説明

有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法及び有機エレクトロルミネセンス素子

【課題】有機発光媒体層上に形成する電極の形成及び有機EL素子の封止が確実にでき、ショートがない有機EL素子とその製造方法を提供すること。
【解決手段】基板上にパターン状に第一の電極2を形成し、その端部を被覆する親液性隔壁31と疎液性隔壁32とを形成し、これら隔壁31,32によって区画された領域に、親液性隔壁に親和性を有し、疎液性隔壁に親和性の乏しいインキを適用して有機発光媒体層を形成する有機発光媒体層を形成した後、疎液性隔壁を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報表示端末などのディスプレイや面発光光源として幅広い用途が期待される有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とする)の製造方法とこの方法で製造された有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報表示端末のディスプレイ用途として、大小の光学式表示装置が使用されるようになってきている。中でも、有機EL素子を用いた表示装置は、自発光型であるため応答速度が速く、消費電力が低いことから次世代のディスプレイとして注目されている。
【0003】
有機EL素子は、有機発光媒体層を第一の電極と第二の電極とで挟んだ単純な基本構造をしている。この電極間に電圧を印加し、一方の電極から注入されるホールと、他方の電極から注入される電子とが発光層内で再結合する際に生じる光を画像表示や光源として用いるというものである。なお、有機発光媒体層は、この発光層単独から構成される場合もあるが、これに加えて発光効率を向上させる発光補助層を積層した積層構造から構成されている場合もある。発光補助層としては、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層等がある。
【0004】
有機EL素子で何らかの画像表示を行うためには画素毎に発光のオンオフを調整する必要がある。そのため、少なくとも一方の電極はパターニングされて設けられる必要があり、通常、先に基板上に形成される第一の電極が例えばエッチングによってパターニングされている。この際、基板上にパターン状に設けられた第一の電極の端部の段差は、そのままでは、この上に設けられた発光層や発光補助層が覆いきれず、このため、その露出端部が前記第二の電極と接触して、ショートを起こす原因となっている。このショートを防ぐため、第一の電極の端部を絶縁性の材料で覆うことが行われている。
【0005】
また、第一の電極上に形成される発光層や発光補助層を、液状のインキを用い、ノズルからインキを吐出する方法や印刷法によって形成する場合、隣り合う画素と混ざり合ったり導通してしまうのを防ぐために隔壁が形成される。
【0006】
従って、それぞれの第一電極形状に沿って、パッシブ型の有機EL素子の場合はストライプ状に、アクティブ型の有機EL素子の場合は格子状に隔壁が形成されている(特許文献1参照)。
【0007】
先に説明したように、隔壁は、隔壁内に保持するインキが隣り合う画素と混ざってしまうのを防ぐ役割もあるため、ある程度の高さが必要である。通常、印刷時のインキの液面よりも高い必要があり、インキをノズルから供給する方法においてはインキ飛沫が飛散するのを防止するために、印刷法よりもより高い隔壁が要求される。また、隔壁を越えてインキが混合することを防ぐため、通常、この隔壁には疎液性が付与される(例えば特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、インキには溶剤が含まれており、この溶剤を乾燥除去したときには、インキ皮膜の体積は減少する。このため、インキが乾いて発光層となったとき、隔壁と有機発光媒体層表面との段差は非常に大きいものとなる。そのため、有機発光媒体層上に第二の電極を形成する際、この第二の電極を均一な厚みに形成できないことがあった。
【0009】
また、この第二の電極は一般に真空製膜法で形成されるため、疎水性の隔壁上では膜が形成されにくく、この第二の電極が隔壁上で断線してしまうなどの問題があった。
【0010】
また、有機EL素子の上面から光を取り出すいわゆるトップエミッション構造に要求される上面べた封止においては、隔壁による段差が均一な封止を妨げたり、第二の電極上全面に積層された接着剤の硬化収縮のため第二の電極に応力がかかり、第二の電極が剥離しやすい、さらには接着剤自体の接着性が低下して封止用基材が剥がれてしまうという問題がある。
【特許文献1】特開平11−810862号公報
