説明

有機エレクトロルミネセンスデバイス

基板と、基板の上に配置され、第1の極性の電荷を注入するための第1の電極と、第1の電極の上に配置され、前記第1の極性と反対の極性である第2の極性の電荷を注入するための第2の電極と、第1の電極と第2の電極の間に配置される有機発光層とを備える有機エレクトロルミネセンスデバイスであって、第2の電極が発光層によって放射された光を透過し、さらに、第2の電極の上に配置された透明封止体を備え、透明封止体が、透明封止体の上面によって形成されるマイクロレンズアレイと、透明封止体の底面によって形成される回折格子を含む、有機エレクトロルミネセンスデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンスデバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネセンスデバイスは、例えば国際公開第13148号、および米国特許第4539507号により知られている。このようなデバイスの例が図1および図2に示されている。このようなデバイスは一般に、基板2と、基板2の上に配置され第1の極性の電荷を注入するための第1の電極4と、第1の電極4の上に配置され前記第1の極性と反対の極性である第2の極性の電荷を注入するための第2の電極6と、第1の電極4と第2の電極6の間に配置される有機発光層8と、第2の電極6の上に配置される封止体10とを備える。図1に示された構成では、基板2と第1の電極4が、有機発光層8によって放射された光を通過させるように透明になっている。図2に示された別の構成では、第2の電極6および封止体10が、有機発光層8から放射された光が通過できるように透明になっている。
【0003】
上述の構造体の変形例が知られている。第1の電極を陽極とし、第2の電極を陰極とすることができる。あるいは、第1の電極を陰極とし、第2の電極を陽極とすることができる。電荷の注入および輸送を助けるために、各電極と有機発光層の間に別の層を設けることもできる。発光層中の有機材料は、小分子、デンドリマーまたはポリマーを含み、かつ燐光部分および/または蛍光部分を含むことができる。発光層は、発光部分、電子輸送部分および正孔輸送部分を含む材料の混合物を備えることができる。これらは、単一の分子内または別々の分子内に形成することができる。
【0004】
上述のタイプのデバイスからなるアレイを設けることによって、複数の発光画素を備える表示装置を形成することができる。画素は、同じ種類にして単色表示装置を形成することができ、あるいは別々の色にして多色表示装置を形成することができる。
【0005】
有機電子エレクトロルミネセンスの問題は、有機発光層中の有機発光材料によって放射された光の多くがデバイスから抜け出ないことである。光は、デバイス内部で散乱、内部反射、導波、吸収などによって失われ得る。例えば、光は、デバイスの面に対してある範囲の角度にわたってエレクトロルミネセンス層から放射されると理解することができる。浅い角度でデバイス内の境界面に当たる光は、内部で反射することができる。
【0006】
デバイスから抜け出る光の量を増大させる1つの方法は、散乱、内部反射、導波、吸収などのうちの1つまたは2つ以上を低減させる光学構造体をデバイス内に設けることである。このような光学構造体には、例えばマイクロレンズアレイが含まれ得る。
【0007】
英国特許出願公開第2421626号として公開された本出願の先願には、エレクトロルミネセンスデバイスの層を堆積すること、デバイス層の上に薄膜封止体を堆積すること、および光学構造体を封止体内に例えばマイクロレンズアレイをエンボス加工することによって形成することによって、有機エレクトロルミネセンスデバイスの薄膜封止体内にマイクロレンズアレイを形成することが開示されている。このような構成により、デバイスの上面から出力される光を増大させる光学構造体を備えた、いわゆる上面放射デバイス構造が得られる。このような構成は、図3に示されており、基板2と、第1の極性の電荷を注入するために基板2の上に配置された第1の電極4と、第1の極性と反対の第2の極性の電荷を注入するために第1の電極4の上に配置された第2の電極6と、第1の電極と第2の電極の間に配置された有機発光層8と、第2の電極6の上に配置された薄膜封止体10とを備え、第2の電極6は、発光層8によって放射された光を透過し、マイクロレンズアレイ12が薄膜封止体10の中に形成される。
【0008】
上述の構成に伴う考えられる1つの問題は、例えばエンボス加工によって薄膜封止体内に光学構造体を形成することによって、下にあるデバイスの層を損傷するおそれがあることである。上述の構成に伴う考えられるもう1つの問題は、かなりの量の光が依然として有機エレクトロルミネセンスデバイスの上部電極と封止体の底面との間の境界面で失われることである。
