説明

有機圧電材料、超音波振動子および超音波探触子

【課題】本発明の目的は、受信感度に優れる超音波探触子を与え、圧電特性および耐熱性に優れる超音波振動子を与える有機圧電材料を提供することである。
【解決手段】下記一般式(1)もしくは一般式(2)で表される構造を有する化合物Bおよび分子中に水素原子を有し25℃におけるpKaが12以下である化合物Aを含有するか、または下記一般式(1)もしくは(2)で表される構造と、下記一般式(3)、(4)もしくは(5)で表される構造とを有する化合物Cを含有することを特徴とする有機圧電材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送信、受信して超音波検査を行う超音波探触子ならびにそれに用いられる超音波振動子および有機圧電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探蝕子などのセンサーに用いられる圧電体としては、無機圧電体および有機圧電体が知られている。
【0003】
無機圧電体を用いた無機圧電材料としては、例えば水晶、LiNbO、LiTaO、KNbOなどの単結晶、ZnO、AlNなどの薄膜、Pb(Zr,Ti)O系などの焼結体を分極処理した無機圧電材料が知られている。
【0004】
しかしながら、これら無機材質の圧電材料は、弾性スティフネスが高く、機械的損失係数が高い、密度が高く誘電率も高いなどの性質がある。
【0005】
有機圧電体を用いた有機圧電材料としては、フッ化ビニリデンの重合体あるいは共重合体、シアン化ビニリデンの重合体あるいは共重合体を用いた有機圧電材料が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また、蒸着重合で得られたポリ尿素膜からなる有機圧電材料(特許文献2参照)、ポリ乳酸を含有する有機圧電材料(特許文献3参照)、尿素樹脂、ポリエステルなどの非フッソ系樹脂とフッ化ビニリデンの重合体などのフッソ系重合体の微粒子とを含有する有機圧電材料(特許文献4参照)などが知られている。
【0007】
有機圧電体は、無機材質の圧電体に対して、薄膜化、大面積化等の加工性に比較的優れ、任意の形状、形態の物が作ることができ、弾性率が低い、誘電率が低い等の特徴を持つため、センサーとしての使用に際しては、高感度な検出を可能とする特徴を持っている。
【0008】
他方、近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された超音波の周波数(基本周波数)成分ではなく、その高調波周波数成分によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究、開発されている。
【0009】
このハーモニックイメージング技術は、(1)基本周波数成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(signal to noise ratio)が良くなってコントラスト分解能が向上すること、(2)周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって横方向分解能が向上すること、(3)近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されること、および、(4)焦点以遠の減衰が基本波並みであり高周波を基本波とする場合に較べて深速度を大きくとれることなどの様々な利点を有しており、高精度な診断を可能としている。
【0010】
そして、有機圧電体は、高周波特性、広帯域特性を必要とする上記ハーモニックイメージング技術における圧電材料に用いられる圧電体として適している。
【0011】
また、上記のような有機圧電体の音響インピーダンスは生体のそれに近いという特徴があり、被検体が生体の場合、音響整合がとりやすいという利点を有している。
【0012】
しかしながら、上記のような有機圧電体を用いた圧電材料を有する素子は、無機圧電体を用いた圧電材料を有する素子に比べ、相転移温度が低いことなどから耐熱性が充分でないという問題があり、これらの素子を用いて構成した超音波探触子は、使用時間が長くなると、構成部材の発熱により圧電特性が低下する場合がある、受信感度が不充分である場合があるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−171935号公報
【特許文献2】特開2006−225565号公報
【特許文献3】特開2005−213376号公報
【特許文献4】特開2008−36202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、受信感度に優れる超音波探触子を与え、圧電特性および耐熱性に優れる超音波振動子を与える有機圧電材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記課題は、以下の手段により達成される。
【0016】
1.下記一般式(1)もしくは一般式(2)で表される構造を有する化合物Bおよび分子中に水素原子を有し25℃におけるpKaが12以下である化合物Aを含有するか、または下記一般式(1)もしくは(2)で表される構造と、下記一般式(3)、(4)もしくは(5)で表される構造とを有する化合物Cを含有することを特徴とする有機圧電材料。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Zは、N、OまたはSを含み5員環または6員環から構成される原子団を表す。但しN、OおよびSは、水素原子と共有結合していない。m1およびm2は、50〜100の整数を表す。Qは、下記Q−1〜Q−11で表される基を表す。Mは、m位またはp位でQに結合するビフェニルの残基であり、少なくとも、2位および2′位または6位および6′位の炭素が、N、O、またはSで置換されている。)
