説明

有機化合物、有機発光素子及び表示装置

【課題】基本骨格自体の発光色が黄色領域であって、かつ発光効率が高い有機化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)に示されることを特徴とする、有機化合物。


(式(1)において、R1乃至R18は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアルコキシ基、置換アミノ基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換あるいは無置換のシリル基及びシアノ基から選ばれる置換基である。Ar1及びAr2は、それぞれ置換あるいは無置換のアリール基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物、並びにこれを用いた有機発光素子及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子、有機EL素子)は、陽極と陰極とからなる一対の電極と、これら電極間に配置される有機化合物層とを有する電子素子である。これら一対の電極から電子及び正孔を注入することにより、有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成し、該励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放出する。
【0003】
有機発光素子の最近の進歩は著しく、その特徴として、低駆動電圧、多様な発光波長、高速応答性、発光デバイスの薄型化・軽量化が可能であることが挙げられる。
【0004】
ところで、現在までに発光性の有機化合物の創出が盛んに行われている。高性能の有機発光素子を提供するにあたり、発光特性の優れた化合物の創出が重要であるからである。
【0005】
これまでに創出された化合物として、例えば、特許文献1にて提案されている化合物1−A(ナフトフルオランテン)を基本骨格とする化合物がある。ここで化合物1−A(ナフトフルオランテン)自体の発光は青色発光である。
【0006】
【化1】

【0007】
別例として、下記に示される化合物1−Bを基本骨格とする化合物が特許文献2にて提案されている。
【0008】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−294177号公報
【特許文献2】特開2003−272866公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし特許文献2にて提案されている化合物は、分子の平面性が高いために分子間相互作用が強い。そのため有機発光素子の構成材料、例えば、発光材料として用いた場合、高濃度で使用すると濃度消光による発光効率の低下が起こる。また化合物1−Aや化合物1−Bを基本骨格とする化合物において、発光色が黄色領域であって発光効率が良好な化合物はまだない。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされるものであり、その目的は、基本骨格自体の発光色が黄色領域であって、かつ発光効率が高い有機化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の有機化合物は、下記一般式(1)に示されることを特徴とする。
【0013】
【化3】

(式(1)において、R1乃至R18は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアルコキシ基、置換アミノ基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換あるいは無置換のシリル基及びシアノ基から選ばれる置換基である。Ar1及びAr2は、それぞれ置換あるいは無置換のアリール基を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る有機化合物は、基本骨格自体が分子パッキングの抑制に優れており、高濃度で使用したとしても発光波長の変化が小さい化合物である。このため、本発明によれば、基本骨格自体の発光色が黄色領域であって、かつ発光効率が高い有機化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は、サンプルA(トルエン溶液)におけるPLスペクトルを示す図であり、(b)は、サンプルB(ドープ膜)におけるPLスペクトルを示す図である。
【図2】本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に電気接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する表示装置の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず本発明に係る有機化合物を説明する。本発明に係る有機化合物は、下記一般式(1)に示される化合物である。
【0017】
【化4】

