説明

有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法、及び有機エレクトロルミネッセンス装置

【課題】 十分な発光特性や発光寿命が得られ、非発光領域の発生を抑制できる有機EL装置の製造方法、有機EL装置、及び電子機器を提供する。
【解決手段】 基板20上に、複数の第1電極と、第1電極の形成位置に対応して配置される発光機能層と、発光機能層を覆う第2電極と、を有する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、第2電極を覆うと共に緩衝層210を形成する緩衝層形成工程と、当該緩衝層210を覆うガスバリア層30を形成する工程とを含み、緩衝層形成工程は、モノマー/オリゴマー材料と硬化剤とを有する塗布材料を、真空雰囲気下において溶媒を用いずに塗布する塗布工程と、塗布材料を硬化させて緩衝層を形成する熱硬化工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法、及び有機エレクトロルミネッセンス装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発光機能層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と称する。)が知られている。このような有機EL装置は、無機陽極と無機陰極との間に有機発光層を備えた構成が一般的である。更に、正孔注入性や電子注入性を向上させるために、無機陽極と有機発光層の間に有機正孔注入層を配置した構成や、有機発光層と無機陰極の間に電子注入層を配置した構成が提案されている。
【0003】
ここで、電子を放出しやすい材料特性を有する電子注入層は、大気中の存在する水分と反応しやすく、水と反応することによって電子注入効果が低下し、ダークスポットと呼ばれる発光しない部分が形成されてしまい、発光素子としての寿命が短くなってしまう。従って、このような有機EL装置の分野においては、水分や酸素等に対する耐久性向上が課題となっている。
このような課題を解決するために、表示装置の基板にガラスや金属の蓋を取り付けて水分等を封止する方法が一般的に採用されてきた。しかし、ディスプレイの大型化及び薄型化/軽量化に伴い、外部応力に耐えるパネル強度を保持するため、中空構造からソリッド構造に切り替える必要が出てきている。また、大型化に伴ってTFTや配線回路の面積を十分に確保するため、回路基板の反対側から発光させるトップエミッション構造を用いる必要も提案されている。このような要求を達成するために、封止構造においては、透明でかつ軽量、耐強度性に優れた薄い構造を採用する必要があり、また、乾燥剤を除いても防湿性能が得られる構造が求められている。
【0004】
そこで、近年では、表示装置の大型化及び軽薄化に対応するために、発光素子上に透明でガスバリア性に優れた珪素窒化物、珪素酸化物、セラミックス等の薄膜を高密度プラズマ成膜法(例えば、イオンプレーティング、ECRプラズマスパッタ、ECRプラズマCVD、表面波プラズマCVD、ICP−CVD等)により成膜させる薄膜封止と呼ばれる技術が用いられている(例えば、特許文献1〜4)。このような技術を利用しガスバリア層を形成することにより、水分を完全に遮断して薄膜形成することが可能となっている。
【0005】
ところで、これらのガスバリア層は、水分遮断性を持たせるために高密度で非常に硬い無機膜である。そのため、当該薄膜の表面に凹凸部や急峻な段差があると、外部応力が集中し、クラックや剥離等が生じてしまう虞があった。そこで、このような応力に起因するクラックや剥離を抑制するために、ガスバリア層との密着性を向上させ、また、平坦化を実現するための緩衝層をガスバリア層に接触配置させる必要があった。このような緩衝層としては、平坦性や柔軟性を有すると共に、応力を吸収する性質を有している材料が好ましく、有機高分子材料が好適である。
【特許文献1】特開平9−185994号公報
【特許文献2】特開2001−284041号公報
【特許文献3】特開2000−223264号公報
【特許文献4】特開2003−17244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らは、上記の特許文献に記載された技術を採用しても、また、緩衝層を配置させても、十分な発光特性や発光寿命が得られないことや、非発光領域が生じてしまうこと等、を確認した。特に、緩衝層の平坦性の確保には、貼り合わせ接着剤のように基板に接触して加重をかけて押し広げることもできないため、気泡等が発生せずに平坦で欠損のない緩衝層の塗布プロセスが必要であり、ガスバリア層の高品質化にとっても極めて重要である。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、十分な発光特性や発光寿命が得られ、非発光領域の発生を抑制できる有機EL装置の製造方法、有機EL装置、及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、緩衝層の塗布形成方法に着目し、本発明を想到した。
具体的に説明すると、緩衝層の塗布形成方法としては、アクリル等の有機材料に溶媒を混合させた液体材料を作成し、当該液体材料を塗布形成するのが一般的であった。これにより、高粘度の有機材料が低粘度化することとなり、当該液体材料を塗布形成することでバンク等の凹凸部が埋設され、緩衝層の表面が平坦かつ均一に形成される。そして、このような緩衝層の上層側にガスバリア層を形成することにより、当該薄膜は平坦かつ均一に形成される。
しかしながら、本発明者らは、このような緩衝層の塗布形成方法においては、発光機能層に代表される有機機能層各層が変質しない低温プロセス条件では緩衝層内に溶媒が残留してしまうことを見出した。更に、本発明者らは、緩衝層の形成後に充分な乾燥処理を施して溶媒の除去を行っても、緩衝層から完全に溶媒を除去することができないことを確認した。そして、緩衝層内に残留した溶媒が発光機能層に侵入することで、発光機能層の発光特性の低下や発光寿命の短寿命化、また、非発光領域の発生を招いてしまうことを見出した。
【0008】
また、本発明者らは、溶媒を用いずに有機材料を塗布形成する場合を検討したが、高粘度の有機材料は低粘度のものよりも表面の平坦化が困難であるだけでなく、塗布時に巻き込まれる大気の侵入や、高粘度の有機材料を隔壁等の凹凸部に埋設した場合に、凹凸部の被覆の際に界面近傍に気泡が混入しやすくなることを確認した。そして、この気泡が有機材料の表面から抜ける際に、気泡破壊時に形成されるクレータ状の塗布抜け部が形成されてしまい、当該形状が残留してしまうことも確認した。従って、高粘度の有機材料では、平坦化が困難であると共に塗布抜け部の表面を有する緩衝層が形成されてしまい、これに倣ってガスバリア層も凹凸状となり、当該ガスバリア層を平坦かつ均一に形成することが困難であることを見出した。そして、この場合のガスバリア層においては、外部応力の集中や、クラックや剥離等が生じやすくなるという問題があった。
また、本発明者らは、緩衝層内に残留した気泡ガス成分が発光機能層に侵入する虞もあり、発光機能層の発光特性の低下や発光寿命の短寿命化、また、非発光領域等の発生を招いてしまうことを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、緩衝層を構成する材料と、電子注入層の構成材料の組み合わせによっては、低粘度材料が溶出して、電子注入層のダークスポットの発生原因となってしまうことを見出した。
そこで、本発明者らは、上記に基づいて以下の手段を有する本発明を想到した。
【0010】
即ち、本発明の有機EL装置の製造方法は、基板上に、複数の第1電極と、前記第1電極の形成位置に対応して配置される発光機能層と、前記発光機能層を覆う第2電極と、を有する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、前記第2電極を覆うと共に緩衝層を形成する緩衝層形成工程と、当該緩衝層を覆うガスバリア層を形成する工程とを含み、前記緩衝層形成工程は、モノマー/オリゴマー材料と硬化剤とを有する塗布材料を、真空雰囲気下において溶媒を用いずに塗布する塗布工程と、前記塗布材料を硬化させて前記緩衝層を形成する熱硬化工程と、を含む、ことを特徴としている。
【0011】
このようにすれば、塗布工程によって塗布されたモノマー/オリゴマー材料と硬化剤とを、熱硬化工程によって硬化させて緩衝層を形成することができる。
ここで、塗布工程においては、真空雰囲気下にて行われるので、水分や酸素が除去された雰囲気で塗布工程が行われることとなり、緩衝層内に水分や酸素が侵入するのを抑制することができる。また、当該塗布工程は、溶媒を用いずに行われるので、緩衝層内に溶媒が残留することがない。従って、緩衝層中には、水分や酸素が殆ど残留しておらず、また、溶媒分子が存在しないので、これらが発光機能層に侵入することに起因する発光特性の低下や発光寿命の短寿命化、非発光領域等の発生を抑制できる。
また、熱硬化工程においては、モノマー/オリゴマー材料を硬化剤によって硬化させるので、モノマーやオリゴマーが架橋し、高分子有機材料(ポリマー)からなる緩衝層を形成することができる。また、熱硬化工程としては、熱処理による熱硬化法が好ましい。このようにすれば、塗布材料を硬化させて緩衝層を形成するだけでなく、緩衝層の周辺部を熱によって溶融(軟化)させ、緩衝層の側面端部に傾斜部を形成することができる。これにより、緩衝層の上方に形成されるガスバリア層が緩衝層の形状に倣って緩やかに形成されるので、ガスバリア性の向上を図ることができる。
また、このような製造方法によって積層形成されたガスバリア層と緩衝層との総厚は、従来よりも薄くすることができる。従って、本発明の有機EL装置においては、厚膜化を行わずに、薄膜の封止構造を実現できる。
なお、本発明においては、発光機能層としては、低分子系又は高分子系のいずれも採用可能である。
【0012】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁を形成する工程と、当該複数の開口部のそれぞれに前記発光機能層を形成する工程と、前記隔壁及び前記発光機能層を覆う第2電極を形成する工程と、を含み、前記緩衝層形成工程は、前記第2電極と前記隔壁とを覆うように前記緩衝層を形成すること、を特徴としている。
本発明によれば、開口部を有する隔壁を形成するので、液滴吐出法等の湿式製膜法により、開口部に高分子系の発光機能層を形成することが可能となる。従って、開口部のみに高分子系の発光機能層を塗布形成することができる。従って、上記の効果が得られるだけでなく、湿式製膜法によって発光機能層を形成できるという利点を有している。
【0013】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記緩衝層形成工程において、前記塗布工程は、スクリーン印刷法を利用することを特徴としている。また、前記スクリーン印刷法は、マスクを介在させて前記塗布材料を前記基板上に滴下する工程と、塗着手段によって前記塗布材料を前記基板に押圧しながら、前記基板と前記塗着手段とを相対移動させ、前記基板上に前記塗布材料からなる塗布膜を形成する工程と、前記マスクを前記塗布膜から剥離する工程と、を順に行うこと、を特徴としている。
【0014】
このようにすれば、上記のように真空雰囲気においてスクリーン印刷法を行うこととなり、当該方法により塗布材料を基板上に塗布形成できる。これにより、塗布時に巻き込まれる大気中の酸素や水分が取り込まれることによって発光機能層へ与えるダメージを極力抑制することができると共に、塗布前に基板表面への水分の吸着を防ぐこともできる。
また、スクリーン印刷法を利用することにより、安定した膜厚の確保と気泡の除去による緩衝層の平坦化を施すことができ、さらにスクリーンメッシュと乳剤で作製されるマスクによる塗り分けにより、所定のパターニング形状の精度及び自由度をより高めることができる。
また、緩衝層の表面が平坦化されることにより、その上方に形成されるガスバリア層は均一な膜質となり、欠陥の無い均一なガスバリア層を形成できる。
【0015】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記マスクを前記塗布膜から剥離する工程は、前記基板に対して前記マスクを傾けながら、前記マスクを前記塗布膜から剥離すること、を特徴としている。
このようにすれば、塗布膜とマスクとの接触界面において、一方から他方に向けて線上に移動させながら1点に力を集中させずに徐々に剥離させることができる。これに対し、マスクを傾けずに基板とマスクとを略平行に保って剥離した場合では、マスクを剥離した際に生じるマスク自体の反発力が密着力の低い中心部の電極(陰極)1点に集中し、電極の剥離をおこしてしまう。
従って、上記のように、基板に対してマスクを傾けながら剥離することで、電極の剥離防止し、また、傾斜させて剥離することでマスクの剥離速度を一定にできるため、均一な塗布膜を形成し、熱硬化工程後に形成された緩衝層の表面の平坦化を実現できる。
【0016】
また、マスクは、スクリーンメッシュと呼ばれる樹脂または金属繊維を編みこんで作製した可撓性の板体からなることが好ましく、この場合では、マスクが塗布膜に接触する接触面と、塗布膜の露出面との境界近傍において、マスクを湾曲させながら剥離することができる。これによって、基板にかかるマスク剥離時の力を分散させ、また塗布膜との剥離角度を小さく抑えることによって、気泡を破裂させることなく小さく抑えられるため、その後の消泡工程で容易に消滅させることができ、上記と同様の効果が得られる。
【0017】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記緩衝層形成工程は、前記塗布工程と前記熱硬化工程との間に消泡工程を有し、当該消泡工程は前記塗布工程よりも高い圧力の不活性ガス雰囲気において行うこと、を特徴としている。
ここで、上記の塗布工程は真空雰囲気で行われるが、塗着手段でマスクを押し当てながら塗布材料を転写する際、塗着手段移動時の撹拌や塗布直後の基板からマスクが離脱する時に、真空状態の気泡が塗布材料中に混入する場合がある。そこで、塗布工程よりも高い圧力の不活性ガス雰囲気で消泡工程を行うことにより、不活性ガス雰囲気の外圧によって緩衝層(硬化前では塗布膜)に圧力が付与され、真空状態の気泡が収縮して極微小にすることができる。また、このように収縮して極微小となった気泡の内部には、殆どガスが存在しておらず、発光機能層に影響を与えることがない。そして、緩衝層内において気泡が極微小となっていることから、緩衝層の表面は平坦性を有するものとなる。また、気泡が破壊されて形成されるクレータ状の塗布抜けした凹凸部が緩衝層の表面に形成されることもない。
【0018】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記緩衝層形成工程は、前記緩衝層の平面パターンの周縁部を波形状に形成すること、を特徴としている。
このようにすれば、周縁部が直線状の場合と比較して、緩衝層の平面パターンの周縁長さを長くなる。これによって、緩衝層の上層側の膜(ガスバリア層)との密着力を向上させることができ、また、周縁部における緩衝層の応力を分散させることができる。そして、緩衝層の膜強度を向上させることができ、高い信頼性を得ることができる。このような波形状は、スクリーン印刷法のマスク形状によって所望に規定できるので、波形状を形成するための工程が増加することなく、容易に形成することができる。
【0019】
また、本発明者らによれば、緩衝層の平面パターンの周縁部が直線状である場合と波形状である場合とを比較した結果、直線状の場合ではダークスポットや非発光部分が生じていたのに対して、波形状の場合ではダークスポットや非発光部分が生じることなく全面発光を実現できることが確認された。
