説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法

【課題】真空雰囲気を必要とすることなく層を簡易な方法で形成することができ、且つ発光特性及び寿命特性が良好な有機EL素子及びその製造方法、照明装置、面状光源及び表示装置を提供する。
【解決手段】有機EL素子1は、基板6、陽極2、金属ドープモリブデン酸化物層7、発光層4、電子注入層5及び陰極3がこの順で積層されて構成される。電子注入層5は、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を発光層4の表面上に塗布することによって成膜され、金属ドープモリブデン酸化物層7は、酸化モリブデン及びドーパント金属を同時に堆積することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ということがある。)及びその製造方法、照明装置、面状光源及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、例えば有機物を含む発光層と、この発光層を挟む一対の電極(陽極及び陰極)とを備え、当該一対の電極に電圧を印加することによって、陽極から正孔が注入されるとともに陰極から電子が注入され、これら正孔と電子とが発光層において結合することで発光する。
【0003】
有機EL素子における駆動電圧の低電圧化や、有機EL素子の長寿命化などを目的として、電極と発光層との間に発光層とは異なる層を設けている。このような層としては、例えば電子注入層、正孔注入層、正孔輸送層及び電子輸送層などがある(例えば特許文献1又は2参照)。
【0004】
電子注入層は、例えば電子ビーム(Electron Beam:略称EB)蒸着法、又は抵抗加熱蒸着法などの蒸着法によって形成されている。このような方法では、真空雰囲気を作り出すために真空装置が必要となるので、装置及び工程が複雑になり、素子の製造コストが高くなるという問題がある。
【0005】
また、例えば特許文献3には、高効率な電子注入層として、発光層と電子注入電極との間に酸化モリブデン等の無機酸化物層を設けることが記載されている。有機EL素子の製造には、工程の容易さからウェットプロセスが用いられている。例えば発光層を塗布法によって形成したり、表示装置の画素間の有機EL素子を区画する隔壁をフォトリソグラフィ法によって形成したりしている。しかしながら、酸化モリブデン層はウェットプロセスに対して耐性が低く、ウェットプロセスにより有機EL素子を形成する工程において、酸化モリブデン層がダメージを受けたり、場合によっては溶出してしまうことがある。したがって、結果として工程が簡易なウエットプロセスを用いることが困難であり、且つ得られる有機EL素子の発光特性及び寿命特性を向上させ難いという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平9−17574号公報
【特許文献2】特開2000−243569号公報
【特許文献3】特開2002−367784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な方法で有機EL素子を形成することができ、且つ発光特性及び寿命特性が良好な有機EL素子及びその製造方法、照明装置、面状光源及び表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは、真空雰囲気を必要としない塗布法で層を形成する方法を検討し、当該塗布法に使用可能な層形成塗布液で層を形成すると共に、モリブデン酸化物に金属をドープすることにより、ウェットプロセス等の成膜プロセスに対する耐久性を向上させ、ひいては素子の発光特性及び寿命特性を向上させ得ることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に介在する発光層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陽極と前記発光層との間に、金属ドープモリブデン酸化物から成る金属ドープモリブデン酸化物層を有し、前記発光層と前記陰極との間に、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子にあっては、前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率が、50%以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子にあっては、前記金属ドープモリブデン酸化物に含まれるドーパント金属が、遷移金属、周期表の13族金属及びこれらの混合物からなる群より選択されることが好ましい。
【0012】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子にあっては、前記ドーパント金属が、アルミニウムであることが好ましい。
【0013】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子にあっては、前記金属ドープモリブデン酸化物におけるドーパント金属の割合が、0.1〜20.0molモル%であることが好ましい。
【0014】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子にあっては、前記金属ドープモリブデン酸化物層に接して高分子化合物を含む層を有することが好ましい。
【0015】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、陽極、陰極、並びに前記陽極及び前記陰極間に介在する発光層を形成する工程と、前記陽極と前記発光層との間に、酸化モリブデン及びドーパント金属を同時に堆積して成る金属ドープモリブデン酸化物層を形成する工程と、前記発光層と前記陰極との間に、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する工程を、真空蒸着、スパッタリング又はイオンプレーティングにより行うことが好ましい。
【0017】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する工程が、酸化モリブデン及びドーパント金属を同時に堆積した層を加熱する工程をさらに含むことが好ましい。
【0018】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記アルカリ金属塩が、モリブデン酸、タングステン酸、タンタル酸、ニオブ酸、バナジウム酸、チタン酸及び亜鉛酸から成る群から選択される少なくとも1種の塩であることが好ましい。
【0019】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記アルカリ金属塩が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから成る群から選択される少なくとも1種の塩であることが好ましい。
【0020】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記アルカリ金属塩が、セシウム塩であることが好ましい。
【0021】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記アルカリ金属塩が、モリブデン酸セシウムであることが好ましい。
【0022】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記層形成塗布液が、アルコール及び/又は水を含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記層形成塗布液が、界面活性剤を含むことが好ましい。
【0024】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、ポリエチレンナフタレートから成る基板に対する前記層形成塗布液の接触角が、60°以下であることが好ましい。
【0025】
また、本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法にあっては、前記層形成塗布液の水素イオン指数が、7以上13以下であることが好ましい。
【0026】
本発明による照明装置は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする。
【0027】
本発明による面状光源は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする。
【0028】
本発明による表示装置は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、層形成塗布液を用いることによって、真空雰囲気を作り出すことなく塗布法で層を容易に形成することができる。また、ウェットプロセスに耐性のある金属ドープモリブデン酸化物層を形成することにより、金属ドープモリブデン酸化物層が形成された後にウェットプロセスにより各層を形成したとしても、金属ドープモリブデン酸化物層に与える損傷を抑制することができるので、信頼性の高い有機EL素子を簡易なウェットプロセスにより容易に製造することができ、且つその発光特性及び寿命特性が良好である。従って、本発明による有機EL素子は、照明装置、バックライトおよびスキャナなどに用いられる面状光源、フラットパネルディスプレイ等の表示装置として好ましく使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。有機EL装置においては、電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本実施の形態の有機EL素子及びこれを搭載した有機EL装置が、必ずしもこの配置で製造または使用等がなされるわけではない。また基板の厚み方向の一方を上方または上といい、基板の厚み方向の他方を下という場合がある。
【0031】
図1は、本発明の実施の形態の有機EL素子1を示す正面図である。本実施の形態の有機EL素子1は、例えばフルカラー表示装置、エリアカラー表示装置などの表示装置の光源、及び液晶表示装置のバックライトおよびスキャナなどに用いられる面状光源、並びに照明装置などに用いられる。