【0009】
この技術分野では、デバイスから抜け出る光の量を増大させるための、マイクロレンズアレイ以外の光学構造体が知られている。このような構造体の例には、回折格子および光共振器が含まれる。しかし、このような構造体の1つの問題は、それらが角度の色変化を増大させる傾向があることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第13148号
【特許文献2】米国特許第4539507号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上述の問題の1つまたは2つ以上に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願人は、回折格子などの光学構造体によって引き起こされる角度色変化を、そのような光学構造体と、上にあるマイクロレンズアレイとを組み合わせることによって低減できることを見出した。マイクロレンズアレイは、知覚される光を空間および波長にわたって平均する傾向があり、それによって角度色変化が低減する。そのようにして、マイクロレンズアレイと回折格子(または、角度色変化を増大させる他の光学構造体)は相補的に作用する。
【0013】
さらに、本出願人は、以上で論じた構成と比較して、光損失が、マイクロレンズアレイと回折格子などの光学構造体の各特徴を組み合わせることによっていっそう低減し得ることを認識した。具体的には、マイクロレンズアレイが、英国特許GB2421626号に記載されているように封止体の外面に形成される場合、有機エレクトロルミネセンスデバイスの上部電極と封止体の底面の間の境界面における光損失は、回折格子など別の光学構造体を封止体の底面に導入することによって低減させることができる。さらに、このような格子は、マイクロレンズアレイの相補作用により、角度色変化を過度に増大することなしに導入できることが分かった。
【0014】
さらに、本出願人は、両面構造化光学箔を形成するために、一方の面にマイクロレンズアレイを有し、他方の面に回折格子など別の光学構造体を有する封止体膜を、事前製作できることを認識した。事前製作されたこのような封止膜は、その後に有機エレクトロルミネセンスデバイスの上面に付けることができ、デバイスに封止膜を付けた後に光学構造体を形成するための別の処理ステップは必要としない。したがって、下にある層が、例えばエンボス加工によって損傷することが回避される。
【0015】
上記に照らして、かつ本発明の第1の態様により、有機エレクトロルミネセンスデバイスが提供される。このデバイスは、基板と、基板の上に配置され第1の極性の電荷を注入するための第1の電極と、第1の電極の上に配置され第1の極性と反対の極性である第2の極性の電荷を注入するための第2の電極と、第1の電極と第2の電極の間に配置される有機発光層と、第2の電極の上に配置された透明封止体とを備え、第2の電極が、有機発光層によって放射された光を透過し、透明封止体が、透明封止体の上面によって形成されるマイクロレンズと、透明封止体の底面によって形成される光学構造体を含む。透明封止体の底面によって形成された光学構造体は、回折格子などの回折構造体であることが好ましい。
【0016】
透明封止体は、第2の電極上に、または第2の電極を覆って配置された薄膜封止体上に、直接配置することができる。このような構成では、光学構造体は、例えば、光学構造体が空隙によって第2の電極から離隔された封止体に形成される場合よりも、有機発光層の近くに位置する。これが望ましいのは、光学構造体が望ましくない光学的な副作用を引き起こすおそれがあるからである。例えば、光学構造体が存在することにより、視角が変わるにつれて望ましくない光学効果が生じ、その結果、例えば視角により明るさが変化することになり得る。これらの光学的な副作用は、発光層から光学構造体までの距離に依存する。発光層の近くに光学構造体を設けることによって、デバイスから出力される光をなお増大させながら、光学的な副作用が低減される。
【0017】
1つの構成では、封止体膜は、プラスチック膜などの単層の材料から形成される。封止体膜は、PDMS(ポリメチルシロキサン)などのエラストマーを含むことができる。別法として、二層または三層構造体を形成することもできる。
【0018】
封止体膜は、光学構造体が配置されているバルク材料、およびコーティング材料を備えることができる。コーティング材料は、バルク材料の上面または底面のどちらかまたは両方に配置することができる。コーティング材料は、封止体膜の上部および下部に位置する境界面においてよりよい屈折率整合が得られるように選択することができる。あるいは、コーティング材料は、光学構造体をコーティングするとともに、光学構造体の構成要素間の屈折率の差を増大させて光学構造体の有効性が向上するように選択される。このようなコーティング材料の一例に、SiNなどの無機材料がある。バルク材料は、前述のエラストマーで用意することができる。
