説明

有害物質排出方法及びその装置

【課題】電気機器の排油口から残留有害物質油分の排出を容易して抜油後の電気機器の保管や運搬時の有害物質漏洩による汚染リスクを最小限に抑える。
【解決手段】有害物質を含んだ絶縁油を残留させた変圧器2に対して前記絶縁油よりも比重が大きい非親油性液体を変圧器2の排油口201から供給して変圧器2の底部に残留する油分を前記非親油性液体の上に浮上させた後に変圧器2内の上層油分を排油口201から排出する。前記絶縁油との界面が少なくとも排油口201の上端よりも高位となるまで前記非親油性液体が供給された後に変圧器2内の液相が排油口201から排出される。前記非親油性液体は着色剤によって着色させるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は抜油後の電気機器内に残留する有害物質を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器などの絶縁油として使用されていたポリ塩化ビフェニル(以下、PCB)は20016年までに処分または処分を委託しなければならないことが決まり、行政主導のPCB処理事業が開始している。しかし、PCB処理事業を担当している日本環境安全事業株式会社(JESCO)は現在のところ全国5ヶ所に設けた処分場に持ち込まれた機器及びPCBに限定して処理を実施しており、処分場に運搬することのできない機器は処理できないままとなっている。運搬できない機器には、大型で運搬が困難な機器、大型ではないがビルの変圧器室などにあって間口が小さいために運び出せない機器などがある。大型の機器では抜油して外部に取り付けられた嵩の大きな部品を取り外せば運搬できる場合や間口が小さくて運び出せない機器では抜油して傾けるなどすれば運搬できる場合がある。
【0003】
いずれの場合でも、抜油してできるだけ内部の残留PCBを少なくすることで抜油後の保管中や運搬中の周囲への汚染の可能性を低減できる。変圧器では、抜油しても元の油量の10%は残留すると試算されている。絶縁紙などに染み込んでいるPCBを短時間で排出することは難しいが、抜油時のPCB排出口である排油弁の位置よりも下部に滞留したPCBを排出することができれば、汚染リスクを相当に小さくできる。抜油後、排油弁を下に傾けてPCBを排出させることは、変圧器が重量物であり、破損によるPCB漏洩の危険性があるためできない。
【0004】
抜油後の機器内部の残留PCBを低減させる方法として、絶縁油などを循環させて、PCBを循環液に溶解させて機器内部のPCB濃度を低下させる方法がある。この方法は処分場内で実施することが想定されており、運搬前の残留PCB量を少なくすることを目的としていないが、適用することは可能である。実質的にはPCBを希釈していることになるため、PCBに汚染された液量は少なくとももとの油量の数倍になると推定される。仮にPCB廃棄物から除外される程度まで希釈することを考えると、高濃度のPCBでは約100万倍に、100ppmの微量PCBで約200倍に、50ppmの微量PCBでも約100倍に希釈ければならず、運搬を目的とした抜油後の残留PCBの低減方法としては希釈液の処分費用に見合わない。
【0005】
また、例えば特許文献1のPCB汚染機器容器の洗浄方法は、絶縁油と相互に溶解しない洗浄水を用いてPCB汚染容器の洗浄を行い、洗浄後の洗浄水は有害有機物質を含有する油分と水分とに分離し、水分のみを循環させて、再度汚染機器容器の洗浄に用いている。この方法は絶縁油と相互に溶解しない洗浄液を循環させているので汚染液を希釈する必要がない。
【特許文献1】特開2007−7583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の洗浄方法はPCBに汚染された変圧器に例示される機器容器内を洗浄水で満たすようにしているので、実際に適用される洗浄タンク、循環ポンプなどの機器は容量が大きい。また、洗浄水の循環系に単蒸留装置、蒸留装置、超音波分離装置、遠心分離装置、比重差分離装置、真空加熱分離装置、膜分離装置に例示される油分と水分の分離手段が具備されるので特許文献1の洗浄装置は大掛かりな構成となる一因となる。さらに、特許文献1の洗浄方法では、水より比重が大きい高濃度のPCB含有絶縁油を除去する場合、洗浄水を機器容器の上方から下方に循環させているが、前記底部に残留する前記絶縁油の排出は困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための有害物質除去方法は、有害物質を含んだ絶縁油を残留させた電気機器に対して前記絶縁油よりも比重が大きい非親油性液体を前記機器の排油口から供給して前記機器の底部に残留する油分を前記非親油性液体の上に浮上させた後に前記容器内の上層油分を前記排油口から排出する。