【特許文献2】特開平11−848339公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、有機発光媒体層上に形成する電極の形成及び有機EL素子の封止が確実にでき、ショートがない有機EL素子とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、請求項1に記載の発明は、基板と、この基板上に設けられたパターン状の第一の電極と、第一の電極の端部を被覆する親液性隔壁と、第一の電極上であって、隔壁で区画された領域に設けられた有機発光媒体層と、この有機発光媒体層を挟んで第一の電極に対向する第二の電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
基板上にパターン状に第一の電極を形成する第一電極形成工程と、
前記第一の電極の端部を被覆する親液性隔壁と、当該親液性隔壁の上に位置する疎液性隔壁とを形成する隔壁形成工程と、
前記親液性隔壁及び疎液性隔壁によって区画された領域に、この親液性隔壁に親和性を有し、疎液性隔壁に親和性の乏しいインキを適用して有機発光媒体層を形成する有機発光媒体層形成工程と、
前記有機発光媒体層形成工程の後に、疎液性隔壁を除去する疎液性隔壁除去工程と、
前記疎液性隔壁除去工程の後に、第二の電極を形成する第二電極形成工程とを、
具備することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、前記隔壁形成工程が、
第一の電極を形成した基板上に親液性隔壁形成層を積層する工程と、
前記親液性隔壁形成層上に疎液性隔壁形成層を積層する工程と、
前記疎液性隔壁形成層をパターニングして疎液性隔壁とする工程と、
疎液性隔壁をエッチングマスクとして、前記親液性隔壁形成層をエッチングによりパターニングして親液性隔壁とする工程であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、有機発光媒体層形成工程が、印刷法によることを特徴とする請求項1又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、前記印刷法は凸版印刷法またはノズルからインキを吐出する方法であることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、前記親液性隔壁が無機材料から構成されていることを
特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、前記疎液性隔壁が有機材料から構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、基板と、この基板上に設けられたパターン状の第一の電極と、第一の電極の端部を被覆する親液性隔壁と、第一の電極上であって、隔壁で区画された領域に設けられた有機発光媒体層と、この有機発光媒体層を挟んで第一の電極に対向する第二の電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記親液性隔壁の上面と有機発光媒体層の上面とが同じ高さであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機発光媒体層形成工程においては、親液性隔壁に重ねられた疎液性隔壁が十分な高さを有するため、適用された有機発光媒体層が隔壁を越えて混ざり合うことがない。また、この有機発光媒体層形成工程の後に疎液性隔壁は除去され、その隔壁は低く、しかも、親液性であるため、電極の断線がなく、また確実に封止され信頼性の高い有機EL素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0021】
(基板)
本発明に係る基板1としては、絶縁性を有する基板であれば如何なる基板も使用することができる。この基板側から光を出射するボトムエミッション素子の場合には、基板として透明なものを使用する必要がある。
【0022】
例えば、ガラス基板や石英基板が使用できる。また、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートであっても良い。これらプラスチックフィルムやシートに、金属酸化物薄膜、金属弗化物薄膜、金属窒化物薄膜、金属酸窒化物薄膜、あるいは高分子樹脂膜を積層したものを基板として利用してもよい。金属酸化物薄膜としては、酸化珪素、酸化アルミニウム等が例示できる。金属弗化物薄膜としては、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等が例示できる。金属窒化物薄膜としては、窒化珪素、窒化アルミニウム等が例示できる。また、高分子樹脂膜としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等が例示できる。
【0023】
また、トップエミッション素子の場合には、不透明な基板を使用することもできる。例えば、アルミニウムやステンレスなどの金属箔、金属シート、金属板等である。また、前記プラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属薄膜を積層させたものを用いることも可能である。
【0024】
また、これらの基板は、あらかじめ加熱処理を行うことにより、基板内部や表面に吸着した水分を極力低減することがより好ましい。また、基板上に積層される材料におうじて、密着性を向上させるために、超音波洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理などの表面処理を施してから使用することが好ましい。
