説明

有機エレクトロルミネッセンス素子形成用塗布液および有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】湿式法による有機エレクトロルミネッセンス素子の製造において、有機発光媒体層の塗布液化による発光効率の低下を抑え寿命を向上させる有機エレクトロルミネッセンス素子形成用塗布液を提供する。
【解決手段】有機発光媒体層の塗布液にフッ素系溶媒を含有した塗布液を用いて、湿式法により素子基板上に塗布し、溶媒を除去することにより形成して有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することで、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜のエレクトロルミネッセンス現象を利用した有機薄膜エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という)の発光媒体層形成用の塗布液および有機EL素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、透明基板上に陽極層、有機発光媒体層、陰極層を順に積層した構造を有する自発光型素子である。
【0003】
有機EL素子の有機発光媒体層を形成する方法は、有機発光媒体材料に応じて異なり、蒸着法と湿式法の2つに大きく分類される。低分子材料を有機発光媒体層として用いる場合は、抵抗加熱方式などの真空蒸着法が用いられる。有機発光媒体層としては、正孔注入層に銅フタロシアニン、正孔輸送層にN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、発光層にトリス(8−キノリノール)アルミニウムを、それぞれ10〜100nm程度の厚みで積層したものが典型的な例として挙げられる。これら低分子材料を用いる有機EL素子の製造のためには、複数の蒸着釜を連結した真空蒸着装置を必要とし、生産性が低く製造コストが高いなどの問題点があった。
【0004】
これに対し、デンドリマー材料や高分子材料を有機発光媒体層として用いる場合は、材料を溶液化できるので湿式法が用いられる。この場合、有機発光媒体層として正孔輸送層と発光層とを積層した、2層構造をとるのが典型的である。前述の低分子材料を用いた有機EL素子と比較して、大気圧下での製膜が可能であり、生産性が高く製造コストが安いという利点がある。
【0005】
近年では、溶液化できる低分子材料の開発が進められ、高分子材料を代替できる材料開発が鋭意検討されている。発光層に用いられる低分子発光材料の中には、高分子発光材料以上の発光効率、寿命を有するものもありことから、低分子発光材料による高分子発光材料の代替が求められている。
【0006】
また、塗布液化による有機発光媒体材料の発光効率や寿命の劣化が懸念されており、発光効率や寿命の劣化の少ない有機発光媒体材料の塗布液化の技術が求められている。
【0007】
特許文献1では、高分子発光材料にフッ素系界面活性剤を添加することで発光層面の輝度ムラを低減して寿命劣化を防止する手法がとられている。この場合、界面活性剤として、フッ素置換されたアルキル基を有する樹脂が用いられており、発光層への不純物の残留が懸念される。
【0008】
ここで、分子内でのキャリア移動を主とする高分子発光材料と比較して、分子間のキャリア移動を主とする低分子発光材料においては、発光層内の不純物によりキャリアの移動が阻害されることなどにより発光効率や寿命に大きな劣化を招く。
【0009】
また、特許文献2では、水系の発光媒体材料にフッ素系等の界面活性剤を添加した塗布液を用いて有機EL素子を製造する手法がとられている。この場合も、有機EL素子の塗布液に含まれる水分が発光効率や寿命に大きな劣化を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3848188号公報
【特許文献2】特許第4341304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
生産性の向上や製造コストの削減の課題に対して、湿式法が有望視されている。しかし、上記の湿式法による有機EL素子製造方法では、有機発光媒体材料の塗布液化による発光効率や寿命の劣化を引き起こすという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、発光効率の低下を抑え、寿命を向上させることができる有機発光媒体材料の塗布液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、透光性基板上に、少なくともパターニングされた電極層と発光媒体層と対向電極層を積層してなる有機EL素子に含まれる複数の層のうち、発光媒体層を構成する有機発光層を形成するための非水溶性有機EL用塗布液に関するものである。当該有機EL用塗布液は、繰り返し構造を持たない1種類以上の低分子発光材料と、低分子発光材料を溶解させる溶媒と、少なくとも1種類のフッ素系溶媒とを含有する。
【0014】
