説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】酸素や水分に起因する素子の劣化を抑制し、十分な耐久性を有する有機EL素子を実現すること。
【解決手段】有機EL素子1は、基板10と、基板10上に設けられた画素電極41、画素電極41の上に設けられた有機層44、及び有機層44の上に設けられた上部共通電極45を含む積層体40と、積層体40を被覆し、且つ周縁部分が積層体40周囲の基板10の直上に位置づけられるように設けられた保護膜50とを有する。保護膜50の周縁部分が直上に形成されている基板10の表面部位Aには凹凸面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略称する。)は、低電圧駆動が可能で、高い発光輝度が得やすいため、近年盛んに研究開発がおこなされている。しかしながら、有機EL素子は酸素や水分に対する耐久性が低いという問題を有する。特に、低仕事関数金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム等)を含む陰極は極めて酸化されやすく、また、水分とも容易に反応・変質してしまうという問題がある。
【0003】
このような問題に鑑み、例えば特許文献1には、保護膜を形成した有機EL素子が開示されている。保護膜を設けることにより有機EL素子の酸素や水分に起因する素子の劣化を抑制することができる。
【特許文献1】特開平8−111286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたように、単に保護膜を設けたのみでは、酸素や水分に起因する素子の劣化を十分に抑制することができず、十分な耐久性を有する有機EL素子を実現することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、十分な耐久性を有する有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、誠意研究の結果、単に保護膜を設けたのでは、保護膜と基板との密着性が十分に高くないため、保護膜と基板との間から経時的に酸素や水分等が進入し、有機EL素子が劣化してしまうことを発見し、本発明を成すに至った。
【0007】
本発明に係る有機EL素子は、基板と、積層体と、保護膜とを有する。積層体は、基板上に設けられた第1電極と、第1電極の上に設けられ、発光層を含む有機層と、及び有機層の上に設けられた第2電極とを含む。保護膜は、積層体を被覆し、且つ周縁部分が積層体周囲の基板の直上に位置づけられるように設けられている。本発明に係る有機EL素子では、保護膜の周縁部分が位置づけられている基板の表面部位には凹凸面が形成されている。
【0008】
このため、基板と保護膜との高い密着性を実現することができる。また、凹凸面を形成しない場合と比較して、保護膜の端部から積層体までの実効的な距離を長くすることができる。従って、素子内への酸素や水分の進入を効果的に抑制することができる。その結果、高い耐久性を実現することができる。
【0009】
尚、本明細書において凹凸面とは、表面のJIS B 0601−1994で定義される算術平均荒さ(Ra)が10nm以上である面のことをいう。
【0010】
本発明に係る有機EL素子では、積層体が形成されている基板の表面部位には凹凸が形成されていないこと(凹凸面に形成されていないこと)が好ましい。積層体が形成されている基板の表面部位に凹凸が形成されている場合、リーク等の欠陥不良が発生するおそれがある。しかし、この構成によれば、積層体が形成されている基板の表面部位には凹凸が形成されていないため、リーク等の欠陥不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明に係る有機EL素子では、凹凸面が積層体を包囲するように帯状でもって周回していることが好ましい。
【0012】
そうすることによって、素子内への酸素や水分の進入をより効果的に抑制することができるので、より高い耐久性を実現することができる。
【0013】
本発明に係る有機EL素子では、凹凸面の内外方向の幅(積層体が形成されている板央から基板周辺方向の幅)が1mm以上20mm以下であることが好ましい。
【0014】
凹凸面の内外方向の幅を1mm以上とすることで、さらに高い耐久性を実現することができる。より好ましくは1.5mm以上であり、更に好ましくは2mm以上である。有機EL素子の大型化を抑制する観点から、凹凸面の内外方向の幅が20mm以下であることが好ましい。特に、小型の有機EL素子(例えば、携帯電話等の小型モバイル機器等に用いられる有機EL素子等)においては凹凸面の内外方向の幅が20mm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る有機EL素子では、保護膜の膜厚が凹凸面のJIS B 0601−1994で定義される算術平均荒さ(以下、単に「算術平均荒さ(Ra)」と略称する。)の2倍以上であることが好ましい。
【0016】
保護膜の膜厚を凹凸面の算術平均荒さ(Ra)の2倍以上とすることで、さらに高い耐久性を実現することができる。また、この構成にすることにより、比較的膜厚の薄い保護膜でも十分に積層体を被覆することが可能となる。このため、保護膜形成工程を容易化することが可能となる。尚、保護膜の膜厚は、生産性の観点から、凹凸面の算術平均荒さ(Ra)の10倍以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る有機EL素子では、凹凸面の凹凸傾斜角が2度以上45度以下であることが好ましい。
【0018】
凹凸面の凹凸傾斜角を2度以上45度以下とすることで、さらに高い耐久性を実現することができる。
【0019】
本発明に係る有機EL素子では、発光層が高分子発光材料を含むことが好ましい。
【0020】
発光層が高分子発光材料を含む場合、安価且つ容易なウエット法(例えば、スピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等)を用いて発光層を形成することができる。このため、安価且つ容易に製造可能な有機EL素子を実現することができる。また、ウエット法によればフルカラーの有機EL素子を高精度に形成可能であり、且つ、ウエット法は大型の有機EL素子にも適しているため、高精細且つ大型な有機EL素子を容易に実現することができる。
