説明

有機溶剤中の水分除去装置および除去方法

【課題】 比較的簡便な構成で、有機溶剤中の微量の水分を効率よく除去処理すると同時に、構成部材の交換や大掛かりな装置を必要とせずに、故障が少なく操作性のよい有機溶剤中の水分除去装置および除去方法を提供すること。
【解決手段】 有機溶剤が導入される処理槽10と、有機溶剤が導入される溶剤導入部1と、処理された有機溶剤が供出される溶剤供出部2と、不活性ガスが導入される不活性ガス導入部3と、処理ガスが供出される処理ガス供出部4と、処理ガスが冷却され気液分離される冷却処理槽20と、処理ガスが導入される処理ガス導入部5と、分離された液が供出される回収液供出部6と、分離されたガスが供出される排出ガス供出部7を備え、処理槽10内において有機溶媒の液表面全体に不活性ガスを流通させることによって、有機溶媒中の水分が除去処理されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤、特に無極性の有機溶剤あるいは極性非プロトン性の有機溶剤中の水分除去装置および除去方法に関し、例えば、半導体や太陽電池等の生産装置や研究設備等において使用される洗浄液等の有機溶剤や使用後の有機溶剤、あるいは有機合成反応等の原料となる有機溶剤中の水分除去装置および除去方法に関するものである。
【0002】
なお、本願にいう「有機溶剤」とは、広く工業的に用いられる溶剤、例えばオクタン等の有機溶剤、フロン系や塩素系溶剤等を含む。また、本願にいう「無極性の有機溶剤あるいは極性非プロトン性の有機溶剤」とは、例えばn−オクタン等の無極性で水の溶解度の低い有機溶剤、あるいは例えばテトラヒドロフラン(THF)等の極性を有するが混和した水分との分離が比較的容易な非プロトン性を有する有機溶剤をいう。
【背景技術】
【0003】
半導体や太陽電池等を生産する製造装置や新たな素材を開発する研究設備、あるいは各種の有機物質の原料等として、有機溶剤が多く使用されている。こうした有機溶剤は、少量ではあるが水分を含むことが多く、こうした製造・研究あるいは製品の特性に大きな影響を与えることがあることから、所定の水分除去処理を行い、水分量が確認された後に使用されている。有機溶剤中の水分除去処理の多くは、特定の吸着剤に対する有機溶剤と水分の吸着能の相違を利用した吸着法、両者の沸点の相違を利用した蒸留法、特定の膜に対する透過能の相違を利用した膜分離法などが採られている。
【0004】
具体的には、図6のように、洗浄機等から排出される回収有機溶剤から水分および酸分を吸着分離する有機溶剤の処理装置として、脱水塔107と脱酸塔108からなる2塔方式で、脱水剤、脱酸剤として3〜80Åの細孔径を有するゼオライトまたは/およびアルミノシリケートを充填する吸着式の有機溶剤の処理方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。ここで、101は回収した有機溶剤の導入口、102は溶剤槽、103は溶剤槽フロートスイッチ、104は溶剤槽循環弁、105は溶剤ポンプ、106は流量計、109は調合槽、110は調合槽フロートスイッチ、111は調合槽抜き出しポンプ、112は安定剤等の濃縮液導入口を示す。
【0005】
また、図7のように、含水有機化合物を蒸留塔に導き、蒸留塔頂から得られた、濃縮された含水有機化合物蒸気を吸着手段によって、高度に濃縮された有機化合物を取出す含水有機化合物の脱水方法において、前記蒸留塔と吸着手段の間に膜分離手段を介在させ、前記蒸留塔の還流比及び/又は前記膜分離手段における膜面積を可変とすることにより、前記蒸留塔頂で濃縮された含水有機化合物蒸気を所定の割合で膜分離手段ついで吸着手段へ供給し、高度に濃縮された有機化合物蒸気として取出す含水有機化合物の脱水方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。蒸留法、膜分離法および吸着法を組合せて、高い含水有機化合物の脱水処理能力を確保することが可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−220303号公報
【特許文献2】特開2008−86988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のような有機溶剤中の水分除去処理装置では、有機溶剤から水分を十分に分離する機能を確保することが困難であり、以下の課題が生じることがあった。
(i)吸着法
親油性の高い吸着剤を用い、吸着し濃縮された有機溶剤を脱離させ、脱水処理された有機溶剤を得る場合、あるいは親水性の高い吸着剤を用い、水分を吸着させ脱水・濃縮処理された有機溶剤を得る場合、いずれも当該吸着剤の吸着能力には所定の寿命があり、一定期間経過後に新しい吸着剤と交換する必要がある。また、加熱あるいは清浄剤による再生処理を行うことによって再利用することが可能となる場合があるが、この場合においても吸着剤の交換・再生処理には固有の設備が必要となり、相当の費用と作業時間がかかるという課題があった。
【0008】
(ii)蒸留法
有機溶剤と水分の沸点の相違を利用し、所望の気液平衡条件を形成するためには、所定の大きさの蒸留塔(精留塔)あるいはこれに相当する装置が必要となり、大掛かりな水分除去装置となることは避けることができない。また、蒸留塔内における分離機能を確保するためには、加熱・蒸発・気液接触・冷却・凝縮等の各操作の確実を図るために、各操作に適した気体および液体の有機溶剤について圧力・温度・流量条件を正確な制御を行う必要があることから操作の煩雑となり、駆動部も多くなりことから故障の発生も回避することが難しい。
【0009】
(iii)膜分離法
