説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】駆動電圧の増加を抑制しつつ、十分な発光強度を得ることができ、かつ、長寿命化を図ることができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】陽極と陰極と、陽極と陰極との間に、互いに積層された、複数個の、有機発光層を有する発光ユニットと、それぞれの前記発光ユニットに電流を並列的に供給するための配線部材と、を備える有機エレクトロルミネッセンス素子において、それぞれの前記発光ユニットに電流を並列的に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会の進展と多様化に伴い、従来から一般に使用されているCRTに比べ消費電力が小さく薄型という特徴を持つ表示機器の需要が生まれてきた。そのような要望に対し、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を用いたディスプレイは低消費電力、高速応答、薄型・軽量、視野角依存性が少ない等の特徴を有しており、そのポテンシャルの高さから現在研究開発が盛んに行われている。
【0003】
図4は、従来の有機EL素子の模式的な素子構造断面図である。4は有機EL素子、410は透光性基板、421は透光性の陽極、401uは発光ユニット、481は光反射性の陰極である。発光ユニット401uは、ホール注入層431、ホール輸送層441、発光層451、電子輸送層461及び電子注入層471がこの順に積層されて構成される。この発光ユニット401uは、陽極421上に陽極421表面の一部421aを露出するように設けられている。
【0004】
同図に示す従来の有機EL素子では、陰極(電子注入電極)481と陽極(ホール注入電極)421とからそれぞれ電子とホールとが有機材料から構成される発光ユニット401uへ注入され、これらの電子とホールが発光中心で再結合してエネルギーが発生し、かかるエネルギーにより有機分子が励起状態となり、この有機分子が励起状態から基底状態へと戻るときに発光する原理になっている。そして、光が透光性基板410から外部へ取り出される。この発光現象がディスプレイに応用される。
【0005】
図5は、従来の別の形態に係る有機EL素子の模式的な素子構造断面図である。5は有機EL素子、510は基板、521は光反射性の陽極、501uは発光ユニット、581は透光性の陰極である。発光ユニット501uは、ホール注入層531、ホール輸送層541、発光層551、電子輸送層561及び電子注入層571がこの順に積層されて構成される。この発光ユニット501uは、陽極521上に陽極521表面の一部521aを露出するように設けられている。かかる有機EL素子の発光原理は、図4に示す有機EL素子と同様であるが、光が基板510の反対側から外部へ取り出される。
【0006】
かかる従来の有機EL素子における課題の一つは寿命(発光輝度の半減期)が短いことである。薄型ディスプレイとして開発されている液晶ディスプレイは5万時間以上、プラズマディスプレイも2万時間以上の寿命が達成されている。一方、有機EL素子は数千時間と液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに比べて寿命が短い。現在、有機EL素子の寿命を向上させるため、発光材料をはじめとして各層の材料の改良や電極の最適化等が検討されている。
【0007】
そこで、有機EL素子の寿命を向上させるために、電流が直列的に供給される複数の発光ユニットを備える有機EL素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
図6は、特許文献1に開示された、積層された複数(同図では、2つ)の発光ユニットを備える有機EL素子の素子構造を示す模式的断面図である。図6において、6は有機EL素子、621は陽極、681は陰極、611は中間導電層、601uは第1の発光ユニット、602uは第2の発光ユニットである。なお、図6における有機EL素子の発光ユニット601u及び602uは、図4における発光ユニット401uと同様の層構造を有している。この有機EL素子6では、複数(図6では、2つ)の発光ユニット601u、602uに電流が直列的に供給されて同時に発光することにより、2つの発光ユニットそれぞれの発光輝度の合計となる所定の発光輝度を得ることが出来る。
【0009】
図6に示す従来の有機EL素子では、図4に示す単一の発光ユニットからなる有機EL素子と同じ輝度を得るために、個々の発光ユニットに要求される輝度を低減させることができる。例えば、2つの発光ユニットが積層された有機EL素子6においては、個々の発光ユニット601u及び602uに要求される輝度は、図4に示す単一の発光ユニットから構成される有機EL素子4の2分の1の輝度でよい。したがって、個々の発光ユニット601u及び602uに流れる電流密度を低減でき、電流密度の大きさに起因する個々の発光ユニット601u及び602uの劣化を抑制できるので、有機EL素子6の長寿命化が可能となる。
【特許文献1】特開平11―329748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1には、積層されたn個の発光ユニットが電気的に直列に接続された構造の有機EL素子の場合、発光輝度を同一とすると、駆動電流は単一の発光ユニットから構成される有機EL素子のn分の1でよいが、駆動電圧はn倍となる旨記載されている。
【0011】
したがって、図6に示す構造の有機EL素子では、駆動電圧が高くなるという課題がある。特に、TFTを駆動回路に用いたアクティブマトリクス型有機ELディスプレイでは、TFTの高電圧駆動が困難なため、図6に示す構造の有機EL素子をディスプレイに適用することは困難である。本発明は、かかる課題を解消し、駆動電圧の増加が抑制された長寿命の有機EL素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の第1の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に、有機発光層を有する発光ユニットが複数個積層され、それぞれの発光ユニットには、電流が並列的に供給されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、複数個の発光ユニットから出力された光が合成され、この合成された光が外部に出力されるため、各発光ユニットに流す電流を抑えた状態で、素子全体として十分な発光強度を得ることができる。これにより、各発光ユニットの長寿命化を図ることができる。
【0014】
また、各発光ユニットに電流が並列的に供給されるため、複数の発光ユニットを備えていても駆動電圧が高くなることはない。すなわち、駆動電圧を抑えつつ、十分な発光強度と長寿命化を図ることができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供できる。
【0015】
この発明の第2の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子は、互いに積層された、複数個の、有機発光層を有する発光ユニットと、それぞれの前記発光ユニットに電流を並列的に供給するための配線部材と、を備える。
【0016】
本発明によれば、複数個の発光ユニットから出力された光が合成され、この合成された光が外部に出力されるため、各発光ユニットに流す電流を抑えた状態で、素子全体として十分な発光強度を得ることができる。これにより、各発光ユニットの長寿命化を図ることができる。
【0017】
また、それぞれの発光ユニットに電流を並列的に供給するための配線部材を備えているので、かかる配線部材により各発光ユニットに電流が並列的に供給されるため、複数の発光ユニットを備えていても駆動電圧が高くなることはない。すなわち、駆動電圧を抑えつつ、十分な発光強度と長寿命化を図ることができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供できる。
【0018】
この発明の第3の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子は、第1の陽極上に順次積層された、第1の有機発光層を有する第1の発光ユニットと、陰極と、第2の有機発光層を有する第2の発光ユニットと、第2の陽極と、を有し、前記第1及び第2の発光ユニットのそれぞれに電流が並列的に供給するための配線部材を備える。
【0019】
本発明によれば、第1の陽極、陰極及び配線部材により第1の発光ユニットに電流が供給されることにより発光した光と、前記陰極、第2の陽極及び配線部材により第2の発光ユニットに電流が供給されることにより発光した光が合成されて外部に光が出力されるため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットに流す電流を抑えた状態で、素子全体として十分な発光強度を得ることができる。
【0020】
これにより、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの長寿命化を図ることができる。また、第1の陽極、陰極、第2の陽極及び配線部材により各発光ユニットに電流が並列的に供給されるため、複数の発光ユニットを備えていても駆動電圧が高くなることはない。すなわち、駆動電圧を抑えつつ、十分な発光強度と長寿命化を図ることができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供できる。
【0021】
上記第3の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子において、好ましくは、前記陰極が積層構造を備える。かかる構成によれば、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットそれぞれへの電子注入障壁を別個に調整することができるため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの抵抗を別個に調整することができる。したがって、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの抵抗を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0022】
