説明

有機化合物

本発明は、2−アミノ−2−[2−(4−C2−20−アルキル−フェニル)エチル]プロパン〜1,3〜ジオールの塩、多形体および水和物に、およびその使用、特に様々な自己免疫状態の治療または予防における使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物FTY720の塩、例えば結晶塩、およびその使用に関する。
【0002】
2−アミノ−2−[2−(4−C2−20−アルキル−フェニル)エチル]プロパン−1,3−ジオール化合物は欧州特許出願公開第0627406号明細書に開示され、これに関連する開示は参照により本明細書に組み込む。観察された活性に基づいて、この化合物は免疫抑制剤として有用であると判明している。したがってこの化合物は、多発性硬化症を含む様々な自己免疫状態の治療または予防に有用となり得る。このクラスの具体的な化合物は、FTY720(2−アミノ−2−[2−(4−オクチルフェニル)エチル]プロパン−1,3−ジオール;フィンゴリモド(fingolimod))である。これは遊離塩基または塩酸塩の形態で得ることができる。FTY720の構造は、
【0003】
【化1】

に示される。
【発明の概要】
【0004】
本発明によると、FTY720の結晶塩が提供される。この塩は、酒石酸塩(tartrate salt)、乳酸塩(lactate salt)、安息香酸塩(benzoate salt)、琥珀酸塩(succinate salt)、マロン酸塩(malonate salt)、酢酸塩(acetate salt)およびプロピオン酸塩(propionate salt)から選択され、場合によって、塩は結晶性である。
【0005】
一実施形態において、この塩は、酒石酸塩、乳酸塩、安息香酸塩、琥珀酸塩およびマロン酸塩から選択される。
【0006】
別の実施形態において、この塩は、酒石酸塩、乳酸塩、琥珀酸塩およびマロン酸塩から選択される。
【0007】
一実施形態において、この塩は酒石酸塩である。
【0008】
特定の実施形態において、この塩は、2θ(2-theta)値:約3.1、19.3、21.7、9.6、17.2、6.4、22.6および20.8度(degrees)の2θの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、より好ましくはすべてのピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする酒石酸塩である。前記2θ値のピークは相対強度:3.1(強)、19.3(弱)、21.7(弱)、9.6(弱)、17.2(弱)、6.4(弱)、22.6(弱)および20.8(弱)を有していてもよい。具体的な実施形態において、この塩は、図1に示すパターンに実質的に対応するX線粉末回折パターンを特徴とする酒石酸塩である。
【0009】
一実施形態において、この塩は乳酸塩である。
【0010】
特定の実施形態において、この塩は、2θ値:4.3、8.7、20.8、13.1、10.3、18.8、8.1、21.6、21.9および19.6度の2θの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、およびより好ましくはすべてのピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする乳酸塩である。前記2θ値のピークは相対強度:4.3(強)、8.7(中)、20.8(中)、13.1(中)、10.3(弱)、18.8(弱)、8.1(弱)、21.6(弱)、21.9(弱)および19.6(弱)を有していてもよい。特定の実施形態において、この塩は、図2に示すパターンに実質的に対応するX線粉末回折パターンを特徴とする乳酸塩である。
【0011】
一実施形態において、この塩は安息香酸塩である。
【0012】
具体的な実施形態において、この塩は、2θ値:3.7、7.5、18.7、19.8、15.2、19.4、19.9、6.0および21.9度の2θの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、より好ましくはすべてのピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする安息香酸塩である。前記2θ値のピークは相対強度:3.7(強)、7.5(中)、18.7(弱)、19.8(弱)、15.2(弱)、19.4(弱)、19.9(弱)、6.0(弱)および21.9(弱)を有していてもよい。特定の実施形態において、この塩は、図3に示すパターンに実質的に対応するX線粉末回折パターンを特徴とする安息香酸塩である。
【0013】
一実施形態において、この塩は琥珀酸塩である。
【0014】
