説明

有機エレクトロルミネッセンス装置、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法および電子機器

【課題】発光材料に対して良好な電子注入を実現し、発光ムラが無い有機EL装置を提供する。
【解決手段】第1の色を発光する第1発光素子と、第1の色とは異なる第2の色を発光する第2発光素子とを有する複数の発光素子を備えた有機EL装置であって、陰極は、有機発光層46と接して配置された電子注入層52Aと、該電子注入層52Aの有機発光層とは反対側に配置された陰極層56と、を備え、電子注入層52Aは、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属である第1金属材料から選ばれる形成材料を含む第1注入層52aと、第1金属材料から選ばれ第1注入層52aと異なる形成材料を含む第2注入層52bと、が積層し、第1注入層52aは、有機発光層46と接すると共に、有機発光層46を露出する複数の開口部52xを有して設けられ、該複数の開口部52xを介して第2注入層52bが有機発光層46と接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」という)が知られている。
【0003】
有機EL装置を良好に発光させて安定駆動させるためには、有機発光層への電子注入を行う陰極の構造が大きな影響を与えることが知られている。電子注入性の良否は、主に陰極と有機発光層とのエネルギーレベル差が大きい事(エネルギー障壁)に起因しており、電子注入性を向上させるために、様々な陰極構造の検討が成されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、陰極からの電子注入性を改善するために、有機発光層と接し、有機発光層への電子注入を行いやすい低い仕事関数を有する下地金属電極を、下地金属電極より仕事関数の大きい金属で覆って積層する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2760347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、表示装置では、豊かな表現を可能とするために、フルカラー表示をさせることが望まれることが多い。有機EL装置は、有機発光層に用いる発光材料を選択することにより、赤色、緑色、青色の光を射出させることができるため、不要な波長の光を窮してしまうカラーフィルタ方式と比べて光の利用効率が良く、低消費電力でフルカラー表示が可能であるという特長を備えている。
【0007】
有機EL装置が備える発光素子では、注入する正孔と電子が発光材料内で再結合し、発光材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital:最高占有軌道)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:最低非占有軌道)のエネルギーレベル差に応じた発光を行う。上述した3色の色光では、青色の光、緑色の光、赤色の光の順に光のエネルギーが低く、従って、必要とするエネルギーレベル差も同じ順に小さくなる。このようなエネルギーレベル差は、通常、発光材料間のLUMOレベルの差として現れるため、複数の色の光を射出する有機EL装置では、複数のLUMOレベルの発光材料を同時に用いることとなっている。
【0008】
しかし、このような異なるLUMOレベルの発光材料に対して電子を注入する陰極は、通常、発光素子全体で共通している。従って、陰極の仕事関数は、異なるLUMOレベルを有する複数の発光材料に最適な値となっていなかった。そのため、発光材料間でエネルギー障壁の差が生じ、1つの駆動電圧で複数の色の発光素子を駆動させる場合に、発光素子間で発光ムラが生じていた。
【0009】
上記特許文献1には、このようなフルカラー表示の有機EL装置に用いられる、発光材料のLUMOレベル差に起因した課題に触れられておらず、従って解決手段も開示されていない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、発光材料に対して良好な電子注入を実現し、発光ムラが無い有機エレクトロルミネッセンス装置を提供することを目的とする。また、このような有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を提供することを併せて目的とする。更に、このような有機エレクトロルミネッセンス装置を備える電子機器を提供することを合わせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置は、陽極と陰極との間に、有機発光層を挟持してなる複数の発光素子を備え、前記複数の発光素子は第1の色を発光する第1発光素子と、前記第1の色とは異なる第2の色を発光する第2発光素子とを有する有機エレクトロルミネッセンス装置であって、前記陰極は、前記有機発光層と接して配置された電子注入層と、該電子注入層の前記有機発光層とは反対側に配置された陰極層と、を備え、前記電子注入層は、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属である第1金属材料から選ばれる形成材料を含む第1注入層と、前記第1金属材料から選ばれ前記第1注入層と異なる形成材料を含む第2注入層と、が積層し、前記第1注入層は、前記有機発光層と接すると共に、前記有機発光層を露出する複数の開口部を有して設けられ、該複数の開口部を介して前記第2注入層が前記有機発光層と接していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、互いに異なる有機発光層に対して共通に設けられる陰極から、有機発光層に接する第1注入層および第2注入層のうち、該有機発光層のLUMOレベルとのエネルギー障壁が小さい注入層を介して、良好に電子注入を行うことができる。したがって、有機発光層の形成材料間でのエネルギー障壁差に起因する発光ムラを低減し、高品質な表示を実現した有機エレクトロルミネッセンス装置を提供することができる。