【0021】
本発明に係る有機EL素子では、基板がアクティブマトリクス基板であってもよい。換言すれば、本発明に係る有機EL素子はアクティブマトリクス型の有機EL素子であってもよい。
【0022】
アクティブマトリクス型の有機EL素子である場合、原理的に走査電極数に制約がなく、ほぼデューティー比100%のスタティック駆動に近い表示が可能となる。このため、高画質でパネル輝度が高く、高速レスポンスが可能な有機EL素子を実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、保護膜と基板との密着性を向上することができるので、耐久性の高い有機EL素子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
(実施形態1)
図1は本実施形態1に係る有機EL素子1の構成を表す断面図である。
【0026】
図2は有機EL素子1の構成を表す平面図である。
【0027】
有機EL素子1は、アクティブマトリクス基板(以下、「AM基板」と略称する。)10と、AM基板10の上(詳細にはAM基板10の板央上)に設けられた積層体40と、積層体40を被覆し、周縁部分が積層体40の周囲のAM基板10の直上に位置づけられた保護膜50と、保護膜50の上方に設けられ、且つ周縁部分が接着剤70によってAM基板10の周縁部分に接着された封止基板60とを有する。
【0028】
AM基板10は相互に並行に延びる複数のソースライン(図示せず)、ソースラインの延びる方向と交差する方向(典型的には直交する方向)に相互に並行に延びる複数のゲートライン(図示せず)、及びソースラインとゲートラインとの交点近傍の各々に設けられ、ソースラインとゲートラインとに電気的に接続された薄膜トランジスタ素子(TFT素子)11を有する。尚、AM基板10の積層体40側表面には酸化シリコンやチッ化シリコン等からなる下地層が形成されていてもよい。
【0029】
本実施形態1に係る有機EL素子1はAM基板10を有するアクティブマトリクス型の有機EL素子である。このため、有機EL素子1には原理的に走査電極数に制約がなく、ほぼデューティー比100%のスタティック駆動に近い表示をすることができる。従って、高画質、高パネル輝度、高速レスポンスが可能な有機EL素子を実現することができる。
【0030】
AM基板10の上には、陽極としての複数の画素電極(第1電極)41、複数の有機層44、及び陰極としての上部共通電極(第2電極)45を含む積層体40が形成されている。
【0031】
陽極としての画素電極41は発光層43に正孔(ホール)を注入する機能を有する。複数の画素電極41はAM基板10上に所定配列で(例えばマトリクス状に)配列されている。複数の画素電極41のそれぞれはAM基板10内に設けられたTFT素子11に電気的に接続されている。
【0032】
画素電極41は単層であってもよく、また、異なる材料からなる複数の層の積層であってもよい。画素電極41を形成するための材料としては、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)等の透明導電性酸化物、金(Au)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、アルミニウム(Al)等の金属材料等が挙げられる。これらの中でも仕事関数の大きな透明導電性酸化物や金(Au)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)等の金属材料等が特に好ましい。
【0033】
また、有機EL素子1が発光層43の発光を画素電極41側から取り出す型(ボトムエミッション型)の素子である場合、発光層43の発光の高い取り出し効率を実現する観点から、画素電極41は透明導電性酸化物により構成されることが好ましい。一方、有機EL素子1が発光層43の発光を上部共通電極45側から取り出す型(トップエミッション型)の素子である場合、発光層43の発光の高い取り出し効率を実現する観点から、画素電極41は光反射率の高い金属材料により形成されることが好ましい。
【0034】
また、画素電極41の有機層44側表面に、導電性を大きく妨げない程度の厚み(例えば1nm程度)の酸化物(例えばSiO2等)を成膜してもよい。そうすることによって、有機層44の被覆性を向上することができる。
【0035】
有機層44は各々画素電極41の上に設けられている。有機層44は各々正孔輸送層42及び発光層43を含む。発光層43は画素電極41及び上部共通電極45からそれぞれ注入される電子及び正孔(ホール)を受け取り、再結合させることにより発光する機能を有する。発光層43は単層であっても、相互に異なる発光材料を含む複数の槽が積層したものであってもよい。母体材料にドーパントをドープした層であってもよい。
【0036】
発光層43は低分子発光材料を含むものであってもよい。また、高分子発光材料や高分子発光材料の前駆体を含むものであってもよい。発光層43が高分子発光材料を含むものである場合は、比較的容易且つ安価に行えるウエット法(例えば、スピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等)により発光層43を形成することができる。このため、安価且つ製造容易な有機EL素子1を実現することができる。
【0037】
低分子発光材料としては、例えば、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体《Alq3》等が挙げられる。高分子発光材料としては、ポリ(2−デシルオキシ−1、4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2、5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1、4−フェニル−アルト−1、4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1、4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)等が挙げられる。高分子発光材料の前駆体としては、ポリ(P−フェニレンビニレン)前駆体(Pre−PPV)、ポリ(P−ナフタレンビニレン)前駆体(Pre−PNV)等が挙げられる。