【0020】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記緩衝層形成工程において、前記塗布材料は、分子量3000以下のエポキシ系のモノマー/オリゴマー材料を有し、前記熱硬化工程により前記塗布材料をエステル結合によって硬化させて前記緩衝層を形成することを特徴としている。
ここで、上記のように、本発明は無溶媒で緩衝層を形成するものであるため、モノマー/オリゴマー材料を低粘度な状態で塗布形成する必要がある。そして、低分子のモノマーでも熱硬化工程によってポリマー被膜が形成し易い材料が採用される。このような材料として、エポキシ系材料が好適である。
また、エポキシ系材料と、従来まで緩衝層の材料として用いられてきたアクリル系材料とを比較すると、アクリル系材料は、モノマー/オリゴマーからポリマーに硬化する際に、収縮が生じ易いという欠点を有していた。これに対して、エポキシ系材料は、膜の収縮を抑えながら低分子材料であるモノマー/オリゴマーから容易に膜を形成し易いという利点を有する。
また、硬化剤としては、酸無水物を採用することが好ましく、当該酸無水物を使用してエポキシ系のモノマー/オリゴマーを硬化すると三次元的で緻密なエステル結合が形成され、硬度が高く耐熱性、耐水性、及び電気絶縁性に優れた高分子有機材料からなる緩衝層を形成することができ、無機材料からなるガスバリア層を形成する高密度プラズマプロセスにも耐えるため、欠損のない密度の高いガスバリア層が形成できる。また、このように酸無水物を利用して硬化させることにより、高密度に極性の高いエステル結合が形成されるため、異質な材料であるガスバリア層に対する密着性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記塗布材料の室温粘度は、500〜20000mPa・sの範囲であること、を特徴としている。
ここで、スクリーン印刷法においては、あまりにも低粘度化された材料や溶媒によって希釈した材料を塗布すると、マスクと基板間のにじみや浸透等が起こり、形状の保持が難しい。また、あまりにも高粘度化された材料は、表面にマスクの凹凸形状や気泡が残留して平坦化が難しい。従って、スクリーン印刷法を施す場合においては、好適な形状保持と表面の平坦化を施すために、塗布材料がある範囲の粘度を有することが好ましい。
そこで、本発明者らは、実験の結果、粘度が500mPa・s以下であると、乳剤部まで材料がはみ出し、緩衝層の形状保持が困難で十分な膜厚が得られないこと確認した。また、20000mPa・s以上となると、緩衝層中に残留している大きな気泡が戻り難くなり、また、膜厚が必要以上に厚くなると共に、側面端部の低角度状態を確保することができないことを確認した。例えば、真空中で塗布形成した後に圧力を上昇させると、塗布材料が低粘度の場合には気泡が極微小になるものの、塗布材料が高粘度の場合には、大きな気泡が残留しやすいため、気泡が小さくなりきらずにその形状が保持されてしまい、膜中の気泡が消えずに残留痕が生じてしまう。また、粘度が高くなると膜厚も必要以上に厚くなり、側面端部の角度も大きく急峻になってしまう。
そこで、塗布材料の室温粘度を500〜20000mPa・sの範囲に設定することで、上記の問題を解決し、緩衝層の形状保持、表面の平坦化、気泡の極微小化、側面端部の低角度化を実現することができる。
【0022】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記塗布材料の室温粘度は、1000〜10000mPa・sの範囲であること、を特徴としている。
本発明者らの知見によれば、塗布材料の室温粘度の範囲が、500〜20000mPa・sである場合よりも、1000〜10000mPa・sである場合において、上記の効果をより一層促進させることができることを確認した。
具体的には、室内粘度が10000mPa・sを超える場合では、緩衝層の気泡が残留してしまうという問題が見出された。また、1000mPa・sを満たさない場合では、スクリーン印刷工程において気泡が弾けてクレータが生じ易くなり、均一な膜が得られないという問題が見出された。また、ダークスポットが顕著に生じてしまうことが確認された。
従って、塗布材料の室温粘度を1000〜10000mPa・sの範囲にすることで、緩衝層の形状保持、表面の平坦化、気泡の極微小化、側面端部の低角度化を確実に実現することができ、ダークスポットの発生を抑制できる。
【0023】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記緩衝層の膜厚は、3〜10μmの範囲であること、を特徴としている。
緩衝層の膜厚をこの範囲にすることで、緩衝層の形状保持、表面の平坦化、気泡の極微小化、側面端部の低角度化を確実に実現することができ、ダークスポットの発生を抑制できる。
【0024】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記緩衝層と前記ガスバリア層との間に、前記緩衝層よりも酸素原子量が多い有機密着層を形成する工程を含むこと、を特徴としている。
この有機密着層は、緩衝層の最表面に薄膜で形成されるもので、プラズマ処理等により緩衝層の表面を酸化させて形成してもよい。このように有機密着層を形成することにより、緩衝層の表面に対する洗浄効果と表面エネルギーが大きくなるため、緩衝層とガスバリア層との間の密着性を向上することができる。従って、ガスバリア層の剥離を抑制し、有機EL装置の耐久性を向上させることができる。
【0025】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記緩衝層の側面端部の角度が、30°以下で形成されていること、を特徴としている。
ここで、側面端部の角度が急峻であると、緩衝層に対してガスバリア層を被覆することが難しくなるだけでなく、緩衝層の温度伸縮による側面端部にかかる応力が大きくなる。本発明者らは、当該角度を30°以下に設定することで、緩衝層の上層側にガスバリア層を形成した際に、ガスバリア層を均一な膜厚によって成膜でき、側面端部にかかる応力が分散されることでガスバリア層の破損を防ぐことができることを確認した。これにより、緩衝層の側面端部に対するガスバリア性を確実に得ることができる。
このような側面端部の角度を30°以下にするには、粘度を所定値にすると共に、上記の硬化工程として、塗布時の温度よりも高い温度の熱処理を施すことが好ましい。このようにすれば、緩衝層の周辺部を熱によって溶融(軟化)させ、緩衝層の側面端部に30°の傾斜部を形成することができる。これにより、緩衝層の上方に形成されるガスバリア層が緩衝層の形状に倣って緩やかに形成されるので、ガスバリア性の向上を図ることができる。
【0026】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記第2電極と前記緩衝層との間に、電極保護層を形成する工程を含むこと、を特徴としている。
電極保護層は、電極を緩衝層の塗布プロセスから保護するだけでなく、電極材料に依存せずに表面エネルギーの高い表面が形成されることで、緩衝層の塗布形成時の平坦性や消泡性を向上させ、緩衝層との密着性も得られる。
【0027】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記電極保護層は、珪素酸窒化膜であり、前記緩衝層は、エポキシ系化合物とシランカップリング剤を含むこと、を特徴としている。
本発明者らは、低分子系の有機EL装置において、緩衝層を構成する材料と、電子注入層の構成材料の組み合わせによっては、硬化前の緩衝層成分の低粘度材料が溶出して、電子注入層のダークスポットの発生原因となってしまうことを見出した。そして、鋭意検討した結果、本発明者らは、ダークスポットが発生することがない緩衝層材料と電子注入層材料の組み合わせを見出した。即ち、電極保護層として珪素酸窒化膜を採用し、緩衝層としてエポキシ系化合物とシランカップリング剤を含む材料を採用することにより、電子注入層におけるダークスポットの発生を防止できる。
【0028】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記ガスバリア層の膜厚は、300〜700nmの範囲であること、を特徴としている。
本発明者らによれば、ガスバリア層の膜厚が300nmよりも小さい場合では、十分なガスバリア性が得られないことが確認された。また、700nmよりも大きい場合では、ガスバリア層自体に内部応力が蓄積してクラックの発生原因となることが確認された。従って、本発明のようにガスバリア層の膜厚を規定することで、ガスバリア性と耐クラック性とを共に得ることができる。
【0029】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記基板の前記ガスバリア層の形成面と、当該形成面に対向する保護基板と、を貼り合わせる貼り合わせ工程を含み、当該貼り合わせ工程は、接着層を介在させて前記保護基板と前記基板とを貼り合わせること、を特徴としている。
ここで、接着層は、保護基板と基板とを接着させるための層膜である。また、上記のようにガスバリア層と緩衝層とによって薄膜の封止構造を実現していることから、接着層を厚膜化する必要がない。
本発明によれば、保護基板を貼り合わせることで、ガスバリア層や緩衝層、発光機能層に対する外傷防止や、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性等を実現できる。
【0030】
また、本発明の有機EL装置の製造方法においては、前記保護基板は、複数色の着色層が形成されたカラーフィルタ基板であること、を特徴としている。
ここで、複数色の着色層の各々は、例えばR(赤),G(緑),B(青)からなるものであり、発光機能層に対向して配置される。
また、着色層と発光機能層との距離は、発光機能層の発光光が対向する着色層のみに出射するように、できるだけ短い距離が要求される。これは、その距離が長い場合では、発光機能層の発光光が隣接する着色層に対して出射される可能性が高くなるためであり、これを抑制するためにその距離を短くすることが好ましい。
そして、上記の本発明においては、上記のガスバリア層や緩衝層によって、薄膜の封止構造を実現しているので、発光機能層と着色層との距離は短いものとなっている。従って、発光機能層の発光光が対向する着色層のみに出射することとなり、隣接する着色層に発光光が漏れてしまうのを抑制することができる。
【0031】
ここで、発光機能層が備える有機発光層としては、白色の発光光を生じさせる白色有機発光層、或いは、RGBの複数色の発光光を生じさせる各色有機発光層が採用される。
白色有機発光層を採用した場合では、白色光を複数色の着色層に照射することにより、白色光をRGB毎に色分けすることができる。また、低分子系の白色有機発光層を形成するマスク蒸着工程や、高分子系の白色有機発光層を形成する液滴吐出工程等において、1種類の白色有機発光層を1工程で形成するだけでよいので、RGB毎の有機発光層を形成し分ける場合と比較して製造工程が容易になる。
各色有機発光層を採用した場合では、RGBの各色光を、同色の着色層に照射することにより、色補正を行うことができる。
【0032】
また、本発明の有機EL装置は、基板上に、複数の第1電極と、前記第1電極の形成位置に対応して配置される発光機能層と、前記発光機能層を覆う第2電極と、を有する有機エレクトロルミネッセンス装置であって、前記第2電極を覆うように形成された緩衝層と、当該緩衝層を覆うガスバリア層と、を有し、先に記載の製造方法を利用して、製造されたこと、を特徴としている。
【0033】
このようにすれば、塗布工程によって塗布されたモノマー/オリゴマー材料と硬化剤とを、熱硬化工程によって硬化させて緩衝層を形成することができる。
ここで、塗布工程においては、真空雰囲気下にて行われるので、水分や酸素が除去された雰囲気で塗布工程が行われることとなり、緩衝層内に水分や酸素が侵入するのを抑制することができる。また、当該塗布工程は、溶媒を用いずに行われるので、緩衝層内に溶媒が残留することがない。従って、緩衝層中には、水分や酸素が殆ど残留しておらず、また、溶媒分子が存在しないので、これらが発光機能層に侵入することに起因する発光特性の低下や発光寿命の短寿命化、非発光領域等の発生を抑制できる。
また、熱硬化工程においては、モノマー/オリゴマー材料を硬化剤によって硬化させるので、モノマーやオリゴマーが架橋し、高分子有機材料(ポリマー)からなる緩衝層を形成することができる。また、熱硬化工程としては、熱処理による熱硬化法が好ましい。このようにすれば、塗布材料を硬化させて緩衝層を形成するだけでなく、緩衝層の周辺部を熱によって溶融(軟化)させ、緩衝層の側面端部に傾斜部を形成することができる。これにより、緩衝層の上方に形成されるガスバリア層が緩衝層の形状に倣って緩やかに形成されるので、ガスバリア性の向上を図ることができる。
また、このような製造方法によって積層形成されたガスバリア層と緩衝層との層厚は、従来よりも薄くすることができる。従って、本発明の有機EL装置においては、厚膜化を行わずに、薄膜の封止構造を実現できる。
なお、本発明においては、発光機能層としては、低分子系又は高分子系のいずれも採用可能である。
【0034】
また、本発明の有機EL装置においては、前記緩衝層の平面パターンの周縁部は、波形状に形成されていること、を特徴としている。
このようにすれば、周縁部が直線状の場合と比較して、緩衝層の平面パターンの周縁長さを長くなる。これによって、緩衝層の下層膜(例えば、第2電極や電極保護層)との密着力を向上させることができ、また、周縁部における緩衝層の応力を分散させることができる。そして、緩衝層の膜強度を向上させることができ、高い信頼性を得ることができる。このような波形状は、スクリーン印刷法のマスク形状によって所望に規定できるので、波形状を形成するための工程が増加することなく、容易に形成することができる。
【0035】
また、本発明の電子機器は、先に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えたこと、を特徴としている。
このような電子機器としては、例えば、携帯電話機、移動体情報端末、時計、ワープロ、パソコンなどの情報処理装置、プリンタ等を例示できる。また、大型の表示画面を有するテレビや、大型モニタ等を例示できる。このように電子機器の表示部に、本発明の電気光学装置を採用することによって、長寿命で表示特性が良好な表示部を備える電子機器を提供できる。また、プリンタなどの光源に適用してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の有機EL装置の製造方法、有機EL装置、及び電子機器の実施形態について図を参照して説明する。
なお、以下の説明では、有機EL装置1を構成する各部位や各層膜を認識可能とするために、各々の縮尺を異ならせている。
【0037】
(有機EL装置の第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る有機EL装置1の配線構造を示す図である。
有機EL装置1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型の有機EL装置である。
図1に示すように、有機EL装置1は、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101と信号線102の各交点付近に画素領域Xが設けられる。
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続される。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続される。
【0038】
