説明

有機エレクトロルミネセンス素子、並びにこれを備えた表示素子、照明装置、及び表示装置

【課題】従来よりも優れた発光効率、発光寿命を有する有機エレクトロルミネンス素子を提供する。また、塗布法によって形成された層を含み、従来よりも優れた発光効率、発光寿命を有する有機エレクトロルミネンス素子及びこれを備えた表示素子、照明装置、表示装置を提供する。
【解決手段】1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物より形成された層及び燐光材料を含む発光層の2つの層を共に有する有機エレクトロルミネセンス素子及びこれを備えた表示素子、照明装置、表示装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子ということもある)及びこれを備えた表示素子、照明装置、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の中でも有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプの代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。
また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0004】
有機EL素子は、有機化合物の薄膜を、陰極と陽極とで挟んだ構成を有しており、薄膜の形成方法としては、蒸着法と塗布法とに大別される。蒸着法は、主に低分子化合物を用い、真空中で基板上に薄膜を形成する手法であり、製品化が先行している。
【0005】
一方、塗布法は、インクジェットや印刷など、溶液を用いて基板上に薄膜を形成する手法であり、材料の利用効率が高く、大面積化、高精細化に向いており、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な手法である。
【0006】
どちらの手法を用いた有機EL素子とも、これまで精力的に研究が行われてきたが、未だに発光効率の低さ、素子寿命の短さが大きな問題となっている。この問題を解決する一つの手段として、蒸着法による有機EL素子では多層化が行われている。
【0007】
図1に多層化された有機EL素子の一例を示す。図1において、発光を担う層を発光層1、それ以外の層を有する場合、陽極2に接する層を正孔注入層3、陰極4に接する層を電子注入層5と記述する。さらに、発光層1と正孔注入層3の間に異なる層が存在する場合、正孔輸送層6と記述、さらに発光層1と電子注入層5の間に異なる層が存在する場合、電子輸送層7と記述する。なお、図1において8は基板である。
【0008】
蒸着法によって製膜を行う場合、用いる化合物を順次変更しながら蒸着を行うことで容易に多層化が達成できる。一方、塗布法による場合、多層化するためには、新たな層を製膜する際に既に製膜した層が変化しないような方法が必要である。
【0009】
塗布法による有機EL素子の多くは、水分散液を用いて製膜を行うポリチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)からなる正孔注入層、トルエン等の芳香族系有機溶媒を用いて製膜を行う発光層の2層構造を有している。この場合、PEDOT:PSS層はトルエンに溶解しないため、2層構造を作製することが可能となっている。
【0010】
塗布法による有機EL素子でさらなる多層化が困難であったのは、類似溶媒で積層を行った場合に下層が溶解してしまうことが原因である。この問題に対処するために、重合可能な置換基を有する低分子化合物を塗布後、重合させることにより溶解度を変化させ、多層構造を形成する技術が知られている(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照。)。
【0011】
一方、近年有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。
【0012】
燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系発光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(非特許文献2、3及び4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−279007号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】廣瀬健吾、熊木大介、小池信明、栗山晃、池畑誠一郎、時任静士、第53回応用物理学関係連合講演会、26p−ZK−4(2006)
【非特許文献2】M.A.Baldo et al.,Nature,vol.395,p.151(1998)
【非特許文献3】M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,vol.75,p.4(1999)
【非特許文献4】M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来よりも優れた発光効率、発光寿命を有する有機EL素子並びにこれを備えた照明装置、表示素子、及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物より形成された層と燐光材料を含む発光層とを用いることにより、有機EL素子の発光効率、発光寿命を改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、次の事項に関する。
(1)1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物を用いて形成された層(以下、「重合層」と呼ぶ。)及び燐光材料を含む発光層の2つの層を共に有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【0018】
(2)前記重合層が正孔輸送層である前記(1)に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0019】
(3)前記重合層が正孔注入層である前記(1)または(2)に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0020】
(4)前記重合層と前記発光層とが隣接して積層されている前記(1)〜(3)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0021】
(5)前記混合物を塗布して得られた層を重合させて前記重合層を形成し、該重合層上に前記発光層を積層する工程を含む手段により得られる、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0022】
(6)前記混合物を塗布して得られた層を重合させて前記重合層を形成し、該重合層上に前記発光層を塗布法により形成する工程を含む手段により得られる、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0023】
(7)前記燐光材料が、イリジウム錯体である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0024】
(8)前記重合可能な置換基が、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群より選択される1種である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0025】
(9)前記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーである前記(1)〜(8)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0026】
(10)前記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーが、芳香族アミン又はカルバゾールを有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーである前記(1)〜(8)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0027】
(11)前記有機エレクトロルミネセンス素子の発光色が白色である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0028】
(12)前記有機エレクトロルミネセンス素子の基板が、フレキシブル基板である前記(1)〜(11)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0029】
(13)前記有機エレクトロルミネセンス素子の基板が、樹脂フィルムである前記(1)〜(11)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0030】
