説明

有機スズ化合物、その製造方法およびそれを用いたポリラクチドの製造方法

本発明は、RO−Sn−OR(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。)で表される有機スズ化合物、その製造方法およびそれを用いたポリラクチドの製造方法に関するものであって、本発明にかかる有機スズ化合物は、その製造が容易であり、このような有機スズ化合物を用いてポリラクチドを製造する場合、別の開始剤を用いなくても、高収率で高分子量のポリラクチド樹脂を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機スズ化合物、その製造方法および前記有機スズ化合物を用いたポリラクチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スズ化合物(tin compound)は、スズ(tin)を含有する化合物で、有機スズ化合物(organotin compounds)、スズ酸塩(stannates)、スズ鉱物(tin minerals)のグループに分類することができる。
【0003】
前記有機スズ化合物のうち、テトラブチルスズ(tetrabutyltin)は、非常に安定した構造で、毒性および生物学的活性が低く、ジ−(di−)あるいはトリブチルスズ(tributyltin)の合成や触媒合成の出発物質として用いられており、トリブチルスズ酸化物(tributyltin oxide)は、木材防腐剤として用いられている。また、ビニル(vinyl)部分の炭素原子のうちの1個が窒素原子と結合された構造のビニル−スズ(vinyl−tin)化合物は、殺虫剤に用いられることが知られている(米国特許、第4,504,488号、1985年)。この他にも、トリフェニルスズアセテート(triphenyltin acetate)とトリフェニルスズクロライド(triphenyltin chloride)、トリフェニルスズヒドロキシド(triphenyltin hydroxide)は、殺虫剤および殺菌剤、カビ取り剤として(米国特許、第6,270,810号、2001年)、アゾシクロチン(azocyclotin)とシヘキサチン(cyhexatin)は、ダニおよびクモ駆虫剤に使用できることが開示(米国特許、第7,205,289号、2007年)されており、各種高分子樹脂の変色防止剤(米国特許、第4,701,486号、1987年)として用いられるなど、有機スズ化合物は様々な有用な用途に使用でき、新規な有機スズ化合物の開発のための研究が盛んに行われている。
【0004】
一方、ポリラクチド(あるいはポリ乳酸)樹脂は、下記一般式の繰り返し単位を含む樹脂の一種である。このようなポリラクチド樹脂は、既存の原油ベースの樹脂とは異なり、バイオマス(biomass)をベースとするため、再生資源の活用が可能になり、生産時に、既存の樹脂に比べて地球温暖化ガスのCOの排出が少なく、埋立時に水分および微生物により生分解されるなどの環境配慮属性と共に、既存の原油ベースの樹脂に準ずる適切な機械的強度を有する素材である。
【0005】
【化1】

【0006】
このようなポリラクチド樹脂は、主に使い捨て包装/容器、コーティング、発泡、フィルム/シートおよび繊維用途に用いられてきており、最近では、ポリラクチド樹脂を、ABS、ポリカーボネートまたはポリプロピレンなどの既存の樹脂と混合して、物性を補強した後、携帯電話の外装材または自動車内装材などの半永久的用途に用いるための努力が盛んになっている。しかし、ポリラクチド樹脂は、製造時に用いられた触媒や、空気中の水分などの因子により自体生分解されるなど、ポリラクチド自体の物性的弱点により、今のところはその応用範囲が限られているのが現状である。
【0007】
このような有用なポリラクチド樹脂を高収率で製造することができ、また、高分子量を有するポリラクチドの重合のための触媒の開発が至急である。本発明の発明者らは、ポリラクチド樹脂の重合のための触媒の開発に関する研究を重ねて、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許、第4,504,488号、1985年
【特許文献2】米国特許、第6,270,810号、2001年
【特許文献3】米国特許、第7,205,289号、2007年
【特許文献4】米国特許、第4,701,486号、1987年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、環状エステル(cyclic ester)化合物を開環重合する反応の触媒として使用可能な新規な有機スズ化合物、その製造方法およびそれを用いたポリラクチドの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記化1で表される有機スズ化合物を提供する。そして、本発明は、Sn(II)塩と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、下記化1で表される有機スズ化合物を形成する段階を含む有機スズ化合物の製造方法を提供する。
O−Sn−OR (化1)
上記化1において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。
【0011】
また、本発明は、Sn(II)塩と、炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物を形成する段階と、前記スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、上記化1で表される有機スズ化合物を形成する段階とを含む有機スズ化合物の製造方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、前記製造方法において、前記スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させる段階は、1段階以上の反応で行われる有機スズ化合物の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記化1で表される有機スズ化合物の触媒の存在下、ラクチド単量体を開環重合する段階を含むポリラクチド樹脂の製造方法を提供する。
【0014】
以下、発明の具体的な実現例による有機スズ化合物、その製造方法および有機スズ化合物を用いたポリラクチド樹脂の製造方法を提供する。
【0015】
本明細書全体において、特別な言及がない限り、「含む」とは、ある構成要素(または構成成分)を特別な制限なく含むことを指し示し、他の構成要素(または構成成分)の付加を除外するものと解釈されない。
【0016】
