説明

有床部分義歯

【課題】装着時の違和感が殆ど無く且つ咀嚼時の安定性に優れた有床部分義歯を提供する

【解決手段】義歯床3は、人工歯2に関連した義歯床本体3aと、隣接する維持歯4を支持する歯肉部分5まで横方向に延びる横延長部分3bとを有し、また、この横延長部分3bは、維持歯4の側面の基部に位置するアンダーカット部分4aに対応する部分まで上方に延びる縦延長部分3cと、この縦延長部分3cに設けられた弾性部材(シリコンゴム)6を有し、このシリコンゴム6は、アンダーカット部分4aの外形輪郭と相補的な形状に加圧成形されている。このシリコンゴム6はアンダーカット部分4aと係合して従来の金属製のクラスプと実質的に同じ機能を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有床部分義歯つまり脱着式の部分義歯に関する。
【背景技術】
【0002】
部分的に永久歯を失った処置として、永久歯を失った欠如部に部分義歯の装着が広く行われている。部分義歯は、一般的には、義歯床と、この義歯床に固設した人工歯(義歯)と、残存歯(維持歯)に固定するためのバネ(クラスプ)とで構成されており、クラスプはキャストクラスプとワイヤクラスプが多用されている。
【0003】
このバネ式の部分義歯は、金属製のクラスプを備えているため重くなる傾向にあるだけでなく、維持歯のアンダーカット部分つまり維持歯と歯肉との境界部分に係合したクラスプが外側から見えてしまうため見栄えが悪いという問題の他に、食事をしているときの安定性に欠けるなどの問題が指摘されている。
【0004】
特許文献1は、従来一般的に採用されているクラスプの代わりに維持歯のアンダーカット部分に義歯床の縁部を機械的に係合させる部分義歯を提案している。具体的には、特許文献1の部分義歯は、義歯床の正面部分(前側部分)と背面部分(舌側部分)とに、維持歯のアンダーカット部分と相補的な輪郭を備えた突片部を設け、この突片部を維持歯のアンダーカット部分と係合させる構造を採用している。そして、正面部分の突片部をヒンジを介して維持床に取り付けて、この正面部分の突片部を水平軸回りに回動可能にし、これにより部分義歯を装着又は取り外す際に、正面部分の突片部を開放することで、この正面部分及び背面部分の突片部と維持歯との係合を解除するようになっている。更に、装着時に正面部分の突片部が不用意に開放しないようにマグネットを設け、このマグネットによって正面部分の突片部が維持歯のアンダーカット部分と係合した状態に維持する構成が採用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−254911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の部分義歯は、クラスプ無しであるため外観上の見栄えを改善することができるものの、正面部分の突片部を水平軸回りに回動させるためのヒンジや、この突片部を固定するためのマグネットが必要であることから構造が複雑であるだけでなく、義歯床の当該部分が肉厚になる傾向があり、このことは部分義歯を使用する者は違和感を感じてしまう。
【0007】
本発明の目的は、構造が簡単なクラスプ無しの有床部分義歯を提供することにある。
【0008】
本発明の更なる目的は装着時の違和感が殆ど無い有床部分義歯を提供することにある。
【0009】
本発明の更なる目的は咀嚼時の安定性に優れた有床部分義歯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
義歯を支持する義歯床を備え、歯を失った歯肉部分に脱着可能に装着する有床部分義歯であって、
前記人工歯を支持する義歯床本体と、
前記人工歯に隣接する維持歯の歯肉部分まで延びる外側延長部分及び舌側延長部分と、
該外側延長部分及び/又は前記舌側延長部分に設けられ且つ前記維持歯のアンダーカット部分と係合する弾性部材とを有することを特徴とする有床部分義歯を提供することにより達成される。
【0011】