具体的な実施形態において、この塩は、2θ値:3.2、19.8、20.7、23.3、26.2、9.8、19.4、24.5、33.4、26.6および22.6度の2θの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、より好ましくはすべてのピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする琥珀酸塩である。前記2θ値におけるピークは相対強度:3.2(強)、19.8(中)、20.7(弱)、23.3(弱)、26.2(弱)、9.8(弱)、19.4(弱)、24.5(弱)、33.4(弱)、26.6(弱)および22.6(弱)を有していてもよい。特定の実施形態において、この塩は、図4に示すパターンに実質的に対応するX線粉末回折パターンを特徴とする琥珀酸塩である。
【0015】
一実施形態において、この塩はマロン酸塩である。
【0016】
具体的な実施形態において、この塩は、2θ値:2.5、5.2、8.0、16.2、17.0、20.4度の2θの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、より好ましくはすべてのピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とするマロン酸塩である。前記2θ値におけるピークは、相対強度:2.5(強)、5.2(弱)、8.0(弱)、16.2(弱)、17.0(弱)、20.4(弱)を有していてもよい。特定の実施形態において、図5に示すパターンに実質的に対応するX線粉末回折パターンを特徴とするマロン酸塩が提供される。
【0017】
一実施形態において、この塩は酢酸塩である。
【0018】
具体的な実施形態において、この塩は、2θ値:4.8、8.4、10.1、11.5、15.2、17.7、19.3、20.1、21.5、21.9、24.0、25.4、度の2θの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、およびより好ましくはすべてのピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする酢酸塩である。前記2θ値におけるピークは相対強度:4.8(強)、8.4(弱)、10.1(中)、11.5(弱)、15.2(中)、17.7(弱)、19.3(弱)、20.1(弱)、21.5(弱)、21.9(弱)、24.0(弱)、25.4(中)、30.8(弱)を有していてもよい。特定の実施形態において、図6に示すパターンに実質的に対応するX線粉末回折パターンを特徴とする酢酸塩が提供される。
【0019】
一実施形態において、この塩はプロピオン酸塩である。
【0020】
具体的な実施形態において、この塩は、2θ値:4.8、8.4、9.8、14.7、16.8、17.6、19.7、20.2、22.6、24.8、29.8度の2θの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、より好ましくはすべてのピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とするプロピオン酸塩である。前記2θ値におけるピークは相対強度:4.8(強)、8.4(弱)、9.8(中)、14.7(弱)、16.8(弱)、17.6(弱)、19.7(弱)、20.2(弱)、22.6(弱)、24.8(弱)、29.8(弱)を有していてもよい。特定の実施形態において、図7に示すパターンに実質的に対応するX線粉末回折パターンを特徴とするプロピオン酸塩が提供される。
【0021】
有利なことに、本発明の様々な塩の形態は、FTY720の遊離塩基形態または塩酸塩形態と比較して、1つまたは複数の望ましい特性を有することができる。例えばこの塩は、特に保管および流通中に、遊離塩基よりも安定し品質も良いことがある。さらに、この塩は水中で高い解離度を有し、その結果、実質的に水溶性を向上させることができる。本塩は、測定可能な水の吸収や損失を示さないという点でも有利となり得る。
【0022】
本明細書において実施例で示すように、結晶形はX線粉末回折スペクトルの主ピークによって特徴付けることができる。赤外分光法(IR)の吸収パターンまたは示差走査熱量測定法(DSC)の相転移シグナルなどのそれらの物理的パラメータにおいて、結晶形もまた、それらの熱力学的安定性に関連して異なってもよい。本発明の塩は、実質的に純粋な結晶形であるのが好ましい。本明細書で使用される「実質的に純粋な」という用語は、例えばX線粉末回折、ラマン分光法またはIR分光法により求められる多形純度が、90%を超え、より好ましくは95%を超え、より好ましくは96%を超え、より好ましくは97%を超え、より好ましくは98%を超え、より好ましくは99%を超える、結晶形に関する基準を含む。
