説明

有機リン系難燃剤及びその製造方法

本発明は、有機リン系難燃剤及びその製造方法に関し、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとを反応させる段階と、有機溶剤に前記反応物を投入して反応生成物を抽出する段階と、前記反応生成物にホスフィン系またはホスファイト系化合物を添加して縮合重合を行う段階と、を含むことを特徴とする有機リン系難燃剤の商業的な製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応時にテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、様々な合成樹脂との分散性及び相溶性が非常に優れ、高い分解温度により優れた耐熱性を有して合成樹脂の加工温度においても分解されない有機リン系難燃剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、合成樹脂に使用される難燃剤には、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤などがある。
【0003】
ハロゲン系難燃剤は、主にブロム(Br)が含まれているブロム系難燃剤が使用されており、補助難燃剤として三酸化アンチモンなどの金属化合物と混合して使用する。ハロゲン系難燃剤の場合、難燃性は容易に確保できるが、樹脂との相溶性が良好でなく、押出機内の滞留により分解され炭化物が発生し、加工及び燃焼時に臭化水素酸、ダイオキシン、ベンゾフランなどのような有害な毒性ガスが発生するなどの問題点がある。このようにハロゲン系難燃剤は、製品物性、製造工程及び安全性には良くない影響を与える短所がある。
【0004】
非ハロゲン系難燃剤には、例えば、無機水和物、窒素化合物及び有機リン系難燃剤などをが挙げられるが、無機水和物の場合、十分な難燃効果を発揮するために過剰量の無機水和物を使用しなければならず、そのため、成形加工性が容易でない問題が発生する可能性があり、窒素化合物の場合には、難燃効果が多少不十分なだけでなく、燃焼時に有毒ガスが発生する可能性がある。
【0005】
一方、有機リン系難燃剤は、通常難燃性には優れているが熱に対する安全性が劣っており、依然として改善すべき事項が存在しているが、ハロゲン系難燃剤を代替できる最も好ましい代替物として認識されている。
【0006】
特に、本発明の9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(DOPO;9,10−dihydro−9−oxa−10−phosphaphenanthrene−10−oxide)は代表的な有機リン系化合物であって、米国登録特許第4,280,951号では、DOPO及び各種DOPO誘導体の製造方法を開示しており、これを用いた難燃剤の製造方法に対する研究が活発に行われている。
【0007】
一方、米国登録特許第4,618,693号では、DOPOとp−ベンゾキノンとを反応させて新たな環状有機リン系化合物を製造する方法について開示している。しかし、前記文献に言及された有機リン系化合物は、高価の原料物質を使用しているため、商業的に容易に使用することが困難である。
【0008】
また、米国登録特許第4,086,206号では、DOPOとホルムアルデヒドとを反応させてDOPO−メチロールを製造した後、メラミンと縮合重合を行って新たなリン系難燃剤を製造する方法について言及しているが、前記文献の有機リン系化合物もまた分解温度が低くて難燃効果及び熱安定性が低下する問題があり、商業化も困難である。
【0009】
従って、耐熱性においてさらなる改善が要求されており、不良な耐湿性及び低い分解温度による耐熱性低下のような従来技術の問題点を克服するために優れた耐熱性を有する有機リン系難燃剤を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためのものであって、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応時にテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、様々な合成樹脂との分散性及び相溶性が非常に優れ、高い分解温度により優れた耐熱性を有して合成樹脂の加工温度においても分解されない有機リン系難燃剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、有機リン系難燃剤を製造する際に反応物の分析による反応終点を確認して反応生成物であるテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、生成物の不安定な物質組成の問題点を補完し、同一の物性を有する有機リン系難燃剤の商業的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を果たすために、本発明では、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応時、テトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、高い分解温度を有し、様々な合成樹脂に使用する際に分散性及び相溶性が非常に優れ、優れた耐熱性を有して合成樹脂の加工温度においても分解されない有機リン系難燃剤及びその製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明者らは、有機リン系難燃剤を製造する際に反応物の分析による反応終点を確認して反応生成物であるテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、生成物の不安定な物質組成の問題点を補完し、耐熱性及び合成樹脂に対する分散性が非常に優れていることを確認して本発明を完成した。