【0013】
本発明においては、前記第2注入層の形成材料は、前記第1注入層の形成材料よりも仕事関数が大きいことが望ましい。
この構成によれば、第1注入層が第2注入層により保護される構成となり、第1注入層の劣化が抑制されて寿命特性が向上する。
【0014】
本発明においては、前記第1注入層と前記第2注入層との間に、前記第1金属材料から選ばれる2種の形成材料を含む合金層である第3注入層を有し、前記第3注入層の形成材料は、前記第1注入層の形成材料の仕事関数と、前記第2注入層の形成材料の仕事関数と、の間の仕事関数を有することが望ましい。
この構成によれば、第1注入層と第2注入層との仕事関数差に起因するエネルギー障壁を緩和し、良好な電子注入を行うことができる。
【0015】
ここで、本発明において「合金層」とは、2種以上の金属材料を用いて形成した層であって、用いる金属材料同士が互いに金属結合をしているものを指す。その他に、明確な金属結合は確認出来なくとも、金属材料間に相互作用を生じており金属材料単体の物性を発現しなくなっている層、または金属材料単体の物性とは異なる物性を発現する層も含む。この意味において、電子注入層の第1注入層および第2注入層は、合金層とはなっていない。
【0016】
本発明においては、前記第3注入層の形成材料は、前記第1注入層およびまたは前記第2注入層の形成材料を含むことが望ましい。
この構成によれば、材料が共通しているため、第1注入層と第2注入層との親和性が良く、層間で良好な電子注入を実現することが可能となる。また、共通の形成材料を用いて層構造を形成するため、製造装置や工程を共通化することが可能となり、容易に良好な表示特性を備える有機エレクトロルミネッセンス装置とすることができる。
【0017】
本発明においては、前記第1注入層およびまたは前記第2注入層の形成材料は、前記第1金属材料を陽イオンとする無機塩を含むことが望ましい。
この構成によれば、電子注入層がより安定なものとなり、素子寿命が長くなる。
【0018】
本発明においては、前記陰極層は、仕事関数が3.5eV以上4.2eV未満である第2金属材料から選ばれる形成材料と、仕事関数が4.2eV以上である第3金属材料から選ばれる形成材料と、の合金層であり、前記第2注入層と前記陰極層との間に、前記第1金属材料から選ばれる形成材料と、前記第2金属材料から選ばれる形成材料と、を含む合金層である第4注入層を有することが望ましい。
【0019】
また、本発明においては、前記第4注入層は、前記第3金属材料から選ばれる形成材料を含む合金層であることとしても良い。
【0020】
これらの構成によれば、第4注入層の形成材料は、第2注入層の形成材料の仕事関数と、陰極層の形成材料の仕事関数との間の仕事関数を備えることとなる。そのため、第4注入層を配置することで、第2注入層と陰極層との仕事関数差に起因するエネルギー障壁を緩和し、良好な電子注入を行うことができる。
【0021】
本発明においては、前記第4注入層を構成する金属材料は、前記第2注入層およびまたは前記陰極層を構成する金属材料を含むことが望ましい。
この構成によれば、材料が共通しているため、第2注入層と陰極層との親和性が良く、層間で良好な電子注入を実現することが可能となる。また、共通の形成材料を用いて層構造を形成するため、製造装置や工程を共通化することが可能となり、容易に良好な表示特性を備える有機エレクトロルミネッセンス装置とすることができる。
【0022】
本発明においては、前記陰極は、前記陰極層の前記電子注入層とは反対側に、仕事関数が4.2eV以上である第3金属材料から選ばれる形成材料からなる共振層を有し、前記陽極は光透過性を有するとともに、前記陰極は半透過反射性を有し、前記陽極を挟んで前記有機発光層の反対側には光反射層が配置され、前記光反射層と前記陰極との間で、前記有機発光層から射出された光を共振させる光共振器構造が構成されていることが望ましい。
この構成によれば、有機発光層から射出された光を共振させる光共振構造を構成することで、各々の有機EL素子からは光反射層と陰極との間の光学的距離に対応した共振波長の条件を満たす光のみが増幅されて取り出される。そのため、例えば、赤色(R),緑色(G),青色(B)の各色に対応する共振波長を有する有機EL素子を形成することで、高品質なフルカラー表示が可能な有機EL装置を提供することができる。
【0023】
本発明においては、前記第2金属材料は、Mg,Sc,Mn,In,Zr,Asの中から選ばれることが望ましい。
この構成によれば、仕事関数差に起因するエネルギー障壁を緩和し、良好な電子注入を促すことができる。
【0024】
本発明においては、前記第3金属材料は、Al,Ag,Cu,Ni,Auの中から選ばれることが望ましい。
この構成によれば、良好な電子注入を実現すると共に、水分や酸素に対して安定な合金層、または共振層とすることができる。
【0025】
本発明においては、前記第1金属材料は、Li,Na,K,Rb,Cs,Ca,Sr,Baの中から選ばれることが望ましい。
この構成によれば、有機発光層に対して正孔注入能に優れた電子注入層とすることができ、有機EL装置の発光特性を優れたものとすることができる。
