説明

有機塩素化合物分解植物の検出方法

【課題】 ダイオキシン類の野生植物の浄化能の簡易な検出手段の提供
【解決手段】 有機塩素化合物を浄化する遺伝子操作を受けていない植物、特に野生のタデ科およびイネ科植物をレマゾールブリリアントブルーR、ブロモフェノールブルーまたはグアヤコールが存在する生育環境で生育させることを特徴とする植物の有機塩素化合物の浄化能を検知する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生育植物の有機塩素化物の浄化能を利用して焼却灰、産業廃棄物、土壌、工業排水、廃棄物埋立地浸出水などに含まれるダイオキシン類やPCBs類などの有機塩素化合物を浄化する方法、および、植物をレマゾールブリリアントブルーRまたはブロモフェノールブルーを含む液体生育環境で、または、グアヤコールが存在する生育環境で生育させることを特徴とする植物の有機塩素化合物の浄化特性および浄化能を検知する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシン類は奇形、ガン、免疫不全、内分泌障害などを引き起こすといわれ、化学物質の中で、最も毒性が高い。また、ダイオキシン類は非意図的に生成される物質でもあり、クロロフェノールを含む農薬の合成過程中の不純物、塩素処理による紙パルプの漂白、産業及び家庭廃棄物の焼却などによって生成され、大気や土壌環境を広範囲に汚染している。これらは化学的に安定で、脂溶性のため、食物連鎖によって、食品を経由して、人に取り込まれ、人体への蓄積が社会問題となっている。
【0003】
このようなダイオキシンを分解除去する公知技術として、完全燃焼法(溶融固化処理法)、熱分解処理法(加熱脱塩素化処理法)、ペレット化焼成法、光分解法、各種化学的分解法、及び超臨界水処理法などが提案されている。しかし、これらの方法は、汚染物質発生源の近くで処理する際には有効でも、汚染土壌中あるいは焼却灰の最終処分場周辺などのダイオキシン処理には、その量が微量で広範囲に分散している上に、多量の処理を必要とし,更に処理済の土壌は再利用したいといった場合には適用は困難である。
【0004】
【非特許文献1】J.Bacteriology,174(7),p2131,1992年
【非特許文献2】50(12),p122,1996年
【特許文献1】特開平11−341978号公報
【特許文献2】特開昭64−55196号公報
【特許文献3】特開2000−176433号公報
【0005】
これに対して、微量で広範囲に分散しているダイオキシン類を分解あるいは吸収する方法として、ダイオキシンを分解させる微生物を利用する方法が、多くの研究者から提案されている(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1)。また、このような特性を持った微生物を検出する方法として、培地に該特性を持っていることを検知する指示薬、具体的にはレマゾールブリリアントブルーRを加え、該指示薬が脱色または変色するかどうかを見る方法が提案されている(特許文献2)。
更に、植物を利用して、植物にダイオキシン類を浄化できるように遺伝子操作したものを用いて、そのダイオキシン類の吸収または吸収・分解能力を利用して、土壌や湖沼などを汚染している前記のような化合物を浄化する方法が提案されている(特許文献3)。また、本発明者らは、日本植物細胞分子生物学会(2000年7月24日−25日 静岡県立大学にて開催)において、野生多年生の単子葉植物約15種において、レマゾールブリリアントブルーR(RBBR)、ブロモフェノールブルー(BPB、ハロゲン含有物としての試薬)の色調変化が観察されたこと、およびこれは根圏に存在するペルオキシダーゼによるものと推測されることを報告している。また、多年生双子葉植物により前記色素が分解されることが確認されたことも発表している。ただ、該植物のダイオキシン類などの汚染物質に対する有効性については言及していない。植物の利点は、エネルギーとして太陽光を利用できることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ダイオキシン類を浄化する特性の優れた野生の植物(遺伝子組み換えなどもしていない。)を用いたダイオキシン類の浄化方法を提供すること、およびこのような植物の特性を検出し易い新規な検出・指示薬を提供することである。本発明者らは、多くの植物について、特に毒性の強いダイオキシンの分解特性を検討し、タデ科に属する植物、特にギシギシ、イタドリが分解能が大きいこと、また、イネ科に属する植物、特にハイコヌカグサ、オオウシノケグサ、ヒロハウシノケグサが分解能が大きいことを見出し、また、グアヤコールが、植物による分解により脱色するから、植物の分解特性の検出に有効であることを見出し、前記本発明の課題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、植物をレマゾールブリリアントブルーR、ブロモフェノールブルー又はグアヤコールが存在する生育環境で生育させることを特徴とする植物の有機塩素化合物の浄化特性および浄化能を検知する方法である。
【発明の効果】
【0008】
発明の効果として、植物の有機塩素化合物の浄化特性および浄化能を容易に検知することができ、前記特性の優れた植物を容易に見出すことができるようになったことを挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明をより詳細に説明する。A.本発明で利用されるタデ科の植物としては、ギシギシ、イタドリ、スイバ、ソバ、マオウ、ダイオウなどを挙げることができるが、特にギシギシ、イタドリなどを好ましい植物として挙げることができる。また、イネ科の植物としては、ハイコヌカグサ、オオウシノケグサ、ヒロハウシノケグサ、ウシノケグサ、シバ、スゲなどを挙げることができるが、特にハイコヌカグサ、オオウシノケグサ、ヒロハウシノケグサ、ウシノケグサ、シバ、スゲなどを好ましい植物として挙げることができる。B.植物の育成環境としては、個体の土壌、水耕などから、ダイオキシン類の汚染場所、形態、例えば汚染土壌、又は、湖沼、河川、焼成灰などにより、適宜選択できる。また、ダイオキシン類の取り込みなどを容易にするように、前記先行技術である特開2000−176433号公報に記載の補助成分、ジメチルスルフォキシド、および/または界面活性剤を添加することができる。C.植物のダイオキシン類の分解特性は、植物をダイオキシン類のモデルとなり、植物のダイオキシン類の分解特性により色相変化する指示薬となる化合物の存在する、液体生育環境、例えば水耕田で植物を育成することにより、該育成液の色相変化、吸収特性の変化などを分光光度計で測定することにより確認することができる。水耕田には、植物の養分となる肥料などを加えることができる。
【実施例1】
【0010】
水耕育成液としてオートクレーブ殺菌した1000倍希釈のハイポネックス(pH5.6)溶液200mLを用い、これに0.5mMになるようにフィルター殺菌したグアヤコールを加えた。該グアヤコールを加えた溶液を試験管またはビーカーに入れ屋外から採取した植物体または無菌培養した植物体を移植した。自然光下あるいは70μEm−2−1の下で室温で育成した。10日、1月後に水耕液中のグアヤコールの色相変化があるかどうかを観察した。植物を育成した溶液から1mL取り、分光光度計で470nmの吸光度を測定した。育成前後の水耕液の吸光度の差を表3にΔA470として示す。脱色するので確認が容易である。
【0011】
【表1】

