説明

有機ハロゲン化合物を含む廃棄物の加熱処理方法及び加熱処理装置

【課題】還元加熱炉から排出された排ガスを循環させると共に、炉内の酸素濃度を一定範囲内に調整することにより、ダイオキシン類の発生を防止しつつ、土壌等に含まれる有機ハロゲン化合物を効率よく分解するための加熱処理方法及び加熱処理装置を提供する。
【解決手段】還元加熱炉の排ガスを還元加熱炉へと循環させ、同時に炉内に供給する不活性ガス量と酸素量を調整することにより、還元加熱炉内の酸素濃度を一定範囲内に制御することを特徴とする。すなわち、排ガス中の一酸化炭素濃度が多い場合には、排ガス循環経路に設置した空気導入装置から排ガス循環経路内に空気を導入することにより、有効酸素濃度を0.01容量%以上に調整する。一方、有効酸素濃度が3容量%を超える場合には、空気導入装置から排ガス循環経路内への空気導入を中止し、不活性ガス供給装置から還元加熱炉内に供給される不活性ガス量を増量し、有効酸素濃度を3容量%以下に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB等の有機塩素系化合物をはじめとする有機ハロゲン化物を含む固形物を加熱分解する処理方法及び処理装置であって、加熱装置内の酸素濃度を一定範囲内に制御することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
有機塩素系農薬やPCB(ポリ塩化ビフェニール)等の有機塩素系化合物で汚染された土壌等は、以前は主に埋立て処分がなされていた。このため、埋立地周辺の土壌や地下水の二次汚染を防止するため、安全に無害化処理する技術の確立が急がれている。
【0003】
有機ハロゲン化合物で汚染された土壌等を無害化するための方法の一つとしては、汚染土壌等を加熱又は燃焼処理することにより有機ハロゲン化合物を分解し、土壌等を無害化する技術が知られている。
【0004】
その様な技術の一つとして、有機塩素系化合物で汚染された土壌等に石炭、石油等の硫黄化合物含有体を添加後、熱分解炉において加熱処理し、発生したガスを再燃焼させる処理方法が、特許文献1に開示されている。
【0005】
また、ダイオキシン類による汚染土壌を400〜600℃で加熱してダイオキシン類を蒸発させ、蒸発したダイオキシン類を分解炉で熱分解する処理方法が、特許文献2に開示されている。
【0006】
有機ハロゲン化合物による汚染土壌等を加熱又は焼却処理する場合、効率的に分解又は燃焼処理される必要があるだけでなく、ダイオキシン類の発生を防止することも重要である。このためには、ダイオキシン類の分解温度である800℃以上で汚染土壌等を加熱処理するか、低酸素雰囲気中(低酸素状態)で加熱処理する必要がある。
【0007】
しかし、焼却炉内に空気を強制的に導入させる加圧酸化型加熱炉を用いても、加熱炉内に存在する土壌等の全体を均一に800℃以上に維持することは困難である。また、低酸素雰囲気中における加熱処理と比較して、エネルギー消費量も多く、高温による設備の損傷も問題となる。
【0008】
ここで、有機ハロゲン化合物に汚染された汚染物質を、高濃度窒素を用いた低酸素雰囲気中で加熱分解する処理方法が、特許文献3に開示されている。この特許文献3には、PSA(Pressure Swing Adsorption)方式の窒素発生装置によって得られた高濃度窒素ガスを還元加熱炉に供給し、炉内を酸素濃度3%以下の低酸素雰囲気とすることも開示されている。
【特許文献1】特開平9−192641号公報
【特許文献2】特開2000−279942号公報
【特許文献3】特開2006−55738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
加熱炉内の酸素濃度を3%以下に調整するためには、特許文献3の処理方法において加熱炉内に高濃度窒素を過剰に供給すれば足りるが、窒素供給量を多くすれば窒素供給費用がその分上昇し、処理コストが高くなる。また、系外に排出するガス量も増加することとなり、環境への負荷も増加することとなる。
【0010】
また、汚染土壌等に有機物が存在する場合、加熱炉内では有機物が燃焼し一酸化炭素及び二酸化炭素が発生するが、一酸化炭素は炉内でさらに酸素と反応して二酸化炭素に変化する。
【0011】
