説明

有機カーボネートの製造方法

尿素、置換された尿素、カルバミド酸の塩もしくはエステル、またはそれらのN−置換誘導体の塩もしくはエステルを、第一段階で、一般式(I)
【化1】


[式中、Rは2〜12個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分枝状アルキレン基を意味し、そしてnは(2)〜(20)の数を意味する]
のポリアルキレングリコール、ポリエステル−ポリオールもしくはポリエーテル−ポリオール中、あるいは一般式(II)[式中、R’は1〜12個の炭素原子をもつアルキル、アリールもしくはアシル基を意味し、p及びqは1〜20の数を意味する]の完全にもしくは部分的に加水分解されたポリビニルアルコール中、あるいはこれらの化合物が溶解されている混合物中で、アンモニア解裂を促す触媒の存在下に反応させてカーボネート及びカルバメートを含有する混合物に転化し、その際遊離されるアンモニアもしくはアミンをストリップガスにより反応混合物から除去し、そして第二の反応段階(エステル交換反応)にて、カーボネート及びカルバメートを含有する上記混合物を、モノマー性カーボネートの生成の下に及び式(I)もしくは(II)のポリマー性ポリアルコールの再生成の下に、モノマー性アルコールもしくはフェノール類と反応させることを含む、モノマー性有機カーボネートの製造方法が記載される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、有機カーボネートの二段階製造方法である。
【背景技術】
【0002】
ジメチルカーボネート及びジフェニルカーボネートは、数多くの応用範囲に使用される化学工業の中間生成物である。例えば、ジメチルカーボネートは芳香族ポリカーボネートの原料である。ジメチルカーボネートはフェノールでジフェニルカーボネートにエステル交換され、また、溶融重合においては、ビスフェノールで芳香族ポリカーボネートに転化される(Daniele Delledonne; Franco Rivetti; Ugo Romano: "Developments in the production and application of dimethylcarbonate"(ジメチルカーボネートの製造及び使用における発展) Applied Catalysis A: General 221 (2001) 241-251)。ジメチルカーボネートは、ガソリンのオクタン価の向上に使用することができ、また、MTBEなどの環境上問題のある添加剤の代わりに用いられている(Michael A. Pacheco; Christopher L. Marshall: "Review of Dimethyl Carbonate (DMC) Manufacture and It's Characteristics as a Fuel Additive"(ジメチルカーボネート(DMC)製造のレビュー及びそれらの燃料添加剤としての特性) Energy & Fuels 11 (1997)2-29)。この場合、易生物分解性、無毒性及びガソリン中の添加剤としての良好な応用可能性が特に注目されるべきである。ジメチルカーボネートは化学合成において様々な用途を有する。90℃のそれの沸点以下の温度では、ジメチルカーボネートはメトキシル化剤として使用することができる。160℃ほどのより高い温度では、ジメチルカーボネートはメチル化剤として使用することができる(Pietro Tundi; Maurizio Selva: "The Chemistry of Dimethyl Carbonate"(ジメチルカーボネートのケミストリー) Acc. Chem. Res. 35(2002) 706-716)。
【0003】
1980年頃までのジメチルカーボネートの慣用の製造方法は、メタノールを用いたホスゲンのアルコール分解であった((US2,379,740, Pittsburgh Plate Glass Company 1941)または(Kirk-Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 3rd Edition, Volume 4, 758))。しかし、ホスゲンの毒性及び腐食性の塩化水素の発生は、環境保護を意識した大規模な商業的使用の妨げとなっている。
【0004】
現在のところ主に使用されている方法は、塩化銅触媒上でメタノールを一酸化炭素及び酸素と反応させる方法である。この方法は、US5,210,269(Enichem, 1993)に記載されている。この酸化的カルボニル化は、銅メトキシクロライドを介して進行し、次いで一酸化炭素との反応によりジメチルカーボネートを与える。この方法の主な問題は、水による触媒の失活である。失活した触媒は費用をかけて再生しなければならないか、または反応器中の水分を低く抑えなければならない。
