン交換と吸着作用とによることから、鉄含有率が低くなるほど低下し、特許文献8〜10に記載の高炉スラグのような鉄含有率が低いスラグではほとんど発現しない。また、特許文献11記載の方法のように、高炉スラグに製鋼スラグを含有させた場合であっても、上記製鋼スラグの含有率が85質量%未満である場合、さらに有害元素低減材を添加混合した後の溶液又は土壌のpHが9未満である場合には、ヒ素の除去効果は著しく低い。このため、製鋼スラグの含有率は85質量%以上、低減材添加後の溶液又は土壌のpHは高いほどよく、特に9以上であることが望ましい。製鋼スラグを85質量%以上含有する有害元素低減材にほぼ中性の水を添加した場合に溶液のpHを9以上にするのに必要な製鋼スラグの組成としては、鉄含有率が20質量%以上、カルシウムの含有率が20質量%以上、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下、好ましくは5質量%以下であることが必要であり、このような組成を有する製鋼スラグを85質量%以上含有する有害元素低減材であれば、添加時に試薬添加などによるpHの調整は特に必要なく、処理対象物に対して少量の添加でもpH9以上になり、迅速、且つ、効率よくヒ素を除去することができる。
【0019】
製鋼スラグは単独で用いても、若しくはヒ素の低減処理を円滑に行うために成形助剤を添加してもよい。処理対象物との接触表面積を増やすためには、製鋼スラグは粉砕して粉末化することが望ましいが、製鋼スラグはもともと粒径が小さいものが多いので、そのまま用いる、若しくは固液分離の際の操作性を考慮して水質を通液できるようなカラム状容器に充填する機械プレスなどの方法によって、処理に適した形状に成形するなどの手段をとることができる。水質の処理に用いる場合には、対象試料に直接本発明の製鋼スラグを添加、攪拌後、ろ過などによってスラグを取り除くことによって、水質中のヒ素は製鋼スラグと共に固相に移動し、水質中のヒ素の量を低減させることができる。粉末状の製鋼スラグをカラム状の容器に充填若しくは一定形状に成形し、これに対象の水質試料を通液することによって、水質中のヒ素を除去できる。この場合、スラグに捕集されたヒ素は酸性の溶液を通液することによってスラグから溶離するので、スラグを充填した除去カラム及び成形カラムは、水質処理に繰り返し利用することができる。
【0020】
ヒ素の除去に利用されるヒ素の形態は特に限定されるものではないが、鉄に捕集されやすい5価のヒ素に変化させることによって、ヒ素はより効率的に製鋼スラグに捕集される。3価のヒ素から5価のヒ素への酸化は、塩素(例えば次亜塩素酸)やオゾンの添加、吹き込みなどによって容易に行うことができる。土壌や廃棄物などの処理に用いる場合には、本発明の製鋼スラグを混合して用いる方法や散布する方法、スラリー状にして注入する方法などがある。本発明の製鋼スラグの組成は、天然の岩石に近く、スラグ単体でも路盤材などの土工用材料として用いることができることから、土壌の改質方法として有用である。
【0021】
さらに、本発明の発明者らは、上述のヒ素の捕集と全く同様の処理により、ヒ素と同時に6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛を簡単、迅速、且つ、安価に除去できることを見出した。通常、水中でオキソ酸イオンとして存在するヒ素と陽イオンとして存在するベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛とを同時に捕集できる条件を見出すことが可能な捕集材及び捕集条件は極めて少ない。しかしながら、製鋼スラグによれば、Feによるイオン交換作用及び吸着作用、Fe水酸化物による凝集作用、及びCaOによるpH調整作用を複合的に発揮することによって、このような優れた効果が得られる。さらに、製鋼スラグによれば、含有するFe(II)及び硫化物の還元作用により6価クロムを3価クロムに還元し、水酸化物として同時に捕集することができる。
【0022】
〔実施例1〕
実施例1では、転炉スラグ(Fe22.6%,Si4.5%,Al2.8%,Ca25.8%,As<5ppm,Se<5ppm)及び比較例としての高炉徐冷スラグ(Fe0.6%,Si15.8%,Al7.2%,Ca28.4%,As<5ppm,Se<5ppm)(ここで%は質量%を表す)を、それぞれ粉砕し2mm目のふるいにかけ、ふるいを通過したもの0.1g及び0.3gに対してそれぞれ3価及び5価のヒ素を1μg/ml含む水溶液50mLを添加、攪拌、ろ過した後、ろ液中のAs濃度をICP質量分析法を用いて定量した。攪拌時間の変化に伴う3価及び5価のヒ素の残存率の変化、及びろ液の初期のpHをそれぞれ図1,2に示す。図1,2に示すように、転炉スラグは、高炉徐冷スラグと比較してAsに対して優れた捕集能力を示し、5価のAsにおいては、転炉スラグ0.3gでろ液50mL中のAsが10分で90%以上、30分でほぼ全量除去できることが知見された。また、3価のAsよりも5価のAsの方が効率よく除去できることが知見された。