特定の膜における有機溶剤と水分の分離能は、分子篩や圧力あるいは濃度の差によって決定されるが、処理対象となる有機溶剤中の水分が微量(数100molppm(以下、単に「ppm」という)以下)の場合、膜分離によってこれをさらに極微量(約10ppm以下)とするには、分離膜(透過膜)の選定が難しい。現状、そうした分離機能を有する分離膜が選定できていない有機溶剤も多くあり、膜分離法の利用の範囲が限定されるという課題がある。
【0010】
本発明の目的は、比較的簡便な構成で、有機溶剤中の微量の水分を効率よく除去処理すると同時に、構成部材の交換や大掛かりな装置を必要とせずに、故障が少なく操作性のよい有機溶剤中の水分除去装置および除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す有機溶剤中の水分除去装置および除去方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は、有機溶剤中の水分除去装置であって、無極性の有機溶剤あるいは極性非プロトン性の有機溶剤を処理対象とし、該有機溶剤が導入される処理槽と、該処理槽に有機溶剤が導入される溶剤導入部と、処理された有機溶剤が供出される溶剤供出部と、前記処理槽に不活性ガスが導入される不活性ガス導入部と、前記処理槽からのガスが供出される処理ガス供出部と、該処理ガスが冷却され気液分離される冷却処理槽と、該冷却処理槽に処理ガスが導入される処理ガス導入部と、分離された液状の有機溶剤が供出される回収液供出部と、分離されたガスが供出される排出ガス供出部を備え、前記処理槽内において前記有機溶媒の液表面全体に前記不活性ガスを流通させることによって、有機溶媒中の水分が除去処理されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、有機溶剤中の水分除去方法であって、無極性の有機溶剤あるいは極性非プロトン性の有機溶剤を処理対象とし、以下のプロセスからなる1次処理プロセスと、
(1)所定容量の処理槽に該有機溶剤が導入され、予め設定された所定の液面位置を維持するように、その導入量が制御される。
(2)該処理槽が必要に応じて加熱され、予め設定された所定の温度条件となるように制御される。
(3)前記処理槽に不活性ガスが導入され、前記有機溶剤中の水分濃度の減少量が予め設定された所定値以上となるように、その導入量が制御される。有機溶剤および水分を含んだ不活性ガスが、処理ガスとして前記処理槽から供出される。
以下のプロセスからなる2次処理プロセスと、
(4)前記処理槽内の有機溶剤中の水分濃度が、予め設定された所定値以下となったとき、前記処理槽から有機溶剤が供出される。
以下のプロセスからなる3次処理プロセスと、
(5)前記処理ガスが、所定容量の冷却処理槽に導入され、予め設定された所定の温度に冷却されて気液分離される。
(6)分離されたガスが、排出ガスとして該冷却処理槽から供出される。
以下のプロセスからなる4次処理プロセスと、
(7)分離され前記冷却処理槽内の下部に貯留された液状の有機溶剤が、予め設定された所定の液面位置を越えたとき、前記冷却処理槽から有機溶剤が供出される。
を有することを特徴とする。
【0014】
こうした2段階の異なる水分除去・分離機能を有する構成を備えた水分除去装置および除去方法により、比較的簡便な構成で、有機溶剤中の微量の水分を効率よく除去処理することが可能となった。つまり、n−オクタン等の無極性の有機溶剤は、水の溶解度が低いことから元来有機溶剤中の水分が低く(例えばn−オクタンの含水率は約50ppm)、吸着法等ではこれ以上の水分除去は困難であった。また、例えばTHF等の極性非プロトン性の有機溶剤は、水とは容易に混和することから、吸着法等では有機溶剤と水分の分離除去は困難であった。本発明は、水分を含まない(1ppm以下)不活性ガスを用いて有機溶媒の液表面全体に不活性ガスを流通させることによって、(i)無極性の有機溶剤については、有機溶剤中の水分と気相中の水分との気液平衡条件が崩れて気相中に水分が抽出され、(ii)極性非プロトン性の有機溶剤は、混和した水分との分離が比較的容易であることから、気相中への水分抽出が可能であり、有機溶媒中の水分が除去処理されることを見出したものであり、さらに、抽出された有機溶媒を含む処理ガスが冷却され気液分離されることによって、蒸留法と同様の分離機能をここで得ることが可能となり、有機溶剤と水分が分離処理されることを見出したものである。これによって、比較的簡便な構成で、有機溶剤中の微量の水分を効率よく分離し、構成部材の交換や大掛かりな装置を必要とせずに、故障が少なく操作性のよい有機溶剤中の水分除去装置および除去方法を提供することが可能となった。
【0015】
本発明は、上記有機溶剤中の水分除去装置であって、前記不活性ガス導入部の先端部に、複数方向に噴出し可能な複数のガス噴出口を備え、前記有機溶媒の液表面全体に前記不活性ガスを流通させることを特徴とする。処理槽における大きな1つの役割である、貯留された有機溶媒中の水分の抽出機能として、処理槽内において有機溶媒の液表面全体に不活性ガスを流通させることによって、有機溶媒中の水分の除去効率を高めることができる。
【0016】
本発明は、上記有機溶剤中の水分除去装置であって、前記処理槽内の有機溶媒を、所定の液面位置、所定の温度条件、所定の圧力条件となるように制御するとともに、前記処理槽内の気相部および/または該有機溶媒層を攪拌処理しながら不活性ガスによるパージ処理を行うことを特徴とする。こうした構成によって、絶えず新しい有機溶剤の液表面と不活性ガスとの気液接触を確保することができ、操作性がよく非常に効率のよい有機溶剤中の水分除去が可能となった。
