説明

有機化合物、並びに抗腫瘍剤、抗酸化剤及び抗菌剤

【課題】有用な生理活性を発揮する有機化合物及びその用途を提供する。
【解決手段】フラバノン類、メガスティグマン配糖体及びリグナン配糖体に属する有機化合物、並びにその抗腫瘍剤、抗酸化剤並びに抗菌剤としての用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラバノン類、メガスティグマン配糖体及びリグナン配糖体に属する有機化合物、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フラバノン類(2,3−ジヒドロフラボン類)としては、例えばニムフェオール−A、ニムフェオール−B、ニムフェオール−C、イソニムフェオール−B等のニムフェオールが知られている(特許文献1〜3参照)。ニムフェオールは、トウダイグサ科オオバギ属に属するオオバギ(大葉木)の抽出物に含まれることが知られている(特許文献4参照)。本発明者らは、オオバギ抽出物に含まれる新規なフラバノン類について報告している(非特許文献1参照)。加えて、メガスティグマン配糖体について報告している(非特許文献2参照)。更に、リグナン配糖体としてピノレジノール配糖体は、ゴマの抽出物から得られることが報告されている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2005−29560号公報
【特許文献2】特開2005−29778号公報
【特許文献3】特開2005−272374号公報
【特許文献4】特開2007−45754号公報
【特許文献5】特開平6−116282号公報
【非特許文献1】川上紫織、Liva Harinantenaina、松浪勝義、大塚英昭他、オオバギ(Macaranga tanarius)の成分研究(2)、日本生薬学会第54回年会講演要旨集、p.209、2007年発行
【非特許文献2】Radical-scavenging activities of new megastigmane glucosides from Macaranga tanarius (L.) Mull.-Arg.,Katsuyoshi Matsunami,Ichiko Takamori,Hideaki Otsuka,Takakazu Shinzato,Mitsunori Aramoto,Kazunari Kondo and YoshioTakeda,Chemical & Pharmaceutical Bulletin,54(10),1403-1407,(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、有機化合物を単離し、かつ有用な生理活性を見出したことによりなされたものである。本発明の目的は、有用な生理活性を発揮する有機化合物及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の有機化合物は、下記化学式(1)に示されることを特徴とする。
【0005】
【化1】

請求項2に記載の発明の抗腫瘍剤は、請求項1に記載の有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0006】
請求項3に記載の発明の抗酸化剤は、請求項1に記載の有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項4に記載の発明の抗菌剤は、請求項1に記載の有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0007】
請求項5に記載の発明の抗腫瘍剤は、下記化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0008】
【化2】

請求項6に記載の発明の抗酸化剤は、下記化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0009】
【化3】

請求項7に記載の発明の抗菌剤は、下記化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
【化4】

請求項8に記載の発明の有機化合物は、下記化学式(3)に示されることを特徴とする。
【0011】
【化5】

請求項9に記載の発明の抗腫瘍剤は、請求項8に記載の有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
請求項10に記載の発明の抗酸化剤は、請求項8に記載の有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項11に記載の発明の有機化合物は、下記化学式(4)に示されることを特徴とする。
【0013】
【化6】

但し、化学式(4)に示されるMeはメチル基を示す。
【0014】
請求項12に記載の発明の抗腫瘍剤は、請求項11に記載の有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項13に記載の発明の抗酸化剤は、請求項11に記載の有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、有用な生理活性を発揮する有機化合物及びその用途が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1の実施形態)
本発明を具体化した第1の実施形態を詳細に説明する。
第1の実施形態の有機化合物は、下記化学式(1)に示される。同有機化合物は、フラバノン骨格を有する新規なフラバノン化合物である。
【0017】
【化7】

この有機化合物は、上記化学式に“*”で示されるように3´´の炭素は不斉炭素であり、その3´´位について互いにエピマーの関係にある3´´Rと3´´Sとが存在する。すなわち、上記有機化合物は、下記化学式(1A)に示される有機化合物と下記化学式(1B)に示される有機化合物とを示している。
【0018】
【化8】

