説明

有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、照明装置、面状光源、および表示装置

【課題】電気特性が良好で、発光輝度ムラが少なく、光取り出し効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、照明装置、面状光源、及び表示装置を提供する。
【解決手段】陽極又は陰極である透明な第1電極と、前記第1電極に接して設けられ、該第1電極と比較して電気抵抗値の低い補助電極と、前記第1電極に対向して配置された第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層と、前記発光層を基準にして前記第1電極側の最外層に配置されたフィルムと、を含み、前記補助電極が、枠状の第1補助電極と、該第1補助電極の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅が狭い第2補助電極と、を有し、前記フィルムの前記発光層側とは反対側の表面が凹凸状に形成され、該フィルムのヘイズ値が70%以上であり、かつ該フィルムの全光線透過率が80%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、該有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極と、有機発光層とを含んで構成される。有機エレクトロルミネッセンス素子は、電圧を印加すると、各電極から正孔および電子がそれぞれ注入され、注入された正孔と電子が有機発光層において再結合することによって発光する。無機EL素子に比べると、有機エレクトロルミネッセンス素子は低電圧での駆動が可能であり、輝度が高い。そのため、有機エレクトロルミネッセンス素子を表示装置や照明装置に用いることが検討されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極の少なくとも一方が透明電極であり、該透明電極から光を取り出している。透明電極は、金属膜などから成る不透明な電極に比べると電気抵抗が高い。有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置や照明装置においては、発光面積が大きくなるにつれて大面積の透明電極が必要となる。大面積の透明電極を用いる場合、高い配線抵抗による電圧降下が大きくなるので、電圧降下に起因する発光輝度のムラが無視できない程度に大きくなるという問題がある。
【0004】
透明電極の電圧降下に起因する問題を解決するために、透明電極よりも低抵抗な補助電極を透明電極に電気的に接続した有機エレクトロルミネッセンス素子を備える面状発光装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。この面状発光装置では、電源に接続される接続端子から近い部分では前記補助電極を太くし、遠い部分では前記補助電極を細くしている。接続端子から近い部分では、太い補助電極のために電流値が高く発光強度が強い一方で、開口率が小さくなり、また、接続端子から遠い部分では、細い補助電極のために電流値が小さく発光強度が弱い一方で、開口率が大きくなるので、全体としての発光輝度のムラを抑制した面状発光装置を実現している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた場合でも、接続端子から遠い部分では電流値が小さくなるために、発光輝度のムラを十分に抑制することができなかった。また、開口率を調整することによって発光輝度のムラを抑制するので、光の利用効率が低下するという問題があった。
【0006】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率に影響する重要な要素のひとつに、素子からの光取り出し効率がある。有機エレクトロルミネッセンス素子の内部で発生した光は、電極などで全反射したり、内部で吸収されたりして素子内部に閉じ込められ、大部分が有効に利用されてないのが現状である。この光取り出し効率に関して従来技術では、有機エレクトロルミネッセンス素子が設けられる透明の基板と、有機エレクトロルミネッセンス素子の電極との間に光散乱層を設けて、光の全反射を抑制し、光取り出し効率の向上を図っている(例えば特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、上記従来の技術の有機エレクトロルミネッセンス素子では、光取り出し効率が必ずしも十分ではなく、光取り出し効率のさらなる向上が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−014128号公報
【特許文献2】特開2007−035550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能で、取り出し効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、および該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、及び表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である透明な第1電極と、前記第1電極と比較して電気抵抗値が低く、前記第1電極に接して設けられた補助電極と、前記陽極および陰極のうちの他方の電極である第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層と、前記発光層を基準にして前記第1電極側の最外層に配置されたフィルムと、を含み、
前記補助電極が、枠状の第1補助電極と、該第1補助電極の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅が狭い第2補助電極と、を有し、
前記フィルムの前記発光層側とは反対側の表面が凹凸状に形成され、該フィルムのヘイズ値が70%以上であり、かつ該フィルムの全光線透過率が80%以上であることを特徴とする。
【0011】
前記第2補助電極の線幅を前記第1補助電極の線幅で除した値が、1/1000〜1/10であることが好ましい。
【0012】
また、前記フィルムの前記発光層側とは反対側の表面が複数の凹面によって構成されていることが、好ましい。
【0013】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、上記構成の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記フィルムを作製する工程と、該フィルムを作製する工程によって得られたフィルムを前記最外層に設けるフィルム設置工程とを有し、
前記フィルムの作製工程が、
所定の基台の表面上に、前記フィルムとなる材料を含む溶液を、前記フィルムの厚みが100μm〜200μmの範囲となるように、塗布する塗布工程と、
前記基台の表面上に塗布された溶液を、湿度が80%〜90%の雰囲気に保った後に乾燥し、成膜化する成膜工程とを含む。
【0014】
本発明の照明装置は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とするものである。また、本発明の面状光源は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とするものである。さらに、本発明の表示装置は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能で、光取り出し効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することが可能となる。
したがって、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、照明装置、バックライトとしての面状光源、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好ましく使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、以下の説明において示す図面における各部材の縮尺は実際と異なる場合がある。
【0017】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である透明な第1電極と、前記第1電極と比較して電気抵抗値が低く、前記第1電極に接して設けられた補助電極と、前記陽極および陰極のうちの他方の電極である第2電極と、前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層と、前記発光層を基準にして前記第1電極側の最外層に配置されたフィルムと、を含み、
前記補助電極が、枠状の第1補助電極と、該第1補助電極の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅が狭い第2補助電極と、を有し、
前記フィルムの前記発光層側とは反対側の表面が凹凸状に形成され、該フィルムのヘイズ値が70%以上であり、かつ該フィルムの全光線透過率が80%以上であることを、特徴としている。
【0018】
かかる基本的構成を有する本発明の第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子を、図1に示す。なお、以下の説明において、支持基板1の厚み方向の一方を上方(または上)といい、支持基板1の厚み方向の他方を下方(または下)という場合がある。この上下関係の表記は、説明の便宜上、設定したもので、必ずしも実際に有機エレクトロルミネッセンス素子が製造される工程および使用される状況に適用されるものではない。
【0019】
