説明

有機光電変換素子及びその製造方法

【課題】開放電圧を高め、光電変換効率を向上させるさせることができる有機光電変換素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】第1の電極1と第2の電極6の間に、電子供与性材料からなる電子供与層3と、電子受容性材料からなる電子受容層4が設けられた有機光電変換素子において、第1の電極1と電子供与層3の間に、電子供与性材料のHOMOエネルギーレベルの絶対値より大きな絶対値の仕事関数を有する金属酸化物層2が設けられていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料の光起電力効果を利用した有機光電変換素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機光電変換素子は、従来の無機半導体を利用したフォトダイオード等に比べ、製造のエネルギーコストが低く、また廃棄の環境負荷が小さいなどの利点があることから実用化に向けた研究が進められている。
【0003】
有機光電変換素子においては、一般に、陽極と陰極の間に、電子供与性材料からなる電子供与層と、電子受容性材料からなる電子受容層とから構成された光電変換領域が設けられている。有機光電変換素子に光が照射されると、光電変換領域において光吸収が起こり、励起子が形成され、続いてキャリアが分離され、電子は電子受容層を通して陰極へ、正孔は電子供与層を通して陽極へ移動する。これにより、陽極と陰極の間に起電力が発生し、外部回路をつなげることにより、電力を取り出すことができる。
【0004】
有機光電変換素子の光電変換効率を向上させるためには、光電変換領域の光吸収特性を入射光のスペクトルに合わせて入射光を効率良く吸収させることや、電荷分離を効率良く行わせる材料設計やデバイス構造の検討や、さらには構成材料のキャリアモビリティを向上させ、電極までできるだけ効率良くキャリアを輸送することが必要であり、それぞれ鋭意研究がなされている(例えば、特許文献1及び非特許文献1など)。
【0005】
電子供与性材料及び電子受容性材料は、有機光電変換素子のデバイス特性に大きく影響を与えるものであるが、これらの材料以外の部分において、光電変換効率を向上することができれば、新規な電子供与性材料及び電子受容性材料が新たに見出された場合にも応用できるため非常に重要である。
【特許文献1】特開2003−332599号公報
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.48,183(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、開放電圧を高め、光電変換効率を向上させることができる有機光電変換素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1の電極と第2の電極の間に、電子供与性材料からなる電子供与層と、電子受容性材料からなる電子受容層が設けられた有機光電変換素子において、第1の電極と電子供与層の間に、電子供与性材料のHOMOエネルギーレベルの絶対値より大きな絶対値の仕事関数を有する金属酸化物層が設けられていることを特徴としている。
【0008】
本発明においては、第1の電極と電子供与層の間に、電子供与性材料のHOMO(最高被占分子軌道)のエネルギーレベルの絶対値よりも大きな絶対値の仕事関数を有する金属酸化物層が設けられている。このような金属酸化物層を設けることにより、電子供与層の電子供与性材料のHOMOエネルギーレベルが、隣接する金属酸化物層によって、いわゆるバンドベンディングを生じ、真空準位に対して深い方向に曲げられる。すなわち、電子供与性材料のHOMOのエネルギーレベルの絶対値が大きくなる。このため、電子供与層のHOMOのエネルギーレベルと、電子受容層のLUMO(最低空分子軌道)のエネルギーレベルとの差が大きくなり、開放電圧を高めることができる。このため、有機光電変換素子の光電変換効率を向上させることができる。
【0009】
本発明においては、金属酸化物の仕事関数の絶対値が、第1の電極の仕事関数の絶対値よりも大きいことが好ましいい。これにより、第1の電極へ正孔を効率良く移動させることができる。
【0010】
また、本発明においては、金属酸化物層の仕事関数の絶対値が、電子受容性材料のHOMOエネルギーレベルの絶対値よりも小さいことが好ましい。これにより、光電変換領域で発生した正孔を効率良く第1の電極に移動させることができる。
【0011】
本発明において、金属酸化物の光透過率は、波長400〜800nmの領域において平均70%以上であることが好ましい。これにより、光電変換領域に到達する光の量を高めることができ、光電変換効率を向上させることができる。
【0012】
本発明における金属酸化物層は、電子供与性材料のHOMOエネルギーレベルの絶対値より大きな絶対値の仕事関数を有する金属酸化物から形成することができる。このような金属酸化物としては、周期率表の3A族から2B族の遷移金属の酸化物を挙げることができる。特に、蒸着法により成膜することができる金属酸化物が好ましく用いられ、具体的には、三酸化モリブデン及び三酸化タングステンなどが挙げられる。
【0013】
本発明における金属酸化物層の膜厚は、1〜50nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、1〜5nmの範囲である。均一な膜を形成して効果的に開放電圧を高める観点から、1nm以上が好ましい。また、金属酸化物層を介してのキャリア伝導を阻害させないという観点から、50nm以下が好ましく、5nm以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明において、第1の電極は、例えば透明導電膜から形成することができる。このような透明導電膜としては、ITO(インジウム錫酸化物)や、IZO(インジウム亜鉛酸化物)などの導電性を有する金属酸化物などが挙げられる。