【0025】
また、これらに薄膜トランジスタ(TFT)を形成して、駆動用基板としても良い。TFTの材料としては、ポリチオフェンやポリアニリン、銅フタロシアニンやペリレン誘導体等の有機TFTでよく、また、アモルファスシリコンやポリシリコンTFTでもよい。カラーフィルター層や光散乱層、光偏向層等を設けて基板としてもよい。
【0026】
(第一電極形成工程)
次に、この基板1上に、第一の電極2を形成する(図1)。
【0027】
第一の電極2は、第二の電極5と共に、有機発光媒体層4に電圧を印加するものである。画素ごとに電圧を印加するため、第一の電極2はパターン状に構成されている必要がある。例えば、第二の電極5が全面一様に構成されている場合には、第一の電極2は画素パターン状に構成されていなければならない。また、第二の電極5がストライプパターンを有する場合には、第一の電極2は、これと交差するストライプパターンに構成して、その交点部位を画素とすることができる。
【0028】
第一の電極2と第二の電極5とは、そのいずれが陽極であっても良い。第一の電極2が陽極である場合には、第二の電極5は陰極である。また、この反対であっても良い。なお、ボトムエミッション素子の場合には、第一の電極2は透明である必要がある。トップエミッション素子の場合には、第二電極5が透明である必要がある。
【0029】
ボトムエミッション素子の場合を例として説明すると、この第一の電極2の材料として、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物が利用できる。皮膜形成方法としては、真空製膜法が利用できる。例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等である。そして、真空製膜された金属酸化物皮膜にフォトレジストを塗布して露光・現像し、ウェットエッチング又はドライエッチングして、パターン状に加工することができる。
【0030】
また、第一の電極の材料として、前記金属酸化物の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂などに分散した微粒子分散膜を使用することもできる。皮膜形成方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法などを用いることができ、この場合には、パターン状の皮膜を形成することができる。
【0031】
(隔壁形成工程)
次に、この第一の電極2の端部を被覆する隔壁を形成する。隔壁は、親液性隔壁31と疎液性隔壁32の二層構造を有するもので、画素と画素とを区画するものである。なお、図に示すように、疎液性隔壁32より親液性隔壁31の方が大きい。
【0032】
親液性隔壁31の材質としては、有機発光媒体層4を構成するインキや第二の電極5との親和性に優れたものが好ましく使用できる。一般に、親水性の無機材料である。例えば、無機酸化物、無機窒化物である。無機酸化物としては、例えば、珪素酸化物、アルミニウム酸化物等が例示できる。また、無機窒化物としては、窒化珪素、炭窒化珪素などが例示できる。その厚みは、第一の電極2の厚みに有機発光媒体層4の厚みを加えたものと同一である必要がある。一般に、100〜500nmである。
【0033】
この親液性隔壁は、第一の電極上に、その皮膜(親液性隔壁形成層)31を形成した後、エッチングして、隔壁パターンにパターニングすることができる。親液性隔壁形成層31の形成方法としては、前述の真空製膜法が利用できる。エッチングの際には、後述の疎液性隔壁をエッチングマスクとしてエッチングすることにより、パターン状に加工することができる。なお、この親液性は接触角によって評価することができ、好ましくは接触角
20度以下、より好ましくは10度以下である。
【0034】
次に、疎液性隔壁32の材質としては、適用するインキとの親和性に乏しい有機材料を好ましく使用することができる。好ましくは、感光性材料である。感光性材料としては、例えば、樹脂バインダーに、モノマー又はオリゴマーと、このモノマーやオリゴマーを重合させる光重合開始剤とを含有する感光性材料が例示できる。そして、この感光性材料を前記親液性隔壁形成層31上に塗布してその皮膜(疎液性隔壁形成層)を設け(図2)、露光・現像して隔壁パターンに加工した後、フッ素系ガスのプラズマで処理して疎液性を高めることができる(図3)。フッ素系ガスとしては、CF4、SF6、CHF3などが使用できる。
【0035】
また、感光性材料として、前記樹脂バインダーに、モノマー又はオリゴマーと、このモノマーやオリゴマーを重合させる光重合開始剤と、疎液剤とを含有する感光性材料を前記親液性隔壁形成層31上に塗布してその皮膜(疎液性隔壁形成層)を設け(図2)、露光・現像して隔壁とすることができる(図3)。なお、疎液性隔壁の接触角は、50度以上、好ましくは100度以上である。
【0036】