(14)前記(1)〜(13)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子。
【0031】
(15)前記(1)〜(13)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置。
【0032】
(16)前記(15)に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えた表示装置。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、従来よりも優れた発光効率、発光寿命を有する有機エレクトロルミネセンス素子を提供することができる。
本発明の有機エレクトロルミネセンス素子は、各層を塗布法によって形成することもできるため低コストで製造することができる。
本発明の有機エレクトロルミネセンス素子を用いた照明装置、表示素子、及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】多層化された有機EL素子の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<有機エレクトロルミネセンス素子>
本発明の有機EL素子は、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物より形成された層(以下、重合層ということもある)及び燐光材料を含む発光層を共に有することをその特徴とするものである。まず、燐光材料を含む発光層について詳細に説明する。
【0036】
[発光層]
発光層に含まれる燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(前記の非特許文献3参照)又はAdachi etal.,Appl.Phys.Lett.,78no.11,2001,1622に示される赤色発光を行う(btp)Ir(acac){bis〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C3〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}、Ir(piq)〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。
【0037】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0038】
また、燐光材料を含む発光層は、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。
ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0039】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2’-dimethylbiphenyl)などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0040】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。
塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0041】
上記のような塗布方法は、通常、−20〜+300℃の温度範囲、好ましくは10〜100℃、特に好ましくは15〜50℃で実施することができ、また上記溶液に用いる溶媒としては、特に制限されないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセロソルブアセテート、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、テトラリン等を挙げることができる。
また、塗布後、ホットプレートやオーブンによって+30〜+300℃の温度範囲で加熱することで溶媒を除去してもよい。
【0042】
[重合層]
次に、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物を用いて形成された層(重合層)について詳細に説明する。
重合層とは、具体的には、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物を、前記発光層の形成方法において説明した塗布法により所望の基体上に塗布した後、光照射や加熱処理などにより、ポリマー若しくはオリゴマーが有する重合可能な置換基の重合反応を進行させ、塗布層の溶解度を変化(硬化)させた層である。
【0043】
また、上記光照射には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、発光ダイオード、太陽光等の光源を用いることができる。
【0044】
一方、上記加熱処理は、ホットプレート上やオーブン内で行うことができ、0〜+300℃の温度範囲、好ましくは20〜250℃、特に好ましくは80〜200℃で実施することができる。
【0045】
上記のように、ポリマー又はオリゴマーが有する重合可能な置換基の重合反応を進行させ、塗布層の溶解度を変化(硬化)させることで、該層の熱的安定性を改善することができる。
【0046】
また、重合反応により溶解度を低下させることで、さらに発光層等の他の層を塗布形成する場合でもその塗布液によって重合層が溶解することがないため、当該他の層を塗布法により形成することができる。つまり、塗布法によって多層構造を容易に作製することができ、高効率、長寿命の有機EL素子を、低コストで製造することができる。
【0047】
上記重合層は、有機EL素子の、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層とすることができ、発光効率、寿命特性の観点から、特に正孔注入層、正孔輸送層であることが好ましい。
【0048】
正孔注入層及び正孔輸送層のいずれか一方が重合層であってもよく、双方が重合層であってもよい。
また、これら層の膜厚は、特に制限はないが、10〜100nmであることが好ましく、20〜60nmであることがより好ましく、20〜40nmであることがさらに好ましい。
【0049】
また、上記重合層は、燐光材料を含む発光層と隣接して積層されていることがより好ましい。本重合層は、燐光材料の発光効率、劣化に与える影響が小さく、素子の発光効率や素子寿命を改善できるためである。
【0050】
(混合物)
次に、上記重合層を形成するために用いる、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物について詳細を述べる。
上記「重合可能な置換基」とは、重合反応を起こすことにより2分子以上の分子間で結合を形成可能な置換基のことである。
【0051】
重合可能な置換基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、アレーン基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、フリル基、ピロール基、チオフェン基、シロール基等を挙げることができる)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)、ラクトン基、ラクタム基又はシロキサン誘導体を含有する基等が挙げられる。
【0052】
また、上記基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。例えば、エステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせである。
【0053】
重合可能な置換基としては、特に、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基が反応性の観点から好ましく、有機EL素子の素子特性の観点から、オキセタン基が最も好ましい。
【0054】
また、重合可能な置換基は、ポリマー又はオリゴマーの側鎖として導入されていても、末端に導入されていてもよく、側鎖と末端の両方に導入されていてもよい。有機EL素子の素子特性の観点から、末端に導入されていることが好ましく、末端にのみ導入されていることが最も好ましい。
【0055】
上記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーは、隣接した電極または有機層から隣接した有機層へと効率よく正孔を輸送する観点から、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有することが好ましい。このような正孔輸送性を有する繰り返し単位としては、芳香族アミン又はカルバゾールであることが好ましく、具体的には、例えば、下記一般式(1a)〜(6a)、(7a)〜(13a)等が挙げられる。
【0056】
【化1】

