説明

有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法

【課題】ロールツーロール方式で処理することができ、エージング処理能力が高く、安定した発光輝度を有する有機EL素子を得ることができる有機EL素子のエージング方法を提供する。
【解決手段】長尺の可撓性帯状基板上に、少なくとも取出電極部を備えた第1電極、発光層を含む有機機能層及び取出電極部を備えた第2電極を有する複数の有機EL構造体と、該有機EL構造体を被覆する封止部材とから構成される有機EL素子群をエージングする有機EL素子のエージング方法において、該第1電極の複数の取出電極部を第1の導電性給電部材で連結し、該第2電極の複数の取出電極部を第2の導電性給電部材で連結し、該可撓性帯状基板をロール状に巻き取った状態で、該第1の導電性給電部材と該第2の導電性給電部材とを通電して、該有機EL素子を発光させることを特徴とする有機EL素子のエージング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子の特性を安定化させる有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機物質を使用した有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機ELともいう)は、固体発光型の安価な大面積フルカラー表示素子や書き込み光源アレイとしての用途が有望視されており、活発な研究開発が進められている。有機EL素子は、基板上に形成された第1電極(陽極又は陰極)と、その上に積層された有機発光物質を含有する有機化合物層(単層部又は多層部)すなわち発光層と、この発光層上に積層された第2電極(陰極又は陽極)とを有する薄膜型の素子である。この様な有機EL素子に電圧を印加すると、有機化合物層に陰極から電子が注入され陽極から正孔が注入される。この電子と正孔が発光層において再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際にエネルギーを光として放出することにより発光が得られることが知られている。
【0003】
この様に、有機EL素子は薄膜型の素子であるため、1個又は複数個の有機EL素子を基板上に形成した有機EL素子をバックライト等の面光源として利用した場合には、面光源を備えた装置を容易に薄型にすることが出来る。又、画素としての有機EL素子を基板上に所定個数形成した有機EL素子をディスプレイパネルとして用いて有機EL表示装置を構成した場合には視認性が高い、視野角依存性がないなど、液晶表示装置では得られない利点がある。
【0004】
最近では、有機EL素子の用途の拡大等に伴い、樹脂フィルム等の可撓性を有する基板を用いた有機EL素子も登場しており、例えば、国際公開第01/005194号明細書に記載されているように、有機EL素子の基板としてこのような可撓性帯状基板を用いることにより、ロールツーロール方式により有機EL素子の製造が可能となってきた。ここでいうロールツーロール方式の製造方法とは、ロール状に巻かれた基板を繰り出して、該基板上に有機EL構造体を形成し、有機EL構造体を形成した基板を再度ロールに巻き取る形態の製造方法を称する。ロールツーロール方式による製造方式は連続生産が可能なため、生産効率を向上させることができるというメリットを有する。
【0005】
一方、上記のような構成からなる有機EL素子の多くでは、定電流で駆動していると、時間の経過に伴い発光輝度が低下していく特性を有している。この発光輝度の低下は、特に、駆動初期で大きく低下し、その後は緩やかに低下すること特性である場合が多い。発光輝度がそのように低下する場合には、有機EL素子をしばらく駆動して輝度をある程度低下させ安定状態としたものを新たに初期状態とすると、その後の低下の仕方が極めて緩やかになることが知られている。この様な有機EL素子を用いた有機EL表示装置を、実際の使用に供される前に、有機EL素子をしばらく駆動して輝度低下させる処理は、一般に、エージング処理と呼ばれている。
【0006】
特開平6−20772号公報においては、エージング処理時に、有機EL表示素子の陽極電極同士をリード線で短絡して電圧印加装置に接続し、かつ、陰極電極同士をリード線で短絡して電圧印加装置に接続する方法が開示されている。そして、電圧印加装置から、陽極電極同士を接続するリード線と陰極電極同士を接続するリード電と間に電圧パルスを印加する。
【0007】
また、特開平8−185979号公報には、稼働時の5〜1000倍の電流密度で有機EL表示装置を数時間定電流駆動するエージング処理が開示されている。特開2002−198172号公報あるいは特開2002−203672号公報には、初期輝度から低下させる目標となる輝度を求め、有機EL表示装置の発光輝度が目標となる輝度になるまで有機EL表示装置を駆動するエージング処理が開示されている。また、有機EL表示装置の通電による輝度低下は温度が高くなるほど急激になるため、温度を高くしてエージング処理を行うことでエージングの時間を短縮することができる。例えば、特開2002−198172号公報には、50℃以上の環境でエージング処理を実行することによってエージング処理が迅速に実行されることが記載されている。
【0008】
上記提案されている各方法では、1枚の大きなガラス基板上に複数の有機EL素子を形成した後、封止工程と、個々の有機EL素子に切断する工程を経た後、エージング処理を行うので、多数の有機EL表示素子をエージング処理しなければならず、また、多数のリード線を設置しなければならず、大きな労力がかかるという課題がある。また、ロール状基材に形成された有機EL素子に対しエージング処理を施す場合でも、同様に個々の有機EL素子に断裁した後、エージング処理をそれぞれの個体に施していたが、処理する個数が多くなり、作業が繁雑になると同時に、エージングのための広いスペースが必要となるという課題も抱えていた。
【0009】
また、エージング処理の際の温度を高く設定することができず、エージング処理に時間がかかるという課題がある。さらに、エージング処理を実行するための駆動回路として、有機EL表示装置を構成するために実装された駆動回路が使われるので、有機EL表示装置として使用される程度の輝度まででしか発光させることができない。従って、初期輝度を高くして短時間でエージングすることができないという課題を抱えている。
【0010】
上記課題に対し、基板上に、陽極配線と有機EL層と陰極配線とを備える有機EL表示素子を複数形成し、2以上の有機EL表示素子のすべての陽極配線を基板上で互いに電気的に接続し、かつ、すべての陰極配線を基板上で互いに電気的に接続し、陽極配線と陰極配線との間に通電し、有機EL表示素子の有機EL層を発光状態にし、基板の周囲温度を室温以上に設定して、エージング処理を施した後、有機EL表示素子を分離して有機EL表示装置を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、1枚の大きなガラス基板上に複数の有機EL素子を形成した後、複数の有機EL素子を形成する各電極を接続して通電してエージング処理を施す方法であるが、この方法は、あくまでも1枚の大きなガラス基板上に形成された複数の有機EL素子に対し、枚葉にて一度にバッチ方法でエージング処理を行う方法であり、生産能力という観点では依然として不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−146212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、ロールツーロール方式で処理することができ、省スペースで、エージング処理能力が高く、安定した発光輝度特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0015】
1.長尺の可撓性帯状基板上に、少なくとも取出電極部を備えた第1電極、発光層を含む有機機能層及び取出電極部を備えた第2電極を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体と、該有機エレクトロルミネッセンス構造体を被覆する封止部材とから構成される有機エレクトロルミネッセンス素子群をエージングする有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法において、該第1電極の複数の取出電極部を第1の導電性給電部材で連結し、該第2電極の複数の取出電極部を第2の導電性給電部材で連結し、該可撓性帯状基板をロール状に巻き取った状態で、該第1の導電性給電部材と該第2の導電性給電部材とを通電して、該有機エレクトロルミネッセンス素子を発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【0016】
2.前記第1の導電性給電部材及び第2の導電性給電部材が、前記可撓性帯状基板の一方の幅手端部に配置されていることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【0017】
3.前記第1の導電性給電部材が前記可撓性帯状基板の一方の幅手端部に配置され、前記第2の導電性給電部材が前記可撓性帯状基板の他方の幅手端部に配置されていることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【0018】
4.前記第1の導電性給電部材及び第2の導電性給電部材への通電処理条件が、印加電圧が1.0mA/cm以上、100mA/cm以下で、処理時間が30分以上、30時間以下であることを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【0019】
5.前記第1の導電性給電部材及び第2の導電性給電部材の少なくとも1つが、表面にエンボス構造を有していることを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ロールツーロール方式で処理することができ、省スペースで、エージング処理能力が高く、安定した発光輝度特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】基板の一方の端部に、第1の導電性給電部材と第2の導電性給電部材を配置した有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法の一例を示す模式図である。