また、有機物の種類によっては低酸素雰囲気中で有機物が分解せず、炉内で炭化してしまうため、炭化した有機物に目的とする有機塩素化合物が分解されずに吸着され、処理済み土壌とともに排出されるおそれもあった。このため、加熱炉内の酸素濃度を単に3%以下に調整するだけでは炉内が無酸素状態となりやすく、土壌等に含まれる有機物が炭化して有機ハロゲン化合物を吸着しやすくなる。
【0012】
一方、還元加熱炉から排出される排ガスは、再び還元加熱炉内へと導入し、大気中に放出する排ガス量をできるだけ削減することが好ましい。しかし、単に排ガスを循環させるだけでは、循環排ガス中の一酸化炭素も加熱炉内に循環されるため、炉内の一酸化炭素濃度が高くなるおそれがある。また、循環された一酸化炭素によって酸素が消費され、炉内が無酸素状態になりやすく、その結果、上述した有機物の炭化による有機塩素化合物の吸着という問題が生じる。
【0013】
そこで本発明は、加熱炉内に、加熱炉から排出された排ガスを循環させると共に、炉内の酸素濃度を一定範囲内に調整することにより、ダイオキシン類の発生を防止しつつ、土壌等に含まれる有機ハロゲン化合物を効率よく分解するための加熱処理方法及び加熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、有機塩素系化合物等の有機ハロゲン化合物を含む廃棄物を加熱処理する処理方法及び処理装置であって、加熱炉の排ガスを還元加熱炉へと循環させ、同時に炉内に供給する不活性ガス量と酸素量を調整することにより、加熱炉内の酸素濃度を一定範囲内に制御することを特徴とする。
【0015】
具体的に、本発明は、
有機ハロゲン化合物を含む廃棄物を加熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、
前記加熱炉の排ガス出口から排ガス洗浄装置を経て、前記加熱炉へと接続する排ガス循環経路と、
前記排ガス循環経路に空気を導入するための空気導入装置とを備える廃棄物加熱処理装置を用いる廃棄物加熱処理方法において、
前記排ガス循環経路内の排ガス中の一酸化炭素濃度及び酸素濃度を計測し、該一酸化炭素濃度及び酸素濃度に応じて、前記不活性ガス供給装置の不活性ガス供給量及び/又はリー弁から導入される空気量を調整することによって、前記加熱炉内の有効酸素濃度を0.01容量%以上3容量%以下に制御することを特徴とする方法に関する(請求項1)。
【0016】
また、本発明は、
有機ハロゲン化合物を含む廃棄物を加熱する加熱炉と、
前記加熱炉に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、
前記加熱炉の排ガス出口から排ガス洗浄装置を経て、前記加熱炉へと接続する排ガス循環経路と、
前記排ガス循環経路に空気を導入するための空気導入装置と、
前記排ガス循環経路内の排ガス中の一酸化炭素濃度を測定する一酸化炭素濃度計測装置と、
前記排ガス循環経路内の排ガス中の酸素濃度を測定する酸素濃度計測装置と、
を備える廃棄物加熱処理装置であって、
前記一酸化炭素濃度測定装置の計測した一酸化炭素濃度及び前記酸素濃度測定装置の計測した酸素濃度に応じて、前記不活性ガス供給装置の不活性ガス供給量及び/又は空気導入装置から供給される空気量を調整することによって、前記還元加熱炉内の有効酸素濃度を0.01容量%以上3容量%以下に制御することを特徴とする処理装置に関する(請求項9)。
【0017】
上述したように、加熱炉内で処理される処理対象物中に有機物が含まれている場合、還元加熱炉内には有機物燃焼によって一酸化炭素や二酸化炭素が発生する。そして、一酸化炭素は酸素と結合して二酸化炭素となるため、処理対象物に有機物が多く含まれている場合には一酸化炭素の発生量が多く、排ガス循環経路及び加熱炉内の酸素がほとんど消費され、無酸素状態となりやすい。
【0018】
本発明の廃棄物加熱処理方法及び廃棄物加熱処理装置は、浄化処理後の排ガス循環経路内を流れる排ガス中の一酸化炭素濃度及び酸素濃度を測定し、還元加熱炉内に再び導入される排ガス中の有効酸素濃度を調整することにより、上記課題を解決する。
【0019】
すなわち、排ガス中の一酸化炭素濃度が多い場合には、排ガス循環経路に設置した空気導入装置から排ガス循環経路内に空気を導入することにより、有効酸素濃度を0.01容量%以上に調整する。一方、有効酸素濃度が3容量%を超える場合には、空気導入装置から排ガス循環経路内への空気導入を中止し、不活性ガス供給装置から還元加熱炉内に供給される不活性ガス量を増量し、有効酸素濃度を3容量%以下に調整する。
【0020】