【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
(式中、Qは、上記Q−1〜Q−11で表される基を表す。n1、n2およびn3は、50〜100の整数を表す。A、AおよびAは、芳香環を表す。Aは、酸素原子または硫黄原子を表す。−A−OHは、珪酸、ホウ酸、リン酸の残基を表す。Aは、−COOHまたは−SOHを表す。)
2.前記化合物Aが、前記一般式(3)、(4)または(5)で表される構造を有する化合物A′であることを特徴とする前記1に記載の有機圧電材料。
【0022】
3.前記化合物A、化合物Bおよび化合物Cの各々が、重量平均分子量5000以上の高分子化合物であることを特徴とする前記1または2に記載の有機圧電材料。
【0023】
4.前記1から3のいずれか1項に記載の有機圧電材料と、電極とを有することを特徴とする超音波振動子。
【0024】
5.前記4に記載の超音波振動子を具備することを特徴とする超音波探触子。
【0025】
6.前記超音波振動子が、受信用超音波振動子であることを特徴とする前記5に記載の超音波探触子。
【発明の効果】
【0026】
本発明の上記手段により、受信感度に優れる超音波探触子を与え、圧電特性および耐熱性に優れる超音波振動子を与える有機圧電材料が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の超音波振動子の例の模式断面図である。
【図2】本発明の超音波探触子の例の模式断面図である。
【図3】本発明の超音波探触子を用いた画像検出装置の例の主要部の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、圧電材料であって、上記一般式(1)もしくは一般式(2)で表される構造を有する化合物Bおよび分子中に水素原子を有し25℃におけるpKaが12以下である化合物Aを含有するか、または上記一般式(1)もしくは(2)で表される構造と、上記一般式(3)、(4)もしくは(5)で表される構造とを有する化合物Cを含有することを特徴とする。
【0029】
本発明では、有機圧電材料として、上記特定の構造を組み合わせ含有する有機圧電材料を用いることにより、圧電特性および圧電特性の熱安定性に優れる、有機圧電材料および超音波振動子ならびに圧電特性に優れ、受信感度が安定で測定安定性に優れる超音波探触子が提供できる。
【0030】
有機圧電材料とは、機械的力や歪みを加えることにより、電荷を発生する正圧電効果または、電界を加えると力や歪みを発生する逆圧電効果を有する有機物質をいう。
【0031】
(化合物B)
化合物Bは、上記一般式(1)または(2)で表される構造を有する。
【0032】
一般式(1)および(2)中、Zは、N、OまたはSを含み5員環または6員環から構成される原子団を表す。5員環または6員環から構成される原子団とは、5員環を構成する原子団、6員環を構成する原子団、5員環または6員環を有する縮合環を構成する原子団をいう。但しN、OおよびSのうち、少なくとも一つの原子は、水素原子と共有結合していない。
【0033】
m1およびm2は、50〜100の整数を表す。Qは、上記Q−1〜Q−11で表される基を表す。
【0034】
Mは、m位またはp位でQに結合するビフェニルの残基であり、少なくとも、2位および2′位または6位および6′位の炭素が、N、O、またはSで置換されている。当該ビフェニルとしては、置換を有してもよく、置換基としては、塩素、フッ素などのハロゲン原子が挙げられる。
【0035】
一般式(1)におけるZとしては、下記の構造のものが挙げられる。
【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
一般式(2)におけるMとしては、下記の構造のものが挙げられる。
【0039】
【化6】

【0040】
m1、m2は50〜100の整数であるが、圧電特性の面から70〜100が特に好ましい。
【0041】
化合物Bの具体例としては、m1およびm2が50であるQ−1〜Q−11の各々に上記Z−1〜56、M−1〜12が各々結合した化合物(末端は水素原子)、m1およびm2が70であるQ−1〜Q−11の各々に上記Z−1〜56、M−1〜12が各々結合した化合物(末端は水素原子)、m1およびm2が100であるQ−1〜Q−11の各々に上記Z−1〜56、M−1〜12が各々結合した化合物(末端は水素原子)が挙げられる。
【0042】
また、化合物Bとしては、重量平均分子量が、5000以上である高分子化合物が好ましく用いられる。
【0043】
なお、重量平均分子量の測定は、下記の方法により、行うことができる。
【0044】
溶媒 :30mM LiBr in N−メチルピロリドン
装置 :HLC−8220GPC(東ソー(株)製)
カラム :TSKgel SuperAWM−H×2本(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
試料濃度 :1.0g/L
注入量 :40μl
流量 :0.5ml/min
校正曲線 :標準ポリスチレン:PS−1(Polymer Laboratories社製)Mw=580〜2,560,000までの9サンプルによる校正曲線を使用する。