透明な支持基板1上に、第1補助電極2と第2補助電極3とからなる補助電極4が配置されている。これら補助電極4の上に透明の陽極(第1電極)5が配置されている。この陽極(第1電極)5の上に発光部6が配置され、その上に陰極(第2電極)7が配置されている。通常、これら支持基板1上に配置された積層体(発光機能部と呼称する場合もある)を保護するために積層体全体を保護する保護層(上部封止膜と呼称する場合もある)8が設けられる。上記発光部6は、発光層10と、陽極(第1電極)5と発光層10との間に必要に応じて設けられる層9と、発光層10と陰極(第2電極)7との間に必要に応じて設けられる層11とから構成される。前記支持基板1の前記発光層10側とは反対側にはフィルム12が設けられている。
【0020】
なお、第1の実施形態では、第1電極5が陽極であり、第2電極6が陰極であるが、積層体の積層順を逆順にして、第1電極が陰極であり、第2電極が陽極である有機エレクトロルミネッセンス素子を構成してもよい。
【0021】
(補助電極)
第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記補助電極4は、前記陽極(第1電極)5の表面上に配置され、前記第1電極に電気的に接続された枠状の第1補助電極2と、前記第1補助電極2の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極2に電気的に接続され、該第1補助電極2よりも線幅が狭い第2補助電極3とを備える。
第1の実施形態においては、前記陽極(第1電極)5の表面上に第1補助電極2及び第2補助電極3を上記のような形態で配置することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光面積が大きい場合でも、発光輝度のムラを十分に抑制することが可能となる。
【0022】
第1補助電極2及び第2補助電極3とからなる補助電極4の配置形態としては、例えば、図2〜図5に示す配置形態を挙げることができる。
【0023】
図2に示す配置形態においては、支持基板1上に形成された補助電極4は、矩形枠状の第1補助電極2aと、第1補助電極2aの枠内に配置されるとともに、該第1補助電極2aに電気的に一体的に形成されている第2補助電極3aとから構成されている。前記第2補助電極3aは細線電極から構成されており、その配置形状は複数の細線電極が互いに直角に交差した格子状とされている。
【0024】
また、図3に示す配置形態においては、支持基板1上に形成された補助電極4は、矩形枠状の第1補助電極2bと、この第1補助電極2bの枠内に配置されるとともに、該第1補助電極2bに電気的に一体的に形成されている第2補助電極3bとから構成されている。前記第2補助電極3bは前記第1補助電極2bより線幅が狭く、複数の各第2補助電極3bは互いに平行に配列されている。
【0025】
また、図4に示す配置形態においては、支持基板1上に形成された補助電極4は、矩形枠状の第1補助電極2cと、この第1補助電極2cの枠内に配置されるとともに、該第1補助電極2cに電気的に一体的に形成されている第2補助電極3cとから構成されている。前記第2補助電極3cは前記第1補助電極2cより線幅が狭く、複数の各第2補助電極3cはハニカム構造の各六角形の各辺を構成するように配置されている。
【0026】
さらに、図5に示す配置形態においては、支持基板1上に形成された補助電極4は、矩形枠状の第1補助電極2dと、この第1補助電極2dの枠内に配置されるとともに、該第1補助電極2dに電気的に一体的に形成されている第2補助電極3dとから構成されている。前記第2補助電極3dは線幅が前記第1の補助電極2dより狭い二種類の細線電極から構成されている。すなわち、前記第2補助電極3dは、互いに直角に交差した主幹路的な複数の第1の細線電極3d−1と、これら第1の細線電極3d−1に囲まれた領域の内部、もしくは前記第1補助電極2dと第1の細線電極3d−1とで囲まれた領域の内部に形成された第2の細線電極3d−2とから構成されている。
【0027】
図5の配置形態では、前記第1の細線電極3d−1は格子状に配置され、その格子状の各枠内に複数の第2の細線電極3d−2が格子状に配列されている。前記第2の細線電極3d−2は、通常、好ましくは、前記第1の細線電極3d−1よりもさらに細く形成されている。
このような補助電極の配置形態を取ることにより、発光面積がさらに大きな素子においても、本発明の効果を得ることができる。
【0028】
ここで、枠状の第1補助電極2の枠形状としては、第1補助電極2の枠内に第2補助電極3が形成され得るものであれば特に限定されず、例えば、矩形状、円形状等が可能である。また第1補助電極2は、光が透過する主たる領域を囲むように設けられることが好ましい。第1補助電極2の線幅は、電気抵抗および有機エレクトロルミネッセンス素子の発光面積に応じて適宜選択することができ、1〜50mmの範囲であることが好ましく、3〜20mmの範囲であることがより好ましい。
【0029】
第2補助電極3が設けられる前記第1補助電極2の枠内は、発光部6からの光が透過する主たる領域であるので、第2補助電極3の線幅は、光の透過を阻害しないような寸法であることが好ましい。かかる観点から、第2補助電極3を構成する細線電極の線幅(以下、「第2補助電極の線幅」という)は、光の利用効率の観点から、1〜200μmの範囲であることが好ましく、10〜100μmの範囲であることがより好ましい。
【0030】
また、この第1の実施形態においては、前記第2補助電極の線幅を前記第1補助電極の線幅で除した値が、1/1000〜1/10であることがより好ましい。線幅の比が前記範囲内であれば、光の利用効率を更に向上させるとともに、発光輝度のムラを更に抑制することができる傾向となる。
【0031】
このような第1補助電極2及び第2補助電極3は、透明陽極(第1電極)5よりも電気抵抗が低いことが好ましく、その材料としては、通常は10S/cm以上の電気伝導度を有する導電材料が使用される。かかる導電材料の具体例としては、アルミニウム、銀、クロミニウム、金、銅、タンタル等の金属材料を挙げることができる。これらの中でも、電気伝導度の高さ、および材料のハンドリングの容易さの観点から、アルミニウム、クロミニウム、銅、銀がより好ましい。
【0032】
第1補助電極2及び第2補助電極3からなる補助電極4が透明陽極(第1電極)5に接する面積は、第1電極5の抵抗による電圧降下を低減するという目的から、広ければ広い程良い。したがって、第1補助電極2及び第2補助電極3の材料として金属を用いた場合には、素子の発光する面積に対する補助電極4で被われる面積の割合に換算すると、補助電極4が透明陽極(第1電極)5に接する面積は、少なくとも20%であることが好ましく、より好ましくは、30%以上である。
【0033】
他方、補助電極4は発光部6からの光を透過させる透明陽極(第1電極)5に接して設けられるため、光をできるだけ遮断しないように、補助電極4の占有面積はできるだけ少ない方がよい。かかる観点からは、素子の発光する面積に対する補助電極4で被われる面積の割合は、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
【0034】
これらを勘案すると、素子の発光する面積に対する補助電極4で被われる面積の割合は、20%以上であり且つ90%以下であることが好ましく、30%以上であり且つ80%以下であることがより好ましい。
【0035】
さらに、第1補助電極2及び第2補助電極3の厚みは、面抵抗が所望の値となるように適宜選択することができ、例えば10〜500nmであり、好ましくは20〜300nmであり、より好ましくは50〜150nmである。
【0036】
さらに、第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記第1補助電極2及び前記第2補助電極3が、前記透明陽極(第1電極)5の表面のうち、発光部6側の表面上に配置されていてもよいし、発光部6側とは反対側の表面に配置されていてもよい。これら2通りの配置のうち、発光部6側とは反対側の表面への配置が、前記透明陽極(第1電極)5と、前記第1補助電極2及び前記第2補助電極3との電気的な接続をより確実にするという観点から、より好ましい。
【0037】
第1補助電極2及び第2補助電極3を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等により補助電極の構成材料から成る膜を形成した後に、フォトレジストを用いたエッチング法によりパターン形成する方法が挙げられる。なおエッチングを行うことなく補助電極をパターン形成することもできる。例えば補助電極の形状に対応する開口が形成された1又は複数のマスクを用いて、複数回真空蒸着などを行うことによって、所定のパターンの補助電極を形成することができる。第2電極を構成する材料によっては、第2電極がエッチャントによって損傷を受けるおそれがあるが、マスクを用いて補助電極を形成することによって、エッチャントに対する耐性の低い第2電極などにでも補助電極を形成することができる。
【0038】
(フィルム)
前記フィルム12は、支持基板1の発光層10側とは反対側の表面に設けられる。フィルム12は、発光層10側の表面が平面状であり、発光層10側とは反対側の表面が凹凸状に形成される。またフィルム12は、ヘイズ値が70以上、かつ全光線透過率が80%以上である。
【0039】
フィルム12の平面状の表面が、透明な支持基板1の外表面に貼り合わされている。フィルム12は、たとえば熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、接着剤および粘着材などの貼合剤を用いて支持基板1に貼り付けられる。熱硬化性樹脂を用いる場合には、フィルム12を支持基板1に貼り合わせた後に、所定の温度で加熱することによって、フィルム12を支持基板1に接着させる。また光硬化性樹脂を用いる場合には、フィルム12を支持基板1に貼り合わせた後に、フィルム12に例えば紫外線を照射することによって、フィルム12を支持基板1に接着させる。なお、支持基板1上にフィルム12を直接形成する場合およびフィルム12に貼合剤が予め設けられている場合などには、前記貼合剤を用いなくてもよい。
【0040】