【0005】
上記酸化的カルボニル化の変法の一つは、亜硝酸メチル上で行う二段階反応である。予備反応器中で、メタノール、一酸化窒素及び酸素から亜硝酸メチルが合成される。この際、水が副生成物として生ずる。この水を除去した後、ガス状の亜硝酸メチルを、固定床反応器において塩化パラジウム触媒上でCOと反応させてジメチルカーボネートとする。この際発生したNOは循環される。この方法は、腐食性の一酸化窒素の扱いが危険であるという欠点を有する。
【0006】
ジメチルカーボネートの製造のための更に別の可能性の一つは、環状カーボネートとメタノールとのエステル交換である。原料としてエチレンカーボネートもしくはプロピレンカーボネートを用いる方法が知られている(US4,734,518 Texaco 1988; US4,691,041 Texaco 1987)。環状カーボネートから出発して、これをメタノールとエステル交換することによって、ジメチルカーボネートが合成され、同時にその都度1モルの対応するジオールも合成される。上記アルキレンカーボネートは簡単に製造することができる。この方法の欠点は、ジメチルカーボネートの製造においてジオールが同時に生成することである。
【0007】
メタノールを用いた尿素の直接的アルコール分解は、ジメチルカーボネートの製造のための更に別の可能性の一つである。この合成は、カルバメート酸メチルエステルを介して二段階で進行してジメチルカーボネートを与える。反応速度は、生成したアンモニアによって強く抑制される。それゆえ、合成の改良のために、発生したアンモニアを除くための化学的及び物理的方法が提案された。
【0008】
また、生じたアンモニアをBF3により沈殿させることも成功裏に行われたが(US2,834,799; 1958)、生ずる塩負荷量から見て不経済である。
【0009】
二段階目で不活性ガスを加えることによってアンモニアを除去する方法(US4,436,668; BASF1984)は、これまでは、不十分な転化率及び選択性しか与えなかった。その方法を改良するために、メタノールによって反応の場で生成される、触媒反応体であるジアルキル−イソシアナト−アルコキシスズを用いる第二段階が使用された(US5,565,603; Exxon 1996; US5,561,094; Exxon 1996)。しかし、上記触媒反応体の用意及び後処理が欠点として挙げられ得る。
【0010】
直接的合成法に対する代替法の一つは、環状カーボネートの使用である(US5,489,702; Mitsubishi Gas Chemical 1996; US5,349,077; Mitsubishi Gas Chemical 1994)。この方法では、一段階目においてジオールを尿素と反応させ、そして環原子数が5もしくは6の環状アルキレンカーボネートが合成される。二段階目において、上記アルキレンカーボネートをメタノールでエステル交換する。ジオールは次いで循環することができる。
【0011】
アルコール分解の際に製造される中間生成物は、ジメチルカーボネートを生成物として得るために、次いでメタノールでエステル交換しなければならない。このエステル交換は触媒反応である。不均一系触媒として、塩基性アルカリ金属及びアルカリ土類金属もしくは酸化物が使用される。ゼオライト中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の例は、ExxonのUS6,365,767に、金属酸化物の例はMobil oilのUS6,207,850に記載されている。均一系もしくは不均一系触媒を装填した向流式固定床管状反応器中でエチレンカーボネートもしくはプロピレンカーボネートをアルコールでエステル交換する方法(US5,231,212; Bayer 1993; US5,359,188; Bayer 1994)、並びに二官能性触媒上で次いでエステル交換を行うことを含むエポキシドを介した合成法の方法特許(US5,218,135; Bayer 1993)も既に知られている。反応的蒸留において環状カーボネートをアルコールでエステル交換することも開示されている(US6,346,638; Asahi Kasei Kabushiki Kaisha 2002)。ジメチルカーボネートの吸収のための相として炭化水素もしくはベンジンを使用し、他方、アルコールの吸収のためのアルキレンカーボネートからなる極性相を使用する反応的抽出法が、US5,489,703から知られている。