また、本発明は、透光性基板上に、少なくともパターニングされた電極層と発光媒体層と対向電極層を積層してなる有機EL素子に含まれる複数の層のうち、発光媒体層を構成する正孔輸送層を形成するための非水溶性有機EL用塗布液に関するものである。当該有機EL用塗布液は、正孔輸送材料と、正孔輸送材料を溶解または分散させる溶媒と、少なくとも1種類のフッ素系溶媒とを含有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る有機EL用塗布液によれば、フッ素系溶媒の添加によって下層との濡れ性が向上する結果、層間密着性が向上し、物理的および電気的な耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の層構成の説明図
【図2】本発明の実施形態に係る有機EL素子の具体的な構成を示す断面図
【図3】湿式法で用いられる凸版印刷装置を示す説明図
【図4】湿式法で用いられるインクジェット装置を示す説明図
【図5】湿式法で用いられるノズルプリント装置を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、本実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さ、寸法等は、実際のものとは異なる。また、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本実施形態に係る有機EL素子の層構成を示す説明図である。より詳細には、図1(a)は、図1(b)のA−A’ラインに沿う断面図であり、図1(b)は、平面図である。
【0019】
図1に示す有機EL素子1は、いわゆるパッシブマトリクス構造であって、有機EL素子1を支持するための透光性基板2と、透光性基板2の面上に互いが平行するように複数形成された画素電極3と、画素電極3上に積層された有機発光媒体層6と、有機発光媒体層6上に積層されて画素電極3と直交する複数の対向電極7とを備える。以下では、画素電極3が陽極で、対向電極7が陰極である場合について述べる。なお、有機EL素子1は、透光性基板2の面上に薄膜トランジスタ(TFT)が形成された、いわゆるアクティブマトリクス構造であってもよい。また、画素電極3が陰極で、対向電極7が陽極であってもよい。
【0020】
図2は、本発明の実施形態に係る有機EL素子の具体的な構成を示す断面図である。
【0021】
透光性基板2は、画素電極3や有機発光媒体層6、対向電極7を支持する基板であって、金属、ガラス、又はプラスチックなどのフィルムまたはシートによって構成されている。プラスチック製のフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートを用いることができる。なお、透光性基板2の画素電極3が形成されない他方の面に、セラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物などの他のガスバリア性フィルムを積層してもよい。
【0022】
画素電極3は、透光性基板2上に画素電極3の形成材料からなる層を成膜した後、必要に応じてパターニングを行なうことによって形成される。画素電極3の材料からなる層に必要に応じて隔壁22をパターニングし、各画素に対応した画素電極3を形成してもよい。画素電極3の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物や、金、白金などの金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂などに分散した微粒子分散膜を、単層もしくは積層したものをいずれも使用することができる。画素電極3を陽極とする場合にはITOなど仕事関数の高い材料を選択することが好ましい。
【0023】
下方から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション構造の場合は透光性のある材料を選択する必要がある。必要に応じて、画素電極3の配線抵抗を低くするために、銅やアルミニウムなどの金属材料を補助電極として併設してもよい。画素電極3の膜厚は、有機ELディスプレイの素子構成により最適値が異なるが、単層、積層にかかわらず、100Å以上10000Å以下であり、より好ましくは、100Å以上3000Å以下である。
【0024】
画素電極3の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法などを用いることができる。
【0025】
隔壁22は、各画素電極3上に形成された有機発光媒体層6が互いに混合することを防止するために各画素電極3の間に形成されている。隔壁22のパターンは、線状あるいは格子状であることが望ましい。隔壁22を形成する場合の形成方法としては、従来と同様、基体上に無機膜を一様に形成し、レジストでマスキングした後、ドライエッチングを行う方法や、基体上に感光性樹脂を積層し、フォトリソグラフィ法により所定のパターンとする方法が挙げられる。必要に応じて撥水剤を添加したり、プラズマやUVを照射して形成後にインクに対する撥液性を付与したりすることもできる。隔壁22の材料として適用可能な感光性樹脂は、ポリイミド系やアクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、カルド樹脂系、フッ素樹脂系などが挙げられるが、フォトリソグラフィ法で形成することができる樹脂であれば用いることができる。
【0026】