上記有機化合物は、トウダイグサ科オオバギ属に属するオオバギ(大葉木)の抽出物から単離される。オオバギは、マカランガ・タナリウス(Macaranga tanarius)とも呼ばれる植物であって、常緑広葉樹(雌雄異株)である。オオバギは、沖縄、台湾、中国南部、マレー半島、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイなどの東南アジア、オーストラリア北部などに生育している。また、オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。
【0019】
オオバギ抽出物の原料としては、オオバギの各器官やそれらの構成成分を用いることができる。原料としては、単独の器官又は構成成分を用いてもよいし、二種以上の器官や構成成分を混合して用いてもよい。オオバギ抽出物の抗腫瘍及び抗酸化作用が高まるという観点から、原料には果実、種子、花、根、幹、茎の先端部、葉身、及び分泌物(ワックス等)を含むことが好ましい。茎の先端部は、茎の成長点及び葉芽を含んでおり、葉身に比べて柔軟であるため、抽出操作を効率的に行うことが容易である。また、オオバギの全体に対して各器官が占める割合を比較すると、幹、根、及び葉の占める割合は高い。このため、扱いやすいオオバギの葉身をオオバギ抽出物の原料として用いることは、原料確保が容易であるという観点から、工業的に好適である。こうした原料は、採取したままの状態、採取後に粉砕、破砕若しくはすり潰した状態、採取・乾燥後に粉砕、破砕若しくはすり潰した状態、又は、採取後に破砕、粉砕若しくはすり潰した後に乾燥させた状態として、抽出操作を行うことができる。こうした破砕には、例えばカッター、裁断機、クラッシャー等を用いることができる。また、粉砕した原料を調製する際には、例えばミル、クラッシャー、グラインダー等を用いることができる。すり潰した原料を調製する際には、ニーダー、乳鉢等を用いることができる。
【0020】
上述した原料からオオバギ抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、水と有機溶媒との混合溶媒、低級アルコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、グリセリン、プロピレングリコール等の有機溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0021】
抽出溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上である。混合溶媒中における有機溶媒の含有量が50体積%未満の場合、オオバギに含まれる有効成分を効率的に抽出できないおそれがある。なお、有機溶媒としては低級アルコールが好ましい。
【0022】
抽出操作としては、抽出溶媒中に上記原料を所定時間浸漬させる。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて攪拌操作、加温等を行ってもよい。また、原料から抽出される夾雑物を削減すべく、抽出操作に先だって、別途水抽出操作又は熱水抽出操作を行ってもよい。
【0023】
抽出操作の後には固液分離操作が行われることで、オオバギ抽出液と原料の残渣とを分離する。こうした固液分離操作の分離法としては、例えばろ過、遠心分離等の公知の分離法を利用することができる。得られたオオバギ抽出液は、必要に応じて濃縮してもよい。
【0024】
また、オオバギ抽出液に含まれる抽出溶媒を必要に応じて除去することにより、固体状のオオバギ抽出物を得ることができる。こうした溶媒の除去は、例えば減圧下で加熱することにより行ってもよいし、凍結乾燥により行ってもよい。
【0025】
なお、オオバギ抽出物には、上記有機化合物以外にニムフェオール類等が含有されている。ニムフェオール類としては、例えばニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−C等が挙げられる。
【0026】
第1の実施形態の有機化合物は、オオバギ抽出物をクロマトグラフィーで精製することにより単離される。クロマトグラフィーとしては、分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分子排斥クロマトグラフィー等が挙げられる。ここで、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて、例えばヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒、又はトルエンとアセトンの混合溶媒を展開溶媒として用いた場合、上記化学式(1)に示される有機化合物は、ニムフェオール−Cを含む粗精製物として得られる。このため、そうした粗精製物からニムフェオールCを精製する過程において、第1の実施形態の有機化合物も得ることができる。
【0027】
第1の実施形態の抗腫瘍剤は、上記化学式(1)に示される有機化合物を有効成分として含有する。すなわち、抗腫瘍剤は、上記化学式(1A)に示される有機化合物、及び、上記化学式(1B)に示される有機化合物の少なくとも一方を有効成分として含有する。抗腫瘍剤は、癌細胞の増殖を抑制する抗腫瘍作用を発揮する。その癌細胞としては、例えば肺癌細胞、鼻咽喉癌細胞、白血病細胞、乳癌細胞等が挙げられる。こうした抗腫瘍剤は、主に医薬品として有用である。
【0028】
第1の実施形態の抗酸化剤は、上記化学式(1)に示される有機化合物を有効成分として含有する。すなわち、抗酸化剤は、上記化学式(1A)に示される有機化合物、及び、上記化学式(1B)に示される有機化合物の少なくとも一方を有効成分として含有する。この抗酸化剤は、例えば油脂、香料、色素等の化学物質の酸化を抑制する。また、抗酸化剤は、経口摂取した生体内において活性酸素を消去することにより、肝機能の増強作用、アセトアルデヒドの毒性の軽減、低密度コレステロール(LDL)の抗酸化作用、免疫機能改善等の健康増進効果を発揮する。また、抗酸化剤は皮膚、口腔等について、美白、老化防止等の効果を発揮する。こうした抗酸化剤は、例えば健康食品、食品等の飲食品、化粧品、医薬部外品等の添加剤として有用である。
【0029】
第1の実施形態の抗菌剤は、上記化学式(1)に示される有機化合物を有効成分として含有する。すなわち、抗菌剤は、上記化学式(1A)に示される有機化合物、及び、上記化学式(1B)に示される有機化合物の少なくとも一方を有効成分として含有する。この抗菌剤は、カビ、グラム陰性菌、及びグラム陽性菌に対する抗菌性を有している。こうした抗菌剤は、例えば健康食品、食品等の飲食品、化粧品、医薬品、医薬部外品、洗浄剤等の添加剤として有用である。
【0030】
上記抗腫瘍剤、抗酸化剤及び抗菌剤には、例えば賦形剤、基剤、乳化剤、安定剤、溶剤、香料、甘味料等を含有させてもよい。抗腫瘍剤、抗酸化剤及び抗菌剤は、液状であってもよいし、固体状であってもよい。それらの剤形としては、特に限定されないが、例えば散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤、注射剤等が挙げられる。
【0031】
(第2の実施形態)
本発明を具体化した第2の実施形態について上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。第2の実施形態は、有機化合物の5´´位において二重結合を有する点で、第1の実施形態と異なっている。
【0032】
第2の実施形態の抗腫瘍剤は、下記化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有する。同有機化合物は、フラバノン骨格を有するフラバノン化合物である。
【0033】
【化9】

この有機化合物は、上記化学式に“*”で示されるように3´´の炭素は不斉炭素であり、その3´´位について互いにエピマーの関係にある3´´Rと3´´Sとが存在する。すなわち、上記有機化合物は、下記化学式(2A)に示される有機化合物と下記化学式(2B)に示される有機化合物とを示している。
【0034】
【化10】

すなわち、抗腫瘍剤は、化学式(2A)に示される有機化合物、及び、化学式(2B)に示される有機化合物の少なくとも一方を有効成分として含有する。
【0035】
第2の実施形態の有機化合物は、上記第1の実施形態と同様にオオバギの抽出物から単離される。ここで、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて、例えばヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒、又はトルエンとアセトンの混合溶媒を展開溶媒として用いた場合、化学式(2)に示される有機化合物は、ニムフェオール−Cを含む粗精製物として得られる。このため、そうした粗精製物からニムフェオールCを精製する過程において、第2の実施形態の有機化合物も得ることが可能である。
【0036】
第2の実施形態の抗酸化剤は、化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有する。すなわち、抗酸化剤は、化学式(2A)に示される有機化合物、及び、化学式(2B)に示される有機化合物の少なくとも一方を有効成分として含有する。
【0037】
第2の実施形態の抗菌剤は、化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有する。すなわち、抗菌剤は、化学式(2A)に示される有機化合物、及び、化学式(2B)に示される有機化合物の少なくとも一方を有効成分として含有する。
【0038】
(第3の実施形態)
本発明を具体化した第3の実施形態について上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。第3の実施形態は、有機化合物の構造について第1の実施形態と異なっている。
【0039】
第3の実施形態の有機化合物は、下記化学式(3)に示される有機化合物である。同有機化合物は、新規なメガスティグマン配糖体である。
【0040】
【化11】