この場合、好ましくは、前記陰極が、透光性絶縁層を介して積層構造とされている。かかる構成によれば、前記積層構造に係る陰極のうち第2の発光ユニット側に設置される陰極を形成する際に、第1の発光ユニットに与えるダメージを軽減できる。これにより、第1の発光ユニットの長寿命化を図ることができ、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの寿命を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0023】
この発明の第4の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子は、第1の陽極上に順次積層された、第1の有機発光層を有する第1の発光ユニットと、第1の陰極と、第2の陽極と、第2の有機発光層を有する第2の発光ユニットと、第2の陰極と、を有し、前記第1及び第2の発光ユニットのそれぞれに電流が並列的に供給するための配線部材を備える。
【0024】
本発明によれば、第1の陽極、第1の陰極及び配線部材により第1の発光ユニットに電流が供給されることにより発光した光と、第2の陽極、第2の陰極及び配線部材により第2の発光ユニットに電流が供給されることにより発光した光が合成されて外部に光が出力されるため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットに流す電流を抑えた状態で、素子全体として十分な発光強度を得ることができる。
【0025】
これにより、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの長寿命化を図ることができる。また、第1の陽極、第1の陰極、第2の陽極、第2の陰極及び配線部材により各発光ユニットに電流が並列的に供給されるため、複数の発光ユニットを備えていても駆動電圧が高くなることはない。すなわち、駆動電圧を抑えつつ、十分な発光強度と長寿命化を図ることができる。
【0026】
さらに、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットを同じ構造・構成にすることができる。このため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの各抵抗を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0027】
上記第4の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子において、好ましくは、前記第1の陰極と第2の陽極との間に、透光性絶縁層を備える。かかる構成によれば、前記第2の陽極を形成する際に、第1の発光ユニットに与えるダメージを軽減できる。これにより、第1の発光ユニットの長寿命化を図ることができ、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの寿命を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0028】
この発明の第5の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子は、第1の陰極上に順次積層された、第1の有機発光層を有する第1の発光ユニットと、陽極と、第2の有機発光層を有する第2の発光ユニットと、第2の陰極と、を有し、前記第1及び第2の発光ユニットのそれぞれに電流が並列的に供給する配線部材を備える。
【0029】
本発明によれば、第1の陰極、陽極及び配線部材により第1の発光ユニットに電流が供給されることにより発光した光と、前記陽極、第2の陰極及び配線部材により第2の発光ユニットに電流が供給されることにより発光した光が合成されて外部に光が出力されるため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットに流す電流を抑えた状態で、素子全体として十分な発光強度を得ることができる。これにより、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの長寿命化を図ることができる。
【0030】
また、第1の陰極、陽極、第2の陰極及び配線部材により各発光ユニットに電流が並列的に供給されるため、複数の発光ユニットを備えていても駆動電圧が高くなることはない。すなわち、駆動電圧を抑えつつ、十分な発光強度と長寿命化を図ることができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供できる。
【0031】
上記第5の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子において、好ましくは、前記陽極が積層構造である。かかる構成によれば、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットそれぞれへのホール注入障壁を別個に調整することができるため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの抵抗を別個に調整することができる。したがって、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの抵抗を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0032】
この場合、好ましくは、前記陽極が、透光性絶縁層を介して積層構造である。かかる構成によれば、前記積層構造に係る陽極のうち第2の発光ユニット側に設置される陽極を形成する際に、第1の発光ユニットに与えるダメージを軽減できる。これにより、第1の発光ユニットの長寿命化を図ることができ、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの寿命を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0033】
この発明の第6の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子は、第1の陰極上に順次積層された、第1の有機発光層を有する第1の発光ユニットと、第1の陽極と、第2の陰極と、第2の有機発光層を有する第2の発光ユニットと、第2の陽極と、を有し、前記第1及び第2の発光ユニットのそれぞれに電流が並列的に供給するための配線部材を備える。
【0034】
本発明によれば、第1の陰極、第1の陽極及び配線部材により第1の発光ユニットに電流が供給されることにより発光した光と、第2の陰極、第2の陽極及び配線部材により第2の発光ユニットに電流が供給されることにより発光した光が合成されて外部に光が出力されるため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットに流す電流を抑えた状態で、素子全体として十分な発光強度を得ることができる。これにより、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの長寿命化を図ることができる。
【0035】
また、第1の陰極、第1の陽極、第2の陰極、第2の陽極及び配線部材により各発光ユニットに電流が並列的に供給されるため、複数の発光ユニットを備えていても駆動電圧が高くなることはない。すなわち、駆動電圧を抑えつつ、十分な発光強度と長寿命化を図ることができる。
【0036】
さらに、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットを同じ構造・構成にすることができる。このため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの各抵抗を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0037】
上記第6の局面による有機エレクトロルミネッセンス素子において、好ましくは、前記第1の陽極と第2の陰極との間に、透光性絶縁層を備える。かかる構成によれば、第2の陰極を形成する際に、第1の発光ユニットに与えるダメージを軽減できる。これにより、第1の発光ユニットの長寿命化を図ることができ、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの寿命を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0038】
上記の発明において、第1の発光層を有する有機物層中の発光層と第2の発光層を有する有機物層中の発光層は、同じ材料から構成されてもよいし、異なる材料から構成されてもよい。
【0039】
本明細書において、基板とは、TFTを駆動回路として用いたTFT基板も含む。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、複数の発光ユニットに電流が並列的に供給されることにより、長寿命で、かつ、複数の発光ユニットに電流が直列的に供給される有機EL素子と比較して、低電圧で駆動可能な有機EL素子を実現できる。したがって、従来の有機EL素子では実現できなかった長寿命の携帯機器用ディスプレイも実現可能となり、駆動電圧を大きくする必要がある上記特許文献1に記載の有機EL素子と比較して、TFTを駆動回路として用いたアクティブマトリクス型有機ELディスプレイに用いることが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
(第1の実施形態)
次に、図面を参照して本発明に係る第1の実施形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る有機EL素子の模式的な素子構造断面図である。
【0042】
図1において、1は有機EL素子であり、透光性基板110上には透光性の第1の陽極121が形成されている。101uは、ホール注入層131、ホール輸送層141、第1の発光層151、電子輸送層161及び電子注入層171がこの順に積層されて構成される第1の発光ユニットである。第1の発光ユニット101uは、第1の陽極121上に第1の陽極121表面の一部121aを露出するように設けられている。181は発光ユニット101u上に形成された透光性の陰極である。