【0018】
式(1)において、R1乃至R18は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアルコキシ基、置換アミノ基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換あるいは無置換のシリル基及びシアノ基から選ばれる置換基である。
【0019】
式(1)において、Ar1及びAr2は、それぞれ置換あるいは無置換のアリール基を表す。
【0020】
本発明において、好ましくは、式(1)中のR1乃至R18が、それぞれ水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基であり、Ar1及びAr2が、置換あるいは無置換のアリール基である態様である。より好ましくは、式(1)中のR1、R2、R5、R6及びR11乃至R14が、それぞれ水素原子又は置換あるいは無置換のアリール基であり、R3、R4、R7乃至R10及びR15乃至R18が、水素原子であり、Ar1及びAr2が、置換あるいは無置換のアリール基である態様である。
【0021】
次に、式(1)に示される置換基の具体例を説明する。
【0022】
1乃至R18で表されるハロゲン原子として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0023】
1乃至R18で表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、セカンダリーブチル基、シクロヘキシル基、オクチル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0024】
1乃至R18で表されるアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、2−エチル−オクチルオキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0025】
1乃至R18で表される置換アミノ基として、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−メチル−N−エチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基、N−メチル−N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基、アニリノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジナフチルアミノ基、N,N−ジフルオレニルアミノ基、N−フェニル−N−トリルアミノ基、N,N−ジトリルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジアニソリルアミノ基、N−メシチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジメシチルアミノ基、N−フェニル−N−(4−ターシャリブチルフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−トリフルオロメチルフェニル)アミノ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0026】
1乃至R18で表されるアリール基として、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0027】
1乃至R18で表される複素環基として、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基、ピペリジル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0028】
1乃至R18で表されるアリールオキシ基として、フェノキシ基、4−ターシャルブチルフェノキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0029】
1乃至R18で表されるシリル基として、トリフェニルシリル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0030】
上記アルキル基、アルコキシ基、置換アミノ基、アリール基、複素環基、アリールオキシ基及びシリル基がさらに有してもよい置換基として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等のアルキル基、ベンジル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、ピリジル基、ピロリル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアミノ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェノキシル基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0031】
Ar1及びAr2で表されるアリール基として、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0032】
上記アリール基がさらに有してもよい置換基として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等のアルキル基、ベンジル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、ピリジル基、ピロリル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアミノ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェノキシル基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0033】
次に、本発明に係る有機化合物の合成方法について説明する。本発明に係る有機化合物は、例えば、以下に示される合成スキームに従って合成される。ただし、下記合成スキームは、あくまでも具体例であり、本発明に係る有機化合物の合成方法はこれらに限定されるものではない。
【0034】
【化5】

【0035】
ここで上記合成スキームに示される合成ルートを利用する場合、化合物D1、D2及びD3に適宜置換基を導入することにより、式(1)中のR1乃至R18のいずれかが水素原子から所定の置換基に置換されることになる。ここで導入する置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、フェニル基等が挙げられる。
【0036】
上記合成スキームを利用して本発明に係る有機化合物を合成する際には、上記合成スキームで示される化合物D1、D2及びD3をそれぞれ変えることで種々の有機化合物を合成することができる。その具体例を原料である化合物D1、D2及びD3と共に下記表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
次に、本発明に係る有機化合物の特徴を説明する。
【0039】
本発明者らは、化合物の設計に当たり基本骨格それ自体に注目した。具体的には、基本骨格に相当する化合物が有する発光波長が所望の発光波長領域に収まり、かつその化合物が分子パッキングを抑制し得る構造を有する化合物を提供することを試みた。ここで分子パッキングとは、分子間相互作用により分子同士が重なり合う現象をいう。
【0040】
一般に、縮合環芳香族化合物は分子骨格の平面性が高いため、分子間相互作用が強く、分子パッキングが促進されやすい。この分子パッキングは、結晶化やエキシマーの形成を招くため、耐久性や発光効率の観点から有機発光素子としては好ましくない現象である。このため分子パッキングを抑制する必要があるが、その具体的な方法としては、基本骨格中に嵩高い置換基を導入することにより分子間距離を拡大させる方法や、基本骨格自体の平面性を低下させる方法等がある。ただし、基本骨格中に嵩高い置換基を導入する方法は、分子量の増加を伴うために昇華性を損なう場合がある。
【0041】
一方、基本骨格自体の平面性を低下させる方法、言い換えれば、分子平面がある程度の歪みを有している状態にする方法では、基本骨格等の分子パッキングを抑制することができる。例えば、下記表2に示される化合物2は、分子平面がある程度の歪みを有している。
【0042】
【表2】

【0043】
表2において、化合物1は、基本骨格であるベンゾフルオランテンの9位及び14位にフェニル基が置換された化合物である。ここで表2より化合物1は、フェニル基が置換されたとしても分子の平面性は維持されている。これに対して、化合物2は、基本骨格であるジベンゾアントラセンの9位及び14位にフェニル基が置換された化合物である。ここで表2より化合物2は、フェニル基の置換により分子の平面性が崩れ、分子全体として歪みを有している。そしてこの歪みが、分子パッキングを抑える役割を果たす。
【0044】
ところで所望の発光波長を得るための方法として、基本骨格に置換基を設ける方法が知られている。しかし置換基の導入により化合物の安定性を損なう場合がある。これに対して本発明に係る有機化合物は、基本骨格自体が所望の波長領域で発光するので、基本骨格に置換基を積極的に導入する必然性がない。尚、本発明において、所望の波長領域とは黄色領域のことであり、具体的には、570nm以上590nm以下の波長領域である。
【0045】
次に、本発明の有機化合物に類似する構造を有する比較化合物と比較しながら、本発明に係る有機化合物の特徴を説明する。具体的には、下記式(2)、(3)にそれぞれ示される化合物と比較しながら説明する。
【0046】
【化6】