このバインダー樹脂としては、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を含有している樹脂が好ましく使用できる。具体的には、クレゾール−ノボラック樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等が挙げられる。
【0037】
また、モノマー又はオリゴマーとしては、ビニル基あるいはアリル基を有するモノマー、オリゴマー、末端あるいは側鎖にビニル基あるいはアリル基を有する分子を用いることができる。具体的には、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、イタコン酸エステル、スチレン類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、N-ビニル複素環類、アリルエーテル類、アリルエステル類、及びこれらの誘導体を挙げることができる。好適な化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレートなど、比較的低分子量の多官能アクリレート等を挙げることができる。これらのモノマーは単独で用いても、2種類以上混合してもよい。モノマーの量は、バインダー樹脂100重量部に対して1〜200重量部の範囲をとることが可能であり、好ましくは50〜150重量部である。
【0038】
また、光重合開始剤の例としては、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物が挙げられる。また、光重合開始剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等のアセトフェノン誘導体を使用することもできる。また、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等のチオキサントン誘導体を使用しても良い。また、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、クロロアントラキノン等のアントラキノン誘導体であっても良い。また、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル誘導体を使用することもできる。また、フェニルビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フォスフィンオキシド等のアシルフォスフィン誘導体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ビス(4’−メチルフェニル)イミダゾリル二量体等のロフィン量体、N−フェニルグリシン等のN−アリールグリシン類、4,4’−ジアジドカルコン等の有機アジド類、3,3’,4,4’−テトラ(t
ert−ブチルペルオキシカルボキシ)ベンゾフェノン、キノンジアジド基含有化合物等を挙げることができる。
【0039】
また、疎液剤としては、フルオロアルキル基を有する化合物が使用できる。例えば、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ三フッ化エチレン、あるいはこれらの共重合体である。疎液剤は、前記感光性材料に対し、好ましくは0.01重量%〜10重量%である。
【0040】
そして、この感光性材料を塗布して得られた皮膜の露光には、例えば、超高圧水銀灯を利用することができる。また、現像液としては、炭酸ナトリウム水溶液が利用できる。なお、露光・現像の後ベーキングすることで、疎液剤を疎液性隔壁32の表面に滲出させて、疎液性隔壁32の疎液性を高めることが可能である。
【0041】
次に、こうして形成された疎液性隔壁32をエッチングマスクとして、親液性隔壁形成層31をエッチングすることによりパターニングする(図4)。親液性隔壁形成層31が珪素酸化物で構成される場合には、フッ化水素酸をエッチング液として、ウェットエッチングすることができる。また、ドライエッチングによって加工しても良い。得られる親液性隔壁31と疎液性隔壁32とは、両者を位置合わせして積層された構造である。
【0042】
パターニングして形成された親液性隔壁31は、第一の電極2の端部を被覆すると共に、画素部の第一の電極2を露出するパターンである必要がある。第一の電極2と親液性隔壁31との重なる長さは任意であるが、第二の電極5と第一の電極2との短絡を防止できる長さでなければならない。例えば、0.1μm以上である。なお、図4に示すように、エッチングは逆テーパー状に進行するから、そのエッチング速度と時間とを制御することによって、第一の電極2の端部を被覆するテーパー状親液性隔壁31を形成することが可能である。なお、エッチングの後、この親液性隔壁に対して酸素プラズマ処理を施すことにより、その親液性を高めることができる。
【0043】
(有機発光媒体層4形成工程)
次に、これら親液性隔壁31及び疎液性隔壁32によって区画された領域に、インキを適用して有機発光媒体層4を形成する(図5)。
【0044】