【0045】
化合物Bとしては、下記の繰り返し単位を有し、重合度が70〜100である化合物(末端は水素原子)が圧電特性の面から好ましく用いられる。
【0046】
【化7】

【0047】
化合物Bは、ZまたはMの構造を有し、Q−1〜Q−11の構造の前駆体を有する重合性官能基を有する化合物を重合することにより得られる。
【0048】
(化合物A)
本発明に係る化合物Aは、分子中に水素原子を有し25℃の水溶液における酸解離指数pKaが15以下である。
【0049】
当該化合物Aとしては、上記酸解離指数の条件を満たす有機化合物であることを要するが、置換基として、フェノール性ヒドロキシル基、シラノール基(SiOH)、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基(−SOH基)、リン酸基(phosphate group)などを有する化合物が挙げられる。
【0050】
具体的には、低分子化合物として、グリセロール、ペンタエリスリトール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,3−プロピレンジアミン、1,3−ジアミノベンゼン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、ピロメリット酸、リン酸モノメチルエステルなどが挙げられる。
【0051】
また、高分子化合物として、ポリビニルアルコール、ポリ(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)(但し、(メタ)アクリレートはメタクリレートとアクリレートの総称)、ポリ(メチレン−3−ヒドロキシ−1,5−フェニレン)、ポリ(2−アミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリアリルアミン、ポリ(2−メルカプトエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(4−ヒドロキシカルボニルスチレン)、ポリ(スチリルメチルリン酸エステル)などが挙げられる。
【0052】
(化合物A′)
本発明においては、化合物Aとしては、上記一般式(3)、(4)または(5)で表される構造を有する化合物A′が好ましく用いられる。
【0053】
一般式(3)、(4)、(5)中、Qは、上記Q−1〜Q−11で表される基を表す。n1、n2およびn3は、50〜100の整数を表す。A、AおよびAは、芳香環を表す。Aは、酸素原子または硫黄原子を表す。−A−OHは、珪酸、ホウ酸、リン酸の残基を表す。Aは、−COOHまたは−SOHを表す。
【0054】
一般式(3)、(4)、(5)において、Qに結合する基の例としては、下記のものが挙げられる。
【0055】
【化8】

【0056】
n1〜n3は、50〜100の整数であるが70〜100が好ましい。
【0057】
一般式(3)、(4)、(5)で表される構造を有する化合物A′の具体例としては、n1、n2およびn3が50であるQ−1〜Q−11の各々に上記a−1〜a−13が各々結合した化合物(末端は水素原子)、n2およびn3が70であるQ−1〜Q−11の各々に上記a−1〜a−13が各々結合した化合物(末端は水素原子)、n2およびn3が100であるQ−1〜Q−11の各々に上記a−1〜a−13が各々結合した化合物(末端は水素原子)が挙げられる。
【0058】
化合物A′としては、下記の繰り返し単位を有する重合度70〜100のものが、圧電特性の面から、好ましく用いられる。
【0059】
【化9】

【0060】
化合物A′は、上記a−1〜a−6の構造を有し、Q−1〜Q−11の構造の前駆体を有する重合性官能基を有する化合物を重合することにより得られる。
【0061】
本発明の有機圧電材料が、化合物Aと化合物Bとを含有する態様においては、化合物Aと化合物Bとの含有割合は、ZとMの割合が1:0.90〜1:1.10であることが好ましく、特に1:0.95〜1:1.05であることが好ましい。
【0062】
(化合物C)
化合物Cは、上記一般式(1)もしくは(2)で表される構造と、上記一般式(3)、(4)もしくは(5)で表される構造とを有する。
【0063】
一般式(1)〜(5)については、上記したものと同様のものが用いられる。
【0064】
上記一般式(1)もしくは(2)で表される構造と、上記一般式(3)、(4)もしくは(5)で表される構造とを有する化合物としては、上記一般式(1)もしくは(2)で表される構造と、上記一般式(3)、(4)もしくは(5)で表される構造とが共重合した共重合体が好ましく用いられる。
【0065】
共重合体は、一般式(1)もしくは(2)で表される構造の前駆体を有し、重合性2重結合を有する化合物と、一般式(3)、(4)もしくは(5)で表される構造の前駆体を有し重合性2重結合を有する化合物とを共重合反応させることで得られる。
【0066】
共重合体としては、ブロック共重合体であることが好ましい。
【0067】
化合物Cの具体例としては、下記の、繰り返し単位を有するブロック共重合体が挙げられる。
【0068】
【化10】

【0069】
化合物Cとしては、重量平均分子量が5000以上の高分子化合物が好ましく用いられる。
【0070】
(有機圧電材料、超音波振動子)
本発明の有機圧電材料は、化合物Aおよび化合物Bを含有するか、または化合物Cを含有する。
【0071】