【0023】
〔実施例2〕
実施例2では、始めに、褐色森林土と基材との混合土壌からなる汚染土壌認証標準物質(日本分析化学会製JSAC0462(As:71.5±2.9mg/kg),JSAC0464(As:271.1±9.0mg/kg))0.5gに対して、スラグ類を表1に示すように混合した。スラグ類は粉砕し2mm目のふるいを通過したものを用いた。次に、この混合物に対して環境庁告示46号試験法に基づく溶出試験を行い抽出液中のAsの濃度を測定することによってAsの溶出量を測定した。ここで、各スラグの組成は、転炉スラグ(Fe22.6%,Si4.5%,Al2.8%,Ca25.8%,As<5ppm,Se<5ppm)、脱硫スラグ(Fe29.9%,Si2.8%,Al2.1%,Ca27.8%,As<5ppm,Se<5ppm)、高炉徐冷スラグ(Fe0.6%,Si15.8%,Al7.2%,Ca28.4%,As<5ppm,Se<5ppm)である(ここで%は質量%を表す)。測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、汚染土壌認証標準物質に転炉スラグ又は脱硫スラグを添加した本発明例1〜8では、転炉スラグ又は脱硫スラグがAsを捕集するため、比較例1〜5と比較して、抽出液中のAsの濃度が低く、As溶出量の顕著な抑制効果が認められた。このことから、汚染土壌認証標準物質に転炉スラグ又は脱硫スラグを添加することによって、処理対象物のAs含有量の低減およびAsの溶出が抑制できることが知見された。
【0024】
【表1】

【0025】
〔実施例3〕
実施例3では、実施例1,2で使用したものと同じ転炉スラグ(Fe22.6%,Si4.5%,Al2.8%,Ca25.8%,As<5ppm,Se<5ppm)及び脱硫スラグ(Fe29.9%,Si2.8%,Al2.1%,Ca27.8%,As<5ppm,Se<5ppm)(ここで%は質量%を表す)を、実施例1,2と同様に粉砕して2mm目のふるいにかけ、ふるいを通過したもの0.1g及び0.3gに対してそれぞれ、5価のヒ素及び6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛をそれぞれ1μg/mLずつ含む水溶液50mLを添加、30分間攪拌、ろ過した後、ろ液中のヒ素、6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛の濃度をICP質量分析法を用いて定量した。ろ液中の各元素の濃度より、転炉スラグ及び脱硫スラグに捕集されなかった各元素の残存率を図3に示す。図3に示すように、転炉スラグ及び脱硫スラグは、ヒ素と同様、6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛に対しても優れた捕集能力を示した。また、6価クロムについては、転炉スラグの添加に伴いろ液50mL中の6価クロムが30%程度残存、ニッケルについては、転炉スラグ0.1gの添加に伴いろ液50mL中のニッケルが14%残存、カドミウムについては、転炉スラグ0.1gの添加に伴いろ液50mL中のカドミウムが28%残存した以外は、30分でほぼ全量除去できることができた。
【0026】
〔実施例4〕
実施例4では、褐色森林土と基材との混合土壌からなる汚染土壌認証標準物質(日本分析化学会製JSAC0466(As:1093±32mg/kg、Cr:1483±23mg/kg、Cd:1199±19mg/kg、Hg:113.5±5.6mg/kg、Pb:1214±2.6mg/kg))0.5gに対して、実施例1〜3で使用した転炉スラグ(Fe22.6%,Si4.5%,Al2.8%,Ca25.8%,As<5ppm,Se<5ppm)及び脱硫スラグ(Fe29.9%,Si2.8%,Al2.1%,Ca27.8%,As<5ppm,Se<5ppm)(ここで%は質量%を表す)を実施例1〜3と同様に粉砕し、2mm目のふるいを通過したもの0.1g及び0.5gを添加、混合した。次に、この混合物に対して環境庁告示46号試験法に基づく溶出試験を行い抽出液中のヒ素、6価クロム、カドミウム、水銀、及び鉛の濃度をICP質量分析法で測定することによってヒ素、6価クロム、カドミウム、水銀、及び鉛の溶出量を測定した。