説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法

【課題】発光層への電子の注入効率の低下を防止することができる有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極102及び透明陰極107と、陽極102と透明陰極107との間に形成された有機発光層105とを備える有機EL素子100であって、透明陰極107と有機発光層105との間に形成され、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方の金属と有機材料とを含む電子輸送層106を備え、電子輸送層106内の金属の濃度は、有機発光層105側から透明陰極107側にかけて連続的に又は段階的に減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、特に、バリウム(Ba)などの金属を含む電子輸送層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記載する)は、陽極と陰極とによって、発光層を含む有機層を挟んだ構造を有するデバイスである。有機EL素子では、陽極から正孔、陰極から電子を発光層に注入し、発光層内で正孔と電子とを再結合させることで発光する。
【0003】
特許文献1には、発光層上に形成された、Baなどの金属原子を含む電子輸送層を備える有機EL素子が開示されている。電子輸送層は、陰極から注入された電子をスムーズに発光層に輸送するとともに、発光層からの正孔を阻止する機能も有する。このように、有機EL素子は、電子輸送層を備えることで、陰極からの電子の注入を促進することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−285470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、電子輸送層に含まれる金属原子が酸化されることで、発光層への電子の注入効率が低下してしまうという課題がある。
【0006】
例えば、電子輸送層に含まれる金属原子は、Baなどのアルカリ土類金属又はアルカリ金属など、酸化されやすい金属原子であることが多い。陰極側から光を取り出す場合、電子輸送層上に光を透過する透明陰極が形成される。
【0007】
透明陰極には、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化インジウム亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide)、酸化亜鉛(ZnO)などの透明酸化導電膜が用いられることが多い。したがって、透明陰極を形成する際に、電子輸送層の表面は酸素に曝されるので、電子輸送層に含まれる金属原子が酸化されてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、発光層への電子の注入効率の低下を抑制することができる有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る有機EL素子は、陽極及び陰極と、当該陽極と当該陰極との間に形成された有機発光層とを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極と前記有機発光層との間に形成され、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方の金属と有機材料とを含む電子輸送層を備え、前記電子輸送層内の前記金属の濃度は、前記有機発光層側から前記陰極側に向かって連続的に又は段階的に減少する。
【0010】
これにより、電子輸送層内における陰極側の領域ほど金属の濃度が小さいため、陰極形成時における金属の酸化を抑制することができる。したがって、陰極から有機発光層への電子の注入効率の低下を抑制することができる。
【0011】
また、前記電子輸送層内の前記金属の濃度は、前記陰極側に面した領域において最小値となってもよい。
【0012】
これにより、陰極側に面した領域における金属の濃度が最小であるため、陰極形成時における金属の酸化をより抑制することができる。
【0013】
また、前記陰極側に面した領域における前記金属の濃度は、0であってもよい。
【0014】
これにより、陰極側に面した領域には金属が含まれていないので、電子輸送層に含まれる金属はほとんど酸化されないので、電子の注入効率の低下をほぼ防止することができる。
【0015】
また、前記電子輸送層は、前記金属としてバリウムを含んでもよい。
【0016】
また、本発明は、上記有機EL素子を備える有機EL表示装置として実現してもよい。
