説明

有機リン化合物の電気的検出および/または定量

【課題】気体状でまたは溶媒中の溶液に存在する有機リン化合物の電気的検出および/または定量のための方法とデバイスに関する。
【解決手段】半導体材料で隔てられたソース電極とドレイン電極とを備える電気デバイスにおいて、基Rと、3級アミンに空間的に近接している1級アルコールとを含み、前記1級アルコールが、有機リン化合物の存在下で前記3級アミンと反応することができる少なくとも1つの受容体分子が、基Rによって、電極(複数)の一方の上または半導体材料の上にグラフトされていることを特徴とする電気デバイスと、前記2つの電極間の正電荷の変化を検出するためのデバイスとを備える、有機リン化合物を検出および/または定量するためのデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体状でまたは溶媒中の溶液で存在する有機リン化合物の電気的検出および/または定量のための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機リン化合物は、種々の化学基が結合しているホスフェート原子で構成される分子であり、前記基の性質が化合物の正確な特性を決定する。第二次世界大戦中およびその後に戦闘ガスについての集中的研究の主題であり、サリン、ソマン、タブン、シクロサリン、GV、VX、VE、VGおよびVMのガス、並びにタイプDFP(ジイソプロピルフルオロホスフェート)、DCP(ジエチルクロロホスフェート)およびDMMP(ジメチルメチルホスホネート)の神経毒性有機リン化合物の作用を刺激する分子の開発をもたらした有機リン化合物は、現在は主に農業で殺虫剤または除草剤として使用されている。存在する多種多様の有機リン化合物ベース殺虫剤のうち、特にパラチオン、マラチオン、メチルパラチオン、クロルピリホス、ダイアジノン、ジクロルボス、ホスメット、テトラクロルビンホスおよびメチルアジンホスを挙げることができる。
【0003】
有機リン化合物の作用機序は、神経インパルスの伝達に関与する酵素であるコリンエステラーゼに対する有機リン化合物の親和性に基づく。有機リン化合物は実際にこの酵素の活性部位に特に強くかつ安定して結合する特性を有する。一旦結合すると、有機リン化合物は、ニューロンの興奮中にニューロンのシナプスのレベルで放出される神経伝達物質であるアセチルコリンをコリンエステラーゼが分解するのを妨げる。アセチルコリンが不活性なコリンおよびアセチル化合物に分解しないことによって、ニューロンが常に興奮するため、中枢神経系の麻痺が引き起こされ、死に至ることがある。
【0004】
有機リン化合物によって遮断される神経インパルスの伝達に関与する機序は動物界を通じて同一なので、殺虫剤として使用される有機リン化合物は昆虫のみならず、ヒトを含めたいずれの動物にも毒性である。このため、生分解性が低い有機クロロ化合物ベース殺虫剤に有機リン化合物が取って代ることを可能にした相対的に良い生分解性にもかかわらず、有機リン化合物のはるかに高い毒性は、使用に特別の注意を要する。具体的には、有機リン化合物は、環境内での蓄積のため、または植物上、水中、若しくは有機リン化合物を含む食物を摂取した動物由来の肉に残留物が存在する場合の食物連鎖によって非常に重大な問題を引き起こし得る。これらの殺虫剤は、農業において業界で働く個体によってのみならず、私的個体によっても最も広く使用されているものなので、有機リン化合物の検出および定量は公衆衛生の利益という意味を持ち、農業食物業界には特に有用であろう。
【0005】
さらに、1997年に禁止されているにもかかわらず、戦闘ガスは未だに脅威である。一方で、サリン、トマンまたはVXタイプの戦闘ガスの製造は容易であり、他方では、これらの化合物が無色無臭であるため、それに気づかずに個体が吸入することがある。したがって、このようなガスの存在を即時に検出することは、戦闘圏内の兵士だけでなく、テロリズムの危険に直面する一般市民集団を保護するための主要問題である。これらの脅威は、特に1995年に東京の地下鉄でテロリストグループ、オウム真理教によって致命的なサリン攻撃が行われて以来、明らかに確立されている。
【0006】
有機リン化合物を検出するための多くの方法とデバイスが開発されてきた。
【0007】