【0057】
上記一般式(1a)〜(6a)中のAr〜Ar31は、それぞれ独立に置換又は非置換のアリーレン基、ヘテロアリーレン基を表す。ここで、アリーレン基とは、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり、ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団である。
【0058】
また、アリーレン基、ヘテロアリーレン基は、置換又は非置換であってもよい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。
【0059】
また、ヘテロアリーレン基としては、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。
【0060】
また、置換又は非置換であってもよいアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基の例を下記構造式(1)〜(30)に示す。
【0061】
【化2】

【0062】
上記一般式(1a)〜(6a)の置換基R〜R10及び(7a)〜(13a)の置換基R並びに上記構造式(1)〜(30)における置換基Rとしては、特に制限はないが、例えば、−R、−OR、−SR、−OCOR、−COOR、−SiR又はポリエーテルである下記一般式
【0063】
【化3】


(ただし、R〜R11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状若しくは分岐アルキル基又は炭素数2〜30個のアリール基若しくはヘテロアリール基を表し、a及びb並びにcは、1以上の整数、好ましくは1〜4の整数を表す。)で表される置換基を挙げることができ、それぞれは同一であっても異なっていてもよい。
【0064】
これらの置換基のうち、上記R〜R10又はRとしては、それぞれ独立して、未置換のもの、すなわち水素原子であるか又は−Rで表されるアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基が直接置換したもの、−ORで表される水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基が、重合反応性及び耐熱性の点から好ましい。
【0065】
前記一般式(10a)〜(13a)のX及びYは、それぞれ独立に、前記Rのうち、水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基を表し、例えば、下記構造式が挙げられる。
【0066】
【化4】

【0067】
上記一般式(10a)のZは、それぞれ独立に、前記Rのうち、水素原子を2つ以上有する基から、さらに2つの水素原子を除去した基を表し、例えば、下記構造式が挙げられる。
【0068】
【化5】

【0069】
また、上記一般式(1a)〜(6a)において、窒素原子に直接結合していないアリーレン基又はヘテロアリーレン基(式中、Ar、Ar、Ar15)は、溶解度や化学的安定性の観点から、フェニレン基、フルオレン−ジイル基、フェナントレン−ジイル基、縮環構造を有する上記の構造式(29)、式(30)が好ましい。なお、上記構造式(29)、(30)におけるl、m、nは、1〜5の整数であり、2〜4が好ましい。
【0070】
また、重合層を有機EL素子の正孔輸送層や正孔注入層に用いる場合、発光層に電子を効率よく閉じ込めて発光効率を向上させるために、正孔輸送層や正孔注入層のLUMOレベルが高いことが望ましい。この観点から、多環構造を有する上記の構造式(29)及び(30)がより好ましい。
【0071】
また、重合層の形成のために用いるポリマー又はオリゴマーは、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、正孔輸送性を有する繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、ヘテロアリーレン基を共重合繰り返し単位として有する共重合体でもよい。
【0072】
この場合、共重合体では、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体であってもよく、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。
また、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。
【0073】
また、重合可能な置換基は、ポリマー又はオリゴマーの側鎖として導入されていても、末端に導入されていてもよく、側鎖と末端の両方に導入されていてもよい。有機EL素子の素子特性の観点から、末端に導入されていることが好ましく、末端にのみ導入されていることが最も好ましい。
【0074】
以下、重合可能な置換基が、ポリマー又はオリゴマーの末端に導入されている場合の詳細について説明する。重合可能な置換基がポリマー又はオリゴマーの末端に導入され、かつ、正孔輸送性を有する繰り返し単位が上記一般式(1a)〜(6a)のいずれかである場合のポリマー又はオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(1b)〜(6b)が例示される。
【0075】
【化6】