【図2】有機エレクトロルミネッセンス素子、封止部材及び導電性給電部材の構成の一例を示す断面図である。
【図3】基板の両端部に、それぞれ第1の導電性給電部材と第2の導電性給電部材を配置した有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法の一例を示す模式図である。
【図4】複数の有機エレクトロルミネッセンス素子をブロック分けしてエージング処理する方法の一例を示す模式図である。
【図5】図4に示した複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体をブロック分けしてエージング処理する際のエージング順序の一例を示すパターン図である。
【図6】図4に示した複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体をブロック分けしてエージング処理する際のエージング順序の他の一例を示すパターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、長尺の可撓性帯状基板上に、少なくとも取出電極部を備えた第1電極、発光層を含む有機機能層及び取出電極部を備えた第2電極を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体と、該有機エレクトロルミネッセンス構造体を被覆する封止部材とから構成される有機エレクトロルミネッセンス素子群をエージングする有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法において、該第1電極の複数の取出電極部を第1の導電性給電部材で連結し、該第2電極の複数の取出電極部を第2の導電性給電部材で連結し、該可撓性帯状基板をロール状に巻き取った状態で、該第1の導電性給電部材と該第2の導電性給電部材とを通電して、該有機エレクトロルミネッセンス素子を発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法により、ロールツーロール方式で処理することができ、省スペースで、エージング処理能力が高く、安定した発光輝度特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法を実現することができることを見出し、本発明に至った次第である。
【0024】
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法の詳細について説明する。
【0025】
〔有機エレクトロルミネッセンス素子の製造工程フロー〕
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、主には、有機EL構造体の形成、封止工程、導電性給電部材の付与、エージング処理工程、断裁処理等の工程を経て製造される。
【0026】
1)有機EL構造体の形成
連続搬送可能な長尺の可撓性帯状基板(以下、可撓性基板ともいう)を用い、ロールツーロール方式で、帯状基板上に、取出電極部を備えた第1電極、発光層を含む有機機能層及び取出電極部を備えた第2電極を積層した有機エレクトロルミネッセンス構造体を、複数個形成する。
【0027】
2)封止工程
帯状基板に形成した複数個の有機エレクトロルミネッセンス構造体の全面を、接着剤等を付与した後、封止部材で被覆する。
【0028】
3)取出電極部の開口
封止部材で封止した後、各電極の取出電極部を被覆している封止部材を取り除き、取出電極部を露出させる。
【0029】
4)導電性給電部材の付与
工程3で露出された有機EL構造体を構成する第1電極、第2電極の取出電極部の複数個を、導電部材及び導電性接着剤で構成されている導電性給電部材で連結する。
【0030】
5)エージング処理
導電性給電部材を付与した帯状基板をロール状に積層した後、各導電性給電部材の給電端子に、所定の電圧で一定時間通電して、有機EL素子を発光させてエージング処理を施す。
【0031】
6)導電性給電部材の除去
上記エージング処理が完了した後、帯状基板に付与した導電性給電部材を取り外す。
【0032】
7)断裁工程
エージング処理が完了し、導電性給電部材を取り外した有機EL素子を、断裁する。
【0033】
上記エージング処理を、出荷前に施すことにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の特有の性質である初期の発光輝度変動期間を強制的に経過させた後に出荷することにより、安定した品質の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができ、また、ロールツーロール方式で製造するため、高い生産性を実現することができた。
【0034】
〔有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法〕
はじめに、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法について、図を用いて説明する。
【0035】
図1は、基板の一方の端部に、第1の導電性給電部材及び第2の導電性給電部材を配置した有機エレクトロルミネッセンス素子1のエージング方法の一例を示す模式図である。
【0036】
図1に記載の構成からなる有機エレクトロルミネッセンス素子1のエージングのフローは以下の通りである。
【0037】
図1のa)において、連続搬送可能な長尺の可撓性帯状基板2の長手方向に、取出電極部4Aを備えた第1電極4、発光層を含む有機機能層及び取出電極部5Aを備えた第2電極5を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体3を複数個形成した後、封止部材(不図示)で表面を被覆する。
【0038】
次いで、第1電極4の取出電極部4A及び第2電極5の取出電極部5Aを被覆している封止部材の一部を切断、除去して、取出電極部4A及び取出電極部5Aを露出させる。
【0039】
次いで、基板の一方の端部(図面における下部)に、複数個(図1のa)では5個を例示)の有機エレクトロルミネッセンス素子1を構成し露出している第1電極の取出電極部4Aに、例えば、金属箔上に導電性接着剤を有する導電性給電部材6を付与して、通電可能な状態とする。同様に、露出している第2電極の取出電極部5Aに対しても、同様の導電性給電部材8を付与して、通電可能な状態とする。この様にして、複数個の有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各取出電極部を、導電性給電部材を介して連結した後、ロール状に積層した状態で巻き取る。次いで、図1のb)に示すように、ロール状積層体10の端部にある導電性給電部材6から誘導されている給電端子7と、導電性給電部材8から誘導されている給電端子9に、所定の電圧を印加して、一定時間を要して、有機エレクトロルミネッセンス素子を事前発光させて、エージング処理を施す。
【0040】
図2は、上記図1に示した有機エレクトロルミネッセンス素子1、封止部材及び導電性給電部材の構成を示す断面図である。
【0041】
図2に示す構成では、可撓性帯状基板2上に、第1電極4と取出電極部4Aが形成され、その上に、発光層を含む有機機能層12が形成され、有機機能層12上に第2電極5と取出電極部5Aが形成され、それらの全域が封止部材13で被覆されている。
【0042】
取出電極部4Aと取出電極部5Aの上部を被覆しているそれぞれの封止部材13の一部が切除され、取出電極部を露出した電極開口部が形成され、それぞれの開口部に導電性接着剤14を介して導電性部材として金属箔15が設けられて、導電性給電部材6、8を形成している。
【0043】
図3は、本発明の他の好ましい実施の態様である基板の一方の端部に第1の導電性給電部材を、他方に端部に第2の導電性給電部材を配置した有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法の一例を示す模式図である。
【0044】
図3のa)に記載の構成では、連続搬送可能な長尺の可撓性帯状基板2の長手方向に、取出電極部4Aを備えた第1電極4、発光層を含む有機機能層及び取出電極部5Aを備えた第2電極5を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体3を複数個形成した後、封止部材(不図示)で表面を被覆する。
【0045】
次いで、第1電極4の取出電極部4A及び第2電極5の取出電極部5Aを被覆している封止部材の一部を切断、除去して、取出電極部4A及び取出電極部5Aを露出させる。
【0046】
次いで、基板の一方の端部(図面における上部)には、複数個(図3のa)では5個を例示)の有機エレクトロルミネッセンス構造体3を構成し露出している第1電極の取出電極部4Aに、図1と同様の導電性給電部材6を付与して、通電可能な状態とする。一方、基板の他方の端部(図面における下部)には、露出している第2電極の取出電極部5Aに対しても、同様の導電性給電部材8を付与して、通電可能な状態とする。この様にして、複数個の有機エレクトロルミネッセンス構造体を構成する各取出電極部を、導電性給電部材を介して連結した後、ロール状に積層した状態で巻き取る。次いで、図3のb)に示すように、ロール状積層体10の一方の端部にある導電性給電部材6から誘導されている給電端子7と、他方の端部にある導電性給電部材8から誘導されている給電端子9に、所定の電圧を印加して、一定時間を要して、有機エレクトロルミネッセンス素子を発光させて、エージング処理を施す。
【0047】
図1、図3においては、可撓性帯状基板2上に形成した5つの有機エレクトロルミネッセンス構造体3を1ユニットとして、各有機エレクトロルミネッセンス構造体3を構成する電極を、導電性給電部材により連結してエージング処理を行う一例を示したが、実際の長尺の可撓性帯状基板上では、多数の有機エレクトロルミネッセンス構造体群が連続して形成され、ロール状に巻き取られて積層体を形成している。この様なロール状積層体においては、形成した全ての有機エレクトロルミネッセンス構造体群を、一対の導電性給電部材のみで電極間を結合し、ロール状積層体全体に同時に給電、発光させることにより、1度の操作でエージング処理を施すことは可能ではある。しかしながら、一括してロール状積層体にシーズニング処理を施す方法では、ロール状積層体への供給電力が大きくなること、及び発光による発熱及び蓄熱に伴いロール状積層体全体が高温となり、有機エレクトロルミネッセンス構造体の有機機能層へのダメージが生じる等の懸念がある。