【0043】
102uは電子注入層172、電子輸送層162、第2の発光層152、ホール輸送層142及びホール注入層132がこの順に積層されて構成される第2の発光ユニットである。第2の発光ユニット102uは、陰極181上に陰極181表面の一部181aを露出するように設けられている。122は第2の発光ユニット102u上に形成された光反射性の第2の陽極である。
【0044】
このように、本実施形態に係る有機EL素子1は、陰極181が第1の発光ユニット101uと第2の発光ユニット102uに対して共通の陰極となる構成を有している。
【0045】
さらに、第1の陽極121表面の一部121a及び第2の陽極122が共通電源1000の一方の端子側と配線部材1020、1021及び1022により電気的に接続されると共に、陰極181の一部181aが配線部材1081により共通電源1000の他方の端子側と電気的に接続されている。
【0046】
上述したように、本実施形態に係る有機EL素子1にあっては、透光性基板110の膜形成面とは垂直方向に第1の発光ユニット101u及び第2の発光ユニット102uが積層されており、第1の発光ユニット101uと第2の発光ユニット102uが、配線部材により電気的に並列に接続されている。ここで、配線部材とは、1020、1021、1022、1081の他、第1の陽極121、陰極181、第2の陽極122を含む。
【0047】
この構成では、共通電源1000を用いて、第1の陽極121と陰極181の間及び第2の陽極122と陰極181の間に電流が供給されることにより、第1、第2の発光ユニット101u、102uが同時に発光し、第2の発光ユニット102uから発光した光が透光性の陰極181、第1の発光ユニット101u及び透光性の第1の陽極121を介して基板110から外部に出力されると共に、第1の発光ユニット101uから発光した光も透光性の第1の陽極121を介して基板110から外部に出力される。
【0048】
このように、本実施形態に係る有機EL素子1によれば、第1、第2の発光ユニット101u、102uから出力された光が合成され、この合成された光が基板110から外部に出力される。このため、図4に示した発光ユニット401u単一の発光ユニットから構成される有機EL素子4と同じ発光輝度を得るために、有機EL素子1の第1の発光ユニット101u、第2の発光ユニット102uに流す電流は、有機EL素子4の発光ユニット401uに流す電流よりも少なくてすむ。また、有機EL素子は、素子中に流れる電流が小さいほど素子の劣化が小さく寿命が長いため、有機EL素子4の発光ユニット401uよりも有機EL素子1の発光ユニット101u、第2の発光ユニット102uの方が劣化が小さい。したがって、有機EL素子4よりも有機EL素子1の方が寿命は長い。
【0049】
一方、図6に記載した直列接続構造を有する従来の有機EL素子6によっても、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子4よりも長寿命化を図れる。しかし、かかる直列接続構造の有機EL素子では、前述したように、駆動電圧が高くなる。したがって、直列接続構造の有機EL素子では、有機EL素子のメリットの一つである低電圧駆動が困難であるため、低駆動電圧が要求されるTFT基板を用いたアクティブマトリクス構造の有機ELディスプレイを実現することは困難である。かかる直列接続構造を有する従来の有機EL素子に対し、本発明の有機EL素子1によれば、積層された発光ユニット101u、102uが電気的に並列に接続されているので、同じ電流密度の電流を流すために有機EL素子1に印加する電圧を、直列接続構造を有する有機EL素子6よりも小さくすることができる。
【0050】
このように、本発明の有機EL素子1によれば、長寿命で且つ駆動電圧の小さい有機EL素子を提供できる。
【0051】
なお、第1の発光層151及び第2の発光層152は、それぞれが異なる発光色を有する複数の発光層の積層構造でもよい。例えば、第1の発光層151及び第2の発光層152として、補色関係にある青色発光層とオレンジ色発光層の積層構造とし、出射光として白色発光を得る構成でもかまわない。また、第1の発光層151と第2の発光層152は同じ発光色の発光層でもよいし、異なる発光色の発光層でもかまわない。後者としては、例えば、第1の発光層151として青色発光層、第2の発光層152としてオレンジ色発光層を用いて、出射光として白色発光を得る構成でもかまわない。
【0052】
また、第1実施形態に係る有機EL素子1においては陰極を共有している構成について説明したが、陰極が異なる材料からなる積層構造であってもかまわない。
【0053】
そのため、陰極181として異なる材料からなる積層構造を用いることにより、第1の発光ユニット101u、第2の発光ユニット102uそれぞれへの電子注入障壁を別個に調整することができる。したがって、第1の発光ユニット101u、第2の発光ユニット102uの抵抗を別個に調整することができる。よって、本発明に係る第2の実施形態よりも、第1、第2の発光ユニットの抵抗を揃えることが容易であるため、より長寿命な素子を得ることができる。
【0054】
また、上述したように陰極181が異なる材料からなる積層構造である場合に、該異なる材料からなる陰極間に透光性絶縁層を備えてもかまわない。
【0055】
かかる構成によれば、前記積層構造に係る陰極のうち第2の発光ユニット側に設置される陰極を形成する際に、第1の発光ユニット101uに与えるダメージを軽減できる。これにより、第1の発光ユニット101uの長寿命化を図ることができ、第1の発光ユニット101uと第2の発光ユニット102uの寿命を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0056】
さらに、第1の実施形態に係る有機EL素子1においては、第1の陽極上に第1の発光ユニット、陰極、第2の発光ユニット及び第2の陽極が順次積層された構成について説明したが、第1の陰極上に第1の発光ユニット、陽極、第2の発光ユニット及び第2の陰極が順次積層された構成であってもかまわない。この場合においても、陽極が異なる材料からなる積層構造であってもかまわない。また、同様に該異なる材料から成る陽極間に透光性絶縁層を備えてもかまわない。
【0057】
(第2の実施形態)
次に、図面を参照して本発明に係る第2の実施形態について説明する。図2は、本発明の第2の実施形態に係る有機EL素子の模式的な素子構造断面図である。
【0058】
図2において、2は有機EL素子であり、透光性基板210上には透光性の第1の陽極221が形成されている。201uは、ホール注入層231、ホール輸送層241、第1の発光層251、電子輸送層261及び電子注入層271がこの順に積層されて構成される第1の発光ユニットである。第1の発光ユニット201uは、第1の陽極221上に、第1の陽極221表面の一部221aを露出するように設けられている。281は発光ユニット201u上に形成された透光性の第1の陰極である。
【0059】
290は第1の陰極281表面の一部281aを露出するように陰極281上に形成された透光性の絶縁層である。
【0060】
222は透光性の絶縁層290上に形成された透光性の第2の陽極であり、202uは、ホール注入層232、ホール輸送層242、第2の発光層252、電子輸送層262及び電子注入層272がこの順に積層されて構成される第2の発光ユニットである。第2の発光ユニット202uは、第2の陽極222上に第2の陽極222表面の一部222aを露出するように設けられている。282は第2の発光ユニット202u上に形成された光反射性の第2の陰極である。
【0061】
さらに、第1の陽極221表面の一部221a及び第2の陽極表面222の一部222aが共通電源2000の一方の端子側と配線部材2020、2021及び2022により電気的に接続されると共に、第1の陰極281表面の一部281a及び第2の陰極282が配線部材2080、2081及び2082により共通電源2000の他方の端子側と電気的に接続されている。
【0062】
本実施形態に係る有機EL素子が第1実施形態に係る有機EL素子と異なる点は、陽極/発光ユニット/陰極の構造を有する2つの素子が、この順で積層されている点である。
【0063】
上述したように、本実施形態に係る有機EL素子2にあっては、透光性基板210の膜形成面とは垂直方向に第1の発光ユニット201u及び第2の発光ユニット202uが積層されており、第1の発光ユニット201uと第2の発光ユニット202uが、配線部材により電気的に並列に接続されている。ここで、配線部材とは、2020、2021、2022、2080、2081及び2082の他、第1の陽極221、第1の陰極281、第2の陽極222、第2の陰極282を含む。
【0064】
この構成では、共通電源2000を用いて、第1の陽極221と第1の陰極281の間及び第2の陽極222と第2の陰極282の間に電流が供給されることにより、第1、第2の発光ユニット201u、202uが同時に発光し、第2の発光ユニット202uから発光した光が透光性の第2の陽極222、透光性絶縁膜290、透光性の第1の陰極281、第1の発光ユニット201u及び透光性の第1の陽極221を介して基板210から外部に出力されると共に、第1の発光ユニット201uから発光した光も透光性の第1の陽極221を介して基板210から外部に出力される。
【0065】
このように、本実施形態に係る有機EL素子1によれば、第1、第2の発光ユニット201u、202uから出力された光が合成され、この合成された光が基板210から外部に出力される。このため、図4に示した発光ユニット401u単一の発光ユニットから構成される有機EL素子4と同じ発光輝度を得るために、有機EL素子2の第1の発光ユニット201u、第2の発光ユニット202uに流す電流は、有機EL素子4の発光ユニット401uに流す電流よりも少なくてすむ。また、有機EL素子は、素子中に流れる電流が小さいほど素子の劣化が小さく寿命が長いため、有機EL素子4の発光ユニット401uよりも有機EL素子2の発光ユニット201u、第2の発光ユニット202uの方が劣化が小さい。したがって、有機EL素子4よりも有機EL素子2の方が寿命は長い。
【0066】