【0012】
これらの原理的には可能な合成方法のほんの一部のものしか、技術的及び経済的な実現化には有望ではない。ジメチルカーボーネートの需要は多く、そのため、必要な原料が十分な量で安価に入手できる方法のみしか考慮の対象にならない。それゆえ、近年、有機カーボネート、特にジメチルカーボネートの製造を技術的に尿素及びメタノールに基づいて行うことについて精力的に研究された。多数の開発にもかかわらず、これまでに開示された方法は部分的にかなりの欠点を有し、その結果、DMCなどの有機カーボネートの獲得のための優れた技術経路はまだない。
【0013】
これまでに開示された方法では以下の点が不利と判明した:
・尿素とメタノールとの反応はカルバメートの中間段階を経由して進行する。
・反応中にアンモニアが解裂し、このアンモニアを除去しなければならない。
・アンモニアの解裂が不十分なため、反応がわずかな転化度までしか進行しない。
・アンモニアは、原則的に、反応混合物から様々な方法により除去し得るが、従来技術で既知の方法では、廃棄物処理しなければならない固形物が形成されるか、または使用したメタノールの大部分が一緒に排出される。
・多量のメタノールを循環しなければならない。
・DMCのために開発された方法は、そのままでは他のカーボネートの合成にまで拡大使用することができない。
【特許文献1】米国特許第2,379,740号明細書
【特許文献2】米国特許第5,210,269号明細書
【特許文献3】米国特許第4,734,518号明細書
【特許文献4】米国特許第4,691,041号明細書
【特許文献5】米国特許第2,834,799号明細書
【特許文献6】米国特許第4,436,668号明細書
【特許文献7】米国特許第5,565,603号明細書
【特許文献8】米国特許第5,561,094号明細書
【特許文献9】米国特許第5,489,702号明細書
【特許文献10】米国特許第5,349,077号明細書
【特許文献11】米国特許第6,365,767号明細書
【特許文献12】米国特許第6,207,850号明細書
【特許文献13】米国特許第5,231,212号明細書
【特許文献14】米国特許第5,359,188号明細書
【特許文献15】米国特許第5,218,135号明細書
【特許文献16】米国特許第6,346,638号明細書
【特許文献17】米国特許第5,489,703号明細書
【非特許文献1】Daniele Delledonne; Franco Rivetti; Ugo Romano: "Developments in the production and application of dimethylcarbonate" Applied Catalysis A: General 221 (2001) 241-251
【非特許文献2】Michael A. Pacheco; Christopher L. Marshall: "Review of Dimethyl Carbonate (DMC) Manufacture and It's Characteristics as a Fuel Additive" Energy & Fuels 11 (1997)2-29
【非特許文献3】Pietro Tundi; Maurizio Selva: "The Chemistry of Dimethyl Carbonate" Acc. Chem. Res. 35(2002) 706-716
【非特許文献4】Kirk-Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology, 3rd Edition, Volume 4, 758
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上で挙げられた欠点が存在することなく、ジメチルカーボネート及び他の有機カーボネートの合成を可能にする方法が有利であろう。同時に、新規方法により、ジメチルカーボネート合成に必要な中間生成物ができる限り高い沸点を有し、その結果、アンモニアの必要な除去に際してそれらが一緒に除去されないことが望ましいであろう。また、一方では尿素に対する向上された溶解性を達成しそして他方では沸騰性状に有利な影響を及ぼすために、中間生成物の製造のための補助物質として純粋な物質を必要とするのではなく、混合物の使用を許容し得る方法を提供することは特に有利であろう。更に、そのために使用される補助物質が環境に害を与えないことも有利であろう。
【0015】
本明細書に記載の有機カーボネートの新規製造法を用いることによって、これらの目的を達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