【0008】
前記課題を解決するための有害物質除去装置は、有害物質を含んだ絶縁油を残留させた電気機器の排油口に接続される第一排出路と、前記絶縁油よりも比重が大きい非親油性液体を前記機器に供給するための第一ポンプを備えた供給路と、前記機器内の液相を回収容器内に移送するための第二ポンプを備えた第二排出路と、前記第一排出路と前記供給路と前記第二排出路とが接続される切り換えバルブとを備え、前記切り換えバルブが前記第一排出路と前記供給路とを連通させた状態で第一ポンプが前記非親油性液体を前記機器に供給して前記機器の底部に残留する油分を前記液体の上に浮上させた後、前記切り換えバルブが前記第一排出路と前記第二排出路とを連通させた状態で前記第二ポンプが前記機器内の上層油分を前記回収容器に移送する。
【0009】
以上の有害物質除去方法及びその装置によれば電気機器の底部に残留した有害物質含有油分が外部から導入された液体によって浮上するので前記機器の排油口からの排出が容易となる。
【0010】
前記有害物質除去方法においては、前記絶縁油との界面が少なくとも前記排油口の上端よりも高位となるまで前記非親油性液体を供給した後に前記電気機器内の液相を前記排油口から排出するとよい。
【0011】
前記有害物質除去装置においては、前記第一ポンプは前記絶縁油との界面が少なくとも前記排油口の上端よりも高位となるまで前記非親油性液体を前記電気機器に供給した後に前記第二ポンプが前記電気機器内の液相を前記排油口から排出するとよい。
【0012】
前記絶縁油の層は少なくとも前記非親油性液体の層よりも上層となっているので前記電気機器内の液相が排出される過程で前記液位が前記排油口の下端よりも降下した時点で前記絶縁油が確実に電気機器から除去される。
【0013】
前記非親油性液体は着色剤によって着色させるとよい。有害物質除去の目安となる。
【発明の効果】
【0014】
したがって、以上の発明によれば電気機器の排油口から残留有害物質油分の排出が容易となるので、抜油後の電気機器の保管や運搬時の有害物質漏洩による汚染リスクを最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は発明の実施形態に係る有害物質除去装置1の概略構成図である。
【0016】
有害物質除去装置1は変圧器2の排油口201に接続される第一排出路3に4方コックVを介して供給路4と第二排出路5と第三排出路6とが接続されている。供給路4は変圧器2に充填された絶縁油よりも比重が大きい非親油性液体を変圧器2に供給するための第一ポンプP1を備えている。変圧器2に導入される非親油性液体は予め液体容器7に貯留されている。第二排出路5は変圧器2内の液相を回収容器8内に移送するための第二ポンプP2を備えている。以上の構成要素からなる液体導入排出系は有害物質(例えばPCB)蒸発の漏洩防止のために全て密閉状態となる。回収容器8の排気経路9には活性炭カラム10が具備されており、有害物質蒸気が外部に漏洩しないようになっている。また、第一排出路3には排出弁31が設置されている。尚、第三排出路6は緊急排出用の経路である。
【0017】
有害物質除去装置1に係るポンプ類、バルブ類、供給路、排出路、容器類は気密が確保され且つPCBなどの溶剤や非親油性液体に対して耐性を有する仕様であれば既知のものを適用すればよい。非親油性液体の種類は変圧器2に充填された油分の比重に基づき適宜に選択される。
【0018】
図1を参照しながら抜油後の変圧器2に残留する有害物質含有絶縁油成分(以下、油分)を除去する場合の有害物質除去装置1の動作例について説明する。
【0019】
排出弁31が開及び第一排出路3と供給路4とが4方コックVによって連通された状態で非親油性液体が第一ポンプP1によって液体容器7から変圧器2に供給される。変圧器2の底部に残留した油分は導入された非親油性液体よりも比重が小さいので前記非親油性液体よりも上層に浮上する。そして、前記油分との界面が変圧器2の排油口201の上端よりも高位となった時点で第一ポンプP1が停止して前記非親油性液体の供給が遮断される。次に、第一排出路3と第二排出路5とが4方コックVよって連通された後、第二ポンプP2が起動し、変圧器2内の液相成分が回収容器8に移送される。前記油分の層は少なくとも前記非親油性液体の層よりも上層となっているので変圧器2内の液相が排出される過程で前記液位が排油口201の下端よりも降下した時点で前記油分が確実に電気機器から除去される。