【0032】
本実施の形態の有機EL素子1は、陽極2と、陰極3と、これら陽極2及び陰極3の間に設けられる発光層4と、陰極3及び発光層4の間に設けられる電子注入層5と、発光層4及び陽極2の間に設けられる金属ドープモリブデン酸化物から成る金属ドープモリブデン酸化物層7とを備えている。本実施の形態の有機EL素子1は、基板6上に、陽極2、金属ドープモリブデン酸化物層7、発光層4、電子注入層5及び陰極3がこの順に積層されて構成され、それぞれを成膜することで製造される。電子注入層5は、後述する層形成塗布液を用いて塗布法によって形成される。金属ドープモリブデン酸化物層7は、モリブデン酸化物及びドーパント金属を含むものであり、好ましくはモリブデン酸化物及びドーパント金属から実質的に成り、本実施の形態では正孔注入層として機能する。
【0033】
本実施の形態の有機EL素子1は、発光層4からの光を基板6側から取出すいわゆるボトムエミッション型の素子であり、可視光領域の光に対する透過率の高い基板6が好適に用いられる。また基板6としては有機EL素子1を形成する工程において変化しないものが好適に用いられ、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、金属板、これらを積層したものなどが好適に用いられる。さらに、プラスチック、高分子フィルムなどに低透水化処理を施したものを用いることもできる。前記基板6としては、市販のものを使用可能である。また、基板6は公知の方法により製造することができる。なお、陰極3側から光を取出すいわゆるトップエミッション型の有機EL素子では、基板は不透光性のものであってもよい。
【0034】
陽極2には、電気抵抗の低い薄膜が好適に用いられる。陽極2及び陰極3のうちの少なくともいずれか一方は、透光性を示し、例えばボトムエミッション型の有機EL素子では、基板6側に配置される陽極2は、可視光領域の光に対する透過率が高いものが好適に用いられる。陽極2の材料等については、後述する。
【0035】
ドープモリブデン酸化物から成る金属ドープモリブデン酸化物層7は、モリブデン酸化物及びドーパント金属を含む。より具体的には、金属ドープモリブデン酸化物層を構成する物質全量中における、モリブデン酸化物及びドーパント金属の合計が占める割合は、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上である。
【0036】
素子特性の観点からは、金属ドープモリブデン酸化物層7に接して高分子化合物を含む層を設けることが好ましい。高分子化合物を含む層は、金属ドープモリブデン酸化物層7の上下何れの表面に設けることも可能であるが、特に、金属ドープモリブデン酸化物層7上に高分子化合物を含む層を有することがより好ましい。すなわち、金属ドープモリブデン酸化物層7の陰極3側の表面上に、高分子化合物を含む層が設けられることが好ましい。
【0037】
前記金属ドープモリブデン酸化物層7の可視光透過率は、50%以上であることが好ましい。50%以上の可視光透過率を有することにより、金属ドープモリブデン酸化物層7を透過して発光する形式の有機EL素子に好適に用いることができる。
【0038】
金属ドープモリブデン酸化物層7に含まれるドーパント金属は、好ましくは遷移金属、周期表の13族金属又はこれらの混合物であり、より好ましくはアルミニウム、ニッケル、銅、クロム、チタン、銀、ガリウム、亜鉛、ネオジム、ユーロピウム、ホルミウム、セリウムであり、さらに好ましくはアルミニウムである。また、モリブデン酸化物としてはMoOを採用することが好ましい。MoOを真空蒸着等の蒸着法により成膜する場合、蒸着された膜においてMoとOとの化学量論的な組成比が保たれない場合もありうるが、その場合でも本発明に好ましく用いることができる。
【0039】
前記金属ドープモリブデン酸化物中におけるモリブデン酸化物に対するドーパント金属の含有割合は、0.1〜20.0mol%であることが好ましい。ドーパント金属の含有割合が上記範囲内であることにより、良好な耐プロセス性を得ることができる。
【0040】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の厚さは、特に限定されないが10〜1000Åであることが好ましい。
【0041】
金属ドープモリブデン酸化物層7を形成する方法としては、特に限定されないが、有機EL素子において金属ドープモリブデン酸化物層7の下に接して配置される下層(本実施の形態では陽極2)上に、酸化モリブデン及びドーパント金属を同時に堆積し、金属ドープモリブデン酸化物層7を得る方法が好ましい。ここで、有機EL素子1において金属ドープモリブデン酸化物層7の下に接して配置される下層は、製造工程及び得られる有機EL素子1の積層構造に応じて適宜選択することができる。例えば、基板上に設けられた陽極2の層上に堆積を行ない、陽極2に直接接した金属ドープモリブデン酸化物層7を得ることができる。堆積は、真空蒸着、分子線蒸着、スパッタリング又はイオンプレーティング、イオンビーム蒸着等により行うことができる。成膜チャンバー内にプラズマを導入することによって、反応性や成膜性を向上させたプラズマアシスト真空蒸着法なども用いることができる。
【0042】
真空蒸着法の蒸発源としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱などが上げられる。より簡便な方法として、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱が好ましい。スパッタ法にはDCスパッタ法、RFスパッタ法、ECRスパッタ法、コンベンショナル・スパッタリング法、マグネトロンスパッタ法、イオンビーム・スパッタ法、対向ターゲットスパッタ法などがありいずれの方式も用いることができる。下層にダメージを与えないためにもマグネトロンスパッタ法、イオンビーム・スパッタ法、対向ターゲットスパッタ法を用いることが好ましい。なお、成膜時において、雰囲気中に酸素や酸素元素を含むガスを導入して蒸着を行うこともできる。金属ドープモリブデン酸化物層7を形成する際に用いる材料の組合わせとして、MoOとドープする金属の単体とが通常用いられるが、モリブデンそのものやMoOとドーパント金属の酸化物との組合わせも有り得る。さらにドーパント金属とモリブデンとの合金あるいはこれらの混合物を材料として用いて金属ドープモリブデン酸化物層7を形成してもよい。
【0043】
堆積された金属ドープモリブデン酸化物層は、さらに任意の工程として、加熱処理、UV−O処理、大気曝露処理等を施すことが好ましく、これらの処理のなかでも加熱処理を施すことが好ましい。これらの処理を施すことにより、金属ドープモリブデン酸化物のウエットプロセスに対する耐性及び寿命特性をより強化することができる。
【0044】
前記加熱は、50〜350℃で1〜120分間の条件で行うことができる。前記UV−O処理は、紫外線を1〜100mW/cmの強度で5秒〜30分間照射し、オゾン濃度0.001〜99%の雰囲気下で処理することにより行うことができる。前記大気曝露は、湿度40〜95%、温度20〜50℃の大気中に、1〜20日間放置することにより行うことができる。
【0045】
発光層4は、蛍光、及び/又はりん光を発する有機物が含んで構成され、ドーパントをさらに含んでもよい。ドーパントは、たとえば発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で付加される。発光層4に用いられる発光材料等は、後述する。前述したように金属ドープモリブデン酸化物層には、高分子化合物を含む層が接して設けられることが好ましく、本実施の形態では、金属ドープモリブデン酸化物層に接して設けられるる高分子化合物を含む層に発光層4が相当する。
【0046】
電子注入層5は、主に陰極3からの電子の注入効率を改善するために設けられ、層形成塗布液を発光層4の表面上に塗布した後に乾燥させることによって形成することができる。電子注入層5を形成するときに用いられる層形成塗布液は、アルカリ金属塩を溶解して得られる。すなわち層形成塗布液を用いて形成される電子注入層5は、アルカリ金属塩を含んで構成される。なお、層形成塗布液は、少なくともアルカリ金属塩を含むが、アルカリ金属塩とは異なる材料を含んでいてもよい。層形成塗布液に含まれるアルカリ金属塩とは異なる材料としては、例えば、導電性有機化合物、増粘安定剤などを挙げることができる。なお、電子注入層5は実質的にアルカリ金属塩のみによって構成されてもよい。
【0047】
アルカリ金属塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムから成る群から選択される少なくとも1種の塩であり、これらの中でも好ましくはナトリウム、カリウム、セシウム、リチウムから成る群から選択される少なくとも1種の塩であり、セシウム塩が最も好ましい。アルカリ金属の仕事関数は低いので、層形成塗布液を用いて形成される電子注入層5は陰極3からの電子注入を容易にする。これによって、有機EL素子1の駆動電圧の低電圧化を図ることができる。
【0048】