それ故、本発明の対象は、有機カーボネートの製造方法であって、尿素、置換された尿素、カルバミド酸の塩もしくはエステル、またはそれのN−置換誘導体(アルキル基、アリール基、例えばメチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基置換)の塩もしくはエステルを、
・第一段階において、ポリマー性多官能性アルコール、例えば次の一般式I
【0017】
【化1】

【0018】
[式中、Rは2ないし12個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分枝状アルキレン基を意味し、そしてnは2〜20の数を意味する]
で表されるポリアルキレングリコール、ポリエステル−ポリオールまたはポリエーテル−ポリオールと、
あるいは次の一般式II
【0019】
【化2】

【0020】
[式中、R’は1〜12個の炭素原子をもつアルキル、アリールもしくはアシル基を意味し、そしてp及びqは1〜20の数を意味する]
で表される完全にもしくは部分的に加水分解されたポリビニルアルコールと、
あるいはこれらの化合物が溶解されている混合物中で、アンモニアの解裂を促す触媒無しでまたはこのような触媒の存在下に反応させて、カーボネート及びカルバメートを含む混合物に転化し、そしてこの際遊離したアンモニアまたはアミンを、ストリップガス及び/または蒸気及び/または減圧によって反応混合物から除去し、そして
・第二段階(エステル交換)において、ポリマー性アルコールのカーボネート及びカルバメートを含む上記混合物を、アルコールまたはフェノール類と、それらのカーボネートの生成及び上記式IもしくはIIのポリマー性ポリアルコールの再生成を伴いながら反応させる、上記方法である。
【0021】
これまでは、中間生成物としてのカルバメートの製造のためには、技術水準に従いモノマー性グリコール及びモノマー性ジオールが尿素と共に使用されている(Michael A. Pacheco; Christopher L. Marshall: "Review of Dimethyl Carbonate (DMC) Manufacture and it's Characteristics as a Fuel Additive" (ジメチルカーボネート(DMC)製造のレビュー及びそれらの燃料添加剤としての特性) Energy & Fuels 11 (1997) 2-29)。これは、それらからアルコールのカーボネートを生成するために、第一段階目で行われる。
【0022】
驚くべきことに、ポリマー性アルコール(ポリオール)を使用することが、従来技術に比して一連の重要な利点を有することがここに見出された。
・ポリマー性アルコール並びにそれから生成されるカーボネート及びカルバメートは、これまでの従来技術で記載されたモノアルコール、ジオール及びそれらから生成されるカーボネート及びカルバメートよりもかなりより高い沸点を有する。その結果、反応の際に生ずるアンモニアをストリッピングまたは減圧によって除去する際に、上記の高沸点のアルコール及びカルバメートもしくはカルバメートの損失は最小限としながらも、迅速で完全な転化が達成される。これは、従来技術において知られる方法を使用した場合には可能ではない。なぜならば、ストリッピングの際に、そこで使用されたアルコール及びグリコールカーボネートもしくはジオールカーボネートの多くも、反応混合物から一緒に追い出されるからである。
・ポリマー性アルコールは、それらの水に類似の極性の構造に基づき、従来使用された長鎖モノアルコールもしくはジオールと比べて、尿素、置換された尿素、カルバミド酸の塩及びエステル並びにそれらのN−置換誘導体に対してより高い溶解性を有し、その結果、より均質な溶液の状態で反応を行うことができる。鎖長n及び付随基Rの大きさを変更することによって、溶解性及び同時に混合物の沸点を目的通りに調節することができる。更に、同等の長さのモノアルコールもしくはジオールが既に固体である温度においても、ポリマー性ポリアルコールはなお流動性である。
・更に、該補助物質は調節可能な粘度を有し、腐食性は殆どなく、それ故に循環稼働法に特に適している。また、これらは有毒ではないため環境に害を与えない。
・ポリマー性アルコールは、従来使用された物質よりも、明らかにより高い化学的、熱的及び機械的安定性を有する。このことは、分解(Zersetzungs-)もしくは熱分解(thermichen Crack)プロセスを起因とするポリマー性アルコールの損失が最小であるため、第二段階における再生成後のこれらのアルコールを循環(循環稼働法)するに当たって非常に有利である。