有機発光媒体層4は、電圧の印加によって発光する発光層を含む。この発光層から成る単独の層によって構成されていても良いが、この発光層に加えて、発光効率を向上させる発光補助層を積層した積層構造から構成されたものであっても良い。発光補助層としては、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層等が例示できる。
【0045】
これら発光層と発光補助層とは、これらのすべての層の材料をインキ化して適用することが好ましいが、いずれか一つの層をインキとして適用してもよい。
【0046】
発光層の主成分は、電圧の印加によって発光する発光材料である。このような発光材料としては、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノリノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス〔8−(パラ−ト
シル)アミノキノリン〕亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレン、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポルフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光体等、Ir錯体等の燐光性発光体などの低分子系発光材料が使用できる。また、ポリフルオレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリスピロなどの高分子発光材料であってもよい。また、これら高分子材料に前記低分子材料の分散または共重合した材料や、その他既存の発光材料を用いることもできる。
【0047】
また、正孔輸送層の材料としては、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニ−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料が例示できる。また、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物などの高分子正孔輸送材料を使用してもよい。また、ポリチオフェンオリゴマー材料を使用することもできる。
【0048】
また、電子輸送層としては、2−(4-ビフィニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体やビス(10―ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物等を用いることができる。
【0049】
これら各層の材料に、溶剤と必要な添加剤を添加することでインキ化することができる。溶剤としては、親液性隔壁31に親和性を有し、疎液性隔壁32に親和性の乏しいものを使用する必要がある。親液性隔壁31が無機材料から構成され、疎液性隔壁32が疎液剤を含む有機材料から構成される場合には、溶剤として、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、アセトン、シクロヘキサノン、エチルアセテート、2-メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−エチルエトキシアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、2−メトキシエチルエーテル、2−エトキシエチルエーテル、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2’エトキシエトキシ)エチルアセテート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等を用いることができる。これらの溶剤を用いて構成されたインキは、親液性隔壁31に親和性を有するため、前記領域に均一に広がって一様な膜厚の皮膜を形成する。また、このインキは疎液性隔壁32に親和性が乏しいため、この疎液性隔壁32に遮られて、この疎液性隔壁32を越えて隣接する領域にはみだすことがない。
【0050】
このインキは、印刷法によって、前記領域に選択的に適用することができる。このため、各画素に、互いに異なる色彩に発光する発光層を印刷して、カラー表示のできる有機EL素子を製造することが可能である。印刷法としては、例えば、凸版印刷法を利用することができる。フレキソ版を用いた凸版印刷法である。また、インキを粒子状に変えて、この粒子状インキをノズルからを吐出させて、前記領域に付着させる方法を使用することもできる。この方法に利用されるインキ吐出装置としては、ピエゾ変換方式と熱変換方式が知られているが、ピエゾ変換方式のインキ吐出装置が好ましく適用できる。インキの粒子化周波数は5〜100KHz、ノズル径は5〜80μmでよい。
【0051】
こうして印刷されたインキ皮膜は、その乾燥工程によって溶剤が除去され、溶剤除去によって膜厚が減少する。乾燥後の膜厚は、発光層単層から構成される場合も、多層構造の場合も、有機発光媒体層4の上面が前記親液性隔壁31の上面と同じ高さ、すなわち、面一となる厚みである必要がある。1000nm以下、好ましくは50〜300nmである。