【0026】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、陽極と陰極との間に、有機発光層を挟持してなる複数の発光素子を備え、前記複数の発光素子は第1の色を発光する第1発光素子と、前記第1の色とは異なる第2の色を発光する第2発光素子とを有し、前記陰極として、前記有機発光層と接して配置された電子注入層と、該電子注入層の前記有機発光層とは反対側に配置された陰極層と、を有する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、前記電子注入層は、アルカリ金属もしくは仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属である金属材料、または該金属材料の無機塩を形成材料として含む第1注入層および第2注入層を有し、前記金属材料または該金属材料の無機塩を膜厚0.1nm以上5nm以下で蒸着し第1注入層を形成する工程と、前記金属材料または該金属材料の無機塩であって、前記第1注入層と異なる形成材料を前記第1注入層上に蒸着し、第2注入層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
0.1nm以上5nm以下ほどの薄い膜厚の第1注入層は、有機発光層の表面を完全に覆って成膜することができず、所々に開口部を形成して成膜される。そのため、第1注入層上に第2注入層を重ねて形成すると、第2注入層は自ずと開口部を介して有機発光層に接することとなる。従ってこの方法によれば、第1注入層と第2注入層とが有機発光層に接する電子注入層を容易に形成することができる。
【0028】
本発明においては、前記第1注入層の形成材料およびまたは前記第2注入層の形成材料は、Csの無機塩であることが望ましい。
この方法によれば、大気中での取り扱いが難しい低仕事関数の金属材料を直接取り扱うことなく、大気中で安定である金属塩を蒸着材料として用いるために取り扱いが容易であり、作業性が向上する。
【0029】
本発明の電子機器は、上述の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とする。
この構成によれば、発光ムラが無い有機EL装置を備え、高品質な画像表示が可能な電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置を模式的に示す断面図である。
【図2】第1実施形態に係る有機EL装置の陰極構造を模式的に示す説明図である。
【図3】第1実施形態の有機EL装置の製造工程を示す工程図である。
【図4】第2実施形態に係る有機EL装置の陰極構造を模式的に示す説明図である。
【図5】第3実施形態に係る有機EL装置の陰極構造を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明に係る電子機器の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1実施形態]
以下、図1を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0032】
また、本発明の説明における金属の仕事関数の値としては、文献公知の値を用いることができる(例えば、Herbert B. Michaelson, 「The work function of the elements and its periodicity」, Journal of Applied Physics, November 1977, Vol.48, No.11, p.4729-p.4733)。
【0033】
図1は、有機EL装置1を模式的に示す断面図である。図に示すように、有機EL装置1は、基板本体10と、基板本体10上に形成された光反射層20や不図示の駆動素子等を備える素子層11と、を備える基板10Aと、基板10A上に形成される複数の発光素子60と、を有している。複数の発光素子60は、後述のように赤色、緑色、青色の各色の色光を射出可能に形成されている。
【0034】
基板10A上には、発光素子60の一部を構成する画素電極(陽極)30、および複数の発光素子60を分割する画素隔壁層12、共通隔壁層14が形成されている。共通隔壁層14に囲まれた領域には、共通隔壁層14の側壁に当接して発光部40が形成されており、発光部40の上面の全面を覆う陰極50が形成されている。画素電極30と発光部40と陰極50とで有機EL素子(発光素子)60を形成している。
【0035】
本実施形態の有機EL装置1は、有機発光層46で生じる光が、陰極50側へ射出されるトップエミッション方式を採用している。そのため、陰極50は透光性を備えるほどに薄く形成されている必要があり、本実施形態では20nm以下の膜厚となっている。以下、各構成要素について順に説明する。
【0036】
基板本体10は、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。透明基板としては、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、光透過性を備えるならば、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。本実施形態では、基板本体10の材料としてガラスを用いる。
【0037】
素子層11は、有機EL装置1を駆動させるための各種配線や駆動素子、及びそれらを覆って形成される無機物または有機物の絶縁膜などを備えている。各種配線や駆動素子はフォトリソグラフィによりパターニングした後エッチングすることにより、また、絶縁膜は蒸着法やスパッタ法など通常知られた方法により適宜形成することができる。
【0038】