フィルム12と支持基板1との間に空気の層が形成されると、この空気の層の界面で反射が生じるので、フィルム12と支持基板1との間に空気の層が形成されないようにフィルム12の貼り合わせを行うことが好ましい。フィルム12の屈折率、貼合剤の屈折率、およびフィルム12が貼り合わされる層(本実施の形態では支持基板1)の屈折率のうちで最大となる屈折率と、最小となる屈折率との差は、小さい方が貼り合せ面での反射を抑制できるので好ましく、具体的には0.2以内が好ましく、さらに好ましくは0.1以内である。
【0041】
本実施の形態のフィルム12は、該フィルム12の一方の表面(フィルム12が基板1の外表面に貼り付けられた後では、発光層10側とは反対側の表面)が凹凸状に形成され、ヘイズ値が70%以上、かつ全光線透過率が80%以上である。ヘイズ値が70%未満であれば、十分な光散乱効果が得られない場合があり、全光線透過率が80%未満であれば、十分な光を取り出すことができない場合があるので、このようなフィルムを有機エレクトロルミネッセンス素子1に用いた場合、十分な光取り出し効率を実現できないおそれがある。したがって、ヘイズ値が70%以上、かつ全光線透過率が80%以上のフィルム12を用いることによって、高い取り出し効率の有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。
【0042】
ヘイズ値は、以下の式で表される。
ヘイズ値(曇価)=(拡散透過率(%)/全光線透過率(%))×100(%)。
なお、ヘイズ値は、JIS K 7136「プラスチック−透明材料のヘイズの求め方」に記載の方法で測定することができる。
【0043】
また、全光線透過率は、JIS K 7361−1「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法」に記載の方法で測定することができる。
【0044】
フィルム12の厚み方向に垂直な幅方向の凸面または凹面の大きさ(幅)は、大きすぎると、フィルム12表面での輝度が不均一になり、小さすぎると、フィルム12の作製コストが高くなるので、好ましくは0.5μm〜20μmであり、さらに好ましくは1μm〜2μmである。またフィルム12の厚み方向の凸面または凹面の高さは、前記幅方向の凸面または凹面の大きさ(幅)や、凹凸形状が形成される周期により決定され、通常、前記幅方向の凹面または凸面の大きさ(幅)以下、または凹凸形状が形成される周期以下が好ましく、0.25μm〜10μmであり、好ましくは0.5μm〜1.0μmである。
【0045】
上記凸面または凹面の形状に制限は特にないが、曲面を有するものが好ましく、たとえば半球形状が好ましい。凹面または凸面は、規則的に配置されることが好ましく、たとえば碁盤の目状に配置されることが好ましい。また、フィルム12の表面のうちで、凹面と凸面とが形成される領域の面積は、フィルム12の表面の面積の60%以上が好ましい。
【0046】
フィルム12を構成する材料は、透明に形成される材料であればよく、たとえば高分子材料およびガラスなどを用いても良い。フィルム12を構成する高分子材料としては、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンスルホン酸、およびポリエチレンテレフタレートなどを挙げることができる。またフィルム12は、たとえば前記高分子材料およびガラスなどから成る支持体と、この支持体の表面上に形成され、支持体に接する表面とは反対側の表面が凹凸状に形成される薄膜との積層体によって構成されてもよい。
フィルム12の厚みは、特に制限はないが、薄すぎると取り扱いが難しくなり、厚すぎると全光線透過率が低くなるので、20μm〜1000μmが好ましい。
【0047】
次に、フィルム12の製造方法について説明する。本実施の形態のフィルム12は、凹凸形状をフィルムの表面に形成することで得られる。表面に形成される凹凸形状の大きさは、光の波長と同程度、またはそれよりも大きく、0.1μm〜100μmが好ましい。
【0048】
ガラスなどの無機材料から成るフィルム12では、たとえば凹凸形状を形成しない領域にフォトレジストを硬化させた保護膜を基台上に予め形成し、化学的なエッチングまたは気相エッチングを施すことによって凹凸面を形成することができる。また高分子材料から成るフィルム12では、表面が凹凸形状の金属板を加熱されたフィルムに押し付けることによって、金属板の凹凸面を転写する方法、表面が凹凸状のロールを用いて、高分子シートまたはフィルムを圧延する方法、凹凸形状を有するスリットから高分子シートを押し出して成形する方法、表面が凹凸形状の基台上に、高分子材料を含む溶液または分散液を滴下(以下、キャストという場合がある)して成膜する方法、モノマーから成る膜を形成した後に、当該膜の一部を選択的に光重合し、未重合部分を除去する方法、高湿度条件下において高分子溶液を基台にキャストし、水滴構造を表面に転写する方法などによって凹凸面を形成することができる。
【0049】
これらの方法のうち、高分子材料では、作製の容易さから高湿度条件下において、高分子溶液を基台にキャストし、水滴構造を表面に転写する方法が好適に用いられる。この方法は、自己組織化の一種である散逸過程を応用した既知の構造作製法である(例えばG.Widawski,M.Rawiso,B.Francois,Nature,p.369−p.387(1994)参照)。
【0050】
まず、上述したフィルム12となる高分子材料を溶媒に溶解して、フィルム12用の溶液を調合する。該溶媒としては、たとえばジクロロメタン、クロロホルムなどを挙げることができる。フィルム12用の溶液としては、粘度の高いものが好ましい。またフィルム12用の溶液としては、フィルム12となる高分子材料の濃度が高いものが好ましく、フィルム12となる高分子材料の溶液に対する濃度が、10wt%以上のものが好ましい。また、凹凸形状の大きさや形の均一性を向上させるために、前記フィルム12用の溶液にノニオン系界面活性剤などの界面活性剤を少量添加してもよい。
【0051】
次に、フィルム12が表面上に形成される基台の一表面上に、フィルム12となる材料を含む溶液を塗布する塗布工程を行う。具体的には、前記調合したフィルム12用の溶液を、高湿度下で基台の一表面上にキャストして、フィルム12用の溶液から成る液膜を形成する。
基台としては、前述した前記高分子材料およびガラスなどから成る支持基板を挙げることができる。
【0052】
次に、前記基台の一表面上に塗布された溶液を、湿度が80%〜90%の雰囲気に保った後に乾燥し、成膜化する成膜工程を行う。液膜を高湿度下で放置すると、雰囲気中の水蒸気が液化して、液膜の表面に複数の液滴が形成される。液滴は、略球状であって、液膜の表面において離散的に形成される。液膜の表面に形成される液滴は、水蒸気がさらに液化することによって時間経過ともに径が大きくなり、自重によって略半分が液膜中に沈み込む。また時間経過とともに液膜中の溶媒が蒸発するので、乾燥時に液滴の形状がフィルム12に転写される。このようにして形成されるフィルム12は、表面に複数の凹面が設けられて、凹凸状に形成される。具体的には径が1μm〜100μmの複数の半球状の窪みがフィルム12の表面に形成される。なお、湿度が80%〜90%の範囲においてフィルム12を保持することによって、表面に半球状の窪みが形成された後に、さらに湿度の低い雰囲気においてフィルムを乾燥してもよく、また80%〜90%の範囲においてフィルムを長時間保持することによってフィルムを乾燥してもよい。
【0053】
前述したフィルム12を作製する方法では、フィルム12の膜厚が所定の値になるようにフィルム12用の溶液の塗布を制御するとともに、液膜を乾燥させるときの湿度を調整することによって、作製されるフィルム12のヘイズ値を制御することができる。具体的には成膜工程を経て成膜されたフィルム12の膜厚が、100μm〜200μmの範囲内において所定の膜厚となるように乾燥開始時の液膜の膜厚を制御するとともに、80%〜90%の範囲内において所定の湿度となるように湿度を制御することによって、ヘイズ値が70以上であり、かつ所期のヘイズ値を示すフィルム12を形成することができる。
【0054】
湿度と膜厚とを制御することによってフィルム12のヘイズ値を制御できるのは、湿度と膜厚とを変えると、フィルム12となる高分子材料の溶液中での濃度などに応じて液膜の表面が乾燥するまでの時間が変わり、これによって凹凸形状の大きさや形成される凹面の密度が変わるからであり、また湿度は、凹面の配置の規則性向上など、形成される凹面の構造構築に大きな影響を与えるからであると推測される。
なお、作製されるフィルム12の膜厚は、乾燥開始時の液膜の膜厚を調整することによって制御できる。
また、溶媒の蒸発速度および溶媒の沸点などによって液膜の表面が乾燥するまでの時間が変わるので、用いる溶媒を変えることによって、フィルム12のヘイズ値を制御することもできる。
【0055】
このような方法によって、簡易で、かつ安価に、意図する光学的特性を示す大面積のフィルム12を作製することができる。
【0056】
なお、支持基板1の表面上にフィルム12用の溶液をキャストすることによって、支持基板1上に直接的にフィルム12を形成することもできる。
【0057】
以上説明した本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し側の外表面部に、フィルム12が配置される。このフィルム12は、発光層10側とは反対側の表面が、凹凸状に形成されているので、有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し側の外表面の少なくとも一部が凹凸状に形成される。発光層10が発生する光の一部は、フィルムに入射し、凹凸状に形成された表面で回折されて、たとえば空気などの雰囲気に出射する。仮にフィルム12の発光層10側とは反対側の表面が平面であると、有機エレクトロルミネッセンス素子の表面で生じる全反射によって発光層10において発生した光の多くが外に取り出されない。これに対して、光が取出される側の表面を凹凸状に形成することによって、回折効果を利用して全反射を抑制し、光を効率的に取り出すことができる。特に、ヘイズ値が70%以上、かつ全光線透過率が80%以上のフィルムが設けられるので、光の取り出し効率を向上させることができ、高い光取り出し効率を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。