一方、図6に記載した直列接続構造を有する従来の有機EL素子6によっても、単一の発光ユニットか構成される有機EL素子4よりも長寿命化を図れる。しかし、かかる直列接続構造の有機EL素子では、前述したように、駆動電圧が高くなる。したがって、直列接続構造の有機EL素子では、有機EL素子のメリットの一つである低電圧駆動が困難であるため、低駆動電圧が要求されるTFT基板を用いたアクティブマトリクス構造の有機ELディスプレイを実現することは困難である。かかる直列接続構造を有する従来の有機EL素子に対し、本発明の有機EL素子2によれば、積層された発光ユニット201u、202uが電気的に並列に接続されているので、同じ電流密度の電流を流すために有機EL素子2に印加する電圧を、直列接続構造を有する有機EL素子6よりも小さくすることができる。
【0067】
このように、本発明の有機EL素子2によれば、長寿命で且つ駆動電圧の小さい有機EL素子を提供できる。
【0068】
なお、第1の発光層251及び第2の発光層252は、異なる発光色を有する複数の発光層の積層構造でもよい。例えば、第1の発光層251及び第2の発光層252として、それぞれ青色発光層とオレンジ色発光層の積層構造とし、出射光として白色発光を得る構成でもかまわない。また、第1の発光層251と第2の発光層252は同じ発光色の発光層でもよいし、異なる発光色の発光層でもかまわない。後者としては、例えば、第1の発光層251として青色発光層、第2の発光層252としてオレンジ色発光層を用いて、出射光として白色発光を得る構成でもかまわない。
【0069】
本実施形態によれば、第1の発光ユニット201u及び第2の発光ユニット202uを同じ構造・構成にすることができる。このため、第1の発光ユニット201u及び第2の発光ユニット202uの各抵抗を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0070】
さらに、第2の実施形態に係る有機EL素子2においては、第1の陽極上に第1の発光ユニット、第1の陰極、透光性絶縁層、第2の陽極、第2の発光ユニット及び第2の陰極が順次積層された構成について説明したが、第1の陰極上に第1の発光ユニット、第1の陽極、透光性絶縁層、第2の陰極、第2の発光ユニット及び第2の陽極が順次積層された構成であってもかまわない。
【0071】
(第3の実施形態)
次に、図面を参照して本発明に係る第3の実施形態について説明する。図3は、本発明の第3の実施形態に係る有機EL素子の模式的な素子構造断面図である。
【0072】
第1の実施形態に係る有機EL素子1の基板側の陽極121が透光性、基板の反対側の陽極122が光反射性であるのに対し、本実施形態に係る有機EL素子3の基板側の陽極321が光反射性、基板の反対側の陽極322が透光性である点で異なる。
【0073】
図3において、3は有機EL素子であり、基板310上には光反射性の第1の陽極321が形成されている。301uは、ホール注入層331、ホール輸送層341、第1の発光層351、電子輸送層361及び電子注入層371がこの順に積層されて構成される第1の発光ユニットである。第1の発光ユニット301uは、第1の陽極321上に第1の陽極321表面の一部321aを露出するように設けられている。381は発光ユニット301u上に形成された透光性の陰極である。
【0074】
302uは、電子注入層372、電子輸送層362、第2の発光層352、ホール輸送層342及びホール注入層332がこの順に積層されて構成される第2の発光ユニットである。第2の発光ユニット302uは、陰極381上に陰極381表面の一部381aを露出するように設けられている。322は第2の発光ユニット302u上に形成された透光性の第2の陽極である。
【0075】
このように、本実施形態に係る有機EL素子3は、陰極381が第1の発光ユニット301uと第2の発光ユニット302uに対して共通の陰極となる構成を有している。
【0076】
さらに、第1の陽極321表面の一部321a及び第2の陽極322が共通電源3000の一方の端子側と配線部材3020、3021及び3022により電気的に接続されると共に、陰極381表面の一部381aが配線部材3081により共通電源3000の他方の端子側と電気的に接続されている。
【0077】
上述したように、本実施形態に係る有機EL素子3にあっては、透光性基板310の膜形成面とは垂直方向に第1の発光ユニット301u及び第2の発光ユニット302uが積層されており、第1の発光ユニット301uと第2の発光ユニット302uが、配線部材により電気的に並列に接続されている。ここで、配線部材とは、3020、3021、3022、3081の他、第1の陽極321、陰極381、第2の陽極322を含む。
【0078】
この構成では、共通電源3000を用いて、第1の陽極321と陰極381の間及び第2の陽極322と陰極381の間に電流が供給されることにより、第1、第2の発光ユニット301u、302uが同時に発光し、第1の発光ユニット301uから発光した光が透光性の陰極381及び第2の発光ユニット302u及び透光性の第2の陽極322を介して基板310の反対側から外部に出力されると共に、第2の発光ユニット302uから発光した光も透光性の第2の陽極322を介して基板310の反対側から外部に出力される。
【0079】
このように、本実施形態に係る有機EL素子3によれば、第1、第2の発光ユニット301u、302uから出力された光が合成され、この合成された光が第2の陽極322から外部に出力される。このため、図5に示した発光ユニット501u単一の発光ユニットから構成される有機EL素子5と同じ発光輝度を得るために、有機EL素子3の第1の発光ユニット301u、第2の発光ユニット302uに流す電流は、有機EL素子5の発光ユニット501uに流す電流よりも少なくてすむ。また、有機EL素子は、素子中に流れる電流が小さいほど素子の劣化が小さく寿命が長いため、有機EL素子5の発光ユニット501uよりも有機EL素子3の発光ユニット301u、第2の発光ユニット302uの方が劣化が小さい。したがって、有機EL素子5よりも有機EL素子3の方が寿命は長い。
【0080】
一方、図6に記載した直列接続構造を有する従来の有機EL素子6によっても、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子4よりも長寿命化を図れる。しかし、かかる直列接続構造の有機EL素子では、前述したように、駆動電圧が高くなる。したがって、直列接続構造の有機EL素子では、有機EL素子のメリットの一つである低電圧駆動が困難であるため、低駆動電圧が要求されるTFT基板を用いたアクティブマトリクス構造の有機ELディスプレイを実現することは困難である。かかる直列接続構造を有する従来の有機EL素子に対し、本発明の有機EL素子3によれば、積層された発光ユニット301u、302uが電気的に並列に接続されているので、同じ電流密度の電流を流すために有機EL素子3に印加する電圧を、直列接続構造を有する有機EL素子6よりも小さくすることができる。
【0081】
このように、本発明の有機EL素子3によれば、長寿命で且つ駆動電圧の小さい有機EL素子を提供できる。
【0082】
駆動回路としてTFTを用いたアクティブマトリクス発光装置を作製する場合、本発明の第1の実施形態に係る有機EL素子においては、透光性を有しないTFTに光が遮断されるため開口率が低いのに対し、本発明の第3の実施形態に係る有機EL素子においては、TFT基板の反対側から光が出射されるため、本発明に係る第1の実施形態を用いた場合よりも、本発明に係る第3の実施形態を用いた方が開口率が高いという利点がある。
【0083】
なお、第1の発光層351及び第2の発光層352は、異なる発光色を有する複数の発光層の積層構造でもよい。例えば、第1の発光層351及び第2の発光層352として、それぞれ青色発光層とオレンジ色発光層の積層構造とし、出射光として白色発光を得る構成でもかまわない。また、第1の発光層351と第2の発光層352は同じ発光色の発光層でもよいし、異なる発光色の発光層でもかまわない。後者としては、例えば、第1の発光層351として青色発光層、第2の発光層352としてオレンジ色発光層を用いて、出射光として白色発光を得る構成でもかまわない。
【0084】
また、第3の実施形態に係る有機EL素子3においては陰極を共有している構成について説明したが、陰極が異なる材料からなる積層構造であってもかまわない。
【0085】
そのため、陰極381として異なる材料からなる積層構造を用いることにより、第1の発光ユニット301u、第2の発光ユニット302uそれぞれへの電子注入障壁を別個に調整することができる。したがって、第1の発光ユニット301u、第2の発光ユニット302uの抵抗を別個に調整することができる。よって、本発明に係る第3の実施形態よりも、第1、第2の発光ユニットの抵抗を揃えることが容易であるため、より長寿命な素子を得ることができる。
【0086】
また、上述したように陰極381が異なる材料からなる積層構造である場合に、該異なる材料からなる陰極間に透光性絶縁層を備えてもかまわない。
【0087】
かかる構成によれば、前記積層構造に係る陰極のうち第2の発光ユニット302u側に設置される陰極を形成する際に、第1の発光ユニット301uに与えるダメージを軽減できる。これにより、第1の発光ユニット301uの長寿命化を図ることができ、第1の発光ユニット301uと第2の発光ユニット302uの寿命を揃えることが容易にできるため、より長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0088】
さらに、第3の実施形態に係る有機EL素子3においては、第1の陽極上に第1の発光ユニット、陰極、第2の発光ユニット及び第2の陽極が順次積層された構成について説明したが、第1の陰極上に第1の発光ユニット、陽極、第2の発光ユニット及び第2の陰極が順次積層された構成であってもかまわない。この場合においても、陽極が異なる材料からなる積層構造であってもかまわない。また、同様に該異なる材料から成る陽極間に透光性絶縁層を備えてもかまわない。また、第1の陰極上に第1の発光ユニット、第1の陽極、透光性絶縁層、第2の陰極、第2の発光ユニット、第2の陽極が順次積層された構成であってもかまわない。
【0089】