【0019】
別のガラスまたは透明プラスチック封止体を封止体膜の上に形成することができる。ガラスまたは透明プラスチック封止体は凹部を備えることができ、この凹部は、デバイスの下にある1つまたは複数の層を収容することができる。最も好ましくは、ガラスまたは透明プラスチックの封止体は、側壁による凹部を備え、側壁がデバイスの周辺を取り囲んで配置され、例えばデバイスの周辺を取り囲む1本線の接着剤を使用して基板に接着されて封止部を形成する。側壁は、第2の電極の上に適切な距離だけ間隔を置いて封止体を配置して、封止体が付けられるときにデバイスが損傷することを防止しながらも、湿気および酸素の侵入に対してデバイスの側面を封止する働きをする。
【0020】
第1の電極は陽極、第2の電極は陰極であることが好ましい。陰極は、アルミニウムの層で覆われたバリウムの層を備えることができる。これらの層それぞれは、10nm未満の厚さであることが好ましく、それぞれの層が約5nmの厚さであることがより好ましい。この構成で、透明でありながらも良好な電気特性を有する陰極が得られる。さらに、この陰極は、デバイス内の他の構成要素と不都合に作用し合うことがない。代替の陰極では、銀の層で覆われたバリウムの層を利用する。これらの層それぞれは、10nm未満の厚さであることが好ましく、それぞれの層が約5nmの厚さであることがより好ましい。この陰極は、前述のバリウム/アルミニウム構成よりも透明である。
【0021】
1つの構成では、基板、第1の電極および第2の電極は、有機発光層によって放射された光を透過する。この構成が透明な封止体と組み合わされることにより、完全に透明なデバイス構成が得られる。
【0022】
本発明の第2の態様により、有機エレクトロルミネセンスデバイスを製造する方法が提供される。この製造方法は、第1の極性の電荷を注入するための第1の電極を基板の上に堆積することと、第1の電極の上に有機発光層を堆積することと、前記第1の極性と反対の極性である第2の極性の電荷を注入するための第2の電極を有機発光層の上に堆積することと、第2の電極の上に透明封止体を設けることとを含み、第2の電極が、発光層によって放射された光を透過し、透明封止体が、透明封止体の上面に配置されるマイクロレンズアレイと、透明封止体の底面によって形成される別の光学構造体を有する。
【0023】
マイクロレンズアレイおよび他の光学構造体は、第2の電極の上に薄膜封止体を配置する前に透明封止体に形成されることが好ましい。このような方法により、有機エレクトロルミネセンスデバイスの活性層を損傷することなく、マイクロレンズアレイおよび他の光学構造体を形成することができる。
【0024】
マイクロレンズアレイおよび他の光学構造体は、エンボス加工、印刷、エッチング、フォトリソグラフィパターニング、またはロールツーロール加工などによって形成されることが好ましい。
【0025】
光学構造体がエンボス加工される場合、封止体膜は、エンボス加工の前に加熱することによって、または溶剤を加えることによって柔らかくされ、そこにマイクロレンズアレイおよび他の光学構造体をエンボス加工することができる。別法として、前駆体材料を封止体膜上にコーティングとして堆積し、前駆体材料の硬化前にエンボス型を使ってマイクロレンズアレイおよび/または他の光学構造体を形成することもできる。エンボス型の代替として、マイクロレンズアレイおよび/または他の光学構造体は、マイクロレンズアレイおよび他の光学構造体それぞれに対応するパターンが付けられた表面をそれぞれ有する1対の対向するローラを使用して、エンボス加工することができる。封止体膜は、封止体膜の両面に沿って転がるローラの間に通されて、マイクロレンズアレイおよび光学構造体が形成される。
【0026】
本発明の第3の態様により、前述した有機エレクトロルミネセンスデバイスを封止するための封止体膜が提供される。本発明の第4の態様により、このような封止体膜を製作する方法が提供される。
【0027】
次に、本発明の実施形態を添付の図面を参照して例示的にのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、底面放射有機発光デバイスの既知の構造を示す図である。
【図2】図2は、上面放射有機発光デバイスの既知の構造を示す図である。
【図3】図3は、薄膜内の光学構造体がデバイスの上に配置された上面放射有機発光デバイスの既知の構造を示す図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態による上面放射有機発光デバイスを示す図である。