・ポリマー性アルコールは、純粋な補助物質と比べて技術的に取り扱いが困難な多成分混合物であるため、上記中間生成物を生成させる目的でポリマー性アルコールを使用することは通常は考えつかないであろう。ポリマー性アルコールを使用する場合に生ずる多成分混合物は、たいてい、次の加工処理を困難なものとする。しかし、ポリマー性アルコールを使用することによって、取り扱い上の技術的な利点を今や達成することができる。なぜならば、生ずる多成分混合物を処理する必要は全くなく、不利益を被ることなく第二段階(エステル交換)に直接供給できることが図らずしも見出されたためである。またなぜならば、低級アルコールまたはフェノール類とのエステル交換において、最初に存在するポリマー性アルコールの全てが、丁度慣用のモノアルコールもしくはジオールのように、完全に再生するからである。これらは、次いで第一段階に再び供給することができる(循環稼働法)。
【0023】
有機カーボネートの製造方法の有利な態様の一つを図1に示す。
【0024】
本発明の方法の重要な特徴は次の点にある。
・一つの段階で、尿素、置換された尿素、カルバミド酸の塩及びエステル並びにこれらのN−置換誘導体をポリマー性アルコールと反応させて高沸点カーボネートを得ること。
・アルコール、カーボネート及びカルバメートの損失は最小限としながら、反応の際に生ずるアンモニアを同時に除去(ガス及び/または蒸気を用いるかあるいは減圧の適用による除去)することによって達成される高い転化率及び収率。
・第一段階の反応が触媒を必要としない。しかし、塩基性触媒の使用により、反応速度を更に高めることができる。
・第一段階からの高沸点カーボネートの簡単なエステル交換反応によって、第二段階において所望のカーボネートが得られる。
・補助物質として使用したポリマー性アルコールは、費用のかかる処理を必要とすることなく循環される。
・ジメチルカーボネートのみならず、2〜10個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分枝状の脂肪族アルコールのカーボネートの製造にも使用し得る可変の方法である。
・同様に、該方法は、該中間生成物の沸点が高くそしてその沸点は、エステル交換反応で使用されるアルコールもしくはフェノールの沸点と大きく異なるため、ジフェニルカーボネートの製造にのみならず、炭素原子数1〜4のアルキル基を有する置換フェノール類のカーボネートの製造にも使用し得る。それにより、広範な温度領域で目的のカーボネート及び再生された補助物質のより良好な分離が可能である。
【0025】
本明細書に記載の有機カーボネートの新規製造方法の効果は、いくつかの実施例に基づいて明らかとなろう。
【0026】
本発明の方法は、二つの段階において10℃〜270℃の温度で有利に行われる。第一段階においては、常圧下に及び生成したアンモニアの除去に適したガスもしくは蒸気の計量添加の下に、触媒の存在下に行われる。このためには、周期律表の第1及び第2主族または第1〜8の亜族のアルカリ反応性の塩、酸化物、水酸化物、アルコレート; または塩基性ゼオライトもしくはポリマー性イオン交換体が触媒として適している。例としてはマグネシウムもしくは亜鉛触媒が挙げられ、これらは酸化物としても酢酸塩としても触媒として有効に使用することができる。重要な影響因子の一つは、ガス、蒸気もしくは減圧でのストリッピングによるアンモニアの除去である。
【0027】
第二段階は、アルコールまたはフェノール類でのカーボネートまたはカルバメートのエステル交換反応を含んでなり、そしてこの段階は、第一段階と同じ塩基性触媒の存在下に行うことができる。第四級アンモニウム塩、例えば酢酸テトラブチルアンモニウムもしくは臭化テトラブチルアンモニウム、またはマグネシウムアルコレートの使用が特に有利であることが判明した。上記エステル交換は、平衡の位置がどちらかと言えば原料の側にある平衡反応であるため、反応と物質の分離とを同時に行うことが有意義である。10℃〜270℃の温度が、該段階における比較的迅速な反応を可能にする。
【0028】
本発明を、以下の実験によって、詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
実験の構成及び実施
ポリマー性アルコールに溶解した尿素の反応のための実験は、全て、加熱ジャケット、ガス導入設備及び還流冷却器付きの150mlのガラス製二重壁反応器中で行った。還流冷却器への流入前の液滴分離器が同伴液体の放出を阻止した。ストリップガスとして窒素を使用した。減圧は、接続したダイアフラム・ポンプを用いて使用することができる。サンプルは断続的に採取した。