【0048】
上記課題のうち、ロール状積層体の高温下への対応としては、エージング処理を低温環境下で行うことにより、ある程度緩和することはできる。また、導電性給電部材にエンボス加工等の凹凸構造を付与させて、ロール状に積層した際に、可撓性帯状基板間にエンボス構造で保持された空隙を形成することにより、通気性を高め、放冷効果を高める方法を用いることが好ましい。
【0049】
しかしながら、本発明では、上記課題に対し、可撓性帯状基板をいくつかのブロックに分割し、各ブロック単位で、順次、発光によるエージング処理を行う方法が好ましい。
【0050】
図4は、複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体をブロック分けしてエージング処理する方法の一例を示す模式図である。
【0051】
図4のa)に示した分割エージング方式は、図1に記載の構成からなる有機エレクトロルミネッセンス構造体群に対しエージングする方法であり、左側のブロックAでは、有機エレクトロルミネッセンス構造体3の4つを1ブロックとして、第1電極の取出電極部群を導電性給電部材6Aで連結して通電可能状態とし、同じく第2電極の取出電極部群を導電性給電部材8Aで連結して通電可能状態としてある。同様に、隣接したブロックB、ブロックCでも上記の構成を採って、ユニットが構成されている。また、各ブロックの導電性給電部材間には、絶縁部材16を配置し、導電性給電部材間での通電を遮断している。
【0052】
同様に、図4のb)には、図3に示す有機エレクトロルミネッセンス構造体群に対し、分割エージング方式を示してある。
【0053】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法において、上記図4で示すようブロック単位でエージング処理を行う際、1ブロック当たりの有機EL素子数としては、積層するロール長によっても異なるが、概ね5個以上、1000個以下であることが好ましく、更に好ましくは10個以上、500個以下であり、より好ましくは、50個以上、200個以下である。
【0054】
図5、図6は、図4に示した複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体をブロック分けしてエージング処理する際のエージング順序の一例を示すパターン図である。
【0055】
一例として、長尺の可撓性帯状基板上に1000個の有機EL構造体を作製し、100個単位で本発明に係る導電性給電部材で各電極を接続して1ブロックし、合計で10ブロックの有機EL素子群について、通電発光によるエージング処理順の一例を示したもので、ロール状に積層した後、芯側の第1ブロックとし、巻外側を第10ブロックとして表示してある。
【0056】
図5のパターンa)では、100個の有機EL構造体を導電性給電部材で接続した巻き芯側の第1ブロックに通電し、5時間発光させてエージング処理を施した後、順次第2ブロックから第10ブロックへのエージング処理を行う方法である。
【0057】
図5のパターンb)では、エージング処理時の発光に伴う発熱の影響を緩和するため、巻き芯側の第1ブロックのエージング処理を行った後、巻中央部の第6ブロックのエージング処理を行い、次いで、第2ブロック、第7ブロックというように、発光位置を分散させることにより、発熱の影響を緩和させる方法である。
【0058】
図5のパターンc)では、巻き芯の第1ブロックと、そこから離れた巻中央部の第6ブロックを同時にエージング処理し、次いで、第2ブロックと第7ブロックというように、離れたブロックを同時にエージング処理することにより、発生する熱エネルギーの集中化を防止すると共に、エージング処理時間を短縮することができる。
【0059】
また、図6に記載のパターン1)では、第1ブロックのエージング処理を開始し、1/2の処理時間が経過した時点で、第6ブロックのエージング処理を開始し、順次処理時間帯のオーバーラップ領域を設けてエージング処理することにより、発生する熱エネルギーの集中化を防止すると共に、エージング処理時間を短縮することができる。
【0060】
更に、上記のいずれの方法においても、エージング時の発光による発熱及び蓄熱を緩和させる観点から、前述のように導電性給電部材にエンボス加工を施して、ロール状に積層した際、エンボス構造で保持された空隙を可撓性帯状基板間に形成することにより、通気性を高め、放冷効果を高める方法を用いることができる観点から好ましい。
【0061】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法においては、図4に示すような1ブロック当たりのエージング条件としては、印加電圧が1.0mA/cm以上、100mA/cm以下で、処理時間が30分以上、30時間以下であることが好ましく、更に好ましくは、印加電圧が5.0mA/cm以上、50mA/cm以下で、処理時間が1時間以上、15時間以下である。
【0062】
また、本発明の機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法においては、エージング処理を行う環境温度としては、5℃以上、30℃以下であることが好ましく、エネルギー効率と発熱に対する冷却効果を考慮すると、更に好ましくは、10℃以上、25℃以下であり、特に好ましくは、15℃以上、20℃以下である。
【0063】
〔導電性給電部材〕
次いで、本発明に適用する導電性給電部材の構成について説明する。
【0064】
本発明に係る導電性給電部材は、主には、通電させるための導電部材と、導電部材と取出電極部とを接着させるための導電性接着剤層とから構成されている。
【0065】
(導電部材)
導電部を形成する導電部材としては、主には、導電性の金属箔、あるいは金属を被覆した織布等を用いることができ、例えば、銅箔、電解銅箔、圧延銅箔、錫メッキ銅箔、アルミ箔、軟質アルミ箔、ポリエチレンテレフタレートをラミネートしたアルミ箔、鉄箔、ニッケル/銅被覆ポリエステル織布、ニッケル/銅被覆ナイロン織布、ニッケルメッキポリエステルクロス、銅メッキポリエステルクロス、導電性ファイバー等を挙げることができる。
【0066】
導電部材の厚さとしては、概ね10μm以上、120μm以下であり、好ましくは20μm以上、75μm以下である。
【0067】
(導電性接着剤)
本発明に係る導電性給電部材に係る適用可能な導電性接着剤としては、導電性を備えた接着剤であれば特に制限はないが、例えば、アクリル系導電性粘着剤、アクリル系導電性粘着剤(ニッケル粒子分散型)、アクリル系導電性粘着剤(銅粒子分散型)等を挙げることができる。
【0068】
導電性接着剤層の厚さとしては、20μm以上、150μm以下の範囲であり、好ましくは30μm以上、100μm以下である。
【0069】
本発明に係る導電性給電部材としては、市販品としても入手することができ、例えば、(株)寺岡製作所製の導電性銅箔粘着テープ8321、8323(圧延銅/アクリル系導電性接着剤)、導電性アルミ箔粘着テープ830、8303(アルミ箔/アクリル系導電性接着剤)、難燃性導電性布粘着テープ1825(ニッケル・銅被覆ポリエステル織布/アクリル系導電性接着剤)、難燃性導電性布粘着テープ1828(ニッケル・銅被覆ナイロン織布/アクリル系導電性接着剤)、住友スリーエム社製の1181、CU−35C銅箔/アクリル系導電性接着剤)、1183(錫メッキ銅箔/アクリル系導電性接着剤)、1170、AL−35FR、AL−50BT(アルミ箔/アクリル系導電性接着剤)、AL−37BLK(PETフィルムラミネートアルミ箔/アクリル系導電性接着剤)、FE−25C(鉄箔/アクリル系導電性接着剤)、2191FR(ニッケルメッキポリエステルクロス/アクリル系導電性接着剤)、D.I.C.社製のダイタックE−1100CD、E−2100CD(電解銅箔/アクリル系導電性接着剤)、E−2100ACD、E−2300ND(圧延銅箔/アクリル系導電性接着剤)、52050AD、8530AD(アルミ箔/アクリル系導電性接着剤)、E−2240AD(PETフィルムラミネートアルミ箔/アクリル系導電性接着剤)、ソニーケミカル社製のAL7620、AL7650(アルミ箔/アクリル系導電性接着剤)、CU7040、CU7636D、CU7636R(銅箔/アクリル系導電性接着剤)、スリオンテック社製の8701(銅箔/Cu粉入りアクリル系導電性接着剤)、8781(銅箔/Ni粉入りアクリル系導電性接着剤)、8785(電解銅箔/Ni粉入りアクリル系導電性接着剤)、5805(アルミ箔/Ni粉入り合成樹脂接着剤)、北川工業社製のCCT−Cシリーズ(圧延銅箔/導電性フィラーを含む導電粘着剤)、CCT−Aシリーズ(アルミ箔/導電性フィラーを含む導電粘着剤)等を挙げることができる。尚括弧内の表示は(導電部材種/導電性接着剤種)を記載してある。
【0070】
更に、本発明に係る導電部材では、エンボス加工が施されていることが好ましい。導電部材がエンボス構造(凹凸構造)を有すことにより、前述のように、可撓性帯状基板をロール状に積層した際、エンボス構造で保持された空隙を可撓性帯状基板間に形成することにより、通気性を高め、電極間に電圧印加し、有機EL素子を発光させた際に発生する熱の放冷効果を高めることができる観点から好ましい。
【0071】
エンボス加工としては、金属泊等を例えば、金属製のエンボスロールと金属製のバックアップロールによってプレスしてエンボス加工することで凹凸を設けることができる。また、すでにエンボス加工を施した市販の導電部材を用いることもでき、例えば、住友スリーエム社製の1245、2245(銅箔エンボス/アクリル系接着剤)、1345(錫メッキ銅箔エンボス/アクリル系導電性接着剤)、1267(アルミ箔エンボス/アクリル系接着剤)、3245(銅箔逆エンボス/アクリル系導電性接着剤(金属粒子分散型))等を挙げることができる。
【0072】
〔有機エレクトロルミネッセンス素子の構成〕
次いで、本発明に係る有機EL素子の代表的な構成要素の詳細について説明する。
【0073】
本発明に係る有機EL素子は、長尺の可撓性帯状基板上に、少なくとも第1電極、発光層を含む有機機能層及び第2電極を有する有機EL構造体(発光部ともいう)、具体的な一例としては、長尺の可撓性帯状基板上に順次、第1電極(陽極)と、正孔輸送層、発光層及び陰極バッファ層(電子注入層)から構成される有機能層と、第2電極(陰極)とを積層した構造を有する有機EL構造体を、接着剤層を介して封止部材により封止された封止構造となっている。