【0038】
発光層43は上記発光材料の他に、レベリング剤、発光アシスト剤、添加剤(ドナー、アクセプター等)電荷輸送剤、発光性のドーパント等をさらに含有するものであってもよい。
【0039】
正孔輸送層42は画素電極41から発光層43への正孔(ホール)輸送効率を向上する機能を有する。正孔輸送層42は低分子正孔輸送材料を含むものであってもよい。また、高分子正孔輸送材料や高分子正孔輸送材料の前駆体を含むものであってもよい。正孔輸送層42が高分子正孔輸送材料を含むものである場合は、正孔輸送層42を比較的容易且つ安価に行えるウエット法(例えば、スピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等)により形成することができる。このため、安価且つ製造容易な有機EL素子1を実現することができる。
【0040】
高分子正孔輸送材料としては、例えば、ポリアニリン、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン誘導体)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。高分子正孔輸送材料の前駆体としては、例えば、ポリ(P−フェニレンビニレン)前駆体、ポリ(P−ナフタレンビニレン)前駆体等が挙げられる。
【0041】
低分子正孔輸送材料としては、例えば、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチルアミン化合物等が挙げられる。芳香族第3級アミン化合物の具体例としては、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)等が挙げられる。
【0042】
尚、正孔輸送層42は単層であっても相互に異なる正孔輸送材料を含む複数の層が積層されたものであってもよい。
【0043】
複数の有機層44は、相隣る画素電極41の間に、格子状に設けられた絶縁層20、及び絶縁層20の上に設けられた格子状のバンク(隔壁)30によって相互に離間されている。絶縁層20は相隣る画素電極41の間における短絡を抑止すると共に、画素電極41の周縁部分と上部共通電極45とが接触し、短絡することを抑制する機能を有する。絶縁層20は例えば酸化シリコン(SiO2)やチッ化シリコン(Si34)等により形成することができる。
【0044】
バンク30は隣接する有機層44同士が混じり合うことを抑制する機能、及びブラックマトリクスとしての機能を併せ持つ。バンク30は、例えば(感光性)ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ノボラック樹脂等により形成することができる。
【0045】
陰極としての上部共通電極45は、バンク30及び有機層44の全表面を覆うように設けられている。上部共通電極45は発光層43に電子を注入する機能を有する。発光層43への高い電子注入効率を実現する観点から、上部共通電極45は低仕事関数金属(例えば、仕事関数が4.0eV以下の金属)を含むことが好ましい。低仕事関数金属としては、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、セシウム(Cs)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)等が挙げられる。発光層43が高分子発光材料を含有する場合は、これら低仕事関数金属の中でも、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)が特に好ましい。
【0046】
上記低仕事関数金属は酸素や水分と反応しやすい材料であるため、酸素や水分に対して比較的安定な(化学的に比較的安定な)材料との合金とすることが好ましい。酸素や水分に対して比較的安定な材料としては、ニッケル(Ni)、オスミウム(Os)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、金(Au)、ロジウム(Rh)等の金属材料や、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)等の導電性酸化物等が挙げられる。また、低仕事関数金属を含む層を有機層44の上に形成し、さらにその上に酸素や水分に対して比較的安定な材料を含む層を積層してもよい。
【0047】
例えば、有機EL素子1がボトムエミッション型の素子である場合は、光反射率が比較的高い金属材料と低仕事関数金属とを組み合わせること(すなわち、低仕事関数金属と光反射性金属との合金、又は低仕事関数金属層と光反射性金属層との積層とすること)が好ましい。一方、トップエミッション型の素子である場合は、光透過率が比較的高い透明導電性酸化物と低仕事関数金属とを組み合わせること(すなわち、低仕事関数金属と透明導電性酸化物との混合剤、又は低仕事関数金属層と透明導電性酸化物層との積層とすること)が好ましい。
【0048】
保護膜50は積層体40(画素電極41、有機層44、上部共通電極45)を被覆するように形成されている。すなわち、保護膜50は積層体40の表面と共に、積層体40周囲のAM基板10表面をも被覆するように形成されている。保護膜50はAM基板10と共に内部の積層体40を外気から遮断し、外気中の酸素や水分による積層体40各層、画素電極41、上部共通電極45の劣化を抑制する機能を有する。このため、保護膜50を設けることにより、高い耐久性を有する有機EL素子1を実現することができる。
【0049】