本発明は、維持歯のアンダーカット部分と係合する弾性部材を介して該維持歯と係合させるようになっているため構造が簡単であり、また、弾性部材がクッション材として機能するため装着時の違和感が殆ど無く且つ咀嚼時の安定性に優れている、という利点を有する。弾性部材は、典型的には、シリコンゴムのようなクッション性を備えた樹脂性の部材で構成され、この弾性部材は、維持歯のアンダーカット部分と相補的な形状に成形される。
【0012】
本発明の他の目的及び詳しい作用効果は以下の詳細な説明から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の概要を説明した後に具体例を説明する。
【0014】
図1〜図8は本発明の概要を説明するための図である。図1は、両隣りの2本の永久歯を欠如した部分に実施例の有床部分義歯を装着した例を示す部分正面図であり、図2は、舌側から見た背面図である。また、図3は、図1のIII−III線に沿った断面図であり、図4は、図1のIV−IV線に沿った断面図であり、図5は、図4の矢印Vで示す部分の拡大断面図である。
【0015】
図1〜図5を参照して、参照符号1は有床部分義歯を示し、有床部分義歯1は、人工歯2と、人工歯2を支持する義歯床3とを含み、この有床部分義歯1を装着した部分の隣りには残存歯4が配列している。図面では、人工歯2と残存歯4とを区別するために、人工歯2には斜線を入れて図示してある。
【0016】
義歯床3は、従来と同様にレジンで構成されており、人工歯2に関連した義歯床本体3aと、その隣りに位置する残存歯(維持歯)4を支持する歯肉部分5まで横方向に延びる横延長部分3bとを有し、また、この横延長部分3bは、維持歯4の側面に位置するアンダーカット部分4aつまり維持歯4の基部の側面を形成する部分まで上方に延びる縦延長部分3cを有する。なお、図9及び図10では、歯の前面側及び背面側(舌側)の双方が維持歯4の幅方向に亘って維持歯4の高さ方向に維持歯4の基部を覆うように作られているが、これは単なる例示であり、図9において、維持歯4の正面に対応する縦延長部分3cは、維持歯4の幅方向中央部分を切り欠いて残存歯4の維持歯4の基部を外部に露出するようにしてもよい。
【0017】
有床部分義歯1は、更に、維持歯4のアンダーカット部分4aと縦延長部分3cとの間に位置する弾性部材6を有し、この弾性部材6はアンダーカット部分4aの外形輪郭と相補的な形状に成形されている。弾性部材6としてシリコンゴムのような軟質樹脂が好適に使用可能である。
【0018】
上述した有床部分義歯1を作るには次のようにすればよい。先ず、歯科医院で作成する模型に含まれる残存歯のうち、有床部分義歯1の保持に用いるのに都合の良い維持歯の側面に位置するアンダーカット部分をワックスで埋めて作業模型を作成する。軟化させた義歯床部材を作業模型にプレスして義歯床を作る。これにより義歯床には、その側面の下端部の上述したアンダーカット部分4aに相当する部分に空間が生成されることになるが、この空間にシリコンゴムのような軟質樹脂を充填し、次いで加圧して成形することで軟質樹脂を、対象とするアンダーカット部分4aと相補的な形状に成形することができる。
【0019】
上述した有床部分義歯1によれば、維持歯4の側面に位置するアンダーカット部分4aに弾性部材6を介して有床部分義歯1を係合させるようにしてあるため、ワイヤクラスプやキャストクラスプ無しで有床部分義歯1を保持することができるだけでなく、咀嚼の際に、有床部分義歯1を担う維持歯4への荷重を弾性部材6によって緩和することができる。
【0020】
また、有床部分義歯1の装着や取り外しの際には弾性部材6が変形することから、前述した特許文献1のような特別な機構を設ける必要はない。
【0021】
アンダーカット部分4aが弾性部材6で埋まった状態にあるため、このアンダーカット部分4aに食物残渣が侵入するのを防止することができ、これにより口内の衛生状態を保つことができるだけでなく毎食後に有床部分義歯1を取り外して、これを水洗いしたり、口を濯ぐ必要性を低減することができる。