その結果、ほとんど「電子鼻」の原理に基づいて操作される、有機リンガスに感受性のある化学センサーが販売されている。例えば、米国特許第5,571,401号は、非伝導性ポリマーと伝導性材料とで構成されたレジスタを備えるアレイで構成された化学センサーを記載している。化学分子が伝導性材料に接触すると、抵抗の差異が検出される。これらのセンサーは、あまり特異的でなく、擬陽性に対して感受性が高いという欠点を有する。カーボンナノチューブの二次元グリッドに基づくセンサーも開発されたが(WO2006/099518)、これらは感受性が高く、多数の分子を検出するが、有機リン化合物に特異的および選択的な応答を得ることはできない。
【0008】
最近、蛍光を測定することに基づく、溶液中の有機リン化合物に選択的な検出方法が記載された。Zhangらは、1級アルコールに空間的に近接しているアミンと、非平面で可撓性でありかつ弱く共役している発色団とを有する分子の存在下で、有機リン化合物が1級アルコールと反応し、得られたホスフェートが分子内求核置換による環化を可能にし、発色団をその平面内で安定化し、蛍光の増加をもたらすことを示した(S.−W.ZhangおよびT.M.Swager、J.Am.Chem.Soc.、2003、125、3420〜3421頁)。したがって、この環化は、溶液中の有機リン剤の蛍光による検出を可能にする。J.Rebek、Jr.のチームは、引き続き、3級アミンに近接している1級アルコールを含むいくらかのKemp酸誘導体も、神経毒性有機リン種を検出するための良い候補であることを示した(T.J.Dale & J.Rebek、Jr.、J.Am.Chem.Soc.、2006、4500〜4501頁)。S.−W.Zhangらが以前に示したように、1級アルコールが有機リン化合物と反応すると、得られたホスフェートは分子内求核置換による環化および下記スキームに示す反応に従う4級アンモニウムを得ることを可能にする。
【0009】
【化1】

【0010】
次に、Rebekらは、Rが蛍光団であるKemp酸誘導体を開発した。その開環形態では、蛍光は、アミンによる光誘導電子移動によって妨げられる。環化は、この電子移動を廃止し、分子の蛍光を増やす。蛍光団に結合したKemp酸を含むフィルターの、10ppmのDFPを含む雰囲気内における5秒の曝露が、UVランプ下で読みとることによって、蛍光によるこの有機リン化合物の検出を可能にする。この検出は特異的であるが、種々の欠点がある。まず第1に、光強度の低い環境内で検出を行わなければならない。したがって、有機リン化合物の存在を検出できるという前提で、またリアルタイムで常に使用できるわけではない。さらに、この検出はUVランプの使用を必要とするので、かさを増やし、ひいては有機リン化合物を検出および/または定量するためのデバイスの持ち運び性を低下させる。
【0011】
有機リン化合物に対して親和性を有する酵素、例えばコリンエステラーゼを含むバイオセンサーの使用に基づく方法も開発された。PCT出願WO2004/040004では、膜でアセチルコリンエステラーゼを発現する単細胞藻類を用いて、水性媒体中の有機リン化合物の存在について試験しており、その際アセチルコリンエステラーゼの阻害率は対照の水性液中の有機リン化合物の濃度と相関関係がある。この方法は、有機リン化合物の検出前に有機リン化合物の可溶化が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,571,401号
【特許文献2】WO2006/099518
【特許文献3】PCT出願WO2004/040004
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S.−W.ZhangおよびT.M.Swager、J.Am.Chem.Soc.2003、125、3420〜3421頁
【非特許文献2】T.J.Dale & J.Rebek、Jr.、J.Am.Chem.Soc.、2006、4500〜4501頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
