説明

有機汚泥処理方法

【課題】真空プリコートろ過において、外部から炭化物を補充せずに十分なプリコート剤を得ることが課題である。この課題を解決することにより、有機汚泥処理結果として得られる炭化物のみによってプリコート剤を生産するいわゆるクローズド化が実現でき、処理結果の炭化物を金属等を含まない有価物として活用できる。合わせて、乾燥・炭化処理の負荷を減らして低燃費化する。
【解決手段】衝撃水圧を加えて微生物の細胞膜を破壊する脱水前処理によってろ滓のプリコート剤への浸透性を小さくし、少量のプリコート剤による真空プリコート式ろ過を行う。有機汚泥処理結果として得られる炭化物を粉砕・分級して、十分な量のプリコート剤を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理設備、工場廃水処理設備等より排出される有機汚泥を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理設備、工場廃水処理設備等より排出される汚泥を処理するには、脱水前処理として汚泥に凝集剤を添加し、汚泥を脱水処理することが行われていた。脱水された汚泥は、廃棄処分場で埋立処分、焼却処分等された。また、脱水された汚泥の一部は、乾燥・炭化処理して土壌改良材等に使用されることがあった。ここで、脱水処理としては、ベルトプレスや遠心脱水機を用いるものが行われてきた。しかし、乾燥・炭化処理して土壌改良材等に使用する場合、凝集剤に含まれる金属(アルミニウム等)が処理後の炭化物に残留するので炭化物が環境に悪影響を与える有害物となってしまい、有価物としての利用ができない、といった問題があった。

【0003】
特許文献1には、上記の問題を解決するものとして、脱水処理に真空プリコート式ろ過装置を用い、ろ過装置のプリコート剤に炭化物を使用する方法が開示されている。この方法によれば凝集剤の添加が不要となる。しかし、この方法では、十分な脱水効果を得るためには多量のプリコート剤を必要とする。このため、プリコート剤を製造するためのコストが高くなり、いまだ事業化に至っていない。
より具体的には、この方法によって必要となるプリコート剤の量は、この方法によって得られる炭化汚泥を粉砕・分級して得られる炭化物の量よりも多い。ろ滓のプリコート剤への浸透性が大きく多量のプリコート剤を使用しないと脱水処理量が低下するためである。十分なプリコート剤を得るために外部から炭化物を補充する必要がある。外部から補充される炭化物は、通常、凝集剤を用いて製造される。結局、プリコート剤に含まれる金属等が処理後の炭化物に混入し、処理後の炭化物を有価物として利用できなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−137898号公報
【特許文献2】特開2006−007121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、必要となるプリコート剤の量が多く、十分なプリコート剤を得るために外部から炭化物を補充する必要がある点である。この問題点を解決することにより、処理結果の炭化汚泥を粉砕・分級して得られる炭化物のみによってプリコート剤を生産するいわゆるクローズド化が実現でき、処理結果の炭化物を金属等を含まない有価物として活用できる。合わせて、乾燥・炭化処理の負荷を減らして低燃費化するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る有機汚泥処理方法は、
有機汚泥に衝撃水圧を加えて微生物の細胞膜を破壊する脱水前処理を行うステップと、
真空プリコート式ろ過装置を用い、ろ過装置のプリコート剤に炭化物を使用する脱水処理を行うステップと、
脱水汚泥から前記プリコート剤に使用する前記炭化物を得る乾燥・炭化を行うステップ及び粉砕・分級処理を行うステップとを含み、
前記プリコート剤に使用する炭化物の全てが前記脱水処理、前記乾燥・炭化処理及び前記前記粉砕・分級処理を経て得られたものであることを特徴とする。
脱水前処理として衝撃水圧を加えて微生物の細胞膜を破壊することは、例えば特許文献2に示されている。出願人は、この処理によってろ滓のプリコート剤への浸透性が小さくなることを発見した。
脱水処理は、特許文献1に記載のものと同様である。しかし、脱水前処理の効果によって、少量のプリコート剤による処理が可能となった。