また、本明細書全体において、「環状エステル化合物」とは、環状炭化水素化合物にエステル(ester)基を少なくとも1種含む化合物を称する。さらに、本明細書全体において、「ラクチド(lactide)単量体」とは、次のとおり定義可能である。通常、ラクチドは、L−乳酸からなるL−ラクチドと、D−乳酸からなるD−ラクチドと、L−形態とD−形態がそれぞれ1種ずつからなるmeso−ラクチドとに区分される。さらに、L−ラクチドとD−ラクチドが50:50で混合されているものを、D,L−ラクチドあるいはrac−ラクチドという。これらのラクチドのうち、光学的純度の高いL−ラクチドあるいはD−ラクチドのみを用いて重合を行うと、立体規則性が非常に高いL−あるいはD−ポリラクチド(PLLAあるいはPDLA)が得られることが知られており、このようなポリラクチドは、光学的純度の低いポリラクチド対比の結晶化速度が速く、結晶化度も高いことが知られている。ただし、本明細書において、「ラクチド単量体」とは、各形態に応じたラクチドの特性差およびこれより形成されたポリラクチドの特性差に関係なくあらゆる形態のラクチドを含むものと定義される。
【0017】
そして、本明細書全体において、「ポリラクチド樹脂」とは、下記一般式の繰り返し単位を含む単一重合体または共重合体を包括的に称するものと定義される。このような「ポリラクチド樹脂」は、上述した「ラクチド単量体」の開環重合により下記の繰り返し単位を形成する段階を含んで製造可能であり、このような開環重合および下記の繰り返し単位の形成工程が完了した後の重合体を、前記「ポリラクチド樹脂」と称することができる。この時、「ラクチド単量体」の範疇にはあらゆる形態のラクチドが含まれることは、上述したとおりである。
【0018】
【化2】

【0019】
前記「ポリラクチド樹脂」と称することのできる重合体の範疇には、前記開環重合および繰り返し単位の形成工程が完了した後のすべての状態の重合体、例えば、前記開環重合が完了した後の未精製または精製された状態の重合体、製品成形前の液状または固状の樹脂組成物に含まれている重合体、または製品成形が完了したプラスチックまたは織物などに含まれている重合体などがすべて含まれる。したがって、本明細書全体において、「ポリラクチド樹脂」の物性(酸度、重量平均分子量または残留触媒量など)は、前記開環重合および繰り返し単位の形成工程が完了した後の任意の状態を呈する重合体の物性と定義可能である。
【0020】
また、本明細書全体において、「ポリラクチド樹脂組成物」とは、前記「ポリラクチド樹脂」を含むかこれより製造されるもので、製品成形前または製品成形後の任意の組成物を称するものと定義される。このような「ポリラクチド樹脂組成物」と称することのできる組成物の範疇には、製品成形前のマスターバッチまたはペレットなどの状態を呈する液状または固状の樹脂組成物のみならず、製品成形後のプラスチックまたは織物などもすべて包括される。
【0021】
一方、本発明者らは、製造が容易でありながらも、環状エステル(cyclic ester)の開環重合反応の触媒として使用可能な新規な有機スズ化合物の合成に関する研究を重ねて、本発明に至った。
【0022】
発明の一実現例による有機スズ化合物は、下記化1で表される構造を有する。
O−Sn−OR (化1)
【0023】
上記化1において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。
【0024】
一方、有機スズ化合物が高分子重合用触媒として用いられる場合には、一般的に別の開始剤と共に使用され、前記開始剤により触媒が活性化した状態で重合反応に加わり、反応速度を促進することになる。したがって、触媒自体が活性化した状態で存在する場合には、重合反応時に別の開始剤を用いなくてもよく、また、触媒の活性化のための初期時間を必要とせず、より速い初期重合速度も期待することができる。
【0025】
上述したように、本発明の上記実現例による有機スズ化合物は、後述する実施例から明らかなように、ラクチド単量体の開環反応によるポリラクチド樹脂の重合反応において、別の開始剤を用いなくても重合反応の収率を高くし、これにより、重合された高分子重合体の分子量も高くなる。
【0026】
特に、上述した実現例による有機スズ化合物は、炭素数5〜30のアルコキシ基を含むが、炭素数が少なくとも5以上となる場合には、アルキル基の疎水性と有機スズ化合物の対称構造による無極性特性により、様々な有機溶媒に対する溶解度が比較的高くなり得る。また、前記有機スズ化合物は、アルコキシ形態で、別の開始剤がなくても重合反応が可能になり、特に、化合物合成後、有機スズ化合物が2配位〜4配位の形態で存在する時、炭素数が増加するほど、立体障害(steric hindrance)現象により、活性種形態の−OR置換基が外部にさらされている形態の構造が増加する点で、炭素数5未満のスズ(II)アルコキシドを重合触媒として用いる場合に比べて重合収率が高くなり、重合される高分子の分子量も大きくなる。
【0027】
したがって、上記実現例による新規な有機スズ化合物は、環状エステル(cyclic ester)を開環重合して樹脂を製造する反応における触媒として使用できる。
【0028】
上記化1で表される有機スズ化合物において、前記RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次または第三次アルキル基であれば、その構成に限定なく使用できる。好ましくは、製造の容易性などを考慮して、上記化1において、前記RおよびRは同一で、C13、C17、またはC1225であってよい。つまり、具体的には、有機スズ化合物は、Sn(O(CHCH[スズ(II)ヘキソキシド(tin(II) hexoxide)]、Sn(O(CHCH[スズ(II)オクトキシド(tin(II) octoxide)]、Sn(O(CH11CH[スズ(II)ドデコキシド(tin(II) dodecoxide)]であってよい。
【0029】
また、前記有機スズ化合物は、上述したように、環状エステル(cyclic ester)化合物を開環重合する反応の触媒として使用できるが、この時、環状エステル化合物は、定義したとおり、少なくとも1種のエステル(ester)基を含む環状炭化水素化合物で、その構成に限定はない。
【0030】
具体例として、下記化IおよびIIで表される化合物群から選択できる。
【化3】

【化4】

【0031】
ただし、上記化IおよびIIにおいて、R、R、RおよびRは、互いに同一でもそれぞれ異なっていてもよく、水素、炭素数1〜12の直鎖または分鎖アルキル、アルケニル、またはアルキニルである。
【0032】
この時、前記R、R、RおよびRは独立して、ハロゲン(halogen)、ヒドロキシ基(hydroxyl)、ホルミル基(formyl group)、アシル基(acyl group)、カルボキシル基(carboxylic group)、およびアミノ基(amino group)からなる群より選択される置換基でさらに置換されていてもよい。ただし、化IIにおいて、前記nは2〜12の自然数である。