要約すると、現在利用可能な有機リン化合物を検出するための方法には、有機リン化合物に選択的でない、または溶液のサンプルを試験するためにしか使用できない、または蛍光リーダーおよび低い光強度の環境を必要とするかのいずれかの欠点がある。したがって、未だに、気体状でもいずれの溶媒中の溶液でも、その光強度と無関係に、有機リン化合物を選択的に検出するための迅速で効率的かつ特異的な方法の開発、並びに簡単で迅速かつ選択的な検出のためコンパクトで容易に持ち運べるデバイスの開発も、戦闘圏内の兵士およびテロリズムの危険に曝されている、また有機リン殺虫剤の検出のためにさらに広範な一般市民集団の保護における主要問題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この趣旨で、本発明は、空間的に3級アミンに近接している1級アルコールを含む「受容体」分子を有機リン化合物の存在下に置くと発生する正電荷を使用する。この受容体分子の有機リン化合物への曝露が、1級アルコールと有機リン化合物との間の反応による不安定なリン酸エステル中間体の形成につながる。リン酸エステル中間体の、3級アミンによる求核置換を介した分子内環化、および4級アンモニウムの形成が引き続き起こる。環化反応中に、塩が形成され、ひいては異なった電荷(カチオンとアニオン)が発生する。アンモニウム官能基の生成による電荷の発生が、分子の静電環境を突然変化させることを可能にする。
【0016】
J.Rebekのチームは、このタイプの受容体分子が溶液中の有機リン化合物と反応することを示した。特に、刊行物T.J.Dale & J.Rebek、Jr.、J.Am.Chem.Soc.、2006、4500〜4501頁では、気体状の有機リン化合物を、Kemp酸誘導体の溶液に予め浸漬させて空気乾燥させたろ紙と接触させると、環化反応が起こる。
【0017】
予想外に、本発明者らは、前記分子が自己組織化単分子層(SAM)表面上に固定化している場合でさえ、受容体分子の環化が有効であることに気づいた。実際に、該層のため、受容体は相互に遮蔽することができ、受容体の反応性の低減につながったにちがいないであろう。
【0018】
したがって、本発明では、「受容体」分子が半導体部分の上または電極の一方の上にグラフトされている電気デバイスの抵抗、コンダクタンスまたは相互コンダクタンスの変化を分析することによって、局所的な静電環境の変化を可視化することで有機リン化合物の存在を実証する。この電気デバイスにより、有機リン化合物と受容体分子との間の反応によって生じた少なくとも1つの電荷の存在が検出される。本発明の目的では、有機リン分子は5価のリン原子を含む有機化合物、特に次の化学式P(=W)XYZ(ここで、W=OまたはS、かつX、Y、Z=周期表のいずれかの元素または族の元素)を有する有機化合物である。
【0019】
したがって、本発明の第1の主題は、
− 半導体材料で隔てられたソース電極とドレイン電極とを備える電気デバイスにおいて、基Rと、3級アミンに空間的に近接している1級アルコールとを含み、前記1級アルコールは有機リン化合物の存在下で前記3級アミンと反応することができる、少なくとも1つの受容体分子が、基Rによって、前記電極の一方の上または前記半導体材料の上にグラフトされている、電気デバイスと、
− 前記2つの電極間の正電荷の変化を検出するためのデバイスと
を備える、有機リン化合物を検出および/または定量するためのデバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
有利には、受容体分子はKemp酸誘導体であり、下記一般式Iを有する。
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、Rは、受容体分子を電極(複数)のどちらの上にもまたは半導体材料の上にグラフトすることができる官能基を含む基を表す。)
受容体分子は、下記一般式IIの分子でもよい。
【0023】
【化3】

【0024】
電気デバイスは、レジスタ型、または電界効果トランジスタ型でよい。
【0025】
電気デバイスがレジスタ型の場合、ソース電極とドレイン電極の間の電流の強度の変化(前記電流強度の変化は、受容体分子が有機リン化合物と接触したとき、受容体分子の環化中の正電荷の生成によってもたらされる)を、例えば、ソース電極とドレイン電極の間に印加した所定の既知電圧で検出し、必要に応じて測定する。この電流強度の変化がコンダクタンスの変化を与える。
【0026】
電気デバイスがトランジスタ型の場合、半導体部分を誘電半導体材料で構成し、ゲートをも備える。