【0017】
本発明は、上記有機溶剤中の水分除去装置であって、前記不活性ガス導入部から導入されるガスが、ガス状の前記有機溶媒と不活性ガスの混合ガスであることを特徴とする。こうした構成によって、処理ガスに同伴される有機溶剤の量を低減し、水分除去処理における有機溶剤の収率を上げることができる。従って、初段の処理槽での水分除去処理における有機溶剤の減量を小さくし、ここからの濃縮された有機溶剤の供出量を増加させることによって、水分除去装置全体での高い収率を確保することができる。また、後段での凝縮量を低減し凝縮熱量を低減させることによって、水分除去装置全体でのエネルギー消費量を低減することが可能となった。
【0018】
本発明は、上記有機溶剤中の水分除去装置であって、前記処理槽および冷却処理槽内の有機溶媒中の水分濃度を検出する検出器を配設し、所定の水分濃度以下となった有機溶媒を、前記溶剤供出部あるいは回収液供出部から供出することを特徴とする。既述のように、半導体や太陽電池等の生産装置等に用いられる洗浄液等の有機溶剤は、含有する水分量によって、製品の特性に大きな影響を与えることがある。本発明は、上記のような水分除去処理を行った有機溶剤について、水分濃度の制御・管理を行い、最終的に適正な有機溶剤の供給を確保するものである。
【0019】
本発明は、上記有機溶剤中の水分除去装置であって、前記溶剤供出部を分岐して供出された有機溶媒の一部を抜き出し前記不活性ガス導入部と接続する流路と、該一部の有機溶媒を気化する気化器と、気化された有機溶剤を圧送するポンプと、気化された有機溶剤を所定の供給流量に制御する質量流量制御器と、を有する溶剤循環系を形成し、および/または、前記回収液供出部を分岐して供出された回収液の一部を抜き出し前記処理ガス導入部と接続する流路と、該一部の有機溶媒を気化する気化器と、気化された有機溶剤を所定の供給流量に調整する流量調整部と、を有する回収液循環系を形成することを特徴とする。上記のように、予め有機溶剤を含むパージガスによって有機溶媒中の水分抽出の効率を挙げることができる。このとき含有する有機溶媒を別途準備するのではなく、処理槽あるいは冷却処理槽において水分除去処理がされた有機溶剤を用いる循環系を形成することによって、上記のような水分除去装置全体での高い収率の確保およびエネルギー消費量の低減に加え、さらに有機溶剤の濃縮機能を高めることが可能となり、短時間での溶剤供出部および回収液供出部からの所望の水分除去された有機溶剤の供出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る有機溶媒の水分除去装置の基本構成例を示す概略図
【図2】本発明に係る有機溶媒の水分除去装置の不活性ガス導入部の構成を例示する概略図
【図3】本発明に係る有機溶媒の水分除去装置の処理槽内の攪拌手段を例示する説明図
【図4】本発明に係る有機溶媒の水分除去装置の他の構成例の1を示す概略図
【図5】本発明に係る有機溶媒の水分除去装置の他の構成例の2を示す概略図
【図6】従来技術に係る有機溶剤の処理装置を例示する概略図
【図7】従来技術に係る含水有機化合物の脱水方法を例示する概略図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、有機溶剤中の水分除去装置(以下「本装置」という)であって、有機溶剤が導入される処理槽と、処理槽に有機溶剤が導入される溶剤導入部と、処理された有機溶剤が供出される溶剤供出部と、処理槽に不活性ガスが導入される不活性ガス導入部と、処理槽からのガスが供出される処理ガス供出部と、処理ガスが冷却され気液分離される冷却処理槽と、冷却処理槽に処理ガスが導入される処理ガス導入部と、分離された液が供出される回収液供出部と、分離されたガスが供出される排出ガス供出部を備え、処理槽内において有機溶媒の液表面全体に不活性ガスを流通させることによって、有機溶媒中の水分が除去処理されることを特徴とする。
【0022】
ここでいう「有機溶剤」は、各種プロセスガスを含め特に限定されず、広く工業的に用いられる溶剤、例えばオクタン等の有機溶剤、フロン系や塩素系の有機溶剤等を含む。一般に常温(20〜30℃)常圧(約0.1MPa)で液体であるが、ここでは、広く加圧条件下あるいは低温条件下において液化された溶剤をも含む。具体的には、半導体や太陽電池等の製造装置用の洗浄液として使用された後の有機溶剤、あるいはこれらの研究用設備において使用された有機溶剤や有機合成反応等の原料となる有機溶剤などを挙げることができる。また、また、「無極性の有機溶剤あるいは極性非プロトン性の有機溶剤」とは、無極性で水の溶解度の低い有機溶剤あるいは極性を有するが混和した水分との分離が比較的容易な非プロトン性を有する有機溶剤をいい、具体的には、前者の例として、炭素数6以上の飽和炭化水素(例えばn−ヘキサンやn−オクタン等)や環状飽和炭化水素(例えばシクロヘキサン等)を挙げることができ、後者の例として、ケトン(例えばアセトン等)やエステル(例えば酢酸エチル等)や芳香族化合物(例えばベンゼンやトルエン等)や環状エーテル化合物(例えばTHF等)や複素環式化合物(例えばピリジン等)を挙げることができる。本装置は、後者のように従前困難であった低濃度の水分を含む有機溶剤を処理対象とする場合にも適用可能であり、後述するTHFでの実証のように、特に300ppm以下の水分を含む有機溶剤について、その残存水分量を極微量(約10ppm以下)とする場合に有用である。
【0023】
<本装置の基本構成例>