【0033】
より具体的には、カプロラクトン(caprolactone)、ラクチド(lactide)、またはグリコリド(glycolide)のような環状エステル化合物であってよいが、これらの例に限定されない。
【0034】
好ましくは、上記実現例による有機スズ化合物は、ラクチド単量体を開環重合してポリラクチド樹脂を製造する反応の触媒として使用することができる。本発明者らは、上記実現例による有機スズ化合物をラクチド単量体を開環重合してポリラクチド樹脂を製造する反応に用いる場合、従来使用されていた有機スズ化合物触媒に比べて重合収率が高くなることを確認した。
【0035】
つまり、公知のラクチドの開環重合に用いられている代表的なルイス酸触媒のスズ(II)2−エチルヘキサノエート(tin(II)2−ethylhexanoate)(以下、Sn−(Oct))触媒の存在下での重合反応時、水分およびアルコール、酸などによる鎖交換(chain transfer)反応が起こるが、酸により鎖交換(chain transfer)反応が起こると、重合反応が中断されたり、活性化した触媒がSn−(Oct)の非活性化形態に戻るという問題があった。したがって、重合されるポリラクチドの分子量が小さくなり、重合反応速度が遅くなるという問題が発生していた。
【0036】
したがって、このようなSn−(Oct)触媒によりラクチドの開環重合反応を適用する場合、解重合などにより十分に大きい分子量を有するポリラクチド樹脂を高収率で提供することが困難になり、さらには、ポリラクチド樹脂の使用中にも残留モノマーまたは触媒などによるポリラクチド樹脂の分解が生じ、耐加水分解性または耐熱性などが十分でなかった。
【0037】
一方、上述した本発明の実現例による有機スズ化合物を、ラクチド開環重合反応の触媒として用いる場合、従来公知の触媒に比べて重合収率が高くなるだけでなく、最終的に生成されるポリラクチド樹脂の分子量も高くなることが分かった。
【0038】
一方、本発明は、他の実現例により、前記有機スズ化合物の製造方法を提供する。
発明の一実現例による有機スズ化合物の製造方法は、Sn(II)塩と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、下記化1で表される有機スズ化合物を形成する段階を含む。
O−Sn−OR (化1)
【0039】
上記化1において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。
【0040】
また、本発明の他の実現例による有機スズ化合物の製造方法は、Sn(II)塩と、炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物を形成する段階と、前記スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、下記化1で表される有機スズ化合物を形成する段階とを含む。
O−Sn−OR (化1)
【0041】
上記化1において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。
上記のように、Sn(II)塩と、炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物を形成した後、アルコールを反応させ、有機スズ化合物を形成する反応の場合、有機スズ化合物の形成効率が高くなる。好ましくは、前記Sn(II)塩と反応する炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールは、容易に入手可能なメタノール、ブタノール、またはプロパノールであってよいが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0042】
また、上述した実現例のように、スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物を形成した後、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールを反応させる段階は、1段階以上で行われてもよい。
【0043】
例えば、Sn(II)塩と、炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、形成されたスズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物(第一次中間生成物)を形成した後、このようなスズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させると、反応するアルコールの炭素数に応じて様々なスズ(II)アルコキシドの中間生成物(第二次中間生成物)が生成できる。このようなスズ(II)アルコキシドの中間生成物(第二次中間生成物)を再度アルコールと反応させ、スズ(II)アルコキシドの中間生成物(第三次中間生成物)を生成することもできる。
【0044】
一方、このように多段で反応するアルコールの炭素数に応じて様々なスズ(II)アルコキシドの中間生成物が生成でき、最終的な反応段階において、所望の炭素数を有する上記化1で表される有機スズ化合物を生成するために、最終的な段階では、反応するアルコールの炭素数を合わせる必要がある。つまり、最終目的の有機スズ化合物が、上記化1において、RおよびRが炭素数10のアルキル基で表される有機スズ化合物の場合、最終アルコールとの反応段階において、炭素数10の第一次、第二次、または第三次アルコールと、スズ(II)アルコキシドの中間生成物とを反応させることができ、最終目的の有機スズ化合物が、上記化1において、RおよびRが炭素数15のアルキル基で表される化合物の場合、最終アルコールとの反応段階において、炭素数15の第一次、第二次、または第三次アルコールと、スズ(II)アルコキシドの中間生成物とを反応させることができる。
【0045】
一方、上述した実現例による有機スズ化合物の製造方法において、前記Sn(II)塩は、構成に限定なく選択できる。具体的には、SnCl、SnBr、SnI、またはSnSOなどを挙げることができるが、これらの例に限定されるものではない。
【0046】