ポリエチレングリコールを用いた検証
ポリエチレングリコールは、それが一連の興味深い特性を示すために反応体として適している。尿素とこの二価アルコールの反応からは原則として2種の生成物が生じ得る。これらの両長鎖カーボネートは次のものである:
【0030】
【化3】

【0031】
どちらのカーボネートも、第二段階において所望の生成物を得るためにメタノールとエステル交換するのに適している。検証によると、環状カーボネートを与える反応の方が可能性が高い。なぜならばこの反応は尿素1モル:ポリエチレングリコール1モルの比率で進行するからである。どちらの場合でも、中間生成物としてカルバメートが観察され得る:
【0032】
【化4】

【0033】
様々な触媒の利用
特許文献に挙げられる触媒は一連の金属酸化物を包含する。本発明に従い行われる実験では、粉末状の酸化物及び酢酸塩を使用した。それらは5〜25重量%の質量比で使用した。二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム及び酢酸マグネシウムを、可能な触媒として試験した。
【0034】
その際、これらの様々な触媒について反応経過にわずかな差異のみが示された。反応速度も150℃では非常に遅く、そして16時間経過後でさえ反応の終了は観察されなかった。反応の加速は、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛ではその程度はほぼ同じであった。これらの化合物はチタン化合物よりも明らかにより良好な触媒活性を示した。
【0035】
触媒量を増加することについても検証したが、期待されたような差異は反応速度に生じなかった。150℃では、6gもしくは20gの酢酸マグネシウムを用いた実験の間では事実上差異は認められなかった。また、より高温の200℃では、初めのうちは比較的速い生成物の発生があったが、その後は得られる生成物の量に大きな差異は認められなかった。
様々な温度の使用
ポリエチレングリコールと尿素との反応についての予備実験は、約140℃未満では事実上反応が観察されないことを示した。それ故、最低の実験温度として150℃を選んだ。二酸化チタンを用いた実験では、アンモニアの除去のためにむしろより穏やかな窒素体積流量を利用した。温度を150℃から200℃に高めた際の反応温度の明らかな影響は、ポリエチレングリコールの経時的な濃度推移にわたって認められない。200℃では約5時間後にほぼ完全な転化が達成され、他方、150℃では生じた生成物量は非常に少ないものであることが示された。
減圧もしくはストリップガス(窒素)の使用
生成したアンモニアを減圧または窒素を用いたストリッピングによって反応混合物から除去することが、尿素とポリエチレングリコールとの反応のための主な影響パラメータとして確認された。減圧下での作業は、300mbarの圧力下で二つの試験で検証した。周囲圧下に生成したアンモニアの除去を行わない反応と比較して、転化挙動の顕著な改良を確かめることができた。反応混合物を窒素でガス処理した場合には、更に良好な結果が得られた。体積流量の変化は、尿素とポリエチレングリコールとの反応に対して明らかな影響を示した。
【0036】
次のポリマー性カーボネート及びカルバメートのエステル交換反応を、テトラアルキルアンモニウム塩もしくはマグネシウムメチラートの存在下で、メタノールもしくはフェノールを用いて行った。その際、反応生成物の後処理後に所望のカーボネートが得られる。
【0037】
本発明の方法によって、常圧、270℃までの温度及び5重量%までのアルカリ反応性の触媒の添加において、尿素もしくは尿素誘導体をポリエチレングリコールなどのポリマー性アルコールと反応させることによって、有機カーボネート及びカルバメートとポリマー性残部との混合物の中間段階を介して有機カーボネートを得ることができる。第一段階で得られる生成物は、専ら、対応するポリマー性アルコールの有機カーボネート及びカルバメートである。約5時間の反応時間で、90%を超える転化率が得られた。
【0038】
より高い転化率の達成のための重要な影響因子の一つはストリップガスの体積流量である。十分に大きい体積流量では、アンモニアの除去はもはや律速段階ではない。
【0039】
第一段階で生成されたカーボネートもしくはカルバメートとメタノールとの反応は、約140℃の温度において約6barの多少高められた圧力の使用の下で、塩基性触媒の使用下に比較的高速に進行する。バッチ式プロセスにおいて、1時間以内に平衡に達する。触媒としては、良好な触媒特性を示す第四級アンモニウム塩を使用した。更により速い反応速度は、マグネシウムメチラートの利用により得られた。