測定結果を以下の表2に示す。比較例として汚染土壌認証標準物質にスラグを添加せずに溶出試験を実施した結果を表2に併せて示す。ヒ素に関しては捕集率もあわせて示した。表2に示すように、汚染土壌認証標準物質に転炉スラグ又は脱硫スラグを添加した本発明例9〜12では、転炉スラグ又は脱硫スラグがAsを捕集し、さらに、6価クロム、カドミウム、水銀、及び鉛の抽出液中の濃度がすべて0.001mg/L未満になり、スラグ添加のない場合に比べて溶出量の顕著な抑制効果が認められた。このことから、汚染土壌認証標準物質に転炉スラグ又は脱硫スラグを添加することによって、処理対象物のヒ素、6価クロム、カドミウム、水銀、及び鉛の含有量の低減と、ヒ素、6価クロム、カドミウム、水銀、及び鉛の溶出とが抑制できることが知見された。
【0027】
【表2】

【0028】
〔実施例5〕
実施例5では、実施例1で使用したものと同じ転炉スラグ(転炉スラグAと称する:Fe22.6%,Si4.5%,Al2.8%,Ca25.8%,As<5ppm,Se<5ppm)及び組成の異なる2種の転炉スラグ(転炉スラグBと称する:Fe13.3%,Si18.8%,Al1.9%,Ca23.6%,As<5ppm,Se<5ppm及び転炉スラグCと称する:Fe21.3%,Si9.8%,Al2.8%,Ca24.6%,As<5ppm,Se<5ppm)(ここで%は質量%を表す)をそれぞれ粉砕し2mm目のふるいにかけ、ふるいを通過したもの0.1g及び0.3gに対してそれぞれ5価のヒ素を1mg/L含む水溶液50mLを添加、30分間攪拌、ろ過した後、ろ液中のAs濃度をICP質量分析法を用いて定量した。定量結果を表3に示す。表3に示すように、転炉スラグAでは85%を超える高いAs捕集率が得られている。これに対して、Feの含有率が20質量%未満、ケイ素含有率が10質量%超えの転炉スラグBを用いた場合には、As捕集率は20%未満と著しく低い。また、Feの含有率は20質量%以上、ケイ素含有率5〜10質量%の転炉スラグCを用いた場合には、As捕集率は60%前後であり、スラグBよりも高いAs捕集率が得られたものの、ケイ素含有率が5質量%未満のスラグAの場合に比べて捕集率は低い。以上のことから、同じ転炉スラグであっても、本発明に係る成分組成を満たすことが高効率なAs捕集には不可欠であることが知見された。
【0029】
【表3】

【0030】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグを85質量%以上含むことを特徴とする有害元素低減材。
【請求項2】
前記製鋼スラグは、鉄の含有率が20質量%以上であり、カルシウムの含有率が20質量%以上であり、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下である製鋼スラグであることを特徴とする請求項1に記載の有害元素低減材。
【請求項3】
鉄の含有率が20質量%以上であり、カルシウムの含有率が20質量%以上であり、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下である製鋼スラグを85質量%以上含む有害元素低減材を処理対象物に接触させることによって、該処理対象物のヒ素含有量を低減させる処理工程を含むことを特徴とする有害元素低減方法。
【請求項4】
前記処理工程の前に、前記処理対象物に含まれる3価のヒ素を5価のヒ素に酸化させる工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の有害元素低減方法。
【請求項5】
鉄の含有率が20質量%以上であり、カルシウムの含有率が20質量%以上であり、且つ、ケイ素含有率が10質量%以下である製鋼スラグを85質量%以上含む有害元素低減材を処理対象物に接触させることによって、該処理対象物のヒ素、6価クロム、ベリリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、及び鉛のうちの少なくとも一つの元素の含有量を低減させる処理工程を含むことを特徴とする有害元素低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−31837(P2013−31837A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141055(P2012−141055)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】