図1は、本装置の基本構成例(第1構成例)を示す概略図であり、処理される有機溶剤が導入・貯留され不活性ガスによる水分抽出される処理槽10と、処理槽10からの処理ガスが冷却され気液分離される冷却処理槽20が設けられている。処理槽10には、有機溶剤が導入される溶剤導入部1と、処理された有機溶剤が供出される溶剤供出部2と、不活性ガスが導入される不活性ガス導入部3と、水分を多く含む処理ガスが供出される処理ガス供出部4が接続される。冷却処理槽20には、処理ガスが導入される処理ガス導入部5と、分離された液が供出される回収液供出部6と、分離されたガスが供出される排出ガス供出部7が接続される。各導入部および供出部1〜7には、導入および供出される気体および液体を制御する開閉弁V1〜V7が設けられる。
【0024】
処理対象となる有機溶媒は、開閉弁V1を介して溶媒導入部1から処理槽10に導入され、所定の液面高さとなるまで、制御部(図示せず)により開閉弁V1が作動されて新たな有機溶媒が補充される。処理槽10に貯留された有機溶剤は、液面高さがほぼ一定の状態で、液表面全体に不活性ガスを流通させることによって水分除去処理され、水分量が所定値以下となった有機溶媒は、開閉弁V2を介して溶媒供出部2から供出される。流通された不活性ガスに同伴した有機溶剤は、水分とともに処理ガスの一部として開閉弁V4、処理ガス供出部4を介して処理槽10から供出され、開閉弁V5、処理ガス導入部5を介して冷却処理槽20に導入される。冷却処理槽20に導入された処理ガス中の有機溶剤は、冷却処理槽20で冷却され、凝縮・液化して冷却処理槽20内に蓄積される。所定量となった有機溶媒は、開閉弁V6を介して回収液供出部6から供出される。不活性ガスによる有機溶剤中の水分抽出機能を有する処理槽10と、処理ガス冷却後の気液分離による水分分離機能を有する冷却処理槽20との2段階の処理によって、有機溶剤中の微量の水分を効率よく除去・分離することができる。
【0025】
このとき、処理槽10に貯留された有機溶剤中に溶解あるいは混和された水分は、その多くが開閉弁V3を介して不活性ガス導入部3から導入された不活性ガスに同伴され、処理ガスの一部として開閉弁V4、処理ガス供出部4を介して処理槽10から供出され、開閉弁V5、処理ガス導入部5を介して冷却処理槽20に導入される。その一部は、超微量の水分として溶解あるいは混和された状態で、処理槽10に貯留された有機溶剤中に残留し、有機溶剤とともに開閉弁V2を介して溶媒供出部2から供出される。冷却処理槽20に導入され、冷却処理槽20で冷却された処理ガス中の水分は、その多くが排出ガスの一部として開閉弁V7を介して排出ガス供出部7から供出されるとともに、その一部は、超微量の水分として凝縮・液化した有機溶剤に溶解あるいは混和して分離され、有機溶剤とともに開閉弁V6を介して回収液供出部6から供出される。
【0026】
また、有機溶媒から水分を抽出する不活性ガスとしては、例えば窒素やアルゴンのように水分等の不純物が少なく、入手が容易なガスが好ましい。不活性ガスは、予め設定した所定の供給流量となるように、質量流量制御器3aによって制御され、開閉弁V3を介して不活性ガス導入部3から処理槽10に導入される。導入された不活性ガスは、気相部の有機溶剤および抽出された水分を同伴し、処理ガスとして開閉弁V4、処理ガス供出部4を介して処理槽10から供出され、開閉弁V5、処理ガス導入部5を介して冷却処理槽20に導入される。このとき、処理槽10内部の圧力を、予め設定された所定値に制御するように、圧力計4aおよび圧力調整器4bが配設される。図1では、圧力調整器4bとして背圧調整手段を用い、圧力計4aとともに処理ガス供出部4と処理ガス導入部5の間に設けられているが、これに限定されるものではなく、不活性ガス導入部3側に2次圧調整手段を設け、処理ガス供出部4側に絞り弁(図示せず)を設けることによって圧力調整を行う構成等種々の構成を用いることができる。冷却処理槽20で冷却された処理ガスは、凝縮・液化した多くの有機溶剤が分離され、水分および一部の有機溶剤を含む排出ガスとして開閉弁V7を介して排出ガス供出部7から供出される。このとき、図1では、処理槽20内部の圧力を減圧にして有機溶剤へ溶解あるいは混和する水分量を低減するように、排出ガス供出部7に吸引ポンプ7aが配設されているが、これに限定されるものではなく、処理槽10内部の加圧を利用する構成あるいは処理ガス導入部5に圧送ポンプを設ける構成等を用いることが可能である。
【0027】
〔処理槽の構成〕
処理槽10には、有機溶媒を所定の温度条件に制御するための加熱手段10a、予め設定された所定の液面位置でほぼ一定となるように液面高さを検出する液面計10b、および有機溶剤中の水分濃度を管理するための水分検出器(以下「水分計」という)10cが設けられる。加熱手段10aは、温度センサあるいは制御部とともに(図示せず)、ジャケットヒータやシーズヒータ等が処理槽10の内部あるいは外周部に配設される。液面計10bは、例えば超音波式やフロート式等のセンサが用いられ、処理槽10の内部あるいは外周部に配設される。水分計10cは、供出される有機溶媒中の水分濃度の制御・管理を行い、最終製品の適正な品質を確保するものであり、具体的には、カールフィッシャー式や静電容量式あるいは吸光光度式等の検出器が、制御部(図示せず)とともに配設される。図1では、水分計10cが溶剤供出部2に設けられた場合を例示するが、吸光光度式等の光透過式検出器の場合には、処理槽10の外周部に設けられることがある。
【0028】