さらに、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(第1電極)23と、この画素電極23と陰極(第2電極)50との間に挟み込まれた発光機能層110とが設けられる。画素電極23と陰極50と発光機能層110により、発光素子が構成される。
【0039】
この有機EL装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から画素電極23に電流が流れ、さらに発光機能層110(または有機発光層60)を介して陰極50に電流が流れる。発光機能層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0040】
次に、有機EL装置1の具体的な構成について図2〜図7を参照して説明する。
ここで、図2は、有機EL装置の構成を示す模式図である。また、図3は図2のA−B方向の構成を示す有機EL装置の断面図であり、図4は図2のC−D方向の構成を示す有機EL装置の断面図である。また、図5及び図7は、図3の要部を示す断面拡大図である。図6は、図2の要部を示す平面拡大図である。
【0041】
有機EL装置1は、図2に示すように電気絶縁性を備えた基板20と、スイッチング用TFT(図示せず)に接続された画素電極が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線(図示せず)と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中一点鎖線枠内)とを具備して構成されたアクティブマトリクス型のものである。
なお、本発明においては、基板20と後述するようにこれの上に形成されるスイッチング用TFTや各種回路、及び層間絶縁膜などを含めて、基体と称している。(図3、4中では符号200で示している。)
【0042】
画素部3は、中央部分の実発光領域4(図2中二点鎖線枠内)と、実発光領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)とに区画される。
実発光領域4には、それぞれ画素電極を有する発光領域R、G、BがA−B方向およびC−D方向にそれぞれ離間してマトリックス状に配置される。
また、実発光領域4の図2中両側には、走査線駆動回路80、80が配置される。これら走査線駆動回路80、80は、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0043】
さらに、実発光領域4の図2中上側には、検査回路90が配置される。この検査回路90は、有機EL装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時の表示装置(有機EL装置)の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されたものである。なお、この検査回路90も、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0044】
走査線駆動回路80および検査回路90は、その駆動電圧が、所定の電源部から駆動電圧導通部310(図3参照)および駆動電圧導通部340(図4参照)を介して、印加されるよう構成される。また、これら走査線駆動回路80および検査回路90への駆動制御信号および駆動電圧は、この有機EL装置1の作動制御を行う所定のメインドライバなどから駆動制御信号導通部320(図3参照)および駆動電圧導通部350(図4参照)を介して、送信および印加される。なお、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80および検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバなどからの指令信号である。
【0045】
また、有機EL装置1は、図3、図4に示すように基体200上に画素電極23と発光機能層110と陰極50とを備えた発光素子を多数形成し、さらにこれらを覆って緩衝層210、有機密着層220、ガスバリア層30等を形成させたものである。画素電極23は発光素子毎設けられ、陰極50は複数の発光素子に共通に設けられており、画素電極23を個々駆動することにより、発光素子がそれぞれ発光する。
なお、発光機能層110としては、代表的には有機発光層(有機エレクトロルミネッセンス層)60であり、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などのキャリア注入層またはキャリア輸送層を備えるもの、更には、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子阻止層(エレクトロン阻止層)を備えるものであってもよい。
【0046】
基体200を構成する基板20としては、いわゆるトップエミッション型の有機EL装置の場合、この基板20の対向側であるガスバリア層30側から発光光を取り出す構成であるので、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0047】
また、いわゆるボトムエミッション型の有機EL装置の場合には、基板20側から発光光を取り出す構成であるので、基板20としては、透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。なお、本実施形態では、ガスバリア層30側から発光光を取り出すトップエミッション型とし、よって基板20としては上述した不透明基板、例えば不透明のプラスチックフィルムなどが用いられる。
【0048】
また、基板20上には、画素電極23を駆動するための駆動用TFT123などを含む回路部11が形成されており、その上に発光素子が多数設けられる。発光素子は、図7に示すように、陽極として機能する画素電極23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔輸送層70と、電気光学物質の一つである有機EL物質を備える有機発光層60と、陰極50とが順に形成されたことによって構成されたものである。
このような構成のもとに、発光素子はその有機発光層60において、正孔輸送層70から注入された正孔と陰極50からの電子とが結合することにより発光する。
なお、本実施形態においては、正孔輸送層70は有機発光層60の発光機能を誘引させる機能を有するものであることから、発光機能層110の一部として機能する。
【0049】
画素電極23は、本実施形態ではトップエミッション型であることから透明である必要がなく、したがって適宜な導電材料によって形成される。
正孔輸送層70の形成材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、またはそれらのドーピング体などが用いられる。具体的には、3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液などを用いて正孔輸送層70を形成することができる。
【0050】
有機発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。
また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
なお、上述した高分子材料に代えて、従来公知の低分子材料を用いることもできる。
また、必要に応じて、このような有機発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。ここで、電子注入層は有機発光層60の発光機能を誘引させる機能を有するものであることから、発光機能層110の一部として機能する。
【0051】
また、本実施形態において正孔輸送層70と有機発光層60とは、図3〜図7に示すように基体200上にて格子状に形成された親液性制御層25と有機隔壁層(隔壁)221とによって囲まれて配置され、これにより囲まれた正孔輸送層70および有機発光層60は単一の発光素子を構成する素子層となる。
なお、有機隔壁層221において、開口部221aの各壁面の基体200表面に対する角度θが、110度以上から170度以下となっている(図7参照)。このような角度としたのは、有機発光層60をウエットプロセスにより形成する際に、開口部221a内に配置されやすくするためである。
【0052】
陰極50は、図3〜図7に示すように、実発光領域4およびダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されたもので、有機発光層60と有機隔壁層221の上面、さらには有機隔壁層221の外側部を形成する壁面を覆った状態で基体200上に形成されたものである。なお、この陰極50は、図4に示すように有機隔壁層221の外側で基体200の外周部に形成された陰極用配線に接続される。この陰極用配線にはフレキシブル基板が接続されており、これによって陰極50は、陰極用配線を介してフレキシブル基板上の図示しない駆動IC(駆動回路)に接続される。
【0053】
陰極50を形成するための材料としては、本実施形態はトップエミッション型であることから光透過性である必要があり、したがって透明導電材料が用いられる。透明導電材料としてはITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)が好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zinc Oxide:IZO/アイ・ゼット・オー)(登録商標)等を用いることができる。なお、本実施形態ではITOを用いるものとする。
【0054】
また、陰極50は、電子注入効果の大きい材料が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物である。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が該当する。また、これらの材料だけでは、電気抵抗が大きく電極として機能しないため、アルミニウムや金、銀、銅などの金属層やITO、酸化錫などの金属酸化物導電層との積層体と組み合わせて用いてもよい。なお、本実施形態では、フッ化リチウムとマグネシウム−銀合金、ITOの積層体を、透明性が得られる膜厚に調整して用いるものとする。
【0055】
陰極50の上層部には、陰極保護層(電極保護層)55が形成されている。当該陰極保護層55は、緩衝層形成に用いるスクリーンメッシュが接触する際に陰極の損傷を防ぎ、また、陰極表面を被覆して最表面の表面エネルギーを上げることで、緩衝層材料の塗布形成時の平坦性や消泡性、密着性、側面端部の低角度化を目的に設けられるものである。当該陰極保護層55は、透明性が高い無機酸化物を主成分とする絶縁性の高い層であり、自身が表面エネルギーの高い材料、または形成後に酸素プラズマ処理等により最表面の表面エネルギーを高めたものが好ましい。陰極保護層55の膜厚としては、有機隔壁層221による凹凸が存在する表面に形成するため、有機隔壁層221の熱伸縮によって破壊や剥離をすることなく、また、膜自身が持つ圧縮(引張)応力によって有機発光層60及び陰極50の剥離を促進しないように、ガスバリア層に比べて薄い10〜200nmの膜厚を有するのがよい。陰極保護層55の材料例としては、珪素酸化物や珪素酸窒化物などの珪素酸化物や、酸化チタン等の金属酸化物などの無機酸化物により形成されたものが挙げられる。
なお、陰極保護層55は、基体200の外周部の絶縁層284上まで形成されている。
【0056】
陰極保護層55の上層部には、有機隔壁層221よりも広い範囲で、かつ陰極50を覆った状態で緩衝層210が設けられる。緩衝層210は、有機隔壁層221の形状の影響により、凸凹状に形成された陰極50の凸凹部分を埋めるように配置され、更に、その上面は略平坦に形成される。このような緩衝層210は、後述するように塗布工程と熱硬化工程とによって形成される。
このような緩衝層210は、基体200側から発生する反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、熱伸縮しやすい不安定な有機隔壁層221や陰極50からの剥離を防止する機能を有する。また、緩衝層210の上面が略平坦化されるので、緩衝層210上に形成される硬い被膜からなるガスバリア層30も平坦化されるので、応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層30のクラックや剥離、欠損の発生を防止する。
【0057】
次に、緩衝層210の具体的な材料(塗布材料)について説明する。
硬化前の原料主成分としては、減圧真空下で塗布形成するために、流動性に優れかつ溶媒成分がない全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーである(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0058】
また、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤としては、電気絶縁性や接着性に優れ、かつ硬度が高く強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが良く、透明性に優れかつ硬化のばらつきの少ない付加重合型がよい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。さらに、酸無水物の反応(開環)を促進する反応促進剤として1,6−ヘキサンジオールなど分子量が大きく揮発しにくいアルコール類を添加することで低温硬化しやすくなる。これらの硬化は60〜100℃の範囲の加熱でおこなわれ、その硬化被膜はエステル結合を持つ高分子となる。
また、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラアミンなどの脂肪族アミンや、ジアミノジフェニルメタンやジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族アミン、光重合開始剤などを補助硬化剤として添加することで、より低温で硬化しやすくさせてもよい。
更に、陰極50やガスバリア層30との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物などの捕水剤、フッ素化合物など塗布材料の表面エネルギーを低下させて濡れ性を上げる平坦化剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が全量1%以下に微量添加されていても良い。
このような緩衝層210を形成するための材料の粘性は、室温(25℃)で500〜20000mPa・sの粘度範囲であることが好ましく、本実施形態においては、3000mPa・sの粘度に設定されている。
【0059】
ここで、図5を参照し、緩衝層210の側面端部の構造について説明する。
図5は、図3における緩衝層210の側面端部を示す拡大図である。図5に示すように、緩衝層210は、陰極保護層55上に形成されるようになっており、その側面端部においては陰極保護層55の表面と接触角αで接触している。ここで、接触角αは30°以下であり、より好ましくは、5°〜20°程度であることが好ましい。この接触角αは、塗布後の加熱プロセスによる軟化工程や緩衝層材料自身の粘度調整、平坦化剤等の添加、陰極保護層の表面エネルギーの増加によって達成される。このように緩衝層210が形成されることにより、当該緩衝層210の上層に形成される有機密着層220やガスバリア層30は緩衝層210の形状に倣って形成され、有機隔壁層221が熱伸縮によって体積変化した際にも、側面端部のガスバリア層にかかる応力を分散して破壊を防ぐことができる。また、当該接触角αが急峻な角度、例えば80°程度となっている場合では、その稜部に形成されたガスバリア層30の膜厚が他の部分よりも薄くなってしまうが、接触角αが5°〜20°程度であることから、緩衝層210上に均一な膜厚でガスバリア層30が形成される。