一方、上述した実現例による有機スズ化合物の製造方法において、Sn(II)塩と、炭素数5〜30の第一次、第二次または第三次アルコールとを反応させる段階、またはSn(II)塩と、炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物を形成する段階は、塩基の存在下で実施できる。このような塩基の存在下、Sn(II)塩と、炭素数5〜30の第一次、第二次または第三次アルコールとを直接反応させるか、塩基の存在下、Sn(II)塩と、炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させる場合、室温で数分内に進行する急速な反応を誘導することができ、反応効率が高くなり、得られたスズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物と余分な塩基、または得られた最終目的化合物の有機スズ化合物と余分な塩基を容易に真空で分離および除去することができる。この時、使用可能な塩基は、その構成に限定はないが、トリエチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、トリブチルアミン、およびアンモニアからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0047】
一方、上述した実現例において、塩基の存在下、Sn(II)塩と、炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、スズ(II)アルコキシド(tin(II) alkoxide)の中間生成物を形成するか、Sn(II)塩と、炭素数5〜30の第一次、第二次または第三次アルコールとを直接反応させ、上記化1で表される有機スズ化合物を製造する反応段階において、使用される塩基の量は、その構成に限定はないが、反応速度の加速化および反応効率の向上、経済的な面のために、好ましくは、Sn(II)塩1モルに対して2〜10モルを用いることができ、より好ましくは、Sn(II)塩1モルに対して2〜5モル、最も好ましくは、Sn(II)塩1モルに対して2.2〜2.5モルを用いることができる。
【0048】
上述した2つの実現例による有機スズ化合物の製造方法のうち、Sn(II)塩を、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールと直接反応させ、上記化1で表される有機スズ化合物を製造する方法は、Sn(II)塩を、スズ(II)アルコキシドの中間生成物として形成する段階を経ることなく、直接的に置換を望む炭素数を有するアルコール溶媒下で反応させて合成することができ、最終形成物において、目的の有機スズ化合物のほか、スズ(II)アルコキシドの中間生成物が微量でも含まれることを排除することができる。
【0049】
そして、このような方法により、Sn(II)塩とアルコールとを直接反応させ、1段階の反応で最終目的の有機スズ化合物を製造する場合、反応物は、例えば、最終目的の有機スズ化合物がスズ(II)ヘキソシドの場合にSn(II)塩と1−ヘキサノールとを、最終目的の有機スズ化合物がスズ(II)オクトキシドの場合にSn(II)塩と1−オクタノールとを、最終目的の有機スズ化合物がスズ(II)ドデコキシドの場合にSn(II)塩と1−ドデカノールとをそれぞれ反応に用いることができる。
【0050】
このように、Sn(II)塩と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを直接反応させ、上記化1で表される有機スズ化合物を製造する方法は、後者のスズ(II)アルコキシドの中間生成物を経る方法と比較して、反応段階の短縮による反応効率および経済性の向上という利点がある。
【0051】
一方、上述した実現例において、Sn(II)塩と直接反応するか、スズ(II)アルコキシドの中間生成物と反応する炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールの種類の応じて形成される、上記化1で表される有機スズ化合物のアルコキシ基の炭素数が決定される。
【0052】
製造の容易性などを考慮して、前記アルコールは、ヘキサノール、オクタノール、またはドデカノールを用いることができ、これにより、製造される有機スズ化合物はそれぞれ、Sn(O(CHCH[スズ(II)ヘキソキシド]、Sn(O(CHCH[スズ(II)オクトキシド]、Sn(O(CH11CH[スズ(II)ドデコキシド]である。
【0053】
一方、本発明は、さらに他の実現例により、上述した有機スズ化合物を触媒として用いたポリラクチド樹脂の製造方法を提供する。具体的には、前記製造方法は、上記化1で表される有機スズ化合物触媒の存在下、ラクチド単量体を開環重合する段階を含む。既述したように、上記化1で表される有機金属触媒を用いてラクチド単量体の開環重合反応を行うと、重合時に別途に酸が生成されず、重合反応速度が遅くなったり、重合される高分子の分子量が低くなるおそれがなく、高分子量のポリラクチドを高収率で得ることができるという利点がある。
【0054】
特に、上述したように、炭素数5以上のアルコキシ基を含む本発明の一実現例による有機金属触媒を用いることにより、化合物の合成後、有機スズ化合物が2配位〜4配位の形態で存在する時に現れる立体障害(steric hindrance)現象が、炭素数が増加するほど大きくなり、活性種形態の−OR置換基が外部にさらされている形態の構造が増加し、炭素数5未満のスズ(II)アルコキシドに比べて重合収率が高くなり、重合される高分子の分子量も大きくなる。
【0055】
この時、有機金属触媒の滴加量は、その構成に限定はないが、好ましくは、ラクチド単量体100モルに対して約0.0001〜1.0モルの割合で、より好ましくは、ラクチド単量体100モルに対して約0.0005〜0.1モルの割合で、最も好ましくは、ラクチド単量体100モルに対して約0.001〜0.01モルの割合で添加することができる。仮に、このような触媒の添加割合が小さ過ぎると、重合活性が十分でなく不適であり、逆に、触媒の添加割合が大き過ぎる場合、製造されたポリラクチド樹脂の残留触媒量が大きくなり、加工時に樹脂の分解または分子量の減少および樹脂の変色などをもたらしかねない。
【0056】
一方、前記ポリラクチドの製造方法において、使用される触媒は、上記化1で表される化学式を有するスズ(II)アルコキシド触媒であれば、構成に限定なく選択できるが、好ましくは、Sn(O(CHCH、Sn(O(CHCH、またはSn(O(CH11CH触媒を用いることができる。前記スズ(II)アルコキシドは、製造および取り扱いが簡便であり、特に、ポリラクチドの製造において、重合収率が高くなる。
【0057】
ラクチド単量体の開環重合反応は、バルク(bulk)重合または溶液(solution)相重合で実施できるが、上述した実現例によるポリラクチドの製造においても、バルク(bulk)重合または溶液(solution)相重合のいずれもが可能である。
【0058】
ここで、バルク重合とは、実質的に溶媒を使用しない重合反応と定義することができ、この時、実質的に溶媒を使用しないとは、触媒を溶解させるための少量の溶媒、例えば、使用ラクチドモノマー1Kgあたり最大1ml未満の溶媒を使用する場合までを包括することができる。前記開環重合をバルク重合で行う場合、重合後の溶媒除去などのための工程の省略が可能になり、このような溶媒除去工程での樹脂の分解または損失なども抑制することができる。