【0023】
本発明の塩は、水和物を含む溶媒和物の形態をしていてよく、多形を示してもよい。
【0024】
本発明の塩は、従来の化学的手法により遊離塩基から合成することができる。一般に、このような塩は、水中もしくは有機溶媒中、または両者の混合物中で、FTY720の遊離塩基形態を適切な酸と反応させることによって調製することができる。多くの場合、非水性の媒体、例えば酢酸エチル、エタノールまたはイソプロパノールを使用してもよい。FTY720とその酸は、所望の化学量論比、例えば1:1または1:2で合わせられる。次いで、塩は、結晶化させもしくは結晶化を誘発させ、または、場合によって結晶化の前に、非晶質固体を形成させることができる。次いで、固体塩は、例えば減圧加熱によって乾燥することができる。例証として、また制限なしで、本発明の様々な塩の形態は、本明細書において実施例に示す手順に従って得ることができる。
【0025】
本発明の結晶塩を含む医薬製剤もまた、提供される。本発明の医薬製剤は、製剤全重量を基準にして、好ましくは0.01から20重量%、より好ましくは0.1から10重量%、例えば0.5から5重量%塩を含む。
【0026】
医薬製剤は、経口投与、例えば錠剤またはカプセルに適切な形態の、固体医薬組成物とすることができる。本組成物は、従来の方法、例えば本発明の塩を薬学的に許容される担体(carrier)または希釈剤(diluent)と混合することによって製造することができる。
【0027】
特定の実施形態において、製剤は、本発明の塩および糖アルコールを含む固体の医薬組成物である。このタイプの組成物は国際公開第2004/089341号に開示され、その内容は参照により本明細書に組み込む。この公開において開示された固形組成物は、本発明の塩の経口投与に特によく適している。本組成物は、本化合物の全身投与の好都合な手段を提供し、注射または経口使用の液体配合物の欠点に悩まされず、よい物理化学的および貯蔵特性を有する。特に、本発明の組成物は、高い安定性と同様に組成物の全体にわたる化合物の分布において高いレベルの均一性を示すことができる。したがって、本組成物は高速自動化装置で製造することができ、その結果、手動カプセル化を必要としない。
【0028】
糖アルコールは希釈剤、担体、充填剤(filler)または増量剤(bulking agent)として働くことができ、適切にはマンニトール、マルチトール、イノシトール、キシリトールまたはラクチトール、好ましくは実質的に非吸湿性の糖アルコール、例えばマンニトール(D−マンニトール)であってもよい。単一の糖アルコール、または2種以上の糖アルコールの混合物、例えばマンニトールとキシリトールの混合物を、例えば1:1から4.1の比で使用することができる。
【0029】
特に好ましい実施形態において、糖アルコールは高い比表面積を有し、噴霧乾燥組成物、例えばマンニトール組成物から調製される。このタイプのマンニトール組成物を使用すると、組成物中のマンニトール全体にわたって化合物の一様な分布を促進するのを助けることができる。より高い表面積は、より小さい平均サイズおよび/または各粒子のより粗い表面を有する粒子からなる糖アルコール、例えばマンニトール製剤を提供することにより達成することができる。例えば300μm以下の平均粒子サイズを有する噴霧乾燥糖アルコール、例えばマンニトールの使用は、また、その組成物から形成される錠剤の圧縮性および硬度を向上させることが見出された。
【0030】
好ましくは、糖アルコール製剤、例えば、マンニトールの単点表面積は1から7m/g、例えば、2から6m/g、または、3から5m/gである。マンニトール製剤は、好適には平均粒子径が100から300μm、例えば、150から250μmであり、嵩比重が0.4から0.6g/mL、例えば、0.45から0.55g/mLである。適切な表面積の大きいマンニトールはE.Merck社から市販されているParteck M200である。
【0031】
本組成物は、組成物全重量に対して、好ましくは75から99.99重量%、より好ましくは、85から99.9重量%、例えば、90から99.5重量%の糖アルコールを含有する。
【0032】
本組成物は好ましくはさらに潤滑剤(lubricant)を含有する。適切な潤滑剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、パルミトステアリン酸グリセリル、フマル酸ステアリルナトリウム、キャノーラ油、硬化ヒマシ油(例えば、Cutina(登録商標)またはLubriwax(登録商標)101)等の硬化植物油、鉱物油、ラウリル硫酸ナトリウム、酸化マグネシウム、コロイド状二酸化ケイ素、流動シリコーン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、安息香酸ナトリウム、タルク、ポロキサマー、または上記のいずれかの混合物が挙げられる。好ましい潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、硬化ヒマシ油または鉱物油を含む。コロイド状二酸化ケイ素とポリエチレングリコールは、潤滑剤としてやや好ましくない。