【0022】
上述の説明では、隣り合う2本の永久歯を失った欠如部に装着するための有床部分義歯1を例示的に説明したが、1本の歯を失った欠如部に装着する有床部分義歯に対しても同様に適用可能であり、欠如部の歯の本数に制限されない。
【0023】
また、有床部分義歯1の荷重を担わせる維持歯4のアンダーカット部分4a(シリコンゴム6を設置する部分)は、これに相応しいアンダーカット部分を選定すればよく、また、アンダーカット部分を含む隣接する維持歯間の隙間を含んでいてもよい。
【0024】
図6〜図8は具体例の一例を示す。これら図6〜図8に示す有床部分義歯1は、下顎の右側に位置する互いに隣接する奥歯3本に代わる有床部分義歯10を示す。図6は、上方から見た図であり、図7は、舌側から見た図であり、図8は、下方から見た図である。
【0025】
図6〜図8を参照して、有床部分義歯10は、3本の人工歯11〜13と、この3本の人工歯11〜13を配列した樹脂製の義歯床14とを有する。義歯床14は、3本の人工歯11〜13を支持する義歯床本体14aと、義歯床本体14aから残存歯の列(図示せず)の方向に歯肉部分の外側及び舌側に沿って延びる外側横延長部分15及び舌側横延長部分16とを有する。
【0026】
図面から分かるように外側横延長部分15は舌側横延長部分16に比べて短い。換言すれば、外側横延長部分15が2本の維持歯に相当する長さであるのに対して、舌側横延長部分16は4本の維持歯に相当する長さを有している。
【0027】
外側横延長部分15は、2本の維持歯の歯茎から露出した基部(アンダーカット部分)に対応する高さ寸法の外側縦延長部分15aを有し、この外側縦延長部分15aは、2本の維持歯の前面に隣接して位置して、外側横延長部分15の横方向の延び方向(歯列の並び方向)に連続している。他方、舌側横延長部分16は、4本の残存歯の高さよりも僅かに低いレベルまで縦方向に延びる舌側縦延長部分16aを有し、この舌側縦延長部分16aは、4本の維持歯の背面に隣接して位置して、横方向の延び方向((歯列の並び方向)に連続している。すなわち、舌側縦延長部分16aは、4本の維持歯の背面のほぼ全域を覆う高さ寸法を有し且つ4本の維持歯の歯列に沿って連続して延びている。
【0028】
図6〜図8に示す参照符号17は、義歯床14の内面に付設された、前述した弾性部材6に相当する軟質樹脂(典型的にはシリコンゴム)である。このシリコンゴム17は、前述した維持歯4のアンダーカット部分4aだけでなく、隣接する維持歯間の隙間を含めた部分など維持歯4と相補的な形状に加圧成形されている。
【0029】
この有床部分義歯10は部分義歯として最も難しいとされる複数本の奥歯であるにも関わらず、歯肉との密着性を含めた装着感に優れていて違和感が殆ど無いだけでなく、食事をしても永久歯で噛んでいるのと同じ感触であり且つ安定していた。また、従来のキャストクラスプ式の有床部分義歯では食事の後に、有床部分義歯を取り外して有床部分義歯を水洗いすると共に口を濯ぐ必要があったが、この有床部分義歯10では食物残渣の侵入が殆ど無いため、食事毎に取り外す必要も無かった。
【0030】
図9以降の図面は、装着感に優れた部分義歯の製造に関するものであり、また、舌側延長部が金属製の部分義歯に関する実施例を示す。
【0031】
図9を参照して、部分義歯100は、従来と同様に合成樹脂製の義歯床(咬合床)101を有し、この義歯床101に人工歯102が植設されている。義歯床101は、後の説明から分かるように、ワックス義歯の義歯粘膜床をそのまま使って、これにレジンを積層することにより作られており、このレジンによって人工歯102が固定されている。
【0032】
部分義歯100は、これに隣接する1本又は複数本の残存歯103(維持歯)(図10)まで延びる延長部分104を有し、この延長部分104は、外側延長部分104Aと舌側延長部分104Bを含む。外側延長部分104A及び舌側延長部分104Bは、部分義歯100を適用する患者の歯茎105(図10)を挟んで、その外側及び舌側に位置し、これらの延長部分104A、104Bは、共に、その内側面つまり患者の歯茎105に当接する粘膜面は患者の歯茎105に吸着した状態となるのが好ましい。