【0059】
一方、溶液相重合を行う場合、使用可能な溶媒としては、ラクチド単量体および前記有機金属触媒を溶解可能なものであれば、その構成に限定なく使用できる。具体的には、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジメチルクロライド、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、またはこれら溶媒2種以上の混合物などを使用することができるが、これらに限定されるものではない。溶液相重合を行う場合、重合反応が行われる時、重合液の粘度を低く維持することができ、混合に有利で、重合後の移送が容易である点で有利である。
【0060】
一方、前記ラクチド単量体は、乳酸から製造可能である。また、このようなラクチドモノマーは、あらゆる形態のラクチド、例えば、L,L−ラクチド、D,L−ラクチド、またはD,D−ラクチドなどを含む、いかなる形態のラクチドとなってもよい。
【0061】
そして、前記ラクチドモノマーの開環重合は、約120〜220℃の温度で、好ましくは約150〜220℃の温度で、より好ましくは170〜200℃の温度で実施できる。一方、前記温度条件では、0.5〜48.0時間、好ましくは1.0〜10.0時間、より好ましくは約2〜6時間重合反応が進行できるが、これらの時間に限定されない。このような温度および時間の条件で重合効率および触媒活性が最も最適化していることが分かる。上述した製造方法では、優れた活性を有する触媒を用いることにより、既知のものより大きい分子量を有するポリラクチド樹脂を高い転換率および収率で得ることができ、重合時に酸が生成されず、樹脂の解重合や分解も減少できるので好適である。
【0062】
一方、発明のさらに他の実現例により、上述した製造方法で製造されたポリラクチド樹脂が提供される。前記製造方法で製造されたポリラクチド樹脂は、分子量が高くなるが、具体的には、約100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有する。また、前記触媒で製造されたポリラクチド樹脂は、約50meq/kg未満の酸度を、好ましくは約30meq/kg未満の酸度を、最も好ましくは10meq/kg未満の酸度を有する。
【0063】
一方、発明のさらに他の実現例により、上述したポリラクチド樹脂を含むポリラクチド樹脂組成物が提供される。
【0064】
このようなポリラクチド樹脂組成物は、高分子量のポリラクチド樹脂を含むことにより、優れた物理的、機械的物性を示すことが期待され、電子製品パッケージングあるいは自動車内装材などの半永久的用途に好適に使用可能である。
【0065】
また、ポリラクチド樹脂組成物は、生分解性ポリラクチド樹脂を含むことにより、使い捨て容器、使い捨てフォークなどの生分解性容器または使い捨て用品などの製造にも使用可能である。
【0066】
この時、前記ポリラクチド樹脂組成物は、ポリラクチド樹脂を単独で含むか、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂またはポリプロピレン樹脂などを共に含むこともできる。ただし、電子の電子製品パッケージングあるいは自動車内装材などの用途に用いられる場合、前記ポリラクチド樹脂組成物は、その構成に限定はないが、耐久性などの機械的物性の低下を考慮して、好ましくは、ポリラクチド樹脂を約50重量%未満で含むことができる。また、使い捨て用品などの、生分解性がさらに要求される製品の製造に用いられる場合、その構成に限定はないが、前記組成物は、約60重量%以上のポリラクチド樹脂を、より好ましくは約80重量%以上のポリラクチド樹脂を、最も好ましくは約90%以上のポリラクチド樹脂を含むことができる。
【0067】
また、前記ポリラクチド樹脂組成物は、以前から様々な樹脂組成物に含まれていた多様な添加剤をさらに含むこともできる。
そして、前記ポリラクチド樹脂組成物は、最終製品成形前の液状または固状の樹脂組成物からなるか、最終製品状態のプラスチックまたは織物などからなってもよいが、前記最終プラスチックまたは織物製品などは、各製品の形態に応じた通常の方法により製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の合成例によるスズ(II)アルコキシド化合物のH NMRスペクトルである。
【図2】本発明の合成例によるスズ(II)アルコキシド化合物の13C NMRスペクトルである。
【図3】本発明の合成例によるスズ(II)アルコキシド化合物の119Sn NMRスペクトルである。
【図4】合成例によるスズアルコキシド触媒、および比較例1のスズ(II)2−エチレンヘキサノエート触媒を用いたラクチドの重合の結果を、重合時間に応じた重合収率として比較して示すグラフである。
【図5】合成例によるスズアルコキシド触媒、および比較例1のスズ(II)2−エチレンヘキサノエート触媒を用いたラクチドの重合の結果を、重合時間に応じた分子量の変化として比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、本発明の具体的な実施形態により、発明の構成および効果をより詳細に説明する。しかし、下記の実施形態は、発明をより明確に理解させるためのものに過ぎず、発明の権利範囲が下記の実施形態に限定されるものではない。
【0070】
[合成例:スズ(II)アルコキシドの合成]
1.実験方法
下記の実験操作は、グローブボックス(glove box)と真空マニホールド(manifold)を用いるシュレンク(Schlenk)技術を利用して、窒素気体下で行われた。窒素気体に入っている酸素は銅触媒で、水分はDrierite(CuSO、アルドリッチ(Aldrich)社製)によって除去された。メタノール(MeOH)、トルエン(PhMe)、ジエチルエーテル(EtO)はアルドリッチ社から購入した無水(anhydrous)溶媒を使用した。すべての溶媒は、アルミナカラム(alumina column)を介して精製後、分子篩(molecular sieve、4A)で乾燥し、使用前に脱気(degassing)された。
【0071】
塩化第二スズ(tin(II) chloride)、トリエチルアミン(triethylamine)、1−ブタノール(1−butanol)、1−ヘキサノール(1−hexanol)、そして1−オクタノール(1−octanol)はアルドリッチ社から、1−ドデカノール(1−dodecanol)はTCI社から購入した後、特別な精製過程なく直ちに使用した。C6D6とCCDは、カンブリッジアイソトープラボラトリーズ(Cambridge Isotope Laboratories、Inc.)社から購入し、分子篩(molecularsieves、4A)で乾燥後、真空蒸留して使用した。