有機圧電材料は、膜状で使用されることが好ましく、さらに分極処理が施されることが好ましい。さらに延伸処理、アニール処理が施されていてもよい。これらの処理は併用してなされてもよい。
【0072】
有機圧電材料の膜を作製する方法としては、溶融・流延法、有機圧電材料を溶解してなる溶液を基板上に塗布し、乾燥して得る方法、上記有機圧電材料の原料化合物を用いて従来公知の溶液重合塗布法などにより高分子膜を形成する方法が挙げられる。
【0073】
化合物Aおよび化合物Bを含有する場合には、化合物Aと化合物Bを混合して溶融する方法、化合物Aと化合物Bを混合して溶媒に溶解して塗布する方法などが用いられる。
【0074】
分極処理の方法としては、従来公知の直流電圧印加処理、交流電圧印加処理またはコロナ放電処理方法が適用され得る。例えば、コロナ放電処理法による場合には、コロナ放電処理は、市販の高電圧電源と電極からなる装置を使用して処理することができる。
【0075】
放電条件は、機器や処理環境により異なるので適宜条件を選択すればよいが、高電圧電源の電圧としては−1〜−20kV、電流としては1〜80mA、電極間距離としては、1〜10cm、印加電圧としては、0.5〜2.0MV/mである条件が好ましい。
【0076】
分極処理に用いられる電極としては、従来から用いられている針状電極、線状電極(ワイヤー電極)、網状電極を用いることができる。分極処理は、超音波振動子が有する、下述する電極を付す前に行ってもよいし、電極を付した後に、当該電極を使用して分極処理を行ってもよい。
【0077】
延伸処理としては、種々の公知の方法を採用することができる。延伸処理は、所定形状の有機圧電体膜が破壊されない程度に一軸・二軸方向に延伸することができる。延伸倍率としては、2〜10倍、好ましくは2〜6倍の範囲で行うことができる。例えば、本発明の化合物を、溶媒に溶解した液をガラス板などの基板上に流延し、常温にて溶媒を乾燥させ、所望の厚さのフィルムを得て、このフィルムを室温で所定の倍率の長さに延伸する方法などが挙げられる。
【0078】
アニール処理は、加熱処理であり、例えば100℃〜200℃で加熱する方法が挙げられる。アニール処理としては、膜状の有機圧電体を加熱処理することが好ましく、有機圧電体の膜を、膜を担持する基材と共に加熱してもよいし、膜(フィルム状)のみを加熱雰囲気中で加熱してもよい。加熱時間としては、上記温度で1分から60分間加熱する方法が挙げられる。
【0079】
本発明に係る有機圧電材料としては、本発明の有機圧電材料単体であってもよいし、他の有機圧電材料を混合したものであってもよい。
【0080】
本発明の有機圧電材料と共に、併用可能な他の有機圧電材料としては、混合した場合に層分離を起こさない有機圧電材料を選択して用いることができる。他の有機圧電材料の割合は、10質量%以下が好ましく、0〜5質量%が好ましい。
【0081】
他の有機圧電材料としては、本発明の有機圧電材料の双極子モーメント量を増加させる作用を有する電子吸引性基を持つ、重合性化合物により形成した有機高分子材料であることが好ましい。このような有機高分子材料であれば、双極子モーメント量を増加させる作用を有することから、有機圧電材料(膜)として用いた場合、優れた圧電特性を得ることができる。
【0082】
本発明の超音波振動子は、本発明の有機圧電材料に電極を付したものであるが、対向する一対の電極間に、有機圧電材料を有する態様が好ましい。
【0083】
本発明の有機圧電材料は、超音波振動子に用いられる場合、形成された膜の状態で、分極処理が施されて、使用されるが、膜としては、上記のようにさらに延伸処理が施されたものであることが好ましい。
【0084】
(電極)
超音波振動子に付される電極に用いられる材料としては、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)などが挙げられる。
【0085】
圧電材料に電極を付す方法としては、例えば、チタン(Ti)やクロム(Cr)などの下地金属をスパッタ法により0.02〜1.0μmの厚さに形成した後、上記金属元素を主体とする金属およびそれらの合金からなる金属材料、さらには必要に応じ一部絶縁材料をスパッタ法、その他の適当な方法で1〜10μmの厚さに形成する方法が挙げられる。
【0086】
電極形成はスパッタ法以外でも、微粉末の金属粉末と低融点ガラスとを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法で形成することもできる。
【0087】
さらに、圧電材料の膜の両面に形成した電極間に、所定の電圧を供給し、圧電材料の膜を分極処理することができる。
【0088】
超音波振動子は、超音波探触子に用いられる場合、基板と共に用いられることが好ましい。基板としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマーのようなプラスチック板またはフィルムでもよいし、これらの素材の表面をアルミニウム、金、銅、マグネシウム、珪素等で覆ったものでもよい。
【0089】
またアルミニウム、金、銅、マグネシウム、珪素単体、希土類のハロゲン化物の単結晶の板またはフィルムでもかまわない。
【0090】
本発明に係る超音波振動子は、超音波探触子に用いられる場合、受信用超音波振動子として、または送信用超音波振動子として用いられるが、特に受信用超音波振動子として用いられることが好ましい態様である。
【0091】
図1を用いて、本発明の超音波振動子を説明する。
【0092】
超音波振動子10は、有機圧電材料1の両側に電極2が配置されている。電極2は、必要に応じ、有機圧電材料1の全面にわたり配置されてもよいし、有機圧電材料1の一部分に配置されてもよい。