【0047】
ここで本発明に係る有機化合物は、下記式(4)に示される基本骨格を有する化合物である。
【0048】
【化7】

【0049】
ここで式(4)に示される化合物と、式(2)に示される化合物にフェニル基が置換された化合物と、式(3)に示される化合物にフェニル基が置換された化合物と、を対象として、発光特性及び分子骨格の平面性の比較を行った。結果を下記表3に示す。尚、分子骨格の平面性については、分子軌道計算により知見を得た。
【0050】
【表3】

【0051】
表3より、化合物aの発光色は紫色である。このため、化合物aは、発光特性(発光色)の観点から本発明に係る有機化合物とは物性が大きく異なり、黄色発光を得るためには適さない化合物であるといえる。
【0052】
また表3より、化合物b及び化合物cの発光色は黄色である。これは本発明に係る有機化合物に属する化合物dと同様の発光色である。
【0053】
しかし表3より、化合物b及び化合物cは、分子骨格の平面性が高いので分子パッキングが促進される。このため化合物b及び化合物cは、高濃度下で使用すると発光波長の変化が大きくなると考えられる。ここでいう発光波長の変化は、分子間相互作用による励起エネルギーの緩和に起因するため、発光波長の長波長成分が増加していることを意味する。励起エネルギーの緩和により発光するエネルギーは損失されるため、発光波長の長波長成分が増加していることは、濃度消光によって発光効率が低下していることと同義である。
【0054】
また表3中の化合物b及び化合物dについて、下記に示すサンプルA及びサンプルBを作製し、各サンプルのPLスペクトルを測定した。
サンプルA:トルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)
サンプルB:下記式(5)をホスト、化合物b又は化合物dをゲストとするドープ膜
【0055】
【化8】

(サンプルBとなるドープ膜は、ホストとゲストとの重量比が90:10であり、真空度5.0×10-5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による共蒸着により作製したものである。)
【0056】
図1の(a)は、サンプルAにおけるPLスペクトルを示す図であり、(b)は、サンプルBにおけるPLスペクトルを示す図である。
【0057】
図1(a)に示されるように、サンプルA(トルエン溶液中)における化合物b及び化合物dの発光スペクトルの形状はよく似ている。一方で、図1(b)に示されるように、サンプルB(ドープ膜)における化合物bとdの発光スペクトルの形状は異なるという結果が得られた。即ち、図1(b)より、化合物bのドープ膜における発光スペクトルの最大発光波長は長波長側の第二ピークである。これに対して、化合物dのドープ膜における発光スペクトルの最大発光波長は、トルエン溶液中と同様に短波長側の第一ピークであることが示された。
【0058】
以上の結果から、表3中の化合物bは濃度消光による効率低下が懸念されるため、発光材料として適さない。一方、表3中の化合物dについては、黄色発光(554nm)を示すこと、高い量子収率を示すこと、及び分子骨格の非平面性による分子パッキングの抑制力を有することが判明した。
【0059】
尚、本発明に係る有機化合物において、下記に示される骨格の7位及び16位に導入されるアリール基は、分子骨格に非平面性を与える重要な要素である。
【0060】
【化9】