隔壁22の好ましい高さは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上5μm以下である。隔壁22の高さが10μmを超えると対向電極の形成及び封止を妨げてしまい、0.01μm未満だと有機発光媒体層6の形成時に混色したり隣接する画素とショートしたりするためである。
【0027】
次に、有機発光媒体層6の材料からなる層を形成する。本実施形態における有機発光媒体層6としては、有機発光材料を含む単層膜、あるいは多層膜で形成することができ、少なくとも画素電極3の上面に形成された正孔輸送層4と、正孔輸送層4の上面に形成された有機発光層5とを積層した構成となっている。多層膜で形成する場合の構成例としては、正孔輸送層4、電子輸送性発光層または正孔輸送性発光層、電子輸送層からなる3層構成や正孔輸送層4、有機発光層5、電子輸送層からなる3層構成、さらには、必要に応じて正孔又は電子注入機能と正孔又は電子輸送機能を分けたり、正孔又は電子の輸送をプロックする層などを挿入したりすることにより、さらに多層形成することがより好ましい。なお、本実施形態中の有機発光層5とは、有機発光材料を含む層を指す。
【0028】
正孔輸送層4は、陽極である画素電極3から注入された正孔を陰極である対向電極7の方向へ進め、正孔を通しながらも電子が画素電極3の方向へ進行することを防止する機能を有している。
【0029】
正孔輸送層4に用いられる正孔輸送材料の例としては、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン、N,N'−ジ(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料や、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物などの高分子正孔輸送材料、ポリチオフェンオリゴマー材料、Cu2O,Cr23,Mn23,FeOx(x〜0.1),NiO,CoO,Pr23,Ag2O,MoO2,Bi23,ZnO,TiO2,SnO2,ThO2,V25,Nb25,Ta25,MoO3,WO3,MnO2などの無機材料、その他既存の正孔輸送材料の中から選ぶことができる。
【0030】
また、正孔輸送材料を溶解または分散させる溶媒としては、トルエン、キシレン、アニソール、ジメトキシベンゼン、テトラリン、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどのうち、いずれかまたはこれらの混合液が挙げられる。
【0031】
前記した正孔輸送材料の溶解液または分散液には、後述するフッ素系溶媒が添加される。また、正孔輸送材料の塗布液には、必要に応じて界面活性剤や酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤などを添加してもよく、粘度調整剤としては、例えばポリスチレン、ポリビニルカルバゾールなどを用いることができる。
【0032】
正孔輸送層4の形成方法としては、正孔輸送層4に用いる材料に応じて、スピンコートやバーコート、ワイヤーコート、スリットコート、スプレーコート、カーテンコート、フローコート、凸版印刷、凸版反転オフセット印刷、インクジェット法、ノズルプリント法などの湿式法や、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの蒸着法を用いることができる。
【0033】
また、正孔輸送層4上にはインターレイヤ層を形成しても良い。インターレイヤ層に用いる材料として、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体などの、芳香族アミンを含むポリマーなどが挙げられる。これらの材料は溶媒に溶解または分散させ、スピンコート法などの湿式法やその他蒸着法を用いて形成することができる。
【0034】
有機発光層5は、電圧を印加することによって赤色、緑色または青色に発光する有機発光層5の機能性材料であって、繰り返し構造を持たない低分子発光材料と繰り返し構造を持つ高分子材料を溶媒に溶解又は分散した有機発光材料の塗布液を正孔輸送層4上に塗布することによって形成されている。前記低分子発光材料の質量平均分子量は100〜1万であることが好ましい。有機発光層5は、低分子発光材料を溶解または分散した有機発光材料の塗布液を正孔輸送層4上に湿式法を用いて付着させ、その後乾燥させることで形成されている。塗布液の溶媒はキシレンあるいはアニソールを使用することが好ましいが、正孔輸送層4を形成する際に用いた上記溶媒を用いることもできる。なお、有機発光層5の膜厚は、0.01μm〜0.1μmの範囲であればよく、0.03μm〜0.08μmであることがより好ましい。前記膜厚の範囲外となった場合、発光効率が低下する傾向にある。
【0035】
有機発光層5に用いられる繰り返し構造を持たない低分子発光材料としては、有機発光層に用いられる有機発光材料としては、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノリノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス〔8−(パラ−トシル)アミノキノリン〕亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレン、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポルフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光体等、Ir錯体等の燐光性発光体などが使用できる。