なお、酸素濃度が低いほどダイオキシンが発生しにくく、有機ハロゲン化合物が分解しやすいという点から有効酸素濃度は1容量%以下であることがより好ましい。
【0021】
ここでいう「有効酸素」とは、加熱炉へと供給される排ガス中において、一酸化炭素によって消費されることのない酸素を意味する。すなわち、「有効酸素濃度=(実際の酸素濃度)−(一酸化炭素濃度÷2)」(単位はすべて容量%)ということを意味している。加熱炉内の酸素濃度を「有効酸素濃度」で調整するのは、仮に排ガス内の酸素濃度が加熱処理に適当な濃度であっても、一酸化炭素が存在すると、炉内では一酸化炭素によって酸素が消費されるために、有機ハロゲン化合物の燃焼に使える酸素が必要量よりも少なくなってしまうためである。
【0022】
前記空気導入装置はリーク弁であることが好ましい(請求項2,10)。弁の開閉制御によって容易に空気を排ガス循環経路内に導入することができるからである。
【0023】
前記不活性ガスは経済的観点から窒素ガスであることが好ましく、前記不活性ガス供給装置は長時間連続して窒素ガスを供給できる観点からPSA方式の窒素ガス発生装置であることが好ましい(請求項3,11)。
【0024】
前記加熱炉はロータリーキルンであり、管板と内筒との間にガスシールボックスを設置すると共に、前記排ガス循環経路の排ガス洗浄装置下流から分岐して前記ガスシールボックスへと接続する第一排ガス分岐経路を設置することにより、前記ガスシールボックスから前記還元加熱炉内への空気流入を防止することが好ましい(請求項4,12)。
【0025】
炉内の処理対象物を均一に加熱処理できる観点から、加熱炉はロータリーキルンであることが好ましいが、ロータリーキルンでは管板と内筒との間から空気が侵入しやすい。このため、管板と内筒との間にガスシールボックスを設置し、かつ、該ガスシールボックスへと排ガス循環経路を分岐させて接続することにより、リーク弁以外の経路からの空気侵入を防止することが、排ガス循環経路及び加熱炉内の酸素濃度を正確に制御する上で好ましい。
【0026】
前記加熱炉の処理物投入口内に上部ダンパ及び下部ダンパを設置して両ダンパ間を気密部分として形成すると共に、前記排ガス循環経路の排ガス洗浄装置下流から分岐して前記気密部分へと接続する第二排ガス分岐経路を設置することにより、前記処理物投入口から前記加熱炉内への空気流入を防止することが好ましい(請求項5,13)。
【0027】
加熱炉の処理物投入口内には、通常ダンパが設置され、処理物を投入するときにはダンパを開き、それ以外はダンパが閉じられている。ダンパを閉じている場合、ダンパによって加熱炉内への空気リークは防止されるが、完全に気密性を確保することは困難である。このため、処理物投入口内に上部ダンパと下部ダンパを設置し、これら二つのダンパで仕切られた空間を気密部分とし、かつ、この気密部分へと排ガス循環経路を分岐させて接続することにより、処理物投入口から加熱炉内への空気侵入を防止することが、排ガス循環経路及び加熱炉内の酸素濃度を正確に制御する上で好ましい。
【0028】
前記加熱炉は、炉内温度を制御しやすい間接加熱式の加熱炉であることが好ましい(請求項6,14)。
【0029】
前記排ガス洗浄装置は、バグフィルター、湿式洗浄装置及び吸着装置から選択される1種又は2種以上の組み合わせであることが好ましい(請求項7,15)。
【0030】
前記処理対象物は、不燃物である土壌、汚泥又は瓦礫であることが好ましい(請求項8,16)。
【発明の効果】
【0031】
本発明の廃棄物加熱処理方法及び加熱処理装置は、加熱炉の排ガス中の有効酸素濃度を調整することにより、ダイオキシン類の発生を防止しながら、効率よく有機ハロゲン化合物を加熱分解するという、従来の加熱処理方法及び加熱処理装置にはない作用効果を有する。また、系外に排出する排ガス量を極端に小さくすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【0033】
(実施の形態1)
本発明の廃棄物加熱処理装置の基本的構成の一例を、図1に示す。図1に示す廃棄物加熱処理装置では、まず処理物投入口18から有機ハロゲン化合物に汚染された土壌、汚泥、瓦礫等の処理物を加熱炉1に投入する。この場合、処理物は前処理として乾燥処理していることが好ましい。また、適宜粉砕処理等して粒度を小さくしておくことも好ましい。
【0034】