また、素子層11内の基板本体10上には、画素電極30と平面的に重なって、光反射層20が形成されている。反射層はAlNd合金を形成材料としており、マスクパターニングなど通常知られた方法で形成されている。本実施形態では、光反射層20は基板本体10上に形成されることとしたが、素子層11中であっても良く、また、素子層11表面であっても良い。
【0039】
素子層11の上には、画素電極30が形成されている。画素電極30の形成材料には、仕事関数が5eV以上の材料を用いることができる。このような材料は、正孔注入効果が高いため画素電極30の形成材料として好ましい。このような材料としては、例えばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物を挙げることができる。本実施形態ではITOを用いる。
【0040】
また、素子層11の上には、画素電極30の端部に一部が乗り上げるように、画素隔壁層12が形成されている。画素隔壁層12は平面視矩形状あるいは長円形状(トラック形状)などの開口部を備えており、該開口部内に画素電極30が露出している。画素隔壁層12は、酸化シリコンや窒化シリコン等の無機絶縁材料で形成されており、開口部の位置に対応するマスクを介したエッチング等の公知の方法で形成することができる。
【0041】
画素隔壁層12上には、画素電極30の周囲を囲むように共通隔壁層14が形成されている。共通隔壁層14は、断面形状が順テーパ状に形成されており、共通隔壁層14で囲まれた空間は、下部よりも上部が広く開口している。共通隔壁層14は、例えば光硬化性のアクリル樹脂やポリイミド樹脂等で形成される。
【0042】
共通隔壁層14に囲まれた領域の底面に露出した面(ここでは画素電極30と画素隔壁層12の一部)には、発光部40が形成されている。発光部40は、画素電極30からの正孔の注入を容易にする正孔注入層42と、正孔注入層42からの正孔の移動を促す正孔輸送層44と、有機発光層46とを備えており、画素電極30上にこの順に積層されている。
【0043】
正孔注入層42は、画素電極30からの正孔の注入を容易にする電荷移動層として機能する。正孔注入層42の形成材料は、通常知られた材料を用いる事ができる。本実施形態ではPEDOT/PSSを用いる。
【0044】
正孔注入層42の上には、共通隔壁層14の側壁に当接して正孔輸送層44が形成される。正孔輸送層44の形成材料としては、例えば、下記の化学式1で示されるADS259BE(American Dye Source社製、商品名)を用いることが出来る。
【0045】
【化1】

【0046】
正孔輸送層44の上には、共通隔壁層14の側壁に当接して有機発光層46が形成されている。有機発光層46の形成材料としては、通常知られた材料を用いる事ができ、必要とする色光に発色する形成材料を用いることで、異なる色光を射出する発光素子とすることができる。
【0047】
本実施形態では、有機発光層46の形成材料として、化学式2で示される赤色発光高分子材料ADS111RE(American Dye Source社製、商品名)を用いることで、赤色の色光を射出する有機発光層46Rを形成する。同様に、化学式3で示される緑色発光高分子材料ADS109GE(同社製、商品名)を用いることで、緑色の色光を射出する有機発光層46Gを、化学式4で示される青色発光高分子材料ADS136BE(同社製、商品名)を用いることで、青色の色光を射出する有機発光層46B、をそれぞれ形成し、フルカラー表示を可能としている。
【0048】
【化2】

【0049】
【化3】

【0050】
【化4】

【0051】
有機発光層46の上には、共通隔壁層14の頂面および側壁を覆って陰極50が形成されている。陰極50は、共通隔壁層14の頂面及び側壁を覆って有機発光層46の上面の全面を覆う電子注入層52Aと、電子注入層52Aの表面全面を覆う陰極層56と、陰極層56上に設けられた共振層58と、を備えている。
【0052】
電子注入層52Aは、陰極層56から有機発光層46へ良好な電子注入を行うために設けられている。電子注入層52Aの膜厚は、透明性の確保、及び良好な電子注入性の実現を考慮すると、10nm以下であることが好適である。本実施形態の電子注入層52Aの厚みは5nmである。電子注入層52Aの構成については、後に詳述する。
【0053】
電子注入層52Aの上には、電子注入層52Aの表面全面を覆って陰極層56が形成されている。陰極層56は、3.5eV以上4.2eV未満の仕事関数を有する第2金属材料と、4.2eV以上の仕事関数を有する第3金属材料とを用い、真空共蒸着にて形成された合金層である。第2金属材料としては、Mg,Sc,Mn,In,Zr,Asを挙げることができ、第3金属材料としては、Al,Ag,Cu,Ni,Auを挙げることができる。陰極層56は、不図示の陰極取り出し端子へとつながる陰極コンタクト部へ接続されている。本実施形態では、第2金属材料としてMgを用い、第3金属材料としてAgを用いる。
【0054】
陰極層56の膜厚は、透明性の確保、及び良好な面方向の導電性の確保(低いシート抵抗値)を考慮すると、5nm以上15nm以下程度が好適であり、陰極50の膜厚が20nm以下となるような厚みを選択する。本実施形態の陰極層56は、5nmの膜厚となっている。本実施形態では、MgとAgとの共蒸着比率を体積比で10:1として形成した。
【0055】
また、陰極層56は、第2金属材料と第3金属材料との合金層であることで、第3金属材料単体の場合よりも低い仕事関数と、第3金属材料の性質に由来する水分や酸素に対する高い安定性とを兼ね備える層となっている。
【0056】