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
本発明は、有機リン系難燃剤及びその製造方法に関し、
a)ビスフェノールAとホルムアルデヒドとを反応させる段階と、
b)有機溶剤に前記反応物を投入して反応生成物を抽出する段階と、
c)前記反応生成物にホスフィン系またはホスファイト系化合物を添加して縮合重合を行う段階と、
を含み、前記ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応段階は、テトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することを特徴とする有機リン系難燃剤の製造方法に関する。
【0016】
本発明のホルムアルデヒドは、ビスフェノールAに対して3.5〜4.5のモル比で混合して反応させ、前記範囲のモル比に使用する場合、反応生成物以外の反応に参加できなかった未反応物の生成が少なく、優れた難燃効果を有するという利点がある。
【0017】
また、前記ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応段階は、テトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することを特徴とし、テトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量が前記範囲である場合、非常に分解温度が高く、非常に優れた耐熱性を有する有機リン系難燃剤の製造が可能となる。
【0018】
本発明のテトラヒドロキシメチルビスフェノールAは、4個のヒドロキシメチル基がビスフェノールAのオルト(ortho)位置に置換された2,2´,6,6´−テトラヒドロキシメチルビスフェノールAであり、前記テトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、優れた耐熱性を有する有機リン系難燃剤を製造することができる。
【0019】
本発明による有機リン系難燃剤は、製造時に反応物の分析による反応終点を確認して反応生成物であるテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、生成物の不安定な物質組成の問題点を補完することができる。テトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量は高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。
【0020】
また、前記a)段階は35〜80℃で行うことが好ましく、前記範囲で行う場合、反応中に生成されるテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの生成量が多くなるという効果がある。
【0021】
本発明のb)段階で使用される有機溶剤は、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メトキシエタノール及び1−メトキシ−2−プロパノールから選択される1種以上であり、前記有機溶剤は反応生成物を抽出するために使用される。
【0022】
本発明のc)段階で使用されるホスフィン系またはホスファイト系化合物は、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(DOPO)またはジフェニルホスフィンオキシド(DPO)が使用され、前記ホスフィン系またはホスファイト系化合物は、ビスフェノールAに対して2〜3.5のモル比で添加して使用され、前記範囲のモル比で添加する場合、最終生成される有機リン系難燃剤に未反応のDOPOまたはDPOが過剰量存在することを効果的に防止できる。
【0023】
下記反応式1は、本発明の有機リン系難燃剤の合成過程を示したものであり、下記の製造方法が本発明による有機リン系難燃剤の製造方法を限定するものではない。
[反応式1]
【0024】
【化1】

【0025】
前記反応式1は、有機リン系難燃剤の合成過程であって、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとを反応させて反応生成物AであるテトラヒドロキシメチルビスフェノールA及びオリゴマーを合成し、前記反応生成物Aに9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(DOPO)を反応させてB(テトラ−DOPO−ビスフェノールA)が生成されることが確認できる。本発明による有機リン系難燃剤は、製造時にビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応生成物であるテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、合成樹脂に使用される場合、分散性及び相溶性に優れ、非常に優れた耐熱性を有して合成樹脂の加工温度においても分解されない有機リン系難燃剤を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の有機リン系難燃剤は、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応時にテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、様々な合成樹脂との分散性及び相溶性が非常に優れ、高い分解温度により優れた耐熱性を有して合成樹脂の加工温度においても分解されない効果がある。