【0033】
本組成物は、組成物の全重量に対して好ましくは0.01から5重量%、より好ましくは1から3重量%、例えば、約2重量%の潤滑剤を含有する。
【0034】
本組成物は、担体、結合剤(binder)または希釈剤などの1種または複数のさらなる賦形剤(excipient)を含むことができる。特に、本組成物は微結晶性セルロース(例えば、Avicel(登録商標))、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デンプン(例えば、トウモロコシデンプン)またはリン酸二カルシウムを、好ましくは組成物の全重量に対して、0.1から90重量%、例えば、1から30重量%の量を含有することができる。例えば、微結晶性セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの結合剤を用いる場合には、組成物全重量に対して、好ましくは1から8重量%、例えば、3から6重量%の量で含有するのが好ましい。結合剤を用いると、製剤の顆粒強度が増大し、このことは、細粒化の際に特に重要である。微結晶性セルロースおよびメチルセルロースは、高い錠剤硬度および/またはより長い崩壊時間が必要な場合に特に好ましい。ヒドロキシプロピルセルロースは、より速い崩壊が必要な場合に好ましい。場合により、キシリトールを追加の結合剤として、例えば、20重量%までの量の糖アルコール、例えば、キシリトールを、例えば、微結晶性セルロースに添加することができる。
【0035】
一実施形態において、本組成物は、さらに安定剤(stabiliser)、好ましくは塩酸グリシンHClまたは重炭酸ナトリウムを含む。安定剤は、例えば0.1から30重量%、好ましくは1から20重量%の量を含むことができる。
【0036】
本組成物は、粉末、顆粒もしくはペレットの形態、または、例えば、錠剤、またはカプセル剤のような単位剤形となり得る。本発明の組成物は、経口的に投与できるカプセル殻、特に、硬質ゼラチン殻中にカプセル化することに十分適合している。
【0037】
代替として、本組成物は、圧縮して錠剤とすることもできる。場合によって、錠剤は、例えば、タルク、多糖類(例えば、セルロース)またはヒドロキシプロピルメチルセルロースのコーティング剤によって被覆されていてもよい。
【0038】
医薬カプセルが単位剤形である場合、各単位剤形は、例えば、約0.5から約10mgの本発明の塩を含有してもよい。
【0039】
本発明の組成物は、標準的な安定性試験で示されるようによい安定特性、例えば、1年、2年、3年、またははるかに長い期間の貯蔵安定性(shelf life stability)を有していてもよい。安定特性は、例えば、20℃、40℃または60℃などの特定温度で、特定の期間保存した後、例えばHPLC分析によって分解物を測定することによって決定できる。
【0040】
本発明の医薬組成物は、標準的な方法、例えば、通常の混合、造粒、糖衣コーティング、溶解または凍結乾燥法によって製造することができる。使用できる手順は、当分野で知られており、例えば、L.Lachmanら、The Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第3版,1986、H.Suckerら、Pharmazeutische Technologie,Thieme,1991,Hagers Handbuch der pharmazeutischen Praxis,第4版(Springer Veriag,1971)およびRemington’s Pharmaceutical Sciences,第13版,(Mack Publ.,Co.1970)またはその後の版に記載されている。
【0041】
一実施形態において、本医薬組成物は
(a)本発明の塩を糖アルコールと混合すること:
(b)(a)で得られた混合物を粉砕(milling)および/または造粒すること;および
(c)(b)で得られた粉砕および/または造粒混合物と潤滑剤とを混合すること
を含む方法により製造される。
【0042】
この方法を用いることによって、十分なレベルの含量および混合均一性(すなわち、組成物全体に塩が実質的に均一に分布していること)、溶出時間および安定性を有する製剤が得られる。
【0043】
本塩は、場合によって、塩は塊を除くためにステップ(a)の前に微粉化し、および/または例えば400から500μmメッシュの篩を用いて予備篩にかけてもよい。適切には、混合ステップ(a)は、任意の適切な混和機または混合機中で、例えば100から400回転で、塩と、例えばマンニトールなどの糖アルコールとを混和することを含む。