【0076】
また、重合可能な置換基がポリマー又はオリゴマーの末端に導入され、かつ、正孔輸送性を有する繰り返し単位が上記一般式(7a)〜(13a)のいずれかである場合のポリマー又はオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(7b)〜(20b)が例示される。
【0077】
【化7】

【0078】
上記E〜E12及びEは、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリーレン基、ヘテロアリール基、ヘテロアリーレン基等に前述の重合可能な置換基が1つ以上結合した基であり、アリールアミン構造を有する基でもよい。E〜E12及びEとして、好ましくはオキセタン含有基であり、例えば、
【0079】
【化8】


等が例示される。
【0080】
また、上記一般式(1b)〜(20b)において、繰り返し数nの数平均は、2以上100以下が好ましく、2以上20以下がより好ましい。nが小さすぎると製膜安定性が低下し、大きすぎると重合反応を行っても溶解度の変化が小さく、積層化が困難になる。
【0081】
また、重合層に用いるポリマー又はオリゴマーの数平均分子量は、1,000以上100,000以下であることが好ましく、1,000以上、10,000以下であることがより好ましい。分子量が1,000未満であると製膜安定性が低下し、100,000を越えると重合反応を行っても溶解度の変化が小さく、積層化が困難になる。なお、ポリマー又はオリゴマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算で測定したときの数平均分子量のことである。
【0082】
また、重合層に用いるポリマー又はオリゴマーの多分散度は、1.0より大きいことが好ましく、1.1以上、5.0以下がより好ましく、1.2以上、3.0以下が最も好ましい。多分散度が小さすぎると、成膜後に凝集しやすくなる傾向があり、大きすぎると素子特性が低下する傾向がある。なお、ポリマー又はオリゴマーの多分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算で測定したときの(重量平均分子量/数平均分子量)のことである。
【0083】
重合層に用いるポリマー又はオリゴマーは、種々の当業者公知の合成法により製造できる。例えば、各モノマー単位が芳香族環を有し、芳香族環同士を結合させたポリマーを製造する場合には、ヤマモト(T. Yamamoto)らのBull. Chem. Soc. Jap.、51巻、7号、2091頁(1978)及びゼンバヤシ(M. Zembayashi)らのTet. Lett., 47巻4089頁(1977)に記載されている方法を用いることができるが、スズキ(A. Suzuki)によりSynthetic Communications, Vol.11, No.7, p.513 (1981)において報告されている方法がポリマーの製造には一般的である。
【0084】
この反応は、芳香族ボロン酸(boronic acid)誘導体と芳香族ハロゲン化物の間でPd触媒化クロスカップリング反応(通常、「鈴木反応」と呼ばれる)を起こさしめるものであり、対応する芳香族環同士を結合する反応に用いることにより、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーを製造することができる。
【0085】
また、この反応はPd(II)塩又はPd(0)錯体の形態の可溶性Pd化合物を必要とする。芳香族反応体を基準として0.01〜5モルパーセントのPd(PhP)、3級ホスフィンリガンドとのPd(OAc)2錯体及びPdCl(dppf)錯体が一般に好ましいPd源である。
【0086】
この反応は塩基も必要とし、水性アルカリカーボネートもしくはバイカーボネートが最も好ましい。
また、相間移動触媒を用いて、非極性溶媒中で反応を促進することもできる。
溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、アニソール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等が用いられる。
【0087】
重合層に用いる混合物には、上記ポリマー又はオリゴマーの他に、さらに重合開始剤を配合することもできる。この重合開始剤としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に制限はないが、光照射及び/又は加熱によって重合を開始させるものであることが好ましく、光照射によって重合を開始させるもの(以後、光開始剤という)であることがより好ましい。
【0088】
光開始剤としては、200nm〜800nmの光照射によって重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に制限されないが、例えば、重合可能な置換基がオキセタン基の場合には、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、フェロセン誘導体が反応性の観点から好ましく、以下の化合物が例示される。
【0089】
【化9】