【0015】
また、本発明においては、第2の電極と電子受容層の間に、励起子ブロック層を設けてもよい。励起子ブロック層は、例えば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)などから形成することができる。
【0016】
本発明における電子供与層を形成する電子供与性材料としては、有機光電変換素子に用いることができる電子供与性材料であれば特に制限なく用いることができる。このような材料としては、例えば、CuPC(銅フタロシアニン)、ZnPC(亜鉛フタロシアニン)、HPc(フタロシアニン)、ペンタセンなどが挙げられる。
【0017】
本発明において、電子受容層を形成する電子受容性材料としては、有機光電変換素子に用いることができる電子受容性材料であれば、特に制限なく用いることができる。このような材料としては、例えば、フラーレン(C60)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、N,N′−ジメチルペリレン−3,4,9,10−ビス(ジカルボキシイミド)(Me−PTCDI)などが挙げられる。
【0018】
本発明の製造方法は、上記本発明の有機光電変換素子を製造することができる方法であり、第1の電極上に金属酸化物層を形成する工程と、金属酸化物層の上に、電子供与層、電子受容層及び第2の電極を積層して形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0019】
本発明における金属酸化物層は、透明導電膜などからなる第1の電極に対して、オーミックコンタクトで形成されていると考えられる。このため、第1の電極の上に金属酸化物層を形成する際、従来の製造方法では必要であった、UV−オゾン処理やOプラズマ処理等の電極の表面の有機物を分解・除去する表面清浄処理を行うことなく、第1の電極上に金属酸化物層を形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、開放電圧を高め、光電変換効率を向上させることができる。
【0021】
本発明の製造方法によれば、UV−オゾン処理を第1の電極に対して行うことなく、第1の電極上に金属酸化物層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
ITO膜を表面に形成したガラス基板(30mm×30mm)を用い、このITO膜を陽極として用いた。ITO膜を、イソプロピルアルコール洗浄及びUV−オゾン処理した。その表面抵抗値は85Ω/cmであった。ITO膜の上に、真空蒸着装置を用いて、三酸化モリブデン(MoO)を膜厚10nmとなるまで形成し、金属酸化物層とした。真空度は5×10−5Paとし、室温の条件で金属酸化物層を形成した。引き続き、金属酸化物層の上に、銅フタロシアニン(CuPC)からなる電子供与層(膜厚30nm)、フラーレン(C60)からなる電子受容層(膜厚40nm)、BCPからなる励起子ブロック層(膜厚10nm)、及びアルミニウム(Al)からなる陰極(膜厚50nm)をこの順序で積層し、光電変換素子を作製した。この光電変換素子の面積は、0.1cmとなるようにした。
【0024】
図1は、作製した光電変換素子の各層のエネルギーレベルを示す図である。図1に示すように、陽極1であるITO膜の仕事関数は−4.7eVであり、金属酸化物層2を形成する三酸化モリブデンの仕事関数は−5.6eVであり、電子供与層3を形成するCuPCのHOMOエネルギーレベルは−5.2eVであり、LUMOエネルギーレベルは−3.5eVである。また、電子受容層4を形成するフラーレン(C60)のHOMOエネルギーレベルは−6.2eVであり、LUMOエネルギーレベルは−4.5eVであり、励起子ブロック層5を形成するBCPのHOMOエネルギーレベルは−7.0eVであり、LUMOエネルギーレベルは−3.5eVである。また、陰極6であるAl膜の仕事関数は−4.3eVである。
【0025】
図1に示すように、金属酸化物層2の仕事関数の絶対値は、電子供与層3のHOMOエネルギーレベルの絶対値より大きくなっている。従って、電子供与層3のHOMOエネルギーレベルは、隣接する金属酸化物層2によりバンドベンディングの影響を受け、より大きくなる。このため、電子供与層3のHOMOエネルギーレベルと、電子受容層4のLUMOエネルギーレベルとの差が大きくなり、開放電圧を高めることができる。
【0026】
また、本実施例において、金属酸化物層2の仕事関数の絶対値は、電子受容層4のHOMOエネルギーレベルの絶対値よりも小さくなっている。これにより、電子供与層3及び電子受容層4から構成される光電変換領域で発生した正孔を陽極1側へ効率良く移動させることができる。
【0027】
また、本実施例において、金属酸化物層2の仕事関数の絶対値は、第1の電極である陽極1の仕事関数よりも大きくなっている。これにより、正孔を陽極1側に効率良く移動させることができる。
【0028】
〔光電変換素子特性の評価〕
以上のようにして作製した有機光電変換素子に、1.5AMフィルタを通したタングステンランプの光を100mW/cmとなるようにガラス基板側から照射して、光電変換素子の特性を評価した。開放電圧(Voc)、短絡電流(Jsc)、フィルファクター(F.F.)、及び光電変換効率(EQE)を表1に示す。
【0029】
(実施例2)
金属酸化物層を、三酸化モリブデンではなく、三酸化タングステンを用いて、膜厚10nmとなるように形成する以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製し、実施例1と同様にしてその特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0030】
(実施例3)