【0061】
これは、上記骨格の7位及び16位に置換基が導入されていない化合物、即ち、表3中の化合物cと、上記骨格の7位及び16位にアリール基が導入されている化合物dとの間で分子骨格の平面性が大きく異なることに関連するものである。ちなみに、化合物cは分子骨格の平面性が高く、分子パッキングを抑制することはできない。このため化合物cは、高濃度で使用すると、分子パッキングに起因する濃度消光が起こり、発光効率が低下する。
【0062】
以上より、表3中の化合物dは、有機発光素子の構成材料として使用する際に、高濃度で使用したとしても分子パッキングによる濃度消光を低減できるので、材料本来の特性を素子の性能にそのまま反映させることができる。
【0063】
尚、嵩高い置換基を導入することで分子パッキングをある程度抑えることは可能であるが、表3中の化合物b及び化合物cは、化合物自体の分子量が大きい。そのため、置換基の導入によってさらに分子量が増大するため、昇華性の低下が懸念される。従って、分子パッキングの抑制に効果的な置換基を導入することは難しい。
【0064】
さらに本発明に係る有機化合物は、基本骨格内に5員環構造が1つ含まれるため、HOMO準位が深い、即ち、酸化電位が高い。このため本発明に係る有機化合物は酸化に対して安定である。
【0065】
また本発明に係る有機化合物は、基本骨格に窒素原子等のヘテロ原子を有していない。このことも酸化電位が高いこと、即ち、有機化合物が酸化に対して安定であることに寄与している。
【0066】
さらに本発明に係る有機化合物において、その基本骨格のHOMO準位もLUMO準位も深い。
【0067】
また本発明に係る有機化合物の基本骨格に、発光波長を長波長化する置換基を設けることで赤色発光する材料を得ることができる。これら長波長化した化合物においても、基本骨格が本発明に係る有機化合物と同一であるので、酸化に対して安定である。
【0068】
本発明に係る有機化合物の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0069】
【化10】

【0070】
【化11】

【0071】
【化12】

【0072】
例示した化合物のうち、A群に属する化合物は分子全体が炭化水素のみで構成されている。ここで炭化水素のみで構成される化合物は、HOMO準位が低い。従って、A群に属する化合物は、酸化電位が低い化合物、即ち、酸化に対する安定性が高い化合物であるといえる。よって、本発明に係る有機化合物のうち、炭化水素のみで構成されているA群に属する化合物は、分子の安定性、特に、酸化に対する安定性が高いので好ましい。
【0073】
例示した化合物のうち、B群に属する化合物はヘテロ原子を含んでいる。このため置換基の種類によって、酸化電位あるいは分子間相互作用が変化する。また置換基がヘテロ原子を含む場合、電子輸送性やホール輸送性、ホールトラップ型発光材料として使用する際に、100%の高濃度で使用することが可能となる。
【0074】
以上に列挙されている例示化合物は、基本骨格自体で黄色発光するものである。また本発明に係る有機化合物は、例示化合物に限らず有機発光素子の構成材料としての用途がある。具体的には、発光層に含まれるホスト、電子輸送層や電子注入層に含まれる電子注入輸送性材料、ホール輸送層やホール注入層に含まれるホール注入輸送性材料、ホール・エキシトンブロッキング層の構成材料等の用途がある。
【0075】
次に、本発明の有機発光素子について説明する。本発明の有機発光素子は、一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置された有機化合物層とを少なくとも有する。尚、有機発光素子は、下記に示されるプロセス(a)乃至(c)によって光を放出する電子素子である。
(a)陽極及び陰極からキャリア(ホール、電子)を注入するプロセス
(b)上記キャリアが有機化合物層中に含まれる発光性有機化合物において再結合するプロセス
(c)上記再結合によって生成した発光性有機化合物の励起子が基底状態に戻るプロセス
【0076】
本発明の有機発光素子において、本発明に係る有機化合物は有機化合物層に含まれている。ここで有機化合物層は、少なくとも発光層を有する単層あるいは複数層からなる積層体である。有機化合物層が複数層から構成される積層体である場合、有機化合物層は、発光層の他に、ホール注入層、ホール輸送層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等のうちいずれかを有している積層体である。
【0077】
以下に本発明の有機発光素子の具体例を示す。
(i)(基板/)陽極/発光層/陰極
(ii)(基板/)陽極/ホール輸送層/電子輸送層/陰極
(iii)(基板/)陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iv)(基板/)陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(v)(基板/)陽極/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極
【0078】
ただし以上に列挙している5種類の類型は、あくまでごく基本的な素子構成の具体例であり、本発明に係る有機化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層との界面に、絶縁性層、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成される等多様な層構成をとることができる。また発光層は、1層であってもよいし、構成材料がそれぞれ異なる複数の層が積層されてなる積層体であってもよい。
【0079】
本発明の有機発光素子において、本発明に係る有機化合物は、上述した有機化合物層(ホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等)のいずれかに含まれている。本発明に係る有機化合物は、好ましくは、発光層に含まれる。
【0080】
本発明に係る有機化合物が発光層に含まれる場合、発光層は、本発明に係る有機化合物のみから構成されていてもよいし、複数の成分から構成されていてもよい。
【0081】
発光層が複数の成分から構成される場合、発光層には主成分となる化合物と、副成分となる化合物とから構成されることとなる。ここで主成分とは、発光層を構成する化合物のうち重量比が最も大きいものをいい、主成分に該当する材料はホスト(材料)と呼ばれている。一方、副成分とは、主成分よりも重量比が小さいものをいい、その材料が有する機能からドーパント(ゲスト)材料、発光アシスト材料、電荷注入材料等に分類される。本発明の有機発光素子において、本発明に係る有機化合物は発光層の主成分として使用してもよいし、発光層の副成分として使用してもよい。
【0082】
ここで発明者らは種々の検討を行い、本発明に係る有機化合物を発光層のホスト又はゲストとして用いた有機発光素子が、発光効率、輝度および耐久性に優れていることを見出した。特に、本発明に係る有機化合物を発光層のゲストとして用いた有機発光素子が高効率で高輝度な光出力を有し、極めて耐久性が高いことを見出した。
【0083】
このように本発明に係る有機化合物は、有機発光素子の発光層のゲストとして好ましく用いることができる。特に、黄色発光素子のゲストとして用いるのが好ましい。その結果、本発明に係る有機化合物を発光させることで赤色発光する有機発光素子を提供することができる。
【0084】
尚、本発明に係る有機化合物を発光層のゲストとして用いる場合、ホストに対するゲストの濃度は、発光層全体を基準として、0.01重量%以上20重量%以下であることが好ましく、0.2重量%以上5重量%以下であることがより好ましい。
【0085】
本発明に係る有機化合物を発光層のゲストとして用いる場合、本発明に係る有機化合物よりもLUMOが深い材料をホストとして用いることが好ましい。というのも本発明に係る有機化合物はLUMOが深いため、発光層のホストに供給される電子をホストからより良好に受領することができるからである。
【0086】
ここで、本発明に係る有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール注入・輸送性化合物、ホスト、発光性化合物あるいは電子注入・輸送性化合物等を一緒に使用することができる。
【0087】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0088】
ホール注入性化合物あるいはホール輸送性化合物としては、ホール移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0089】
発光層に含まれるホストとしては、例えば、下記表4に示される化合物が挙げられる。
【0090】
【表4】