アルカリ金属塩は、好ましくはモリブデン酸、タングステン酸、タンタル酸、ニオブ酸、バナジウム酸、チタン酸、及び亜鉛酸から成る群から選択される少なくとも1種の塩である。アルカリ金属塩としては、例えば一般式M2MoO4、M2WO4、M2Ta26、M2Nb26、M3VO4、M226、M2TiO3、M2ZnO2で表される塩を挙げることができる(式中、Mはアルカリ金属を表す。)。具体的には、モリブデン酸リチウム、タングステン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ニオブ酸リチウムタンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、亜鉛酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、バナジウム酸ナトリウム、ニオブ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、亜鉛酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム、バナジウム酸カリウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸カリウム、チタン酸カリウム、亜鉛酸カリウム、モリブデン酸ルビジウム、タングステン酸ルビジウム、バナジウム酸ルビジウム、ニオブ酸ルビジウム、タンタル酸ルビジウム、チタン酸ルビジウム、亜鉛酸ルビジウム、モリブデン酸セシウム、タングステン酸セシウム、バナジウム酸セシウム、ニオブ酸セシウム、タンタル酸セシウム、チタン酸セシウム、亜鉛酸セシウムが挙げられる。またアルカリ金属塩としては、1又は複数の種類のアルカリ金属と、1又は複数の種類の酸との塩でもよく、モリブテン酸タングステン酸リチウムナトリウム、モリブテン酸ニオブ酸ナトリウムセシウム、バナジウム酸タンタル酸セシウムなどを挙げることができる。さらにアルカリ金属塩としては、セシウム塩であることが好ましく、たとえばモリブデン酸、タングステン酸、タンタル酸、ニオブ酸、バナジウム酸、及びチタン酸から成る群から選択される少なくとも1種のセシウム塩を挙げることができる。アルカリ金属塩としては、これらの中でもモリブデン酸セシウム(Cs2MoO4)が好ましく、モリブデン酸セシウムを含む電子注入層5を形成することによって、有機EL素子1の駆動電圧を効果的に低化することができる。またアルカリ金属塩はアルカリ金属単体よりも反応性に乏しいので、層形成塗布液を用いることによって経時変化の小さい電子注入層5を形成することができる。
【0049】
層形成塗布液の溶媒としては、前述したアルカリ金属塩を溶解するものであればよく、アルコール及び/又は水を含むことが好ましい。
【0050】
層形成塗布液は、界面活性剤をさらに含むことが好ましい。この界面活性剤によって層形成塗布液の表面張力が低下するので、層形成塗布液が塗布される層(本実施の形態では発光層4)に対する濡れ性が向上し、層形成塗布液を用いて形成される層(本実施の形態では電子注入層5)の層厚を均一にすることができる。このような界面活性剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、双性(両性)界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤などを挙げることができ、具体的には、多価アルコールのアルキルエーテル、多価アルコールのアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンンアルキルエステル、及びアセチレングリコール、又はこれらのアルキル基の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置き換わったフッ素系非イオン性界面活性剤を挙げることができる。塗布される層(本実施の形態では発光層4)に対する層形成塗布液の濡れ性が高いほど、層の層厚を均一にすることができるので好ましく、ポリエチレンナフタレートから成る基板(以下、PET基板という場合がある)に対する層形成塗布液の接触角が、60°以下であることが好ましい。このようなPET基板に対する接触角を示す層形成塗布液を用いることによって、表面粗さの小さい平坦な層(本実施の形態では電子注入層5)を形成することができる。
【0051】
層形成塗布液は、前述したアルコール及び/又は水などの溶媒に前述したアルカリ金属塩を溶解させることによって得られる。なお、前述したように界面活性剤をさらに添加してもよい。また層形成塗布液としては、当該層形成塗布液を乾燥したときにアルカリ金属塩が析出する液体であればよく、アルカリ金属塩を溶解させて得る必要はない。
【0052】
層形成塗布液を発光層4の表面上に塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の塗分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法が好ましい。
【0053】
電子注入層5の層厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなるので好ましくない。従って、電子注入層5の膜厚は、通常1nm〜1μmである。好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは3nm〜200nmである。
【0054】
なお層形成塗布液によって形成されるのは、前述した電子注入層5だけでなく、陰極を形成するための塗布液として用いられてもよい。電子注入層5は、陰極3に接して設けられる必要はなく、電子注入層5と陰極3との間に電子注入層5とは異なる層が挿入されていてもよく、また上述したように電子注入層5と発光層4との間に、電子注入層5とは異なる層が挿入されていてもよい。さらに、層形成塗布液によって形成される層は電荷の注入性を向上することから、有機太陽電池及び有機トランジスタなどの電極あるいは電極と有機材料との間の層として用いることができる。
【0055】
また層形成塗布液は、水素イオン指数が7以上13以下であることが好ましい。このような層形成塗布液を用いれば、例えば酸性を示す溶液に溶解しやすい膜上に層形成塗布液を塗布してアルカリ金属塩を含む層を形成することができる。例えば酸性を示す溶液に溶解しやすいITOから成る電極上にアルカリ金属塩を含む層を形成する場合に、層形成塗布液を好適に用いることができる。
【0056】
陰極3としては、仕事関数が小さく、発光層4への電子注入が容易なものが好ましく、また電気伝導度の高いものが好ましい。また陽極2側から光を取出す場合には、発光層4からの光を陽極2側に反射するために、可視光反射率の高いものが好ましい。陰極3の材料については、後述する。
【0057】
本実施の形態の有機EL素子は、図1に示す層構成を有するが、本発明を適用可能な有機EL素子の層構成は、図1に示す層構成には限られない。本発明を適用可能な有機EL素子のとりうる層構成について以下に説明する。
【0058】
本実施の形態の有機EL素子は、陽極、金属ドープモリブデン酸化物層、発光層、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いて塗布法により形成されて成る層及び陰極を必須に有するのに加えて、前記陽極と前記発光層との間、及び/又は前記発光層と前記陰極との間にさらに他の層を有することができる。
【0059】
陰極と発光層の間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。陰極と発光層との間に電子注入層及び電子輸送層の両方が設けられる場合、陰極に近い層が電子注入層となり、発光層に近い層が電子輸送層となる。
【0060】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層であり、電子輸送層は、陰極、電子注入層又は陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、電子注入層、若しくは電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお、電子注入層又は電子輸送層が、正孔ブロック層を兼ねる場合がある。正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、ホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
なお本実施の形態では、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層を電子注入層として説明したが、他の実施の形態としては、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層とは異なる電子注入層を設け、該電子注入層と発光層との間に正孔輸送層として機能するアルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層を設けてもよい。
【0061】
陽極と発光層の間に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。正孔注入層及び正孔輸送層の両方が設けられる場合、陽極に近い層が正孔注入層となり、発光層に近い層が正孔輸送層となる。
【0062】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層であり、正孔輸送層とは、陽極、正孔注入層又は陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、正孔注入層、又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。正孔注入層又は正孔輸送層が、電子ブロック層を兼ねることがある。電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0063】
本実施の形態の有機EL素子において、陽極2と陰極3との間の層構成は、前述した有機EL素子1の層構成に限られない。発光層は、通常1層設けられるが、これに限らず2層以上の発光層を設けることもできる。その場合、2層以上の発光層は、直接接して積層することもでき、かかる層の間に本実施の形態の金属ドープモリブデン酸化物層等を設けることができる。
【0064】
なお、電子注入層及び正孔注入層を総称して電荷注入層と呼ぶことがあり、電子輸送層及び正孔輸送層を総称して電荷輸送層と呼ぶことがある。また、電子ブロック層及び正孔ブロック層を総称して電荷ブロック層と呼ぶことがある。
【0065】
本発明を適用可能な有機EL素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
g)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
h)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
i)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、この記号「/」を挟む2つの層が隣接して積層されることを示す。以下同じ。)