【0017】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、基板の上方に陽極を形成する陽極形成ステップと、前記陽極の上方に有機発光層を形成する発光層形成ステップと、前記有機発光層の上方に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方の金属と有機材料とを含む電子輸送層を形成する電子輸送層形成ステップと、前記電子輸送層の上方に陰極を形成する陰極形成ステップとを含み、前記電子輸送層形成ステップでは、前記電子輸送層内の前記金属の濃度が、前記有機発光層側から前記陰極側に向かって連続的に又は段階的に減少するように、前記電子輸送層を形成してもよい。
【0018】
これにより、電子輸送層内における陰極側の領域ほど金属の濃度が小さいため、陰極形成時における金属の酸化を抑制することができる。したがって、陰極から有機発光層への電子の注入効率の低下を抑制することができる。
【0019】
また、前記電子輸送層形成ステップでは、前記金属と前記有機材料とを蒸着源とする真空蒸着装置を用いて、前記金属の蒸着量を制御することで、前記電子輸送層を形成してもよい。
【0020】
これにより、金属の蒸着量を制御することで容易に電子輸送層内の金属の濃度を制御することができるので、容易に上記の電子輸送層を形成することができる。
【0021】
また、前記真空蒸着装置は、前記金属を入れた容器と、前記容器の開口部の少なくとも一部を覆うことで、前記開口部の開口率を変化させるシャッターとを備え、前記電子輸送層形成ステップでは、前記シャッターを制御して前記開口部の開口率を変化させることで、前記金属の蒸着量を制御してもよい。
【0022】
これにより、シャッターの開閉などを制御することで容易に金属の蒸着量を制御することができる。したがって、容易に上記の電子輸送層を形成することができる。
【0023】
また、前記電子輸送層形成ステップでは、前記シャッターを時間的に連続又は離散的に閉じていきながら前記開口部の開口率を小さくすることで、前記金属の濃度が前記有機発光層側から前記陰極側に向かって連続的に又は段階的に減少する前記電子輸送層を形成してもよい。
【0024】
これにより、シャッターを徐々に閉じていくだけで、有機発光層側から陰極側にかけて金属の濃度が連続的に又は段階的に減少する電子輸送層を容易に形成することができる。
【0025】
また、前記シャッターには、互いに大きさの異なる複数の開口が形成されており、前記複数の開口のうち大きな開口から小さな開口の順で、開口が前記容器の開口部の上方に重なるように前記シャッターの位置を合わせることで、前記金属の濃度が前記有機発光層側から前記陰極側に向かって段階的に減少する前記電子輸送層を形成してもよい。
【0026】
これにより、有機発光層側から陰極側にかけて金属の濃度が段階的に減少する電子輸送層を容易に形成することができる。
【0027】
また、前記真空蒸着装置は、前記金属を入れた容器を備え、前記電子輸送層形成ステップでは、前記容器の温度を時間的に連続又は離散的に減少させて、前記金属の蒸発量を連続又は段階的に減少させることで、前記金属の濃度が前記有機発光層側から前記陰極側に向かって連続的に又は段階的に減少する前記電子輸送層を形成してもよい。
【0028】
これにより、温度を変動させることで容器からの蒸発量を制御することができるので、容易に上記の電子輸送層を形成することができる。
【0029】
また、前記陰極形成ステップでは、導入ガスとして酸素を用いる蒸着装置又はスパッタ装置を用いて、導電性及び光透過性を有する酸化物を前記陰極として形成してもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、発光層への電子の注入効率の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施の形態に係る有機EL素子の構成の一例を示す断面構成図である。
【図2】本実施の形態に係る有機EL素子が備える電子輸送層に含まれる金属原子の濃度を模式的に示す断面図である。
【図3】本実施の形態に係る有機EL素子の製造方法の一例を示す断面工程図である。
【図4】本実施の形態に係る有機EL素子において、電子輸送層を形成するための真空蒸着装置の構成の一例を示す模式図である。
【図5】本実施の形態に係る真空蒸着装置のシャッターの動きの一例を示す模式図である。
【図6】本実施の形態に係る有機EL素子が備える電子輸送層の別の一例を示す断面図である。
【図7A】本実施の形態に係る真空蒸着装置のシャッターの一例を示す図である。
【図7B】本実施の形態に係る真空蒸着装置のシャッターの一例を示す図である。
【図8】本実施の形態に係る真空蒸着装置のシャッターの動きの一例を示す模式図である。
【図9】本実施の形態に係る有機EL素子を備える表示装置の一例を示す概略図である。