陰極層56の上には、第3金属材料を形成材料とする共振層58が設けられている。本実施形態ではAgを用いて形成する。共振層58は、有機発光層46から発せられた光の一部を反射する半透過膜である。共振層58が光反射層20との間で光を共振させる光共振構造を構成することで、有機EL素子60からは、光反射層20と共振層58との間の光学的距離に対応した共振波長の条件を満たす光のみが増幅されて取り出され、良好な表示が可能となる構成となっている。また、共振層58は、陰極50の一部を構成しており、陰極50のシート抵抗値を下げる機能も有している。本実施形態の共振層58は、5nmの膜厚を有している。
【0057】
陰極50が上述の電子注入層52A、陰極層56、共振層58の積層構造であることで、有機発光層46への良好な電子注入と、トップエミッションに必要な陰極50の十分な光透過性と、水分や酸素に対して活性な電子注入層52Aの保護と、を同時に実現することができる。また、陰極50のシート抵抗を十分に低くすることができるため、発光ムラも低減することができる。
【0058】
陰極50の上には、不図示のSiOなどの無機膜を形成し、更に無機膜の上にはエポキシ樹脂を介してガラス基板を貼り合わせる、所謂、固体封止構造を備えるものとすると良い。
【0059】
図2は、電子注入層52Aの構成を説明するための模式図である。図2(a)は、有機発光層46から共振層58までの積層構造を示す概略断面図、図2(b)は、図2(a)に示す有機発光層46側から、有機発光層46と電子注入層52Aとの界面における電子注入層52Aを眺めた場合の模式図である。
【0060】
図2(a)に示すように、電子注入層52Aは、有機発光層46側に形成される第1注入層52aと、第1注入層52a上に形成される第2注入層52bと、を有している。第1注入層52aおよび第2注入層52bは、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属(第1金属材料)を用い真空蒸着して形成する。第1金属材料としては、Li,Na,K,Rb,Cs,Ca,Sr,Baを挙げることができる。なお、赤色の色光を射出可能な有機発光層、緑色の色光を射出可能な有機発光層、青色の色光を射出可能な有機発光層の3つの有機発光層のLUMOレベルがそれぞれ大きく異なる場合には、第1金属材料から選ばれる第5注入層を、第2注入層52bの上に配置してもよい。
【0061】
本実施形態では第1注入層52aの形成材料としてBa(仕事関数:2.7)を、第2注入層52bの形成材料としてCa(仕事関数:2.87)を用いる。このように、より下層に形成される第1注入層52aの形成材料に、相対的に仕事関数が小さい(即ち、酸素や水分に対して活性な)Baを用い、上層に形成される第2注入層52bの形成材料に相対的に仕事関数が大きいCaを用いることで、第1注入層52aが第2注入層52bにより保護される構成となり、第1注入層52aの劣化が抑制されて寿命特性が向上する。
【0062】
第1注入層52aおよび第2注入層52bの膜厚は、透明性の確保、及び良好な電子注入性の実現を考慮すると、0.1nm以上5nm以下であることが好適である。本実施形態の第1注入層52aおよび第2注入層52bの膜厚は、各々5nmである。
【0063】
図2(b)に示すように、上述のような非常に薄い膜厚の第1注入層52aは、有機発光層の表面を完全に覆って成膜することができず、開口部52xを形成して成膜される。開口部52xからは、下地面である不図示の有機発光層が露出し、第1注入層52a上に形成される第2注入層52bは、開口部52xを介して有機発光層に接する。即ち、有機発光層には、第1注入層52aと第2注入層52bとが接しており、それぞれいずれかの注入層を介して有機発光層への電子注入が行われる。なお、上述したように第2注入層52bの上に第5注入層を配置する場合は、第2注入層52bも第1注入層52aと同様に開口部52xを有するように非常に薄い膜厚とするのが良い。これによれば第5注入層は第1、第2注入層にそれぞれ形成された開口部52xを介して、下地面である有機発光層と接触することが可能となる。
本実施形態の有機EL装置は、以上のような構成となっている。
【0064】
次に、図3を用いて、本実施形態の有機EL装置1の製造方法を、電子注入極52の形成工程を中心にして説明する。図では、蒸着装置100Aを用い、電子注入極52の積層構造を形成する様子を示している。蒸着装置100Aは、通常知られたものを用いる事ができ、密閉可能に形成され内部が減圧可能なチャンバ100と、第1の蒸着材料111が入った第1坩堝101、第2の蒸着材料112が入った第2坩堝102を有している。本実施形態では、第1の蒸着材料111としてBaを用い、第2の蒸着材料112としてCaを用いた。
【0065】
図3(a)に示すように、有機発光層46まで形成した製造中の有機EL装置をチャンバ100の内部に配置する。そして、チャンバ100内を減圧し、第1の蒸着材料111を収容した第1坩堝101、第2の蒸着材料112を収容した第2坩堝102を不図示の加熱装置で加熱して、蒸発する第1,第2の蒸着材料を用いて有機発光層46を覆う第1注入層52aを形成する。
【0066】
この時、第1注入層52aの膜厚は5nmとなっている。上述のように、このように非常に薄い膜厚の第1注入層52aは、有機発光層46の表面を完全に覆って成膜することができず、所々に開口部52xを形成して成膜される。
【0067】
次いで、図3(b)に示すように、第1注入層52aの膜厚が所定の膜厚に達すると、第1坩堝101のシャッタを閉めて第1の蒸着材料111の蒸着を停止する。そして、第2の蒸着材料112を蒸着して、第2注入層52bを形成する。第2注入層52bは、開口部52xを介して有機発光層46と接して形成される。このようにして、本実施形態の有機EL装置が備える電子注入極52を形成する。