粉砕・分級処理によって、プリコート剤として使用するのに適した炭化物が得られる。プリコート剤が従来技術と比して少量であり、処理後の炭化物を粉砕・分級して得られるもののみで脱水処理が可能であることが、出願人によって発見された。
【0007】
請求項2に係る有機汚泥処理方法は、
前記衝撃水圧が、気体収束爆轟波によって誘起されたものであることを特徴とする。
気体収束爆轟波によって誘起された衝撃水圧は、細胞膜の破壊性能に優れている。(例えば特許文献2を参照。)
【0008】
請求項3に係る有機汚泥処理方法は、
前記粉砕・分級処理は所望の粒子径の炭化物を分級し、該分級された炭化物を前記プリコート剤として使用することを特徴とする。
プリコート剤として使用するのに適した炭化物は、その粒子径が好ましくは25μm〜600μmの範囲にあるものである。かかる粒子径の炭化物を分級することにより、高性能のプリコート剤を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機汚泥処理方法は、衝撃水圧を加えて微生物の細胞膜を破壊する脱水前処理によってろ滓のプリコート剤への浸透性を小さくし、少量のプリコート剤による真空プリコート式ろ過を行うものであり、処理後の炭化物のみによってプリコート剤を生産するいわゆるクローズド化が実現でき、従来技術より多く得られる処理結果の炭化物が金属等を含まない有価物であるという効果を有する。かつ、乾燥・炭化処理の負荷を減らして低燃費化するという効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は有機汚泥処理方法の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
本実施例は、下水処理の過程で排出される有機汚泥を処理するものである。図1は、有機汚泥処理方法の手順を示す図である。以下,図1に示す一実施形態に従って説明する。
【0012】
(1)汚泥濃縮処理を行うステップ
汚泥濃縮処理1とは、下水処理の過程で排出される0.5〜1.0%濃度の汚泥を約4.0%濃度に濃縮する処理である。
約4.0%の濃度に濃縮して脱水前処理及び脱水処理を行うことにより、脱水前処理及び脱水処理の効率を上げ、トータルコストを下げることができる。
この汚泥濃縮処理で使用する機器としては、重力式汚泥濃縮装置あるいは遠心濃縮装置などがある。
【0013】
(2)脱水前処理を行うステップ
脱水前処理2とは、濃縮汚泥の脱水効率とプリコ−ト剤(炭化汚泥)へのろ滓の貫入深さを浅くするために、汚泥濃縮処理1で濃縮された汚泥に衝撃水圧を発生させて汚泥中の微生物の細胞膜を破壊する処理である。
衝撃水圧を発生させるための手段として、例えば特許文献2に開示されている気体収束爆轟発生装置を用いる。気体収束爆轟発生装置とは、燃料の燃焼により発生した爆轟波を収束させて超高圧の収束爆轟波を発生させ、該収束爆轟波を汚泥に伝播させることによって汚泥に衝撃水圧を加えるものである。
【0014】
(3)脱水処理を行うステップ
脱水処理3とは、上記前処理した濃縮汚泥を出来るだけ含水率を下げて乾燥・炭化処理での熱負荷を減らすための脱水を行う処理である。
この脱水処理には、回転ドラム型真空プリコ−トろ過装置を用いる。回転ドラム型真空プリコ−トろ過装置は、例えば特許文献1に記載されているものである。回転ドラム型真空プリコ−トろ過装置においては、内部にろ滓を入れた回転ドラムの外周にろ布を配し、ろ布にプリコート剤を50mm〜100mmの厚みで付着させ、プリコート剤のろ滓に接する部分がろ滓の水分を吸収することにより脱水させる。この方法では、処理の都度、プリコート剤表面の前回の処理においてろ滓が浸透した部分を切削することにより、脱水性能を保つ。そして、切削によりプリコート剤が薄くなってしまった場合にはプリコート剤を追加する。すなわち、ろ滓のプリコ−ト剤(炭化汚泥)への浸透性(ろ滓のプリコ−ト剤への貫入深さ)が大きいほど、切削量が増え、多量のプリコート剤を使用する必要がある。この結果として、多くの炭化汚泥が必要となってしまう。
以下、脱水前処理において微生物の細胞膜を破壊し微生物の内容物を外部に漏出しやすくすることが脱水処理に与える改善について、定量的に述べる。
特許文献1に記載の方法では約80%であった処理後の含水率が、約50%となった。