【図5】図5(a)〜(f)は、本発明の一実施形態による上面放射有機発光デバイスを形成する際に要する各ステップを示す図である。
【図6】図6(a)および(b)は、ローラを使用して封止体膜を形成する2つの方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<本発明の実施の形態>
図4は、本発明の一実施形態による上面放射有機発光デバイスを示す。このデバイスの構造は、図3に示された従来技術による構成と多くの点で類似しており、同じ参照数字が同様の部分に使用されている。図3の構成におけるように、このデバイスは、基板2と、第1の極性の電荷を注入するために基板2の上に配置された第1の電極4と、第1の極性と反対の第2の極性の電荷を注入するために第1の電極4の上に配置された第2の電極6と、第1の電極と第2の電極の間に配置された有機発光層8とを備える。図4に示された構成と図3に示された構成との違いは、片面構造化封止体膜10ではなく両面構造化封止体膜14を設けることにある。両面構造化封止体膜14は、その下面に光学構造体16(この場合は回折格子)を備え、その上面にマイクロレンズアレイ18を備える。光学構造体16は、デバイスの機能層からの光取出しを向上させる。マイクロレンズアレイ18は、光学構造体16によって引き起こされた角度色変化を低減させながら、外部環境への光取出しをさらに向上させる。
【0030】
回折格子は、一般に300nm〜2μmの範囲の幅を有する突起を備えることができる。マイクロレンズは、一般に300nm〜50μmの範囲の幅を有する。
【0031】
発光層8は画素を備え、この画素は、複数のマイクロレンズが各画素の上に配置されるように、表面積がマイクロレンズよりも大きいことが好ましい。例えば、2〜100個のマイクロレンズが各画素に形成されることがある。明らかに、画素が大きいほど、各画素に多数のマイクロレンズを形成することがより容易になる。各画素に多数のマイクロレンズを形成することにより、望ましくない光学的な副作用を低減させることができる。
【0032】
図4に示された回折格子は複数の突起を備え、その間に空所が配置されている。この空所は、空気または不活性ガスで充填することができる。あるいは、特定の用途に応じて回折格子を調整するために、別の材料を空所に供給することもできる。格子の有効性は、空所と突起の屈折率の差、ならびに放射光の波長に対する突起および空所の大きさによって決まる。
【0033】
封止体膜は、バルク材料およびコーティング材料を含むことができる。コーティング材料は、光学構造体をコーティングしてその性能を調整するように選択することができる。コーティング材料は、バルク材料の片面または両面に施すことができる。例えばコーティング材料は、突起と回折格子の空所との間に大きな屈折率差が得られるように、その屈折率によって選択し、それによって格子の有効性を増大させることができる。コーティングに適した材料は、例えばSiNであるが、ある範囲の可能な諸材料を使用することができる。
【0034】
図5は、本発明の一実施形態による上面放射有機発光デバイスを形成する方法を示す。この方法ステップは以下のように要約することができる。
(a)マスタ製作−2つの構造化マスタ52、54が、例えばマイクロエンボス加工、光学干渉リソグラフィなどの低コスト技法によって用意される。マスタ52は回折格子光学構造体用であり、剛性である(例えばガラス、シリコンなど)。マスタ54はマイクロレンズアレイ用であり、可撓性である(例えばプラスチックシート)。
(b)回折格子形成−熱硬化性または紫外線硬化性のエラストマー材料56(例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン))がマスタ52上で成型される。
(c)マイクロレンズアレイ形成−マスタ54がエラストマー材料56上に積層され、熱硬化または紫外線硬化が施される。紫外線硬化では、マスタの少なくとも1つは紫外線透過性でなければならない。
(d)マスタ54が剥離される。
(e)エラストマー材料56が剥離されて両面構造化封止体膜が得られ、この膜は、その下側に回折格子を備え、上側にマイクロレンズアレイを備える。
(f)最後に、封止体膜が発光デバイス58の上部に自己接着によって、または接着層を介して取り付けられる。
【0035】
大量生産では、ロールツーロール加工を適用することができる。図6は、異なる種類の膜材料に対するそのような加工を示す。図6(a)では、プラスチック膜62が2つの構造化ローラ64、66によって熱エンボス加工されている。ローラ64には、マイクロレンズアレイ65を形成するためのパターンが付けられている。ローラ66には、回折格子構造体67を形成するためのパターンが付けられている。プラスチック膜はエンボス加工温度まで加熱されるが、この温度は、プラスチック膜のガラス転移温度と溶融点の間にあることが好ましい。このような温度では、プラスチック膜が、エンボス加工するのに十分なだけ柔軟になる一方で、構造的外形はエンボス加工後に保持されている。