【0027】
また、本発明は、有機リン系難燃剤を製造する際に反応物の分析による反応終点を確認して反応生成物であるテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、生成物の不安定な物質組成の問題点を補完し、耐熱性及び分散性が非常に優れた有機リン系難燃剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1による有機リン系難燃剤のHPLC分析結果を示すものである。
【図2】実施例2による有機リン系難燃剤のHPLC分析結果を示すものである。
【図3】実施例3による有機リン系難燃剤のHPLC分析結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
このような本発明を実施例及び比較例に基づき説明すると次のとおりであり、本発明は実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0030】
[分析方法]
1.高性能液体クロマトグラフィー(HPLC;high performance Liquid chromatography)
本発明の有機リン系難燃剤の製造方法において分析段階に使用されたHPLCはWaters社のwaters 2690であり、カラムはcosmosil C18(4.6×150mm)を使用して分析した。移動相としては10%メタノール水溶液(A)と100%メタノール(B)を使用し、5分間A溶液60%及びB溶液40%に溶離した後、15分間B溶液100%に変換した後、また10分間B溶液100%に溶離して分析した。
【0031】
2.熱重量分析法(TGA;thermogravimetric analyzer)
有機リン系難燃剤の分解温度を測定するために、TA instruments社のTGA 2050を使用し、移動ガスはヘリウムを使用して20℃/min条件下で常温〜600℃までの温度範囲で測定した。
【0032】
3.核磁気共鳴分光法(NMR;nuclear magnetic resonance)
核磁気共鳴分光法を分析するために、Varian社のGemini 200を使用し、溶媒はDMSO−d6を使用した。分析方法は、製造されたサンプル0.03gを溶媒0.5mLに溶解した後に分析した。
【0033】
[実施例1]
反応器に水酸化ナトリウム(NaOH)105.1g、ビスフェノールA300g及びホルムアルデヒド水溶液(35%)426.6gを投入して45℃で15時間反応させた。反応中にHPLCで分析してテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量が75.2重量%になると反応を終了した。前記混合物を常温で1時間冷却した後、1−ブタノール2Lに投入し、35%の濃塩酸溶液267gを蒸留水250gに希釈した塩酸溶液を滴下して酸性化させてから生成物を抽出して層分離を行う。上層である有機層を蒸留水で洗浄した後、反応生成物2kgを得た。
【0034】
−HPLC分析:tetra−(75.2重量%)、tri−(6.8重量%)、di−(1.6重量%)、mono−(0.6重量%)、oligomers(15.8重量%)
【0035】
前記反応生成物2kgを濃縮させた後、DOPO885g/1−メトキシ−2−プロパノール980mLを添加して200℃で反応させながら溶媒と生成された水を蒸留装置を用いて除去した。4時間攪拌してから反応を終了した後、粘度のあるゲル状の有機リン系難燃剤1.1kgを得た。
【0036】
−HPLC分析:DOPO−methylol(1.2重量%)、DOPO(1.7重量%)、Tri−DOPO−BPA(7.2重量%)、Tetra−DOPO−BPA(76.3重量%)、DOPO−oligomers(9.5重量%)、Unknown(4.1重量%)
−分解温度:400℃(TGA)
31P−NMR200MHz:35.77ppm
−P contants(%):10.69%
【0037】
前記実施例1の分析結果、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応時にテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を75.2重量%に調節することで、分解温度が400℃と非常に優れた熱安定性を有することが確認でき、31P−NMR分析により出発物質であるDOPOが反応生成物に全て転換されたことが確認できた。
【0038】
下記図1は、本発明の好ましい実施例1による有機リン系難燃剤のHPLC分析結果である。下記図1を参照すると、重合体中にTetra−DOPO−BPA(tetrakis(DOPO−methyl)bisphenol A)の含量が76.3重量%であることが確認できる。
【0039】
[実施例2]
反応器に水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液(50%)280.34g、ビスフェノールA400g及びホルムアルデヒド水溶液(35%)601.3gを投入して80℃で反応させた。HPLCで分析してテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量が50重量%になると反応を終了した。前記混合物を10℃で1時間冷却した後、1−ブタノール2Lに投入し、35%の濃塩酸溶液267gを蒸留水250gに希釈した塩酸溶液を滴下して酸性化させてから生成物を抽出して層分離を行う。上層である有機層を蒸留水で洗浄した後、反応生成物2kgを得た。