保護膜50の材料としては、例えば、チッ化シリコン(Si34)、酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、有機性樹脂(例えばアクリル樹脂等)が挙げられる。保護膜50は、単層又は複層でもよい。例えば、チッ化シリコン(Si34)等の無機酸化物膜と、アクリル樹脂等の有機樹脂膜とを積層することにより保護膜50を形成してもよい。
【0050】
封止基板60は保護膜50で被覆された積層体40を覆うように保護膜50の上方に配置されており、接着剤70によって周縁部分がAM基板10に接着されている。封止基板60は、保護膜50と同様に積層体40へ酸素や水分が進入することを抑止する機能を有すると共に、有機EL素子1を電子機器等に組み込む際のハンドリング等による破壊を抑制する機能を有する。このため、封止基板60を設けることにより、高い耐久性を有する有機EL素子1を実現することができる。
【0051】
封止基板60はガラス製の基板や金属製の基板により構成することができる。より高い耐久性を実現する観点から、封止基板60により形成された封止空間内には不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)が充填されていることが好ましい。さらに封止空間内に酸化バリウム(BaO)等の乾燥剤を設けてもよい。しかし、本実施形態1に係る有機EL素子1は保護膜50を有するため、乾燥剤を設けずとも比較的高い耐久性を実現することができる。このため、低コストで生産性が高い有機EL素子1を実現することができる。保護膜50はトップエミッション型の素子及びボトムエミッション型の素子の双方において効果を奏するが、乾燥剤の使用が困難であるトップエミッション型の有機EL素子に特に有用である。
【0052】
本実施形態1に係る有機EL素子1では、保護膜50の周縁部分が直上に形成されているAM基板10の表面部位に、積層体40を包囲するように形成された帯状の凹凸面Aが形成されている。このため、保護膜50とAM基板10(詳細には凹凸面A)との密着性を向上することができる。また、保護膜50の端部から積層体40までの実効的な距離を長くすることができる。このため、凹凸面Aを形成することにより、積層体40への水分や酸素の進入を効果的に抑制することができる。従って、高い耐久性を実現することができる。
【0053】
凹凸面Aの内外方向の幅(積層体が形成されている板央から基板周辺方向の幅、図1において横方向の幅)は1mm以上であることが好ましい。凹凸面Aの内外方向の幅が1mm未満である場合は素子の耐久性が低下する傾向にある。凹凸面Aの内外方向の幅を1mm以上とすることで、より高い耐久性を実現することができる。より好ましくは1.5mm以上であり、更に好ましくは2mm以上である。
【0054】
凹凸面Aの内外方向の幅が20mmよりも大きい場合は、高い耐久性を実現することができるものの、有機EL素子の外形寸法が大きくなってしまう。このため、特にコンパクト化が求められる携帯電話等の小型モバイル機器等への適用が困難となる。さらに具体的にいえば、携帯電話等小型モバイル機器の横幅寸法はせいぜい60mm程度である。このような小型モバイル機器へ適用する場合に表示エリア周辺領域として確保できる最大幅は、表示エリア1.1インチ程度と小さいものの場合でも、たかだか20mm程度である。従って、凹凸面Aの内外方向の幅は20mm以下であることが好ましい。
【0055】
凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)は保護膜50の層厚の1/2以下であることが好ましい。言い換えれば、保護膜50の層厚は凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)の2倍以上であることが好ましい。凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)に対して保護膜50の膜厚が比較的薄いと、イレギュラー的に大きな凹凸が存在する箇所や異物等が存在する箇所が保護膜50により十分に被覆されずに、局所的に保護膜50から基板10が露出してしまうため、耐久性が低くなる傾向にある。保護膜50の膜厚を凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)に対して厚くすることによって(好ましくはRaの2倍以上にすることによって)保護膜50から基板10が露出することを効果的に抑制することができる。従って、より高い耐久性を実現することができる。
【0056】
凹凸面Aの凹凸傾斜角は2度以上45度以下であることが好ましい。表面凹凸の傾きが2度未満では、保護膜50と基板10との密着性が低下する傾向にある。一方、45度よりも大きい場合は、保護膜50の被覆性が低下するために、イレギュラー的に大きな凹凸が存在する箇所や異物等が存在する箇所が保護膜50により十分に被覆されずに、局所的に保護膜50から基板10が露出してしまうため、耐久性が低くなる傾向にある。尚、凹凸傾斜角とは図3に表されるθのことである。
【0057】
図3は凹凸傾斜角を説明するための、凹凸面Aの凹凸形状を模式的に表す模式図である。
【0058】
図3中、線101は凹凸面Aの実際の凹凸形状を示す線である。一方、線102は凹凸面Aの凹凸形状を近似的に表す線である。線102は線101をフーリエ変換することにより近似的に求められる。ここで、線102の1周期分の長さが最頻出波長(λ)となる。また、中心線103から線102の頂部までの高さが算術平均荒さ(Ra)となる。凹凸傾斜角(θ)は、図3に示すように、中心線103と線102のなす角となる。すなわち、凹凸傾斜角(θ)と算術平均荒さ(Ra)及び最頻出波長(λ)とは関係式tanθ=(2×Ra)/(λ/2)で表される関係を有する。
【0059】
凹凸面Aの凹凸傾斜角(θ)は例えば以下の手順で求められる。まず、凹凸面Aを原子間力顕微鏡(以下、「AFM]と略称する。)を用いて表面観察する。AFMによる観察により得られた像のフーリエ変換スペクトルより算術平均荒さ(Ra)及び最頻出波長(λ)を算出する。そして、得られた算術平均荒さ(Ra)及び最頻出波長(λ)から、関係式tanθ=(2×Ra)/(λ/2)を用いて凹凸傾斜角(θ)を算出することができる。
【0060】
次に、本実施形態1に係る有機EL素子1の製造方法について図面を用いて詳細に説明する。