【0052】
そして、この領域内に均一な厚みで形成された有機発光媒体層4と前記親液性隔壁31とによって、第一の電極2は完全に覆われるため、この上に設けられる第二の電極5と第一の電極2との短絡を防止することが可能となる。
【0053】
(疎液性隔壁32除去工程)
次に、疎液性隔壁32を除去する(図6)。例えば、リフトオフ法
によって除去することができる。また、有機発光媒体層4を溶解しない溶剤を適用して、疎液性隔壁32を溶解して除去してもよい。このような溶剤としては、アセトンが例示できる。
【0054】
(第二電極5形成工程)
前述のように、第二の電極5は、第一の電極2と共に、有機発光媒体層4に電圧を印加するものである。ボトムエミッション素子の場合には、第二の電極5として不透明なものを使用することができる。第二の電極5の材料としては、有機発光媒体層4への電子注入効率の高い物質を用いる。具体的にはMg,Al, Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体と接する界面にLiや酸化Li,LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性を向上させたAlやCuを積層して用いてもよい。または電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数が低い金属と、安定な金属との合金を用いてもよい。仕事関数が低い金属としては、Li,Mg,Ca,Sr,La,Ce,Er,Eu,Sc,Y,Yb等が例示できる。安定な金属としては、Ag,Al,Cu等が例示できる。具体的には、MgAg,AlLi,CuLi等の合金である。
【0055】
第二の電極5は、真空製膜法を用いて、前記有機発光媒体層4と親液性隔壁31の表面に形成することができる。真空製膜法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法が例示できる。この際、有機発光媒体層と親液性隔壁とは面一に形成されているから、製膜された第二の電極が断線することはない。
【0056】
なお、この第二の電極5のパターニングが必要な場合には、この第二の電極5上にフォトレジストを塗布して露光・現像し、ウェットエッチング又はドライエッチングして、パターン状に加工することができる(図7)。
【0057】
(封止工程)
次に、この第二の電極5上に、接着剤6を介して封止基材7を接着して有機EL素子を封止することができる(図8)。封止基材7としては、セラミックス、ガラス、石英、金属箔、耐湿性フィルム等を使用することができる。セラミックスとしては、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等が例示できる。ガラスとしては、無アルカリガラス、アルカリガラス等が例示できる。金属箔としては、アルミニ耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムとしては、プラスチック基材の両面に珪素酸化物に薄膜を製膜したフィルムなどが使用できる。
【0058】
また、接着剤6としては、熱可塑性樹脂、光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂等が使用できる。熱可塑性樹脂としては、ビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等が例示できる。このうち、ビニル系樹脂としては、エチレンエチルアクリ
レート等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート等が例示できる。光硬化型接着性樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂等が例示できる。
【実施例】
【0059】
<実施例1>
まず始めに、ガラス基材1上に形成されたITO膜2の端部を被覆するように隔壁層3を形成する。隔壁としては、炭窒化珪素膜からなる親液性隔壁31とポリイミド樹脂からなる疎液性隔壁32の2層構造のものを用いる。
【0060】
まず、ITO膜2の上に、膜厚500nmの炭窒化珪素膜をCVD法で形成して親液性隔壁形成層31とした。その後、スリットコート法を用いて撥液性のポリイミド系レジスト材料を1μmの厚みに塗布して疎液性隔壁形成層32を形成した。そして、フォトリソ法を用いて疎液性隔壁形成層32をパターニングした。その後、疎液性隔壁32をマスクとしてエッチング法により親液性隔壁形成層31をエッチングし、次に、酸素プラズマで炭窒化珪素膜を処理して親液性を高め、続いてCF4プラズマで疎液性隔壁32を処理して疎液性を高めた。親液性隔壁31は、画素部のITO膜2を露出して、しかも、その端部を被覆するパターンであった。
【0061】
次に、この隔壁31,32の開口部に、有機発光媒体層4として高分子正孔輸送層41(乾燥後の膜厚50nm)と高分子発光層42(乾燥後の膜厚80nm)を、凸版印刷法を用いて形成した。
【0062】