【0040】
−HPLC分析:tetra−(56.0重量%)、tri−(5.0重量%)、di−(1.4重量%)、mono−(0.3重量%)、oligomers(37.3重量%)
【0041】
前記反応生成物2kgを濃縮させた後、DOPO787.9g/1−メトキシ−2−プロパノール900mLを添加して151℃で反応させた。4時間攪拌させてから反応を終了した後、粘度のあるゲル状の有機リン系難燃剤1.2kgを得た。
【0042】
−HPLC分析:DOPO−methylol(0.7重量%)、DOPO(0.06重量%)、Tri−DOPO−BPA(2.8重量%)、Tetra−DOPO−BPA(45.7重量%)、DOPO−oligomers(50.1重量%)、Unknown(0.64重量%)
−分解温度:400℃(TGA)
31P−NMR200MHz:35.77ppm
−P contants(%):9.1%
【0043】
前記実施例2の分析結果、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応時にテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を56重量%に調節することで、分解温度が400℃と非常に優れた熱安定性を有することが確認でき、31P−NMR分析により出発物質であるDOPOが反応生成物に全て転換されたことが確認できた。
【0044】
下記図2は、本発明の好ましい実施例2による有機リン系難燃剤のHPLC分析結果である。下記図2を参照すると、重合体中のTetra−DOPO−BPA(tetrakis(DOPO−methyl)bisphenol A)の含量が45.7重量%であることが確認できる。
【0045】
[実施例3]
実施例2の前記反応生成物2kgを濃縮させた後、DPO797.1g/1−ブタノール550mLを添加して151℃で反応させた。4時間攪拌させてから反応を終了した後、粘度のあるゲル状の有機リン系難燃剤1.1kgを得た。
【0046】
−HPLC分析:DPO−methylol(0.04重量%)、DPO(0.05重量%)、Tri−DPO−BPA(6.4重量%)、Tetra−DPO−BPA(41.5重量%)、DPO−oligomers(45.5重量%)、Unknown(6.51重量%)
−分解温度:370℃(TGA)
31P−NMR200MHz:33.90ppm
−P contants(%):10.3%
【0047】
前記実施例3の分析結果、分解温度が370℃と優れた熱安定性を有することが確認でき、31P−NMR分析により出発物質であるDPOが反応生成物に全て転換されたことが確認できた。
【0048】
下記図3は、本発明の好ましい実施例3による有機リン系難燃剤のHPLC分析結果である。下記図3を参照すると、重合体中のTetra−DPO−BPA(tetrakis(DPO−methyl)bisphenol A)の含量が41.5重量%であることが確認できる。
【0049】
[比較例1]
前記実施例1と同様に実施するが、反応中にHPLCで分析してテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量が38.8重量%になると反応を終了した。前記混合物を常温で1時間冷却した後、1−ブタノール2Lに投入し、35%の濃塩酸溶液267gを蒸留水250gに希釈した塩酸溶液を滴下して酸性化させてから生成物を抽出して層分離を行う。上層である有機層を蒸留水で洗浄した後、反応生成物2kgを得た。
【0050】
−HPLC分析:tetra−(38.8重量%)、tri−(17.3重量%)、di−(14.1重量%)、mono−(1.3重量%)、oligomers(28.5重量%)
【0051】
前記反応生成物2kgを濃縮させた後、DOPO885g/1−メトキシ−2−プロパノール980mLを添加して200℃で反応させながら溶媒と生成された水を蒸留装置を用いて除去した。4時間攪拌させてから反応を終了した後、粘度のあるゲル状の有機リン系難燃剤1.1kgを得た。
【0052】
−HPLC分析:DOPO−methylol(5.7重量%)、DOPO(22.3重量%)、Tri−DOPO−BPA(18.6重量%)、Tetra−DOPO−BPA(39.2重量%)、DOPO−oligomers(7.2重量%)、Unknown(7.0重量%)
−分解温度:325℃(TGA)
31P−NMR200MHz:30.12ppm
−P contants(%):8.21%
【0053】
前記比較例1の分析結果、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応時にテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量が38.8重量%に製造された有機リン系難燃剤は、分解温度が325℃と本発明の有機リン系難燃剤に比べて低くなったことが確認できた。
【0054】
[比較例2]
前記実施例1と同様に実施するが、反応中にHPLCで分析してテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量が25.7重量%になると反応を終了した。前記混合物を常温で1時間冷却した後、1−ブタノール2Lに投入し、35%の濃塩酸溶液267gを蒸留水250gに希釈した塩酸溶液を滴下して酸性化させてから生成物を抽出して層分離を行う。上層である有機層を蒸留水で洗浄した後、反応生成物2kgを得た。
【0055】
−HPLC分析:tetra−(25.7重量%)、tri−(19.8重量%)、di−(17.3重量%)、mono−(7.1重量%)、oligomers(30.1重量%)