【0066】
上記層構成の各例において、前記金属ドープモリブデン酸化物層は、電荷注入層および正孔輸送層のうちの少なくとも1層として設けられる。前記層形成塗布液を用いて形成される層は、電子注入層および電子輸送層のうちの少なくとも1層として設けられる。
【0067】
さらに有機EL素子は、2層以上の発光層を有していてもよい。2層の発光層を有する有機EL素子としては、上記a)〜i)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「繰り返し単位A」とすると、以下のj)に示す層構成を挙げることができる。
j)陽極/(繰り返し単位A)/電荷注入層/(繰り返し単位A)/陰極
また、3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、「(繰り返し単位A)/電荷注入層」を「繰り返し単位B」とすると、以下のk)に示す層構成を挙げることができる。
k)陽極/(繰り返し単位B)x/(繰り返し単位A)/陰極
なお記号「x」は、2以上の整数を表し、(繰り返し単位B)xは、繰り返し単位Bがx段積層された積層体を表す。
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0068】
本実施の形態の有機EL素子は、さらに基板に設けられてもよく、当該基板の上に前記各層を設けることができる。本実施の形態の有機EL素子はさらに、基板とともに有機EL素子を挟持する封止のための部材が設けられてもよい。基板及び前記層構成を有する有機EL素子は、通常陽極側に基板を有するが、本発明においてはこれに限られず、陽極及び陰極のどちら側に基板を有していてもよい。
【0069】
本実施の形態の有機EL素子は、発光層からの光を放出するために、通常、発光層のいずれか一方側の層を全て光透過性を有する層とする。具体的には例えば、基板/陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極/封止部材という構成を有する有機EL素子の場合、基板、陽極、電荷注入層及び正孔輸送層の全てを透明なものとし、所謂ボトムエミッション型の素子とするか、又は電子輸送層、電荷注入層、陰極及び封止部材の全てを光透過性を有する層とし、所謂トップエミッション型の素子とすることができる。また、基板/陰極/電荷注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/電荷注入層/陽極/封止部材という構成を有する有機EL素子の場合、基板、陰極、電荷注入層及び電子輸送層の全てを透明なものとし、所謂ボトムエミッション型の素子とするか、又は正孔輸送層、電荷注入層、陽極及び封止部材の全てを透明なものとし、所謂トップエミッション型の素子とすることができる。ここで透明とは、発光層から光を放出する層までの可視光透過率が40%以上のものが好ましい。紫外領域又は赤外領域の発光が求められる素子の場合は、当該領域において40%以上の透過率を有するものが好ましい。
【0070】
本実施の形態の有機EL素子は、さらに電荷発生層との密着性向上や電荷発生層からの電荷注入の改善のために、電荷発生層に隣接して前記の電荷注入層又は膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために電荷輸送層や発光層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができる。
【0071】
次に、有機EL素子を構成する各層の材料及び形成方法について、より具体的に説明する。
【0072】
<基板>
本実施の形態の有機EL素子に用いられる基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン基板、これらを積層したものなどが用いられる。前記基板としては、市販のものが入手可能であり、又は公知の方法により製造することができる。
【0073】
<陽極>
本実施の形態の有機EL素子における陽極としては、透明又は半透明の電極を用いることが、陽極を通して発光する素子を構成しうるため好ましい。かかる透明電極又は半透明電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物や金属の薄膜を用いることができ、透過率が高いものが好適に利用でき、用いる有機層により適宜、選択して用いる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(IZO)や、金、白金、銀、銅等が用いられ、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
陽極には、光を反射させる材料を用いてもよく、該材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。例えば、光を反射する程度の膜厚の金属薄膜が用いられる。
【0074】
陽極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等を挙げることができる。また、陽極2として、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。また、前記有機の透明導電膜に用いられる材料などや金属酸化物、金属硫化物や金属などカーボンナノチューブなどの炭素材料の少なくとも1種類以上が含まれる混合物を用いても良い。
【0075】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0076】
<正孔注入層>
本発明の特に好ましい態様においては、正孔注入層として、前記金属ドープモリブデン酸化物層を用いることができ、前述した方法で形成することができるが、金属ドープモリブデン酸化物層とは異なる層で正孔注入層を構成する場合、該正孔注入層を形成する材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
正孔注入層の成膜方法としては、例えば正孔注入材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
正孔注入層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなるので好ましくない。従って正孔注入層の膜厚は、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0077】
<正孔輸送層>
金属ドープモリブデン酸化物層を正孔輸送層として用いることもでき、前述した方法で形成することができるが、金属ドープモリブデン酸化物層とは異なる層で正孔輸送層を構成する場合、該正孔輸送層を構成する材料としては、例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)4,4’−ジアミノビフェニル(TPD)、NPB(4,4'−bis[N−(1−naphthyl)−N−phenylamino]biphenyl)等の芳香族アミン誘導体、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。
【0078】
これらの中で、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料として、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0079】
正孔輸送層の成膜の方法に制限はないが、低分子正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0080】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はない。該溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒が例示される。
【0081】
溶液からの成膜方法としては、溶液からのスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成が容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。
【0082】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。該高分子バインダーとして、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が例示される。
【0083】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0084】
<発光層>
発光層は、本発明においては有機発光層であることが好ましく、通常、主として蛍光又はりん光を発光する有機物を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば以下のものが挙げられる。なお、有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、発光層は、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10〜10である高分子化合物を含むことが好ましい。
【0085】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0086】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、Beなど又はTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0087】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、及びそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0088】
(ドーパント材料)
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約20〜2000Åである。