【0036】
ここで、赤色に発光する有機発光層5に用いられる低分子発光材料として、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3)と、ピラン系化合物のドープ材であるDCM(4−ジシアノメチレン−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−2−メチル−4H−ピラン)と、DCJTB(4−ジシアノメチレン−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−2−(t−ブチル)−4H−ピラン)とをそれぞれドーピング濃度が2%となるように添加したものが挙げられる。そして、この低分子発光材料を溶媒に溶解し、塗布液を形成している。
【0037】
なお、塗布液中の低分子発光材料の濃度は、0.1重量%〜10重量%の範囲であればよく、1.0重量%〜5.0重量%であることがより好ましい。このように、濃度を1.0重量%〜5.0重量%以下とすることで塗布時の膜厚が大きくなりすぎず、塗布時のパターン精度を維持することができる。なお、上記比率の低分子発光材料の重量は、上記のホスト材とドープ材を合わせた重量を表している。
【0038】
また、緑色に発光する有機発光層5に用いられる低分子発光材料として、ホスト材であるAlq3、2,2′,2′′‐(1,3,5‐ベンゼントリイル)トリス(1‐フェニル‐1H‐ベンゾイミダゾール)(TPBi)、ドープ材であるトリス(2−(p−トリル)ピリジン)イリジウムIII(Ir(mppy)3)とをそれぞれドーピング濃度が4%になるように添加したものが挙げられる。そして、この低分子発光材料を溶媒に溶解し、塗布液を形成している。なお、塗布液中の低分子発光材料の濃度は、0.1重量%〜10重量%の範囲であればよく、1.0重量%〜5.0重量%であることがより好ましい。なお、上記比率の低分子発光材料の重量は、上記のホスト材とドープ材を合わせた重量を表している。
【0039】
また、青色に発光する有機発光層5に用いられる低分子発光材料として、Alq3と、ドープ材であるDPVBi(4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル)と、Zn(BOX)2(2−(O−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール亜鉛錯体)とをドーピング濃度が2%となるように添加したものが挙げられる。そして、この低分子発光材料を溶媒に溶解し、塗布液を形成している。なお、塗布液中の低分子発光材料の濃度は、0.1重量%〜10重量%の範囲であればよく、1.0重量%〜5.0重量%であることがより好ましい。
【0040】
有機発光材料を含む塗布液に用いられる溶媒としては、キシレンあるいはアニソールを用いることができる。キシレンあるいはアニソールは低分子発光材料として用いられている多くの芳香族化合物および有機物金属錯体に対して良好な溶解性を有しており、スピンコートやバーコート、ワイヤーコート、スリットコート、スプレーコート、カーテンコート、フローコート、凸版印刷、凸版反転オフセット印刷、インクジェット法、ノズルプリント法などの湿式法において塗布性が良好である。さらに、有機発光層に低分子発光材料の塗布液にキシレンを用いることにより、乾燥工程を簡略化できるため残留溶媒の影響を抑えることができ発光効率の低下を抑制することができる。
【0041】
他に、トルエン、メシチレン、クメン、アニソール、メチルアニソール、パラシメン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン、シクロヘキサノン、シクロヘキシルベンゼン、ジメトキシベンゼン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどの溶媒を混合溶媒として添加して用いることができる。また、塗工性向上のために、必要に応じて界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤などの添加剤を適量混合することがより好ましい。
【0042】
また、添加するフッ素系溶媒としては、メチルノナフルオロイソブチルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ−3メトキシ−4−(トリフルオロメチル)−ペンタン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−ペンタンなどのメトキシ基あるいはエトキシ基を含有するパーフルオロエーテル系等が使用でき、好ましくは1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ−3メトキシ−4−(トリフルオロメチル)−ペンタン(沸点:98℃、表面張力:15mN/m)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−ペンタン(沸点:131℃、表面張力:18mN/m)がよい。パーフルオロエーテル系フッ素溶媒以外でも、フッ素系溶媒を添加した塗布液の表面張力が10〜30mN/mとなるフッ素系溶媒であればよくフルオロトルエン、フルオロキシレン、ベンゾトリフルオリドなどの芳香族系フッ素溶媒であってもよい。