【0093】
(超音波探触子)
本発明の超音波探触子は、本発明の超音波振動子を具備したものである。超音波探触子は、超音波振動子として、送信用超音波振動子と受信用超音波振動子とを具備することが好ましい。
【0094】
本発明の超音波探触子は、送信用超音波振動子および受信用超音波振動子の少なくとも一方が本発明の超音波振動子であることが必要であるが、特に少なくとも受信用超音波振動子が本発明の超音波振動子であることが好ましい。
【0095】
本発明においては、超音波の送受信の両方を一つの振動子で担ってもよいが、より好ましくは、送信用と受信用で振動子は分けて超音波探触子内に構成されることが好ましい。
【0096】
本発明の超音波振動子以外の超音波振動子を用いる場合、それは従来公知のセラミックス無機圧電材料でも、有機圧電材料でもよい。
【0097】
送信用振動子と、受信用振動子の配列としては、各々を上下に配置する配列および並列に配置する配列のどちらでもよいが、上下に配置して積層する構造が好ましい。
【0098】
積層する場合の送信用振動子および受信用振動子の厚さとしては、40〜150μmであることが好ましい。
【0099】
本発明の超音波探触子は、必要に応じバッキング層、音響整合層、音響レンズなどを具備することが好ましい。
【0100】
図2に本発明の超音波探触子の好ましい態様の例を示す。超音波探触子20は、バッキング層6上に、送信用圧電材料5に電極2が付された送信用超音波振動子12を有し、送信用超音波振動子12上に基板7を有し、基板7上に受信用有機圧電材料11に電極2が付された受信用超音波振動子13を有し、さらにその上に音響整合層8および音響レンズ9を有する構成を有する。
【0101】
(超音波画像検出装置)
本発明の超音波探触子は、種々の態様の超音波診断装置に用いることができる。例えば、図3に示すような超音波画像検出装置において好適に使用することができる。図3は、本発明の超音波画像検出装置の主要部の構成を示す概念図である。
【0102】
超音波画像検出装置は、例えば、生体などの被検体に対して超音波を送信し、被検体で反射した超音波をエコー信号として受信する超音波振動子が配列されている超音波探触子(プローブ)を備えている。また当該超音波探触子に電気信号を供給して超音波を発生させるとともに、当該超音波探触子の各超音波振動子が受信したエコー信号を受信する送受信回路と、送受信回路の送受信制御を行う送受信制御回路を備えている。
【0103】
さらに、送受信回路が受信したエコー信号を被検体の超音波画像データに変換する画像データ変換回路を備えている。また当該画像データ変換回路によって変換された超音波画像データでモニタを制御して表示する表示制御回路と、超音波画像検出装置全体の制御を行う制御回路を備えている。
【0104】
制御回路には、送受信制御回路、画像データ変換回路、表示制御回路が接続されており、制御回路はこれら各部の動作を制御している。そして、超音波探触子の各超音波振動子に電気信号を印加して被検体に対して超音波を送信し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる反射波を超音波探触子で受信する。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0106】
(有機圧電体1(B−1)の合成)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとしてN−ビニルイミダゾールを1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて6時間80℃にて攪拌した。重合溶液をメタノール1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体1(B−1)を110.3g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量43,000、分子量分布2.0であった。
【0107】
(有機圧電体2(B−2)の合成)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとしてN−ビニルチアゾールを1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて6時間80℃にて攪拌した。重合溶液をメタノール1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体2(B−2)を122.9g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量34,000、分子量分布2.1であった。
【0108】
(有機圧電体3(B−3)の合成)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとして4−イソプロペニルピリミジンを1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて10時間110℃にて攪拌した。重合溶液をメタノール1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体3(B−3)を112.4g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量36,000、分子量分布1.7であった。
【0109】