【0027】
この場合もやはり、電流の強度の変化を、例えば、トランジスタを通過する、ソース電極とドレイン電極の間に印加した所定の既知電圧で検出し、任意に、測定する。電流の強度はゲートの電圧の関数なので、これがその次にトランジスタの相互コンダクタンスを与える。
【0028】
これら2つの場合、コンダクタンスの変化または相互コンダクタンスの変化は、有機リン化合物の存在を明らかにし、かつ有機リン化合物の濃度と比例する。
【0029】
受容体分子を、電気デバイスの半導体材料の上、またはソース電極の上、またはドレイン電極の上にグラフトする。伝導チャンネルの役割を果たす半導体材料は、有利には、炭素、シリコン、ゲルマニウム、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウムまたは有機半導体材料系の半導体材料である。
【0030】
好ましくは、半導体材料は、シリコンまたはカーボンのナノワイヤーおよび/またはナノチューブで構成される。
【0031】
さらに好ましくは、半導体材料は、SOI(絶縁体上のシリコン)表面上にエッチングされたシリコンナノワイヤーで構成される。
【0032】
有機半導体材料の場合、オリゴマー、ポリマーまたは小分子であってよい。例えば、ヘテロ環式芳香族化合物、例えばチオフェンおよびその誘導体、好ましくはP3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)、またはポリピロールおよびその誘導体、アリールアミンおよびその誘導体、好ましくはPTA(ポリトリアリールアミン)、イソクロメノンおよびその誘導体、ヘテロ環式大員環、例えばポルフィリン、フタロシアニンおよびそれらの誘導体であってよい。有機半導体材料は、芳香族多環式アセンおよびその誘導体、好ましくはアントラセンまたはペンタセン、アリーレンおよびその誘導体、例えばペリレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリ(パラフェニレンビニレン)またはポリフルオレン、ポリシランおよびその誘導体であってもよい。
【0033】
電極は金属電極、例えば金、銀、パラジウム、白金、チタン、ドープシリコン、銅またはニッケル製でよい。
【0034】
基Rは、受容体分子を半導体材料または電極の上にグラフトするための官能基を含む。
【0035】
このグラフト化のための官能基は、特に以下から選択される:飽和または不飽和の単環式または多環式芳香族炭化水素;アルケン(例えば、ビニル型の);アルキン(例えば、アセチレン型の);トリハロシランまたはトリアルコキシシラン化合物;ジアゾ化合物、ジアゾニウム塩および誘導体;アジド;フリーラジカル前駆体;イソシアネートおよび誘導体、有機金属化合物および誘導体(例えば、リチウム化合物、有機マグネシウム化合物または亜鉛化合物型の);イオウ含有誘導体、例えばチオールおよびメルカプタン;カルボン酸および/またはスルホン酸および/またはリン酸並びにそのエステル誘導体;アルコール、フェノール;アミン、アミド;ハロゲン化物。したがって、基Rは、例えば、エチニルフェニル、ビニルフェニル、ジアゾフェニルまたはピレンである。
【0036】
基Rのグラフト化に供される部分は、選択した材料に適するものである。
【0037】
例えば、シリコンでは、グラフト化に供される部分は、アルキン、アルケン、ジアゾニウム塩、トリアゼンまたはフリーラジカル前駆体であってよい。シリコンを酸化物、例えば、自然酸化物の微細な層でコーティングしてもよい。この場合、グラフト化に供される部分は、シラン化合物(例えば、トリアルコキシシランまたはトリハロシラン)または酸化物の表面に結合するいずれの他の種であってもよい。
【0038】
全ての場合に、1または複数のステップで受容体部分のグラフト化を実施し得る。例えば、半導体の表面を第1の分子と反応させ、引き続きこのグラフト化分子の官能基を、有機リン化合物受容体部分を含む第2の有機分子と反応させることができる。例えば、アルコール官能基の保護/脱保護のステップを想定し得る。反応性官能基、例えばヒドリド若しくはヒドロキシル型、または上述した官能基の1つを含むプレ官能化基質上に有機リン化合物感受性分子をグラフトすることもできる。
【0039】