【0074】
更に、本発明に係る有機EL構造体の代表的な層構成例を以下に示す。
【0075】
(1)基板/第1電極(陽極)/有機層(発光層)/第2電極(陰極)/接着剤/封止部材
(2)基板/第1電極(陽極)/有機層(発光層)/電子輸送層/第2電極(陰極)/接着剤/封止部材
(3)基板/第1電極(陽極)/正孔輸送層/有機層(発光層)/正孔阻止層/電子輸送層/第2電極(陰極)/接着剤/封止部材
(4)基板/第1電極(陽極)/正孔輸送層(正孔注入層)/有機層(発光層)/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファ層(電子注入層)/第2電極(陰極)/接着剤/封止部材
(5)基板/第1電極(陽極)/陽極バッファ層(正孔注入層)/正孔輸送層/有機層(発光層)/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファ層(電子注入層)/第2電極(陰極)/接着剤/封止部材
〔有機EL構造体〕
次いで、本発明に係る有機EL素子を構成している可撓性帯状基板とその表面に形成されるガスバリア層、第1電極、正孔輸送層、発光層及び陰極バッファ層(電子注入層)等から構成される有機機能層、第2電極等について説明する。
【0076】
(可撓性帯状基板)
本発明に係る可撓性帯状基板としては、透明樹脂フィルムが挙げられ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)或いはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0077】
(ガスバリア層)
本発明に係る可撓性帯状基板上には、必要に応じてガスバリア層を形成してもよい。本発明に適用可能なガスバリア層としては、無機物、有機物のガスバリア層又はその両者のハイブリッドガスバリア層が挙げられる。ガスバリア層を形成する材料としては、水分や酸素など素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素などを用いることが出来る。更に該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。バリア膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることが出来るが、特開2004−68143号に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0078】
ガスバリア層の特性としては、水蒸気透過度が0.01g/m/day以下であることが好ましい。更には、酸素透過度10−3ml/m/day/MPa以下、水蒸気透過度10−5g/m/day以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0079】
(第1電極:陽極)
第1電極(陽極)としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。この様な電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。又、IDIXO(In・ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。或いは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いることも可能である。この第1電極(陽極)より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、又第1電極(陽極)としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0080】
(正孔注入層:陽極バッファ層)
第1電極(陽極)と発光層又は正孔輸送層の間に、正孔注入層(陽極バッファ層)を存在させてもよい。正孔注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123−166頁)に詳細に記載されている。陽極バッファ層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファ層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファ層、アモルファスカーボンバッファ層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファ層等が挙げられる。
【0081】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層又は複数層設けることが出来る。正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性の何れかを有するものであり、有機物、無機物の何れであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、又導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0082】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することが出来るが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0083】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることも出来る。又、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することが出来る。
【0084】
又、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような所謂p型正孔輸送材料を用いることも出来る。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることから、これらの材料を用いることが好ましい。
【0085】
(発光層)
発光層とは、青色発光層、緑色発光層、赤色発光層を指す。発光層を積層する場合の積層順としては、特に制限はなく、又各発光層間に非発光性の中間層を有していてもよい。本発明においては、少なくとも1つの青発光層が、全発光層中最も陽極に近い位置に設けられていることが好ましい。又、発光層を4層以上設ける場合には、陽極に近い順から、例えば青色発光層/緑色発光層/赤色発光層/青色発光層、青色発光層/緑色発光層/赤色発光層/青色発光層/緑色発光層、青色発光層/緑色発光層/赤色発光層/青色発光層/緑色発光層/赤色発光層のように青色発光層、緑色発光層、赤色発光層を順に積層することが、輝度安定性を高める上で好ましい。発光層を多層にすることで白色素子の作製が可能である。
【0086】
発光層の膜厚の総和は特に制限はないが、膜の均質性、発光に必要な電圧等を考慮し、通常2nm〜5μm、好ましくは2〜200nmの範囲で選ばれる。更に10〜20nmの範囲にあるのが好ましい。膜厚を20nm以下にすると電圧面のみならず、駆動電流に対する発光色の安定性が向上する効果があり好ましい。個々の発光層の膜厚は、好ましくは2〜100nmの範囲で選ばれ、2〜20nmの範囲にあるのが更に好ましい。青、緑、赤の各発光層の膜厚の関係については、特に制限はないが、3発光層中、青発光層(複数層ある場合はその総和)が最も厚いことが好ましい。
【0087】
発光層は発光極大波長が各々430〜480nm、510〜550nm、600〜640nmの範囲にある発光スペクトルの異なる少なくとも3層以上の層を含む。3層以上であれば、特に制限はない。4層より多い場合には、同一の発光スペクトルを有する層が複数層あってもよい。発光極大波長が430〜480nmにある層を青発光層、510〜550nmにある層を緑発光層、600〜640nmの範囲にある層を赤発光層と言う。又、前記の極大波長を維持する範囲において、各発光層には複数の発光性化合物を混合してもよい。例えば、青発光層に、極大波長430〜480nmの青発光性化合物と、同510〜550nmの緑発光性化合物を混合して用いてもよい。
【0088】
発光層の材料として使用する有機発光材料は、(a)電荷の注入機能、すなわち、電界印加時に陽極或いは正孔注入層から正孔を注入することが出来、陰極或いは電子注入層から電子を注入することが出来る機能、(b)輸送機能、すなわち、注入された正孔及び電子を電界の力で移動させる機能、及び(c)発光機能、すなわち、電子と正孔の再結合の場を提供し、これらを発光に繋げる機能、の3つの機能を併せもつものであれば特に限定はない。例えば、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系等の蛍光増白剤や、スチリルベンゼン系化合物を用いることが出来る。上記の蛍光増白剤の具体例としては、ベンゾオキサゾール系では、2,5−ビス(5,7−ジ−t−ペンチル−2−ベンゾオキサゾリル)−1,3,4−チアジアゾール、4,4′−ビス(5,7−t−ペンチル−2−ベンゾオキサゾリル)スチルベン、4,4′−ビス[5,7−ジ−(2−メチル−2−ブチル)−2−ベンゾオキサゾオリル]スチルベン、2,5−ビス(5,7−ジ−t−ペンチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン、2,5−ビス[5−α,α−ジメチルベンジル−2−ベンゾオキサゾリル]チオフェン、2,5−ビス[5,7−ジ−(2−メチル−2−ブチル)−2−ベンゾオキサゾリル]−3,4−ジフェニルチオフェン、2,5−ビス(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン、4,4′−ビス(2−ベンゾオキサゾリル)ビフェニル、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール、2−[2−(4−クロロフェニル)ビニル]ナフト[1,2−d]オキサゾール等が挙げられる。ベンゾチアゾール系では、2,2′−(p−フェニレンジビニレン)−ビスベンゾチアゾール等が挙げられ、ベンゾイミダゾール系では、2−[2−[4−(2−ベンゾイミダゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾイミダゾール、2−[2−(4−カルボキシフェニル)ビニル]ベンゾイミダゾール等が挙げられる。更に、他の有用な化合物は、ケミストリー・オブ・シンセティック・ダイズ(1971),第628〜637頁及び第640頁に列挙されている。又、上記のスチリルベンゼン系化合物の具体例としては、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(4−メチルスチリル)ベンゼン、ジスチリルベンゼン、1,4−ビス(2−エチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)−2−メチルベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)−2−エチルベンゼン等が挙げられる。