【0072】
H、13C、119Snスペクトルは、Bruker AVANCE400.13MHz NMR spectrometer分光器を用いて、各溶媒を基準として、70℃と100℃で記録された。元素分析(elemental analysis、EA)は、EA1110−FISONS(CE)元素分析器で測定された。
2.スズ(II)アルコキシドの合成(スズ(II)メトキシド(methoxide)の中間生成物を経る)
目的のスズ(II)アルコキシド化合物の合成は、大きく2つの段階によって行われた。第一の段階は、SnClから、メタノール溶媒下で、塩基を用いて、Sn(OCH(スズ(II)アルコキシドの中間生成物の一例)を合成する過程である。SnCl2.01g(10.6mmol)を100mLの無水メタノールに溶かした後、過量のトリエチルアミン(3.25mL、23.3mmol)を、シリンジ(syringe)を介して、撹拌されているメタノール溶液に徐々に加えた。白色の永久的沈澱が形成されることを確認した後、追加的に3時間程度室温で撹拌した。白色の沈澱をろ過し、無水メタノールと無水ジエチルエーテルで洗った後、真空で乾燥させた。得られたSn(OCHを窒素下で保管した。
【0073】
第二の段階として、Sn(OCHに多様なアルコールを添加し、目的のスズ(II)アルコキシド化合物を合成した。第二の段階の反応は、Sn(OCHと第一次アルコールとの間のエステル交換(transesterification)により行われる。
【0074】
具体的には、Sn(OCH(1.01g、5.59mmol)に100mLの無水トルエンを加えた後、過量の無水第一次アルコール(12.3mmol)を、シリンジ(syringe)を介して加えた。この時、スズ(II)ブトキシド(butoxide)の合成のために1−ブタノールを、スズ(II)ヘキソキシド(hexoxide)の合成のために1−ヘキサノールを、スズ(II)オクトキシド(octoxide)の合成のために1−オクタノールを、スズ(II)ドデコキシド(dodecoxide)の合成のために1−ドデカノールをそれぞれ使用した。
【0075】
形成された懸濁液(スラリー)を、強撹拌下に、白色のSn(OCHがなくなって透明な溶液になるまで、約130℃で12時間還流させた。透明なトルエン溶液を非常に徐々に室温まで冷やし、白色結晶質の目的のスズ(II)アルコキシド化合物を得ることができた。得られた白色結晶質の固体をろ過し、真空で乾燥した後、窒素下で保管した。
【0076】
一方、前記第一の段階において、SnClから、ブタノール溶媒、プロパノール溶媒、オクタノール溶媒、またはドデカノール溶媒下で、塩基を用いて、スズ(II)アルコキシドの中間生成物を合成した後、スズ(II)アルコキシドの中間生成物と、それぞれヘキサノール、オクタノールなどのアルコールと反応しても、最終目的のスズ(II)ヘキソキシド、スズ(II)オクトキシドなどが得られることを確認した。
【0077】
3.スズ(II)アルコキシドの合成(Sn(II)塩と、アルコールとの直接反応)
【0078】
目的のスズ(II)アルコキシド化合物を製造するために、Sn(II)塩と、アルコールとを直接反応させ、1段階の反応段階を経て、目的のスズ(II)アルコキシドを製造した。
【0079】
具体的には、SnCl2.01g(10.6mmol)を100mLの無水第一次アルコール(1−ブタノール、1−オクタノール、または1−ドデカノール)に溶かした後、過量のトリエチルアミン(3.25mL、23.3mmol)を、シリンジ(syringe)を介して、撹拌されているアルコール溶液に徐々に加えた。この時、スズ(II)ブトキシドの合成のために1−ブタノールを、スズ(II)ヘキソキシドの合成のために1−ヘキサノールを、スズ(II)オクトキシドの合成のために1−オクタノールを、スズ(II)ドデコキシドの合成のために1−ドデカノールをそれぞれ使用した。白色の永久的沈澱が形成されることを確認した後、追加的に18時間程度室温で撹拌した。白色の沈澱をろ過し、無水ブタノールと無水ジエチルエーテルで洗ってから、真空で乾燥させた後、窒素下で保管した。
【0080】
Sn(II)塩と、アルコールとを直接反応させ、1段階の反応段階を経て製造する前記方法によるスズ(II)アルコキシドの収率は80%以上であり、Sn(II)塩と、メタノールとを反応させ、中間生成物としてスズ(II)メトキシドを経て製造する方法による収率の50%〜68%を上回った。
【0081】
前記方法により、スズ(II)ブトキシド、スズ(II)ヘキソキシド、スズ(II)オクトキシド、スズ(II)ドデコキシドを合成し、これを確認するために、下記の実験を行った。
【0082】
4.上記合成例2および3で合成したスズ(II)アルコキシドの確認
前記方法により、Sn(OCHCHCHCH[スズ(II)ブトキシド]および、3種の新規なスズ(II)アルコキシド化合物、つまり、n=3、5、9のSn(OCHCH(CHCHを合成した。合成した化合物を、H、13C、119Sn NMRスペクトルと元素分析により確認した。元素分析の結果を表1に示し、これらスズ(II)アルコキシド化合物のH、13C、119Sn NMRスペクトルを図1〜図3に示した。
【0083】
【表1】

【0084】
前記表1および図1〜3に示されるように、純粋な形態のスズ(II)アルコキシド化合物が合成されていることを確認することができた。
【0085】
Tin(II) butoxide, Sn(OCH2(CH2)2CH3)2
Anal. Calcd for C8H18O2Sn : C, 36.27 ; H, 6.85. Found : C, 35.81 ; H, 6.95. 1H NMR(C6D6, 70℃) : δ 4.10(brs, 4H, OCH2), 3.68(brs), 1.75(brs, CH2), 1.44(q, J=20.0, 4H, CH2), 0.96(t, 4H, J=16.0, CH3). 13C NMR(C6D6, 70℃) : δ 63.22, 37.76, 19.90, 14.14. 119Sn NMR(C6D5CD3, 100℃): δ -261.72(br)。
Tin(II) hexoxide, Sn(OCH2(CH2)4CH3)2
Anal. Calcd for C12H26O2Sn : C, 44.89 ; H, 8.16. Found : C, 44.57 ; H, 7.92. 1H NMR(C6D6, 70℃) : δ4.17(brs, 4H, OCH2), 3.99(brs), 3.82(t), 1.82(brs, 4H, CH2) , 1.38(brs, 12H, CH2), 0.92(brs, 6H, CH3). 13C NMR(C6D6, 70℃) : δ63.65, 35.71, 32.40, 26.56, 23.08, 14.08. 119Sn NMR(C6D5CD3, 100℃) : δ -263.32(br)。