【図10】本実施の形態に係る有機EL素子を備える表示装置の一例を示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る有機EL素子について、実施の形態に基づいて、図面を参照しながら説明する。
【0033】
本実施の形態に係る有機EL素子は、陽極と陰極との間に形成された有機発光層を備える有機EL素子であって、陰極と有機発光層との間に形成され、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方の金属を含む有機物質からなる電子輸送層を備え、電子輸送層内の金属の濃度は、有機発光層側から陰極側にかけて連続的に又は段階的に減少することを特徴とする。なお、本実施の形態に係る有機EL素子は、当該有機EL素子を駆動する駆動回路を備える基板の上面側から光を取り出すトップエミッション型のデバイスを一例として説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係る有機EL素子100の構成の一例を示す断面構成図である。図1に示すように、有機EL素子100は、基板101と、陽極102と、正孔注入層103と、正孔輸送層104と、有機発光層105と、電子輸送層106と、透明陰極107と、封止層108とを備える。
【0035】
基板101は、特に限定されないが、例えば、ガラス基板、石英基板などが用いられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルホンなどのプラスチック基板を用いて、表示装置に曲げ性を付与することもできる。なお、本実施の形態のようにトップエミッション型の場合、不透明プラスチック基板又はセラミック基板などを用いることができる。基板101には、有機EL素子100を駆動する薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)などの駆動回路が形成されていてもよい。
【0036】
陽極102は、光反射性を有する電極であり、基板101上に形成される。陽極102は、特に限定されないが、電気抵抗率が小さい材料を用いることが好ましく、例えば、アルミニウムなどの金属、Al、Pdなどの金属、これら金属を主成分とする合金、又は、これらを積層したものを用いることができる。陽極102の膜厚は、例えば、約20〜100nmであることが好ましい。
【0037】
正孔注入層103は、正孔注入性の材料を主成分とする層であり、陽極102上に形成される。正孔注入性の材料とは、陽極102から注入された正孔を安定的に、又は、正孔の生成を補助して、有機発光層105に注入する機能を有する材料である。正孔注入層103としては、例えば、酸化タングステン(WOx)、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)などを用いることができる。正孔注入層103の膜厚は、例えば、約10〜50nmであることが好ましい。
【0038】
正孔輸送層104は、正孔輸送性の材料を主成分とする層であり、正孔注入層103上に形成される。正孔輸送性の材料とは、電子ドナー性を有し陽イオン(正孔)になりやすい性質と、生じた正孔を分子間の電荷移動反応により伝達する性質とを併せ持ち、陽極102から有機発光層105までの電荷輸送に対して適性を有する材料のことである。正孔輸送層104としては、例えば、トリフェニルアミン系の材料が用いられる。正孔輸送層104の膜厚は、例えば、約20〜120nmであることが好ましい。
【0039】
有機発光層105は、正孔と電子とが再結合することにより発光する有機発光材料を主成分とする層であり、陽極102と透明陰極107との間に形成される。具体的には、有機発光層105は、図1に示すように、正孔輸送層104上に形成される。有機発光層105には、陽極102から正孔が注入され、透明陰極107から電子が注入され、これらの正孔と電子とが再結合することで、有機発光層105は発光する。
【0040】
有機発光材料としては、低分子系又は高分子系の有機発光材料を用いることができる。例えば、アルミキノリキノール錯体(Alq3)などの低分子系の材料、又は、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレンなどのポリマー発光材料などの高分子系の材料を用いることができる。有機発光層105の膜厚は、例えば、約40〜100nmであることが好ましい。
【0041】
電子輸送層106は、電子輸送性の材料を主成分とする層であり、有機発光層105上に形成される。電子輸送性の材料とは、電子アクセプター性を有し陰イオン(電子)になりやすい性質と、生じた電子を分子間の電荷移動反応により伝達する性質とを併せ持ち、透明陰極107から有機発光層105までの電荷輸送に対して適性を有する材料のことである。電子輸送層106は、金属と有機材料とを含んでいる。金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カルシウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムなどのアルカリ金属、及び、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムなどのアルカリ土類金属のうち少なくとも1つの金属である。有機材料は、Alq3、又はトリアゾール誘導体などである。なお、電子輸送層106の膜厚は、例えば、約5〜60nmであることが好ましい。