【0089】
更に、上述した蛍光増白剤及びスチリルベンゼン系化合物以外にも、例えば、12−フタロペリノン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン、ナフタルイミド誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ピラジリン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、スチリルアミン誘導体、クマリン系化合物、国際公開公報WO90/13148やAppl.Phys.Lett.,vol 58,18,P1982(1991)に記載されているような高分子化合物、芳香族ジメチリディン系化合物が挙げられる。芳香族ジメチリディン系化合物の具体例としては、1,4−フェニレンジメチリディン、4,4′−フェニレンジメチリディン、2,5−キシリレンジメチリディン、2,6−ナフチレンジメチリディン、1,4−ビフェニレンジメチリディン、1,4−p−テレフェニレンジメチリディン、4,4′−ビス(2,2−ジ−t−ブチルフェニルビニル)ビフェニル、4,4′−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル等、及びこれらの誘導体が挙げられる。又、上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(1−ナフトラート)アルミニウム(III)等が挙げられる。
【0090】
その他、上述した有機発光材料をホストとし、当該ホストに青色から緑色までの強い蛍光色素、例えばクマリン系或いは前記ホストと同様の蛍光色素をドープした化合物も、有機発光材料として好適である。有機発光材料として前記の化合物を用いた場合には、青色から緑色の発光(発光色はドーパントの種類によって異なる)を高効率で得ることが出来る。前記化合物の材料であるホストの具体例としては、ジスチリルアリーレン骨格の有機発光材料(特に好ましくは、例えば、4,4′−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル)が挙げられ、前記化合物の材料であるドーパントの具体例としては、ジフェニルアミノビニルアリレーン(特に好ましくは、例えば、N,N−ジフェニルアミノビフェニルベンゼンや4,4′−ビス[2−[4−(N,N−ジ−p−トリル)フェニル]ビニル]ビフェニル)が挙げられる。
【0091】
発光層には、発光層の発光効率を高くするために公知のホスト化合物と公知のリン光性化合物(リン光発光性化合物とも言う)を含有することが好ましい。
【0092】
ホスト化合物とは、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であり、且つ室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物と定義される。好ましくはリン光量子収率が0.01未満である。ホスト化合物を複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することが出来る。又、リン光性化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることが出来る。リン光性化合物の種類、ドープ量を調整することで白色発光が可能であり、照明、バックライトへの応用も出来る。
【0093】
これらのホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ発光の長波長化を防ぎ、尚且つ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。公知のホスト化合物としては、例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0094】
複数の発光層を有する場合、これら各層のホスト化合物の50質量%以上が同一の化合物であることが、有機層全体に渡って均質な膜性状を得やすいことから好ましく、更にはホスト化合物のリン光発光エネルギーが2.9eV以上であることが、ドーパントからのエネルギー移動を効率的に抑制し、高輝度を得る上で有利となることからより好ましい。リン光発光エネルギーとは、ホスト化合物を基板上に100nmの蒸着膜のフォトルミネッセンスを測定し、そのリン光発光の0−0バンドのピークエネルギーを言う。
【0095】
ホスト化合物は、有機EL素子の経時での劣化(輝度低下、膜性状の劣化)、光源としての市場ニーズ等を考慮し、リン光発光エネルギーが2.9eV以上且つTgが90℃以上のものであることが好ましい。すなわち、輝度と耐久性の両方を満足するためには、リン光発光エネルギーが2.9eV以上且つTgが90℃以上のものであることが好ましい。Tgは、更に好ましくは100℃以上である。
【0096】
リン光性化合物(リン光発光性化合物)とは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物である。先に説明したホスト化合物と合わせ使用することで、より発光効率の高い有機EL素子とすることが出来る。
【0097】
本発明に係るリン光性化合物は、リン光量子収率は好ましくは0.1以上である。上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定出来る。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定出来るが、本発明に用いられるリン光性化合物は、任意の溶媒の何れかにおいて上記リン光量子収率が達成されればよい。
【0098】
リン光性化合物の発光は原理としては2種挙げられ、1つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光性化合物に移動させることでリン光性化合物からの発光を得るというエネルギー移動型、もう一つはリン光性化合物がキャリアトラップとなり、リン光性化合物上でキャリアの再結合が起こりリン光性化合物からの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、何れの場合においても、リン光性化合物の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0099】
リン光性化合物は、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることが出来る。リン光性化合物としては、好ましくは元素の周期表で8族−10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、又は白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0100】
本発明においては、リン光性化合物のリン光発光極大波長としては特に制限されるものではなく、原理的には中心金属、配位子、配位子の置換基等を選択することで得られる発光波長を変化させることが出来る。
【0101】
本発明に係る有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した結果をCIE色度座標に当て嵌めた時の色で決定される。
【0102】
本発明で言うところの白色素子とは、2°視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/mでのCIE1931 表色系における色度がX=0.33±0.07、Y=0.33±0.07の領域内にあることを言う。
【0103】
(電子注入層)
電子注入層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり広い意味で電子輸送層に含まれる。電子注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されている。電子注入層(陰極バッファ層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファ層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファ層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファ層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファ層等が挙げられる。上記バッファ層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0104】
他に発光層側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることが出来、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることが出来る。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることも出来る。
【0105】
又、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることが出来る。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることが出来る。又、ジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることが出来るし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることが出来る。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種又は2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0106】