【0043】
フッ素系溶媒の沸点は、有機EL素子1に用いる発光媒体材料のガラス転移温度Tgよりも低い方が好ましく、発光媒体材料のガラス転移温度は概ね100℃以上であることから、フッ素系溶媒の沸点は100℃以下であることが好ましい。
【0044】
フッ素系溶媒の添加量は、塗布液の溶媒重量に対して0.1%以上20%未満であればよく、1%以上10%以下であることがより好ましい。フッ素系溶媒が0.1%より少ないと表面張力が30mN/mより大きくなり下層との濡れ性を良化することができず、20%以上であると発光媒体材料の析出が懸念される。
【0045】
電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、2−(4−ビフィニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体やビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物、等を用いることができる。また、これらの電子輸送材料に、ナトリウムやバリウム、リチウムといった仕事関数が低いアルカリ金属、アルカリ土類金属を少量ドープすることにより、電子注入層としてもよい。
【0046】
電子輸送層の形成方法としては、用いる材料に応じて、スピンコートやバーコート、ワイヤーコート、スリットコート、スプレーコート、カーテンコート、フローコート、凸版印刷、凸版反転オフセット印刷、インクジェット法、ノズルプリント法などの湿式法や、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの蒸着法を用いることができる。
【0047】
対向電極7は、有機発光層5の上に形成される。第二電極を陰極とする場合には有機発光媒体層6への電子注入効率の高い、仕事関数の低い物質を用いる。具体的にはMg,Al,Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体と接する界面にLiや酸化Li,LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いたりしてもよい。または電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数が低いLi,Mg,Ca,Sr,La,Ce,Er,Eu,Sc,Y,Yb等の金属1種以上と、安定なAg,Al,Cu等の金属元素との合金系を用いてもよい。
【0048】
具体的には、MgAg,AlLi,CuLi等の合金が使用できる。第二電極側から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造とする場合には透光性を有する材料を選択することが好ましい。この場合、仕事関数が低いLi,Caを薄く設けた後に、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物を積層してもよく、前記有機発光媒体層に、仕事関数が低いLi,Caなどの金属を少量ドーピングして、ITOなどの金属酸化物を積層してもよい。
【0049】
対向電極7の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法を用いることができる。第二電極の厚さに特に制限はないが、10nm〜1000nm程度が望ましい。また、第二電極を透光性電極層として利用する場合、CaやLiなどの金属材料を用いる場合の膜厚は0.1〜10nm程度が望ましい。
【0050】
対向電極7と封止材23との間に、例えば対向電極7上にパッシベーション層を形成してもよい。パッシベーション層の材料としては、酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化炭素などの金属窒化物、酸窒化珪素などの金属酸窒化物、炭化ケイ素などの金属炭化物、必要に応じて、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などの高分子樹脂膜との積層膜を用いてもよい。特に、バリア性と透明性の面から、酸化ケイ素(SiOx)、窒化ケイ素(SiNx)、酸窒化ケイ素(SiOxNy)を用いることが好ましく、さらには、成膜条件により、膜密度を可変した積層膜や勾配膜を使用してもよい。
【0051】
パッシベーション層の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法を用いることができるが、特に、バリア性や透光性の面でCVD法を用いることが好ましい。CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、触媒CVD法、VUV−CVD法などを用いることができる。また、CVD法における反応ガスとしては、モノシランや、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)やテトラエトキシシランなどの有機シリコーン化合物に、N2、O2、NH3、H2、N2Oなどのガスを必要に応じて添加してもよく、例えば、シランの流量を変えることにより膜の密度を変化させてもよく、使用する反応性ガスにより膜中に水素や炭素が含有させることもできる。パッシベーション層の膜厚としては、有機EL素子1の電極段差や基板の隔壁高さ、要求されるバリア特性などにより異なるが、0.01μm以上10μm以下程度が一般的に用いられている。