まず、加熱炉1が間接加熱型である場合には、熱媒体供給装置(図示せず)から高温ガスを通じ、加熱炉1の内部を400℃〜600℃、好ましくは450℃〜550℃に加熱するとともにオイルスクラバー5を運転し、ブロワ6を作動させる。また、窒素ガス発生装置10を作動させ、加熱炉1に窒素を供給する。加熱炉1内の空気は経路A〜C及び活性炭吸着塔7を通じて系外へ放出される。こうして、加熱炉1の内部の空気が窒素に置換され、低酸素雰囲気に晒される。
【0035】
なお、窒素ガス発生装置としてはPSA方式の窒素ガス発生装置の他、窒素ガスボンベ等も使用することができる。また、不活性ガスとして、アルゴンガス等を使用してもよい。
【0036】
加熱炉1が充分に加熱された時点で、被処理物を処理物等入口20から加熱炉1内に投入する。加熱炉1内に投入された被処理物は加熱処理されながら加熱炉内を移動する。加熱に伴って有機ハロゲン化合物や、その他の有機物が熱分解され、塩素ガス等のハロゲンガス、一酸化炭素及び二酸化炭素等のガスが発生する。また、処理物自体からも空気及び水蒸気が放出される。
【0037】
加熱炉内に発生したガス等は、排ガス出口3から排出され、経路Aを経てバグフィルター4に供給され、排ガス中の固形微粒子等が除去される。その後、排ガスは経路Bを経てオイルスクラバー5に供給される。バグフィルター4としては、高温バグフィルターを使用することが好ましい。
【0038】
オイルスクラバー5では、洗浄油と排ガスが接触することにより、排ガス中の有機性ガス等が洗浄油によって除去される。同時に、排ガスの温度も低下し、水蒸気の一部は水分として洗浄油に混入する。洗浄油に混入した水分は、油水分離装置8で分離され、無害化された後、系外へ排出される。オイルスクラバー5としては、散油式オイルスクラバー又は油中曝気式オイルスクラバーが好ましく、洗浄油を50℃以下に冷却する冷却装置を備えることがより好ましい。
【0039】
水分を分離した洗浄油は、有機ハロゲン化合物分解装置9へと回収される。ここでは、洗浄油にナトリウム分散体が添加され、洗浄油中に溶解している有機ハロゲン化合物が分解される。
【0040】
次に、洗浄油は、洗浄油中に残存するナトリウム分散体を水で中和する中和装置10へと供給される。その後、中和処理後の洗浄油から廃アルカリ水を分離する廃水分離装置11へと供給され、廃アルカリ水は無害化され系外へ排出される。そして、洗浄油はオイルスクラバー5に循環される。
【0041】
なお、油水分離装置8、有機ハロゲン化合物分解装置9、中和装置10及び廃水分離装置11は、すべて任意の構成である。
【0042】
オイルスクラバー5に使用する洗浄油は、炭化水素油であれば特に限定されないが、排ガス中の有機ハロゲン化合物よりも沸点が低いものが好ましい。例えば、炭素数8〜15、好ましくは10〜12の炭化水素油を使用することが好ましく、特に、有機ハロゲン化合物を溶解しやすく、安価なノルマルパラフィン系の炭化水素油が好ましい。
【0043】
オイルスクラバー5で洗浄された排ガスは、経路Cとブロワ6を経由して経路Dへと供給され、運転当初は経路D出口の弁12を開き、活性炭吸着塔7で吸着処理した後、系外に排出される。加熱炉1内部の空気が排出された後は弁12を閉じ、排ガスは経路E〜Gを経て加熱炉1へと循環される。
【0044】
ここで、経路Gに酸素濃度計15及び一酸化炭素濃度計16が設置されており、酸素濃度計15の測定値によって、加熱炉1内部の空気が排ガス循環経路(経路A〜G)から排出されたかどうか確認することができる。そして、排ガス循環経路内の酸素濃度が3容量%以下になれば、活性炭吸着塔7の手前にある弁12を閉め、排ガスを経路Eへと供給し、その後、被処理物を加熱炉内に供給するように運転するのが好ましい。
【0045】
酸素濃度計15及び一酸化炭素濃度計16は、常時経路Gを経て加熱炉1へと供給(循環)される排ガス中の酸素濃度及び一酸化炭素濃度を計測している。ここで、処理物中に有機物が非常に少ない場合には、加熱炉1内の酸素は、有機ハロゲン化合物の分解に大部分利用することができるため、経路Gにおける排ガス中の酸素濃度を0.01容量%以上3容量%以下に制御すれば、加熱炉1内を有機ハロゲン化合物の熱分解に好ましい状態に維持することが可能である。
【0046】
仮に、経路Gにおける排ガス中の酸素濃度が0.01容量%未満になれば、リーク弁13を開き、排ガス循環経路に空気を導入する。逆に、酸素濃度が3容量%を超えれば、リーク弁13を閉じると共に弁19を開き、窒素ガス発生装置14から排ガス循環経路に窒素ガスを供給し、酸素濃度を低下させる。