又、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることも出来る。その例としては、特開平4−297076号公報、特開平10−270172号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。この様なn性の高い電子輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することが出来るため好ましい。
【0107】
本発明に係わる有機EL素子の発光の室温における外部取り出し効率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0108】
又、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0109】
(電子注入層:陰極バッファ層)
電子注入層形成工程で形成される電子注入層(陰極バッファ層)とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり広い意味で電子輸送層に含まれる。電子注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されている。電子注入層(陰極バッファ層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファ層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファ層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファ層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファ層等が挙げられる。
【0110】
(第2電極:陰極)
第2電極(陰極)としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。この様な電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することが出来る。
【0111】
尚、発光した光を透過させるため、有機EL素子の第1電極(陽極)又は第2電極(陰極)の何れか一方が、透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0112】
又、第2電極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、第1電極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の第2電極(陰極)を作製することが出来、これを応用することで第1電極(陽極)と第2電極(陰極)の両方が透過性を有する素子を作製することが出来る。
【0113】
〔封止部材〕
次いで、封止部材の構成について説明する。
【0114】
本発明に係る封止部材に適用する基板は、可撓性帯状基板であり、例えば、エチレンテトラフルオロエチル共重合体(ETFE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、延伸ナイロン(ONy)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド、ポリエーテルスチレン(PES)など一般の包装用フィルムに使用されている熱可塑性樹脂フィルム材料を挙げることができる。これら熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じて異種フィルムと共押出しで作った多層フィルム、延伸角度を変えて貼り合せて作った多層フィルム等も当然使用出来る。更に必要とする物性を得るために使用するフィルムの密度、分子量分布を組合せて作ることも当然可能である。
【0115】
熱可塑性樹脂フィルムの場合は、蒸着法やコーティング法でガスバリア層を形成する必要がある。ガスバリア層としては、例えば、金属蒸着膜、金属箔が挙げられる。無機蒸着膜としては薄膜ハンドブックp879〜p901(日本学術振興会)、真空技術ハンドブックp502〜p509、p612、p810(日刊工業新聞社)、真空ハンドブック増訂版p132〜p134(ULVAC 日本真空技術K.K)に記載されている如き金属蒸着膜が挙げられる。例えば、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Ti、Ni等の金属が用いられる。又、金属箔の材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属材料や、ステンレス、アルミニウム合金などの合金材料を用いることが出来るが、加工性やコストの面でアルミニウムが好ましい。膜厚は、1〜100μm程度、好ましくは10μm〜50μm程度が望ましい。又、製造時の取り扱いを容易にするために、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどのフィルムを予めラミネートしておいてもよい。可撓性の封止部材に樹脂フィルムを使用する場合、液状シール剤と接触する側に熱可塑性接着性樹脂層を有することが好ましい。
【0116】
更に、ガスバリア層の上に保護層を設けてもよい。保護層の膜厚は、ガスバリア層の耐ストレスクラッキング性、耐電気的絶縁性、シール剤層として使用する場合は接着性(接着力、段差追従性)等を考慮し、100nm〜200μmが好ましい。保護層としてはJIS K 7210規定のメルトフローレートが5〜20g/10minである熱可塑性樹脂フィルムが好ましく、更に好ましくは、6〜15g/10min以下の熱可塑性樹脂フィルムを用いることが好ましい。これは、メルトフローレートが5g/10min以下の樹脂を用いると、各電極の取り出し電極の段差により生じる隙間部を完全に埋めることが出来ず、20g/10min以上の樹脂を用いると引っ張り強さや耐ストレスクラッキング性、加工性などが低下するためである。
【0117】
封止部材の水蒸気透過度は、有機EL素子として製品化する際に必要とするガスバリア性等を考慮し、0.01g/m・day以下であることが好ましく、且つ酸素透過度は、0.1ml/m・day・MPa以下であることが好ましい。水分透過度はJIS K7129B法(1992年)に準拠した方法で主としてMOCON法により測定した値であり、酸素透過度はJIS K7126B法(1987年)に準拠した方法で主としてMOCON法により測定した値である。可撓性封止部材のヤング率は有機EL素子との密着性、液状接着剤の塗れ広がり防止等を考慮し、1×10−3GPa〜80GPaであり、厚みが10μm〜500μmであることが好ましい。
【0118】
〔接着剤〕
本発明に係る有機EL素子は、有機EL素子構造体と封止部材とを接着剤で貼り合わせて、作製される。
【0119】
本発明に係る有機EL素子の製造に用いる接着剤としては、光硬化型あるいは熱硬化型の液状接着剤や、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂等が挙られる。液状接着剤としては、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型シール剤、2−シアノアクリル酸エステルなどの湿気硬化型等の接着剤、エポキシ系などの熱及び化学硬化型(二液混合)等の接着剤、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤等を挙げることが出来る。液状接着剤には必要に応じてフィラーを添加することが好ましい。フィラーの添加量としては、接着力を考慮し、5〜70体積%が好ましい。又、添加するフィラーの大きさは、接着力、貼合圧着後の接着剤厚み等を考慮し、1μm〜100μmが好ましい。添加するフィラーの種類としては特に限定はなく、例えばソーダガラス、無アルカリガラス或いはシリカ、二酸化チタン、酸化アンチモン、チタニア、アルミナ、ジルコニアや酸化タングステン等の金属酸化物等が挙げられる。
【0120】
液状接着剤を使用して封止部材と有機EL構造体とを接着する場合、貼合部は、貼合安定性、貼合部内への気泡混入防止、可撓性封止部材の平面性保持等を考慮し、10〜1×10−5Paの減圧条件で行うことが好ましい。
【0121】
熱可塑性樹脂としては、JIS K 7210規定のメルトフローレートが5〜20g/10minである熱可塑性樹脂が好ましく、更に好ましくは、6〜15g/10min以下の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。これは、メルトフローレートが5(g/10min)以下の樹脂を用いると、各電極の取り出し電極の段差により生じる隙間部を完全に埋めることが出来ず、20(g/10min)以上の樹脂を用いると引っ張り強さや耐ストレスクラッキング性、加工性などが低下するためである。貼合方法は一般的に知られている各種の方法、例えばウェットラミネート法、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法、押出しラミネート法、熱ラミネート法を利用して作ることが可能である。
【0122】
熱可塑性樹脂は、上記数値を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば機能性包装材料の新展開(株式会社東レリサーチセンター)に記載の高分子フィルムである低密度ポリエチレン(LDPE)、HDPE、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン、未延伸ポリプロピレン(CPP)、OPP、ONy、PET、セロハン、ポリビニルアルコール(PVA)、延伸ビニロン(OV)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVOH)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、塩化ビニリデン(PVDC)等の使用が可能である。これらの熱可塑性樹脂の中で特にLDPE、LLDPE及びメタロセン触媒を使用して製造したLDPE、LLDPE、又、LDPE、LLDPEとHDPEフィルムの混合使用した熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0123】