【0091】
また表4に示される化合物の誘導体をホストとして使用してもよい。また表8に示される化合物以外の化合物をホストとして使用してもよい。例えば、縮環化合物(例えば、フルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、トリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0092】
電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物としては、ホール注入性化合物あるいはホール輸送性化合物のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する化合物としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0093】
陽極の構成材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらを複数組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0094】
一方、陰極の構成材料としては、仕事関数が小さいものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を複数組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0095】
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0096】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0097】
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置の構成部材として用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や、液晶表示装置のバックライト等としての用途がある。
【0098】
ここで表示装置とは、本発明の有機発光素子を表示部に有する装置である。この表示部は画素を有しており、この画素は本発明の有機発光素子を有している。尚、表示装置は、例えば、PC等の画像表示装置として用いることができる。
【0099】
また表示装置を、デジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置の表示部に用いてもよい。ここで撮像装置は、該表示部と、撮像するための撮像光学系を有する撮像部と、を有する装置である。
【0100】
次に、本発明の有機発光素子を使用した表示装置について、図面を参照しながら説明する。
【0101】
図2は、本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に電気接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する表示装置の例を示す断面模式図である。構造の詳細を以下に説明する。
【0102】
図2の表示装置3は、ガラス等の基板31とその上部にTFT又は有機化合物層を保護するための防湿膜32が設けられている。また符号33はCr等の金属のゲート電極33である。符号34はゲート絶縁膜34であり35は半導体層である。
【0103】
TFT素子38は半導体膜35とドレイン電極36とソース電極37とを有している。TFT素子38の上部には絶縁膜39が設けられている。コンタクトホール(スルーホール)310を介して有機発光素子の陽極311とソース電極37とが接続されている。
【0104】
図2の表示装置3において、単層あるいは多層構造である有機化合物層312は、1つの層の如き図示がなされている。陰極313の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層314や第二の保護層315が設けられている。
【0105】
有機発光素子はTFT素子により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。またTFTの代わりにSi基板上にアクティブマトリクスドライバーを作成し、その上に有機発光素子を設けて制御することも可能である。これは精細度によって選択され、たとえば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機発光素子を設ける方が好ましい。
【0106】
本発明の有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により本発明を説明する。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
[実施例1]例示化合物A1の合成
【0109】
【化13】