【0033】
外側及び舌側の延長部分104A、104Bは、その両方であってもよいが、この実施例では、舌側延長部104Aが金属で作られている。両方の延長部分104A及び/又は104Bを合成樹脂で作る場合には、典型的には、後に詳しく説明する義歯粘膜床によって構成される。延長部分104A、104Bには、その少なくとも一方に、最も好ましくは双方に、維持歯103のアンダーカット部分103a(図11)と相補的な形状に成形された弾性部材106(典型的にはシリコンゴム)が設けられる。
【0034】
このシリコンゴム106は、前述したように、維持歯103のアンダーカット部分103aと係合する従来の金属製バネ(クラスプ)に代わるものである。勿論、内外の延長部分104A、104Bの双方又はいずれか一方を金属で作った場合、例えば外側延長部分104Aを合成樹脂で作り、舌側延長部分104Bを金属で作った場合であっても、外側延長部分104Aにシリコンゴム106を添設すると共に金属製の舌側延長部分104Bにシリコンゴム106を添設するのがよく、この双方のシリコンゴム106で1本又は複数本の維持歯103のアンダーカット部分103a(図11)と係合させるようにするのが好ましい。
【0035】
なお、図示の例では、上述したように、外側延長部分104Aが合成樹脂で構成され、他方、舌側延長部分104Bは、成形された金属で構成されている。そして、合成樹脂製の外側延長部分104Aにはシリコンゴム106が設けられているが、金属製の舌側延長部分104Bは維持歯103の外形輪郭に沿って成形されており、この金属製の舌側延長部分104Bにはシリコンゴム106は設けられていない。しかし、この金属製の舌側延長部分104Bに、外側延長部分104Aと同様に、アンダーカット部分103aと係合する弾性部材(シリコンゴム)106を設けてもよいことは言うまでもない。
【0036】
図12は、実施例の義歯製造方法の概要を示すフロー図である。この図12を参照して、ステップS10及びS11は、通常、歯科医院で行う作業である。歯科医院では、従来と同様に、歯科用歯形トレイに設置した印象材を使って患者の口腔を転写し、この印象材に石膏などを流し込んで顎模型(本模型)を作る(S10)。この顎模型は患者の口腔のコピーであり、この顎模型を技工所に送る(S11)。
【0037】
図12のステップS12以降の工程は、一般的に技工所で行う作業であり、技巧所内で技工士が行う作業のうち、ステップS12〜S14の工程は、歯科医院から入手した顎模型(本模型)をコピーした作業模型を作る工程である。この作業模型を作るか否かは任意である。
【0038】
前述したシリコンゴム106を備えた部分義歯100(図9)を作る場合には、図13に示すように、歯科医院から入手した顎模型(本模型1)の維持歯103のアンダーカット部分にワックス12を盛り(図12のステップS12:図13)、このワックス12を付着した本模型1から作業模型が作られる。本模型1の維持歯103のアンダーカット部分103aに添設したワックス12は、部分義歯100のシリコンゴム106に関連するものである。
【0039】
図14〜図15をも参照して、作業模型を作る際に、0.05mm、0.07mmなど肉厚の異なる複数種類の薄いフィルム2を用意しておき、適当な厚さの薄いフィルム2を選択して、選択したフィルム2を本模型1の上に載せて(図14(イ))、これを密閉容器内で真空し引きすることにより密着させる(図12のステップS13:図14の(ロ))。次いで、シリコンなどの印象材3を使って転写し(図14の(ハ))、そして、この印象材3に石膏4(図15の(ニ))などを流し込んで作業模型5を作る(図12のステップS14)。
【0040】