本発明においては、本発明に係るエージング処理時に、有機EL素子を発光させた際に発生する熱エネルギーを、接着剤、特に熱硬化性樹脂の硬化エネルギーとして活用しても良い。
【実施例】
【0124】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0125】
《有機EL素子の作製》
[有機EL素子1の作製]
〔有機EL構造体1の作製〕
以下に示す方法に従って、可撓性基板上に第1電極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、第2電極を、この順で図1に記載の電極配置となるように積層して有機EL構造体1を、1000個形成した。
【0126】
(可撓性基板の準備)
可撓性基板として、幅250mm、長さ10m、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人・デュポン社製フィルム、以下、PETと略記する)を準備し、この可撓性基板の第1電極を形成する側の全面に、特開2004−68143号に記載の構成からなる大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、連続して可撓性フィルム上に、SiOからなる無機物のガスバリア膜を厚さ500nmとなるように形成し、酸素透過度0.001ml/m/day以下、水蒸気透過度0.001g/m/day以下のガスバリア性の可撓性基板を作製した。
【0127】
(第1電極及び正孔輸送層の形成)
次いで、長尺の可撓性基板上に、以下に従って第1電極(陽極)と正孔輸送層とを連続して形成した。
【0128】
〈第1電極の形成〉
5×10−1Paの真空環境条件で可撓性基板上に厚さ120nmのITO(インジウムチンオキシド)をスパッタリング法により、マスクパターン成膜を行い、有効画素領域100mm×50mm、40mm×20mmの取り出し電極を有する大きさの第1電極を一定間隔で連続的に、1000個形成した。
【0129】
〈正孔輸送層の形成〉
次いで、形成された第1電極上に取り出し電極になる部分を除き、真空環境条件5×10−4Paで正孔輸送層形成用材料としてN,N′−ジフェニル−N,N′−m−トリル4,4′−ジアミノ−1,1′−ビフェニルを蒸着法(気相堆積法)により積層し厚さ30nmの正孔輸送層を形成した。
【0130】
次いで、上記形成した正孔輸送層上に、以下に示す条件に従って、発光層、電子注入層、第2電極を積層して有機EL構造体1を作製し、ロール状に巻き取った。
【0131】
(発光層の形成)
下記発光層形成用塗布液を、エクストルージョン塗布機を使用した湿式塗布方式により乾燥後の厚みが100nmになるように塗布した。発光層を形成した後、帯電防止処理を行い、室温と同じ温度になるまで冷却した後、巻き芯に巻き取りロール状とした。尚、搬送速度は、2m/分とした。
【0132】
〈発光層形成用塗布液の調製〉
ホスト材のポリビニルカルバゾール(PVK)に、ドーパント材Ir(ppy)の5質量%を1,2−ジクロロエタン中に溶解し、10%溶液とし発光層形成用塗布液として準備した。発光層形成用塗布液の表面張力は32×10−3N/m(協和界面化学社製:表面張力計CBVP−A3)であった。発光層のガラス転移温度は225℃であった。尚、本例は緑色の発光を有する材料を用いたが、更に青色、赤色及びドーパント材を使用し積層させることで、白色の有機EL素子を作製することが可能である。
【0133】
【化1】

【0134】
(電子注入層の形成)
引き続き、形成された発光層上に、5×10−4Paの真空環境条件にて電子注入層形成材料としてLiFを使用し、第1電極の取り出し電極23aになる部分を除き、蒸着法にて厚さ0.5nmのLiF層(電子注入層)を積層した。
【0135】
(第2電極の形成)
引き続き、形成された電子注入層の上に5×10−4Paの真空下にて第2電極形成材料としてアルミニウムを使用し、取り出し電極を有するように蒸着法にてマスクパターン成膜し、厚さ100nmの第2電極を積層し有機EL素子基板1を作製した。
【0136】
〔封止部材1の作製〕
基板としてポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人・デュポン社製)、バリア層として導電性材料のアルミ箔を使用し、2層構成のシート状の封止部材を準備した。ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さ100μm、バリア層の厚さ7.0μmとし、長尺のロール状に積層した。尚、基板とバリア層の接合はポリエステル系接着剤を用いドライラミネート法により実施し、接合後の封止部材の厚みを110μmとした。
【0137】
〔有機EL構造体1と封止部材1の会合〕
上記作製した有機EL構造体1の全面に、接着剤層塗布液として紫外線硬化型の液状接着剤(エポキシ樹脂系)を用いて、厚さ30μmの接着剤層を形成した。次いで、貼合部で、一対の貼合ロール間に、同一速度で搬送している有機EL構造体1と接着剤層を形成した封止部材1とを、押圧0.1MPaでロール圧着して貼り合わせた。次いで、硬化工程で、硬化手段として、波長365nmの高圧水銀ランプを、照射強度5〜20mW/cm、距離10mmで1分間照射して接着剤層を硬化させた。
【0138】
〔取出電極部の開口〕
次いで、特開2007−179783号公報の実施例に記載の方法に従って、超音波カッターを用いて第1電極及び第2電極の引き出し部を開口した。
【0139】
〔導電性給電部材の取り付け〕
次いで、図4のa)に記載の構成に従って、有機EL構造体の100個を1ブロックとして10ブロックに分けて、下記の導電性給電部材により、第1電極の取出電極部、第2電極の取出電極部をそれぞれ接続し、同様の導電性給電部材6、8で、給電端子7、9を取り付けた。
【0140】
〈導電性給電部材1〉
メーカー:株式会社 寺岡製作所製 導電性銅箔粘着テープNo.8323
金属箔:圧延銅箔 厚さ35μm
粘着剤:アクリル系導電性接着剤 厚さ35μm
〔エージング処理〕
上記導電性給電部材を装着した可撓性基板をロール状に積層した後、ロールの巻芯側のブロックを第1ブロック(100個の有機EL素子群)とし、印加電圧12mA/cmで4時間発光させた後、巻外側に向かって第2ブロック〜第10ブロックに付いても、図5のa)に示すエージングパターンに従って、同様のエージング処理を行った。
【0141】
〔断裁処理〕
エージング処理が完了したロール状積層体を巻ほぐし、導電性給電部材を取り外した後、単一の有機EL素子に断裁した。
【0142】
[有機EL素子2の作製]
上記有機EL素子1の作製において、図2に記載の電極配置からなる有機EL素子を用い、図4のb)に記載の導電性給電部材の配置に変更した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子2を作製した。
【0143】
[有機EL素子3の作製]
上記有機EL素子1の作製において、エージングのパターンを、図5に記載のパターンa)に代えて、図5に記載のパターンb)を適用した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子3を作製した。
【0144】
[有機EL素子4の作製]
上記有機EL素子1の作製において、エージングのパターンを、図5に記載のパターンa)に代えて、図5に記載のパターンc)を適用した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子4を作製した。
【0145】
[有機EL素子5の作製]
上記有機EL素子1の作製において、エージングのパターンを、図5に記載のパターンa)に代えて、図6に記載のパターン1)を適用した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子3を作製した。
【0146】
[有機EL素子6の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1を下記のエンボス構造を有する導電性給電部材2に変更した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子6を作製した。
【0147】
〈導電性給電部材2〉
メーカー:住友スリーエム社製 導電性銅箔粘着テープNo.1345
金属箔:錫メッキ銅箔エンボス付 厚さ35μm
粘着剤:アクリル系導電性接着剤 厚さ35μm
[有機EL素子7の作製]
上記有機EL素子2の作製において、導電性給電部材1を、上記のエンボス構造を有する導電性給電部材2に変更した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子7を作製した。
【0148】
[有機EL素子8の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1で構成する1ブロック当たりの有機EL素子数を1000個に変更し、第1ブロックのみでエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子8を作製した。
【0149】
[有機EL素子9の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1で構成する1ブロック当たりの有機EL素子数を500個に変更し、第1ブロック及び第2ブロックの2ブロックに分けてエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子9を作製した。
【0150】
[有機EL素子10の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1で構成する1ブロック当たりの有機EL素子数を200個に変更し、第1ブロック〜第5ブロックの5ブロックに分けてエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子10を作製した。
【0151】
[有機EL素子11の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1で構成する1ブロック当たりの有機EL素子数を50個に変更し、第1ブロック〜第20ブロックの20ブロックに分けてエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子11を作製した。