UV−オゾン処理を行なわない以下は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製し、実施例1と同様にしてその特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0031】
(比較例1)
金属酸化物層を形成せず、陽極であるITO膜の上に直接電子供与層を形成する以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製し、実施例1と同様にしてその特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0032】
(比較例2)
UV−オゾン処理を行わない以外は、比較例1と同様にして光電変換素子を作製し、実施例1と同様にしてその特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1及び2と比較例1との比較から明らかなように、本発明に従い、陽極と電子供与層の間に本発明の金属酸化物層を設けることにより、開放電圧(Voc)を高めることができ、光電変換効率を向上させることができる。
【0035】
また、比較例1と比較例2の比較から明らかなように、従来の光電変換素子においては、UV−オゾン処理を行わずに陽極の上に電子供与層を形成すると、変換効率が大きく低下する。これに対し、実施例1と実施例3の比較から明らかように、本発明によれば、UV−オゾン処理を行わなくても、ほぼ同等の特性を得ることができる。従って、本発明によれば、陽極(ITO膜)のUV−オゾン処理を省略することができ、製造工程を簡略化することができる。
【0036】
(実施例4)
金属酸化物層としての三酸化モリブデン(MoO)膜の膜厚を1〜20nmの範囲で変化させる以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。得られた光電変換素子についてその特性を評価し、結果を表2に示した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示す結果から明らかなように、MoO膜の膜厚を3nmとした場合に、開放電圧(Voc)が最大値を示し、変化効率も1.20%と最大となった。
【0039】
以上のことから、以下のように考えることができる。
【0040】
三酸化モリブデンは半導体材料であり、その電気伝導率は使用している有機材料とほぼ同等である。三酸化モリブデン膜の膜厚を厚くすると、デバイスの内部抵抗値が増加して、キャリア輸送を阻害し、短絡電流(Jsc)が低下するものと思われる。従って、三酸化モリブデン膜の最適な膜厚は、3nm程度と比較的薄い膜厚であると考えられる。
【0041】
〔金属酸化物層の透過率の測定〕
上記実施例で用いた三酸化モリブデン(MoO)膜(膜厚30nm)と三酸化タングステン(WO)膜(膜厚30nm)の透過率を測定し、その結果を図2に示した。
【0042】
図2から明らかなように、三酸化モリブデン膜及び三酸化タングステン膜は、波長400〜800nmの領域において、平均70%以上の透過率を有している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に従う実施例の有機光電変換素子における各層のエネルギーダイアグラムを示す図。
【図2】本発明の実施例において、金属酸化物層として用いた三酸化モリブデン膜及び三酸化タングステン膜の光透過率を示す図。
【符号の説明】
【0044】
1…陽極
2…金属酸化物
3…電子供与層
4…電子受容層
5…励起子ブロック層
6…陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極の間に、電子供与性材料からなる電子供与層と、電子受容性材料からなる電子受容層が設けられた有機光電変換素子において、
前記第1の電極と前記電子供与層の間に、前記電子供与性材料のHOMOエネルギーレベルの絶対値より大きな絶対値の仕事関数を有する金属酸化物層が設けられていることを特徴とする有機光電変換素子。
【請求項2】
前記金属酸化物層の仕事関数の絶対値が、前記第1の電極の仕事関数の絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の有機光電変換素子
【請求項3】
前記金属酸化物層の仕事関数の絶対値が、前記電子受容性材料のHOMOエネルギーレベルの絶対値より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記金属酸化物層の光透過率が、波長400〜800nmの領域において平均70%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
前記金属酸化物層が、三酸化モリブデンまたは三酸化タングステンから形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項6】
前記金属酸化物層の膜厚が1〜50nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項7】
前記第1の電極が透明導電膜から形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機光電変換素子を製造する方法であって、
前記第1の電極上に、前記金属酸化物層を形成する工程と、
前記金属酸化物層の上に、前記電子供与層、前記電子受容層及び前記第2の電極を積層して形成する工程とを備えることを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物層を形成する工程において、前記第1の電極に対して表面清浄処理を行わずに、前記第1の電極上に前記金属酸化物層を形成することを特徴とする請求項8に記載の有機光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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