【0020】
以上のように有害物質除去装置1によれば、変圧器2の排油口201より下方に残留した有害物質を含んだ液相が非親油性液体上に浮上するので、有害物質の除去が容易となる。したがって、抜油後の変圧器2の保管や運搬時の有害物質漏洩による汚染リスクを最小限に抑えることができる。また、変圧器2内の有害物質汚染油の残量を減らすことができるので、その後の処理の負担を軽減することが可能となる。例えば、有害物質(例えばPCB)を循環液に溶解させる洗浄方法の場合、希釈量を減らすことができる。また、有害物質除去装置1は配管系と4方コックとポンプ類で構成できるので装置構成が簡素となる。
【0021】
さらに、有害物質除去装置1では変圧器2を傾けることなく排油口201より下方に残留した有害物質を除去できる。特殊な試薬を使用しないで有害物質を除去できる。希釈操作を必要としないので系外排出量が大幅に低減する。有害物質の液や蒸気を漏洩させない密閉した系で除去できる。回収容器8の排気経路9に活性炭カラム10が具備されたことで気化した有害物質成分の漏洩も防止できる。前記非親油性液体は着色剤によって着色させれば有害物質除去の目安となる。尚、前記油分の除去に供した非親油性液体はヘキサンなどの低極性で比重の大きな液と混和しない有機溶媒で洗浄すれば再利用できる。
【0022】
図2は発明の実施例1に係る有害物質除去装置11の概略構成図である。
【0023】
実施例1に係る有害物質除去装置11の容器12には底部から10mm上位の側面に内径3mmの液体排出用の配管13を接続した。配管13は排出弁131を備えている。配管13の一端側には4方コックVを介して配管14,15,16を接続した。配管14は容器17に貯留させた非親油性液体を容器12に供給するための第一ポンプP1を備えている。配管15は容器12の液相を回収容器18に移送するための第二ポンプP2を備えている。配管15と回収容器18は気密に接続されている。回収容器18の排気経路19には有害ガス漏洩防止のために活性炭カラム20が具備されている。尚、配管16は緊急排出用の配管である。
【0024】
実施例1は変圧器の排油弁の位置以下に残留したPCB(比重約1.5)を想定している。容器12にはPCBの模擬的な試料として1,2,4‐トリクロロベンゼン(比重約1.47)を排油口121の下端まで溜めた。非親油性液体にはメチルオレンジで着色させた比重約1.6以上の塩化亜鉛水溶液を用いた。本実施例では飽和塩化亜鉛水溶液に対して容量で5vol%程度に相当する水を加えて調製した塩化亜鉛水溶液を使用した。
【0025】
排出弁131を開及び4方コックVによって配管13と配管14を連通させた状態で容器17から塩化亜鉛水溶液を1ml/分の流速で第一ポンプP1によって容器12に供給した。容器12内の1,2,4‐トリクロロベンゼンは導入された塩化亜鉛水溶液よりも比重が小さいので上層に1,2,4‐トリクロロベンゼンが下層に塩化亜鉛水溶液が分離した。前記上層と前記下層との界面が容器12の排油口121の上端よりも高位となるまで塩化亜鉛水溶液を導入した。
【0026】
ここで、4方コックVによって配管15と配管13を連通させてポンプP2によって1ml/分の流速で容器12内の液相を回収容器18に移送した。この過程で最初に容器12からはオレンジ色の液体が排され、一旦この液体は無色になった。その後、排出中の液体にオレンジ色の着色(塩化亜鉛)が認められた時点でポンプP2を停止させると共に排出弁131を閉じた。
【0027】
前記移送の過程で容器12は振とう及び傾けはしなかった。排出液の無色部分(1,2,,4‐トリクロロベンゼン)の容量は最初に容器12に入れた容量の82%であった。排油口121より下部に滞留した1,2,4‐トリクロロベンゼン容積の1.5倍程度の塩化亜鉛水溶液と簡単な導入排出用の装備で容器12に残留した1,2,4‐トリクロロベンゼンのほとんどを排出することができた。回収容器18に回収された液相は二層に分離しているので、分別は容易である。
【0028】
図3は発明の実施例2に係る有害物質除去装置21の概略構成図である。
【0029】
実施例2は微量PCB含有鉱油系絶縁油(比重約0.85)を模擬試料とした。非親油性液体には比重約1.5以上のヨウ化カリウム水溶液を用いた。実施例2に係る有害物質除去装置21は、塩化亜鉛水溶液を貯留した容器17の代わりにヨウ化カリウム水溶液を貯留する容器22を用いたこと以外は実施例1に係る有害物質除去装置11と同じ構成である。尚、本実施例では飽和ヨウ化カリウム水溶液に対して容量で5%程度に相当する水を加えて調製したヨウ化カリウム水溶液を使用した。