【0152】
[有機EL素子12の作製]
上記有機EL素子2の作製において、導電性給電部材1で構成する1ブロック当たりの有機EL素子数を50個に変更し、第1ブロック〜第20ブロックの20ブロックに分けてエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子12を作製した。
【0153】
[有機EL素子13の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1に付与する印加電圧を4mA/cm、印加時間を15.0時間に変更してエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子13を作製した。
【0154】
[有機EL素子14の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1に付与する印加電圧を7mA/cm、印加時間を10.0時間に変更してエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子14を作製した。
【0155】
[有機EL素子15の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1に付与する印加電圧を20mA/cm、印加時間を2.0時間に変更してエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子15を作製した。
【0156】
[有機EL素子16の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1に付与する印加電圧を50mA/cm、印加時間を1.0時間に変更してエージング処理を行った以外は同様にして、有機EL素子16を作製した。
【0157】
[有機EL素子17の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1を下記の導電性給電部材3に変更した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子17を作製した。
【0158】
〈導電性給電部材3〉
メーカー:株式会社 寺岡製作所製 導電性銅箔粘着テープNo.8303
金属箔:アルミ箔 厚さ50μm
粘着剤:アクリル系導電性接着剤 厚さ35μm
[有機EL素子18の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1を下記の導電性給電部材4に変更した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子18を作製した。
【0159】
〈導電性給電部材4〉
メーカー:スリオンテック社製 導電性銅箔テープ No.8781
金属箔:電解銅箔 厚さ35μm
粘着剤:アクリル系接着剤(Ni粉粒子含有) 厚さ30μm
[有機EL素子19の作製]
上記有機EL素子1の作製において、導電性給電部材1を下記の導電性給電部材5に変更した以外は同様にしてエージング処理を行って、有機EL素子19を作製した。
【0160】
〈導電性給電部材5〉
メーカー:株式会社 寺岡製作所製 難燃性導電性布粘着テープNo.1825
導電箔:ニッケル・銅被覆ポリエステル織布 厚さ70μm
粘着剤:アクリル系導電性接着剤 厚さ35μm
[有機EL素子20の作製]
上記有機EL素子1の作製において、エージング処理を行わなかった以外は同様にして、有機EL素子20を作製した。
【0161】
[有機EL素子21の作製]
上記有機EL素子2の作製において、エージング処理を行わなかった以外は同様にして、有機EL素子21を作製した。
【0162】
[有機EL素子22の作製]
上記有機EL素子20の作製において、有機EL素子を個別に断裁した後、それぞれに印加電圧12mA/cmで4時間発光させてエージング処理を施した以外は同様にして、有機EL素子22を作製した。
【0163】
《有機EL素子の評価》
上記作製した各有機EL素子について、下記の各評価を行った。
【0164】
〔発光輝度安定性の評価〕
上記作製した各有機EL素子を100個、ランダムに選択し、直流電圧10V印加した時の発光輝度を、CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定し、これを発光輝度1とした。次いで、直流電圧10Vで1000時間印加した後の発光輝度を、同じくCS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定し、これを発光輝度2とした。
【0165】
次いで、下式に従って、発光直後と経時後の発光輝度変動率を求め、これを発光輝度安定性の尺度とした。数値が100%に近い程、エージング処理により色変動特性を排除でき、使用時の発光輝度変動が小さいことを表す。
【0166】
発光輝度変動率=(発光輝度2/発光輝度1)×100(%)
〔熱ダメージ耐性の評価(輝度ムラ耐性の評価)〕
上記作製した有機EL素子をランダムに100個選択し、下記の方法に従って、過度の発熱により生じた輝度ムラを観察した。
【0167】
直流電圧10V印加した時の発光輝度を、CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)により100点測定した。次いで、各有機EL素子の発光輝度の測定値100個の中での最大値と最小値を求め、下式に従って、発光輝度ムラ耐性値を求め、これを熱ダメージ耐性の着度とした。なお、発光輝度ムラ耐性値は、数値が100%に近い程、過度の発熱により生じた発光輝度ムラが小さいことを表す。
【0168】
発光輝度ムラ耐性値=(発光輝度最小値/発光輝度最大値)×100(%)
◎:発光輝度ムラ耐性値が、90%以上である
○:発光輝度ムラ耐性値が、80%以上、90%未満である
△:発光輝度ムラ耐性値が、70%以上、80%未満である
×:発光輝度ムラ耐性値が、70%未満である。
【0169】
〔有機EL素子の生産性:エージング処理効率〕
各有機EL素子の作製において、有機EL素子1の総作製時間を1.00とした時、各有機EL素子の相対作製時間を求め、下記の基準に従って、有機EL素子の生産性(エージング処理効率)を評価した。
【0170】
◎:有機EL素子の相対作製時間が、1.10以上である
○:有機EL素子の相対作製時間が、1.00以上、1.10未満である
△:有機EL素子の相対作製時間が、0.90以上、1.00未満である
×:有機EL素子の相対作製時間が、0.90未満である
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0171】
【表1】

【0172】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明の有機EL素子のエージング法に従って作製した有機EL素子は、生産性が高く、使用時の発光輝度変動が小さく、発光輝度安定性に優れていることが分かる。更に、エージング時にエンボス構造を有する導電性給電部材を用いること、あるいは分割してエージング処理を施すことにより、エージング時の有機EL構造体の受ける熱ダメージを緩和することができ、好ましい。
【符号の説明】
【0173】
1 有機エレクトロルミネッセンス素子
2 可撓性帯状基板
3 有機エレクトロルミネッセンス構造体(発光部)
4 第1電極
4A (第1電極の)取出電極部
5 第2電極
5A (第2電極の)取出電極部
6、6A、6B、6C 導電性給電部材
7、7A、7B、7C 給電端子
8、8A、8B、8C 導電性給電部材
9、9A、9B、9C 給電端子
10 ロール状積層体
12 有機機能層
13 封止部材
14 導電性接着剤
15 金属箔
16 絶縁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の可撓性帯状基板上に、少なくとも取出電極部を備えた第1電極、発光層を含む有機機能層及び取出電極部を備えた第2電極を有する複数の有機エレクトロルミネッセンス構造体と、該有機エレクトロルミネッセンス構造体を被覆する封止部材とから構成される有機エレクトロルミネッセンス素子群をエージングする有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法において、該第1電極の複数の取出電極部を第1の導電性給電部材で連結し、該第2電極の複数の取出電極部を第2の導電性給電部材で連結し、該可撓性帯状基板をロール状に巻き取った状態で、該第1の導電性給電部材と該第2の導電性給電部材とを通電して、該有機エレクトロルミネッセンス素子を発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【請求項2】
前記第1の導電性給電部材及び第2の導電性給電部材が、前記可撓性帯状基板の一方の幅手端部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【請求項3】
前記第1の導電性給電部材が前記可撓性帯状基板の一方の幅手端部に配置され、前記第2の導電性給電部材が前記可撓性帯状基板の他方の幅手端部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【請求項4】
前記第1の導電性給電部材及び第2の導電性給電部材への通電処理条件が、印加電圧が1.0mA/cm以上、100mA/cm以下で、処理時間が30分以上、30時間以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。
【請求項5】
前記第1の導電性給電部材及び第2の導電性給電部材の少なくとも1つが、表面にエンボス構造を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子のエージング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−48934(P2012−48934A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189223(P2010−189223)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】