【0058】
また、本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、フィルム12の発光層10側とは反対側の表面には複数の凹面が設けられるので、この凹面が凹レンズと似た機能を発揮する。このようなフィルム12を設けることによって、有機エレクトロルミネッセンス素子から放射される光の放射角を広げることができる。
【0059】
また、本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられるフィルム12は、所定の基台の一表面上に、前記フィルム12となる材料を含む溶液を塗布する塗布工程と、塗布された液膜を乾燥させて成膜化する成膜工程とによって形成される。特に成膜工程後のフィルムの厚みが、100μm〜200μmとなるように、フィルム12となる材料を含む溶液を塗布し、さらに湿度が80%〜90%の範囲で乾燥させることによって、表面が凹凸状に形成され、ヘイズ値が70%以上、かつ全光線透過率が80%以上のフィルムを製造できるので、例えば溶液の塗布量および湿度を調整するという簡易な制御で、意図する光学特性を有するフィルムを容易に製造することができる。
【0060】
また、本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、前述したように、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いるフィルム12を簡易な制御で容易に作製することができるので、光取り出し効率の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を容易に製造することができる。
【0061】
以上説明した本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子では、フィルム12は支持基板1に貼り付けられるとしたが、フィルム12の設けられる位置はこれに限られない。例えば、支持基板1とは反対側(陰極7側)から光を取り出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子では、光透過性を有する陰極7の発光層10側とは反対側の表面にフィルム12を貼り付けてもよい。この構成は、本発明の第2の実施形態として、後述する。
また、陰極が基板の表面上に形成され、基板上において陰極、発光層および陽極がこの順で配置されるトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子では、陽極の発光層側とは反対側の表面にフィルムを貼り付ける。
【0062】
本発明の第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子の特徴は、上述のように、透明な陽極又は陰極である第1電極に電気的に接続した状態で特定形状の補助電極4が配置されていること、支持基板1の発光層10とは反対側の表面にフィルム12が設けられていることにある。これら補助電極4及びフィルム12の詳細は、上述の通りである。
続いて、これら補助電極4およびフィルム12以外の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成要素について、以下に詳しく説明する。
【0063】
(基板)
支持基板1としては、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する工程において変化しないもの、すなわち、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えば、ガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、並びにこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。前記基板としては、市販のものが使用可能である。また前記基板を公知の方法により製造することもできる。
【0064】
図1に示すような発光部6からの光を支持基板1側から取出すボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子では、支持基板1は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられる。
なお、後述の第2の実施形態にて示すような発光部6からの光を陰極7側から取出すトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセンス素子では、支持基板1は、透明のものでも、不透明のものでもよい。
【0065】
(第1電極)
第1の実施形態における第1電極(図1の構成では陽極5)は、発光層10からの光を透過させる透明電極であって、通常、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極となるものであるが、後述のように、透明な第1電極を陰極として用いる構成の有機エレクトロルミネッセンス素子も可能である。第1電極5には、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、発光部6の構成材料に応じて適宜選択して用いることができる。第1電極5の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)、金、白金、銀、銅等の薄膜が用いられる。これらの中でも、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。
【0066】
また、第1電極5の構成材料として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体等の有機物の透明導電膜を用いてもよい。
【0067】
また、発光層10への電荷注入を容易にするという観点から、第1電極5の発光層10側の表面上に、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の導電性高分子、Mo酸化物、アモルファスカーボン、フッ化カーボン、ポリアミン化合物等の1〜200nmの層、或いは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚10nm以下の層を設けてもよい。
【0068】
第1電極5の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜選択することができ、例えば5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmであり、より好ましくは20nm〜500nmである。
【0069】
また、第1電極を電気的に分離された複数のセルに仕切る構造としてもよく、このような場合には、隣接するセル間の間隔は、好ましくは1μm〜50μmであり、より好ましくは5μm〜30μmである。隣接するセルとの間の間隔が前記下限未満では、第1電極5の面方向に導波する光を十分に抑制することができない傾向となり、他方、前記上限を超えると、素子全体の実際の発光面積が小さくなるため、発光効率が低下する傾向となる。
【0070】
また、電気的に分離された複数のセルの形状としては、特に限定されないが、例えば、ストライプ状、三角形状、矩形状が挙げられる。なお、第1電極を電気的に分離させた複数のセルに仕切る構造とする場合においては、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製するにあたり、第1電極を形成した後に形成されるもの(例えば、補助電極、有機層)の少なくとも一部が隣接するセル間に充填されることとなる。
【0071】
上述の第1電極5を形成させる方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
また、第1電極を電気的に分離させた複数のセルに仕切る方法としては、例えば、第1電極を形成した後に、フォトレジストを用いたエッチング法によりパターン形成する方法が挙げられる。
【0072】
(陽極と発光層との間に設けられる層)
本実施形態において、陽極(第1電極5)と発光層10との間には、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等の層9が挙げられる。
【0073】
上記正孔注入層は、陽極(第1電極)5からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。
上記正孔輸送層とは、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層らの正孔注入を改善する機能を有する層である。
電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、及び/又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0074】
(正孔注入層)
正孔注入層は、上述のように、陽極と正孔輸送層との間、または陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層を構成する材料としては、公知の材料を適宜用いることができ、特に制限はない。例えば、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0075】
正孔注入層の成膜方法としては、例えば、正孔注入層となる材料(正孔注入材料)を含む溶液からの成膜を挙げることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0076】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
【0077】
また、正孔注入層の厚みとしては、5〜300nm程度であることが好ましい。この厚みが5nm未満では、製造が困難になる傾向があり、他方、300nmを超えると、駆動電圧、および正孔注入層に印加される電圧が大きくなる傾向となる。
