説明

有害動物忌避装置及び有害動物忌避方法

【課題】イノシシなどの有害動物を田畑などから忌避する手段の提供。
【解決手段】本発明者らは、イノシシなどの有害動物が、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を忌避することを新規に見出した。そこで、本発明では、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振する音波発振手段3を備える有害動物忌避装置Aを提供する。例えば、有害動物が田畑・牧草地などに接近した際に、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振することにより、有害動物をその領域から忌避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振することにより有害動物を忌避する有害動物忌避装置、有害動物忌避方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、山林の人工林化、奥山開発、耕作放棄地の増加、自然環境の変化などに伴い、有害動物による農業被害などが深刻化している。有害動物として、鳥類では、カラス、ヒヨドリ、スズメ、カモ、ムクドリ、ハトなどが、獣類では、イノシシ、シカ、サル、クマハクビシン、タヌキ、ネズミ、カモシカ、アライグマ、ヌートリア、ウサギなどが挙げられる。これらの有害動物は、農作物を食したり、田畑を荒らしたりすることなどにより、農作物などに被害を与える。これによる経済的損失も甚大である。
【0003】
例えば、イノシシは、踏み荒らし・ヌタウチによって乳熟期以降のイネを倒伏させる。また、イモ類(サツマイモ、サトイモなど)、果実、野菜、イネ(穂)、タケノコ、クリ、牧草などに対する食害を引き起こす。その他、ミミズ・昆虫を探すために田畑などを掘り荒らしたり、果実・クリなどを採るために幹・枝を折ったりなどもする。
【0004】
これに対し、有害動物に対する防除手段として、例えば、防除柵(トタン板、金網、ワイヤーメッシュなど)・電気柵などで田畑などの周りを囲い、動物の侵入を防ぐ技術が採用されている。
【0005】
また、この技術に加え、光(フラッシュ、松明など)、音(爆発音、ラジオの音、犬の鳴き声、超音波など)、匂い(木酢液・クレオソートなどの忌避剤、猛獣の糞など)などで動物に衝撃を与え、その動物を撃退する技術を組み合わせることも試みられている。
【0006】
特許文献1には、動物の接触又は接近を検知する検知手段と音又は光を発生する威嚇装置とを設けた防獣フェンスが記載されている。特許文献2には、光センサー回路、衝撃電圧発生回路、及び、音響発生回路を設けた電気柵が記載されている。
【0007】
特許文献3には、例えば、1〜50kHzの発振周波数を所定時間内に連続的又は不連続的に高低変化させることにより、多種類の撃退音を発生させる鳥獣撃退装置が記載されている。特許文献4には、3〜5kHzの任意の可聴音を発生する獣用忌避音発生装置が記載されている。特許文献5には、超音波パルスを一定の周波数帯域において連続的に変化するように発生させる動物撃退装置が記載されている。
【特許文献1】特開2002−142654号公報
【特許文献2】特開2007−175007号公報
【特許文献3】特開2008−11777号公報
【特許文献4】特開2001−120158号公報
【特許文献5】特開2007−135528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、防除柵などで田畑などを囲むとともに、電気、光、音、匂いなどで動物に衝撃を与え、有害動物を撃退する各種技術が試みられている。しかし、多くの場合、有害動物が比較的早期にそれらの衝撃に慣れてしまう。そのため、有害動物撃退効果は一時的であり、経済的損失も依然として大きい。
【0009】
そこで、本発明は、田畑などから有害動物をより効果的に忌避させる技術を提供することなどを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、イノシシなどの有害動物が、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を忌避することを新規に見出した。
【0011】
そこで、本発明では、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振する音波発振手段を備える有害動物忌避装置、及び、該音波を発振できる有害動物忌避用の鳴音器具を提供する。
【0012】
有害動物が所定時間この音波を聴くと、徐々に居心地が悪くなり、自発的にその領域から離れる。
【0013】