上述した各実施形態では、2つの発光ユニットが同色の発光を行う構成とすることにより、駆動電圧を抑えつつ十分な強度の同色の発光を得ることができる。また、各発光ユニットが異なる色の発光を行う場合でも、異なる色の発光層を積層した単一の発光ユニットからなる有機EL素子と比較して、駆動電圧を抑えつつ十分な強度の発光を得ることができる。
【0090】
また、上述した各実施形態の素子として2つの発光ユニットが積層された構造について説明したが、3つ以上の発光ユニットが積層されていてもよい。
【0091】
本発明の実施形態に係る有機EL素子は、前記のように、発光ユニットが複数存在し、該複数の発光ユニットの少なくとも2つ以上が電気的に並列接続されていることを特徴とする。
【0092】
本発明において、発光ユニットとは、主に有機化合物からなる発光層を含む積層構造を有し、陽極と陰極との間に所定電圧を印加したとき発光しうるものである。
【0093】
本発明にかかる発光ユニットの構成としては、例えば、発光層、ホール輸送層/発光層、発光層/電子輸送層、ホール輸送層/発光層/電子輸送層、ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層、ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層などが挙げられる。
本発明による有機EL素子においては、発光ユニットが複数存在するものであれば、該発光ユニットは、いかなる積層構造を有していてもかまわない。また、発光ユニットは同一構造・構成でもよいが、異なるようにしてもよい。
【0094】
さらに、発光層、ホール輸送層、ホール注入層、電子輸送層、電子注入層などに用いられる物質についても、特に制限はなく、任意の物質でよい。発光層に用いられる発光材料についても、特に制限はなく、任意の材料が用いられてもよく、例えば、各種の蛍光材料、燐光材料等が挙げられる。また、発光層は単層でもよいし、多層構造であってもよい。
【0095】
本発明の有機EL素子において、陽極材料としては、一般的には、仕事関数の大きい材料、具体的には、ITO(インジウム−スズ酸化物)、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)などの導電性金属酸化物が挙げられるが、導電性金属酸化物の背面に反射率の高いメタル層を配設してもよい。また、反射板としても機能する場合には、Al、Agなどの金属あるいはそれらの合金を用いてもよい。
【0096】
本発明の有機EL素子において、陰極材料としては、一般的には、仕事関数の小さい金属、またそれらを含む合金、金属酸化物等を用いるのが好ましい。例えば、Li等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属、Eu等の希土類金属等からなる金属単体、あるいは、これらの金属とAl、Ag、In等との合金、或いは該金属のフッ化物または酸化物等が挙げられる。また、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの間に位置する場合は、光を透過する厚みに形成される。
【0097】
本発明の有機EL素子において、上述した隣接する発光ユニット間に設置された透光性絶縁層290を形成する材料としては、一般に、可視光の透過率が50%以上の透光性絶縁材料を用いることが望ましい。可視光透過率が50%以下であると、生成した光が該絶縁層を通過する際に吸収され、複数の発光ユニットを積層しても発光効率が下がってしまう。このような透光性絶縁材料としては、例えば、SiOx、SiNx、SiON、SiAlON、SiOF、Al23、Ga23、Ta25などの無機酸化物等が挙げられる。別の好ましい透光性絶縁材料は、高分子材料である。例えば、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリキノリン等が挙げられる。
【0098】
本発明によると、複数の発光ユニットが基板上に垂直方向に積層され、電気的に並列に接続することにより、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子と同輝度を得るためには、複数の発光ユニットそれぞれに流す電流を低減することができる。
【0099】
例えば、n個の発光ユニットが積層され、電気的に並列に接続されている本発明に係る有機EL素子と、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子に同じ電圧Vが印加された場合、本発明にかかる有機EL素子は電気的に並列に接続されているためn個の発光ユニットそれぞれに電圧Vが印加され、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子と同じ輝度でn個の発光ユニットそれぞれが発光する。さらに、本発明に係る有機EL素子はn個の複数の発光ユニットが積層された構成であるため、n個の発光ユニットからの光が合成されて外部に照射される。したがって、本発明にかかる有機EL素子では、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子と同じ電圧が印加された場合には、そのn倍の発光輝度を得ることができる。
【0100】
また、有機EL素子の発光輝度は電流密度にほぼ比例するため、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子と同じ発光輝度を得るためには、本発明にかかる有機EL素子のn個の発光ユニットそれぞれには、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子の場合のn分の1の電流を流せばよい。この場合の本発明にかかる有機EL素子の駆動電圧は、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子の駆動電圧より大幅に低くなる。
【0101】
また、有機EL素子に流れる電流が小さいほど、発光ユニットの劣化が小さいため、有機EL素子の寿命は長い。したがって、本発明に係る有機EL素子では、単一の発光ユニットの場合と比較して、各発光ユニットに流れる電流が少ないことにより各発光ユニットの劣化が抑制されるため、n個の発光ユニットそれぞれの寿命は長くなる。よって、n個の発光ユニットを電気的に並列に接続した本発明にかかる有機EL素子は、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子の場合よりも寿命は長くなる。
【0102】
一方、複数の発光ユニットを電気的に直列に接続した有機EL素子の場合、各発光ユニットに単一の発光ユニットから構成される有機EL素子と同じ電流を流すためには、駆動電圧は発光ユニット倍となるため、高電圧が必要となる。すなわち、複数の発光ユニットを電気的に直列に接続した有機EL素子の場合、発光閾値電圧が高いため、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子を駆動する電圧が印加されても十分な発光輝度を得ることができない。
【0103】
したがって、本発明にかかる有機EL素子は、単一の発光ユニットからなる有機EL素子より長寿命であり、かつ、複数の発光ユニットを電気的に直列に接続した有機EL素子よりも低電圧で駆動可能である。
【0104】
さらに、本発明にかかる有機EL素子は、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子と比較して、長寿命であるのに加え、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子では十分な発光輝度を得ることが困難な発光材料の組み合わせを用いても、十分な発光輝度を得ることができる。
【0105】
例えば、青色発光層とオレンジ色発光層の積層構造により白色発光素子は実現されるが、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子では、青色発光層とオレンジ色発光層を直接積層する必要があるため、青色発光材料とオレンジ色発光材料の組み合わせの選択肢が少ない。一例として、青色発光層とオレンジ色発光層はともに一重項発光材料(蛍光発光材料)同士、もしくは、ともに三重項発光材料(燐光発光材料)同士でないと十分な発光輝度を得ることができない。例えば、青色の一重項発光材料とオレンジ色の三重項発光材料の積層構造では発光効率が低く、寿命が短い素子しか得られていない。それに対して、本発明にかかる有機EL素子では、第1の発光層にオレンジ色発光材料、第2の発光層に青色発光材料を用いると、オレンジ色発光材料と青色発光材料を直接積層する必要がないため、その組み合わせの選択肢は多くなり、オレンジ色三重項発光材料と青色一重項発光材料の組み合わせでも十分な発光輝度を得ることができる。
【0106】
また、単一の発光ユニットから構成される有機EL素子において、その発光ユニットに赤、緑、青色発光層の積層構造を用いた場合、発光中心を三層のどの位置にするかで三色それぞれの発光輝度が大きく変わり、そのバランスによって素子の色度が大きく変わるため、所望の色度を得るために発光中心の設計が困難である。それに対し、本発明にかかる有機EL素子においては、例えば、第1、第2、第3の発光ユニットにそれぞれ、青、緑、赤色の発光層を用いることにより、それぞれの色(発光ユニット)ごとに発光中心の設計が可能であるため、色度の調整が容易である。
【0107】
上記のような複数の発光ユニットが電気的に並列に接続された有機EL素子の場合、各発光ユニットの抵抗値に大きな差があると、抵抗値の小さい発光ユニットに電流が集中して流れるため、この抵抗値の小さい発光ユニットの寿命は小さいものとなる。したがって、複数の発光ユニットの合計輝度の低下が早いため、複数の発光ユニット全体としての寿命は小さいものとなる。そこで、複数の発光ユニット全体としての寿命を長くするためには、各発光ユニットの抵抗値をそろえる必要がある。そのためには、所望の抵抗値をもつ発光ユニットを形成する必要がある。そのためには、例えば、抵抗値の小さい発光ユニットを得るためには、発光ユニット内のある層の膜厚を小さくする、発光層にドーパントをドープすること等が有効である。一方で、単純に発光ユニット内のある層の膜厚を小さくしたり、発光層に不適切なドーパントをドープすると、ホールと電子のキャリアバランスが崩れ、寿命が落ちたり、白色素子の場合に色度が変化したりすることがあるため、これらを防ぐように発光ユニットの抵抗値の調整をする必要がある。発光ユニットの抵抗値の調整の具体的な対策としては、ホールが少ない場合には、ホール輸送層の膜厚を小さくする、あるいは、発光層に、発光層中でホール輸送に寄与するホール輸送性ドーパントをドープする方法等を用いて、ホールが発光層内に注入されやすくすること等により発光ユニットの抵抗値を小さくすることができる。また、電子が少ない場合には、電子輸送層の膜厚を小さくする、あるいは、発光層に、発光層中で電子輸送に寄与する電子輸送性の補助ドーパントをドープする方法等を用いて、電子が発光層内に注入されやすくすること等により発光ユニットの抵抗値を小さくすることができる。