【0078】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、特に制限はないが、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリピロールもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体などが例示される。
【0079】
これらの中でも、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリアリールアミンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0080】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0081】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0082】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0083】
正孔輸送層の厚みは、特に制限されないが、目的とする設計に応じて適宜変更することができ、1〜1000nm程度であることが好ましい。この厚みが前記下限値未満となると、製造が困難になる、または正孔輸送の効果が十分に得られないなどの傾向があり、他方、前記上限値を超えると、駆動電圧および正孔輸送層に印加される電圧が大きくなる傾向がある。したがって正孔輸送層の厚みは、上述のように、好ましくは、1〜1000nmであるが、より好ましくは、2nm〜500nmであり、さらに好ましくは、5nm〜200nmである。
【0084】
(発光層)
発光層10は、通常、主として蛍光または燐光を発光する有機物を有する。発光層10は、有機物として低分子化合物及び/又は高分子化合物を含んでいる。また、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。この実施形態において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば以下のものが挙げられる。なお、陽極5と陰極7との間には、一層の発光層に限らず、複数の発光層が配置されてもよい。
【0085】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0086】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0087】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0088】
上記発光材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0089】
(ドーパント材料)
発光層10中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、発光層10の厚さは、通常約20〜2000Åである。
【0090】
(発光層の成膜方法)
有機物を含む発光層10の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を基体の上又は上方に塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
【0091】
発光材料を含む溶液を基体の上又は上方に塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0092】
(陰極と発光層との間に設けられる層)
前記発光層10と陰極(第2電極)7との間には、必要に応じて、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等の層11が積層される。
【0093】
陰極7と発光層10との間に、一層のみが設けられる場合には、該層を電子注入層という。また陰極7と発光層10との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。
電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。
正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0094】
(電子注入層)
電子注入層は、先に述べたように、電子輸送層と陰極との間、または発光層と陰極との間に設けられる。電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、あるいは前記金属を一種類以上含む合金、あるいは前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、あるいは前記物質の混合物などが挙げられる。
【0095】
前記アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0096】
前記アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0097】
さらに、金属、金属酸化物、金属塩をドーピングした有機金属化合物、および有機金属錯体化合物、またはこれらの混合物も、電子注入層の材料として用いることができる。
【0098】
この電子注入層は、2層以上を積層した積層構造を有していても良い。具体的には、Li/Caなどが挙げられる。この電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。
この電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0099】
(電子輸送層)
電子輸送層を形成する材料としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が例示される。
【0100】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0101】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層と言う場合があり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層と言う場合がある。
【0102】
(第2電極)
第1の実施形態における第2電極7は、前記第1電極5に対向して配置される電極であって、有機エレクトロルミネッセンス素子の陰極となるものであるが、本発明においては、後述の第2の実施形態に示すように、陽極である場合も可能である。このような陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易な材料が好ましい。また陰極の材料としては電気伝導度が高く、可視光反射率の高い材料が好ましい。かかる陰極材料としては、具体的には、金属、金属酸化物、合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物、酸化亜鉛(ZnO)等の無機半導体などを挙げることができる。
【0103】
上記金属としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属等を用いることができる。これら金属の具体的例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等を挙げることができる。
【0104】
また、合金としては、上記金属の少なくとも一種を含む合金を挙げることができ、具体的には、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を挙げることができる。
【0105】
陰極は、例えば陰極側から光を取出す場合などのように、必要に応じて光透過性を有する電極とされる。このような光透過性を有する陰極の材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、IZOなどの導電性酸化物;ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの導電性有機物を挙げることができる。
【0106】
なお、陰極(第2電極)7を2層以上の積層構造としてもよい。また、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0107】
陰極(第2電極)7の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0108】
陰極(第2電極)7を形成させる方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。なお、第2電極7を2層以上の積層構造としてもよい。
【0109】
本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子において、陽極5から陰極7までの層構成の組み合わせ例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
f)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
e)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
h)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
i)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
l)陽極/発光層/電子注入層/陰極
m)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
n)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0110】
また、本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、2層以上の発光層を有していてもよく、2層の発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子としては、以下のq)に示す層構成を挙げることができる。
