説明

有機廃棄物燃料およびその製造方法

【課題】含水率が低く、優れた熱エネルギーを持つ有機廃棄物の製造方法を提供する。
【解決手段】有機廃棄物と廃油の混ざった混合物10を、減圧用フラスコ12に投入し恒温槽11に入れる。恒温槽11は温度制御装置13により100℃以下の温度に保たれている。温度一定で、真空装置15により減圧用フラスコ12内の圧力を低下させ、減水がなくなると、終了する。これにより有機廃棄物内の含水量が減少し、高カロリーの有機廃棄物燃料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高カロリー化した有機廃棄物燃料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、下水汚泥の処理として、下水汚泥を油温減圧乾燥技術で乾燥させ、水分2.6%、油分36%、固形分61.4%の乾燥汚泥を製造し、これを火力発電所で石炭と混焼させることが行われている(特許文献1)。しかしながら、この油温減圧乾燥方式(所謂てんぷら方式)では、高温に加熱された廃食油に汚泥を投入し、それをてんぷら状にすることによって水分量を下げるために、膨大な廃食油と投入熱エネルギーを必要とする。また、廃食油を熱媒体油としているので、コストにおいても廃食油に大きく依存してしまうことや、製造工程が多いという問題もあり、この油温減圧乾燥方式に対する代替技術の開発が望まれている。
【0003】
ところで、有機廃棄物を発酵させてメタン燃料を抽出すると、発酵残渣(メタン発酵残渣)が生ずる。このメタン発酵残渣は、液肥としての用途があるが、水処理して河川に放流する場合が殆どである。それ以外の用途としては、堆肥化、可燃性ガス化、炭化があるが、市場では普及していない。一方で、メタン発酵残渣のような有機廃棄物に、廃グリセリンを含めた廃油を混合させると、有機廃棄物そのものだけよりも高カロリーになることが知られており、上記油温減圧乾燥方式の代替になり得ないかと考えられている。
【特許文献1】特開2001−121198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機廃棄物は含水率が高いので、それをそのまま廃油と混合したのでは、ペレット状に加工することや運搬が容易ではないという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、含水量が少なく、優れた熱エネルギーを持つ有機廃棄物燃料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機廃棄物燃料の製造方法は、有機廃棄物と廃油とを混合する工程と、混合物を減圧状態において一定温度に加熱する工程とを含むものである。
なお、本明細書では、「有機廃棄物」とは、一般家庭から出る台所の生ごみ、食品工場から排出される食品廃棄物、包装紙、新聞紙、雑誌、プラスチック類、庭の手入れの際に出される刈り取った草木の束等、有機物を含むすべてのごみおよび畜産糞尿を意味するが、広義的には、紙類、廃材、廃油や廃棄プラスチックス、有機物を含む廃水、下水処理場から発生する汚泥等であり、ここでは、その発酵後の残渣(メタン発酵残渣)を含むものである。また、「廃油」とは、潤滑油系、絶縁油系、洗浄油系および切削油系の廃油類、廃溶剤類及びタールピッチ類など、鉱物性油および動植物性油脂に係るすべての廃油のことをいう。「減圧状態」とは、大気圧より圧力の低い状態のことをいう。
【0007】
本発明の有機廃棄物の製造方法では、有機廃棄物の含水量に応じて廃油量を調製し、均等に混ぜ合わせるようにする。このように有機廃棄物に対する廃油量を調製することにより、発熱温度の調節が行われる。なお、廃油としてはグリセリン液、有機廃棄物としてはメタン発酵残渣であることが望ましい。また、有機廃棄物の含有量は45重量%以上55重量%以下であることが望ましい。
【0008】
有機廃棄物および廃油の混合物は、減圧条件下で加熱されることにより、より低い温度で水分が除去される。加熱温度は70℃以上100℃以下とすることが望ましく、乾燥後の有機廃棄物燃料の含水率は40%以下であることが望ましい。ここで、「含水率」とは有機廃棄物に含まれる水分の割合を重量%で表したものである。
【0009】
本発明の有機廃棄物燃料は、有機廃棄物と廃油との混合物であり、含水率が40%以下、発熱量が4000kcal/kg以上のものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機廃棄物燃料の製造方法によれば、有機廃棄物と廃油とを混合し、それらの混合物を減圧状態において一定温度に加熱するようにしたので、有機廃棄物中に含まれる含水量を効果的に減少させて、発熱量を向上させることができる。
【0011】
本発明の有機廃棄物燃料によれば、有機廃棄物と廃油との混合物を原料とし、含水率が40%以下であり、発熱量が4000kcal/kg以上であるので、油温減圧乾燥方式による燃料と同等の性能を有すると共に、ペレット状の加工が容易であり、運搬等の作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係る有機廃棄物燃料は、有機廃棄物と廃油とを原料とし、含水率が40%以下、発熱量が4000kcal/kg以上のものであり、成形が容易である。ここでの有機廃棄物は、例えば、メタン発酵残渣、下水処理場から発生する汚泥であり、廃油は、例えば廃グリセリン、廃エンジンオイル、廃タービン潤滑油、再生重油である。