【0090】
また、上記光開始剤は、感光性を向上させるために光増感剤と併用してもよい。光増感剤としては、例えば、アントラセン誘導体、チオキサントン誘導体が挙げられる。
【0091】
また、重合開始剤の配合割合は、ポリマー又はオリゴマーの重量に対して0.1重量%〜10重量%の範囲であることが好ましく、0.2重量%〜8重量%の範囲であることがより好ましく、0.5〜5重量%の範囲であることがさらに好ましい。重合開始剤の配合割合が0.1重量%未満であると積層化が困難になる傾向があり、10重量%を越えると素子特性が低下する傾向がある。
【0092】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0093】
[陽極]
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0094】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-. phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole) (PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0095】
[基板]
本発明の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものであれば特に制限は無いが、ガラス、石英、フレキシブル基板、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。フレキシブル基板や樹脂フィルムを用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり、特に好ましい。
【0096】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0097】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気や酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素や窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0098】
本発明の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、発光色を白色とすることで、家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明装置に用いることができるため好ましい。
【0099】
<照明装置>
本発明の照明装置は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。すなわち、本発明の有機EL素子は、照明装置の光源として用いることができる。例えば、白色発光素子とした場合、上述のように、家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明装置に用いることができる。
【0100】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させるという方法が挙げられる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0101】
<表示素子、表示装置>
本発明の表示素子は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。
例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、本発明の有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
画像の形成には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレー用として用いられる。
【0102】
また、バックライト(白色発光光源)として上述の本発明の照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを本発明の照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限するものではない。
【0104】
<重合可能な置換基を有するモノマーの合成>
(モノマー合成例1)
【0105】
【化10】

【0106】
丸底フラスコに、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(50mmol)、4−ブロモベンジルブロミド(50mmol)、n−ヘキサン(200mL)、テトラブチルアンモニウムブロミド(2.5mmol)及び50重量%水酸化ナトリウム水溶液(36g)を加え、窒素下、70℃で6時間加熱攪拌した。
【0107】
室温(25℃)まで冷却後、水200mLを加え、n−ヘキサンで抽出した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーと減圧蒸留によって精製し、重合可能な置換基を有するモノマーAを無色油状物として9.51g得た。収率67重量%。
【0108】
H−NMR(300MHz,CDCl,δppm);0.86(t,J=7.5Hz,3H),1.76(t,J=7.5Hz,2H),3.57(s,2H),4.39(d,J=5.7Hz,2H),4.45(d,J=5.7Hz,2H),4.51(s,2H),7.22(d,J=8.4Hz,2H),7.47(d,J=8.4Hz,2H)。
【0109】
<重合可能な置換基を有しかつ正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するオリゴマーの合成>
(オリゴマー合成例1)
【0110】
【化11】

【0111】
密閉可能なフッ素樹脂製容器に、2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(0.4mmol)、4,4’−ジブロモ−4’−n−ブチルトリフェニルアミン(0.32mmol)、重合可能な置換基を有するモノマーA(0.16mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.008mmol)、2M炭酸カリウム水溶液(5.3ml)、Aliquat336(0.4mmol)及びアニソール(4ml)を入れ、窒素雰囲気下、密閉容器中、マイクロ波を照射して90℃、2時間加熱撹拌した。
【0112】
反応溶液をメタノール/水混合溶媒(9:1)に注ぎ、析出したポリマーをろ別した。再沈殿を2回繰り返し行って精製し、重合可能な置換基を有しかつ正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するオリゴマーAを得た。得られたオリゴマーAの数平均分子量はポリスチレン換算で4652であった。
【0113】
このオリゴマーのトルエン溶液(1重量パーセント)を、窒素中、3000min−1で石英板へスピンコートし、80℃で5分間乾燥させて厚さ40nmの薄膜を得た。仕事関数は、この薄膜を、大気中、理研計器製表面分析装置AC−1を用い、照射光量50nWの条件で仕事関数の測定を行ったところ、5.21eVであった。
【0114】
(オリゴマー合成例2)
【0115】
【化12】