(有機圧電体4(B−4)の合成)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとして3−フルオロ−4−アクリロイルオキシピリジンを1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて10時間110℃にて攪拌した。重合溶液をメタノール1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体4(B−4)を147.1g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量56,000、分子量分布2.4であった。
【0110】
(有機圧電体5(B−5)の合成)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとして4−ビニル−2,2′−ビピリジルを1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて24時間110℃にて攪拌した。重合溶液をアセトン1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体5(B−5)を168.3g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量26,000、分子量分布3.4であった。
【0111】
(有機圧電体6(A−1)の合成)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとして3−フルオロ−4−アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸を1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて24時間110℃にて攪拌した。重合溶液をアセトン1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体6(A−1)を248.1g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量16,000、分子量分布2.2であった。
【0112】
(有機圧電体7(A−2)の合成)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとして3−ビニル安息香酸を1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて4時間110℃にて攪拌した。重合溶液をアセトン1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体7(A−2)を158.7g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量18,000、分子量分布2.5であった。
【0113】
(有機圧電体8(A−3)の合成)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとして3−イソプロペニルフェニルリン酸を1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、60℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて24時間70℃にて攪拌した。重合溶液をアセトン1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体8(A−3)を187.1g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量12,000、分子量分布2.7であった。
【0114】
(有機圧電体9(A−4)の合成)
2.0Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、3−ビニルフェノールを1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF300gに酸化剤として1.2molのm−クロロ過安息香酸を溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて4時間室温にて攪拌した。得られた重合溶液を半分の質量になるまで減圧蒸留し、続けて60℃まで加熱し、8時間重合した。重合溶液をアセトン1000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電体9(A−4)を70.8g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量8,000、分子量分布3.6であった。
【0115】
(有機圧電材料1〜5の調製)
2.0Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、脱水したDMF100gに有機圧電体1(B−1)を9.4g添加し、溶解した(グランド溶液)。脱水したDMF100gに有機圧電体6(A−1)を24.6g添加し、溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて30分室温にて攪拌し、生じた沈殿を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電材料1を31.2g得た。その他の有機圧電材料も表1の条件を元に同様に調製し、有機圧電材料2〜5を調製した。