【0110】
(1)化合物E3の合成
下記に示す試薬、溶媒を、100mlナスフラスコに仕込んだ。尚、化合物E1は、特開2010−254610号公報を基に合成した化合物である。
化合物E1:606mg(1mmol)
化合物E2:327mg(1mmol)
Pd(PPh34:0.02g
トルエン:10ml
エタノール:5ml
2M−炭酸ナトリウム水溶液:10ml
【0111】
次に、反応溶液を、窒素気流下、80℃で8時間攪拌を行った。反応終了後、生成した結晶をろ別した後、この結晶を、水、エタノール、ヘプタンで順次分散洗浄を行った。次に、洗浄した結晶をトルエンに加熱溶解した後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒;クロロホルム:ヘプタン=1:3)にて精製した。次に、クロロホルム/メタノールで再結晶を行うことにより、黄色結晶の化合物E3を583mg(収率:80%)得た。
【0112】
(2)例示化合物A1の合成
まず化合物E3(200mg、0.3mmol)をDMA5mlに溶解させた後、以下に示す試薬を加えた。
Pd(dba)2:74mg
P(Cy)3:12mg)
【0113】
次に、反応溶液を、室温において10分ほど撹拌した後、DBU(120mg、0.8mmol)を入れた。次に、反応溶液を140℃に加熱してこの温度(140℃)で1分ほど撹拌した後、反応溶液を160℃に加熱してこの温度(160℃)で4時間撹拌した。反応終了後、生成した赤色沈殿をろ過することで濃赤色固体を得た。次に、この固体をクロロベンゼンに加熱溶解させ、熱時ろ過し、クロロベンゼン/メタノールで再結晶を2回行うことにより、濃赤色結晶の例示化合物A1を120mg(収率:68%)得た。また得られた例示化合物A1のうち100mgを取出し、アルバック機構社製の昇華精製装置にて、以下に示す条件下で昇華精製を行うことにより、精製された例示化合物A1を83mg得た。
真空度:7.0×10-1Pa
アルゴンガス流量:10ml/min
加熱温度(昇華温度):410℃
【0114】
得られた化合物について、HPLCを用いて純度を測定したところ純度99%以上であることを確認した。
【0115】
また日立製F−4500を用いて、例示化合物A1のトルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)の発光スペクトル(フォトルミネッセンス)を測定した。尚、測定にあたり励起波長を500nmに設定した。その結果、554nmに最大強度を有する発光スペクトルを得た。
【0116】
ところで例示化合物A1は、溶媒に対する溶解性が低く、NMRによる同定が困難であるため、日本電子(JEOL)社製、JMS−T100TD(DART−TOF−MASS)を用いて分子量を測定することで化合物の同定を行った。結果を以下に示す。
DART−TOF−MASS:M+=678.2
【0117】
[実施例2]例示化合物A4の合成
実施例1(1)において、化合物E1に代えて下記に示される化合物E4を使用する以外は、実施例1と同様の方法で合成を行うことで例示化合物A4を得た。
【0118】
【化14】

【0119】
得られた化合物について、HPLCを用いて純度を測定したところ純度99.5%以上であることを確認した。
【0120】
また実施例1と同様の方法により、例示化合物A4のトルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)における発光スペクトルの測定を行った結果、562nmに最大強度を有する発光スペクトルを得た。
【0121】
さらに実施例1と同様の方法により、例示化合物A4の分子量を測定することで化合物の同定を行った。結果を以下に示す。
DART−TOF−MASS:M+=903.2
【0122】
[実施例3]例示化合物A5の合成
実施例1(1)において、化合物E1に代えて下記に示される化合物E5を使用する以外は、実施例1と同様の方法で合成を行うことで例示化合物A5を得た。
【0123】
【化15】