例えば、シリコン、またはその自然酸化物を、末端官能基を含む第1系列の有機分子で官能化してよく、その末端官能基上に、第2のステップで通常の有機、有機金属または無機合成法で受容体分子をグラフトする。
【0040】
共有結合によってまたは弱い相互作用を安定化することよる構築が可能である。好ましくはカーボンナノチューブの場合、例えば、π−π結合(軌道の重なりを安定化)による構築を想定することができる。
【0041】
1つまたは複数のカーボンナノチューブを半導体材料として使用する場合、グラフト化に供される部分は以下のものでよい:
− ジアゾニウム塩、トリアゼン、いずれかのフリーラジカル前駆体、またはカーボンナノチューブの炭素原子と共有結合を形成できるいずれかの分子;
− 芳香族基(例えばピレン、アントラセン、ポルフィリンなど)またはナノチューブの非共有結合(超分子)官能化を可能にするアミン群の誘導体;
− 必要に応じて、エステルまたはアミドの形成のための(例えば、カップリング剤での)化学的活性化後の、カーボンナノチューブの表面に存在するカルボン酸との反応のためのアミンまたはアルコール。
【0042】
ゲルマニウム系半導体材料の場合、グラフト化に供される部分は、例えば、アルキンまたはアルケンであってよい。
【0043】
半導体材料がインジウムガリウムヒ素(InGaAs)の場合、グラフト化官能基はイオウ含有化合物、例えばチオールであってよい。
【0044】
セレン化カドミウム(CdSe)または硫化カドミウム(CdS)系半導体材料の場合、グラフト化官能基はアミンまたはイオウ含有化合物、例えばチオールであってよい。
【0045】
半導体材料が酸化亜鉛の場合、グラフト化官能基はカルボン酸またはリン酸であってよい。
【0046】
半導体材料が硫化亜鉛(ZnS)の場合、グラフト化官能基はイオウ含有化合物、例えばチオールであってよい。
【0047】
有機半導体の場合、受容体は有機材料の合成中に組み込まれるであろう。
【0048】
電極の1つを官能化し、かつ前記電極を金で作製する場合、例えば、チオール、保護されたチオール(例えば、チオアセテート)、ジスルフィドなどのイオウ含有有機誘導体を使用し得る。
【0049】
有利には、「受容体」分子の基Rは、半導体材料の上または電極の上へのグラフト化に供される官能基に加えて、受容体分子と半導体材料または電極との間の距離の調節を可能にする「スペーサー」部分を含む。
【0050】
基Rの「スペーサー」部分は、1つまたは複数のヘテロ原子、および/または芳香族基、および/またはヘテロ芳香族基を含んでいてもよいC〜C20アルキル基であり得る。
【0051】
本デバイスの簡単な構造が低コストの大規模生産を可能にする。さらに、この簡単な構造のため、本デバイスはサイズが非常に小さくてよく、操作するために少しのエネルギーしか必要とせず、デバイスの持ち運び性を高める。
【0052】
本発明の別の主題は、有機リン化合物を検出および/または定量するための方法であって、以下のステップ:
a)液体状または気体状の試験サンプルを、前述した通りの本発明の検出デバイスの存在下に置くステップ;
b)前記デバイスの抵抗、コンダクタンス若しくは相互コンダクタンスの差異を検出および/または測定することによって、有機リン化合物によって誘導された受容体分子の分子内環化の反応により発生した正電荷を証明するステップ
を含む方法に関する。
【0053】
本発明は、本発明の検出デバイスの製法の非限定例として与える実施例および有機リン化合物を検出するための方法におけるその使用に言及する、以下のさらなる説明からさらに明白に理解されるであろう。
【実施例1】
【0054】
擬MOSトランジスタ型のセンサーの製作
1.1.試験デバイスの製造
半導体材料が、厚さ77nmの酸化シリコンの層上にエッチングされた、幅280nm、長さ4μm、厚さ16nmのエッチングシリコンナノワイヤーである、SOI上に電気デバイスを製作した。
【0055】
1.2.受容体の合成
官能基Rが4−エチニルベンジルである受容体をKemp三酸を用いて合成した。第1のステップで、塩化チオニル中の還流によってKemp三酸を無水物(生成物1)に変換する。残存塩化チオニルの蒸発後、ピリジン中で還流させながら生成物1を4−ヨードベンジルアミンと反応させ、次にトリメチルシリルジアゾメタンで処理する。園頭反応は、トリメチルシリル基で保護されたアルキンの導入を可能にする。分子3のLiAlHによる処理は、アミンおよびアルコール基を与えるように、それぞれイミドおよびエステル基を還元することができる。予想外に、シリル化基の脱保護が観察される。DFPによる処理で得られたKemp誘導体4の環化をNMR管内で行った。環化は完了する。