【0052】
封止材23は、有機発光媒体層6を外部から遮蔽するために設けられている。封止材23が設けられているのは、有機発光層5が大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまうためである。封止材23は、例えば対向電極7上に樹脂層を積層することによって作成することができる。封止材23としては、水分や酸素の透過性が低い基材である必要がある。また、材料の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、アルミニウムやステンレスなどの金属箔、耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルムまたは吸水剤を塗布した重合体フィルムなどがあり、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、1×10-6g/m2/day以下であることが好ましい。
【0053】
樹脂層の材料の一例として、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。樹脂層を対向電極7の上に形成方する法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることもできる。対向電極7上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL素子1の大きさや形状により任意に決定されるが、5〜500μm程度が望ましい。なお、ここでは対向電極7上に樹脂層として形成したが直接有機EL素子1側に形成することもできる。
【0054】
最後に、有機EL素子1と封止材23との貼り合わせを封止室で行う。封止材23を、封止層と樹脂層の2層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好ましい。熱硬化型接着樹脂や光硬化性接着性樹脂を使用した場合は、ロール圧着や平板圧着した状態で、光もしくは加熱硬化を行うことが好ましい。
【0055】
以上のような構成の有機EL素子1の製造方法の概略を説明する。まず、透光性基板2上に、画素電極3を形成する。これは、透光性基板2上の全面にスパッタリング法を用いてITO膜を形成し、さらにフォトリソグラフィ技術による露光、現像を行って、画素電極3として残存させる要部をフォトレジストで被覆すると共に、不要部を酸溶液でエッチングしてITO膜を除去する。このようにして、所定の間隔をあけて配置された複数の画素電極3が形成される。
【0056】
次に、各画素電極3上に隔壁22を形成する。これは、透光性基板2あるいは画素電極3上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術による露光、現像を行って、各画素電極3上にフォトレジストを残存させる。その後、ベーキングを行うことでフォトレジストを硬化させる。
【0057】
そして、図3に示すような凸版印刷装置31を用いて、正孔輸送材料の塗布液を画素電極3上に塗布し、正孔輸送層4を形成する。この凸版印刷装置31は、正孔輸送材料の塗布液が収容される塗布液タンク32と、塗布液をアニロックスロール34に供給する供給ノズル33とアニロックスロールから供給される塗布液を画素電極3の表面に付着させるロール35および凸版36とを備えている。画素電極3に付着した塗布液は、粘度が低いために隔壁22で区切られた領域内で平均化する。その後、塗布液を乾燥させ、画素電極3上に定着させる。
【0058】
正孔輸送層4を形成した後、前記と同様に凸版印刷法により有機発光層5を正孔輸送層4上に形成する。前述したとおり、有機発光層5を形成する材料としては低分子発光材料の塗布液にフッ素系溶媒を混合して使用する。
【0059】
続いて、対向電極7は、有機発光層5上に抵抗加熱蒸着法などの蒸着法によって蒸着して形成する。最後に、これら画素電極3、有機発光媒体層6及び対向電極7を空気中の酸素や水分から保護するために樹脂層を充填し、封止基板24で被覆、封止して有機EL素子1を製造する。
【0060】
以上のように構成された有機EL素子1及び有機EL素子1の製造方法によれば、凸版印刷法により低分子発光材料を使用することが可能となり、発光効率を低下させることなく、有機発光層5を安定化することができる。
【0061】
図4に示すようなインクジェット装置41を用いて、正孔輸送材料の塗布液を画素電極3上に塗布し、正孔輸送層4を形成してもよい。このインクジェット装置41は、正孔輸送材料の塗布液が収容される塗布液タンク42と、塗布液を画素電極3の表面に付着させる吐出ヘッド43とを備えている。画素電極3に付着した塗布液は、粘度が低いために隔壁22で区切られた領域内で平均化する。その後、塗布液を乾燥させ、画素電極3上に定着させる。
【0062】