従って、例えば、有害動物が田畑・牧草地などに有害動物が接近した際に、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振することにより、有害動物をその領域から忌避できる。
【0014】
また、爆発音などとは異なり、この音波は有害動物に衝撃を与えるものではないため、有害動物がその音に慣れてしまうことが少ない。従って、有害動物忌避効果を長期間持続できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、有害動物を田畑などから効果的に忌避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<本発明に係る有害動物忌避装置について>
本発明は、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振する音波発振手段を少なくとも備える有害動物忌避装置を全て包含する。
【0017】
以下、図1及び図2を用いて、この有害動物忌避装置の構成例について、説明する。なお、本発明は、これらの構成例のみに狭く限定されない。
【0018】
図1は、本発明に係る有害動物忌避装置の例を示す外観模式図である。
【0019】
図1の有害動物忌避装置Aは、動物の接近を検知する動物検知手段1と所定の音波を出力する音波出力手段5を備える。
【0020】
この装置Aを、有害動物の接近・侵入を防止したい領域、例えば、田畑・牧草地などに設置する。そして、有害動物がその領域に入ると、動物検知手段1が動物の接近を検知し、音波出力手段5から所定の音波を出力し、有害動物をその領域から忌避する。
【0021】
従って、動物検知手段1の検知可能領域と、音波出力手段5から出力される音波の到達方向・領域とがほぼ重なるような装置構成にすることが好ましい。
【0022】
なお、この装置Aを、一又は複数の別構成の音波出力手段と接続できる構成にしてもよい。例えば、装置Aに一又は複数の別構成の音波出力手段を接続する。そして、動物検知手段1が動物の接近を検知した場合に、音波出力手段5と他の音波出力手段の両方から本発明に係る音波を出力する構成にすることにより、一セットの装置で有害動物を忌避できる領域を拡大できる。
【0023】
出力する音波の周波数は、150Hz〜800Hzが好適であり、150Hz〜600Hzがより好適であり、400Hz〜600Hzが最も好適である。なお、この周波数は、基本波(波形の主成分)がこの範囲のものであればよく、他の成分が含まれていてもよい。
【0024】
音波の波形はどのようなものでもよく、特に限定されない。例えば、正弦波、矩形波、三角波、のこぎり波は、比較的簡易な電気回路で目的の周波数の音波を発生させることができる点で好適である。
【0025】
音圧は、特に限定されないが、装置から1mの地点で80dB以上(例えば、80dB〜150dB)が好適である。また、音波は、15秒間以上(例えば、15秒間〜90秒間)の連続音波であることが好適である。但し、例えば、夜間など、周囲環境が静謐な条件下では、80dB以下でも有害動物忌避効果がある場合がある。従って、本発明は、上記音圧の場合のみに狭く限定されない。
【0026】
有害動物としては、例えば、カラス、ヒヨドリ、スズメ、カモ、ムクドリ、ハトなどの鳥類、イノシシ、シカ、サル、クマ、ハクビシン、タヌキ、ネズミ、カモシカ、アライグマ、ヌートリア、ウサギなどの獣類などが挙げられる。この中では獣類の有害動物が好適であり、イノシシ、シカ、カモシカがより好適であり、イノシシが最も好適である。
【0027】
図2は、本発明に係る有害動物忌避装置の内部構成例を示す概略ブロック図である。
【0028】
図2の有害動物忌避装置Aは、動物の接近を検知する動物検知手段1と、装置全体を制御する制御手段2と、所定の音波を発振する音波発振手段3と、発振された音波を増幅する増幅手段4と、増幅された音波を出力する音波出力手段5と、電源手段6とを備える。
【0029】
動物検知手段1は、予め予測した領域に有害動物が入ったことを検知する。動物検知手段1として、例えば、赤外線センサー、温度センサー、カメラセンサー、超音波センサーなどを用いることができる。例えば、受動型の赤外線センサー(動物の発する赤外線の変化を検知するセンサー)は、装置構成を簡易化できる、消費電力が少ないなどの点で好適である。
【0030】
制御手段2は、装置A全体を制御する部位であり、例えば、作動部21、タイマー部22などを備える。動物検知手段1から出力された検知信号に基づき、作動部21が音波発振手段3を作動させる。タイマー部22は、音波発振手段3の作動時間を調整し、一定時間後に作動を止める。その他、音波の種類、音量、音波を発生させる時間などを設定する設定部を備える構成にしてもよい。
【0031】
音波発振手段3は、所定の周波数の音波を発振する。音波発振手段3は、上述の周波数の音波を発振できるものであればよく、特に限定されない。例えば、正弦波、矩形波、三角波、のこぎり波などを発振する場合、公知の発振回路を用いることができる。