処理槽10の制御温度は、水分の蒸散を確保しつつ有機溶媒の蒸散を抑制する温度が好ましい。具体的には、本装置において低濃度(1%以下)の水分(例えば、圧力0.1MPaでの0℃の水蒸気圧に相当する0.6%)を含む有機溶剤を処理対象とし、微量(数100ppm以下)の水分量となるように処理する場合、あるいは微量の水分を含む有機溶剤を処理対象とし、極微量(数10ppm以下)の水分量となるように処理する場合には、有機溶剤中の水分濃度の静的な気液平衡が成立する温度以上であって有機溶剤の沸点以下の温度が好ましい。いくつかの有機溶剤について、下表1のような温度設定を例示することができる。
【0029】
【表1】

【0030】
ここで、不活性ガス導入部3の先端部に、複数方向に噴出し可能な複数のガス噴出口を備え、有機溶媒の液表面全体に不活性ガスを流通させることが好ましい。つまり、有機溶剤中の水分を効率的に抽出するには、絶えず新しい有機溶剤の液表面と不活性ガスとの気液接触を確保することが好ましく、有機溶剤が貯留される処理槽10は、できる限り大きな液表面を有すると同時に、その液表面全体から均等に水分を同伴できるように不活性ガスを流通させることが好ましい。本装置は、図2(A)あるいは(B)に例示するように、不活性ガス導入部3の先端部31,32に、複数方向に噴出し可能な複数のガス噴出口31a〜31d,32a〜32hを備え、そこから処理槽の気相部全体に均等に不活性ガスを噴出させることによって、有機溶剤の液表面からの水分の同伴を促すと同時に液相内部の水分の液表面への物質移動を促すことができ、有機溶剤中の水分を効率的に抽出することができる。
【0031】
具体的には、図2(A)において、不活性ガス導入部3の先端部31に、複数方向に噴出し可能な複数のガス噴出口31a〜31dを備えた構成によって、有機溶媒の液表面全体に不活性ガスを流通させることができる。有機溶剤の気相部での停滞がなく常に攪拌された状態を形成する新たな不活性ガスの流れによって、液表面からの水分の同伴に伴う液表層と液相内部(合せて「有機溶媒層」といい、以下「液相部」ということがある)での水分濃度差による水分の移動・拡散を促すことができる結果、有機溶媒中の水分の除去効率を高めることができる。本発明者が検証したところ、気相部分の容積が、3L未満の場合に適していると結果を得た。
【0032】
また、図2(B)に例示するように、不活性ガス導入部3の先端部32に液面と平行に配置された複数の分岐管を設け、各分岐管に複数方向に噴出し可能な複数のガス噴出口32a〜32hを備えた構成によって、有機溶媒の液表面全体に不活性ガスを流通させることができる。有機溶剤の気相部での停滞がなく常に攪拌された状態を形成する新たな不活性ガスの流れによって、液表面からの水分の同伴に伴う液表層と液内層での水分濃度差による水分の物質移動・拡散を促すことができる結果、有機溶媒中の水分の除去効率を高めることができる。本発明者が検証したところ、気相部分の容積が、3L以上の場合に適していると結果を得た。
【0033】
さらに、上記ガス噴出口31a〜31dおよび32a〜32hに特定方向に不活性ガスを噴射するノズル(図示せず)を設けることも可能である。例えば、図2(A)において、液表面からの高さが異なる噴出口31a〜31dから噴射された不活性ガスは、液表面に対して種々の角度や衝突速度を有するガス流を形成することができ、液表面全体にムラなく攪拌流を形成することができる。また、図2(B)のように、液表面と平行する分岐管に設けられたガス噴出口32a〜32hから噴射された不活性ガスは、液表面に対して種々の角度や衝突速度を有し、液表面に沿うようなガス流を形成することができ、液表面全体からムラなく水分を同伴することができると同時に、速やかな液表面のガスを置換するガス流を形成することができる。
【0034】
〔処理槽の他の構成例〕
処理槽10において、処理槽内の気相部および/または液相部を攪拌処理しながら不活性ガスによるパージ処理を行うことが好ましい。つまり、物理的に有機溶剤と水分を分離処理する場合においては、気液の温度や圧力条件とともに、不活性ガスと液面との気液接触条件が影響する場合がある。本装置においては、図3のように、気相部および液相部に設けられた攪拌翼8a,8bを接続する軸8cが駆動部8dによって回転される攪拌機8(「撹拌手段」に相当)を配設し、攪拌翼8a,8bを同時に回転することにより、気相部および液相部を同時に攪拌することができ、気相部においては水分分布の均一性を高めて水分の同伴を促し、液相部においては有機溶剤中の水分の均一化を図り、水分濃度が減少した液表層と液内層での水分濃度差による水分の物質移動・拡散を促進することができる。ただし、こうした攪拌機能は、必ずしも気相部および液相部両方に設ける必要はなく、処理槽10の液表面が大きな場合や気相部の大きい場合には、撹拌効果が大きな気相部のみに攪拌翼8aを設けることで十分に機能する。また、処理槽10の液相部が深い場合や気相部の小さい場合には、撹拌効果が大きな液相のみに攪拌翼8bを設けることで十分に機能する。このように、処理槽10内の気相部および/または液相部を攪拌処理しながらパージ処理を行うことによって、絶えず新しい有機溶剤の液表面と不活性ガスとの気液接触を確保することができ、非常に効率のよい有機溶剤中の水分除去が可能となった。
【0035】