【0042】
電子輸送層106は、有機発光層105側から透明陰極107側にかけて金属原子の濃度が連続的に又は段階的に減少するように構成されている。言い換えると、所定の第1領域における金属原子の濃度が、当該第1領域よりも有機発光層105に近い第2領域における金属原子の濃度よりも小さくなっている。例えば、図2に示すように、有機発光層105側から透明陰極107側にかけて金属原子の濃度が徐々に減少し、かつ、透明陰極107側に面した領域において金属原子の濃度が極小値、好ましくは最小値となるように、電子輸送層106は構成される。
【0043】
このとき、透明陰極107側に露出する領域において、金属原子の濃度が0であってもよい。すなわち、電子輸送層106内における、透明陰極107に接する膜厚数nmの領域には、金属原子が含まれていなくてもよい。
【0044】
透明陰極107は、光透過性を有する電極であり、電子輸送層106上に形成される。透明陰極107は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)などの透明酸化導電膜を用いることができる。透明陰極107の膜厚は、例えば、約50〜500nmであることが好ましい。
【0045】
封止層108は、本実施の形態に係る有機EL素子100の表面を覆う樹脂層であって、図1に示すように、透明陰極107上に形成される。封止層108は、例えば、光透過性を有する窒化シリコン膜(SiN膜)、又は酸化シリコン膜(SiOx膜)などである。封止層108の膜厚は、例えば、約50〜3000nmであることが好ましい。
【0046】
以上のように、本実施の形態に係る有機EL素子100は、透明陰極107に近い領域における金属原子の濃度が、透明陰極107から遠い領域より小さくなるように構成された電子輸送層106を備える。これにより、電子輸送層106に含まれる金属原子の酸化を抑制することができるので、透明陰極107から有機発光層105への電子の注入効率の低下を抑制することができる。
【0047】
以下では、本実施の形態に係る有機EL素子100の製造方法について、図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態に係る有機EL素子100の製造方法の一例を示す断面工程図である。
【0048】
まず、図3(a)に示すように、基板101を洗浄し、洗浄した基板101上に陽極102を形成する。例えば、純水で基板101を洗浄し、洗浄した基板101をクリーンドライエアー(CDA:Clean Dry Air)装置などを用いて乾燥させる。そして、スパッタ装置、又は真空蒸着装置などを用いて、アルミニウムなどの金属膜を基板101上に堆積させることで、陽極102を形成する。
【0049】
次に、図3(b)に示すように、陽極102上に正孔注入層103を形成する。例えば、スピンコート装置などの塗布装置、又はスパッタ装置などを用いて、WOx又はPEDOTなどを陽極102上に堆積させることで、正孔注入層103を形成する。
【0050】
次に、図3(c)に示すように、正孔注入層103上に正孔輸送層104を形成する。例えば、スピンコート装置又はインクジェット装置などを用いて、トリフェニルアミン系の有機材料を正孔注入層103上に塗布することで、正孔輸送層104を形成する。
【0051】
次に、図3(d)に示すように、正孔輸送層104上に有機発光層105を形成する。例えば、インクジェット装置などの塗布装置、又は蒸着装置などを用いて、有機発光材料を塗布することで、有機発光層105を形成する。
【0052】
次に、図3(e)に示すように、有機発光層105上に電子輸送層106を形成する。例えば、Baなどのアルカリ土類金属と有機材料とを原料に用いた真空蒸着装置などを用いて、Baドープした有機層を電子輸送層106として形成する。Baドープした有機層を電子輸送層106として形成する前に、真空蒸着装置へ窒素ガスを導入し、酸素をパージし、さらに真空引きすることによって、Baの酸化をより防ぐことができる。電子輸送層106内の金属原子の濃度を変化させる方法については、図面を用いて後で説明する。
【0053】
次に、図3(f)に示すように、電子輸送層106上に透明陰極107を形成する。例えば、導入ガスにアルゴンガス及び酸素ガスを、ターゲットにインジウム及びスズ、又はこれらの合金を用いたスパッタ装置又は蒸着装置を用いて、導電性及び光透過性を有するITOなどの酸化物を透明陰極107として形成する。