【0089】
<発光層の成膜方法>
有機物を含む発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を基体の上又は上方に塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
発光材料を含む溶液を基体上に塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0090】
<電子輸送層>
前述したアルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層を電子輸送層として用いることもでき、前述した方法で形成できるが、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層とは異なる層で電子輸送層を構成する場合、該電子輸送層を構成する材料としては公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0091】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0092】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、又は溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法が、高分子電子輸送材料では溶液又は溶融状態からの成膜による方法がそれぞれ例示される。溶液又は溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法が挙げられる。
【0093】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、当該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0094】
<電子注入層>
前述したアルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層を電子注入層として用いることもでき、前述した方法で形成できるるが、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層とは異なる層で電子注入層を構成する場合、該電子注入層を構成する材料としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは前記金属を1種類以上含む合金、或いは前記金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、2層以上を積層したものであってもよい。具体的には、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0095】
<陰極>
陰極の材料としては、仕事関数の小さく発光層への電子注入が容易な材料であり、電気伝導度が高く、可視光反射率の高い材料が好ましい。金属では、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属を用いることができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、又は上記金属のうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極として透明導電性電極を用いることができ、例えば導電性金属酸化物や導電性有機物などを用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるITOやIZO、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0096】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0097】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0098】
<絶縁層>
本実施の形態の有機EL素子が任意に有しうる、膜厚2nm以下の絶縁層は電荷注入を容易にする機能を有するものである。上記絶縁層の材料としては、金属フッ化物、金属酸化物、有機絶縁材料等が挙げられる。膜厚2nm以下の絶縁層を設けた有機EL素子としては、陰極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けたもの、陽極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けたものが挙げられる。
【0099】
本実施の形態の有機EL素子は面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置などの表示装置、ならびに照明装置に用いることができ、面状光源としては液晶表示装置のバックライトおよびスキャナの光源として用いることができる。
【0100】
本実施の形態の有機EL素子を用いて面状の発光を得るためには、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、前記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極又は陰極のいずれか一方、又は両方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にOn/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメントタイプの表示素子が得られる。更に、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置すればよい。複数の種類の発光色の異なる発光材料を塗り分ける方法や、カラーフィルター又は蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。ドットマトリックス素子は、パッシブ駆動も可能であるし、TFTなどと組み合わせてアクティブ駆動してもよい。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。
【0101】
さらに、前記面状の発光素子は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用装置として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【0102】
以上のように、本発明による有機EL素子は、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いて塗布法により層を形成するので、蒸着法などのように真空雰囲気で層を形成する従来の技術に比べて、真空雰囲気を作り出す必要がなくなり、層を簡易に形成することができ、有機EL素子の製造コストを下げることができる。特に、アルカリ金属塩を溶解して得られる層形成塗布液を用いて陰極に接する電子注入層を形成する場合、有機EL素子の駆動電圧を下げることができる。
【0103】
また、金属ドープモリブデン酸化物層がウェットプロセスに対する耐性が高いため、その上層に発光層及び電子注入層をウェットプロセスで形成しても、金属ドープモリブデン酸化物層はダメージをあまり受けないので、簡易な工程のウェットプロセスによって簡易に信頼性の高い有機EL素子を製造することができ、その発光特性及び寿命特性は良好である。
【実施例】
【0104】
以下において、本発明を実施例及び比較例を参照してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例1〜11及び比較例1では、発光層及び陰極の間に層を形成するための層形成塗布液を調製し、この層形成塗布液により電子注入層を形成した有機EL素子を製造して、発光することを確認した。また実施例12〜17及び比較例2〜3では、金属ドープモリブデン酸化物層を有する有機EL素子を製造し、その効果を確認した。
【0105】
<実施例1>
Cs2MoO4粉末(純度99.9%、フルウチ化学株式会社製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とを重量比で10:90になるように秤量し、スクリュー管に入れ攪拌して層形成塗布液を作製した。Cs2MoO4粉末が完全に溶解していることを目視において確認した。この層形成塗布液の表面張力は58.3mN/mであった。作製した層形成塗布液と、複数の種類の基板との接触角をそれぞれ測定した結果を下記の表1に示す。pH試験紙を用いてpH(水素イオン指数)を測定したところ約7を示した。
<実施例2>
【0106】
Cs2MoO4粉末(純度99.9%、フルウチ化学株式会社製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とエタノール(純度99.5%、鹿1級、関東化学株式会社製)とを重量比で10:26:63になるように秤量し、Cs2MoO4粉末、超純水の順にスクリュー管に入れ攪拌し、その後エタノールを混合し層形成塗布液を作製した。Cs2MoO4粉末が完全に溶解していることを目視において確認した。この層形成塗布液の表面張力は22.6mN/mであった。作製した層形成塗布液と、複数の種類の基板との接触角をそれぞれ測定した結果を下記の表1に示す。pH試験紙を用いてpHを測定したところ約8〜9を示した。
<実施例3>
【0107】
Cs2MoO4粉末(純度99.9%、フルウチ化学株式会社製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とエタノール(純度99.5%、鹿1級、関東化学株式会社製)と界面活性剤(サーフィノール(登録商標)104A:日信化学社製)を重量比で10:25:61:4になるように秤量し、Cs2MoO4粉末、超純水の順にスクリュー管に入れ攪拌し、その後エタノールを混合し、その後界面活性剤を混合して層形成塗布液を作製した。Cs2MoO4粉末が完全に溶解していることを目視において確認した。この層形成塗布液の表面張力は26.6mN/mであった。作製した層形成塗布液と、複数の種類の基板との接触角を測定した結果を表1に示す。pH試験紙を用いてpHを測定したところ約8〜9を示した。