第3の実施形態の有機化合物は、上記第1の実施形態と同様にオオバギの抽出物から単離される。抽出操作においては、抽出効率を高めるという観点から、水と有機溶媒の混合溶媒を用いて抽出するのが好ましい。その混合溶媒中における水の比率は、好ましくは10容量%以上、より好ましくは50容量%以上である。また、抽出温度を高めることで、抽出効率を高めることが容易である。
【0041】
第3の実施形態の抗腫瘍剤は、化学式(3)に示される有機化合物を有効成分として含有する。第3の実施形態の抗酸化剤は、化学式(3)に示される有機化合物を有効成分として含有する。この抗腫瘍剤と抗酸化剤は上記第1の実施形態と同様に使用することができ、剤形も特に限定されない。
【0042】
(第4の実施形態)
本発明を具体化した第4の実施形態について上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。第4の実施形態は、有機化合物の構造について第1の実施形態と異なっている。
【0043】
第4の実施形態の有機化合物は、下記化学式(4)に示される有機化合物である。同有機化合物は、新規なリグナン配糖体である。
【0044】
【化12】

但し、化学式(4)に示されるMeはメチル基を示す。
【0045】
第4の実施形態の有機化合物は、上記第1の実施形態と同様にオオバギの抽出物から単離される。抽出操作においては、抽出効率を高めるという観点から、水と有機溶媒の混合溶媒を用いて抽出するのが好ましい。その混合溶媒中における水の比率は、好ましくは10容量%以上、より好ましくは50容量%以上である。また、抽出温度を高めることで、抽出効率を高めることが容易である。
【0046】
第4の実施形態の抗腫瘍剤は、化学式(4)に示される有機化合物を有効成分として含有する。第4の実施形態の抗酸化剤は、化学式(4)に示される有機化合物を有効成分として含有する。この抗腫瘍剤と抗酸化剤は上記第1の実施形態と同様に使用することができ、剤形も特に限定されない。
【0047】
(実施形態の効果)
上記第1から第4の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)第1から第4の実施形態に係る有機化合物は、抗腫瘍作用、抗酸化作用又は抗菌作用を発揮することから、抗腫瘍剤、抗酸化剤及び抗菌剤が提供される。
【0048】
(2)第1及び第2の実施形態に係る有機化合物の中でも、化学式(1A)に示される有機化合物を有効成分として含有する抗腫瘍剤は、優れた抗腫瘍活性を有する。
(3)第1から第4の実施形態に係る有機化合物は、いずれもオオバギ抽出物から得られる。オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。このようにオオバギは、その栽培管理に手間がかからない。また、オオバギ抽出物は、植物由来の原料であるため、安全性が高い。従って、抗腫瘍剤、抗酸化剤及び抗菌剤は、原料の供給、生産性、安全性等について優れている。
【0049】
(4)第1及び第2の実施形態に係る有機化合物は、オオバギ抽出物を原料として、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより粗精製することができる。そのシリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて、例えばヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒、又はトルエンとアセトンの混合溶媒を展開溶媒として用いた場合、第1及び第2の実施形態に係る有機化合物は、ニムフェオール−Cを含む粗精製物として得られる。このため、そうした粗精製物からニムフェオールCを精製する過程において、第1及び第2の実施形態の有機化合物も得ることが可能である。
【実施例】
【0050】
次に、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<抽出物の粗精製>
オオバギの乾燥葉12.1kgを原料として、メタノールを用いて3回(メタノールの合計量75L)抽出することにより、メタノール抽出液を得た。そのメタノール抽出液を3Lのヘキサンを用いて分配した後、メタノール層を減圧濃縮した。その残渣を水に懸濁させた後に、酢酸エチルで抽出することで、802gの酢酸エチル層を得た。こうして得られた酢酸エチル層について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム寸法:内径10cm×高さ50cm)により精製した。この精製においては、以下に示される展開溶媒を用いて1画分1Lの条件で画分を得た。
【0051】
画分(1−1): ヘキサン:酢酸エチル=20容量部:1容量部,6L
画分(1−2): ヘキサン:酢酸エチル=5容量部:1容量部,6L
画分(1−3): ヘキサン:酢酸エチル=4容量部:1容量部,6L
上記画分(1−3)の145gについて、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(内径10cm×高さ50cm)により精製した。この精製においては、以下に示される展開溶媒を用いて1画分1Lの条件で画分を得た。
【0052】
画分(2−1): トルエン
画分(2−2): トルエン:アセトン=100容量部:1容量部,6L
画分(2−3): トルエン:アセトン=70容量部:1容量部,3L
画分(2−4): トルエン:アセトン=50容量部:1容量部,3L
画分(2−5): トルエン:アセトン=40容量部:1容量部,3L
画分(2−6): トルエン:アセトン=30容量部:1容量部,3L
画分(2−7): トルエン:アセトン=10容量部:1容量部,3L
画分(2−8): トルエン:アセトン=5容量部:1容量部,3L
上記画分(2−5)から画分(2−8)を合わせた102gを粗精製物とした。
【0053】
<化学式(1)に示される有機化合物の単離>
上記粗精製物102gについて、逆相系多孔質樹脂(三菱化学社製、商品名:ダイヤイオンHP−20)を充填剤として用いたカラムクロマトグラフィー(カラム寸法:内径11cm×高さ50cm)により精製した。同精製においては、以下に示される展開溶媒を用いて1画分1Lの条件で画分を得た。
【0054】
画分(1): 水:メタノール=1容量部:3容量部,9L
画分(2): メタノール,9L
画分(3): メタノール:クロロホルム=1容量部:1容量部,9L
画分(4): クロロホルム,9L
上記画分(3)と(4)を合わせた21.8gについて、更に逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム寸法:内径5cm×高さ20cm)を用いて精製した。この精製においては、以下に示される溶媒のリニアグラジエント(linear gradient)溶媒を展開溶媒として用いて1画分13gの条件で画分(1)〜画分(120)を得た。
【0055】
水:メタノール=50容量部:50容量部(1L)→メタノール(1L)
メタノール(1L)→メタノール:クロロホルム=1容量部:1容量部(1L)
メタノール:クロロホルム=1容量部:1容量部(1L)→クロロホルム(1L)
次いで、得られた画分1.29gを2回に分けて、充填剤として多孔質ゲル(GEヘルスケア バイオサイエンス社製、商品名:Sephadex LH−20)を用いたサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製した。同精製においては、移動層としてクロロホルムとメタノールの混合溶媒(クロロホルム:メタノール=1容量部:1容量部)を用いて、1画分2gの条件で画分(42)〜画分(55)を得た。
【0056】
続いて、得られた画分390mgについて、高速液体クロマトグラフィーにより精製した。この精製においては、保持時間52分に現れる比屈折率(RI)のピークにて確認される画分より、化学式(1A)に示される有機化合物21.0mgを得た。
【0057】
なお、上記高速液体クロマトグラフィーの詳細は、以下のとおりである。
分取用カラム:Inertsil ODS(商品名、6.0×250mm、ガスクロ工業社製)、Cosmosil 5C18−AR−II(商品名、20×250mm、NacalaiTesque社製)
検出器:UV8000(東ソー社製)、RI8000(東ソー社製)
流速:1.6ml/min又は5.0ml/min
移動層:メタノールと水の混合溶媒(メタノール:水=85容量部:15容量部)
紫外部吸収の検出波長:254nm