Tin(II) octoxide, Sn(OCH2(CH2)6CH3)2
Anal. Calcd for C16H34O2Sn : C, 50.95 ; H, 9.09. Found : C, 50.71 ; H, 8.90. 1H NMR(C6D6) : δ4.15(brs, 4H, OCH2), 1.82(brs), 1.40(brs, 20H, CH2), 0.90(brs, 6H, CH3). 13C NMR(C6D6, 70℃) : δ 63.66, 35.72, 32.29, 30.21, 29.85, 26.96, 22.98, 14.10. 119Sn NMR(C6D5CD3, 100℃) : δ -265.44(br)。
Tin(II) dodecoxide, Sn(OCH2(CH2)10CH3)2
Anal. Calcd for C24H50O2Sn : C, 58.90 ; H, 10.30. Found : C, 58.96 ; H, 10.22. 1H NMR(C6D6, 70℃) : δ 4.14(brs, 4H, OCH2), 1.81(brs), 1.42(brs, 8H, CH2), 1.29(brs, 32H, CH2), 0.88(brs, 6H, CH3). 13C NMR(C6D6, 70℃) : δ 63.65, 35.76, 32.33, 30.35, 30.21, 30.12, 29.77, 27.05, 23.00, 14.16. 119Sn NMR(C6D5CD3, 100℃) : δ -262.85(br).
【0086】
[実験例:上記合成例のスズ(II)アルコキシド触媒の存在下でのPLAの製造]
1.実験方法
重合体の分子量と分子量の分布は、GPC(gel permeation chromatography)を用いて測定した。サンプルは、クロロホルムに溶かし、0.45μmのシリンジフィルター(syringe filter)でろ過後、機器に注入し、Polymer Lab Mixed C&Cカラムと屈折率検出器(Refractive Index detector、RI detector、Waters2414 RI)を用いて測定した。この時、ポリスチレン(polystryrene)サンプルを標準とした。ラクチドモノマーの純度は99.5%であり、スズ(II)アルコキシド触媒は、上述した合成例で合成したものを使用し、Sn−(Oct)触媒はアルドリッチ社から購入し、トルエンはカリウム/ベンゾフェノンで蒸留精製して使用した。
【0087】
2.実施例
1)実施例1:スズ(II)ヘキソキシド触媒を用いたポリラクチドの重合
ラクチドモノマー(2g、13.8mmol)、スズ(II)ヘキソキシド(以下、Sn−(OHx))、(0.11wt%トルエン溶液、0.1mL)を、6個の30mLバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間程度放置した。その後、180℃の重合温度で2時間反応させ、定められた時間に対してバイアル反応を停止し、H NMRスペクトロスコピーとGPCにより重合収率および分子量を測定した。重合の結果は下記表2に示した。
【0088】
【表2】

【0089】
2)実施例2:スズ(II)オクトキシド触媒を用いたポリラクチドの重合
ラクチドモノマー(2g、13.8mmol)、スズ(II)オクトキシド(以下、Sn(OOc))、(0.13wt%トルエン溶液、0.1mL)を、6個の30mLバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間程度放置した。その後、180℃の重合温度で2時間反応させ、定められた時間に対してバイアル反応を停止し、H NMRスペクトロスコピーとGPCにより重合収率および分子量を測定した。重合の結果は表3に示した。
【0090】
【表3】

【0091】
3)実施例3:スズ(II)ドデコキシド触媒を用いたポリラクチドの重合
ラクチドモノマー(2g、13.8mmol)、スズ(II)オクトキシド(以下、Sn(ODd))、(0.17wt%トルエン溶液、0.1mL)を、6個の30mLバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間程度放置した。その後、180℃の重合温度で2時間反応させ、定められた時間に対してバイアル反応を停止し、H NMRスペクトロスコピーとGPCにより重合収率および分子量を測定した。重合の結果は下記表4に示した。
【0092】
【表4】

【0093】
2.比較例
1)比較例1:スズ(II)2−エチルヘキサノエート触媒を用いたポリラクチドの重合
ラクチドモノマー(2g、13.8mmol)、スズ(II)2−エチルヘキサノエート(0.14wt%トルエン溶液、0.1mL)を、6個の30mLバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間程度放置した。その後、180℃の重合温度で2時間反応させ、定められた時間に対してバイアル反応を停止し、H NMRスペクトロスコピーとGPCにより重合収率および分子量を測定した。重合の結果は表5に示した。
【0094】
【表5】

【0095】
2)比較例2:スズ(II)ブトキシド触媒を用いたポリラクチドの重合
ラクチドモノマー(2g、13.8mmol)、スズ(II)ブトキシド(以下、Sn(OBu))、(0.09wt%トルエン溶液、0.1mL)を、6個の30mLバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間程度放置した。その後、180℃の重合温度で2時間反応させ、定められた時間に対してバイアル反応を停止し、H NMRスペクトロスコピーとGPCにより重合収率および分子量を測定した。重合の結果は表6に示した。
【0096】
【表6】

【0097】
図4および図5は、それぞれ実施例および比較例によるポリラクチドの重合の結果を、重合時間に対する重合収率および分子量の変化として示したものである。上記表2〜表6および、図4および図5から明らかなように、従来のポリラクチドの重合に用いられる比較例1のスズ(II)2−エチルヘキサノエートまたは比較例2のスズ(II)ブトキシドに比べて、実施例の、炭素数5以上のアルコキシ基を有するスズ(II)アルコキシド触媒を用いる時、重合性能がより高いことが分かる。
【0098】
また、2時間の重合反応後、重合されたポリラクチド樹脂の分子量を調べた結果、比較例1および2による有機スズ触媒を用いた場合よりも、実施例による、5以上の炭素数を有するスズ(II)アルコキシド触媒を用いる場合において、重合されたポリラクチド樹脂の分子量がより大きくなることが分かった。
【0099】