【0061】
まず、AM基板10を用意し、表面に凹凸面Aを形成する。凹凸面Aの形成方法は、何ら限定されるものではないが、例えば、サンドブラスト法、酸素プラズマ処理法、ウエットエッチング法、ドライエッチング法等が挙げられる。サンドブラスト法を用いる場合は、凹凸面Aを形成するところを除いた部分にゴム等からなるマスキングを施した上で行う。凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)はサンドブラスト法に用いる研磨材の粒度等を調節することにより調整することができる。また、サンドブラスト法により凹凸を形成した後にチッ化シリコン(SiN3)等の薄膜を形成することにより凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)を調整することも可能である。
【0062】
AM基板10の表面が樹脂(アクリル樹脂等)である場合は、酸素プラズマ処理法等により凹凸面Aを形成することが好ましい。
【0063】
エッチング法(ドライエッチング法及びウエットエッッチング法)は、サンドブラスト法等と比較して微細なクラックが生じにくく、比較的算術平均荒さ(Ra)の小さい凹凸面Aを形成しやすいというメリットを有する。以下、一例としてエッチング法により凹凸面Aの形成工程を図4を参照しながら詳細に説明する。
【0064】
図4はエッチング法により凹凸面Aを形成する工程を表す断面図である。
【0065】
まず、AM基板10の上に、凹凸面Aを形成する部分以外を被覆するようにレジスト13を形成する。詳細には、AM基板10の表面全体にスピンコーターを用いてポジ型レジスト(例えば、層厚約2μm)を塗布する。塗布されたポジ型レジストのうち、凹凸面Aが形成される部分の上に形成された部分のみを露出させるようにフォトマスク14を配置する。その上から光を照射することによりポジ型レジストを露光する(図4(A)参照)。次に露光後のAM基板10を現像液に浸け、露光された領域に例えば数100nmのレジスト13が残るように現像処理を行う(図4(B)参照)。プラズマアッシング装置を用いて酸素プラズマ処理を施すことにより露光された部分のレジスト13をほぼ除去する(図4(C)参照)。尚、プラズマアッシング装置を用いた場合、レジスト13は厳密には完全に除去されない。
【0066】
次に、エッチング装置(例えばドライエッチング装置)を用いてエッチングすることにより、プラズマアッシング装置によってレジスト13がほぼ除去された部分に凹凸面Aを形成する(図4(D)参照)。最後に、レジスト剥離及び洗浄を行い、凹凸面Aが形成されたAM基板10を完成させる(図4(E)参照)。
【0067】
凹凸面Aが形成されたAM基板10に画素電極41を形成する。画素電極41は例えばDCスパッタ法、化学蒸着法(CVD法)等の成膜方法及びフォトリソグラフィー法等のパターニング方法を用いて形成することができる。続いて、絶縁層20及びバンク30を形成する。絶縁層20も画素電極41と同様に、例えばDCスパッタ法、化学蒸着法(CVD法)等の成膜方法及びフォトリソグラフィー法等のパターニング方法を用いて形成することができる。バンク30は、例えば、ポリイミド樹脂等をスピンコート法により成膜する。その後、得られた薄膜をフォトパターニングすることにより形成することができる。
【0068】
バンク30によりそれぞれに区画された画素電極41の上に有機層44各層(発光層43及び正孔輸送層42)を形成する。有機層44各層が低分子材料を含有するものである場合は真空蒸着法等の乾式法により形成することが好ましい。一方、高分子材料、高分子材料の前駆体等を含有するものである場合はインクジェット法等の湿式法(ウエット法)を用いて成膜することが好ましい。以下、一例としてウエット法を用いて有機層44各層を形成する工程を詳細に説明する。
【0069】
まず、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDT/PSS)等の1種又は複数種類の正孔輸送材料を含む正孔輸送層形成用インクを調製する。正孔輸送層形成用インクには、正孔輸送材料の他にレベリング剤、添加剤(ドナー、アクセプター等)等をさらに含有させてもよい。正孔輸送層形成用インクの調整に用いる溶媒は、正孔輸送材料を溶解又は分散できるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、純水、メタノール、エタノール、THF(テトラヒドロフラン)、クロロホルム、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等が挙げられる。
【0070】
以上のように調整した正孔輸送層形成用インクを各画素電極41の上に吐出(塗布)し、乾燥・焼成させることにより正孔輸送層42を形成することができる。
【0071】
次に、正孔輸送層42の上に発光層43を形成する。まず、発光材料を含有する発光層形成用インクを調製する。発光層形成用インクは、発光材料の他に、レベリング剤、発光アシスト剤、添加剤(ドナー、アクセプター等)、電荷輸送剤、発光性のドーパント等をさらに含有するものであってもよい。発光層形成用インクの調整に用いる溶媒は発光材料を溶解又は分散できるものであれば特に限定されない。具体的には、純水、メタノール、エタノール、THF(テトラヒドロフラン)、クロロホルム、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等が挙げられる。
【0072】
上記のように形成した有機層44の上に上部共通電極45を形成することにより積層体40を完成させる。上部共通電極45は例えばDCスパッタ法、化学蒸着法(CVD法)等の成膜方法を用いて形成することができる。
【0073】
そして、積層体40を被覆するように保護膜50を形成する。保護膜50は、プラズマCVD法やスパッタ法等により形成することができる。保護膜50が有機樹脂である場合は、ウエット法により形成してもよい。
【0074】
最後に、接着剤70を用いて封止基板60をAM基板10に接着することにより有機EL素子1を完成させることができる。
【0075】