このように、作業模型5を作る際に、所定の肉厚のフィルム2を使うことで、義歯製造工程で部材の収縮変形を見越した作業模型を作ることができ、これにより部材の収縮などを気にしないで作業を進めることができる。つまり、フィルム2は、義歯製造工程で発生する部材の収縮を補償することのできるツールと言える。換言すれば、技工士は、部材(印象材やレジン)が固まるときの体積の収縮による影響を見越して作業するのが大事とされ、一種の職人技が必要とされたが、実施例のように、単にフィルム2を使うだけで、この職人技を不要とすることができる。
【0041】
図12のステップS15〜S19は義歯粘膜床を成形する工程である。この義歯粘膜床は、薄肉の熱可塑性樹脂プレート10(図14の(ヘ))から作られ、そして、この熱可塑性樹脂プレート10は完成品の義歯の粘膜面を構成するものである。熱可塑性樹脂プレート10は平面視したときに例えば円形であり、顎模型つまり作業模型5を覆うことのできる直径を備えている。熱可塑性樹脂プレート10は、例えば肉厚1.5mm、2.0mm、2.5mmの三種類が用意され、その中から、部分義歯の適用箇所などを考慮して適当な厚みの樹脂プレート10を選択できるようにするのが好ましい。ここに、熱可塑性樹脂プレート10は実施例ではポリカーボネートからなるが、他の合成樹脂であってもよい。また、熱可塑性樹脂プレート10として、複数の種類の異なる熱可塑性樹脂を積層したものであってもよい。例えば、折れ難い、比較的硬くないなど特性の異なる樹脂を積層して熱可塑性樹脂プレート10を構成してもよい。
【0042】
熱可塑性樹脂プレート10は加熱により柔軟な状態にした後に、顎模型つまり作業模型5の上に載置される(ステップS15:図14の(へ))。次いで、軟化した樹脂プレート10を載置した作業模型5は、その上に、作業模型5を成形する際に使用した成形型つまり作業模型5の形状面と一致する面を備えた型を載せた状態で油圧プレス機にセットして一気にプレス処理される(ステップS16、S17)。これにより、樹脂プレート10は、作業模型5の形状面と相補的な形状に成形される。図13を参照して前述した、本模型1の維持歯6のアンダーカット部分にワックス7を盛った場合には、当該ワックス7を盛った部分に関して、ワックス7の外形に沿った輪郭形状(シリコンゴム106を付着するための空所)を、成形後の樹脂プレート10が備えることになる。
【0043】
樹脂プレート10の成形が終わると、技工士が決めた義歯の基本形状の輪郭に沿って成形後の樹脂プレート10をカットして義歯の土台をなす義歯粘膜床11を作り(ステップS18)、この義歯粘膜床11を作業模型5から取り外す(ステップS19)。図9などを参照して前述した部分義歯100であれば、樹脂製の外側延長部分104Aが義歯粘膜床11に含まれ、この外側延長部分104Aに維持歯103の高さ方向に延びる縦延長部108が含まれる(図8)。この図16は、内側延長部分104Bを金属で作る場合を図示しており、内側延長部分104Bを樹脂で作る場合を図16に仮想線で示すように、この内側延長部分104Bに維持歯103の高さ方向に延びる縦延長部106が形成される。
【0044】
この義歯粘膜床11は、必要に応じて又は歯科医からの要請により患者に試適して、その適否の確認が行われる。その後の工程を歯科医院で行ってもよく、その場合には、ステップS19で作業模型5から取り外した義歯粘膜床11は歯科医に委ねられる。
【0045】
ステップS20、S21は、義歯粘膜床11を基礎にワックス義歯を作る工程である。先ず、ステップS20で義歯粘膜床11の上にワックスを盛り付けてロウ堤を作り、次いでロウ堤の高さを調整した後に人工歯を植設してワックス義歯を作る(ステップS21)。
【0046】
なお、図9などを参照して説明した部分義歯100を製造する場合には、金属製の舌側延長部分104Bは、図12を参照して説明した作業工程とは別の工程で、金属部材で舌側延長部分104Bを成形し、図16に示すように、ワックス義歯を作る前に、義歯粘膜床11に金属製の舌側延長部分104Bを組み込む。
【0047】