【0124】
得られた化合物について、HPLCを用いて純度を測定したところ純度99%以上であることを確認した。
【0125】
また実施例1と同様の方法により、例示化合物A5のトルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)における発光スペクトルの測定を行った結果、555nmに最大強度を有するスペクトルを得た。
【0126】
さらに実施例1と同様の方法により、例示化合物A5の分子量を測定することで化合物の同定を行った。結果を以下に示す。
DART−TOF−MASS:M+=831.0
【0127】
[実施例4]例示化合物A12の合成
実施例1(1)において、化合物E2に代えて下記に示される化合物E6を使用する以外は、実施例1と同様の方法で合成を行うことで例示化合物A12を得た。
【0128】
【化16】

【0129】
得られた化合物について、HPLCを用いて純度を測定したところ純度99%以上であることを確認した。
【0130】
また実施例1と同様の方法により、例示化合物A12のトルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)における発光スペクトルの測定を行った結果、562nmに最大強度を有するスペクトルを得た。
【0131】
さらに実施例1と同様の方法により、例示化合物A12の分子量を測定することで化合物の同定を行った。結果を以下に示す。
DART−TOF−MASS:M+=754.9
【0132】
[実施例5]例示化合物A13の合成
実施例1(1)において、化合物E2に代えて下記に示される化合物E7を使用する以外は、実施例1と同様の方法で合成を行うことで例示化合物A13を得た。
【0133】
【化17】

【0134】
得られた化合物について、HPLCを用いて純度を測定したところ純度99%以上であることを確認した。
【0135】
また実施例1と同様の方法により、例示化合物A13のトルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)における発光スペクトルの測定を行った結果、562nmに最大強度を有するスペクトルを得た。
【0136】
さらに実施例1と同様の方法により、例示化合物A13の分子量を測定することで化合物の同定を行った。結果を以下に示す。
DART−TOF−MASS:M+=754.9
【0137】
[実施例6]
本実施例では、基板上に、陽極、ホール輸送層、発光層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層及び陰極がこの順で形成されている有機発光素子を作製した。以下に、本実施例で使用した材料の一部を示す。
【0138】
【化18】

【0139】
まずガラス基板(基板)上に、ITO膜を成膜した。このときITO膜の膜厚を100nmとした。次に、このITO膜を所望の形状にパターニング成形してITO電極(陽極)を形成した。このようにITO電極が形成された基板をITO基板として、以下の工程で使用した。
【0140】
次に、1×10-5Paの真空チャンバー内における抵抗加熱による真空蒸着を行って、上記ITO基板上に、下記表5に示す有機化合物層及び電極層を連続成膜した。尚、このとき対向する電極(金属電極層、陰極)の電極面積が3mm2となるようにした。
【0141】
【表5】

【0142】
尚、本実施例において、G−2及びG−3は、それぞれ表4で示したH6、H22である。
【0143】
得られた素子について、素子の特性を測定・評価した。具体的には、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。測定の結果を表6に示す。
【0144】
[実施例7乃至16]
実施例6において、G−2、G−3及びゲストを、表6に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例6と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例6と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表6に示す。尚、表6において、G−2として使用したH2、H4、H11、H18、H19、H20、H21及びH24、並びにG−3として使用したH22、H23及びH24は、それぞれ表4で示したホストである。
【0145】
【表6】

【0146】
[実施例17]
本実施例では、基板上に、陽極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極が順次形成された有機発光素子を作製した。尚、本実施例で作製される有機発光素子は共振構造を有している。以下に、本実施例で使用した材料の一部を示す。
【0147】
【化19】

【0148】
まずスパッタリング法により、ガラス基板(支持体)上に、アルミニウム合金(AlNd)を成膜し反射性陽極を形成した。このとき反射性陽極の膜厚を100nmとした。次に、スパッタリング法により、反射性陽極上にITOを成膜し透明性陽極を形成した。このとき透明性陽極の膜厚を80nmとした。次に、この陽極の周辺にアクリル製の素子分離膜を膜厚1.5μmで形成した後、所望のパターニング成形を行い、半径3mmの開口部を設けた。次に、陽極が形成されている基板を、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄した。次に、IPAで煮沸洗浄してから乾燥させた。次に、この基板表面に対してUV/オゾン洗浄を施した。
【0149】
次に、1×10-5Paの真空チャンバー内における抵抗加熱による真空蒸着を行って、上記ITO基板上に、下記表7に示す有機化合物層を連続成膜した。
【0150】
【表7】