【0014】
この有機廃棄物燃料は、例えば、次のようにして製造できる。
【0015】
(混合物調製工程)
まず、食品廃棄物を破砕・分別してメタン発酵槽に投入する。畜糞尿の場合には、脱水機により脱水固形分と搾汁液とに分離し、搾汁液はメタン発酵槽に送る。メタン発酵槽では温度を35℃前後に保持することでメタン発酵が進む。なお、高温発酵の場合では温度は55℃前後に保持する。このメタン発酵槽から排出されるものがメタン発酵残渣となる。生成したメタン発酵残渣を直接、廃油とともに減圧容器内に投入して混合させる。ちなみに、乾式メタン発酵では原料の含水率は60〜80%程度の廃棄物を使用するので、発酵槽自体に攪拌装置を設ける必要がなく保守点検が容易である。また、発酵残渣の含水率は低いので、残渣処理設備で水処理を不要とするプロセスを実現することができる。
【0016】
ここで、加える有機廃棄物と廃油の重量比によって、作製後の有機廃棄物燃料の含水率および発熱量が異なってくる。高カロリー化を促進するには、含水率の高い有機廃棄物では油分の量を増やし、含水率の低い有機廃棄物では油分の量を低く設定すればよい。有機廃棄物の含水量が70%以上であると、有機廃棄物の割合は45質量%以上55質量%以下であることが望ましい。このような重量比に調製することにより、製造後の有機廃棄物燃料の含水量が40%以下になり、発熱量が4000kcal/kg以上の高カロリーとなる。
【0017】
(加熱・減圧乾燥工程)
次に、上記調整後の混合物を加熱・減圧乾燥させる。図1は本実施の形態に用いる実験装置の概略構成図である。恒温槽11には上記混合物10を収容するための減圧用フラスコ12およびヒータ13Aが配置されている。恒温槽11内はヒータ13Aに接続された温度制御装置13によって温度調整が可能であり、その温度は温度計測装置14により正確に知ることができるようになっている。減圧用フラスコ12内は、真空装置15(アスピレーター)によって減圧されるようになっており、減水がほぼなくなった時点で減圧が終了される。加熱温度は70℃以上100℃以下として減圧することが好ましい。70℃未満であると十分な水分除去が行われず、含水量を減らすのに時間がかかりすぎてしまい減圧条件が厳しくなる。一方、70℃以上とした場合には、温度が高くなるほど水分の蒸発量が増えるため減圧条件を緩和できる。なお、減圧しているので、恒温槽11では100℃以下の温度でも沸騰させることができる。すなわち、加熱エネルギー投入量を抑えての沸騰が可能であるので、効率的な加熱・減圧乾燥のためには、100℃以下とすることが望ましい。
【0018】
このように、本実施の形態では、有機廃棄物と廃油とを混合し、この混合物を減圧状態で、一定温度に加熱することにより乾燥させるようにしたので、高カロリーの有機廃棄物燃料を少ない工程で製造することができる。また、油温減圧乾燥方式と比較して、投入熱量を抑えることができるため、製造コストを低くでき、そのうえ有機廃棄物燃料の含水量を容易に制御することができる。
【0019】
なお、本実施の形態では、主に、有機廃棄物としてメタン発酵残渣を用いた場合について説明したが、メタン発酵残渣以外の有機廃棄物を用いてもよい。例えば、ミカンのしぼりかすや、おからなどの食品廃棄物を有機廃棄物とし、それを廃油と混合したものを加熱・減圧乾燥した場合においても、上記と同様の有機廃棄物燃料を製造することができる。特に、ミカンのしぼりかすなどの食品廃棄物は、比較的、水分を多く含むが、加熱・減圧乾燥する際に、有機廃棄物燃料の含水率を低下させるように調整することによって、廃油の割合が低くても、高カロリーの有機廃棄物燃料を製造することができる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0021】
(実施例1、2)
実施例1として、乾式メタン発酵残渣(含水率70%程度)110gと廃グリセリン100gを混合し、この混合物を、加熱温度を70℃、圧力を0.6気圧として、上述の方法で作製した。また、実施例2としては、下水汚泥(含水率80%程度)100gと廃グリセリン110gを混合物とした以外は、実施例1と同様にして作製した。この際、実施例1,2において、加熱・減圧乾燥工程にかかった時間(処理時間)は5時間であった。
【0022】
(実施例3〜5)
実施例3として、ミカンのしぼりかす(含水率85%程度)と廃グリセリンとを重量比(ミカンのしぼりかす:廃グリセリン)で100:60となるように混合し、この混合物を、加熱温度を60℃、圧力を0.6気圧として、上述の方法で作製した。この際、加熱・減圧乾燥工程にかかった時間(処理時間)は10時間であった。また、実施例4として、処理時間を9時間としたことを除き、実施例3と同様にして作製した。また、実施例5として、処理時間を8時間としたことを除き、実施例3と同様にして作製した。
【0023】
(比較例1)