【0056】
【化4】

【0057】
1.3.試験デバイス上への受容体のグラフト化
熱的ヒドロシリル化によって、試験デバイス上に受容体をグラフトする。濃硫酸と30%の過酸化水素水の3対1混合物で構成されるピラニア溶液でデバイスを洗浄し、次に1質量%のHF溶液で処理する。この活性化デバイスを、メシチレン中の受容体4の0.5mM溶液内で還流させる。
【実施例2】
【0058】
センサーによる有機リン化合物の検出
実施例1で得られたデバイスを用いて有機リン化合物の存在を検出した。このため、ジイソプロピルフルオロホスフェート蒸気(10ppm)を含むチャンバー内に1分間、本発明のデバイスを置いた。
【0059】
受容体はその開環状態(有機リン分子との反応前)では、中性分子(静電電荷なし)である。有機リン分子、この実施例ではジイソプロピルフルオロホスフェートと反応すると、環化が生じ、アンモニウムの形態で電荷が生成される。この電荷の発生は、デバイスのコンダクタンスの変化によって電気的に検出される。上記条件下では、5%を超えるコンダクタンスの相対変化(Δg/g)が測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)半導体材料で隔てられたソース電極とドレイン電極とを備える電気デバイスにおいて、基Rと、3級アミンに空間的に近接している1級アルコールとを含み、前記1級アルコールが有機リン化合物の存在下で前記3級アミンと反応することができる、少なくとも1つの受容体分子が、前記基Rによって、前記電極の一方の上または前記半導体材料の上にグラフトされていることを特徴とする電気デバイスと、
2)前記2つの電極間の正電荷の変化を検出するためのデバイスと
を備える、有機リン化合物を検出および/または定量するためのデバイス。
【請求項2】
前記半導体材料が、炭素、シリコン、ゲルマニウム、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウムまたは有機半導体材料に基づく材料から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項3】
前記半導体材料が、シリコンナノワイヤーおよび/またはカーボンナノチューブで構成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項4】
前記半導体材料がシリコンナノワイヤーであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項5】
前記電極の材料が、金、銀、パラジウム、白金、チタン、ドープシリコン、銅またはニッケルから選択される金属であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項6】
前記受容体分子が、Kemp酸を用いて得られ、かつ下記一般式Iを有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス
【化1】

(式中、Rは、前記受容体分子を前記電極(複数)のどちらの上にもまたは前記半導体材料の上にグラフトすることができる官能基を含む基を表す)。
【請求項7】
前記受容体分子が、下記一般式IIの分子であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス
【化2】

(式中、Rは、前記受容体分子を前記電極(複数)のどちらの上にもまたは前記半導体材料の上にグラフトすることができる官能基を含む基を表す)。
【請求項8】
前記電気デバイスがレジスタ型であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項9】
前記電気デバイスが電界効果トランジスタ型であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項10】