【0032】
増幅手段4は、音波発振手段3で発振された音波を増幅する。増幅手段4には、アンプなどを用いてもよいし、ICなどに組み込まれているものを利用してもよい。
【0033】
音波出力手段5は、音波発振手段3で発振し、増幅手段4で増幅した音波を出力する。音波出力手段5には、スピーカーなど、公知のものを用いることができる。
【0034】
電源手段6は、各手段に電源を供給し、駆動を行う。電源手段6は、例えば、乾電池、充電池、バッテリー電源、太陽電池などによる充電池など、直流電源を用いてもよいし、インバータなどを介して、商用周波数電源など交流電源を用いてもよい。
【0035】
また、この有害動物忌避装置Aを電気柵などに設置する場合には、電気柵を流れる電流を利用してもよい。
【0036】
<本発明に係る有害動物忌避用の鳴音器具について>
本発明は、上述のような有害動物忌避装置のほか、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振できる有害動物忌避用の鳴音器具をすべて包含する。
【0037】
図3は、本発明に係る有害動物忌避用の鳴音器具の例として、有害動物忌避用笛の一形態を示す外観模式図である。
【0038】
図3の有害動物忌避用笛Bは、呼気を流入させる吹口部6と、流入した空気により発振するとともに発生した音波を共鳴させる本体部7と、外部に開口し空気を流出させる歌口部8とを備え、略筒状の本体部7の一端に吹口部6が、本体部7の壁面に歌口部8が、それぞれ形成された構成を有する。なお、略筒状の本体部7の他端は、開管型・閉管型のいずれでもよい。
【0039】
この構成では、吹口部6から息を吹き込むことで、狭い吹口部6で空気を絞って流入させ、その空気を本体部7の内壁に当て、振動させることにより、特定の周波数の音波を発振させることができる。従って、空気を流入させることにより、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振することができるため、上述の有害動物忌避装置と同様、有害動物を所定領域から有効に忌避できる。
【0040】
発生する音波の周波数は、公知技術により、適宜、設計・調整できる。例えば、吹口部6の形状・孔の大きさ、本体部7の形状・材質・長さ、本体部7の内部(空洞部)の容積・形状、歌口部8の大きさ・開口角度・形状などに基づいて、所定の周波数の音波が発振されるように調整する。
【0041】
例えば、図3の有害動物忌避用笛Bのように、紐状体を取り付けるための掛具9を形成してもよい。この有害動物忌避用笛Bは小型・軽量で携帯しやすい。そこで、例えば、この笛Bを首に掛けるなどして日常的に携帯するようにしておくことにより、突然有害動物と遭遇した時などに、すばやくこの笛を鳴らして対応することができ、有害動物を有効に忌避できる。
【0042】
その他、例えば、リード(薄片)を備える構成にし、呼吸気などにより空気の流出又は流入させてリードを振動させることにより音波を発振させてもよい。
【0043】
その場合も、前記と同様、発生する音波の周波数は、例えば、空気の流出・流入部の形状・孔の大きさ・開口部の角度・材質、リードの材質・剛性、器具本体の形状・材質・長さ、本体内部の容積・形状などに基づいて、公知技術により、適宜、設計・調整できる。
【0044】
<本発明に係る有害動物忌避方法について>
本発明に係る有害動物忌避方法は、上述の音波を発振することにより有害動物を忌避する方法を含むものを全て包含する。
【0045】
上述の通り、本発明者らは、イノシシなどの有害動物が、周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を忌避することを新規に見出した。
【0046】
そこで、有害動物の接近・侵入を防止したい領域、例えば、田畑・牧草地などにおいて、この音波を発振することにより、有害動物をその領域から効果的に忌避できる。
【実施例1】
【0047】
本実施例では、イノシシに各周波数の音波を提示し、反応を調べた。
【0048】
2歳齢のイノシシ、メス2頭(個体A及びB)、オス2頭(個体C及びD)を、それぞれ個別飼育檻(230cm×100cm×150cm)に収容した。
【0049】
音波発生装置を用いて、各提示音波を発生させた。波形を正弦波(サイン波)に設定し、それぞれ、低〜中周波数では50Hz、100hz、200Hz、500Hz、1kHz、2kHzに、中〜高周波数では10kHz、20kHz、30kHz、40kHz、50kHz、60kHz、70kHzに周波数を設定した。音圧を65〜90dBに、音波の提示時間を10秒間に設定した。
【0050】
そして、1頭ずつ音波を提示し、供試個体の行動をデジタルビデオカメラ2台で記録した。