<実施例4>
【0108】
Cs3VO4粉末(純度99.9%、Aldrich製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とを重量比で1:99になるように秤量しスクリュー管に入れ攪拌し層形成塗布液を作製した。目視において完全に溶解していることを確認した。pH試験紙を用いてpHを測定したところ約7を示した。
<実施例5>
【0109】
CsVO3粉末(純度99.9%、Aldrich製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とを重量比で1:99になるように秤量し、スクリュー管に入れ攪拌して層形成塗布液を作製した。CsVO3粉末が完全に溶解していることを目視において確認した。pH試験紙を用いてpHを測定したところ約12を示した。
<実施例6>
【0110】
CsVO3粉末(純度99.9%、Aldrich製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とを重量比で30:70になるように秤量し、スクリュー管に入れ攪拌し層形成塗布液を作製した。pH試験紙を用いて上澄み液のpHを測定したところ約13を示した。
<実施例7>
【0111】
2MoO4粉末(純度98%、Aldrich製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とを重量比で1:99になるように秤量し、スクリュー管に入れ攪拌し層形成塗布液を作製した。目視において完全に溶解していることを確認した。pH試験紙を用いてpHを測定したところ約7.5を示した。
<実施例8>
【0112】
2MoO4粉末(純度98%、Aldrich製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とを重量比で30:70になるように秤量し、スクリュー管に入れ攪拌し、層形成塗布液を作製した。pH試験紙を用いて上澄み液のpHを測定したところ約9を示した。
<実施例9>
【0113】
Na2MoO4粉末(純度>98%、Aldrich製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とを重量比で1:99になるように秤量し、スクリュー管に入れ攪拌し、層形成塗布液を作製した。目視において完全に溶解していることを確認した。pH試験紙を用いてpHを測定したところ約7を示した。
<実施例10>
【0114】
Na2MoO4粉末(純度>98%、Aldrich製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)とを重量比で30:70になるように秤量し、スクリュー管に入れ攪拌し層形成塗布液を作製した。pH試験紙を用いて上澄み液のpHを測定したところ約8を示した。
【0115】
<比較例1>
BaMoO4粉末(純度>99.9%、Aldrich製)と超純水(電気抵抗率が15MΩ・cm以上)を重量比で1:99になるように秤量し、スクリュー管に入れ攪拌し溶液を作製した。目視においてBaMoO4粉末がほとんど溶解していないことを確認した。pH試験紙を用いてpHを測定したところ約7を示した。
【0116】
(表面張力及び接触角の測定方法)
データフィジックス社(独)社製の型番OCA−20の測定装置を測定に用いた。表面張力の測定は、まずシリンジに溶液を充填して、外径1.4mmの金属針をシリンジに装着し、該金属針から溶液を出し、溶液が金属針から離れる直前の形状を画像解析することによって行った。
【0117】
接触角は、基板に溶液を接液して付着させ、付着した溶液の液面と基板の表面とが接する位置での液面と、基板の表面とのなす角度を測定して求めた。基板としては、(1)UV−O3洗浄を行っていない未処理の無アルカリガラス基板と、(2)テクノビジョン社製の装置でUV−O3洗浄処理(表1では、「UV洗浄」と記載)を10分間行なった無アルカリガラス基板、(3)スパッタリング法によって厚みが150nmの膜厚のITO薄膜をガラス基板上に成膜したITO基板で、UV−O3洗浄処理を行っていない未処理のITO基板、(4)テクノビジョン社製の装置でUV−O3洗浄処理を10分間行なったガラス基板に、スパッタリング法によって厚みが150nmの膜厚のITO薄膜を成膜したITO基板、(5)EB法によって300nmの膜厚のアルミニウム薄膜をガラス基板上に形成したAl蒸着基板、(6)高分子発光有機材料(SCB670、サメイション社製)をスピンコート法によってガラス基板上に成膜し、80nmの膜厚のポリマーが成膜されたポリマースピン成膜基板、(7)ポリエチレンナフタレート(PEN)から成るPEN基板の7種類を用い、各基板に対して、実施例1〜3で作製した層形成塗布液との接触角を測定した。
【0118】
表1に、実施例1〜3の層形成塗布液と、複数の種類の基板との接触角の測定結果を示す。
【0119】
【表1】

【0120】
実施例1〜10に示すように、アルカリ金属塩が溶解した層形成塗布液を調製することができた。また実施例2,3に示すように、超純水にアルコール又は界面活性剤を加えることによって表面張力が低く、接触角の小さい層形成塗布液を得ることができた。
<実施例11>
【0121】
実施例3で作製した層形成塗布液を用いて有機EL素子を作製した。実施例で作製した有機EL素子の構成は、ガラス基板/ITO薄膜から成る陽極/正孔注入層/電子ブロック層/発光層/電子注入層/陰極であり、これをさらに封止ガラスによって封止した。なお、電子注入層を実施例3で作製した層形成塗布液を用いて形成した。
【0122】
(合成例1)
上記電子ブロック層となる高分子化合物1を合成した。まず攪拌翼、バッフル、長さ調整可能な窒素導入管、冷却管、及び温度計を備えるセパラブルフラスコに2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン158.29重量部と、ビス−(4−ブロモフェニル)−4−(1−メチルプロピル)−ベンゼンアミン136.11重量部と、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド(ヘンケル社製 Aliquat 336)27重量部と、トルエン1800重量部とを仕込み、窒素導入管から窒素を導入しながら、攪拌下90℃まで昇温した。酢酸パラジウム(II)0.066重量部と、トリ(o−トルイル)ホスフィン0.45重量部とを加えた後、17.5%炭酸ナトリウム水溶液573重量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、窒素導入管を液面より引き上げ、還流下7時間保温した後、フェニルホウ酸3.6重量部を加え、14時間還流下保温し、室温まで冷却した。反応液水層を除いた後、反応液油層をトルエンで希釈し、3%酢酸水溶液、イオン交換水で洗浄した。分液油層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物13重量部を加え4時間攪拌した後、活性アルミナとシリカゲルとの混合カラムに通液し、トルエンを通液してカラムを洗浄した。濾液及び洗液を混合した後、メタノールに滴下して、ポリマーを沈殿させた。得られたポリマー沈殿を濾別し、メタノールで沈殿を洗浄した後、真空乾燥機でポリマーを乾燥させ、ポリマー192重量部を得た。得られたポリマーを高分子化合物1とよぶ。高分子化合物1のポリスチレン換算重量平均分子量は、3.7×105であり、数平均分子量は8.9×104であった。
【0123】
(GPC分析法)
ポリスチレン換算重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCの検量線の作成にはポリマーラボラトリーズ社製標準ポリスチレンを使用した。測定する重合体は、約0.02重量%の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解させ、GPCに10μL注入した。GPC装置は島津製作所製LC−10ADvpを用いた。カラムは、ポリマーラボラトリーズ社製PLgel 10μm MIXED−Bカラム(300×7.5mm)を2本直列に接続して用い、移動相としてテトラヒドロフランを25℃、1.0mL/minの流速で流した。検出器にUV検出器を用い、228nmの吸光度を測定した。
【0124】
基板にはガラス基板を用いた。このガラス基板の表面上にスパッタリング法によって成膜され、さらに所定の形状にパターニングされたITO薄膜を陽極として用いた。ITO薄膜の膜厚は、約150nmであった。
【0125】
ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(HCスタルクビーテック社製、商品名:Bytron P/TP AI 4083)の懸濁液を0.5μm径のフィルターでろ過し、ITO薄膜が形成されたガラス基板上にろ過した液をスピンコート法により塗布し、膜厚60nmで成膜した。次に取出し電極部分や封止エリアに形成された膜を拭き取って除去し、さらに大気下にてホットプレートを用いて約200℃で10分間乾燥させ、正孔注入層を形成した。
【0126】
次に正孔注入層が形成された基板に前記高分子化合物1を含む塗布液をスピンコート法により塗布し、膜厚約20nmで成膜した。次に取出し電極部分や封止エリアに形成された膜を拭き取って除去し、さらに窒素雰囲気にてホットプレートを用いて200℃で20分間ベイク処理を行い、電子ブロック層を形成した。
【0127】
次に電子ブロック層が形成された基板に、高分子発光有機材料(BP361:サメイション社製)をスピンコート法により塗布し、膜厚約70nmで成膜した。次に取出し電極部分や封止エリアに形成された膜を拭き取って除去し、ベイク処理を施して発光層を形成した。
【0128】
次に発光層が形成された基板に、実施例3で作製した層形成塗布液をスピンコート法により塗布し、膜厚2nmで成膜して、電子注入層を形成した。次に、取出し電極部分や封止エリアに形成された膜を拭き取って除去し、この基板をトッキ株式会社製 真空蒸着機(Small−ELVESS)の加熱チャンバーに移した。(以後、真空中或いは窒素中でプロセスを行い、プロセス中に素子が大気に曝されることはない。)次に、真空度1×10-4Pa以下の真空中で基板を基板温度約80〜120℃で20分間加熱した。