q)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/電荷発生層/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
また、3層以上の発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子としては、具体的には、(電荷発生層/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層)を一つの繰り返し単位として、以下のr)に示す前記繰り返し単位を2つ以上含む層構成を挙げることができる。
r) 陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/(該繰り返し単位)/(該繰り返し単位)/・・・/陰極
上記層構成p)およびq)において、陽極、電極、陰極、発光層以外の各層は必要に応じて削除することができる。
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、通常基板側に陽極が配置されるが、基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0111】
本実施の形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷注入性の改善のために、電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。また界面での密着性向上や混合の防止などのために、前述した各層間に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0112】
(保護層)
上述のように陰極(第2電極)7が形成された後、基本構造として補助電極4−第1電極(陽極)5−発光部6−第2電極(陰極)7を有してなる発光機能部を保護するために、該発光機能部を封止する保護層(上部封止膜)8が形成される。この保護層8は、通常、少なくとも一つの無機層と少なくとも一つの有機層を有する。積層数は、必要に応じて決定され、基本的には、無機層と有機層は交互に積層される。
【0113】
なお、プラスチック基板はガラス基板に比べて、ガスおよび液体の透過性が高く、また発光層10などの発光物質は酸化されやすく、水と接触することにより劣化しやすいため、前記基板1としてプラスチック基板が用いられる場合には、基板1および保護層8により発光機能部が被包されていても経時変化し易いので、プラスチック基板上にガスおよび液体に対するバリア性の高い下部封止膜を積層し、その後、この下部封止膜の上に上記発光機能部を積層する。この下部封止膜は、通常、上記保護層(上部封止膜)と同様の構成、同様の材料にて形成される。
【0114】
次に、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の第2の実施形態を、図6を参照して説明する。
第2の実施形態と、上述の第1の実施形態との違いは、第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子が発光部6からの光を透明な陽極(第1電極)5を透過させて透明な支持基板1から外部へ出射するボトムエミッション型の素子であったのに対し、第2の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子では発光部26からの光を透明な陰極(第1電極)27を透過させて透明な保護層28から外部へ出射するトップエミッション型の素子である点にある。
【0115】
この第2の実施形態では、発光部26からの光を透過させる透明な第1電極が透明陰極27であり、この第1電極27の保護層28側の表面に補助電極24が形成されている。本実施の形態における第1電極には、例えば陰極電極として例示した金属薄膜を透明陰極として用いることができる。なお透明陰極に用いられる金属薄膜は、光が透過可能な程度に薄膜に形成されるので、シート抵抗が高くなる。したがって、透明陰極は、金属箔膜状にITO薄膜などの透明電極を積層させた積層体によって構成されることが好ましい。また第2電極25と基板21との間に、例えば銀などの反射率の高い反射膜を設けることが好ましく、このような反射膜を設けることによって、基板21側に向かう光を第1電極27側に反射することができ、光の取出し効率を向上させることができる。補助電極24は、上述の第1の実施形態における補助電極4と形状、寸法、構成材料は、同一でよく、上述のように、透明陰極(第1電極)27に接して設けられている点が異なるだけである。
【0116】
そして、第2の実施形態においては、フィルム32は光の取り出し方向の最外層である保護層28の外表面に設けられる。この場合の保護層28は、好ましくは、封止基板である。フィルム32は、その凹凸面が発光層30側とは反対側の表面に位置するように設けられる。
【0117】
フィルム32の凹凸の形状、厚み寸法、ヘイズ値、全光線透過率などの諸特性、および調製方法は、フィルム12と同様である。
【0118】
本発明にかかる有機エレクトロルミネッセンス素子を、上記第2の実施形態のように構成しても、上述の第1の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
すなわち、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記第1の実施形態によっても、第2の実施形態によっても、透明電極の抵抗による電圧降下を低減し、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能となり、高い光取り出し効率を有する。
【0119】
以上説明したような本発明の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、曲面状や平面状の照明装置、例えばスキャナの光源として用いられる面状光源、および表示装置に好適に用いることができる。
【0120】
有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置としては、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置などを挙げることができる。ドットマトリックス表示装置には、アクティブマトリックス表示装置およびパッシブマトリックス表示装置などがある。有機エレクトロルミネッセンス素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられる。また有機エレクトロルミネッセンス素子は、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子として用いられ、液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【実施例】
【0121】
以下、作製例及び参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
【0122】
以下の作製例1では、透明な第1電極に補助電極を形成した場合の効果を確認するために、透明な第1電極(陽極)の基板側の表面に補助電極を配置した有機エレクトロルミネッセンス素子を製造し、支持基板の外表面にフィルムを設けない状態で、発光特性の向上効果を確認した。
なお、合成例1、2において用いた下記構造式(A)〜(C)で表される化合物A〜Cは、国際公開2000/046321号パンフレットに記載された方法に従って合成した。
【0123】
【化1】

【0124】
【化2】

【0125】
【化3】

【0126】
(合成例1)
下記一般式(1)で表される高分子化合物1を以下の方法により合成した。
【0127】
【化4】

【0128】
先ず、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(アルドリッチ社製、商品名:Aliquat336)0.91gと、上記化合物A5.23gと、上記化合物C4.55gとを反応容器(200mLセパラブルフラスコ)に仕込んだ後、反応系内を窒素ガスで置換した。その後、トルエン70mLを加え、酢酸パラジウム2.0mg、トリス(o−トリル)ホスフィン15.1mgを加えた後に、還流させて混合溶液を得た。
【0129】
得られた混合溶液に、炭酸ナトリウム水溶液19mLを滴下後、還流下で終夜攪拌した後、フェニルホウ酸0.12gを加えて7時間攪拌した。その後、300mlのトルエンを加え、反応液を分液し、有機相を酢酸水溶液及び水で洗浄した後、ナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメート水溶液を加えて4時間攪拌した。
【0130】
次いで、攪拌後の混合溶液を分液した後、シリカゲル−アルミナカラムに通し、トルエンで洗浄した後に、メタノールに滴下してポリマーを沈殿させ、その後、得られたポリマーを濾過、減圧乾燥した後にトルエンに溶解させた。得られたトルエン溶液を再度メタノールに滴下して沈殿物を生じさせ、この沈殿物を濾過、減圧乾燥して高分子化合物1を6.33g得た。得られた高分子化合物1のポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは3.2×10であり、ポリスチレン換算の数平均分子量Mnは8.8×10であった。
【0131】
(合成例2)
下記一般式(2)で表される高分子化合物2を以下の方法により合成した。
【0132】
【化5】

【0133】
先ず、化合物B22.5gと2,2’−ビピリジル17.6gとを反応容器に仕込んだ後、反応系内を窒素ガスで置換した。その後、あらかじめアルゴンガスでバブリングして脱気したテトラヒドロフラン(脱水溶媒)1500gを加え、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)31gを加え、室温で10分間攪拌した後、60℃で3時間反応した。なお、反応は、窒素ガス雰囲気中で行った。