比較例1として、乾式メタン発酵残渣の天日乾燥燃料(廃油との混合および加熱・減圧乾燥処理なし)を使用した。この際、天日乾燥に7日間(168時間)かかった。
【0024】
実施例1〜5および比較例1の含水量および発熱量を計測したところ、表1に示した結果が得られた。なお、含水量は含水率測定装置(AND MF−50)を用い、発熱量は発熱測定装置(SHIMADZU GA−4AJ)を用いて計測した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示したように、有機廃棄物として乾式メタン発酵残渣あるいは下水汚泥を用い、処理時間が5時間であった実施例1、実施例2の含水率は24.2%、38.2%となり、大幅に含水量は減少していた。また、実施例1、実施例2の発熱量は4745kcal/kg、5029kcal/kgであるのに対し、含水率が15%の比較例1の発熱量は2786kcal/kgであった。すなわち、乾式メタン発酵残渣あるいは下水汚泥と廃油とを混合し、加熱・減圧乾燥することで、短時間で含水量を減少させることができ、大幅な発熱量の向上を示した。この発熱量は、油温減圧乾燥技術で乾燥させた乾燥汚泥(水分2.6%、油分36%、固形分61.4%)とほぼ同程度の発熱量(5700kcal/kg:御笠川浄化センター資料)を示した。
【0027】
また、有機廃棄物としてミカンのしぼりかすを用い、処理時間を8時間〜10時間とした実施例3〜5では、含水率が20%〜40%程度となり、発熱量が4200kcal/kg〜5000kcal/kgとなった。すなわち、有機廃棄物として含水量の比較的多いミカンのしぼりかすなどの食品廃棄物を用いた場合に、加熱・減圧乾燥の処理時間を調整することによって、比較的低温で有機廃棄物燃料の含水量を容易に調整でき、発熱量の調整も容易であることがわかった。
【0028】
なお、本実施例には示していないが、有機廃棄物としてミカンのしぼりかすを用いた場合には、ミカンのしぼりかすと廃油との混合比(ミカンのしぼりかす:廃油)を重量比で10:3としても、含水率が40%以下、発熱量が4000kcal/kg程度となった。この際、上記した実施例3と同様に加熱・減圧乾燥した。すなわち、上述の加熱・減圧乾燥工程では、ミカンのしぼりかすのように比較的含水率の高い有機廃棄物を用いた場合でも、廃油との混合比に依存することなく、効率的に含水率を低下させることができ、これにより有機廃棄物燃料とすることができると考えられる。
【0029】
このことから、上述の有機廃棄物燃料の製造方法では、有機廃棄物と廃油とを混合し、その混合物を減圧状態において一定温度に加熱することにより、有機廃棄物の種類およびその含水量などに依存せず、有機廃棄物中に含まれる含水量を効果的に減少させて、発熱量を向上させることができることが確認された。また、このように製造された有機廃棄物燃料では、含水率が40%以下、発熱量が4000kcal/kg以上となり、油温減圧乾燥方式による燃料と同等の性能を有することが確認された。よって、この有機廃棄物燃料では、ペレット状の加工が容易であり、運搬等の作業性が向上するものと考えられる。
【0030】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態に係る加熱・減圧乾燥装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0032】
10…混合物、11…恒温槽、12…減圧用フラスコ、13…温度制御装置、14…温度計測装置、15…真空装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機廃棄物と廃油とを混合する工程と、
前記混合物を減圧状態において一定温度で加熱する工程と
を含むことを特徴とする有機廃棄物燃料の製造方法。
【請求項2】
前記有機廃棄物としてメタン発酵残渣を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の有機廃棄物燃料の製造方法。
【請求項3】
前記混合物中における有機廃棄物の含有量は、45重量%以上55重量%以下である
ことを特徴とする請求項2記載の有機廃棄物燃料の製造方法。
【請求項4】
前記混合物を70℃以上100℃以下の温度で加熱する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機廃棄物燃料の製造方法。
【請求項5】
前記混合物の乾燥したのちの含水率を40%以下とする
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の有機廃棄物燃料の製造方法。
【請求項6】
有機廃棄物と廃油との混合物であり、含水率が40%以下、発熱量が4000kcal/kg以上である
ことを特徴とする有機廃棄物燃料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−7563(P2009−7563A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137621(P2008−137621)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】