【0036】
図6(b)は、図6(a)に示されたものと類似のロールツーロール加工を示し、その違いは、マイクロレンズアレイおよび回折格子を形成するための前駆体材料でコーティングされたプラスチック膜を使用することである。例えば、紫外線硬化性液体材料68(高粘性)を高透過性プラスチック膜70の両面にコーティングすることができる。膜が2つの構造化ローラ72、74の間でエンボス加工されている間、紫外線源76を使用して紫外線硬化が施されて、構造化液体材料が固化する。紫外線硬化では、ローラの少なくとも1つを紫外線透過性にすることができる。
【0037】
本発明の諸実施形態では、マイクロレンズアレイとフォトニック結晶(回折格子)の一体化に基づく、光外部結合効率を向上させる技法を提示する。マイクロレンズアレイと回折格子は、エンボス加工または成型などの1つのステップで同時に形成することができる。用途に応じて1μmから数ミリメートルまで様々な厚さを有することができる両面構造化封止体膜が形成される。ディスプレイ用途では、厚さが1μmから100μm(画素寸法未満)の範囲の薄膜が好ましい。構造化光学膜は、事前製作された有機エレクトロルミネセンスデバイスなどの光学デバイスの上に積層される。
【0038】
本発明の諸実施形態による有機エレクトロルミネセンスデバイスのさらなる特徴、およびその製造方法を以下で論じる。
【0039】
<一般的なデバイス構成>
本発明の諸実施形態によるエレクトロルミネセンスデバイスの構成は、ガラスまたはプラスチックの基板、陽極および陰極を含む。エレクトロルミネセンス層が陽極と陰極の間に設けられる。
【0040】
本発明の諸実施形態では、光を吸収(光応答デバイスの場合)または放射(放射デバイスの場合)できるように、少なくとも上部電極が透明である。
【0041】
<電荷輸送層>
電荷輸送層、電荷注入層または電荷阻止層などの別の層を陽極と陰極の間に置くことができる。
【0042】
具体的には、導電性正孔注入層を設けることが好ましく、この層は、陽極とエレクトロルミネセンス層の間に設けられた導電性の有機または無機材料から形成され、陽極から半導電性ポリマーの1つまたは複数の層中への正孔注入を助けることができる。ドープされた有機正孔注入材料の例には、ドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が含まれ、具体的には、欧州特許EP0901176号および欧州特許EP0947123号に開示されているポリスチレンスルホナート(PSS)、例えばナフィオン(登録商標)であるポリアクリル酸またはフッ素化スルホン酸、米国特許第5723873号および米国特許第5798170号に開示されているポリアニリン、およびポロチエノチオフェンなどの電荷平衡ポリ酸でドープされたPEDOTが含まれる。導電性無機材料の例には、Journal of Physics D:Applied Physics(1996)、29(11)、2750〜2753頁に開示されているVOx、MoOx、およびRuOxなどの遷移金属酸化物が含まれる。
【0043】
正孔輸送層が陽極とエレクトロルミネセンス層の間に置かれて存在する場合には、HOMOレベルが5.5eV以下、より好ましくは約4.8〜5.5eVであることが好ましい。HOMOレベルは、例えばサイクリックボルタンメトリによって測定することができる。
【0044】
電子輸送層がエレクトロルミネセンス層と陰極の間に置かれて存在する場合には、LUMOレベルが約3〜3.5eVであることが好ましい。
【0045】
<エレクトロルミネセンス層>
エレクトロルミネセンス層は、エレクトロルミネセンス材料だけで構成することができ、あるいは、1つまたは複数の別の材料と組み合わせたエレクトロルミネセンス材料を含むことができる。具体的には、エレクトロルミネセンス材料は、例えば国際特許出願WO99/48160号に開示されている正孔および/または電子輸送材料と混合することができ、あるいは、半導電性ホストマトリクス中にルミネセンスドーパントを含むことができる。別法として、エレクトロルミネセンス材料は、電荷輸送材料および/またはホスト材料に共有結合させることができる。
【0046】