また、不活性ガス導入部3から導入されるガスを、処理対象となる有機溶媒のガス状体を不活性ガスとの混合されたガスとすることが好ましい。つまり、有機溶剤中の水分を抽出する場合、一般に、有機溶剤と接する気体中の水分濃度が低い方が、気体に同伴される量が大きくなると同時に、有機溶剤の濃度は高い方が、気体に同伴される液相部の有機溶剤の量が小さくなる。本装置は、こうした概念を実証した結果、抽出用の不活性ガスにガス状の有機溶剤を加えることによって、不活性ガスに同伴される有機溶剤の量を低減し、水分除去処理における有機溶剤の収率を上げることができるとの知見を得ることができた。つまり、初段の処理槽での水分除去処理における有機溶剤の減量を小さくし、ここからの濃縮された有機溶剤の供出量を増加させることによって、水分除去装置全体での高い収率を確保することができるとともに、後段での凝縮量を低減し凝縮熱量を低減させることによって、水分除去装置全体でのエネルギー消費量を低減することが可能となった。また、こうした構成を用いることによって、水分の蒸散を確保しつつ、液相部からの有機溶媒層の不活性ガスへの同伴を抑制することができることから、特に有機溶剤の沸点が水分の沸点よりも低い場合には、処理槽10の制御温度を有機溶剤の沸点以上で水分の沸点近くあるいはそれ以上の温度に設定することによって、さらに有機溶剤の収率を上げることが可能となる。なお、このとき、不活性ガス導入部3から導入される不活性ガスの流量を小さくし、有機溶剤のガス状体の流量を上げることによって、より有機溶剤の収率を上げることが可能となる。微量の水分量を含む有機溶剤の入手が容易な場合には、不活性ガスに代えて有機溶剤のガス状体を用いることも可能である。
【0036】
〔冷却処理槽の構成〕
冷却処理槽20には、処理ガスを所定の冷却温度に制御するための冷却手段20a、凝縮した有機溶媒が予め設定された所定の液面位置まで貯留されることを確認するために液面高さを検出する液面計20b、および有機溶剤中の水分濃度を管理するための水分計20cが設けられる。冷却手段20aは、温度センサあるいは制御部とともに(図示せず)、冷却素子や冷媒槽(冷媒冷却部および冷媒循環系を含む)等が冷却処理槽20の内部あるいは外周部に配設される。液面計20bおよび水分計20cは、上記処理槽10における液面計10bおよび水分計10cと同様に設けられる。
【0037】
冷却温度は、有機溶媒の凝縮を確保しつつ水分の凝縮を抑制する温度が好ましい。具体的には、所望の有機溶剤中の水分濃度以下となるような温度つまり当該水分濃度の静的な気液平衡が成立する温度以下であって、有機溶剤の融点以上の温度が好ましい。有機溶剤中の水分濃度が微量(数100ppm以下)の水分量となるように処理する場合は、圧力0.1MPaでの水蒸気圧に相当する温度は、約−25℃以下となり、極微量(数10ppm以下)の水分量となるように処理する場合には、−45℃以下となる。
【0038】
<本装置の他の構成例>
本装置においては、さらに、処理槽10における溶剤供出部2から供出された有機溶媒を気化し不活性ガスに混合する溶剤循環系、および/または冷却処理槽20における回収液供出部6から供出された有機溶媒を気化し不活性ガスに混合する回収液循環系を形成することが好ましい。上記のように、不活性ガス導入部3から処理槽10に導入されるガスに予め有機溶剤が混合されたパージガスを用いることによって、水分除去装置全体での高い収率の確保およびエネルギー消費量の低減を図ることができる。また、処理ガス導入部5から冷却処理槽20に導入される処理ガス中の有機溶剤の濃度が高ければ、それだけ凝縮する液状の有機溶剤中の水分濃度が低くなる。このとき、有機溶媒を別途準備するのではなく、処理槽10あるいは冷却処理槽20において水分除去処理がされた有機溶剤を用いる循環系を形成することによって、さらに処理槽10あるいは冷却処理槽20おいて形成される有機溶剤の濃縮機能を高めることが可能となる。これによって、水分除去処理効率を大きく上昇させることができ、短時間での溶剤供出部および回収液供出部からの所望の水分除去された有機溶剤の供出が可能となる。
【0039】
具体的には、図4に例示するように、溶剤供出部2からの分岐流路を不活性ガス導入部3と接続する溶剤循環系を形成する流路2aが設けられる。流路2aには、溶剤供出部2からの分岐された有機溶媒を気化する気化器2bと、気化された有機溶剤を圧送するポンプ2cと、気化された有機溶剤を所定の供給流量に制御する質量流量制御器2dが設けられる。これによって、不活性ガス導入部3から有機溶剤を含むパージガスを導入することができ、処理槽10内において、さらに効率よく水分除去処理がされた有機溶剤を形成することができる。また、回収液供出部6からの分岐流路を処理ガス導入部5と接続する回収液循環系を形成する流路6aが設けられる。流路6aには、回収液供出部6からの分岐された有機溶媒を気化する気化器6bと、気化された有機溶剤を所定の供給流量に調整する流量調整部6cが設けられる。これによって、処理ガス導入部5から高濃度の有機溶剤を含む処理ガスを導入することができ、冷却処理槽20内において、さらに効率よく気液分離処理がされ、濃縮された有機溶剤を形成することができる。
【0040】
ただし、必ずしも図4のように、溶剤循環系と回収液循環系の両方を形成することは必要とされず、比較的高濃度の水分量が許容される製品においては、後段の回収液循環系のみとする場合があり、溶剤供出部2から供出される有機溶剤と回収液供出部6から供出される有機溶剤の用途等の相違から許容される水分量が異なる場合には、いずれか一方のみの循環系を形成する場合がある。また、上記においては、有機溶剤のガス状体として循環系を形成する溶剤循環系を示したが、処理槽10下部に貯留された液状の有機溶剤の一部を溶媒導入部1から処理槽10に再度導入する循環系を形成することできる。処理槽10下部に貯留された有機溶剤は、不活性ガスとの直接的な接触がなく液表層よりも水分濃度の高いことから、液相上部に移送し不活性ガスと接触させることによって、より水分の同伴を促進するとともに、攪拌効果を得ることができる。
【0041】