【0051】
結果を表1〜4に示す。各表中、「周波数」は提示音波の周波数を表す。各表中、「音波に対する反応」は、提示音波に対する供試個体の反応を表し、提示音波が供試個体に聞こえているかどうかを判断する指標である。同項目中、「静止」は提示音波に反応して静止する行動が見られたことを、「音源探査」は提示音波に反応して音源を捜す行動が見られたことを、「音源定位」は音源の方向・位置を把握する行動が見られたことをそれぞれ表す。各表中、「音波に対する忌避行動」は、提示音波に対する供試個体に忌避行動を表す。同項目中、「逃避」は提示音波に対し音源から逃避する行動が見られたことを、「身震い」は提示音波に対し身震いをする行動が見られたことをそれぞれ表す。各表中、「−」は特に顕著な行動が見られなかったことを表す。
【0052】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0053】
表1〜4中、「音波に対する反応」の項目に示す通り、ほぼ全ての個体において、100Hz〜40kHzの周波数帯で音波に対する反応が見られた。このことは、イノシシの可聴域がおおよそその範囲であることを示唆する。なお、この値は、ブタの可聴域(42Hz〜40.5kHz)と近似している。また、ヒトの可聴域は20Hz〜20kHzであり、イノシシは、超音波(20kHz以上)も聞き取ることができることを示唆する。
【0054】
表1〜4中、「音波に対する忌避行動」の項目に示す通り、200Hz及び500Hzの周波数帯において、複数個体で逃避、身震いなどの忌避行動が見られた。このことは、イノシシが、この近辺の周波数帯(150Hz〜800Hz)の音波を忌避することを示唆する。なお、超音波(20kHz以上)を聞かせた場合には、特に音波に対する忌避行動は見られなかった。
【実施例2】
【0055】
実施例2では、実際に野生で暮らすイノシシに対し、500Hzの音波を提示し、反応を調べた。
【0056】
試作品として、500Hzの正弦波が主成分の音波を発生する有害動物忌避装置を作製した。その有害動物忌避装置を用いて、それぞれ、子1匹を連れたメス(個体E)、子3匹を連れたメス(個体F)、オス(個体G)に対し、500Hzの音波を音圧85dB(装置から1m地点)で30〜40秒間提示し、供試個体の行動をデジタルビデオカメラ2台で記録した。この実験を、各個体を餌付けで所定位置に戻し、3〜4回、繰り返した。
【0057】
その結果、全ての個体で、音に対する逃避行動が見られた。いずれの個体も、音波発生時における衝撃・驚愕は少なかったが、音波発生後に落ち着きをなくし、音源から徐々に遠ざかった。逃避行動は、メス(個体E及び個体F)で特に顕著であった。子イノシシも母イノシシと同様の逃避行動を示した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る有害動物忌避装置の例を示す外観模式図。
【図2】本発明に係る有害動物忌避装置の内部構成例を示す概略ブロック図。
【図3】本発明に係る有害動物忌避用の鳴音器具の例として、有害動物忌避用笛の一形態を示す外観模式図。
【符号の説明】
【0059】
1 動物検知手段
2 制御手段
21 タイマー部
3 音波発振手段
4 増幅手段
5 音波出力手段
6 笛の吹口部
7 笛の本体部
8 笛の歌口部
A 有害動物忌避装置
B 鳴音器具(有害動物忌避用笛)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振する音波発振手段を備える有害動物忌避装置。
【請求項2】
動物の接近を検知する動物検知手段を備える請求項1記載の有害動物忌避装置。
【請求項3】
正弦波、矩形波、三角波、のこぎり波のいずれかの連続音波を主成分とする音波である請求項1記載の有害動物忌避装置。
【請求項4】
80dB以上の音波である請求項1記載の有害動物忌避装置。
【請求項5】
周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振できる有害動物忌避用の鳴音器具。
【請求項6】
周波数150Hz〜800Hzを主成分とする音波を発振することにより有害動物を忌避する有害動物忌避方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−246535(P2010−246535A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71011(P2010−71011)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(509086888)
【出願人】(000237824)富士平工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】