一方、上記高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持時間44〜47分の非屈折率(RI)のピークから得られる画分について、更に高速液体カラムクロマトグラフィーにより精製した。なお、この精製においては、移動層として、メタノール、2−プロパノール及び水の混合溶媒(メタノール:2−プロパノール:水=3容量部:3容量部:4容量部)を用いている。この精製においては、保持時間199分に現れる比屈折率(RI)のピークにて確認される画分より、化学式(1B)に示される有機化合物18.7mgを得た。
【0058】
<化学式(2)に示される有機化合物の単離>
化学式(2)に示される有機化合物は、上記粗精製物102gについて、上記<化学式(1)に示される有機化合物の単離>により得られる画分より単離することができる。すなわち、粗精製物102gについて、上記逆相系多孔質樹脂を充填剤として用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した際に、メタノールを展開溶媒として得られる画分(2)より単離することができる。この画分(2)の68.7gを更に逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム寸法:内径5cm×高さ20cm)により精製した。この精製においては、以下に示される溶媒のリニアグラジエント(linear gradient)溶媒を展開溶媒として用いて1画分10gの条件で画分(247)〜画分(276)を得た。
【0059】
メタノール:水=50容量部:50容量部(2L)
→メタノール(2L)
次いで、得られた画分2.45gについて、高速液体クロマトグラフィーにより精製した。同精製においては、保持時間31〜37分に現れる比屈折率(RI)のピークにて確認される画分の366mgを得た。なお、この精製においては、移動層として、メタノールとジクロロメタンと水との混合溶媒(メタノール:ジクロロメタン:水=90容量部:0.2容量部:9.8容量部)を用いている。続いて、得られた画分366mgについて、更に高速液体クロマトグラフィーにより精製した。同精製においては、保持時間48分に現れる比屈折率(RI)のピークにて確認される画分より、化学式(2A)に示される有機化合物を得た。また、保持時間55分に現れる比屈折率(RI)のピークにて確認される画分より、化学式(2B)に示される有機化合物を得た。
【0060】
<化学式(3)及び化学式(4)に示される有機化合物の単離>
オオバギの乾燥葉12.1kgをメタノールで3回(合計45L)抽出し、約3Lまで濃縮した後、ヘキサン3Lで抽出した。残ったメタノール層をさらに濃縮してメタノールを留去した後、水3Lに懸濁させ、酢酸エチル及び1−ブタノールのそれぞれ3Lで連続的に抽出、濃縮し、ヘキサン層70.0g、酢酸エチル層801g、1−ブタノール層374g、水層499gを得た。
【0061】
このうち1−ブタノール可溶画分181gを20容量%メタノール2Lに懸濁したものについて、逆相系多孔質樹脂(三菱化学社製、商品名:ダイヤイオンHP−20)を充填剤として用いたカラムクロマトグラフィー(カラム寸法:内径8cm×高さ40cm)により精製した。同精製においては、以下に示される展開溶媒を用いて1画分1Lの条件で画分を得た。
【0062】
水:メタノール=4容量部:1容量部,6L
水:メタノール=2容量部:3容量部,6L
水:メタノール=3容量部:2容量部,6L
水:メタノール=1容量部:4容量部,6L
メタノール,6L
このうちメタノール:水=2:3→3:2溶出画分のフラクションMTB−4(23.1g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム寸法:内径5cm×長さ50cm)により、MTB−4−1からMTB−4−6を得た。同精製においては、以下に示される展開溶媒を用いて1画分0.5Lの条件で画分を得た。
【0063】
クロロホルム:メタノール=100容量部:1容量部,6L
クロロホルム:メタノール=25容量部:1容量部,3L
クロロホルム:メタノール=10容量部:1容量部,3L
クロロホルム:メタノール=2容量部:1容量部,3L
クロロホルム:メタノール=1容量部:1容量部,3L
シリカゲルカラムクロマトグラフィーから得られたクロロホルム:メタノール=2:1溶出画分MTB−4−5の7.66gを、4回に分けて、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム寸法:内径5cm×長さ20cm)により精製した。同精製においては、以下に示される溶媒のリニアグラジエント(linear gradient)溶媒を展開溶媒として用いて1画分10gの条件で画分(126)〜画分(144)であるMTB4−5−3の2.47gを得た。
【0064】
水:メタノール=90容量部:10容量部(1L)
→水:メタノール=50容量部:50容量部(1L)
→水:メタノール=50容量部:50容量部(0.6L)
→水:メタノール=20容量部:80容量部(0.6L)
次に、MTB4−5−3の2.47gを液滴向流分配クロマトグラフィー(商品名:EYELA DCC−3000、東京理化器械)により精製した。同精製においては、溶媒は固定相にクロロホルム:メタノール:水:1−プロパノール=9:12:8:2の下層を、移動相にその上層を用いて液滴上昇法にて溶出した。溶出液は5gを1フラクションとして画分(86)〜画分(15)であるMTB4−5−3−5の154gを得た。続いて、MTB4−5−3−5の154gを高速液体カラムクロマトグラフィーにより精製した。同精製においては、移動層としてアセトニトリルと水との混合溶媒(アセトニトリル:水=20容量部:80容量部)を用いて、保持時間17分に現れる比屈折率(RI)のピークにて確認される画分より、化学式(3)に示される有機化合物2.9mgを得た。
【0065】
一方、シリカゲルカラムクロマトグラフィーから得られたクロロホルム:メタノール=1:1溶出画分MTB−4−6の3.54gを、2回に分け、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム寸法:内径5cm×長さ20cm)により精製した。同精製においては、以下に示される溶媒のリニアグラジエント(linear gradient)溶媒を展開溶媒として用いて1画分10gの条件で画分(51)〜画分(105)であるMTB4−6−2の306mgを得た。
【0066】
水:メタノール=90容量部:10容量部(1L)
→水:メタノール=50容量部:50容量部(1L)
→水:メタノール=50容量部:50容量部(1L)
→水:メタノール=30容量部:70容量部(1L)
次に、MTB4−6−2の306mgを液滴向流分配クロマトグラフィーにより精製した。同精製においては、溶媒は固定相にクロロホルム:メタノール:水:1−プロパノール=9:12:8:2の下層を、移動相にその上層を用いて液滴上昇法にて溶出した。溶出液は5gを1フラクションとして画分(43)〜画分(60)であるMTB4−6−2−2の97.6mgを得た。続いて、MTB4−6−2−2の97.6mgを高速液体カラムクロマトグラフィーにより精製した。同精製においては、移動層としてアセトニトリルと水との混合溶媒(アセトニトリル:水=20容量部:80容量部)を用いて、保持時間24分に現れる比屈折率(RI)のピークにて確認される画分より、化学式(4)に示される有機化合物6.6mgを得た。
【0067】
<化学式(1A)に示される有機化合物の同定>
化学式(1A)に示される有機化合物については、高分解能エレクトロスプレーイオン化質量分析(HR−ESI−MS)の結果より、分子式C3036と決定した。
【0068】
表1に示されるHNMRスペクトルのデータにおいて、δ1.34,1.60,1.69,1.75,1.81にそれぞれ3H分のメチル水素のシグナルが5個、δ6.82(d,J=8Hz),6.94(d,J=8Hz)にオルトカップリングした芳香環上の水素のシグナルが2個、δ12.4に分子内水素結合により大きく低磁場にシフトした水酸基の水素のシグナルが1個観測された。
【0069】
表1に示される13CNMRスペクトルのデータにおいては、炭素総数30個のうち、δ75.9,76.9に酸素原子が結合すると推測されるsp炭素のシグナルが2個、δ196.6にカルボニル炭素のシグナルが1個観測されたことにより、この有機化合物はフラバノン骨格を有し、1個のプレニル基と1個のゲラニル基を有することが推測された。
【0070】
【表1】