【0116】
モノマーとしてとして2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(0.4mmol)、上記構造のモノマーB(0.32mmol)、重合可能な置換基を有するモノマーA(0.16mmol)を用い、オリゴマー合成例1と同様の方法でオリゴマーを合成した。得られたオリゴマーの数平均分子量はポリスチレン換算で7971、仕事関数は5.05eVであった。
【0117】
(オリゴマー合成例3)
【0118】
【化13】

【0119】
モノマーとしてとして2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(0.4mmol)、上記構造のモノマーC(0.32mmol)、重合可能な置換基を有するモノマーA(0.16mmol)を用い、オリゴマー合成例1と同様の方法でオリゴマーを合成した。得られたオリゴマーの数平均分子量はポリスチレン換算で4694、仕事関数は5.45eVであった。
【0120】
<有機EL素子の作製:正孔輸送層が重合層である例>
[実施例1]
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、PEDOT:PSS分散液(シュタルク・ヴィテック社製、AI4083 LVW142)を1500min−1でスピン塗布し、ホットプレート上で空気中200℃/10分加熱乾燥して正孔注入層(40nm)を形成した。以後の実験は乾燥窒素環境下で行った。
【0121】
次いで、正孔注入層上に上記で得たオリゴマーA(4.5mg)、下記化学式
【0122】
【化14】