その後、通常知られた方法により陰極構造を形成し、本実施形態の有機EL装置1を製造する。
【0068】
以上のような構成の有機EL装置1によれば、互いに異なる有機発光層46R,46G,46Bに接する第1注入層52aおよび第2注入層52bのうち、該有機発光層のLUMOレベルとのエネルギー障壁が小さい注入層を介して、良好に電子注入を行うことができる。したがって、有機発光層の形成材料間でのエネルギー障壁差に起因する発光ムラを低減し、高品質な表示を実現する有機EL装置1とすることができる。
【0069】
なお、本実施形態においては、複数の有機EL素子60に共通する共振層58を設けることとしたが、共振層58を有機EL素子60ごとにパターニングして設け、有機EL素子60が発する色に応じて共振層58の厚みを変化させて、光共振構造を構成することとしても良い。同様に有機EL素子60が発する色に応じて光反射層20の厚みを変化させて光共振構造を構成することも可能である。
【0070】
また、本実施形態においては、電子注入層52Aを第1注入層52aと第2注入層52bとをそれぞれ1層ずつ設けることとしたが、これら第1注入層52aおよび第2注入層52bは、それぞれ複数層積層することとしても構わない。例えば、第1注入層52aと第2注入層52bとが非常に薄い膜厚であり、それぞれを1層ずつ積層しただけでは、有機発光層46の表面を覆いきらない場合、交互に繰り返し形成し、それぞれの層が交互に複数層積層する電子注入層52Aとしても構わない。
【0071】
また、本実施形態においては、第1注入層52aおよび第2注入層52bの形成材料として、それぞれ第1金属材料であるBa,Caを用いたが、第1金属材料の無機塩を用いることで、電子注入層をより安定なものとし、素子寿命を長くすることもできる。セシウム(Cs)のように、大気中での取り扱いが難しい低仕事関数の金属材料の無機塩を用いると、蒸着材料として用いる金属塩は大気中で安定であるために取り扱いが容易であり、高い電子注入性の実現と作業性の向上とを両立することができる。
【0072】
また、本実施形態においては、有機EL装置1はトップエミッション方式であることとしたが、有機発光層46で生じる光が、基板10A側へ射出されるボトムエミッション方式を採用することとしても構わない。その場合には、光反射層20を廃し光透過性を有する基板10Aを用いるといった、ボトムエミッション方式に応じた設計変更を行う。
【0073】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置2の説明図であり、図3に対応する図である。本実施形態の有機EL装置2は、第1実施形態の有機EL装置1と一部共通している。異なるのは、電子注入層52Bが有する第1注入層52aと第2注入層52bとの間に、2種の第1金属材料の合金層である第3注入層52cを備えることである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0074】
図4(a)に示す第3注入層52cは、2種の第1金属材料を用い真空共蒸着にて形成された合金層である。本実施形態では、第3注入層52cの形成材料として、第1注入層52aの形成材料と同じであるBaと、第2注入層52bの形成材料と同じであるCaと、を用いる。
【0075】
第3注入層52cを構成するBaとCaとの共蒸着比率は、特に限定するものではないが、第3注入層52cの仕事関数の値が、第1注入層52aおよび第2注入層52bの間の仕事関数値を示す共蒸着比率であることが望ましい。第2注入層52bから第1注入層52aへの良好な電子注入を実現するために、本実施形態では体積比で1:1とした。このような共蒸着比率を備える第3注入層52cを配置することで、第1注入層52aと第2注入層52bとの仕事関数差を緩和し、第2注入層52bから第1注入層52aへ良好な電子注入を行うことができる。
【0076】
図4(b)に示すように、第1注入層52aには、下地面である有機発光層46が露出した開口部52xが形成されており、第1注入層52a上に形成される第3注入層52cが、開口部52xを介して有機発光層46に接することとなる。即ち、有機発光層46には、第1注入層52aと第3注入層52cとが接しており、それぞれいずれかの注入層を介して有機発光層46への電子注入が行われる。
本実施形態の有機EL装置2は、以上のような構成となっている。
【0077】
以上のような構成の有機EL装置2では、第3注入層52cが、第1注入層52aと第2注入層52bとの仕事関数差に起因するエネルギー障壁を緩和するため、良好な電子注入を行うことができ、良好な発光効率を実現することができる。
【0078】
また、本実施形態では、第3注入層52cの形成材料に、第1注入層52aおよび第2注入層52bに共通する金属材料を用いているため、各層間の親和性が良く、良好な電子注入を実現する層構造を備えた陰極50とすることができる。また、電子注入層52Bの各層の形成材料が共通するため、用いる形成材料を減らすことができる。
【0079】
なお、本実施形態では、第3注入層52cの形成材料は第1注入層52aの形成材料および第2注入層52bの形成材料と同じ金属材料を用いることとしたが、これに限らない。例えば、一方の注入層とのみ形成材料を共通する事としても良く、また、いずれの注入層とも異なる第1金属材料を用いる事としても良い。
【0080】