【0151】
尚、本実施例において、G−13及びG−14は、それぞれ表4で示したH11、H24である。
【0152】
次に、スパッタリング法により、電子注入層上に、IZOを成膜して陰極を形成した。このとき陰極の膜厚を30nmとした。最後に、窒素雰囲気下において封止を行った。
以上により、有機発光素子を作製した。
【0153】
得られた素子について、素子の特性を測定・評価した。具体的には、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。測定の結果を表8に示す。
【0154】
[実施例18乃至21]
実施例17において、G−13、G−14及びゲストを、表8に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例17と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例17と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表8に示す。尚、表8において、G−13として使用したH6、H19、H23及びH24、並びにG−14として使用したH22及びH23は、それぞれ表4で示したホストである。
【0155】
【表8】

【0156】
[実施例22]
本実施例では、基板上に、陽極、ホール輸送層、第1発光層、第2発光層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、陰極が順次形成された有機発光素子を作製した。尚、本実施例の有機発光素子は発光層が複数あるので、各発光層に含まれるゲストが個別あるいは同時に発光する態様である。以下に、本実施例で使用した材料の一部を示す。
【0157】
【化20】

【0158】
まずガラス基板上に、ITOを成膜し、所望のパターニング加工を施すことによりITO電極を形成した。このときITO電極の膜厚を100nmとした。このようにITO電極が形成された基板をITO基板として、以下の工程で使用した。
【0159】
次に、1×10-5Paの真空チャンバー内における抵抗加熱による真空蒸着を行って、上記ITO基板上に、下記表9に示す有機化合物層及び電極層を連続成膜した。尚、このとき対向する電極(金属電極層、陰極)の電極面積が3mm2となるようにした。
【0160】
【表9】

【0161】
尚、本実施例において、G−22、G−23及びG−24は、それぞれ表4で示したH11、H22及びH17である。また表9において、第1アシスト材料とは、第1発光層に含まれるアシスト材料である。
【0162】
得られた素子について、素子の特性を測定・評価した。具体的には、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。測定の結果を表10に示す。
【0163】
[実施例23、24]
実施例22において、G−22、G−23、G−24及びゲストを、表10に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例22と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例22と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表10に示す。尚、表10において、G−22として使用したH18及びH23、G−23として使用したH22及びH23、並びにG−24として使用したH17及びH18は、それぞれ表4で示したホスト又はアシスト材料である。
【0164】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明に係る有機化合物は、発光色が赤であり、高い量子収率を有する化合物であり、このため本発明に係る有機化合物を有機発光素子の構成材料として用いた場合、良好な発光特性を有する有機発光素子を得ることができる。
【符号の説明】
【0166】
311:陽極、312:有機化合物層、313:陰極、38:TFT素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示されることを特徴とする、有機化合物。
【化1】

(式(1)において、R1乃至R18は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアルコキシ基、置換アミノ基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換あるいは無置換のシリル基及びシアノ基から選ばれる置換基である。Ar1及びAr2は、それぞれ置換あるいは無置換のアリール基を表す。)
【請求項2】
1乃至R18が、それぞれ水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基であり、
Ar1及びAr2が、それぞれ置換あるいは無置換のアリール基であることを特徴とする、請求項1に記載の有機化合物。
【請求項3】
1、R2、R5、R6及びR11乃至R14が、それぞれ水素原子又は置換あるいは無置換のアリール基であり、
3、R4、R7乃至R10及びR15乃至R18が、水素原子であり、
Ar1及びAr2が、それぞれ置換あるいは無置換のアリール基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機化合物。
【請求項4】
陰極と陽極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置された有機化合物層と、を有する有機発光素子において、
前記有機化合物層の少なくとも1層が、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機化合物を有することを特徴とする、有機発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物が発光層に含まれることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
黄色発光することを特徴とする、請求項4又は5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
複数の画素を有し、
前記複数の画素が、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子の発光輝度を制御するTFT素子と、をそれぞれ有することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
表示部と撮像部とを有し、
前記表示部が複数の画素を有し、
前記複数の画素が、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子の発光輝度を制御するTFT素子と、をそれぞれ有し、
前記撮像部が撮像光学系を有することを特徴とする、撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−158542(P2012−158542A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18366(P2011−18366)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】