正孔輸送層4を形成した後、前記と同様にインクジェット装置により有機発光層5を正孔輸送層4上に形成する。前述したとおり、有機発光層を形成する材料としては低分子発光材料の塗布液にフッ素系溶媒を混合して使用する。
【0063】
図5に示すようなノズルプリント装置51を用いて、正孔輸送材料の塗布液を画素電極3上に塗布し、正孔輸送層4を形成してもよい。このノズルプリント装置51は、正孔輸送材料の塗布液が収容される塗布液タンク52と、塗布液を画素電極3の表面に付着させる吐出ヘッド53とを備えている。画素電極3に付着した塗布液は、粘度が低いために隔壁22で区切られた領域内で平均化する。その後、塗布液を乾燥させ、画素電極3上に定着させる。
【0064】
正孔輸送層4を形成した後、前記と同様にノズルプリント装置により有機発光層5を正孔輸送層4上に形成する。前述したとおり、有機発光層5を形成する材料としては低分子発光材料の塗布液にフッ素系溶媒を混合して使用する。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、正孔ブロック層や正孔注入層、電子注入層、電子ブロック層を形成してもよい。ここで、正孔注入層や電子ブロック層は、正孔輸送層4と同様に、画素電極である画素電極3から正孔を対向電極である対向電極7の方向へ進めて正孔を通しながらも、電子が画素電極3の方向へ進行することを防止する機能を有している。また、正孔ブロック層や電子輸送層、電子注入層は、対向電極である対向電極7から電子を画素電極である画素電極3の方向へ進めて電子を通しながらも、正孔が対向電極7の方向へ進行することを防止する機能を有している。
【0066】
また、フッ化リチウムなどの薄膜を対向電極7と有機発光媒体層6との間に設けてもよい。対向電極7をパターニングするには、金属膜、セラミック膜の蒸着マスクなどを用いることができる。さらに、隔壁22が各画素電極3上に形成されているが、隔壁22を設けない構成としてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0068】
[素子作成]
図1に示すように、透光性基板2(白板ガラス;縦100mm×横100mm×厚さ0.7mm)上にスパッタリング法により幅80μm、厚さ0.15μmの短冊状の画素電極3を80μm間隔で形成した。ここで、画素電極3の表面粗さRaは、200μm2 からなる任意の面内において20nmとなった。ここで、正孔輸送層4は、正孔輸送材料としてポリアリーレン誘導体を用いて、これをキシレンに溶解させて濃度を3.0重量%とした。この溶解液にフッ素系溶媒1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ−3メトキシ−4−(トリフルオロメチル)−ペンタン(以下、F1とする)を添加して塗布液とした。この塗布液をスピンコート法で基板に塗布し、これを200℃10分間乾燥させることによって形成した。
【0069】
有機発光層5は、緑色に発光する画素に用いられる低分子発光材料として、ホスト材には2,2′,2′′‐(1,3,5‐ベンゼントリイル)トリス(1‐フェニル‐1H‐ベンゾイミダゾール)(TPBi)、ドープ材にはトリス(2−(p−トリル)ピリジン)イリジウムIII(Ir(mppy)3)を用いた。そして、この低分子発光材料の塗布液に添加するフッ素系溶媒としてF1を用いた。低分子発光材料をキシレンに溶解し、1重量%溶解液としたものに、フッ素系溶媒F1を添加して塗布液とした。この塗布液をスピンコート法で正孔輸送層4上の基板に塗布し、100℃、30分、不活性ガス雰囲気下で乾燥を行い、厚さ70nmの有機発光層5を得た。正孔輸送層4および有機発光層5の塗布液組成については以下実施例に記述する。その後、対向電極7としてLiF/Al=0.5nm/150nmを蒸着により形成した。その後、封止基板24を接着し有機EL素子1を得た。
【0070】
[評価方法]
本実施例により作成された有機EL素子1の形成工程と形成された有機EL素子1の評価は、以下に示すようにして行った。
【0071】
(発光効率)
作成した有機EL素子1に7Vの電圧を印加した際の発光効率(cd/A)を測定した。
【0072】
(寿命)
作成した有機EL素子1を用いて、輝度1000cd/m2における電流を一定として、輝度の半減期を測定した。
【0073】
(色度)
作成した有機EL素子1を用いて、輝度1000cd/m2における色度(x、y)を測定した。
【0074】
[実施例1]
有機発光層5を形成する低分子発光材料(ホスト/ドーパント)の溶解液にフッ素系溶媒を10%添加したものを塗布液とし、評価を実施した。
【0075】
[実施例2]
正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料の溶解液にフッ素系溶媒を10%添加したものを塗布液とし、評価を実施した。
【0076】
[実施例3]
正孔輸送層4および有機発光層5を形成する正孔輸送材料および低分子発光材料(ホスト/ドーパント)の溶解液にそれぞれフッ素系溶媒を10%添加したものを塗布液とし、評価を実施した。
【0077】
[比較例1]
塗布液にフッ素系溶媒を添加しないものを用いて、評価を実施した。
【0078】
[比較例2]
有機発光層5に用いるフッ素系溶媒を4−フルオロフェネトール(以下、F2とする)(沸点:180℃)とした以外は実施例1と同様に、評価を実施した。