【0060】
更に、緩衝層210の上層部には、有機密着層220が形成されている。
当該有機密着層220は、緩衝層210の表面に酸化処理が施されて形成された表面エネルギー(極性)の高い薄膜である。当該有機密着層220の組成としては、酸素原子の含有量が緩衝層210よりも多くなっている。また、有機密着層220の膜厚は、薄膜であることが好ましく、10nm以下がよい。これらは、ガスバリア層形成の直前に、減圧雰囲気下で緩衝層210の最表面を酸素プラズマ処理等によって薄膜を形成することが好ましい。このような有機密着層220が形成されることにより、緩衝層210の表面洗浄をおこなうと共に、緩衝層210とガスバリア層30の界面の密着性が向上する。
【0061】
更に、有機密着層220の上層部には、ガスバリア層30が形成されている。
ガスバリア層30は、絶縁層284に接触することなく、有機密着層220上に形成されるものである。ガスバリア層30は、緩衝層210とその内側の陰極50や有機発光層60に酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより陰極50や有機発光層60への酸素や水分の浸入を防止し、発光劣化等を抑えるようにしたものである。
また、ガスバリア層30は、例えば耐水性、耐熱性に優れる無機化合物からなるもので、好ましくは珪素化合物、すなわち珪素窒化物や珪素酸窒化物、珪素酸化物などによって形成される。これにより、ガスバリア層30は、透明な薄膜として形成される。更に、水蒸気などのガスを遮断するため緻密で欠陥の無い被膜にする必要があり、好適には低温で緻密な膜を形成できる高密度プラズマ成膜法であるプラズマCVD法やECRプラズマスパッタ法、イオンプレーティング法を用いて形成する。このようにガスバリア層30が珪素化合物から形成されることで、ガスバリア層30が耐水性、耐熱性に優れる欠陥のない緻密な層となって酸素や水分に対するバリア性がより良好になる。また、ガスバリア層30は、膜密度が2.3〜3.0g/cmの膜質を有していることが好ましい。
なお、ガスバリア層30としては、珪素化合物以外の材料を採用してもよく、例えばアルミナや酸化タンタル、酸化チタン、更には他のセラミックスなどからなっていてもよい。
また、ガスバリア層30の膜厚は、300〜700nmの範囲に設定されている。本実施形態では、特に400nmとしている。ガスバリア層の膜厚が300nmよりも小さい場合では十分なガスバリア性を得ることができず、また、700nmよりも大きい場合ではガスバリア層30に内部応力が蓄積してクラックの発生原因となる。従って、上記の範囲で膜厚を規定することにより、ガスバリア性と耐クラック性とを共に実現したガスバリア層となる。また、特に400〜600nmの膜厚にすることで、ガスバリア性と耐クラック性とを向上させることができる。
【0062】
更に、ガスバリア層30の上層部には、ガスバリア層30を覆う保護層204が設けられる。この保護層204は、緩衝層210やガスバリア層30の保護をするためのもので、ガスバリア層30側に設けられた接着層205と表面保護基板(保護基板)206とから構成されている。
接着層205は、表面保護基板206より柔軟でガラス転移点の低い材料からなる接着剤によって形成されたものである。また、接着層205は、ガスバリア層30上に表面保護基板206を固定するものである。その材料としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリオレフィン樹脂等の透明樹脂材料が好ましく、透明で安価なアクリル樹脂が好適に用いられる。また、接着層205は、表面保護基板206に予め形成されたものであってもよく、ガスバリア層30上に圧着して接着してもよい。また、接着層205は、透明樹脂材料が好ましい。また、低温で硬化させるため硬化剤を添加する2液混合型の材料によって形成されたものでもよい。
なお、このような接着層205には、シランカップリング剤またはアルコキシシランを添加しておくのが好ましく、このようにすれば、形成される接着層205とガスバリア層30との密着性がより良好になり、したがって機械的衝撃に対する緩衝機能が高くなる。また、特にガスバリア層30が珪素化合物で形成されている場合などでは、シランカップリング剤やアルコキシシランによってこのガスバリア層30との密着性を向上させることができ、従って、ガスバリア層30のガスバリア性を高めることができる。
【0063】
表面保護基板206は、接着層205上に設けられて、保護層204の表面側を構成するものであり、外傷防止、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能の少なくとも一つを有してなる層である。表面保護基板206の材質は、ガラスまたは透明プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミドなど)が採用される。また、当該表面保護基板206には、紫外線遮断/吸収層や光反射防止層、放熱層、レンズやミラーなどの光学構造が設けられていてもよい。また、これ以外の材料として、DLC(ダイアモンドライクカーボン)層を採用してもよい。
なお、この例の有機EL装置においては、トップエミッション型にする場合に表面保護基板206、接着層205を共に透光性のものにする必要があるが、ボトムエミッション型とする場合にはその必要はない。
【0064】
このように構成された有機EL装置1においては、ガスバリア層30と緩衝層210との総厚が従来よりも薄くなっている。具体的には、図5に示すように、絶縁層284の表面から表面保護基板206までの間隔Tを15μm程度にすることができる。従って、本実施形態の有機EL装置1においては、厚膜化を行わずに、薄膜の封止構造を実現できる。
【0065】
次に、図6を参照し、有機EL装置1の平面構造について説明する。
図6は、図2の要部の拡大平面図であるが、陰極50,緩衝層210,及びガスバリア層30のみを示している。なお、有機EL装置1の他の構成は、図1〜図5,図7に示すように形成されているものとする。
【0066】
図6に示すように、有機EL装置1は、基板20上において、陰極50からなる陰極形成領域50ARと、緩衝層210からなる緩衝層形成領域(緩衝層の平面パターン)210ARと、ガスバリア層30からなるガスバリア層形成領域30ARと、順に重なり合って構成されている。更に、陰極形成領域50ARの面積よりも、緩衝層形成領域210ARの面積が大きく、緩衝層形成領域210ARの面積よりも、ガスバリア層形成領域30ARの面積が大きくなっている(50AR<210AR<30AR)。これによって、陰極周縁部50Eは緩衝層210によって被覆され、緩衝層周縁部(周縁部)210Eはガスバリア層30によって被覆されている。従って、ガスバリア層周縁部30Eは、周縁部50E,210E,30Eの中でも最も最外周に位置している。
【0067】
ここで、図6の紙面縦方向(以下、Y方向と称する)及び紙面左右方向(以下、X方向と称する)においては、各方向に向けて緩衝層周縁部210Eは波形状に形成されている。また、陰極周縁部50E及びガスバリア層周縁部30Eは、直線状に形成されている。
周縁部50E,30Eの間において、緩衝層周縁部210Eは、波形ピッチpは約0.01〜0.2mm程度、振れ幅t1は約0.01〜0.1mm程度に形成されている。なお、振れ幅t1は、必ずしも均一である必要はなく、この範囲内であればよい。
【0068】
また、緩衝層周縁部210Eが最もガスバリア層周縁部30Eの側に近づく位置をW2とする場合、当該符号W2とガスバリア層周縁部30Eとの幅t2は、約0.2〜2mm程度で形成されている。
また、緩衝層周縁部210Eが最も陰極周縁部50Eの側に近づく位置をW3とする場合、当該符号W3と陰極周縁部50Eとの幅t3は、約0.1〜1mm程度で形成されている。
このよって、振れ幅t1、及び幅t2,t3の最小値の和は、0.4mmよりも少ない値となる。従って、緩衝層210及びガスバリア層30による、陰極50に対する封止構造は、0.4mm以下の封止幅で形成することが可能となる。
【0069】
次に、図7を参照して、上記の発光素子の下方に形成される回路部11について説明する。この回路部11は、基板20上に形成されて基体200を構成するものである。すなわち、基板20の表面には下地としてSiOを主体とする下地保護層281が形成され、その上にはシリコン層241が形成される。このシリコン層241の表面には、SiOおよび/またはSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成される。
【0070】
また、シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と重なる領域がチャネル領域241aとされる。なお、このゲート電極242は、図示しない走査線101の一部である。一方、シリコン層241を覆い、ゲート電極242を形成したゲート絶縁層282の表面には、SiOを主体とする第1層間絶縁層283が形成される。
【0071】
また、シリコン層241のうち、チャネル領域241aのソース側には、低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられる一方、チャネル領域241aのドレイン側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造を形成する。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続される。このソース電極243は、上述した電源線103(図1参照、図7においてはソース電極243の位置に紙面垂直方向に延在する)の一部として構成される。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282と第1層間絶縁層283とにわたって開孔するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同一層からなるドレイン電極244に接続される。
【0072】
ソース電極243およびドレイン電極244が形成された第1層間絶縁層283の上層は、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする第2層間絶縁層284によって覆われている。この第2層間絶縁層284は、アクリル系の絶縁膜以外の材料、例えば、SiN、SiOなどを用いることもできる。そして、ITOからなる画素電極23が、この第2層間絶縁層284の表面上に形成されるとともに、第2層間絶縁層284に設けられたコンタクトホール23aを介してドレイン電極244に接続される。すなわち、画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続される。
【0073】
なお、走査線駆動回路80および検査回路90に含まれるTFT(駆動回路用TFT)、すなわち、例えばこれらの駆動回路のうち、シフトレジスタに含まれるインバータを構成するNチャネル型又はPチャネル型のTFTは、画素電極23と接続されていない点を除いて駆動用TFT123と同様の構造とされる。
【0074】
画素電極23が形成された第2層間絶縁層284の表面には、画素電極23と、上述した親液性制御層25及び有機隔壁層221とが設けられる。親液性制御層25は、例えばSiOなどの親液性材料を主体とするものであり、有機隔壁層221は、アクリルやポリイミドなどからなるものである。そして、画素電極23の上には、親液性制御層25に設けられた開口部25a、および有機隔壁層221に囲まれてなる開口部221aの内部に、正孔輸送層70と有機発光層60とがこの順に積層される。なお、本実施形態における親液性制御層25の「親液性」とは、少なくとも有機隔壁層221を構成するアクリル、ポリイミドなどの材料と比べて親液性が高いことを意味するものとする。
以上に説明した基板20上の第2層間絶縁層284までの層が、回路部11を構成する。
【0075】
ここで、本実施形態の有機EL装置1は、カラー表示を行うべく、各有機発光層60が、その発光波長帯域が光の三原色にそれぞれ対応して形成される。例えば、有機発光層60として、発光波長帯域が赤色に対応した赤色有機発光層60R、緑色に対応した緑色有機発光層60G、青色に対応した青色有機EL層60Bとをそれぞれに対応する発光領域R、G、Bに設け、これら発光領域R、G、Bをもってカラー表示を行う1画素が構成される。また、各色発光領域の境界には、金属クロムをスパッタリングなどにて成膜した図示略のBM(ブラックマトリクス)が、例えば有機隔壁層221と親液性制御層25との間に形成される。
【0076】
(有機EL装置の製造方法)
次に、本実施形態に係る有機EL装置1の製造方法の一例を、図8〜図11を参照して説明する。図8及び図9に示す各断面図は、図2中のA−B線の断面図に対応した図である。図10及び図11に示す各断面図は、緩衝層210、有機密着層220、及びガスバリア層30を形成する工程を詳述するための図である。
なお、本実施形態においては、有機EL装置1がトップエミッション型である場合であり、また、基板20の表面に回路部11を形成させる工程については、従来技術と変わらないので説明を省略する。
【0077】
まず、図8Aに示すように、表面に回路部11が形成された基板20の全面を覆うように、画素電極23となる透明導電膜を形成し、更に、この透明導電膜をパターニングする。これによって、第2層間絶縁層284のコンタクトホール23aを介してドレイン電極244と導通する画素電極23が形成される。また、これと同時に、ダミー領域において、画素電極23と同一材料からなるダミーパターン26も形成する。
なお、図3及び図4では、これら画素電極23、ダミーパターン26を総称して画素電極23としている。ダミーパターン26は、第2層間絶縁層284を介して下層のメタル配線へ接続しない構成とされる。すなわち、ダミーパターン26は、島状に配置され、発光領域に形成されている画素電極23の形状とほぼ同一の形状を有する。もちろん、発光領域に形成されている画素電極23の形状と異なる構造であってもよい。なお、この場合、ダミーパターン26は少なくとも駆動電圧導通部310(340)の上方に位置するものも含むものとする。
【0078】
次いで、図8Bに示すように、画素電極23、ダミーパターン26上、および第2層間絶縁膜上に絶縁層である親液性制御層25を形成する。なお、画素電極23においては一部が開口する態様にて親液性制御層25を形成し、開口部25a(図3も参照)において画素電極23からの正孔移動が可能とされている。逆に、開口部25aを設けないダミーパターン26においては、絶縁層(親液性制御層)25が正孔移動遮蔽層となって正孔移動が生じないものとされている。続いて、親液性制御層25において、異なる2つの画素電極23の間に位置して形成された凹状部に不図示のBM(ブラックマトリックス)を形成する。具体的には、親液性制御層25の凹状部に対して、金属クロムを用いスパッタリング法にて成膜する。
【0079】
そして、図8Cに示すように、親液性制御層25の所定位置、詳しくは上述したBMを覆うように有機隔壁層221を形成する(隔壁を形成する工程)。具体的な有機隔壁層の形成方法としては、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などのレジストを溶媒に溶解したものを、スピンコート法、ディップコート法などの各種塗布法により塗布して有機質層を形成する。なお、有機質層の構成材料は、後述するインクの溶媒に溶解せず、しかもエッチングなどによってパターニングし易いものであればどのようなものでもよい。