エレクトロルミネセンス層は、パターン形成されても、パターン形成されなくてもよい。パターン形成されていない層を備えるデバイスは、例えば照明源として使用することができる。白色発光デバイスは、この目的に特に適している。パターン形成された層を備えるデバイスは、例えば、アクティブマトリクス表示装置またはパッシブマトリクス表示装置とすることができる。アクティブマトリクス表示装置の場合、パターン形成されたエレクトロルミネセンス層は通常、パターン形成された陽極層およびパターン形成されていない陰極と組み合わせて使用される。パッシブマトリクス表示装置の場合には、陽極層は、陽極材料からなる平行ストライプと、陽極材料に垂直に配置されたエレクトロルミネセンス材料および陰極材料の平行ストライプとから形成され、エレクトロルミネセンス材料および陰極材料の平行ストライプは通常、フォトリソグラフィによって形成された絶縁材料のストライプ(「陰極セパレータ」)によって分離される。
【0047】
エレクトロルミネセンス層に使用するのに適している材料には、小分子、ポリマーおよびデンドリマーの材料、ならびにそれらの組成物が含まれる。エレクトロルミネセンス層に使用するのに適したエレクトロルミネセンスポリマーには、ポリパラフェニレンビニレンなどのポリアリレンビニレン、およびポリフルオレンで特に2,7結合9,9−ジアルキルポリフルオレンまたは2,7結合9,9−ジアリルポリフルオレンなどのポリアリレン、ポリスピロフルオレンで特に2,7結合ポリ−9,9−スピロフルオレン、ポリインデノフルオレンで特に2,7結合ポリインデノフルオレン、ポリフェニレンで特にアルキル基またはアルコキシ基置換ポリ−1,4−フェニレンが含まれる。このようなポリマーは、例えばAdv.Mater.2000年、12(23)、1737−1750頁、およびその中の参考文献に開示されている。エレクトロルミネセンス層に使用するのに適しているエレクトロルミネセンスデンドリマーには、例えば国際特許公開WO02/066552号に開示されている、デンドリマー基を持つエレクトロルミネセンス金属錯体が含まれる。
【0048】
<陰極>
陰極は、エレクトロルミネセンス層中への電子の注入を可能にする仕事関数を有する材料から選択される。陰極とエレクトロルミネセンス材料の間の不利な相互作用の可能性など、他の要因も陰極の選択に影響を及ぼす。陰極は、アルミニウムの層など単一の材料で構成することができる。別法として、陰極は複数の金属を含むことができ、例えば国際特許公開WO98/10621号に開示されている、カルシウムとアルミニウムなどの低仕事関数材料と高仕事関数材料からなる二層、国際特許公開WO98/57381号、Appl.Phys.Lett.2002年、81(4)、634頁、および国際特許公開WO02/84759号に開示されている元素のバリウム、あるいは、金属化合物の薄層で、特に電子注入を助けるためのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物またはフッ化物の、例えば国際特許公開WO00/48258号に開示されているフッ化リチウムの薄層、Appl.Phys.Lett.2001年、79(5)、2001頁に開示されているフッ化バリウム、および酸化バリウムを含むことができる。デバイス中への電子の効率的な注入を行うために、陰極は、仕事関数が3.5eV未満であることが好ましく、3.2eV未満がより好ましく、3eV未満が最も好ましい。諸金属の仕事関数は、例えば、Michaelson,J.、Appl.Phys、48(11)、4729頁、1977年に見出すことができる。
【0049】
陰極が上部電極である場合、本発明によれば、その電極は透明である。透明陰極は、アクティブマトリクスデバイスで特に有利である。というのは、このようなデバイスの透明陽極を通る放射は、放射画素の下に置かれた駆動回路によって少なくとも部分的に遮られるからである。透明陰極は、透明になるように十分に薄くなっている電子注入材料の層を備える。通常、この層の横方向の導電性は、その薄さのために低い。この場合、電子注入材料の層は、インジウムスズ酸化物などの透明導電性材料の厚い層と組み合わせて用いられる。
【0050】
透明陰極デバイスが透明陽極を有する必要はなく(もちろん、完全に透明なデバイスが望まれるのでなければ)、したがって、底面放射デバイスで使用される透明陽極は、アルミニウム層などの反射性材料の層で置き換えまたは補足ができることを理解されたい。透明陰極デバイスの例は、例えば英国特許GB2348316号に開示されている。
【0051】
<基板および封止>
光学デバイスは、湿気および酸素の影響を受けやすい傾向がある。したがって、基板は、湿気および酸素がデバイスの中に侵入することを防ぐ良好なバリア特性を有することが好ましい。基板は、一般にガラス製である。しかし、特に可撓性のデバイスが望まれる場合には、代替の基板が使用される。例えば、基板は、交互になっているプラスチックとバリアの層からなる基板を開示している米国特許第6268695号に開示のプラスチック、あるいは欧州特許EP0949850号に開示されている薄いガラスとプラスチックの積層物を含むことができる。