【0047】
しかし、処理物中に有機物が多い場合には、定常状態の初期に有機物の分解によって一酸化炭素や二酸化炭素が高濃度で発生する場合もある。この一酸化炭素や二酸化炭素等は、バグフィルター4及びオイルスクラバー5で除去できないため、排ガス循環経路を通じて還元加熱炉1に戻ってくる。すると、炉内で一酸化炭素と酸素が反応して二酸化炭素となり(化1を参照)、炉内の酸素が、有機ハロゲン化合物の分解にも必要な量確保することができなくなる。
【0048】
【化1】

【0049】
そこで、本発明の廃棄物処理装置では、酸素濃度計15及び一酸化炭素濃度計16によって、加熱炉1へと供給される排ガス中の酸素濃度及び一酸化炭素濃度を計測し、一酸化炭素によって消費される分を差し引いた酸素濃度(有効酸素濃度)を算出し、加熱炉1へと供給される排ガス中の酸素濃度を有効酸素濃度として0.01容量%以上3容量%以下になるように制御する(化2を参照)。これによって、排ガス中に一酸化炭素が高濃度で存在する場合にも、加熱炉内の酸素濃度を有機ハロゲン化合物の燃焼に最適な状態に維持することができる。
【0050】
【化2】

【0051】
具体的には、酸素濃度計15が測定した酸素濃度(容量%)と、一酸化炭素計16が測定した一酸化炭素濃度(容量%)から有効酸素濃度を算出し、0.01容量%未満であればリーク弁13から排ガス循環経路内に空気を導入する。逆に、有効酸素濃度が3容量%を超えれば、リーク弁13を閉じると共に弁19を開き、窒素ガス発生装置12から排ガス循環経路に窒素ガスを供給し、有効酸素濃度を低下させる。
【0052】
なお、酸素濃度計15と一酸化炭素計16がシーケンサ(図示せず)に接続され、酸素濃度及び一酸化炭素濃度に基づき、シーケンサが弁12、弁19及びリーク弁13の開閉を調整することが好ましい。
【0053】
加熱処理により、浄化された処理物は、還元加熱炉1内部に設置されているパドルや搬送用スクリュー等(図示せず)によって、順次急冷装置17へと回収され、その後系外へ排出される。
【0054】
(実施の形態2)
本発明の廃棄物加熱処理装置の基本的構成の別の一例を、図2に示す。図2に示す廃棄物加熱処理装置では、加熱炉1はロータリーキルンであり、管板と内筒との間にガスシールボックス20(第一ガスシールボックス)が設置されている。そして、経路Gから分岐した経路Hがガスシールボックス20に接続されている。それ以外は、すべて図1に示した廃棄物処理装置と同じである。
【0055】
ロータリーキルンは、図3に示す内筒21を回転させながら加熱処理を行うため、処理物を均一に加熱することができる反面、内筒21と管板22との間に隙間が存在するため、この隙間から陰圧の内筒21内へと空気がリークしやすい。空気のリーク量が多いと、還元加熱炉1内の酸素濃度を0.01容量%以上3容量%以下に調整することが困難となる。このリークを防止するための手段として、テフロン(登録商標)製等のガスパッキン23とボックス24を設置することが知られている。
【0056】
本実施の形態では、加熱炉1内の酸素濃度を排ガス循環経路に設置されているリーク弁13と、窒素ガス発生装置14から供給される窒素ガスとによって正確に制御するため、経路Gを通じて加熱炉1へと供給する排ガスを、経路Hを通じてボックス24内にも供給する。これにより、ガスパッキン23を通じて微量の空気がロータリーキルン内にリークすることを可能な限り防止することができる。
【0057】
(実施の形態3)
本発明の廃棄物加熱処理装置の基本的構成のさらに別の一例を、図4に示す。図4に示す廃棄物加熱処理装置では、加熱炉1の処理物投入口が二重密閉型処理物投入口30となっており、内部に上部ダンパ31と下部ダンパ32が設置されている。上部ダンパ31と下部ダンパ32との間に形成される気密空間がダンパ間気密部分43となっている。そして、経路Iを通じてダンパ間気密部分33内に排ガス循環経路内の排ガスが供給される。それ以外は、すべて図1に示した廃棄物処理装置と同じである。
【0058】
処理物を投入する際には上部ダンパ31と下部ダンパ32を開き、処理物の投入が終われば上部ダンパ31と下部ダンパ32を閉じる。なお、図4には示していないが、上部ダンパ31と下部ダンパ32は、モータの動力によって回転又は移動し、開閉自在となっている。
【0059】