【0044】
本方法は、成分を乾式混合することによって行うことができる。本実施形態において、粉砕ステップ(b)は、適切にはステップ(a)で得られた混合物を好ましくは、400から500μmメッシュサイズを有する篩に通すことを含む。工程ステップ(a)は、プレミックスを形成するために、最初塩の全量と少量の糖アルコール、例えば、糖アルコール全量の5から25重量%とを混合するステップを含む。続いて、糖アルコールの残量をプレミックスに添加する。ステップ(a)は、また、結合剤溶液、例えば、メチルセルロースおよび/またはキシリトール、例えば水溶液をその混合物に加えるステップを含む。代替として、結合剤を乾燥混合物に加え、水を造粒ステップにて加える。
【0045】
(b)で得られた粉砕混合物は、潤滑剤と混合する前にもう一度、場合によって、混和してもよい。潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムは、混合する前に例えば800から900μmの篩を用いて予備篩にかけるのが好ましい。
【0046】
代替として、湿式造粒法が用いられる。この実施形態においては、塩を好ましくは最初に所望の糖アルコール、例えばマンニトールと乾式混合し、次いで、得られた糖アルコール/塩混合物をヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの結合剤と乾式混合する。次いで、水を加えて、混合物を、例えば自動化造粒機を用いて造粒する。次いで、造粒物を乾燥し、粉砕する。
【0047】
所望により、ステップ(c)において、追加の量の結合剤を、(b)で得られた混合物に添加してもよい。
【0048】
本方法は、(c)で得られた混合物を錠剤化するか、例えば、自動カプセル化装置を用いて、硬質ゼラチンカプセルにカプセル化するさらなるステップを含んでもよい。個々の外観を知らせ、また、直ちにそれと分かるようにカプセルを着色するか、または印を付けてもよい。色素の使用は、カプセルの識別のみならず見栄えをよくするのに役立つことができる。製剤に通常用いられる適切な色素として、カロチノイド、酸化鉄、およびクロロフィルが挙げられる。好ましくは、本発明のカプセルはコード(code)を使用して印を付ける。
【0049】
本発明の塩は、
a)臓器または組織の移植における拒絶反応の治療および予防、例えば、心臓、肺、心臓と肺の組合せ、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚または角膜移植のレシピエントの治療、および例えば骨髄移植後に時に生じる移植片対宿主病の予防;特に、急性または慢性の同種または異種移植における拒絶反応の治療または例えば膵島細胞等のインスリン産生細胞の移植;および
b)自己免疫疾患の、または炎症状態、例えば関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、I型またはII型糖尿病およびそれに関連する障害、脈管炎、悪性貧血、シェーグレン症候群、ブドウ膜炎、乾癬、グレーブス眼症、円形脱毛症その他、アレルギー性疾患、例えばアレルギー喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎/結膜炎、アレルギー性接触皮膚炎、場合によって基礎異常応答(underlying aberrant reaction)を有していてもよい炎症性疾患、例えば炎症性大腸疾患、クローン病または潰瘍性大腸炎、内因性喘息、炎症性肺損傷、炎症性肝損傷、炎症性糸球体損傷、アテローム性動脈硬化症、骨関節炎、刺激性接触皮膚炎およびさらなる湿疹性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、免疫介在障害の皮膚症状、炎症性眼疾患、角結膜炎、心筋炎または肝炎の治療および予防に有用であり得る。
【0050】
上記使用については、必要とする用量は、当然、投与の様式、治療する具体的な症状および所望の効果に依存して変化する。一般に、満足すべき結果は、約0.1から約100mg/kg体重の日用量で得られることが示される。より大きい哺乳動物、例えばヒトに示される日用量は、約0.5mgから2000mgの範囲にあり、例えば、1日当たり最大4回の分割用量または遅延型で投与するのが好都合である。
【0051】
本塩は、任意の適切な経路で、例えば経口的に、例えば錠剤またはカプセルの形態で、局所的にまたは非経口的に、例えば、静脈内に投与することができる。少なくとも1種の薬学的に許容される担体または希釈剤と関連した本発明の塩を含む医薬組成物は、薬学的に許容される担体または希釈剤と混合することによって従来の手法で製造することができる。経口投与用の単位剤形は、例えば約0.1mgから約500mgの活性物質を含む。