また、本実施形態では、第1注入層52aと第2注入層52bの間に第3注入層52cを設けているが、第2注入層52b上に第5注入層が形成されている場合には、第2注入層52bと第5注入層との間に、2種の第1金属材料の合金層である第6注入層を備えてもよい。このとき第6注入層の材料としては、第2注入層52bの形成材料と同じ材料と第5注入層の形成材料と同じ材料との2種の金属材料を用いてもよい。
【0081】
[第3実施形態]
図5は、本発明の第3実施形態に係る有機EL装置3の説明図であり、図2(a)に対応する図である。本実施形態の有機EL装置3は、第1実施形態の有機EL装置1と一部共通している。異なるのは、電子注入層52Cが有する第2注入層52bと陰極層56との間に、第1金属材料と第2金属材料との合金層である第4注入層52dを備えることである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0082】
第4注入層52dは、第1金属材料と第2金属材料とを用い、真空共蒸着にて形成された合金層である。本実施形態では、第4注入層52dの形成材料に用いる第1金属材料は、第2注入層52bの形成材料である第1金属材料と同じくCaであり、第2金属材料は、陰極層56の形成材料である第2金属材料と同じくMgである。
【0083】
第4注入層52dのCaとMgとの共蒸着比率は特に限定するものではないが、陰極層56から第2注入層52bへの良好な電子注入を実現するために、第4注入層52dの仕事関数の値が、第2注入層52bおよび陰極層56の間の仕事関数値を示す共蒸着比率であることが望ましい。本実施形態では体積比でCa:Mg=1:10とした。このような共蒸着比率を備える第4注入層52dを配置することで、第2注入層52bと陰極層56との仕事関数差を緩和し、良好な電子注入を行うことができる。
【0084】
以上の様な構成の有機EL装置3では、第2注入層52dと陰極層56との間に第4注入層52dを配置することで、第2注入層52dと陰極層56との仕事関数差を緩和し、良好な電子注入を行うことができる。
【0085】
また、本実施形態では、第4注入層52dを構成する金属材料が、第2注入層52bおよび陰極層56を構成する金属材料を同じ材料から形成されているため、各層間の親和性が良く、良好な電子注入を実現する層構造を備えた陰極50とすることができる。また、必要とする形成材料を少なくすることができ、連続して各層を形成することができる。
【0086】
なお、本実施形態では、第4注入層52dの形成材料は第2注入層52bの形成材料および陰極層56の形成材料と同じ金属材料を用いることとしたが、これに限らない。例えば、一方の陰極層とのみ形成材料を共通する事としても良く、また、いずれの陰極層とも異なる金属材料を用いる事としても良い。
【0087】
また、本実施形態では、第4注入層52dは第1金属材料と第2金属材料との合金層であることとしたが、第4注入層52dは、第1金属材料と第2金属材料と第3金属材料との合金層であることとしても良い。
【0088】
例えば、このような第4注入層52dの形成材料に用いる第1金属材料は、第2注入層52bの形成材料と同じくCaであり、第4注入層52dの形成材料に用いる第2金属材料は、陰極層56の形成材料と同じくMgであり、第3金属材料は、陰極層56の形成材料と同じくAgである。第4注入層52dの共蒸着比率は、体積比でCa:Mg:Ag=1:10:1とすることを例示することができる。
【0089】
このような第4注入層52dは、水分や酸素に対して安定な第3金属材料との合金層であり、水分や酸素に対して安定である。そのため、安定性が良く信頼性が高い有機EL装置3とすることができる。
【0090】
[電子機器]
次に、本発明の電子機器の実施形態について説明する。図6は、本発明の有機EL装置を用いた電子機器の一例を示す斜視図である。図6に示す携帯電話(電子機器)1300は、本発明の有機EL装置を小サイズの表示部1301として備え、複数の操作ボタン1302、受話口1303、及び送話口1304を備えて構成されている。これにより、本発明の有機EL装置により構成された、発光ムラのない表示部を具備した携帯電話1300を提供することができる。
【0091】
上記各実施の形態の有機EL装置は、上記携帯電話に限らず、電子ブック、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができる。かかる構成とすることで、表示品質が高く、信頼性に優れた表示部を備えた電子機器を提供できる。
【0092】
更には、上記各実施の形態の有機EL装置をラインヘッドとして用いることができ、該ラインヘッドを光源として備えた画像形成装置(光プリンタ)として好適に用いることができる。このようにすると、発光ムラが無く信頼性に優れた光プリンタとすることができる。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0094】
1,2,3…有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)、20…光反射層、30…画素電極(陽極)、46,46R,46G,46B…有機発光層、50…陰極、52,52A,52B,52C…電子注入層、52a…第1注入層、52b…第2注入層、52c…第3注入層、52d…第4注入層、52x…開口部、56…陰極層、58…共振層、60,60R,60G,60B…有機EL素子(発光素子)、1300…携帯電話(電子機器)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に有機発光層を挟持してなる複数の発光素子を備え、前記複数の発光素子は第1の色を発光する第1発光素子と、前記第1の色とは異なる第2の色を発光する第2発光素子とを有する有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記陰極は、前記有機発光層と接して配置された電子注入層と、該電子注入層の前記有機発光層とは反対側に配置された陰極層と、を備え、