また、ろ滓の浸透性が小さくなり、必要とされるプリコート剤の量が、特許文献1に記載の方法に対して、約25%減少した。特許文献1に記載の方法によっても、必要なプリコート剤の75%以上を粉砕・分級処理によって得ることができていたところ、上記約25%の減少により、必要なプリコート剤の量よりも多い炭化汚泥を粉砕・分級処理によって得ることが可能となった。すなわち、クローズド化を実現した。
【0015】
(4)乾燥・炭化処理を行うステップ
乾燥・炭化処理4とは、回転ドラム型真空プリコ−トろ過装置に必要なプリコ−ト剤としての炭化汚泥を作るための処理である。
この乾燥・炭化処理で使用する機器としては、ロ−タリ−キルン方式の乾燥・炭化処理装置などがある。
上記、脱水処理を行うステップにおいて含水率を改善した結果、このステップに必要な燃費は、特許文献1に記載の方法のおよそ4分の1となった。
【0016】
(5)粉砕・分級処理を行うステップ
粉砕・分級処理5とは、回転ドラム型真空プリコ−トろ過装置のプリコ−ト剤に適した炭化汚泥に粉砕・分級する処理である。
粒子径が25μm以上、600μm未満の炭化汚泥がプリコ−ト剤に適しており、これを分級し、プリコート剤として脱水処理3に使用する。
【0017】
以上の(1)〜(5)のステップの実行後、プリコート剤として使用されない炭化汚泥が生産されるが、この炭化汚泥は金属等を含まない有価物である。
【0018】
(実施例の拡張)
本発明の実施形態は、上記実施例に限定されるものではない。本発明の本質を保ったままで、上記実施例とは異なる実施が可能である。以下に、かかる例を示す。
有機汚泥の処理は下水に限定されるものではなく、工場廃水にも適用可能である。工場廃水に適用する場合には、汚泥の濃度、微生物の量が下水と異なり得るが、脱水前処理における気体収束爆轟波の強度を調整すること等により、工場廃水にも問題なく適用できる。
粉砕・分級処理において、粒子径が25μm〜600μmの炭化汚泥を分級しているが、必要とされるプリコート剤の多寡に応じて分級範囲を変更して良い、例えば、必要とされるプリコート剤が少量である場合には、よりプリコート剤に適した粒子径が50μm〜150μmの炭化汚泥のみを分級するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
クローズド化された有機汚泥処理方法であり、処理結果の炭化物を有価物として活用でき、かつ、低燃費化されて低コストで運用できるので、下水処理設備、工場廃水処理設備等より排出される汚泥の処理において広範に活用することが期待できる。
【符号の説明】
【0020】
1 汚泥濃縮処理
2 脱水前処理
3 脱水処理
4 乾燥・炭化処理
5 粉砕・分級処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機汚泥に衝撃水圧を加えて微生物の細胞膜を破壊する脱水前処理を行うステップと、
真空プリコート式ろ過装置を用い、ろ過装置のプリコート剤に炭化物を使用する脱水処理を行うステップと、
脱水汚泥から前記プリコート剤に使用する前記炭化物を得る乾燥・炭化処理を行うステップ及び粉砕・分級処理を行うステップとを含み、
前記プリコート剤に使用する炭化物の全てが前記脱水処理、前記乾燥・炭化処理及び前記粉砕・分級処理を経て得られたものであることを特徴とする、有機汚泥処理方法。
【請求項2】
前記衝撃水圧が、気体収束爆轟波によって誘起されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の有機汚泥処理方法。
【請求項3】
前記粉砕・分級処理は所望の粒子径の炭化物を分級し、該分級された炭化物を前記プリコート剤として使用することを特徴とする、請求項1または2に記載の有機汚泥処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−234233(P2010−234233A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84026(P2009−84026)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【特許番号】特許第4478804号(P4478804)
【特許公報発行日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(599055382)学校法人東邦大学 (18)
【Fターム(参考)】