【0129】
その後、蒸着チャンバーに基板を移し、発光部及び取出し電極部に陰極が成膜されるように陰極用のメタルマスクを位置合わせし、さらにメタルマスクと基板との相対位置を変えずに両者を回転させながら陰極を蒸着した。蒸着開始前のチャンバー内の真空度は3×10-5Pa以下であった。蒸着法としては電子ビーム蒸着法を用い、Alを蒸着速度約10Å/secで成膜し、膜厚が100nmの陰極を形成した。その後、表面の周縁部にUV(紫外線)硬化樹脂が塗布された封止ガラスを、不活性ガス中において減圧下で基板に貼り合わせた。その後大気圧に戻し、UVを照射することでUV(紫外線)硬化樹脂を光硬化させることで封止ガラスを基板に固定し、高分子有機EL素子を作製した。なお1画素の発光領域は2mm×2mmである。
【0130】
(有機EL素子の評価)
東京システム開発社製の有機EL測定装置を用いて電流‐電圧‐輝度、発光スペクトルの測定を行なった。本実施例で作製した有機EL素子に約12Vの電圧を印加したところ、正面輝度が1000cd/m2となった。このときの電流密度は0.088A/cm2であり、EL発光スペクトルは460nmにピークを示した。このように、層形成塗布液を用いて塗布法によって形成された電子注入層を備える有機EL素子が発光することを確認した。
【0131】
<実施例12>
(1−1:真空蒸着法による、ガラス基板へのAlドープMoOの蒸着)
複数のガラス基板を用意し、その片面を蒸着マスクを用いて部分的に被覆し、蒸着チャンバー内に基板ホルダーを用い取り付けた。
MoO粉末(アルドリッチ社製、純度99.99%)を、ボックスタイプの昇華物質用のタングステンボードに詰め、材料が飛び散らないように穴の開いたカバーで覆い、蒸着チャンバー内にセットした。Al(高純度化学社製、純度99.999%)は坩堝に入れ、蒸着チャンバー内にセットした。
蒸着チャンバー内の真空度を3×10−5Pa以下とし、MoOは抵抗加熱法により徐々に加熱し十分に脱ガスを行い、Alは電子ビームにより坩堝内で溶かし込みを行い十分に脱ガスを行なってから蒸着に供した。蒸着中の真空度は9×10−5Pa以下とした。膜厚及び蒸着速度は水晶振動子で常時モニターした。MoOの蒸着速度が約2.8Å/秒、Alの蒸着速度が約0.1Å/秒となった時点でメインシャッターを開き、基板への成膜を開始した。蒸着中は基板を回転させ、膜厚が均一になるようにした。蒸着速度を上記速度に制御して約36秒間成膜を行ない、膜厚約100Åの共蒸着膜が設けられた基板を得た。膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0132】
(1−2:耐久性試験)
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められずアモルファス状態であることが確認された。
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ変化は無く、表面は溶けていなかった。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、又は純水を含ませた不織布(商品名「ベンコット」、小津産業株式会社製)で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
別の得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ変化は無く、表面が溶けていなかった。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、又はアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は変化無く残っていた。
【0133】
(1−3:透過率の測定)
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、透過率・反射率測定装置FilmTek 3000(商品名、Scientific Computing International社製)を用いて測定した。結果を表2に示す。光の波長約300nmぐらいから透過スペクトルが立ち上がり、波長320nmにおける透過率が21.6%、360nmにおける透過率が56.6%であった。後述する比較例2と比較して、320nmにおいて3.6倍、360nmにおいて1.6倍の透過率を有していた。
【0134】
<実施例13>
蒸着中に、チャンバーに酸素を導入した他は実施例12の(1−1)と同様に操作し、共蒸着膜が設けられた基板を得た。酸素量はマスフローコントローラーにより15sccmに制御した。蒸着中の真空度は約2.3×10−3Paであった。得られた共蒸着膜の膜厚は約100Åであり、膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約3.5mol%であった。
【0135】
成膜後、得られた基板の耐久性を実施例12の(1−2)と同様に評価した。純水及びアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0136】
<実施例14>
蒸着速度を、MoOについては約3.7Å/秒、Alについては約0.01Å/秒に制御した他は実施例12の(1−1)と同様に操作し、共蒸着膜が設けられた基板を得た。得られた共蒸着膜の膜厚は約100Åであり、膜中のMoO及びAlの合計に対するAlの組成比は約1.3mol%であった。
【0137】
成膜後、得られた基板の耐久性を実施例12の(1−2)と同様に評価した。純水及びアセトンのいずれに曝した場合においても変化は観察されなかった。
【0138】
<実施例15>
実施例12の(1−1)で得られた基板を、大気雰囲気のクリーンオーブンに入れ、250℃で60分間加熱処理した。冷却後、蒸着膜の透過率を実施例1の(1−3)と同様に測定した。結果を表2に示す。波長320nmにおける透過率が28.9%、360nmにおける透過率が76.2%であった。後述する比較例1と比較して、320nmにおいて4.7倍、360nmにおいて2.2倍の透過率を有していた。
【0139】
<比較例2>
Alを蒸着せず、MoOのみを約2.8Å/秒で蒸着した他は実施例12と同様に操作し、膜厚約100Åの蒸着膜が設けられた基板を得た。
成膜後、得られた基板を大気中に取り出し、光学顕微鏡(500倍)で膜表面を観察したところ、結晶構造が認められずアモルファス状態であることが確認された。
得られた基板を純水に1分間曝し、光学顕微鏡で再び観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらに純水に3分間曝し続けるか、又は純水を含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で観察したところ、いずれの場合も膜が消失していた。
別の得られた基板をアセトンに1分間曝し、光学顕微鏡で観察したところ、にじみ模様が認められ、表面が溶けていることが観察された。この基板をさらにアセトンに3分間曝し続けるか、又はアセトンを含ませた不織布で膜を拭いた後、目視で確認したところ、いずれの場合も膜は消失していた。
また、成膜後の蒸着膜の透過率を、実施例12の(1−3)と同様に測定した。結果を表2に示す。波長320nmにおける透過率が6.1%、360nmにおける透過率が35.4%であり、透過率が低いことが認められた。
【0140】
【表2】

【0141】
(合成例2)
攪拌翼、バッフル、長さ調整可能な窒素導入管、冷却管、温度計をつけたセパラブルフラスコに 2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン158.29重量部、ビス−(4−ブロモフェニル)−4−(1−メチルプロピル)−ベンゼンアミン 136.11重量部、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド(ヘンケル社製 Aliquat 336) 27重量部、トルエン1800重量部を仕込み、窒素導入管より窒素を流しながら、攪拌下90℃まで昇温した。酢酸パラジウム(II) 0.066重量部、トリ(o−トルイル)ホスフィン0.45重量部を加えた後、17.5%炭酸ナトリウム水溶液573重量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、窒素導入管を液面より引き上げ、還流下7時間保温した後、フェニルホウ酸3.6重量部を加え、14時間還流下保温し、室温まで冷却した。反応液水層を除いた後、反応液油層をトルエンで希釈し、3%酢酸水溶液、イオン交換水で洗浄した。分液油層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物13重量部を加え4時間攪拌した後、活性アルミナとシリカゲルの混合カラムに通液し、トルエンを通液してカラムを洗浄した。濾液及び洗液を混合した後、メタノールに滴下して、ポリマーを沈殿させた。得られたポリマー沈殿を濾別し、メタノールで沈殿を洗浄した後、真空乾燥機でポリマーを乾燥させ、ポリマー192重量部を得た。得られたポリマーを高分子化合物1とよぶ。高分子化合物1のポリスチレン換算重量平均分子量及び数平均分子量を下記のGPC分析法により求めたところ、ポリスチレン換算重量平均分子量は、3.7x10であり、数平均分子量は8.9x10であった。
【0142】
(GPC分析法)
ポリスチレン換算重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCの検量線の作成にはポリマーラボラトリーズ社製標準ポリスチレンを使用した。測定する重合体は、約0.02重量%の濃度になるようテトラヒドロフランに溶解させ、GPC装置に10μL注入した。
GPC装置は島津製作所製LC−10ADvpを用いた。カラムは、ポリマーラボラトリーズ社製 PLgel 10μm MIXED−B カラム (300 x 7.5mm)を2本直列に接続して用い、移動相としてテトラヒドロフランを25℃、1.0mL/minの流速で流した。検出器はUV検出器を用い228nmの吸光度を測定した。