更に、HMBCスペクトルにより、5位の水酸基(δ12.4(s))と6位の炭素(δ107.0)とに相関が見られ、1´´´位の水素(δ3.35(t,J=7Hz))は、5位の炭素(δ161.3)及び7位の炭素(δ163.7)に相関が見られたことから、フラバノン骨格のA環の6位にプレニル基が結合していることが明らかとなった。また、1´´位の水素(δ2.80(m),δ2.70(m))は、1´位の炭素(δ127.2)及び3´位の炭素(δ141.0)に相関が見られた。このことから、B環の2´位にゲラニル基が結合しており、分子式から得られた不飽和度を換算してその3´´´位の炭素と7位の炭素がエーテル結合により閉環していることが明らかとなった。
【0071】
以上により、上記有機化合物の平面構造について同定した。
立体化学の決定法は、例えば文献:Cichewicz, R. H., Kenyon, V. A. and Whitman, S., J. Am. Chem. Soc., 126, 14910-14920, (2004)、文献:Kikuchi, T., Mori, Y., Yokoi, T., Nakazawa, S., Kuroda, H., Masada, Y., Kitamura, K. and Kuriyama, K., Chem. Pharm. Bull., 31, 106-113, (1983)等を参考にした。これにより、3´´位の絶対立体配置については、3´´Rと決定された。
【0072】
次に、化学式(1A)に示される有機化合物の物理的性質について以下に示す。
性状:黄色非晶質粉末
旋光度:[α]D30+75.9°(c=1.40,CHCl
赤外吸収スペクトル:νmax(film)cm−1:3367,1634,1601,1449,1152
円二色性スペクトル:Δε(nm):+25.2(218),−2.3(293),+2.0(330)
(c=2.13×10−5M,MeOH)
紫外吸収スペクトル:λmax(MeOH)nm(logε):220(4.11),234(4.15),289(4.11),335sh(3.63)
HR−ESI−MS(positive)m/z:515.2416[M+Na]
(calcd for C3034Na:515.2424)
<化学式(1B)に示される有機化合物の同定>
化学式(1B)に示される有機化合物の同定においては、上記<化学式(1A)に示される有機化合物の同定>欄に記載の方法と同様に行った。
【0073】
化学式(1B)に示される有機化合物について、HNMRスペクトル及び13CNMRスペクトルのデータを表2に示す。
【0074】
【表2】