二重密閉型処理物投入口30からは、土壌等の大量の処理物を断続的に加熱炉内に投入する必要がある。また、加熱炉1で処理物の加熱処理を行うときには、二重密閉型処理物投入口30もある程度高温になる。このため、上部ダンパ31と下部ダンパ32を完全な気密構造とすることは非常に困難である。
【0060】
本実施の形態では、加熱炉1内の酸素濃度を排ガス循環経路に設置されているリーク弁13と、窒素ガス発生装置14から供給される窒素ガスとによって正確に制御するため、経路Gを通じて加熱炉1へと供給する排ガスを、経路Iを通じて二重密閉型処理物投入口30のダンパ間気密部分43内にも供給する。これにより、二重密閉型処理物投入口30を通じて微量の空気が還元加熱炉1内にリークすることを可能な限り防止することができる。
【0061】
なお、本実施の形態では、二重密閉型処理物投入口30に処理物を搬送するために使用されるコンベヤは、密閉型コンベアであることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上述したように、本発明の有機ハロゲン化合物を含む廃棄物を加熱処理する処理方法及び処理装置は、還元加熱炉内の有効酸素濃度を、有機ハロゲン化合物の加熱分解に最適な濃度範囲に調整することができる。これによって、ダイオキシン類の発生を防止しつつ、効率的に処理対象物中の有機ハロゲン化合物を加熱分解することができる。
【0063】
このように、本発明の有機ハロゲン化合物を含む廃棄物を加熱処理する処理方法及び処理装置は、有機ハロゲン化合物によって汚染された土壌、汚泥、瓦礫等の無害化処理を目的とする環境保全分野や廃棄物処理分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施の形態1の廃棄物加熱処理装置の一例を示す構成図である。
【図2】実施の形態2の廃棄物加熱処理装置の一例を示す構成図である。
【図3】実施の形態2の還元加熱炉の構造を示す一部拡大図である。
【図4】実施の形態3の廃棄物加熱処理装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0065】
1:加熱炉
2:間接加熱装置
3:排ガス出口
4:バグフィルター
5:オイルスクラバー
6:ブロア
7:活性炭吸着塔
8:油水分離装置
9:有機ハロゲン化合物分解装置
10:中和装置
11:廃水分離装置
12,19:弁
13:リーク弁
14:窒素ガス発生装置
15:酸素濃度計
16:一酸化炭素濃度計
17:急冷装置
18:処理物投入口
20:ガスシールボックス
21:内筒
22:管板
23:ガスパッキン
24:ボックス
25:内筒の回転中心軸
30:二重密閉型処理物投入口
31:上部ダンパ
32:下部ダンパ
33:ダンパ間気密部分
A〜I:経路(排ガス経路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物を含む廃棄物を加熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、
前記加熱炉の排ガス出口から排ガス洗浄装置を経て、前記加熱炉へと接続する排ガス循環経路と、
前記排ガス循環経路に空気を導入するための空気導入装置と
を備える廃棄物加熱処理装置を用いる廃棄物加熱処理方法において、
前記排ガス循環経路内の排ガス中の一酸化炭素濃度及び酸素濃度を計測し、該一酸化炭素濃度及び酸素濃度に応じて、前記不活性ガス供給装置の不活性ガス供給量及び/又は導入される空気量を調整することによって、前記加熱炉内の有効酸素濃度を0.01容量%以上3容量%以下に制御することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記空気導入装置がリーク弁である請求項1に記載の廃棄物加熱処理方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが窒素ガスであり、前記不活性ガス供給装置がPSA方式の窒素ガス発生装置である請求項1又は2に記載の廃棄物加熱処理方法。
【請求項4】
前記加熱炉がロータリーキルンであり、管板と内筒との間にガスシールボックスを設置すると共に、前記排ガス循環経路の排ガス洗浄装置下流から分岐して前記ガスシールボックスへと接続する第一排ガス分岐経路を設置することにより、前記ガスシールボックスから前記加熱炉内への空気流入を防止する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の廃棄物加熱処理方法。