前記電子注入層は、アルカリ金属または仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属である第1金属材料から選ばれる形成材料を含む第1注入層と、前記第1金属材料から選ばれ前記第1注入層と異なる形成材料を含む第2注入層と、が積層し、
前記第1注入層は、前記有機発光層と接すると共に、前記有機発光層を露出する複数の開口部を有して設けられ、該複数の開口部を介して前記第2注入層が前記有機発光層と接していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記第2注入層の形成材料は、前記第1注入層の形成材料よりも仕事関数が大きいことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記第1注入層と前記第2注入層との間に、前記第1金属材料から選ばれる2種の形成材料を含む合金層である第3注入層を有し、
前記第3注入層の形成材料は、前記第1注入層の形成材料の仕事関数と、前記第2注入層の形成材料の仕事関数と、の間の仕事関数を有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記第3注入層の形成材料は、前記第1注入層およびまたは前記第2注入層の形成材料を含むことを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
前記第1注入層およびまたは前記第2注入層の形成材料は、前記第1金属材料を陽イオンとする無機塩を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
前記陰極層は、仕事関数が3.5eV以上4.2eV未満である第2金属材料から選ばれる形成材料と、仕事関数が4.2eV以上である第3金属材料から選ばれる形成材料と、の合金層であり、
前記第2注入層と前記陰極層との間に、前記第1金属材料から選ばれる形成材料と、前記第2金属材料から選ばれる形成材料と、を含む合金層である第4注入層を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
前記第4注入層は、前記第3金属材料から選ばれる形成材料を含む合金層であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項8】
前記第4注入層を構成する金属材料は、前記第2注入層およびまたは前記陰極層を構成する金属材料を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項9】
前記陰極は、前記陰極層の前記電子注入層とは反対側に、仕事関数が4.2eV以上である第3金属材料から選ばれる形成材料からなる共振層を有し、
前記陽極は光透過性を有するとともに、前記陰極は半透過反射性を有し、前記陽極を挟んで前記有機発光層の反対側には光反射層が配置され、前記光反射層と前記陰極との間で、前記有機発光層から射出された光を共振させる光共振器構造が構成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項10】
前記第2金属材料は、Mg,Sc,Mn,In,Zr,Asの中から選ばれることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項11】
前記第3金属材料は、Al,Ag,Cu,Ni,Auの中から選ばれることを特徴とする請求項6から10のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項12】
前記第1金属材料は、Li,Na,K,Rb,Cs,Ca,Sr,Baの中から選ばれることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項13】
陽極と陰極との間に、有機発光層を挟持してなる複数の発光素子を備え、前記複数の発光素子は第1の色を発光する第1発光素子と、前記第1の色とは異なる第2の色を発光する第2発光素子とを有し、前記陰極として、前記有機発光層と接して配置された電子注入層と、該電子注入層の前記有機発光層とは反対側に配置された陰極層と、を有する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記電子注入層は、アルカリ金属もしくは仕事関数が2.9eV以下のアルカリ土類金属である金属材料、または該金属材料の無機塩を形成材料として含む第1注入層および第2注入層を有し、
前記金属材料または該金属材料の無機塩を膜厚0.1nm以上5nm以下で蒸着し第1注入層を形成する工程と、
前記金属材料または該金属材料の無機塩であって、前記第1注入層と異なる形成材料を前記第1注入層上に蒸着し、第2注入層を形成する工程と、を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1注入層の形成材料およびまたは前記第2注入層の形成材料は、Csの無機塩であることを特徴とする請求項13に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−182633(P2010−182633A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27472(P2009−27472)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】