【0054】
最後に、図3(g)に示すように、透明陰極107上に封止層108を形成する。例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置などを用いてSiN又はSiOxなどを堆積させることで、封止層108を形成する。
【0055】
なお、以上の工程を経た後、又は、封止層108を形成することなく、有機EL素子100と、カラーフィルタなどが形成された他の基板とを樹脂などを用いて貼りあわせてもよい。
【0056】
続いて、本実施の形態に係る有機EL素子100が備える電子輸送層106を形成する工程の詳細について説明する。
【0057】
図4は、本実施の形態に係る有機EL素子100において、電子輸送層106を形成するための真空蒸着装置200の構成の一例を示す模式図である。真空蒸着装置200は、電子輸送層106の材料となる金属及び有機材料を蒸着源とし、金属及び有機材料の蒸着量を制御することで電子輸送層106を形成する。
【0058】
図4に示すように、真空蒸着装置200は、容器201a及び201bと、シャッター202a及び202bと、支持棒203a及び203bと、基板保持台204とを備える。真空蒸着装置200内は、真空(例えば、10-4Pa以下)に保たれており、導入ガスとして、例えば、アルゴンガスが導入されている。
【0059】
容器201a及び201bは、蒸着源となる材料を入れる容器であり、例えば、るつぼ、又は皿などである。図4に示すように、電子輸送層106の材料となる金属と有機材料とがそれぞれ、容器201a及び201bに入れられている。例えば、金属はBaであり、有機材料はAlq3である。
【0060】
なお、容器201a及び201bの温度を変化させることで、各材料の蒸発量を変更することができ、堆積レート(単位時間当たりの膜厚)を変更することができる。具体的には、温度が高いほど蒸発量が多くなり、堆積レートが大きくなる。逆に、温度が低いほど蒸発量が小さくなり、堆積レートが小さくなる。
【0061】
シャッター202a及び202bは、支持棒203a及び203bを軸にして回転することが可能である。シャッター202a及び202bはそれぞれ、容器201a及び201bの開口部を覆うことが可能である。容器201a及び201bの開口部の面積(開口面積)が大きいほど、堆積レートが大きくなる。逆に、開口面積が小さいほど、堆積レートが小さくなる。
【0062】
基板保持台204は、基板(製造途中のデバイス)を保持するための台である。基板保持台204に保持された基板には、容器201a及び201bに入れられた材料を蒸着させる。例えば、基板保持台204は、保持する基板を回転させることができ、均一な厚さの膜が形成される。
【0063】
以上のような真空蒸着装置200を用いて、金属原子(Ba)の濃度が領域によって異なる電子輸送層106を形成する。例えば、Baが入れられた容器201aのシャッター202aを時間連続的に閉じていくことで、有機発光層105側から透明陰極107側にかけて滑らかにBaの濃度が減少するような電子輸送層106を形成することができる。
【0064】
図5は、本実施の形態に係る真空蒸着装置200のシャッター202aの動きの一例を示す模式図である。なお、電子輸送層106を形成する際、有機材料を入れた容器201bのシャッター202bの位置は、常に固定であるとする。また、容器201a及び201bの温度は共に一定であるとする。これにより、有機材料の堆積レートは一定となる。
【0065】
Baを入れた容器201aのシャッター202aを、図5(a)〜図5(c)に示すように、時間連続的に閉じていく。なお、図5(a)〜図5(c)はそれぞれ、一例として、容器201aの開口率が100%、50%、0%である状態を示している。
【0066】
容器201aの開口面積が一定である一方で、容器201aの開口面積が時間連続的に狭くなっていくので、電子輸送層106に含まれるBa濃度が連続的に(滑らかに)小さくなる。このように、シャッター202aを時間連続的に閉じていきながら、容器201aの開口部の開口率を小さくすることで、有機発光層105側から透明陰極107側にかけて、Ba濃度が滑らかに減少するような電子輸送層106(図2参照)を形成することができる。
【0067】
一例として、Baを入れた容器201aの温度を500℃、有機材料を入れた容器201bの温度を300℃にし、約3〜5分間、蒸着を行う。図2に示すようなBa濃度が滑らかに減少するような電子輸送層106を形成する場合には、シャッター202aのみを開いた状態(図5(a))から閉じた状態(図5(c))まで、3〜5分かけて時間連続的に変化させればよい。
【0068】
なお、膜厚モニターなどを用いて、電子輸送層106の堆積レートを調整しながら蒸着してもよい。
【0069】