【請求項5】
前記加熱炉の処理物投入口内に上部ダンパ及び下部ダンパを設置して両ダンパ間を気密部分として形成すると共に、前記排ガス循環経路の排ガス洗浄装置下流から分岐して前記気密部分へと接続する第二排ガス分岐経路を設置することにより、前記処理物投入口から前記加熱炉内への空気流入を防止する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の廃棄物加熱処理方法。
【請求項6】
前記加熱炉が間接加熱式の加熱炉である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の廃棄物加熱処理方法。
【請求項7】
前記排ガス洗浄装置がバグフィルター、湿式洗浄装置及び吸着装置から選択される1種又は2種以上の組み合わせである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の廃棄物加熱処理方法。
【請求項8】
前記処理対象物が土壌、汚泥又は瓦礫である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の廃棄物加熱処理方法。
【請求項9】
有機ハロゲン化合物を含む廃棄物を加熱する加熱炉と、
前記加熱炉に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、
前記加熱炉の排ガス出口から排ガス洗浄装置を経て、前記加熱炉へと接続する排ガス循環経路と、
前記排ガス循環経路に空気を導入するための空気導入装置と、
前記排ガス循環経路内の排ガス中の一酸化炭素濃度を測定する一酸化炭素濃度計測装置と、
前記排ガス循環経路内の排ガス中の酸素濃度を測定する酸素濃度計測装置と、
を備える廃棄物加熱処理装置であって、
前記一酸化炭素濃度測定装置の計測した一酸化炭素濃度及び前記酸素濃度測定装置の計測した酸素濃度に応じて、前記不活性ガス供給装置の不活性ガス供給量及び/又は空気導入装置から供給される空気量を調整することによって、前記還元加熱炉内の有効酸素濃度を0.01容量%以上3容量%以下に制御することを特徴とする処理装置。
【請求項10】
前記空気導入装置がリーク弁である請求項9に記載の廃棄物加熱処理装置。
【請求項11】
前記不活性ガスが窒素ガスであり、前記不活性ガス供給装置がPSA方式の窒素ガス発生装置である請求項9又は10に記載の処理装置。
【請求項12】
前記加熱炉がロータリーキルンであり、管板と内筒との間にガスシールボックスを備えると共に、前記排ガス循環経路の排ガス洗浄装置下流に前記排ガス循環経路から分岐して前記ガスシールボックスへと接続する第一排ガス分岐経路を備えることにより、前記ガスシールボックスから前記加熱炉内への空気流入を防止する請求項9乃至11のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項13】
前記加熱炉の処理物投入口内に上部ダンパ及び下部ダンパを設置して両ダンパ間を気密部分として形成すると共に、前記排ガス循環経路の排ガス洗浄装置下流に前記排ガス循環経路から分岐して前記気密部分へと接続する第二排ガス分岐経路を備えることにより、前記処理物投入口から前記加熱炉内への空気流入を防止する請求項9乃至12のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項14】
前記加熱炉が間接加熱式の還元加熱炉である請求項9乃至13のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項15】
前記排ガス洗浄装置がバグフィルター、湿式洗浄装置及び吸着装置から選択される1種又は2種以上の組み合わせである請求項9乃至14のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項16】
前記処理対象物が土壌、汚泥又は瓦礫である請求項9乃至15のいずれか1項に記載の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−272533(P2008−272533A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188418(P2006−188418)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】