【0108】
[実施例1]
本実施例は、上述した第1の実施形態の例である。図7(a)は、本発明の実施例1に係る有機EL素子を示す模式的上面図である。また、図7(b)は、図7(a)におけるAB間の断面を示す模式図である。ガラス基板110の上に、第1の陽極121が、エッチングによりパターニングすることによって、ライン状に形成されている。第1の陽極121上に第1の発光ユニット101uが、マスクによりパターニングすることにより、第1の陽極121表面の一部121aを露出するように形成されている。第1の発光ユニット101u上に、マスクによりパターニングすることによって、陰極181が第1の陽極121と垂直な方向にライン状に、第1の陽極121と接触しないように形成されている。陰極181上に第2の発光ユニット102uが、マスクによりパターニングすることによって、第1の陽極121表面の一部121aを露出するように形成されている。第2の発光ユニット102u上に、第2の陽極122が、マスクによりパターニングすることにより、陰極181と接触しないように、かつ、第2の陽極122の延長である配線部材1022が、第1の陽極121表面の一部121aと接触するように形成されている。また、第1の陽極121の延長である配線部材1020及び1021が共通電源(図示せず)の一方の端子側と接続され、陰極181の延長である配線部材1081が共通電源(図示せず)の他方の端子側と接続されている。
【0109】
すなわち、第1の陽極121表面の一部121a及び第2の陽極122が共通電源(図示せず)の一方の端子側と配線部材1020、1021及び1022により電気的に接続されると共に、陰極181表面の一部181aが配線部材1081により共通電源(図示せず)の他方の端子側と電気的に接続されている。かかる構成により、第1の発光ユニット101u及び第2の発光ユニット102uのそれぞれには、電流が並列的に供給される。
【0110】
本実施例では、図1、図7(a)及び図7(b)の有機EL素子構造において、第1の陽極121としてITO、ホール注入層131としてCuPc、ホール輸送層141としてNPB、第1の発光層151と電子輸送層161としてAlq、電子注入層171としてLi2O、陰極181としてAg、電子注入層172としてAlq:Li、電子輸送層162と第2の発光層152としてAlq、ホール輸送層142としてNPB、ホール注入層132としてCuPc、第2の陽極122としてAlを用いた。
【0111】
ここで、上記構造を有する有機EL素子を以下のようにして作製した。まず、シート抵抗値20Ω/□のITOが60nmの厚さに成膜されたガラス基板110に酸素プラズマ処理を施した。次に、前記ITOからなる第1の陽極121上に、CuPcを蒸着により10nmの厚さに成膜して、ホール注入層131を形成した。次に、前記ホール注入層131上に、NPBを蒸着により50nmの厚さに成膜して、ホール輸送層141とした。次に、前記ホール輸送層141上に、Alqを蒸着により70nmの厚さに成膜した。該Alqは第1の発光層151と電子輸送層161とを兼ねている。次に、前記電子輸送層161上に、Li2Oを蒸着により、0.5nmの厚さに成膜して電子注入層171とした。前記電子注入層171上に、Agを蒸着により、20nmの厚さに成膜して陰極181とした。
【0112】
次に、上記Agからなる陰極181上に、LiとAlqを同時に蒸着することにより、Alq:Liを10nmの厚さに成膜して電子輸送層172とした。次に、前記電子注入層172上に、Alqを蒸着により、60nmの厚さに成膜して電子輸送層162と第2の発光層152とした。次に、前記第2の発光層152に、NPBを蒸着により、50nmの厚さに成膜してホール輸送層142とした。次に、前記ホール輸送層142上に、CuPcを蒸着により、10nmの厚さに成膜してホール注入層132とした。次に、前記ホール注入層132上に、Alを蒸着により、200nmの厚さに成膜して第2の陽極122とした。該Alは、電極としてのみではなく、反射板としての機能も有する。
【0113】
[実施例2]
本発明の実施例2に係る有機EL素子の構造は実施例1と同様である。本実施例では、ガラス基板110上に第1の陽極121、ホール注入層131、ホール輸送層141、第1の発光層151、電子輸送層161、電子注入層171及び陰極181が順に形成されている。さらに、該陰極181上に、電子注入層172、電子輸送層162、第2の発光層152、ホール輸送層142、ホール注入層132及び第2の陽極122が形成されている。
【0114】
本実施例では、第1の陽極121としてITO、ホール注入層131としてCuPc、ホール輸送層141としてNPB、第1の発光層151と電子輸送層161としてAlq、電子注入層171としてLi2O、陰極181としてAg、電子注入層172としてAlq:Li、電子輸送層162と第2の発光層152としてAlq、ホール輸送層142としてNPB、ホール注入層132としてCuPc、第2の陽極122としてAlを用いた。本実施例は、電子輸送層162と第2の発光層152として用いたAlqの膜厚、及びホール輸送層142として用いたNPBの膜厚が実施例1と異なる。
【0115】
ここで、上記構造を有する有機EL素子を以下のようにして作製した。シート抵抗値20Ω/□のITOが60nmの厚さに成膜されたガラス基板110の酸素プラズマ処理の後、前記ITOからなる第1の陽極121上に、CuPcからなるホール注入層131、NPBからなるホール輸送層141、Alqからなる第1の発光層151と電子輸送層161、Li2Oからなる電子注入層171、Agからなる陰極181を実施例1と同様に成膜した。
【0116】
次に、上記Agからなる陰極181上に、LiとAlqを同時に蒸着することにより、Alq:Liを10nmの厚さに成膜して電子注入層172とした。次に、前記電子注入層172上に、Alqを蒸着により、40nmの厚さに成膜して第2の発光層152と電子輸送層162とした。次に、前記電子輸送層162上に、NPBを蒸着により、30nmの厚さに成膜してホール輸送層142とした。次に、前記ホール輸送層142上に、CuPcを蒸着により、10nmの厚さに成膜してホール輸送層132とした。次に、前記ホール注入層132上に、Alを蒸着により、200nmの厚さに成膜して第2の陽極122とした。該Alは、電極としてのみではなく、反射板としての機能も有する。
【0117】
[実施例3]
本実施例は、上述した第2の実施形態の例である。図8は、本発明の実施例3に係る有機EL素子を示す模式的上面図である。また、図9(a)、図9(b)は、図8における、それぞれCD間、EF間の断面を示す模式図である。ガラス基板210の上に、第1の陽極221が、エッチングによりパターニングすることによって、ライン状に形成されている。第1の陽極221上に第1の発光ユニット201uが、マスクによりパターニングすることにより、第1の陽極221表面の一部221aを露出するように形成されている。第1の発光ユニット201u上に、マスクによりパターニングすることによって、第1の陰極281が第1の陽極221と垂直な方向にライン状に、第1の陽極221と接触しないように形成されている。陰極281上に、透明絶縁層290が、マスクによりパターニングすることにより、第1の陽極221表面の一部221a及び第1の陰極281表面の一部281aを露出するように形成されている。ただし、図8においては、本実施例に係る有機EL素子の構造をわかりやすく図示するために、透明絶縁層290は外周線のみ記載されている。
【0118】
透明絶縁層290上に、第2の陽極222が、マスクによりパターニングすることにより、第1の陰極281と接触しないように、かつ、第2の陽極222の延長である配線部材2022が、第1の陽極221表面の一部221aと接触するように形成されている。第2の陽極222上に、第2の発光ユニット202uが、マスクによりパターニングすることにより、第1の陰極281表面の一部281a及び第2の陽極222表面の一部222aを露出するように形成されている。第2の発光ユニット202u上に、第2の陰極282が、マスクによりパターニングすることにより、第1の陽極221及び第2の陽極222と接触しないように、かつ、第2の陰極282の延長である配線部材2082が、第1の陰極281表面の一部281aと接触するように形成されている。
【0119】
また、第1の陽極221の延長である配線部材2020及び2021が共通電源(図示せず)の一方の端子側と接続され、第1の陰極281の延長である配線部材2080及び2081が共通電源(図示せず)の他方の端子側と接続されている。
【0120】
すなわち、第1の陽極221表面の一部221a及び第2の陽極222が共通電源(図示せず)の一方の端子側と配線部材2020、2021及び2022により電気的に接続されると共に、第1の陰極281表面の一部281a及び第2の陰極282が共通電源(図示せず)の他方の端子側と配線部材2080、2081及び2082により電気的に接続されている。かかる構成により、第1の発光ユニット201u及び第2の発光ユニット202uのそれぞれには、電流が並列的に供給される。
【0121】
本実施例では、図2、図8、図9(a)及び図9(b)の有機EL素子構造において、第1の陽極221としてITO、ホール注入層231としてCuPc、ホール輸送層241としてNPB、第1の発光層251と電子輸送層261としてAlq、電子注入層271としてLi2O、第1の陰極281としてAg、透光性絶縁層290としてSiO2、第2の陽極222としてIZO、ホール注入層232としてCuPc、ホール輸送層242としてNPB、第2の発光層252と電子輸送層262としてAlq、第2の陰極282としてAlを用いた。