以上のように、本実施の形態に係る有機EL素子100の製造方法では、真空蒸着装置200を用いて電子輸送層106を形成する際に、Baを入れた容器201aの開口率を制御することで、電子輸送層106に含まれるBa濃度を制御することができる。具体的には、容器201aの開口率を徐々に小さくすることで、有機発光層105側から透明陰極107側にかけてBa濃度が滑らかに小さくなるような電子輸送層106を形成することができる。
【0070】
なお、時間離散的にシャッター202aを閉じることで、図6に示すような、Ba濃度の異なる複数の層からなる電子輸送層106aを形成してもよい。なお、図6は、本実施の形態に係る有機EL素子100が備える電子輸送層の別の一例を示す断面図である。
【0071】
図6に示す電子輸送層106aは、有機発光層105側から透明陰極107側まで順に、金属原子の濃度が第1値である第1層161と、第1値より小さい第2値である第2層162と、第2値より小さい第3値(例えば、0)である第3層163とで構成されてもよい。
【0072】
例えば、図5(a)、図5(b)及び図5(c)に示す3つの状態にシャッター202aを所定の期間ずつ固定することで、3層からなる電子輸送層106aを形成することができる。このときの電子輸送層106aを構成する層はそれぞれ、Ba濃度が一定である。そして、有機発光層105側の層から順にBa濃度が小さくなり、透明陰極107側の層にはBaが含まれていない。
【0073】
また、シャッター202aの代わりに図7Aに示すシャッター300、又は、図7Bに示すシャッター301を用いてもよい。なお、図7A及び図7Bは、本実施の形態に係る真空蒸着装置200のシャッター300及び301の一例を示す図である。
【0074】
図7Aに示すシャッター300は、互いに大きさの異なる複数の開口を有している。複数の開口のうち最大の開口は、少なくとも容器201aの開口部よりも大きいことが望ましい。シャッター300は、中心を回転軸として、時計回り(又は、反時計回りでもよい)に、面積の大きい開口から小さい開口まで順に複数の開口が形成されている。
【0075】
図7Bに示すシャッター301は、中心を回転軸として、時計回り(又は、反時計回りでもよい)に、徐々に幅が小さくなるような開口が形成されている。幅が最大の部分は、容器201aの開口部より大きいことが望ましい。
【0076】
図8は、本実施の形態に係る真空蒸着装置200のシャッター300の動きの一例を示す模式図である。なお、電子輸送層106を形成する際、有機材料を入れた容器201bのシャッター202bの位置は、常に固定であるとする。つまり、有機材料の堆積レートは一定であるとする。
【0077】
図8(a)〜図8(d)に示すように、シャッター300を反時計回りに回転させることで、容器201aの開口率を段階的に小さくすることができ、電子輸送層106に含まれるBa濃度を段階的に小さくすることができる。
【0078】
例えば、最初は図8(a)に示すように、シャッター300に形成された複数の開口のうち、容器201aの開口部よりも大きな開口(例えば、最大の開口)が容器201aの開口部に重なる位置にシャッター300を固定する。続いて、図8(b)〜図8(d)に示すように反時計回りにシャッター300を回転させることで、段階的にBa濃度を小さくすることができる。
【0079】
以上のように、シャッター300に形成された複数の開口のうち大きな開口から小さな開口の順で、開口が容器201aの開口部の上方に重なるようにシャッター300の位置を合わせることで、図6に示すような、Ba濃度が有機発光層105側から透明陰極107側に向かって段階的に減少する電子輸送層106aを形成する。
【0080】
また、図7Bに示すシャッター301を用いた場合も、時間連続的にシャッター301を回転させることで、図2に示すような、有機発光層105側から透明陰極107側にかけてBa濃度が徐々に小さくなるような電子輸送層106を形成することができる。
【0081】
以上のように、本実施の形態に係る有機EL素子100は、バリウムなどの金属原子の濃度が、有機発光層105側から透明陰極107側にかけて減少するように構成された電子輸送層106を備える。これにより、透明陰極107を形成する際に導入される酸素に、電子輸送層106に含まれる金属原子が曝されることを抑制することができる。したがって、透明陰極107から有機発光層105への電子の注入効率の低下を抑制することができる。
【0082】
また、本実施の形態に係る有機EL素子100は、図9に示すようなテレビ、又は表示パネルなどの表示装置に利用することができる。なお、図9は、本実施の形態に係る有機EL素子100を備える表示装置の一例を示す概略図である。
【0083】
本実施の形態に係る有機EL素子100を、複数の画素が二次元状に配置された表示装置として利用する場合、陽極102及び透明陰極107の少なくとも一方は画素毎に分離されている。