【0143】
<実施例16>
(有機EL素子の作製)
基板としてITOの薄膜が表面にパターニングされたガラス基板を用い、このITO薄膜上に、実施例13と同様の手順で、膜厚100ÅのAlドープMoO層を真空蒸着法により蒸着した。
成膜後、基板を大気中に取り出し、その蒸着膜上にスピンコート法により、合成例1で得た高分子化合物1を成膜し、膜厚20nmのインターレイヤー層を形成した。取り出し電極部分及び封止エリアに成膜されたインターレイヤー層を除去し、ホットプレートで200℃、20分間ベイクを行った。
【0144】
その後、インターレイヤー層上に、高分子発光有機材料(RP158 サメイション社製)をスピンコート法により成膜し、膜厚90nmの発光層を形成した。取り出し電極部分及び封止エリアに成膜された発光層を除去した。
これ以降封止までのプロセスは、真空中あるいは窒素中で行い、プロセス中の素子が大気に曝されないようにした。
【0145】
真空の加熱室において、基板を基板温度約100℃で60分間加熱した。その後蒸着チャンバーに基板を移し、発光部及び取り出し電極部に陰極が成膜されるように、発光層面上に陰極マスクをアライメントした。さらにマスクと基板を回転させながら陰極を蒸着した。陰極として、金属Baを抵抗加熱法にて加熱し蒸着速度約2Å/秒、膜厚50Åにて蒸着し、その上に電子ビーム蒸着法を用いてAlを蒸着速度約2Å/秒、膜厚150nmにて蒸着した。
【0146】
その後、基板を、予め用意しておいた、UV硬化樹脂が周辺に塗布されている封止ガラスと貼り合わせ、真空に保ち、その後大気圧に戻し、UVを照射することで固定し、発光領域が2×2mmの有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子は、ガラス基板/ITO膜/AlドープMoO層/インターレイヤー層/発光層/Ba層/Al層/封止ガラスの層構成を有していた。
【0147】
(有機EL素子の評価)
作製した素子に、輝度が1000cd/mとなるよう通電し、電流−電圧特性を測定した。また、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させ、発光寿命を測定した。結果を表2及び表3に示す。後述する比較例2と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約1.6倍延長している。
【0148】
<実施例17>
AlドープMoO層を、実施例14と同様の手順で成膜した他は、実施例16と同様に操作し、有機EL素子を作製し、電流−電圧特性及び発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させて測定した。結果を表3及び表4に示す。後述する比較例2と比較して、最大電力効率が若干高く、1000cd/m発光時の駆動電圧が低下し、寿命が約2.4倍延長している。
【0149】
<比較例3>
AlドープMoO層を成膜する代わりに、比較例2と同様の手順でMoO層を成膜した他は、実施例16と同様に操作し、有機EL素子を作製し、電流−電圧特性及び発光寿命を測定した。発光寿命は、10mAで定電流駆動し、初期輝度約2000cd/mで発光を開始させてからそのまま発光を持続させて測定した。結果を表3及び表4に示す。
【0150】
【表3】

【0151】
【表4】

【0152】
以上のように、実施例1〜11及び比較例1では、発光層及び陰極の間に層を形成するための層形成塗布液を調製し、この層形成塗布液により形成された層を有する有機EL素子を製造してその効果を確認した。実施例12〜17及び比較例2〜3では、金属ドープモリブデン酸化物層を有する有機EL素子を製造し、その効果を確認した。
層形成塗布液により形成された層を有する有機EL素子の効果と、金属ドープモリブデン酸化物層を有する有機EL素子の効果とは、互いに排除する関係にはないことは明らかであり、一つの有機EL素子において、層形成塗布液により形成された層を設け、かつ金属ドープモリブデン酸化物層を備えた場合には、層形成塗布液により形成された層を有する有機EL素子の効果と、金属ドープモリブデン酸化物層を有する有機EL素子の効果とを、同時に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の実施の形態による有機EL素子を示す正面図である。
【符号の説明】
【0154】
1 有機EL素子
2 陽極
3 陰極
4 発光層
5 電子注入層
6 基板
7 金属ドープモリブデン酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に介在する発光層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極と前記発光層との間に、金属ドープモリブデン酸化物から成る金属ドープモリブデン酸化物層を有し、
前記発光層と前記陰極との間に、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により形成されて成る層を有する、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記金属ドープモリブデン酸化物層の可視光透過率が、50%以上である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記金属ドープモリブデン酸化物に含まれるドーパント金属が、遷移金属、周期表の13族金属及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記ドーパント金属が、アルミニウムである、請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記金属ドープモリブデン酸化物におけるドーパント金属の割合が、0.1〜20.0molモル%である、請求項1から請求項4のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記金属ドープモリブデン酸化物層に接して高分子化合物を含む層を有する、請求項1から請求項5のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
陽極、陰極、並びに前記陽極及び前記陰極間に介在する発光層を形成する工程と、
前記陽極と前記発光層との間に、酸化モリブデン及びドーパント金属を同時に堆積して成る金属ドープモリブデン酸化物層を形成する工程と、
前記発光層と前記陰極との間に、アルカリ金属塩を溶解した層形成塗布液を用いる塗布法により層を形成する工程と
を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する工程を、真空蒸着、スパッタリング又はイオンプレーティングにより行う、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記金属ドープモリブデン酸化物層を形成する工程は、酸化モリブデン及びドーパント金属を同時に堆積した層を加熱する工程をさらに含む、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ金属塩が、モリブデン酸、タングステン酸、タンタル酸、ニオブ酸、バナジウム酸、チタン酸及び亜鉛酸から成る群から選択される少なくとも1種の塩である、請求項7から請求項9のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属塩が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから成る群から選択される少なくとも1種の塩であること特徴とする請求項7から請求項10のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属塩が、セシウム塩である、請求項7から請求項11のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項13】
前記アルカリ金属塩が、モリブデン酸セシウムである、請求項7から請求項12のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項14】
前記層形成塗布液が、アルコール及び/又は水を含む、請求項7から請求項13のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項15】
前記層形成塗布液が、界面活性剤を含む、請求項7から請求項14のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項16】
ポリエチレンナフタレートから成る基板に対する前記層形成塗布液の接触角が、60°以下である、請求項7から請求項15のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項17】
前記層形成塗布液の水素イオン指数が、7以上13以下である、請求項7から請求項16のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項18】
請求項1から請求項6のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、照明装置。
【請求項19】
請求項1から請求項6のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、面状光源。
【請求項20】
請求項1から請求項6のうち、いずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、表示装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−147243(P2010−147243A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322742(P2008−322742)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】