【参考例1】
【0012】
タデ科植物のギシギシ、およびイネ科植物のハイコヌカグサ、オオウシノケグサ、ヒロハウシノケグサを、トリクロロフェノールおよびダイオキシン類の1つ2,4−DCDDを表1および表2に記載の量加えた1/1000ハイポネックス溶液中で育成し、育成溶液中における前記加えた成分の変化を測定した。結果を表1,2に示す。
【0013】
【表2】

【0014】
【表3】

【0015】
前記表の結果から、育成液中の有機塩素化化合物であるのトリクロロフェノールは植物内に取り込まれることがなく全ての有機塩素化化合物が植物によって分解されたことが理解される。したがって、有機塩素化化合物の分解特性は、育成溶液のトリクロロフェノールの濃度変化のみで植物の有機塩素化化合物の吸収・分解特性を判断できる点で好ましい。
【産業上の利用性】
【0016】
以上述べたように、本発明により、汚染された土壌、湖沼、河川などにおいて、本発明で挙げた植物を育成することによって、ダイオキシン類を効率的に除去でき、また、前記新規指示薬などにより、簡易に植物のダイオキシン類の清浄化特性を確認できるという、優
【0017】
れた効果がもたらされる。これにより土壌汚染の浄化に寄与することは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物をレマゾールブリリアントブルーR、ブロモフェノールブルーまたはグアヤコールが存在する生育環境で生育させることを特徴とする植物の有機塩素化合物の浄化特性および浄化能を検知する方法。

【公開番号】特開2006−153853(P2006−153853A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290110(P2005−290110)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【分割の表示】特願2001−152129(P2001−152129)の分割
【原出願日】平成13年5月22日(2001.5.22)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】