3´´位の絶対立体配置については、上述した文献を参考にして、3´´Sと決定された。
【0075】
次に化学式(1B)に示される有機化合物の物理的性質について以下に示す。
性状:黄色非晶質粉末
旋光度:[α]D25+25.0°(c=1.25,CHCl
赤外吸収スペクトル:νmax(film)cm−1:3367,1637,1603,1451,1155
円二色性スペクトル:Δε(nm):+9.2(226),−3.1(292),+1.3(335)
(c=3.74×10−5M,MeOH)
紫外吸収スペクトル:λmax(MeOH)nm(logε):212(4.46),230sh(4.32),290(4.18),335sh(3.54)
HR−ESI−MS(positive)m/z:515.2424[M+Na]
(calcd for C3034Na:515.2404)
<化学式(2A)に示される有機化合物の同定>
化学式(2A)に示される有機化合物については、HR−ESI−MSの結果より、分子式C3034と決定した。
【0076】
表3に示されるHNMRスペクトルのデータにおいて、δ1.75に6H分のメチル水素のシグナルが1個、δ1.48,1.69,1.81にそれぞれ3H分のメチル水素のシグナルが3個、δ6.84(d,J=8Hz),6.94(d,J=8Hz)にオルトカップリングした芳香環上の水素のシグナルが2個、δ5.59(d,J=15Hz),6.34(dd,J=15,11Hz)にtrans二重結合のシグナルが、δ5.78(d,J=11Hz),6.34(dd,J=15,11Hz)にC=CH−CH=Cの水素のシグナルが、またδ12.4に分子内水素結合により大きく低磁場にシフトした水酸基の水素のシグナルが1個みられた。
【0077】
表3に示される13CNMRスペクトルのデータにおいては、炭素総数30個のうちδ76.1,77.2に酸素原子が結合すると推測されるsp炭素のシグナルが2個、δ196.5にカルボニル炭素のシグナルが1個観測されたことにより、この有機化合物はフラバノン骨格を有し、1個のプレニル基と1個のゲラニル基を有することが推測された。
【0078】
【表3】

更に、HMBCスペクトルにより、5位の水酸基(δ12.4(s))と6位の炭素(δ107.0)に相関が見られ、1´´´位の水素[δ3.35(t,J=7Hz))と5位の炭素(δ161.3)及び7位の炭素(δ163.7)に相関が見られた。このことから、フラバノン骨格のA環の6位にプレニル基が結合していることが明らかとなり、また1´´位の水素(δ2.77(m),δ2.73(m))と1´位の炭素(δ127.3)及び3´位の炭素(δ141.1)に相関が見られた。このことから、B環の2´位にゲラニル基が結合しており、分子式から得られた不飽和度を勘案してその3´´´位の炭素と7位の炭素がエーテル結合により閉環していることが明らかとなった。
【0079】
上記有機化合物において2位の絶対立体配置については、CDスペクトルを測定し、上記<化学式(1A)に示される有機化合物>欄に記載の方法と同様にして2Sと決定した。
【0080】
上記有機化合物において3´´位の絶対立体配置については、上述した文献を参考にして、3´´Rと決定された。
次に化学式(2A)に示される有機化合物の物理的性質について以下に示す。
【0081】
性状:黄色非晶質粉末
旋光度:[α]D30−9.53°(c=0.485,CHCl
赤外吸収スペクトル:νmax(film)cm−1:3434,1634,1451,1153
円二色性スペクトル:Δε(nm):−6.8(239),+0.39(262),−5.4(293),+0.86(323)
(c=2.86×10−5M,MeOH)
紫外吸収スペクトル:λmax(MeOH)nm(logε):237(4.38),275sh(4.02),289(4.16),334sh(3.54)
HR−ESI−MS(positive)m/z:491.2424[M+H]
(calcd for C3035:491.2428)、513.2235[M+Na](calcd for C30346Na:513.2247)
<化学式(2B)に示される有機化合物の同定>
化学式(2B)に示される有機化合物の同定においては、上記<化学式(2A)に示される有機化合物の同定>欄に記載の方法と同様に行った。
【0082】
化学式(2B)に示される有機化合物について、HNMRスペクトル及び13CNMRスペクトルのデータを表4に示す。
【0083】
【表4】

3´´位の絶対立体配置については、上述した文献を参考にして、3´´Sと決定された。
【0084】
次に化学式(2B)に示される有機化合物の物理的性質について以下に示す。
性状:黄色非晶質粉末
旋光度:[α]D30+75.6°(c=0.418,CHCl
赤外吸収スペクトル:νmax(film)cm−1:3396,1632,1602,1452,1153
円二色性スペクトル:Δε(nm):+19.1(232),+1.5(268),−2.3(295),+1.3(331)
(c=2.47×10−5M,MeOH)
紫外吸収スペクトル:λmax(MeOH)nm(logε):237(4.38),275sh(4.01),292(4.15),338sh(3.51)
HR−ESI−MS(positive)m/z:491.2423[M+H]
(calcd for C3035:491.2428)、513.2241[M+Na](calcd for C3034Na:513.2247)
<化学式(3)に示される有機化合物の同定>
化学式(3)に示される有機化合物については、HR−ESI−MSの結果より、分子式C263411と決定した。
【0085】
表5に示されるHNMR及び13CNMRスペクトルのデータにおいて、δH7.10(2H,s)の芳香環水素、δC168.3のエステルカルボニル炭素、δC110.4(d)に2個分のsp炭素が観測されたことからガロイル基が存在することが示唆された。また、δH4.37(1H,d,J=8Hz)のアノマー水素およびδC103.3(d)のアノマー炭素のほか、δC75.3(d),δC78.1(d),δC72.1(d),δC75.6(d),δC65.2(t)のシグナルから6位がエステル化されたグルコースの存在が示唆された。残りの炭素13個分のシグナルについては、δC202.2(s)はケトン基の存在を示唆し、4つのsp炭素(δC166.0(s),δC138.0(d),δC129.5(d),δC126.1(d))から二重結合が2個存在することが示唆された。また、2個の二重結合は、HNMRにおいてδH5.69(1H,ddd,J=15,7,1Hz)とδH5.53(1H,ddd,J=15,9,1Hz)から2置換のトランス二重結合、及び、δH5.79(1H,brs)から3置換の二重結合であることが推定された。また、メチル炭素が4個(δC27.9(q),δC27.4(q),δC23.7(q),δC21.6(q))存在し、遠隔スピン結合していると考えられるδH1.82(3H,d,J=1Hz)、doubletメチルδH1.28(1H,d,J=6Hz)、及び、singletメチルが2個(δH0.87(3H,s)、δH0.86(3H,s))観測された。残りの炭素は、4級炭素が1個(δC37.0(s)、メチン炭素が2個(δC56.3(d),δC78.6(d))、メチレン炭素が1個(δC49.1(t))でδC78.6(d)のシグナルは酸素が結合したものと考えられた。以上のNMRデータおよび分子式から導き出される不足水素指数(不飽和度)を勘案することにより、アグリコン部分はメガスティグマン骨格を有していると推測した。
【0086】
【表5】