【0122】
ここで、上記構造を有する有機EL素子を以下のようにして作製した。シート抵抗値20Ω/□のITOが60nmの厚さに成膜されたガラス基板210の酸素プラズマ処理の後、前記ITOからなる第1の陽極221上に、CuPcからなるホール注入層231、NPBからなるホール輸送層241、Alqからなる第1の発光層251と電子輸送層261、Li2Oからなる電子注入層271、Agからなる第1の陰極281を実施例1と同様に成膜した。
【0123】
次に、前記第1の陰極281上に、SiO2を蒸着により、50nmの厚さに成膜して透光性絶縁層290とした。次に、前記透光性絶縁層290上に、IZOを金属マスクを介して、スパッタ法により、60nmの厚さに成膜して第2の陽極222とした。次に、第2の陽極222上に、上記ホール注入層232、ホール輸送層242、第2の発光層252及び電子輸送層262を上記ホール注入層231、ホール輸送層241、第1の発光層251及び電子輸送層261と同様にして成膜した。次に、該電子輸送層262上に、Alを蒸着により、200nmの厚さに成膜して第2の陰極282とした。
【0124】
該SiO2からなる透光性絶縁層290は、Agからなる第1の陰極281と、IZO膜からなる第2の陽極222が短絡するのを防ぐ機能を有する。
【0125】
上述したように、本実施例に係る素子の第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットは同じ構造・構成である。このため、第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットの各抵抗値を揃えることが容易であるので、素子としての長寿命化が容易である。
【0126】
[実施例4]
本実施例は、上述した第1の実施形態の例である。本実施例に係る有機EL素子は、各発光ユニットはオレンジ色発光層と青色発光層の2層の発光層を含んでおり、図1の有機EL素子構造において、陽極121としてITO、ホール注入層131としてCuPc、ホール輸送層141としてNPB、第1の発光層151として、NPBをホストとし、DBzRをドーパントとし、TBADNを補助ドーパントとするオレンジ色発光材料、及び、TBADNをホストとし、TBPをドーパントとし、NPBを補助ドーパントとする青色発光材料の積層膜、電子輸送層161としてAlq、電子注入層171としてLi2O、陰極181としてAg、電子注入層172としてAlq:Li、電子輸送層162としてAlq、第2の発光層152として、TBADNをホストとし、TBPをドーパントとし、NPBを補助ドーパントとする青色発光材料、及び、NPBをホストとし、DBzRをドーパントとし、TBADNを補助ドーパントとするオレンジ色発光材料の積層膜、ホール輸送層142としてNPB、ホール注入層132としてCuPcを用いた。
【0127】
ここで、上記構造を有する有機EL素子を以下のようにして作製した。シート抵抗値20Ω/□のITOが60nmの厚さに成膜されたガラス基板110の酸素プラズマ処理の後、前記ITOからなる第1の陽極121上に、CuPcからなるホール注入層131、NPBからなるホール輸送層141を実施例1と同様に成膜した。次に、上記NPBからなるホール輸送層141上に、NPB、DBzR及びTBADNを同時に蒸着することにより、NPBをホストとし、DBzRをドーパントとし、TBADNを補助ドーパントとするオレンジ色発光層を30nmの厚さに成膜して発光層とした。この場合においてはDBzR、TBADNの含有率はそれぞれ3%、10%である。前記発光層上に、TBADN、TBP及びNPBを同時に蒸着することにより、TBADNをホストとし、TBPをドーパントとし、NPBを補助ドーパントとする青色発光層を40nmの厚さに成膜して発光層とした。この場合においてはTBP、NPBの含有率はそれぞれ1.5%、10%である。前記オレンジ発光層及び青色発光層の積層膜を第1の発光層151とした。該第1の発光層151上に、Alqを蒸着により、10nmの厚さに成膜して電子輸送層161とした。前記電子輸送層161上に、Li2Oを蒸着により、0.5nmの厚さに成膜して電子注入層171とした。上記電子注入層171上に、Agを蒸着により、20nmの厚さに成膜して陰極181とした。
【0128】
次に、上記Agからなる陰極181上に、LiとAlqを同時に蒸着することにより、Alq:Liを10nmの厚さに成膜して電子注入層172とした。次に、前記電子注入層172上に、Alqを蒸着により、10nmの厚さに成膜して電子輸送層162とした。次に、前記電子輸送層162上に、TBADN、TBP及びNPBを同時に蒸着することにより、TBADNをホストとし、TBPをドーパントとし、NPBを補助ドーパントとする青色発光層を、40nmの厚さに成膜して発光層とした。この場合においては、TBP、NPBの含有率はそれぞれ1.5%、20%である。前記発光層上に、NPB、DBzR、TBADNを同時に蒸着することにより、NPBをホストとし、DBzRをドーパントとし、TBADNを補助ドーパントとするオレンジ色発光層を、30nmの厚さに成膜して発光層とした。この場合においては、DBzR、TBADNの含有率はそれぞれ3%、5%である。前記青色発光層及びオレンジ色発光層の積層膜を第2の発光層152とした。次に前記第2の発光層152上に、NPBを蒸着により、50nmの厚さに成膜してホール輸送層142とした。次に、前記ホール輸送層142上に、CuPcを蒸着により、10nmの厚さに成膜してホール注入層132とした。次に、前記CuPcからなるホール注入層132上に、Alを蒸着により、200nmの厚さに成膜して第2の陽極122とした。該Alは、電極としてのみではなく、反射板としての機能も有する。
【0129】
[実施例5]
本実施例は、上述した第3の実施形態の例である。本実施例では図3の有機EL素子構造において、陽極321としてAl、IZOの積層膜、ホール注入層331としてCuPc、ホール輸送層341としてNPB、第1の発光層351と電子輸送層361としてAlq、電子注入層371としてLi2O、陰極381としてAg、電子注入層372としてAlq:Li、電子輸送層362と第2の発光層352としてAlq、ホール輸送層342としてNPB、ホール注入層332としてCuPc、第2の陽極322としてIZOを用いた。
【0130】
ここで、上記構造を有する有機EL素子を以下のようにして作製した。ガラス基板310上に、Alを蒸着により、200nmの厚さに成膜した後、IZOをスパッタにより、60nmの厚さに成膜して第1の陽極321とした。次に、CuPcからなるホール注入層331、NPBからなるホール輸送層341、Alqからなる第1の発光層351と電子輸送層361、Li2Oからなる電子注入層371、Agからなる陰極381を実施例1と同様に成膜した。
【0131】
次に、上記Agからなる陰極381上に、LiとAlqを同時に蒸着することにより、Alq:Liを10nmの厚さに成膜して電子注入層372とした。次に、前記電子注入層372上に、Alqを蒸着により、60nmの厚さに成膜して電子輸送層362と第2の発光層352とした。次に、前記第2の発光層352上に、NPBを蒸着により、50nmの厚さに成膜してホール輸送層342とした。次に、前記ホール輸送層342上に、CuPcを蒸着により、10nmの厚さに成膜してホール注入層332とした。次に、前記ホール注入層332上に、IZOをスパッタにより、60nmの厚さに成膜して第2の陽極322とした。
【0132】
[比較例1]
本比較例では、図4の有機EL素子構造において、陽極421としてITO、ホール注入層431としてCuPc、ホール輸送層441としてNPB、発光層451と電子輸送層461としてAlq、電子注入層471としてLi2O、陰極481としてAlを用いた。
【0133】
ここで、上記構造を有する有機EL素子を以下のようにして作製した。まず、シート抵抗値20Ω/□のITOが60nmの厚さに成膜されたガラス基板410に酸素プラズマ処理を施した。次に、前記ITOからなる陽極421上に、CuPcを蒸着により、10nmの厚さに成膜してホール注入層431とした。次に、前記ホール注入層431上に、NPBを蒸着により、50nmの厚さに成膜してホール輸送層441とした。次に、前記ホール輸送層441上に、Alqを蒸着により、70nmの厚さに成膜して発光層451と電子輸送層461とした。次に、前記電子輸送層461上に、Li2Oを蒸着により、0.5nmの厚さに成膜して電子注入層471とした。前記電子注入層471に、Alを蒸着により、200nmの厚さに成膜して陰極481とした。
【0134】
[比較例2]
本比較例では、図5の有機EL素子構造において、陽極521としてAl、IZOの積層膜、ホール注入層531としてCuPc、ホール輸送層541としてNPB、発光層551と電子輸送層561としてAlq、電子注入層571としてLi2O、陰極581としてAgを用いた。
【0135】
ここで、上記構造を有する有機EL素子を以下のようにして作製した。ガラス基板510上に、Alを蒸着により、200nmの厚さに成膜した後、IZOをスパッタにより、60nmの厚さに成膜して陽極521とした。CuPcからなるホール注入層531、NPBからなるホール輸送層541、Alqからなる発光層551と電子輸送層561、Li2Oからなる電子注入層571、Agからなる陰極581を実施例5と同様に成膜した。
【0136】
[評価]
図10は、上記の実施例1、実施例3及び比較例1に係る有機EL素子の規格化輝度―発光時間特性である。なお、輝度は実施例1、実施例3及び比較例1の初期輝度をそれぞれ1として規格化している。比較例1と比べて、実施例1、実施例3は、寿命が大幅に向上した。この理由は、比較例1に比べて、実施例1及び実施例3の構造を用いると、同一輝度の場合に各発光ユニットに流れる電流が少なくなるために、有機層の劣化が抑制され、各発光ユニットの寿命が比較例1に係る発光ユニットの寿命よりも長くなったためであるものと考えられる。
【0137】