【0080】
更に、有機質層をフォトリソグラフィ技術、エッチング技術を用いてパターニングし、有機質層に開口部221aを形成することにより、開口部221aに壁面を有した有機隔壁層221を形成する。ここで、開口部221を形成する壁面について、基体200表面に対する角度θを110度以上から170度以下となるように形成する。
なお、この場合、有機隔壁層221は、少なくとも駆動制御信号導通部320の上方に位置するものを含むものとする。
【0081】
次いで、有機隔壁層221の表面に、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域とを形成する。本実施形態においては、プラズマ処理によって各領域を形成する。具体的には、プラズマ処理を、予備加熱工程と、有機隔壁層221の上面および開口部221aの壁面ならびに画素電極23の電極面23c、親液性制御層25の上面をそれぞれ親液性にする親インク化工程と、有機隔壁層211の上面および開口部221aの壁面を撥液性にする撥インク化工程と、冷却工程とで構成する。
【0082】
すなわち、基体200を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、次いで親インク化工程として大気雰囲気中で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行う。次いで、撥インク化工程として大気雰囲気中で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CFプラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基材を室温まで冷却することで、親液性および撥液性が所定箇所に付与されることとなる。
【0083】
なお、このCFプラズマ処理においては、画素電極23の電極面23cおよび親液性制御層25についても多少の影響を受けるが、画素電極23の材料であるITOおよび親液性制御層25の構成材料であるSiO、TiOなどはフッ素に対する親和性に乏しいため、親インク化工程で付与された水酸基がフッ素基で置換されることがなく、親液性が保たれる。
【0084】
次いで、正孔輸送層形成工程によって正孔輸送層70の形成を行う(発光機能層を形成する工程)。この正孔輸送層形成工程では、例えばインクジェット法等の液滴吐出法や、スピンコート法などにより、正孔輸送層材料を電極面23c上に塗布し、その後、乾燥処理および熱処理を行い、電極23上に正孔輸送層70を形成する。正孔輸送層材料を例えばインクジェット法で選択的に塗布する場合には、まず、インクジェットヘッド(図示略)に正孔輸送層材料を充填し、インクジェットヘッドの吐出ノズルを親液性制御層25に形成された開口部25a内に位置する電極面23cに対向させ、インクジェットヘッドと基板200とを相対移動させながら、吐出ノズルから1滴当たりの液量が制御された液滴を電極面23cに吐出する。次に、吐出後の液滴を乾燥処理し、正孔輸送層材料に含まれる分散媒や溶媒を蒸発させることにより、正孔輸送層70を形成する。
【0085】
ここで、吐出ノズルから吐出された液滴は、親液性処理がなされた電極面23c上にて広がり、親液性制御層25の開口部25a内に満たされる。その一方で、撥インク処理された有機隔壁層221の上面では、液滴がはじかれて付着しない。したがって、液滴が所定の吐出位置からはずれて有機隔壁層221の上面に吐出されたとしても、該上面が液滴で濡れることがなく、弾かれた液滴が親液性制御層25の開口部25a内に転がり込む。
なお、この正孔輸送層形成工程以降は、正孔輸送層70および有機発光層60の酸化を防止すべく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0086】
次いで、発光層形成工程によって有機発光層60の形成を行う(発光機能層110を形成する工程)。この発光層形成工程では、例えばインクジェット法により、発光層形成材料を正孔輸送層70上に吐出し、その後、乾燥処理および熱処理を行うことにより、有機隔壁層221に形成された開口部221a内に有機発光層60を形成する。この発光層形成工程では、正孔輸送層70の再溶解を防止するため、発光層形成材料に用いる溶媒として、正孔輸送層70に対して不溶な無極性溶媒を用いる。
なお、この発光層形成工程では、インクジェット法によって例えば青色(B)の発光層形成材料を青色の発光領域に選択的に塗布し、乾燥処理した後、同様にして緑色(G)、赤色(R)についてもそれぞれその発光領域に選択的に塗布し、乾燥処理する。
また、必要に応じて、上述したようにこのような有機発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0087】
次いで、図9Aに示すように、陰極層形成工程によって陰極50の形成を行う(第2電極を形成する工程)。この陰極層形成工程では、例えばイオンプレーティング法等の物理成膜法によりITOを成膜して、陰極50とする。このとき、この陰極50については、有機発光層60と有機隔壁層221の上面を覆うのはもちろん、有機隔壁層221の外側部を形成する壁面についてもこれを覆った状態となるように形成する。
次に、図9B,図9Cに示すように、陰極保護層55,緩衝層210,有機密着層220,及びガスバリア層30を順次形成する。
【0088】
ここで、図10及び図11を参照し、緩衝層210、有機密着層220、及びガスバリア層30の形成方法について詳述する。
なお、図10及び図11においては、基板20上に回路部11、発光機能層110、陰極50が形成されているものとして説明する。
【0089】
まず、図10Aに示すように、陰極50上に陰極保護層55を形成する。当該陰極保護層55を形成する方法としては、例えば、プラズマCVD法、ECRスパッタ法、イオンプレーティング法等の高密度プラズマ成膜法が採用される。また、陰極保護層55は、有機隔壁層221及び陰極50を完全に被覆するため、基体200の外周部の絶縁層284上まで形成する。当該陰極保護層55は、真空雰囲気下において形成され、その圧力は0.1〜10Pa程度に設定される。また、陰極保護層55の最表面は酸素プラズマ処理等により表面エネルギーを高めておくことで、その後の緩衝層の平坦性と側面端部の低角度化がしやすくなる。
このように陰極50と陰極保護層55が形成されることにより、図9Aの断面に示す構造が形成される。
【0090】
次に、図10Bに示すように基板20を反転した後に、図10C〜図10Eと図11A及び図11Bに示すように、真空雰囲気下のスクリーン印刷法(塗布工程)を行って緩衝層210を形成する(緩衝層形成工程)。
緩衝層210を塗布するための材料は、上記のようにエポキシモノマー/オリゴマー材料に硬化剤、反応促進剤が混合された塗布材料が採用される。これらの材料は塗布前に混合されてから用いられるが、混合後の粘度としては、室温(25℃)で500〜20000mPa・sの粘度範囲であることがよい。これよりも粘度が低い場合では、スクリーンメッシュMからの液だれや乳剤層Maへのはみ出しが起こり、膜厚安定性やパターニング性が悪くなる。また、これよりも粘度が高い場合では、平坦性が悪くなるためにメッシュ痕が残留し、またメッシュ離脱時に巻き込む気泡が大きく成長するため、クレータ状の塗布抜けが発生しやすく、消泡工程後でも気泡が残留しやすくなる。
【0091】
更に、塗布材料の粘度としては、好ましい条件としては、上記500〜20000mPa・sの範囲の中でも1000〜10000mPa・sの範囲であることが好ましい。粘度が10000mPa・sよりも低くすることで、気泡の残留を更に抑制することができる。また、1000mPa・sよりも高くすることで、スクリーン印刷工程において気泡が弾け難く、そして、クレータが生じ難くなる。これによって、均一な膜を得ることが可能となる。また、後述するように、ダークスポットの発生を確実に抑制できる。従って、塗布材料の室温粘度を上記のように設定することで、緩衝層の形状保持、表面の平坦化、気泡の極微小化、側面端部の低角度化を確実に実現することができ、ダークスポットの発生を抑制可能となる。
【0092】
また、緩衝層210の膜厚は、平坦化と、凹凸によって生じる応力の緩和を実現できるように有機隔壁層211の高さよりも厚くする必要があり、例えば3〜10μm程度が好ましい。これらの粘度と膜厚制御は、接触角αの形成にも影響し、30°以下を達成するためにも重要である。応力はないことが好ましいが、わずかに引張応力が生じてもよい。膜密度は、極力応力を少なくするため比較的密度の低い多孔質な膜であることが好ましく、0.8〜1.8g/cmが好適である。
【0093】
次に、スクリーン印刷法について説明する。
スクリーン印刷法は、減圧真空雰囲気下で塗布形成が可能な方法であるため、比較的中〜高粘度の塗布液を得意とする方式である。特に、スクリーン印刷法は、スキージ(塗着手段)Sの加圧移動により塗出制御が簡便で、スクリーンメッシュ(マスク)Mを用いて膜厚均一性及びパターニング性に優れるという利点を有する。
【0094】
まず、図10Cに示すように、スクリーンメッシュMを陰極保護層55上に配置する。ここで、スクリーンメッシュMの非塗布部には、塗布しない部分を被覆する撥液性の乳剤層Maが形成されている。
また、スクリーンメッシュMの平面形状は、図6の緩衝層周縁部210Eを波形状に形成するための型が形成されたものとなっている。
【0095】
次に、10〜1000Pa範囲の減圧真空雰囲気を保持しながら、図10Dに示すようにスクリーンメッシュMを基板20上に非接触の状態で配置する。その後、スクリーンメッシュMの一端部(乳剤層Ma上)に硬化前の緩衝層210の塗布材料210aを必要量ディスペンサノズル等によって塗出(滴下)する(マスクを介在させて塗布材料を基板上に滴下する工程)。
【0096】
次に、基板をスクリーンメッシュに接触させ、スキージSによって塗布材料210aを基板20に押圧しながら、スクリーンメッシュMの他端部に向けて移動させる(基板と前記塗着手段とを相対移動)。これにより、塗布材料は、スクリーンメッシュMのパターンに応じて陰極保護層55上に瞬時に転写され、塗布膜210bが塗布形成される(塗布膜を形成する工程)。このようなスクリーン印刷法においては、真空雰囲気において行われる。また、陰極保護層55を形成した後から、大気圧雰囲気に戻すことなく、真空雰囲気において行う。
【0097】
次に、図10Eに示すようにスクリーンメッシュMを基板20上の塗布膜210bから剥離する(マスクを塗布膜から剥離する工程)。ここで、スクリーンメッシュMを塗布膜210bから剥離する際には、基板20に対してスクリーンメッシュMを傾けながら剥離する。このようにすることで、スクリーンメッシュの剥離の際に生じる基板へかかる力を線上に分散させるため密着力の弱い電極(陰極)が剥がれるのを抑制し、均一な塗布膜210bが形成される。これによって、熱硬化工程後に形成された緩衝層210の表面の平坦化が可能となる。
なお、スクリーンメッシュMは、可撓性板体であってもよい。この場合では、スクリーンメッシュMが塗布膜210bに接触する接触面と、塗布膜210bの露出面との境界近傍において、スクリーンメッシュMを湾曲させながら剥離することが可能となる。これによって、スクリーンメシュの剥離角度を極力小さく抑えつつ、マスクと塗布膜との剥離速度を安定させて剥離することができる。
上記のように、図10C〜図10Eに示す処理を行うことにより、緩衝層210の塗布材料の塗布工程が終了となる。
【0098】
次に、図11Aに示すように、窒素ガス雰囲気(不活性ガス雰囲気)において、消泡工程を行う。
ここで、窒素ガス雰囲気とは、先の真空雰囲気におけるスクリーン印刷法を行った後に、真空雰囲気に保持されている密閉空間内(例えば、真空チャンバ内)に窒素ガスを封入することで形成される雰囲気を意味する。これにより、塗布膜210bが、大気中の水分の取り込みによって吸湿することがない。また、本工程における窒素ガス雰囲気圧力は、スクリーン印刷法を行った際の圧力よりも高くなっている。本実施形態においては、窒素ガス雰囲気は50000〜110000Paの圧力に設定されている。このようにすると、スクリーン印刷法の際に塗布膜210b内に混入した気泡内の圧力と窒素ガス雰囲気の圧力との間で差が生じ、気泡が極小化する。
【0099】
次に、図11Bに示すように、熱硬化工程を行う。
当該硬化工程は、消泡工程と同じ窒素ガス(または乾燥空気)雰囲気圧力下において緩衝層210bに60〜100℃の加熱処理を施すことで行われる。このような硬化工程を施すことにより、硬化前の緩衝層210bに含まれるエポキシモノマー/オリゴマー材料と、硬化剤、反応促進剤とが反応し、エポキシモノマー/オリゴマーが三次元架橋し、ポリマーのエポキシ樹脂210が形成される。また、加熱処理を施すことにより、このような硬化現象が生じるだけでなく、緩衝層210の側面端部の形状が溶融(軟化)する。このような加熱処理が施されることで、側面端部が接触角α(図5参照)を有することとなる。
【0100】
次に、図11Cに示すように、基板20を反転し、有機密着層220を緩衝層210の表面に形成する。具体的には、酸素ガスとアルゴンなどの不活性ガスを混合して発生させた減圧プラズマ雰囲気に緩衝層210の表面を暴露することで、当該緩衝層210の表面が酸化した酸化層が形成される。
具体的な成膜条件としては、高密度プラズマ発生装置を利用し、酸素ガス:アルゴンガス=1:4の比で混合し、真空度0.6Pa、暴露時間30秒間としている。
このような酸化層が形成されることにより、緩衝層210の表面の洗浄も行われる。
このように緩衝層210と有機密着層220が形成されることにより、図9Bの断面に示す構造が形成される。
【0101】
次に、図11Dに示すように、ガスバリア層30を有機密着層220の表面に形成する。
ガスバリア層30の膜厚は、上記のように300〜700nmの範囲に設定され、本実施形態では400nmとしている。ガスバリア層30は、0.1〜10Pa雰囲気の減圧高密度プラズマ成膜法等により形成される珪素化合物であり、主に珪素酸化物又は珪素酸窒化物、珪素窒化物からなる透明な薄膜が好ましい。また、小さな分子の水蒸気を完全に遮断するため緻密性を持たせており、膜密度は、2.3/cm以上であることが好ましい。
【0102】
ガスバリア層30の具体的な形成方法としては、好適には低温で緻密な膜を形成できる高密度プラズマ成膜法であるプラズマCVD法やイオンプレーティング法、ECRプラズマスパッタ法を用いて形成する。これらの方法は、量産性を考慮して適時選択されるが、大面積でのプラズマの均一性の点では、イオンプレーティング法を採用することが好ましい。
また、上記の高密度プラズマ成膜法による形成工程は、100nmを成膜単位とする成膜工程と、冷却工程とを繰り返すことによって行う。例えば、400nmの膜厚を一括して成膜する場合では、成膜装置内に発生するプラズマの輻射熱が加わり、これが蓄積されることで発光機能層の劣化原因となる。これに対して、100nm成膜後に冷却し、更に100nm成膜後の冷却、更にその後に100nmを成膜という順に成膜工程と冷却工程と繰り返すことによって、熱による発光機能層の劣化を抑制しつつ、ガスバリア層30を形成することができる。
【0103】
このようにガ珪素化合物からなるスバリア層30が形成されることで、ガスバリア層30は、欠陥のない緻密な層となって酸素や水分に対するバリア性がより良好になる。また、ガスバリア層30は、膜密度2.3〜3.0g/cm、の膜質を有していることが好ましい。以上のように、ガスバリア層30が形成されることにより、図9Cの断面に示す構造が形成される。
【0104】
次に、図11Eに示すように、ガスバリア層30上に接着層205と表面保護基板206からなる保護層204を設ける。接着層205は、ディスペンサーやスリットコート法などによりガスバリア層30上に略均一に塗布され、その上に表面保護基板206が貼り合わされる。