更に、HMQC、及びHMBCスペクトルを測定したところ、グルコースの6位の水素(δH4.57(1H,dd,J=12,2Hz),δH4.30(1H,dd,J=12,7Hz))とガロイル基のカルボニル炭素(δC168.3(s))との間に相関ピークが観測されたことからガロイル基がグルコースの6位にエステル結合していることが明らかになった。またグルコースの1位の水素(δH4.37(1H,d,J=8Hz))とアグリコン部の9位の炭素δC78.6(d)に相関が見られたことから、グルコースの結合位置を9位と決定した。
【0087】
DQF−COSYスペクトルを測定したところ、3´と4´位の相関は対角ピークにより不明瞭であったものの、グルコースの1´位から3´位および4´位から6´位、また、アグリコン部の6から10位までのスピン結合が観測された。また、HMBCの観測により、ガロイル基を除いた部分の平面構造は3−oxo−α−ionolglucosidesであることが明らかになった。9位の立体構造については、δC78.6により9Rであると決定した。また6位の立体構造についてはCDスペクトルを測定したところ、+32.3(245)の値を示したことから6Rであることが明らかになった。
【0088】
以上の結果、この有機化合物は(6R,9R)−3−oxo−α−ionol 9−O−(6−O−galloyl)−β−glucopyranosideであると決定した。
【0089】
次に化学式(3)に示される有機化合物の物理的性質について以下に示す。
性状:非晶質粉末
旋光度:[α]D25+78.4°(c=0.193,CHOH)
赤外吸収スペクトル:νmax(film)cm−1:3303,1706,1648,1449,1259,1031
紫外吸収スペクトル:λmax(MeOH)nm(logε):219(4.8),275(4.4)
円二色性スペクトル:Δε(nm):+32.3(245),−1.56(317)
(c=1.06×10−5M,MeOH)
HR−ESI−MS(positive−ion mode)m/z:545.1990[M+Na](calcd for C263411Na:545.1993)
<化学式(4)に示される有機化合物の同定>
化学式(4)に示される有機化合物については、HR−ESI−MSの結果より、分子式C333615と決定した。
【0090】
表6に示されるHNMR及び13CNMRスペクトルのデータにおいて、δH7.10(2H,s)の芳香環水素、δC168.2のエステルカルボニル炭素、δC110.5(d)に2個分のsp炭素が観測されたことから、ガロイル基が存在することが示唆された。また、δH4.83(1H,d,J=8Hz)のアノマー水素およびδC102.7(d)のアノマー炭素のほか、δC75.0(d),δC78.0(d),δC72.2(d),δC75.8(d),δC65.0(t)のシグナルから6位がエステル化されたグルコースの存在が示唆された。
【0091】
残りの炭素18個分のシグナルについては、sp炭素(δC150.7(s),δC149.2(s),δC147.5(s),δC147.3(s),δC137.6(s),δC133.9(s),δC120.3(d),δC119.8(d),δC118.1(d),δC116.2(d),δC111.9(d),δC111.3(d))が12個観測されたことから芳香環が2個存在し、そのうち4個の炭素(δC150.7(s),δC149.2(s),δC147.5(s),δC147.3(s))には酸素が結合していると考えられた。また、芳香環領域のHNMRのカップリングパターン(δH6.96(1H,d,J=2Hz),δH7.02(1H,d,J=8Hz),δH6.61(1H,dd,J=8,2Hz))、及び(δH6.98(1H,d,J=2Hz),δH6.78(1H,d,J=8Hz),δH6.83(1H,dd,J=8,2Hz))から1,3,4−置換ベンゼンが2個存在することが示唆された。また、δC87.7(d),δC87.1(d),δC73.0(t),δC72.6(t)のシグナルからこれらの炭素には酸素が結合しており、分子式から導き出される不足水素指数(不飽和度)および残りのδC55.5(d),δC55.4(d)の比較的低磁場にシフトしたメチン炭素の存在を勘案することにより、アグリコン部分はセサミン型リグナン骨格を有していると推測した。
【0092】
【表6】