【0084】
図10は、本実施の形態に係る有機EL素子100を備える有機EL表示装置400の構成の一例を示す断面構成図である。図10に示すように有機EL表示装置400は、画素毎に有機EL素子100を備え、陽極102は画素毎に分離されている。さらに、有機EL表示装置400は、バンク409を備える。また、基板101には、画素毎に有機EL素子100を駆動するTFTなどを含む駆動回路が形成されている。
【0085】
バンク409は、画素を分離するための分離壁であり、有機発光層105などの各有機層を塗布法で形成する際に、各有機層の材料である機能溶液を塗布する領域を定めるための分離壁である。バンク409は、例えば、レジストなどの樹脂によって形成される。
【0086】
バンク409は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料を堆積、及びパターニングすることで陽極102を形成した後に、塗布法などにより堆積し、パターニングすることで形成される。例えば、バンク409の高さは、約0.5〜2μmとすることができる。
【0087】
以上、本発明に係る有機EL表示素子及びその製造方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を当該実施の形態に施したものも、本発明の範囲内に含まれる。
【0088】
例えば、真空蒸着装置200は、シャッター202a及び202b、並びに支持棒203a及び203bを備えずに、容器201aの温度を制御することで電子輸送層106を形成してもよい。具体的には、容器201aの温度を時間的に連続又は離散的に減少させて、Baの蒸発量を連続的又は離散的に減少させることで、電子輸送層106を形成することができる。
【0089】
また、シャッター202aが開口率100%(開状態)と開口率0%(閉状態)との2つの状態しかとりえない場合など、シャッター202aの開状態の期間と閉状態の期間とを制御することで、電子輸送層を形成してもよい。このときの電子輸送層は、開状態のときに形成される金属を含む層と、閉状態のときに形成される金属を含まない層とが交互に積層された多層構造を有する。
【0090】
例えば、閉状態の期間を一定に保ち、徐々に開状態の期間を短くしていくことで、金属を含む層の厚さが徐々に小さくなるような電子輸送層を形成することができる。逆に、開状態の期間を一定に保ち、徐々に閉状態の期間を長くしていくことで、金属を含まない層の厚さが徐々に大きくなるような電子輸送層を形成することができる。いずれの電子輸送層も、金属を含む層内の金属の濃度は一定であるが、電子輸送層全体として有機発光層105側から透明陰極107側にかけて金属の濃度が小さくなるように形成されている。
【0091】
また、上記の実施の形態では、シャッター202a、300及び301は円形のシャッターを例に挙げたが、容器201aの開口部の少なくとも一部を覆うことで、容器201aの開口部の開口率を変化させることができればいかなる形状でもよい。同様に、容器201aの形状についてもいかなる形状でもよい。
【0092】
また、本実施の形態に係る有機EL素子100は、電子注入層を備えていてもよい。電子注入層は、電子注入性の材料を主成分とする層であり、例えば、電子輸送層106と透明陰極107との間に形成される。電子注入性の材料とは、透明陰極107から注入された電子を安定的に、又は、電子の生成を補助して、有機発光層105に注入する機能を有する材料である。
【0093】
また、本実施の形態では、トップエミッション型のデバイスである有機EL素子100を一例として説明したが、本実施の形態に係る有機EL素子は、ボトムエミッション型のデバイスであってもよい。このとき、透明陰極107は、光透過性ではなく、光反射性を有していればよい。逆に陽極102は、ITOなどの光透過性を有する電極であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る有機EL素子は、発光層への電子の注入効率の低下を防止することができるという効果を奏し、テレビ、カメラ、及び携帯電話などのディスプレイとして利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
100 有機EL素子
101 基板
102 陽極
103 正孔注入層
104 正孔輸送層
105 有機発光層
106、106a 電子輸送層
107 透明陰極
108 封止層
161 第1層
162 第2層
163 第3層
200 真空蒸着装置
201a、201b 容器
202a、202b、300、301 シャッター
203a、203b 支持棒
204 基板保持台
400 有機EL表示装置