(変形例)
上記実施形態1では、アクティブマトリクス基板10を有するアクティブマトリクス型の有機EL素子1を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、アクティブマトリクス型の有機EL素子にのみ適用されるものではなく、例えばパッシブマトリクス型(単純マトリクス型)の有機EL素子やセグメント型の有機EL素子にも好適に適用される。
【0076】
上記実施形態1では、凹凸面Aは積層体40の周囲に、積層体40を包囲するように帯状でもって周回するように形成されている。しかし、本発明は、この構成に限定されるものではなく、凹凸面は、例えば、保護膜50が直上に形成されている基板10の表面部位の一部にのみ形成されていてもよい。
【0077】
上記実施形態1では、有機EL素子1には封止基板60が設けられているが、本発明において、封止基板60は必須ではない。また、封止基板60の代わりに、凹部が形成されたキャップ状の封止キャップを設けてもよい。
【0078】
尚、有機EL素子1の形状寸法は特に限定されるものではなく、例えば携帯電話等の小型モバイル機器用の比較的小さなものであってもよく、また、大画面表示装置(例えば一辺の長さが1m以上の装置)用の比較的大きなものであってもよい。
【0079】
上記実施形態1では、有機層44は正孔輸送層42と発光層43により構成されている。しかし、本発明は何らこの構成に限定されるものではない。例えば、発光層43のみにより形成してもよい。また、有機層44を、発光層43と、1種又は2種以上のバッファ層(電荷輸送層)とにより形成してもよい。バッファ層(電荷輸送層)としては、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等が挙げられる。尚、正孔輸送層及び正孔注入層は発光層43への正孔輸送注入効率を向上する機能を有する。電子輸送層及び電子注入層は発光層43への電子輸送注入口率を向上する機能を有する。
【0080】
上記実施形態1では、画素電極41が陽極であり、上部共通電極45が陰極であるが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、画素電極41が陰極であり、上部共通電極45が陽極であってもよい。
【実施例】
【0081】
(実施例1)
図5は実施例1に係る有機EL素子2の構成を表す平面図である。
【0082】
図6は実施例1に係る有機EL素子2の構成を表す断面図である。
【0083】
実施例1では図5及び図6に表される有機EL素子2を作成し、その耐久性を評価した。
【0084】
10cm四方のガラス基板81上に高周波スパッタ法を用いて酸化シリコン(SiO2)膜82を形成することにより基板80を形成した。具体的には、酸化シリコン(SiO2)のターゲットを、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用い、温度100℃、パワー1.5kW、圧力0.5Paという条件で、層厚500nmの酸化シリコン膜82を形成した。
【0085】
次に基板80に凹凸面Aを形成した。まず、基板80の上に、凹凸面Aを形成する部分(幅約5mm)以外を被覆するようにポジ型レジスト(膜厚約2μm)を形成した。詳細には、基板80の表面全体にスピンコーターを用いてポジ型レジストを塗布した。塗布されたポジ型レジストのうち、凹凸面Aが形成される部分の上に形成された部分のみを露出させるようにフォトマスクを配置した。その上から光を照射することによりポジ型レジストを露光した。次に露光後の基板80を現像液に浸け、露光された領域に例えば数100nmのレジストが残るように現像処理を行った。プラズマアッシング装置を用いて酸素プラズマ処理を施すことにより露光された部分のレジストをほぼ除去した。酸素プラズマ処理は、パワー100W、圧力4Paの条件下、酸素(O2)ガス(250sccm)を用いて行った。
【0086】
次に、ドライエッチング装置を用いてエッチングすることにより、レジストが形成されていない部分に凹凸面Aを形成した。エッチングは、パワー200W、圧力6Paの条件下、エッチングガスとして四フッ化炭素ガス(CF4)ガス(40sccm)及び酸素(O2)ガス(4sccm)を用いて行った。
【0087】
最後に、レジスト剥離及び洗浄を行い、凹凸面Aが形成された基板80を作成した。
【0088】
次に、凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)を原子間力顕微鏡((株)東陽テクニカ製の原子間力顕微鏡NanoscopeIII)を用いて行った。その結果、凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)は35nmであった。
【0089】
凹凸面Aが形成された基板80上にDCスパッタ装置を用い、インジウムスズ酸化物(ITO)を成膜することにより線条の陽極83及び陰極引き出し電極88を形成した。形成された陽極83及び陰極引き出し電極88は、それぞれ層厚150nm、幅2mm、長さ10cmであった。
【0090】
陰極引き出し電極88を露出させるようにマスキングを施した上で、凹凸面Aにより囲われた基板80の表面上に正孔注入層84を形成した。具体的には、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDT/PSS)水溶液をスピンコート法により塗布し、150℃で20分間乾燥させることにより正孔注入層84を形成した。正孔注入層84の膜厚は、水溶液の濃度及びスピンコート時の回転数を制御することにより約60nmとした。
【0091】
続いて、正孔注入層84の上に発光層85を形成することにより有機層86を完成させた。発光材料としてはポリフルオレン誘導体を用い、溶媒としてはキシレンを用いた。形成された発光層85の層厚は約60nmであった。
【0092】
有機層86の上に、陽極83とほぼ直交し、且つ一端が陰極引き出し電極88に電気的に接続されるように2mm幅の陰極87を形成した。陰極87は膜厚10nmのカルシウム(Ca)膜と膜厚100nmのアルミニウム(Al)膜との積層とした。陰極87は、抵抗加熱蒸着法により順次カルシウム(Ca)膜とアルミニウム(Al)膜とを成膜することにより形成した。