【0079】
[比較例3]
有機発光層5のベイク温度を180℃とした以外は実施例1と同様に、評価を実施した。
【0080】
[比較例4]
有機発光層5に用いるフッ素系溶媒を4−フルオロフェネトール(沸点:180℃)とし、有機発光層5のベイク温度を180℃とした以外は実施例1と同様に、評価を実施した。
【0081】
実施例1〜3及び比較例1の発光効率、半減期、色度の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0082】
実施例1及び比較例2〜4の成膜性及び発光効率の評価結果を表2に示す。
【表2】

【0083】
表1に示すように、比較例1のフッ素系溶媒を使用しなかった場合と比較して、実施例1〜3より、正孔輸送層4あるいは有機発光層5に対してフッ素系溶媒を添加することで発光効率の低下を抑え寿命を向上させることができた。特に、正孔輸送層4および低分子発光材料の有機発光層5の両方の層の形成にフッ素系溶媒を添加した塗布液を用いることで寿命の向上率および発光効率が高まることが分かった。また、色度については影響を与えないことも確認できた。
【0084】
また、表2に示すように、有機発光層5のガラス転移温度より小さい沸点のフッ素系溶媒(F1)を使用したときの低温ベイクにおいては、成膜性に問題はなく発光効率の低下もみられなかった。しかし、有機発光層5のガラス転移温度より大きい沸点のフッ素系溶媒(F2)を使用したときの低温ベイクにおいては成膜性に問題はないが発光効率の低下がみられた。これは、フッ素系溶媒およびその不純物の残留による影響と考えられる。一方、高温ベイク(F2の沸点)においては発光材料の凝集が発生して、成膜性に問題が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明によれば、有機EL塗布液にフッ素系溶媒を添加し、湿式法による工程により有機EL素子1を製造することで、発光効率の低下を抑え寿命を向上させることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 有機EL素子
2 透光性基板
3 画素電極
4 正孔輸送層
5 発光層
6 有機発光媒体層
7 対向電極
8 発光画素
21 隔壁付EL素子
22 隔壁
23 封止材
24 封止基板
31 凸版印刷装置
32 塗布液タンク
33 供給ノズル
34 アニロックスロール
35 ロール
36 凸版
41 インクジェット装置
42 塗布液タンク
43 吐出ヘッド
51 ノズルプリント装置
52 塗布液タンク
53 吐出ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、少なくともパターニングされた電極層と発光媒体層と対向電極層を積層してなる有機EL素子に含まれる複数の層のうち、前記発光媒体層を構成する有機発光層を形成するための非水溶性有機EL用塗布液であって、
繰り返し構造を持たない1種類以上の低分子発光材料と、
前記低分子発光材料を溶解させる溶媒と、
少なくとも1種類のフッ素系溶媒とを含有する、有機EL用塗布液。
【請求項2】
透光性基板上に、少なくともパターニングされた電極層と発光媒体層と対向電極層を積層してなる有機EL素子に含まれる複数の層のうち、前記発光媒体層を構成する正孔輸送層を形成するための非水溶性有機EL用塗布液であって、
正孔輸送材料と、
前記正孔輸送材料を溶解または分散させる溶媒と、
少なくとも1種類のフッ素系溶媒とを含有する、有機EL用塗布液。
【請求項3】
前記正孔輸送層を構成する複数層の層のうち少なくとも1層を形成するために用いられる、請求項2に記載の有機EL用塗布液。
【請求項4】
前記正孔輸送層を構成する複数層のうち前記電極層と隣接する層を形成するために用いられる、請求項2または3に記載の有機EL用塗布液。
【請求項5】
前記フッ素系溶媒がパーフルオロエーテルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の有機EL用塗布液。
【請求項6】
前記フッ素系溶媒は、前記有機EL用塗布液に対して0.1重量%以上20重量%未満の割合で含有されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の有機EL用塗布液。
【請求項7】
前記フッ素系溶媒の沸点が、前記発光媒体層のガラス転移温度よりも小さいことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の有機EL用塗布液。
【請求項8】
有機EL素子の製造方法であって、
請求項1〜7のいずれかに記載の有機EL用塗布液を用いて前記有機発光媒体層のうちの少なくとも1層を湿式法によって素子基板上に塗布する塗布工程と、
前記塗布液に含まれる溶媒を除去することにより前記有機発光媒体層を形成する溶媒除去工程とを備える、有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−77518(P2013−77518A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218050(P2011−218050)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】