したがって、本発明のポリラクチド製造用有機金属触媒を用いる場合、分子量の高いポリラクチドを高収率で得ることができ、ポリラクチド樹脂の製造に関する産業分野に有用に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1で表されることを特徴とする有機スズ化合物。
O−Sn−OR (化1)
(上記化1において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。)
【請求項2】
前記RおよびRは、それぞれ独立に、C13、C17、またはC1225であることを特徴とする請求項1に記載の有機スズ化合物。
【請求項3】
前記有機スズ化合物は、Sn(O(CHCH、Sn(O(CHCH、またはSn(O(CH11CHであることを特徴とする請求項1に記載の有機スズ化合物。
【請求項4】
環状エステル(cyclic ester)化合物を開環重合する反応の触媒として用いられることを特徴とする請求項1に記載の有機スズ化合物。
【請求項5】
前記環状エステル(cyclic ester)化合物は、下記化IおよびIIで表される化合物群より選択されるいずれか1種であることを特徴とする請求項1に記載の有機スズ化合物。
【化1】

【化2】

(ただし、上記化IおよびIIにおいて、R、R、RおよびRは、互いに同一でもそれぞれ異なっていてもよく、水素、炭素数1〜12の直鎖または分鎖アルキル、アルケニル、またはアルキニルである。この時、前記R、R、RおよびRは独立して、ハロゲン、ヒドロキシ基(hydroxy)、ホルミル基(formyl group)、アシル基(acyl group)、カルボキシル基(carboxylic group)、およびアミノ基(amino group)からなる群より選択される置換基でさらに置換されていてもよい。nは2〜12の自然数である。)
【請求項6】
ラクチド単量体を開環重合してポリラクチド樹脂を製造する反応の触媒として用いられることを特徴とする請求項1に記載の有機スズ化合物。
【請求項7】
Sn(II)塩と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、下記化1で表される有機スズ化合物を形成する段階を含むことを特徴とする有機スズ化合物の製造方法。
O−Sn−OR
(上記化1において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。)
【請求項8】
Sn(II)塩と、炭素数1〜12の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、スズ(II)アルコキシド(スズ(II) alkoxide)の中間生成物を形成する段階と、
前記スズ(II)アルコキシド(スズ(II) alkoxide)の中間生成物と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとを反応させ、下記化1で表される有機スズ化合物を形成する段階とを含むことを特徴とする有機スズ化合物の製造方法。
O−Sn−OR
(上記化1において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。)
【請求項9】
前記スズ(II)アルコキシド(スズ(II) alkoxide)の中間生成物と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとの反応段階は、1段階以上の反応で行われることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記Sn(II)塩と、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールとの反応段階は、塩基の存在下で行われることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記スズ(II)アルコキシド(スズ(II) alkoxide)の中間生成物を形成する段階は、塩基の存在下で行われることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記塩基は、トリエチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、トリブチルアミンおよびアンモニアからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルコールは、ヘキサノール、オクタノール、またはドデカノールであることを特徴とする請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項14】
前記有機スズ化合物は、Sn(O(CHCH、Sn(O(CHCH、またはSn(O(CH11CHであることを特徴とする請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項15】
下記化1で表される有機金属触媒の存在下、ラクチド単量体を開環重合する段階を含むことを特徴とするポリラクチド樹脂の製造方法。
O−Sn−OR (化1)
(上記化1において、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数5〜30の第一次、第二次、または第三次アルキル基である。)
【請求項16】
前記有機金属触媒は、ラクチド単量体100モルに対して0.001〜0.1モルの割合で添加されることを特徴とする請求項15に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【請求項17】
前記有機金属触媒は、Sn(O(CHCH、Sn(O(CHCH、またはSn(O(CH11CHであることを特徴とする請求項15に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【請求項18】
前記開環重合は、バルク(bulk)重合または溶液(solution)相重合で行われることを特徴とする請求項15に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【請求項19】
前記開環重合は、120〜220℃の温度で行われることを特徴とする請求項15に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−503934(P2013−503934A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527818(P2012−527818)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005887
【国際公開番号】WO2011/028007
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】