さらに、本装置においては、処理ガスの一部を不活性ガス導入部3において不活性ガスと混合させ、処理槽10に導入する循環系を形成ことができる。有機溶剤中の水分の同伴を促すために、加熱条件下の処理槽10に不活性ガスが導入され、処理ガス中には有機溶剤が多く含まれる。このガスの一部を不活性ガスと混合させ、再度処理槽10に導入することによって、上記のように水分除去装置全体での高い収率の確保およびエネルギー消費量の低減を図ることができる。また、パージガスとして用いる不活性ガスの使用量を低減することができる点においても効率的である。
【0042】
具体的には、図5に例示するように、処理ガス導入部5からの分岐流路を不活性ガス導入部3と接続するパージガス循環系を形成する流路5aが設けられる。流路5aには、分岐された処理ガスを圧送するポンプ5cと、処理ガスを所定の供給流量に制御する質量流量制御器5dが設けられる。これによって、不活性ガス導入部3から有機溶剤を含むパージガスを導入することができ、処理槽10内において、さらに効率よく水分除去処理がされた有機溶剤を作製することができる。このとき、上記図4に例示した溶剤供出部2から分岐された流路2aを流路5aに接続し、パージガス循環系とともに、溶剤循環系を形成することも可能である。さらに有機溶剤を多く含み、水分濃度の低いパージガスを処理槽10に供給することが可能となり、効率よく水分除去処理がされた有機溶剤を作製することができる。また、上記循環系のいずれかと、上記図4に例示した回収液循環系を組合せることができる。これによって、冷却処理槽20内において、さらに効率よく気液分離処理がされ、濃縮された有機溶剤を形成することができる。
【0043】
〔本装置における有機溶媒の処理方法〕
上記のような構成を有する本装置においては、以下の1次〜4次の処理プロセスに沿って、有機溶媒中の水分除去処理が行われる。各プロセスについて、図1に示す構成に基づき制御部(図示せず)によって制御される場合を、例として説明する。ここで、〔1〕1次処理プロセスおよび〔2〕2次処理プロセスは、処理槽10において処理操作が行われ、〔3〕3次処理プロセスおよび〔4〕4次処理プロセスは、冷却処理槽20において処理操作が行われる。
【0044】
〔1〕1次処理プロセス
1次処理プロセスは、以下のプロセスからなる。
(1)所定容量の処理槽10に有機溶剤が導入され、予め設定された所定の液面位置を維持するように、その導入量が制御される。有機溶剤は、開閉弁V1を開にして溶媒導入部1から導入される。液面計10bによって検出された液面が所定の高さとなると、開閉弁V1が閉とされ、液相部と気相部が形成される。
(2)処理槽10が必要に応じて加熱され、予め設定された所定の温度条件となるように制御される。具体的には、加熱手段10aによって、導入される有機溶剤の種類とその水分濃度および製品の有機溶剤中の水分濃度に対応した、上記表1に例示された温度に制御される。
(3)処理槽10に不活性ガスが導入され、有機溶剤中の水分濃度の減少量が予め設定された所定値以上となるように、その導入量が制御される。有機溶剤および水分を含んだ不活性ガスが、処理ガスとして処理槽から供出される。導入される不活性ガスへの同伴に伴う有機溶剤の減少量が補充される。このとき、上記(1)において導入された有機溶剤中の水分濃度について、溶剤供出部2に設けられた水分計10cによって検出された値が予め設定された値と異なると場合には、制御部によって加熱温度、不活性ガスの導入流量および処理槽10内の圧力条件を調整することが好ましい。
【0045】
〔2〕2次処理プロセス
2次処理プロセスは、以下のプロセスからなる。
(4)処理槽10内の有機溶剤中の水分濃度が、予め設定された所定値以下となったとき、処理槽10から有機溶剤が供出される。本装置は、上記1次処理プロセスによって水分除去処理された有機溶剤について、水分計10cによって所望の水分濃度に管理された有機溶剤を供給することができる。
【0046】
〔3〕3次処理プロセス
3次処理プロセスは、以下のプロセスからなる。
(5)前記処理ガスが、所定容量の冷却処理槽に導入され、予め設定された所定の温度に冷却されて気液分離される。具体的には、冷却手段20aによって、導入される有機溶剤の種類とその水分濃度および製品の有機溶剤中の水分濃度に対応した温度に制御される。
(6)分離されたガスが、排出ガスとして該冷却処理槽から供出される。排出ガス中には多くの水分とともに、一部有機溶剤を含むことから、排出ガスは所定の除害処理されることが好ましい。
【0047】
〔4〕4次処理プロセス
4次処理プロセスは、以下のプロセスからなる。
(7)分離され前記冷却処理槽内の下部に貯留された液状の有機溶剤が、予め設定された所定の液面位置を越えたとき、前記冷却処理槽から有機溶剤が供出される。本装置は、上記3次処理プロセスによって水分が分離処理された有機溶剤について、さらに水分計10cによって所望の水分濃度に管理された有機溶剤を供給することができる。
【0048】
〔本装置における処理効率の検証〕
本装置における処理効率の検証として、処理槽10における水分除去処理機能および冷却処理槽20における水分分離処理機能を以下の通り検証した。
【0049】
(a)処理槽における有機溶媒の水分除去効率の検証
(a−1)処理条件
図1に示す本装置を用い、外気温20℃の条件下で、有機溶剤(約50ppm水分を含むn−オクタン,約300ppm水分を含むTHF)を、約25℃に温度制御された内容積約0.5Lの処理槽10に導入し、不活性ガスとして窒素ガスを用い、流量約1SLM、圧力約0.2MPaで処理槽10に供給した。
(a−2)実験結果
除去処理前および3時間処理後の、処理槽10に貯留された有機溶剤中の水分濃度を、水分計10cで検出した結果を下表2に示す。不活性ガスによる水分除去効果は、いずれも顕著に見られ、パージ処理の高い処理機能が立証された。
【0050】
【表2】

【0051】