【0052】
本塩は、単独の活性成分として、または、例えば同種移植の急性もしくは慢性拒絶、または炎症性もしくは自己免疫障害の治療または予防のための、免疫調節レジメンにおける他の薬物もしくは他の抗炎症剤と一緒に投与することができる。例えば、これらは、カルシニューリン阻害剤、例えばシクロスポリンA、シクロスポリンG、FK−506、ABT−281、ASM981;mTOR阻害剤、例えばラパマイシン、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン、CCI779、ABT578またはAP23573など;コルチコステロイド;シクロホスファミド;アザチオプレン;メトトレキセート;別のS1P受容体アゴニスト、例えばFTY720またはその類似物;レフルノミドまたはその類似物;ミゾリビン;ミコフェノール酸;ミコフェノール酸モフェチル;15−デオキシスペルグアリンまたはその類似物;免疫抑制モノクローナル抗体、例えば白血球受容体、例えばMHC、CD2、CD3、CD4、CD11a/CD18、CD7、CD25、CD27、B7、CD40、CD45、CD58、CD137、ICOS、CD150(SLAM)、OX40、4−1BBまたはそれらのリガンド、例えばCD154に対するモノクローナル抗体;または他の免疫調節化合物、例えば少なくともCTLA4の細胞外ドメインの一部またはその変異体、例えば非CTLA4タンパク質配列に結合した少なくともCTLA4の細胞外部位またはその変異体を有する組換え結合分子、例えばCTLA4Ig(例えば命名ATCC68629)またはその変異体、例えばLEA29Y、または他の接着分子阻害剤、例えばmAbs、またはLFA−1アンタゴニスト、セレクチンアンタゴニストおよびVLA−4アンタゴニストを含む低分子量阻害剤との組合せで使用することができる。
【0053】
本塩が別の免疫調節または抗炎症剤と共に投与される場合、同時投与される免疫調節または抗炎症剤の用量は、当然、使用される併用薬のタイプおよび治療される症状などに依存して変化する。
【0054】
したがって、本発明は以下を提供する:
1.治療有効量の本発明の結晶塩を対象に投与することを含む、臓器または組織移植拒絶を治療するまたは予防する方法。
2.治療有効量の本発明の結晶塩を対象に投与することを含む、自己免疫疾患または炎症状態を治療または予防する方法。
3.薬剤として使用される本発明の塩、例えば本発明の結晶塩。
4.本発明の塩、例えば本発明の結晶塩、および薬学的に許容される希釈剤または担体を含む医薬組成物。
5.例えば上に開示される方法における医薬の調製のための、本発明の塩、例えば本発明の結晶塩の使用。
6.(a)本発明の塩、例えば本発明の結晶塩、および(b)上記疾患の予防または治療に適切な第2の製剤原料を含む製薬の組合せ。
7.例えば(a)本発明の結晶塩、および(b)上記疾患の予防または治療に適切な第2の製剤原料の、同時または順次の同時投与を含む、上に定義される方法。
【0055】
以下の実施例は本発明を例証する。実施例1から29において、化合物A、FTY720またはFTY720塩酸塩への言及は、本発明の様々な塩のいずれかを指すものを含むと考えるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】表1に示す有意なピークを伴うFTY720酒石酸塩のX線粉末回折図である。
【図2】表2に示す有意なピークを伴うFTY720乳酸塩のX線粉末回折図である。
【図3】表3に示す有意なピークを伴うFTY720安息香酸塩のX線粉末回折図である。
【図4】表4に示す有意なピークを伴うFTY720琥珀酸塩(2:1)のX線粉末回折図である。
【図5】表5に示す有意なピークを伴うFTY720マロン酸塩のX線粉末回折図である。
【図6】表6に示す有意なピークを伴うFTY720酢酸塩のX線粉末回折図である。
【図7】表7に示す有意なピークを伴うFTY720プロピオン酸塩のX線粉末回折図である。
【実施例1】
【0057】
微粉化した化合物A、例えば2−アミノ−2−[2−(4−オクチルフェニル)エチル]プロパン−1,3−ジオール塩酸塩(FTY720)を篩にかけ、篩にかけた化合物116.7gを、9683.3gの微結晶性セルロース剤と混合する。次いで、混合物を30メッシュ篩を用いてFrewitt MGI装置(米国Key International Inc.)で粉砕する。ステアリン酸マグネシウムを20メッシュの篩を用いて篩にかけ、篩にかけた化合物200gをFTY720混合物と混和して製品組成物を製造する。
【0058】
次いで、製品組成物を7mmのダイを用いて打錠機で圧縮し、各々以下を含む120mgの錠剤を形成する。
化合物A 例えばFTY720 1.4mg