【0056】
前記反応生成物2kgを濃縮させた後、DOPO885g/1−メトキシ−2−プロパノール980mLを添加して200℃で反応させながら溶媒と生成された水を蒸留装置を用いて除去した。4時間攪拌させてから反応を終了した後、粘度のあるゲル状の有機リン系難燃剤1.1kgを得た。
【0057】
−HPLC分析:DOPO−methylol(7.9重量%)、DOPO(34.4重量%)、Tri−DOPO−BPA(17.3重量%)、Tetra−DOPO−BPA(26.2重量%)、DOPO−oligomers(6.9重量%)、Unknown(7.3重量%)
−分解温度:310℃(TGA)
31P−NMR200MHz:30.12ppm
−P contants(%):8.21%
【0058】
前記比較例2の分析結果、ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応時にテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量が25.7重量%に製造された有機リン系難燃剤は、分解温度が310℃と本発明の有機リン系難燃剤に比べて低くなったことが確認できた。
【0059】
前記実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2により製造された有機リン系難燃剤を比較した結果、比較例1及び比較例2の有機リン系難燃剤に比べて本発明の製造方法によって製造された有機リン系難燃剤の分解温度が高いだけでなく、合成樹脂に使用する際に分散性及び相溶性が非常に優れ、非常に優れた耐熱性を有して合成樹脂の加工温度においても分解されない効果があった。
【0060】
また、本発明の有機リン系難燃剤を製造する際に、HPLCを用いた反応物の分析により反応生成物であるテトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することで、様々な合成樹脂との分散性及び相溶性が非常に優れ、高い分解温度を有して耐熱性にも優れた有機リン系難燃剤の製造が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ビスフェノールAとホルムアルデヒドとを反応させる段階と、
b)有機溶剤に前記反応物を投入して反応生成物を抽出する段階と、
c)前記反応生成物にホスフィン系またはホスファイト系化合物を添加して縮合重合を行う段階と、を含み、
前記ビスフェノールAとホルムアルデヒドとの反応段階は、テトラヒドロキシメチルビスフェノールAの含量を50〜90重量%に調節することを特徴とする有機リン系難燃剤の製造方法。
【請求項2】
前記ホスフィン系またはホスファイト系化合物は、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドまたはジフェニルホスフィンオキシドである請求項1に記載の有機リン系難燃剤の製造方法。
【請求項3】
前記a)段階は35〜80℃で行う請求項2に記載の有機リン系難燃剤の製造方法。
【請求項4】
前記ホルムアルデヒドは、ビスフェノールAに対して3.5〜4.5のモル比で混合するものである請求項1に記載の有機リン系難燃剤の製造方法。
【請求項5】
前記c)段階のホスフィン系またはホスファイト系化合物は、ビスフェノールAに対して2〜3.5のモル比で添加されるものである請求項1に記載の有機リン系難燃剤の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶剤は、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メトキシエタノール及び1−メトキシ−2−プロパノールからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の有機リン系難燃剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法により製造される有機リン系難燃剤。
【請求項8】
請求項2に記載の製造方法により製造される有機リン系難燃剤。
【請求項9】
請求項3に記載の製造方法により製造される有機リン系難燃剤。
【請求項10】
請求項4に記載の製造方法により製造される有機リン系難燃剤。
【請求項11】
請求項5に記載の製造方法により製造される有機リン系難燃剤。
【請求項12】
請求項6に記載の製造方法により製造される有機リン系難燃剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−522861(P2012−522861A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503328(P2012−503328)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/KR2010/001970
【国際公開番号】WO2010/114302
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(510013275)アイディー バイオケム インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】ID BIOCHEM, INC.
【住所又は居所原語表記】4F, Yuhan Building, 591−14, Sinsa−dong, Gangnam−gu, Seoul 135−893 Republic of Korea
【Fターム(参考)】