(b)冷却処理槽における水分分離効率の検証
(b−1)処理条件
図1に示す本装置を用い、上記(a)の処理槽10から供出された有機溶剤としてn−オクタンを含む処理ガスを、負圧条件で、約0℃以下に冷却された内容積約0.5Lの冷却処理槽20に導入した。
(b−2)実験結果
上記(a)除去処理と同じ処理時間後の、冷却処理槽20に貯留された有機溶剤中の水分濃度を、水分計20cで検出した結果を下表3に示す。処理ガスの冷却による水分分離効果は、いずれも顕著に見られ、後の処理の高い気液分離機能が立証された。
【0052】
【表3】

【符号の説明】
【0053】
1 溶剤導入部
2 溶剤供出部
3 不活性ガス導入部
3a 質量流量制御器
4 処理ガス供出部
4a 圧力計
4b 圧力調整器
5 処理ガス導入部
6 回収液供出部
7 排出ガス供出部
7a 吸引ポンプ
10 処理槽
10a 加熱手段
10b,20b 液面計
10c,20c 水分計
20 冷却処理槽
20a 冷却手段
V1〜V7 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無極性の有機溶剤あるいは極性非プロトン性の有機溶剤を処理対象とし、
該有機溶剤が導入される処理槽と、該処理槽に有機溶剤が導入される溶剤導入部と、処理された有機溶剤が供出される溶剤供出部と、前記処理槽に不活性ガスが導入される不活性ガス導入部と、前記処理槽からのガスが供出される処理ガス供出部と、該処理ガスが冷却され気液分離される冷却処理槽と、該冷却処理槽に処理ガスが導入される処理ガス導入部と、分離された液状の有機溶剤が供出される回収液供出部と、分離されたガスが供出される排出ガス供出部を備え、
前記処理槽内において前記有機溶媒の液表面全体に前記不活性ガスを流通させることによって、有機溶媒中の水分が除去処理されることを特徴とする有機溶剤中の水分除去装置。
【請求項2】
前記不活性ガス導入部の先端部に、複数方向に噴出し可能な複数のガス噴出口を備え、前記有機溶媒の液表面全体に前記不活性ガスを流通させることを特徴とする請求項1記載の有機溶剤中の水分除去装置。
【請求項3】
前記処理槽内の有機溶媒を、所定の液面位置、所定の温度条件、所定の圧力条件となるように制御する制御部と、前記処理槽内の気相部および/または該有機溶媒層を攪拌処理する撹拌手段とを有し、攪拌処理しながら不活性ガスによるパージ処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載の有機溶剤中の水分除去装置。
【請求項4】
前記不活性ガス導入部から導入されるガスが、ガス状の前記有機溶媒と不活性ガスの混合ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤中の水分除去装置。
【請求項5】
前記処理槽および冷却処理槽内の有機溶媒中の水分濃度を検出する検出器を配設し、所定の水分濃度以下となった有機溶媒を、前記溶剤供出部あるいは回収液供出部から供出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機溶剤中の水分除去装置。
【請求項6】
前記溶剤供出部を分岐して供出された有機溶媒の一部を抜き出し前記不活性ガス導入部と接続する流路と、該一部の有機溶媒を気化する気化器と、気化された有機溶剤を圧送するポンプと、気化された有機溶剤を所定の供給流量に制御する質量流量制御器と、を有する溶剤循環系を形成し、および/または、前記回収液供出部を分岐して供出された回収液の一部を抜き出し前記処理ガス導入部と接続する流路と、該一部の有機溶媒を気化する気化器と、気化された有機溶剤を所定の供給流量に調整する流量調整部と、を有する回収液循環系を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の有機溶剤中の水分除去装置。
【請求項7】
無極性の有機溶剤あるいは極性非プロトン性の有機溶剤を処理対象とし、
以下のプロセスからなる1次処理プロセスと、
(1)所定容量の処理槽に該有機溶剤が導入され、予め設定された所定の液面位置を維持するように、その導入量が制御される。
(2)該処理槽が必要に応じて加熱され、予め設定された所定の温度条件となるように制御される。
(3)前記処理槽に不活性ガスが導入され、前記有機溶剤中の水分濃度の減少量が予め設定された所定値以上となるように、その導入量が制御される。有機溶剤および水分を含んだ不活性ガスが、処理ガスとして前記処理槽から供出される。
以下のプロセスからなる2次処理プロセスと、
(4)前記処理槽内の有機溶剤中の水分濃度が、予め設定された所定値以下となったとき、前記処理槽から有機溶剤が供出される。
以下のプロセスからなる3次処理プロセスと、
(5)前記処理ガスが、所定容量の冷却処理槽に導入され、予め設定された所定の温度に冷却されて気液分離される。
(6)分離されたガスが、排出ガスとして該冷却処理槽から供出される。
以下のプロセスからなる4次処理プロセスと、
(7)分離され前記冷却処理槽内の下部に貯留された液状の有機溶剤が、予め設定された所定の液面位置を越えたとき、前記冷却処理槽から有機溶剤が供出される。
を有することを特徴とする有機溶剤中の水分除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−78880(P2011−78880A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231804(P2009−231804)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】