【0052】
デバイスは、湿気および酸素の侵入を防ぐために封止体で封止される。基板または封止体を透過する大気中の湿気および/または酸素があれば、それを吸収するゲッタ材料を設けることができる。
【0053】
<その他>
これまでに説明した実施形態では、デバイスは、まず基板上に陽極を形成し、その後エレクトロルミネセンス層および陰極を堆積することによって形成される。しかし、本発明のデバイスはまた、まず基板上に陰極を形成し、その後エレクトロルミネセンス層および陽極を堆積することによって形成することもできることを理解されたい。
【0054】
<溶液プロセス>
単一のポリマーまたは複数のポリマーを溶液から堆積して、デバイスの有機層(1つまたは複数)を形成することができる。ポリアリレン、特にポリフルオレンに適している溶剤には、トルエンまたはキシレンなどのモノアルキルベンゼンまたはポリアルキルベンゼンが含まれる。特に好ましい溶液堆積技法は、スピンコーティングおよびインクジェット印刷である。
【0055】
スピンコーティングは特に、エレクトロルミネセンス材料のパターニングが不要であるデバイスで、例えば照明用途、または簡単な単色セグメント化表示装置に適している。
【0056】
インクジェット印刷は特に、高度情報コンテンツ表示装置、具体的にはフルカラー表示装置に適している。OLEDのインクジェット印刷が、例えば、欧州特許EP0880303号に記載されている。
【0057】
他の溶液堆積技法には、ディップコーティング、ロール印刷、およびスクリーン印刷が含まれる。
【0058】
デバイスの複数層が溶液プロセスによって形成される場合、これらの層の第1のものを形成する材料が、第2の層を堆積するのに使用される溶液中に溶解しないように、例えば、後続の層を堆積する前に1つの層を架橋することによって、または隣り合う層の材料を選択することによって、隣り合う層が混合することを防ぐ技法が当業者には知られていよう。
【0059】
本発明をその好ましい実施形態に関して具体的に図示し説明してきたが、添付の特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、形態および細部の様々な変更を本発明に加えることができることが当業者には理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に配置され、第1の極性の電荷を注入するための第1の電極と、
前記第1の電極の上に配置され、前記第1の極性と反対の極性である第2の極性の電荷を注入するための第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極の間に配置される有機発光層と、
前記第2の電極の上に配置される透明封止体と、
を備え、
前記第2の電極は、前記有機発光層によって放射された光を透過させるように適合されており、
前記透明封止体は、前記透明封止体の上面によって形成されるマイクロレンズアレイと、前記透明封止体の底面によって形成される回折格子を備える、有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項2】
前記透明封止体は、前記マイクロレンズアレイと前記回折格子が配置される単層の材料を備える、請求項1に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項3】
前記単層の材料は、熱硬化または紫外線硬化エラストマー材料から形成される、請求項2に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項4】
前記透明封止体は、いずれか一方の面に前記マイクロレンズアレイと前記回折格子が配置されるコーディング層とコア層を備える、請求項1に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項5】
前記透明封止体は、前記マイクロレンズアレイと前記回折格子の一方または両方の上に光学コーティングを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項6】
前記光学コーティングは、無機材料を含む、請求項5に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項7】
前記透明封止体は、前記第2の電極上に、または、前記第2の電極の上に配置される薄膜封止体上に、直接配置される、請求項1から6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項8】
透明封止缶が、前記透明封止体の上に配置される、請求項7に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネセンスデバイスの製造方法であって、