【0116】
(有機圧電材料6〜7(化合物C)の調製)
0.5Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、モノマーとして4−ビニル−2,2′−ビピリジルを1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した(グランド溶液)。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて24時間110℃にて攪拌した。その後、モノマーとして3−ビニル安息香酸を1molと、脱水、脱気したDMF300gを添加し、溶解し、80℃まで加熱した。脱水、脱気したDMF50gに重合開始剤として0.05molのAIBNを溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて10時間110℃にて攪拌した。重合溶液をアセトン2000gに添加し、その後沈殿物を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電材料6(B−5とA−2の共重合体)を204.5g得た。一部を重量平均分子量および分子量分布の測定を行ったところ、重量平均分子量45,000、分子量分布4.6であった。有機圧電材料7(B−1とA−4の共重合体)も表1の条件を元に同様に調製した。
【0117】
(超音波振動子1〜7の作製)
有機圧電材料1の10質量%N−メチルピロリジノン溶液を調製し、ガラス基板上に乾燥膜厚が40μmになるよう塗布し、150℃で10時間減圧乾燥した。乾燥後、基板から膜を剥離し、得られた膜の両面に、蒸着によりアルミニウム電極を施し、高圧電源装置HARb−20R60(松定プレシジョン(株)製)と針状電極を用い、2.0MV/mの電界で180℃の温度条件下、コロナ放電分極処理を行い、有機圧電材料1を用いた超音波振動子1を作製した。
【0118】
また有機圧電材料2〜7についても、有機圧電材料1と同様にして超音波振動子2〜7を作製した。
【0119】
(有機圧電材料8、9の調製(比較例))
有機圧電材料8は有機圧電体1(B−1)を、有機圧電材料9は有機圧電体6(A−1)をそのまま用いた。
【0120】
(有機圧電材料10、11の調製(比較例))
2.0Lの四つ口セパラブルフラスコに、滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置および還流冷却管を付し、脱水したDMF100gに有機圧電体1(B−1)を9.4g添加し、溶解した(グランド溶液)。脱水したDMF100gに有機圧電体2(B−2)を11.3g添加し、溶解し、2g/分の速度でグランドに滴下し、滴下後から続けて30分室温にて攪拌し、生じた沈殿を濾取し、0℃に調温したアセトンで洗浄した。得られた濾物を減圧乾燥して有機圧電材料10を18.2g得た。有機圧電材料11(圧電体有機圧電体6(A−1)と有機圧電体7(A−2))も同様に調製した。
【0121】
(超音波振動子8〜11(比較例)の作製)
有機圧電材料8の10質量%N−メチルピロリジノン溶液を調製し、ガラス基板上に乾燥膜厚が40μmになるよう塗布し、150℃で10時間減圧乾燥した。乾燥後、基板から膜を剥離し、得られた膜の両面に、蒸着によりアルミニウム電極を施し、高圧電源装置HARb−20R60(松定プレシジョン(株)製)と針状電極を用い、2.0MV/mの電界で153℃(ガラス転移温度+10℃)の温度条件下、コロナ放電分極処理を行い、有機圧電体比較1を用いた超音波振動子比較1を作製した。
【0122】
また有機圧電材料9〜11についても、有機圧電材料8と同様にして超音波振動子9〜11作製した。
【0123】
(超音波振動子12(比較例)の作製)
特開2008−36202号公報の実施例1に記載の4,4′−ジフェニルメタンジイソシアナート(M−020)と4,4′−ジフェニルメタンジアミン(M−021)との反応生成物である有機圧電材料を用いて、超音波振動子1と同様にして超音波振動子12を作製した。
【0124】
(作製した超音波振動子の圧電特性評価)
得られた超音波振動子1〜12の評価は、Nano−R2/I2クローズドループ・リニアスキャナ搭載多機能AFM(PACIFIC NANOTECHNOLOGY社製)とFCE−1型強誘電体特性評価システム(東陽テクニカ社製)で、25℃および100℃における、圧電d33特性を測定し、超音波振動子の超音波圧電特性の指標とした。
【0125】
尚、100℃の場合は、100℃の恒温槽に3時間に静置した後、25℃で測定した。
【0126】
値が大きなほど超音波振動子として用いた場合の圧電性が良好であり、25℃における値と100℃における値の差が小さいほど熱安定性に優れる。
【0127】
結果を表1に示した。
【0128】
(超音波探触子の作製と評価)
〈送信用超音波振動子の作製〉
成分原料であるCaCO、La、BiとTiO、および副成分原料であるMnOを準備し、成分原料については、成分の最終組成が(Ca0.97La0.03)Bi4.01Ti15となるように秤量した。
【0129】
次に、純水を添加し、純水中でジルコニア製メディアを入れたボールミルにて8時間混合し、十分に乾燥を行い、混合粉体を得た。得られた混合粉体を、仮成形し、空気中、800℃で2時間仮焼を行い仮焼物を作製した。
【0130】