微結晶性セルロース、例えばAvicel PH102 116.2mg
ステアリン酸マグネシウム 2.4mg
合計 120 mg
遊離形態の化合物A1mgはFTY720の1.12mgと等価である。
【実施例2】
【0059】
さらなる実施例において、ステアリン酸マグネシウムをCutina(登録商標:硬化ヒマシ油)に置き換える以外は実施例1の工程を繰り返す。
【実施例3】
【0060】
FTY720酒石酸塩
次に、酒石酸塩をX線粉末回折(XRPD)によって分析した。これと次の実施例において、X線粉末図はScintag X1回折システムを使用して、CuKaを照射し2度から35度(2θ)の間で記録した。温度可変と湿度可変のXRPDを、温度と湿度調節装置を装備したScintag XDS 2000システムを使用して実施した。
【0061】
FTY720酒石酸塩のXRPD図を、下記に得られた有意なピークを含む図1に示す:
【0062】
【表1】

【実施例4】
【0063】
FTY720乳酸塩
FTY720乳酸塩のXRPD図を、下記に得られた有意なピークを含む図2に示す:
【0064】
【表2】

【実施例5】
【0065】
FTY720安息香酸塩
FTY720安息香酸塩のXRPD図を、下記に得られた有意なピークを含む図3に示す:
【0066】
【表3】

【実施例6】
【0067】
FTY720琥珀酸塩(2:1)
FTY720琥珀酸塩(2:1)のXRPD図を下記に得られた有意なピークを含む図4に示す:
【0068】
【表4】

【実施例7】
【0069】
FTY720マロン酸塩(2:1)
FTY720の遊離塩基(1.63mmol)を82℃でi−PrOH(6ml)に溶解した。次いで、i−PrOH(1ml)中のマロン酸(0.815mmol)溶液を、82℃で加えた。添加直後に生成物は結晶化し始めた。その懸濁液を室温に冷却した。生成物は濾過によって集め、i−PrOH(2ml)で洗浄した。50℃で乾燥した後、生成物は92.3%の収率で白色結晶として得られた。
【0070】
代替手順において、FTY720の遊離塩基(2.27mmol)を88から90℃で酢酸エチル(16ml)に溶解した。次いで、酢酸エチル(3ml)中のマロン酸(1.14mmol)溶液を、75℃で加えた。すると生成物は添加直後に結晶化し始めた。結果として得られた懸濁液を室温に冷却した。生成物を濾過によって集め、酢酸エチル(2ml)で洗浄した。50℃で乾燥した後、生成物(788mg)は白色結晶として得られた。
【0071】
FTY720マロン酸塩のXRPD図を、下記に得られた有意なピークを含む図5に示す:
【0072】
【表5】

【実施例8】
【0073】
FTY720酢酸塩
FTY720の遊離塩基(1.63mmol)を82℃でi−PrOH(6ml)に溶解した。次いで、i−PrOH(1ml)中の酢酸(1.79当量)の溶液を、82℃で加えた。透明溶液を室温に冷却したところ、生成物は結晶化した。結果として得られた懸濁液をさらに15分間撹拌し、生成物を濾過によって集め、i−PrOH(4ml)で洗浄した。50℃で乾燥した後、粗製生成物が83%収率で白色結晶として得られた。生成物を、90.6%の収率でi−PrOH/酢酸の混合物から再結晶した。
【0074】
代替手順において、FTY720の遊離塩基(2.27mmol)を88−90℃で酢酸エチル(16ml)に溶解した。次いで、酢酸エチル(3ml)中の酢酸(2.5当量)の溶液を、75℃で加えた。すると生成物は添加直後に結晶化し始めた。結果として得られた懸濁液は室温に冷却した。生成物を濾過によって集め、酢酸エチル(2ml)で洗浄した。50℃で乾燥した後、生成物は99.4%の収率で白色結晶として得られた。
【0075】
FTY720酢酸塩のXRPD図を、下記に得られた有意なピークを含む図6に示す:
【0076】
【表6】

【実施例9】
【0077】
FTY720プロピオン酸塩
FTY720の遊離塩基(1.63mmol)を82℃でi−PrOH(6ml)に溶解した。次いで、i−PrOH(1ml)中のプロピオン酸(1.79当量)の溶液を、82℃で加えた。透明溶液を室温に冷却すると、生成物は結晶化した。結果として得られた懸濁液は、さらに15分間撹拌し、生成物は濾過によって集め、i−PrOH(2ml)で洗浄した。50℃で乾燥した後、粗製生成物は68%の収率で白色結晶として得られた。生成物は、90.6%の収率でi−PrOH/プロピオン酸の混合物から再結晶した。
【0078】
代替手順において、FTY720の遊離塩基(2.27mmol)を88−90℃で酢酸エチル(16ml)に溶解した。次いで、酢酸エチル(3ml)中のプロピオン酸(2.5当量)の溶液を、70℃で加えると、生成物は添加直後に結晶化し始めた。結果として得られた懸濁液を室温に冷却した。生成物は濾過によって集め、酢酸エチル(2ml)で洗浄した。50℃で乾燥した後、生成物は96.9%の収率で白色結晶として得られた。