前記半導体材料がシリコンであり、前記受容体分子が前記半導体材料の上にグラフトされていること、および前記グラフト化に供される、前記受容体分子の前記基Rのグラフト化官能基が、アルキン、アルケン、ジアゾニウム塩、トリアゼンまたはフリーラジカル前駆体から選択されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項11】
前記半導体材料がカーボンナノチューブで構成され、前記受容体分子が前記半導体材料の上にグラフトされていること、および前記グラフト化に供される、前記受容体分子の前記基Rのグラフト化官能基が、ジアゾニウム塩、トリアゼン、フリーラジカル前駆体、芳香族基、前記ナノチューブの非共有結合官能化を可能にするアミン群の誘導体、アミンまたはアルコールから選択されることを特徴とする、請求項1から3および5から9のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項12】
前記半導体材料がゲルマニウム系であり、前記受容体分子が前記半導体材料の上にグラフトされていること、および前記グラフト化に供される、前記受容体分子の前記基Rのグラフト化官能基が、アルキンまたはアルケンであることを特徴とする、請求項1から3および5から9のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項13】
前記半導体材料がインジウムガリウムヒ素(InGaAs)で構成され、前記受容体分子が前記半導体材料の上にグラフトされていること、および前記グラフト化に供される、前記受容体分子の前記基Rのグラフト化官能基が、イオウ含有化合物であることを特徴とする、請求項1から3および5から9のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項14】
前記半導体材料がセレン化カドミウム(CdSe)または硫化カドミウム(CdS)系であり、前記受容体分子が前記半導体材料の上にグラフトされていること、および前記グラフト化に供される、前記受容体分子の前記基Rのグラフト化官能基が、アミンおよびイオウ含有化合物から選択されることを特徴とする、請求項1から3および5から9のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項15】
前記半導体材料が酸化亜鉛系であり、前記受容体分子が前記半導体材料の上にグラフトされていること、および前記グラフト化に供される、前記受容体分子の前記基Rのグラフト化官能基が、カルボン酸およびリン酸から選択されることを特徴とする、請求項1から3および5から9のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項16】
前記半導体材料が硫化亜鉛系であり、前記受容体分子が前記半導体材料の上にグラフトされていること、および前記グラフト化に供される、前記受容体分子の前記基Rのグラフト化官能基が、イオウ含有化合物であることを特徴とする、請求項1から3および5から9のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項17】
前記電極が金製であり、前記受容体分子が前記電極の一方の上にグラフトされていること、および前記グラフト化に供される、前記受容体分子の前記基Rのグラフト化官能基が、イオウ含有有機誘導体であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイス。
【請求項18】
有機リン化合物を検出および/または定量するための方法において、以下のステップ:
− 液体状または気体状の試験サンプルを、請求項1から17のいずれか一項に記載の検出および/または定量デバイスの存在下に置くステップと、
− 前記デバイスの抵抗、コンダクタンスまたは相互コンダクタンスの差異を測定することによって、前記有機リン化合物によって誘導された前記受容体分子の分子内環化の反応により発生した正電荷を証明するステップと
を含むことを特徴とする方法。

【公開番号】特開2010−44065(P2010−44065A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−171470(P2009−171470)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク (85)
【Fターム(参考)】