409 バンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極と、当該陽極と当該陰極との間に形成された有機発光層とを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記有機発光層との間に形成され、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方の金属と有機材料とを含む電子輸送層を備え、
前記電子輸送層内の前記金属の濃度は、前記有機発光層側から前記陰極側に向かって連続的に又は段階的に減少する
有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記電子輸送層内の前記金属の濃度は、前記陰極側に面した領域において最小値となる
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記陰極側に面した領域における前記金属の濃度は、0である
請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電子輸送層は、前記金属としてバリウムを含む
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える
有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項6】
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
基板の上方に陽極を形成する陽極形成ステップと、
前記陽極の上方に有機発光層を形成する発光層形成ステップと、
前記有機発光層の上方に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも一方の金属と有機材料とを含む電子輸送層を形成する電子輸送層形成ステップと、
前記電子輸送層の上方に陰極を形成する陰極形成ステップとを含み、
前記電子輸送層形成ステップでは、
前記電子輸送層内の前記金属の濃度が、前記有機発光層側から前記陰極側に向かって連続的に又は段階的に減少するように、前記電子輸送層を形成する
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記電子輸送層形成ステップでは、前記金属と前記有機材料とを蒸着源とする真空蒸着装置を用いて、前記金属の蒸着量を制御することで、前記電子輸送層を形成する
請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記真空蒸着装置は、
前記金属を入れた容器と、
前記容器の開口部の少なくとも一部を覆うことで、前記開口部の開口率を変化させるシャッターとを備え、
前記電子輸送層形成ステップでは、前記シャッターを制御して前記開口部の開口率を変化させることで、前記金属の蒸着量を制御する
請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記電子輸送層形成ステップでは、前記シャッターを時間的に連続又は離散的に閉じていきながら前記開口部の開口率を小さくすることで、前記金属の濃度が前記有機発光層側から前記陰極側に向かって連続的に又は段階的に減少する前記電子輸送層を形成する
請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記シャッターには、互いに大きさの異なる複数の開口が形成されており、
前記複数の開口のうち大きな開口から小さな開口の順で、開口が前記容器の開口部の上方に重なるように前記シャッターの位置を合わせることで、前記金属の濃度が前記有機発光層側から前記陰極側に向かって段階的に減少する前記電子輸送層を形成する
請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
前記真空蒸着装置は、
前記金属を入れた容器を備え、
前記電子輸送層形成ステップでは、前記容器の温度を時間的に連続又は離散的に減少させて、前記金属の蒸発量を連続又は段階的に減少させることで、前記金属の濃度が前記有機発光層側から前記陰極側に向かって連続的に又は段階的に減少する前記電子輸送層を形成する
請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
前記陰極形成ステップでは、導入ガスとして酸素を用いる蒸着装置又はスパッタ装置を用いて、導電性及び光透過性を有する酸化物を前記陰極として形成する
請求項6〜11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−40479(P2011−40479A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184738(P2009−184738)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】