【0134】
次に、得られた反応溶液を冷却した後、この溶液に、25質量%アンモニア水200mL/メタノール900mL/イオン交換水900mL混合溶液をそそぎ込み、約1時間攪拌した。その後、生成した沈殿物を濾過して回収し、この沈殿物を減圧乾燥した後、トルエンに溶解させた。そして、得られたトルエン溶液を濾過して不溶物を除去した後、このトルエン溶液を、アルミナを充填したカラムに通過させることにより精製した。
【0135】
次に、精製後のトルエン溶液を、1規定塩酸水溶液で洗浄し、静置、分液した後、トルエン溶液を回収した。そして、このトルエン溶液を、約3質量%アンモニア水で洗浄し、静置、分液した後、トルエン溶液を回収した。その後、このトルエン溶液をイオン交換水で洗浄し、静置、分液した後、洗浄後のトルエン溶液を回収した。
【0136】
次いで、洗浄後のトルエン溶液をメタノール中にそそぎ込み、沈殿物を生じさせ、この沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して高分子化合物2を得た。得られた高分子化合物2のポリスチレン換算の重量平均分子量は8.2×10であり、ポリスチレン換算の数平均分子量は1.0×10であった。
【0137】
支持基板としてガラス基板(100mm×100mm)を用いた。支持基板の温度を120℃にして、Crターゲット及びスパッタリングガスとしてArを用いたDCスパッタリング法により、膜厚1000nmのCrを前記支持基板に堆積させた。このときの製膜圧力は0.5Pa、スパッタリングパワーは2.0kWであった。Cr膜の上にフォトレジストを塗布し、さらに110℃で90秒間ベークした。次に、線幅20mmのラインから構成される正方形の枠状の開口部と前記開口部の枠内に、縦×横のピッチがそれぞれ300μm×100μm、縦×横の線幅がそれぞれ70μm×30μmからなる格子型の開口部とを有するフォトマスクを通して、200mJのエネルギーで露光し、0.5質量%の水酸化カリウム水溶液によって現像後、130℃で110秒間ポストベークした。次いで、Cr用エッチング液に、40℃、120秒間浸漬し、Crのパターニングを行い、次に2質量%水酸化カリウム水溶液に浸漬することで、レジスト残渣を剥離し、Crからなる補助電極(第1補助電極及び第2補助電極)を形成した。
【0138】
次に、補助電極が形成された基板上に第1電極を形成した。具体的には、基板温度を120℃にし、第1電極材料としてITO焼成ターゲット、スパッタリングガスとしてArを用いて、DCスパッタリング法により、膜厚3000nmのITOを堆積させた。このときの製膜圧力は0.25Pa、スパッタリングパワーは0.25kWであった。その後、200℃のオーブンで40分間アニール処理を行った。その後、第1電極が形成された基板を60℃の弱アルカリ性洗剤、冷水、50℃の温水をもちいて超音波洗浄し、50℃の温水から引き上げて乾燥した後、20分間UV/O洗浄を行った。
【0139】
次に、0.45μm径のフィルター及び0.2μm径のフィルターをそれぞれ用いて、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(スタルクヴィテック社製、商品名:BaytronP CH8000)の懸濁液を2段階濾過し、2段階目に濾過した溶液を用いて、前記洗浄後の基板にスピンコート法により80nmの厚みで薄膜を形成し、大気雰囲気下においてホットプレート上で、200℃で15分間熱処理し、正孔注入層を形成した。
【0140】
次いで、合成例1、2で得られた高分子化合物1及び高分子化合物2を重量比で1:1の比で計り取り、トルエンに溶解させ、1質量%の高分子溶液を作製した。上記正孔注入層が形成された基板上に、作製した高分子溶液をスピンコート法により80nmの膜厚で製膜した後、窒素雰囲気下のホットプレート上で130℃、60分間熱処理し、発光層を形成した。
【0141】
その後、前記発光層が形成された基板を真空蒸着機に導入し、陰極としてLiF、Ca、Alを順次それぞれ、2nm、5nm、200nmの厚みで蒸着し、第2電極を形成した。なお、この蒸着工程においては、真空度が1×10−4Pa以下に到達した後に金属の蒸着を開始した。
【0142】
最後に、不活性ガス中で、第2電極が形成された基板における第2電極の表面をガラス板で覆い、さらに4辺を光硬化樹脂で覆った後に、光硬化樹脂を硬化させることで保護層を形成して、有機EL発光素子を得た。
【0143】
(参考例1)
上記作製例1において、補助電極を形成する際のフォトマスクとして、線幅20mmのラインから構成される正方形の枠状の開口部のみを有するフォトマスクを用いた以外は、作製例1と同様にして、比較用の有機EL発光素子を作製した。
【0144】
(参考例2)
上記作製例1において、補助電極を形成する際のフォトマスクとして、縦×横のピッチがそれぞれ300μm×100μm、縦×横の線幅がそれぞれ70μm×30μmからなる格子型の開口部とを有するフォトマスクを用いた以外は、作製例1と同様にして、比較用の有機EL発光素子を作製した。
【0145】
(補助電極形成効果の評価)
作製例1及び参考例1〜2で得られた有機EL発光素子の発光特性を評価した。具体的には、素子全体に8Vの電圧を印加した際の発光輝度を測定し、さらに発光面の様子を目視にて観察した。得られた結果を下記(表1)に示す。
【0146】
【表1】

(表1)に示した結果から明らかなように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能であることが確認された。
【0147】
以下の作製例2、3及び参考例3〜5では、支持基板の外表面にフィルムを設けることにより光取り出し効率を制御できることを確認した。
【0148】
(作製例2)
透明な支持基板として、30mm×30mmのガラス基板を用いた。次に、スパッタリング法によって厚みが150nmのITOから成る導電体膜を支持基板の表面上に蒸着した。次に、この導電体膜の表面上にフォトレジストを塗布し、フォトマスクを介して所定の領域を露光し、さらに洗浄することによって、所定のパターン形状の保護膜を形成した。さらにエッチングを施した後、水、NMP(n−methylpyrrolidone)でリンスを施し、所定のパターン形状のITO膜から成る陽極を形成した。次に、陽極上のレジスト残渣を除去するために、酸素プラズマ処理を30Wのエネルギーで2分間行い、UV/O3洗浄を20分間行った。
【0149】
次に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(スタルクヴィテック社製、商品名:BaytronP CH8000)の懸濁液に、2段階の濾過を行い、正孔注入層用の溶液を得た。第1段階目の濾過では、0.45μm径のフィルターを用い、第2段階目の濾過では、0.2μm径のフィルターを用いた。濾過して得られた溶液を用いて、スピンコート法によって薄膜を製膜し、大気雰囲気下において、ホットプレート上で200℃、15分間熱処理することによって、厚みが70nmの正孔注入層を形成した。
【0150】
次に、Lumation WP1330(SUMATION製)とキシレンとを混合してキシレン溶液を作製した。キシレン溶液におけるLumation WP1330の濃度を1.2質量%とした。作製した溶液を用いて、正孔注入層の表面上にスピンコート法によって薄膜を成膜した後、窒素雰囲気下においてホットプレート上で130℃、60分間熱処理し、厚みが80nmの発光層を形成した。
【0151】
次に、発光層が形成された支持基板を真空蒸着機に導入し、Ba、Alをそれぞれ5nm、80nmの厚みで順次蒸着し、陰極を形成した。なお、真空度が1×10-4Pa以下に到達した後に、金属の蒸着を開始した。
【0152】
次に、フィルムを作製するために、まずフィルム用の溶液を作製した。ポリカーボネート6.32gをジクロロメタン20.7gに溶解し、23.4wt%の溶液を作製した。次に、この溶液にフッ素系界面活性剤であるノベック(住友3M製)を混合した。混合した溶液におけるノベックの濃度を0.8wt%とし、フィルム用の溶液を得た。湿度85%の恒温恒湿槽中において、成膜後のフィルムの膜厚が150μm程度になるように、得られたフィルム用の溶液をガラスの基台上にキャストした。湿度85%の雰囲気中で5分間放置した後、窒素フローによりフィルムを乾燥し、表面に凹凸形状を有する20mm×20mmのフィルム(フィルムA)を得た。
【0153】
次に、支持基板の上記発光層が形成されている側の表面とは反対側の表面に粘着剤としてグリセリンを塗布し、フィルムAを貼り合せて、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。支持基板の屈折率は、1.50であり、粘着剤の屈折率は、1.45であり、フィルムAの屈折率は、1.58である。また、フィルムAの平均膜厚は230μmである。
【0154】
(作製例3)
作製例2の有機エレクトロルミネッセンス素子とはフィルムのみが異なる有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。本作製例3では、高いヘイズ値(82)を示す市販品のフィルム(フィルムB)を用いた。フィルムBは、粘着層を有しているので、粘着剤などを用いずにそのまま支持基板に貼付けて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0155】
(参考例3)
作製例2の有機エレクトロルミネッセンス素子とは、フィルムのみが異なる有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
フィルム用の溶液には、作製例の溶液と同じものを用いた。湿度50%の恒温恒湿槽中において、成膜後のフィルムの膜厚が220μm程度となるように、フィルム用の溶液をガラスの基台上にキャストした。湿度50%の雰囲気中で5分間放置した後、窒素フローによりフィルムを乾燥し、20mm×20mmのフィルム(フィルムC)を得た。このフィルムCを、作製例2と同じ粘着剤を用いて作製例2と同様に支持基板に貼り付けて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0156】