【0040】
本発明による上記二つの段階の組み合わせによって、補助アルコールとして使用されたポリマー性アルコールは、第一段階においてジメチルカーボネートもしくはジフェニルカーボネートを分離した後に返送される。該方法の循環での稼動により、ポリマー性補助アルコールの損失が減少する。それゆえ、本方法は極めて経済的な方法と評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による有機カーボネート、例えばDMCの製造手順の一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素、置換された尿素、カルバミド酸の塩もしくはエステル、またはそれらのN−置換誘導体の塩もしくはエステルを、
・第一段階で、ポリマー性多官能性アルコール、例えば次の一般式I
【化1】

[式中、Rは2〜12個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分枝状アルキレン基を意味し、そしてnは2〜20の数を意味する]
のポリアルキレングリコール、ポリエステル−ポリオールもしくはポリエーテル−ポリオールと、または
・次の一般式II
【化2】

[式中、R’は1〜12個の炭素原子をもつアルキル、アリールもしくはアシル基を意味し、p及びqは1〜20の数を意味する]
の完全にもしくは部分的に加水分解されたポリビニルアルコールと、
・または、これらの化合物が溶解されている混合物中、アンモニアの解裂を促す触媒無しでまたはこのような触媒の存在下で、反応させて、カーボネート及びカルバメートを含有する混合物に転化し、
そして、これと同時に、その際遊離するアンモニアまたはアミンを反応混合物からストリップガス及び/または蒸気及び/または減圧によって除去し、
かつ、第二段階(エステル交換反応)にて、上記ポリマー性アルコールのカーボネート及びカルバメートを含有する上記混合物を、アルコールまたはフェノール類と、それのカーボネートの生成及び上記式IまたはIIのポリマー性ポリアルコールの再生成を伴いながら反応させる、
ことを特徴とする、有機カーボネートの製造方法。
【請求項2】
第二段階で再生成される上記式IまたはIIのポリマー性ポリアルコールの全てまたは一部が第一段階に再び供給されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
どちらの段階も、10°〜270℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項4】
両段階において、周期律表のIa、Ib、IIa、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb、VIIIb族の元素のアルカリ反応性の塩、酸化物、水酸化物、アルコレート; または塩基性ゼオライト; ポリマー性イオン交換体もしくはテトラアルキルアンモニウム塩もしくはトリフェニルホスフィンもしくは第三級アミンが触媒として使用されることを特徴とする、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
第二段階において、メチルアルコール、及び/または2ないし10個の炭素原子をもつ直鎖状もしくは分枝状の脂肪族アルコール、及び/または5ないし10個の炭素原子をもつ環状アルコールもしくはフェノール、及び/または1ないし4個の炭素原子を有するアルキル基をもつ置換フェノールを使用し、及び/または6ないし20個の炭素原子を有する芳香族アルコール、及び/またはヘテロ原子を含有するアルコール、及び/またはこれらの物質の混合物を使用することを特徴とする、請求項1ないし4に記載のジメチルカーボネート及び/または他の有機カーボネートの製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−505052(P2007−505052A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525642(P2006−525642)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007911
【国際公開番号】WO2005/028414
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(503046552)ルルギ・アクチエンゲゼルシャフト (4)
【Fターム(参考)】