ここで、高分子正孔輸送層の材料としては、ポリチオフェン誘導体(PEDOT)を水に分散したインキ、高分子発光層の材料としては、ポリフルオレン材料をトルエン・キシレン等の芳香族系溶媒に溶かしたインキを使用した。
【0063】
次に、疎液性隔壁32を剥離することにより親液性隔壁31が露出された状態とした。
【0064】
次に、蒸着法を用いて、陰極5として、Ba(膜厚5nm)とAl(膜厚100nm)をこの順に形成した。
【0065】
最後に、接着層6として熱硬化型エポキシ接着剤、封止基材7としてガラスを貼り合せた。
【0066】
作製した有機EL素子は、断線等なく良好な発光が得られた。
【0067】
<実施例2>
実施例1で、正孔輸送層と発光層をインキジェット法で作製した結果、断線等もなく良好な発光が得られた。
【0068】
<比較例1>
実施例1で、疎液性隔壁32を剥離せずに、陰極層5、接着層6、封止基材7を形成した。
【0069】
作製した有機EL素子は、疎液性隔壁32上で陰極の断線、接着層の剥離が生じ、発光不良が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第一電極形成工程を示す断面図。
【図2】本発明の隔壁形成工程を示す断面図。
【図3】本発明の隔壁形成工程を示す断面図。
【図4】本発明の隔壁形成工程を示す断面図。
【図5】本発明の有機発光媒体層形成工程を示す断面図。
【図6】本発明の疎液性隔壁除去工程を示す断面図。
【図7】本発明の第二電極形成工程を示す断面図。
【図8】本発明の封止工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0071】
1 基板
2 第一の電極
3 隔壁
31 親水性隔壁層
32 疎水性隔壁層
4 有機発光媒体層
5 第二の電極
6 接着層
7 封止基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、この基板上に設けられたパターン状の第一の電極と、第一の電極の端部を被覆する親液性隔壁と、第一の電極上であって、隔壁で区画された領域に設けられた有機発光媒体層と、この有機発光媒体層を挟んで第一の電極に対向する第二の電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
基板上にパターン状に第一の電極を形成する第一電極形成工程と、
前記第一の電極の端部を被覆する親液性隔壁と、当該親液性隔壁の上に位置する疎液性隔壁とを形成する隔壁形成工程と、
前記親液性隔壁及び疎液性隔壁によって区画された領域に、この親液性隔壁に親和性を有し、疎液性隔壁に親和性の乏しいインキを適用して有機発光媒体層を形成する有機発光媒体層形成工程と、
前記有機発光媒体層形成工程の後に、疎液性隔壁を除去する疎液性隔壁除去工程と、
前記疎液性隔壁除去工程の後に、第二の電極を形成する第二電極形成工程とを、
具備することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記隔壁形成工程が、
第一の電極を形成した基板上に親液性隔壁形成層を積層する工程と、
前記親液性隔壁形成層上に疎液性隔壁形成層を積層する工程と、
前記疎液性隔壁形成層をパターニングして疎液性隔壁とする工程と、
疎液性隔壁をエッチングマスクとして、前記親液性隔壁形成層をエッチングによりパターニングして親液性隔壁とする工程であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
有機発光媒体層形成工程が、印刷法によることを特徴とする請求項1又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記印刷法は凸版印刷法またはノズルからインキを吐出する方法であることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記親液性隔壁が無機材料から構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記疎液性隔壁が有機材料から構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
基板と、この基板上に設けられたパターン状の第一の電極と、第一の電極の端部を被覆する親液性隔壁と、第一の電極上であって、隔壁で区画された領域に設けられた有機発光媒体層と、この有機発光媒体層を挟んで第一の電極に対向する第二の電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記親液性隔壁の上面と有機発光媒体層の上面とが同じ高さであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−95415(P2007−95415A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281301(P2005−281301)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】