(参考例4)
作製例2の有機エレクトロルミネッセンス素子とはフィルムのみが異なる有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。またフィルム用の溶液には、作製例2の溶液と同じものを用いた。湿度85%の恒温恒湿槽中において、成膜後のフィルムの膜厚が220μm程度となるように、フィルム用の溶液をガラスの基台上にキャストした。湿度85%の雰囲気中で5分間放置した後、窒素フローによりフィルムを乾燥し、表面に凹凸形状を有する20mm×20mmのフィルム(フィルムD)を得た。得られたフィルムDを、作製例2と同じ粘着剤を用いて作製例2と同様に支持基板に貼り付けて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0157】
(参考例5)
作製例2の有機エレクトロルミネッセンス素子とはフィルムのみが異なる有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。フィルム用の溶液には、作製例2の溶液と同じものを用いた。湿度85%の恒温恒湿槽中において、成膜後のフィルムの膜厚が360μm程度となるように、フィルム用の溶液をガラスの基台上にキャストした。湿度85%の雰囲気中で5分間放置した後、窒素フローによりフィルムを乾燥し、表面に凹凸形状を有する20mm×20mmのフィルム(フィルムE)を得た。このフィルムEを、作製例2と同じ粘着剤を用いて作製例2と同様に支持基板に貼り付けて有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0158】
(フィルムの表面の観察)
作製例2、3、および参考例3、4、5で用いたフィルムの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図7は、作製例2において作製したフィルムAの断面を模式的に示す図であり、図8は、作製例3で用いたフィルムBの断面を模式的に示す図であり、図9は、参考例3において作製したフィルムCの断面を模式的に示す図である。
【0159】
作製例2において作製したフィルムAでは、フィルムの表面に平均直径が2μmの半球状の凹面が形成されていることを確認した。凹面は、フィルムAの表面の全面に渡って形成されていることを確認した。
【0160】
作製例3に用いたフィルムBでは、フィルムの表面が凹凸状に形成されていることを確認した。凹面は、フィルムBの表面の全面に渡って形成されていることを確認した。
【0161】
参考例3において作製したフィルムCでは、表面に凹面が形成されずに、表面が平面であることを確認した。
【0162】
参考例4において作製したフィルムDでは、フィルムの表面に、平均直径が3μmの半球状の凹面が形成されていることを確認した。凹面の配置の規則性は比較的低かったが、凹面は、フィルムDの表面の全面に渡って形成されていることを確認した。
【0163】
参考例5において作製したフィルムEでは、フィルムの表面に、平均直径が4μmの半球状の凹面が形成されていることを確認した。凹面の配置の規則性は比較的低かったが、凹面は、フィルムEの表面の全面に渡って形成されていることを確認した。
【0164】
(表2)に、作製例2および参考例3、4、5においてフィルムを作製したときの湿度と、作製例2、3、および参考例3、4、5で用いたフィルムの特性とを示す。
【0165】
【表2】

【0166】
(表2)に示すように、湿度と、作製されるフィルムの膜厚とを制御することによって、高いヘイズ値のフィルムを作製できることが確認された。また、作製されるフィルムの膜厚が厚くなると、凹面の径が大きくなることを確認した。
【0167】
(有機エレクトロルミネッセンス素子1の光取り出し効率)
作製例2、3および参考例3、4、5で作製したフィルムが貼り合わされた有機エレクトロルミネッセンス素子の光強度と、フィルムが貼り合わされていない有機エレクトロルミネッセンス素子の光強度とを比較した。(表3)に、フィルムが貼り合わされた有機エレクトロルミネッセンス素子の光強度を、フィルムが貼り合わされていない有機エレクトロルミネッセンス素子の光強度で割った光取出し効率の比を示す。光強度は、有機エレクトロルミネッセンス素子に0.15mAの電流を流し、そのときの発光強度の角度依存性を測定し、全ての角度での発光強度を積分することによって測定した。
【0168】
【表3】

【0169】
作製例2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、フィルムAを貼り合せる前に比べて、光取り出し効率が1.5倍上昇した。さらに、作製例2のフィルムAと光学的特性の近いフィルムBが貼り合わされた作製例3の有機エレクトロルミネッセンス素子も、作製例2の有機エレクトロルミネッセンス素子と同様に、光取り出し効率が大きく上昇した。しかしながら、参考例3の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いたフィルムCは、光散乱がほぼ無いので、光取り出し効率の向上は見られなかった。また参考例4、5も、大きな光取り出し効率の向上は見られなかった。このことから、全光線透過率が高く、ヘイズ値の高いフィルムが光取り出し効率の向上に寄与していることが明らかとなった。特にフィルムのヘイズ値が70以上になると、光取出し効率が大きく向上することがわかった。このように所定の光学特性を示すフィルムを設けることによって、光の取出し効率が向上することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明の第1の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子の断面図である。
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子における第1補助電極及び第2補助電極の位置関係の一例を概略的に示す平面図である。
【図3】有機エレクトロルミネッセンス素子における第1補助電極及び第2補助電極の位置関係の一例を概略的に示す平面図である。
【図4】有機エレクトロルミネッセンス素子における第1補助電極及び第2補助電極の位置関係の一例を概略的に示す平面図である。
【図5】有機エレクトロルミネッセンス素子における第1補助電極及び第2補助電極の位置関係の他の一例を概略的に示す平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子の断面図である。
【図7】作製例2において作製したフィルムAの断面を模式的に示す図である。
【図8】作製例3に用いたフィルムBの断面を模式的に示す図である。
【図9】参考例3において作製したフィルムCの断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0171】
1 透明支持基板
2,2a,2b,2c,2d 第1補助電極
3,3a,3b,3c,3d 第2補助電極
4 補助電極
5 透明陽極(第1電極)
6 発光部
7 陰極(第2電極)
8 保護膜(上部封止膜)
9 陽極と発光層との間に設けられる層
10 発光層
11 陰極と発光層との間に設けられる層
12,32 フィルム
21 支持基板
22 第1補助電極
23 第2補助電極
24 補助電極
25 陽極(第2電極)
26 発光部
27 透明陰極(第1電極)
28 保護膜(上部封止膜)
29 陽極と発光層との間に設けられる層
30 発光層
31 陰極と発光層との間に設けられる層
A 作製例2に用いたフィルム
B 作製例3に用いたフィルム
C 参考例3に用いたフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極である透明な第1電極と、
前記第1電極と比較して電気抵抗値が低く、前記第1電極に接して設けられた補助電極と、
前記陽極および陰極のうちの他方の電極である第2電極と、
前記第1電極と第2電極との間に配置された発光層と、
前記発光層を基準にして前記第1電極側の最外層に配置されたフィルムと、を含み、
前記補助電極が、枠状の第1補助電極と、該第1補助電極の枠内に配置されるとともに、該第1補助電極に電気的に接続され、該第1補助電極よりも線幅が狭い第2補助電極と、を有し、
前記フィルムの前記発光層側とは反対側の表面が凹凸状に形成され、該フィルムのヘイズ値が70%以上であり、かつ該フィルムの全光線透過率が80%以上である有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記第2補助電極の線幅を前記第1補助電極の線幅で除した値が、1/1000〜1/10であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記フィルムの前記発光層側とは反対側の表面が複数の凹面によって構成されている請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記フィルムを作製する工程と、該フィルムを作製する工程によって得られたフィルムを前記最外層に設けるフィルム設置工程とを有し、
前記フィルムの作製工程では、
所定の基台の表面上に、前記フィルムとなる材料を含む溶液を、前記フィルムの厚みが100μm〜200μmの範囲となるように塗布し、
前記基台の表面上に塗布された溶液を、湿度が80%〜90%の雰囲気に保った後に乾燥し、成膜化することにより前記フィルムを作製する、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする面状光源。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−40211(P2010−40211A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198862(P2008−198862)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】