更に、HMQCおよびHMBCスペクトルを測定したところ、グルコースの6位の水素(δH4.56(1H,dd,J=12,2Hz),δH4.44(1H,dd,J=12,8Hz))とガロイル基のカルボニル炭素(δC168.2(s))との間に相関ピークが観測されたことからガロイル基がグルコースの6位にエステル結合していることが明らかになった。またグルコースの1位の水素(δH4.83(1H,d,J=8Hz))とアグリコン部の4位の炭素(δC147.5(s)]に相関が見られたこと、及びPNOESYスペクトルでグルコースの1位の水素(δH4.83(1H,d,J=8Hz))とアグリコン部の5位水素(δH7.02(1H,d,J=8Hz))との間にNOE相関が観測されたことから、グルコースの結合位置を4位と決定した。更に、OMeの結合位置については、δH3.84(3H,s)とδC150.7(s)に相関が見られるとともに、δH3.87(3H,s)とδC149.2(s)に相関が見られたことから、それぞれアグリコン部の3位、3´位に結合していることが明らかになった。その他の部分についてもHMBC相関の観測により、この有機化合物の平面構造を決定した。この有機化合物のアグリコン部はpinoresinolである。
【0093】
絶対配置を決定するためにCDスペクトルを測定したところ、−0.23(235),+1.7(280)の値が観測されたことにより、(+)−pinoresinolをアグリコンとすることが明らかになった。以上の結果、この有機化合物は(+)−pinoresinol 4−O−(6−O−galloyl)−β−glucopyranosideであると決定した。
【0094】
次に化学式(4)に示される有機化合物の物理的性質について以下に示す。
性状:非晶質粉末
旋光度:[α]D25+18.1°(c=0.440,CHOH)
赤外吸収スペクトル:νmax(film)cm−1:3367,1702,1606,1514,1266,1226
紫外吸収スペクトル:λmax(MeOH)nm(logε):276(4.1),218(4.4),207(4.6)
円二色性スペクトル:Δε(nm):+1.7(280),+1.8(256),−0.23(235),+1.28(223)
(c=1.18×10−5M,MeOH)
HR−ESI−MS(positive−ion mode)m/z:695.1949[M+Na](calcd for C333615Na:695.1946)
<化学式(1)及び(2)に示される有機化合物の活性試験>
(i)抗腫瘍活性
KB細胞(ヒト鼻咽喉癌細胞)及びA549細胞(ヒト肺癌細胞)を用いてMTT分析法を行ない、癌細胞に対する増殖抑制活性を調べた。培養、及び測定には96well plateを使用し、triplicateで行なった。
【0095】
培地は牛胎児血清を含むDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)10%FCS(Fetal Calf Serum)500mlに、抗生物質としてkanamycin sulfate、amphotericin B(sigma A9528)2000倍濃度溶液を250μl加えたものを使用した。抗生物質はγ線照射済みのamphotericin B 100mgを無菌的に20mlの滅菌ミリQ水で溶解し、1mlずつ滅菌1.5mlチューブに分注して−20℃で凍結保存した。注射用アンプル入りkanamycin sulfate 1g(力価)/4mlと上記のamphotericin B soln 1mlを無菌的に混和することで抗生物質の2000倍溶液とした。FCSは56℃、30分処理することで非働化し、50mlチューブに分注して−20℃で凍結保存した。細胞の培養は37℃、5%COのインキュベーターを用いて培養した。
【0096】
MTT試薬は、PBSに溶解し、5mg/mlになるように調製した。使用時には培地で10倍希釈(0.5mg/ml)したものを用いた。
上記有機化合物を乾燥させた後、1.5mlチューブに量り取りDMSOに溶解させて5mMに調製したもの及びさらに段階希釈したものをサンプルとして用意した。
【0097】
MTT分析はtriplicateで行なった。KB細胞を3×10cell/well(90μl medium)で96well plateに播き、37℃で24時間培養した。培養後、サンプル及びコントロールをそれぞれ培地で10倍希釈したものを10μlずつ各wellに加え、37℃で72時間培養した。その後、培地をアスピレーターで吸い出し、培地で10倍希釈したMTT溶液100μlを各wellに加え、37℃で1.5時間培養した。Plateを逆さにして培地を捨て、100μlのDMSOを加えて細胞を溶解させた後、分光マイクロプレートリーダー(λ1=540nm,λ2=620nm,λ1−λ2)で比色定量した。
【0098】
抗腫瘍活性試験の結果を表7に示す。
なお、表7には、コントロールを100%とし、生存率(%)を引いた値を示している。生存率(%)は、コントロールに対する各サンプルの百分率である。
【0099】
【表7】

表7に示される結果から明らかなように、KB細胞及びA549細胞のいずれについても、化学式(1A)に示される有機化合物が最も強い活性を有することがわかった。
【0100】
(ii)抗酸化活性
DPPH(α,α-diphenyl-β-picrylhydradil)は517nmに極大吸収を持つ紫色の安定ラジカルであり、水素を得ることにより無色のヒドラジンになる。この呈色反応を利用してラジカル捕捉活性を測定した。まず、上記有機化合物をエタノールに溶解して試料溶液を0.5ml調製した。続いて、各試料溶液に0.15mMのDPPH溶液(溶媒はエタノール)を0.5ml加えて攪拌し、暗所にて1時間反応させた後に517nmにおける吸光度を測定した。一方、α−トコフェロールを比較対照として評価した。表8には、活性がほとんど確認されなかった場合は“±”で示し、活性が確認されたが弱い場合は“+”で示し、活性が十分に確認された場合は“++”で示し、強い活性が確認された場合は“+++”で示している。
【0101】
【表8】

(iii)抗菌活性
グラム陰性菌の指標菌として下記表9に示される菌株について抗菌活性を評価した。上記有機化合物を70%エタノールに溶解させた後、該試料濃度が0ppm、5ppm、10ppm、15ppm、20ppm又は50ppmになるように調製した標準寒天培地を作製した。続いて、これらの標準寒天培地をオートクレーブ殺菌することにより評価培地を作製し、これらの評価培地に上記各菌を接種してその生育を確認した。表9には、活性がほとんど確認されなかった場合は“±”で示し、活性が確認されたが弱い場合は“+”で示し、活性が十分に確認された場合は“++”で示し、強い活性が確認された場合は“+++”で示している。
【0102】
【表9】

<化学式(3)及び(4)に示される有機化合物の活性試験>
(iv)抗腫瘍活性
上記(i)抗腫瘍活性に示される方法と同様にして抗腫瘍活性を評価した場合において、得られる結果を推定した。表10には、活性がほとんど確認されない場合は“±”で示し、活性が確認されるが弱い場合は“+”で示し、活性が十分に確認される場合は“++”で示し、強い活性が確認される場合は“+++”で示している。
【0103】
【表10】

(v)抗酸化活性
上記(ii)抗酸化活性に示される方法と同様にして抗酸化活性を評価した場合において、得られる結果を推定した。表11には、活性がほとんど確認されない場合は“±”で示し、活性が確認されるが弱い場合は“+”で示し、活性が十分に確認される場合は“++”で示し、強い活性が確認される場合は“+++”で示している。
【0104】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)に示されることを特徴とする有機化合物。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の有機化合物を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
【請求項3】
請求項1に記載の有機化合物を有効成分として含有する抗酸化剤。
【請求項4】
請求項1に記載の有機化合物を有効成分として含有する抗菌剤。
【請求項5】
下記化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【化2】

【請求項6】
下記化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【化3】

【請求項7】
下記化学式(2)に示される有機化合物を有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤。
【化4】

【請求項8】
下記化学式(3)に示されることを特徴とする有機化合物。
【化5】

【請求項9】
請求項8に記載の有機化合物を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
【請求項10】
請求項8に記載の有機化合物を有効成分として含有する抗酸化剤。
【請求項11】
下記化学式(4)に示されることを特徴とする有機化合物。
【化6】

但し、化学式(4)に示されるMeはメチル基を示す。
【請求項12】
請求項11に記載の有機化合物を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
【請求項13】
請求項11に記載の有機化合物を有効成分として含有する抗酸化剤。


【公開番号】特開2009−179618(P2009−179618A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22089(P2008−22089)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】