上記ステップS21で作ったワックス義歯は必要に応じて患者に試適して微調整を行った後に、図18に示すように、ワックス義歯20をフラスコ21に入れて上下の分割型22、23を作る(ステップ22、図19)。なお、図18、図19に示す参照符号24は人工歯であり、25はワックスである。
【0048】
次いでステップS23で分割型22、23を加温して義歯粘膜床11の上に盛ったワックス25を除去した後に、ステップS24で、ワックス25を除去することにより形成された空間27(図20)、つまり義歯粘膜床11と人工歯24との間に形成された空間27にレジンが充填される(ステップS24)。そして、重合処理によりレジンを硬化させた後に、分割型21、22から成型品を取り出す(ステップS25)。
【0049】
そして、舌側延長部分104B及び/又は外側延長部分104Aにシリコンゴム106を設けるために、本模型1の維持歯6のアンダーカット部分6aにシリコンゴム106を盛り、他方、シリコンゴム106を添設する部位にシリコンプライマ(図示せず)を塗布した後に、部分義歯100を本模型1に装着して部分義歯100からはみ出したシリコンゴム106を除去する(ステップS26)。その後、本模型1に装着した部分義歯100の周りをフィルムで覆い、このフィルムで覆った本模型1及び部分義歯100をエア加圧機にセットしてガス圧によって加圧処理する(ステップS27)。これにより、舌側延長部分104B及び/又は外側延長部分104Aにシリコンゴム106が強固に接合し且つシリコンゴム106が維持歯6のアンダーカット部分6aと相補的な形状に加圧成形される。そして、これにより、舌側延長部分104B及び/又は外側延長部分104Aに、アンダーカット部分6aと係合する弾性体(シリコンゴム)106を備えた部分義歯100が完成する。
【0050】
なお、舌側及び/又は外側延長部分104A、104Bに、維持歯103のアンダーカット部分103aと係合するシリコンゴム106を添設する方法としては、上述の方法に限定されず、例えば延長部分104A及び/又は104Bを形成し、シリコンゴム106を添設する部分を削ってシリコンゴム106を添設する空所を作り、次いで、シリコンゴム106を接着するようにしてもよい。
【0051】
上述した義歯製造方法によれば、ワックス義歯の粘膜面を構成する義歯粘膜床11をそのまま使って義歯を作るため、換言すれば、義歯の義歯床がワックス義歯の義歯粘膜床11で構成されるため、義歯製造工程での様々な作業や樹脂の収縮などの影響を受けることの無く、患者の口腔に最適に適合した義歯を作ることができる。したがって、技工士にとって、義歯製造工程で行う様々な作業によって発生する誤差やレジンの収縮によって発生する誤差を念頭に入れた熟練した技巧を使うまでもなく患者の口腔に最適に適合した義歯を作ることができる。したがって、技工士の注意を他に振り向けることができ、より適切な義歯を作ることができる。
【0052】
上述したように、部分義歯100の外側延長部分104Aを樹脂で作ることで患者の歯茎105の色に一致した色の外側延長部分104Aにし易いため審美上も好ましく、その一方で舌側延長部分104Bを金属で作ることで耐久性に優れた適度な撓み変形特性を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の有床部分義歯の概要を説明するための、有床部分義歯を装着した状態の正面図である。
【図2】図1に関連して、有床部分義歯を装着した状態の背面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】図4の矢印Vで示す部位の拡大部分断面図である。
【図6】具体例として下顎の奥歯3本に代わる有床部分義歯の具体例を上方から見た図である。
【図7】図6に関連して、有床部分義歯を舌側から見た図である。
【図8】図6に関連して、有床部分義歯を下方から見た図である。
【図9】他の例の部分義歯の斜視図である。
【図10】顎模型に図9の部分義歯を装着した状態で示す図である。
【図11】図10のXI−XI線に沿った断面図である。
【図12】実施例の義歯製造工程の流れを説明するためのフロー図である。