このようにガスバリア層30上に保護層204を設ければ、表面保護基板206が耐圧性や耐摩耗性、光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能を有していることにより、有機発光層60や陰極50、さらにはガスバリア層もこの表面保護基板206によって保護することができ、したがって発光素子の長寿命化を図ることができる。
また、接着層205が機械的衝撃に対して緩衝機能を発揮するので、外部から機械的衝撃が加わった場合に、ガスバリア層30やこの内側の発光素子への機械的衝撃を緩和し、この機械的衝撃による発光素子の機能劣化を防止することができる。
以上のようにして、有機EL装置1が形成される。
【0105】
なお、上述した実施形態では、トップエミッション型の有機EL装置1を例にして説明したが、本発明はこれに限定されることなく、ボトムエミッション型にも、また、両側に発光光を出射するタイプのものにも適用可能である。
【0106】
また、ボトムエミッション型、あるいは両側に発光光を出射するタイプのものとした場合、基体200に形成するスイッチング用TFT112や駆動用TFT123については、発光素子の直下ではなく、親液性制御層25および有機隔壁層221の直下に形成するようにし、開口率を高めるのが好ましい。
また、有機EL装置1では本発明における第1電極を陽極として機能させ、第2電極を陰極として機能させたが、これらを逆にして第1電極を陰極、第2電極を陽極としてそれぞれ機能させるよう構成してもよい。ただし、その場合には、有機発光層60と正孔輸送層70との形成位置を入れ替えるようにする必要がある。
【0107】
上述したように、本実施形態における有機EL装置1においては、緩衝層210を形成する工程は、エポキシ系のモノマー/オリゴマー材料と硬化剤とを有する塗布材料を、真空雰囲気下において溶媒を用いずに塗布する塗布工程と、塗布材料を硬化させて緩衝層210を形成する熱硬化工程と、を含んでいるので、エポキシ系のモノマー/オリゴマー材料と硬化剤とを熱硬化工程によって硬化させて緩衝層210を形成することができる。
ここで、塗布工程は、真空雰囲気下にて行われるので、水分や酸素が除去された雰囲気で塗布工程が行われることとなり、緩衝層210内に水分や酸素が侵入するのを抑制することができる。また、当該塗布工程は、溶媒を用いずに行われるので、緩衝層210内に溶媒が残留することがない。従って、緩衝層210中には、水分や酸素が殆ど残留しておらず、また、溶媒分子が存在しないので、これらが有機発光層60や陰極50に侵入することに起因する発光特性の低下や発光寿命の短寿命化、非発光領域等の発生を抑制できる。特に、高分子材料からなる有機発光層60を有する有機EL装置に適用することが好ましい。低分子材料からなる有機発光層60を有する有機EL装置において、一般的に有機発光層60は例えばトリス(8−キノリノラト)アルミニウムのようなLUMOレベルが3.0eVから3.5eVの電子輸送性の有機材料で構成され、陰極としてはマグネシウムなど仕事関数が3.5eV程度の材料が用いられる。一方、高分子材料からなる有機発光層60を有する有機EL装置に用いられる高分子発光材料のLUMOレベルは、同様の発光色の低分子発光材料に比して1.0eV程度低い。したがって、高分子発光材料では、低分子発光材料の場合と比して、陰極として仕事関数が比較的低く、すなわち、反応性が高い材料を用いる必要がある。本発明を適用することにより、反応性が高い陰極を用いた場合であっても、溶媒分子が陰極と反応しないため、発光素子の信頼性を向上させることができる。
また、熱硬化工程においては、モノマー/オリゴマー材料を硬化剤によって硬化させるので、モノマーやオリゴマーが架橋し、高分子有機材料(ポリマー)からなる緩衝層210を形成することができる。
また、熱硬化工程においては、硬化前の緩衝層210bに熱処理が施されるので、塗布材料を硬化させて緩衝層210を形成するだけでなく、緩衝層210の周辺部を熱によって溶融(軟化)させ、緩衝層210の側面端部に傾斜部を形成することができる。これにより、緩衝層210の上方に形成されるガスバリア層30が緩衝層210の形状に倣って緩やかに形成されるので、ガスバリア性の向上を図ることができる。
また、このような製造方法によって積層形成されたガスバリア層30と緩衝層210との総厚は、従来よりも薄くすることができる。従って、本発明の有機EL装置においては、厚膜化を行わずに、薄膜の封止構造を実現できる。
【0108】
また、本実施形態においては、モノマー/オリゴマー材料としてエポキシ系材料を採用されており、その分子量が3000以下となっている。これにより、熱硬化工程によってエステル結合によって硬化させて緩衝層210を形成することができる。
また、このようにエポキシ系材料を採用することにより、低温硬化工程によって低分子のモノマーから容易に耐水性の高いポリマー被膜を形成することができる。従って、従来のように有機溶媒で粘度を下げて希釈した液体材料を塗布して緩衝層を形成する必要がなくなり、残留溶媒による影響を排除することができる。また、エポキシ系材料においては、モノマー/オリゴマー材料を低粘度な状態で塗布形成することができる。一方、従来まで緩衝層210の材料として用いられてきたアクリル系材料は、モノマー状態では有害性や危険性、吸水性が高くかつ硬化時の収縮が非常に大きいため、ポリマー状態の原料とする必要があり、有機溶剤を使わずに所望の粘度にすることは困難であった。これに対して、エポキシ系材料においては、膜の収縮を抑えながら低粘度のモノマー/オリゴマー材料に調整ができ、容易に膜を形成できる。
【0109】
また、硬化剤としては、酸無水物材料を採用することが好ましく、アルコール類の反応促進剤を組み合わせることで低温硬化が可能であり、当該酸無水物を使用してエポキシ系のモノマー/オリゴマーを硬化すると高密度なエステル結合が行われ、表面エネルギーの高い接着性、耐熱性、耐水性に優れた高分子有機材料からなる緩衝層210を形成することができる。
【0110】
また、塗布工程は、真空雰囲気におけるスクリーン印刷法を利用しているので、スクリーンメッシュにより塗布材料を陰極保護層55上に高精度なパターン塗布形成ができる。これにより、封止幅の狭い狭額縁構造においても、側面からの酸素や水分の侵入に起因する有機発光層60及び陰極50へのダメージを抑制することができる。
また、緩衝層210の表面が平坦化されることにより、その上方に形成されるガスバリア層30は均一な膜質となり、欠陥の無い均一なガスバリア層30を形成できる。
【0111】
また、スクリーン印刷法において、スクリーンメッシュMを傾けながら塗布膜210bから剥離するので、陰極50へダメージを与えることなく均一な塗布膜210bを形成することができる。また、熱硬化後に形成された緩衝層210の表面に平坦化を施すことができる。
【0112】
また、塗布工程よりも高い圧力の不活性ガス雰囲気において行う消泡工程を有しているので、不活性ガス雰囲気の外圧によって、接触加重をおこなわなくても緩衝層210に圧力を付与することができる。これより、真空状態の気泡を極微小にすることができる。また、このように加圧されて極微小となった気泡の内部には、殆どガスが存在しておらず、有機発光層60や陰極50に影響を与えることがない。そして、緩衝層210内において気泡が極微小となっていることから、緩衝層210の表面は平坦性を有するものとなる。また、気泡がはじけて生まれるクレータ状の塗布抜け部が緩衝層210の表面に形成されることもない。
【0113】
また、スクリーン印刷法によって形成される緩衝層210は、その周縁部210Eが波形状に形成されているので、直線状の場合と比較して、緩衝層形成領域210ARの周縁長さを長くすることができる。これによって、緩衝層210の上層膜であるガスバリア層30との密着力を向上させることができ、また、緩衝層周縁部210Eにおいて緩衝層210の応力を分散させることができる。そして、緩衝層210の膜強度を向上させることができ、高い信頼性を得ることができる。このような波形状は、スクリーン印刷法のマスク形状によって所望に規定できるので、波形状を形成するための工程が増加することなく、容易に形成することができる。
【0114】
また、塗布材料の室温粘度は、500〜20000mPa・sの範囲であるので、スクリーン印刷法を容易に行うことができる。従って、緩衝層210の形状保持を容易に実現でき、緩衝層210の表面を容易に平坦化することができ、また、気泡の極微小化を実現することができる。
【0115】
また、特に塗布材料の室温粘度を1000〜10000mPa・sの範囲にすることで、緩衝層の形状保持、表面の平坦化、気泡の極微小化、側面端部の低角度化を確実に実現することができ、ダークスポットの発生を抑制できる。ここで、緩衝層210の膜厚を3〜10μmとしているので、同様の効果が得られる。
【0116】
また、緩衝層210とガスバリア層30との間に、緩衝層210よりも酸素原子量が多く表面エネルギーの高い有機密着層220を形成しているので、緩衝層210の表面に対する洗浄効果が得られ、緩衝層210とガスバリア層30との間の密着性を向上することができる。従って、ガスバリア層30の剥離を抑制し、有機EL装置1の耐久性を向上させることができる。
【0117】
また、緩衝層210の側面端部の角度が30°以下で形成されているので、緩衝層210の上層側にガスバリア層30を形成した際に、ガスバリア層30を均一な膜厚で成膜することができる。これにより、緩衝層210に対するガスバリア性を確実に得ることができる。
このような側面端部の角度を30°以下にするには、上記の硬化工程として熱処理を施すことによって行われる。これにより、緩衝層210の周辺部を熱によって溶融(軟化)させ、緩衝層210の側面端部に30°以下の傾斜部を形成することができる。これにより、緩衝層210の上方に形成されるガスバリア層30が緩衝層210の形状に倣って緩やかに形成されるので、緩衝層の熱伸縮に対しても破壊されることなく、側面のガスバリア性の向上を図ることができる。
【0118】
また、陰極50と緩衝層210との間に、電極保護層55を形成しているので、硬度及び表面エネルギーの高い電極保護層55によって、その後に形成される緩衝層プロセスのスクリーンメッシュ接触から陰極50を保護し、材料の濡れ性を向上させることで平坦性と側面端部の接触角を低角度化、緩衝層との接着性の向上ができる。
【0119】
(有機EL装置の第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置について説明する。
本実施形態においては、先の第1実施形態と同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
図12は、本実施形態の有機EL装置の断面構造を示す模式断面図である。図12においては、RGBの各画素領域のみを示しているが、実際には図3や図4のように複数の画素領域が有機EL装置における実発光領域4の全面に形成されているものとする。
【0120】
本実施形態は、有機発光層として白色に発光する白色有機発光層60Wを採用したこと、及び、表面保護基板としてカラーフィルタ基板を採用したこと、先の第1実施形態と相違している。
図12に示すように、本実施形態の有機EL装置1Aにおいては、白色に発光する白色有機発光層60Wを発光機能層110として備えている。また、第1実施形態のようにRGBに形成し分ける必要がないので、有機隔壁層221を跨ぐように各画素電極23上に形成されていてもよい。
また、カラーフィルタ基板207は、基板本体207A上に赤色着色層208R、緑色着色層208G、青色着色層208B、及びブラックマトリクス209が形成されたものである。また、着色層208R,208G,208B,及びブラックマトリクス209の形成面は、基板2に向けて対向して配置されているため、これらは接着層205に接触して固定されている。また、基板本体207Aの材質は、第1実施形態の表面保護基板206と同様のものが採用される。
また、着色層208R,208G,208Bの各々は、画素電極23上の白色有機発光層60Wに対向して配置されており、当該白色有機発光層60Wの発光光は、着色層208R,208G,208Bの各々を透過することで、赤色光、緑色光、青色光の各色光を観察者側に出射するようになっている。従って、本実施形態の有機EL装置1Aにおいては、白色有機発光層60Wの発光光を利用し、かつ、複数色の着色層208を有するカラーフィルタ基板207によってカラー表示を行うようになっている。
【0121】
また、着色層208R,208G,208Bと白色有機発光層60Wとの距離は、白色有機発光層60Wの発光光が対向する着色層のみに出射するように、できるだけ短い距離が要求される。これは、その距離が長い場合では、白色有機発光層60Wの発光光が隣接する着色層に対して出射される可能性が高くなるためであり、これを抑制するためにその距離を短くすることが好ましい。
【0122】
そして、本実施形態では、ガスバリア層30や緩衝層210によって、薄膜の封止構造を実現している。図12においては、絶縁層284の表面からカラーフィルタ基板207までの間隔Tを15μm程度に実現している。従って、白色有機発光層60Wと着色層208R,208G,208Bとの距離は短いものとなっている。これにより、白色有機発光層60Wの発光光は、対向する着色層のみに出射することとなり、隣接する着色層に発光光が漏れてしまうのを抑制することができる。これにより混色を抑制することができる。
【0123】
また、本実施形態では、単色の白色有機発光層60Wを利用しているので、RGB毎に有機発光層を形成し分ける必要がない。具体的には、低分子系の白色有機発光層を形成するマスク蒸着工程や、高分子系の白色有機発光層を形成する液滴吐出工程等において、1種類の白色有機発光層を1工程で形成するだけでよいので、RGB毎の有機発光層を形成し分ける場合と比較して製造工程が容易になる。
【0124】
なお、本実施形態では、白色有機発光層60Wが着色層208R,208G,208Bの各々に発光光を照射するものとなっているが、白色有機発光層60Wに代えて、第1実施形態と同様のRGBの各色有機発光層60R,60G,60Bを採用してもよい。この場合、同色の着色層と有機発光層とを対向配置させた構成となる。この構成においては、着色層208R,208G,208Bによって、各色有機発光層の発光光の色補正を行うことができる。
【0125】
(有機EL装置の第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る有機EL装置について説明する。
本実施形態においては、先の第1及び第2の実施形態と同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
図13は、本実施形態の有機EL装置の断面構造を示す模式断面図である。図13においては、RGBの各画素領域のみを示しているが、実際には図3や図4のように複数の画素領域が有機EL装置における実発光領域4の全面に形成されているものとする。
【0126】
本実施形態は、低分子系の発光機能層300を採用したことが、先の第1及び第2実施形態と相違している。また、本実施形態の有機EL装置1Bは、カラーフィルタ基板207に対して低分子系白色発光素子の白色光を照射させるようになっている。従って、着色層208R,208G,208Bによって、カラー表示を行うようになっている。
【0127】
次に、画素電極23及び陰極50によって挟持される低分子系発光機能層の構成について説明する。なお、画素RGBの各々においては、低分子系発光機能層の構成は同一となっている。
図13に示すように、低分子系発光機能層300は、画素電極23から陰極50に向けて、多量体正孔注入層301、正孔輸送層302、有機発光層303、電子注入層304、電子注入バッファー層305が順次積層された構成となっている。