図11は、上記の実施例1及び実施例2に係る有機EL素子の規格化輝度―発光時間特性である。なお、輝度は実施例1及び実施例2の初期輝度をそれぞれ1として規格化している。実施例1と比べて、実施例2は、寿命が2倍程度長い。実施例1に係る有機EL素子においては、第1の発光ユニットの電子注入層Li2Oより、第2の発光ユニットの電子注入層Alq:Liの方が電子注入特性が劣るので、第2の発光ユニットの方が抵抗が高い。実施例2に係る有機EL素子は実施例1に係る有機EL素子と構造は同一であるが、第2の発光ユニットのAlq及びNPBの膜厚がより小さい。したがって、第2の発光ユニットの抵抗は実施例1の場合よりも小さい。よって、実施例2の場合の方が、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの抵抗値が近い。したがって、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットの抵抗値のバランスがよりとれた実施例1の方が実施例2よりも寿命が長いと考えられる。
【0138】
実施例4に係る有機EL素子では、第2の発光ユニット中の2層の発光層における補助ドーパントの含有率を調整することにより、色度が(0.33,0.40)となり、ほぼ白色の発光が得られた。
【0139】
抵抗値の高い発光ユニットの抵抗を下げることにより各発光ユニットの抵抗値をそろえるために、発光ユニット内のある層の膜厚を小さくする、発光層にドーパントをドープすること等により、低電圧化を図る方法が有効である。一方で、発光層のドーパントの含有率が不適切であると、ホールと電子のキャリアバランスが悪く、寿命が短かったり、白色素子の場合に色度が白色からずれたりすることがあるため、発光ユニットの抵抗値の調整が必要である。実施例4の場合においては、発光ユニットの抵抗値の調整の具体的な対策としては、ホールが少ない場合には、ホール輸送層NPBの膜厚を小さくする、あるいは、発光層に、発光層中でホール輸送に寄与するホール輸送性ドーパントNPBをドープする方法等を用いて、ホールが発光層内に注入されやすくすること等により発光ユニットの抵抗値を小さくすることができる。また、電子が少ない場合には、電子輸送層Alqの膜厚を小さくする、あるいは、発光層に、発光層中で電子輸送に寄与する電子輸送性の補助ドーパントである縮合多環芳香族化合物のTBADNをドープする、Alq:LiのLi含有率を大きくする方法等を用いて、電子が発光層内に注入されやすくすること等により発光ユニットの抵抗値を小さくすることができる。
【0140】
図12は、上記の実施例5及び比較例2に係る有機EL素子の規格化輝度―発光時間特性である。なお、輝度は実施例5及び比較例2の初期輝度をそれぞれ1として規格化している。比較例2と比べて、実施例5は、寿命が3倍程度長い。比較例2に比べて、実施例5の構造を用いると、同一輝度の場合に各発光ユニットに流れる電流が少なくなるために、有機層の劣化が抑制され、各発光ユニットの寿命が比較例2に係る発光ユニットの寿命よりも長くなったためである。
【0141】
なお、上記の実施の形態は、あくまでも、本発明の一つの実施形態であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、上記の実施の形態に記載されたものに制限されるものではない。上記の実施の形態では、発光ユニットが2つの場合について説明したが、3つ以上からなる構成でもよい。例えば、赤色発光層を含む発光ユニット、緑色発光層を含む発光ユニット及び青色発光層を含む発光ユニットの3つの発光ユニットが積層され、電気的に並列に接続されている構成でもよい。
【0142】
上記各実施例及び各比較例において用いた薄膜形成材料について以下説明する。
【0143】
Alqは、トリス−(8−キノリラト)アルミニウム(III)であり、以下の構造を有している。
【0144】
【化1】

【0145】
NPBは、N,N′−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N′−ジフェニルベンジジンであり、以下の構造を有している。
【0146】
【化2】

【0147】
DBzRは、5,12−ビス{4−(6−メチルベンゾチアゾール−2−イル)フェニル}−6,11−ジフェニルナフタセンであり、以下の構造を有している。
【0148】
【化3】

【0149】
TBADNは、2−ターシャリー−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセンであり、以下の構造を有している。
【0150】
【化4】

【0151】
TBPは、2,5,8,11−テトラ−ターシャリー−ブチルペリレンであり、以下の構造を有している。
【0152】
【化5】

【0153】
CuPcは、銅フタロシアニンであり、以下の構造を有している。
【0154】
【化6】

【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】本発明の有機EL素子の積層構造を示す略示断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の積層構造を示す略示断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の積層構造を示す略示断面図である。
【図4】従来の有機EL素子の積層構造を示す略示断面図である。
【図5】従来の有機EL素子の積層構造を示す略示断面図である。
【図6】従来の有機EL素子の積層構造を示す略示断面図である。
【図7】本発明の実施例1に係る有機EL素子を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例3に係る有機EL素子を示す模式図である。
【図9】本発明の実施例3に係る有機EL素子を示す模式図である。
【図10】比較例1と本発明の実施例1及び実施例3で作製した有機EL素子の発光時間―規格化輝度特性を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例1及び実施例2で作製した有機EL素子の発光時間―規格化輝度特性を示すグラフである。
【図12】比較例2と本発明の実施例5で作製した有機EL素子の発光時間―規格化輝度特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0156】
110、210 透光性基板
310 基板
121、221、321 第1の陽極
122、222、322 第2の陽極
151、251、351 第1の発光層
152、252、352 第2の発光層
181、381 陰極
281 第1の陰極
282 第2の陰極
290 透明絶縁層
101u、201u、301u 第1の発光ユニット
102u、202u、302u 第2の発光ユニット
1020、1021、1022、1081、2020、2021、2022、 2080、2081、2082、3020、3021、3022、3081 配線部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に、有機発光層を有する発光ユニットが複数個積層され、それぞれの発光ユニットには、電流が並列的に供給されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
互いに積層された、複数個の、有機発光層を有する発光ユニットと、それぞれの前記発光ユニットに電流を並列的に供給するための配線部材と、を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
第1の陽極上に順次積層された、第1の有機発光層を有する第1の発光ユニットと、陰極と、第2の有機発光層を有する第2の発光ユニットと、第2の陽極と、を有し、前記第1及び第2の発光ユニットのそれぞれに電流を並列的に供給するための配線部材を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記陰極が積層構造を備えることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記陰極が、透光性絶縁層を介して積層構造とされていることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
第1の陽極上に順次積層された、第1の有機発光層を有する第1の発光ユニットと、第1の陰極と、第2の陽極と、第2の有機発光層を有する第2の発光ユニットと、第2の陰極と、を有し、前記第1及び第2の発光ユニットのそれぞれに電流が並列的に供給するための配線部材を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記第1の陰極と第2の陽極との間に、透光性絶縁層を備えることを特徴とする請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
第1の陰極上に順次積層された、第1の有機発光層を有する第1の発光ユニットと、陽極と、第2の有機発光層を有する第2の発光ユニットと、第2の陰極と、を有し、前記第1及び第2の発光ユニットのそれぞれに電流が並列的に供給する配線部材を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記陽極が積層構造とされていることを特徴とする請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記陽極が、透光性絶縁層を介して積層構造とされていることを特徴とする請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
第1の陰極上に順次積層された、第1の有機発光層を有する第1の発光ユニットと、第1の陽極と、第2の陰極と、第2の有機発光層を有する第2の発光ユニットと、第2の陽極と、を有し、前記第1及び第2の発光ユニットのそれぞれに電流が並列的に供給するための配線部材を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記第1の陽極と第2の陰極との間に、透光性絶縁層を備えることを特徴とする請求項11記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−164650(P2006−164650A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352091(P2004−352091)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】