【0093】
最後に、プラズマCVD法を用いて、有機層86を被覆するようにチッ化シリコン(Si34)膜を厚さ1μmで成膜し保護膜89とした。保護膜89は、温度80℃、パワー80W、圧力100Paの成膜条件で、シラン(SiH4)ガス(100sccm)、アンモニア(NH3)ガス、及び窒素(N2)ガスを用いて成膜した。
【0094】
このように作成された本実施例1に係る有機EL素子2に、陽極83が正に、陰極87が負になるように直流電流を印加したところ、発光層85から緑色の発光が蛍光灯下で観察された。
【0095】
この有機EL素子2を温度60℃、湿度90%の高温・高湿槽で200時間保持し、保持前の発光領域と保持後の発光領域とを比較することにより、有機EL素子2の耐久性を検査した。
【0096】
図7は高温・高湿槽で200時間保持された後の実施例1に係る有機EL素子2の発光領域付近の拡大平面写真である。
【0097】
図7のように、高温・高湿槽で200時間保持された後においても、発光領域幅はほぼ陰極幅と等しかった。詳細には発光領域幅は陰極幅の約95%であった。
【0098】
(比較例1)
基板に凹凸面が形成されていないこと以外は実施例1に係る有機EL素子2と同様の形態の有機EL素子を実施例1と同様の方法で作成した。
【0099】
作製後、実施例1と同様に、比較例1に係る有機EL素子を温度60℃、湿度90%の高温・高湿槽で200時間保持し、保持前の発光領域と保持後の発光領域とを比較することにより、比較例1に係る有機EL素子の耐久性を検査した。
【0100】
図8は高温・高湿槽で200時間保持された後の比較例1に係る有機EL素子の発光領域付近の拡大平面写真である。
【0101】
図8に示すように、高温・高湿槽で200時間保持されたことによって、基板に凹凸面が設けられていない比較例1に係る有機EL素子では発光領域幅は陰極幅よりも大幅に短くなった。詳細には発光領域幅は陰極幅の約68%であった。
【0102】
(比較例2)
保護膜及び凹凸面が形成されていないこと以外は実施例1に係る有機EL素子2と同様の形態の有機EL素子を実施例1と同様の方法で作成した。
【0103】
作製後、実施例1と同様に、比較例2に係る有機EL素子を温度60℃、湿度90%の高温・高湿槽で200時間保持し、保持前の発光領域と保持後の発光領域とを比較することにより、比較例2に係る有機EL素子の耐久性を検査した。
【0104】
高温・高湿槽で保持された後の、保護膜が設けられていない比較例2に係る有機EL素子からは発光は観察されなかった。
【0105】
上記実施例1及び比較例1、2の結果から、保護膜89を設けることによって素子の耐久性を向上できることがわかった。また、基板80に凹凸面Aを形成することによって素子の耐久性をさらに向上できることがわかった。
【0106】
保護膜が形成されていない比較例2に係る有機EL素子では、特に陰極が直接雰囲気に接するため、雰囲気中に含まれる酸素や水分によって陰極が急激に劣化し、その結果、発光が得られなくなったものと考えられる。
【0107】
保護膜が形成されているものの、凹凸面が形成されていない比較例1に係る有機EL素子では保護膜によって有機EL素子が覆われているため、陰極と雰囲気との接触は抑制されるが、保護膜と基板との密着性が十分ではないため、保護膜と基板との界面から進入した酸素や水分によって陰極が劣化したものと考えられる。
【0108】
一方、基板80に凹凸面Aが形成された実施例1では、保護膜89と基板80との密着性が高く、また、保護膜89の端面から有機層86や陰極87までの距離が実効的に長くなるため、保護膜89と基板80との界面からの酸素や水分の進入を効果的に抑制することができるため、陰極87の劣化、換言すれば発光領域の減少を効果的に抑制できたものと考えられる。
【0109】
尚、実施例1、比較例1、2に係る有機EL素子では、陰極がカルシウム(Ca)膜を含むため、酸素や水分が素子内に進入することにより、まず陰極が劣化した。しかし、酸素や水分が素子内に進入することによって、陰極のみならず有機層や陽極等素子全体が劣化してゆくものと考えられる。
【0110】
(実施例2)
実施例2として、凹凸面Aの内外方向の幅を種々変化させて実施例1に係る有機EL素子2と同様の形態を有する有機EL素子を作成し、それぞれ実施例1と同様の耐久性検査を行うことによって、凹凸面Aの内外方向の幅と素子の耐久性との相関について調べた。
【0111】
図9は凹凸面Aの内外方向の幅と発光領域幅変化率(耐久性検査前の発光領域幅に対する、耐久性検査後の発光領域幅の割合)との相関を表すグラフである。
【0112】
図9に示すように、凹凸面Aの内外方向の幅を大きくすることにより発光領域幅変化率が高くなる傾向にあった。すなわち、耐久性が向上する傾向にあった。凹凸面Aの内外方向の幅が1mm以上である場合に特に高い耐光性が実現でき、発光領域幅変化率は87%以上であった。
【0113】
凹凸面Aの内外方向の幅が20mm以上ではほとんど発光領域幅変化率(耐久性)は変化しなかった。このため、素子の形状寸法の大型化を抑止する観点から、凹凸面Aの内外方向の幅は20mm以下であることが好ましいことがわかった。
【0114】
(実施例3)
実施例3として、保護膜89の膜厚を種々変化させて実施例1に係る有機EL素子2と同様の形態を有する有機EL素子を作成し、それぞれ実施例1と同様の耐久性検査を行うことによって、保護膜89の膜厚と素子の耐久性との相関について調べた。尚、実施例3に係る各有機EL素子において、凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)は35nmであった。
【0115】
図10は保護膜89の膜厚と発光領域幅変化率(耐久性検査前の発光領域幅に対する、耐久性検査後の発光領域幅の割合)との相関を表すグラフである。
【0116】
図10に示すように、保護膜89の膜厚を大きくすることにより発光領域幅変化率が高くなる傾向にあった。すなわち、耐久性が向上する傾向にあった。保護膜89の膜厚が凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)の2倍以上(すなわち、実施例3では70nm以上)である場合に特に高い耐光性が実現でき、発光領域幅変化率は88%以上であった。