次に、得られた仮焼物に純水を添加し、純水中でジルコニア製メディアを入れたボールミルにて微粉砕を行い、乾燥することにより圧電セラミックス原料粉末を作製した。微粉砕においては、微粉砕を行う時間および粉砕条件を変えることにより、それぞれ粒子径100nmの圧電セラミックス原料粉末を得た。
【0131】
それぞれ粒子径の異なる各圧電セラミックス原料粉末にバインダーとして純水を6質量%添加し、プレス成形して、厚み100μmの板状仮成形体とし、この板状仮成形体を真空パックした後、235MPaの圧力でプレスにより成形した。
【0132】
次に、上記の成形体を焼成した。
【0133】
最終焼結体の厚さは20μmの焼結体を得た。
【0134】
なお、焼成温度は、それぞれ1100℃であった。1.5×Ec(MV/m)以上の電界を1分間印加して分極処理を施した。
【0135】
〈受信用超音波振動子の作製〉
作製した上記超音波振動子1と厚さ50μmのポリエステルフィルムをエポキシ系接着剤にて貼り合わせた圧電材料を作製した。
【0136】
その後、上記と同様に電極を設け、分極処理を行い、受信用超音波振動子1を作製した。
【0137】
その他の超音波振動子2〜12についても同様にして、受信用超音波振動子2〜12を作製した。
【0138】
次に、常法に従って、上記の送信用超音波振動子の上に基板を設け、基板上に受信用超音波振動子を積層し、図3に示すように、バッキング層と音響整合層を設置し超音波探触子1を作製した。
【0139】
同様にして他の受信用超音波振動子2〜12を用いて、超音波探触子2〜12を作製した。
【0140】
(受信感度の評価)
下記のようにして、受信感度を測定し、測定の安定性を評価した。
【0141】
受信感度の測定は、超音波探触子12の受信感度を基準値100としたときの相対受信感度で評価した。相対感度が基準値の140%以上のときを○、95%以上140%未満を△、95%未満を×として評価した。○以上の範囲が、実用上良好な範囲であると評価した。
【0142】
なお、受信感度の条件としては、5MHzの基本周波数fを発信させ、受信2次高調波fとして10MHz、3次高調波として15MHz、4次高調波として20MHzの受信相対感度を求めこれを受信感度とした。
【0143】
受信相対感度は、ソノーラメディカルシステム社(Sonora Medical System,Inc:2021Miller Drive Longmont,Colorado(0501 USA))の音響強度測定システムModel805(1〜50MHz)を使用した。
【0144】
結果を下記表に示す。
【0145】
【表1】

【0146】
表1から、本発明の有機圧電体は、圧電特性に優れ、熱安定性に優れる超音波振動子を与えることが分かる。また本発明の、超音波探触子は、受信感度が優れることが分かる。
【符号の説明】
【0147】
1 有機圧電材料
2 電極
5 送信用圧電材料
6 バッキング層
7 基板
8 音響整合層
9 音響レンズ
10 超音波振動子
11 受信用有機圧電材料
12 送信用超音波振動子
13 受信用超音波振動子
20 超音波探触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)もしくは一般式(2)で表される構造を有する化合物Bおよび分子中に水素原子を有し25℃におけるpKaが12以下である化合物Aを含有するか、または下記一般式(1)もしくは(2)で表される構造と、下記一般式(3)、(4)もしくは(5)で表される構造とを有する化合物Cを含有することを特徴とする有機圧電材料。
【化1】

(式中、Zは、N、OまたはSを含み5員環または6員環から構成される原子団を表す。但しN、OおよびSは、水素原子と共有結合していない。m1およびm2は、50〜100の整数を表す。Qは、下記Q−1〜Q−11で表される基を表す。Mは、m位またはp位でQに結合するビフェニルの残基であり、少なくとも、2位および2′位または6位および6′位の炭素が、N、O、またはSで置換されている。)
【化2】

【化3】

(式中、Qは、上記Q−1〜Q−11で表される基を表す。n1、n2およびn3は、50〜100の整数を表す。A、AおよびAは、芳香環を表す。Aは、酸素原子または硫黄原子を表す。−A−OHは、珪酸、ホウ酸、リン酸の残基を表す。Aは、−COOHまたは−SOHを表す。)
【請求項2】
前記化合物Aが、前記一般式(3)、(4)または(5)で表される構造を有する化合物A′であることを特徴とする請求項1に記載の有機圧電材料。
【請求項3】
前記化合物A、化合物Bおよび化合物Cの各々が、重量平均分子量5000以上の高分子化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機圧電材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の有機圧電材料と、電極とを有することを特徴とする超音波振動子。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波振動子を具備することを特徴とする超音波探触子。
【請求項6】
前記超音波振動子が、受信用超音波振動子であることを特徴とする請求項5に記載の超音波探触子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−209277(P2010−209277A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59337(P2009−59337)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】