前記製造方法は、
第1の極性の電荷を注入するための第1の電極を、基板の上に堆積することと、
前記第1の電極の上に、有機発光層を堆積することと、
前記第1の極性と反対の極性である第2の極性の電荷を注入するための第2の電極を、前記有機発光層の上に堆積することと、
前記第2の電極の上に透明封止体を設けることと、
を含み、
前記第2の電極は、前記発光層によって放射された光を透過させるように適合されており、
前記透明封止体は、前記透明封止体の上面によって形成されるマイクロレンズアレイと、前記透明封止体の底面によって形成される回折格子を備える、製造方法。
【請求項10】
前記マイクロレンズアレイと前記光学構造体は、前記第2の電極の上に薄膜封止体が配置される前に、前記透明封止体に形成される、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記マイクロレンズアレイと前記光学構造体は、エンボス加工、印刷、エッチング、フォトリソグラフィパターニング、またはロールツーロール加工によって形成される、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記マイクロレンズアレイと前記回折格子は、エンボス加工によって形成され、
前記透明封止体は、エンボス加工の前に加熱することによって、または、溶剤を加えることによって柔らかくされる、請求項9から11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前駆体材料が、エンボス加工前に前記透明封止体膜上にコーティングとして堆積され、前記コーティングが、前記前駆体材料の硬化前にエンボス加工される、請求項9から11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記マイクロレンズアレイと前記回折格子は、前記マイクロレンズアレイと前記回折格子のそれぞれに対応するパターンが付けられた表面をそれぞれ有する互いに向き合う1対のローラを使用して、エンボス加工によって形成され、
前記透明封止体は、前記マイクロレンズアレイと前記光学構造体を形成するために、前記封止体膜の両面に接触するローラの間に通される、請求項9から13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
有機エレクトロルミネセンスデバイスの透明封止体膜であって、
前記透明封止体膜の一方の面に形成されるマイクロレンズアレイと、前記透明封止体膜の他方の面に形成される回折格子とを備える、透明封止体膜。
【請求項16】
前記マイクロレンズアレイと前記回折格子が配置される単層の材料を備える、請求項15に記載の透明封止体膜。
【請求項17】
前記単層の材料は、熱硬化または紫外線硬化エラストマー材料から形成される、請求項16に記載の透明封止体膜。
【請求項18】
前記透明封止体は、いずれか一方の面に前記マイクロレンズアレイと前記回折格子が配置されるコーティング層とコア層を備える、請求項15に記載の透明封止体膜。
【請求項19】
請求項15から18のいずれか一項に記載の透明封止体膜を形成する方法であって、
前記透明封止体膜の一方の面にマイクロレンズアレイを形成することと、前記透明封止体膜の他方の面に回折格子を形成することとを含む、方法。
【請求項20】
前記マイクロレンズアレイと前記光学構造体は、エンボス加工、印刷、エッチング、フォトリソグラフィパターニング、またはロールツーロール加工によって形成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記マイクロレンズアレイと前記回折格子は、前記マイクロレンズアレイと前記光学構造体のそれぞれに対応するパターンが付けられた表面をそれぞれ有する互いに向き合う1対のローラを使用して、エンボス加工によって形成され、
前記透明封止体膜は、前記マイクロレンズアレイと前記回折格子を形成するために、前記封止体膜の両面に接触するローラの間に通される、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−507110(P2012−507110A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529612(P2011−529612)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002285
【国際公開番号】WO2010/038005
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【Fターム(参考)】