【0117】
凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)に対して保護膜89の膜厚が比較的薄いと、イレギュラー的に大きな凹凸が存在する箇所や異物等が存在する箇所が保護膜89により十分に被覆されずに、局所的に保護膜89から基板80が露出してしまうため、耐久性が低くなる傾向にあると考えられる。保護膜89の膜厚を凹凸面Aの算術平均荒さ(Ra)に対して厚くすることによって(好ましくはRaの2倍以上にすることによって)保護膜89から基板80が露出することを効果的に抑制することができる。従って、より高い耐久性を実現することができる。
【0118】
(実施例4)
実施例4として、凹凸傾斜角(θ)を種々変化させて実施例1に係る有機EL素子2と同様の形態を有する有機EL素子を作成し、それぞれ実施例1と同様の耐久性検査を行うことによって、凹凸傾斜角(θ)と素子の耐久性との相関について調べた。
【0119】
図11は凹凸傾斜角(θ)と発光領域幅変化率(耐久性検査前の発光領域幅に対する、耐久性検査後の発光領域幅の割合)との相関を表すグラフである。
【0120】
図10に示すように、凹凸傾斜角(θ)が比較的小さい場合は、凹凸傾斜角(θ)の増大と共に発光領域幅変化率が高くなる傾向にあった。一方、凹凸傾斜角(θ)が比較的大きい場合は、凹凸傾斜角(θ)の増大と共に発光領域幅変化率が低くなる傾向にあった。図11より、凹凸傾斜角(θ)の好適範囲は2度以上45度以上であることがわかった。
【0121】
表面凹凸の傾きが2度未満では、保護膜89と基板80との密着性が低下する傾向にあると考えられる。一方、45度よりも大きい場合は、保護膜89の被覆性が低下するために、イレギュラー的に大きな凹凸が存在する箇所や異物等が存在する箇所が保護膜89により十分に被覆されずに、局所的に保護膜89から基板80が露出してしまうため、耐久性が低くなる傾向にあると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上説明したように、本発明に係る有機EL素子は、高い耐久性を有し、携帯電話、PDA、テレビ、電子ブック、モニター、電子ポスター、時計、電子棚札等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本実施形態1に係る有機EL素子1の構成を表す断面図である。
【図2】有機EL素子1の構成を表す平面図である。
【図3】凹凸傾斜角を説明するための、凹凸面Aの凹凸形状を模式的に表す模式図である。
【図4】エッチング法により凹凸面Aを形成する工程を表す断面図である。
【図5】実施例1に係る有機EL素子2の構成を表す平面図である。
【図6】実施例1に係る有機EL素子2の構成を表す断面図である。
【図7】高温・高湿槽で200時間保持された後の実施例1に係る有機EL素子2の発光領域付近の拡大平面写真である。
【図8】高温・高湿槽で200時間保持された後の比較例1に係る有機EL素子の発光領域付近の拡大平面写真である。
【図9】凹凸面Aの内外方向の幅と発光領域幅変化率(耐久性検査前の発光領域幅に対する、耐久性検査後の発光領域幅の割合)との相関を表すグラフである。
【図10】保護膜89の膜厚と発光領域幅変化率(耐久性検査前の発光領域幅に対する、耐久性検査後の発光領域幅の割合)との相関を表すグラフである。
【図11】凹凸傾斜角(θ)と発光領域幅変化率(耐久性検査前の発光領域幅に対する、耐久性検査後の発光領域幅の割合)との相関を表すグラフである。
【符号の説明】
【0124】
1、2 有機EL素子
10 アクティブマトリクス基板
11 TFT素子
13 レジスト
14 フォトマスク
20 絶縁層
30 バンク
40 積層体
41 画素電極
42、84 正孔輸送層
43、85 発光層
44、86 有機層
45 上部共通電極
50 保護膜
60 封止基板
70 接着剤
80 基板
81 ガラス基板
82 酸化シリコン膜
83 陽極
87 陰極
88 陰極引き出し電極
89 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板上に設けられた第1電極、該第1電極の上に設けられ、発光層を含む有機層、及び該有機層の上に設けられた第2電極を含む積層体と、
上記積層体を被覆し、且つ周縁部分が上記積層体周囲の上記基板の直上に位置づけられるように設けられた保護膜と、
を有し、
上記保護膜の周縁部分が位置づけられている上記基板の表面部位には凹凸面が形成されている有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記凹凸面は上記積層体を包囲するように帯状でもって周回している有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記凹凸面の内外方向の幅が1mm以上20mm以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記保護膜の膜厚が上記凹凸面のJIS B 0601−1994で定義される算術平均荒さの2倍以上であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記凹凸面の凹凸傾斜角が2度以上45度以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記発光層は高分子発光材料を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
請求項1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
上記基板がアクティブマトリクス基板であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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