【0079】
FTY720プロピオン酸塩のXRPD図を、下記に得られた有意なピークを含む図7に示す:
【0080】
【表7】

【実施例10】
【0081】
溶解性試験
種々の塩の溶解性を評価し、下表に示す(25℃、g/100ml%の概数値):
【0082】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒石酸塩、乳酸塩、安息香酸塩、琥珀酸塩、マロン酸塩、酢酸塩およびプロピオン酸塩から選択され、場合によって、結晶性である、2−アミノ−2−(2−(4−オクチルフェニル)エチル)プロパン−1,3−ジオール(FTY720)の塩。
【請求項2】
酒石酸塩、乳酸塩、琥珀酸塩およびマロン酸塩から選択され、場合によって、結晶性である、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
約3.1、19.3、21.7、9.6、17.2、6.4、22.6および20.8度の2θにピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする結晶形を場合によって含む、酒石酸塩である、請求項2に記載の塩。
【請求項4】
約4.3、8.7、20.8、13.1、10.3、18.8、8.1、21.6、21.9および19.6度の2θにピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする結晶形を場合によって含む、乳酸塩である、請求項2に記載の塩。
【請求項5】
約3.7、7.5、18.7、19.8、15.2、19.4、19.9、6.0および21.9度の2θにピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする結晶形を場合によって含む、安息香酸塩である、請求項2に記載の塩。
【請求項6】
約3.2、19.8、20.7、23.3、26.2、9.8、19.4、24.5、33.4、26.6および22.6度の2θにピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする結晶形を場合によって含む、琥珀酸塩である、請求項2に記載の塩。
【請求項7】
約2.5、5.2、8.0、16.2、17.0および20.4度の2θにピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする結晶形を場合によって含む、マロン酸塩である、請求項2に記載の塩。
【請求項8】
約4.8、8.4、10.1、11.5、15.2、17.7、19.3、20.1、21.5、21.9、24.0、25.4および30.8度の2θにピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする結晶形を場合によって含む、酢酸塩である、請求項1に記載の塩。
【請求項9】
約4.8、8.4、9.8、14.7、16.8、17.6、19.7、20.2、22.6、24.8、29.8度の2θにピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする結晶形を場合によって含む、プロピオン酸塩である、請求項1に記載の塩。
【請求項10】
実質的に純粋な結晶形である、請求項1から9のいずれかに記載の塩。
【請求項11】
治療で使用される、請求項1から10のいずれかに記載の塩。
【請求項12】
臓器または組織移植拒絶、自己免疫疾患または炎症状態の治療または予防に使用する、請求項1から10のいずれかに記載の塩。
【請求項13】
薬学的に許容される担体または賦形剤と一緒に請求項1から10のいずれかに記載の塩を含む医薬組成物。
【請求項14】
臓器または組織移植拒絶、自己免疫疾患または炎症状態の治療または予防のための医薬の製造のための、請求項1から10のいずれかに記載の塩の使用。
【請求項15】
請求項1から10のいずれかに記載の治療有効量の塩を投与することを含む、患者の臓器または組織移植拒絶、自己免疫疾患または炎症状態の治療または予防の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−508215(P2012−508215A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535129(P2011−535129)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064889
【国際公開番号】WO2010/055027
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】