で表される光開始剤(0.13mg)、トルエン(1.2ml)を混合した塗布溶液を、3000min−1でスピンコートした後、メタルハライドランプを用いて光照射(3J/cm)し、ホットプレート上で180℃、60分間加熱して硬化させ、正孔輸送層(40nm)を形成した。
【0123】
次に、得られたガラス基板を真空蒸着機中に移し、CBP+Ir(piq)(40nm)、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着した。
【0124】
電極形成後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITO基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、多層構造の高分子型有機EL素子を作製した。以後の実験は大気中、室温(25℃)で行った。
【0125】
この有機EL素子のITOを正極、Alを陰極として電圧を印加したところ、4Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/mにおける電流効率は5.3cd/Aであった。なお、電流電圧特性はヒューレットパッカード社製の微小電流計4140Bで測定し、発光輝度はフォトリサーチ社製の輝度計プリチャード1980Bを用いて測定した。
【0126】
また、寿命特性として、定電流を印加しながらトプコン社製BM−7で輝度を測定し、輝度が初期輝度(1000cd/m)から半減する時間を測定したところ、70時間であった。
【0127】
[比較例1]
正孔輸送層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。この有機EL素子に電圧を印加したところ、4Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/mにおける電流効率は4.1cd/Aであり、実施例1の方が1.3倍高い効率が得られた。また寿命特性を測定したところ、4時間で輝度が半減し、実施例1の方が18倍長寿命であった。
【0128】
<有機EL素子の作製:正孔注入層が重合層である例>
[実施例2]
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、上記で得たオリゴマーA(4.5mg)光開始剤(実施例1と同じ)(0.13mg)、トルエン(500μl)を混合した塗布溶液を、3000min−1でスピンコートした。以後の実験は乾燥窒素環境下で行った。
【0129】
次いで、メタルハライドランプを用いて光照射(3J/cm)し、ホットプレート上で、120℃で15分間、180℃で60分間加熱して硬化させ、正孔注入層(40nm)を形成した。
【0130】
次に、実施例1と同様にして、CBP+Ir(piq)(40nm)、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着し、封止を行った。
【0131】
この有機EL素子のITOを正極、Alを陰極として電圧を印加したところ、4Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/mにおける電流効率は6.1cd/Aであった。
また、輝度が初期輝度(1000cd/m)から半減する時間を測定したところ、215時間であった。
正孔注入層を従来のPEDOT:PSS分散液より形成した比較例1に比べ、効率は1.5倍、寿命は54倍であった。
【0132】
<有機EL素子の作製:正孔輸送層が重合層であり、発光層を塗布法により作製した例>
[実施例3]
実施例1と同様にして、PEDOT:PSS分散液を用いて正孔注入層(40nm)を、オリゴマーAと光開始剤(実施例1と同じ)を用いて重合層(正孔輸送層)を形成した。
【0133】
次いで、CBP(5.7mg)、赤色Ir錯体(0.64mg)、トルエン(820μL)からなる溶液を、3000min−1でスピンコートし、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた。得られた基板を真空蒸着機中に移し、実施例1と同様にして、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着し、封止した。
【0134】
この有機EL素子のITOを正極、Alを陰極として電圧を印加したところ、4.0Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/mにおける電流効率は5.8cd/Aであった。
また、輝度が初期輝度(1000cd/m)から半減する時間を測定したところ、6.8時間であった。
【0135】
[比較例2]
重合層を形成しなかった以外、実施例3と同様にして有機EL素子を作製した。6.0Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/mにおける電流効率は2.3cd/Aであった。
【0136】
また、輝度が初期輝度(1000cd/m)から半減する時間を測定したところ、0.2時間であった。正孔輸送層として重合層を形成した実施例3は、効率で2.5倍、寿命で34倍であった。
【0137】
以上の実施例・比較例を主要な構成と評価結果をまとめて表1に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
表1より、実施例1、2と比較例1との比較、及び実施例3と比較例2との比較より、実施例の有機EL素子は、発光効率及び発光寿命のいずれにおいても比較例より勝っていることが分かる。これは本発明における重合層を正孔注入層または正孔輸送層として適用することで、発光層へ正孔が効率よく注入・輸送されているために、発光効率が向上し、引いては発光寿命が長くなっていると考えられる。
【0140】
<白色有機EL素子および照明装置の作製>
[実施例4]
実施例1と同様にして、PEDOT:PSS分散液を用いて正孔注入層(40nm)を、オリゴマーAと光開始剤(実施例1と同じ)を用いて重合層(正孔輸送層)を形成した。
【0141】
次に、窒素中、CDBP(15mg)、FIr(pic)(0.9mg)、Ir(ppy)3(0.9mg)、(btp)2Ir(acac)(1.2mg)、ジクロロベンゼン(0.5mL)の混合物を、3000rpmにてスピンコートし、次いで80℃で5分間乾燥させて発光層(40nm)を形成した。さらに、実施例1と同様にして、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着し、封止処理して有機EL素子および照明装置を作製した。
【0142】
この白色有機EL素子および照明装置に電圧を印加したところ、均一な白色発光が観測された。
【0143】
[比較例3]
重合層を形成しなかった以外、実施例4と同様にして白色有機EL素子および照明装置を作製した。
【0144】
この白色有機EL素子および照明装置に電圧を印加したところ、白色発光が観測されたが、発光寿命は実施例4の1/3であった。
【0145】
以上の実施例4と比較例3との比較により、本発明における重合層を挿入することで、白色有機EL素子および照明装置を安定的に駆動できることがわかる。
【符号の説明】
【0146】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物を用いて形成された層(以下、「重合層」と呼ぶ。)及び燐光材料を含む発光層の2つの層を共に有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項2】
前記重合層が正孔輸送層である請求項1に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項3】
前記重合層が正孔注入層である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項4】
前記重合層と前記発光層とが隣接して積層されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項5】
前記混合物を塗布して得られた層を重合させて前記重合層を形成し、該重合層上に前記発光層を積層する工程を含む手段により得られる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項6】
前記混合物を塗布して得られた層を重合させて前記重合層を形成し、該重合層上に前記発光層を塗布法により形成する工程を含む手段により得られる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項7】
前記燐光材料が、イリジウム錯体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項8】
前記重合可能な置換基が、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群より選択される1種である請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項9】
前記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーである請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項10】
前記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーが、芳香族アミン又はカルバゾールを有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーである請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項11】
前記有機エレクトロルミネセンス素子の発光色が白色である請求項1〜10のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項12】
前記有機エレクトロルミネセンス素子の基板が、フレキシブル基板である請求項1〜11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項13】
前記有機エレクトロルミネセンス素子の基板が、樹脂フィルムである請求項1〜11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置。
【請求項16】
請求項15に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えた表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−34496(P2010−34496A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14208(P2009−14208)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】