【図13】維持歯のアンダーカット部分と係合する弾性部材を添設した部分義歯を製造する場合の製造工程の一例を説明するための図であり、本模型の維持歯のアンダーカット部分にワックスを盛った状態を示す。
【図14】図12で説明する作業工程に関連した図であり、(イ)及び(ロ)は図12のステップS13に対応し、(ハ)はステップS14に対応している。
【図15】図12で説明する作業工程に関連した図であり、(ニ)〜(ホ)は図12のステップS14に対応し、(ヘ)はステップS15に対応している。
【図16】作業模型で部分義歯用の義歯粘膜床を形成した状態を説明するための図である。
【図17】部分義歯において舌側延長部分を金属で作る場合に、作業模型に設置されている義歯粘膜床に金属製の舌側延長部分を設置した状態を示す図である、その後、ワックスを盛ってワックス義歯が作られる。
【図18】フラスコ内でワックス義歯から分割型を作る工程に関連した図であり、図12のステップS22に対応している。
【図19】図12のステップS22において、ワックス義歯で分割型を作る状態を断面して説明する図である。
【図20】ワックス義歯からワックスを除去する工程(図12のステップS23)を説明する図である。
【符号の説明】
【0054】
1、100 有床部分義歯
2 人工歯
3 義歯床
3a 義歯床の本体部分
3b 義歯床の横延長部分
3c 義歯床の縦延長部分
4 残存歯
5 歯肉部分
6 弾性部材(シリコンゴム)
10 具体例の有床部分義歯
11〜13 人工歯
14 義歯床
14a 義歯床の本体部分(人工歯を支える部分)
15 義歯床の外側横延長部分
15a 義歯床の外側縦延長部分
16 義歯床の舌側横延長部分
16a 義歯床の舌側縦延長部分
17 義歯床に付設した弾性部材(シリコンゴム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯を支持する義歯床を備え、歯を失った歯肉部分に脱着可能に装着する有床部分義歯であって、
人工歯を支持する義歯床本体と、
前記人工歯に隣接する維持歯の歯肉部分まで延びる外側延長部分及び舌側延長部分と、
該外側延長部分及び/又は前記舌側延長部分に設けられ且つ前記維持歯のアンダーカット部分と係合する弾性部材とを有することを特徴とする有床部分義歯。
【請求項2】
前記外側延長部分及び前記舌側延長部分が樹脂から作られている、請求項1に記載の有床部分義歯。
【請求項3】
前記外側延長部分及び前記舌側延長部分の少なくともいずれか一方が金属から作られている、請求項1に記載の有床部分義歯。
【請求項4】
前記舌側縦延長部分が前記維持歯のアンダーカット部分よりも高く且つ該維持歯の高さよりも小さい高さ寸法を有する、請求項2又は3に記載の有床部分義歯。
【請求項5】
少なくとも前記舌側横延長部分が、隣接する複数本の維持歯の歯列に沿って横方向に延びる長さ寸法を有する、請求項2〜4のいずれか一項に記載の有床部分義歯。
【請求項6】
前記舌側横延長部分の横方向長さが前記外側延長部分の横方向長さよりも長い、請求項5に記載の有床部分義歯。
【請求項7】
前記舌側横延長部分に設けられた弾性部材が、前記複数本の維持歯のアンダーカット部分及び隣接する維持歯間の隙間と相補的な形状に成形されている、請求項4に記載の有床部分義歯。
【請求項8】
前記弾性部材がシリコンゴムからなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の有床部分義歯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−289645(P2007−289645A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305646(P2006−305646)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(593193767)株式会社キャスティングオカモト (6)
【Fターム(参考)】