【0030】
容器12には微量PCB含有鉱油系絶縁油を排油口121の下端まで溜めた。次いで、排出弁131を開及び4方コックVによって配管13と配管14を連通させた状態でヨウ化カリウム水溶液を1ml/分の流速で第一ポンプP1によって容器12に供給した。容器12内の微量PCB含有鉱油系絶縁油は導入されたヨウ化カリウム水溶液よりも比重が小さいので上層に前記絶縁油が下層にヨウ化カリウム水溶液が分離した。前記上層と前記下層との界面が容器12の排油口121の上端よりも高位となるまでヨウ化カリウム水溶液を導入した。
【0031】
ここで、4方コックVによって配管13と配管15を連通させてポンプP2によって1ml/分の流速で容器12内の液相を回収容器18に移送した。前記絶縁油が完全に排出されたと認められた(ヨウ化カリウム水溶液は着色しているので排出液相の色相の変化で確認できる)時点でポンプP2を停止させると共に排出弁131を閉じた。
【0032】
前記移送の過程で容器12の振とう及び傾けはしなかった。排出液の無色部分(前記絶縁油)の容量は最初に容器12に入れた容量の65%であった。排油口121の下端よりも下方に滞留した前記絶縁油の容積の1.5倍程度のヨウ化カリウム水溶液と簡単な導入排出用の装備で容器12内の絶縁油のほとんどを排出することができた。回収容器18に回収された液相は二層に分離しているので、分別は容易である。実施例2では、回収したヨウ化カリウム水溶液は少量のヘキサンで洗浄すれば、別の容器の排出液として再利用できる。ヘキサンはPCB含有液として処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】発明の実施形態に係る有害物質除去装置の概略構成図。
【図2】発明の実施例1に係る有害物質除去装置の概略構成図。
【図3】発明の実施例2に係る有害物質除去装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0034】
1…有害物質除去装置
2…変圧器(電気機器)
3…第一排出路
4…供給路
5…第二排出路
6…第三排出路
7…液体容器
8…回収容器
9…排気経路
10…活性炭カラム
P1…第一ポンプ
P2…第二ポンプ
V…4方コック(切り換えバルブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質を含んだ絶縁油を残留させた電気機器に対して前記絶縁油よりも比重が大きい非親油性液体を前記機器の排油口から供給して前記機器の底部に残留する油分を前記非親油性液体の上に浮上させた後に前記容器内の上層油分を前記排油口から排出すること
を特徴とする有害物質除去方法。
【請求項2】
前記絶縁油との界面が少なくとも前記排油口の上端よりも高位となるまで前記非親油性液体を供給した後に前記電気機器内の液相を前記排油口から排出することを特徴とする請求項1に記載の有害物質除去方法。
【請求項3】
前記非親油性液体を着色剤によって着色させることを特徴とする請求項1または2に記載の有害物質除去方法。
【請求項4】
有害物質を含んだ絶縁油を残留させた電気機器の排油口に接続される第一排出路と、
前記絶縁油よりも比重が大きい非親油性液体を前記機器に供給するための第一ポンプを備えた供給路と、
前記機器内の液相を回収容器内に移送するための第二ポンプを備えた第二排出路と、
前記第一排出路と前記供給路と前記第二排出路とが接続される切り換えバルブと
を備え、
前記切り換えバルブが前記第一排出路と前記供給路とを連通させた状態で第一ポンプが前記非親油性液体を前記機器に供給して前記機器の底部に残留する油分を前記液体の上に浮上させた後、前記切り換えバルブが前記第一排出路と前記第二排出路とを連通させた状態で前記第二ポンプが前記機器内の上層油分を前記回収容器に移送すること
を特徴とする有害物質除去装置。
【請求項5】
前記第一ポンプは前記絶縁油との界面が少なくとも前記排油口の上端よりも高位となるまで前記非親油性液体を前記電気機器に供給した後に前記第二ポンプが前記電気機器内の液相を前記排油口から排出することを特徴とする請求項4に記載の有害物質除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−233505(P2009−233505A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79844(P2008−79844)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】