ここで、多量体正孔注入層301は、トリアリールアミン(ATP)を含むものであり、正孔輸送層302は、TPD(トリフェニルジアミン)系からなるものである。
また、有機発光層303は、スチリルアミン系発光層(ホスト)とアントラセン系ドーパントとを含んで構成される青色の有機発光層や、スチリルアミン系発光層(ホスト)とルブレン系ドーパントを含んで構成される黄色の有機発光層等を含んで形成されている。
また、電子注入層304は、アルミニウムキノリノール(Alq3)層であり、電子注入バッファー層305は、LiF(フッ化リチウム)である。
また、陰極50は、MgAg等の合金とITOとが積層されてなるものである。
【0128】
上記の各有機層301〜305の材料及びLiFは、加熱ボート(るつぼ)を用いた真空蒸着法で順次形成される。また、陰極50の形成については、金属系材料については真空蒸着法を採用し、ITO等の酸化物材料についてはECRスパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法等の高密度プラズマ成膜法を採用する。
このような有機EL装置1Bにおいては、画素電極23を色毎にパターニングすれば、低分子系発光機能層300及び陰極を形成し分ける必要がなく、高精度が要求されるマスク蒸着を行う必要がない。
【0129】
次に、陰極50の上方に形成される層膜について説明する。
陰極50の上方には、電極保護層55が形成されている。当該電極保護層55は、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法によって形成される。材質は透明性や密着性、耐水性を考慮して珪素酸窒化物などの珪素化合物が好ましい。また、形成前には酸素プラズマ処理によって密着性を向上させると電極との密着性が向上し、発光ムラが低減する。硬化前の有機緩衝層の浸透を防ぐことも目的としており、膜厚は100nm以上が好ましい。
【0130】
また、電極保護層55の上方には、有機緩衝層210が形成されている。当該有機緩衝層210の硬化前の原料主成分としては、減圧真空下で塗布形成するために、流動性に優れかつ溶媒のような揮発成分を持たない有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーである(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0131】
また、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤としては、電気絶縁性に優れかつ強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが良く、透明性に優れかつ硬化のばらつきの少ない付加重合型がよい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。これらの硬化は60〜100℃の範囲の加熱でおこなわれ、その硬化被膜は珪素酸窒化物との密着性に優れるエステル結合を持つ高分子となる。
【0132】
また、酸無水の開環を促進する硬化促進剤として芳香族アミンやアルコール類、アミノフェノールなどの比較的分子量の高いものを添加することで低温かつ短時間での硬化が可能となる。
これらの原料ごとの粘度は1000〜10000mPa・s(室温)が好ましい。理由は、塗布直後に有機発光層へ浸透してダークスポットと呼ばれる非発光領域を発生させず、かつ膜厚を3〜10μm以下にするためである。この膜厚に抑えることで、カラーフィルタ基板207を有機発光層303により近づけることができるため、隣接する着色層に光を漏らさずに、発光領域を広くとることができる。また、これらの原料を配合した緩衝層材料の粘度も、1000mPa・s以上(室温)でなければならない。これらの材料は、60〜100℃の範囲で加熱することで硬化させる。この時点の問題として、加熱直後に反応が開始されるまで一時的に粘度が低下する。この時に、有機緩衝層210を構成する材料が電極保護層55や陰極50を透過してAlq3に達することで、ダークスポットを発生する。そこで、ある程度まで硬化が進むまでは低温で放置し、ある程度高粘度化したところで温度を上げて完全硬化させる方がより好ましい。また、カチオン放出タイプの光重合開始剤を添加して加熱をする前に10mW/cm2以下の低照度で部分的に硬化して粘度の低下を防いでも良い。しかし、光重合開始剤は着色するものが多いため、ボトムエミッション用途に限られる。
また、ダークスポットを発生させないため、緩衝層材料の主成分(例えば70重量%以上)は1000mPa・s以上であることが好ましい。理由として、低粘度成分が多く混入されていると硬化する際の加熱により硬化前に有機発光層に浸透してダークスポットを発生させるためである。
【0133】
また、本実施形態においては、陰極50やガスバリア層30との密着性を向上させるシランカップリング剤が緩衝層210に含有されている。
特に、低分子系の有機発光層303の場合には、緩衝層210の材料中にシランカップリング剤を混合、もしくは、シランカップリング剤による層を追加し、さらに陰極保護層を追加している。更に、シランカップリング剤単独による層は膜強度が脆い問題があるため、緩衝層210によって膜強度を補い、陰極保護層55のピンホールへの浸透をシランカップリング剤が防ぐように、緩衝層210の材料にシランカップリング剤を混合したほうが好ましい。
シランカップリング剤は、SiO、SiON、SiNとの共有結合が生じるので、陰極保護層やガスバリア層、ガラス基板などとの密着性が向上する(アルミなどの金属とも反応する。)。シランカップリング剤としてはエポキシシランが好ましい。エポキシシランは、緩衝層原料の硬化剤成分(酸無水物系硬化剤)とも反応するので好ましい。
また、主剤/硬化剤/硬化促進剤の組成は40〜45/40〜45/10〜20であることが好ましい(低分子・高分子発光素子に共通)。このようにすると、未硬化成分が10〜20%(緩衝層原料内の未反応エポキシ基を100%とした場合、硬化後の未反応エポキシ基残留比率:FTIRのエポキシ基吸収ピーク強度差で比較可能)となり、未硬化成分による発光機能層への浸透による劣化を防止できる。(20%以下になると完全硬化と呼んでいる。)
【0134】
また、硬化剤基(酸無水、アミン)が、材料の組成として残留しており、未硬化比率は10%前後(原料中のジカルボン酸無水物基を100%とした場合、硬化後の未反応酸無水物基残留比率)である。この程度を完成した膜中に残留させると、硬化時の収縮が少なく、応力を緩和する柔軟性を持つため有機EL素子へのダメージを未然に防止することができるため好ましい。
【0135】
特に、粘度の低い原料が低分子発光素子の材料を溶かすため(例えばAlq3を溶かす虞がある)、低分子発光素子に対しては高粘度の原料を用いることが好ましい。一方、高分子発光素子の場合はこのようなことがない。各原料の分子量を上げて粘度をあげると改善することができる。低分子発光素子の場合の好ましい粘度(あるいは分子量)の範囲は、3000mPa・sから8000mPa・s(室温時)の範囲であり、スクリーン印刷時の膜厚(5μm前後)と塗布面の平坦性を両立できる。
なお、シランカップリング剤以外にも、イソシアネート化合物などの捕水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が緩衝層210に混入されていてもよい。
【0136】
また、有機緩衝層210の上方には、ガスバリア層30が形成されている。当該ガスバリア層30の形成方法としては、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法が採用される。材質は透明性やガスバリア性、耐水性を考慮して珪素酸窒化物などの珪素化合物が好ましい。また、形成前には酸素プラズマ処理によって密着性を向上させると信頼性が向上する。膜厚は、200nm以下では有機緩衝層の表面及び側面被覆が不足するため、300nm以上が好ましい。
【0137】
上述したように、本実施形態の有機EL装置1Bによれば、電極保護層55は、珪素酸窒化膜であり、緩衝層210は、エポキシ系化合物とシランカップリング剤を含んでいるので、電子注入層304におけるダークスポットの発生を防止できる。
【実施例】
【0138】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
本実施例においては、(1)ダークスポット発生数に関する実験、(2)ダークスポット発生時間に関する実験、(3)陰極変質時間に関する実験、(4)緩衝層周縁部の形状と非発光領域の有無を確認する実験、(5)緩衝層塗布材料の粘度及び緩衝層の膜厚と、初期ダークスポット発生数に関する実験、(6)ガスバリア層の膜厚とダークスポットの有無を確認する実験、及び(7)緩衝層の材料としてシランカップリング剤を使用した場合のダークスポットの有無を確認する実験、の7つの実験結果について説明する。
【0139】
【表1】

【0140】
(1) ダークスポット発生数に関する実験
表1は、ダークスポット発生数を測定した実験結果である。
評価方法は、基体200上に、発光機能層110、陰極50、電極保護層55、緩衝層210、ガスバリア層30、保護層(粘着層付きポリイミドフィルム)204を順次積層した発光パネルにおいて、緩衝層の形成プロセスを下記の3通りで形成した場合の60℃90%RH600時間放置後のダークスポット発生数を観察した。
【0141】
表1において、(A)〜(C)の各々は、
(A)『真空塗布+窒素置換消泡+窒素置換60℃硬化』
50Paの真空雰囲気内のスクリーン印刷法で緩衝層を塗布形成し、当該緩衝層を窒素ガス注入で約100000Pa雰囲気にて3分間消泡処理を施した後、同圧力のまま60℃で硬化をした場合(上記実施形態の製造方法に相当)。
(B)『大気塗布+大気60℃硬化』
大気雰囲気内のスクリーン印刷法で緩衝層を塗布形成し、当該緩衝層を大気圧雰囲気にて消泡処理せずに60℃硬化を施した場合。
(C)『大気塗布+減圧脱泡+窒素置換60℃硬化』
大気雰囲気内のスクリーン印刷法で緩衝層を塗布形成し、当該緩衝層を100Paの減圧雰囲気にて3分間脱泡処理を施した後、さらに窒素ガス注入で約100000Paに加圧して60℃硬化をした場合。
を意味している。
【0142】
また、(A)〜(C)の各々においては、酸窒化珪素膜(SiON)からなる陰極保護層を形成し、緩衝層としてエポキシ樹脂を10μmで形成し、酸窒化珪素膜(SiON)からなるガスバリア層を200nmで形成している。また、実験前の緩衝層内の気泡数は、(A)〜(C)の各々が、0個、100個以上、5〜20個となっている。
なお、この実験においては、(A)〜(C)のいずれも40×40mmの領域に無溶媒エポキシモノマーをスクリーン印刷法によって形成、60℃加熱硬化したものを実験対象としている。
【0143】
表1の実験結果に示すように、(A)の方法で緩衝層を形成した場合に、ダークスポット発生数がないことが確認された。また、(B)の方法は100個以上、(C)の方法は2〜3個のダークスポットが確認された。
これにより、減圧真空下で緩衝層を塗布形成することで、塗布工程で吸湿させることなく、その後の消泡工程で気泡を消失でき、これによりダークスポットを削減できることが明らかになった。
【0144】
【表2】

【0145】
(2) ダークスポット発生時間に関する実験
表2は、ダークスポット発生までにかかった時間を測定した実験結果である。
評価対象は、(D)〜(G)であり、表2において、(A)〜(C)の各々は、
(D)無溶媒エポキシモノマーと酸無水物系硬化剤、反応促進剤とを混合して塗布形成し、硬化させて緩衝層を形成した場合(上記実施形態の製造方法に相当)。
(E)アクリルポリマー材料とXDl(低沸点溶媒:酢酸エチル)とを混合した材料から緩衝層を形成した場合。
(F)アクリルポリマー材料とXDl(高沸点溶媒:酢酸ブチル)とを混合した材料から緩衝層を形成した場合。
(G)緩衝層がない場合。
を意味している。
【0146】
また、(D)〜(G)の各々においては、酸窒化珪素膜(SiON)からなる陰極保護層を形成し、酸窒化珪素膜(SiON)からなるガスバリア層を200nm、保護層として粘着層付きポリイミドフィルムを形成している。
また、(D)においては、緩衝層としてエポキシ樹脂を50Paの真空スクリーン印刷法にて10μm塗布形成している。更に、(D)においては無溶媒で緩衝層を形成しているため減圧乾燥工程を省略し、窒素で約100000Paに加圧消泡した後に60℃硬化している。
また、(E)及び(F)においては、緩衝層としてアクリル樹脂を大気圧のスリットコート法にて10μm形成している。更に、(E)及び(F)においては、室温での減圧雰囲気(100Pa、30分間)で溶媒の乾燥工程を施した後、窒素パージ後に約100000Paにて60℃で硬化している。
また、(G)においては、陰極保護層及び緩衝層を形成しておらず、また、乾燥工程も行っていない。ガスバリア層と保護層(粘着層付きポリイミドフィルム)のみを形成している。
なお、(E)及び(F)におけるXDIは、キシリレンジイソシアネートを意味する。
【0147】
表2の実験結果に示すように、(D)の方法で緩衝層を形成した場合に、ダークスポット発生まで、700時間以上を要することが確認された。また、(E)の方法は低沸点溶媒を使用するため溶媒残留量は少ないものの、ダークスポット発生まで、400〜500時間を要することが確認された。(F)の方法は高沸点溶媒のため溶媒残留量が多く、ダークスポット発生まで、100〜200時間を要することが確認された。(G)の方法はダークスポット発生まで、10時間を要することが確認された。
これにより、緩衝層材料に溶媒成分が入っていないことで、残留する溶媒成分の発光素子への影響がないため、高い信頼性が得られることが明らかになった。また、(D)の方法では、溶媒成分の除去が必要なくなるため、減圧真空下でも液粘度が安定するため膜厚が安定し、乾燥工程が必要なくなるため工程時間も短縮ができる。
【0148】
【表3】

【0149】
(3) 陰極変質時間に関する実験
表3は、発光機能層110上に形成したカルシウムとアルミニウムの積層体からなる陰極50の変質が始まるまでの時間を測定した実験結果である。
評価対象は、
(H)有機密着層がある場合、
(I)有機密着層がない場合、の2つである。
また、(H)及び(I)の各々においては、酸窒化珪素膜(SiON)からなる陰極保護層を100nm形成し、緩衝層として真空スクリーン印刷法にてエポキシ系緩衝層材料を10μm塗布形成し窒素パージによる消泡工程後に60℃で硬化、酸窒化珪素膜(SiON)からなるガスバリア層を200nmで形成、保護層として粘着層付きポリイミドフィルムを形成している。また、(H)においては緩衝層に減圧酸素プラズマ処理を施しており、(I)においては緩衝層に減圧酸素プラズマ処理を施していない。
【0150】
表3の実験結果に示すように、(H)の方法で有機密着層を形成した場合には、ガスバリア層との密着性が向上したため陰極が変質するまでに120時間以上を要することが確認された。また、(I)の方法は、ガスバリア層との密着性が得られていないため陰極が変質するまでに30時間未満を要することが確認された。
これにより、有機密着層を形成することでガスバリア層と緩衝層との密着性が向上し、特に高温条件下でのガスバリア層の剥離がなくなるため、高い信頼性が得られる。
【0151】
【表4】

【0152】
(4)緩衝層周縁部の形状と非発光領域の有無を確認する実験
表4は、緩衝層周縁部(図6参照)の形状が波形状(波打ちあり)の場合と、直線状(波打ちなし)の場合とを比較して、非発光領域の有無を確認した実験結果である。
評価方法としては、110℃85%RHにおいて100時間のエージング(有機EL装置の連続動作)を行ったものである。
表4において、(J)及び(K)は、
(J)緩衝層周縁部が『波打ちあり(波形状)』の場合
(K)緩衝層周縁部が『波打ちなし(直線状)』の場合
を意味している。
なお、同一条件としては、SiONからなる電極保護層を100nmとし、エポキシからなる緩衝層を5μmとし、SiONからなるガスバリア層30を400nmとしている。
【0153】
表4の実験結果が示すように、緩衝層周縁部が直線状である場合には周辺部に非発光領域が発生してしまうのに対し、緩衝層周縁部が波形状である場合には全面が点灯する結果となった。これは、緩衝層周縁部を波形状にすることで、その上に形成するガスバリア層の側面部の密着性が向上し、耐湿性が向上する。理由として、ガスバリア層と緩衝層と基板が接触する混在領域を増やすことで、緩衝層が熱などで横方向に膨張する際にガスバリア層が剥離やクラックを発生しないと考えられる。
【0154】
【表5】

【0155】
(5)緩衝層塗布材料の粘度及び緩衝層の膜厚と、初期ダークスポット発生数に関する実験
表5は、緩衝層塗布材料の粘度及び緩衝層の膜厚と、初期ダークスポット発生数に関する実験結果である。
評価方法は、有機EL装置の動作を開始した初期におけるダークスポット発生数を調べたものである。
表5において、(L)〜(R)は、
(L)緩衝層塗布材料の粘度が10000mPa・s、その膜厚が9μmの場合
(M)緩衝層塗布材料の粘度が5000mPa・s、その膜厚が5μmの場合
(N)緩衝層塗布材料の粘度が1000mPa・s、その膜厚が3μmの場合
(O)緩衝層塗布材料の粘度が500mPa・s、その膜厚が3μmの場合
(P)緩衝層塗布材料の粘度が500mPa・s、その膜厚が2μmの場合
(Q)緩衝層塗布材料の粘度が5000mPa・s、その膜厚が5μm、かつ、電極保護層がない場合
(R)緩衝層塗布材料を形成せず、電極保護層が2000nmの場合
を意味している。
なお、同一条件としては、(Q)及び(R)を除いて電極保護層を100nmとし、(R)を除いてガスバリア層30の膜厚を400nmとしている。
【0156】
表5の実験結果が示すように、(R)では電極が剥離してしまい発光しないという結果となった。(R)では50個以上の初期ダークスポットの発生が確認された。(P)では20〜40個の初期ダークスポットの発生が確認された。(O)では10〜20個の初期ダークスポットの発生が確認された。(L)〜(N)では2個以下の初期ダークスポットの発生が確認された。
このように、緩衝層の粘度を1000〜10000mPa・sにすることで、緩衝層の膜厚を10μm以下に抑えながら、初期ダークスポットを抑制する効果があることが確認された。また、緩衝層の膜厚を抑えることで、カラーフィルタ基板を15μm以下のギャップで有機発光層に近づけることができるため、画素の開口率をより大きくできる。
【0157】
【表6】

【0158】
(6)ガスバリア層の膜厚とダークスポットの有無を確認する実験
表6は、ガスバリア層の膜厚とダークスポットの有無を確認した実験結果である。
評価方法としては、60℃90%RHにおいて600時間のエージング(有機EL装置の連続動作)を行ったものである。
表6において、(S)〜(V)は、
(S)ガスバリア層が200nmである場合
(T)ガスバリア層が400nmである場合
(U)ガスバリア層が600nmである場合
(V)ガスバリア層が800nmである場合
を意味している。
なお、同一条件としては、SiONからなる電極保護層を100nmとし、エポキシからなる緩衝層を5μmとしている。
【0159】
表6の実験結果が示すように、ガスバリア層の膜厚が200nmである場合には周辺部が非発光となる(ダークスポット発生)のに対し、ガスバリア層の膜厚が400nm及び600nmである場合には全面が点灯する結果となった。ガスバリア層の膜厚は、信頼性評価に効果がある。ガスバリア層が200nm以下では、有機緩衝層のスクリ−ン印刷時に残る表面の凹凸や側面の被覆性が低下し、水分の浸透が発生するため、ダークスポット発生を招くこととなった。また、ガスバリア層の膜厚は、700nm以上必要であるが,1μmを超えるとガスバリア層の応力が大きくなり、クラック等が発生する。従って、ガスバリア層の膜厚を400〜600nmにすることで、ガスバリア性と耐クラック性とを兼ね備えたガスバリア層を実現できるため、好ましい。
【0160】
【表7】

【0161】
(7)緩衝層の材料としてシランカップリング剤を使用した場合のダークスポットの有無を確認する実験
表7は、緩衝層の材料としてシランカップリング剤を使用した場合のダークスポットの有無を確認した実験結果である。
表7において、(W)〜(Y)は、
(W)陰極保護層を非形成とし、緩衝層がエポキシとシランカップリング剤とを含有する場合
(X)SiONからなる陰極保護層を100nm形成し、緩衝層がエポキシとシランカップリング剤とを含有する場合
(Y)SiONからなる陰極保護層を100nm形成し、緩衝層がエポキシを含有する場合
を意味している。
【0162】
【表8】

【0163】
表8は、表7の(W)〜(Y)で用いられる緩衝層を構成する材料と、配合比、及び室温粘度を示している。
なお、この実験は、高分子系の有機EL装置(第1及び第2の実施形態)と、低分子系の有機EL装置(第3実施形態)とにおいて行っている。
【0164】
図7の実験結果が示すように、(W),(X),(Y)のいずれの場合でも、高分子系の有機EL装置においては、ダークスポット発生が確認されなかった。また、低分子系の有機EL装置においては、(W)及び(Y)の場合においてダークスポット発生が確認され、(X)の場合においてダークスポット発生が確認されなかった。
このように低分子系の有機EL装置においては、SiONの陰極保護層と、エポキシとシランカップリング剤からなる緩衝層とを組み合わせると、シランカップリング剤が陰極保護層と結合して陰極保護層が穴埋めされ、これによって、ダークスポット発生を抑制することが考えられる。
【0165】
(電子機器)
次に、本発明の電子機器について説明する。
電子機器は、上述した有機EL装置(有機EL装置)1を表示部として有したものであり、具体的には図14に示すものが挙げられる。
図14(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図14(a)において、携帯電話1000は、上述した有機EL装置1を用いた表示部1001を備える。
図14(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図14(b)において、時計1100は、上述した有機EL装置1を用いた表示部1101を備える。
図14(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図14(c)において、情報処理装置1200は、キーボードなどの入力部1201、上述した有機EL装置1を用いた表示部1202、情報処理装置本体(筐体)1203を備える。
図14(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、上述した有機EL装置(有機EL装置)1を有した表示部1001,1101,1202を備えているので、表示部を構成する有機EL装置の発光素子の長寿命化が図られたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の配線構造を示す図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示す模式図。
【図3】図2のA−B線に沿う断面図。
【図4】図2のC−D線に沿う断面図。
【図5】図3の要部を示す断面拡大図。
【図6】図2の要部を示す平面拡大図。
【図7】図3の要部を示す断面拡大図。
【図8】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法を工程順に示す図。
【図9】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法を工程順に示す図。
【図10】緩衝層、有機密着層、及びガスバリア層の形成方法を説明するための図。
【図11】緩衝層、有機密着層、及びガスバリア層の形成方法を説明するための図。
【図12】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す模式断面図。
【図13】本発明の第3実施形態に係る有機EL装置の構成を示す模式断面図。
【図14】電子機器を示す図。
【符号の説明】
【0167】
1,1A,1B 有機EL装置、 20 基板(基体)、 23 画素電極(第1電極)、 30 ガスバリア層、 50 陰極(第2電極)、 55 陰極保護層(電極保護層)、 60 有機発光層(発光機能層)、 70 正孔輸送層(発光機能層)、 110 発光機能層、 200 基体、 205 接着層、 206 表面保護基板(保護基板)、 207 カラーフィルタ基板、 208R 赤色着色層(着色層)、 208G 緑色着色層(着色層)、208B 青色着色層(着色層)、 210a 緩衝層、 210b 塗布膜、 210E 緩衝層周縁部(周縁部)、 210AR 緩衝層形成領域(緩衝層の平面パターン)、 220 有機密着層、 221 有機隔壁層(隔壁)、 221a 開口部、 300 発光機能層、 302 正孔輸送層(発光機能層)、303 有機発光層(発光機能層)、 304 電子注入層(発光機能層)、 305 電子注入バッファー層(発光機能層)、 1000 携帯電話(電子機器)、1100 時計(電子機器)、 1200 情報処理装置(電子機器)、 1001,1101,1202 表示部(有機EL装置)、 M スクリーンメッシュ(マスク)、 S スキージ(塗着手段)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、複数の第1電極と、前記第1電極の形成位置に対応して配置される発光機能層と、前記発光機能層を覆う第2電極と、を有する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、
前記第2電極を覆うと共に緩衝層を形成する緩衝層形成工程と、当該緩衝層を覆うガスバリア層を形成する工程とを含み、
前記緩衝層形成工程は、
モノマー/オリゴマー材料と硬化剤とを有する塗布材料を、真空雰囲気下において溶媒を用いずに塗布する塗布工程と、
前記塗布材料を硬化させて前記緩衝層を形成する熱硬化工程と、を含む、
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1電極の形成位置に対応した複数の開口部を有する隔壁を形成する工程と、
当該複数の開口部のそれぞれに前記発光機能層を形成する工程と、
前記隔壁及び前記発光機能層を覆う第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記緩衝層形成工程は、前記第2電極と前記隔壁とを覆うように前記緩衝層を形成すること、
を特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項3】
前記緩衝層形成工程において、
前記塗布工程は、スクリーン印刷法を利用することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
前記スクリーン印刷法は、
マスクを介在させて前記塗布材料を前記基板上に滴下する工程と、
塗着手段によって前記塗布材料を前記基板に押圧しながら、前記基板と前記塗着手段とを相対移動させ、前記基板上に前記塗布材料からなる塗布膜を形成する工程と、
前記マスクを前記塗布膜から剥離する工程と、
を順に行うこと、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
前記マスクを前記塗布膜から剥離する工程は、
前記基板に対して前記マスクを傾けながら、前記マスクを前記塗布膜から剥離すること、
を特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
前記緩衝層形成工程は、前記塗布工程と前記熱硬化工程との間に消泡工程を有し、
当該消泡工程は前記塗布工程よりも高い圧力の不活性ガス雰囲気において行うこと、
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
前記緩衝層形成工程は、
前記緩衝層の平面パターンの周縁部を波形状に形成すること、
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項8】
前記緩衝層形成工程において、
前記塗布材料は、分子量3000以下のエポキシ系のモノマー/オリゴマー材料を有し、前記熱硬化工程により前記塗布材料をエステル結合によって硬化させて前記緩衝層を形成することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項9】
前記塗布材料の室温粘度は、500〜20000mPa・sの範囲であること、
を特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項10】
前記塗布材料の室温粘度は、1000〜10000mPa・sの範囲であること、
を特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項11】
前記緩衝層と前記ガスバリア層との間に、前記緩衝層よりも酸素原子量が多い有機密着層を形成する工程を含むこと、
を特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項12】
前記緩衝層の側面端部の角度が、30°以下で形成されていること、
を特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項13】
前記第2電極と前記緩衝層との間に、電極保護層を形成する工程を含むこと、
を特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項14】
前記電極保護層は、珪素酸窒化膜であり、
前記緩衝層は、エポキシ系化合物とシランカップリング剤を含むこと、
を特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項15】
前記ガスバリア層の膜厚は、300〜700nmの範囲であること、
を特徴とする請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項16】
基板上に、複数の第1電極と、前記第1電極の形成位置に対応して配置される発光機能層と、前記発光機能層を覆う第2電極と、を有する有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第2電極を覆うように形成された緩衝層と、当該緩衝層を覆うガスバリア層と、を有し、
請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の製造方法を利用して、製造されたこと、
を特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項17】
前記緩衝層の平面パターンの周縁部は、波形状に形成されていること、
を特徴とする請求項16に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−147528(P2006−147528A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209534(P2005−209534)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】